説明

リンパ球の製造方法

【課題】
医療への使用に適した、効率的なリンパ球の製造方法を提供すること。
【解決手段】
フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインもしくはその一部を重複して有する改変型組換えフィブロネクチンフラグメントの存在下にリンパ球を培養する工程を包含するリンパ球の製造方法が提供される。当該方法は細胞増殖率が極めて高く、例えば、養子免疫療法に好適に使用されることから、医療分野への多大な貢献が期待される。また、本発明により、新規な改変型組換えフィブロネクチンフラグメントが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において有用なリンパ球を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は主として免疫応答により異物から守られており、免疫システムはさまざまな細胞とそれが作り出す可溶性の因子によって成り立っている。なかでも中心的な役割を果たしているのが白血球、特にリンパ球である。このリンパ球はBリンパ球(以下、B細胞と記載することがある)とTリンパ球(以下、T細胞と記載することがある)という2種類の主要なタイプに分けられ、いずれも抗原を特異的に認識し、これに作用して生体を防御する。
【0003】
T細胞は、CD(Cluster of Differentiation)4マーカーを有し、主に抗体産生の補助や種々の免疫応答の誘導に関与するヘルパーT細胞(以下、Tと記載する)、CD8マーカーを有し、主に細胞傷害活性を示す細胞傷害性T細胞〔T;細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte)、キラーT細胞とも呼ばれる。以下、CTLと記載することがある〕に亜分類される。腫瘍細胞やウイルス感染細胞等を認識して破壊、除去するのに最も重要な役割を果たしているCTLは、B細胞のように抗原に対して特異的に反応する抗体を産生するのではなく、標的細胞膜表面上に存在する主要組織適合複合体〔MHC:ヒトにおいてはヒト白血球抗原(HLA)と称することもある〕クラスI分子に会合した標的細胞由来の抗原(抗原ペプチド)を直接認識して作用する。この時、CTL膜表面のT細胞レセプター(以下、TCRと称す)が前述した抗原ペプチドおよびMHCクラスI分子を特異的に認識して、抗原ペプチドが自己由来のものなのか、あるいは、非自己由来のものなのかを判断する。そして、非自己由来と判断された標的細胞はCTLによって特異的に破壊、除去される。
【0004】
近年、薬剤治療法や放射線治療法のように患者に重い肉体的負担がある治療法が見直され、患者の肉体的負担が軽い免疫治療法への関心が高まっている。特にヒト由来のリンパ球から目的とする抗原に対して特異的に反応するCTLを生体外(ex vivo)で誘導した後、もしくは誘導を行わず、リンパ球を拡大培養し、患者へ移入する養子免疫療法の有効性が注目されている。例えば、動物モデルにおいて養子免疫療法がウイルス感染および腫瘍に対して有効な治療法であることが示唆されている(例えば、非特許文献1および2)。この治療法ではCTLの抗原特異的傷害活性を維持もしくは増強させた状態でその細胞数を維持あるいは増加させることが重要である。
【0005】
上記のような養子免疫療法において、治療効果を得るためには一定量以上の細胞数の細胞傷害性リンパ球を投与する必要がある。すなわち、ex vivoでこれらの細胞数を短時間に得ることが最大の問題であるといえる。
【0006】
CTLの抗原特異的傷害活性を維持および増強するためには、CTLについて抗原に特異的な応答を誘導する際に、目的とする抗原を用いた刺激を繰り返す方法が一般的である。しかし、通常、この方法では最終的に得られるCTL数が減少し、十分な細胞数が得られない。
【0007】
次に、抗原特異的なCTLの調製に関しては、自己CMV感染線維芽細胞とIL−2(例えば、非特許文献6)、あるいは抗CD3モノクローナル抗体(抗CD3mAb)とIL−2を用いて、それぞれCMV特異的CTLクローンを単離ならびに大量培養する方法(例えば、非特許文献7)が報告されている。
【0008】
さらに、特許文献1にはREM法(rapid expansion method)が開示されている。このREM法は、抗原特異的CTLおよびTを含むT細胞の初期集団を短期間で増殖(Expand)させる方法である。つまり、個々のT細胞クローンを増殖させて大量のT細胞を提供可能であり、抗CD3抗体、IL−2、並びに放射線照射により増殖性をなくしたPBMC(peripheral blood mononuclear cell、末梢血単核細胞)とエプスタイン−バールウイルス(Epstein−Barr virus、以下EBVと略す)感染細胞とを用いて抗原特異的CTL数を増加させることが特徴である。
【0009】
また、特許文献2には改変REM法が開示されており、当該方法はPBMCとは区別されるT細胞刺激成分を発現する分裂していない哺乳動物細胞株をフィーダ細胞として使用し、PBMCの使用量を低減させる方法である。
【0010】
CTL以外の疾病の治療に有効なリンパ球としては、例えば、リンフォカイン活性化細胞(例えば、非特許文献3)、高濃度のインターロイキン−2(IL−2)を用いて誘導した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)(例えば、非特許文献4および5)が知られている。
【0011】
リンフォカイン活性化細胞は、リンパ球を含む末梢血液(末梢血白血球)や臍帯血、組織液等にIL−2を加えて、数日間試験管内で培養することにより得られる細胞傷害活性を持つ機能的細胞集団である。リンフォカイン活性化細胞の培養工程において、抗CD3抗体を加えることにより、さらにリンフォカイン活性化細胞の増殖は加速する。このようにして得られたリンフォカイン活性化細胞は非特異的にさまざまながん細胞やその他のターゲットに対して傷害活性を有する。
【0012】
フィブロネクチンは動物の血液中、培養細胞表面、組織の細胞外マトリックスに存在する分子量25万の巨大な糖タンパク質であり、多彩な機能を持つことが知られている。そのドメイン構造は7つに分けられており(以下、第1図参照)、またそのアミノ酸配列中には3種類の類似の配列が含まれており、これら各配列の繰返しで全体が構成されている。3種類の類似の配列はI型、II型、III型と呼ばれ、このうち、III型はアミノ酸残基71〜96個のアミノ酸残基で構成されており、これらのアミノ酸残基の一致率は17〜40%である。フィブロネクチン中には14のIII型の配列が存在するが、そのうち、8番目、9番目、10番目(以下、それぞれIII−8、III−9、III−10と称する。)は細胞結合ドメインに、また12番目、13番目、14番目(以下、それぞれIII−12、III−13、III−14と称する。)はヘパリン結合ドメインに含有されている。また、III−10にはVLA(very late activation antigen)−5結合領域が含まれており、このコア配列はRGDSである。また、ヘパリン結合ドメインのC末端側にはIIICSと呼ばれる領域が存在する。IIICSには25アミノ酸からなるVLA−4に対して結合活性を有するCS−1と呼ばれる領域が存在する(例えば、非特許文献8〜10)。
【0013】
リンフォカイン活性化細胞や細胞傷害性リンパ球の製造において、フィブロネクチンやそのフラグメントを使用することで、細胞増殖率の向上作用、細胞傷害活性の維持作用することについては、既に本発明者らにより検討されてきた(例えば、特許文献3、4および5)。しかしながら、養子免疫療法への適用を考えた場合、上記文献の方法では決して満足できるものではなく、さらなる細胞増殖率の向上や、安全性の観点からフィーダ細胞を使用しない拡大培養方法が求められていた。
【0014】
【非特許文献1】Greenberg, P. D.著,1992年発行,Advances in Immunology
【非特許文献2】Reusser P. 他3名,Blood,1991年,Vol.78,No.5,P1373〜1380
【非特許文献3】Riddell S. A. 他4名,J. Immunol.,1991年,Vol.146,No.8,P2795〜2804
【非特許文献4】Greenberg P.D. 他1名,J. Immunol. Methods,1990年,Vol.128,No.2,P189〜201
【非特許文献5】Rosenberg S. A.他,N. Engl. J. Med.1987年,Vol.316,No.15,P889〜897
【非特許文献6】Rosenberg S. A.他,N. Engl. J. Med.1988年,Vol.319,No.25,P1676〜1680
【非特許文献7】Ho M. 他9名,Blood,1993年,Vol.81,No.8,P2093〜2101
【非特許文献8】Deane F. Momer著,1988年発行,FIBRONECTIN, ACADEMIC PRESS INC.,P1〜8
【非特許文献9】Kimizuka F. 他8名,J. Biochem.,1991年,Vol.110,No.2,p284−291
【非特許文献10】Hanenberg H. 他5名,Human Gene Therapy,1997年,Vol.8,No.18,p2193−2206
【特許文献1】国際公開第96/06929号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/32970号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/016511号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/080817号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/019450号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、医療への使用に適した、効率的なリンパ球の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の発明は、下記ポリペプチド(X)及び/又はポリペプチド(Y)の存在下での培養工程を包含することを特徴とするリンパ球の製造方法に関する。
ポリペプチド(X):配列表の配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を少なくとも1つ含んでなるポリペプチド(m)を2個以上含有し、かつ配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(n)を1個以上含む、
ただし、ポリペプチド(X)は配列表の配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を重複して含む、
ポリペプチド(Y):前記ポリペプチド(X)のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加したアミノ酸配列を少なくとも1つ含み、当該置換、欠失、挿入もしくは付加が前記ポリペプチド(m)及び/又は前記ポリペプチド(n)中に含まれるポリペプチド(Y)であって、前記ポリペプチド(X)と同等な機能を有する。
本発明の第1の発明において、ポリペプチド(m)としては、配列表の配列番号1、2および3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが例示される。また、ポリペプチド(X)としては、ポリペプチド(m)を2個含んでなるものが例示される。また、ポリペプチド(X)としては、ポリペプチド(n)を2個含んでなるものが例示される。また、ポリペプチド(X)としては、配列表の配列番号5に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドが例示される。本発明の第1の発明において、製造されるリンパ球としては、細胞傷害性Tリンパ球又はリンフォカイン活性化細胞が例示される。
また、本発明においては、リンパ球に外来遺伝子を導入する工程をさらに包含する本発明の第1の発明の製造方法も提供される。当該方法において、外来遺伝子としては、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウィルスベクター、レンチウィルスベクターまたはシミアンウィルスベクターが例示される。
【0017】
本発明の第2の発明は、本発明の第1の発明の製造方法によって得られるリンパ球に関する。
【0018】
本発明の第3の発明は、本発明の第1の発明の製造方法によって得られるリンパ球を有効成分とする医薬に関する。
【0019】
本発明の第4の発明は、配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)、またはアミノ酸配列(j)において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加もしくは置換したアミノ酸配列(k)を有するポリペプチドであって、アミノ酸配列(k)を有するポリペプチドがアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有するものであるポリペプチドに関する。
【0020】
本発明の第5の発明は、下記から選択される核酸に関する。
配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)、またはアミノ酸配列(j)において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加もしくは置換したアミノ酸配列(k)を有するポリペプチドであって、アミノ酸配列(k)を有するポリペプチドがアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有するものであるポリペプチドをコードする核酸(r)、
配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸(s)、
配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸(s)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸(t)であって、当該核酸(t)によってコードされるポリペプチドが配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有する核酸(t)。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、リンパ球の製造方法が提供される。当該方法は細胞増殖率が高く、本発明により得られるリンパ球は、例えば、養子免疫療法に好適に使用される。従って、本発明の方法は、医療分野への多大な貢献が期待される。また、本発明により、新規な改変型組換えフィブロネクチンフラグメントが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインの一部を重複して有する改変型組換えフィブロネクチンフラグメントの存在下にリンパ球を培養することにより、拡大培養率が高く、細胞傷害活性も高いリンパ球が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0023】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0024】
(1)本発明に使用されるポリペプチド(X)またはポリペプチド(Y)
本願明細書中に記載のポリペプチド(X)は、2個以上のポリペプチド(m)、1個以上のポリペプチド(n)を必須領域として含み、かつ配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を重複して含むポリペプチドである。
【0025】
ポリペプチド(m)は、その配列中にフィブロネクチンのヘパリン結合ドメインの一部である配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を少なくとも1つ含んでなるポリペプチドである。なお、配列表の配列番号1〜3はフィブロネクチンのヘパリン結合ドメインの部分アミノ酸配列を示し、それぞれIII−12、III−13、III−14のアミノ酸配列である(第1図参照)。
【0026】
当該ポリペプチド(m)としては、ヘパリン結合活性を有するものが好適に使用できる。ヘパリン結合活性は、ポリペプチド(m)とヘパリンとの結合を公知の方法を使用してアッセイすることにより調べることができる。例えば、ウイリアムズ D.A.らの方法〔Williams D. A., et al.、ネイチャー(Nature)、第352巻、第438〜441頁(1991)〕の細胞接着活性の測定法を利用し、細胞に換えてヘパリン、例えば標識ヘパリンを使用することによりポリペプチド(m)とヘパリンとの結合の評価を行うことができる。
【0027】
当該ポリペプチド(m)としては、特に好適には配列表の配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列のすべてを含む、すなわちIII−12、III−13、III−14をすべて含むポリペプチドが例示される。
【0028】
当該ポリペプチド(m)はその配列中に配列表の配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を少なくとも1つ含んでなるポリペプチドであり、ポリペプチド(X)として本発明の所望の効果が得られるものであれば、前記のアミノ酸配列が直接結合されていても2つのアミノ酸配列間にその他のアミノ酸配列を含んでいてもよく、例えばリンカーとして複数のアミノ酸が含まれていても良い。
【0029】
当該ポリペプチド(m)は、ポリペプチド(X)中に2個以上含まれるが、これらの2個以上のポリペプチド(m)のそれぞれは上記の要件を満たす限り、それぞれ異なるアミノ酸配列であってもよく、また同一であっても良い。また、ポリペプチド(m)はポリペプチド(X)中に、例えば2〜5個、好適には2〜4個、特に好適には2〜3個含有されていることが好ましい。
【0030】
ポリペプチド(n)は、フィブロネクチンのCS−1ドメインである配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。ポリペプチド(n)はポリペプチド(X)中に、例えば1〜5個、好適には1〜4個、特に好適には1〜3個含有されていることが好ましい。
【0031】
前述したように、ポリペプチド(X)は2個以上のポリペプチド(m)、1個以上のポリペプチド(n)を含有し、かつポリペプチド(X)中に配列表の配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を重複して含むことを必須として構成されるポリペプチドであるが、本発明の所望の効果が得られるものであれば、その他のアミノ酸残基を含んでいてもよい。例えばリンカー等に由来するアミノ酸残基が含まれていても良い。
【0032】
ポリペプチド(X)中の2個以上のポリペプチド(m)と1個以上のポリペプチド(n)の位置関係については、本発明の所望の効果が得られるものであれば、特に限定はないが、例えば少なくとも1つのポリペプチド(m)に対してC末端側にポリペプチド(n)が連結されているものが好ましい。また、ポリペプチド(X)中のN末端側にはポリペプチド(m)が位置しており、C末端側にはポリペプチド(n)が位置していることが好ましい。特に好適には、ポリペプチド(X)中において、ポリペプチド(m)とポリペプチド(n)が交互に位置していることが好ましい。
【0033】
本発明において、ポリペプチド(X)としては、例えば配列表の配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(H296−H296)が好適に使用される。H296−H296については、〒305−8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに下記受託番号のもとで寄託されたプラスミドを用いて製造することができる;
FERM P−20602(H296−H296をコードする核酸を含有するプラスミド;寄託日 2005年7月22日)。
H296−H296は、N末端側から順にメチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1、アラニン、メチオニン、III−12、III−13、III−14、CS−1で構成されるポリペプチドである。なお、H296−H296は本発明において初めて製造された新規なポリペプチドである。H296−H296については、後述の「(4)H296−H296」において詳細に記載する。
【0034】
本発明に使用されるポリペプチド(X)および(Y)は、後述の実施例9〜14にも記載のとおり、後述の本発明のリンパ球の製造方法において、公知のフィブロネクチンフラグメントであるCH−296(フィブロネクチンの細胞結合ドメイン、ヘパリン結合ドメイン、CS−1ドメインからなるポリペプチド)やH−296(フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインおよびCS−1ドメインからなるポリペプチド)と比較しても、明らかに細胞増殖率が高いこと、本発明のCTLの製造に使用した場合、細胞傷害活性を高く維持できることから、非常に有用なポリペプチドである。さらに後述の(2)−1−3でも示すようにポリペプチド(X)又は(Y)をCTLの拡大培養に使用することにより、フィーダ細胞を使用しなくとも高い細胞増殖率、細胞傷害活性の維持が実現できるという、極めて有用な利点がある。これらのポリペプチド(X)又は(Y)を構成するアミノ酸数としては、特に限定はないが、好適には100〜3000アミノ酸、より好適には150〜2800アミノ酸、さらに好適には200〜2600アミノ酸である。
【0035】
ポリペプチド(X)の調製に関する有用な情報として、フィブロネクチンに関する情報は、キミヅカ F.ら〔Kimiduka F., et al.、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J. Biochem.)、第110巻、284〜291頁(1991)〕、コーンブリット A.R.ら〔Kornbrihtt A. R., et al.、EMBO ジャーナル(EMBO J.)、第4巻、第7号、1755〜1759(1985)〕、およびセキグチ K.ら〔Sekiguchi K., et al.、バイオケミストリー(Biochemistry)、第25巻、第17号、4936〜4941(1986)〕等を参照することができる。また、フィブロネクチンをコードする核酸配列又はフィブロネクチンのアミノ酸配列については、Genbank Accession No. NM_002026、NP_002017に開示されている。
【0036】
本明細書中に記載のポリペプチド(Y)は、前述のポリペプチド(X)のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加したアミノ酸配列を少なくとも1つ含み、当該置換、欠失、挿入もしくは付加が前記ポリペプチド(m)及び/又は前記ポリペプチド(n)中に含まれるポリペプチド(Y)であって、前記ポリペプチド(X)と同等な機能を有するポリペプチドである。当該置換、欠失、挿入もしくは付加としては、例えば1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加のいずれか1以上が生じたもの、さらに好適には1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加のいずれか1以上が生じたものが例示される。
【0037】
アミノ酸の置換等は、本来のポリペプチド(X)の機能が維持され得る範囲内で該ポリペプチド(X)の物理化学的性状等を変化させ得る程度のものであるのが好ましい。例えば、アミノ酸の置換等は、本来のポリペプチド(X)の持つ性質(例えば、疎水性、親水性、電荷、pK等)を実質的に変化させない範囲の保存的なものが好ましい。例えば、アミノ酸の置換は、1.グリシン、アラニン;2.バリン、イソロイシン、ロイシン;3.アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;4.セリン、スレオニン;5.リジン、アルギニン;6.フェニルアラニン、チロシンの各グループ内での置換であり、アミノ酸の欠失、付加、挿入は、ポリペプチド(X)におけるそれらの対象部位周辺の性質に類似した性質を有するアミノ酸の、対象部位周辺の性質を実質的に変化させない範囲での欠失、付加、挿入が好ましい。
【0038】
アミノ酸の置換等は種間や個体差に起因して天然に生ずるものであってもよく、また、人工的に誘発されたものであってもよい。人工的な誘発は公知の方法により行えばよく、特に限定はないが、例えば、公知の手法により、前述のポリペプチド(X)をコードする核酸において1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、付加もしくは挿入された所定の核酸を作製し、当該ポリペプチド(X)のアミノ酸配列に置換等を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド(Y)を製造することができる。
【0039】
また、本明細書において「同等な機能を有する」とは、比較対照であるポリペプチド(X)を使用して後述のリンパ球の製造を実施した場合、同等の細胞増殖率が得られること、又は同等の細胞傷害活性が維持されていることをいう。すなわち、後述のリンパ球の製造方法、特に後述の実施例2〜21に記載の方法に沿って実施することにより、その機能を適宜確認することができる。また、ポリペプチド(Y)としては、ヘパリン結合活性を有するものが好適である。ヘパリン結合活性は、前記活性測定方法に準じて評価することができる。当該ポリペプチド(X)及び当該ポリペプチド(Y)は、それぞれ単独で、もしくは複数の種類のものを混合して後述のリンパ球の製造方法に使用することができる。
【0040】
(2)リンパ球の製造方法
以下、本発明のリンパ球の製造方法について具体的に説明する。本発明の方法は、前述のポリペプチド(X)及び/又はポリペプチド(Y)の存在下での培養工程(以下、本発明の培養工程と称することがある)を包含することを特徴とする、リンパ球の製造方法である。なお、本願明細書において、ポリペプチド(X)及び/又はポリペプチド(Y)を本発明の有効成分と称することがある。
【0041】
本発明のリンパ球の製造方法は、リンパ球製造における培養の全期間、もしくは任意の一部の期間において本発明の培養工程を実施することにより行われる。すなわち、リンパ球の製造工程の一部に前記培養工程を含むものであれば本発明に包含される。
【0042】
