説明

ルシフェラーゼシグナルを増強する組成物

ルシフェラーゼ酵素により触媒される反応において使用するための試薬及び組成物、特にルシフェラーゼを用いた遺伝子レポータアッセイにおいて使用するための試薬及び組成物を記載する。本発明は更に、特に、感度の上昇及び/又はルシフェラーゼ触媒反応の動態の向上のための方法及び組成物をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的にはルシフェラーゼ酵素に触媒される反応、例えばルシフェラーゼを用いた遺伝子レポータアッセイ(luciferase−based gene reporter assay)、並びに免疫細胞化学的アッセイ又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)用の抗体等の分子に結合された検出可能及び/又は定量可能な標識としてルシフェラーゼ酵素が利用される応用において使用するための試薬及び組成物に関する。また、本発明は特に、ルシフェラーゼ触媒反応の感度の増大及び/又は動態の向上のための方法及び組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
レポータ遺伝子アッセイは、遺伝子発現研究の重要なツールであり、目的の遺伝子、例えばDNA配列、転写因子、RNA配列、RNA結合タンパク質、シグナル伝達経路、及び特定の刺激の発現を何が制御しているのかを理解することを可能にする。特に、遺伝子制御に重要な核酸領域の同定にレポータアッセイを使用することができる。このような領域及び/又はそれに結合するか若しくはそれを調節する因子は、ヒト疾患の治療又は予防の治療的介入のための潜在的な標的となり得る。また、レポータアッセイを用いて、遺伝子発現を改変する能力について薬物をスクリーニングすることもできる。
【0003】
典型的に、レポータアッセイは、遺伝子プロモータ領域、又は転写因子結合部位若しくはその他の調節エレメント等のプロモータ内の特定のエレメントを同定するために使用される。あるいは、このようなアッセイは、種々の刺激又は薬剤に対するプロモータ又は調節エレメントの反応を研究するために使用される。いくつかの適用では、アッセイで使用されるレポータ構築物又はトランスフェクトされた細胞を生物に導入し、プロモータ機能をインビボで研究する。更に、レポータアッセイを用いて特定のプロモータの上流のシグナル伝達経路を研究又は測定することができる。
【0004】
例えば、推定プロモータ配列又はその他の転写調節エレメントを調べるためにデザインされたレポータアッセイの場合、調べる核酸をレポータプラスミド中にクローニングし、このクローニングは、下流のレポータ遺伝子の転写制御が可能な位置、したがってレポータ遺伝子にコードされるレポータタンパク質の発現制御が可能な位置に行われる。レポータタンパク質は、検出し易いように、レポータプラスミドをトランスフェクトする細胞内に存在する内在性タンパク質と区別可能であるべきであり、レポータタンパク質の発現は容易に定量可能であることが好ましい。レポータタンパク質は適当なアッセイで定量され、しばしば、例えばSV40プロモータ等のユビキタスプロモータで駆動される対照レポータのレベルを基準にして表される。対照レポータは、試験レポータと区別可能でなければならず、一般的に、試験ベクタと同時導入される別のベクタに含まれ、トランスフェクション効率の対照として使用される。このようなアッセイは、細胞が比例的に同量の両方のベクタを取り込むという前提に基づいている。
【0005】
遺伝子レポータアッセイのための種々の異なる応用では、遺伝子発現の経時的変化又は薬物、リガンド、ホルモン等の化合物を添加した後の遺伝子発現の変化を測定する。これは薬物スクリーニングで特に重要である。薬物添加後、発現レベルの変化はmRNAを介してタンパク質へと伝わるため、測定可能なレポータタンパク質レベルの変化の検出に遅れ及び低減が生じることがある。このような応用において本出願人が最近成し遂げた大きな進歩が、その開示を参照により本明細書に組み込んだものとする同時係属中の特許文献1に記載されているように、応答の速度及び大きさを向上させるためにレポータベクタ中でmRNA不安定化エレメント及びタンパク質不安定化エレメントを併用することである。
【0006】
検出可能な様々なレポータタンパク質を利用した種々のレポータ遺伝子アッセイ系が市販されている。そのようなレポータタンパク質として最も一般的なものは、クロラムフェニコール転移酵素(CAT)、βガラクトシダーゼ(β−gal)、分泌型アルカリホスファターゼ、並びに種々の蛍光タンパク質及びルシフェラーゼである。
【0007】
ルシフェラーゼはインビトロアッセイ系で最もよく使用されているレポータタンパク質である。ルシフェラーゼは、生物発光が可能な酵素であり、広範囲の生物で天然に見られる。市販のアッセイ系では、ルシフェラーゼは、D−ルシフェリンを基質として利用するものと、セレンテラジンを基質として利用するものに分類することができる。前者の最も広く使用されている例は、細胞内酵素のホタルルシフェラーゼである。D−ルシフェリンを利用するルシフェラーゼの別の例としては、コメツキムシ(click beetle)、鉄道虫(railroad worm)等の鞘翅目(Coleoptera)のその他のメンバが含まれる。また、ルシフェラーゼは、その由来する生物が陸生であるか水生(典型的に、海洋生物)であるかに基づいて区別することもできる。セレンテラジンを基質として利用するルシフェラーゼは典型的に、ウミトサカ類(soft coral)レニラ属(Renilla)、カイアシ類(copepod)ガウシア属(Gaussia)等の海洋動物に由来し、D−ルシフェリンを利用するルシフェラーゼは通常陸生動物に由来する。ルシフェラーゼを区別する更なる手段は、それらが天然の状態において(すなわちそれらが由来する生物内で)分泌型であるか非分泌型であるかに基づくものである。陸生生物に由来するルシフェラーゼは典型的に非分泌型(細胞内型)であり、海洋生物に由来するルシフェラーゼには分泌型と非分泌型(細胞内型)があり得る。例えば、レニラルシフェラーゼは細胞内型であり、ガウシアルシフェラーゼは天然の状態で分泌型酵素である。海洋生物によるルシフェラーゼの分泌は捕食者による追跡をそらすための保護的反応であると考えられる。その他の分泌型ルシフェラーゼとしては、メトリディア・ロンガ(Metridia longa)、ヴァルグラ・ヒルゲンドルフィ(Vargula hilgendorfii)、オプロフォラス・グラシリロストリス(Oplophorus gracilirostris)、プレウロマンマ・キフィアス(Pleuromamma xiphias)、シプリディナ・ノクティルカ(Cypridina noctiluca)、及びメトリディア科(Metridinidae)のその他のメンバに由来するルシフェラーゼが含まれる。ヴァルグラルシフェラーゼは、セレンテラジン又はD−ルシフェリンとは異なる基質を利用する。ルシフェラーゼの別のクラスとしては、渦鞭毛藻類に由来するものがある。
【0008】
ルシフェラーゼを用いたアッセイ系で、2種類以上の、典型的に起源の異なる、それぞれ異なる異質を利用するルシフェラーゼを使用してもよく、これにより、試験レポータ及び対照レポータの両方を同じアッセイで測定することが可能になる。例えば、推定プロモータエレメントを、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を駆動するようにホタルルシフェラーゼレポータ遺伝子の上流にクローニングする。このプラスミドを、SV40プロモータで駆動されるレニラルシフェラーゼ遺伝子を含む対照プラスミドと共に細胞系に一過性にトランスフェクションする。最初にルシフェリンを添加してホタルルシフェラーゼを活性化して、このレポータの活性を測定し、次いで「消光・活性化」試薬を添加する。「消光・活性化」試薬は、このルシフェラーゼシグナルを消光する化合物を含み、また、後でその活性を測定するレニラルシフェラーゼを活性化するセレンテラジンを含む。ホタルルシフェラーゼ活性のレベルは、プロモータ活性だけでなくトランスフェクション効率にも依存する。これは、DNA量、DNA調製物の品質、及び細胞の状態に依存して大きく変わる。同時導入した対照プラスミド(SV40プロモータ等の好適なプロモータで駆動されるレニラルシフェラーゼ)は、これらの変動を補正するために使用され、これは細胞に取り込まれたホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドの量にレニラルシフェラーゼ活性が比例するという前提に基づいている。代替的に、又はそれに加えて、レニラルシフェラーゼを、細胞数、細胞生存率、及び/又は一般的な転写活性等のその他の変数の対照として使用することもでき、また、細胞に適用する特定の処置又は化合物が両方のプロモータに影響を与えるのか、それとも片方のプロモータのみに特異的であるのかを決定するために使用することもできる。
【0009】
ルシフェラーゼを用いたアッセイ系、特に1又はそれ以上の細胞内型ルシフェラーゼを利用するものは、多くの場合、溶解バッファ及びアッセイバッファの2種類のバッファを使用する。最初に溶解バッファを細胞に添加して細胞を溶解し、それによってルシフェラーゼを放出させ、その後の測定を容易にする。次いでルシフェラーゼの基質及び任意の補因子を含むアッセイバッファを添加し、その後、ルシフェラーゼ活性を測定する。測定は、アッセイバッファを添加した直後(すなわち数秒以内;いわゆる「フラッシュ」反応)又は光シグナルを長時間安定に維持する「グロー」試薬を含むアッセイバッファを用いて数分後若しくは数時間後(いわゆる「グロー」反応)に行われ得る。フラッシュ反応では最も強いシグナル(発光強度(light unit)/秒)が得られ、そのため最も高い感度が得られるという利点がある。グロー反応は、例えば使用者が直ちに利用可能な好適な(インジェクタを備えた)ルミノメータを有していない場合の適用、又はバッチ処理のために注入と測定の間に遅れが生じるハイスループットスクリーニングへの応用で特に有利である。
【0010】
分泌型ルシフェラーゼの測定は、試験細胞の周りの馴化培地を試料に用いて行われる。そのため、分泌型ルシフェラーゼの場合は溶解バッファを使用しない。
【0011】
ルシフェラーゼレポータアッセイ用の現行のバッファ及び試薬には多くの欠点がある。
【0012】
特に、ルシフェラーゼ反応における感度の向上、すなわち現行の試薬で達成されるよりも大きなシグナル強度を提供する試薬、反応組成物、及びキットが必要とされている。これが特に問題となるのは、アッセイされるレポータ遺伝子が目的細胞内で低レベルのルシフェラーゼしか与えない場合、例えば、調べているプロモータが低い活性しか有しない場合及び/又は目的の細胞にレポータベクタをトランスフェクト/形質導入することが困難な場合である。感度が増大されれば、確実に測定できるシグナル強度を得るために必要な最低限の細胞数が減ることで、レポータアッセイの小型化が容易になるであろう。
【0013】
同時係属中の特許文献1に記載されているような不安定化エレメントを含むアッセイ系を利用する場合、定常状態のルシフェラーゼシグナルが弱まる。したがって、より強いシグナル強度を提供する試薬は、不安定化エレメントを利用するレポータアッセイ系で特に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願第10/658,093号
【0015】
更に、現在の「フラッシュ」及び「グロー」のバッファ及び試薬は妥協したものである。すなわち、強いフラッシュを得るためにはグローフェーズが犠牲にされ、逆も同様である。高感度のフラッシュ反応を提供するが長いグローをも提供することができるバッファ及び試薬の必要性が明確に存在する。ルシフェラーゼ触媒生物発光反応から強いフラッシュ及び長いグローの両方の発生を促進するバッファは、必要な場合には高感度(フラッシュ反応)を提供するだけでなく、高感度が必要とされない適用ではグロー反応の利便性をも提供する、二重の目的を有する試薬を使用者に提供するであろう。
【0016】
最後に、放出される波長の差に基づいて2種類以上の異なるルシフェラーゼの同時測定を可能にするためには、2種類以上の異なるルシフェラーゼの活性をそれ1つで補助することができる試薬が必要である。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、試料中のルシフェラーゼ酵素の量又は活性の決定に使用するための、試薬組成物及びそのような組成物を含むキットを提供する。本発明は更に、試薬組成物の使用方法及び試料中のルシフェラーゼ酵素の量又は活性を決定する方法を提供する。本発明は、特定のクラスのルシフェラーゼ酵素の活性、並びに、特に、より高い感度(より強いフラッシュフェーズ)の発生、発光シグナル減衰率の低下(より安定なグローフェーズ)、溶解時間及び/又はアッセイ時間の短縮、並びに現在利用可能な組成物を用いて達成されるよりも向上された酵素活性又は酵素ポテンシャル(enzymatic potential)の経時的安定性を可能にする新規な試薬組成物の開発に、試薬組成物への種々の改変が大きな影響を与え得るという本発明者らの驚くべき発見に一部基礎を置いている。
