説明

リン酸化澱粉を含んでなる動物成長促進剤

【課題】アレルゲンを含まない動物成長促進剤及びその製造法を提供する。
【解決手段】澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから、焙焼して得られるリン酸化澱粉を含んでなる動物成長促進剤、その製造法、及びそれを用いる動物の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化澱粉を含む動物成長促進剤、その製造法、及びそれを用いる動物の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜等の成育には感染症に対する予防が極めて重要であり、特に、幼動物では動物自身の免疫力が弱いため、感染症の発生が死を招くことも多い。また、家畜の肺炎や細菌性の下痢などの感染症は、当の家畜の成長に大きくマイナスとなるだけでなく、他の健全な家畜への伝播により被害が拡大する危険性がある。しかも、感染症による発育遅延の影響も大きく、家畜の場合は、その経済的損失は甚大である。発症した家畜は抗生物質を投与して治療されるが、これも生産コストの上昇につながるだけでなく、広範な抗生物質添加による弊害が指摘され、使用が制限される方向にある。従って、安全性、効果、作業性、コスト等の問題のない家畜の免疫増強法が望まれている。
【0003】
感染症を予防して家畜等の安定な成育を図るため、飼料に免疫増強物質を添加することが従来から行われており、各種のアミノ酸や初乳製剤などが有効な物質として知られている。しかし、これらは効果とコストの両面から問題があり、改善が望まれている。
【0004】
免疫増強効果を示し、かつ動物の成長促進作用を示すものとして、CPP(カゼインホスホペプチド)が知られており、家畜用の飼料等に添加して摂取させると、肥育効果が向上することが認められている(特許文献4)。CPPは牛乳タンパク質の1種であり、リン酸化アミノ酸を含むものであって、アレルゲンとなる可能性が指摘されている。
【0005】
大谷らはアレルゲンとなる恐れのない糖質に注目し、特定のリン酸化糖が免疫増強効果を有することを見いだし、特許出願をしている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1では、澱粉を化学的にリン酸化して得られるリン酸化澱粉に培養細胞系において、免疫細胞の増殖活性が有意に増加することを見いだしている。また、澱粉を低分子化して得られたデキストリンをリン酸化して生じるリン酸化デキストリンにも培養細胞系でIgAの産生を増強する作用のあることを見いだしている。更に、特許文献2では、前記のリン酸化デキストリンを含む飼料で飼育したマウスにおいて、糞便及び腸管内のIgAの産生が増加することを見いだし、リン酸化デキストリンの粘膜免疫賦活作用を開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1においてリン酸化澱粉やリン酸化デキストリンが免疫増強作用を示すことは開示されているが、動物の成長を促進する作用については、全く知られていない。
【0007】
阪本らは、特許文献3においてリン酸化澱粉の工業的な製造法を開示しており、リン酸化澱粉の効果的な製造法を提示して、リン酸化澱粉がCa可溶化作用に優れていることを示しているが、動物の成長促進作用については何ら言及していない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−43326号公報
【特許文献2】特開2005−82494号公報
【特許文献3】特開平11−255803号公報
【特許文献4】WO 01/013739
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アレルゲンを含まない動物成長促進剤及びその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから、焙焼して得られるリン酸化澱粉を含んでなる動物成長促進剤。
(2)リン酸化澱粉が、乾燥後のpHが5〜7となるように調整して澱粉とリン酸化試薬を混合し、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから焙焼して得られるものである前記(1)に記載の動物成長促進剤。
(3)リン酸化澱粉が、澱粉とリン酸化試薬の混合乾燥物を焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱して得られるものである前記(1)又は(2)に記載の動物成長促進剤。
(4)リン酸化澱粉のリン酸化率が70%以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の動物成長促進剤。
(5)リン酸化澱粉の結合リン含量が0.5質量%以上である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の動物成長促進剤。