本発明の製造方法により得られるリンパ球としては、特に限定するものではないが、例えば細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、リンフォカイン活性化細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、NK細胞、ナイーブ細胞、メモリー細胞、これらのうちの少なくとも1種の細胞を含む細胞集団等が挙げられる。これらのうち、本発明は、特にCTLおよびリンフォカイン活性化細胞の製造に適している。これらの製造方法については後述の(2)−1および(2)−2において具体的に説明する。なお、本明細書においてリンフォカイン活性化細胞とは、リンパ球を含む末梢血液(末梢血白血球)や臍帯血、組織液等にIL−2を加えて、数日間培養することにより得られる機能的細胞集団を示す。このような細胞集団のことを一般的にリンフォカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)と称することがあるが、当該細胞集団には細胞傷害性を有さない細胞(例えば、ナイーブ細胞等)も含まれていることから、本願明細書においては当該細胞集団をリンフォカイン活性化細胞と称することとする。
【0043】
なお、本発明の製造方法により得られるリンパ球の細胞傷害活性を評価する場合は公知の方法により評価でき、例えば、放射性物質、蛍光物質等で標識した標的細胞に対する細胞傷害性リンパ球の細胞傷害活性を、細胞傷害性リンパ球により破壊された標的細胞に由来する放射活性や蛍光強度を測定することによって評価できる。また、細胞傷害性リンパ球や標的細胞より特異的に遊離されるGM−CSF、IFN−γ等のサイトカイン量を測定することにより検出することもできる。その他蛍光色素等によって標識された抗原ペプチド−MHC複合体の使用によって直接確認することもできる。この場合、例えば細胞傷害性リンパ球を細胞傷害性リンパ球特異性抗体とカップリングさせた第1蛍光マーカーと接触させた後に第2蛍光マーカーとカップリングさせた抗原ペプチド−MHC複合体を接触させ、そして二重標識細胞の存在をフローサイトメーターで分析することにより細胞傷害性リンパ球の細胞傷害活性を評価することができる
【0044】
本発明の培養工程は、CTLになり得る細胞からのCTLへの誘導、CTLの維持、もしくはCTLやその他の上記のリンパ球の拡大培養を目的とするものである。本発明のリンパ球の製造方法においては、該方法に供する細胞の種類や、培養の条件等を適宜調整してリンパ球の培養を行うことにより、養子免疫療法等に有用なリンパ球を製造することができる。なお、本明細書においてリンパ球とはリンパ球を含有する細胞群を意味し、CTLとはCTLを含有する細胞群を意味する。なお、培養に使用される細胞は製造するリンパ球の種類に応じて適宜設定できるが、当該細胞は生体から採取されたものをそのままもしくは凍結保存したもののいずれも使用することができる。
【0045】
本発明の培養工程において使用される細胞培養用器材としては、特に限定はないが、例えば、シャーレ、フラスコ、バッグ、大型培養槽、バイオリアクター等を使用することができる。なお、バッグとしては、例えば、細胞培養用COガス透過性バッグを使用することができる。また、工業的に大量のリンパ球を製造する場合には、大型培養槽を使用することができる。また、培養は開放系、閉鎖系のいずれでも実施することができるが、好適には得られるリンパ球の安全性の観点から閉鎖系で培養を行うことが好ましい。
【0046】
本発明の有効成分を含め、培地中に使用される成分(例えば後述の抗CD3抗体、抗CD28抗体、インターロイキン−2等)は培地中に溶解して共存させる他、適切な固相、例えばシャーレ、フラスコ、バッグ等の細胞培養用器材(開放系のもの、および閉鎖系のもののいずれをも含む)、またはビーズ、メンブレン、スライドガラス等の細胞培養用担体に固定化して使用してもよい。それらの固相の材質は細胞培養に使用可能なものであれば特に限定されるものではない。該成分を、例えば、前記器材に固定化する場合、培地を該器材に入れた際に、該成分を培地中に溶解して用いる場合の所望の濃度と同様の割合となるように、器材に入れる培地量に対して各成分の一定量を固定化するのが好適であるが、当該成分の固定化量は所望の効果が得られれば特に限定されるものではない。前記担体は、細胞培養時に細胞培養用器材中の培養液に浸漬して使用される。前記成分を前記担体に固定化する場合、該担体を培地に入れた際に、該成分を培地中に溶解して用いる場合の所望の濃度と同様の割合となるように、器材に入れる培地量に対して各成分の一定量を固定化するのが好適であるが、当該成分の固定化量は所望の効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0047】
培養条件は、リンパ球の公知の培養条件で行なえばよく、通常の細胞培養に使用される条件を適用することができる。例えば、37℃、5%CO等の条件で培養することができる。また、適当な時間間隔で細胞培養液に新鮮な培地を加えて希釈したり、培地を新鮮なものに交換したり、細胞培養用器材を交換することができる。使用される培地や、同時に使用されるその他の成分等は後述のとおり、製造するリンパ球の種類によって、適宜設定することができる。
【0048】
例えば、ポリペプチド(X)及び/又はポリペプチド(Y)の固定化は、国際公開第97/18318号パンフレット、ならびに国際公開第00/09168号パンフレットに記載のフィブロネクチンのフラグメントの固定化と同様の方法により実施することができる。前記の種々の成分や、本発明の有効成分を固相に固定化しておけば、本発明の方法によりリンパ球を得た後、該リンパ球と固相とを分離するのみで、該リンパ球と本発明の有効成分とを容易に分離することができ、該リンパ球への有効成分等の混入を防ぐことができる。
【0049】
さらに、国際公開第02/14481号パンフレットに記載された、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞の誘導に有効な酸性多糖、酸性オリゴ糖、酸性単糖およびそれらの塩からなる群より選択される化合物や、国際公開第03/016511号パンフレット下記(A)〜(D)から選択される物質を前記成分と共に用いて培養してもよい。
(A)CD44に結合活性を有する物質
(B)CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質
(C)成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質
(D)成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質
【0050】
前記CD44に結合活性を有する物質としては、例えばCD44リガンドおよび/または抗CD44抗体が例示される。CD44リガンドがCD44に結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質としては、例えば各種リン酸化酵素および脱リン酸化酵素の阻害剤又は活性化剤が挙げられる。成長因子の成長因子レセプターへの結合を阻害し得る物質としては、例えば成長因子に結合活性を有し、成長因子と複合体を形成することにより成長因子が成長因子レセプターに結合するのを阻害する物質、もしくは成長因子レセプターに結合活性を有し、成長因子が成長因子レセプターに結合するのを阻害する物質が挙げられる。さらに、成長因子が成長因子レセプターに結合することにより発せられるシグナルを制御し得る物質としては、例えば各種リン酸化酵素および脱リン酸化酵素の阻害剤又は活性化剤が挙げられる。これらの成分の培地中の濃度は、所望の効果が得られれば特に限定されるものではない。また、これらの成分は培地中に溶解して共存させる他、前記のような適切な固相に固定化して使用してもよい。
なお、上記の各種物質は単独で、もしくは2種以上混合して用いることができる。
【0051】
本発明において前記成分の存在下とは、リンパ球の培養を行なう際に、前記有効成分がその機能を発揮し得る状態で存在することをいい、その存在状態は特に限定されるものではない。例えば、有効成分を使用する培地に溶解させる場合、培養を行う培地中における、本発明の有効成分の含有量は所望の効果が得られれば特に限定するものではないが、例えば、好ましくは0.0001〜10000μg/mL、より好ましくは0.001〜10000μg/mL、さらに好ましくは0.005〜5000μg/mL、特に好ましくは0.01〜1000μg/mLである。
【0052】
本発明のリンパ球の培養工程に使用される培地としては、細胞培養に使用される公知の培地を使用すればよく、さらに後述するとおり製造するリンパ球の種類に応じて各種サイトカイン等を添加すれば良い。
【0053】
本発明のリンパ球の培養工程においては、培地中に血清や血漿を添加することもできる。これらの培地中への添加量は特に限定はないが、0〜20容量%、特に自己由来の血清または血漿を用いる場合、患者への負担を考慮して、0〜5容量%とするのが好ましい。なお、血清又は血漿の由来としては、自己(培養するリンパ球と由来が同じであることを意味する)もしくは非自己(培養するリンパ球と由来が異なることを意味する)のいずれでも良いが、好適には安全性の観点から自己由来のものが使用できる。
【0054】
例えば、本発明の方法において、リンパ球の拡大培養を行う場合、本発明において使用される培養開始時の細胞数としては、特に限定はないが、例えば1cell/mL〜1×10cells/mL、好適には1cell/mL〜5×10cells/mL、さらに好適には1cell/mL〜2×10cells/mLが例示される。
【0055】
(2)−1 CTLの製造方法
以下、本発明の製造方法によりCTLを製造する例(以下、本発明のCTLの製造方法と称することがある)について詳細に記載する。
【0056】
本発明の製造方法によってCTLを製造する場合は、CTLになり得る能力を有する細胞をCTLに誘導するための培養(本発明のCTLの誘導方法)、CTLを維持するための培養(本発明のCTLの維持方法)、又はCTLを拡大培養するための培養(本発明のCTLの拡大培養方法)において、本発明の培養する工程を実施することができる。
【0057】
(2)−1−1 本発明のCTLの誘導方法
CTLの誘導のために本発明のリンパ球の培養工程を実施することについて説明する。CTLの誘導はCTLに所望の抗原に対する認識能力を付与するために、適切な抗原提示細胞とともにCTLになり得る細胞を培養することにより実施される。
【0058】
CTLになり得る能力を有する細胞としては、末梢血単核球(PBMC)、ナイーブ細胞、メモリー細胞、臍帯血単核球、造血幹細胞、もしくはリンフォカイン活性化細胞等が例示される。これらの細胞は生体から採取されたもの、あるいは生体外での培養を経て得られたものをそのままもしくは凍結保存したもののいずれも使用することができる。抗原提示細胞は、T細胞に対して認識すべき抗原を提示する能力を有する細胞であれば特に限定はなく、例えば単球、B細胞、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞等に所望の抗原を提示させ、必要に応じてX線照射等を施すことにより増殖性を失活させて本発明に使用することができる。また、抗原提示細胞による刺激は、CTLの培養期間中、数回に分けて実施することができる。
【0059】
また、CTLの誘導においては、好適には培地に本発明の有効成分以外に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。好適には、インターロイキン−2(以下、IL−2と称することがある)を含有する培地が本発明に使用される。IL−2の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば、好適には0.01〜1×10U/mL、より好適には0.1〜1×10U/mLである。
【0060】
その他、CTLの誘導の一般的な条件としては、公知の条件(Bednarek M.A. et al.,J.Immunol.,Vol.147,No.12,P4047−4053,1991)に従えば良い。培養条件は特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を使用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件下で培養することができる。この培養は通常、2〜15日程度実施される。また、適当な時間間隔で細胞培養液を希釈する工程、培地を交換する工程もしくは細胞培養用器材を交換する工程を行っても良い。
【0061】
このように本発明の培養工程を実施してCTLの誘導を行なうことにより、CTL誘導後の細胞増殖率が高く、さらに誘導されたCTLを拡大培養に供した際に極めて高い細胞増殖率を実現することができる。さらに、このようにして誘導されたCTLは、長期間にわたって維持培養、あるいは拡大培養させても、誘導直後に観察されたような高い細胞傷害活性を維持されているという特徴を有している。この維持培養や拡大培養については、好ましくは後述するCTLの維持培養方法や拡大培養方法により行うことができるが、それ以外の公知の方法、すなわち前述のポリペプチド(X)及び/又はポリペプチド(Y)の非存在下にCTLの維持培養や拡大培養が実施されても、得られた細胞は前述のような細胞傷害活性を高く維持し、かつ高い細胞増殖率が認められる。これらの効果については、例えばフィブロネクチンの既知のフラグメントであるH−296(後述の実施例9〜14参照)の存在下にCTLの誘導を行なった結果と比較しても有意に高い効果を発揮する。さらに本発明のCTLの誘導方法により得られたCTLを用いて拡大培養を実施した場合、フィーダ細胞を用いなくとも、高い細胞増殖率を実現できる。また、例えば誘導されたCTLをクローン化することにより、安定したCTLを維持することもできる。
【0062】
(2)−1−2 本発明のCTLの維持方法
本発明のCTLの維持方法は、CTLの細胞傷害活性を保ったままで維持する方法である。該方法は前述の本発明の培養工程をCTLの維持培養の際に実施することを特徴としており、これによりCTLの細胞傷害活性を維持させることができる。
【0063】
該方法を適用可能なCTLは特に限定はなく、公知の方法により得られたCTLや、前述の本発明のCTLの誘導方法により得られたCTL、もしくは後述のCTLの拡大培養方法により得られたCTLの維持に使用される。また、ここでCTLとはCTLを含む細胞集団を意味する。
【0064】
使用される培地については特に限定はなく、公知の培地を使用することができ、また前述のCTLの誘導と同様に適当なタンパク質、サイトカイン類(特にIL−2)、その他の成分を含んでいてもよい。
【0065】
CTLの維持培養の一般的な条件については公知の方法(例えばCarter J. et al., Immunology, Vol.57, No.1, P123−129,1996)に従えば良い。培養条件は特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を使用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件下で培養することができる。この培養日数については、特に限定はない。また、適当な時間間隔で細胞培養液を希釈する工程、培地を交換する工程もしくは細胞培養用器材を交換する工程を行っても良い。
【0066】
(2)−1−3 本発明のCTLの拡大培養方法
本発明のCTLの拡大培養方法は、CTLの細胞傷害活性を保ったままで細胞数を急速に拡大培養させる方法である。該方法は前述の本発明の培養工程をCTLの拡大培養の際に実施することを特徴とする。
【0067】
該方法を適用可能なCTLは、特に限定はなく、例えば公知の方法で得られたCTLや、前述の本発明のCTLの誘導方法により得られたCTL、もしくは前述のCTLの維持方法により維持培養されたCTLが使用される。
【0068】
使用される培地については特に限定はなく、公知の培地を使用することができ、また前述のCTLの誘導と同様に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。
【0069】
CTLの拡大培養の一般的な条件については公知の方法(例えばCarter J. et al., Immunology, Vol.57, No.1, P123−129,1996)に従えば良い。
【0070】
本発明のCTLの拡大培養方法においては、高い拡大培養率を実現する観点から、前記有効成分に加え、抗CD3抗体、特に好適には抗ヒトCD3モノクローナル抗体と共培養することが好ましい。抗CD3抗体の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば0.001〜100μg/mL、特に0.01〜100μg/mLが好適である。また、さらに副刺激として抗CD28抗体、特に好適には抗ヒトCD28モノクローナル抗体と共培養することもできる。また、レクチン等のリンパ球刺激因子を共培養することもできる。
【0071】
また、本発明のCTLの拡大培養方法においては、必要に応じて適当なフィーダ細胞と共培養することもできる。CTLの拡大培養方法において、フィーダ細胞は前記抗CD3抗体と協同してCTLを刺激し、T細胞レセプター又は各刺激受容体を活性化するものであれば特に限定はない。本発明においてフィーダ細胞としては、特に限定はないが、例えば自己もしくは非自己由来のPBMCやEBV−B細胞が使用されるが、安全性の観点からはEBV−B以外の細胞を使用することが好ましい。通常、フィーダ細胞はX線等の放射線照射またはマイトマイシン(mitomycin)等の薬剤による処理を行うことにより増殖能を奪ったうえで使用される。なお、フィーダ細胞の培地中における含有量は、公知の方法に従って決定すればよく、特に限定はないが、例えば1〜1×10cells/mlが好適である。
【0072】
しかしながら、養子免疫療法においてフィーダ細胞の使用は、患者への負担、安全性の観点からは使用しないことが好ましい。本発明のCTLの拡大培養方法は、フィーダ細胞を使用しない場合でも高い拡大培養率を実現することも一つの特徴である。すなわち、本発明により、フィーダ細胞を使用しないCTLの拡大培養方法が提供される。なお、フィーダ細胞を使用せずにCTLの製造を行なう場合、本発明の拡大培養方法に供するCTLは、高い拡大培養率を実現するという観点から、前述の本発明のCTLの誘導方法により得られたCTLを使用することが望ましい。
【0073】
(2)−2 リンフォカイン活性化細胞の製造方法
以下、本発明の製造方法によりリンフォカイン活性化細胞を製造する例(以下、本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法と称することがある)について詳細に記載する。
【0074】
本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法は、IL−2の存在下にリンフォカイン活性化細胞になり得る能力を有する細胞を本発明の培養に供することにより実施される。
【0075】
リンフォカイン活性化細胞になり得る能力を有する細胞としては、特に限定されるものではなく、例えば末梢血単核球(PBMC)、NK細胞、臍帯血単核球、造血幹細胞、これらの細胞を含有する血液成分等が挙げられ、血球系細胞であれば使用できる。また、前記細胞を含有する材料、例えば末梢血液、臍帯血等の血液や、血液から赤血球や血漿等の成分を除去したもの、骨髄液等を使用することができる。
【0076】
また、リンフォカイン活性化細胞を培養するための一般的な条件は、上記の培地を使用する点を除いては、公知の条件〔例えば、細胞工学、Vol.14、No.2、p223〜227、(1995年);細胞培養、17、(6)、p192〜195、(1991年);THE LANCET、Vol.356、p802〜807、(2000);Current Protocols in Immunology, supplement 17, UNIT7.7を参照〕に従えばよい。培養条件は特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を適用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件下で培養することができる。この培養は通常、2〜15日程度実施される。また、適当な時間間隔で細胞培養液を希釈する工程、培地を交換する工程もしくは細胞培養用器材を交換する工程を行っても良い。
【0077】
使用される培地については特に限定はなく、公知の培地を使用することができ、また前述のCTLの誘導と同様に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。
【0078】
本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法においては、高い拡大培養率を実現する観点から、前記有効成分に加え、抗CD3抗体、特に好適には抗ヒトCD3モノクローナル抗体と共培養することが好ましい。抗CD3抗体の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば0.001〜100μg/mL、特に0.01〜100μg/mLが好適である。また、さらに副刺激として抗CD28抗体、特に好適には抗ヒトCD28モノクローナル抗体と共培養することもできる。また、レクチン等のリンパ球刺激因子と共培養することもできる。
【0079】
(2)−3 外来遺伝子の導入工程を包含する本発明のリンパ球の製造方法
本発明は、前述したリンパ球の製造方法において、さらに外来遺伝子を導入する工程を包含するリンパ球の製造方法も提供する。すなわち、本発明は、その一態様として、リンパ球に外来遺伝子を導入する工程をさらに含むリンパ球の製造方法を提供する。なお、「外来」とは、遺伝子導入対象のリンパ球に対して外来であることをいう。
【0080】
本発明のリンパ球の製造方法、特にリンパ球の拡大培養方法を行うことにより、培養されるリンパ球の増殖能が増強される。よって、本発明のリンパ球の製造方法を、遺伝子の導入工程と組み合わせることにより、遺伝子の導入効率の上昇が期待される。
【0081】
外来遺伝子の導入手段には特に限定はなく、公知の遺伝子導入方法により適切なものを選択して使用することができる。遺伝子導入の工程は、リンパ球の製造の際、任意の時点で実施することができる。例えば、前記本発明のCTLの拡大培養方法やリンフォカイン活性化細胞の製造方法中の細胞増殖時に実施するのが好適である。
【0082】
前記の遺伝子導入方法としては、ウイルスベクターを使用する方法、該ベクターを使用しない方法のいずれもが本発明に使用できる。それらの方法の詳細についてはすでに多くの文献が公表されている。
【0083】
前記ウイルスベクターには特に限定はなく、通常、遺伝子導入方法に使用される公知のウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、シミアンウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターまたはセンダイウイルスベクター等が使用される。特に好適には、ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウィルスベクターまたはシミアンウイルスベクターが使用される。上記ウイルスベクターとしては、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させたものが好適である。
【0084】
レトロウイルスベクターならびにレンチウィルスベクターは、当該ベクターが導入される細胞の染色体DNA中に該ベクターに挿入されている外来遺伝子を安定に組み込むことができ、遺伝子治療等の目的に使用されている。当該ベクターは分裂、増殖中の細胞に対する感染効率が高いことから、本発明における、リンパ球の製造工程、例えば、拡大培養の工程において遺伝子導入を行なうのに好適である。
【0085】
ウイルスベクターを使用しない遺伝子導入方法としては、本発明を限定するものではないが、例えば、リポソーム、リガンド−ポリリジンなどの担体を使用する方法やリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などを使用することができる。この場合にはプラスミドDNAや直鎖状DNAに組み込まれた外来遺伝子が導入される。
【0086】
本発明においてリンパ球に導入される外来遺伝子には特に限定はなく、前記細胞に導入することが望まれる任意の遺伝子を選ぶことができる。このような遺伝子としては、例えば、タンパク質(例えば、酵素、サイトカイン類、レセプター類等)をコードするものの他、アンチセンス核酸やsiRNA(small interfering RNA)、リボザイムをコードするものが使用できる。また、遺伝子導入された細胞の選択を可能にする適当なマーカー遺伝子を同時に導入してもよい。
【0087】
前記の外来遺伝子は、例えば、適当なプロモーターの制御下に発現されるようにベクターやプラスミド等に挿入して使用することができる。また、効率のよい遺伝子の転写を達成するために、プロモーターや転写開始部位と協同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列やターミネーター配列がベクター内に存在していてもよい。また、外来遺伝子を相同組換えにより導入対象のリンパ球の染色体へ挿入することを目的として、例えば、該染色体における該遺伝子の所望の標的挿入部位の両側にある塩基配列に各々相同性を有する塩基配列からなるフランキング配列の間に外来遺伝子を配置させてもよい。導入される外来遺伝子は天然のものでも、または人工的に作製されたものでもよく、あるいは起源を異にするDNA分子がライゲーション等の公知の手段によって結合されたものであってもよい。さらに、その目的に応じて天然の配列に変異が導入された配列を有するものであってもよい。
【0088】
本発明の方法によれば、例えば、癌等の患者の治療に使用される薬剤に対する耐性に関連する酵素をコードする遺伝子をリンパ球に導入して該リンパ球に薬剤耐性を付与することができる。そのようなリンパ球を用いれば、養子免疫療法と薬剤療法とを組み合わせることができ、従って、より高い治療効果を得ることが可能となる。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、多剤耐性遺伝子(multidrug resistance gene)が例示される。
【0089】
一方、前記の態様とは逆に、特定の薬剤に対する感受性を付与するような遺伝子をリンパ球に導入して、該薬剤に対する感受性を付与することもできる。かかる場合、生体に移植した後のリンパ球を当該薬剤の投与によって除去することが可能となる。薬剤に対する感受性を付与する遺伝子としては、例えば、チミジンキナーゼ遺伝子が例示される。
【0090】
(3)本発明の製造方法により得られるリンパ球、当該リンパ球を含有する医薬、本発明の有効成分を含有するリンパ球培養用培地
