説明

リン酸化タンパク質のプロテオーム解析方法

【課題】タンパク質は翻訳後に種々の修飾を受けることが知られており、その中でもタンパク質のリン酸化は、さまざまなタンパク質の生理活性や酵素活性を変化させ、細胞内情報伝達や細胞内代謝活性を調節するものとして主要なものである。よって、細胞内におけるタンパク質のリン酸化を解析することは非常に重要である。サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく、かつ、短時間に検出する。また、サンプル中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製する。
【解決手段】金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを使用することを特徴とする、当該サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を検出する方法に関する。また、本発明は、金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製(本明細書において、「精製」とは、分離および/または濃縮(enrichment)することを含むものとする)する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)(容量対容量百分率を表す。本明細書および特許請求の範囲について同じ。)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することを特徴とする、サンプル中の1または複数種のリン酸化タンパク質を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのタンパク質は、翻訳後に種々の修飾を受けることが知られている。その中でもタンパク質のリン酸化は、さまざまなタンパク質の生理活性や酵素活性を変化させ、細胞内情報伝達や細胞内代謝活性を調節するものとして主要なものである。よって、細胞内におけるタンパク質のリン酸化を解析することは非常に重要である。これまでに、タンパク質のリン酸化について調べる様々な手法が開発されてきており、その一つに、質量分析計を用いた分析法がある(非特許文献1)。
【0003】
具体的には、電気泳動などによって分離、精製したタンパク質を酵素消化してMALDI-TOF/MSなどで測定する。これによって得られたペプチド・マス・フィンガープリントとデータベースとを照合してタンパク質の同定を行う。その際にアミノ酸の一次配列から得られる理論値よりも80 Da大きいペプチド鎖があるなら、そのペプチド鎖のどこか一ヶ所がリン酸化されている可能性が高い。そして、そのペプチド鎖をアルカリフォスファターゼ処理により特異的にリン酸基をはずして、もう一度質量分析計で測定した際に、今度はそのペプチド鎖が80 Da小さくなって理論値と一致すれば、そのペプチド鎖は一ヶ所リン酸化されていたことになる(非特許文献2)。
【0004】
このように、ある1つのタンパク質のリン酸化については、そのタンパク質を消化してペプチド断片を質量分析計で解析していけば、リン酸化ペプチド、そしてリン酸化部位を同定することが可能である。
【0005】
しかしながら、プロテオーム解析においては一度に測定するタンパク質の数が数百から数千になる。ここで、用語「プロテオーム解析」とは、遺伝子情報と細胞内で複雑に相互作用している多様なタンパク質との関係を明らかにする解析のことをいう(非特許文献3)。つまり、プロテオーム解析は、細胞を構成するすべてのタンパク質を網羅的に解析する手法をいう。
【0006】
そのため、プロテオーム解析においては、質量分析スペクトルを一つ一つ確認することは極めて困難であり、自動検索エンジン(例えば、MASCOT等)の結果を鵜呑みにする場合がほとんどである。
【0007】
このとき、通常、プロテオーム解析ではタンパク質データベース(例えば、NCBInr、IPI、Sport等)を使用するが、自動検索エンジン(例えば、MASCOT等)を用いた場合、偽陽性および偽陰性が非常に多くなること、また、検索時間に膨大な時間を要することから、プロテオーム解析を効率よく高精度に行うことが困難である。
【0008】
通常、タンパク質の多くは、リン酸化されている分子とされていない分子が混在しており、ほとんどのタンパク質分子がリン酸化されているタンパク質はほとんどない。また、タンパク質分子が複数箇所リン酸化されていたり、他種のタンパク質が混在していたりするため、リン酸化タンパク質を質量分析計で直接検出することは困難である。
【0009】
さらに、一般的に、タンパク質がリン酸化を受けるとそのタンパク質の質量分析計での検出感度が下がることが知られている。そのため、目的のタンパク質を純度よく精製できなかったり、少量しか精製できなかったりすると、リン酸化タンパク質を検出することは困難である。それゆえ、サンプル中の目的のタンパク質が極めて少ない場合には、リン酸化タンパク質を検出することは極めて困難である。したがって、リン酸化タンパク質を網羅的に解析するためには、リン酸化タンパク質を特異的に精製してから質量分析計で測定することが望ましい。
【0010】
リン酸化タンパク質を特異的に精製する方法として、金属固定化アフィニティークロマトグラフィー(以下、IMACと称することがある)が汎用されている。IMACカラムは、複数のカルボン酸を介したキレート形成基に金属として3価の鉄イオンもしくはガリウムを固定化したものからなる。三価の鉄イオンにリン酸基が特異的に強く結合する性質があるため、IMACカラムにリン酸化タンパク質を結合させることができる。IMACカラムにリン酸基を結合させるときは酸性条件下で行い、リン酸基を遊離させるには溶媒のpHを弱アルカリにするもしくはリン酸緩衝液による競合的溶出手段が用いられる(非特許文献4-12)。
【0011】
しかし、カルボン酸もIMACカラムに対して親和性を持つため、酸性アミノ酸を有するペプチドもまた多かれ少なかれIMACカラムに結合する。そのため、IMACカラムを用いてリン酸化タンパク質のみを精製するのは容易ではない。
【0012】
この問題を解決するため、タンパク質をトリプシンで消化後に、無水メタノール・塩酸液中でカルボン酸のメチルエステル化を行うことでIMACカラムに対する酸性アミノ酸の吸着を抑える精製方法が報告されている(非特許文献13)。しかし、エステル化反応が定量的に進行しなかったり、副反応が起きたり、選択性が期待通りよくならなかったり、エステル化した後にペプチドが不溶化したりするため、特異的に精製できないことも多い(非特許文献14)。
【0013】
さらには、従来からリン酸化タンパク質の精製に用いられているDihydroxy Benzoic Acid(以下、「DHB」と称する場合がある)は、MALDI-MSには使えるが、LC-MSには使えない。
このような状況下では、リン酸化タンパク質を検出することが困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Shou W et al., Methods Enzymol. 2002, 351:279-296.
【非特許文献2】McLachlin DT et al., Curr Opin Chem Biol. 2001: 5, 591-602.
【非特許文献3】Gerard D et al., Current Opinion in Cell Biology. 2003: 15(2), 199-205.
【非特許文献4】Watts JD et al., J Biol Chem 1994, 269:29520-29529.
【非特許文献5】Michel H et al., J Biol Chem. 1991 , 266:17584-17591.
【非特許文献6】Neville DC et al., Protein Sci 1997, 6:2436-2445.
【非特許文献7】Posewitz MC et al., Anal Chem 1999, 71:2883-2892.
【非特許文献8】Wu X et al., Nature 2000, 405:477-482.
【非特許文献9】Stensballe A et al., Proteomics 2001, 1:207-222.
【非特許文献10】Zhou W et al., J Am Soc Mass Spectrom 2000, 11:273-282.
【非特許文献11】Nuwaysir LM et al., J Am Soc Mass Spectrom 1993, 4:662-669.
【非特許文献12】Haydon CE et al., Mol Cell Proteomics 2003, 2:1055-1067.
【非特許文献13】Ficarro SB et al., Nat Biotechnol. 2002, 20: 301-305.