【0018】
特に、本発明者らは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼが、より典型的に使用されている細胞内型ルシフェラーゼとは異なる性質を有し、そのため試薬組成物に関する要件が全く異なることを見出した。更に、本発明者らは、これら通常分泌型のルシフェラーゼを細胞内で発現させると、これらが現在利用可能などの試薬組成物との使用にも適さなくなることを見出した。続いて本発明者らは、このようなルシフェラーゼが単独又は異なるクラスのルシフェラーゼと組み合わせて使用される際にこのルシフェラーゼとの使用に適した試薬を作製するために必要な重要な特徴及び成分を同定した。
【0019】
第1の態様では、本発明は、試料中のルシフェラーゼの量及び/又は活性の決定に使用するための試薬組成物であって、増強された発光シグナルの発生、ルシフェラーゼからの発光シグナルの減衰率の低下、及び/又は細胞溶解物中でのルシフェラーゼ活性の経時的安定性の向上を可能にする試薬組成物を提供する。典型的に、ルシフェラーゼ存在下で、この試薬組成物は活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供する。
【0020】
ルシフェラーゼは分泌型又は非分泌型であってもよく、また、天然の形態で分泌型又は非分泌型のルシフェラーゼに由来してもよい。一実施例では、ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼに由来する。特定の実施例では、ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼが改変された形態の非分泌型ルシフェラーゼである。この非分泌型ルシフェラーゼは、細胞質又は他の細胞内コンパートメントで発現されてもよく、ここで典型的に、細胞内コンパートメントは還元性環境を提供するものである。
【0021】
ルシフェラーゼは、例えばルシフェリン、セレンテラジン等の任意の公知のルシフェラーゼ基質を利用するものであってもよい。一実施例では、ルシフェラーゼはセレンテラジンを基質として利用し、海洋起源である。海洋起源のルシフェラーゼは、例えば、ガウシア属の一種(Gaussia spp.)、プレウロマンマ属の一種(Pleuromamma spp.)、メトリディア属の一種(Metridia spp.)、シプリディナ属の一種(Cypridina spp.)、又はオプロフォラス属の一種(Oplophorus spp.)に由来してもよい。ルシフェラーゼは、天然ルシフェラーゼの変種又は誘導体であってもよい。
【0022】
試薬組成物は、1又はそれ以上のキレータ、臭化物アニオン、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよく、及び/又は約8を超えるpHを有してもよい。
【0023】
典型的に、キレータは2価金属のキレータである。2価金属のキレータは、例えばEDTA、CDTA、及びEGTAから選択することができる。一実施例では、2価金属のキレータは、少なくとも0.1mM、より好ましくは約1mM乃至30mM、より典型的に約4mM乃至約15mMの濃度のEDTAである。
【0024】
界面活性剤は、両性イオン界面活性剤、より好ましくは非イオン界面活性剤であってもよい。界面活性剤の終濃度は約1%未満であることが好ましい。一実施例では、界面活性剤は、最初に試料又は細胞と接触するときに約0.05%乃至約0.2%の濃度で存在し得る。界面活性剤は、例えばトリトンX100、NP101、又はNP40から選択することができる。特定の実施例では、界面活性剤はNP40である。
【0025】
典型的に、酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せによってルシフェラーゼが酸化され、それによって、ルシフェラーゼは活性コンホメーションをとり易くなる。還元剤はチオール基を含んでもよい。特定の実施例では、組成物は、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンの混合物等の複合酸化還元バッファ(redox buffer combination)を含む。
【0026】
典型的に、試薬組成物のpHは約8を超え、より典型的には約8乃至約9、より典型的には約8.4乃至約8.8である。
【0027】
臭化物アニオンは1又はそれ以上の臭化物塩の形態で提供されてもよい。臭化物塩は、例えば臭化ナトリウム、臭化カリウム、又は臭化ルビジウムであってもよい。典型的に、臭化物アニオンは少なくとも約1mM、典型的に約1mM乃至約500mMの濃度で存在する。
【0028】
第2の態様では、本発明は、試料中の組換えルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定するための試薬組成物であって、試薬組成物が1又はそれ以上のキレータを含み、組換えルシフェラーゼが、天然の形態では分泌型であるルシフェラーゼの非分泌型変種である、試薬組成物を提供する。
【0029】
キレータは2価金属のキレータであってもよい。キレータは、例えばEDTA、CDTA、及びEGTAから選択することができる。一実施例では、2価金属のキレータは、少なくとも0.1mM、より好ましくは約1mM乃至30mM、より典型的には約4mM乃至約15mMの濃度で存在するEDTAである。
【0030】
試薬組成物は更に、臭化物アニオン、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよく、及び/又は約8を超えるpHを有してもよい。
【0031】
試薬組成物は更にルシフェラーゼの基質を含んでもよい。
【0032】
第3の態様では、本発明は、試料中の組換えルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定するための試薬組成物であって、試薬組成物が臭化物アニオンを含み、組換えルシフェラーゼが、天然の形態では分泌型であるルシフェラーゼの非分泌型変種である、試薬組成物を提供する。
【0033】
臭化物アニオンは1又はそれ以上の臭化物塩の形態で提供されてもよい。臭化物塩は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、又は臭化ルビジウムから選択することができる。典型的に、臭化物アニオンは少なくとも約1mM、通常約1mM乃至約500mMの濃度で存在する。
【0034】
試薬組成物は更に、1又はそれ以上のキレータ、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよく、かつ/又は約8を超えるpHを有してもよい。
【0035】
試薬組成物は更にルシフェラーゼの基質を含んでもよい。
【0036】
第4の態様では、本発明は、細胞又は細胞試料中のルシフェラーゼの量及び/又は活性の決定する方法であって、
(a)ルシフェラーゼを発現する細胞を提供するステップであって、ルシフェラーゼが主に又は完全に不活性な状態又はコンホメーションで存在するステップと;
(b)不活性な状態又はコンホメーションから活性な状態又はコンホメーションへとルシフェラーゼを変換することができる有効量の試薬組成物と一緒に細胞をインキュベートするステップと;
(c)ルシフェラーゼ酵素の基質及び必要に応じてルシフェラーゼの生物発光活性に必要なCoA、ATP、マグネシウム等の補因子を添加するステップと;
(d)活性型ルシフェラーゼによって発生した生物発光シグナルを検出するステップと;
を含む方法を提供する。
【0037】
典型的に、ルシフェラーゼを不活性な状態又はコンホメーションから活性な状態又はコンホメーションへと変換するための組成物は、キレータ及び/又は活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換に適した酸化還元環境を提供する。この酸化還元環境は、ルシフェラーゼの酸化に適しているか又はルシフェラーゼの酸化を可能にするものであってよい。更に、試薬組成物は、1又はそれ以上の臭化物アニオン、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよく、約8を超えるpHを有してもよい。
【0038】
試薬組成物は、第1乃至第3の態様のいずれか1種の組成物であってもよい。試薬組成物は更にルシフェラーゼの基質を含んでもよい。
【0039】
ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼであってもよい。
【0040】
第5の態様では、本発明は、細胞又は細胞試料中の組換えルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定する方法であって、
(a)1又はそれ以上の細胞を溶解するステップと;
(b)細胞溶解物を、キレータを含む有効量の試薬組成物と接触させるステップと;
(c)ルシフェラーゼ酵素の基質及び必要に応じてルシフェラーゼの生物発光活性に必要なCoA、ATP、マグネシウム等の補因子を添加するステップと;
(d)試料中の生物発光を検出するステップと;
を含み、組換えルシフェラーゼが、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種である、方法を提供する。
【0041】
ステップ(a)及び(b)が単一のステップに組み合わされるように、試薬組成物は界面活性剤を含んでもよい。特定の実施例では、ステップ(b)及び(c)が単一のステップに組み合わされるように、試薬組成物はルシフェラーゼの基質を含む。
【0042】
試薬組成物は、第1乃至第3の態様のいずれか1種の組成物であってよい。
【0043】
第6の態様では、本発明は、ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルを増大させる方法であって、活性な状態又はコンホメーションへのルシフェラーゼの変換を可能にするか又は促進する環境(好適な酸化還元環境等)を提供する有効量の試薬組成物にルシフェラーゼを接触させるステップを含む方法を提供する。典型的に、試薬組成物は臭化物塩、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤、好ましくは濃度が少なくとも1mMの2価金属のキレータ、少なくとも1つの酸化剤、又は酸化剤と還元剤のとの組合せのうちの1又はそれ以上を含み、約8を超えるpHを含みている。
【0044】
第7の態様では、本発明は、ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルを増大させる方法であって、ルシフェラーゼを有効量の1又はそれ以上の2価金属のキレータと接触させるステップを含む方法を提供する。2価金属のキレータは、例えばEDTA、CDTA、及びEGTAから選択することができる。一実施例では、2価金属のキレータは、少なくとも0.1mM、より好ましくは約1mM乃至30mM、より典型的には約4mM乃至約15mMの濃度で存在するEDTAである。
【0045】
第8の態様では、本発明は、ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルを増大させる方法であって、ルシフェラーゼを、典型的に臭化物塩の形態の、有効量の臭化物アニオンと接触させるステップを含む方法を提供する。
【0046】
第9の態様では、本発明は、ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルの減衰率を低下させる方法であって、ルシフェラーゼを有効量の試薬組成物と接触させるステップを含み、試薬組成物が、活性な状態又はコンホメーションへのルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境(好適な酸化還元環境等)を提供することを特徴とする方法を提供する。
【0047】
典型的に、基質を添加した数分後に始まるフェーズ中の生物発光シグナルが持続する。
【0048】
