説明

リン脂質の混合物を含む抗アポトーシス活性を有する組成物

【課題】本発明は、アポトーシス細胞死を阻害することに有効な物質の組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルイノシトール、およびリゾホスファチジルコリンを含む、抗アポトーシス活性を有する組成物を提供することによって上記課題を解決した。これらは、それらの各々の比で有効量の上記のリン脂質を混合する工程、およびこの溶液が光学的透明を達成するまで、これらのリン脂質を超音波処理する工程を包含する方法によって製造され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アポトーシス細胞死を阻害することに有効な物質の組成物に関する。より詳細には、その混合物が抗アポトーシス活性を示すリン脂質(PA、PI、LPA、LPI、およびLPC)の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アポトーシスは、個々の細胞死をもたらす正常な生理学的プロセスである。このプログラムされた細胞死のプロセスは、種々の正常および病原性の生物学的事象に関与し、そして多くの無関係な刺激により誘導され得る。アポトーシスの生物学的調節における変化はまた、加齢の間にも起こり、そして加齢に関連する多くの健康状態および疾患の原因である。
【0003】
アポトーシスの最近の研究は、アポトーシスに至る一般的な代謝経路が幅広い種々のシグナルにより開始され得ることを示唆している。これらのシグナルには、ホルモン、血清の成長因子枯渇、化学療法剤、電離放射線、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染が挙げられる。Wyllie (1980) Nature 284:555-556;Kanterら (1984)Biochem.Biophys.Res.Commun. 118:392-399;DukeおよびCohen (1986) Lymphokine Res.5:289-299;Tomeiら (1988) Biochem.Biophys.Res.Commun. 155:324-331;Krumanら(1991)J.Cell.Physiol. 148:267-273;AmeisenおよびCapron (1991) Immunol. Today 12:102-105;ならびにSheppardおよびAscher(1992) J.AIDS 5:143-147。従って、アポトーシスの生物学的制御に影響する薬剤は、多数の臨床的症候における治療的有用性を有する。
【0004】
アポトーシス性細胞死は、細胞の収縮、クロマチン縮合、細胞質小疱形成(blebbing)、増大した膜透過性、およびヌクレオソーム内DNA切断によって特徴づけられる。Gerschensonら(1992)FASEB J. 6:2450-2455;ならびにCohenおよびDuke (1992) Ann.Rev.Immunol. 10:267-293。
【0005】
一部、部分的に処理された植物抽出物を含む種々の食物補充物が、化学療法、放射線、およびAIDSにしばしば付随する胃腸疾患を改善するために使用されている。この補充物は、一般的に、炭水化物、脂肪、および植物タンパク質加水分解物を含む。例えば、TomeiおよびCopeら、ApoptosisThe Molecular Basis of Cell Death (1991) Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと。
【0006】
植物抽出物に由来するいくつかのプロテイナーゼインヒビターは抗ガン活性を有する。Trollら(1987)Adv.Cancer Res. 49:265-283。Bowman-Birkインヒビターは、これらのインヒビターのうちで最も多く記載されている。Birk(1985) Int.J.Pep.Pro.Res. 25:113-131。Bowman-Birkインヒビターは、細胞の形質転換を抑制する約8kDの分子量を有するジスルフィド結合タンパク質のファミリーとして記載されている。Chouら(1974)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 71:1748-1752;Yavelowら(1985) Proc. Natl. Acad. Sci.USA 82:5395-5399;およびYavelowら (1983) Cancer Res.(補遺)43:2454s-2459s。Bowman-Birkインヒビターを含有する粗ダイズ抽出物が記載されている。Kennedyら、米国特許第4,793,996号;PCT公開公報WO94/20121;およびKennedy. A.R. (1994) Cancer.Res.(補遺)54:1999s-2005s。Bowman-Birkインヒビターはまた、免疫学的に記載されている。WO90/03574;ならびに米国特許第4,959,310号;および同第5,053,327号。Bowman-Birkインヒビターはまた、マクロファージの脱顆粒化における活性を有することが見出されている。日本国特許番号第63051335号。
【0007】
リン脂質は、生物学的膜の必須の構成物である両親媒性のリン含有脂質のクラスである。種々のリン脂質調製物が、調理、薬物送達(リポソーム)、徐放送達系、疎水性薬物のためのキャリア媒体、遺伝子移入および置換療法、日焼け止め、エマルジョン、消泡剤、損傷したかまたは存在しない肺胞表面活性物質の置換、洗浄剤、および膜安定化のために使用されている。
【0008】
ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、リゾホスファチジン酸(LPA)、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)、およびリゾホスファチジルコリン(LPC)は、種々の植物および動物の産物において見出される。LPAは、種々の植物および動物の産物において見出され、そして有糸分裂誘発を含む種々の生理学的活性、増殖因子を有し、そして抗しわ剤(anti-wrinkleagent)であることが報告されている。米国特許第4,263,286号;同第4,746,652号;同第5,326,690号;および同第5,340,568号。LPAは、Moolenaar(1994) TICB 4:213-219;およびEichholtzら(1990) Biochem.J. 291:677-680;およびMoolenaar(1995) J.Biol.Chem. 270:12949-12952により詳細に総説される。
【0009】
PCT公開公報第WO 95/15173号は、抗アポトーシス効果を生じる、植物由来の脱脂抽出物を記載する。これらの抽出物は、種々のタンパク質および炭水化物構成物に加えて、重量比2:1:2:20:20で、LPA、LPC、LPI、PA、およびPIを含むことが現在見出されている。
【0010】
本明細書中に列挙された全ての参考文献は、その全体が参考として援用される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要旨
本発明は、アポトーシスを阻害する組成物およびこれらの組成物を作製する方法を包含する。本発明はまた、これらの組成物を作製し、そして使用する方法を包含する。
【0012】
従って、本発明の1つの局面は、抗アポトーシス比のリン脂質で、リン脂質ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、リゾホスファチジン酸(LPA)、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)、およびリゾホスファチジルコリン(LPC)を含む組成物である。
【0013】
別の局面において、これらの組成物を作製するための方法が提供される。これらの方法は、それらの各々の比で有効量の上記のリン脂質を混合する工程、およびこの溶液が光学的透明を達成するまで、これらのリン脂質を超音波処理する工程を包含する。
【0014】
別の局面において、これらの組成物を使用する方法が提供される。これらの方法は、組成物を含む治療的有効量の薬学的に受容可能な薬剤をこのような処置を必要とする患者に投与することにより、アポトーシスを処置するためのこれらの組成物を使用することを包含する。この方法は、アポトーシスに関連する症状の処置のための組成物を作製することを包含する。これらの組成物を使用する他の方法は、培養細胞におけるアポトーシスを予防すること、その後の器官移植のための器官保存およびバイパス手術のためのインサイチュ保存(例えば、心臓、肝臓、肺、脳など)を増大する方法、ならびにアポトーシスが関連する皮膚科学的症状を処置する方法を含む。
本発明は以下をも提供する。
(1)抗アポトーシス活性を有する組成物であって:
(a)ホスファチジン酸(PA);
(b)ホスファチジルイノシトール(PI);
(c)リゾホスファチジン酸(LPA);
(d)リゾホスファチジルイノシトール(LPI);および
(e)リゾホスファチジルコリン(LPC)、
を含み、ここでリン脂質は実質的に純粋である、組成物。
(2)上記リン脂質が、それぞれ、約0:5:2:0:0から20:20:16:4:8の比で存在する、項目1に記載の組成物。
(3)上記リン脂質が、約2:8:6:2:2から15:15:10:4:8の比で存在する、項目1に記載の組成物。
(4)上記リン脂質が、約4:16:12:4:4から7.5:7.5:5:2:4の比で存在する、項目1に記載の組成物。