【非特許文献14】Nuhse TS et al., Mol Cell Proteomics 2003, 2:1234-1243.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく、かつ、短時間に検出することにある。
また、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成し、サンプルから分離したリン酸化タンパク質を質量分析計により測定し、測定の結果得られたデータを、当該作成されたデータベースを使用して解析することにより、サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく、かつ、短時間に検出できることを見出した。
【0017】
また、金属固定化担体によるリン酸化タンパク質の精製において、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有し、さらにトリフルオロ酢酸を0.1%以上(V/V)以上1.0%(V/V)以下または塩酸を0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下含有する溶液を使用することにより、非特異的吸着が劇的に減少し、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを使用することを特徴とする、当該サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を検出する方法。
(2)サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを使用することを特徴とする、当該サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を検出する方法であって、
(a) サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を分離する工程と、
(b) 当該分離されたリン酸化タンパク質の質量を分析する工程と、
(c) 工程(b)で得られたデータを、上記データベースから検索してリン酸化タンパク質を検出する工程と、
を含む、前記方法。
(3)サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースが、
(a) サンプル中の複数種のタンパク質の質量を分析する工程と、
(b) 得られた分析結果よりタンパク質を同定する工程と、
(c) 当該同定されたタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成する工程と、
を含む工程から作成されるものである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースが、サンプル中の複数種のタンパク質の質量分析により同定されたタンパク質に関するものである、(1)または(2)に記載の方法。
(5)サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを使用することを特徴とする、当該サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を検出する方法であって、
(a) サンプル中の複数種のタンパク質の質量を分析する工程と、
(b) 得られた分析結果よりタンパク質を同定する工程と、
(c) 当該同定されたタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成する工程と、
(d) サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を分離する工程と、
(e) 当該分離されたリン酸化タンパク質の質量を分析する工程と、
(f) 工程(e)で得られたデータを、工程(c)で得られたデータベースから検索してリン酸化タンパク質を検出する工程と、
を含む、前記方法。
(6)サンプルが、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)サンプル中の複数のリン酸化タンパク質を分離する工程が、金属固定化担体またはチタニア担体と、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液とを使用することを特徴とするものである、(2)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することを特徴とする、前記方法。
(9)金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、
アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を、金属固定化担体若しくはチタニア担体の平衡化溶媒、サンプルを溶解する溶媒および/または金属固定化担体若しくはチタニア担体における展開溶媒として使用することを特徴とする、前記方法。
(10)金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、
アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液で金属固定化担体またはチタニア担体を平衡化する工程と、
サンプルを、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液に溶解する工程と、
当該溶解したサンプルと、前記平衡化された担体とを接触させる工程と、
リン酸化タンパク質を溶出させる工程と、
を含む、前記方法。
(11)アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液が、さらに酸を含有する溶液である、(8)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)酸が強酸である、(11)に記載の方法。
(13)強酸が、トリフルオロ酢酸または塩酸である、(12)に記載の方法。
(14)トリフルオロ酢酸の濃度が、0.1%(V/V)以上1.0%(V/V)以下である、(13)に記載の方法。
(15)塩酸の濃度が、0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下である、(13)に記載の方法。
(16)金属固定化担体に固定される金属イオンが、鉄イオン(III)またはガリウムイオン(III)である、(8)〜(15)のいずれか1項に記載の方法。
(17)Dihydroxy Benzoic Acidを含まないことを特徴とする、(8)〜(16)のいずれか1項に記載の方法。
(18)アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液を含む、リン酸化タンパク質精製キット。
(19)(8)〜(17)のいずれか1項に記載の方法に使用するための、(18)に記載のキット。
(20)アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液を含む、リン酸化タンパク質精製溶液。
(21)(8)〜(17)のいずれか1項に記載の方法に使用するための、(20)に記載の溶液。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく検出することができ、かつ、検索時間も短縮することが可能になった。
【0020】
すなわち、従来の自動検索エンジン(例えば、MASCOT等)およびタンパク質データベース(例えば、NCBInr、IPI、Sport等)を使用する方法では、偽陽性および偽陰性が非常に多く、また、検索時間に膨大な時間を要していたが、リン酸化タンパク質を検出する対象となる被検サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成し、サンプルから分離したリン酸化タンパク質を質量分析計により測定し、測定の結果得られたデータを、当該作成されたデータベースを使用して解析することにより、サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく、かつ、短時間に検出できるようになった。また、従来の方法では検出できなかったリン酸化タンパク質をも検出することができるようになった。
【0021】
また、本発明により、金属固定化担体またはチタニア担体によるリン酸化タンパク質の精製において、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有し、さらに好ましくはトリフルオロ酢酸(例えば、0.1%(V/V)以上1.0%(V/V)以下)または塩酸(例えば、0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下)などの強酸を含有する溶液を使用することにより、非特異的吸着が劇的に減少し、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが可能となった。
【0022】
従来の方法では、カルボン酸もIMACカラムに対して親和性を持つため、酸性アミノ酸を有するタンパク質もまた多かれ少なかれIMACカラムに結合する。したがって、IMACカラムを用いてリン酸化タンパク質のみを精製するのは容易ではなかった。また、疎水性ペプチドもIMACに対して非特異的な作用を有するため除去できないことが多かった。これに対し、本発明の方法により、カルボン酸や疎水性によるIMACカラムに対する吸着を抑制することができ、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが可能となった。
【0023】
さらには、タンパク質のカルボン酸のメチルエステル化を行うことでIMACカラムに対する酸性アミノ酸の吸着を抑える精製方法における課題点、すなわち、エステル化反応が定量的に進行しなかったり、副反応が起きたり、選択性が期待通り改良しなかったり、エステル化した後にペプチドが不溶化したりするため、特異的に精製できないことも多いという課題点についても解決し、本発明の方法はメチルエステル化を行うことなくサンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが可能となった。
【0024】
また、本発明は、リン酸化タンパク質の精製においてDHBを用いる必要がないため、DHBを除く操作をすることなく、精製したサンプルをMALDI-MSのみならずLC-MSにおいても測定することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のタンパク質検出方法の模式図である。
【図2】図2は、NCBInrデータベースにおけるFASTA形式で表されたgi番号およびアミノ酸配列を示す(gi|2853677:配列番号4、gi|2564245:配列番号5)。先頭文字が”>”で始まる行がタンパクの名称を示し、次の行がアミノ酸配列を示し、この2行の塊が複数個で構成される。
【図3】図3は、金属固定化担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法において、0.1 Mの酢酸水を使用し、精製したリン酸化タンパク質を質量分析計で測定した結果を表す。オボアルブミンの2ヶ所のリン酸化タンパク質(EVVGSAEAGVDAASVSEEFR 2089(配列番号1)およびLPGFGDSIEAQCGTSVNVH 2082(配列番号2)、ただし後者についてはトリプシンの非特異的切断が起き、本来はLPGFGDSIEAQCGTSVNVHSSLR(配列番号3)である)以外の多くのタンパク質が検出され、リン酸化タンパク質を選択的に精製することはできなかった。
【図4】図4は、金属固定化担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法において、トリフルオロ酢酸0.3%を含む50%アセトニトリル溶液を使用し、精製したリン酸化タンパク質を質量分析計で測定した結果を表す。オボアルブミンの2ヶ所のリン酸化タンパク質(EVVGSAEAGVDAASVSEEFR 2089(配列番号1)およびLPGFGDSIEAQCGTSVNVH 2082(配列番号2)、ただし後者についてはトリプシンの非特異的切断が起き、本来はLPGFGDSIEAQCGTSVNVHSSLRである(配列番号3))を選択的に精製することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
【0027】
本発明において「タンパク質」とは、2以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したペプチドを含む。
【0028】
本発明において「リン酸化タンパク質」とは、タンパク質中の1残基以上のアミノ酸(例えば、チロシン、セリンまたはスレオニン等)がリン酸化されたタンパク質をいう。
【0029】
