リーダ・ライタ
【課題】 非接触でICカードなどの通信端末と無線通信を行う際に、接近した状態で通信ができないヌル状態の発生を効果的に防止する。
【解決手段】 通信端末としての無線タグ、或いはその無線タグ機能が内蔵された携帯端末装置と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、通信端末との距離を推定する推定部24と、その推定部24で推定された距離に応じて、同調部31で同調させる周波数をシフトさせる周波数シフト部32を備えて、通信端末との距離が非常に近接した場合に、同調周波数をシフトさせて、ヌル状態が発生するのを回避するようにした。
【解決手段】 通信端末としての無線タグ、或いはその無線タグ機能が内蔵された携帯端末装置と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、通信端末との距離を推定する推定部24と、その推定部24で推定された距離に応じて、同調部31で同調させる周波数をシフトさせる周波数シフト部32を備えて、通信端末との距離が非常に近接した場合に、同調周波数をシフトさせて、ヌル状態が発生するのを回避するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型のICカード等と称される近距離無線通信機能を備えた無線通信端末と通信を行うリーダ・ライタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通機関の乗車券、会員証や社員証、店での代金決済手段用のカード等として、非接触型のICカードの利用が急速に広まっている。非接触型のICカードは、近接したリーダ・ライタとの間で無線通信を行って、認証処理を行うので、財布やパスケースなどの中に入れたままで使用でき、磁気カードなどに比べて使い勝手がよい。
【0003】
一方、このような非接触型のICカード(或いはICカードと同等の機能の回路部品)を、携帯電話端末などの携帯用の電子機器に内蔵させて、これらの機器を使用して、同様の認証や決済を行えるようにすることが提案されている。携帯電話端末などの携帯端末にICカードを内蔵させる構成とする場合には、携帯端末からの取り出しができない状態でICカードとしての機能部を組み込む場合と、携帯端末に用意されたカードスロットに、ICカードを装着させる場合とが想定されるが、携帯端末に取り付けられた状態では、いずれの場合も同じように使用できる。なお、携帯端末にICカード機能部を組み込む場合などには、ICカード機能部が必ずしもカード型の形状をしているとは限らないが、以下の説明ではICカードと称した場合、特に説明がない限りはICカード機能を有する部分を含むものである。また、この種の非接触型のICカードは、RFID(Radio Frequency Identification)や無線ICタグなどとも称され、単体で使用される場合でもカード型以外にラベル型、コイン型、スティック型など、種々の形状のものがあるが、ここでは便宜上ICカードと称する。
【0004】
ICカード機能部がリーダ・ライタと無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するようにしてある。即ち、ICカード側では、リーダ・ライタが出力する所定の周波数の搬送波に同調させる処理を行って、その検出された搬送波をASK(Amplitude shift keying)変調などで変調して、リーダ・ライタ側にデータを送るようしてある。
【0005】
図8は、従来のリーダ・ライタの構成例を示した図である。リーダ・ライタとしての送信データ処理及び受信データ処理を行う集積回路であるRFIDブロック1は、送信データを送信ブロック2に供給する。送信ブロック2は、変調回路2a及びドライブ回路2bを備える。変調回路2aでは、RFIDブロック1から供給された送信データを、搬送波周波数13.56MHzで変調し、その変調された送信信号をドライブ回路2bで、所定の送信出力とする処理を行い、そのドライブ回路2bの出力を、同調部3を介してアンテナ4に供給して、無線送信させる。ICカード機能部では、その無線送信される13.56MHzの搬送波を検出して、リーダ・ライタとの接近を検出して、リーダ・ライタと無線通信を行うようにしてある。
【0006】
リーダ・ライタの同調部3には、受信ブロック5が接続してあり、ICカード又はカード機能が内蔵された端末から送信された信号を受信処理する。受信ブロック5としては、受信帯域を抽出するフィルタ5aと、そのフィルタ5aの出力を増幅するアンプ5bとで構成され、アンプ5bの出力を、RFIDブロック1の復調部1aに供給して、受信データを復調させる。
【0007】
特許文献1には、非接触型のICカードで通信を行う構成についての開示がある。
【特許文献1】特願2003−67693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示した構成のリーダ・ライタが、ICカード機能部と無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するので、基本的には、ICカードに組み込まれたアンテナとリーダ・ライタとが、出来るだけ近接した状態である方が、正しく無線通信ができる。ところが、ICカード機能部とリーダ・ライタとが非常に近接した状態の場合に、あるポイントで通信ができない状態が発生することがある。
【0009】
この通信が出来ない状態の発生について説明すると、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信は、それぞれが備える専用のアンテナ間で行われるが、両アンテナは搬送周波数に合わせて同調を取っており、伝送特性が最適になるように調整されている。しかし、それぞれのアンテナは、自由空間上で共振周波数の調整がされているので、距離が近づいてアンテナ同士、又はアンテナと金属体が結合してしまうと、本来の特性を出すことができなくなってしまう。結合状態によっては、アンテナの同調周波数がずれることで、送受信波形間の位相ずれが大きくなり、あるポイントで位相が反転してしまう現象が起こる。非接触型のICカードで広く使用されているASK変調の場合、送受信波形の合成波のデータ振幅で通信を行うので、波形間の位相が中途半端な状態になってしまうと、データ振幅変化がキャンセルされてしまう。このようにキャンセルされるポイントは通信が成立しないので、ヌル(Null)状態と称される。
【0010】
図9、図10、図11は、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信状態の例を示した図である。この図9〜図11の各図において、(a)はリーダ・ライタが送信する搬送波波形を示し、(b)はICカード機能部からのASK変調された応答波形を示し、(c)は両波形の合成波を示し、この合成波がリーダ・ライタで検出されて、ICカードから送信されたデータを受信できる。
【0011】
ここで、図9は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合であり、図11は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合であり、図10は、図9の状態と図11の状態の中間の中途半端な位相差の状態を示してある。
