説明

リン吸着材、及びリン回収システム

【課題】中性溶媒を用いても吸着したリン化合物を離脱可能なリン吸着材、及びリン吸着システムを提供する。
【解決手段】第1級及び第2級のアミンの少なくとも一方で修飾されてなる高分子基材と、前記高分子基材に担持されてなる金属と、を具えるようにしてリン吸着材を作製し、これを用いてリン回収システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン吸着材、及びリン回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業、食品工業、医薬工業、肥料工業、下水処理場、し尿処理場等の施設から排出される排水に含まれているリン化合物、例えばリン酸イオンを除去することを目的にした場合、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価金属のイオンを排水中に供給し、これとリン酸イオンとを反応させることにより固体化(または粒子化)して沈殿、浮上又はろ過等によって除去する、反応凝集法が多く用いられている。
【0003】
これら多価金属イオンを排水中に供給する方法としては、例えば、鉄、アルミニウム等の金属材を液中に対峙させて懸垂し、この金属材に電圧をかけて電流を流し、陽極からこれら多価金属イオンを溶解させる電解法がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、多価金属イオンを排水中に供給する別の方法としては、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム等の水溶液状の凝集剤を注入ポンプにより供給する凝集剤添加法がある(特許文献2参照)。
【0005】
このような薬剤添加による凝集法の他にはイオン交換樹脂、ハイドロタルサイト様粘土鉱物、酸化ジルコニウム等を使用した吸着法等が知られている。
【0006】
これらの吸着材は、再生利用のための離脱操作の際に、一般に高濃度塩基性溶媒を使用する。高濃度塩基性溶媒は吸着材の構造体を攻撃し、これにより吸着材が構造的に劣化する問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-254081号公報
【特許文献2】特開2001−48791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、中性溶媒を用いても吸着したリン化合物を離脱可能なリン吸着材、及びリン吸着システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、第1級及び第2級のアミンの少なくとも一方で修飾されてなる高分子基材と、前記高分子基材に担持されてなる金属と、を具えることを特徴とする、リン吸着材に関する。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記リン吸着材を用いたことを特徴とする、リン回収システムに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中性溶媒を用いても吸着したリン化合物を離脱可能なリン吸着材、及びリン吸着システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態におけるリン吸着に使用する装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施例におけるリン吸着材の再生利用特性を示すグラフである。
【図3】実施例におけるリン吸着材の再生利用特性を示すグラフである。
【図4】比較例におけるリン吸着材の再生利用特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施形態に基づいて説明する。
【0014】
(リン吸着材)
本実施形態におけるリン吸着材は、第1級及び第2級のアミンの少なくとも一方で修飾されてなる高分子基材と、前記高分子基材に担持されてなる金属とを有する。以下、それぞれの構成要素について詳述する。
【0015】
<高分子基材>
本実施形態で使用する高分子基材は、本発明の作用効果を奏する限り特に限定されるものではないが、好ましくは、ポリスチレン及び糖類から構成する。これらの高分子化合物は、以下に示すような処理によって第1級及び/又は第2級のアミンによって容易に修飾することができるとともに、内部に水を浸透させやすいという性質を有している。前者は高分子基材に対してリン吸着に寄与する金属担持を容易にする効果があり、後者は高分子基材に対して排水を浸透させやすく、排水との接触面積を増大できるという効果がある。
【0016】