本明細書において「サンプル」とは、タンパク質を含む検出対象物、調製対象物、分画対象物、または精製対象物を示し、好ましくは、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体を指す。組織としては、例えば、脳、脳の各部位(例えば、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、十二指腸、小腸、大腸、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、耳下腺、舌下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋などがあげられる。生体液としては、例えば、血液(血漿、血清を含む)、尿、糞、唾液、涙液、浸潤液(腹水、組織液を含む)などがあげられる。細胞としては、例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例えば、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好酸球、好塩基球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、間質細胞もしくはこれらの前駆細胞、幹細胞、癌細胞などがあげられる。細胞器官としては、例えば、核、細胞小器官(核小体、核膜、細胞膜、ミトコンドリア、リソソーム、リボソーム、ペルオキシソーム、小胞体(粗面小胞体、滑面小胞体、筋小胞体など)、ゴルジ体、微小管、中心体、アクチンフィラメントなど)、サイトゾル、シナプス、基底膜、細胞間接着装置などがあげられる。タンパク質複合体とは、二以上のタンパク質が物理的に結合している状態のものをいう。ここにあげたサンプルは具体例であって、これらに限定されるものではない。
【0030】
上記目的のサンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体)は、生体からメスまたは注射器などを用いて採取することができる。細胞の場合、生体から目的細胞を採取した後に酵素で処理し、あるいはセルソーターなどで目的細胞のみ選別したものを用いることができる。サンプルとして用いる細胞には、初代培養細胞、細胞株、またはそれらの培養物も含まれ、刺激、誘導等のさまざまな培養条件下の細胞であってもよい。
【0031】
本発明において、「データベース」とは、プロテオーム解析に用いられるアミノ酸配列情報の集合であって、電子計算機を用いて検索することができるように当該配列情報を体系的に構成したものをいう。プロテオーム解析に際し、データベースおよび電子計算機を用いてアミノ酸配列情報を検索し、タンパク質を同定することは、当業者において通常用いられる技術である。
【0032】
本発明において、「サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベース」とは、目的とするサンプル中の複数種のタンパク質のアミノ酸配列情報の集合であって、電子計算機を用いて検索することができるように当該配列情報を体系的に構成したものをいう(以下、「本発明のデータベース」と称する場合がある)。したがって、本発明のデータベースには、アミノ酸配列情報の他に、データベースを体系的に構築するための文字および記号などが含まれていてもよく、また、検索に使用するキー情報およびタンパク質の名称などが含まれていてもよい。
【0033】
A.リン酸化タンパク質検出方法
本発明は、サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成し、使用する工程を特徴とする、サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を検出する方法を提供する。
この方法は、サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成する工程と、サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を分離する工程と、当該リン酸化タンパク質の質量を分析する工程と、当該得られたデータを、上記本発明のデータベースから検索してリン酸化タンパク質を検出する工程とを含む、リン酸化タンパク質を検出する方法である(図1(a))。
以下に、詳細について記載する。
【0034】
1.本発明のデータベースの作成
本発明のデータベースは、リン酸化タンパク質を検出する対象となる被検サンプル(以下、「リン酸化タンパク質の検出対象サンプル」ともいう)中のタンパク質を調製し、質量分析計でその質量を測定し、得られたデータを用いてタンパク質を同定し、当該タンパク質のアミノ酸配列情報を得て、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成することにより作成できる(図1(b))。また、測定しなくても既知情報からサンプル中に含まれるタンパク質のアミノ酸配列情報を知ることができる場合には、当該アミノ酸配列情報を得て、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成することにより作成できる。
以下に、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中のタンパク質を質量分析計で測定し、得られたデータを用いてタンパク質を同定し、当該複数種のタンパク質のアミノ酸配列情報からデータベースを作成する方法を記載する。
【0035】
(1)本発明のデータベースを作成するための測定サンプルの調製方法(図1(c))
本発明のデータベースを作成するための測定サンプルは、リン酸化タンパク質の検出対象サンプルと同種の組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体を用いることができる。本発明のデータベースを作成するための測定サンプルは、好ましくはリン酸化タンパク質の検出対象サンプルと同一の組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体があげられる。
【0036】
測定サンプルの調製方法の例を図1(c)に示すが、当該方法はこれに限定されるわけではない。
リン酸化タンパク質の検出対象サンプルを破砕し、タンパク質粗液を抽出(図1(c)(i))後、遠心分画することができる(図1(c)(ii))。これを「遠心分画したタンパク質」とする。破砕・抽出する方法は、ダウンス型テフロン(登録商標)・ホモジナイザー、ポリトロン、ワーリング・ブレンダー、ポッター型ガラス・ホモジナイザー、超音波破砕装置、細胞溶解液(例えばピアス社製のM-PER: cat no. 78501, T-PER: cat no. 78510など)を用いる方法または凍結融解法があげられ、好ましくはダウンス型テフロン(登録商標)・ホモジナイザー、ポッター型ガラス・ホモジナイザーを用いる方法である。遠心分画する方法は、分画遠心法やショ糖密度勾配遠心法などがあげられ、好ましくはショ糖密度勾配遠心法である。
【0037】
次に、必要に応じて、遠心分画したタンパク質を粗精製することができる(図1(c)(iii))。これを「粗精製したタンパク質」とする。粗精製する方法は、群特異的アフィニティーカラム精製、カチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーを利用する方法、免疫沈降法、硫安沈殿法、有機溶媒による沈殿法、限外ろ過法、ゲルろ過法、透析法またはこれらの組合せなどがあげられ、好ましくは群特異的アフィニティーカラム精製である。また、リン酸化タンパク質またはリン酸化されていないタンパク質を粗精製するために、後述する金属固定化担体(J Biol Chem 1994, 269:29520-29529、J Exp Med 2000, 192:1755-1762、Protein Sci 1997, 6:2436-2445、Anal Chem 1999, 71:2883-2892、Nature 2000, 405:477-482、Proteomics 2001, 1:207-222、J Am Soc Mass Spectrom 2000, 11:273-282、J Am Soc Mass Spectrom 1993, 4:662-669、J Biol Chem 2001, 276:6959-6966、Nat Biotechnol. 2002: 20, 301-305、Proc Natl Acad Sci U S A. 2003: 100, 443-448)またはチタニア担体を利用してもよい。これらの担体を使用した場合、担体に吸着するタンパク質がリン酸化タンパク質であり、担体に吸着しないタンパク質がリン酸化されていないタンパク質である。
破砕・抽出、遠心分画、粗精製の各操作は、これらに限定されるものではなく、当業者における技術常識により、適当なものを選択し、また、組み合わせればよい。
【0038】
その後、必要に応じて、粗精製したタンパク質の分画および/または消化を行うことができる(図1(c)(iv)、(v))。これをそれぞれ「分画したタンパク質」および「消化したタンパク質」とする。分画方法は、二次元電気泳動、SDS-PAGE、各種クロマトグラフィー(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィーなど)等を採用することができるが、これらに限定されるものではなく、適当なものを選択すればよい。消化方法には、酵素消化、化学分解等があげられ、好ましくは酵素消化であるが、これに限定されるものではなく、適当なものを選択すればよい。酵素消化に用いる酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、Lys-C, Asp-N, Glu-Cなどがあげられ、好ましくはトリプシンである。また、酵素消化の際には、界面活性剤、好ましくは5-cyclohexyl-pentyl-beta-D-maltoside(米国特許第5674987号明細書および米国特許第5763586号明細書、アナトレース社(Anatrace Inc., Maumee, OH, USA))を加えることが望ましい。
【0039】
こうして得られた遠心分画したタンパク質、粗精製したタンパク質、分画したタンパク質または消化したタンパク質は、HPLCによりさらに分画することができる(図1(c)(vi))。これを「HPLCにより分画されたタンパク質」とする。HPLCに用いるカラムは、当業者における技術常識により、適当なものを選択すればよく、好ましくはアニオン交換カラムまたはカチオン交換カラムである。HPLCの諸条件(流速、検出器、移動相など)は、当業者における技術常識により、適宜選択できる。
【0040】
また、粗精製したタンパク質が、例えば、金属固定化担体またはチタニア担体で粗精製したリン酸化されたタンパク質の場合には、当該リン酸化されたタンパク質を消化した後、金属固定化担体またはチタニア担体によりリン酸化されたタンパク質およびリン酸化されていないタンパク質をさらに分画することもできる。すなわち、リン酸化されていないタンパク質を選択的に分画するために、再び金属固定化担体またはチタニア担体を利用して、金属固定化担体またはチタニア担体に吸着されないタンパク質を金属固定化担体またはチタニア担体に吸着されたタンパク質から分画することにより、リン酸化されていないタンパク質を得ることができる。これを「分画したリン酸化されていないタンパク質」とする。このとき、少量(例えば、0.01%から20%)のリン酸化タンパク質が混入していてもよい。少量のリン酸化タンパク質が混入していても、リン酸化されていないタンパク質の測定結果にはほとんど影響を与えないからである。
【0041】
リン酸化されていないタンパク質は、以下の二つの使用法がある。
第一に、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中に存在するタンパク質から、リン酸化タンパク質を分離する方法によって、リン酸化されたタンパク質とリン酸化されていないタンパク質とを分離し、リン酸化されていないタンパク質を用いてデータベースを作成し、リン酸化されたタンパク質を用いてリン酸化タンパク質を検出するというものである。
第二に、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中に存在するタンパク質から、リン酸化タンパク質を分離する方法によって、リン酸化されたタンパク質を分離し、当該リン酸化されたタンパク質を消化して、リン酸化されたタンパク質(ペプチド)とリン酸化されていないタンパク質(ペプチド)とを用意する。そして、リン酸化されていないタンパク質(ペプチド)を測定してデータベースを作成し、リン酸化されたタンパク質(ペプチド)を用いてリン酸化されたタンパク質を検出するというものである。このとき、リン酸化されていないタンパク質(ペプチド)は、上記の「分画したリン酸化されていないタンパク質」を使用することができる。当該データベースは、サンプル中に含まれるタンパク質の中でもリン酸化タンパク質に限定されたデータベースとなるため、本発明の検出方法において特に有用である。
【0042】
(2)本発明のデータベースを作成するための測定サンプルの質量測定方法
次に、上記の操作により得られた測定サンプル(遠心分画したタンパク質、粗精製したタンパク質、分離したタンパク質、消化したタンパク質、HPLCにより分離されたタンパク質または分離したリン酸化されていないタンパク質を意味する)に含まれるタンパク質の質量を質量分析計で測定する。質量分析計は、ガスクロマトグラフと結合された質量分析装置であるガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GC/MS)や液体クロマトグラフと結合された質量分析装置である液体クロマトグラフィーマススペクトロメトリー(LC/MS)等の汎用の装置を用いて行うことができる。質量分析計におけるイオン化方法は、各装置に応じて適宜選択できる。例えば、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、ESI(エレクトロスプレーイオン化法)、EI(電子イオン化法)、CI(化学イオン化法)、APCI(大気圧化学イオン化法)、FAB(高速原子衝撃法)、LD、FD、SIMS、TSP等があげられ、好ましくはMALDIまたはESIである。アナライザーは、各装置に応じて適宜選択できる。例えば、TOF(飛行時間型)、イオントラップ、二重収束型、四重極型、フーリエ変換型等の汎用の装置を用いて行うことができる。質量分析計の装置および方法は、ここに例示したものに限定されるものではなく、当業者において質量分析に通常使用されるものを適宜選択すればよい。