【0012】
図9に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合には、図9(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形に対応したレベル変化が現れ、リーダ・ライタで正しくデータを受信できる。また、図11に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合には、図11(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形と逆のレベル変化が現れ、波形変化が図9の同相状態とは逆であるが、この場合にもリーダ・ライタで正しくデータを受信できる。
【0013】
これに対して、図10の中途半端な位相差の状態の場合には、図10(c)に示す合成波として、ほとんどレベル変化がなく、リーダ・ライタでデータを受信不可能な状態となってしまう。この図10の状態が上述したヌル状態である。
【0014】
このような図9〜図11の状態の変化は、ICカード側のアンテナとリーダ・ライタ側のアンテナとの距離によって変化し、例えばある程度ICカードとリーダ・ライタとの距離がある場合には、図9に示す同相状態となり、ICカードとリーダ・ライタとの距離が極めて接近した場合には、図11に示す逆相状態となり、その途中の特定のポイントで、図10に示したヌル状態が発生する。
【0015】
図12は、ICカード(タグ)の同調周波数f0とリーダ・ライタの同調周波数f0との関係の例を示した図で、両周波数が一定の関係となる範囲で、通信が出来ないヌル領域が発生している。このようなヌル領域の発生は、ICカードが携帯電話端末に内蔵されている場合のように、端末そのものが比較的大きな金属体(シールドケースなど)を備える場合に、顕著である。
【0016】
このようなヌル状態の発生を防止するためには、位相反転が起こらないようにアンテナ形状を工夫するか、或いはICカード機能部を携帯端末に組み込む際に、金属体を出来るだけ使用しない構造にする等が考えられるが、アンテナ形状などでの対処には限りがあり、ヌル状態の発生を完全に防ぐことは困難であった。
【0017】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、リーダ・ライタと通信端末との間で非接触で無線通信を行う際に、ヌル状態の発生を効果的に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、所定の周波数の搬送波を出力してICカード機能を有する通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、通信端末との距離を推定する推定部と、その推定部で推定された距離に応じて、無線通信装置内の同調で同調させる周波数をシフトさせる周波数シフト部を備えたものである。
【0019】
このようにしたことで、ヌル状態が発生する通信端末との位置関係となったことが推定部で推定された場合に、周波数シフト部で同調周波数がシフトして、結果的にヌル状態が回避される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、通信端末との位置関係が、ヌル状態が発生する可能性があることが推定部で推定された場合に、周波数シフト部での処理で同調する周波数がシフトして、結果的にヌル状態が回避される。従って、通信端末とある程度近接した状態で通信が出来ない状態となることがなく、リーダ・ライタに通信端末を短時間近接させるだけで、確実に無線通信が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態を、図1〜図3を参照して説明する。
【0022】
本例においては、近接させた通信端末と非接触で無線通信を行うリーダ・ライタに適用したものである。本例のリーダ・ライタが通信を行う通信端末としては、背景技術の欄で説明したカード形状などのICカード(タグ)、非接触型のICカード機能を内蔵させた携帯電話端末装置などの、ICカード機能を備えた通信端末であれば、いずれでもよい。以下の説明では、これらを総称してICカード機能付通信端末と称する。また、本例のリーダ・ライタは、例えば、交通機関の改札口や、ビルの出入り口、商店又は自動販売機の代金決済用レジなどに設置されて、それらのシステムを運用するコンピュータ装置と接続されたリーダ・ライタの場合と、パーソナルコンピュータ装置などに接続(又は内蔵)されて、単独で運用されるリーダ・ライタの場合のいずれでもよい。
【0023】
図1は、本例のリーダ・ライタの構成を示した図である。リーダ・ライタとしての送信データ処理及び受信データ処理を行う集積回路であるRFIDブロック10は、送信データを送信ブロック20に供給する。送信ブロック20は、変調回路21とドライブ回路22を備える。変調回路21では、RFIDブロック10から供給された送信データを、搬送波周波数13.56MHzで変調し、その変調された送信信号をドライブ回路22で、所定の送信出力とする処理を行い、そのドライブ回路22の出力を、抵抗器23を介して同調部31を介してアンテナ33に供給して、無線送信させる。
【0024】
抵抗器23は、端末の接近検出用に接続されたものであり、その抵抗器23の両端(図1でのa点及びb点)の電位を、比較部24で比較する。比較部24で比較した結果のデータは、制御部51に供給する。制御部51は、同調周波数シフトを制御する制御手段であり、比較部24の出力の判断結果に基づいて、後述する同調シフト部32を制御する制御信号(制御電圧)を出力する。比較部24の出力と制御信号との対応については、メモリ52に記憶させてある。メモリ52の記憶データについては、書換え可能に構成して、調整ができるようにしてもよい。
【0025】
同調部31には、同調シフト部32が接続してあり、その同調シフト部32がリーダ・ライタでの同調周波数をシフトさせるようにしてある。本例の場合には、比較部24の出力から、ICカード機能付通信端末との接近を検出した場合に、同調シフト部32で同調周波数を低くシフトさせるようにしてある。同調周波数をシフトさせる具体的な処理状態と、シフトさせる具体的な構成については後述する。
【0026】
このような送信構成のリーダ・ライタと近接したICカード機能付通信端末では、リーダ・ライタから無線送信される13.56MHzの搬送波を検出して、リーダ・ライタとの接近を検出して、リーダ・ライタと無線通信を行うようにしてある。
【0027】
リーダ・ライタの同調部31には、受信ブロック40が接続してあり、ICカード機能付通信端末から送信された信号を受信処理する。受信ブロック40としては、受信帯域を抽出するフィルタ41と、そのフィルタ41の出力を増幅するアンプ42とで構成され、アンプ42の出力を、RFIDブロック10の復調部11に供給して、受信データを復調する。RFIDブロック10は、リーダ・ライタを制御する機器(コンピュータ装置など)と接続されて、その制御機器により送信及び受信が制御される。
【0028】
