説明

リン含有ハイパーブランチポリマーおよび難燃性樹脂組成物

【課題】 優れた難燃性を有し、しかも耐加水分解性が改良されたリン含有共重合体を得る。
【解決手段】 末端基の5%以上が下記一般式(1)または(2)で表される官能基であることを特徴とする数平均分子量が1000〜50000のハイパーブランチポリマー。
【化1】


【化2】


(R1、R2、R3はハロゲンを含有しない1価または2価の有機残基を表し、R2とR3は独立した官能基でも互いに結合していても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性の優れたハイパーブランチポリマー、および難燃剤と組み合わせた難燃性樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくは難燃性を付与する添加剤、難燃性を付与するコート剤あるいは難燃接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度に分岐したポリマーとして重合中に枝分かれを繰り返しながら生長していくポリマーが知られている。このポリマーはハイパーブランチポリマーと呼ばれている。ハイパーブランチポリマーはABx(xは2以上の整数)型の分子の重合により合成できる事が知られている(非特許文献1、2)。ここでA、Bは互いに異なる官能基a、bを有する有機基であり、官能基a、bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こす事が可能であるものである。ABxの重合時にAB型分子(1分子中にAとBの有機基を各1つ有する化合物)を共重合させる事も知られている。
【0003】
2(Aの有機基を1分子中に2個有する化合物)とB3(Bの有機基を1分子中に3個有する化合物)の等モル反応から、ハイパーブランチポリマーが得られることも知られている。この場合A2とB3の最初の反応が、続いて起こる反応よりも早い場合にハイパーブランチ構造が形成されるが、反応条件により容易にゲル化することも報告されている(非特許文献3)。
【0004】
また、A2とB’B2(1分子中にB’の有機基を1個、Bの有機基を2個有する化合物で、B’はBと反応しないが、Aと反応する。Aに対するB’とBの反応性は異なる。)の反応からもハイパーブランチポリマーが得られることも知られている(非特許文献4)。
【0005】
ハイパーブランチポリマーとしては、ポリエステルでは特許文献1及び特許文献2にはジメチロールプロピオン酸のような1分子中に水酸基を2個、カルボン酸基を1個有するものから得られる水酸基を末端基とするポリエステルが記述されている。また、芳香族ポリエステルでもハイパーブランチポリエステルが知られている(特許文献3)。
【0006】
熱可塑性樹脂に難燃性を付与する方法としてはハロゲン化合物を難燃剤として、アンチモン化合物を難燃助剤として用いる事が一般的である。しかし、ハロゲン化合物では燃焼時にハロゲン系ガスを排出する問題が、アンチモン化合物では環境保全からの問題が指摘されている。そこで環境問題に関連したノンハロゲン難燃処方が種々検討されている。添加型の難燃剤としては水和金属化合物難燃剤、リン化合物難燃剤、シリコーン化合物難燃剤、窒素含有化合物難燃剤等が知られている。一方、反応性難燃剤としても各種化合物が知られており、リンを含有するポリエステル樹脂も知られている(特許文献4、5)。
【0007】
【非特許文献1】P.J.フローリ(岡 小天、金丸 競 共著)、「高分子化学」第9章 丸善(株)、(1956)
【非特許文献2】石津 浩二、「分岐ポリマーのナノテクノロジー」第6章、(株)アイピーシー(2000)
【非特許文献3】M. Jikei, S. H. Chon, M. Kakimoto, S. Kawauchi, T. Imase and J. Watanabe, Macromolecules,1999, 32, 2061.
【非特許文献4】D. Yan and C. Gao, Macromolecules, 2000, 33, 7693.
【特許文献1】米国特許公報第3,669,939号
【特許文献2】特許第2574201号公報
【特許文献3】特開平5−214083号公報
【特許文献4】特開昭52−98089号公報
【特許文献5】特開昭51−82391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
難燃材料への要求はますます高度化している。高い難燃性だけでなく、環境安全性や物性、成型加工性、リサイクル性等も求められている。プラスチックやコーティング剤にリン酸エステル系化合物、リン酸アミド系化合物、芳香族ホスフェート化合物、リン酸塩等の従来のリン系難燃剤を樹脂にブレンドする方法では難燃性が不十分であり、これらのリン化合物が成形品の表面に染み出してくるブリードアウトの問題を抱えている。
【0009】
リン化合物の共重合により難燃化する処方では充分な難燃性を確保した場合、共重合体の物性が低下するという問題や、熱安定性や加水分解特性が悪化するという問題がある。本発明の目的は優れた難燃性を有し、しかも耐加水分解性が改良されたリン含有共重合体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者達はハイパーブランチポリマーの変性について、鋭意研究してきた結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下のハイパーブランチポリマーと難燃性樹脂組成物に関する。
【0011】
第1の発明は、末端基の5%以上が下記一般式(1)または(2)で表される官能基であることを特徴とする数平均分子量が1000〜50000のハイパーブランチポリマー。
【化1】

