説明

リンパ球機能の測定方法

【課題】 血液、唾液または尿などの複雑な生体液におけるリンパ球セット/サブセットのミトゲンまたは抗原に対する反応を正確に効率よく測定する方法を提供する。
【解決手段】血液、唾液、または尿などの生体液試料においてミトゲンまたは抗原に対するリンパ球のセットまたはサブセットの反応を測定する方法であって、細胞の母集団をミトゲンまたは抗原とともに培養する過程と、所望の細胞サブセットに存在する細胞表面決定因子で固相に付着する特異的な結合試薬の相互作用により所望の細胞サブセットを分離する過程と、分離した細胞を溶解する過程と、細胞が刺激に反応した場合に増加する細胞間成分を測定する過程とを含む方法を開示している。この方法は多様な条件の下での免疫作用の測定のための便利で単純で高信頼性の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はリンパ球の機能、およびミトゲンまたは特異的抗原に対するリンパ球の反応の測定方法に関する。この方法は、Tリンパ球が細胞全体の下位の母集団である場合のそのTリンパ球の反応の測定に適しており、またTリンパ球の特定のサブセットの機能の測定に好適である。これら細胞の各下位母集団または下位母集団の各サブセットは、その細胞表面に特徴的な決定因子をもつ。この発明は上記測定方法の実施に用いる試験キットにも関係する。この発明の方法は全血などの複雑な生体液のスクリーニングを、その生体液試料をミトゲンまたは抗原とともに培養し、対象の被選択サブセットを例えば親和性分離によって分離し、反応の結果増大する細胞内成分、できればATPの存在を検出することによって簡易化するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫系は感染症や癌の抑制に中心的な役割を果たす。白血球の一つの部類であるリンパ球は免疫系の活動を左右する極めて重要な細胞の類型である。リンパ球は二つの大範疇、すなわちTリンパ球とBリンパ球とに分けられる。遺伝因子、HIVなどの感染症、臓器移植後の薬剤投与、ストレス、老化または栄養欠乏に起因する免疫不全の評価において免疫系、とくにリンパ球の機能の総合評価が重要である。
【0003】
リンパ球は特異的抗原あるいはエピトープに結合する受容体を細胞表面に発現する。抗原に曝されると、その抗原に反応性を備えるリンパ球の集団が増大する。特定の抗原に対する免疫系の反応の測定は感染症、特定の薬剤に対する過敏症、免疫学的に刺激性の高い薬剤に曝された程度、またはワクチンに対する反応の診断に有用である。
【0004】
Bリンパ球の機能または特定の抗原に対するBリンパ球の反応は、血液、唾液または尿などの生体液の中の特定の抗体のレベルを測定することによって評価することができる。Tリンパ球の機能または特定の抗原に対するTリンパ球の反応は測定が困難である。Tリンパ球またはT細胞の機能の測定は多数の要因で複雑になる。第一に、T細胞には互いに異なる機能をもついくつかのサブセットがある。これらのサブセットは、その一部を特徴的な細胞表面マーカーで分類し、他の一部をサイトカインの測定など多様な機能定量によって分類する。第二に、T細胞は他の細胞によって抗原呈示細胞表面の主要組織適合因子(MHC)抗原と関連して呈示された時だけ抗原に反応する。第三に、T細胞の機能の多くがエフェクター細胞との細胞間接触に左右され、機能がかなり局在している。現在慣用されている免疫機能測定方法は、手数と時間がかかり、臨床検査室の環境には適合していない。
【0005】
免疫機能の測定のために現在使用されている方法には、T細胞または互いに異なるサブセットの数に基づく方法、リンパ球の増殖の測定に基づく方法、細胞毒性活性またはサイトカイン分泌測定に基づく方法、および皮膚試験および適応伝達などのインビボで用いられる方法などがある。これらの方法については、文献に詳述されている(例えば、臨床化学国際連合雑誌(Journal
of the International Federation of Clinical Chemistry)第6巻第84-94頁(1994年)所載のグレーンベルトほか(Groeneveld
et al)共著の論文、およびJAMA第206巻第1208ー1216頁(1995年)所載のクローおよびロス(Clough and Roth)共著の論文参照)。
【0006】
臨床検査室でもっとも普通に用いられている方法は、T細胞またはサブセットの数の計数に基づくものである。免疫蛍光顕微鏡検査、免疫細胞化学検査、酵素による免疫定量、および血流血球計算法など多様な手法がこれまでに報告されてきた。臨床検査室環境ではとくに血流血球計算法が広く用いられている。複雑な細胞集団の中の対象サブセットの測定には、血流血球計算法がとくに有用である。例えば、Recktenwald名義の米国特許第4,727,020号は二つの互いに異なる免疫蛍光抗原で特異的に標識した下位母集団の中の細胞を検出するのに2個の互いに異なる蛍光チャンネルを用いる方法を開示している。Hansen ほか名義の米国特許第4,284,412号は、血液中の互いに異なる下位母集団の細胞の前方・直角方向の光散乱を蛍光チャンネルを用いて検出する方法を開示している。血流血球計算法の主な欠点は、複雑で高価な装置を必要とすること、各試料を個々に装置に入れて分析しなければならないこと、および試験結果が解釈を必要とし、反復不可能な場合が多いことなどである。これらの欠点は、臨床検査室、すなわち多数の患者からの試料を毎日処理する必要があり一貫した高信頼性の検査結果を求められる臨床検査室にはとくに深刻である。
【0007】
Meinicoff ほか名義の米国特許第5,385,822号およびJensen名義の米国特許第5,374,531号は細胞の混合母集団の中のリンパ球またはリンパ球サブセットの数をカウントするための血流血球計算法代替手法を開示している。これらの特許に記載されている方法は検出可能な報知物質を生体膜に結合させ、または前記報知物質を細胞内に取り込ませ、次に対象サブセットまたは母集団を分離し前記報知物質を検出する過程から成る。これらの方法は、複雑な細胞混合体から対象の集団を分離するのに親和性分離法を用いている。この手法は血流血球計算法よりも優れたいくつかの改良点を含むが、細胞計算に基づいている。
