説明

リン回収方法及びリン回収装置

【課題】簡素な工程で高純度なヒドロキシアパタイトを得ることができ、量産スケールへの移行も容易なリン回収方法等を提案する。
【解決手段】ジルコニウム化合物で架橋したポリビニルアルコールをビニロン製不織布に塗布したリン捕集材2に、鶏糞の焼却灰を塩酸と混合して作製した処理溶液を接触させ、リン捕集材2にリンを吸着させる。リンを吸着したリン捕集材2に、カルシウムを含むアルカリ性のリン回収溶液を接触させ、リン捕集材2からリンを脱着させるのと同時にリンをヒドロキシアパタイトとして析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏糞の焼却灰等から高純度なリンを効率よく回収する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
リン(P)は、肥料などの原料に多用されている重要な元素である。しかし、その天然資源であるリン鉱石は枯渇の危機に瀕しており、リン資源の確保は重要な課題となっている。その一方で、活性汚泥や家畜糞など、日々多量に排出されている廃棄物にはリンが比較的多く含まれている。例えば、鶏糞の焼却灰には、リンが酸化物(P)換算で25%程度含まれている。そこで、そのような廃棄物からリンを回収する方法が検討されている。
【0003】
その一例として、家畜糞の焼却灰からリン成分を分離・回収する方法が提案されている(特許文献1)。詳しくは、塩酸などの鉱酸を用いて鶏糞の焼却灰からリン成分を溶出させる。そして、水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液を用いてその溶出液のPHをアルカリ性に調整し、溶出液からリン含有化合物(ヒドロキシアパタイト)を凝集させ、分離している。
【0004】
本発明に関し、本発明者は、先に、ジルコニウム化合物で架橋したポリビニルアルコール(PVA)をビニロン製不織布に塗布したリン捕集材を提案している(特許文献2)。詳しくは、市販のビニロン紙(ホルマル化PVA紙)を約3cm角に裁断し、これにPVA−塩化ジルコニルを担持し,所定の処理を行ったリン捕集材を作製している。そして、このリン捕集材を300ppmのリン酸水溶液に12時間浸漬してリン吸着を行った後、水洗し、0.05モル/lのNaOH水溶液に浸漬してリンを脱着させる試験を行い、このリン捕集材が繰り返し利用可能であることを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−216214号公報
【特許文献2】特開2007−70217号公報(実施例8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先の特許文献1の方法では、鶏糞の焼却灰と塩酸等とを混合したリン含有水溶液に、直接アルカリ溶液を加えることによってヒドロキシアパタイトの沈澱物を生成させている。しかし、鶏糞の焼却灰には、不溶性の固形分が多く含まれているうえ、可溶性の不純物も多く含まれているため、その沈殿物には様々な成分が混じり込んでしまう。黒く汚れたリン含有水溶液から高純度な白色のヒドロキシアパタイトだけを得るには、更に分離精製等の処理が必要であり、工程が増えて処理が複雑化するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡素な工程で高純度なヒドロキシアパタイトを得ることができ、量産スケールへの移行も容易なリン回収方法等を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、リン捕集材を改良し、処理工程を工夫した。
【0009】
具体的には、本発明のリン回収方法は、ジルコニウム化合物で架橋したPVAを含むリン捕集材に、リンを含む処理溶液を接触させ、前記リン捕集材にリンを吸着させるリン吸着工程と、リンを吸着している前記リン捕集材に、カルシウムを含むアルカリ性のリン回収溶液を接触させ、前記リン捕集材からリンを脱着させると同時にリンをカルシウム塩として析出させるリン脱着析出工程と、を含むことを内容とするものである。
【0010】