さらに本発明は、上記の本発明の製造方法で得られたリンパ球を提供する。また、本発明は当該リンパ球を有効成分として含有する医薬(治療剤)を提供する。特に、当該リンパ球を含有する前記治療剤は養子免疫療法への使用に適している。養子免疫療法においては、患者の治療に適したリンパ球が、例えば静脈への投与によって患者に投与される。当該治療剤は前述の疾患やドナーリンパ球輸注での使用において非常に有用である。当該治療剤は製薬分野で公知の方法に従い、例えば、本発明の方法により調製された当該リンパ球を有効成分として、たとえば、公知の非経口投与に適した有機または無機の担体、賦形剤、安定剤等と混合することにより調製できる。なお、治療剤における本発明のリンパ球の含有量、治療剤の投与量、当該治療剤に関する諸条件は公知の養子免疫療法に従って適宜、決定できる。
【0091】
本発明の方法により製造されるリンパ球を投与される疾患としては、特に限定はないが、例えば、癌、悪性腫瘍、肝炎や、インフルエンザ等のウィルス、細菌、真菌が原因となる感染性疾患が例示される。また、前述のようにさらに外来遺伝子を導入した場合は、各種遺伝子疾患に対しても効果が期待される。また、本発明の方法により製造されるリンパ球は骨髄移植や放射線照射後の感染症予防を目的としたドナーリンパ球輸注等にも利用できる。
【0092】
本発明の別の態様として、本発明の有効成分を含有する培地が提供される。当該培地は、さらにその他の任意の成分、たとえば、公知の細胞培養に用いられる培地成分、タンパク質、サイトカイン類(好適にはIL−2)、所望のその他の成分とからなる。当該培地中の本発明の有効成分等の含有量は、本発明の所望の効果が得られれば特に限定されるものではなく、例えば、本発明の方法に使用される前記培地中の有効成分等の含有量に準じて、所望により、適宜、決定することができる。本発明の培地の一態様としては、本発明の有効成分が固定化された細胞培養用担体を含有する培地、本発明の有効成分が固定化された細胞培養用器材に封入して提供される培地が包含される。
【0093】
(4)H296−H296
本発明においては、配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)(H296−H296)、またはアミノ酸配列(j)において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加もしくは置換したアミノ酸配列(k)を有するポリペプチドであって、アミノ酸配列(k)を有するポリペプチドがアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有するものである、新規なポリペプチド、およびこれをコードする核酸(r)も提供される。当該核酸としては、配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸(s)(H296−H296をコードする核酸)、配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸(s)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸(t)であって、当該核酸(t)によってコードされるポリペプチドが配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有する核酸(t)が例示される。なお、本明細書において、前記新規なポリペプチドを本発明のポリペプチドと称し、これをコードする核酸を本発明の核酸と称することがある。
【0094】
以下、本発明のポリペプチド、本発明の核酸、該ポリペプチドの製造方法について説明する。本発明のポリペプチドは、前述のようなリンパ球の製造において所望の機能を有するものであれば、上記アミノ酸配列において1ないし複数個の置換、欠失、挿入あるいは付加の1以上が生じた配列のものも本発明のポリペプチドに含まれる。H296−H296以外の本発明のポリペプチドとしては、好適には配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列に1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたもの、より好適には1〜10個のアミノ酸の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたもの、さらに好適には1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたものが例示される。なお、アミノ酸の置換等は、本来のポリペプチドの機能が維持され得る範囲内で該ポリペプチドの物理化学的性状等を変化させ得る程度のものであってもよい。その詳細、該ポリペプチドの作製法は前述の「(1)本発明に使用されるポリペプチド(X)またはポリペプチド(Y)」に記載の方法と同様に行なうことができる。
【0095】
本発明のポリペプチドをコードする配列表の配列番号6で表される核酸は天然型のフィブロネクチンをコードする遺伝子、もしくは組み替え型のフィブロネクチンフラグメント、例えば前述のCH−296やH−296等をコードする遺伝子を用いて、本発明のポリペプチドを構成する各ドメインをコードする核酸を取得し、公知の方法によりこれらをつなぎ合わせることにより取得することができる。例えば、後述の実施例1に記載のとおり、CH−296をコードする核酸からヘパリン結合ドメインおよびCS−1ドメインをコードする核酸を取得し、これを重複してつなぎ合わせることにより取得することができる。
【0096】
また、本発明の核酸としては、配列表の配列番号6で表される核酸の塩基配列において、1ないし複数個の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたものも含まれる。例えば配列表の配列番号6に記載の塩基配列から1〜60塩基の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたもの、より好適には1〜30塩基の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたもの、さらに好適には1〜15塩基の置換、欠失、挿入あるいは付加のいずれか1以上が生じたものが例示される。なお、塩基の置換等は、核酸にコードされるポリペプチドの機能が維持され得る範囲内で該ポリペプチドの物理化学的性状等を変化させ得る程度のものであってもよい。その詳細、塩基の置換等の方法については前記のアミノ酸の置換等に関する記載に準ずる。
【0097】
さらに配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、本発明のポリペプチドと同等な機能、すなわち前述のリンパ球の製造において所望の効果を有するポリペプチドをコードする核酸も本発明の核酸に含まれる。上記「ストリンジェントな条件」とは特に限定されず、配列番号6に記載の塩基配列からなるDNAにハイブリダイズさせるDNAに応じて、ハイブリダイゼーション時の、好ましくはさらに洗浄時の温度および塩濃度を適宜決定することにより設定し得るが、ストリンジェントな条件としては、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第3版〔サンブルーク(sambrook)ら、Molecular cloning,A laboratory manual 3rd edition、2001年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)社発行〕等の文献に記載の条件が挙げられる。
【0098】
具体的には、例えば、6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5%SDSと5×デンハルト〔Denhardt’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕と100μg/mLサケ精子DNAとを含む溶液中、50℃、好ましくは65℃で保温する条件が例示される。前記の温度は用いるDNAのTm値が既知である場合は、その値より5〜12℃低い温度としてもよい。さらに、非特異的にハイブリダイズしたDNAを洗浄により除去するステップ、ここで、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件および/またはより高温、例えば、用いられる核酸のTm値により異なるが、25℃以上、よりストリンジェントには、37℃以上、さらにストリンジェントには、42℃以上、よりさらにストリンジェントには、50℃以上等の条件下で洗浄を行なう、という条件等を追加してもよい。
【0099】
より低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件で本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸分子もまた本発明に包含される。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーおよびシグナル検出の変化は、主として、ホルムアミド濃度(より低い百分率のホルムアミドが、低下したストリンジェンシーを生じる)、塩濃度、または温度の操作によって行われる。例えば、より低いストリンジェンシー条件は、6×SSPE(20×SSPE=3M NaCl;0.2M NaHPO;0.02M EDTA、pH7.4)、0.5%SDS、30%ホルムアミド、100μg/mLサケ精子ブロッキングDNAを含む溶液中での37℃での一晩インキュベーション;次いで1×SSPE、0.1%SDSを用いた50℃での洗浄を含む。さらに、より低いストリンジェンシーを達成するために、ストリンジェントなハイブリダイゼーション後に行われる洗浄は、より高い塩濃度(例えば、5×SSC)で行うことができる。
【0100】
上記の条件は、ハイブリダイゼーション実験においてバックグラウンドを抑制するために使用される代替的なブロッキング試薬を添加および/または置換することによって改変することができる。代表的なブロッキング試薬としては、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、および市販の製品処方物が挙げられる。また、この改変に応じて、上記のハイブリダイゼーション条件の他の要素の改変が必要な場合もある。
【0101】
一方、このようにして得られた核酸を用いて、配列表の配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを遺伝子工学的に取得することができる。すなわち、当該核酸を適切な発現用ベクター、特に限定はないが、例えばpETベクターやpColdベクター等に挿入し、公知の方法により、当該ポリペプチドを、例えば、大腸菌等で発現させることにより取得することができる。なお、H296−H296をコードする核酸を含むプラスミドについては、前述のとおり、FERM P−20602として寄託されている。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0103】
調製例1 H−296の調製
H−296(フィブロネクチンのヘパリン結合ドメインおよびCS−1ドメインからなるポリペプチド)はEscherichia coli HB101/pHD102(FERM BP−7420)を用い、これを米国特許第5,198,423号明細書の記載に基づいて調製した。
【0104】
調製例2 CH−296の調製
CH−296(フィブロネクチンの細胞結合ドメイン、ヘパリン結合ドメインおよびCS−1ドメインからなるポリペプチド)はEscherichia coli HB101/pCH102(FERM BP−2800)を用い、これを米国特許第5,198,423号明細書の記載に基づいて調製した。
【0105】
実施例1 H296−H296の作製
本明細書に記載の操作のうち、プラスミドの調製、制限酵素消化などの基本的な操作については2001年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行、T.マニアティス(T.Maniatis)ら編集、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル第3版(Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed.)に記載の方法によった。
【0106】
(1)発現ベクターの構築
(i)H−296発現ベクターの構築
配列表の配列番号7記載のCH−296のアミノ酸配列のN末端側よりアミノ酸279〜575(塩基番号835〜1725)よりなるポリペプチドをH−296とし、このH−296が2つ連結した変異体タンパク質(H296−H296)を発現させるため、以下のようにして発現ベクターを構築した。以下、図2を参照。
【0107】
まず、配列表の配列番号8記載のCH−296の塩基配列(国際公開第03/080817パンフレット参照)より、配列表の配列番号9及び10に記載の塩基配列を有する合成プライマーH296−NcoF及びH296−HindRをDNA合成機で合成し、常法により精製した。上記合成プライマーH296−NcoFは、制限酵素NcoIの認識配列を塩基番号11〜16に、さらにCH−296のアミノ酸配列(配列番号7)のアミノ酸番号279〜284に相当する塩基配列を塩基番号13〜30にもつ合成DNAである。また、合成プライマーH296−HindRは、制限酵素HindIIIの認識配列を塩基番号11〜16に、さらにCH−296のアミノ酸配列(配列番号7)のアミノ酸番号571〜575に相当する塩基配列を塩基番号20〜34にもつ合成DNAである。
【0108】
上記合成プライマーを用いて、PCRを行った。PCRの反応条件を以下に示す。
すなわち、鋳型DNAとしてpCH102 約0.1μg、5μlの10×Ex Taq buffer(タカラバイオ社製)、5μlのdNTP混合液(タカラバイオ社製)、10pmolの合成プライマーH296−NcoF、10pmolの合成プライマーH296−HindR、0.5UのTakara Ex Taq(タカラバイオ社製)を加え、滅菌水を加えて全量を50μlとした。前記反応液をTaKaRa PCR Thermal Cycler SP(タカラバイオ社製)にセットし、94℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 3分を1サイクルとする30サイクルの反応を行なった。
【0109】
反応終了後、該反応液5μlを1.0%アガロースゲル電気泳動に供し、目的の約0.9kbpのDNAフラグメントを確認した。残りのPCR反応液を電気泳動し、そのフラグメントを回収・精製し、エタノール沈殿を行なった。エタノール沈殿後の回収DNAを10μlの滅菌水に懸濁し、制限酵素NcoI(タカラバイオ社製)及び制限酵素HindIII(タカラバイオ社製)で2重消化し、1.0%アガロース電気泳動によりそのNcoI−HindIII消化物を抽出精製し、NcoI−HindIII消化DNA断片を得た。
【0110】
次に国際公開第99/27117号パンフレットの実施例1〜6記載の方法に従い、pCold04NC2ベクターを調製した(これ以降、このpCold04NC2ベクターをpCold14ベクターとする)。
【0111】
次に上記pCold14ベクターを上記NcoI−HindIII消化DNA断片を調製した時に用いたのと同じ制限酵素で切断し、末端を脱リン酸処理したものを調製し、上記NcoI−HindIII消化DNA断片と混合し、DNAライゲーションキット(タカラバイオ社製)を用いて連結した。その後、ライゲーション反応液20μlを用いて大腸菌JM109を形質転換し、その形質転換体を1.5%(w/v)濃度の寒天を含むLB培地(アンピシリン50μg/ml含む)上で生育させた。
【0112】
目的のDNA断片が挿入されたプラスミドは、シークエンシングすることにより確認し、この組み換えプラスミドをpCold14−H296とした。このpCold14−H296は、CH−296のアミノ酸番号279〜575のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むプラスミドである。
【0113】
(ii)H296−H296発現ベクターの構築
次に、国際公開第03/080817パンフレットで公開されている塩基配列より、配列表の配列番号11記載の塩基配列を有する合成プライマーH296−NcoRをDNA合成機で合成し、常法により精製した。上記合成プライマーH296−NcoRは、制限酵素NcoIの認識配列を塩基番号10〜15に、さらにCH−296のアミノ酸配列(配列番号7)のアミノ酸番号575〜570に相当する塩基配列を塩基番号17〜34にもつ合成DNAである。上記合成プライマーと配列表の配列番号12記載のNC2ベクターの5’UTR部分にアニ−リングするプライマー(NC2−5’UTR)を用いてPCRを行った。PCRの反応条件を以下に示す。
【0114】
すなわち、鋳型DNAとしてpCold14−H296約0.1μg、10μlの10×pyrobest buffer(タカラバイオ社製)、8μlのdNTP混合液(タカラバイオ社製)、20pmolのNC2−5’UTR、20pmolの合成プライマーH296−NcoR、5Uのpyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を加え、滅菌水を加えて全量を100μlとした。前記反応液をTaKaRa PCR Thermal Cycler SP(タカラバイオ社製)にセットし、96℃ 1分、68℃ 4分を1サイクルとする30サイクルの反応を行なった。
【0115】
反応終了後、該反応液5μlを1.0%アガロースゲル電気泳動に供し、目的の約0.9kbpのDNAフラグメントを確認した。残りのPCR反応液をBio radカラムにより回収・精製し、エタノール沈殿を行なった。エタノール沈殿後の回収DNAを39μlの滅菌水に懸濁、全量50μlとした反応液で制限酵素NcoI(タカラバイオ社製)消化し、1.0%アガロース電気泳動によりそのNcoI−NcoI消化物を抽出精製し、NcoI−NcoI消化DNA断片を得た。
【0116】
次に、(i)で調製したpCold14−H296を制限酵素NcoIで消化し、末端を脱リン酸処理したものを調製し、上記NcoI−NcoI消化DNA断片と混合し、DNAライゲーションキット(タカラバイオ社製)を用いて連結した。その後、ライゲーション反応液20μlを用いて大腸菌JM109を形質転換し、その形質転換体を1.5%(w/v)濃度の寒天を含むLB培地(アンピシリン50μg/ml含む)上で生育させた。
【0117】
目的のDNA断片が挿入されたプラスミドは、シークエンシングすることにより確認し、この組み換えプラスミドをpCold14−H296−H296とした。当該プラスミドは、plasmid pCold14−H296−H296と命名、表示され、2005年7月22日より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−20602として寄託されている。このpCold14−H296−H296は、CH−296のアミノ酸番号279〜575のアミノ酸配列をコードする塩基配列が間にアミノ酸“A”を挟んで2つ連結した形で含むプラスミドである。当該タンパク質のアミノ酸配列を配列表の配列番号5に、塩基配列を配列表の配列番号6に示す。
【0118】
(2)発現、精製
上記(1)で調製したpCold14−H296−H296を用いて大腸菌BL21を形質転換し、その形質転換体を1.5%(w/v)濃度の寒天を含むLB培地(アンピシリン50μg/ml含む)上で生育させた。生育したコロニーを30mlのLB液体培地(アンピシリン50μg/ml含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。全量を3lの同LB培地に植菌し、37℃で対数増殖期まで培養した。なお、この培養の際には、5l容ミニジャーファーメンター(Biott社製)を使用し、120rpm、Air=1.0l/minの条件で行なった。前記培養後、15℃まで冷却した後、IPTGを終濃度1.0mMになるように添加し、そのまま15℃で24時間培養して発現誘導させた。その後菌体を遠心分離により集め、約40mlの細胞破砕溶液[50mM Tris−HCl(pH7.5),1mM EDTA,1mM DTT,1mM PMSF,50mM NaCl]に再懸濁した。超音波破砕により菌体を破砕し、遠心分離(11,000rpm 20分)により上清の抽出液と沈殿とに分離した。これを2lのbufferA[50mM Tris−HCl(pH7.5),50mM NaCl]で透析を行い、その約40mlを用いてさらにイオン交換クロマトによる精製を以下のように行なった。
【0119】
すなわち、樹脂容積にして100ml分のSP−Sepharose(アマシャムファルマシア社製)をbufferA[50mM Tris−HCl(pH7.5),50mM NaCl]で飽和させたカラム(Φ4cm×20cm)を準備し、これに透析後のサンプルをアプライした。その後、250mlのbufferAと250mlのbufferB[50mM Tris−HCl(pH7.5),1M NaCl]で50mMから1Mの塩化ナトリウムの濃度勾配により目的タンパク質の溶出を行なった。5mlずつ分画を行い、10%SDS−PAGEにより、分子量約64.6kDaの目的タンパク質を多く含む画分、約100mlを回収し、2lのbufferAで透析を行なった。
【0120】
次に、樹脂容積にして50ml分のQ−Sepharose(アマシャムファルマシア社製)をbufferAで飽和させたカラム(Φ3cm×16cm)を準備し、これに透析後のサンプルをアプライした。その後、250mlのbufferAと250mlのbufferBで50mMから1Mの塩化ナトリウムの濃度勾配により目的タンパク質の溶出を行なった。10%SDS−PAGEにより目的タンパク質のみを多く含む画分を調べたところ、非吸着画分に多く含まれ、この約100mlを回収し、2lのbuffer D[50 mM 炭酸ナトリウム緩衝液 pH9.5]で透析を行なった。
【0121】
その後、セントリコン−10(ミリポア社製)で約20倍の5mlまで濃縮を行い、さらに10%SDS−PAGEで確認したところ、分子量約64.6kDaの目的タンパク質がほぼ単一バンドで検出され、これをH296−H296とした。その後、MicroBCAキット(ピアース社製)を使用して、タンパク質濃度を測定したところ、2.16mg/mlであった(分子量から計算して、約33.4mM)。
【0122】
実施例2 H296−H296を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの誘導
(1)PBMCの分離および保存
HLA−A2.1保有ヒト健常人ドナーより成分採血を実施後、採血液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2倍希釈し、Ficoll−paque〔アマシャムバイオサイエンス(Amersham Biosciences)社製〕上に重層後、600×gで20分間遠心した。遠心後、中間層の末梢血単核細胞(PBMC)をピペットで回収、洗浄した。採取したPBMCは5×10cells/mlになるようにRPMI1640培地〔シグマ(Sigma)社製〕に懸濁した後、CP−1(極東製薬工業社製)と25%ヒト血清アルブミン〔ブミネート:バクスター(Baxter)社製〕を17:8の割合で混合した保存液を等量加えて懸濁し、液体窒素中にて保存した。CTL誘導時にはこれら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/ml DNase〔カルビオケム(Calbiochem)社製〕を含むRPMI1640培地で洗浄後、トリパンブルー染色法にて生細胞数を算出して各実験に供した。
【0123】
(2)H296−H296フラグメントの固定化
以下の実験で使用する培養用器材(容器)にH296−H296を固定化した。すなわち、H296−H296(終濃度25μg/ml)を含むPBSを24穴細胞培養プレート〔ベクトンディッキンソン(Becton, Dickinson and Company)社製〕に1mlずつ添加し、4℃で一晩インキュベートした。また、上記のプレートは使用前にPBSで2回洗浄したのちRPMI1640培地で1回洗浄した。
【0124】
(3)抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導は、ベドナレク(Bednarek)らの方法〔Bednarek M. A. et al.、J. Immunology.、第147巻、第4047〜4053頁(1991)〕を一部改変して実施した。すなわち、5%ヒトAB型血清、1mM ピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、1×NEAA Mixture〔全てキャンブレックス(Cambrex)社製〕、1%ストレプトマイシン−ペニシリン(ナカライテスク社製)を含むRPMI1640培地(以下5HRPMIと略す)に4×10cells/mlとなるように実施例2−(1)で調製したPBMCを懸濁後、実施例2−(2)で作製した24穴細胞培養プレートに1ml/ウェルずつ添加し、5%CO湿式インキュベーター内にて、37℃で1.5時間インキュベートし、プラスチック接着性の単球を分離した(対照にはH296−H296固定化処理を行っていないプレートを使用)。その後、非接着性の細胞をRPMI1640培地を用いて回収し、レスポンダー細胞として氷上保存した。分離した単球には、抗原ペプチドとして5μg/mlのインフルエンザウイルスタンパク質由来エピトープペプチド(配列表の配列番号13に記載のマトリックスプロテイン由来−HLA−A2.1結合性ペプチド)および1μg/mlのβ2マイクログロブリン〔スクリプス(Scrips)社製〕を含む5HRPMIを0.5mlずつ添加し、2時間室温にてインキュベート後、X線照射(5500R)して抗原提示細胞とした。各ウェルからペプチド液を吸引除去し、ウェルをRPMI1640培地を用いて洗浄後、氷上保存しておいたレスポンダー細胞を1×10cells/mlとなるよう5HRPMIに懸濁し、1ml/ウェルずつ抗原提示細胞上に添加したのち、プレートを5%CO中、37℃で培養した。培養開始後1日目に、60U/mlのIL−2(プロロイキン:CHIRON社製)を含む5HRPMI 1mlを各ウェルに添加、また5日目には培養上清を半分除去後、同様のIL−2含有培地を1mlずつ添加した。7日目に上記と同様にして抗原提示細胞を調製したあと、1週間培養したレスポンダー細胞を回収し、440×gで10分間遠心した。遠心後、レスポンダー細胞を1mlの5HRPMIに懸濁し、調製した抗原提示細胞上に1ml/ウェルずつ添加し、再刺激した。このとき、プレートはH296−H296を固定化したものを使用した(対照には固定化していないプレートを使用)。再刺激後1日目に、60U/mlのIL−2を含む5HRPMI 1mlを各ウェルに添加、また4日目には培養上清を半分除去後、除去前と同じ内容の培地を1mlずつ添加し、さらに培養を3日続け、CTLを誘導した。14日間培養後の細胞増殖率を表1に示す。細胞増殖率はCTL誘導開始時のレスポンダー細胞数に対する誘導終了地点での細胞数の比を増殖率として求めた。
【0125】
【表1】