図2は、リーダ・ライタのアンテナと同調部の具体的な例を示した図である。ICカード機能付通信端末と近距離無線通信を行うためのアンテナ部33を備える。アンテナ部33は、本例の場合、ループアンテナで構成される。アンテナの一端(33a)及び他端(33b)は、図1に示した送信ブロック20及び受信ブロック40に接続してある。
【0029】
そして、同調部31を構成する手段として、アンテナ33の一端33aと他端33bとの間に、同調用コンデンサC1が接続してある。この同調用コンデンサC1には、スイッチS1とコンデンサC2との直列回路が並列に接続してある。スイッチS1とコンデンサC2との直列回路が同調シフト部32として機能する。
【0030】
スイッチS1は、例えば電界効果トランジスタなどの半導体スイッチで構成され、制御部51から供給される信号でオン・オフが制御される。制御部51によるスイッチS1の制御としては、比較部24での比較により、ICカード機能付通信端末との接近が検出された場合に、スイッチS1をオンさせる。スイッチS1がオンの状態では、コンデンサC2が同調用コンデンサC1に並列に接続された状態となる。スイッチS1がオフ状態の場合には、コンデンサC2が接続されていない状態となる。比較部24での比較でオン・オフを切換える閾値の設定としては、後述するヌル領域を回避するための閾値としてある。比較部24での比較動作は、RFIDブロック10の復調部11で、受信データの復調を行っている際には停止させて、受信中に同調シフトが発生しないようにしてある。
【0031】
なお、スイッチS1をオフ状態からオン状態に変化させる信号レベルと、オン状態からオフ状態に変化させる信号レベルは若干変化させて、スイッチの動作にある程度のヒステリシスを持たせるようにしてもよい。また、スイッチと同調シフト用コンデンサC2を複数用意し、多段に同調をシフトさせる構成としてもよい。
【0032】
次に、図1、図2の構成でリーダ・ライタがICカード機能付通信端末と無線通信を行う場合の処理例について説明する。本例の端末装置は、ICカード機能付通信端末との距離が離れた状態では、スイッチS1がオフ状態であり、そのオフ状態での動作について説明すると、図2に示したループアンテナ33と同調用コンデンサC1とで、いわゆるLC並列共振回路を構成してあり、その同調(共振)周波数f0を搬送波周波数13.56MHzに設定してあり、ICカード機能付通信端末との間で無線通信が行える。この同調周波数f0は、次式で設定される。次式におけるLは、リーダ・ライタのアンテナの自己インダクタンスである。
【0033】
【数1】
【0034】
この[数1]式に示されるように、共振周波数はインダクタンスLのルートに反比例する関係にあり、インダクタンスの低下により共振周波数f0は上昇する。ここで、磁束とインダクタンスLとの関係を次式に示す。次式におけるNはリーダ・ライタのアンテナの巻数であり、Φはリーダ・ライタのアンテナに作用する磁束であり、Iはリーダ・ライタのアンテナを流れる電流である。
【0035】
【数2】
【0036】
端末装置とリーダ・ライタとの距離の接近で、金属体の渦電流によりリーダ・ライタのアンテナから放射される磁束の一部が打ち消されるため、磁束と比例関係を持っている自己インダクタンスも低下する。この自己インダクタンスの低下で、[数1]式からリーダ・ライタの共振周波数f0が上昇する。従って、端末装置とリーダ・ライタとの距離の接近で、リーダ・ライタのアンテナ部の共振周波数f0が上昇し、さらにICカード機能部内の共振周波数f0についても上昇することになる。図2に示されるように、リーダ・ライタ側の共振周波数の上昇の方が大きい。
【0037】
ここで本例においては、端末装置がリーダ・ライタに接近して、同調周波数f0がヌル領域に近づいたときに、スイッチをオン状態に変化させるようにしてある。このスイッチ16がオン状態に変化することで、図2に示した同調シフト用コンデンサC2が同調用コンデンサC1と並列に接続された状態となり、[数1]式に示した容量Cが高くなる。リーダ・ライタ側の共振周波数f0が補正される。
【0038】
端末がリーダ・ライタに接近したことの検出としては、例えば、図1に示したアンテナ部33側とドライブ回路22側との間のインピーダンス不整合を、比較部24で検出する処理が行われる。即ち、端末がリーダ・ライタに接近すると、リーダ・ライタの共振周波数f0が上昇して、搬送波周波数から外れて、アンテナ部33側とドライブ回路22側との間のインピーダンス不整合が生じる。その結果、図1に示したb点の出力電圧が降下する。つまり、b点の電圧は、距離の関数であり、このb点の電圧値を、a点の電圧値と比較部24で比較することで、端末とリーダ・ライタとの距離を推定することができる。どの程度低下を検出したときに、検出データを制御部51に送るかを適切に設定することで、ヌル状態の発生を効果的に回避できる。
【0039】
図3は、端末(ICカード)の同調周波数f0とリーダ・ライタの同調周波数f0との関係の例を示した図で、両周波数が一定の関係となる範囲で、通信が出来ないヌル領域が発生している点は、既に図12で説明したとおりである。端末装置とリーダ・ライタとの距離が十分に離れている場合には、それぞれの同調周波数f0は、設定された値(図3中の丸印)であり、その状態から両者の距離が接近すると、リーダ・ライタの同調周波数f0が上昇していき、三角印で示す状態となり、同調シフトがない状態では、ヌル領域に入ってしまうが、本例においてはリーダ・ライタ側で周波数シフト処理が行われて、ヌル領域に入らないような処理が行われる。
【0040】
このように本例によると、ICカード機能付き端末がリーダ・ライタと近接した際に、リーダ・ライタでの処理で、図10に示したヌル状態の発生が回避され、認証や課金などのための近距離無線通信ができない状態が発生することがなく、確実な通信が行える。
【0041】
なお、図3に示した動作例では、端末がリーダ・ライタと離れた状態で、同調シフト用コンデンサC2が接続されていない状態とし、リーダ・ライタにICカード機能付き端末が接近したとき、同調シフト用コンデンサC2を接続させて、同調周波数f0を低下させるようにしたが、逆に、端末がリーダ・ライタと離れた状態で、同調シフト用コンデンサC2を接続させ、リーダ・ライタと接近した状態となったとき、同調シフト用コンデンサC2を接続されてない状態として、リーダ・ライタと接近したときに、同調周波数f0を高くシフトさせるようにしてもよい。この場合のシフトとしては、ヌル領域を越えるようにシフトさせれば良い。
【0042】
また、図1に示した例では、端末との接近を、インピーダンス変化から推定(検出)するようにしたが、その他の処理でリーダ・ライタと端末との距離を推定又は測定して、その推定又は測定された距離に応じて、同調周波数f0をシフトさせるようにしてもよい。
【0043】
図4は、同調周波数をシフトさせる別の例を示したものである。この例では、図4に示すように、同調用コンデンサC1と並列に、コンデンサC3と可変容量ダイオードD1との直列回路を接続した構成として、コンデンサC3と可変容量ダイオードD1との接続点に、制御部51から制御電圧を供給して、可変容量ダイオードD1の容量を制御する構成としてある。その他の部分は、図1の構成と同じである。