これらの作用効果は、いずれも排水中からのリンの回収効率を向上させることになるので、結果として高分子基材をポリスチレン及び糖類から構成することは、リンの回収効率を向上させることになる。また、ポリスチレン及び糖類は入手が容易であり、本実施形態におけるリン吸着材及びリン回収システムのコストの低減を実現することができる。
【0017】
なお、本実施形態において、ポリスチレン及び糖類は、上記高分子基材の主鎖を構成すれば足りるので、ポリスチレンの場合は、ポリスチレン単独の他、ジビニルベンゼンにより架橋されたポリスチレン等を用いることができる。
【0018】
また、糖類としては、特に多糖類が好ましく、中でも入手が容易であって安価であるセルロースが好ましい。具体的には、市販されている種々のセルロース誘導体、セルロース繊維等を用いることができる。
【0019】
また、上述したポリスチレン及び糖類の代わりに、不溶化したポリビニルアルコール(PVA)あるいはフェノール樹脂をも用いることができる。不溶化処理としては架橋処理等を挙げることができる。
【0020】
上記高分子基材は、第1級及び第2級のアミンが修飾されてなることが必要である。これは上述したように、リン吸着に寄与する金属担持を容易にするためである。
【0021】
上記第1級及び第2級アミンとしては、ポリエチレンイミン、及び化学式1〜6で示されるアミノ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(ここで、nは0〜3の整数、mは1〜3の整数、lは0または1、R=CHCHOHCH、Lは水素またはn=1から3のアルキル鎖)。
【0022】
次に、上記アミノ化合物の高分子基材への修飾方法について説明する。なお、以下においては、理解を容易にするため、好ましい高分子基材を代表として用いている。
【0023】
化学式1で表されるアミノ化合物で高分子基材を修飾する場合は、例えば、以下の反応式で示すように、3−アミノプロピルトリメトキシシランと高分子基材(本例ではセルロース)とを、水、エタノール溶媒中で混合し、ろ過後、洗浄することによって実施する。
【化7】

【0024】
化学式2で表されるアミノ化合物で高分子基材を修飾する場合は、例えば以下の反応式で示すように、3−(2―アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランと高分子基材(本例ではセルロース)とを、水、エタノール溶媒中で混合し、ろ過後、洗浄することによって実施する。
【化8】

【0025】
化学式3又は化学式4で表されるアミノ化合物で高分子基材を修飾する場合は、例えば、以下の反応式で示すように、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドとエピクロロヒドリンとを反応させることによって得た、末端が塩素化されたエポキシ化合物を、アルカリ性雰囲気下で高分子基材(本例では、セルロース)と反応させて末端を前記エポキシ化合物で修飾した後、ジエチレントリアミン(DEN)とともにエタノール溶媒中40℃程度で撹拌することによって、高分子基材(の末端)を化学式4で表されるアミノ化合物で修飾することができる。
【0026】
なお、上述のような反応によってエポキシ化合物を得る代わりに、エポキシ基を持つシランカップリング剤を使用(介在)して、高分子基材とジエチレントリアミン(DEN)とを結合させ、上述のような化学式3又は4で表されるアミノ化合物で修飾するようにすることもできる。さらに、市販のエポキシ樹脂とDENとをアルコール溶媒または水溶媒中で反応させても、化学式3又は4で表されるアミノ化合物で修飾することができる。
【化9】

【0027】
なお、化学式5で表されるアミノ化合物で高分子基材の末端を修飾する場合は、例えば、上記反応式において、DENの代わりにN―エチルエチレンジアミン及びN―イソプロピルエチレンジアミン等をアルコール溶媒中または水溶媒中で反応させることによって実施することができる。
【0028】
化学式6で表されるアミノ化合物で高分子基材を修飾する場合は、例えば、アミノフェノールの水酸基とエピクロロヒドリンとを反応させた後、熱をかけてエポキシ化合物を重合させることで実施することができる。アミノフェノールの官能基の位置はオルト、パラ、メタ位のどれでもよい。なお、前記エポキシ化合物のエポキシ基は、互いに重合して高分子化するための官能基として機能する。
【0029】
ポリエチレンイミンで高分子基材を修飾する場合は、化学式4で表されるアミノ化合物で高分子基材を修飾する際に、DENの代わりにポリエチレンイミンを用い、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で40℃程度に加熱することによって得ることができる。
【0030】