第10の態様では、本発明は、ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルの減衰率を低下させる方法であって、ルシフェラーゼを1又はそれ以上の2価金属のキレータと接触させるステップを含む方法を提供する。2価金属のキレータは、例えばEDTA、CDTA、及びEGTAから選択することができる。一実施例では、2価金属のキレータは、少なくとも0.1mM、より好ましくは約1mM乃至30mM、より典型的には約4mM乃至約15mMの濃度で存在するEDTAである。
【0049】
第11の態様では、本発明は、ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルの減衰率を低下させる方法であって、ルシフェラーゼを、典型的に臭化物塩の形態の、有効量の臭化物と接触させるステップを含む方法を提供する。
【0050】
典型的に、第6乃至第11の態様に基づき、ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼである。
【0051】
また、最適又は安定なルシフェラーゼ活性に達するまでに必要な時間を短縮するための方法も提供される。どのような理論又は作用機序にも限定されるものではないが、最適又は安定なルシフェラーゼ活性に達するまでに必要な時間の短縮は、溶解時間及び/又はアッセイ時間の短縮、並びに酵素活性又は酵素酵素ポテンシャルの経時的安定性の向上の結果、又はそれに関連するものであってもよい。
【0052】
第12の態様では、本発明は、ルシフェラーゼの量及び/又は活性のアッセイに使用するためのキットであって、活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供する少なくとも1つの試薬組成物を含むキットを提供する。
【0053】
試薬組成物は、第1乃至第3の態様のいずれか1種の組成物であってもよい。ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼであってもよい。
【0054】
第13の態様では、本発明は、臭化物イオン及びルシフェラーゼ基質を含む、ルシフェラーゼの量及び/又は活性のアッセイで使用するためのキットを提供する。
【0055】
ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼであってもよい。
【0056】
上記の態様又は実施例のいずれかひとつに応じて、試薬組成物は更に酸化防止剤を含んでもよい。組成物は更にBSA、プロテアーゼ阻害剤、グリセロール、尿素、又はルシフェラーゼの基質を含んでもよい。
【0057】
上記の態様又は実施例のいずれかに応じて、試薬組成物は、ルシフェラーゼを含む細胞を溶解するバッファの形態であってもよい。したがって、溶解バッファは、例えばグリセロール、プロテアーゼ阻害剤等の別の成分を更に含んでもよい。緩衝剤は、例えばトリス、ヘペス、又はリン酸バッファであってよい。溶解バッファは、細胞溶解/ルシフェラーゼアッセイ複合バッファ(combined cell lysis/luciferase assay buffer)の形態であってもよく、したがって、組成物は更にコレンテラジン等のルシフェラーゼ基質を含んでもよい。
【0058】
典型的に、上記の態様及び実施例に従って、レポータ遺伝子からルシフェラーゼを発現させ、レポータ遺伝子アッセイの一部としてルシフェラーゼの量又は活性を決定する。レポータ遺伝子アッセイは、多段階の(multiple)ルシフェラーゼアッセイの一部であってもよい。
【0059】
本発明はまた、試料中のルシフェラーゼの量及び/又は活性の決定において使用するための試薬組成物であって、ルシフェラーゼ存在下で活性な状態又はコンホメーションへのルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供する試薬組成物に関する。
【0060】
ルシフェラーゼは組換えルシフェラーゼであってもよい。組換えルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型であるルシフェラーゼの非分泌形態であってもよい。
【0061】
試薬組成物は、活性コンホメーションへのルシフェラーゼのフォールディングを促進するのに適した酸化還元環境を提供し得る。試薬組成物は、ルシフェラーゼの脱凝集、及び/又は干渉タンパク質からの分離、及び/又はルシフェラーゼのアンフォールディングの促進に適した環境を提供してもよく、このアンフォールディングは、その後の活性状態へのルシフェラーゼのリフォールディングを容易にする。
【0062】
典型的に、試薬組成物によって提供される環境は、活性コンホメーションへの不活性ルシフェラーゼのより迅速な変換を促進するか、より活性なコンホメーションをとること若しくはその維持を促進する。代替的に、又はそれに加えて、この環境は、最も活性なコンホメーションをとるルシフェラーゼの割合を増やすことで、試料中のルシフェラーゼの全体的活性を増強するものであってもよい。代替的に、又はそれに加えて、この環境は、試料中のルシフェラーゼの一定の活性状態の維持を促進するものであってもよく、試料がルシフェラーゼの一定の活性状態に達するまでの時間を短縮するものであってもよい。典型的に、これは試料中のルシフェラーゼが最大の活性に到達するまでの時間を短縮することで達成される。
【0063】
試薬組成物は、両性イオン界面活性剤、より好ましくは非イオン界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤の終濃度は約1%未満であることが好ましい。一実施例では、界面活性剤は、試料又は細胞と最初に接触するとき、約0.05%乃至約0.2%の濃度で存在してもよい。界面活性剤は、例えばトリトンX100、NP101、又はNP40から選択することができる。特定の実施例では、界面活性剤はNP40である。
【0064】
代替的に、又はそれに加えて、試薬組成物は、少なくとも1つの好適な酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよい。この1又はそれ以上の薬剤はチオール基を含んでもよい。典型的に、この1又はそれ以上の薬剤によってルシフェラーゼが酸化され、それによってルシフェラーゼが活性コンホメーションをとり易くなる。特定の実施例では、組成物は、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンとの混合物等の複合酸化還元バッファを含む。
【0065】
代替的に、又はそれに加えて、試薬組成物は、約8より高い、典型的には約8乃至約9、より典型的には約8.4乃至8.8のpHを有し得る。
【0066】
試薬組成物は更に、2価金属のキレータ等の1種又は複数のキレータを含んでもよい。キレータは、例えばEDTA、CDTA、及びEGTAから選択することができる。一実施例では、キレータはEDTAである。典型的に、キレータは、少なくとも0.1mM、より好ましくは約1mM乃至30mM、より一般的には約4mM乃至約15mMの濃度で存在する。
【0067】
試薬組成物は更に臭化物アニオンを含んでもよく、この臭化物アニオンは通常少なくとも1つの臭化物塩の形態である。臭化物塩は、例えば臭化ナトリウム、臭化カリウム、又は臭化ルビジウムであってもよい。典型的に、臭化物アニオンは少なくとも約1mM、通常約1mM乃至約500mMの濃度で存在する。
【0068】
本発明はまた、
(a)試料を有効量の本発明の試薬組成物とインキュベートするステップと;
(b)ルシフェラーゼ基質を添加するステップと;
(c)試料中の生物発光を検出するステップと;
を含む、試料中のルシフェラーゼの量又は活性を決定する方法に関する。
【0069】
基質は、ステップ(a)の試薬組成物中又は第2の組成物中に存在してもよく、随意に、ルシフェラーゼの生物発光活性に必要なCoA、ATP、マグネシウム等の補因子を含んでもよい。第2の試薬組成物のpHは、第1の組成物のpHより低くてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
ここで、添付の図面を参照しながら、単なる例として、本発明の実施例を説明する。
【0071】
【図1】図1は、HeLa細胞内で発現された分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性に対する臭化物イオンの影響を示す図である。
【図2】図2は、HeLa細胞内で発現された非分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性に対するNaBrの影響を示す図である。溶解バッファ中のNaBrの影響を、アッセイバッファ中のNaBrと比較している。
【図3】図3は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性に対する種々の濃度の臭化物イオンの影響を示す図である。
【図4】図4は、非分泌型メトリディアルシフェラーゼ活性に対する種々の濃度の臭化物イオン及び塩化物イオンの影響を示す図である。
【図5】図5A及び5Bは、HeLa細胞内で発現された非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼの活性に対する溶解バッファ又はアッセイバッファ中のNaBrの影響の比較を示す図である。
【図6】図6は、塩を用いた非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性の増強について、カチオンと比較したアニオンの影響を示す図である。
【図7】図7は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性を測定する前の溶解時間を短縮するNaBr及びEDTAの効果を示す図である。
【図8】図8A及び8Bは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する、種々の濃度におけるキレータとしてのEDTAの影響を示す図である。
【図9】図9は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する、キレータとしてのEDTA及びEGTAの影響の比較を示す図である。
【図10】図10A及び10Bは、非分泌型メトリディアルシフェラーゼ活性に対する、キレータとしてのEDTA、CDTA、及びEGTAの影響の比較を示す図である。
【図11】図11A及び11Bは、分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び分泌型メトリディアルシフェラーゼの活性に対する、種々の濃度のキレータとしてのEDTAの影響を示す図である。
【図12】図12は、ホタルルシフェラーゼ及びレニラルシフェラーゼに対する種々の濃度のEDTAの影響を示す図である。
【図13】図13A、13B、及び13Cは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する種々の界面活性剤の影響を示す図である。
【図14】図14A及び14Bは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼの活性に対する種々の界面活性剤の影響を示す図である。
【図15】図15A及び15Bは、分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び分泌型メトリディアルシフェラーゼの活性に対する種々の界面活性剤の影響を示す図である。
【図16】図16A及び16Bは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する界面活性剤濃度の影響を示す図である。
【図17】図17は、分泌型及び非分泌型のガウシアルシフェラーゼの活性に対する界面活性剤濃度の影響を示す図である。
【図18】図18A、18B、18C、及び18Dは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する高pHの影響を示す図である。
【図19】図19は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼの活性に対するpHの影響を示す図である。
【図20】図20は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する様々な濃度及び比率の酸化剤の影響を示す図である。
【図21】図21は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する様々な濃度及び比率の酸化剤の影響を示す図である。
【図22】図22は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼの活性に対する酸化剤の影響の比較を示す図である。
【図23】図23A及び23Bは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する、溶解バッファ及び/又はアッセイバッファのいずれかに含まれる酸化剤の影響を示す図である。