【0043】
(3)タンパク質の同定方法
質量分析計による測定の結果得られたデータを用いて、タンパク質を同定することができる。すなわち、得られたデータを、ソフトフェア(例えば、SonarMSMS(Genomic solution社製))およびデータベース(例えば、NCBInr(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、IPI、Sport等のデータベース)を使用することにより解析し、サンプル中のタンパク質を同定することが可能である。質量分析計による測定データを用いて、タンパク質を同定することは当業者にとって容易である(Nat Genet. 1998: 20, 46-50; J Cell Biol. 1998: 141, 967-977; J Cell Biol. 2000: 148, 635-651; Nature. 2002: 415, 141-147; Nature. 2002: 415, 180-183; Curr Opin Cell Biol. 2003: 15, 199-205; Curr Opin Cell Biol. 2003: 7, 21-27)。同定されたタンパク質の情報から、アミノ酸配列情報を得ることは、当業者にとって容易である。
【0044】
(4)データベースの作成方法
得られた複数のアミノ酸配列情報を、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成する。データベースの作成に用いるアミノ酸配列情報は、調製方法の異なるサンプルから得られた複数のアミノ酸配列情報を組み合わせてもよい。
本明細書において「体系的に」構成するとは、得られた複数のアミノ酸配列情報を、電子計算機を用いて使用できるように秩序づけて統一の様式で構成することを意味する。
本発明のデータベースは、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中の同定されたタンパク質のアミノ酸配列情報を、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成されていれば、形式は特に限定されない。
本発明のデータベースの作成方法は、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中の同定されたタンパク質のアミノ酸配列情報を、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成することにより作成することができる。
【0045】
以下に、本発明のデータベースの作成方法の一例を記載する。
同定されたタンパク質には、使用したデータベースにアクセス可能なように、必ずユニークなキー情報が存在する。例えば、NCBInrデータベースの場合には、gi番号である。
また、通常、タンパク質同定ソフトウエアで使用するデータベース形式は、FASTA形式と呼ばれ、先頭文字が”>”で始まる行がタンパク質の名称を示し、次の行がアミノ酸配列を示し、この2行の塊が複数個で構成される、という規則で記載されている(図2)。
タンパク質同定ソフトウエアで同定されたタンパク質情報からgi番号(gi|XXXXXX)(gi|2853677、配列番号4)(gi|2564245、配列番号5)で構成されたキー情報を取り出し、FASTA形式で定義されたデータベースをサーチし、タンパク質の名称が定義された行とキー情報とが部分一致した行と次のアミノ酸配列が定義された行をとりだす。それを同定されたタンパク質全てに関して実行し、同定されたタンパク質のみのFATSA形式のデータベースを新規に作成する。
このデータベースをタンパク質同定ソフトウエアに登録することで、検索可能となる。
【0046】
以上のように、本発明のデータベースは、サンプル中の複数種のタンパク質の質量分析により同定されたタンパク質に関するものであって、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中のタンパク質を質量分析計で測定し、得られたデータを用いてタンパク質を同定し、当該タンパク質のアミノ酸配列情報を得て、電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成することにより作成できる。
【0047】
なお、同種の組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体は、同一のタンパク質を発現していると考えられるため、本発明のデータベースは、同種の組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体については、実験ごとに作成する必要がなく、実験間において繰り返し使用できる。
【0048】
2.リン酸化タンパク質の分離
以下に、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中からリン酸化タンパク質を分離する方法を記載する。
【0049】
(1)リン酸化タンパク質の調製方法(図1(d)(i))
前述の測定サンプルの調製方法と同様にして、リン酸化タンパク質の検出対象サンプルを破砕し、タンパク質を抽出、遠心分画、粗精製、分画、もしくは消化またはこれらの組合せにより、消化したタンパク質を得ることができる。本発明において、好ましくは、リン酸化タンパク質は、サンプルを破砕し、タンパク質を抽出、遠心分画、粗精製、分画及び消化することにより調製される。図1(d)(i)は、リン酸化タンパク質の調製方法の一態様を示したものであり、当該方法はこれに限定されるわけではない。
【0050】
(2)リン酸化タンパク質の分離方法(図1(d)(ii))
消化したタンパク質からリン酸化タンパク質をさらに分離する。これを「分離したリン酸化タンパク質」とする。リン酸化タンパク質の分離は、選択的にリン酸化タンパク質を分離できる方法であれば何でもよく、例えば、金属固定化担体またはチタニア担体を用いた分離方法、抗リン酸化抗体を用いた免疫沈降法などが挙げられ、好ましくは「B.リン酸化タンパク質の精製方法」で後述する金属固定化担体またはチタニア担体を用いた分離(精製)方法である。
【0051】
金属固定化担体またはチタニア担体を用いた、リン酸化タンパク質の分離方法は、初めに、アセトニトリルを含有する溶液で金属固定化担体またはチタニア担体を平衡化する。次に、上記(1)の操作により調製したタンパク質を、アセトニトリルを含有する溶液に溶解する。続いて、上記溶液に溶解したタンパク質と、上記溶液で平衡化した金属固定化担体またはチタニア担体とを接触させる。その後、金属固定化担体またはチタニア担体をアセトニトリルを含有する溶液で洗浄することが望ましい。そして、適当な溶出溶液でリン酸化タンパク質を溶出する。溶出溶液は、特に限定されないが、例えば、5%(V/V)アセトニトリルを含む150 mMのアンモニア水、5%(V/V)アセトニトリルを含む0.1%リン酸等を用いることができる。アンモニア水で溶出させた場合には、溶出液をそのまま乾燥させ、リン酸で溶出させた場合には、脱塩操作を行うことが望ましい。
【0052】
上記の平衡化、溶解、洗浄の各操作において、アセトニトリルを含有する溶液中のアセトニトリル濃度は、30%(V/V)以上70%(V/V)以下、好ましくは35%(V/V)以上65%(V/V)以下、より好ましくは40%(V/V)以上60%(V/V)以下、特に好ましくは45%(V/V)以上55%(V/V)以下、例えば、50%(V/V)である。また、当該溶液には、酸溶液を加えることができる。使用する酸溶液は、好ましくは、強酸、例えば、トリフルオロ酢酸、塩酸等があげられ、特に好ましくはトリフルオロ酢酸であるが、特に限定されない。当該溶液中の酸溶液の濃度は、トリフルオロ酢酸においては、好ましくは0.1%(V/V)以上1.0%(V/V)以下、特に好ましくは0.2%(V/V)以上0.6%(V/V)以下、例えば0.3%(V/V)であり、塩酸においては、好ましくは0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下、特に好ましくは0.06%(V/V)以上0.2%(V/V)以下、例えば、0.1%(V/V)である。
以上のように、リン酸化タンパク質を分離することができる。
【0053】
3.質量分析計によるリン酸化タンパク質の測定
次に、分離したリン酸化タンパク質を質量分析計にて測定する。質量分析計は、ガスクロマトグラフと結合された質量分析装置であるガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GC/MS)および液体クロマトグラフと結合された質量分析装置である液体クロマトグラフィーマススペクトロメトリー(LC/MS)等の汎用の装置を用いて行うことができ、液体クロマトグラフィーマススペクトロメトリーを用いて行うことが好ましい。質量分析計におけるイオン化方法は、各装置に応じて適宜選択できる。例えば、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、ESI(エレクトロスプレーイオン化法)、EI(電子イオン化法)、CI(化学イオン化法)、APCI(大気圧化学イオン化法)、FAB(高速原子衝撃法)、LD、FD、SIMS、TSP等があげられ、好ましくはMALDIまたはESIである。アナライザーは、各装置に応じて適宜選択できる。例えば、TOF(飛行時間型)、イオントラップ、二重収束型、四重極型、フーリエ変換型等の汎用の装置を用いて行うことができる。質量分析計の装置および方法は、ここにあげたものに限定されるものではなく、当業者において質量分析に通常使用されるものを適宜選択すればよい。
【0054】
4.リン酸化タンパク質のデータ解析、検出
データ解析には、データベースとして、本発明のデータベースを用いる。
質量分析計による測定の結果得られたデータをソフトフェア(例えば、MASCOT(Matrix Science社製))および本発明のデータベースを使用することにより解析し、サンプル中のリン酸化タンパク質を同定することが可能である。
【0055】
得られた結果については手作業で一つ一つ質量分析スペクトルを確認することが好ましいが、これに限定されるものではない。その際、リン酸化されるアミノ酸がセリンまたはスレオニンの場合には、親イオンのピーク(リン酸化されていないタンパク質のピーク)から98 Da外れたピークが明確に(イオントラップ型のESI-MSでは非常に強く)観測され、リン酸化されるアミノ酸がチロシンの場合には、80 Da外れたピークが明確に観測されていることが好ましい。この判定基準は、当業者であれば容易に想定されるものである。
これらの方法により、リン酸化タンパク質を効率よく検出でき、かつ検索時間も大幅に短縮できる。
【0056】
B.リン酸化タンパク質の精製方法
本発明は、金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することを特徴とする、リン酸化タンパク質を精製する方法を提供する。
以下に、詳細について記載する。
【0057】
1.金属固定化担体またはチタニア担体
本発明において、「金属固定化担体」とは、キレート形成基(例えば、イミノジ酢酸基(以下、IDAと称する場合がある)、ニトリロ三酢酸基(以下、NTAと称する場合がある)等)に金属イオンをキレート結合させた担体をいう。金属固定化担体としては、例えば、鉄イオン(III)をキレート結合させた鉄イオン(III)担体、ガリウム(III)イオンをキレート結合させたガリウム(III)イオン担体等があげられる。
【0058】
担体としては、アガロースゲル、アクリルアミド、磁気ビーズ、セルロースなどがあげられ、好ましくはアガロースゲルである。
【0059】
金属固定化担体は、キレート形成基(例えば、IDA、NTA等)を有する担体に、適当な金属イオン、好ましくは鉄イオン(III)、またはガリウム(III)イオンをキレート結合させることにより、作製することができる。
【0060】
キレート形成基(例えば、IDA、NTA等)を有する担体は、例えば、アマシャム バイオサイエンス社等から購入することができる(Chelating Sepharose Fast Flow、アマシャム バイオサイエンス社製、Cat No. 17-0575-01)。
【0061】
鉄イオン(III)担体は、例えば、キレート形成基(例えば、IDA、NTA等)を有する担体を0.1%酢酸水で洗浄し、続いて、0.1%酢酸に溶かした50 mM塩化鉄III(FeCl3)と混ぜ、その後、0.1%酢酸水で洗浄することによって、作製することができる。
【0062】
また、キレート形成基を有する担体は、Sigma-Aldrich社から購入することによっても入手することができる(PHOS-Selec Iron Affinity Gel、Sigma-Aldrich社製、Cat No. P9740)。
【0063】
ガリウムイオン(III)担体は、例えば、キレート形成基(例えば、IDA、NTA等)を有する担体を0.1%酢酸水で洗浄し、続いて、0.1%酢酸に溶かした50 mM塩化ガリウムIII(GaCl3)と混ぜ、その後、0.1%酢酸水で洗浄することによって、作製することができる。