なお、上記修飾形態はあくまで一例であって、本実施形態における修飾方法は上記内容に限定されるものではない。例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び3−(2―アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランに代えて、N−2−(アミノエチル)−3―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン等を用いることもできる。
【0031】
<金属イオンの担持>
次いで、上述のようにして得た高分子基材に対して金属を担持させる。この場合、例えば、所定の試薬を用いて、前記金属の濃度が0.1wt%−20wt%となるように水溶液を調整した後、この水溶液中に前記高分子基材を浸漬して撹拌する手法、またはカラムに前記高分子基材を充填し、前記水溶液を流す手法があげられる。
【0032】
本実施形態においては、上述のようにして高分子基材に担持した金属が主として排水中のリンの吸着に寄与する。すなわち、排水中のリンは、主としてHPO、HPO2−、PO3−のような陰イオンの状態で存在する。したがって、高分子基材、すなわちリン吸着材の担持金属のカウンターアニオンと、それよりも親和性の高いリン化合物陰イオンとが交換し、結果として排水中のリン化合物がリン吸着材に吸着されるようになり、排水中からのリンの回収を行なうことができるものと考えられる。
【0033】
したがって、以下に詳述するリン(化合物)の回収においては、上述のように、リン吸着材の担持金属のカウンターアニオンと交換したリン化合物陰イオンを離脱させるのみで足りるため、従来のような高塩基濃度の溶媒を用いることなく、比較的中性に近いような溶媒で洗浄するのみでリン化合物を回収することができる。具体的には、3<pH<10の範囲にある溶媒で洗浄するのみでリン化合物を回収することができる。
【0034】
なお、実際の離脱操作は、以下に詳述するように、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムのようなカルシウム塩を含む溶媒(中性溶媒)を用い、この溶媒とリン化合物とを反応させることによって、例えばリン酸カルシウムの形態でリン化合物を析出回収することができる。また、比較的低い塩基濃度の水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液にリン吸着材を接触させ、リン化合物を含む溶液を得た後、水酸化ナトリウムまたは塩化カルシウムを過剰量添加することにより、リン酸イオンをリン酸ナトリウム塩またはリン酸カルシウムとして析出させ、これをろ過することによってリン化合物を回収することができる。
【0035】
なお、担持させる金属の種類は特に限定されるものではないが、例えば鉄や亜鉛を例示することができる。これらの金属は、原料となる金属試薬の入手が容易であって安価であるので、上記リン吸着材、及びリン回収システムのコストを十分に低減することができるようになる。
【0036】
(リンの吸着及び離脱操作)
次に、実施形態に係わるリンの吸着及び離脱操作について説明する。
【0037】
図1は、本実施形態におけるリン吸着に使用する装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、本装置においては、上述したリン吸着材が充填された吸着手段T1及びT2が並列に配置されるとともに、吸着手段T1及びT2の外方には接触効率促進手段X1及びX2が設けられている。接触効率促進手段X1及びX2は、機械攪拌装置又は非接触の磁気攪拌装置とすることができるが、必須の構成要素ではなく省略してもよい。
【0038】
また、吸着手段T1及びT2には、供給ラインL1、L2及びL4を介して、リンを含む被処理媒体が貯留された被処理媒体貯留タンクW1が設けられており、排出ラインL3、L5及びL6を介して外部に接続されている。さらに、吸着手段T1及びT2には、供給ラインL11及び、L12及びL14を介して、離脱媒体が貯留された離脱媒体貯留タンクD1が接続されており、排出ラインL13、L15及びL16を介して、離脱媒体回収タンクR1が接続されている。
【0039】
なお、供給ラインL1、L2、L4、L12及びL14には、それぞれバルブV1、V2、V4、V12及びV14が設けられており、排出ラインL3、L5、L13、L15及びL16には、それぞれバルブV3、V5、V13、V15及びV16が設けられている。また、供給ラインL1及びL11にはポンプP1及びP2が設けられている。さらに、被処理媒体貯留タンクW1、供給ラインL1及び排出ラインL6には、それぞれ濃度測定手段M1、M2及びM3が設けられ、離脱媒体貯留タンクD1、排出ラインL16及び離脱媒体回収タンクR1には、それぞれ濃度測定装置M1、M11及びM13が設けられている。