係る構成の本発明によれば、リン捕集材にリンを選択的に吸着させることができるので、不純物の混入を効果的に防ぐことができる。そして、そのリンを吸着しているリン捕集材にアルカリ性のリン回収溶液を接触させることで、リンイオンをリン捕集材からリン回収溶液に脱着(分離)させることができる。リン回収溶液にはカルシウムが含まれているので、リン回収溶液中に脱着したリンイオンはカルシウムイオンと反応し、ヒドロキシアパタイトが形成され、析出する。つまり、リン捕集材からのリンの脱着処理とヒドロキシアパタイトの析出処理とを同時に行うことができるため、一連の処理工程を簡略化できる。
【0011】
特に、前記リン吸着工程と、前記リン脱着析出工程との間に、前記リン捕集材を水洗いする水洗工程を更に含むようにするのが好ましい。
【0012】
そうすれば、汚れた処理溶液が付着するリン捕集材の表面を水で洗い流すことができ、よりいっそう高純度なリンを回収することができるようになる。また、水で洗い流すことで、リン回収溶液のPHがばらつくのを抑制することができ、繰り返し使用しても安定してその性能を発揮させることができる。
【0013】
更には、前記リン脱着析出工程において、カルシウムを含む溶液と、アルカリ溶液とが所定のタイミングで前記リン回収溶液に添加され、該リン回収溶液に水酸化カルシウムが析出しないように濃度調整を行うとよい。
【0014】
アルカリ性の溶液にカルシウムを含ませる場合、水酸化カルシウムは溶解度が小さいため、水酸基イオンやカルシウムイオンの濃度が高くなると水酸化カルシウムが析出する。リン回収溶液に水酸化カルシウムが析出すると、リン捕集材に水酸化カルシウムが付着して処理性能が低下したり目詰まりを生じたりするおそれがある。また、せっかく高純度なヒドロキシアパタイトを析出させても、水酸化カルシウムが混ざることによって純度低下を招いてしまう。
【0015】
そこで、リン回収溶液に含まれる水酸基イオンとカルシウムイオンの濃度調整を行い、リンの脱着及び析出処理を行っている間、リン回収溶液に水酸化カルシウムが析出しないようにすることで、高純度なヒドロキシアパタイトだけをリン回収溶液に析出させることができる。
【0016】
また、前記リン吸着工程において、前記処理溶液に含まれるリンの濃度が300ppm以上に保持されるように濃度調整を行うのが好ましい。
【0017】
詳細は後述するが、処理溶液に含まれるリンの濃度が300ppmを下回ると、リン捕集材の吸着容量が低下する傾向が認められる。従って、処理溶液に含まれるリンの濃度を常に300ppm以上に保持することで、リン捕集材の吸着性能を効率よく発揮させることができ、効率よくリンを回収することができる。
【0018】
特に、前記処理溶液には、鶏糞の焼却灰を溶解した酸性溶液を用いるのが好ましい。鶏糞の焼却灰であれば、日々安定した量が発生するため、量産化に適しているうえ、品質が比較的安定しているため、リンの回収を安定して行うことができる。
【0019】
本発明に係るリン回収方法は、例えば、処理槽と、前記処理槽の内部に取り替え可能に設置される前記リン捕集材と、前記処理槽に前記処理溶液を循環可能に供給する処理溶液供給装置と、前記処理槽に前記リン回収溶液を循環可能に供給するリン回収溶液供給装置と、を備え、前記リン捕集材が、積層可能なシート、あるいは巻き取り可能な帯状のシートに形成されていて、前記リン捕集材を積層し、あるいは巻いて筒状にして間に空隙を設けた状態で、前記リン捕集材を前記処理槽の内部に設置したリン回収装置を用いれば、容易に量産化が実現できる。
【0020】
すなわち、リン捕集材は、積層あるいは巻き取り可能な帯状のシートに形成されているので、リン捕集材を積層あるいはロールにした状態で運搬や保管ができ、取り扱いが容易になる。そして、そのリン捕集材を積層し、あるいは筒状に巻いて間に空隙を設けた状態で処理槽の内部に設置すれば、リン捕集材を簡単に処理槽の内部に設置でき、また、簡単に取り替えることができる。単にリン捕集材を処理槽の内部に設置するだけで、互いに重なり合うリン捕集材の間に通水路を設けながら、リン捕集材を処理槽の内部に密度高く設置できるので、労せずに処理溶液やリン回収溶液とリン捕集材との接触面積を効果的に大きくすることができ、リン回収効率を向上させることができる。特に、前記リン捕集材にコルゲート加工が施されている場合に有利である。
【0021】
また、前記リン捕集材には複数の貫通孔を形成するのが好ましい。例えば、リン捕集材の側面にトムソン加工を施して貫通孔を空けることで、水流の交換が促進され、溶液とリン捕集材との接触をさらに効率よく行うことができる。