【化2】

(R1、R2、R3はハロゲンを含有しない1価または2価の有機残基を表し、R2とR3は独立した官能基でも互いに結合していても良い。)
【0012】
第2の発明は、ハイパーブランチ骨格がポリエステルである第1の発明に記載のハイパーブランチポリマー。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明に記載のハイパーブランチポリマーにハロゲンを含有しない難燃剤を配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリマーは、高濃度にリンを含有でき、しかもハイパーブランチ構造に起因する高度な分岐構造をとり、そのため他樹脂との相容性や硬化剤との反応性等に優れる。さらに、ハイパーブランチ構造により難燃性が線状構造のものより優れている。難燃性付与樹脂や難燃性コート剤、難燃性接着剤に極めて有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いるハイパーブランチポリマーはコア物質の存在下あるいは不存在下でABx(xは2以上の整数)型の分子の重縮合により合成された物が望ましい。ここでA、Bは互いに異なる官能基a、bを有する有機基であり、官能基a、bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こす事が可能であるものである。
【0016】
ハイパーブランチポリマーがポリエステルの場合には、Aの官能基はカルボン酸基、Bが水酸基であることが望ましいが、AとBが逆の場合や、Aがカルボン酸のメチルエステル基あるいはエチルエステル基等の低級アルコールからのエステル基でBが水酸基、Bがカルボン酸のメチルエステル基でAが水酸基であっても良い。これらの場合のように、エステル形成時に水や低級アルコールを放出する反応以外に、さらに、Aが水酸基の酢酸エステル基でBがカルボン酸、Bが水酸基の酢酸エステル基でAがカルボン酸の場合のようにエステル形成時、酢酸を放出する反応でハイパーブランチポリエステルを重合しても良い。得られたポリエステルの末端基がカルボン酸やエステル基の場合には、本発明の目的のためには末端基を水酸基に変換する操作を必要とする場合がある。水酸基はアルコール性水酸基以外にフェノール性水酸基であっても良い。
【0017】
ハイパーブランチポリマーがポリエステルの場合、原料のABx(xは2以上の整数)型の分子の具体例としてはジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、5−(2−ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、3,5−ジアセトキシイソフタル酸、ジフェノール酸、ビス(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のメチルエステル等が挙げられ、これらの中でジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸が望ましい。
【0018】
本発明で用いるハイパーブランチポリマーには官能基濃度の調整や物性の最適化等のためにAB型分子(A、Bは互いに異なる官能基a、bを有する有機基であり、官能基a、bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こす事が可能)を共重合させても良い。ハイパーブランチポリマーがポリエステルの場合、AB型分子の具体的な例としてはグリコール酸、乳酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、あるいはAB型分子の自己縮合物であるラクトン化合物、ラクチド化合物が挙げられる。AB型分子はポリエステル中重量比で70%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0019】
本発明は、末端基の5%以上が下記一般式(1)または(2)で表される官能基であるハイパーブランチポリマーである。
【化3】