【0008】
細胞計算手法に伴う主な不都合は特定の細胞の機能または特定の抗原またはミトゲンに対するそれらの細胞の反応を測定するものではないことである。ミトゲンまたは抗原に反応する細胞は、反応細胞のみに見られる独特の細胞表面マーカーを有する。これらのマーカーを呈示する細胞の数を計数する方法が従来から報告されているが、これらの方法は感度が比較的低い。すなわち、反応細胞は一般に全細胞集団の中のごく小さい一部分に過ぎないからである。これらの方法も手数がかかり再現性に乏しい。
【0009】
リンパ球の反応の直接測定には、リンパ球増殖定量、細胞毒性定量およびサイトカイン測定などがある。一般に、これらの方法では、もとの試料から白血球を分離し、次にこれを抗原またはミトゲンとともに培養する必要がある。リンパ球の特定のサブセットの機能の測定は、定量前に多岐にわたる操作を要する。抗原呈示細胞に対する要求はさらに別の細胞をその培養試料に添加しなければならないことを意味する。リンパ球増殖の定量は反応細胞の分裂に基づいており、通常は放射性同位元素を用いて行う。これらの定量法は小さい母集団の細胞の分裂を測定するものであり組織培養を要するので、定量には3日乃至10日を要し、特定の方法やその定量法に用いる試薬によって数値が大きく変動する。細胞毒性試験も相当な細胞操作を要し、特定の実施条件によって数値が大幅に変動する。サイトカイン定量も利用できるが、細胞を刺激する前に多数の前工程を要し対象のサブセットの分離を要する。McMichaels名義の米国特許第5,344,755号はTリンパ球の初期免疫磁性分離に基づく細胞毒性定量法の変形を記載しているが、この方法もエフェクター細胞の広範囲にわたる操作を要する。上記米国特許第5,344,755号は、HIV陽性患者における免疫状態の評価のためのサイトカイン測定の利用例を提供しているが、この手法も手数がかかり多数の工程を要する。上述の方法は、発症細胞の種類の分離、長い培養期間、および場合によっては放射性物質の使用を必要とした。これらの理由で上述の方法は臨床応用には適していなかった。
【0010】
蛋白質被覆磁性微粒子やポリスチレン微粒子ほかの固相の支持体などを用いた細胞の親和性分離は周知であり、上述の方法のいくつかの一部として利用されている。米国特許第5,374,531号、同第5,385,822号および同第5,344,755号参照。固相支持体上の親和性分離による生物母集団の仕分けには多様な手法があり、それらは特許文献などに記載されている。例えば、米国特許第3.970,518号、同第4,710,472号、同第4,677,067号、同第4,666,595号、同第4,230,685号、同第4,219,411号、同第4,157,323号、E.T. Menz et al 米国生体工学研究誌(Am. Biotech. Lab.)(1986年)、J.S. Kernshead et al 分子細胞生化学誌(Molec. Cell Res.)第67巻第11-18頁(1985年)、T. Leivestag et
al 組織抗原(Tissue Antigen)第28巻第46-52頁(1986年)、およびJ.S. Bernan et
al 免疫学雑誌(J. Immunol.)第138巻第2100-03頁(1987年)を参照されたい。これらの方法の実施においては、結合分子(例えば、単クローン性抗体)を磁性微粒子やプラスチック・ビーズなどの固相支持体に通常接合させ、さらに、分析対象の特徴的な決定因子への結合をもたらす条件下で試験標本に加える。次に、固相支持体と複合体を形成した細胞を固相支持体の性質に応じ磁界に曝しまたは濾過その他の処理を加えて非複合化細胞から分離する。移植前に骨髄細胞由来のリンパ球の中のいくつかの下位母集団を分離し移植後の移植片対宿主反応を除去するためにこの方法を利用したことも報告されている。Burturini et al 骨髄移植の進歩(Prog. Bone
Marrow Transpl.)第4巻第13-22頁(1987年)参照。この方法の使用例を紹介した他の報告としては、腫瘍細胞の分離(Kernshead et al, B.J. Cancer 第54巻第771-78頁(1986))、および後続の機能評価のためのリンパ球下位母集団分離などの例がある。
【0011】
リンパ球を磁気などの固相親和性手法でまず分離して、そのあと機能定量に用いる場合に生じる問題としては、リンパ球と結合分子との間の相互作用がリンパ球の機能的変化を誘発し、そのために測定対象となる後続の変化を不鮮明にする可能性があることである。またT細胞の反応に必要な補助細胞が細胞のある特定のサブセットの分離に伴って存在しなくなる可能性がある。さらに、分離細胞はもともとの環境から除去され、その後の組織培養に必要な試料の無菌性を維持することが困難になる。
【0012】
【非特許文献1】ExperimentalCell Research. 1987 Vol.173, No.2, p.379-387
【非特許文献2】Mutagenesis.1995 Vol.10, No.4, p.371-374
【非特許文献3】日本生化学会編 新生化学実験講座12 分子免疫学I−免疫細胞・サイトカイン−、東京化学同人、1989年11月28日、第1版、65−79,148−152頁
【非特許文献4】日本生化学会編 新生化学実験講座12 分子免疫学II−免疫遺伝学・アレルギー−、東京化学同人、1991年9月10日、第1版、156−161頁
【非特許文献5】JOURNAL OFMOLECULAR RECOGNITION. 1988 Vol.1, p.9-18
【非特許文献6】Journal ofImmunological Methods. 1984 Vol.72, p.127-132
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