【図24】図24は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対する種々の濃度の尿素の影響を示す図である。
【図25】図25は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ活性に対するNaBr、キレート剤、界面活性剤、及び酸化剤の組合せの影響を示す図である。
【図26】図26は、非分泌型メトリディアルシフェラーゼ活性に対するNaCl又はNaBr、キレート剤、界面活性剤、及び酸化剤の組合せの影響を示す図である。
【図27】図27A及び27Bは、非分泌型のガウシアルシフェラーゼ又はレニラルシフェラーゼに関して、市販のアッセイキットと本発明の実施例の試薬組成物の比較を示す図である。
【図28】図28は、感度に関して、市販のアッセイキットと本発明の実施例の試薬組成物の比較を示す図である。
【図29】図29A及び29Bは、グローの持続に関して、市販のアッセイキットと本発明の実施例の試薬組成物の比較を示す図である。
【図30】図30A及び30Bは、感度及び溶解時間の影響に関して、市販のアッセイキットと本発明の実施例の試薬組成物の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、文脈からそうでないことが要求されない限り、「含む」という語及びその活用形は、明記されている整数、ステップ、又は整数若しくはステップのグループを含むことを意味するが、その他の任意の整数、ステップ、又は整数若しくはステップのグループを排除することを意味するものではないと理解される。
【0073】
本明細書において、単数形は1又はそれ以上(すなわち、少なくとも1つ)を意味して使用されている。例えば、「エレメント」とは、1つ又は複数のエレメントを意味する。
【0074】
本明細書において、1つのコンホメーションから別のコンホメーションへのルシフェラーゼ酵素の変換の文脈において使用されている「促進する(facilitate)」という用語は、試薬組成物がそのような変換を可能にするか、生じさせるか、又は促進することを意味する。したがって、活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換の促進は、受動的又は能動的であってよく、直接的又は間接的であってもよい。例えば、試薬組成物は、活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換が起こり得る好適な環境を提供するものであってよい。代替的に、試薬組成物はそのような変換を直接又は間接的に促進するか、又は生じさせるか発生させるものであってよい。ルシフェラーゼ酵素の変換を「促進」する薬剤、添加剤、又は試薬の成分は典型的に、その薬剤を含まないこと以外は同一又は実質的に均等である試薬と比べて、より効率的な変換を提供するものである。
【0075】
本明細書において、「変換」という用語は、活性な状態又はコンホメーションに到達する際のルシフェラーゼ酵素のフォールディング、脱凝集、リフォールディング、又はその他の改変を意味する。更に、活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換についての言及は、不活性な状態若しくはコンホメーションから活性な状態若しくはコンホメーションへの変換又は部分的に活性な若しくは活性のより低い状態若しくはコンホメーションから活性のより高い状態若しくはコンホメーションへの変換のいずれかを意味すると理解される。この文脈において「コンホメーション」という用語は酵素がとる構造(例えば三次構造又は四次構造)を意味し、これは、基質を添加すると酵素が反応を触媒して生物発光シグナルを発生する能力に関連する。ルシフェラーゼの実際の触媒活性は、基質の非存在下では起こらない。しかし、活性のより高い状態又はコンホメーションに変換されたルシフェラーゼは、基質が添加されれば、そのような変換がない場合に可能な発光よりも強い発光を発生させることができるであろう。典型的に、この発光の増大はフラッシュ反応で顕著である。すなわち、活性形へのルシフェラーゼの変換プロセスは、グローの持続を可能にすることとは別個のプロセスであり、グローの持続の可能化は、例えば、基質存在下における初期の触媒活性の後にルシフェラーゼ活性を効果的に低下させるネガティブフィードバック機構を阻害することによる。
【0076】
本明細書において、ルシフェラーゼの生物発光シグナル強度についての文脈で使用される「増強された(enhanced)」という用語は、試薬組成物の非存在下及び/又は先行技術の組成物の存在下で達成されるシグナル強度と比べて定性的又は定量的に増強又は増大されたシグナル強度を意味する。同様に、「減衰率の低下」という用語は、試薬組成物の非存在下及び/又は先行技術の組成物の存在下での生物発光シグナルの減衰率を指して使用されている。
【0077】
本明細書において「有効量」という用語の意味には、非毒性であるが所望の効果を提供するのに十分な量の試薬組成物が含まれる。分析する試料の性質、使用するルシフェラーゼ酵素、ルシフェラーゼが細胞内型であるか分泌型であるか、使用する試薬又は組成物の構成等の要素に応じて、必要な正確な量は事例ごとに変わり得る。そのため、正確な「有効量」を規定することはできないが、当業者は日常的な実験のみを用いて任意の事例に対して適当な「有効量」を決定することができる。
【0078】
本明細書において「非分泌型ルシフェラーゼ」という用語は、細胞から細胞外環境に搬出又は分泌されないルシフェラーゼを意味する。したがって「非分泌型」には、細胞内に保持される任意の形態のルシフェラーゼが含まれ、したがって、このルシフェラーゼは細胞質ルシフェラーゼ又は膜結合型ルシフェラーゼであってもよい。典型的に、限定されるものではないが、本明細書でルシフェラーゼが天然の形態では分泌型であるルシフェラーゼの「非分泌型」形態であると言及する場合、この分泌及び分泌の欠如は真核細胞についてのことである。
【0079】
本明細書において、ルシフェラーゼ酵素に関連して使用される「基質」という用語は、ルシフェラーゼが作用する基質分子を意味し、基質へのルシフェラーゼの結合及び/又は触媒に有益又は必要であることのある更なる補因子は含まれない。例えば、ルシフェラーゼ触媒反応は、マグネシウム、CoA、ATP等の補因子を必要とするか又はその利益を受けることがあるが、本発明ではこのような補因子は「基質」の範囲内に含まれないとみなす。ルシフェラーゼの「基質」としては、例えばD−ルシフェリン及びセレンテラジンが含まれる。本願において「ルシフェリン」という用語は、基質であるD−ルシフェリン及びその類似体を意味し、これらの分子は、例えばホタル、コメツキムシ、鉄道虫等の鞘翅目に由来するルシフェラーゼの基質である。ルシフェリンという用語は、別のクラスのルシフェラーゼ(例えばレニラ、ガウシア、メトリディアに由来するルシフェラーゼ)に利用される異なるルシフェラーゼ基質であるセレンテラジンを包含しない。
【0080】
本明細書に開示されているように、本発明者らは、特に増強されたシグナル強度(より強いフラッシュフェーズ)、発光シグナル減衰率の低下(より安定なグローフェーズ)、溶解時間及び/又はアッセイ時間の短縮、並びに酵素活性又は酵素ポテンシャルの経時的安定性の向上を示す、改善されたルシフェラーゼレポータ系を可能にする試薬組成物を開発した。このような系は、ルシフェラーゼ酵素の量及び/又は活性を決定又は定量することが望ましい、ルシフェラーゼを用いた任意の反応に適用することができる。例えば本発明の実施例の組成物は特に、限定されるものではないが、遺伝子レポータアッセイ系、例えば高シグナル強度と共に迅速な応答が得られるように不安定化エレメントを利用する遺伝子レポータアッセイ系等と組み合わせた使用に適用することができる。更に本発明の試薬組成物は、1又はそれ以上のルシフェラーゼ酵素の量及び/又は活性が決定されるその他のアッセイ系にも適用することができる。例えば、ルシフェラーゼを免疫アッセイ又は核酸ハイブリダイゼーションアッセイのレポータとして使用してもよく、したがって、例えば抗体又は核酸プローブにルシフェラーゼを連結してもよい。したがって、ルシフェラーゼはレポータ又は検出可能な標識とすることができる。
【0081】
本明細書中に開示及び例証されているように、本発明者らは、天然の状態で分泌型である特定のクラスのルシフェラーゼ酵素に固有な性質を解明した。ルシフェラーゼアッセイにおけるこのルシフェラーゼの成績を、本発明の試薬組成物及び方法を用いて大きく向上させることができる。更に、本発明者らは、分泌を阻害して標的細胞中で細胞内発現されるようにこのルシフェラーゼを改変するとこの改変ルシフェラーゼの活性は顕著に低下するが、本発明の試薬組成物及び方法を用いることで活性を迅速に回復することができることを見出した。このようにして、本発明者らは、上記のように改変したルシフェラーゼタンパク質を種々のルシフェラーゼ触媒反応で使用することを可能にする方法及び試薬組成物を開発した。
【0082】
本明細書に開示されているように、本発明者らは、通常分泌型のルシフェラーゼを細胞内発現用に改変して真核細胞等の細胞内で発現させると、改変ルシフェラーゼの活性が生細胞内で大きく低下することを見出した。この活性は細胞溶解後も低いままであるが、時間が経つにつれて非常にゆっくりではあるが一部回復する。このことは、ルシフェラーゼアッセイにおけるこのような改変ルシフェラーゼの使用について多くの問題を生じ、事実上、商業化の成功を阻んできた。酵素活性の低下は生物発光シグナル強度の低下を引き起こす。(反応を開始するための基質の添加に先だって)インキュべーション時間を長くすることでシグナル強度は幾分向上するが、アッセイを終了するまでに必要な時間が長くなる。しかし本発明者らは、インキュべーション時間を長くしたとしても、改変ルシフェラーゼの活性が増大し続け、そのためアッセイ全体が不正確かつ時間依存的になることを見出した。すなわち、試料中のルシフェラーゼタンパク質の量の測定にルシフェラーゼ活性を使用しているため、各試料が単位ルシフェラーゼタンパク質当たり同じ活性を有する必要があるが、これらの改変ルシフェラーゼの場合、ルシフェラーゼ活性に関して細胞溶解物の安定性が不足しているためにこの必要が満たされず、アッセイが不正確になる。一部のルシフェラーゼは細胞溶解バッファ中で長時間にわたって低い活性を示す(例えばプロテアーゼ活性のため)が、通常分泌型のルシフェラーゼが改変された形態のルシフェラーゼは時間が経つにつれて活性が大きく増大し、これはこのような改変ルシフェラーゼの利用を成功させるために克服すべき全く新たな困難となる。
【0083】
本明細書中に開示及び例証されているように、本発明者らは、細胞溶解物と接触させたときに通常分泌型のルシフェラーゼが改変された形態のルシフェラーゼが酵素活性又は酵素ポテンシャルを回復する速度及び効率を大幅に向上させる成分、添加剤、又は薬剤を初めて同定した。本明細書で確認されるように、また本発明の特定の実施例に基づけば、そのような成分の例としてはキレータ、臭化物イオン、比較的高pH(例えば8超)のバッファ、並びに酸化剤及び/又は酸化還元バッファが含まれる。そのような薬剤の存在下では、ルシフェラーゼは高レベルの活性に素早く到達し、その後一定の活性を維持する。これは、アッセイ時間の短縮(溶解バッファで要求される時間の短縮)、より高い感度(より大きなシグナル最大値)、正確性の向上(溶解時間及び活性型形態への変換効率の試料間のばらつきへの依存がより少ないシグナル)等の多くの利点をもたらす。
【0084】
また本明細書には、通常分泌型のルシフェラーゼの活性が、それが天然の分泌可能な状態で発現されたものであれ細胞内発現用に改変されたものであれ、臭化物イオンの存在下で増大し、界面活性剤の存在下で低下することが示されている。
【0085】
本発明の試薬組成物は、ルシフェラーゼ触媒反応の動態の向上を提供する。特に、本明細書に開示されているように、本発明の試薬組成物を使用することで、基質添加後の最初の数秒における非常に高い生物発光シグナル強度を、長時間(例えば開始から少なくとも10分後)の測定可能な生物発光シグナル(いわゆる「グロー」反応)と結び付けることができることが分かった。この「グロー」期間中、シグナル強度は非常にゆっくりとしか低下しない。
【0086】
単独又は組合せで動態の向上に寄与する本発明の試薬組成物の成分は、臭化物塩、2価金属のキレータ、高pH(少なくとも約8以上)、及び還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの混合物等の酸化剤を含む。試薬組成物は多数の更なる成分を含んでもよく、また、その評価及び確認は当業者には容易であろう。