【化4】

(R1、R2、R3はハロゲンを含有しない1価または2価の有機残基を表し、R2とR3は独立した官能基でも互いに結合していても良い。)
【0020】
一般式(1)で表される官能基は末端に存在する。そのため、R1はハイパーブランチポリマーに繋がる有機残基を表す。また、一般式(2)で表されるようにリン原子が直接ハイパーブランチ構造と直結する構造であっても良い。R2,R3は炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシル基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基であることが好ましい。
【0021】
リン含有官能基をハイパーブランチポリマーの末端基に導入する方法は個々の例に応じて通常の有機合成反応が利用できる。
【0022】
ハイパーブランチポリマーがポリエステルの場合、一般式(1)の官能基をハイパーブランチポリエステルの末端基に導入する方法としては、水酸基末端ハイパーブランチポリエステルとカルボン酸あるいはカルボン酸エステル含有リン化合物とのエステル化あるいはエステル交換反応、カルボン酸末端ハイパーブランチポリエステルと水酸基含有リン化合物とのエステル化反応、カルボン酸末端ハイパーブランチポリエステとアミノ基含有リン化合物とのアミド化反応を用いることができる。また、用いるリン化合物が一般式(3)で表される化合物である場合、水酸基末端ハイパーブランチポリエステルの末端水酸基と一般式(3)の官能基との反応、ハイパーブランチポリエステルの末端に予め設けた二重結合と一般式(3)の官能基との付加反応、ハイパーブランチポリエステルの末端に予め設けた芳香環への一般式(3)の官能基による置換反応等も利用することができる。
【化5】