(5)上記リン脂質が、それぞれ、約10:10:8:2:4からの比で存在する、項目1に記載の組成物。
(6)上記リン脂質が植物、動物、または合成供給源に由来し、上記LPAが動物供給源に由来しない、項目1に記載の組成物。
(7)動物に由来する上記リン脂質が肝臓に由来する、項目6に記載の組成物。
(8)上記組成物が超音波処理されている、項目1に記載の組成物。
(9)上記超音波処理が、上記組成物が光透過性になるまで行われる、項目8に記載の組成物。
(10)上記超音波処理が約3分から約90分である、項目8に記載の組成物。
(11)上記超音波処理が、5分間の超音波処理と平衡との交互で行われる、項目8に記載の組成物。
(12)上記超音波処理が、上記組成物の温度が約60℃を超えないように行われる、項目8に記載の組成物。
(13)生理学的に受容可能な緩衝液をさらに含む、項目1に記載の組成物。
(14)上記緩衝液が約5.5〜8.0のpHを有する、項目13に記載の組成物。
(15)上記緩衝液が約8.0のpHを有する、項目14に記載の組成物。
(16)上記リン脂質が約10mg/mlの総濃度で存在する、項目1に記載の組成物。
(17)抗アポトーシス活性を有する組成物を得る方法であって、
(a)生理学的に受容可能な緩衝液中に抗アポトーシス活性を有する比を生成するために有効な量の
(i)ホスファチジン酸(PA)、
(ii)ホスファチジルイノシトール(PI)、
(iii)リゾホスファチジン酸(LPA)、
(iv)リゾホスファチジルイノシトール(LPI)、および
(v)リゾホスファチジルコリン(LPC)、
を混合する工程:ならびに
(b)リン脂質/緩衝液の混合物を超音波処理する工程、
を包含する、方法。
(18)上記リン脂質が植物、動物、または合成供給源に由来し、上記LPAが動物供給源に由来しない、項目17に記載の方法。
(19)動物に由来する上記リン脂質が肝臓に由来する、項目18に記載の方法。
(20)上記リン脂質が約10mg/mlの総濃度で存在する、項目18に記載の方法。
(21)上記超音波処理が、上記リン脂質の混合が光透過性になるまで行われる、項目17に記載の方法。
(22)上記超音波処理が約3分から約90分である、項目17に記載の方法。
(23)上記超音波処理が、5分間の超音波処理と平衡との交互で行われる、項目17に記載の方法。
(24)上記超音波処が、上記組成物の温度が60℃を超えないように行われる、項目17に記載の方法。
(25)上記緩衝液が約8.0のpHを有する、項目17に記載の方法。
(26)上記緩衝液が重炭酸塩からなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(27)項目1、7、19、または21に記載の方法により得られた組成物。
(28)項目27に記載の組成物を含む治療有効量の薬学的に受容可能な組成物を、このような処置を必要とする患者に投与する工程を包含する、アポトーシスを処置する方法。
(29)上記患者が胃腸混乱を患っている、項目28に記載の方法。
(30)上記胃腸混乱が、ヒト免疫不全ウイルス、化学療法剤、および放射線、ならびに感染疾患に関連する刺激からなる群から選択される刺激により引き起こされる、項目29に記載の方法。
(31)上記胃腸混乱が炎症腸疾患によるものである、項目29に記載の方法。
(32)上記感染疾患が下痢を引き起こす生物からなる群から選択される、項目30に記載の方法。
(33)上記処置が、免疫抑制ウイルス、化学療法剤、または放射線、および免疫抑制剤に関連する免疫不全を減少させる、項目31に記載の方法。
(34)上記ウイルスがヒト免疫不全ウイルスである、項目33に記載の方法。
(35)上記患者が、虚血および/または虚血の後の再灌流に関連するアポトーシスを受ける、項目28に記載の方法。
(36)上記再灌流が、冠状動脈閉塞;大脳梗塞;脊髄/頭部の外傷、ならびに付随する重篤な麻痺および凍傷に関連する、項目35に記載の方法。
(37)組織培養培地および有効量の項目27に記載の組成物を含む、組成物。
(38)項目37に記載の組成物で細胞を処置する工程を包含する、培養細胞におけるアポトーシスを防止する方法。
(39)上記細胞が哺乳動物である、項目38に記載の方法。
(40)上記細胞がヒトである、項目39に記載の方法。
(41)上記細胞が昆虫である、項目38に記載の方法。
(42)上記細胞が組織または器官の一部である、項目39に記載の方法。
(43)有効量の項目27に記載の組成物を、上記器官が貯蔵されている溶液に添加する工程を包含する、器官の保存方法。
(44)有効量の項目27に記載の組成物の少なくとも1つの静脈内ボーラスを、宿主動物に投与する工程を包含する、器官の保存方法。
(45)項目27に記載の組成物を含む治療有効量の薬学的に受容可能な組成物を、このような処置を必要とする患者に局所的に投与する工程を包含する、アポトーシスが関連する皮膚科学的症状を処置する方法。
(46)上記皮膚科学的症状が、しわ、たるみ、乾癬、禿頭症、または毛髪喪失である、項目45に記載の方法。
(47)項目27に記載の組成物がクリームまたは軟膏またはゲル中に存在する、項目46に記載の方法。
(48)有効量の項目27に記載の組成物を投与する工程を包含する、創傷を処置する方法。
(49)LPAおよび少なくとも1つのさらなるリン脂質を含む、抗アポトーシス活性を有する組成物。
(50)上記さらなるリン脂質が、PA、PI、LPIおよびLPCからなる群から選択される、項目49に記載の組成物。
(51)生理学的に受容可能な緩衝液をさらに含む、項目49に記載の組成物。
(52)上記緩衝液が約5.0から8.0のpHを有する、項目49に記載の組成物。
(53)上記緩衝液が約6.5のpHを有する、項目52に記載の組成物。
(54)上記リン脂質が約50μg/mlと50mg/mlとの間の総濃度で存在する、項目49に記載の組成物。
(55)リン脂質および結合タンパク質を含む、抗アポトーシス活性を有する組成物。
(56)上記結合タンパク質がアルブミンを含む、項目55に記載の組成物。
(57)上記アルブミンがウシ血清アルブミンを含む、項目56に記載の組成物。
(58)上記アルブミンがエンドウマメアルブミンを含む、項目56に記載の組成物。
(59)上記リン脂質がPA、PI、LPA、LPIおよびLPCからなる群の少なくとも1つのメンバーを含む、項目55に記載の組成物。
(60)上記リン脂質がLPAを含む、項目55に記載の組成物。
(61)抗アポトーシス活性を有する組成物を得る方法であって、
(a)生理学的に受容可能な緩衝液中で、LPAと抗アポトーシス活性を有する組成物を生成するために有効なリン脂質との量を混合する工程;および
(b)上記混合物を粉砕する工程、
を包含する、方法。
(62)上記リン脂質がPA、PI、LPIおよびLPCからなる群から選択される、項目61に記載の方法。
(63)上記リン脂質が約10mg/mlの総濃度で存在する、項目61に記載の方法。
(64)抗アポトーシス活性を有する組成物を得る方法であって、混合物を生成するための生理学的に受容可能な緩衝液中で、抗アポトーシス活性を有する比を生成するために有効な、リン脂質と結合タンパク質とを混合する工程を包含する、方法。
(65)上記結合タンパク質がアルブミンを含む、項目64に記載の方法。
(66)上記アルブミンがウシ血清アルブミンを含む、項目65に記載の方法。
(67)上記アルブミンがエンドウマメアルブミンを含む、項目65に記載の方法。
(68)上記リン脂質がPA、PI、LPA、LPIおよびLPCからなる群の少なくとも1つのメンバーを含む、項目64に記載の方法。
(69)上記リン脂質がLPAを含む、項目64に記載の方法。
(70)上記リン脂質が約1μg/mlと50mg/mlとの間の総濃度で存在する、項目64に記載の方法。
(71)アポトーシスを処置する方法であって、項目49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60に記載の組成物を含む治療有効量の薬学的に受容可能な組成物を、このような処置を必要とする患者に投与する工程を包含する、方法。
(72)上記患者が胃腸混乱を患っている、項目71に記載の方法。
(73)上記胃腸混乱が、ヒト免疫不全ウイルス、化学療法剤、および放射線、ならびに感染疾患に関連する刺激からなる群から選択される刺激により引き起こされる、項目72に記載の方法。
(74)上記胃腸混乱が炎症腸疾患によるものである、項目73に記載の方法。
(75)上記感染疾患が下痢を引き起こす生物からなる群から選択される、項目73に記載の方法。
(76)上記処置が、免疫抑制ウイルス、化学療法剤、または放射線、および免疫抑制剤に関連する免疫不全を減少させる、項目73に記載の方法。
(77)上記ウイルスがヒト免疫不全ウイルスである、項目76に記載の方法。
(78)上記患者が、虚血および/または虚血の後の再灌流に関連するアポトーシスを受ける、項目71に記載の方法。
(79)上記再灌流が、冠状動脈閉塞;大脳梗塞;脊髄/頭部の外傷、ならびに付随する重篤な麻痺および凍傷に関連する、項目78に記載の方法。
(80)上記患者が皮膚科化学的症状を患っている、項目71に記載の方法。
(81)上記薬学的に受容可能な組成物が局所的に投与される、項目80に記載の方法。
(82)上記皮膚科学的症状が、しわ、たるみ、乾癬、禿頭症、または毛髪喪失である、項目81に記載の方法。
(83)上記薬学的に受容可能な組成物がクリームまたは軟膏またはゲル中に存在する、項目81に記載の方法。
(84)上記患者が創傷を患っている、項目71に記載の方法。
(85)組織培養培地および有効量の項目49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60に記載の組成物を含む、組成物。
