説明

ルイス酸を用いた4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の製造方法

【課題】5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンの新規製造方法を提供する。
【解決手段】下記の一般式に示す方法。


(式中、RはC〜C直鎖状または分岐状アルキル基、アリールC〜Cアルキル基)すなわち、2−アミノ−5−メチルピリジンと4−ピペリドン−1−カルボン酸誘導体とを、溶媒中、ルイス酸と還元剤存在下で反応させることからなる、4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルイス酸を用いたN−(5−メチルピリジン−2−イル)−N−(4−ピペリジニル)−2−フランカルボキサミド誘導体の合成中間体である、4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−(5−メチルピリジン−2−イル)−N−(4−ピペリジニル)−2−フランカルボキサミド誘導体
【0003】
【化1】

【0004】
はオピオイドμ拮抗薬であり、便秘、悪心・嘔吐もしくは掻痒感から選択されるμ受容体作動薬の副作用、突発性便秘、術後イレウス、麻痺性イレウス、過敏性腸症候群又は慢性掻痒症の予防及び/又は治療薬として有用であることが、開示されている(特許文献1)。
その合成中間体である5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンは、
【0005】
【化2】

【0006】
2−ブロモ−5−メチルピリジンと4−アミノ−1−ベンジルピペリジンを反応させて2−(1−ベンジルピペリジン−4−イルアミノ)−ピリジンとした後、水素雰囲気下で水酸化パラジウム存在下に脱ベンジル化する合成方法か、
【0007】
【化3】

【0008】
2−ブロモ−5−メチルピリジンと4−アミノ−1−ピペリジンカルボン酸エチルをパラジウム触媒存在下に4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸エチルとした後、脱エトキシカルボニル化する合成方法で得ている(特許文献1)。
しかし、前者の方法では、過剰の4−アミノ−1−ベンジルピペリジンが必要であり収率が低く、反応条件も180℃9時間と苛酷であったことから、工業的製法には不向きであった。
【0009】
また、後者の方法はパラジウム触媒を使用する。医薬品合成でパラジウム触媒を用いると、残留パラジウムの除去が問題になることは、工業的製法では知られている(非特許文献1)。工業的にN−(5−メチルピリジン−2−イル)−N−(4−ピペリジニル)−2−フランカルボキサミド誘導体を合成する場合に、パラジウムが残留する可能性がある。
新たな方法として、2−アミノピリジン誘導体とピペリドン誘導体から、還元的アミノ化で製造することが考えられるが、2−アミノピリジン誘導体の還元的アミノ化は収率が良くないことが知られている(特許文献2)。
【0010】
【化4】

【0011】
以上の理由から、工業的製法に利用用可能な5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンの製造方法の確立が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2003/035645号パンフレット
【特許文献2】US4126689号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chen, C. J. Org. Chem. 2003, 68(7), 2633-38。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、N−(5−メチルピリジン−2−イル)−N−(4−ピペリジニル)−2−フランカルボキサミド誘導体の原料である、5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンおよびその前駆体である4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンの製造方法を鋭意研究した結果、5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンの前駆体である4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の、ルイス酸を用いた製造方法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
1)式(1):
【0016】
【化5】

【0017】
で表される2−アミノ−5−メチルピリジンと、一般式(2):
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、RはC〜C直鎖状または分岐状アルキル基、アリールC〜Cアルキル基)で表される4−ピペリドン−1−カルボン酸誘導体を、溶媒中、チタニウム(IV)イソプロポキシド、塩化亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛またはオルトケイ酸テトラエチルからなる群より選ばれるルイス酸と還元剤存在下で反応させることからなる、一般式(3)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、Rは、前記定義に同じ)で表される4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の製造方法。
【0022】
2)溶媒が芳香族単環式炭化水素、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、又は塩化メチレンである、1)記載の製造方法。
【0023】
3)還元剤が水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、又はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムである、1)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
溶媒中、ルイス酸と還元剤存在下で、2−アミノ−5−メチルピリジンと4−ピペリドン−1−カルボン酸誘導体を反応させることによる、4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の収率の優れた製造方法を確立した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中に表されるC〜C直鎖状または分岐状アルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基若しくはt−ブチル基などが挙げられる。
アリールC〜Cアルキル基は、ハロゲン原子、C〜C直鎖状または分岐状アルキルオキシ基またはC〜C直鎖状または分岐状アルキル基で1−3個置換されていてもよいベンジル基、フェネチル基、1−フェニルエチル基、などが挙げられる。
4−ピペリドン−1−カルボン酸誘導体の量は、2−アミノ−5−メチルピリジン1モルに対し、好ましくは0.7モルから10モル、より好ましくは1モルから2モルで行なうことができる。
【0026】
還元剤は、ヒドリド系の還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。
還元剤の量は、2−アミノ−5−メチルピリジン1モルに対し、好ましくは0.8モルから10モル、より好ましくは1モルから2モルで行なうことができる。
反応温度は好ましくは0℃から溶媒の還流温度、より好ましくは25℃から80℃で行なうことが出来る。
反応時間は好ましくは10分から120時間、より好ましくは60分から5時間で行なうことが出来る。
【0027】
溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンなどの芳香族単環式炭化水素、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒なども用いることができる。
溶媒量は、2−アミノ−5−メチルピリジン1kgに対し、好ましくは0.5Lから30L、より好ましくは3Lから15Lで行なうことが出来る。
【0028】
ルイス酸は、チタニウム(IV)イソプロポキシド、塩化亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、オルトケイ酸テトラエチルなどを用いることが出来る。
ルイス酸量は、0.05から1.2当量が望ましい。
本反応で得られた4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体は、既知の脱保護条件である、酸或いは塩基による加水分解反応により5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンに変換することが出来る。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
<比較例1> ルイス酸を用いない反応
【0030】
【化8】