(6)リン酸化澱粉が精製されたものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の動物成長促進剤。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の動物成長促進剤を含有する飼料。
(8)前記(7)に記載の飼料を用いることを特徴とする動物を飼育する方法。
(9)動物が豚である前記(8)に記載の方法。
(10)澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから焙焼し、必要に応じて精製することを特徴とする動物成長促進剤の製造方法。
(11)乾燥後のpHが5〜7となるように調整して澱粉とリン酸化試薬を混合することを特徴とする前記(10)に記載の動物成長促進剤の製造方法。
(12)発生する水分を系外に除去しながら焙焼することを特徴とする前記(10)又は(11)に記載の動物成長促進剤の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の動物成長促進剤は、アレルゲンとなる恐れのないリン酸化澱粉を有効成分とするものであり、アレルゲンを含まない安全な動物成長促進剤である。また、本発明の動物成長促進剤は、安価、かつ安定的に供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるリン酸化澱粉は、原料が糖質の中で最も安価で大量に消費されている澱粉である。また、リン酸化の技術も広く一般に利用されている焙焼法である。すなわち、得られるリン酸化澱粉は他の糖質では得られないコスト面での優位性を持っている。
【0013】
特許文献1では、澱粉を糊化してリン酸ナトリウム溶液と混合し、凍結乾燥してからリン酸化する方法が採用されている。しかし、糊化した澱粉の濃度を10質量%以上に高めると、粘度が高くなって、操業できなくなる。従って、リン酸ナトリウム溶液に糊化した澱粉を2%濃度で混合した液を凍結乾燥した後、加熱処理されている。乾燥方法は凍結乾燥に限ることなく、スプレー・ドライなどを用いることもできる。しかし、固形分濃度の低い粘稠な液であるため、濃縮して乾燥することは困難である。従って、糊化澱粉とリン酸ナトリウムの混合乾燥物を得るには、かなりの処理コストが必要となる。
【0014】
更に、リン酸塩混合澱粉の焙焼が問題である。特許文献1では、焙焼条件として、140℃で24時間の加熱条件が提示されている。このような長時間の反応は実験室では可能であるが、工業生産では生産性の関係から、焙焼時間を30分〜4時間程度に収める必要性がある。従って、工業的なリン酸化反応の条件は更に高い温度で焙焼されており、140〜200℃が用いられる。特許文献1の先願発明のように、結合するリン酸基の多いリン酸化澱粉(35.4有機リン酸mol/澱粉mol=結合リン含量3.6質量%)を得るには、工業的には170℃前後の温度が必要となる。このような温度で焙焼すると、澱粉とリン酸ナトリウムの混合物は着色し、褐色の粉体となる。褐変の生じる原因は、澱粉には反応性に富む還元末端が存在するため、着色物質が生じたり、解重合が起こるとされている。着色成分の多くは、活性炭処理や溶媒洗浄処理で除去されるが、精製コストも高く、収率も大きく低下することとなる。
【0015】
阪本らは、特許文献3においてリン酸化澱粉の工業的な製造法を開示しており、リン酸化澱粉の効果的な製造法を提示して、リン酸化澱粉がCa可溶化作用に優れていることを示している。
【0016】
本発明に用いるリン酸化澱粉は、好ましくは、以下に述べる方法で製造する。
原料として使用される澱粉は特に限定されず、一般に利用されている植物由来の澱粉だけでなく、いずれの起源の澱粉でも使用できる。穀類、塊茎、根、豆、草本類などから得られる澱粉が使用可能である。例えばコーンスターチ、ハイアミロース・コーンスターチ、ワキシー・コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が用いられる。更に、澱粉を各種処理して得られる澱粉分解物も原料となり、それらの多くは澱粉と表示されている。従って、本発明において原料として用いられる「澱粉」中には澱粉分解物も包含される。すなわち、澱粉を物理的に一次処理した澱粉、例えば、ドラムドライヤーやエクストルーダー処理した糊化澱粉、又は酸やアルカリで化学的に処理して得られる澱粉やデキストリンも原料として使用できる。
【0017】
リン酸化に使用されるリン酸化試薬としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩である第一リン酸ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、第二リン酸ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、第三リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩である第一リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム)、第二リン酸カリウム(リン酸水素二カリウム)、第三リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸カリウム、又、オキシ塩化リンなどが挙げられる。