複雑な生体液の分析を臨床検査室における分析に適合するように簡易化すること、評価対象の細胞およびその周囲のもとのままの状態を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はリンパ球の種々の組またはサブセットの機能を分析するための簡便で高信頼性で比較的迅速な方法を提供する。好ましい実施態様においては、本発明の方法は一群の細胞をミトゲンまたは抗原と培養する過程と、固相に付着した特定の結合試薬を対象細胞サブセットの表面にある細胞表面決定因子と相互作用させることによって所望の細胞サブセットを分離する過程と、分離した細胞を溶解する過程と、細胞が刺激に反応した場合に増加する細胞内成分を測定する過程とを含む。しかし、本発明の実施においてミトゲンおよび抗原以外の誘発剤を初めに用いることもできる。好適な誘発剤としては、サイトカインおよび成長因子、アレルゲン、同種抗原、炭水化物(多糖類)や脂質類や核酸類などの蛋白搬送体に接合したペプチドまたは低分子量化合物などがある。
【0015】
本発明の有利な実施態様においては、特徴的な細胞表面決定因子によって区別され混合細胞母集団に含まれるリンパ球のひと組または1サブセットの機能活性の測定を、試料をミトゲンもしくは抗原またはそれ以外の誘発剤に曝す過程と、その試料を一定時間培養する過程と、リンパ球の上記ひと組または1サブセットを固相支持体に細胞表面の決定因子と固相支持体に結合した特異的結合物質との間の相互作用を通じて結合させる過程と、未結合の細胞および媒質中の干渉性の物質を除去するように細胞を洗浄する過程と、細胞を溶解する過程と、溶液の中のATPを検出する過程とによって行う。得られた結果は既知の標準と比較できる。代替的に、試料を二つ以上の部分に分け、それら部分の少なくとも一つを刺激物の添加なしに培養し、第2の部分を抗原またはミトゲンもしくはその他の誘発剤を添加して培養する手法を用いてもよい。
【0016】
本発明の一つの側面はミトゲンに対するリンパ球反応の定量である。この場合、ミトゲンに対するひと組のリンパ球の反応は、免疫反応の総合尺度となる。この応用は免疫抑制薬または製剤の作用を測定するに当たって特に重要なものとなる。この場合、Tリンパ球などリンパ球ひと組全体の反応性を定量することができる。代替的にHIVなどのウィルスの作用をCD4細胞表面決定因子を発現する一つのTリンパ球サブセットのミトゲンに対する反応を測定することによって評価することもできる。
【0017】
本発明のもう一つの側面は、感染性病原体、薬剤、化学物質、自己抗原または腫瘍抗原などの抗原に対するリンパ球反応の定量である。本発明のこの側面は、ある個人が感染症または薬剤に曝されたか否かの監視、または過敏症、自己免疫疾患もしくはガンの診断にとくに重要である。また、本発明のこの側面はワクチンの効能の監視および化学物質、薬剤、および工業用化合物の免疫毒性の評価に有用である。
【0018】
本発明のさらにもう一つの側面はミトゲンまたは抗原に対する反応で分けたサブセットなどの各種サブセットのT細胞を細胞表面の機能性マーカー、分化性マーカー、または活動性マーカーに特異的な各種決定因子に基づいて評価できることである。本発明のこの側面においては、抗原を標本に加えてある期間培養する。培養ののち対象の細胞サブセットをそれら細胞を細胞表面の決定因子で固相支持体に結合させることによって分離する。それら細胞を洗浄・溶解し、活性化の結果増加する細胞内成分の濃度を測定する。
【0019】
本発明の方法は、リンパ球をミトゲンまたは抗原に曝したのち急激に増加する細胞内成分、例えば、ATP、NADPなどほかの中間代謝産物、PCNAなど細胞サイクルの制御に伴う蛋白質などを測定することに基づいているので、極めて高感度である。有利な実施態様においては、ATP濃度の測定を、ルシフェリン−ルシフェラーゼ生物発光反応を利用して行う。
【0020】
本発明のさらにもう一つの側面は本発明の方法の実施のための全所要時間が一般には6-72時間、通常は18-24時間程度であることである。このように比較的短い所要時間は、完了までに3-10日を要する現行の方法に比べて有利である。
【0021】
本発明の一つの実施態様においては、本発明の方法の実施のための試験キットを提供する。この試験キットは抗原またはミトゲン(またはその他の誘発剤)と、適当な結合物質付きの固相体と、ATP濃度の検出に必要な試薬と、適当な希釈剤および洗浄液と、それらの調合の標準または指示薬と、本発明方法実施用のオプションとしての試験管、磁気分離装置、洗浄器、移送ピペットなどの付属器具とを含む。
【発明の効果】
【0022】
HIVなどの感染症疾患の有無の監視、ガンの診断などに有用なリンパ球機能測定を、臨床検査室環境で正確に効率よく行うことを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は混合細胞集団の中の細胞表面に発現した特徴的な決定因子によって互いに区別されるひと組のまたは1サブセットのリンパ球(例えば、T細胞または25B細胞)の反応性を測定するための高感度で高効率の方法を提供する。特に、本発明はミトゲンや抗原などの誘発剤に対するリンパ球の反応、およびサイトカイン、成長因子、アレルゲン、同種抗原、炭水化物(多糖類)や脂質や核酸などの蛋白搬送体に結合したペプチドまたは低分子量化合物などの誘発剤に対するリンパ球の反応を測定する方法を提供する。
【0024】
本発明は、細胞を抗原に曝したあとリンパ球とビーズ上の結合分子との相互作用が結果に影響を及ぼさない時間枠の中でT細胞を標本から分離することによって、従来技術の問題を回避している。
【0025】
本発明のもう一つの際立った側面は、対象のサブセットを分離したのちその細胞内のATP濃度を測定することである。ATP濃度が代謝活動を表わすことはよく知られている。例えば、Kangas et al 医学生物学誌(Med