【0022】
更にこの場合、前記処理槽が、前記処理溶液供給装置及び前記リン回収溶液供給装置から前記処理溶液及び前記リン回収溶液をそれぞれ受け入れる流入口と、受け入れた処理溶液及び前記リン回収溶液を前記処理溶液供給装置及び前記リン回収溶液供給装置へそれぞれ戻す流出口と、を有し、積層した前記リン捕集材の対向する一対の端部、あるいは、筒状にした前記リン捕集材の筒軸を前記流入口側及び前記流出口側に向けた状態で、前記リン捕集材が前記処理槽の前記流入口と前記流出口との間の部分に設置されているようにするのが好ましい。
【0023】
そうすれば、処理槽の内部には、処理溶液等が流入口側から流出口側に向う流れが形成される。その処理溶液等の流れ方向にリン捕集材の一対の端部あるいは筒軸を向けることで、リン捕集材と処理溶液等との効果的な接触面積を確保しながら、処理槽の内部を処理溶液等が流れ易くすることができる。従って、処理溶液に固形分等が含まれていても、固形分等がリン捕集材に付着するのを効果的に抑制することができるし、リン回収溶液中に析出するヒドロキシアパタイトを効果的に処理槽から排出させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、簡素な工程でありながら、不純物を多く含む処理溶液から高純度なヒドロキシアパタイトを効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るリン回収装置の模式図である。
【図2】リン捕集材の概念図である。
【図3】リン捕集材の要部を示す概略斜視図である。
【図4】図1におけるI−I線から見た概略断面図である。
【図5】第1実施例の実験装置の模式図である。
【図6】第1実施例の実験結果を示すグラフである。
【図7】第2実施例の実験結果を示すグラフである。
【図8】回収した沈殿物粉末のX線解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0027】
本発明に係るリン回収方法は、基本的な工程として、リン捕集材2にリンを含む処理溶液を接触させてリン捕集材2にリンを吸着させるリン吸着工程と、リンを吸着したリン捕集材2にリン回収溶液を接触させ、リン捕集材2からリンを脱着させると同時にリンをカルシウム塩として析出させるリン脱着析出工程とを含む。本実施形態では、更に、リン吸着工程とリン脱着析出工程との間に、リン捕集材2を洗浄水で水洗いする水洗工程を含む。
【0028】
図1に、このリン回収方法に用いることができるリン回収装置を例示する。図中、1は処理槽、2はリン捕集材、3は第1槽(処理溶液供給装置)、4は第2槽(洗浄水供給装置)、5は第3槽(リン回収溶液供給装置)、6は第1添加槽、7は第2添加槽、8は送液ポンプ、9は開閉バルブ、10は切替バルブ、11は配管、12は制御装置を表している。
【0029】
(処理溶液)
処理溶液は、溶液中にリンが溶解している溶液であれば足り、その種類や状態等は特に問わない。例えば、家畜の糞や活性汚泥等の有機物系の産業廃棄物の焼却灰を酸溶液に溶解させたものが使用できる。その中でも特に、鶏糞の焼却灰が好適である。鶏糞の焼却灰であれば、リンが比較的豊富に含まれているうえ、日々まとまった量が安定して発生するため、量産化し易く、さらに、その他の産業廃棄物と比べて品質が安定しているため、リンの回収を安定的に行うことができるからである。
【0030】
具体的には、適量の鶏糞の焼却灰を塩酸や硝酸、硫酸などの強酸に加えて十分混合した後、大きな不溶性の固形分を沈降分離等の処理によって除去する。こうすることで鶏糞の焼却灰に含まれるリンのほとんどを処理溶液中に溶解させることができる。なお、鶏糞の焼却灰は、最初は6M等の高濃度の強酸に加えて混合した後、希釈して所定の濃度に調整するのが好ましい。そうすることで、鶏糞の焼却灰を効率よく溶解させることができる。鶏糞の焼却灰にはリン以外にも様々な水溶性の成分が含まれているため、こうして作製される処理溶液にはこれらの成分も溶解している。また、沈降分離等では除去できない微粒子なども処理溶液に含まれているため、処理溶液は黒色を呈している。
【0031】
(洗浄水)