【0126】
その結果、H296−H296を固定化した群では固定化していない対照群と比較して高い増殖率を示した。つまり、CTL誘導時にH296−H296を使用することで、細胞の増殖率を高めることが明らかとなった。
【0127】
実施例3 実施例2のCTLのフィーダ細胞を用いた拡大培養
(1)H296−H296フラグメントの固定化
以下の実験で使用する培養用器材(容器)にH296−H296を固定化した。すなわち、H296−H296(終濃度25μg/ml)を含むPBSを12.5cmフラスコ(Becton, Dickinson and Company社製)を立てて2.7mlずつ添加し、4℃で一晩インキュベートした。また、上記のフラスコは使用前にPBSで2回洗浄したのちRPMI1640培地で1回洗浄した。
【0128】
(2)実施例2のCTLのフィーダ細胞を用いた拡大培養
実施例2−(3)で調製したH296−H296存在下で誘導したCTL(対照はH296−H296非存在下で誘導したCTL)を3×10cells/mlに調整した。一方、実施例2−(1)と同様の方法により採取したHLA−A2.1非保持allogenic PBMCを2ドナー混合したのちX線照射(3300R)し、培地で洗浄後、4×10cells/mlに調整した(フィーダ細胞とする)。これら3×10cellsのCTLおよび4×10cellsのフィーダ細胞を5mlの10%Hyclone FBS(HyClone社製)、1mM ピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、1×NEAA Mixture、1%ストレプトマイシン−ペニシリンを含むRPMI1640培地(以下10HycloneRPMIと略す)に懸濁し、さらに終濃度50ng/mlの抗CD3抗体(ヤンセン協和社製)を加えて12.5cmのフラスコに入れ、37℃ 湿式COインキュベーター中で14日間培養した。この際、実施例3−(1)のH296−H296固定化フラスコを使用した(対照については非固定化フラスコを使用)。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、培養開始1日目に10HycloneRPMI 5mlと終濃度120U/mlのIL−2を添加、さらに培養開始後5日目以降は2〜3日ごとに培養上清を半分除去後、60U/mlのIL−2を含む10HycloneRPMI 5mlを各フラスコに添加し、14日間拡大培養を行った。結果を表2に示す。拡大培養時の増殖率は拡大培養開始時の細胞数に対する拡大培養終了時点の細胞数の比を増殖率として求め、誘導からの増殖率は誘導開始時のレスポンダー細胞数に対する拡大培養終了地点の細胞数の比として求めた。
【0129】
【表2】