Biol.)第62巻第338-43頁(1984年)、およびLundin et al 酵素方法学誌(Meth. Enzymol.)第133巻第27-42頁参照。ATP濃度の測定は、化学療法製剤および細胞系統のその他の研究に使われてきており、生体質量や細胞数の増加を監視するのに用いられてきている。ATP濃度は、蛍のルシフェラーゼとルシフェリンとの間の生物発光反応を用いることによって極めて高感度に測定することができる。例えば、Leach & Webster 酵素方法学誌(Meth. Enzymol.)第13巻第51-70頁(1986年)参照。細菌または体細胞の中のATP濃度の測定は多数報告されている。例えば、ここに引用してその内容をこの明細書に組み入れる米国特許第3,690,832号、同第5,283,179号、同第4,144,134号、同第4,283,490号および同第4,303,752号参照。従来技術において認識されていなかったものは、ミトゲンや抗原などの誘発因子へのT細胞の反応の結果として、反応細胞の代謝活動が大幅に増加すること、その増加がATP濃度の著しい増加に反映されることである。さらに、ATP濃度の僅かな変化、または少数の細胞におけるATP濃度の変化も、ルシフェリン・ルシフェラーゼ系の高感度によって測定可能である。
【0026】
ミトゲンおよび抗原に対するTリンパ球の反応性、すなわちT細胞機能を測定するための改良方法に対する大きい需要を本発明は考慮し、その需要に応える。これらの方法はこれまで利用可能であった方法と同等またはそれ以上の感度を示す。また、これらの方法は比較的短時間に多数の試料の分析を可能にし、従って方法実施のための高コストの設備や熟練者を不要にし、さらに放射性物質を使用しない。
【0027】
本発明の方法は互いに異なる下位母集団の中のリンパ球の数の計数のために臨床検査室で行われる方法および試験の補助または代替手法として用いることができる。この明細書で説明する方法は、所要時間のずっと長い定量法の所要感度を細胞計数定量法の短縮時間枠に組み入れる。標準の利用および本方法に基づく全所要試薬付き試験キットの利用によって、臨床検査室での試験に要求される再現性と一貫性が改善される。
【0028】
本発明の方法は、従来の方法に比べていくつかの利点を有する。反応に必要な時間は、他の定量法に比べてかなり短い。試験キットにおける定量に必要な全ての材料の供給および測定の内容が単純化によって検査室相互間で一貫性が得られる。さらに、多数の試料を同時並行で処理できる。また、この方法は単純、高速、高感度で、臨床検査室環境に適用可能である。
【0029】
誘発剤
本発明において、誘発剤とは、リンパ球との間でそのリンパ球細胞の状態に変化をもたらす相互作用を有する物質である。より詳細に述べると、「誘発剤」とは、安静状態のリンパ球を活性化させ、その細胞内に機能的活動を誘発できる物質をいう。一般に、誘発剤は二つの部類、すなわち、(i)特定のサブセットのリンパ球すべてと相互作用する誘発剤であって、反応細胞の増殖に至る活性化を誘発するミトゲン、および(ii)限られた下位細胞母集団に対して特異的受容体を通じて相互作用を示す抗原である。しかし、サイトカイン、成長因子、アレルゲン、同種抗原類、炭水化物(多糖類)や脂質類および核酸類などの蛋白搬送体に接合したペプチドまたは低分子量化合物など上記以外の物質を誘発因子として用いることもできる。
【0030】
リンパ球の互いに異なる母集団のためのミトゲン類は既知であり、従来技術に詳しい当業者に周知のレクチン類、特定のリンパ球細胞表面受容体、例えばTリンパ球に対するCD3、Bリンパ球に対するCD2抗体、成長因子およびリンフォカイン、ホルボール・エステル、その他の生化学物質などを含む。好ましいミトゲンとしては、ファイトヘムアグルチニン(phytohemagglutinine, PHA)、Con A、および、CD3に対する単クローン性抗体などが挙げられる。
【0031】
抗原は細胞表面の特異的受容体を介してリンパ球のより小さいサブセットと相互作用する。各リンパ球はその細胞表面に特異的抗原または分子に対する受容体を有する。Bリンパ球の場合の細胞表面受容体は膜結合性の抗体である。T細胞の場合の細胞表面受容体はもう一つの細胞の表面の主要組織適合性分子と関連して呈示される認識抗原と相互作用するT細胞受容体である。特異的な外来侵入因子に対する免疫系の反応は、これらの細胞の表面の受容体による抗原の認識と、その相互作用の結果生ずる機能の活性化とに基づく。一般に、これら細胞表面受容体に結合する抗原は比較的大型の分子の小部分であって、ウィルス・細菌・糸状菌などの感染因子の一部、薬剤、有機化学物質、シリコンなどの無機化学物質、ベリリウムなどの金属、および腫瘍細胞蛋白などの蛋白または埋め込みもしくは移植器官由来の蛋白の一部を含む。好ましい抗原としては、HIVウィルス外套糖蛋白のgp120蛋白またはgp120由来のペプチド、ボレリア・ブルグドフェリ(Borrelia burgdorferi)由来のOSP A、BまたはCなどの細菌由来の外表面蛋白、SiO2、破壊によって不活性化されたQ発熱細胞、PPD、または破傷風類毒素などが挙げられる。
【0032】
標的リンパ球
対象の細胞サブセットは全血、尿、大便、唾液、脳脊髄液、羊水、組織抽出物、洗浄液、腫瘍バイオプシー、移植臓器バイオプシーなどの生体液を含む多様な試料の中に存在し、培養試料からのものであってもよい。対象の細胞はヒト由来のものであっても動物由来のものであってもよい。試料としては、一部密度勾配遠心分離などの分離手法によって部分精製した各種生物由来の標本を含む。
【0033】
本発明はさらにMDLT-4、HL-60、TF-1、NFS60、L-929など長期の細胞系統に用いることもできる。生体液由来のものと同様にこれらの細胞も凍結保存体から得ることもできる。好ましい実施態様においては、凍結リンパ球の使用により臨床標本または実験標本を劣化なしに輸送する手段が得られる。
【0034】
対象の細胞サブセットを含む試料の分析を本発明の方法に従って行う場合は、本来の生体液または適当な生体液もしくは合成媒質に懸濁した細胞集団を初めミトゲン、特異的抗原または対象の誘発因子に曝す。この曝す過程を比較的短い時間で行うのが本発明の特別な一側面である。試験対象の抗原またはミトゲンの性質によってはこの曝す過程の期間を6-72時間以上とするが、通常は24時間である。