洗浄水は、リン捕集材2を水洗いするために用いられる。洗浄水としては、水道水や工業用水でもよいが、回収されるアパタイトの純度に応じて,ミネラル成分を含まない蒸留水や脱イオン水などを使うことも考えられる。
【0032】
(リン回収溶液)
リン回収溶液は、カルシウムを含むアルカリ性の溶液である。リン回収溶液は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリを、例えば0.05Mや0,2Mの所定濃度に溶解させたアルカリ性の溶液に、塩化カルシウム(CaCl)や水酸化カルシウム(Ca(OH))等のカルシウム源を溶解させて作製することができる。
【0033】
液温にもよるが、水酸化カルシウムの溶解度が小さいために、カルシウムイオンや水酸基イオンの濃度が高くなるとリン回収溶液中に水酸化カルシウムが析出する。リン回収溶液に水酸化カルシウムが析出すると、リン捕集材2に水酸化カルシウムが付着して処理性能が低下したり目詰まりを生じたりするおそれがある。また、せっかく高純度なヒドロキシアパタイトを析出させても水酸化カルシウムが混ざってしまい、ヒドロキシアパタイトの純度低下を招いてしまう。
【0034】
従って、高純度なヒドロキシアパタイトを得る場合には、リン回収溶液に含まれるカルシウムイオン及び水酸基イオンの濃度調整を行い、リン回収溶液に水酸化カルシウムが析出しないようにするのが好ましい。そのため、このリン回収装置では、後述する第1添加槽6等が設けられている。
【0035】
(リン捕集材2)
リン捕集材2としては、ジルコニウム化合物で架橋した合成樹脂を不織布に塗布したものが使用できる。ジルコニウム化合物としては、例えば、塩化ジルコニルや硫酸ジルコニル,硝酸ジルコニル,酢酸ジルコニル,炭酸ジルコニルアンモニウム,キレート系ジルコニウム,アミノカルボン酸系ジルコニウム,水酸化ジルコニウムゾル,ジルコニアゾルなどの水溶性又は水分散性を有するジルコニウム化合物を挙げることができる。
【0036】
合成樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)やエチレンビニルアルコール,ポリアクリル酸,ポリアクリルアミド,ポリアリルアミン、カルボキシメチルセルロース,これらポリマーの共重合体、これらのブロックポリマーなどの水溶性の合成樹脂を挙げることができる。
【0037】
図2に示すように、本実施形態のリン捕集材2は、ロール状に巻き取り可能な薄い帯状に加工した合成樹脂製のシートを用い、これにジルコニウム化合物を担持させている。なお、シートは予め所定形状にカットしてあってもよい。例えば、ビニロン製不織布の帯状のシートに、塩化ジルコニル(ZrOCl・8HO)を溶解した10%PVA溶液を塗布して、所定時間加熱した後、熱風で乾燥させる。そして0.05mol/lのNaOH水溶液を加えて中和し、洗浄した後、120〜150℃で所定時間加熱して不溶化させることで本実施形態のリン捕集材2(PVA−Zrリン捕集材)を作製することができる。この時、PVA量に対するZr含有量が10〜20重量%となるように,塩化ジルコニルを溶解することが好ましい。
【0038】
リン捕集材2は、そのままのシート形態で使用してもよいが、図3に示すように、2枚のシートを張り合わせてコルゲート加工を施し、一方のシートが波形をした段ボール状に形成するのが好ましい。そうすれば、単に積層したり巻いて筒状にしたりするだけで、空隙を多数形成することができ、水流の停滞が生じないようにすることができる。
【0039】
更に、この場合、リン捕集材2の側面には、トムソン加工等により、凸条部の周面などに複数の貫通孔2b,2b,…を空けておくのが好ましい。そうすれば、溶液の交換が促進され、リン捕集材2と溶液との接触をさらに効率的に行うことができる。特に、トムソン加工によれば、コルゲート加工との組み合わせによって簡単に複数の貫通孔2bを形成することができるため、有利である。
【0040】
(処理槽1)
処理槽1としては、例えば、上面が開放された有底円筒状の容器が使用できる。この場合、処理槽1の底面の下端部に流出口1aを設け、上部の開口に第1槽3等の給液用の配管11の先端を受け入れて、上部の開口を流入口1bとすればよい。流出口1aには、開閉バルブ9、切替バルブ10を介して第1槽3、第2槽4、及び第3槽5(第1槽3等ともいう)のそれぞれに向かうリターン用の配管11が接続されている。
【0041】