【0018】
リン酸化試薬は、澱粉(澱粉分解物を含む)に対して、通常、リンとして0.2質量%以上の添加量で添加することによりリン酸含浸澱粉(澱粉とリン酸化試薬の混合物)を調製することができる。リン酸化試薬の添加は、水分を含んだ澱粉スラリーに粉末のリン酸化試薬を添加する方法や液体のリン酸化試薬に澱粉の乾粉を添加する方法を適宜選択することができる。生じたリン酸含浸澱粉のpHは通常4〜10に、好ましくは5〜7に調整される。pHを調整するために澱粉とリン酸化試薬との混合液に酸やアルカリを添加することができる。酸としては、当然リン酸を用いることができ、リン酸以外に塩酸、硫酸、亜硫酸などを用いてもよい。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0019】
澱粉の乾粉と粉末のリン酸化試薬を混合すれば、乾燥状態のままで加熱焙焼できるが、リン酸化率はきわめて低いものとなる。従って、少なくとも澱粉か、リン酸化試薬のいずれかを、液体又は水を含んだ流動体の状態で混合することとなる。混合直後のリン酸含浸澱粉は、そのままでは流動性が極めて悪く操業困難であり、流動性を改善するため乾燥が必要となる。リン酸含浸澱粉の水分を15質量%未満にすれば、流動性がかなり改善され、更に10質量%未満にまで乾燥されると操業が容易となる場合が多い。リン酸含浸澱粉の乾燥は、澱粉の乾燥装置として汎用されているフラッシュ・ドライヤーで水分を容易に10質量%未満に減らすことができる。しかしながら、高い結合リン含量を得るためリン酸化試薬を大量に添加すると、リン酸含浸澱粉の流動性が更に悪くなる場合があり、フラッシュ・ドライヤーによる乾燥が困難となる。このような場合には、特許文献3に開示しているドラムドライヤーやエクストルーダーによる糊化・乾燥法が流動性に優れた乾燥状態のリン酸含浸澱粉を生成させるのに適した方法である。
【0020】
澱粉とリン酸化試薬との混合については、多くの場合、前述のように、澱粉スラリーにリン酸化試薬を添加する方法、あるいはリン酸化試薬溶液に澱粉を分散させる方法が取られ、得られたリン酸含浸澱粉をろ過機で脱水回収する方法が採用されている。しかしながら、この回収法では、ろ液にリン酸化試薬が溶出するため、その回収が問題となる。本発明者らは、所定の攪拌・混合能力を備えた混合機を用いて、例えばタービュライザ、フロージェットミキサーやピンミキサーなどの混合機で乾燥された澱粉粉末にリン酸化試薬溶液を混合した後、得られたリン酸含浸澱粉を乾燥すれば、リン酸化率の高くなるリン酸化反応が可能であることを見いだしている。また、澱粉スラリーをろ過機にかけて得られる澱粉の脱水ケーキにリン酸化試薬の粉末を加えて、リボンブレンダーやレディゲミキサーのような所定の攪拌・混合能力を備えた混合機で混合してから乾燥しても、同様に効果的なリン酸化反応が可能となるリン酸含浸澱粉を得ることができる。
【0021】
水分15質量%未満に乾燥されたリン酸含浸澱粉は、焙焼装置で加熱処理される。加熱処理の条件としては、リン酸含浸澱粉を焙焼装置に投入して熱風で流動加熱し、昇温して品温を通常100〜250℃、好ましくは150〜190℃の一定温度に維持した後、冷却してから製品を排出する。昇温及び冷却・排出に要する時間は、通常10〜60分程度であるが、装置の大きさや原料の搬送能力によって大きく異なり、又リン酸含浸澱粉の流動性が低下すれば長時間を要することとなる。一定温度に維持する加熱時間は通常5分〜4時間、好ましくは30〜180分である。
【0022】
リン酸化反応の焙焼条件は、実験室的には、加熱送風機を備えた棚段乾燥機を用いて、140〜200℃に1〜3時間保持すれば、結合リンの多いリン酸化澱粉をリン酸化率80%前後で得ることは可能である。しかしながら、工業的な焙焼設備では、リン酸化率の高いリン酸化澱粉を製造することは困難となる。結合リンの多いリン酸化澱粉を得ようとすれば、リン酸化反応が脱水縮合反応であるため、リン酸化により発生する水分子も多く、この水分子がリン酸化反応を妨げるだけでなく、製品の着色を著しく進める要因となる。本発明者らは、流動層の熱風を系外に排出すると、層内のリン酸含浸澱粉の水分減少が速やかとなり、リン酸化が促進されることを見出した。流動層における加熱反応工程の原料投入、昇温、一定温度保持、冷却、製品排出の各操業段階において、加熱後の熱風を流動層の系外に排出して水分子を除去しながらリン酸化反応を進めた。このように、加熱焙焼工程で脱水縮合反応により発生する水分子を系外に取り出す方法により、70%以上と高いリン酸化率(結合リン/全リン×100)のリン酸化澱粉が得られ、また結合リンが0.5質量%以上と結合リンの多いリン酸化澱粉においても70%以上の高いリン酸化率が得られる。更に、反応条件を選ぶことにより、80%以上もの高いリン酸化率のリン酸化澱粉が得られ、又結合リンが0.5質量%以上と結合リンの多いリン酸化澱粉においても、80%以上の高いリン酸化率が得られる。このような方法によれば、高いリン酸化率が得られるだけでなく、従来の製造方法に比べて、脱塩の精製負荷が少なく、着色度の低いリン酸化澱粉を製造することが可能となる。