(R4、R5はハロゲンを含有しない1価または2価の有機残基を表し、それぞれ独立した官能基であっても互いに結合していても良い。)
【0023】
一般式(3)で表される官能基のR4、R5は炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシル基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基を表わす。
【0024】
本発明で用いるハイパーブランチポリマーの末端基の5%以上は一般式(1)または(2)で表される官能基である。一般式(1)または(2)で表される官能基が5%未満の場合はリン濃度が低く、難燃効果が得られないことがある。末端基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基の場合には滴定により、その他の官能基の場合にはNMR分析による積分比の定量により決定することが出来る。
【0025】
本発明のハイパーブランチポリマーの分子量は数平均分子量で1000〜50000の物を用いることが望ましい。数平均分子量が1000以下では樹脂が脆く、実用上問題が多い。数平均分子量が50000を超えると他樹脂との相容性や溶剤溶解性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明で使用するハロゲンを含まない難燃剤としてはリン酸エステル、縮合型リン酸エステル、赤リン系化合物、リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、シリコーン化合物、水和金属化合物が挙げられる。特にリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メラミン、メラミンシアヌレート、リン酸アミド、ポリリン酸アミド、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが優れ、これらは末端にリン含有するハイパーブランチポリエステルとの相乗効果で、難燃性を高め、燃焼時のドリップ抑制効果が得られる。ハロゲンを含まない難燃剤とリン含有ハイパーブランチポリマーの配合比はリン含有ハイパーブランチポリマー100重量部に対しハロゲンを含まない難燃剤0〜300重量部が望ましい。300重量部を超えると機械的な物性の維持が困難になる。好ましくは0〜100重量部である。
【0027】
本発明のリン含有ハイパーブランチポリマーは熱可塑性樹脂とのブレンドにより熱可塑性樹脂に難燃性を付与することができる。熱可塑性樹脂としてはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。また、フィルム、シートあるいは成形品へのコートや接着剤として用いて、これら成形体に難燃性を付与することもできる。コート剤や接着剤として使う場合、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールプロピルエーテル等の有機溶剤に溶解して用いても良い。あるいはリン含有ハイパーブランチポリマーにカルボン酸塩やスルフォン酸塩等のイオン基やポリオキシメチレン基を導入して常法により水分散体にして用いてもよい。
【0028】
本発明のリン含有ハイパーブランチポリマーをコート剤や接着剤として利用する場合、そのままでも使用できるが、架橋剤としてアミノ樹脂、エポキシ樹脂およびイソシアネート化合物の群から選ばれた1種以上の化合物を配合してもよい。
【0029】
アミノ樹脂としては例えば、尿素、メラミン、ベンゾグアナミン等のホルムアルデヒド付加物、さらに炭素数が1〜6のアルキル化物を挙げることができる。
【0030】
エポキシ樹脂としてはビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、水添化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステルエーテル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0031】
イソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートが挙げられ、低分子化合物、高分子化合物のいずれを用いてもよい。たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートあるいはこれらのイソシアネート化合物の3量体、およびこれらのイソシアネート化合物の過剰量と、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの低分子活性水素化合物または各種ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類の高分子活性水素化合物などとを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0032】
イソシアネート化合物としてはブロック化イソシアネートであってもよい。イソシアネートのブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノール等のフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t−ブタノール、t−ペンタノールなどの第3級アルコール類、ε−カプロラクタム、δーバレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピルラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類重亜硫酸ソーダなども挙げられる。ブロック化イソシアネートはイソシアネート化合物とイソシアネートブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて得られる。
【0033】
本発明のリン含有ハイパーブランチポリマーは難燃性付与添加剤や塗料、インキ、コーティング剤および繊維製品や紙等の処理剤の分野で使用される。
【実施例】
【0034】
以下本発明をさらに詳細に説明するために、実施例を用いて説明する。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。なお、実施例中の測定は以下の方法で行った。
【0035】
(1)数平均分子量