(第1槽3等)
第1槽3は処理溶液を貯留する容器であり、第2槽4は洗浄水を貯留する容器であり、第3槽5はリン回収溶液を貯留する容器である。これら第1槽3等は、いずれも処理溶液等の必要量が貯留できるものであればよい。ただし、第1槽3や第3槽5は、それぞれ耐酸性や耐アルカリ性に優れた素材で形成しておくのが好ましい。第1槽3等には、それぞれ、処理槽1の流入口1bに向かう給液用の配管11が設けられていて、これら各配管11の途中に配設された送液ポンプ8の作動により、第1槽3等に貯留される処理液等を処理槽1に供給できるように構成されている。
【0042】
(第1添加槽6、第2添加槽7)
第1添加槽6はリン回収溶液のベースとなっているアルカリ性の溶液を貯留する容器であり、第2添加槽7はカルシウム溶液を貯留する容器である。第1添加槽6及び第2添加槽7には、貯留する溶液の所定量を第3槽5に給液可能な給液装置13,13がそれぞれ設けられている。
【0043】
(制御装置12)
制御装置12は、このリン回収装置における各処理を自動的に行うために設けられている。制御装置12には、各種プログラムが実装されており、所定の操作を行うことにより、送液ポンプ8や開閉バルブ9、切替バルブ10、給液装置13等を予め設定されたプログラムに基づいて自動的に運転制御することができる。
【0044】
(リン捕集材2の設置)
図4に示すように、例えば、コルゲート加工が施され、複数の貫通孔2bが形成されているリン捕集材2を筒状に巻く。そして、その状態のまま、その筒軸2aを流入口1bのある上側と、流出口1aのある下側とに向けた状態で、流入口1bから処理槽1に入れ込んで、処理槽1の流入口1bと流出口1aとの間の部分に設置する。リン捕集材2は、処理槽1に複数設置してもよく、その場合には、各リン捕集材2の筒軸2aが同じ上下方向を向くように設置する。リン捕集材2は直列状に縦に重ねることもできるし横に並べることもできる。
【0045】
そうすることで、リン捕集材2を簡単に処理槽1の内部に設置でき、また、簡単に取り替えることができる。筒軸2aの直交方向に重なり合うリン捕集材2,2間に通水路となる隙間を設けながら、リン捕集材2を処理槽1の内部に密度高く設置できるので、処理溶液やリン回収溶液とリン捕集材2との接触面積を効果的に大きくすることができ、リン回収効率を向上させることができる。
【0046】
特に、リン捕集材2にコルゲート加工を施してあると、巻いて設置するだけで、多数の筒の存在によって互いに重なり合うリン捕集材2,2の間に安定して空隙を設けることができるため、リン捕集材2どうしが密着してリン回収効率が低下するのを防ぐことができる。リン捕集材2を積層する場合でも、その対向する両端部が上下方向を向くように設置することで同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
(リン回収方法)
図1に示すように、第1槽3等に所定量の処理溶液等を貯留する。処理槽1には上述した所定の状態でリン捕集材2を設置しておく。そして、まず、処理溶液を第1槽3から処理槽1に給液し、リン捕集材2の全体が処理溶液と接するように処理槽1に処理溶液を満たす。所定時間保持した後、開閉バルブ9や切替バルブ10を操作して処理槽1に満たした処理溶液をリターン用の配管11を経由して第1槽3に回収し、処理槽1の内部を空にする(リン吸着工程)。なお、このリン回収装置では、処理槽1と第1槽3等を上下に配置し、自然落下により処理溶液が回収できるようになっているが、送液ポンプ等で送液してあってもよい。
【0048】
処理溶液とリン捕集材2との接触により、リン捕集材2には処理溶液に溶解しているリンが選択的に吸着される。リン捕集材2は処理溶液の流動を妨げないように設置されているため、処理溶液の回収時には、固形分も含め、処理溶液をほとんど残すことなく第1槽3に戻すことができる。この一連の処理は必要に応じて複数回行うことができる。また、常時処理溶液が循環するように連続的に行ってもよい。
【0049】
続いて、本実施形態ではリン捕集材2の水洗いを行う。すなわち、洗浄水を第2槽4から処理槽1に給水し、リン捕集材2の全体が洗浄水と接するように処理槽1に洗浄水を満たす。給水と同時に、あるいは所定時間保持した後、開閉バルブ9や切替バルブ10を操作して処理槽1に満たした洗浄水をリターン用の配管11を経由して第2槽4に戻し、処理槽1の内部を空にする(水洗工程)。