【0044】
この図4に示すように構成したことで、端末との接近に伴って、アナログ的(連続的)に同調周波数f0を変化させることが可能になる。そして、その同調周波数f0の変化で、ヌル領域に入るのを阻止することができる。
【0045】
また、端末との接近の検出として、図1の例では、インピーダンス変化から推定(検出)するようにしたが、図5に示した構成として、端末との接近を検出するようにしてもよい。即ち、図5に示すように、抵抗器23の両端の信号を、差動アンプ25に入力させて、抵抗器23を流れる電流を検出させ、その検出値と、b点(同調部31と送信ブロック20′との接続点)の電圧とを比較部26で比較させて、検出された位相から距離を推定させる構成としてもよい。図5のその他の部分は、図1の回路と同様に構成する。
【0046】
また、ここまで説明した同調周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを、近距離無線通信を行う端末側に知らせるようにしてもよい。即ち、例えばリーダ・ライタから13.56MHzの搬送波で変調されて送信されるデータのパケット構成例を図6に示すと、先頭から順に、プリアンブル、同期信号(SYNC)、データ本体、エラー検出符号(CRC)と構成されているとする。このとき、例えば、プリアンブルとして、本来リーダ・ライタが送信するデータ構成のプリアンブルと、周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを示す特別なデータ構成のプリアンブルとを、1パケットごとに交互に配置させるようにする。
【0047】
或いはまた、図7に示すように、1パケットの末尾などの特定位置に、同調周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを示す特定データ(図7のシフトありのデータ)を付加して、端末側に送信させるようにしてもよい。
【0048】
この図6又は図7に示すように、同調周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを送信させることで、このデータを受信した端末側でも、同調シフト処理が行われることの判断が可能になり、何らかの対処が可能になる。例えば、端末側でも同様の同調シフト処理が行われる構成であった場合に、その端末側でのシフトを制限させて、リーダ・ライタと端末の双方で同時にシフト処理が行われるのを禁止するような処理が可能になる。
【0049】
なお、図6や図7の例では、リーダ・ライタがアンテナ部33から端末に直接的に送信するデータで、シフト処理が行われることを通知するようにしたが、リーダ・ライタによる無線通信とは別の通信手段を使用して、シフト処理が行われることを端末側に通知するようにしてもよい。例えば、端末側が、Bluetooth(商標)などの別の近距離無線通信部を備えている場合に、リーダ・ライタについても、対応した別の近距離無線通信部を備えて、その別の通信部を使用した通信で、通知させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態による例を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態による同調構成例を示す接続図である。
【図3】本発明の一実施の形態による共振周波数の振る舞いを示した説明図である。
【図4】本発明の他の実施の形態による同調構成の他の例を示す接続図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による例を示す構成図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による送信パケット構成例を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態による送信パケット構成の更に他の例を示す説明図である。
【図8】従来のリーダ・ライタの例を示す構成図である。
【図9】リーダ・ライタと通信部との同相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図10】リーダ・ライタと通信部との中途半端な位相差の場合の通信状態を示す波形図である。
【図11】リーダ・ライタと通信部との逆相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図12】リーダ・ライタと通信部との通信が出来ない範囲を示す周波数特性図である。
【符号の説明】
【0051】
10…RFID回路ブロック、11…復調部、20…送信ブロック、21…変調回路、22…ドライブ回路、23…抵抗器、24…比較部、31…同調部、32…同調シフト部、33…アンテナ、40…受信ブロック、41…フィルタ、42…アンプ、51…制御部、52…メモリ、C1…同調用コンデンサ、C2,C3…同調周波数シフト用コンデンサ、D1…可変容量ダイオード,S1…スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型のICカード等と称される近距離無線通信機能を備えた無線通信端末と通信を行うリーダ・ライタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通機関の乗車券、会員証や社員証、店での代金決済手段用のカード等として、非接触型のICカードの利用が急速に広まっている。非接触型のICカードは、近接したリーダ・ライタとの間で無線通信を行って、認証処理を行うので、財布やパスケースなどの中に入れたままで使用でき、磁気カードなどに比べて使い勝手がよい。
【0003】
一方、このような非接触型のICカード(或いはICカードと同等の機能の回路部品)を、携帯電話端末などの携帯用の電子機器に内蔵させて、これらの機器を使用して、同様の認証や決済を行えるようにすることが提案されている。携帯電話端末などの携帯端末にICカードを内蔵させる構成とする場合には、携帯端末からの取り出しができない状態でICカードとしての機能部を組み込む場合と、携帯端末に用意されたカードスロットに、ICカードを装着させる場合とが想定されるが、携帯端末に取り付けられた状態では、いずれの場合も同じように使用できる。なお、携帯端末にICカード機能部を組み込む場合などには、ICカード機能部が必ずしもカード型の形状をしているとは限らないが、以下の説明ではICカードと称した場合、特に説明がない限りはICカード機能を有する部分を含むものである。また、この種の非接触型のICカードは、RFID(Radio Frequency Identification)や無線ICタグなどとも称され、単体で使用される場合でもカード型以外にラベル型、コイン型、スティック型など、種々の形状のものがあるが、ここでは便宜上ICカードと称する。
【0004】
ICカード機能部がリーダ・ライタと無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するようにしてある。即ち、ICカード側では、リーダ・ライタが出力する所定の周波数の搬送波に同調させる処理を行って、その検出された搬送波をASK(Amplitude shift keying)変調などで変調して、リーダ・ライタ側にデータを送るようしてある。