テトラヒドロフランを溶離液としたウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)150cを用いて、カラム温度35℃、流量1ml/分にてGPC測定を行なった結果から計算して、ポリスチレン換算の測定値を得た。ただしカラムは昭和電工(株)shodex KF−802、804、806を用いた。
【0036】
(2)酸価
樹脂0.2gを20cm3のクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂106g当たりの当量(当量/トン)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。
【0037】
(3)水酸基価
樹脂0.2gをトルエン50g、2−ブタノン50gの混合溶剤に溶解し、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート4gを加え、80℃で2時間反応させた。ついで、反応液中の残存イソシアネート基濃度を滴定により定量し、水酸基価を求めた。水酸基価の値は樹脂106g当たりの当量(当量/トン)を求めた。フェノール性水酸基の場合はイソシアネート基との反応性が乏しいため、ジブチルスズジラウレート0.001gを触媒として用いた。
【0038】
(4)リンの定量
湿式分解モリブデンブルー比色法による。試料中のリン濃度にあわせて試料を三角フラスコにとり、硫酸3ml、過塩素酸0.5mlおよび硝酸3.5mlを加え、電熱器で半日かけて徐々に加水分解した。溶液が透明になったら、更に加熱して硫酸白煙を生じさせ、室温まで放冷し、この分解液を50mlメスフラスコに移し、2%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび0.2%硫酸ヒドラジン溶液2mlを加え、純水にてメスアップし、内容物をよく混合した。沸騰水中に10分間フラスコをつけて加熱発色させた後、室温まで水冷し、超音波にて脱気した。溶液を10mmの吸収セルに採り、分光光度計(波長830nm)にて空試験液を対照にして吸光度を測定した。予め作成しておいた検量線からリン含有量を求め資料中のリン濃度を算出した。
【0039】
(5)カルボン酸メチルエステル基と含リン官能基の末端基濃度
1H、13C−NMR分析を行い、その積分比より決定した。
【0040】
[実施例1]
リン含有化合物として三光(株)社製HCA(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド)を用いた。反応容器中室温下に、HCA22部をメタノール150部に溶解し、この溶液にアクリル酸7.2部を60分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、5時間加熱還流させ、アクリル酸の二重結合にHCAを付加させた。減圧乾燥により揮発分を除いてから、ハイパーブランチポリエステルとしてパーストプ社のボルトンH40(トリメチロールプロパンを核とするジメチロールプロパンの重縮合物)45部、エステル化触媒としてテトラブトキシチタン0.01部を仕込み、窒素雰囲気下、170℃で約3時間加熱し、発生する水を除いた。得られた樹脂の組成を1H−NMRにより重クロロホルムを溶媒として求めた。また、数平均分子量、酸価、水酸基価を測定した。難燃性の評価のために、酸素指数をJIS K7201に則り、スガ試験機(株)「酸素指数法燃焼性試験装置」により測定した。酸素指数は高いほど難燃性が優れる。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例2〜6]
実施例2と3では、実施例1で用いたHCA、アクリル酸、ボルトンH40により、実施例1と同様に、リン含有ハイパーブランチポリエステルを得た。ただし、HCAとアクリル酸は等モル量を用いたが、実施例1とはリン含有率を変えた。
実施例4では実施例1で用いたボルトンH40(100部)の水酸基にトリメチルフォスフォノアセテート((CH3O)2P(=O)CH2CO2CH3、16部)を無溶媒、窒素雰囲気下160℃で2時間かけてエステル交換反応によりハイパーブランチポリエステルに導入した。
実施例5では実施例1で用いたボルトンH40(100部)の水酸基にジフェニルホスフィン酸クロリド((C652P(O)Cl 、20部)をクロロホルム中10℃で反応させた。発生する塩化水素をトリエチルアミンで中和した。ジエチルエーテルで再沈した後、ろ過、乾燥した。
実施例6では実施例1で用いたボルトンH40(100部)の水酸基にパラヒドロキシ安息香酸(17.8部)を無溶媒、窒素雰囲気下でテトラブトキシチタン0.1部を触媒として、160℃で3時間かけてエステル化反応によりハイパーブランチポリエステルに導入した。系内を80℃まで冷却後使用したパラヒドロキシ安息香酸の1.5倍モルのHCA(41.8部)を30分かけて投入し、さらに5時間反応させた。パラヒドロキシ安息香酸残基のフェノール性水酸基のオルト位にHCAが導入されていることを1H−NMRにより確かめた。得られた樹脂を実施例1と同様に評価した。
評価結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1〜3]
比較例1には実施例1で用いたボルトンH40をそのまま評価した。分析結果、酸素指数測定結果を表1に示す。
比較例2では実施例1と同様にHCA、アクリル酸、ボルトンH40により、実施例1と同様に、リン含有ハイパーブランチポリエステルを得た。ただし、末端基の含有率が本発明の範囲外である。
比較例3ではHCAとイタコン酸付加物を共重合した線状ポリエステルとの比較を示す。比較例3の線状ポリエステル樹脂の組成は酸成分がテレフタル酸/イソフタル酸/HCA・イタコン酸1対1付加物(40/40/20モル%)、グリコール成分はエチレングリコール/ネオペンチルグリコール(50/50モル%)である。
【0043】
[実施例7]
反応容器にジフェノール酸メチルエステル50部、エステル交換触媒として酢酸亜鉛0.5部を仕込み、窒素雰囲気下、170℃で30分加熱した。さらに系内を徐々に減圧にし、温度230℃、圧力5mmHgで3時間反応させた。得られた樹脂はフェノール性水酸基とメチルエステル部のエステル交換反応により高分子量化したフェノール性水酸基を末端基とするハイパーブランチポリエステルであった。得られたポリエステル20部をトルエン50部に加熱溶解し、50℃まで冷却後、実施例1で用いたHCA5部を30分かけて投入した。投入終了後、加熱し80℃で5時間反応させた。得られた樹脂溶液から溶剤を蒸発させた後、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例8]