【0050】
このとき、リン捕集材2に付着した汚れや不純物を洗浄水で洗い流して第2槽4に回収することができる。リン捕集材2に付着した汚れ等は洗い流され易くなっているため、リン捕集材2の汚れ等を効果的に除去することができる。回収した洗浄水は必要に応じて排水し、洗浄水の補充を行う。
【0051】
第2槽4には、たとえば、オートクレーブ養生軽量コンクリート(ALC)などの汎用のリン吸着材を入れておくとよい。そうすれば、ALCの簡単なろ過・吸着作用により、洗浄水をくり返し利用することができ、経費の節減を図ることができる。この一連の処理も必要に応じて複数回行うことができ、常時洗浄水が循環するように連続的に行ってもよい。
【0052】
次に、リン回収溶液を第3槽5から処理槽1に給液し、リン捕集材2の全体がリン回収溶液と接するように処理槽1にリン回収溶液を満たす。所定時間保持した後、開閉バルブ9や切替バルブ10を操作して処理槽1に満たしたリン回収溶液をリターン用の配管11を経由して第3槽5に回収し、処理槽1の内部を空にする(リン脱着析出工程)。
【0053】
リン回収用液とリン捕集材2との接触により、リン捕集材2に吸着されていたリンが脱着し、リン回収溶液に含まれるカルシウムイオンと反応してヒドロキシアパタイト[Ca(PO(OH)]がリン回収溶液中に析出し、その白色の沈澱物が沈澱する。リン捕集材2はリン回収溶液の流動を妨げないように設置されているため、リン回収溶液の回収時には、析出したヒドロキシアパタイトとともにリン回収溶液をほとんど残すことなく第3槽5に戻すことができる。この一連の処理も必要に応じて複数回行うことができ、常時リン回収溶液が循環するように連続的に行ってもよい。
【0054】
本実施形態のリン脱着析出工程では、定期的あるいは連続的にアルカリ性の溶液とカルシウム溶液とがリン回収溶液に所定量ずつ添加される。そうすることで、水酸化カルシウムが析出しないように濃度調整を行いながら、ヒドロキシアパタイトの析出によって減少する水酸基イオン及びカルシウムイオンが補充される。水酸化カルシウムの混入が問題とならない場合には、直接水酸化カルシウムを添加して、反応により、ヒドロキシアパタイトを製造することも可能である。
【0055】
続いて、本実施形態では、先と同様にリン捕集材2の水洗いを行う(水洗工程)。そうすることで、リン捕集材2に付着したリン回収溶液が除去され、リン捕集材2を初期状態に復帰させることができる。後は、必要に応じて上述した一連の処理を繰り返し行えばよい。
【0056】
第3槽5の内部には、ヒドロキシアパタイトの白色の沈殿物が集められ、堆積する。後は、これをリン回収溶液から分離し、乾燥させることで高純度なヒドロキシアパタイトの粉末を得ることができる。
【0057】
(第1実施例)
図5に本実施例で用いた実験装置を示す。本実施例では、この実験装置を用いてバッチ処理によりリンの回収実験を行った。図中、51は処理タンク、2はリン捕集材、53は第1タンク、54は第2タンク、55は第3タンク、58は送液ポンプ、60は切替バルブ、61は配管を表している。なお、実験装置の主要な部材の機能等は、先のリン回収装置の対応する各部材と同様である。
【0058】
(実験方法)
まず、鶏糞の焼却灰70gを6Nの塩酸250mLに混合し、十分に溶解させた後、沈殿物を濾過して除去した。得られた混合水を水で5Lに希釈して処理溶液を作製した。
【0059】
リン捕集材2には、ジルコニウム化合物で架橋したPVAをビニロン製不織布に塗布した帯状のシートを用いて形成した20gのリン捕集材2を使用した。リン捕集材2は、図4に示したように処理タンク51に巻いた状態で設置した。
【0060】
リン回収溶液は、0.2Mの水酸化ナトリウム水溶液に所定量の塩化カルシウムを添加し、混合して作製した。繰り返し使用できるように、水酸基イオン及びカルシウムイオンの濃度を高めに設定したため、作製したリン回収溶液には白濁が認められた。洗浄水には水道水をした。作製した処理溶液等は、それぞれ第1タンク53等に適量貯留し、リン回収実験を開始した。
【0061】
リン回収実験では、リンの吸着、水洗、リンの脱着析出、水洗、の4工程からなる一連のリン回収処理を1つのサイクルとし、このサイクルを繰り返し行った。そして、所定のタイミングで処理溶液のリン濃度をICPで測定し、処理溶液のリン濃度と処理回数との関係について調べた。また、最後には、第3タンク55に沈澱した沈澱物を濾過、回収した後、分析に供した。