(86)項目85に記載の組成物で細胞を処置する工程を包含する、培養細胞のアポトーシスを防止する方法。
(87)上記細胞が哺乳動物である、項目86に記載の方法。
(88)上記細胞がヒトである、項目87に記載の方法。
(89)上記細胞が昆虫である、項目86に記載の方法。
(90)上記細胞が組織または器官の一部である、項目87に記載の方法。
(91)有効量の項目85に記載の組成物を、上記器官が貯蔵されている溶液に添加する工程を包含する、器官の保存方法。
(92)有効量の項目85に記載の組成物の有効量の少なくとも1つの静脈内ボーラスを、宿主動物に投与する工程を包含する、器官の保存方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明を実施するための形態
植物および動物において見出された、または合成的に作製された、特定の比率の5つのリン脂質を含有する組成物が、これらのリン脂質の天然の存在比と比較して、抗アポトーシス活性を有意に増強することが、今や見出された。これらの組成物は、植物および動物を含む種々の供給源から容易に得られる。組成物はまた、脂質合成分野における公知の方法により合成的に調製され得る。組成物は、それが由来する植物の供給源および生育条件に依存して、化学的成分が若干変動し得る。組成物は、本明細書において、ElirexTMといわれる。
【0016】
本発明者らは、以前、アポトーシスシグナルに応答するように設計されたインビトロ細胞アッセイにおいて測定される抗アポトーシス効果を生成し得る植物由来の抽出物を記載した。PCT WO 95/15173。本発明者らは今や、活性成分がリン脂質であるホスファチジン酸(PA);ホスファチジルイノシトール(PI);リゾホスファチジン酸(LPA);リゾホスファチジルイノシトール(LPI);およびリゾホスファチジルコリン(LPC)であるであることを見出した。天然に由来する抽出物は、それぞれ約20:20:2:1:2の比でこれらのリン脂質成分を有する。これを、本明細書において「天然混合物」(NM)という。これらのリン脂質をこれらの比で組み合わせて、天然の混合物において見出される混入物を欠く再構成天然混合物(RNM)を得ることが出来る。RNMは、ElirexTMの1つの実施態様であると考えられる。これは最も一般的に見出される標準的な比であるが、種々のパラメーター(季節、生育条件、生育地域、収穫条件、貯蔵、種子(品種)のタイプ、および種子の遺伝子操作を含むがこれらに限定されない)に依存して、狭い範囲内で変動し得る。本発明は、天然供給源から見出される比とは異なり、ずっと有効なこれらのリン脂質の比である。
【0017】
本発明の組成物は、活性成分として、リン脂質PA;PI;LPA;LPI;およびLPCを含む。リン脂質は、それぞれ0〜20:5〜20:2〜16:0〜4:0〜8の比の範囲で存在する。好ましくは、これらのリン脂質は、それぞれ約2〜15:8〜15:6〜10:2〜4:2〜8の比である。最も好ましくは、これらのリン脂質は、それぞれ約10:10:8:2:4の比である。リン脂質構造は十分に規定されているが、それらは脂質鎖長および飽和に関して変動し得る。代表的には、リン脂質は以下の構造を有するが、それらが任意の標準的なアポトーシスアッセイにおいて抗アポトーシス応答を生成するに有効であれば、当該分野において公知の他の構造を含み得る。
【0018】
PAは以下の構造を有する:
【0019】
【化1】

【0020】
PIは以下の構造を有する:
【0021】
【化2】

【0022】
LPAは以下の構造を有する:
【0023】
【化3】

【0024】
ここで、Rは、11〜約23個の炭素原子を有する、非置換または置換の、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖のアルキルである。
【0025】
また、本明細書で用いられるように、LPAは、以下の構造を有する、2-デオキシ-または2-デオキシ-2-ハロ-リゾホスファチジン酸化合物を含むがこれらに限定されない、種々の分子あるいはその薬学的に受容可能な塩を包含する:
【0026】
【化4】

【0027】
ここで、Rは、11〜約23個の炭素原子を有する、非置換または置換の、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖のアルキルであり;各々のXは独立してOまたはSであり;YはOまたは(CH)nであり(ここで、n=0〜2である);そしてZはH、ハロ、NH、SH、OHまたはOPOHである。
【0028】
RC(O)Oが、ラウリル、ミリストイル、パルミチル、ステアリル、パルミトレイル、オレイルまたはリノレイルであり;より詳細には、オレイル、パルミトレイル、ミリスチル、パルミチル、またはラウリルであるものも含まれる。特に好ましいものは、例えば、16炭素鎖のパルトイルおよびパルミトレオイル、ならびに18炭素鎖のステアロイル、オレオイルおよびリノレオイルであるが、C12、C14、C20およびC22を含むがそれらに限定されない他の炭素長の脂肪酸を除外しない。適切なリン脂質の代表的な例については、リン脂質供給者の任意の化学品カタログ(例えば、(1994)Avantiカタログ、特に第14および21頁)を参照のこと。
【0029】
LPIは以下の構造を有する:
【0030】
【化5】

【0031】
ここで、Rは、11〜約23個の炭素原子を有する、非置換または置換の、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖のアルキルである。
【0032】
LPCは以下の構造を有する:
【0033】
【化6】

【0034】
ここで、Rは、11〜約23個の炭素原子を有する、非置換または置換の、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖のアルキルである。
【0035】
リン脂質の薬学的に受容可能な塩は、以下を含むがそれらに限定されない:遊離酸形態、アルカリ金属(例えば、ナトリウムおよびカリウム)塩;アルカリ土類金属(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)塩;非毒性重金属塩;アンモニウム塩;トリアルキルアンモニウム(例えば、トリメチルアンモニウムおよびトリエチルアンモニウム)塩;ならびにアルコキシアンモニウム(例えば、トリエタノールアンモニウム、トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、およびトロメタミン(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)塩。特に、ナトリウム塩およびアンモニウム塩が好ましい。
【0036】
組成物のリン脂質は、商業的供給源から入手され得るか、または種々の異なる植物(植物器官を含む)および動物から単離され得る。好ましくは、植物はダイズ科であるが、リン脂質は他の植物(leguminosaeの植物(マメ(bean)およびエンドウ(pea)など)を含むがこれらに限定されない)から単離され得る。リン脂質はまた、部分精製された植物抽出物(ダイズシロップ(soymolasses)、レシチン、部分精製タンパク質濃縮物、部分精製タンパク質加水分解物、および脂質が抽出され得るその他のダイズ画分を含むがこれに限定されない)からも単離され得る。本明細書に記載の方法を利用して、本発明のリン脂質が特定の種の植物、植物抽出物、または植物内の器官から単離され得るかどうかを決定することは、当業者の技術範囲である。米国特許第3,365,440号は、ダイズからの脂質の抽出を記載する。
【0037】
組成物のリン脂質を生じる任意の植物抽出物またはその部分が、本発明における使用のために適切である。利用され得る植物器官は、幹、葉、根、花、根茎、ならびに好ましくは、種子、塊茎、および鱗茎のような貯蔵器官を含むがこれらに限定されない。好ましくは、利用される植物部分は貯蔵器官である。最も好ましくは、ダイズの乾燥種子が使用される。用語「種子(単数および複数)」が本明細書において使用されるが、この用語が本発明の少なくとも1つのリン脂質を生じる任意の植物部分を包含することが理解されるべきである。
【0038】
リン脂質は、それが本発明の少なくとも1つのリン脂質の精製をもたらすならば、当該分野で公知の任意の方法により、植物供給源から得ることができる。植物供給源からリン脂質を精製しそして分析するための、種々の方法が当該分野において公知である。概説については、以下を参照のこと:BlighおよびDyer(1959)Can. J. Biochem. Physiol. 37:911-917;Pattonら(1982)J.Lipid Res. 23:190-196;Jungalwala(1985)リン脂質分析のための技術における最近の発展、Phospholipids inNervous Tissues(Eichberg編)John Wiley and Sons, 1-44頁;Hamiltonら(1992)A PracticalApproachシリーズ(Rickwoodら編)IRL Press, Oxford University Press;ならびにKates(1986)Techniquesof Lipidology:Isolation, Analysis and Identification in Laboratory Techniquesin Biochemistry and Molecular Biology(Burdonら編)Elsevier。
【0039】