【0064】
また、当該担体はPierce社から購入することによっても入手することができる(Phosphopeptide Isolation Kit, Pierce社製、Cat No. 89853)。
【0065】
金属固定化担体は、適当なカラム(例えば、ポリプレップエンプティカラム(バイオラド社製、 Cat No. 731-1550)等)に充填することによって、金属固定化アフィニティークロマトグラフィーカラム(IMACカラム)として使用できる。また、金属固定化担体は、適当なチューブ(例えば、エッペンドルフチューブ(エッペンドルフ社製)等)に加えることによって、使用することもできる。
【0066】
本発明において「チタニア」とは、酸化チタン(IV)(TiO2、Titanium dioxide (IV))をいう。また、本発明において「チタニア担体」とは、チタニアが、直径数から数十マイクロメートル程度の丸いビーズ状となっているものをいう。チタニア担体は、GLサイエンス社から購入することによって入手することができる。
【0067】
チタニア担体は、適当なカラム(例えば、マイクロバイオスピンエンプティカラム(バイオラド社製、 Cat No. 732-6204)等)に充填することによって、チタニアカラムとして使用できる。また、チタニア担体は、適当なチューブ(例えば、エッペンドルフチューブ(エッペンドルフ社製)等)に加えることによって、使用することもできる。
【0068】
2.本発明の精製溶液
本発明において、上記金属固定化担体またはチタニア担体によってリン酸化タンパク質を精製する方法は、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液(以下、「本発明の精製溶液」と称する場合がある)を用いることを特徴とする。
【0069】
アセトニトリルは、市販のものを用いればよく、例えば、和光純薬などから購入することによって入手することができる。
【0070】
本発明の精製溶液は、金属固定化担体またはチタニア担体に用いる。より具体的には、例えば、金属固定化担体若しくはチタニア担体の平衡化溶媒、サンプルを溶解する溶媒および/または金属固定化担体若しくはチタニア担体における展開溶媒としての使用等に用いる。本発明の精製溶液中のアセトニトリル濃度は、少なくとも30%(V/V)以上70%(V/V)以下、好ましくは35%(V/V)以上65%(V/V)以下、より好ましくは40%(V/V)以上60%(V/V)以下、特に好ましくは45%(V/V)以上55%(V/V)以下、例えば、50%(V/V)である。また、当該本発明の精製溶液には、他の物質が含まれていてもよい。
【0071】
本発明の精製溶液には、酸溶液を加えることができる。使用する酸溶液は、好ましくは、強酸、例えば、トリフルオロ酢酸、塩酸等があげられ、特に好ましくはトリフルオロ酢酸であるが、特に限定されない。また、使用する酸溶液濃度は、トリフルオロ酢酸においては、好ましくは0.1%(V/V)以上1.0%(V/V)以下、特に好ましくは0.2%(V/V)以上0.6%(V/V)以下、例えば0.3%(V/V)であり、塩酸においては、好ましくは0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下、特に好ましくは0.06%(V/V)以上0.2%(V/V)以下、例えば、0.1%(V/V)である。これら本発明の精製溶液は、当業者であれば容易に調製できる。
【0072】
トリフルオロ酢酸は、市販のものを用いればよく、例えば、Pierce社などから購入することによって入手することができる。
【0073】
塩酸は、市販のものを用いればよく、例えば、和光純薬などから購入することによって入手することができる。
【0074】
3.リン酸化タンパク質
本発明において、精製されるタンパク質は、リン酸化タンパク質を含むものであれば、その種類は限定されない。好ましくは、サンプル(組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)から抽出したタンパク質である。
以下に、サンプル中のリン酸化タンパク質を精製する方法を記載する。
【0075】
(1)サンプル中のタンパク質の調製方法
サンプルを破砕し、タンパク質粗液を抽出後、遠心分画することができる。これを「遠心分画したタンパク質」とする。破砕・抽出する方法は、ダウンス型テフロン(登録商標)・ホモジナイザー、ポリトロン、ワーリング・ブレンダー、ポッター型ガラス・ホモジナイザー、超音波破砕装置、細胞溶解液(例えばピアス社のM-PER: cat no. 78501, T-PER: cat no. 78510など)を用いる方法または凍結融解法があげられ、好ましくはダウンス型テフロン(登録商標)・ホモジナイザー、ポッター型ガラス・ホモジナイザーを用いる方法である。遠心分画する方法は、分画遠心法やショ糖密度勾配遠心法などがあげられ、好ましくはショ糖密度勾配遠心法である。
【0076】
次に、必要に応じて、遠心分画したタンパク質を粗精製することができる。これを「粗精製したタンパク質」とする。粗精製する方法は、群特異的アフィニティーカラム精製、カチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーを利用する方法、免疫沈降法、硫安沈殿法、有機溶媒による沈殿法、限外ろ過法、ゲルろ過法、透析法またはこれらの組合せなどがあげられ、好ましくは群特異的アフィニティーカラム精製である。破砕・抽出、遠心分画、粗精製の各操作は、これらに限定されるものではなく、当業者における技術常識により、適当なものを選択し、また、組み合わせればよい。
【0077】
その後、必要に応じて、粗精製したタンパク質の分画および消化を行うことができる。これをそれぞれ「分画したタンパク質」および「消化したタンパク質」とする。分画方法は、二次元電気泳動、SDS-PAGE、各種クロマトグラフィー(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィーなど)等を採用することができるが、これらに限定されるものではなく、適当なものを選択すればよい。消化方法には、酵素消化、化学分解等があげられ、好ましくは酵素消化であるが、これに限定されるものではなく、適当なものを選択すればよい。酵素消化に用いる酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、Lys-C, Asp-N, Glu-Cなどがあげられ、好ましくはトリプシンである。また、酵素消化の際には、界面活性剤、好ましくは5-cyclohexyl-pentyl-beta-D-maltoside(米国特許第5674987号明細書および米国特許第5763586号明細書、アナトレース社(Anatrace Inc., Maumee, OH, USA))を加えることが望ましい。
【0078】
こうして得られた遠心分画したタンパク質、粗精製したタンパク質、分画したタンパク質または消化したタンパク質は、HPLCによりさらに分画することができる。これを「HPLCにより分画されたタンパク質」とする。HPLCに用いるカラムは、当業者における技術常識により、適当なものを選択すればよく、好ましくはアニオン交換カラムまたはカチオン交換カラムである。HPLCの諸条件(流速、検出器、移動相など)は、当業者における技術常識により、適宜選択できる。
【0079】
(2)リン酸化タンパク質の精製方法
次に、上記の操作により得られたタンパク質(遠心分画したタンパク質、粗精製したタンパク質、分画したタンパク質、消化したタンパク質、HPLCにより分画されたタンパク質または分離したリン酸化されていないタンパク質を意味する)を金属固定化担体またはチタニア担体で精製する。
【0080】
以下、精製方法を詳細に説明する。
初めに、本発明の精製溶液で金属固定化担体またはチタニア担体を平衡化する。平衡化する工程は、金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なカラムに充填されている場合には、本発明の精製溶液をカラムにアプライすることによって、金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なチューブに加えられている場合には、本発明の精製溶液をチューブに添加することによって、それぞれ行うことができる。
【0081】
次に、上記の操作により得られたタンパク質を、本発明の精製溶液に溶解する。当該タンパク質が溶媒に溶解している場合には、濃厚な本発明の精製溶液を希釈して用いることもできる。このとき、本発明の精製溶液は、タンパク質の溶媒に含まれる溶質に応じて酸の濃度を調整することもできる。
【0082】
酸溶液の最終濃度は、トリフルオロ酢酸においては、好ましくは0.1%(V/V)以上1.0%(V/V)以下、特に好ましくは0.2%(V/V)以上0.6%(V/V)以下、例えば0.3%(V/V)であり、塩酸においては、好ましくは0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下、特に好ましくは0.06%(V/V)以上0.2%(V/V)以下、例えば、0.1%(V/V)である。
【0083】
続いて、本発明の精製溶液に溶解したタンパク質と、本発明の精製溶液で平衡化した金属固定化担体またはチタニア担体とを接触させる。本発明の精製溶液に溶解したタンパク質と、本発明の精製溶液で平衡化した金属固定化担体またはチタニア担体とを接触させる工程は、当該金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なカラムに充填されている場合には、本発明の精製溶液に溶解したタンパク質をカラムにアプライすることによって行うことができ、当該金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なチューブに加えられている場合には、本発明の精製溶液に溶解したタンパク質をチューブに添加することによって、それぞれ行うことができる。
【0084】
その後、金属固定化担体またはチタニア担体を本発明の精製溶液で洗浄することが望ましい。洗浄操作は、金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なカラムに充填されている場合には、本発明の精製溶液をカラムに添加することによって、金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なチューブに加えられている場合には、本発明の精製溶液をチューブに添加し、遠心操作をすることによって、それぞれ行うことができる。
【0085】
そして、適当な溶出溶液でリン酸化タンパク質を溶出する。リン酸化タンパク質を溶出させる工程は、金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なカラムに充填されている場合には、適当な溶出溶液をカラムにアプライすることによって、金属固定化担体またはチタニア担体が、適当なチューブに加えられている場合には、適当な溶出溶液をチューブに添加し、遠心操作をすることによって、それぞれ行うことができる。溶出溶液は、特に限定されないが、例えば、5%(V/V)アセトニトリルを含む150 mMのアンモニア水、5%(V/V)アセトニトリルを含む0.1%リン酸等を用いることができる。アンモニア水で溶出させた場合には、溶出液をそのまま乾燥させ、リン酸で溶出させた場合には、脱塩操作を行うことが望ましい。
【0086】
これらの方法により、リン酸化タンパク質を効率的に精製することができる。
このようにして得られたリン酸化タンパク質は、各種実験に用いることができ、好ましくは、MSによるリン酸化タンパク質の解析に用いることができる。
【0087】
4.リン酸化タンパク質精製キット
本発明は、金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することを特徴とする、前記方法に使用する溶液を含むリン酸化タンパク質精製キット(以下、「本発明の精製キット」と称する場合がある)を提供する。
【0088】
本発明の精製キットは、リン酸化タンパク質の精製方法(前記「B.3.(2)リン酸化タンパク質の精製方法」を示す)に用いられるものである。
本発明の精製キットに含まれる担体、溶液等の例としては、次のものが挙げられる。
(i) 金属固定化担体またはチタニア担体
(ii) アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液
(iii) 酸、好ましくは強酸、例えば、トリフルオロ酢酸または塩酸、特に好ましくはトリフルオロ酢酸
(iv) その他必要な溶液(例えば、PBS、トリス緩衝液など)
アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液には、酸、好ましくは強酸、例えば、トリフルオロ酢酸または塩酸、特に好ましくはトリフルオロ酢酸があらかじめ加えられていてもよい。
また、本発明の精製キットには、精製に必要なチューブ、カラム、容器、取扱説明書などがさらに含まれていてもよい。
【0089】
5.リン酸化タンパク質精製溶液
本発明は、金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することを特徴とする、前記方法に使用する溶液を含むリン酸化タンパク質精製溶液(以下、「本発明のリン酸化タンパク質精製溶液」と称する場合がある)を提供する。
本発明のリン酸化タンパク質精製溶液は、リン酸化タンパク質の精製方法(前記「B.3.(2)リン酸化タンパク質の精製方法」を示す)に用いられるものである。