【0062】
詳しくは、処理溶液を処理タンク51に給液し、処理溶液を処理タンク51に満たした状態で15分保持した後、回収する一連の処理を3回実施した(リンの吸着)。次に、洗浄水を処理タンク51に給液し、洗浄水を処理タンク51に満たした状態で0.5分保持した後、回収する一連の処理を2回実施した(水洗)。次に、リン回収溶液を処理タンク51に給液し、リン回収溶液を処理タンク51に満たした状態で15分保持した後、回収する一連の処理を3回実施した(リンの脱着析出)。そして、洗浄水を処理タンク51に給液し、洗浄水を処理タンク51に満たした状態で1分保持した後、回収する一連の処理を2回実施した(水洗)。その後、これら一連の処理を繰り返し実施した。
【0063】
(実験結果)
図6に、処理溶液のリン濃度と処理回数との関係を示す。処理溶液のリンの初期濃度は1065ppmであった。鶏糞の焼却灰のリン含量の推定値からすると、鶏糞の焼却灰に含まれるリンのほとんどが処理溶液に溶解していることが確認された。リンの回収処理は合計33回実施し、1回目から20回目付近までは直線的なリン濃度の減少が認められた。ところが、リン濃度が300ppmとなる20回目付近から1回の処理でのリン濃度の減少量の低下が認められた。従って、処理溶液のリン濃度を300ppm以上に保持することで、リンの回収を効率的に行うことが可能になると推定される。
【0064】
リン回収溶液からは白色の沈殿物が得られ、回収した沈殿物の重量は26.7gであった。この沈殿物の粉末をX線解析により成分分析を行ったところ、少量の炭酸カルシウムや水酸化カルシウムを含むヒドロキシアパタイトであることが確認された。処理溶液のリン濃度の減少量から推測すると、そのほとんどをヒドロキシアパタイトとして回収できている。
【0065】
(第2実施例)
本実施例では、リン回収溶液に、水酸化ナトリウム溶液と、塩化カルシウム溶液とを1サイクル毎にペリスタポンプを用いて添加し、溶液の水酸化ナトリウム濃度を低く保持し、水酸化カルシウムの沈澱が発生しないようにした。その他の実験装置等の構成については第1実施例と同じである。
【0066】
(実験方法)
処理溶液は、鶏糞の焼却灰100gを6Nの塩酸150mLに混合し、十分に溶解させた後、沈殿物を濾過して除去した。得られた混合水を水で5Lに希釈して処理溶液を作製した。
【0067】
リン回収溶液は、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液20Lに、塩化カルシウム10gを添加し、混合して初期のリン回収溶液を作製した。初期のリン回収溶液は1サイクル目のリン回収処理に用いた。その後、リン回収処理を1サイクル行う毎に、1.25Nの水酸化ナトリウム水溶液を22mL添加するとともに、0.5Mの塩化カルシウム水溶液を22mL添加した。なお、実験過程でリン回収溶液に水酸化カルシウムの生成による白濁は認められなかった。
【0068】
(実験結果)
図7に、本実施例における処理溶液のリン濃度と処理回数との関係を示す。図中、実線が本実施例を表しており、破線は第1実施例を表している。本実施例での処理溶液のリンの初期濃度は1513ppmであった。リンの回収処理は合計35回実施した。リン濃度が300ppmに至るまでは第1実施例と同様に直線的なリン濃度の減少が認められた。そこでの減少率はいずれもほぼ同じであり、安定したリンの回収が期待できることがわかる。
【0069】
リン回収溶液からは白色の沈殿物が得られ、遠心分離により回収した沈殿物の重量は約29gであった。この沈殿物の粉末をX線解析により成分分析を行ったところ、図8に示すように、ヒドロキシアパタイト(標準試料)の検出ピークとほぼ一致し、不純物をほとんど含まない高純度なヒドロキシアパタイトであることが確認された。
【0070】
なお、本発明にかかるリン回収方法等は、前記の実施の形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、実施形態のリン捕集材2では、一方のシートのみを波形に形成しているが、両方のシートを波形に形成してあってもよい。単に波形に形成したリン捕集材2だけを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係るリン回収方法で得られるヒドロキシアパタイトは、肥料や家畜の飼料などに利用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 処理槽