【0130】
その結果、CTL誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化した群のCTLは、H296−H296を固定化しなかった対照群より高い増殖率を示した。つまり、CTL誘導時および拡大培養時にH296−H296を使用することで、細胞の増殖率を高めることが明らかとなった。
【0131】
実施例4 実施例3のCTLの細胞傷害活性の測定
実施例3で調製した拡大培養開始後14日目のCTLの細胞傷害活性は、Calcein−AMを用いた細胞傷害活性測定法〔リヒテンフェルズ R.ら(Lichtenfels R. et al.)、J. Immunol. Methods、第172巻、第2号、第227〜239頁(1994)〕にて評価した。一晩エピトープペプチド存在下、もしくは非存在下で培養したHLA−A2.1保持EBVトランスフォームB細胞(細胞名 221A2.1)を1×10cells/mlとなるよう5%FBS(fetal bovine serum, ウシ胎児血清、Cambrex社製)を含むRPMI1640培地に懸濁後、終濃度25μMとなるようにCalcein−AM(同仁化学研究所社製)を添加し、37℃で1時間培養した。細胞をCalcein−AMを含まない培地にて洗浄後、Calcein標識標的細胞とした。Calcein標識標的細胞は、30倍量のK562細胞(ATCC CCL−243)と混合し、細胞傷害活性測定用細胞とした。なお、K562細胞はレスポンダー細胞中に混入するNK細胞による非特異的傷害活性を排除するために用いた。
【0132】
実施例3で調製した抗インフルエンザウイルス メモリーCTLをエフェクター細胞として1×10〜3×10cells/mlとなるように5HRPMIで段階希釈後、96穴細胞培養プレート(Becton, Dickinson and Company社製)の各ウェルに100μl/ウェルずつ分注しておき、これらにCalcein標識標的細胞濃度が1×10/mlとなるように調整した細胞傷害活性測定用細胞を100μl/ウェルずつ添加した。この際、Calcein標識標的細胞(T)に対するエフェクター細胞(E)の比をE/T比として示し、E/T比30、10、3、1について測定を行った。上記細胞懸濁液の入ったプレートを400×gで1分間遠心後、37℃の湿式COインキュベーター内で4時間インキュベートした。4時間後、各ウェルから培養上清 100μlを採取し、蛍光プレートリーダー〔ベルトールド(Berthold technologies)社製〕(励起485nm/測定538nm)によって培養上清中に放出されたCalcein量を測定した。「特異的細胞傷害活性(%)」は以下の式1にしたがって算出した。
【0133】
式1:特異的細胞傷害活性(%)=
{(各ウェルの測定値−最小放出量)/(最大放出量−最小放出量)}×100
【0134】
上式において最小放出量は細胞傷害活性測定用細胞のみ含有するウェルのCalcein放出量であり、Calcein標識標的細胞からのCalcein自然放出量を示す。また、最大放出量は細胞傷害活性測定用細胞に0.1%界面活性剤Triton X−100(ナカライテスク社製)を加えて細胞を完全破壊した際のCalcein放出量を示している。また、E/T比3において、拡大培養前の細胞障害活性をどれだけ維持しているかを「細胞傷害活性維持(%)」として以下の式2にしたがって算出した。
【0135】
式2:細胞傷害活性維持(%)=
〔拡大培養後の細胞傷害活性(%)/拡大培養前の細胞傷害活性(%)〕×100
【0136】
測定結果を表3に示す。
【0137】
【表3】