【0087】
本明細書中に例証されているように、例えば臭化物塩及び/又は低レベルの界面活性剤を含む改変された種々の細胞溶解バッファ組成物を、改変された細胞内型のガウシアルシフェラーゼ又はメトリディアルシフェラーゼと共に使用したとき、同ルシフェラーゼを市販のレニラアッセイ試薬又はガウシアアッセイ試薬と共に使用したときに比べて非常に高いシグナル強度が得られた。これは、分泌型ルシフェラーゼの高いシグナル強度を、天然の形態では細胞から分泌される酵素が改変された細胞内型酵素の形態の不安定化された細胞内型ルシフェラーゼの速い応答ダイナミクスと組み合わせることができることを初めて示したものである。理論に制限されるものではないが、これらのデータは、分泌型ルシフェラーゼの高いシグナル強度は、その分泌状態に完全に依存するのでもないし、単に細胞培養培地中に高レベルのルシフェラーゼタンパク質が蓄積されることによるものでもないことを示唆している。むしろこの高いシグナル強度は、少なくとも部分的には、適当な条件下で基質の迅速な酸化を効率良く触媒するというこれらの酵素に固有な能力によることを表している。
【0088】
本発明の試薬組成物は、現在利用可能な組成物と比べて、高い生物発光シグナル強度及び長時間持続する生物発光シグナル(減衰率の低下に相当)を提供する。理論に制限されるものではないが、本発明の実施例の試薬組成物は、不活性な状態又はコンホメーションから活性な状態又はコンホメーションへのルシフェラーゼの変換に適した環境を提供し得ると考えられる。コンホメーションの変化には、タンパク質のフォールディングの変化及び/又はルシフェラーゼの酸化還元状態の変化が含まれ得る。更に、コンホメーション変化には、ルシフェラーゼタンパク質中での1つ又は複数のジスルフィド架橋の形成が含まれ得る。いくつかの状況下で、ルシフェラーゼ酵素の状態又はコンホメーションの変化が望ましいか又は必要であることがある。例えば、ルシフェラーゼは、不活性タンパク質又は一部不活性なタンパク質として細胞質で発現されてもよい。その場合、ルシフェラーゼは、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼが改変された非分泌型形態のルシフェラーゼであってよい。
【0089】
一実施例では、本発明の試薬組成物は、少なくとも1つの臭化物アニオン又は臭化物塩、例えば臭化ナトリウム、臭化カリウム、又は臭化ルビジウムを含む。臭化物塩の濃度は約1mM乃至約500mMであってよい。一実施例では、濃度は約75mM乃至約225mMである。典型的に、臭化物アニオンは少なくとも約1mM、2mM、5mM、10mM、20mM、50mM、75mM、100mM、150mM、200mM、250mM、300mM、400mM、又は500mMの濃度で存在する。
【0090】
本発明の試薬組成物は非イオン界面活性剤を約1%未満の濃度で含んでもよい。非イオン界面活性剤は、約0.5%未満、0.4%、0.3%、0.2%、0.15%、又は0.1%の濃度で存在してもよい。本発明の試薬組成物は両性イオン界面活性剤を含んでもよい。いくつかの実施例では、特に界面活性剤で用量依存的に阻害されるガウシアルシフェラーゼ及びメトリディアルシフェラーゼを利用する反応及びアッセイの場合、細胞溶解に必要な最低限の濃度の界面活性剤を使用することが望ましい。したがって、一実施例では、界面活性剤の好適な濃度は約0.05%乃至約0.1%である。非イオン界面活性剤は、例えばトリトンX100、NP101、又はNP40から選択することができる。特定の実施例では、界面活性剤はNP40である。両性イオン界面活性剤はCHAPSであってもよい。
【0091】
しかし、当業者は、本発明の実施例を実施するために細胞溶解が必要であるか又は望ましい場合、当該技術分野で周知の任意の1つ又はいくつかの技術によって細胞を溶解してもよいことを容易に理解するであろう。そのような技術の多くは界面活性剤の使用を必要とせず、細胞溶解は、例えば超音波処理、浸透圧、又はその他の物理的圧力によって達成され得る。したがって、本発明の試薬組成物及び方法は特定の1つの細胞溶解手段に限定されない。
【0092】
本発明の試薬組成物のpHは、少なくとも約8、典型的に約8乃至約10、約8乃至約9、又は約8.4乃至約8.8であってよい。好ましくは、pHは少なくとも約8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、又は8.8であってよい。
【0093】
本発明の試薬組成物は、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよい。酸化剤と還元剤との組合せを使用する場合、薬剤の相対比率は典型的に、ルシフェラーゼ存在下で生じる環境が、ルシフェラーゼを発現する細胞の細胞質ゾルと比べて酸化性の環境であるような比率である。組成物は、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンの混合物等の「複合酸化還元バッファ(redox buffer combination)」を含んでもよい。正常な真核細胞内で存在及び作動する酸化還元対については、例えば[Foyer, C.H.(2005); The Plant Cell, Vol 17:1866−1875]の表7に開示されている。酸化還元対の例としては、O/HO;H/OH;NAD(P)/NAD(P)H;TRXox/TRXred;システイン/シスチン;システアミン/シスタミン、及びDHA/ASCが含まれる。酸化還元バッファは、チオールの酸化型(例えばジスルフィド2量体)と還元型との混合物を含んでもよい。還元型チオール及び酸化型チオールは同一でも異なっていてもよい。
【0094】
一般的な意味では、酸化−還元(redox)反応は、通常電子の移動による酸化数の変化を特徴とする。「酸化」という用語は典型的に、酸化状態又は酸化数の増加(電子の損失)を意味する。一方、「還元」という用語は、酸化状態又は酸化数の減少(電子の獲得)を意味する。「酸化剤」は電子受容体と呼ばれることもあり、「還元剤」は電子供与体と呼ばれることもある。他の物質を酸化する能力を有する物質は「酸化的」であると言われ、「酸化剤」、「酸化体」、又は「酸化性物質」と呼ばれる。他の物質を還元する能力を有する物質は「還元的」であると言われ、「還元剤」、「還元体」、又は「還元性物質」と呼ばれる。典型的に、酸化還元プロセス中、還元体又は還元剤は電子を失って酸化され、酸化体又は酸化剤は電子を獲得して還元される。試薬組成物又はこの試薬を用いた相当する反応混合物中に1又はそれ以上の酸化剤及び/又は還元剤を存在させて、試薬又は反応混合物中に全体的な「酸化性環境」又は全体的な「還元性環境」が提供されるようにしてもよい。
【0095】
酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せは、ルシフェラーゼの酸化を促進して、それによってルシフェラーゼが活性(又はより活性の高い)コンホメーションをとることを促進又は促進し得る。
【0096】
酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せは、ルシフェラーゼの酸化を促進して、それによってルシフェラーゼが活性(又はより活性の高い)コンホメーションをとることを促進又は促進し得る。
【0097】
当業者は、種々の酸化剤が本発明の目的に適しており、それらが本願に含まれることを理解するであろう。例えば、酸化剤は、スルフヒドリル基が酸化されてジスルフィド架橋になりつつもルシフェラーゼタンパク質は変性されないような試薬組成物中の電気化学ポテンシャルの発生に寄与するスルフヒドリル基変換剤であってもよい。例えば酸化剤は、ルシフェラーゼタンパク質中のチオール基又はシステインチオール基を直接又は間接的に酸化することができる薬剤であってもよい。本明細書に記載されているように、本発明の試薬組成物は酸化剤と還元剤との組合せを含んでもよい。酸化剤は、ルシフェラーゼタンパク質中のチオール基又はシステインチオール基を直接又は間接的に酸化することができる薬剤であってもよく、還元剤は、ルシフェラーゼタンパク質中のチオール基又はシステインチオール基を直接又は間接的に還元することができる薬剤であってよい。例えば、酸化還元バッファの還元成分としてのチオールは、タンパク質のフォールディングに関わるチオール−ジスルフィド交換反応の速度に影響することが知られている。酸化還元バッファのチオールは、求核剤、中心チオール(central thiol)、又は脱離基として働くことができる。タンパク質フォールディングの全体的速度は、酸化還元バッファのチオール成分を変えることで調節することができる。
【0098】
チオールの酸化を記述する一般式を式1.0に示す:
R−SH + R−SH → R−S−S−R + 2H + 2e 1.0
【0099】
酸化剤及び還元剤は異なる化合物であってもよく、あるいは同じ化合物の酸化型及び還元型であってもよく、例えばバッファはR−SH(還元型)とR−S−S−R(酸化型)の混合物から構成されてもよく、又は例えばR−SH(還元型)及びR−S−S−R(酸化型)から構成されてもよい。
【0100】
酸化還元バッファ系での使用に適したチオールの一例は、チオール及びジスルフィド2量体として存在するグルタチオンである。グルタチオン酸化還元バッファ系は、ジスルフィドGSSGを用いて酸化性の等価物とモノチオールGSHを生じ、一般的にジスルフィド結合の異性化を触媒する。効果的なグルタチオン系のフォールディング効率は通常、小胞体の溶液電位(Esolution=−180mV)と同様な溶液電位を有する。
【0101】
上記に一般的に記載したように、GSH/GSSHバッファ系のGSH成分を他のチオールに置き換えることもできる。例えば、ジスルフィド含有タンパク質のインビトロでのフォールディング速度は、小分子の芳香族チオール及び脂肪族チオールを利用して速くすることができる。N−メチルメルカプトアセトアミド(NMA)又は4−メルカプト安息香酸等のチオールのpKaの低いモノチオールは、より安定性の低いジスルフィドを形成し、より高い濃度で用いてグルタチオンよりも速いフォールディング速度を得ることができる。一般的に、チオールの脱離基能力は、チオールのpKaに対して逆相関する[Gough,J.,D.,J.Am.Chem.Soc.,2002,124,3885−3892;Gough,J.,D.,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters,2005,15,777−781;Gough,J.,G.,Journal of Biotechnology,2005,115,279−290;Gough,J.,G.,Journal of Biotechnology,2006,125,39−47]。好適な小分子芳香族チオールの例を以下に示す。
【0102】
【化1】

【0103】
【表1】

【0104】
酸化還元バッファ系中の芳香族チオールのチオール濃度はかなり異なってもよい。酸化反応及びチオールジスルフィド交換反応における2,2’−[(4−メルカプトフェニル)イミノ]ビスエタノール等のその他のチオールの使用が知られている[DeCollo1,T.V.,J.Org.Chem.,2001,66,4244−4249]。
【0105】
酸化還元バッファの成分としてジチオールを使用してもよい。モノチオールと対照的に、ジチオールは環式ジスルフィドを形成することができ、そのためより不安定な混合ジスルフィドを形成することができる。グルタチオン酸化還元バッファに還元ジチオールである(±)−トランス−1,2−ビス(メルカプトアセトアミド)シクロヘキサン(BMC又はVectrase−P)を添加すると、例えばタンパク質のフォールディングの速度及び収率が上がることがある。更に、BMCは共有結合性相互作用だけを用いてインビトロ及びインビボの両方で天然ジスルフィド結合の形成を触媒することができる。理論に制限されるものではないが、BMCの第2チオールは、基質誘導性チオール−ジスルフィド交換の分子内時計(intramolecular clock)を提供し得る。
【0106】
酸化剤は、小胞体オキシドレダクチン(oxidoreductin)1タンパク質(Ero1p)等の酵素であってもよい。酸化的タンパク質フォールディングには、チオールの酸化及び非天然ジスルフィド結合の異性化の両方が含まれてもよい。したがって、異性化酵素をタンパク質酸化系の一部として使用してもよい。したがって、酸化的バッファの更なる好適な成分は、タンパク質中の非天然ジスルフィド結合を元の状態に戻す触媒の役割を果たすタンパク質ジスルフィド異性化酵素(PDI)である。各PDI分子は、−Cys−Xaa−Xaa−Cys−配列を含む2つの活性部位を有する。好適には、酸化還元バッファの酵素成分は−Cys−Xaa−Xaa−Cys−配列を含んでもよい。酸化還元バッファ系に使用することができるその他の酵素としては、チオレドキシン、グルタレドキシン、及びペルオキシレドキシンが含まれる。