1a 流出口
1b 流入口
2 リン捕集材
2a 筒軸
2b 貫通孔
3 第1槽(処理溶液供給装置)
4 第2槽
5 第3槽(リン回収溶液供給装置)
6 第1添加槽
7 第2添加槽
8 送液ポンプ
9 開閉バルブ
10 切替バルブ
11 配管
12 制御装置
13 給液装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム化合物で架橋したポリビニルアルコールを含むリン捕集材に、リンを含む処理溶液を接触させ、前記リン捕集材にリンを吸着させるリン吸着工程と、
リンを吸着している前記リン捕集材に、カルシウムを含むアルカリ性のリン回収溶液を接触させ、前記リン捕集材からリンを脱着させると同時にリンをカルシウム塩として析出させるリン脱着析出工程と、
を含むリン回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリン回収方法において、
前記リン吸着工程と、前記リン脱着析出工程との間に、前記リン捕集材を水洗いする水洗工程を更に含むリン回収方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のリン回収方法において、
前記リン脱着析出工程において、カルシウムを含む溶液と、アルカリ溶液とが所定のタイミングで前記リン回収溶液に添加され、該リン回収溶液に水酸化カルシウムが析出しないように濃度調整が行われるリン回収方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のリン回収方法において、
前記リン吸着工程において、前記処理溶液に含まれるリンの濃度が300ppm以上に保持されるように濃度調整が行われるリン回収方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のリン回収方法において、
前記処理溶液に、鶏糞の焼却灰を溶解した酸性溶液が用いられるリン回収方法。
【請求項6】
請求項1に記載のリン回収方法に用いられるリン回収装置であって、
処理槽と、
前記処理槽の内部に取り替え可能に設置される前記リン捕集材と、
前記処理槽に前記処理溶液を循環可能に供給する処理溶液供給装置と、
前記処理槽に前記リン回収溶液を循環可能に供給するリン回収溶液供給装置と、
を備え、
前記リン捕集材が積層可能なシート、あるいは巻き取り可能な帯状のシートに形成されていて、
前記リン捕集材を積層し、あるいは巻いて筒状にして間に空隙を設けた状態で、前記リン捕集材を前記処理槽の内部に設置したリン回収装置。
【請求項7】
請求項6に記載のリン回収装置において、
前記リン捕集材にコルゲート加工が施されているリン回収装置。
【請求項8】
請求項7に記載のリン回収装置において、
前記リン捕集材に、複数の貫通孔が形成されているリン回収装置。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか1つに記載のリン回収装置において、
前記処理槽が、
前記処理溶液供給装置及び前記リン回収溶液供給装置から前記処理溶液及び前記リン回収溶液をそれぞれ受け入れる流入口と、
受け入れた処理溶液及び前記リン回収溶液を前記処理溶液供給装置及び前記リン回収溶液供給装置へそれぞれ戻す流出口と、
を有し、
積層した前記リン捕集材の対向する一対の端部、あるいは、筒状にした前記リン捕集材の筒軸を前記流入口側及び前記流出口側に向けた状態で、前記リン捕集材が前記処理槽の前記流入口と前記流出口との間の部分に設置されているリン回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−78870(P2011−78870A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231367(P2009−231367)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】