【0040】
また、上述したバルブ、ポンプの制御及び測定装置における測定値のモニタリングは、制御手段C1によって一括集中管理されている。
【0041】
次に、図1に示す装置を用いたリンの吸着及び離脱操作について説明する。
【0042】
最初に、吸着手段T1及びT2に対して、被処理媒体をタンクW1からポンプP1により供給ラインL1、L2及びL4を通じて吸着手段T1及びT2に供給する。このとき、前記被処理媒体中のリンは吸着手段T1及びT2に吸着され、吸着後の前記被処理媒体は排出ラインL3、L6を通じて外部に排出される。
【0043】
この際、必要に応じて接触効率促進手段X1及びX2を駆動させ、吸着手段T1及びT2内に充填されたリン吸着材と前記被処理媒体との接触面積を増大させ、吸着手段T1及びT2によるリンの吸着効率を向上させることができる。
【0044】
ここで、吸着手段T1及びT2の、供給側に設けた濃度測定手段M2と排出側に設けた濃度測定手段M3により吸着手段T1及びT2の吸着状態を観測する。吸着が順調に行われている場合、濃度測定手段M3により測定されるリンの濃度は、濃度測定手段M2で測定されるリンの濃度よりも低い値を示す。しかしながら、吸着手段T1及びT2におけるリンの吸着が次第に進行するにつれ、供給側及び排出側に配置された濃度測定手段M2及びM3における前記リンの濃度差が減少する。
【0045】
したがって、濃度測定手段M3が予め設定した所定の値に達し、吸着手段T1及びT2によるリンの吸着能が飽和に達したと判断した場合は、濃度測定手段M2、M3からの情報に基づき、制御手段C1がポンプP1を一旦停止し、バルブV2、V3及びV4を閉め、吸着手段T1及びT2への前記被処理媒体の供給を停止する。
【0046】
なお、図1には図示していないが、前記被処理媒体のpHが変動する場合、あるいはpHが強酸性あるいは強塩基性であって本発明に係る吸着材に適したpH領域を外れている場合には、濃度測定手段M1または/およびM2により前記被処理媒体のpHを測定し、制御手段C1を通じて前記被処理媒体のpHを調整してもよい。
【0047】
吸着手段T1及びT2が飽和に達した後は、離脱媒体貯留タンクD1からポンプP2により供給ラインL11、L12及びL14を通じて離脱媒体が吸着手段T1及びT2に供給される。吸着手段T2に吸着されているリンは、前記離脱媒体中に溶出(離脱)し、排出ラインL13、L15及びL16を通じて吸着手段T1及びT2の外部に排出され、回収タンクR1に回収される。なお、回収タンクR1に回収することなく、外部に排出するようにすることもできる。また、析出したリンを濾別して回収してもよい。なお、上記離脱媒体のpHは、上述したように3<pH<10とすることができる。
【0048】
吸着手段T1及びT2から前記離脱媒体によるリンの離脱が順調に行われている場合、前記離脱媒体の、排出側に設けた濃度測定装置M12により測定されるリンの濃度は、供給側に設けた濃度測定装置M11よりも高い値を示す。しかしながら、吸着手段T1及びT2におけるリンの離脱が次第に進行するにつれ、供給側及び排出側に配置された濃度測定手段M11及びM12における前記リンの濃度差が減少する。
【0049】
したがって、濃度測定手段M12が予め設定した所定の値に達し、前記離脱媒体による吸着手段T1及びT2によるリンの離脱能が飽和に達したと判断した場合は、濃度測定手段M11、M12からの情報に基づき、制御手段C1がポンプP2を一旦停止し、バルブV12、V14を閉め、吸着手段T1及びT2に対する前記被処理媒体の供給を停止する。
【0050】
以上のようにして、吸着手段T1及びT2からのリンの離脱が完了した後は、再び被処理媒体貯留タンクW1から前記被処理媒体を供給し、リンを吸着して前記被処理媒体中のリンを低減させることができる。
【0051】
なお、濃度測定装置M13は、離脱媒体回収タンクR1中のリンの濃度を必要に応じて適宜測定するように構成されている。
【0052】
また、上記例では、吸着手段T1及びT2に対して同時にリンを吸着させるとともに、リンを離脱させるようにしているが、吸着手段T1及びT2でこれらの操作を交互に行うこともできる。例えば、吸着手段T1で最初にリンの吸着を行い、吸着能が飽和に達した後、吸着手段T1に対して上述のようなリンの離脱を行うとともに、同時に吸着手段T2でリンの吸着を行うようにすることもできる。
【0053】
この場合、図1に示す装置においては、吸着手段T1又はT2のいずれかにおいて常にリンの吸着を行うことができるので、連続運転が可能となる。
【0054】
なお、前記離脱溶媒の量は、吸着手段T1及びT2の容積の2倍以上10倍以下であることが好ましい。2倍よりも小さいと、リンの離脱を十分効率良く実施することができない場合があり、10倍よりも大きいと薬剤コストが高くなって、非効率的である。