実施例7で得られたフェノール性水酸基を末端基とするハイパーブランチポリエステル20部とHCA9部を実施例6と同様に反応させた。得られた樹脂の評価結果を表1に示す。
【0045】
[比較例4]
実施例7で用いたフェノール性水酸基を末端基とするハイパーブランチポリエステルを実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例9]
実施例1で得られたリン含有ハイパーブランチポリエステル100部をメチルエチルケトン/トルエン(1/1重量比)200部に溶解、室温まで冷却した後、ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製コロネートHX)30部を加えた。この溶液を厚み50μの二軸延伸ポリエステルフィルムに乾燥後の厚みが5μになるように塗布した。40℃で2日エージング後、JIS L 1091繊維製品の燃焼性試験方法A−4法(垂直法)により燃焼試験を行った。またエージング後のコートフィルムを沸水10時間煮沸したのち、燃焼試験を行った。結果を表2に示す。
【0047】
[実施例10〜13][比較例5、6]
実施例10〜13では実施例9でのコート液に表2に記載した難燃剤他を添加し、実施例9と同様のコート品を得た。実施例9と同様に燃焼試験を行った。比較例5では実施例9で用いたリン含有ハイパーブランチポリエステルの代わりにリンを導入する前のボルトンH40を用いた。また、比較例6では比較例3で用いた線状含リンポリエステルを用いた。結果を表2に示す。
尚、実施例12と13で用いたリン不含線状ポリエステルは常法により製造した組成がテレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール(50/50//50/50モル比、数平均分子量15000)の樹脂を示す。
【0048】
[実施例14]
実施例1で得たリン含有ハイパーブランチポリエステル150部を窒素雰囲気下で170℃に加熱した。無水フタル酸9部を加え更に30分間反応を続けた。得られた樹脂100部をメチルエチルケトン100部に溶解、50℃室温まで冷却した後、N−メチルジエタノールアミン3部を水200部に溶解した水溶液を加えた。得られた自己乳化液を加熱してメチルエチルケトンを溜去した。得られた水分散体に日本ポリウレタン社製水分散タイプポリイソシアネート「アクアネート210」を40部、難燃剤として粉末状メラミンを10部加えた。この配合液を実施例9と同様にポリエステルフィルムにコートし、評価した。評価結果を表2に示す。
【0049】
[実施例15、16]
攪拌機、滴下装置、冷却管を具備した反応装置に、トリメチロールプロパン2.7部をトルエン/メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(40/40/20重量比)に溶解した。この溶液にジイソプロオパノールアミン133部/シクロヘキサノン50部からなる溶液とイソホロンジイソシアネート222部を同時に30分かけて滴下した。滴下終了後ジブチルスズジラウレート0.1部を加え、80℃に昇温して更に10時間反応させた。得られたポリマーは1H−NMR分析から水酸基を末端基とするハイパーブランチポリウレタンウレアである事が分った。実施例15、16ではこのハイパーブランチポリウレタンウレアの末端基に、実施例5で用いたジフェニルホスフィン酸クロリド((C652P(O)Cl)を実施例5と同様に変性率を変えて反応させた。実施例1と同様に酸素指数を測定した。結果を表3に示す。
【0050】
[比較例7〜9]
比較例7では実施例15で用いたハイパーブランチポリウレタンウレアを実施例1と同様に評価した。比較例8、9ではイソプロパノールアミン、イソホロンジイソシアネートから水酸基末端のプレポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド中で合成し、これをフェニルホスホン酸ジクロライドで鎖延長し線状の含リンポリウレタンウレアを得た。発生する塩化水素はトリエチルアミンで中和した。ジエチルエーテルで再沈した後、ろ過、乾燥後、実施例1と同様に評価した。比較例8と比較例9の樹脂組成は以下の通りである。
比較例8組成:イソプロパノールアミン/イソホロンジイソシアネート/-O-P(=O)(C6H5)-O- (83/222/12wt比)
比較例9組成:イソプロパノールアミン/イソホロンジイソシアネート/-O-P(=O)(C6H5)-O- (90/222/22wt比)
結果を表3に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表中含リン官能基は以下の構造を示す。
【0053】
含リン官能基I;
【化6】

含リン官能基II;
【化7】

含リン官能基III;
【化8】

含リン官能基IV;
【化9】

含リン官能基V;
【化10】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0056】
以上述べてきたように、本発明のリン含有ハイパーブランチポリエステルは難燃性が優れ、特に硬化剤を配合したものは難燃性が優れるだけでなく、難燃性の耐久性も優れるために極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端基の5%以上が下記一般式(1)または(2)で表される官能基であることを特徴とする数平均分子量が1000〜50000のハイパーブランチポリマー。
【化1】

【化2】

(R1、R2、R3はハロゲンを含有しない1価または2価の有機残基を表し、R2とR3は独立した官能基でも互いに結合していても良い。)
【請求項2】
ハイパーブランチ骨格がポリエステルである請求項1に記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイパーブランチポリマーにハロゲンを含有しない難燃剤を配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−160789(P2006−160789A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350071(P2004−350071)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】