リン脂質はまた、動物供給源に由来し得る。好ましくは、動物は哺乳動物である。さらにより好ましくは、リン脂質は、肝臓細胞に由来する。このようなリン脂質は、市販されているか、または動物組織から当該分野で公知の方法により、例えば、動物および卵レシチンから、または国際公開第WO 95/15173号に記載の組成物から、精製され得る。
【0040】
本発明のリン脂質はまた、当該分野で公知の方法により合成され得る。適切な半合成リン脂質およびその合成は、Kates, Techniques of Lipidology (1972)に記載されている。
【0041】
種々の程度の純度のリン脂質が使用され得る。純度は、2次元TLCまたはHPLCのような当該分野で公知の任意の方法によりアッセイされ得、そして総脂質、リン脂質またはリン酸についてアッセイされ得る。種々の適切な方法が、Kates(1972)に概説されている。好ましくは、リン脂質は、約10mg/mlの総濃度で混合した場合に、混合物が下記のように超音波処理されて、相対的に光透過性溶液を提供し得るに十分な純度でなければならない。好ましくは、リン脂質は少なくとも90%純粋であり、より好ましくは、それらは少なくとも95%純粋であり、そして最も好ましくは、それらは少なくとも99%純粋である。
【0042】
リン脂質は、結合タンパク質を伴って、または伴わないで使用され得る。本明細書において用いられる「結合タンパク質」は、LPAを保護してその活性を保持する任意のタンパク質である。結合タンパク質の例は、ウシ血清アルブミン(BSA)およびエンドウアルブミンのようなアルブミンを含むがこれらに限定されない。
【0043】
ElirexTM組成物の活性に影響し得る他の要因は、リン脂質の鎖長、飽和の程度、コレステロールの存在、ミセル、リポソーム、界面活性剤、および乳化剤の存在、ならびにLPAにおける鎖位置(すなわちグリセロール上の第1または第2の炭素)である。いかなる1つの理論にも拘束されないが、超音波処理は、ElirexTMの活性を増強し得るリポソームおよび/またはミセルあるいは他のマルチラメラ小胞の形成を引き起こし得る。短鎖LPAは、C16およびC18種ほど有効ではない。
【0044】
いかなる1つの理論にも拘束されないが、PA、PI、LPIおよびLPCの存在は、LPAを分解から保護し、そしてLPAの生理学的効果を増強し得ると仮定される。
【0045】
本発明はさらに、ElirexTM組成物の作製方法を含む。リン脂質(PA:PI:LPA:LPI:LPC)は、それぞれ0〜20:5〜20:2〜16:0〜4:0〜8の比の範囲で存在する。好ましくは、これらのリン脂質は、それぞれ約2〜15:8〜15:6〜10:2〜4:2〜8の比率である。好ましい組成物は、リン脂質が、重量でおよそ10:10:8:2:4の比で組み合わされている組成物である。「およそ」の比率は、リン脂質の比が約15%まで、好ましくは5%以下で変動し得ることを意味する。より好ましくは、その比は±0.5%以内である。
【0046】
リン脂質は、D-PBS(リン酸緩衝化生理食塩水、カルシウムおよびマグネシウム塩を含まない;GibcoBRL)または等張性塩化ナトリウムを含有する50mM重炭酸アンモニウムのような、5〜8のpH範囲を有する、好ましくは2価カチオンを含まない任意の緩衝化された溶液中に懸濁され得る。組成物が治療的に使用される場合、緩衝化溶液は、好ましくは生理的に受容可能である。広範囲のpH値が有効である。好ましくはpHは5.5〜8の間であるが、ElirexTMが少なくとも最小限有効である任意のpHが、使用のために適切である。混合物は、pH8において最も活性であることが見出された。好ましくは、リン脂質は、7.7〜8.0のpHを有する、0.154M塩化ナトリウム中の50mM重炭酸アンモニウム中に懸濁される。
【0047】
好ましくは、リン脂質の混合物は、最大の活性を達成するために粉砕される。それがリン脂質を変性もせず、あるいはそうでなければ化学的に改変もしないのであれば、ミクロフルイダイゼーション(microfluidization)、押出し、および超音波処理を含むがこれらに限定されない任意の粉砕方法が使用され得る。代表的には混合物は光学的透明が達成されるまで超音波処理されるが、混合物が過熱されないならば、超音波処理はこの点を超えて継続される。好ましい超音波処理パラメーターは、本明細書の実施例において提供されるパラメーターである。本明細書において用いられる「光学的透明」は、混合物が不透明から光透過性に変化することを示す。この変化は、可視的に容易にモニターされ;さらなる測定は必要ではない。しかし、「光透過性」は、混合物が、約0.2AU未満のO.D.600を有する場合として定義され得る。
【0048】
約50mg/mlまでの濃度が調製され得る。好ましくは、10mg/mlの溶液が使用される。代表的には、超音波処理は、5分間の超音波処理およびそれに続く5分間の平衡化での、5分間の交互サイクルである。しかし、超音波処理される混合物の容積および超音波処理により生成される熱に依存して、これは変動し得る。
【0049】
超音波処理の全体の長さは、超音波処理される混合物の濃度および容積、ならびに超音波処理機の出力に依存する。超音波処理は、混合物が光透過性になるまで進行させるべきである。代表的には、混合物は、3〜90分間超音波処理される。好ましくは、超音波処理は、熱の平衡化および消失をさせるために各期間の間の1〜5分間を伴って、各5分間のいくつかの期間、全部で6〜12期間により進行する。水浴の温度は約60℃を超えるべきではないが;しかし、混合物は活性の有意な損失なしにオートクレーブされ得る。好ましくは、水浴の温度は、37℃を超えさせられない。好ましくは、超音波処理された混合物は、使用前に、無菌フィルターに通される。
【0050】
ElirexTMの活性は、当該分野で公知の多くの抗アポトーシスアッセイにおいて測定され得る。これらは、同一人が所有するPCT公開第WO94/25621号に詳細に記載されるC3H/10T1/2細胞アッセイの血清枯渇(これは好ましいアッセイ法である)および実施例3に記載の方法を包含するが、これらに限定されない。さらに、インビボのアポトーシス阻害は、当該分野で公知の任意の方法によって測定され得る。
【0051】
本発明はさらに、実質的に精製されたElirexTMを含む治療用組成物を包含する。組成物に必要とされる純度レベルは経験的に決定され得、そしてこれは当業者の範囲内である。組成物は、種々の疾患(以下に記載する)、ならびにヒト適用および獣医学的適用の両適用における使用に適切である。
【0052】
一般に、ElirexTM組成物は、治療投与量範囲で毒性が低く、安定であり、そして多数の投与経路用の広範なビヒクルに取り込まれ得るために、薬学的に受容可能である。ElirexTMは、単独または他の薬学的に有効な薬剤(抗生物質、創傷治癒剤、抗酸化剤および他の治療剤を包含するがこれらに限定されない)と組み合わせて投与され得る。適切な抗生物質は、アンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールおよびペニシリンを包含するが、これらに限定されない。適切な創傷治癒剤は、トランスフォーミング成長因子(TGF-β)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)および血小板由来成長因子(PDGF)を包含するが、これらに限定されない。適切な抗酸化剤は、ビタミンCおよびEを包含するが、これらに限定されない。
【0053】
組成物は、少なくとも治療有効量の少なくとも1つのElirexTMを含有し、そして少なくとも1つの生理学的に受容可能なキャリアを含有し得る。生理学的に受容可能なキャリアは、投与の際に有害な身体反応を引き起こさないキャリアであり、そしてElirexTMが治療有効量の化合物を送達するために十分に可溶性であるキャリアである。ElirexTMの治療有効量は、導入の様式および処置される徴候ならびに当業者に明らかな他の規準に部分的に依存する。代表的には、治療有効量は、症状の改善により示されるように、処置中の状態におけるアポトーシスを調整するために十分な量である。代表的には、治療有効量は、ElirexTMの重量で約0.0001%または1μg/mlからであるが、広範な有効量が異なる徴候について用いられ得、そして経験的に決定され得る。特定の徴候において有用である投与経路は、以下に記載され、そしてこれは当業者に周知である。
【0054】
投与経路は、局所、経皮、非経口、胃腸、経気管支および経肺(transalveolar)を包含するが、これらに限定されない。局所投与は、治療有効量のElirexTMを含有する局所的に適用されるクリーム、ゲル、リンスなどによって達成される。経皮投与は、ElirexTMを皮膚を透過させ、血流に侵入させ得るクリーム、リンス、ゲルなどの適用により達成される。非経口投与経路は、直接注入(例えば、静脈内注射、筋内注射、腹腔内注射または皮下注射)を包含するが、これらに限定されない。胃腸投与経路は、摂取および直腸投与を包含するが、これらに限定されない。経気管支および経肺投与経路は、吸入(口腔を介してまたは経鼻のいずれか)および気道への直接注入(例えば、気管切開)を包含するが、これらに限定されない。
【0055】
ElirexTMは、単独で局所投与され得るが、薬学的または美容的に受容可能な局所用キャリアと混合して投与することが望ましいとされ得る。本明細書中で用いられる「薬学的に受容可能な局所用キャリア」は、薬剤の局所投与に従来有用な実質的に非毒性の任意のキャリアであって、ElirexTMが、皮膚または粘膜表面に直接適用されたとき安定かつ生体利用能を有したままであるキャリアである。例えば、ElirexTMは、液体中に溶解されるか、従来の様式で媒体中に分散または乳化されて液体調製物を形成し得るか、または半固体(ゲル)または固体のキャリアと混合されてペースト、散剤、軟膏、クリーム、ローションなどを形成し得る。