【0107】
この異性化成分は、異性化酵素の模倣物又は異性化酵素の活性断片であってもよい。活性ジチオールペプチド断片の例としては、Cys−Xaa−Xaa−Cysテトラペプチド及びCysXaaCysトリペプチドが含まれ、ここでXaaは任意のアミノ酸残基を指し[Woycechowsky,K.,J.,Biochemistry,2003,42,5387−5394]、例えばトリペプチドCysGlyCys(CGC)はPDIに近いジスルフィド還元電位を有することが示されている。タンパク質の異性化及びフォールディング用の酸化還元バッファにおける使用に適した、チオール誘導体以外の還元剤の別の非限定的な例として、トリス(2−カルボキシエチルホスフィン)(TCEP)[Willis,M.,S.,Protein Science,2005,14,1818−1826]を挙げることができる。
【0108】
酸化剤は、タンパク質のチオール基、特にルシフェラーゼのシステインのチオール基を酸化するのに適した穏やかな酸化剤であってもよい。酸化剤は、それ自体がジスルフィド架橋を有してもよく、アミノ酸誘導体であってもよい。還元剤は、それ自体がチオール基を含んでもよく、アミノ酸誘導体であってもよい。
【0109】
その他の好適な酸化剤及び方法としては、分子酸素、金属イオン、BuSnOMe/FeCl、一酸化窒素、ハロゲン(例えば臭素及びヨウ素)、過ホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素交換樹脂(BER)−遷移金属塩系、モルホリン・ヨウ素複合体、PCC、過硫酸アンモニウム、KMnO/CuSO、H、溶媒を含まない過マンガン酸塩、PVP−N及びフッ化セシウム−セライトO系、2,6−ジカルボキシピリジニウムクロロクロマート(2,6−DCPCC)[Tajbakhsh,M.,Tetrahedron Letters,45,2004,1889−1893];ジメチルスルホキシド[Shad,S.,T.,A.,Tetrahedron Lett.,2003,44,6789;Sanz,R,Synthesis,2002,856;Karimi,B.,Synthesis,2002,2513];チオールをジスルフィドに酸化することが実証されているレーザー加工された銅ナノ粒子[Chen,T−Y.,J.Phys.Chem.B,2002,106,9717−9722];ジスルフィドを形成するための電気化学的方法:Leite,S.,L,S.,Synth.Commun.,1990,20,393及びDo,Q.,T.,Tetrahedron Letters,1997,38(19),3383−3384];マンガン小塊[Parida,K.,M.,Journal of Colloid and Interface Science;1998,197,236−241]、可溶ポリマー性MnOによる酸化[Herszage,J.,Environ.Sci.Technol,2003,37,3332−3338];水和シリカゲル支持体上の分子臭素[Ali,M.,H.,Tetrahedron Letters,2002,6271−6273];水中のモノクロロポリ(スチレンヒダントイン)ビーズ等の酸化性ポリマー[Akdag,A.,Tetrahedron Letters,2006,47,3509−3510];ジアミド;DTNB(5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸);過酸化水素;N−メチルメルカプトアセトアミド;亜セレン酸ナトリウム(ベータメルカプトエタノールと一緒に)[Rariy,R.V.&Klibanov A.M.,(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:13520−13523];フェレドキシン(還元型及び酸化型);並びに銅フェナントロリン(Cu:phen)[Webb,T.I.,Zang,Z.,Lynch J.W.(2005),Proceedings of the Australian Physiological Society Vol36:44P]が含まれる。
【0110】
本発明の試薬組成物は、1又はそれ以上のキレータを含んでもよい。好適なキレータとしては特に限定されないが、例えばEDTA、CDTA、EGTA等の2価金属のキレータが含まれる。キレータは、任意の濃度で存在してよいが、好ましくは約0.1mM乃至約50mM、典型的に約0,1mM乃至約30mM、より典型的には約0.1mM乃至約15mMの濃度で存在し得る。濃度は少なくとも約0.1mM、0.2mM、0.5mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、7.5mM、10mM、12.5mM、又は15mMであってもよい。
【0111】
当業者は、本明細書中で例示的な範囲及び構成要素が挙げられている場合に、これらが排他的なものではなく、迅速な細胞溶解又は活性のより高い状態若しくはコンホメーションへのルシフェラーゼの変換、生物発光シグナル強度の増強、及び/又は生物発光シグナルの長期化を達成するために本発明の組成物に含まれることのある範囲及び構成要素の単なる例示であると理解するであろう。
【0112】
本明細書中に例証されているように、臭化物塩(臭化ナトリウム及び臭化カリウムを含む)が、ガウシアシフェラーゼ及びメトリディアルシフェラーゼの活性を(それらの天然の分泌型形態及び改変された細胞内型酵素において)増強すること、並びに両方のガウシアルシフェラーゼ及び両方のメトリディアルシフェラーゼの活性が界面活性剤の存在下で1%未満の濃度の界面活性剤で濃度依存的に阻害されることの発見は、当該技術分野における以前の定説、ガウシアルシフェラーゼ及びメトリディアルシフェラーゼの活性はナトリウム依存性かつ/又はカチオン濃度に感受性であり、2%まで又はそれ以上の非イオン界面活性剤により阻害されないという定説に鑑みると、特に驚くべきことである。
【0113】
本発明の試薬組成物を用いると、ルシフェラーゼにより発生する生物発光シグナルを、ルシフェラーゼ基質を添加して数分後から始まる「グロー」フェーズの間、持続することができる。例えば生物発光シグナルを、基質を添加して約3分乃至約15分後に始まるフェーズの間、持続することができる。更に、例として、ルシフェラーゼにより発生する生物発光シグナルは、ルシフェラーゼ触媒反応の開始から10分後に開始し、この生物発光シグナルの減衰が20分超又は30分超の半減期を有するようなものであってもよい。
【0114】
ルシフェラーゼ基質は、試薬組成物の構成要素であってもよく、独立していてもよい。ルシフェラーゼ基質が試薬組成物の構成要素でない場合、ルシフェラーゼを含む試料に、試薬組成物の添加の前、後、又は同時に基質を添加してもよい。
【0115】
典型的に、ルシフェラーゼを用いたレポータアッセイ系は溶解バッファ及びアッセイバッファの2つのバッファ(本明細書ではまとめて「アッセイ試薬」と呼ぶ)を使用する。溶解バッファは典型的に、アッセイされるルシフェラーゼを含む細胞を溶解するための成分を含み、アッセイバッファは典型的に、とりわけ、基質及びルシフェラーゼ反応に必要な任意の補因子を含む。
【0116】
本発明の試薬組成物は典型的に、細胞溶解バッファの形態である。有利には、本発明に基づく溶解バッファは、現在利用可能なバッファで可能であるよりも短い溶解時間を効果的に提供する。理論に制限されるものではないが、本発明者らは、細胞溶解後に不活性な状態又はコンホメーションから活性な状態若しくはコンホメーションへの、又は活性のより低い状態若しくはコンホメーションから活性のより高い状態若しくはコンホメーションへの、アッセイされるルシフェラーゼのフォールディング又は変換を促進又は促進するのに適した環境をこれらのバッファが提供するということを提唱する。あるいは、本発明の試薬組成物は、細胞の溶解(場合によっては細胞を培養する培地中で直接)及びルシフェラーゼ触媒反応の開始に1つのバッファ組成物のみが必要であるように複合溶解・アッセイバッファの形態であってもよい。
【0117】
本発明に基づく試薬組成物は典型的には水溶液であってもよく、凍結乾燥形態等の固体又は乾燥形態であってもよい。水性であれ凍結乾燥形態であれ、本発明の試薬組成物は、予め混合された全ての構成要素を含んで提供されてもよく、使用前に混合される構成要素の組合せとして提供されてもよい。試薬組成物は、ルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定するためのアッセイ系で直接使用してもよく、あるいは再構成、溶解、希釈、又は化学的に若しくは物理的に処置して、組成物が所望の機能を発揮できるようにしてもよい。
【0118】
本発明の試薬組成物は、試料中のどのようなルシフェラーゼの量及び/又は活性の決定にも適用可能である。ルシフェラーゼは、天然酵素であってもよく、改変酵素であってもよい。天然ルシフェラーゼは、多数の生物発光生物のいずれか、典型的にその発光器官に由来するものであってよい。そのような生物としては特に限定されないが、生物発光性の細菌、原生動物、腔腸動物、軟体動物、魚、ハエ(fly)、甲殻類、甲虫類(beetle)が含まれる。慣習的に、ルシフェラーゼを利用する基質に従って分類することがある。ホタル及びコメツキムシのルシフェラーゼをはじめとするルシフェラーゼの一グループはルシフェリン(D−ルシフェリン)を利用する。海洋生物であるレニラ属、ガウシア属、プレウロマンマ属、メトリディア属のルシフェラーゼをはじめとする第2グループのルシフェラーゼはセレンテラジンを利用する。ヴァルグラルシフェラーゼをはじめとするその他のルシフェラーゼは異なる基質を利用する。本発明の試薬組成物は、ルシフェリン又はセレンテラジン又はその他の任意の基質を利用するルシフェラーゼとの使用に適用可能である。
【0119】
本発明の試薬組成物は、細胞内型ルシフェラーゼ又は分泌型ルシフェラーゼとの使用に同様に適用可能である。ホタルルシフェラーゼ及びレニラルシフェラーゼは天然の状態では細胞内型であり、ガウシアルシフェラーゼ及びメトリディアルシフェラーゼは野生型の状態では分泌型である。ガウシアルシフェラーゼは、レニラルシフェラーゼで得ることができるよりも強い生物発光シグナルを生じることが示されており、また公知の最も小さなルシフェラーゼであり、特に興味深い。その他の分泌型ルシフェラーゼ、例えばメトリディア・ロンガのルシフェラーゼも強いシグナル強度を生じることが示されている。
【0120】
ルシフェラーゼは、天然のルシフェラーゼの変種又は誘導体であってもよい。例えば本発明は、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼが改変された非分泌型形態のルシフェラーゼを含む反応及びアッセイに特に適用される。例えば、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼを、標準的な分子生物学的技術を用いて、この酵素が分泌されず細胞内に留まるようにシグナル配列の除去及び/又は細胞内ポリペプチドへの融合により改変してもよい。代替的に、又はそれに加えて、例えばルシフェラーゼポリペプチド配列中の1つ又は複数のアミノ酸を変更して、選んだ細胞培養系における酵素の発現及び/又は溶解性を調節するために、当業者に周知のその他のいくつかの改変を行ってもよい。そのような調節は、ルシフェラーゼ及び本発明の試薬組成物が使用される特定の適用の要件に応じて、発現及び/又は溶解性を増大及び/又は低下させるものであってよい。例えば、このタンパク質を不安定化させるために1つ又は複数の不安定化エレメントを導入してルシフェラーゼを改変することが望ましいことがある。不安定化エレメントを含むルシフェラーゼは不安定化エレメントを含まないルシフェラーゼよりも半減期が短くなり、低い定常状態レベルで発現される。好適なタンパク質不安定化エレメントとしては、PEST配列(アミノ酸プロリン(P)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、及びスレオニン(T)含量の高いアミノ酸配列)、細胞内タンパク質分解シグナル又はデグロンをコードする配列、及びユビキチンが含まれる。本発明の試薬で達成される感度の増強は、ルシフェラーゼの定常状態での発現が低下された不安定化ルシフェラーゼとの使用に特に有利である。タンパク質を不安定化する任意の好適な方法が本願に想定される。好適な方法は、例えば特許文献1(その開示全体を参照により本明細書に組み込んだものとする)に記載されている。また、ルシフェラーゼの発現を、例えばポリ(A)テール、転写エンハンサー、翻訳エンハンサー等の配列の追加及び/又はコーディングポリヌクレオチド配列中のコドン使用頻度を特定の発現系用に適合させることにより改変してもよい。例えば、昆虫細胞又はヒト細胞中でのルシフェラーゼの発現を最適化するために、ルシフェラーゼポリヌクレオチド中のコドン使用頻度をそれぞれ昆虫又はヒト細胞用に最適化してもよい。別の種用にコドン使用頻度を適合及び最適化する手法は当業者に周知である。