【0055】
前記離脱溶媒としては、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムのようなカルシウム塩を含む溶媒を用いることができる。このような離脱媒体にリン吸着材を接触させることにより、リン吸着材に吸着したリン化合物とカルシウムとが反応し、例えばリン酸カルシウムの形態でリン化合物を析出回収することができる。
【0056】
この場合、カルシウム塩の濃度は、0.1mol/L以上3mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/Lがさらに好ましい。0.5mol/Lより小さいとリン酸カルシウムの析出が遅く、3mol/Lより大きいと塩濃度が高くなりすぎるためリン吸着材を再使用するときに洗浄操作が必要となる。カラム塔を使用する場合には析出するリン酸カルシウムが詰まりの原因となるおそれがある。
【0057】
また、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液にリン吸着材を接触させてリン化合物を離脱させることもできる。この場合、水酸化ナトリウム水溶液は0.05mol/L以上1.5mol/L以下が好ましく、0.1mol/L以上1.0mol/L以下がさらに好ましい。0.05mol/Lより小さいとリン化合物の離脱効率が悪く、1.5mol/Lより大きいと強塩基性の影響によりリン吸着材の劣化を早める。
【0058】
水酸化ナトリウム水溶液または塩化ナトリウム水溶液を使用した場合には、リン化合物を離脱して得た水溶液に、水酸化ナトリウムまたは塩化カルシウムを過剰量添加すると、リン酸イオンがリン酸ナトリウム塩またはリン酸カルシウムとして析出する。これをろ過することによってリン化合物を回収することが可能である。
【0059】
このようにリン吸着材は塩基性溶媒のみならず中性溶媒を用いても離脱することができるため、リン吸着材の構造体の劣化を防止することができる。なお、ここで「中性」とは25℃でpHを測定した時に6乃至8の範囲をいう。
【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
ポリスチレンにベンジルアミンを修飾した化合物2g を、塩化鉄0.6gを含む水溶液10mlに加えて2時間撹拌し、鉄を担持させた。これをろ過後、70℃の乾燥機で乾燥してリン吸着材を得た。
【0062】
次に、40ppm−Pに調整した被処理水50ml に対して、上記リン吸着材100mgを加え、3時間ロータリーミキサー(NISSIN製)で撹拌して、リンの吸着性能試験を実施した。処理後の溶液を採取し、この溶液中の残留リン濃度から吸着量を算出した。結果を表1に示す。なお、残留リン濃度の測定は、誘導結合プラズマ発光分光法により実施した。
【0063】
(実施例2)
塩化鉄のかわりに塩化亜鉛0.6gを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を作製し、吸着性能試験を実施した。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例3)
セルロースにアミノプロピルトリメトキシシランを修飾した化合物2gを得た後、実施例1と同様の方法で鉄を担持させてリン吸着材を得た後、吸着性能試験を実施した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例4)
セルロースに3−(2―アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを修飾した化合物2gを得た後、実施例1と同様の方法で鉄を担持させてリン吸着材を得た後、吸着性能試験を実施した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例5)
亜鉛を用いた以外は実施例4と同様にしてリン吸着材を得た後、実施例1と同様にして吸着実験を実施した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例6)
ポリスチレンにアミノエチル基を修飾した化合物2gを得た後、実施例1と同様の方法で鉄を担持させてリン吸着材を得た後、吸着性能試験を実施した。結果を表1に示す。
(実施例7)
【0068】
セルロースにジエチレントリアミンを修飾した化合物2gを得た後、実施例1と同様の方法で鉄を担持させてリン吸着材を得た後、吸着性能試験を実施した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例8)