【0023】
焙焼によって得られたリン酸化澱粉は、必要に応じて精製される。特に、着色物質を除くにはメタノールなどのアルコールによる洗浄が有効であり、未反応の無機リン酸を除くには、含水メタノールなどが使用される。リン酸化澱粉の結合リン含量や無機リン酸の残量によって、アルコールへのリン酸化澱粉の溶解度や水への無機リン酸の溶解量が異なるため、アルコールの濃度や含水率は適宜、最適条件を求めて精製条件が設定される。
【0024】
本発明に用いるリン酸化澱粉は、仔豚の成育を著しく促進し、血中のIgAも有意に増加する効果を有している。免疫増強作用を有して、なおかつ生育促進効果を示す物質としてカゼインホスホペプチド(CPP)が知られている(特許文献4)。しかし、蛋白性の物質はアレルゲンとなる可能性があり、より安価で安全性にすぐれた生育促進物質が望まれている。この点、本発明のリン酸化澱粉は、安価な原料である澱粉をリン酸化して得られる糖質であり、アレルゲンとはなり難く、安全性に優れた物質であり、CPPと同様にカルシウムなどの可溶化を促進する物質として注目されている。
【0025】
本発明に用いるリン酸化澱粉は、動物や家畜の飼育に供される飼料に添加されるものである。実施例に示されるように、仔豚の成育を著しく促進する効果を有しているが、本発明の対象とされる動物は豚に限定されず、哺乳類であるヒトや他の家畜、例えば牛、馬、羊、鶏なども含まれる。更に、犬、猫などのようなペット動物等も本発明の対象に含まれる。
【0026】
動物成長促進剤として用いる場合には、養豚用飼料、養牛用飼料、養鶏用飼料等の家畜飼料、ペットフード、各種配合飼料など各種飼料に添加することができる。動物成長促進剤を含む飼料を投与する方法としては、経口的に摂取させる方法が一般的である。更に、本発明に用いるリン酸化澱粉は水溶性であり、水などの飲料に加えて摂取する方法も選択できる。
【0027】
本発明の動物成長促進剤を配合する飼料等については、特に限定されたものは必要なく、動物の種類やその成長に見合って適切なものを選択すればよい。特に、離乳時以後の仔豚の成育に著しい効果を有している。投与量についても、動物の種類、年齢、体重、性別、給餌する環境等を考慮して適宜決定されるが、一例として、一般に使用されている豚用飼料100質量部に対して0.01〜5質量部程度、好ましくは0.02〜1質量部程度を均一に混合する。選定された飼料は一定期間、好ましくは出荷時まで継続して動物に投与することが好ましい。しかしながら、投与の方法として連続投与だけでなく、間欠投与も選択可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0029】
実施例において、(a)リン酸化澱粉の結合リンの測定、(b)リン酸化率の算出は以下の方法で行った。なお、別に断らない限りリン含量の質量%は乾物質量に対する%として表示した。
【0030】
(a)リン酸化澱粉の結合リン測定
リン含量は澱粉・関連糖質実験法(学会出版センター、中村道徳ら)に記載の方法に準じて測定した。すなわち、リン酸化澱粉のリン含量を測定するため、試料にα−アミラーゼ(ターマミル120L,ノボザイムズ ジャパン製)0.1質量%(対乾燥試料)を加えて95℃、10分間加熱分解して均一な溶液を調製した。直ちに水道水で冷却し、塩酸を加えてpHを2に調整してからFiske-Subbarow法で無機リンを測定した。なお、これらの酵素分解反応では結合リンが無機リンとして遊離しないことを確認している。また、比色分析の発色時に濁りが認められるものは、遠心分離(3000rpm,3分間)して上清の吸光度を測定した。全リン含量は無機リン測定時にpH2に調整した試料を湿式灰化処理して無機リンとしてから、同様にFiske-Subbarow法で測定した。リン酸化澱粉の結合リン含量(質量%)は下記の式で算出した。
結合リン含量(質量%)=全リン含量(質量%)− 無機リン含量(質量%)
【0031】
(b)リン酸化澱粉のリン酸化率の算出
リン酸化澱粉のリン酸化率は下記の式で算出した。
リン酸化率(%)={結合リン含量(質量%)÷全リン含量(質量%)}×100
【0032】
実施例1
コーンスターチ(王子コーンスターチ製、水分13質量%)1200kgを一定の流速でタービュライザに導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩362kgと無水第二リン酸ナトリウム65kgを水に溶解して全量1345kgのリン酸溶液(溶液中のリン含量6.4質量%、pH6.0)の内、半量を一定の流速で添加して均一に混合した。これをフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥して得たリン酸混合澱粉に、更にリン酸溶液の残りの半量をタービュライザで均一に混合した。このリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量6.2質量%、pH5.6)の内、500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で2時間加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸化澱粉(結合リン含量5.0質量%、リン酸化率81%)は400kgであった。