【0138】
ペプチド非存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性はほぼ0%であり、非特異的な活性はないことを確認した。ペプチド存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性において、CTL誘導時および拡大培養時にH296−H296フラグメントを固定化した群については、14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、CTL誘導時および拡大培養時のどちらにもH296−H296を固定化しなかった対照群では、その活性は、明らかに低下していた。つまり、H296−H296をCTL誘導時および拡大培養時に使用することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0139】
実施例5 実施例3のCTL細胞集団中におけるTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定
今回、CTL誘導に用いたHLA A2.1結合性インフルエンザウイルスタンパク質由来ペプチドはTCR Vβ17陽性T細胞により認識されることがLehnerらによって示されている〔Lehner P.J. et al.,J. Exp. Med.、第181巻、第79〜91頁(1995)〕。したがって、TCR Vβ17の陽性細胞含有比率を測定することにより、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの指標となり得る。
実施例3で調製した2×10cellsのCTLをPBSで洗浄し、1%牛血清アルブミン(BSA)(Sigma社製)を含む15μlのPBS中に懸濁し、FITC標識マウスIgG1もしくはFITC標識マウス抗ヒトTCR Vβ17抗体〔ともにベックマンコールター(BECKMAN COULTER)社製〕を添加後、氷上で30分間インキュベートした。インキュベート後、細胞を0.1%BSAを含むPBSで2回洗浄し、1%BSAを含むPBSに懸濁した。この細胞をCytomics FC500(BECKMAN COULTER社製)を用いたフローサイトメトリーに供し、TCR Vβ17陽性細胞の含有率を測定した。測定結果を表4に示す。
【0140】
【表4】