【0035】
診断、治療、および研究のために特に重要なことは、ミトゲンまたは特異抗原に対するTリンパ球並びにTヘルパー細胞およびサプレッサー/キラー細胞などのリンパ球サブセットの反応の測定である。Tリンパ球の特定のサブセットの反応性の定量は特定の生理的条件において重要である。例えば、ヒト免疫不全ウィルスに感染したヒトでは、CD4細胞集団のミトゲンおよび抗原にたいする反応性がそれ以外の細胞サブセットにおける活性の消失の前に消失する。同様に、ミトゲンに対するT細胞サブセットの反応性は慢性的ストレス、化学療法、または投薬治療によって潜在的に免疫抑制された患者を監視するのに重要である。特異抗原に対するサブセットのリンパ球反応性の定量は、感染源、薬剤、または化合物に対する被曝患者の程度または薬剤や化学物質に対する過敏反応の程度を判定するのに重要である。主要な機能的サブッセットのほか、対象細胞サブセットとしては、分化の段階の異なる細胞群や、ミトゲンまたは抗原との初期の相互作用後の様々な時点における細胞群などが挙げられる。
【0036】
特徴的決定因子
対象の機能的サブセットは特徴的細胞表面決定因子の発現によって区別される。また、同一サブセット由来であるが分化段階の異なる細胞同士は細胞表面における特徴的決定因子の発現によって区別される。機能的活性状態の異なる細胞またはミトゲンや抗原との初期の相互作用後の時間の異なる細胞も互いに異なる細胞表面決定因子を発現する。
【0037】
本発明において、特徴的決定因子とはあるものの性質を特定または決定する要素を指す。本発明の方法に関連して用いる場合、この用語「決定因子」は、その細胞を何らかの方法で特徴づける細胞表面に発現される分子を意味する。細胞に伴う決定因子としては、膜結合蛋白、糖蛋白、脂質、糖脂質および宿主細胞由来またはウィルス由来の細胞表面抗原を含む細胞膜成分、組織適合性抗原、または膜受容体が挙げられる。
【0038】
決定因子とは、特異的結合物質と相互作用する細胞の部分である。細胞は細胞表面の決定因子と固相に付着した特異的結合物質との間の特異的相互作用により分離される。この過程をここでは「親和性分離」と呼ぶ。細胞表面の決定因子と相互作用する特異的結合物質としては、決定因子を認識できる抗体が挙げられる。
【0039】
本発明は、何らかの特徴的表面決定因子によって区別される免疫学的活性を備える細胞の測定法として用いることもできる。例えば、本発明は癌細胞、胸腺細胞、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、NK細胞、単球、ミエロイド細胞、血小板、好酸球、好塩基球、巨核球、顆粒球、マクロファージ、リード・シュテルンベルク細胞、B前駆細胞、汎ミエロイド細胞、造血前駆細胞、内皮細胞、プラズマ細胞、汎白血球、増殖細胞、原初細胞を含む汎B細胞、バーキットリンパ腫細胞、循環性および交互に組み合わさった網状樹状細胞、好中球、粘膜付着性Tリンパ球、および絨毛カルチノーマ細胞の測定に用いることもできる。
【0040】
結合物質
本発明の方法による細胞サブセットの存在の判定または量の測定は、対象のサブセット細胞と、特異的結合物質間の選択的相互作用によって実現される。本発明の実施の際に用いられる特異的結合物質は特徴的な細胞決定因子に対して選択的認識を示すものでなければならない。混合細胞集団を分析して例えば特徴的な細胞表面抗原を持つ下位母集団やサブセットを特定する場合は、その特異的結合物質は、対象の抗原を免疫特異的に認識する相補的抗体であってもよい。このような選択的認識に基づき、特異的結合物質は対象のサブセットと選択的な相互作用および結合を行うことができ、それによって試験媒質ほか対象外の培養液中成分とは物理的および化学的に別の複合体または凝集体を形成する。有利な実施態様においては、表面抗原CD4を担うTリンパ球と単球を含む血液標本をCD4単クローン性抗体を含む特異的結合物質に曝す。
【0041】
ここに用いる用語「抗体」は、単クローン性または多クローン性免疫グロブリン類、および免疫反応性の免疫グロブリン断片を含む。他の種類の特異的結合物質としては、レクチン、ホルモン、サイトカイン、受容体リガンドなどが挙げられる。
【0042】
特定の細胞表面決定因子に対する単クローン性抗体は、本発明のこの実施態様にとって特に重要である。例えば、全血中の一つの下位母集団から成るリンパ球を白血球表面抗原に対向した単クローン性抗体を用いて選択することができる。CD45抗原はすべてのリンパ球の上に一様に発現されるが、CD45抗原は単核細胞にも発現される。したがって、リンパ球に対する選択的結合が要る場合は、単核細胞よりもリンパ球に対して細胞あたりの結合部位数の多いCD45モノクローン性抗体、すなわち、単核細胞よりもリンパ球により強力に結合するCD45モノクローン性抗体を選択する必要がある。
【0043】
特定の有利な実施態様においては、全血試料の中のTヘルパーリンパ球のみを分離するのが望ましい。この分離は、上述のとおりCD4などのT細胞表面抗原に対向した単クローン性抗体を用いることによって、または、Tヘルパーリンパ球と主に反応する抗体の組合せを用いることによって行う。本発明のもう一つの実施態様においては、特異的抗原への被曝により活性化したリンパ球を、細胞表面の活性化のあとだけ発現される抗原に向けた抗体を利用することによって分離する。これらの抗体は、下記の細胞表面抗原、すなわち、CD25、CD69、CD71、CD45RO、またはMHCクラスIIの諸抗原のうちの一つまたはそれらの組合せと反応する。これらの抗原を分離に用いると、その定量において信号の大幅な増幅を達成することができる。すなわちこれらマーカーを発現する細胞のみが抗原またはミトゲンからの信号に反応するからである。
【0044】