【0056】
適切な薬学的に受容可能な局所用キャリアは、水、鉱油ゼリー(ワセリン)、ペトロラタム、鉱油、植物油、動物油、有機および無機ワックス(例えば、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスおよびオゾセライトワックス)、天然ポリマー(例えば、キサンタン、ゼラチン、セルロース、コラーゲン、デンプン、またはアラビアガム)、合成ポリマー(以下に記載する)、アルコール、ポリオールなどを包含する。キャリアは、水に実質的に混和性である水混和性キャリア組成物であり得る。このような水混和性の薬学的に受容可能な局所用キャリア組成物は、上述の1つ以上の適切な成分と共に作製される組成物を含むが、また持続放出性または遅延放出性のキャリア(水含有組成物、水分散性組成物、または水溶性組成物を包含する)をも含み得る。例えば、リポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェアまたはマイクロカプセル、水性基剤軟膏、油中水型または水中油型エマルジョン、ゲルなどが挙げられる。
【0057】
本発明の1つの実施態様では、薬学的に受容可能な局所用キャリアは、持続放出性または遅延放出性のキャリアを含む。キャリアは、より効率的な投与を提供するようにElirexTMの持続または遅延放出を可能にする任意の物質であり、このような投与は、ElirexTMのより低頻度のかつ/または量の少ない投与、扱い易さ、および皮膚科学的症状における効果の長期化または遅延の1つ以上を生じる。キャリアは、処置される領域において油性、脂性、ロウ性、または湿潤環境に曝されたとき、または拡散により、またはElirexTMの放出を得るためのElirexTMのキャリアへの充填の程度に依存した放出により、ElirexTMを放出し得る。このようなキャリアの限定的でない例は、天然および合成ポリマーなどのリポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェア、またはマイクロカプセルを包含する。湿潤環境における持続放出または遅延放出用の適切なキャリアの例は、ゼラチン、アラビアガム、キサンタンポリマーを包含する;充填の程度により、リグニンポリマーなどを包含する;油性、脂性、またはロウ性環境により、熱可塑性または可撓性熱硬化性の樹脂またはエラストマーを包含し、これらは、ポリビニルハライド、ポリビニルエステル、ポリビニリデンハライドおよびハロゲン化ポリオレフィンのような熱可塑性樹脂、ブラジリエンシス(brasiliensis)、ポリジエン、およびハロゲン化天然および合成ゴムのようなエラストマー、およびポリウレタン、エポキシ樹脂などの可撓性熱硬化性樹脂を包含する。好ましくは、持続放出または遅延放出キャリアは、リポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェアまたはゲルである。
【0058】
皮膚科学的症状を処置する方法において用いられる本発明の組成物は、処置される領域に直接適用される。必要ではないが、局所用組成物は、所望の位置で約24〜48時間ElirexTMを維持することが望ましい。
【0059】
所望であれば、局所用の薬学的または美容組成物において従来見出される1つ以上の付加成分が、キャリアと共に含まれ得る。このような成分としては、保水剤、湿潤剤(humectant)、矯臭剤(odor modifier)、緩衝剤、色素、保存剤、ビタミン類(例えばA、CおよびE)、乳化剤、分散剤、湿潤剤(wettingagent)、矯臭剤(odor modifying agent)、ゲル化剤、安定化剤、推進剤(propellant)、抗菌剤、日焼け止め剤、酵素などが挙げられる。局所用の薬学的組成物の当業者は、適切な特定の付加成分およびその量を容易に選択し得る。付加成分の限定的でない適切な例は、スーパーオキシドジスムターゼ、ステアリルアルコール、イソプロピルミリステート、ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート、プロピレングリコール、水、アルカリまたはアルカリ土類ラウリルスルフェート、メチルパラベン、オクチルジメチル-p-アミノ安息香酸(PadimateO)、尿酸、レチクリン、ポリムコ多糖、ヒドロキシエチルデンプン(例えば、Du Pont Pentafraction)、ヒアルロン酸、アロエベラ、レシチン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリエチレングリコール、ビタミンAまたはC、トコフェロール(ビタミンE)、αヒドロキシまたはαケト酸(ピルビン酸、乳酸またはグリコール酸)、または米国特許第4,340,586号、第4,695,590号、第4,959,353号、第5,130,298号および第5,140,043号に開示の局所用成分のいずれかを包含する。
【0060】
処置される皮膚科学的症状は目に見え得るので、局所用キャリアはまた美容的に受容可能な局所用キャリアであり得る。本明細書中で用いられる「美容的に受容可能な局所用キャリア」とは、化粧品の局所投与に従来有用な実質的に非毒性の任意のキャリアであって、ElirexTMが、皮膚表面に直接適用されたとき安定かつ生体利用能を有したままであるキャリアである。適切な美容的に受容可能な局所用キャリアは、当業者に公知であり、そして美容的に受容可能な液体、クリーム、オイル、ローション、軟膏、ゲル、または固体(例えば、従来の美容ナイトクリーム、ファンデーションクリーム、日焼けローション、サンスクリーン、ハンドローション、メーキャップおよびメーキャップベース、マスクなど)を包含するが、これらに限定されない。従って、かなりの程度まで、美容的に受容可能な局所用キャリアと薬学的に受容可能な局所用キャリアは、本質的に、しばしば同一でないにしても類似しており、薬学的に受容可能なキャリアに関する前述の考察のほとんどがまた美容的に受容可能なキャリアに適用される。組成物は、化粧品における他の従来の成分を含有し得、これら成分は、香料、エストロゲン、ビタミンA、CまたはE、αヒドロキシまたはαケト酸(ピルビン酸、乳酸またはグリコール酸)、ラノリン、ワセリン、アロエベラ、メチルまたはプロピルパラベン、色素などを包含する。
【0061】
皮膚科学的な状態または疾患を処置ために使用される組成物中のElirexTMの有効量は、以下の要因に依存して変化し得る:皮膚の状態、皮膚の年齢、用いたリン脂質の特定の比またはその純度の程度、使用した処方およびキャリア成分のタイプ、投与頻度、処置される個体の全身の健康状態など。任意の特定の患者に使用するための正確な量は、薬学分野の当業者により、これらの要因および本発明の開示を考慮して決定され得る。好ましくは、組成物は、1日あたり、少なくとも2回、そして約6回以下で投与され、あるいは持続放出形態または遅延放出形態が使用される場合、それ以下で投与される。
【0062】
局所投与、経口投与、および非経口投与のための組成物は、通常、組成物の全重量に対して、ElirexTMの重量で約0.001%〜約10%、好ましくは組成物に対して、ElirexTMの重量で約0.01%〜約2%、そして特に組成物に対して、ElirexTMの重量で約0.1%〜約1.5%を含有する。
【0063】
局所組成物は、処置することが所望される皮膚または粘膜の領域にコーティングまたは積層を施すことにより投与される。簡便的な実施として、施される物質がその領域にすりこまれる。塗布は皮膚内にすりこまれる必要はなく、そして積層またはコーティングは、皮膚上に一晩置かれ得る。
【0064】
本発明は、経皮投与に適切な組成物を提供する。これらは、薬学的に受容可能なローション、懸濁液、オイル、クリーム、軟膏、リンス、ゲル、および治療有効量のElirexTMが混合されている適切なビヒクル中に懸濁されたリポソームキャリアを含むが、これらに限定されない。このような組成物は、皮膚に直接適用されるか、または経皮デバイス(いわゆる、「パッチ」)のような保護キャリア内に組み込まれる。適切なクリーム、軟膏などの例が、例えば、Physician'sDesk Referenceに見い出され得る。適切な経皮デバイスの例が、例えば、米国特許第4,818,540号(Chienら)に記載されている。
【0065】
本発明は、非経口投与に適切なElirexTMの組成物を含む。これは、薬学的に受容可能な滅菌等張溶液を含むが、これに限定されない。このような溶液は、ElirexTMの静脈内注入、筋肉内注入、腹腔内注入、または皮下注入のための生理食塩水およびリン酸緩衝化生理食塩水を含むが、これらに限定されない。
【0066】
本発明は、胃腸投与に適切なElirexTMの組成物を含む。これは、摂取のための薬学的に受容可能な粉末、ピル、または液体、および直腸投与のための座薬を含むが、これに限定されない。
【0067】
本発明は、気管支および肺胞を介する投与に適切なElirexTMの組成物を含む。これは、種々のタイプの薬学的に受容可能な吸入用エアロゾルを含むが、これらに限定されない。エアロゾルの形態で投与される薬物の例は、Pneumocystiscarniiによって引き起こされる肺炎を予防するために、吸入によりAIDS患者に投与されるペンタミジンである。
【0068】