【0005】
図8は、従来のリーダ・ライタの構成例を示した図である。リーダ・ライタとしての送信データ処理及び受信データ処理を行う集積回路であるRFIDブロック1は、送信データを送信ブロック2に供給する。送信ブロック2は、変調回路2a及びドライブ回路2bを備える。変調回路2aでは、RFIDブロック1から供給された送信データを、搬送波周波数13.56MHzで変調し、その変調された送信信号をドライブ回路2bで、所定の送信出力とする処理を行い、そのドライブ回路2bの出力を、同調部3を介してアンテナ4に供給して、無線送信させる。ICカード機能部では、その無線送信される13.56MHzの搬送波を検出して、リーダ・ライタとの接近を検出して、リーダ・ライタと無線通信を行うようにしてある。
【0006】
リーダ・ライタの同調部3には、受信ブロック5が接続してあり、ICカード又はカード機能が内蔵された端末から送信された信号を受信処理する。受信ブロック5としては、受信帯域を抽出するフィルタ5aと、そのフィルタ5aの出力を増幅するアンプ5bとで構成され、アンプ5bの出力を、RFIDブロック1の復調部1aに供給して、受信データを復調させる。
【0007】
特許文献1には、非接触型のICカードで通信を行う構成についての開示がある。
【特許文献1】特願2003−67693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示した構成のリーダ・ライタが、ICカード機能部と無線通信を行う場合には、リーダ・ライタからの電磁誘導で、ICカード機能部が作動するので、基本的には、ICカードに組み込まれたアンテナとリーダ・ライタとが、出来るだけ近接した状態である方が、正しく無線通信ができる。ところが、ICカード機能部とリーダ・ライタとが非常に近接した状態の場合に、あるポイントで通信ができない状態が発生することがある。
【0009】
この通信が出来ない状態の発生について説明すると、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信は、それぞれが備える専用のアンテナ間で行われるが、両アンテナは搬送周波数に合わせて同調を取っており、伝送特性が最適になるように調整されている。しかし、それぞれのアンテナは、自由空間上で共振周波数の調整がされているので、距離が近づいてアンテナ同士、又はアンテナと金属体が結合してしまうと、本来の特性を出すことができなくなってしまう。結合状態によっては、アンテナの同調周波数がずれることで、送受信波形間の位相ずれが大きくなり、あるポイントで位相が反転してしまう現象が起こる。非接触型のICカードで広く使用されているASK変調の場合、送受信波形の合成波のデータ振幅で通信を行うので、波形間の位相が中途半端な状態になってしまうと、データ振幅変化がキャンセルされてしまう。このようにキャンセルされるポイントは通信が成立しないので、ヌル(Null)状態と称される。
【0010】
図9、図10、図11は、ICカード機能部とリーダ・ライタとの無線通信状態の例を示した図である。この図9〜図11の各図において、(a)はリーダ・ライタが送信する搬送波波形を示し、(b)はICカード機能部からのASK変調された応答波形を示し、(c)は両波形の合成波を示し、この合成波がリーダ・ライタで検出されて、ICカードから送信されたデータを受信できる。
【0011】
ここで、図9は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合であり、図11は、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合であり、図10は、図9の状態と図11の状態の中間の中途半端な位相差の状態を示してある。
【0012】
図9に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが同相状態の場合には、図9(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形に対応したレベル変化が現れ、リーダ・ライタで正しくデータを受信できる。また、図11に示すように、リーダ・ライタからの搬送波とICカード機能部からの応答波とが逆相状態の場合には、図11(c)に示す合成波には、ASK変調された応答波形と逆のレベル変化が現れ、波形変化が図9の同相状態とは逆であるが、この場合にもリーダ・ライタで正しくデータを受信できる。
【0013】
これに対して、図10の中途半端な位相差の状態の場合には、図10(c)に示す合成波として、ほとんどレベル変化がなく、リーダ・ライタでデータを受信不可能な状態となってしまう。この図10の状態が上述したヌル状態である。
【0014】
このような図9〜図11の状態の変化は、ICカード側のアンテナとリーダ・ライタ側のアンテナとの距離によって変化し、例えばある程度ICカードとリーダ・ライタとの距離がある場合には、図9に示す同相状態となり、ICカードとリーダ・ライタとの距離が極めて接近した場合には、図11に示す逆相状態となり、その途中の特定のポイントで、図10に示したヌル状態が発生する。
【0015】
図12は、ICカード(タグ)の同調周波数f0とリーダ・ライタの同調周波数f0との関係の例を示した図で、両周波数が一定の関係となる範囲で、通信が出来ないヌル領域が発生している。このようなヌル領域の発生は、ICカードが携帯電話端末に内蔵されている場合のように、端末そのものが比較的大きな金属体(シールドケースなど)を備える場合に、顕著である。
【0016】
このようなヌル状態の発生を防止するためには、位相反転が起こらないようにアンテナ形状を工夫するか、或いはICカード機能部を携帯端末に組み込む際に、金属体を出来るだけ使用しない構造にする等が考えられるが、アンテナ形状などでの対処には限りがあり、ヌル状態の発生を完全に防ぐことは困難であった。
【0017】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、リーダ・ライタと通信端末との間で非接触で無線通信を行う際に、ヌル状態の発生を効果的に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、所定の周波数の搬送波を出力してICカード機能を有する通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、通信端末との距離を推定する推定部と、その推定部で推定された距離に応じて、無線通信装置内の同調で同調させる周波数をシフトさせる周波数シフト部を備えたものである。
【0019】
このようにしたことで、ヌル状態が発生する通信端末との位置関係となったことが推定部で推定された場合に、周波数シフト部で同調周波数がシフトして、結果的にヌル状態が回避される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、通信端末との位置関係が、ヌル状態が発生する可能性があることが推定部で推定された場合に、周波数シフト部での処理で同調する周波数がシフトして、結果的にヌル状態が回避される。従って、通信端末とある程度近接した状態で通信が出来ない状態となることがなく、リーダ・ライタに通信端末を短時間近接させるだけで、確実に無線通信が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態を、図1〜図3を参照して説明する。