特異的結合物質は、試験培養液からの分離を容易にするように固相または不溶性液相に固定する。各種の固相支持体材料、例えば、ポリスチレン、ナイロン、またはアガロース・ビーズを使用できるが、これらは、当業者には周知である。本発明の特に有利な実施態様においては、特異的結合物質を強磁性、常磁性、または反磁性材料から成る複数の磁性ビーズに付着させる。特異的結合物質をビーズに付着させる手法は当業者に周知である。好適な手法としては、架橋結合、共有結合、または物理的吸着が挙げられる。また代替的手法としては、非固相の一次特異的結合物質を二次特異的または補助特異的結合物質、すなわち上記一次特異的結合物質と選択的に相互作用し、また固相に固定された二次特異的または補助特異的結合物質と併せて用いる。この目的のために有用な代表的な一次特異的および補助特異的結合物質としては、マウス由来可溶性抗体/固相に付着させた蛋白A、マウス由来可溶性抗体/別の種で惹起し固相に付着させた抗マウス免疫グロブリン、および生合成抗体/固相に付着させたアビジンなどがある。
【0045】
試験中の試料培養体由来のものである場合、または固相支持体での分離前に密度勾配分離法で分離されたものである場合は、対象のリンパ球のサブセットを他の細胞集団から分離するには、簡単な分離過程だけで十分である。全血などの比較的複雑な試料の場合は、捕捉されたり非特異的に結合したりした細胞を除去するために複合体を洗浄する必要がある。赤血球、血小板ほかの潜在的夾雑物を特異的に溶解するためには、各種の溶液(例えば、0.15M塩化アンモニウム、1.0M炭酸カリウム、pH7.2の0.1M EDTA)があるが、これらは当業者に周知である。また、蛋白、糖、塩などの物質を含む溶液、または特定のpH値を持つ溶液が他の細胞種による非特異的結合を下げ、または対象のもの以外の細胞種を溶解する(例えば、10%FCSを含むハンク緩衝食塩水が特に有効である)のに有効である。分離ののち洗浄し必要があれば培養液を試料から除去する。
【0046】
細胞溶解
対象の細胞の分離のあと、分離した細胞集団をリンパ球を溶解できる物質を含む溶液を添加して溶解する。この種の溶液としては多様のものが存在し当業者には周知である。すなわち、この種の溶液としては、蒸留水、トリトン-XまたはNP-40などの洗剤液を含む溶液、および、0.1M塩化ベンザルコニウムを含むヒーペス(HEPES)などのpH7.4緩衝液が挙げられる。材料と選んだ溶液とがATP測定系と干渉せず、ATPを含まず、ATPを変性させないものであることが重要である。
【0047】
試料を曝したときから細胞が溶解されるまでの時間が極小であり、通常2時間未満、好ましくは1時間未満であることが、本発明の重要な特色である。これが重要なのは、リンパ球と細胞表面抗原に対向する多数の抗体との相互作用が結果として反応を招く可能性があるからである。従来、特異的細胞種の機能を定量するに当たってこのことが重要な問題であった。なぜなら、細胞種の分離自体が、細胞活性を招く可能性があるからである。
【0048】
ATP濃度の測定
細胞の破壊ののち溶液の中のATP濃度を測定する。有利な実施態様では、ATPをマグネシウム・イオンの存在下で、蛍のルシフェラーゼおよびルシフェリンを含む溶液を添加することによって測定する。ATPの測定は免疫化学的または生化学的反応系を含む上記以外の手段でも行うことができる。
【0049】
細胞内成分の測定はそれによって追加の過程を省くことができるばかりでなく標識過程に内在する変動を除去できるので重要である。ATPの上昇は細胞質量増大のマーカーとして利用されてきたが、集団の中のすべての細胞がある基本のATP濃度を示すので比較的感度が低かった。本発明は対象の細胞集団の分離のあとでATPの測定を行うので有利である。
【0050】
キット
本発明のもう一つの側面によれば、本方法の実施に用いる各種付属品とともに、希釈用溶媒、細胞固定用固相支持体、細胞溶解用試薬、抗原またはミトゲンおよび洗浄緩衝剤、1個以上の基準液などの試薬を調合のための説明書を含めて一つの試験用キットにまとめてあるので便利である。この試験用キットに含まれる試薬は多様な形態で提供し、適当な希釈剤と一緒に乾燥状態で包装するか、すぐに使える形で提供する。
【0051】
本発明の方法においてはT細胞反応を定量するためのキットを想定している。より詳細に述べると、本発明は、抗原もしくはミトゲンまたは液体もしくは凍結体状の抗原など、特定の細胞サブセット分離のための抗体結合常磁性ビーズ、試料希釈用の培養液、複合体洗滌のための洗滌緩衝剤、定量を行うための関連の試薬を備えるキットを含む。
【0052】
次に述べる実施例は本発明をさらに詳細に説明するためのものである。これらの実施例は、本発明の特定の応用例を示すことを意図したものであって本発明の限定を構成するものと解釈してはならない。
【実施例1】
【0053】
ストレスに対するまたは化学療法のあとのHIV感染免疫機能の測定に有用なCD4陽性Tリンパ球のミトゲンに対する反応性の検出
正常な個人からFicoll-Hypaque上で密度勾配遠心分離して得た起源白血球(Gulf Coast血液銀行より入手)から抹消血単核細胞(PBMC)を分離した。バフ皮状の層から得た細胞を10%牛胎児血清(FCS)を含むRPMIで遠心分離して洗浄し、5%牛胎児血清(FCS)を含むRPMIで約1x10個/mlの細胞濃度に調整した。1分液の細胞を未刺激のまま培養し、一方もう一つの分液の細胞をファイトヘムアグルチニン(PHA)、1μg/ml濃度のT細胞ミトゲンで24時間刺激した。この分液を10%FBSを含むRPMI 1640で1:20に希釈した。2μg/mlの濃度でCD4に対する抗体をすべての培養体に加えた。細胞を室温で30分培養し、次に100μlのヤギ抗マウス抗体で被覆した常磁性ビーズ(Advanced
Magnetics)を加えた。この細胞懸濁液を緩やかに混合し、室温で30分培養した。細胞とビーズを再懸濁し、重力に対し磁界が垂直方向に向くように永久磁石に接して置いた。ビーズが緻密なペレットを形成したのち、培養液を吸引し磁石を取り去った。別の緩衝液を加え、細胞とビーズを再懸濁した。この工程を数回繰り返した。培養液を完全に除去した後、ビーズ・ペレットの中の細胞を体細胞溶解剤(Sigma)とされる洗剤液で破壊し、培養管を光度計の中に置いた。0.25M ヒーペス、0.1M DTT、および、0.5% BSAを含む溶液に、ルシフェリン、ルシフェラーゼおよびMg2+を含む混合物を溶解した液100マイクロリットルをこの管に注入し、数値を判定した。