【0141】
CTL誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化したCTLは、固定化しなかった対照群と比較して明らかに高い陽性細胞含有率を示した。なお、誘導後のCTL、すなわち拡大培養前のTCR Vβ17陽性細胞含有率は、H296−H296を固定化した群については78.0%、固定化していない対照群については73.0%であった。つまり、CTL誘導時および拡大培養時にH296−H296を使用することで、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの含有率を高く保持したまま拡大培養が可能であることが認められた。
【0142】
実施例6 実施例2のCTLのフィーダ細胞を用いない拡大培養
(1)抗CD3抗体とH296−H296フラグメントの固定化
以下のフィーダ細胞を用いないCTL拡大培養実験で使用する培養用器材(容器)にH296−H296を固定化した。すなわち、抗CD3抗体(終濃度5μg/ml)とH296−H296(終濃度25μg/ml)を含むPBSを96穴細胞培養プレートに160μl添加し、4℃で一晩インキュベートした(対照には抗CD3抗体のみを固定化)。また、上記のプレートは使用前にPBSで2回洗浄したのちRPMI1640で1回洗浄した。
【0143】
(2) フィーダ細胞を用いないCTLの拡大培養
実施例2−(3)で調製したH296−H296存在下で誘導したCTL(対照はH296−H296非存在下で誘導したCTL)を5HRPMIで洗浄したのち、1×10cellsを5HRPMI 300μlに懸濁し、実施例6−(1)で作製した96穴培養プレートを用いて37℃ 湿式COインキュベーター中で培養を開始した。培養開始1日目に終濃度120U/mlとなるようにIL−2を添加、さらに培養開始後5日目以降は2〜3日ごとに固定化を行っていないプレートに継代を行い、終濃度100U/mlのIL−2を添加した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、13日間拡大培養を行った。細胞増殖率を表5に示す。
【0144】
【表5】

【0145】
誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化した群については、固定化していない対照群と比較して高い増殖率を示した。つまり、誘導時および拡大培養時にH296−H296を使用することで、フィーダ細胞を用いずにCTLの拡大培養が可能となった。
【0146】
実施例7 実施例6のCTLの細胞傷害活性の測定
実施例6−(2)で得られたCTLを実施例4と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。その結果を表6に示す。
【0147】
【表6】

【0148】
ペプチド非存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性はほぼ0%であり、非特異的な活性はないことを確認した。ペプチド存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性について、誘導時および拡大培養時にH296−H296を添加した群のCTLは、対照群と比較して、13日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。つまり、H296−H296をCTL誘導時および拡大培養時に使用することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、フィーダ細胞を用いない方法で拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0149】
実施例8 実施例6のCTL細胞集団中におけるTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定
実施例6−(2)で調製した2×10cellsのCTLを実施例5と同様の方法にてTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定を行った。なお、H296−H296の非存在下で拡大培養したCTLを用いた対照群については拡大培養後に得られた細胞数が少なかったため、試験を実施しなかった。結果を表7に示す。
【0150】
【表7】

【0151】
H296−H296を誘導時および拡大培養時に使用した群において、高い陽性細胞含有比率を示した。なお、誘導後のCTL、すなわち拡大培養前のTCR Vβ17陽性細胞含有率は、H296−H296を固定化した群については78.0%であった。つまり、H296−H296を誘導時および拡大培養時に使用することにより、フィーダ細胞を用いない系で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTL含有比率を高く保持したまま拡大培養が可能であることが認められた。
【0152】
実施例9 H296−H296およびH−296を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの誘導
(1)H296−H296およびH−296フラグメントの固定化
以下の実験で使用する培養用器材(容器)にH296−H296およびH−296を固定化した。すなわち、H296−H296およびH−296(終濃度25μg/ml)を含むPBSを24穴細胞培養プレートに1mlずつ添加し、4℃で一晩インキュベートした。また、上記のプレートは使用前にPBSで2回洗浄したのちRPMI1640培地で1回洗浄した。
【0153】
(2)抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導
実施例2−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例2−(3)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。このとき使用した培養プレートは、実施例9−(1)で作製したものを用いた(対照にはH296−H296およびH−296を固定化していないプレートを使用)。誘導開始後14日目の細胞増殖率を表8に示す。
【0154】
【表8】

【0155】
この結果、H296−H296を固定化した群が最も高い増殖率を示し、ついでH−296を固定化した群で、固定化していない対照群はこれらと比較して低い増殖率であった。つまり、CTL誘導時にH296−H296あるいはH−296を使用することで、細胞の増殖率を高めることが明らかとなり、H296−H296を使用した方がより高い効果が得られた。
【0156】
実施例10 実施例9のCTLの細胞傷害活性の測定
実施例9で得られたCTLを実施例4と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。その結果を表9に示す。
【0157】
【表9】

【0158】
ペプチド非存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性はほぼ0%であり、非特異的な活性はないことを確認した。ペプチド存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性において、誘導時にH296−H296あるいはH−296を固定化した群のCTLは、対照群のCTLに比べて特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。つまり、H296−H296あるいはH−296をCTL誘導時に使用することにより、高い細胞傷害活性を持ったCTLを誘導することが可能となった。
【0159】
実施例11 実施例9のCTL細胞集団中におけるTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定
実施例9で調製した2×10cellsのCTLを実施例5と同様の方法にてTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定を行った。結果を表10に示す。なお、CTL誘導前のレスポンダー細胞のVβ17陽性細胞含有率は2.5%であった。
【0160】
【表10】

【0161】
H296−H296あるいはH−296を誘導時に使用した群において、使用していない対照群に比べて高い陽性細胞含有比率を示した。すなわち、H296−H296あるいはH−296を誘導時に使用することにより、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLを効率よく誘導出来ることが明らかとなった。
【0162】
実施例12 実施例9のCTLのフィーダ細胞を用いない拡大培養
(1)抗CD3抗体とH296−H296あるいはH−296の固定化
以下のフィーダ細胞を用いないCTL拡大培養実験で使用する培養用器材(容器)にH296−H296あるいはH−296を固定化した。すなわち、抗CD3抗体(終濃度5μg/ml)とH296−H296あるいはH−296(終濃度25μg/ml)を含むPBSを96穴細胞培養プレートに160μl添加し、4℃で一晩インキュベートした(対照には抗CD3抗体のみを固定化)。また、上記のプレートは使用前にPBSで2回洗浄したのちRPMI1640で1回洗浄した。
【0163】
(2)フィーダ細胞を用いないCTLの拡大培養
実施例9で調製したH296−H296あるいはH−296の存在下で誘導したCTL(対照は非存在下で誘導したCTL)を5HRPMIで洗浄したのち、1×10cellsを5HRPMI 300μlに懸濁し、実施例12で作製した96穴培養プレートを用いて37℃ 湿式COインキュベーター中で培養を開始した。培養開始1日目に終濃度500U/mlとなるようにIL−2を添加、5日目以降は5HRPMIを用いて固定化を行っていないプレートに継代を行い、終濃度500U/mlのIL−2を添加した。すなわち、培養開始後5日目には1×10cells/ml、8日目には1.5×10cells/ml、12日目には3.2×10cells/mlで継代を行った。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せず、15日間拡大培養を行った。細胞増殖率を表11に示す。
【0164】
【表11】

【0165】
誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化した群が最も高い増殖率を示し、ついで誘導時および拡大培養時にH−296を固定化した群で、固定化していない対照群は最も低い増殖率を示した。つまり、誘導時および拡大培養時にH296−H296あるいはH−296を使用することで、フィーダ細胞を用いずにCTLの拡大培養が可能となり、その効果はH296−H296を使用した方が高いことが示された。
【0166】
実施例13 実施例12のCTLの細胞傷害活性の測定
実施例12−(2)で得られたCTLを実施例4と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。その結果を表12に示す。
【0167】
【表12】

【0168】
ペプチド非存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性はほぼ0%であり、非特異的な活性はないことを確認した。ペプチド存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性について、誘導時および拡大培養時にH296−H296を添加した群のCTLは、15日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。また、誘導時および拡大培養時にH−296を添加した群のCTLは、H296−H296を添加した群より低いが、特異的な細胞傷害活性を保持していた。つまり、H296−H296あるいはH−296をCTL誘導時および拡大培養時に使用することにより、特異的な細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、フィーダ細胞を用いない方法で拡大培養が可能になることが明らかになり、H296−H296の方が高い効果が得られた。
【0169】
実施例14 実施例12のCTL細胞集団中におけるTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定
実施例12−(2)で調製した2×10cellsのCTLを実施例5と同様の方法にてTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定を行った。結果を表13に示す。
【0170】
【表13】

【0171】
H296−H296を誘導時および拡大培養時に使用した群が最も高い陽性細胞含有比率を示し、次いでH−296を誘導時および拡大培養時に使用した群が高く、固定化していない対照群は最も低い陽性細胞含有比率を示した。なお、誘導後のCTL、すなわち拡大培養前のTCR Vβ17陽性細胞含有率は、対照群については50.6%、H296−H296を固定化した群については73.5%、H−296を固定化した群については73.2%であった。つまり、H296−H296を誘導時および拡大培養時に使用することにより、フィーダ細胞を用いない系で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTL含有比率を高く保持したまま拡大培養が可能であることが認められた。
【0172】
実施例15 30mL採血を想定した実施例9のCTLのフィーダ細胞を用いない拡大培養
(1)抗CD3抗体とH296−H296あるいはCH−296フラグメントの固定化
以下のフィーダを用いないCTL拡大培養実験で使用する培養用器材(容器)にH296−H296あるいはCH−296を固定化した。すなわち、抗CD3抗体(終濃度5μg/ml)とH296−H296あるいはCH−296(終濃度25μg/ml)を含むPBSを96穴細胞培養プレートに160μl添加し、4℃で一晩インキュベートした(対照には抗CD3抗体のみ固定化)。また、上記のプレートは使用前にPBSで2回洗浄したのちRPMI培地で1回洗浄した。
【0173】
(2)フィーダ細胞を用いないCTLの拡大培養
実施例9でH296−H296を用いて誘導したCTLを3%ヒトAB型血清、1mM ピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、1×NEAA Mixture、1%ストレプトマイシン−ペニシリンを含むRPMI1640培地(以下3HRPMIと略す)で洗浄したのち、1×10cellsを300μlの3HRPMIに懸濁し、実施例15−(1)で作製した96穴培養プレートに入れ、37℃ 湿式COインキュベーター中で培養を開始した。この際、30mL採血から得られると予想されるPBMC 3×10cellsを用いた培養スケールにおいて、誘導から拡大培養までのヒトAB型血清の使用量を最大15mL、RPMI培地使用量を最大10Lに制限して拡大培養をおこなった。培養開始1日目に終濃度500U/mlのIL−2を添加、5日目には1%ヒトAB型血清RPMI培地を用いて固定化を行っていないプレートに1×10cells/mlで継代を行い、終濃度500U/mlのIL−2を添加した。培養開始後8日目には0.2%ヒトAB型血清RPMI培地を用いて固定化を行っていないプレートに1.5×10cells/mlで継代を行い、終濃度500U/mlのIL−2を添加し、12日目には終濃度500U/mlのIL−2のみ添加した。この間ペプチドによる刺激はまったく付加せずに15日間拡大培養を行った。細胞増殖率を表14に示す。
【0174】
【表14】