【0022】
本例においては、近接させた通信端末と非接触で無線通信を行うリーダ・ライタに適用したものである。本例のリーダ・ライタが通信を行う通信端末としては、背景技術の欄で説明したカード形状などのICカード(タグ)、非接触型のICカード機能を内蔵させた携帯電話端末装置などの、ICカード機能を備えた通信端末であれば、いずれでもよい。以下の説明では、これらを総称してICカード機能付通信端末と称する。また、本例のリーダ・ライタは、例えば、交通機関の改札口や、ビルの出入り口、商店又は自動販売機の代金決済用レジなどに設置されて、それらのシステムを運用するコンピュータ装置と接続されたリーダ・ライタの場合と、パーソナルコンピュータ装置などに接続(又は内蔵)されて、単独で運用されるリーダ・ライタの場合のいずれでもよい。
【0023】
図1は、本例のリーダ・ライタの構成を示した図である。リーダ・ライタとしての送信データ処理及び受信データ処理を行う集積回路であるRFIDブロック10は、送信データを送信ブロック20に供給する。送信ブロック20は、変調回路21とドライブ回路22を備える。変調回路21では、RFIDブロック10から供給された送信データを、搬送波周波数13.56MHzで変調し、その変調された送信信号をドライブ回路22で、所定の送信出力とする処理を行い、そのドライブ回路22の出力を、抵抗器23を介して同調部31を介してアンテナ33に供給して、無線送信させる。
【0024】
抵抗器23は、端末の接近検出用に接続されたものであり、その抵抗器23の両端(図1でのa点及びb点)の電位を、比較部24で比較する。比較部24で比較した結果のデータは、制御部51に供給する。制御部51は、同調周波数シフトを制御する制御手段であり、比較部24の出力の判断結果に基づいて、後述する同調シフト部32を制御する制御信号(制御電圧)を出力する。比較部24の出力と制御信号との対応については、メモリ52に記憶させてある。メモリ52の記憶データについては、書換え可能に構成して、調整ができるようにしてもよい。
【0025】
同調部31には、同調シフト部32が接続してあり、その同調シフト部32がリーダ・ライタでの同調周波数をシフトさせるようにしてある。本例の場合には、比較部24の出力から、ICカード機能付通信端末との接近を検出した場合に、同調シフト部32で同調周波数を低くシフトさせるようにしてある。同調周波数をシフトさせる具体的な処理状態と、シフトさせる具体的な構成については後述する。
【0026】
このような送信構成のリーダ・ライタと近接したICカード機能付通信端末では、リーダ・ライタから無線送信される13.56MHzの搬送波を検出して、リーダ・ライタとの接近を検出して、リーダ・ライタと無線通信を行うようにしてある。
【0027】
リーダ・ライタの同調部31には、受信ブロック40が接続してあり、ICカード機能付通信端末から送信された信号を受信処理する。受信ブロック40としては、受信帯域を抽出するフィルタ41と、そのフィルタ41の出力を増幅するアンプ42とで構成され、アンプ42の出力を、RFIDブロック10の復調部11に供給して、受信データを復調する。RFIDブロック10は、リーダ・ライタを制御する機器(コンピュータ装置など)と接続されて、その制御機器により送信及び受信が制御される。
【0028】
図2は、リーダ・ライタのアンテナと同調部の具体的な例を示した図である。ICカード機能付通信端末と近距離無線通信を行うためのアンテナ部33を備える。アンテナ部33は、本例の場合、ループアンテナで構成される。アンテナの一端(33a)及び他端(33b)は、図1に示した送信ブロック20及び受信ブロック40に接続してある。
【0029】
そして、同調部31を構成する手段として、アンテナ33の一端33aと他端33bとの間に、同調用コンデンサC1が接続してある。この同調用コンデンサC1には、スイッチS1とコンデンサC2との直列回路が並列に接続してある。スイッチS1とコンデンサC2との直列回路が同調シフト部32として機能する。
【0030】
スイッチS1は、例えば電界効果トランジスタなどの半導体スイッチで構成され、制御部51から供給される信号でオン・オフが制御される。制御部51によるスイッチS1の制御としては、比較部24での比較により、ICカード機能付通信端末との接近が検出された場合に、スイッチS1をオンさせる。スイッチS1がオンの状態では、コンデンサC2が同調用コンデンサC1に並列に接続された状態となる。スイッチS1がオフ状態の場合には、コンデンサC2が接続されていない状態となる。比較部24での比較でオン・オフを切換える閾値の設定としては、後述するヌル領域を回避するための閾値としてある。比較部24での比較動作は、RFIDブロック10の復調部11で、受信データの復調を行っている際には停止させて、受信中に同調シフトが発生しないようにしてある。
【0031】
なお、スイッチS1をオフ状態からオン状態に変化させる信号レベルと、オン状態からオフ状態に変化させる信号レベルは若干変化させて、スイッチの動作にある程度のヒステリシスを持たせるようにしてもよい。また、スイッチと同調シフト用コンデンサC2を複数用意し、多段に同調をシフトさせる構成としてもよい。
【0032】
次に、図1、図2の構成でリーダ・ライタがICカード機能付通信端末と無線通信を行う場合の処理例について説明する。本例の端末装置は、ICカード機能付通信端末との距離が離れた状態では、スイッチS1がオフ状態であり、そのオフ状態での動作について説明すると、図2に示したループアンテナ33と同調用コンデンサC1とで、いわゆるLC並列共振回路を構成してあり、その同調(共振)周波数f0を搬送波周波数13.56MHzに設定してあり、ICカード機能付通信端末との間で無線通信が行える。この同調周波数f0は、次式で設定される。次式におけるLは、リーダ・ライタのアンテナの自己インダクタンスである。
【0033】
【数1】
【0034】
この[数1]式に示されるように、共振周波数はインダクタンスLのルートに反比例する関係にあり、インダクタンスの低下により共振周波数f0は上昇する。ここで、磁束とインダクタンスLとの関係を次式に示す。次式におけるNはリーダ・ライタのアンテナの巻数であり、Φはリーダ・ライタのアンテナに作用する磁束であり、Iはリーダ・ライタのアンテナを流れる電流である。
【0035】
【数2】
【0036】
端末装置とリーダ・ライタとの距離の接近で、金属体の渦電流によりリーダ・ライタのアンテナから放射される磁束の一部が打ち消されるため、磁束と比例関係を持っている自己インダクタンスも低下する。この自己インダクタンスの低下で、[数1]式からリーダ・ライタの共振周波数f0が上昇する。従って、端末装置とリーダ・ライタとの距離の接近で、リーダ・ライタのアンテナ部の共振周波数f0が上昇し、さらにICカード機能部内の共振周波数f0についても上昇することになる。図2に示されるように、リーダ・ライタ側の共振周波数の上昇の方が大きい。