本発明のリン酸化タンパク質精製溶液は、アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液であり、酸、好ましくは強酸、例えば、トリフルオロ酢酸または塩酸、特に好ましくはトリフルオロ酢酸があらかじめ加えられていてもよい。
【実施例】
【0090】
以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
【0091】
[参考例1]
マウスの脳から以下の操作によりPost Synaptic Density(以下、PSDとする)フラクションを調製した。
7週齢のBALB/c(メス)の全脳を取り出し、氷冷したPBS(プロテアーゼ・カクテル入り、ロッシュ社: 1873580)を加えてテフロン(登録商標)コートしたガラス製ホモジナイザーで全脳を細かく摺り潰した。固形物を取り除き、まず1400 Gの遠心10分で沈殿物を取り除き、その上清を13800 Gの遠心(16分)にかけ、沈殿物を集めた。これを0.32 Mシュークロースに懸濁し、下から順に1.2M, 1M, 0.85Mの層にしたシュークロースの上に、このサンプルをのせて82500 Gの遠心を120分間行った。下から2番目の層に溜まった画分(Synaptosome)を集めて0.32 Mのシュークロースに懸濁し、続いて6 mMのトリス緩衝液を加えて氷冷下45分間攪拌した。その後に、32800 Gの遠心を20分間行って沈殿物を集めた。これを0.32 Mのシュークロースに懸濁し、下から順に0.8 M, 0.6 M, 0.4 Mの層にしたシュークロースの上にこのサンプルをのせて64700 Gで120分間遠心した。下から2番目の層を取り出し、48200 Gの遠心を30分間行った。この沈殿物に対して1% TritonX-100を含むトリス緩衝液・0.32 Mシュークロース混液を加えて15分間攪拌した。48200 Gで30分間遠心して集めた沈殿物をPSDフラクションとした。
【0092】
このPSDフラクションを7 M尿素・2 Mチオ尿素・2%1CHAPSに溶かし、溶けたタンパク質について、以下の組合せの消化、分画および解析を行った。
また、沈殿物についても、SDSに溶かし、SDS-PAGEでタンパク質を分画後にゲル内でトリプシン消化を行い、C18カラムを使ったLC/MS/MSで解析を行った。
【0093】
1) トリプシン消化後、陽イオン交換カラム(アマシャム社製。以下、SCXカラムと称する)で分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、消化-SCXカラム-LC/MS/MSと称する)。
2) トリプシン消化後、シアノプロピルカラム(YMC社製。以下、CNカラムと称する)で分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、消化-CNカラム-LC/MS/MSと称する)。
3) トリプシン消化後、陰イオン交換カラム(アマシャム社製。以下、SAXカラムと称する)で分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、消化-SAXカラム-LC/MS/MSと称する)。
4) トリプシン消化後、SAXカラムで分画した後、さらにCNカラムで分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、消化-SAXカラム-CNカラム-LC/MS/MSと称する)。
5) SDS-PAGEでタンパク質を分画後、ゲル内でトリプシン消化を行い、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、SDS-PAGE(タンパク質分画)-消化-LC/MS/MSと称する)。
6) MonoQカラム(アマシャム社製)でタンパク質を分画後、各画分についてトリプシンで消化し、SCXカラムで分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-SCXカラム-LC/MS/MSと称する)。
7) MonoQカラム(アマシャム社製)でタンパク質を分画後、各画分についてトリプシンで消化し、SAXカラムで分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-SAXカラム-LC/MS/MSと称する)。
8) MonoQカラム(アマシャム社製)でタンパク質を分画後、各画分についてトリプシンで消化し、CNカラムで分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-CNカラム-LC/MS/MSと称する)。
9) MonoQカラム(アマシャム社製)でタンパク質を分画し、SDS-PAGEでタンパク質を分画後、ゲル内でトリプシン消化を行い、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、MonoQカラム(タンパク質分画)- SDS-PAGE(タンパク質分画)-消化-LC/MS/MSと称する)。
10) MonoQカラム(アマシャム社製)でタンパク質を分画し、トリプシン消化し、SAXカラムで分画した後、さらにCNカラムで分画し、それぞれの画分を、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-SAXカラム-CNカラム-LC/MS/MSと称する)。
11) 沈殿物について、SDSに溶かし、SDS-PAGEでタンパク質を分画後、ゲル内でトリプシン消化を行い、C18カラムを使ったLC/MS/MS(フィニガン社、LCQ)で解析した(以下、沈殿物- SDS-PAGE(タンパク質分画)-消化-LC/MS/MSと称する)。
【0094】
これらの結果、それぞれ、1)消化-SCXカラム-LC/MS/MSによりタンパク質108個、2)消化-CNカラム-LC/MS/MSによりタンパク質94個、3)消化-SAXカラム-LC/MS/MSによりタンパク質212個、4)消化-SAXカラム-CNカラム-LC/MS/MSによりタンパク質376個、5)SDS-PAGE(タンパク質分画)-消化-LC/MS/MSによりタンパク質92個、6)MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-SCXカラム-LC/MS/MSによりタンパク質140個、7)MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-SAXカラム-LC/MS/MSによりタンパク質301個、8)MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-CNカラム-LC/MS/MSによりタンパク質199個、9)MonoQカラム(タンパク質分画)- SDS-PAGE(タンパク質分画)-消化-LC/MS/MSによりタンパク質233個、10)MonoQカラム(タンパク質分画)-消化-SAXカラム-CNカラム-LC/MS/MSによりタンパク質450個、11)沈殿物- SDS-PAGE(タンパク質分画)-消化-LC/MS/MSによりタンパク質152個を同定した。このうち、重複を除くと888個のタンパク質を同定することが出来た(LC/MS/MSとしては合計1150回、同定されたペプチド(未修飾)は10592個であった)。
【0095】
次に、今回の実験では膨大な数のペプチドが分析にかけられており、解析によって同定には至らなかったものの中にはリン酸化ペプチドもあるであろうと考えて、自動検索エンジンMASCOT(Matrix Science社製)およびNCBInrデータベースを使用して、リン酸化修飾を受けたタンパク質を検索した。
【0096】
具体的には、機器NCBInrのタンパク質データをCompaq社のProLiant ML530(ハードディスク容量425GB、メモリ容量3.767828GB、CPU IntelTM XEONTM 2.40 GHz、論理CPUの数4)のPCサーバー(Windows(登録商標) 2000 Server)に保存した。また、先の解析で得られたLC/MS/MSの全データもこのPCサーバーに保管した。そして、当該PCサーバーにインストールされている自動検索エンジンMASCOTを使って、1150回の測定サンプルに含まれているリン酸化タンパク質の検索をおこなった。検索条件としては、Variable ModificationにOxidation (M), Phospho(ST), Phospho(Y)を指定し、missed cleavagesを2として、データベースにはNCBInrを指定した。Missed cleavagesを2としたのは、これまでの経験からリン酸化ペプチドは、トリプシンによる消化効率が悪くなることがわかっているためである。
【0097】
その結果、検索開始後、何日たっても検索が終わらないため実用的でないと考えて途中で打ち切った。
一般に、翻訳後修飾ペプチドについて自動検索エンジンMASCOTを使って検索する際には、まず翻訳後修飾を受けていないペプチドでタンパク質を同定してから、次に翻訳後修飾の有無について吟味するように推奨している(Journal of Biological Chemistry. 276: 8475-8483, 2001.)。
【0098】
[参考例2]
そこで、次に検索する際のデータベースとして、非常に情報件数が多いデータベース(例えば、NCBInrなど)を使用するのではなく、先に同定した888個のタンパク質に関するデータからなるデータベースを使用した。
この先に同定した888個のタンパク質に関するデータからなるデータベースの作成は、NCBInrデータベースにアクセスするためのキー情報であるgi番号を取り出し、検索に使用したNCBInrのFASTA形式のファイルを使い、タンパク質の名称とアミノ酸配列の定義部分を取り出した。これを先に同定した888個のタンパク質全てについて実行し、FASTA形式のデータベースを新規に作成した。このように作成したデータベース(以下、「本実験のデータベース」と称する)をMASCOTに登録し、検索可能とした。検索条件としては、Variable ModificationにOxidation (M), Phospho(ST), Phospho(Y)を指定し、missed cleavagesを2として、データベースには本実験のデータベースを指定した。
様々な翻訳後修飾を一度に検索するのではなくリン酸化タンパク質のみについて検索した。その結果、信頼値95%以上のスコアを出したのは36個のペプチドとなった。これらについてMS/MSの質量分析スペクトルを確認した結果、リン酸化ペプチドのMS/MSであろうと考えられたものは1個であった。つまり、検索条件を絞った(本実験のデータベースを使用した)にも関わらず、その大半が偽陽性であった。
【0099】
このように、検索エンジン(例えば、MASCOTなど)を使って網羅的にリン酸化タンパク質を同定しようとすると間違ったものを同定してしまう危険性が高い。今回の実験では11種類の異なった組み合わせの分離方法で計1150回も測定を行っているので、高い確率でリン酸化ペプチドが分離され検出できているであろうと予想した。しかし、実際には混合サンプルの中からリン酸化ペプチドを検出するのは極めて難しかった。その理由として、同じペプチド配列であってもリン酸化されることによって検出感度が低下すること、そして、生体内では同一のペプチドであってもリン酸化されている分子は、ペプチドの一部の分子でしかないこと、これらの理由によって他の種類のペプチドが数多く存在する混合サンプルではリン酸化ペプチドは簡単には検出できないと考えられる。
【0100】
[参考例3]
次に、リン酸化ペプチドの精製を試みた。
IMACカラムの1種としてPHOS-SELECT (シグマ社製)ゲル0.1 mLをエッペンドルフのチューブに入れ、0.1%酢酸と30秒間混合した。これを遠心し上清を捨てた。この洗浄操作を3回繰り返した。続いて参考例1で得られたPSDフラクションをMono-Qカラム(アマシャム社製)で分画後、各画分についてトリプシンで消化したサンプルを、酢酸を加えてpH 3とした。次に、得られたサンプルをPHOS-SELECTに加えて室温で3時間ゆっくり混合した。その後、遠心し上清を捨て、0.5 mLの0.1%酢酸で3回洗浄操作を行った。そして、15%のアセトニトリルを含む0.15Mアンモニア水0.5 mLを加えて遠心した。次に、上清を集めて溶媒を蒸発させた。このように、PSDフラクション中のリン酸化ペプチドを分離した。そして、得られた残渣を5%(V/V)アセトニトリルと0.1%TFAを含む溶媒20 μLに溶かして、LC/MS/MSによる測定を行った。
【0101】
次に、得られた測定データを自動検索エンジンMASCOTおよびデータベースNCBInrを使用して、リン酸化修飾を受けたタンパク質を検索した。
具体的には、機器NCBInrのタンパク質データをCompaq社のProLiant ML530(ハードディスク容量425GB、メモリ容量3.767828GB、CPU IntelTM XEONTM 2.40 GHz、論理CPUの数4)のPCサーバー(Windows(登録商標) 2000 Server)に保存した。また、先の測定で得られたLC/MS/MSの全データもこのPCサーバーに保管した。そして、当該PCサーバーにインストールされている自動検索エンジンMASCOTを使って検索をおこなった。検索条件としては、Variable ModificationにPhospho(ST), Phospho(Y)を指定し、missed cleavagesを2として、DatabaseにはNCBInrを指定した。
【0102】