本発明はさらに、気管支および肺胞を介するElirexTMの投与に適切なデバイスを含む。このようなデバイスは、噴霧器および気化器を含むが、これらに限定されない。本発明はまた、電気的注入または直接注入のためのデバイスを含む。電気的注入(すなわち、イオン導入)は、皮膚を損なうことなく局所的な組織または全身に治療化合物を送達するために、小電流を使用して、荷電した成分、化合物および薬物を皮膚を通して移動させるプロセスである。
【0069】
本発明は、移植前の器官の貯蔵に適切な溶液を含む。適切な溶液は、Chienら(1993)「器官保存のための冬眠誘導トリガー」、MedicalInteligence Unit, R.G. Landes Co. Austin, TXに記載される。ElirexTMは、例えば、現在使用中のより不純なダイズ調製物を置き換え、そしてそれを改良するために使用され得る。
【0070】
上記の組成物は、本発明のElirexTMの投与に適切な組成物を記載することを意味するが、これに限定されない。種々の組成物を製造する方法は、当業者の能力の範囲内であり、本明細書中では詳細に記載されない。
【0071】
注入、局所投与、噴霧器および気化器に適切なデバイスを製造する方法は、当該分野で公知であり、本明細書中では詳細に記載されない。
【0072】
本明細書はさらに、アポトーシスを阻害するために有効な量のElirexTMを投与する工程を包含する、アポトーシスに関連する症状を処置する方法を提供する。これらの方法は、上記の組成物を含む薬学的に受容可能な組成物の治療有効量の投与を必要とする。「治療有効量」は、有益または所望の臨床結果を達成するのに十分な量である。治療有効量は、1つ以上の投与で投与され得る。処置され得る種々のアポトーシス関連の徴候は、加齢の皮膚科学的結末、虚血事象後の再還流の結末、免疫抑制、胃腸混乱、心臓血管疾患、組織移植の拒絶、創傷治癒、およびアルツハイマー病を含むが、これらに限定されない。
【0073】
免疫抑制関連の疾患は、種々の刺激により引き起こされる。刺激としては、HIVを含むが、これに限定されないウイルス、化学治療剤、および放射線を含むが、これらに限定されない。これらの刺激は、消化管組織および関連した胃腸の混乱を含むが、これらに限定されない種々の疾患でのアポトーシスの誘因する。
【0074】
胃腸混乱は、腸の内層への損傷、重篤な慢性潰瘍、大腸炎、放射線誘導の損傷、化学療法誘導の損傷、および寄生虫により引き起こされる胃腸管の混乱、ならびに任意の他の原因に由来する下痢を含むが、これらに限定されない。種々のウイルスおよび細菌の感染が、胃腸混乱をもたらすことが知られている:ELirexTMはまた、これらの感染に関連する副作用の処置における使用に適切である。ElirexTMは、化学療法に関連する胃腸混乱の緩和における使用に特に適する。以前に示されたように、メトトレキセートおよびリン脂質で処置されたラットは、コントロール動物で見出された摂食問題でほとんど苦しまず、そして下痢は全くなかった。下記に示すように、ElirexTMの好ましい実施態様は、天然由来の不純なリン脂質混合物と比較して、200%を越える抗アポトーシス活性を有する。従って、ElirexTMは、化学療法に関連する下痢を予防するだけでなく、吐き気もまた予防することにおける使用に適する。
【0075】
ElirexTMは、動物、特に家畜における種々の胃腸症状の処置に特に適する。このような症状(特に、下痢)は、多くの仔ウシの喪失の原因である。胃腸症状の処置は、好ましくは、胃腸投与による。家畜の場合、有効量のElirexTMは、簡便的には、飼料と混合され得る。ヒトの場合、投与は、胃腸投与の分野における公知の任意の方法により得る。好ましくは、経口投与である。
【0076】
さらに、ElirexTMは、免疫不全患者(特に、HIV陽性患者)に投与され、完全に発症したAIDS患者で見られる免疫不全を悪化させる症状に関連したT細胞のアポトーシス死の予防または少なくともその軽減をし得る。好ましくは、そのような患者へのElirexTMの投与は非経口的であるが、それはまた、経皮または胃腸的であり得る。
【0077】
ElirexTMはまた、種々の症状を含む再還流損傷に関連したアポトーシスを処置するために投与され得る。そのような症状としては、冠状動脈閉塞;大脳梗塞;脊髄/頭部の外傷および付随する重篤な麻痺;凍傷のような他の傷害による再還流損傷;およびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により処置可能と以前に考えられた任意の徴候を含むが、これらに限定されない。心臓病における酸素ラジカルの影響の概説については、Single(1988)「心臓病の病理学における酸素ラジカル」KluwerAcademic Publishers, MA, USAを参照のこと。
【0078】
心筋梗塞および大脳梗塞は、一般的に、閉塞、血栓、または微小領域の壊死を生じる圧力による動脈または静脈の血液供給の突然の不十分により生じる;心臓、脳、脾臓、腎臓、腸、肺および精巣は影響を受けやすい。アポトーシスは、血液がその領域に再還流する際に、梗塞部の周囲の組織で生じる;従って、ElirexTMは、再還流中またはその直後に、梗塞の開始時に投与される場合、有効である。
【0079】
従って、本発明は、再還流に関連したアポトーシスを処置する方法を含み、これは、そのような治療を必要とする患者に治療有効量のElirexTMを投与する工程を包含する。
【0080】
本発明はさらに、そのような治療を必要とする患者に治療有効量のElirexTMを投与することにより、心臓発作および心拍動(heartstroke)の高い危険性を有する患者について、心筋梗塞および大脳梗塞に関連したアポトーシスおよび再還流損傷を軽減する方法を含む。
【0081】
好ましくは、再還流損傷の処置は、本発明の組成物の非経口投与による。しかし、任意の他の適切な方法、例えば、心筋梗塞の場合、直接的な心筋注入が使用され得る。そのような注入のためのデバイス、例えば、Aboject心筋シリンジが、当該分野で公知である。
【0082】
本発明はさらに、哺乳動物の器官、組織、および細胞を培養または維持する分野で使用される任意の培地または溶液に有効量のElirexTMを添加することにより、哺乳動物の器官、組織、および細胞の培養または維持の間の細胞のアポトーシスを制限および防止する方法を提供する。
【0083】
本発明はさらに、哺乳動物の器官、組織、および細胞を培養または維持する分野で公知の任意の培地および溶液を包含する。これは、培養中の細胞のアポトーシスを制限または予防するのに有効な量のElirexTMを含む。
【0084】
本発明のこれらの局面は、有効量の少なくとも1つのElirexTMを含む哺乳動物細胞培養培地、および哺乳動物細胞培養におけるアポトーシスを制限または予防するためのそのような培地の使用を包含する。有効量は、アポトーシスの速度を減少させる量である。ElirexTMは、通常アポトーシスを刺激する穏和な外傷に細胞が曝される環境下でアポトーシスを制限または予防することが見出された。そのような外傷は、低レベルの放射線、凍結細胞のストックの融解、培養培地の温度、pH、浸透圧またはイオン濃度の急速な変化、培養培地の至適でない温度、pH、浸透圧またはイオン濃度への長い曝露、細胞毒への曝露、初代細胞培養の調製におけるインタクトな(intact)組織からの細胞の解離、血清涸渇(または無血清培地での増殖)を含み得るが、これらに限定されない。
【0085】
従って、本発明は、組織培養培地および有効量のElirexTMを含む組成物を含む。抗アポトーシス培地補充物としてElirexTMが添加され得る無血清培地は、AIMV(R) Media、Neuman and Tytell's Serumless Media、Trowll's T8 Media、Waymouth's MB752/1および705/1 Media、およびWilliams' Media Eを含むが、これらに限定されない。無血清培地に加えて、抗アポトーシス培地補充物としてElirexTMが添加され得る適切な哺乳動物細胞培養培地は、BasalMedia Eagle's、Fischer's Media、McCoy's Media、Media 199、RPMI Media 1630および1640、F-10およびF-12Nutrient Mixturesに基づく培地、Leibovitz's L-15 Media、Glasgow Minimum Essential Media、ならびにDulbecco'sModified Eagle Mediaを含むが、これらに限定されない。ElirexTMが添加され得る哺乳動物細胞培養培地はさらに、当該分野で公知の任意の培地補充物を含む。これらは、糖、ビタミン、ホルモン、金属タンパク質、抗体、抗真菌剤、成長因子、リポタンパク質、および血清を含むが、これらに限定されない。
【0086】
本発明はさらに、移植前の哺乳動物器官を維持するための溶液(これは、有効量のElirexTMを含む)、ならびに移植前のそれらの外科的な取り出しおよび取り扱いの間のそのような哺乳動物器官におけるアポトーシスを制限または予防するそのような溶液の使用を包含する。すべての場合、アポトーシスを制限および防止するために必要とされるElirexTMの濃度は、下記の実施例中に見出される方法のような方法、ならびに当該分野で公知の他の方法によって、当業者により経験的に決定され得る。
【0087】
ElirexTMは、局所的に皮膚に適用され、種々の皮膚科学的症状を処置し得ることが今や見出されている。これらの症状は、年齢によるしわ、たるみおよび/または光損傷または乾癬を含むが、これらに限定されない。従って、本発明は、皮膚科学的症状を処置する方法を包含する。さらに、禿頭症は、毛包の細胞のアポトーシスにより引き起こされ得る。従って、ElirexTMは、持続した毛髪喪失を防止するために、皮膚の局所的な処置における使用に適する。Stennら、(1994)J. Invest. Dermatol. 103:107-111。