セルロースにポリエチレンイミンを修飾した化合物2g得た後、実施例1と同様の方法で鉄を担持させてリン吸着材を得た後、吸着性能試験を実施した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、実施例1〜8で得たリン吸着材により、試験に供した40ppm濃度のリンを含む溶液から7.2ppm〜18.9ppmの濃度のリンが吸着して取り除かれていることが判明した。すなわち、本実施例のリン吸着材によって比較的多量のリンを吸着できることが判明した。
【0072】
(実施例9)
次に、実施例1で得たリン吸着材の再生利用特性について調べた。リン酸水素ナトリウムで40ppm−Pに調整した水溶液50mlを被処理水とし、0.001N−HClと1N−NaClとを含む水溶液50mlを離脱再生液(pH=3)とした。実施例1で作製した吸着材100mgを被処理水に入れ、30分ロータリーミキサー(NISSIN製)で撹拌し、被処理水を採取後、吸着材をろ過して離脱液に加え、同様に撹拌した。30分後に離脱再生液を採取し、吸着材をろ過後、40ppm−Pの被処理水に再び加えた。この作業を繰り返し行った後、採取した溶液中のリン濃度をICPで測定し、吸着及び離脱量を算出した結果を図2に示す。
【0073】
図2から明らかなように、約30回の繰り返し使用において、吸着量及び離脱量はほとんど減少しておらず、実施例1で得たリン吸着材は(pH=3)の離脱再生液を用いた場合においてもほとんど劣化せず、長期に亘って高いリン吸着能を有することが判明した。
【0074】
(実施例10)
離脱再生液を1N−NaCl水溶液とし、実施例1で得たリン吸着材の再生利用特性について、実施例9と同様にして調べた。吸着及び離脱量を算出した結果を図3に示す。図3から明らかなように、本例においても、約30回の繰り返し使用において、吸着量及び離脱量はほとんど減少しておらず、実施例1で得たリン吸着材は中性の離脱再生液を用いた場合においてもほとんど劣化せず、長期に亘って高いリン吸着能を有することが判明した。
【0075】
(比較例1及び2)
シリカゲル担体にアミノプロピルトリメトキシシランを修飾し、さらに鉄イオンを担持させた吸着材(比較例1)、及びシリカゲル担体に3−(2―アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを修飾し、さらに鉄イオンを担持させた吸着材(比較例2)を用いて、実施例9と同様に、リン吸着材の再生利用特性について調べた。採取した溶液中のリン濃度をICPで測定し、吸着及び離脱量を算出した結果を図4に示す。なお、参考のために、図4には、実施例1におけるリン吸着材の場合の結果をも併せて示した。
【0076】
図4から明らかなように、本発明と異なる比較例1及び2に開示された吸着材は、当初こそある程度のリン吸着能を示すものの、繰り返し利用回数(再生利用回数)が5回を超えると、本発明に従った実施例1におけるリン吸着材と比較して、リン吸着能が極端に減少していることが分かる。すなわち、本発明に従ったリン吸着材は、高いリン吸着能を示すとともに、高い再生利用特性を呈することが判明した。
【0077】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1級及び第2級のアミンの少なくとも一方で修飾されてなる高分子基材と、
前記高分子基材に担持されてなる金属と、
を具えることを特徴とする、リン吸着材。
【請求項2】
前記高分子基材は、ポリスチレン及び糖類の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリン吸着材。
【請求項3】
前記金属は、鉄及び亜鉛の少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1に記載のリン吸着材。
【請求項4】
前記アミンは、ポリエチレンイミン、及び化学式1〜6で示されるアミノ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1に記載のリン吸着材
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(ここで、nは0〜3の整数、mは1〜3の整数、lは0または1、R=CHCHOHCH、Lは水素またはn=1から3のアルキル鎖)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載のリン吸着材を用いたことを特徴とする、リン回収システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−284607(P2010−284607A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141308(P2009−141308)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】