【0031】
ルイス酸を用いずに、2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジン誘導体の合成を検討したが、ピリジンの2−アミノ基上への還元的アミノ化反応の収率は、20%未満と低かった。
<試験例1> 添加剤の検討
【0032】
【化9】

【0033】
2−アミノ−5−メチルピリジン(0.2g〜1.0g)と4−ピペリドン−1−カルボン酸エチル(1.2当量)のテトラヒドロフラン溶液に、表中の添加剤(1.2当量)を室温で加えた。この溶液にトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(1.3〜2.0当量)を室温で加え、同温で1〜24時間撹拌した。反応の進捗をTLCを用いて評価し、チタニウム(IV)イソプロポキシド、塩化亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、オルトケイ酸テトラエチルについて反応の促進効果を認めた。
【0034】
【表1】

【0035】
<試験例2> 溶媒の検討
【0036】
【化10】

【0037】
2−アミノ−5−メチルピリジン(0.2g〜0.5g)と4−ピペリドン−1−カルボン酸エチル(1.2当量)の表中各溶媒溶液に、チタニウム(IV)イソプロポキシド(1.2当量)を室温で加えた。この溶液に、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(2.0当量)を室温で加え、同温で5〜24時間撹拌した。反応の進捗をTLCを用いて評価し、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエンを用いた場合に、反応促進効果を認めた。
【0038】
【表2】

【0039】
<試験例3> ルイス酸削減の検討
【0040】
【化11】

【0041】
2−アミノ−5−メチルピリジン(0.2g〜0.5g)と4−ピペリドン−1−カルボン酸エチル(1.2当量)のトルエン溶液中に、表中量のチタニウム(IV)イソプロポキシドを室温で加えた。この溶液に、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(1.5当量)を室温で加え、同温で表中時間撹拌した。反応の進捗をHPLCを用いて評価し、チタニウム(IV)イソプロポキシドは触媒量でも反応は円滑に進行した。
【0042】
【表3】

【0043】
HPLC 条件
カラム:φ4.6mm×250mm,、Wakosil-II 5C18 HG, Wako製
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240 nm)
カラム温度:40
℃付近の一定温度
移動相:リン酸二水素カリウム 2.72 g を水 550 mLに溶かし、リン酸を加えて pH を 2.5 に調整した後、アセトニトリル450 mL及びラウリル硫酸ナトリウム 1.44 g を混和する。
流量:1.0
mL / min

2−アミノ−5−メチルピリジン:tR = 4.65 min
4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸エチル:tR= 8.49 min

【産業上の利用可能性】
【0044】
2−アミノ−5−メチルピリジンと4−ピペリドン−1−カルボン酸誘導体から、5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンの前駆体である4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体のルイス酸を用いた製造方法を確立した。本製法で得られた5−メチル−2−(ピペリジン−4−イルアミノ)ピリジンを原料として、オピオイドμ拮抗薬であるN−(5−メチルピリジン−2−イル)−N−(4−ピペリジニル)−2−フランカルボキサミド誘導体を、製造することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

で表される2−アミノ−5−メチルピリジンと、一般式(2):
【化2】

(式中、RはC〜C直鎖状または分岐状アルキル基、アリールC〜Cアルキル基)で表される4−ピペリドン−1−カルボン酸誘導体を、溶媒中、チタニウム(IV)イソプロポキシド、塩化亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛またはオルトケイ酸テトラエチルからなる群より選ばれるルイス酸と還元剤存在下で反応させることからなる、一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、前記定義に同じ)で表される4−(5−メチルピリジン−2−イルアミノ)ピペリジン−1−カルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項2】
溶媒が芳香族単環式炭化水素、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、又は塩化メチレンである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
還元剤が水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、又はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムである、請求項1記載の製造方法。


【公開番号】特開2011−57594(P2011−57594A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207413(P2009−207413)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】