【0037】
ここで本例においては、端末装置がリーダ・ライタに接近して、同調周波数f0がヌル領域に近づいたときに、スイッチをオン状態に変化させるようにしてある。このスイッチ16がオン状態に変化することで、図2に示した同調シフト用コンデンサC2が同調用コンデンサC1と並列に接続された状態となり、[数1]式に示した容量Cが高くなる。リーダ・ライタ側の共振周波数f0が補正される。
【0038】
端末がリーダ・ライタに接近したことの検出としては、例えば、図1に示したアンテナ部33側とドライブ回路22側との間のインピーダンス不整合を、比較部24で検出する処理が行われる。即ち、端末がリーダ・ライタに接近すると、リーダ・ライタの共振周波数f0が上昇して、搬送波周波数から外れて、アンテナ部33側とドライブ回路22側との間のインピーダンス不整合が生じる。その結果、図1に示したb点の出力電圧が降下する。つまり、b点の電圧は、距離の関数であり、このb点の電圧値を、a点の電圧値と比較部24で比較することで、端末とリーダ・ライタとの距離を推定することができる。どの程度低下を検出したときに、検出データを制御部51に送るかを適切に設定することで、ヌル状態の発生を効果的に回避できる。
【0039】
図3は、端末(ICカード)の同調周波数f0とリーダ・ライタの同調周波数f0との関係の例を示した図で、両周波数が一定の関係となる範囲で、通信が出来ないヌル領域が発生している点は、既に図12で説明したとおりである。端末装置とリーダ・ライタとの距離が十分に離れている場合には、それぞれの同調周波数f0は、設定された値(図3中の丸印)であり、その状態から両者の距離が接近すると、リーダ・ライタの同調周波数f0が上昇していき、三角印で示す状態となり、同調シフトがない状態では、ヌル領域に入ってしまうが、本例においてはリーダ・ライタ側で周波数シフト処理が行われて、ヌル領域に入らないような処理が行われる。
【0040】
このように本例によると、ICカード機能付き端末がリーダ・ライタと近接した際に、リーダ・ライタでの処理で、図10に示したヌル状態の発生が回避され、認証や課金などのための近距離無線通信ができない状態が発生することがなく、確実な通信が行える。
【0041】
なお、図3に示した動作例では、端末がリーダ・ライタと離れた状態で、同調シフト用コンデンサC2が接続されていない状態とし、リーダ・ライタにICカード機能付き端末が接近したとき、同調シフト用コンデンサC2を接続させて、同調周波数f0を低下させるようにしたが、逆に、端末がリーダ・ライタと離れた状態で、同調シフト用コンデンサC2を接続させ、リーダ・ライタと接近した状態となったとき、同調シフト用コンデンサC2を接続されてない状態として、リーダ・ライタと接近したときに、同調周波数f0を高くシフトさせるようにしてもよい。この場合のシフトとしては、ヌル領域を越えるようにシフトさせれば良い。
【0042】
また、図1に示した例では、端末との接近を、インピーダンス変化から推定(検出)するようにしたが、その他の処理でリーダ・ライタと端末との距離を推定又は測定して、その推定又は測定された距離に応じて、同調周波数f0をシフトさせるようにしてもよい。
【0043】
図4は、同調周波数をシフトさせる別の例を示したものである。この例では、図4に示すように、同調用コンデンサC1と並列に、コンデンサC3と可変容量ダイオードD1との直列回路を接続した構成として、コンデンサC3と可変容量ダイオードD1との接続点に、制御部51から制御電圧を供給して、可変容量ダイオードD1の容量を制御する構成としてある。その他の部分は、図1の構成と同じである。
【0044】
この図4に示すように構成したことで、端末との接近に伴って、アナログ的(連続的)に同調周波数f0を変化させることが可能になる。そして、その同調周波数f0の変化で、ヌル領域に入るのを阻止することができる。
【0045】
また、端末との接近の検出として、図1の例では、インピーダンス変化から推定(検出)するようにしたが、図5に示した構成として、端末との接近を検出するようにしてもよい。即ち、図5に示すように、抵抗器23の両端の信号を、差動アンプ25に入力させて、抵抗器23を流れる電流を検出させ、その検出値と、b点(同調部31と送信ブロック20′との接続点)の電圧とを比較部26で比較させて、検出された位相から距離を推定させる構成としてもよい。図5のその他の部分は、図1の回路と同様に構成する。
【0046】
また、ここまで説明した同調周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを、近距離無線通信を行う端末側に知らせるようにしてもよい。即ち、例えばリーダ・ライタから13.56MHzの搬送波で変調されて送信されるデータのパケット構成例を図6に示すと、先頭から順に、プリアンブル、同期信号(SYNC)、データ本体、エラー検出符号(CRC)と構成されているとする。このとき、例えば、プリアンブルとして、本来リーダ・ライタが送信するデータ構成のプリアンブルと、周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを示す特別なデータ構成のプリアンブルとを、1パケットごとに交互に配置させるようにする。
【0047】
或いはまた、図7に示すように、1パケットの末尾などの特定位置に、同調周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを示す特定データ(図7のシフトありのデータ)を付加して、端末側に送信させるようにしてもよい。
【0048】
この図6又は図7に示すように、同調周波数シフト処理が行われるリーダ・ライタであることを送信させることで、このデータを受信した端末側でも、同調シフト処理が行われることの判断が可能になり、何らかの対処が可能になる。例えば、端末側でも同様の同調シフト処理が行われる構成であった場合に、その端末側でのシフトを制限させて、リーダ・ライタと端末の双方で同時にシフト処理が行われるのを禁止するような処理が可能になる。
【0049】
なお、図6や図7の例では、リーダ・ライタがアンテナ部33から端末に直接的に送信するデータで、シフト処理が行われることを通知するようにしたが、リーダ・ライタによる無線通信とは別の通信手段を使用して、シフト処理が行われることを端末側に通知するようにしてもよい。例えば、端末側が、Bluetooth(商標)などの別の近距離無線通信部を備えている場合に、リーダ・ライタについても、対応した別の近距離無線通信部を備えて、その別の通信部を使用した通信で、通知させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態による例を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態による同調構成例を示す接続図である。
【図3】本発明の一実施の形態による共振周波数の振る舞いを示した説明図である。