【0033】
実施例2
実施例1で得られたリン酸含浸澱粉(リン含量6.2質量%、pH5.6)の500gを320メッシュの金網の上に平均厚さ5mmとなるように均一に広げて置き、この金網を棚段乾燥機に装着した。熱風の温度を95℃に設定して1時間乾燥し、リン酸含浸澱粉の水分含量が1%となることを確認した。引き続いて熱風の温度を175℃に昇温して、2時間30分保持した。ヒーターを停止して冷風とし、品温が50℃以下となってからリン酸化澱粉を回収した。同じ方法でリン酸化反応を繰り返し、リン酸化澱粉(結合リン含量5.0質量%、リン酸化率81%)は10kgを回収した。
【0034】
実施例3
約25日齢の仔豚(ランドレースとラージホワイトのF1とデュロックの交配種)10頭を1群として、実施例2のリン酸化澱粉を0.25質量%の割合で混合した市販飼料を投与して8週間飼育した。対照は、リン酸化澱粉を含まない飼料であり、最初の35日間は「全農すこやか」を飼料とし、それ以降は「全農シーガル前期」を飼料とした。仔豚の実験開始時と実験終了時の各個体の体重を測定した。飼育結果を表1〜2に示す。仔豚の実験開始時と2週、4週、8週(実験終了時)の血中のグロブリン量、IgG、IgM、IgAを測定し、結果を表3〜6に示した。なお、効果の有意差判定には、Student’s t-testを用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
表1に示すように、試験飼育開始後、8週間における期間体重の増加は試験区の方が30.1kgであり、対照区の26.3kgより3.8kgも高い値(有意水準5%未満)が得られた。しかも、表2に示すように、同じ期間の飼料要求率は対照区と同じであった。また、表6に示すように、同じく試験飼育開始後、2、8週間における血中のIgAは対照区より試験区の方が高い値(有意水準5%未満)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから、焙焼して得られるリン酸化澱粉を含んでなる動物成長促進剤。
【請求項2】
リン酸化澱粉が、乾燥後のpHが5〜7となるように調整して澱粉とリン酸化試薬を混合し、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから焙焼して得られるものである請求項1記載の動物成長促進剤。
【請求項3】
リン酸化澱粉が、澱粉とリン酸化試薬の混合乾燥物を焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱して得られるものである請求項1又は2記載の動物成長促進剤。
【請求項4】
リン酸化澱粉のリン酸化率が70%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の動物成長促進剤。
【請求項5】
リン酸化澱粉の結合リン含量が0.5質量%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物成長促進剤。
【請求項6】
リン酸化澱粉が精製されたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の動物成長促進剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の動物成長促進剤を含有する飼料。
【請求項8】
請求項7記載の飼料を用いることを特徴とする動物を飼育する方法。
【請求項9】
動物が豚である請求項8記載の方法。
【請求項10】
澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから焙焼し、必要に応じて精製することを特徴とする動物成長促進剤の製造方法。
【請求項11】
乾燥後のpHが5〜7となるように調整して澱粉とリン酸化試薬を混合することを特徴とする請求項10記載の動物成長促進剤の製造方法。
【請求項12】
発生する水分を系外に除去しながら焙焼することを特徴とする請求項10又は11記載の動物成長促進剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−204456(P2007−204456A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28560(P2006−28560)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】