【0054】
溶解用緩衝剤のみ、または非特異的ビーズ、一次抗体と異なる異種抗体で被覆したビーズと培養した細胞から成る陰性対照体についても試験した。最後に、各定量ごとにATP標準液を流して、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応が適当なレベルで起こっていることを確かめた。下記の表1は、こうして得られた結果を示す。
【0055】
【表1】

【実施例2】
【0056】
ミトゲン、サイトカイン、および毒素抗原に対するCD4陽性Tリンパ球の反応の測定
抹消血単核細胞を互いに異なる数人の個人から密度勾配遠心分離により分離し、洗浄し、5% FCSを含むRPMI 1640にて培養した。この細胞を分注し、刺激なしで放置、またはPHA、CD3抗体、破傷風類毒素またはインフルエンザ・ウィルス抗原による刺激のいずれかの処置を施した。すべての試料を同一の抗原で処理したわけではない。48時間の培養ののち細胞をRPMI
1640で希釈し、CD4抗原に対するマウス・単クローン性抗体で室温で30分培養し、次に常磁性ビーズに接合させたマウスIgG抗体(Advanced Magnetic社)で室温で30分培養した。試料を永久磁石により分離し洗浄したのち、細胞を体細胞破壊用試薬(Sigma Chemical)で破壊した。ルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬(Sigma Chemical)を1:10に希釈し、100マイクロリットルを添加した。次に、相対的光度単位を測定した。図1はこれらミトゲンや抗原に対する異なる患者試料の反応を示すものであるが、本発明の方法が個々の患者試料においてミトゲンや抗原に対する反応を検出できることを実証している。
【実施例3】
【0057】
CD4、CD69またはCD3によって分離したTリンパ球のPHA刺激後に得られた結果の比較
この例は互いに異なる細胞表面マーカーを用いて実施した定量の能力を調べるものである。抹消血単核細胞に刺激なしまたはPHA(1%)による24時間、48時間、72時間または96時間刺激のいずれかの処置を施した。刺激なしまたはPHA刺激細胞の分液をCD3、T細胞受容体、CD4またはCD69に対するマウス単クローン性抗体で室温で30分培養した。次に、全ての分液をヤギ抗マウスIgGを予め吸着させておいた常磁性ビーズとともに室温で30分培養した。このビーズと細胞複合体とを永久磁石を用いて分離し、10% FCSを含むRPMIで3回洗浄した。この細胞を0.5% NP-40溶液で溶解した。ルシフェリン・ルシフェラーゼ混合物(Sigma Chemical社)を1:10に希釈し、100μlを各培養管に加えた。図2は、これらの定量の結果を示す。いずれの場合も、刺激ずみ細胞からの相対的光度単位は、刺激なしの細胞からの相対的光度単位よりも大きかった。この試験結果は互いに異なるサブセット由来のリンパ球の反応を評価するのに、互いに異なる細胞表面マーカーが有用であることを実証している。
【実施例4】
【0058】
細菌抗原に対するTリンパ球反応の測定
全フロイント補助剤に乳化させたナイン・マイル菌株(Integrated Diagnostics社)から調製した合計100μgのQ熱抗原によりBalb/cマウスに免疫処置した。初回血液サンプルを10匹のマウスの眼窩洞から採取した。後続血液サンプルを接種から7日のちに採取した。各マウスから約100-200mlの血液を採取した。抹消血単核細胞を密度勾配遠心分離により分離した。白血球層を取り出し、10%
FCSを含むRPMI-1640で洗浄した。約100μlの細胞を各培養管に入れた。細胞ペレットを他の添加物の全くない状態、または、Q熱抗原(10μg/mlないし1μg/ml)の存在下で培養した。24時間後培養体を10% FCSを含むRPMI-1640で1:40に希釈し、マウスCD4に対する抗体で被覆した超常磁性ビーズ(Advanced Magnetics社)100μlを添加した。このビーズと細胞を室温で30分培養した。ビーズを複合細胞とともに永久磁石で分離し、10% FCSを含むRPMIで3回洗浄した。体細胞溶解試薬(Sigma
Chemical社)を100μl添加して細胞を溶解した。さらに10分室温に放置した後、100μlのルシフェリン・ルシフェラーゼ混合物(Sigma
Chemical社)を注入し、光度出力を光度計により測定した。
【0059】
これらマウスからの初回血液試料では、Q熱抗原と培養した試料はQ熱抗原なしに培養したものと同じ信号を呈した。次の表は、抗原注入から7日ののちに得られた試料の試験結果を示す。検出されたT細胞には用量依存性の反応が認められた。
【0060】
【表2】

【実施例5】
【0061】
全血を試料として用いた場合のTリンパ球反応の測定
血液試料は正常の供血者から入手し、抗凝固剤のヘパリン中に収集した。血液の分液(100μl)をRPMIで1:5に希釈した。この分液を添加物なし1% PHA、または最終濃度が100U/mlのIL-2の添加のいずれかで処理した。試料を37℃でひと晩培養した。翌日、試料100μlを取り出し、CD4に対するマウス単クローン性抗体で37℃で30分間培養した。ヤギ抗マウスIgGで被覆した常磁性ビーズを各試料(100μl)に加え、37℃で30分間培養した。ビーズ・細胞複合体を、10% FCSと0.1% BSAとを含むPBSで3回洗浄した。細胞を蒸留水で溶解した。ルシフェリン・ルシフェラーゼを添加し、相対的光度単位を測定した。次の表は、その試験結果を示す。
【0062】
【表3】

【実施例6】
【0063】
ウィルス抗原に対するCD8陽性Tリンパ球反応の測定