【0175】
拡大培養時にH296−H296あるいはCH−296を固定化した群のCTLは、拡大培養時にH296−H296あるいはCH−296を固定化しなかった群より高い増殖率を示した。つまり、H296−H296を誘導時に用いて得られたCTLについて、拡大培養時にH296−H296あるいはCH−296を使用することにより高い細胞増殖効果が見られた。
【0176】
実施例16 H296−H296を用いた特異的細胞傷害活性保持CTLの誘導(自己血漿)
実施例2−(1)に記載の方法で分離、保存したPBMCを用い、実施例2−(3)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの誘導を行った。その際、5%自己血漿、1mM ピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、1×NEAA Mixture、1%ストレプトマイシン−ペニシリンを含むRPMI培地(以下5PlasmaRPMIと略す)を用いた。こうして調製した誘導開始後14日目の細胞増殖率を表15に示す。
【0177】
【表15】

【0178】
誘導時にH296−H296を固定化した群において、H296−H296を固定化していない対照群よりも高い増殖率が得られた。つまり、自己血漿を含む培地において、CTL誘導時にH296−H296を使用することで、細胞の増殖率を高めることが明らかとなった。
【0179】
実施例17 実施例16のCTL細胞集団中におけるTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定
実施例16で調製した2×10cellsのCTLを実施例5と同様の方法にてTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定を行った。結果を表16に示す。なお、CTL誘導前のレスポンダー細胞のVβ17陽性細胞含有率は2.5%であった。
【0180】
【表16】

【0181】
誘導時にH296−H296を固定化した群について、H296−H296を固定化していない対照群と比較して高い陽性細胞含有比率を示した。すなわち、誘導時にH296−H296を用いることで、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLを効率よく誘導できることが明らかとなった。
【0182】
実施例18 実施例16のCTLのフィーダ細胞を用いた拡大培養
実施例16で調製したH296−H296存在下で誘導したCTL(対照はH296−H296非存在下で誘導したCTL)を用い、実施例3と同様の方法で、CTLの拡大培養を行った。この際、5PlasmaRPMI培地を用いて培養し、14日間拡大培養を行った。14日後の細胞増殖率を表17に示す。
【0183】
【表17】

【0184】
誘導時及び拡大培養時にH296−H296を固定化した群については、H296−H296を固定化しなかった群より高い増殖率を示した。つまり、H296−H296を誘導時あるいは拡大培養時に使用することで、細胞の増殖率を高めることが明らかとなった。
【0185】
実施例19 実施例18のCTL細胞傷害活性の測定
実施例18で得られたCTLを実施例4と同様の方法にてCTLの特異的細胞傷害活性を測定した。その結果を表18に示す。
【0186】
【表18】

【0187】
ペプチド非存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性はほぼ0%であり、非特異的な活性はないことを確認した。ペプチド存在下で培養したCalcein標識標的細胞に対する細胞傷害活性について、誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化した群は14日間の拡大培養後においても特異的で高い細胞傷害活性を保持していた。一方、誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化しない対照群については、その活性は明らかに低下していた。つまり、自己血漿を用いた拡大培養で、H296−H296をCTL誘導時および拡大培養時に使用することにより、特異的で高い細胞傷害活性を長期的に保持した状態で、CTLの拡大培養が可能になることが明らかになった。
【0188】
実施例20 実施例18のCTL細胞集団中におけるTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定
実施例18で調製した2×10cellsのCTLを実施例5と同様の方法にてTCR Vβ17陽性細胞含有比率の測定を行った。結果を表19に示す。
【0189】
【表19】

【0190】
誘導時および拡大培養時にH296−H296を固定化した群について、固定化していない対照群と比較して、明らかに高い陽性細胞含有比率を示した。なお、誘導後すなわち拡大培養前のCTLについてのTCR Vβ17陽性細胞含有率は、表16に示したように、H296−H296を固定化した群については80.1%であり、固定化していない群については72.1%であった。つまり、自己血漿を用いた拡大培養で、H296−H296をCTL誘導時および拡大培養時に使用することで、抗インフルエンザウイルス メモリーCTLの含有比率を高く保持したまま拡大培養が可能であることが明らかとなった。
【0191】
実施例21 H296−H296を用いたリンパ球(リンフォカイン活性化細胞)の拡大培養
(1)PBMCの分離および保存
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより成分採血を実施後、採血液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2倍希釈し、Ficoll−paque上に重層して500×gで20分間遠心した。中間層の末梢血単核球細胞(PBMC)をピペットで回収、洗浄した。採取したPBMCは90%FBS/10%DMSO(SIGMA社製)からなる保存液に懸濁し、液体窒素中にて保存した。リンパ球拡大培養時にはこれら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mL DNaseを含むRPMI1640培地で洗浄後、トリパンブルー染色法にて生細胞数を算出して各実験に供した。
【0192】
(2)抗ヒトCD3抗体およびH296−H296フラグメント固定化
以下の実験で使用する培養器材に抗ヒトCD3抗体およびH296−H296を固定化した。すなわち12穴細胞培養プレート(ベクトン・ディッキンソン社製)に抗ヒトCD3抗体(終濃度5μg/mL)を含むPBSを1.9mLずつ添加した。この時、H296−H296添加群には実施例1で調製したH296−H296を終濃度(25μg/mL)となるように添加した。
これらの培養器材を室温で5時間インキュベート後、使用時まで4℃に保存した。使用直前にはこれらの培養器材から抗体およびH296−H296を含むPBSを吸引除去後、各ウェルをPBSで2回、RPMI培地で1回洗浄し各実験に供した。
【0193】
(3)リンパ球の拡大培養
3%humanAB血清を含むAIM−V(Invitrogen社製、以下3%AIM−Vと略す)に1×10cells/mLとなるように実施例21−(1)で調製したPBMCを懸濁後、実施例21−(2)で調製した抗ヒトCD3抗体固定化プレート、または抗ヒトCD3抗体およびH296−H296固定化プレートに3%AIM−Vを 2mL/ウェルで添加しておき、細胞液を1mL/ウェルずつ添加した。終濃度1000U/mLとなるようにIL−2を添加し、これらのプレートを5%CO中37℃で培養した(培養0日目)。培養開始4日目に、各群とも0.075×10cells/mLとなるように1% humanAB血清を含むAIM−Vにより希釈し(液量6mL)、培養液を何も固定化していない12.5cm細胞培養フラスコに移し、終濃度500U/mLとなるようにIL−2を添加した。血清濃度は、30mL採血より得られたPBMCを培地10Lで培養することを想定して決定した。培養を継続し、7日目には各群とも0.25×10cells/mLとなるように、対照群(H296−H296非固定化)では0.1% humanAB血清を含むAIM−Vを用いて、およびH296−H296固定化群では0.09% humanAB血清を含むAIM−Vを用いて希釈した培養液(液量12.6mL)を何も固定化していない新しい25cm細胞培養フラスコを立てたものに移した。いずれも終濃度500U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始後10日目には、7日目と同じ血清濃度のhumanAB血清を含むAIM−Vを用いて0.413×10/mLとなるように細胞液を希釈し(液量12.6mL)、何も固定化していない新しい25cm細胞培養フラスコを立てたものにそれぞれ移した。各群において終濃度500U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始後15日目にトリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較して拡大培養率を算出した。結果を表20に示す。
【0194】
【表20】

【0195】
表20に示されるように、リンパ球拡大培養初期にH296−H296を固定化した培養器材を使用した群においては、対照群に比較してリンパ球の拡大培養率が高かった。このことから、H296−H296はリンパ球拡大培養時に好適に使用されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明により、リンパ球の製造方法が提供される。当該方法は細胞増殖率が高く、本発明により得られるリンパ球は、例えば、養子免疫療法に好適に使用される。従って、本発明の方法は、医療分野への多大な貢献が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】フィブロネクチンのドメイン構造を示す模式図である。
【図2】H296−H296の作製法を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0198】
SEQ ID NO:1 ; Partial region of fibronectin named III-12.
SEQ ID NO:2 ; Partial region of fibronectin named III-13.
SEQ ID NO:3 ; Partial region of fibronectin named III-14.
SEQ ID NO:4 ; Partial region of fibronectin named CS-1.
SEQ ID NO:5 ; Fibronectin fragment named H296-H296.
SEQ ID NO:6 ; Polynucleotide coding Fibronectin fragment named H296-H296.
SEQ ID NO:7 ; Fibronectin fragment named CH-296.
SEQ ID NO:8 ; Polynucleotide coding Fibronectin fragment named CH-296.
SEQ ID NO:9 ; Primer H296-NcoF.
SEQ ID NO:10 ; Primer H296-HindR.
SEQ ID NO:11 ; Primer H296-NcoR.
SEQ ID NO:12 ; Primer NC2-5' UTR.
SEQ ID NO:13 ; Designed peptide based on matrix-protein derived from influenza virus.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ポリペプチド(X)及び/又はポリペプチド(Y)の存在下での培養工程を包含することを特徴とするリンパ球の製造方法、
ポリペプチド(X):配列表の配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を少なくとも1つ含んでなるポリペプチド(m)を2個以上含有し、かつ配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(n)を1個以上含む、
ただし、ポリペプチド(X)は配列表の配列番号1〜3から選択されるいずれかのアミノ酸配列を重複して含む、
ポリペプチド(Y):前記ポリペプチド(X)のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加したアミノ酸配列を少なくとも1つ含み、当該置換、欠失、挿入もしくは付加が前記ポリペプチド(m)及び/又は前記ポリペプチド(n)中に含まれるポリペプチド(Y)であって、前記ポリペプチド(X)と同等な機能を有する。
【請求項2】
ポリペプチド(m)が、配列表の配列番号1、2および3で表されるアミノ酸配列を含んでなる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ポリペプチド(X)が、ポリペプチド(m)を2個含んでなる請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
ポリペプチド(X)が、ポリペプチド(n)を2個含んでなる請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
ポリペプチド(X)が配列表の配列番号5に示すアミノ酸配列を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
リンパ球が細胞傷害性Tリンパ球又はリンフォカイン活性化細胞である請求項1〜5いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
リンパ球に外来遺伝子を導入する工程をさらに包含する請求項1〜6いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
外来遺伝子をレトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウィルスベクター、レンチウィルスベクターまたはシミアンウィルスベクターを用いて導入する請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の方法により得られるリンパ球。
【請求項10】
請求項1〜8いずれか1項に記載の方法により得られるリンパ球を有効成分として含有する医薬。
【請求項11】
配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)、またはアミノ酸配列(j)において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加もしくは置換したアミノ酸配列(k)を有するポリペプチドであって、アミノ酸配列(k)を有するポリペプチドがアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有するものであるポリペプチド。
【請求項12】
下記から選択される核酸、
配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)、またはアミノ酸配列(j)において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加もしくは置換したアミノ酸配列(k)を有するポリペプチドであって、アミノ酸配列(k)を有するポリペプチドがアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有するものであるポリペプチドをコードする核酸(r)、
配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸(s)、
配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸(s)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸(t)であって、当該核酸(t)によってコードされるポリペプチドが配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列(j)を有するポリペプチドと同等な機能を有する核酸(t)。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−61020(P2007−61020A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252712(P2005−252712)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】