【0088】
上記のように、これらの症状は、好ましくは、有効量のElirexTMを含む組成物の局所的適用により処置される。有効量のElirexTMは、皮膚科学的症状の徴候を改善または軽減する量である。好ましくは、処置は、皮膚科学的症状の解決または正常な皮膚機能の回復を生じる;しかし、徴候の何らかの改善または低減は、本発明により包含される。
【0089】
以下の実施例は、例示のために提供されるが、本発明を限定しない。
【実施例】
【0090】
実施例1
再構成された最適混合物の合成
商業的に利用可能な精製されたダイズリン脂質PA、PI、LPA、LPI、LPC(例えば、Avanti(R)Polar Lipids, Inc.)を、154mM NaClを含む50mM重炭酸アンモニウム(pH8.0)または5〜8の範囲のpHを有する二価のカチオンを含まない緩衝化水性溶液中に懸濁した。超音波処理の際に透明が得られる場合、10mg/mlよりも多い全濃度のリン脂質が使用され得る。約50mg/mlまでの総濃度が利用されている。
【0091】
代表的には、リン脂質混合物は緩衝液に懸濁され、そして混合物は使い捨てのホウ珪酸ガラス中に、好ましくは、16×100mmチューブ中に2〜3ml、または13×100mmチューブ中に1.2ml、または12×75mmチューブ中に1mlまでで置かれる。次いで、リン脂質の組み合わせを超音波処理する。好ましくは、9×19cmの大きさの長円形の浴を有し、24Wの消費電力で40kHzの周波数で操作されるBransonモデル200のような、小型浴の超音波処理機が使用される。水浴の温度は約21〜40℃の間であり、好ましくは約25〜37℃の間である。水のレベルは、ガラスチューブ中のリン脂質混合物とほぼ同じ高さになるように調節される。あるいは、混合物の過熱を防止するように注意して取り扱われる限り、プローブ超音波処理機(FisherScientific Sonic Dismembratorモデル550)が使用され得る。
【0092】
混合物が光透過性になり、そして5mlのシリンジに取り付けた0.22μmの孔サイズのフィルターを容易に通過するまで、混合物を、5分間の平衡化が続く5分間隔の超音波処理を交互に行い、3〜90分の間、超音波処理した。
【0093】
種々の温度でのElirexTMの安定性を図1に示す。ElirexTMを1週間、4℃、室温、および65℃で貯蔵した。結果は、65℃での貯蔵後に活性の消失を示したが、4℃または室温で貯蔵したElirexTMは活性を有意に消失しなかった。
【0094】
それぞれの成分リン脂質の最適化を、一度に1つのリン脂質を変化させて、精製されたリン脂質を種々の比で混合することによって決定した。各混合物を抗アポトーシス活性について実施例2に記載するように分析した。見かけ上の最適比が得られた場合、絶対的に最適な活性を見出すために最も活性な構成要素の比を変化させた。以下の表は試験した最終的な比を示す。
【0095】
【表1】

【0096】
得られた結果を図5〜6に示す。活性におけるこれらのパラメーターの効果を決定するために、LPAの濃度を鎖長と同様に変化させた。種々の温度でのElirexTMの安定性を図1に示す。
【0097】
実施例2
C3H/10T1/2細胞を用いるアポトーシスアッセイ
ElirexTMのアポトーシス活性を決定するために、以下の実験を行った。細胞アッセイは、PCT国際公開番号第WO94/25621号および同第WO95/15173号に記載される。簡潔には、細胞(C3H/10T1/2クローン8)を、G0期で停止し、そして休止している細胞を含まない、細胞周期位置がランダムに分布する指数増殖期中に50〜80%のコンフルエントでアッセイした。指数増殖期は、実験を開始する5日前に1ml(60mm培養プレートについて5ml)あたり2000細胞で播種することによって確実に達成された。T=0で、培養物をアポトーシスの刺激として無血清培地に移し、そして種子抽出物を添加した。細胞培養物の応答性を確実にするために、コントロールは10-7および5×10-8Mの12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)を含んだ。ElirexTMサンプルを、無血清培地に添加し、そして培養物へ添加する前に滅菌濾過した。アッセイを三連または四連で行った。細胞応答の分析を、ElirexTMでの処理を行ったか、または行っていない血清枯渇の18〜28時間の間に行った。2つのアッセイを、異なる細胞数からなる各細胞培養プレート上で行った。
【0098】
1.全ての非接着細胞または緩く接着した細胞を培養ディッシュから取り出し、そして適切な技術により(代表的には、電気的な粒子計数器により)計数した。これらは、無血清培地中での培養の作用により放出される血清枯渇放出細胞(SDR)である、アポトーシス性の細胞である。これらの放出細胞の約95%が、超構造分析およびDNAフラグメンテーション分析の両方によって示されるようにアポトーシス性である。
【0099】
2.残りの接着細胞(ADH)を、緩衝化(代表的には、pH7.3)した平衡化塩溶液、例えば、0.05%トリプシンおよび0.53mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含み、カルシウム塩およびマグネシウム塩を含まないHanksBalanced Salt Solutionに曝す。各培養物を、室温または37℃のいずれかで振動台上でインキュベートして、トリプシン試薬の培養物表面への均等な分布を確実にする。標準化された時間(代表的には、10分)の後、放出された細胞を各培養ディッシュから取り出し、そして上記と同じ手段(代表的には、電気的な粒子計数)によって測定する。PCT国際公開番号第WO94/25621号に記載されるように、このADH細胞数は、トリプシン耐性細胞およびトリプシン感受性細胞の両方からなる。
【0100】
抗アポトーシス活性を、無血清処理のときに放出された細胞の50%を保護するために必要とされる、計算された物質の濃度(μg/ml培地)として表す。
【0101】
アポトーシス細胞アッセイにより得られた結果を図7〜8に示す。これらの図において、アポトーシスを受けた細胞(SDR)および接着細胞(ADH)パーセントを別々に示す。図中のデータは、Basal Medium Eagle's (BME)、血清枯渇コントロールと比較して、ElirexTM組成物がコンフルエントな細胞のアポトーシスを減少させるために有効であることを示す。
【0102】
実施例3
pHおよび塩濃度の関数としてのElirexTMの抗アポトーシス活性
ElirexTM組成物を、異なるpHおよび塩濃度で抗アポトーシス活性の変化について試験した。
【0103】
ElirexTM活性を、実施例1の記載のように、全て50mMで、154mM塩化ナトリウム(等浸透圧)の存在下での、重炭酸アンモニウム(pH8.0)、またはリン酸ナトリウム(pH6.5)、またはHEPES(pH6.5)、または酢酸ナトリウム(pH5.0)に、リン脂質を再懸濁することにより試験した。得られた結果を図1に示す。pH8が最も良好な活性を生じるようである。
【0104】
塩濃度の効果を試験するために、pH8の溶液を0、100、500、および1000mMの塩化ナトリウム濃度で試験した。全てのサンプルを濃縮溶液として調製し、そして細胞を処理するためにBMEで希釈した。最適な塩濃度は100〜200mMの間であることが見出された(この結果は示さない)。
【0105】
種々の温度での貯蔵安定性もまた試験した。全ての溶液を、4、37、および60℃で1週間貯蔵し、そして活性について試験した。得られた結果を図1に示す。
【0106】
最適な溶液は、4℃で保存された、50mM重炭酸アンモニウム(pH8.0)中の104mM塩化ナトリウムであることが見出された。
【0107】
上記の発明は、理解を明確にする目的のために、説明および実施例の方法によっていくらか詳細に記載されるが、特定の変更および改変が行われ得ることが当業者に明らかである。従って、記載および実施例は、添付の請求の範囲によって記載される本発明の範囲を限定するようには解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1A】図1(A)および1(B)は、1週間、種々の温度で貯蔵された場合の、ElirexTM(以前には「ROM」と呼ばれた)の安定性を示す棒グラフである。棒の斜線部分は、生接着細胞(ADH)を示す。棒の黒い部分(solidportion)は、アポトーシス性の血清枯渇の遊離細胞(SDR)を示す。安定性は、細胞密度(図1(A))および割合(図1(B))により表される。図1(A)について、白丸は、接着細胞の統計学的に有意な増加を示し;黒丸はアポトーシス細胞の統計学的に有意な減少を示す。図1(B)について、白ダイアモンドは、保護された細胞の統計学的に有意な割合を示し;黒ダイアモンドはアポトーシス細胞の統計学的に有意な割合を示す。
【図1B】図1(A)および1(B)は、1週間、種々の温度で貯蔵された場合の、ElirexTM(以前には「ROM」と呼ばれた)の安定性を示す棒グラフである。棒の斜線部分は、生接着細胞(ADH)を示す。棒の黒い部分(solidportion)は、アポトーシス性の血清枯渇の遊離細胞(SDR)を示す。安定性は、細胞密度(図1(A))および割合(図1(B))により表される。図1(A)について、白丸は、接着細胞の統計学的に有意な増加を示し;黒丸はアポトーシス細胞の統計学的に有意な減少を示す。図1(B)について、白ダイアモンドは、保護された細胞の統計学的に有意な割合を示し;黒ダイアモンドはアポトーシス細胞の統計学的に有意な割合を示す。