その結果、翻訳後修飾としてリン酸化のみを指定したにも関わらず、1つのLC/MS/MSデータの検索に2時間を要した。そして、43個のリン酸化ペプチドが95%以上の信頼値で同定され、その一つ一つの質量分析スペクトルを確認した結果、23個のリン酸化ペプチドについては信頼性が高いと考えられた。
【0103】
[実施例1]
次に、IMACカラムを使ってPSDフラクション中のリン酸化ペプチドを分離し、LC/MS/MSによる測定を行った結果得られた測定データ(参考例3)について、自動検索エンジンMASCOT(Matrix Science社製)および本実験のデータベースを使用して、リン酸化修飾を受けたタンパク質を検索した。
【0104】
具体的には、本実験のデータベース(参考例2)をCompaq社のProLiant ML530(ハードディスク容量425GB、メモリ容量3.767828GB、CPU IntelTMXEONTM 2.40 GHz、論理CPUの数4)のPCサーバー(Windows(登録商標) 2000 Server)に保存した。また、先の解析で得られたLC/MS/MSの全データ(参考例3)もこのPCサーバーに保管した。そして、当該PCサーバーにインストールされている自動検索エンジンMASCOTを使って検索をおこなった。検索条件としては、Variable ModificationにPhospho(ST), Phospho(Y)を指定し、missed cleavagesを2として、データベースには本実験のデータベースを指定した。
【0105】
その結果、一つのLC/MSデータの検索時間は、僅か3-5分程度であった。そして、155個のリン酸化ペプチドが95%以上の信頼値で同定され、その一つ一つの質量分析スペクトルを確認した結果、107個のリン酸化ペプチドについては信頼性が高いと考えられた。
【0106】
以上のように、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中の複数のタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成し、サンプルから分離したリン酸化タンパク質を質量分析計により測定し、測定の結果得られたデータを、当該データベースを使用して解析することにより、サンプル中の複数のリン酸化タンパク質を精度よく、かつ、短時間に検出できるようになった。また、従来の方法では、検出できなかったリン酸化タンパク質をも検出することができるようになった。
【0107】
[実施例2]
(1)サンプル液の調製
オボアルブミン(シグマ社、Cat No. A2512)1 mgを8 M尿素を含む0.5 Mトリス緩衝液(pH 8.6 at room temp.)1 mLに溶かした。1 mgのディチオスレイトール(ナカライテスク社・京都、cat no. 14112-52)を加えて37℃で1時間還元処理を行った後、2.5 mgのアクリルアミド(バイオラド社、cat no. 161-010)を加え、室温にて1時間インキュベートすることによりアルキル化処理を施した。この後、2.5 mgのディチオスレイトールを加えて未反応のアクリルアミドを失活させ、ピアス社のSlide-A-Lyzer MiniDialysis Unit(Cat No. 69572)を使い5 Lの50 mM炭酸水素アンモニア水に対して1晩透析を行った。これをSavant社のSpeedVacにてサンプル液を乾燥させ、8 M尿素を含む50 mMの炭酸水素アンモニア水1 mLに溶解させた。これに50 mMの炭酸水素アンモニア水を加えて全量を8 mLとした。次に、トリプシン50 μg(プロメガ社、cat no. V5280)を加えて37 ℃にて一晩消化を行い、4℃の冷蔵庫で保存し、これを本実施例においてサンプル液とした。
【0108】
(2)酸の検討(金属固定化担体)
最初に、金属固定化担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する際に用いる精製溶液について、添加する酸の効果を検討した。検討する酸として酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸の4種類を選択し、それぞれ0.1%(V/V)の各酸溶液を用意した。次に、サンプル液20μLを取り、0.1%(V/V)の各酸溶液で20倍に希釈した。
一方、1.6 mL容量のエッペンドルフチューブに、金属固定化担体であるPHOS-Selec Iron Affinity Gelを50μL取り(Sigma-Aldrich社, Cat No. P9740)、あらかじめサンプルを希釈した酸と同じ0.1%(V/V)の各酸溶液で洗浄した。そこに、上記の希釈したサンプル液を加えて30秒間激しく攪拌した。20000 g(gは重力加速度を表す)で1分間遠心した後、上清を捨てた。続いて、同じ0.1%(V/V)の各酸溶液を200μL加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。次に、150 mMのアンモニア水を加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を集めてSavant社のSpeedVacにて乾燥させた。
【0109】
次に、乾燥させたサンプルに5μLの33%(V/V)アセトニトリル0.1%(V/V)トリフルオロ酢酸を加えてサンプルを再溶解し、当該再溶解したサンプル液0.5μLをMatrix Assisted Laser Desorption/Ionization (MALDI)プレートに乗せ、33%(V/V)アセトニトリル0.1%(V/V)トリフルオロ酢酸で飽和したマトリクス液(alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid, アルドリッチ社cat no. 47687-0)0.5μLを、MALDIプレート上で先に乗せたサンプル液に液滴が広がらないように重ね合わせて自然乾燥させた。これをアプライドバイオシステムズ社の質量分析装置(MS)ABI4700の正イオン検出のリニアモードにてMALDI-TOF/MS測定を行った。
【0110】
その結果、酸としてトリフルオロ酢酸または塩酸を使った場合、酢酸またはギ酸を使った場合に比べ、カラムへの非特異的な吸着が少ないことが明らかになった。
【0111】
(3)アセトニトリル濃度の検討(金属固定化担体)
次に、金属固定化担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する際に用いる精製溶液について、アセトニトリルの濃度を検討した。検討するアセトニトリル濃度として、0%から90%(V/V)まで5%単位で変えたものを用意した。精製溶液に添加する酸としては0.1%(V/V)のトリフルオロ酢酸を用いて上記と同等の検討を行った。
【0112】
具体的には、サンプル液20μLを取り、各濃度のアセトニトリル溶液で20倍に希釈した。一方、1.6 mL容量のエッペンドルフチューブに金属固定化担体であるPHOS-Selec Iron Affinity Gelを50μL取り(Sigma-Aldrich社, Cat No. P9740)、あらかじめサンプルを希釈した溶媒と同じ濃度のアセトニトリル溶媒(0.1%(V/V、以下同様)トリフルオロ酢酸を含む)で洗浄した。そこに、上記の希釈したサンプル液を加えて30秒間激しく攪拌した。20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。続いて、同じ濃度のアセトニトリル溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸を含む)を200μL加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。次に、150 mMのアンモニア水を加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を集めてSavant社のSpeedVacにて乾燥させた。
次に、乾燥させたサンプルに5μLの33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸を加えてサンプルを再溶解し、当該再溶解したサンプル液0.5μLをMatrix Assisted Laser Desorption/Ionization (MALDI)プレートに乗せ、33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸で飽和したマトリクス液(alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid, アルドリッチ社cat no. 47687-0)0.5μLを、MALDIプレート上で先に乗せたサンプル液に液滴が広がらないように重ね合わせて自然乾燥させた。これをアプライドバイオシステムズ社の質量分析装置(MS)ABI4700の正イオン検出のリニアモードにてMALDI-TOF/MS測定を行った。
【0113】
その結果、アセトニトリル濃度が40%から60%の場合において、非特異的な吸着が少ないことが明らかになった。
なお、有機溶媒としてアセトニトリル以外にメタノール、エタノール、アセトンを用いて20-80%濃度の範囲で10%おきに検討したが、これらの有機溶媒種では、いかなる濃度においても非特異的な吸着を減らす顕著な効果はなかった。
【0114】
(4)酸濃度の検討(金属固定化担体)
そこで、金属固定化担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する際に用いる精製溶液について、アセトニトリル濃度を50%に固定して、添加する酸の濃度を検討した。添加する酸としては上記と同様に酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸の4種類について検討した。検討する酸の濃度は、0%、0.01%, 0.03%, 0.1%, 0.3%, 1%, 3%, 10%とした。これらの溶媒を用いて、上記と同様の検討を行った。
【0115】
具体的には、サンプル液20μLを取り、各濃度の酸を含むアセトニトリル溶液で20倍に希釈した。一方、1.6 mL容量のエッペンドルフチューブに金属固定化担体であるPHOS-Selec Iron Affinity Gelを50μL取り(Sigma-Aldrich社, Cat No. P9740)、あらかじめサンプルを希釈した溶媒と同じ各濃度の酸を含むアセトニトリル溶液で洗浄した。そこに、上記の希釈したサンプル液を加えて30秒間激しく攪拌した。20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。続いて、同じ各濃度の酸を含むアセトニトリル溶液を200μL加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。次に、150 mMのアンモニア水を加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を集めてSavant社のSpeedVacにて乾燥させた。
【0116】
次に、乾燥させたサンプルに5μLの33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸を加えてサンプルを再溶解し、当該再溶解したサンプル液0.5μLをMatrix Assisted Laser Desorption/Ionization (MALDI)プレートに乗せ、33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸で飽和したマトリクス液(alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid, アルドリッチ社cat no. 47687-0)0.5μLを、MALDIプレート上で先に乗せたサンプル液に液滴が広がらないように重ね合わせて自然乾燥させた。これをアプライドバイオシステムズ社の質量分析装置(MS)ABI4700の正イオン検出のリニアモードにてMALDI-TOF/MS測定を行った。
【0117】
その結果、トリフルオロ酢酸の濃度が0.1%以上1%以下の場合において、および塩酸の濃度が0.03%以上0.3%以下の場合において、非特異的な吸着の減少が認められた。一方、酢酸およびギ酸を用いた場合には、非特異的な吸着の減少は認められなかった。
【0118】
以上の結果から、金属固定化担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法において、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することにより、リン酸化タンパク質を効率的に精製することが明らかになった。
さらに、酸として、トリフルオロ酢酸0.1%以上1.0%以下または塩酸0.03%以上0.3%以下を添加することが好ましいことが明らかになった。
【0119】
(5)チタニア担体での検討
また、チタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する際に用いる精製溶液について、金属固定化担体の場合と同様の検討を行った。
その結果、チタニア担体においても、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することにより、リン酸化タンパク質を効率的に精製することが明らかになった。
さらに、酸として、トリフルオロ酢酸0.1%以上1.0%以下または塩酸0.03%以上0.3%以下を添加することが好ましいことが明らかになった。
【0120】