抹消血単核細胞を正常の供血者からのヘパリン添加全血から密度勾配遠心分離により分離した。細胞を10% FCSを含むRPMIで洗浄し、同じ溶媒に1 x 105個/mlの密度に再懸濁し分液を調製した。分液は、添加物なしまたは各種濃度のインフルエンザA抗原またはPHAの添加のいずれかで処理した。24時間ののち、CD8に対するマウス単クローン性抗体を添加し、細胞を室温で30分培養した。マウスIgGに対するヤギ抗体に結合した常磁性ビーズを添加し、培養体を永久磁石に隣接配置することによって複合体を分離した。複合体を10% FCSを含むPBSで3回洗浄し、次に細胞をPBSに溶解した0.05% トリトンX100を添加して溶解した。ATP濃度をルシフェリン・ルシフェラーゼにより測定した。個々の試料は全てPHAに対して>10の刺激指数の反応を示したが、インフルエンザ・ウィルス抗原に対する刺激指数は1.2-4.0の範囲であった。
【実施例7】
【0064】
血流血球計算と比較した対リコール抗原Tリンパ球反応の測定
正常供血者からの血液をヘパリンを含む採取管に収集した。破傷風類毒素10ng/ml、鵞口瘡カンディダ20ng/ml、1:4希釈のインフルエンザA、またはヒト・トランスフェリン10ng/mlを500μlの血液に添加し、または添加物なしで37℃で24時間培養した。100μlの試料を取り出しCD4抗原に対するマウス・モノクローン性抗体で被覆した常磁性体(Perspective BioSystems)20μlと室温で30分培養した。ビーズ・細胞複合体を永久磁石を用いて試料から分離し、次に5% FCSを含むRPMI 1640で3回洗浄した。次に、体細胞溶解用試薬(Sigma Chemical社)15μlを添加して細胞を溶解し、150μlのルシフェリン・ルシフェラーゼ反応混合物(Sigma Chemical社)を添加した。光度出力を光度計で測定し、刺激指数を算定した。
【0065】
血流血球計算用の試料は、各リコール抗原試料からの全血50μlを、FITC(Dako社)に接合させた対CD4マウス・モノクローン性抗体 10μlと培養して調製した。細胞を血流血球計算法により計数した。
【0066】
次の表は、リコール抗原に対する測定可能な程度のT細胞活性化がここに記載した方法により24時間または48時間被曝のあと実現可能であることを示す。並行して行なった血流血球計算実験では、細胞数に増加は認められなかった。この試験結果は細胞増殖レベルが血流血球計算法により測定可能となるほど高まる前にATPの増加として示される代謝活性の増加が見られ、その活性を検出するに十分なほどこの定量方法の感度が高いことに起因するものであろう。ヒト・トランスフェリンは異物と認識されない天然の物質であり、従って、免疫反応を生じさせない。この定量方法ではこの物質を陰性対照として用いる。
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
ここに記載した例および実施例は例示だけを意図するものであって、これら例および実施例に各種変形または変更が当業者には自明であろうが、それら変形および変更はこの出願の添付請求項の範囲に含めることを意図するものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
HIVなどの感染症、臓器移植後の薬剤投与、ストレス、老化などに起因する免疫不全の評価、診断に臨床検査室環境で広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】例2で述べた各種ミトゲンおよび抗原による刺激に伴うリンパ球発生光の相対単位を表わす棒グラフ。
【図2】CD4、CD69またはCD3で分離したTリンパ球のPHA刺激を示す3つの線グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球の活性化を検出する方法であって、
相互間を互いに区別する特徴的決定因子をそれぞれ有するリンパ球からそれぞれ成る複数のリンパ球サブセットを含む細胞種類の混合した母集団を含む試料を、ミトゲンおよび抗原から成る群から選ばれた誘発剤とともに培養する過程と、
前記試料から被選択リンパ球サブセットを分離する過程と、
ATP、NADPおよびPCNAから成る群から選ばれた細胞内成分であって活性化に相関する細胞内成分を遊離させるように前記被選択リンパ球サブセットの中にリンパ球を溶解させる過程と、
前記活性化に相関する細胞内成分のレベルを測定する過程と、
前記測定する過程で測定した前記活性化に相関する細胞内成分の前記レベルから、前記被選択リンパ球サブセットについてリンパ球の活性化を算定する過程と
を含む方法。
【請求項2】
前記活性化に相関する細胞内成分がATPである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記誘発剤がミトゲンである請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記誘発剤がウィルス、バクテリアおよび真菌から成る群から選ばれた抗原である請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記試料として全血を選ぶ過程をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記リンパ球サブセットがBリンパ球である請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−178421(P2008−178421A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85960(P2008−85960)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【分割の表示】特願平9−534537の分割
【原出願日】平成9年3月24日(1997.3.24)
【出願人】(505375388)サイレックス インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】