【0121】
ルシフェラーゼのポリペプチド又はポリヌクレオチドに施すことのできる更なる改変も当業者に周知である。例えば、ポリヌクレオチドに制限酵素切断部位を導入してもよく、ルシフェラーゼポリペプチドを、選択可能なマーカー等の異なる機能(例えば、抗生物質耐性)の第2のポリペプチドに融合又はコンジュゲートしてもよい。
【0122】
当業者は、コンピュータモデリング等の周知の技術を用いて、本発明に基づく使用に特に適したルシフェラーゼの予測及び非分泌型にするために分泌型ルシフェラーゼに施し得る改変を容易に予測することができる。例えば、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼは典型的に、このタンパク質の成熟活性コンホメーション中でジスルフィド架橋を形成するシステイン残基を含む。システイン残基は、分子内ジスルフィド結合の形成が予測されるようにアミノ酸配列内で間を空けて繰り返して配置されてもよい。そのようなルシフェラーゼは典型的に、細胞内で発現された際に低下した活性を示す。したがって、当業者は、天然で分泌型のルシフェラーゼの特徴の1つ又は複数を共有する相同なルシフェラーゼが本発明に基づく使用に特に適していることを理解するであろう。
【0123】
当業者は公知技術を用いて好適なルシフェラーゼを容易に得ることができる。ルシフェラーゼは、生物発光生物の1又はそれ以上の発光器官から直接得てもよい。代替的に、ルシフェラーゼは、ルシフェラーゼをコードする核酸で形質転換した、例えば細菌、酵母、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞の培養細胞から得ることもできる。
【0124】
インビトロのレポータアッセイで分泌型ルシフェラーゼを使用する場合、ルシフェラーゼ活性の測定には典型的に、細胞溶解物よりも細胞培養培地の試料が用いられる。分泌型ルシフェラーゼは、一部の適用(例えば同じ細胞での反復測定)には有利であるが、その他の適用には適していない。特に、分泌型ルシフェラーゼは細胞培養培地中に蓄積するため、遺伝子発現の急速な変化を正確にモニターすることができない。これらのルシフェラーゼの変異体非分泌型形態(不安定化エレメントを含むことが好ましい)はこの制限を克服する。本明細書に記載されている特定の改変ルシフェラーゼは、14アミノ酸からなるN末端シグナルペプチドが欠失されていることで非分泌型ルシフェラーゼになっている、改変ガウシアルシフェラーゼである。本明細書に記載されている第2の改変ルシフェラーゼは、17アミノ酸からなるN末端シグナルペプチドが欠失されていることで非分泌型ルシフェラーゼになっている、改変メトリディアルシフェラーゼである。その他の分泌型ルシフェラーゼを同様に、当業者に周知の種々の方法を用いて、特に真核生物の、細胞内で発現するように改変することができる。
【0125】
特定の実施例では、本発明の試薬組成物は、セレンテラジンを基質として利用する細胞内型又は分泌型のルシフェラーゼに基づくレポータアッセイ系、又はルシフェラーゼの少なくとも1つがセレンテラジンを基質として利用しかつ/又は天然の形態では分泌型のものである、デュアルルシフェラーゼレポータアッセイに適用される。
【0126】
本発明によれば、ルシフェラーゼ活性は当業者に周知の多くの方法のいずれかひとつで検出及び測定することができ、そのような方法としては、限定されるものではないが、ルミノメータ、シンチレーションカウンター、光電子増倍管光度計等の光度計、フォトエマルジョンフィルム(photoemulsion film)、又は電荷結合素子(CCD)の使用が含まれる。
【0127】
本発明の試薬組成物は、ルシフェラーゼ反応における生物発光の動態の向上及び先行技術を超える利点を提供する。そこで、これらの組成物を、本発明のルシフェラーゼアッセイ、本発明のアッセイ試薬及び試験キットの調製、並びに本発明のアッセイ及びキット用の標準及び対照に使用することができる。本発明は、ルシフェラーゼ活性のアッセイを行うためのキットを提供し、本明細書に記載されているように、そのようなキットは本発明に基づく試薬組成物を含む。本発明のキットは、1つ又は複数の物理的容器に、典型的にはルシフェラーゼアッセイでの使用を促進するために便利な形態にパッケージされた、ルシフェラーゼアッセイを行うための好適な量の試薬組成物又はその構成要素を含む。複数の試薬組成物又は試薬組成物の種々の構成要素を、例えば水溶液又は凍結乾燥物の形態で1つ又は複数の容器に組み合わせてもよい。また、本発明のキットは典型的に、本発明に基づいて行われるアッセイの確実性及び精度を確保するための対照及び標準を含む。好適な対照及び標準は当業者に公知であろう。
【0128】
本明細書中における、任意の先行刊行物(又はそれに由来する情報)への参照、又は任意の公知事項への参照は、その先行刊行物(又はそれに由来する情報)又は公知事項が本明細書が関する努力傾注分野の一般的共通知識の一部を形成することを承認又は自認、又は何らかの形で示唆するものではなく、そのように解釈されるべきではない。
【0129】
ここで本発明を以下に具体例を用いて説明するが、これらは本発明の範囲を何らかの形で限定するものとして解釈されるべきではない。
【0130】
[実施例]
パート1:ルシフェラーゼ
【実施例1】
【0131】
ホタルルシフェラーゼ及びレニラルシフェラーゼは、ルシフェラーゼを用いた市販のレポータ系で最も一般的に使用されているルシフェラーゼである。分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び分泌型メトリディアルシフェラーゼは、ホタル又はレニラのルシフェラーゼより高い感度を提供するが、分泌型ルシフェラーゼは培養培地中に蓄積するため、遺伝子発現の時間的変化の測定を目的とするレポータ実験にとっては理想的ではない。
【0132】
天然では分泌型のルシフェラーゼの変異体非分泌型(及び不安定化)ルシフェラーゼが、高シグナル強度及び迅速な応答速度を組み合わせた利点を提供することができるかを決定するために、本発明者らはガウシアルシフェラーゼのコード配列を種々のRapidReporterプラスミド(GeneStream社製)中にクローニングした。このクローニングには、15アミノ酸からなるN末端シグナルペプチドを欠失させ、タンパク質不安定化エレメントをコードする配列を含むN末端及びC末端のコード配列に残りのガウシアルシフェラーゼcDNAを融合させるPCR戦略を用いた。この改変ガウシアルシフェラーゼは、哺乳動物細胞で発現されたときに分泌されない。この改変ルシフェラーゼ酵素の正確な細胞内局在は細胞質であると推定される。以下に記載する実験では、天然ガウシアルシフェラーゼ(以下、「分泌型ガウシアルシフェラーゼ」と呼ぶ)又は改変ガウシアルシフェラーゼ(以下、「非分泌型ガウシアルシフェラーゼ」と呼ぶ)を発現するプラスミドでトランスフェクトした哺乳動物細胞を、種々の溶解バッファ組成物の存在下で溶解し、生物発光を測定した。
【0133】
天然では分泌型のルシフェラーゼの第2の変異体非分泌型(及び不安定化)ルシフェラーゼも、高シグナル強度及び迅速な応答速度を組み合わせた利点を提供することができるかを決定するために、本発明者らはメトリディアルシフェラーゼのコード配列を種々のRapidReporterプラスミド(GeneStream社製)にクローニングした。このクローニングには、17アミノ酸からなるN末端シグナルペプチドを欠失させ、タンパク質不安定化エレメントをコードする配列を含むN末端及びC末端のコード配列に残りのメトリディアルシフェラーゼcDNAを融合させるPCR戦略を用いた。この改変メトリディアルシフェラーゼは、哺乳動物細胞で発現されたときに分泌されない。この改変ルシフェラーゼ酵素の正確な細胞内局在は細胞質であると推定される。以下に記載する実験では、天然メトリディアルシフェラーゼ(以下、「分泌型メトリディアルシフェラーゼ」と呼ぶ)又は改変メトリディアルシフェラーゼ(以下、「非分泌型メトリディアルシフェラーゼ」と呼ぶ)を発現するプラスミドでトランスフェクトした哺乳動物細胞を、種々の溶解バッファ組成物の存在下で溶解し、生物発光を測定した。
【0134】
非分泌型のガウシアルシフェラーゼ又はメトリディアルシフェラーゼを市販のバッファと用いたところ、特に細胞溶解後すぐにルシフェラーゼ活性を測定した試料では、生物発光シグナル強度は非常に低かった。溶解バッファ中で数時間インキュベートした後にだけ、改変ルシフェラーゼは高い活性を得た。
【0135】
理論に制限されるものではないが、非分泌型のガウシアルシフェラーゼ及びメトリディアルシフェラーゼは細胞内で活性のより低いコンホメーションをとるが、細胞溶解後にゆっくりとではあるが活性コンホメーションをとることができることが示唆される。そこで、本発明者らは、より短いインキュべーション時間で、より強いフラッシュフェーズ(より高い感度)及びより安定なグローフェーズ(シグナル減衰率の低下)を発光シグナルが有することを可能にする処方、特に細胞溶解後に不活性コンホメーションから活性コンホメーションへのルシフェラーゼの変換を促進する環境を提供する処方を開発するために、溶解バッファ成分への種々の改変を検証した。
【0136】
パートII:臭化物アニオンの利点
【実施例2】
【0137】
HeLa細胞を、天然分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現するプラスミドで一過性にトランスフェクトし、24時間後に馴化培地を回収した。96穴プレートのウェルに馴化培地20μlを入れ、26μMのCz(pH8.1)に加えて図1に示される塩とを含むアッセイバッファ60μlを注入することでルシフェラーゼ活性についてアッセイした。結果は、塩の非存在下で得られた発光強度(light unit)の%で表した(図1)。
【0138】
NaBrでの光の放出は、NaCl又は塩なしの場合よりも高かった。図1から、NaBrが分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性を増強することが分かる。
【実施例3】
【0139】
非分泌型・不安定化ガウシアルシフェラーゼを安定発現するHeLa細胞を96穴プレートに蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、1ウェル当たり30μlの溶解バッファで細胞を溶解した。溶解バッファ(LB)は、25mMのトリス(pH7.8)、0.1%のNP40、1mMのEDTAに加えて、(左から順に)0mM,150mM、0mM、75mMの濃度のNaBrを含むものであった。25mMのトリス(pH7.8)、40μMのCzに加えて、(左から順に)0mM、0mM、150mM、75mMの濃度のNaBrを含むアッセイバッファ(AB)30μlを注入することでルシフェラーゼ活性のアッセイを行った。したがって、塩なしの対照以外、全ての試料でNaBrの終濃度は75mMであった。結果は相対発光強度(RLU)で表した(図2参照)。
【0140】
図2のデータは、分泌型ガウシアルシフェラーゼでのNaBrの有益な効果(図1)が非分泌型・不安定化ガウシアルシフェラーゼにも適用されることを示している。更に、このデータは、アッセイバッファ(AB)ではなく溶解バッファ(LB)にNaBrを含めることが有利であることを示している。NaBrは、特に溶解バッファに含まれている場合に、非分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性を増強することが分かる。
【実施例4】
【0141】
非分泌型・不安定化ガウシアルシフェラーゼを安定発現するHeLa細胞を96穴プレートに蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、1ウェル当たり20μlの溶解バッファで細胞を溶解した。溶解バッファは、25mMのトリス(pH8.1)、1mMのEDTA、0.1%のNP40、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、5%グリセロールに加えて、図3に記載されている濃度及び種類の塩を含むものであった。溶解バッファを添加した40分後に、(25mMのトリス(pH8.1)、1mMのEDTA、2mMのアスコルビン酸塩、26μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入することでルシフェラーゼ活性をアッセイした。結果は、塩の非存在下で得られた発光強度の%で表した(図3参照)。