(6)塩化ナトリウム、界面活性剤の影響
そこで、負荷量が大きいチタニアを使い、トリフルオロ酢酸0.3%を含む50%アセトニトリル溶液を用いて上記と同様の検討を行った。
【0121】
具体的には、サンプル液20μLを取り、トリフルオロ酢酸0.3%を含む50%アセトニトリル溶液で20倍に希釈した。一方、1.6 mL容量のエッペンドルフチューブにチタニア担体(GLサイエンス社製)を50μL取り、あらかじめサンプルを希釈した溶媒と同じトリフルオロ酢酸0.3%を含む50%アセトニトリル溶液で洗浄した。そこに、上記の希釈したサンプル液を加えて30秒間激しく攪拌した。20000 g、1分間遠心した後、上清を捨てた。続いて、同じトリフルオロ酢酸0.3%を含む50%アセトニトリル溶液を200μL加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。次に、150 mMのアンモニア水を加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心した後、上清を集めてSavant社のSpeedVacにて乾燥させた。
【0122】
次に、乾燥させたサンプルに5μLの33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸を加えてサンプルを再溶解し、当該再溶解したサンプル液0.5μLをMatrix Assisted Laser Desorption/Ionization (MALDI)プレートに乗せ、33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸で飽和したマトリクス液(alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid, アルドリッチ社cat no. 47687-0)0.5μLを、MALDIプレート上で先に乗せたサンプル液に液滴が広がらないように重ね合わせて自然乾燥させた。これをアプライドバイオシステムズ社の質量分析装置(MS)ABI4700の正イオン検出のリニアモードにてMALDI-TOF/MS測定を行った。
ただし、サンプル液にはあらかじめ5M塩化ナトリウム水溶液を添加して、最終濃度をそれぞれ0, 0.05 M, 0.1 M, 0.2 M, 0.5 M, 0.75 M, 1 Mとしておいた。
しかし、塩化ナトリウムは、リン酸化タンパク質の精製、非特異的な吸着に何ら影響を及ぼさなかった。
【0123】
さらに、リン酸化タンパク質を精製する際に用いる精製溶液において、界面活性剤の影響を検討するため、Triton X100, Nonidet p40, 5-cyclohexyl-pentyl-beta-D-maltoside, beta-octyl glucoside, CHAPSをサンプル液に0.1%になるように添加し、影響を調べた。
その結果、Triton X100, Nonidet p40、CHAPSの3種類については、マススペクトルに対して悪影響を認めた(途中の過程で除去できなかった)が、5-cyclohexyl-pentyl-beta-D-maltoside beta-octyl glucosideについてはこのような問題を生じなかった。
【0124】
これらの結果から、サンプル液中に0.1%程度の5-cyclohexyl-pentyl-beta-D-maltosideや beta-octyl glucoside、1Mまでの塩化ナトリウムが混在していても本発明における方法において特に影響がないことが明らかになった。
【0125】
(7)溶出条件の検討
また、金属固定化担体またはチタニア担体に吸着させたリン酸化タンパク質を溶出させる条件として、150 mMのアンモニア水、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムを使って比較したが、いずれの場合においても結果に大差はなく、溶出させる条件は特に限定されないことが明らかになった。
【0126】
(8)従来法との比較
次に、比較実験としてシグマ社推奨のプロトコールに基づき、まず、サンプル液を0.1 Mの酢酸水で20倍に希釈した。次に、1.6 mL容量のエッペンドルフチューブに金属固定化担体であるPHOS-Selec Iron Affinity Gelを50μL取り、あらかじめ0.1 Mの酢酸水で洗浄した。そこに、上記の0.1 Mの酢酸水で希釈したサンプル液を加えて30秒間激しく攪拌した。次に、20000 gで1分間遠心した後、上清を捨てた。続いて、0.1 Mの酢酸水を200μL加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心後、上清を捨てた。次に、150 mMのアンモニア水を加えて30秒間激しく攪拌し、20000 gで1分間遠心後、上清を集めてSavant社のSpeedVacにて乾燥させた。
【0127】
次に、乾燥させたサンプルに5μLの33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸を加えてサンプルを再溶解し、当該再溶解したサンプル液0.5μLをMatrix Assisted Laser Desorption/Ionization (MALDI)プレートに乗せ、33%アセトニトリル0.1%トリフルオロ酢酸で飽和したマトリクス液(alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid, アルドリッチ社cat no. 47687-0)0.5μLを、MALDIプレート上で先に乗せたサンプル液に液滴が広がらないように重ね合わせて自然乾燥させた。これをアプライドバイオシステムズ社の質量分析装置(MS)ABI4700の正イオン検出のリニアモードにてMALDI-TOF/MS測定を行った。
【0128】
その結果、従来の0.1 Mの酢酸水を用いた方法では、オボアルブミンの2ヶ所のリン酸化タンパク質(EVVGSAEAGVDAASVSEEFR 2089(配列番号1)およびLPGFGDSIEAQCGTSVNVH 2082(配列番号2)、ただし後者についてはトリプシンの非特異的切断が起き、本来はLPGFGDSIEAQCGTSVNVHSSLR(配列番号3)である)以外の多くのタンパク質が検出され、リン酸化タンパク質を選択的に精製することはできなかった(図3)。一方、本発明のトリフルオロ酢酸0.3%を含む50%アセトニトリル溶液を用いた方法では、オボアルブミンの2ヶ所のリン酸化タンパク質(EVVGSAEAGVDAASVSEEFR 2089(配列番号1)およびLPGFGDSIEAQCGTSVNVH 2082(配列番号2)、ただし後者についてはトリプシンの非特異的切断が起き、本来はLPGFGDSIEAQCGTSVNVHSSLR(配列番号3)である)を選択的に精製することが可能になった(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明により、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく検出することができ、かつ、検索時間も短縮することが可能になった。
すなわち、従来の自動検索エンジン(例えば、MASCOT等)およびタンパク質データベース(例えば、NCBInr、IPI、Sport等)を使用する方法では、偽陽性および偽陰性が非常に多く、また、検索時間に膨大な時間を要していたが、リン酸化タンパク質の検出対象サンプル中の複数種のタンパク質に関するデータからなるデータベースを作成し、サンプルから分離したリン酸化タンパク質を質量分析計により測定し、測定の結果得られたデータを、当該データベースを使用して解析することにより、サンプル中の複数種のリン酸化タンパク質を精度よく、かつ、短時間に検出できるようになった。また、従来の方法では、検出できなかったリン酸化タンパク質をも検出することができるようになった。
【0130】
また、本発明により、金属固定化担体またはチタニア担体によるリン酸化タンパク質の精製において、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有し、さらに好ましくはトリフルオロ酢酸(例えば、0.1%以上(V/V)以上1.0%以下(V/V))または塩酸(例えば、0.03%(V/V)以上0.3%以下(V/V))を含有する溶液を使用することにより、非特異的吸着が劇的に減少し、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが可能となった。
すなわち、従来の方法では、カルボン酸もIMACカラムに対して親和性を持つため、酸性アミノ酸を有するタンパク質もまた多かれ少なかれIMACカラムに結合し、IMACカラムを用いてリン酸化タンパク質のみを精製するのは容易ではなかった。また、疎水性ペプチドもIMACに対して非特異的な作用を有するため除去できないことが多かったが、本発明の方法により、カルボン酸や疎水性によるIMACカラムに対する吸着を抑制することができ、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが可能となった。
【0131】
さらには、タンパク質のカルボン酸のメチルエステル化を行うことでIMACカラムに対する酸性アミノ酸の吸着を抑える精製方法における課題点、すなわち、エステル化反応が定量的に進行しなかったり、副反応が起きたり、選択性が期待通りよくならなかったり、エステル化した後にペプチドが不溶化したりするため、特異的に精製できないことも多いという課題点についても解決し、サンプル(例えば、組織、生体液、細胞、細胞器官またはタンパク質複合体等)中の1または複数種のリン酸化タンパク質を効率的に精製することが可能となった。
【配列表フリーテキスト】
【0132】
配列番号1:リン酸化タンパク質
配列番号2:リン酸化タンパク質
配列番号3:リン酸化タンパク質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を使用することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、
アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液を、金属固定化担体若しくはチタニア担体の平衡化溶媒、サンプルを溶解する溶媒および/または金属固定化担体若しくはチタニア担体における展開溶媒として使用することを特徴とする、前記方法。
【請求項3】
金属固定化担体またはチタニア担体を用いてリン酸化タンパク質を精製する方法であって、
アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液で金属固定化担体またはチタニア担体を平衡化する工程と、
サンプルを、アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液に溶解する工程と、
当該溶解したサンプルと、前記平衡化された担体とを接触させる工程と、
リン酸化タンパク質を溶出させる工程と、
を含む、前記方法。
【請求項4】
アセトニトリルを40%(V/V)以上60%(V/V)以下含有する溶液が、さらに酸を含有する溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸が強酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
強酸が、トリフルオロ酢酸または塩酸である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
トリフルオロ酢酸の濃度が、0.1%(V/V)以上1.0%(V/V)以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
塩酸の濃度が、0.03%(V/V)以上0.3%(V/V)以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
金属固定化担体に固定される金属イオンが、鉄イオン(III)またはガリウムイオン(III)である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
Dihydroxy Benzoic Acidを含まないことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液を含む、リン酸化タンパク質精製キット。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法に使用するための、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
アセトニトリルを40%(V/V)以上含有する溶液を含む、リン酸化タンパク質精製溶液。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法に使用するための、請求項13に記載の溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−133971(P2010−133971A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17929(P2010−17929)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【分割の表示】特願2006−529017(P2006−529017)の分割
【原出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】