【図4】本発明の他の実施の形態による同調構成の他の例を示す接続図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による例を示す構成図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による送信パケット構成例を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態による送信パケット構成の更に他の例を示す説明図である。
【図8】従来のリーダ・ライタの例を示す構成図である。
【図9】リーダ・ライタと通信部との同相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図10】リーダ・ライタと通信部との中途半端な位相差の場合の通信状態を示す波形図である。
【図11】リーダ・ライタと通信部との逆相の場合の通信状態を示す波形図である。
【図12】リーダ・ライタと通信部との通信が出来ない範囲を示す周波数特性図である。
【符号の説明】
【0051】
10…RFID回路ブロック、11…復調部、20…送信ブロック、21…変調回路、22…ドライブ回路、23…抵抗器、24…比較部、31…同調部、32…同調シフト部、33…アンテナ、40…受信ブロック、41…フィルタ、42…アンプ、51…制御部、52…メモリ、C1…同調用コンデンサ、C2,C3…同調周波数シフト用コンデンサ、D1…可変容量ダイオード,S1…スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の搬送波を出力して通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、
前記通信端末との距離を推定する推定部と、
前記通信端末と無線通信を行う通信手段と、
前記通信手段に接続された同調部と、
前記同調部で同調された信号を処理する通信処理部と、
前記推定部で推定された距離に応じて、前記同調部で同調させる周波数をシフトさせる周波数シフト部とを備えたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項2】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記推定部による距離推定は、前記同調部に接続された抵抗のインピーダンスを検出する手段であり、インピーダンスの変化に応じて距離を推定することを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項3】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記アンテナに第1及び第2のコンデンサを並列接続し、
前記第1のコンデンサを前記同調部とし、前記第2のコンデンサを前記周波数シフト部とし、
前記推定部の出力に応じて前記第2のコンデンサを選択的に接続させる構成としたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項4】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記同調部は可変容量ダイオードを備えて、前記推定部で推定された距離に応じて、前記周波数シフト部が前記可変容量ダイオードの制御電圧を変化させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項5】
請求項4記載のリーダ・ライタにおいて、
前記推定部で推定された距離と制御電圧との対応を記憶するメモリの記憶データから制御電圧を得ることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項6】
請求項5記載のリーダ・ライタにおいて、
前記メモリの記憶データは、書換え可能として、同調周波数を調整可能としたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項7】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記同調部で同調させる周波数をシフトさせることが行われることを示す情報を、前記アンテナから無線送信させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項1】
所定の周波数の搬送波を出力して通信端末と近距離無線通信を行うリーダ・ライタにおいて、
前記通信端末との距離を推定する推定部と、
前記通信端末と無線通信を行う通信手段と、
前記通信手段に接続された同調部と、
前記同調部で同調された信号を処理する通信処理部と、
前記推定部で推定された距離に応じて、前記同調部で同調させる周波数をシフトさせる周波数シフト部とを備えたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項2】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記推定部による距離推定は、前記同調部に接続された抵抗のインピーダンスを検出する手段であり、インピーダンスの変化に応じて距離を推定することを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項3】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記アンテナに第1及び第2のコンデンサを並列接続し、
前記第1のコンデンサを前記同調部とし、前記第2のコンデンサを前記周波数シフト部とし、
前記推定部の出力に応じて前記第2のコンデンサを選択的に接続させる構成としたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項4】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記同調部は可変容量ダイオードを備えて、前記推定部で推定された距離に応じて、前記周波数シフト部が前記可変容量ダイオードの制御電圧を変化させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項5】
請求項4記載のリーダ・ライタにおいて、
前記推定部で推定された距離と制御電圧との対応を記憶するメモリの記憶データから制御電圧を得ることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項6】
請求項5記載のリーダ・ライタにおいて、
前記メモリの記憶データは、書換え可能として、同調周波数を調整可能としたことを特徴とする
リーダ・ライタ。
【請求項7】
請求項1記載のリーダ・ライタにおいて、
前記同調部で同調させる周波数をシフトさせることが行われることを示す情報を、前記アンテナから無線送信させることを特徴とする
リーダ・ライタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−279813(P2006−279813A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99034(P2005−99034)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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