【図2A】図2(A)および2(B)は、10T 1/2細胞におけるNMとRNMとの抗アポトーシス活性を比較する棒グラフである。棒の斜線部分は、生細胞(ADH)を示す。棒の黒い部分は、アポトーシス性の血清枯渇の遊離細胞を示す。NMは、抗アポトーシス活性を示すダイズ由来の抽出物である。RNMは、10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)の比を有する再構成された脂質混合物である。RNM+は、0.01%の最終濃度でウシ血清アルブミン(BSA)を加えたRNMである。抗アポトーシス活性は、細胞密度(図2(A))および割合(図2(B))により表される。図2(A)について、白丸は、生細胞の統計学的に有意な増加を示し;黒丸はアポトーシス細胞の統計学的に有意な減少を示す。図2(B)について、白ダイアモンドは、保護された細胞の統計学的に有意な割合を示し;黒ダイアモンドはアポトーシス細胞の統計学的に有意な割合を示す。
【図2B】図2(A)および2(B)は、10T 1/2細胞におけるNMとRNMとの抗アポトーシス活性を比較する棒グラフである。棒の斜線部分は、生細胞(ADH)を示す。棒の黒い部分は、アポトーシス性の血清枯渇の遊離細胞を示す。NMは、抗アポトーシス活性を示すダイズ由来の抽出物である。RNMは、10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)の比を有する再構成された脂質混合物である。RNM+は、0.01%の最終濃度でウシ血清アルブミン(BSA)を加えたRNMである。抗アポトーシス活性は、細胞密度(図2(A))および割合(図2(B))により表される。図2(A)について、白丸は、生細胞の統計学的に有意な増加を示し;黒丸はアポトーシス細胞の統計学的に有意な減少を示す。図2(B)について、白ダイアモンドは、保護された細胞の統計学的に有意な割合を示し;黒ダイアモンドはアポトーシス細胞の統計学的に有意な割合を示す。
【図3A】図3(A)および3(B)は、植物由来リン脂質および動物由来リン脂質を用いてRNMの抗アポトーシス活性を比較する棒グラフである。用量濃度は、100μg/mLであった。0.01%の最終濃度でのBSAの非存在または存在下。棒の斜線部分は、細胞(ADH)を示す。棒の黒い部分は、アポトーシス細胞(SDR)を示す。抗アポトーシス活性は、細胞密度(図3(A))および割合(図3(B))により表される。各図について、第2および第3の棒は、ダイズ由来リン脂質を示し;第4および第5の棒は、動物由来リン脂質を示す。図3(A)について、白丸は、生細胞(ADH)の統計学的に有意な増加を示し;黒丸はアポトーシス細胞(SDR)の統計学的に有意な減少を示す。図3(B)について、白ダイアモンドは、保護された細胞の統計学的に有意な割合を示し;黒ダイアモンドはアポトーシス細胞の統計学的に有意な割合を示す。
【図3B】図3(A)および3(B)は、植物由来リン脂質および動物由来リン脂質を用いてRNMの抗アポトーシス活性を比較する棒グラフである。用量濃度は、100μg/mLであった。0.01%の最終濃度でのBSAの非存在または存在下。棒の斜線部分は、細胞(ADH)を示す。棒の黒い部分は、アポトーシス細胞(SDR)を示す。抗アポトーシス活性は、細胞密度(図3(A))および割合(図3(B))により表される。各図について、第2および第3の棒は、ダイズ由来リン脂質を示し;第4および第5の棒は、動物由来リン脂質を示す。図3(A)について、白丸は、生細胞(ADH)の統計学的に有意な増加を示し;黒丸はアポトーシス細胞(SDR)の統計学的に有意な減少を示す。図3(B)について、白ダイアモンドは、保護された細胞の統計学的に有意な割合を示し;黒ダイアモンドはアポトーシス細胞の統計学的に有意な割合を示す。
【図4】図4は、例としてPIを用いてダイズ由来[A]リン脂質およびウシ肝臓由来[B]リン脂質の脂肪酸含有量を比較する(AvantiPolar Lipids 1994カタログから採用)。黒棒は飽和脂肪酸を示し;斜線の棒は不飽和脂肪酸を示す。脂肪酸の各種は、X:Yで示され、Xは鎖の長さを示し、そしてYは二重結合の数を示す。「S/U」は不飽和脂肪酸に対する飽和脂肪酸の比をいう。
【図5A】図5(A)から(E)は、RNMにおける種々の濃度での、PA(図5(A))、PI(図5(B))、LPA(図5(C))、LPI(図5(D))、およびLPC(図5(E))の抗アポトーシス活性を示す一連のグラフである。残存するリン脂質の比は、目的のリン脂質の濃度(μg/mL)を変えることで、それぞれ10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)で一定に保持された。矢印は、100μg/ml用量での10:10:2:2:1比のリン脂質の開始濃度を示す。
【図5B】図5(A)から(E)は、RNMにおける種々の濃度での、PA(図5(A))、PI(図5(B))、LPA(図5(C))、LPI(図5(D))、およびLPC(図5(E))の抗アポトーシス活性を示す一連のグラフである。残存するリン脂質の比は、目的のリン脂質の濃度(μg/mL)を変えることで、それぞれ10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)で一定に保持された。矢印は、100μg/ml用量での10:10:2:2:1比のリン脂質の開始濃度を示す。
【図5C】図5(A)から(E)は、RNMにおける種々の濃度での、PA(図5(A))、PI(図5(B))、LPA(図5(C))、LPI(図5(D))、およびLPC(図5(E))の抗アポトーシス活性を示す一連のグラフである。残存するリン脂質の比は、目的のリン脂質の濃度(μg/mL)を変えることで、それぞれ10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)で一定に保持された。矢印は、100μg/ml用量での10:10:2:2:1比のリン脂質の開始濃度を示す。
【図5D】図5(A)から(E)は、RNMにおける種々の濃度での、PA(図5(A))、PI(図5(B))、LPA(図5(C))、LPI(図5(D))、およびLPC(図5(E))の抗アポトーシス活性を示す一連のグラフである。残存するリン脂質の比は、目的のリン脂質の濃度(μg/mL)を変えることで、それぞれ10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)で一定に保持された。矢印は、100μg/ml用量での10:10:2:2:1比のリン脂質の開始濃度を示す。
【図5E】図5(A)から(E)は、RNMにおける種々の濃度での、PA(図5(A))、PI(図5(B))、LPA(図5(C))、LPI(図5(D))、およびLPC(図5(E))の抗アポトーシス活性を示す一連のグラフである。残存するリン脂質の比は、目的のリン脂質の濃度(μg/mL)を変えることで、それぞれ10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)で一定に保持された。矢印は、100μg/ml用量での10:10:2:2:1比のリン脂質の開始濃度を示す。
【図6】図6は、種々の濃度での各リン脂質の抗アポトーシス活性を示す図5の実験の要約したグラフである。残存するリン脂質は、目的のリン脂質の100μg/mL当量用量で濃度(μg/ml)を変えることで、10:10:2:2:1(PA:PI:LPA:LPI:LPC)の一定の比で保持された。リン脂質は、グラフ上で以下のように示される:LPC(実線でつないだ四角);LPI(実線でつないだ丸);LPA(実線でつないだ三角);PA(点線でつないだ四角);PI(点線でつないだ丸)。
【図7】図7は、種々の用量の再構成RNMおよびElirexTMの抗アポトーシス活性を比較するグラフである。ElirexTMは、実線でつないだ白四角により示され、そして図5および図6に由来する最適化リン脂質比である。抗アポトーシス活性は、保護された細胞の割合により表される。
【図8】図8は、種々のpHレベルで調製され、そしてBasal Medium Eagle(BME)に希釈されたElirexTMの抗アポトーシス活性を示す。点線でつないだ黒三角は、BME中における種々の濃度(μg/ml)でのElirexTMの抗アポトーシス活性を示す。黒四角は、pH8(重炭酸アンモニウム緩衝液)でのElirexTM(100μg/ml)の活性を示す。黒三角は、pH5.0(酢酸ナトリウム緩衝液)でのElirexTMの活性を示す。黒丸は、pH6.5(リン酸ナトリウム緩衝液)でのElirexTMの活性を示す。全て、最初に、細胞培養培地での希釈の前に、100〜200mMNaClを含む試験緩衝液中の10μg/mlで超音波処理により再懸濁した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−101009(P2008−101009A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297344(P2007−297344)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【分割の表示】特願平9−512148の分割
【原出願日】平成8年9月13日(1996.9.13)
【出願人】(506419342)エルエックスアール バイオテクノロジー インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】