【0142】
どちらの塩も、塩なしと比べて光の放出を増大させた。しかし、NaBrによる増強はNaClよりも大きく、また、この増強は濃度にある程度依存することが分かった。
【実施例5】
【0143】
非分泌型・不安定化ガウシアルシフェラーゼ又は非分泌型・不安定化メトリディアルシフェラーゼを安定発現するHeLa細胞を96穴プレートに蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、1ウェル当たり20μlの溶解バッファで細胞を溶解した。溶解バッファは、25mMのトリス(pH8.1)、0.1%のNP40、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、5%のグリセロールに加えて、図4に記載されている濃度及び種類の塩を含むものであった。溶解バッファを添加した30分後に、アッセイバッファ60μlを注入することでルシフェラーゼ活性について複製試料(replicate sample)をアッセイした。アッセイバッファは、25mMのトリス(pH7.75)、2mMのアスコルビン酸塩、24μMのCzを含むものであった。結果は、塩の非存在下で得られた発光強度の%で表した(図4参照)。
【0144】
実施例4の非分泌型・不安定化ガウシアルシフェラーゼで観察されたように、NaBrは非分泌型・不安定化メトリディアルシフェラーゼにNaClよりも大きな増強をもたらし、この増強はある程度濃度に依存することが分かった。
【実施例6】
【0145】
非分泌型・不安定化ガウシアルシフェラーゼ又は非分泌型・不安定化メトリディアルシフェラーゼかのいずれかを用いて、実施例5に記載したようにルシフェラーゼを行った。2つの実験を別々のグラフに示す。1秒当たりのカウント数(CPS)で表した相対発光量で結果を示す(図5A及び5B参照)。それぞれの実験内で、溶解バッファ及びアッセイバッファは、添加した塩の量及び種類のみが、記載されているように異なる。溶解バッファ(LB)を添加した120分後に、アッセイバッファ(AB)60μlを注入して複製試料の解析を行った。
【0146】
その結果、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼの両方で、塩の非存在下でシグナル強度は最低であった。溶解バッファ又はアッセイバッファのいずれかに塩を含めることでより高いシグナル強度が認められた。更に、両方のルシフェラーゼで、臭化物塩は塩化物塩よりも優れていた。4つの処置グループのうち、溶解バッファに臭化物が含まれていた場合に最も高いシグナル強度が見られ、これは、状況によってはアッセイバッファよりも溶解バッファに臭化物を含める方が好ましいことがあることを示唆している。
【実施例7】
【0147】
ルシフェラーゼアッセイを実施例4に記載したように行った。全ての塩は溶解バッファ中に150mMの濃度で存在した。
【0148】
NaBr、RbBr、及びKBrで最も高いレベルのシグナル増強(>5倍)が得られた。対応する塩化物塩ではより低いレベルの増強が見られ、ヨウ化物塩では増強は見られなかった。これらのデータは、既存の文献とは対照的に、高いルシフェラーゼ活性を得るためにはカチオンではなくアニオンが重要であることを示している。また、このデータは臭化物塩の有益な効果の更なる証拠であり、所望の効果を得るために種々の異なる臭化物塩を使用することができることを示している(図6参照)。
【実施例8】
【0149】
記載されている濃度の塩及びEDTAを含む溶解バッファを用いたこと以外は、実施例7に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。溶解バッファを添加した20、30、40、及び90分後に複製試料のルシフェラーゼ活性をアッセイした。結果は、同じ溶解バッファで20分間溶解した後に得られた発光強度の%で表した(図7参照)。
【0150】
塩及びEDTAの非存在下で、細胞溶解の開始後20乃至90分においてルシフェラーゼ活性は明らかに大幅に上昇していた。EDTA又はNaBrのいずれかを単独で添加することで、さらに安定な(したがって、より望ましい)レベルのルシフェラーゼ活性が得られた。しかし、両方の成分を溶解バッファ中で組み合わせることで相加的な有益な効果が達成された。NaBr及びEDTAの添加により、溶解時間の短縮が可能になることが分かる。
【0151】
パートIII:キレータの利点
【実施例9】
【0152】
150mMのNaBr及び記載されている濃度のEDTAを含有する溶解バッファを用いたこと以外は、実施例8に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。2つの実験を別々のグラフに示す。結果は相対発光強度(RLU)で示した(図8A及び8B参照)。それぞれの実験内で、全ての試料に対して同じアッセイバッファを使用し、溶解バッファはEDTAの量のみが記載されているように異なっていた。溶解バッファを添加した30又は120分後に、複製試料を非分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性についてアッセイした。EDTAなしに対する1mMのEDTAによる利益は前のグラフに示されている。このグラフは、溶解バッファ中のシグナル強度及びルシフェラーゼシグナルの経時的安定性の点で、より多い量のEDTAが有益であることを示している。
【実施例10】
【0153】
記載されている種類及び濃度のキレータを用いたこと及び溶解時間を30分にした以外は、実施例9に記載されているようにルシフェラーゼアッセイを行った。この結果は、EDTA及びEGTAはどちらもシグナル強度に対して濃度依存的な有益な効果を提供することを示している(図9参照)。
【実施例11】
【0154】
溶解バッファが塩を含まず、記載されている種類及び濃度のキレータを含むこと以外は、非分泌型・不安定化メトリディアルシフェラーゼを用いて、実施例5に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。30分又は120分の溶解期間後に複製ルシフェラーゼアッセイを行った。30分の時点での結果を、キレータ非存在下で得られた発光強度の%で表し(図10A参照)、120分の時点での結果を、同じ溶解バッファを用いて30分後に得られた発光強度の%で表した(図10B参照)。これらの結果は、EDTA、CDTA、及びEGTAが、シグナル強度に対して濃度依存的な有益な効果を提供し、更に溶解時間を短縮することを示している。
【実施例12】
【0155】
分泌型ガウシアルシフェラーゼ又は分泌型メトリディアルシフェラーゼを一過性で発現するHeLa細胞をフラスコで一晩インキュベートした。馴化培地の一定分量をとり、5mMのEDTAを含むか又は含まない新鮮な培地(RPMI+10%ウシ胎児血清)中に1:10に希釈した。30分後、80μl分を、48μMのCzを含む培地20μlを注入することでルシフェラーゼ活性についてアッセイした。結果は、EDTA非存在下で得られた発光強度の%で表した(図11A参照)。インキュべーション時間を90分に延長し、いくつかの試料では5mMのEDTAを更に含むアッセイバッファを注入したこと以外は同様にして、第2の実験を行った(図11B参照)。
【0156】
このデータは、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼで顕著なキレータの添加による利益(実施例9、10、及び10参照)が、同じルシフェラーゼの(天然)分泌型ルシフェラーゼでは得られないことを示している。特に、アッセイバッファ中のみにキレータを添加した試料では何ら増強が見られなかった(図11B参照)。このことは、キレータの効果が基質レベル又は反応開始の瞬間に生じるのではないことを示唆している。どちらかといえば、キレータによる利益は、酵素反応前のルシフェラーゼタンパク質レベルで、例えばルシフェラーゼタンパク質がより活性の高い形をとることをキレータが補助することによって生じているようである。
【0157】
細胞内で発現された場合に、分泌型ルシフェラーゼはより活性の低い形をとるため、このタンパク質が高活性状態になるためにリフォールディング又はその他の改変が必要である細胞内型においてキレータの正の効果が顕著になることが示されている。ルシフェラーゼに対するキレータのこの有益な効果はこれまでに報告されていない。
【実施例13】
【0158】
ホタルルシフェラーゼ又はレニラルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、25mMのトリス(pH8.1)、0.1%のNP40、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、5%グリセロール、150mMのNaClに加えて、図12中の濃度のEDTAを含む溶解バッファ20μlで細胞を溶解した。複製試料の30分後のルシフェラーゼ活性について、ホタル基質を含む30μlのホタルアッセイバッファIIを注入し、次いでレニラ基質を含むPromega社製「Stop and Glo」バッファ30μlを添加することでアッセイした。その結果をEDTA非存在下で得られた発光強度の%で表す(図12参照)。
【0159】
この結果は、レニラルシフェラーゼ及びホタルルシフェラーゼへのEDTAの添加は、非分泌型のガウシアルシフェラーゼ又はメトリディアルシフェラーゼで観察されたのと同じシグナル強度への有益な効果を与えないことを示している。それどころか、EDTAの添加により、ホタルルシフェラーゼの活性は明らかに低下している。
【0160】
パートIV:界面活性剤の種類及び濃度
【実施例14】
【0161】
不安定化・非分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を、96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。3つの実験を別々のグラフに示す(図13A、13B、及び13C)。それぞれの実験内で、全ての試料に同じアッセイバッファを用い、溶解バッファは、使用した界面活性剤(特に記載のものは溶解バッファ中0.1%)の種類のみが異なっていた。陰イオン界面活性剤であるSDS及びDOCはガウシアルシフェラーゼとうまく機能ていないが、これは、これらの界面活性剤がルシフェラーゼ活性を阻害するためであろう。両性イオン界面活性剤であるCHAPSは、0.1%では細胞を溶解しないようであった。おそらく同じことが非イオン界面活性剤であるTween20、Tween80、及びBrijについても言える。残りの界面活性剤は全て非イオン界面活性剤であり、これらはよく機能し、NP40で最も高いシグナル強度が得られた。
【実施例15】
【0162】
不安定化された非分泌型ガウシアルシフェラーゼ又は非分泌型メトリディアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、溶解バッファ20μlで細胞を溶解した。界面活性剤の種類及び濃度は記載されている通りに変えた。25mMのトリス(pH8.1)、1mMのEDTA、2mMのアスコルビン酸塩、24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入してルシフェラーゼアッセイを行った。2つの実験を示す。最初の実験では、溶解バッファは5%のグリセロール、64μMのシュウ酸ナトリウム、150mMのNaBr、25mMのトリス(pH8.5)、5mMのEDTA、0.6mMの還元型グルタチオン、0.4mMの酸化型グルタチオン、75mMの尿素をも含み(v6)、ルシフェラーゼ活性は40分の時点でアッセイした。2番目の実験では、溶解バッファは25mMのトリス(pH8.1)、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、150mMのNaBr、5%グリセロールをも含み、ルシフェラーゼ活性は120分後アッセイした。結果は0.1%のNP40を用いて得られた発光強度の%で表した(図14A及び14B参照)。
【0163】
最初の実験の結果(図14A参照)から、0.1%のSDSが酵素活性を阻害すること及び0.1%のCHAPSが細胞と溶解するのに不十分であることが示されたので、2番目の実験ではこれらの界面活性剤を異なる濃度範囲で用いた(図14B参照)。
【0164】
この結果は、シグナル強度に対して界面活性剤が濃度依存的な阻害を与えることを示している。この効果は、陰イオン界面活性剤であるSDS及びDOCで最も顕著であった。両性イオン界面活性剤であるCHAPSは、非分泌型メトリディアルシフェラーゼで最も高い活性を与え、特に、この界面活性剤は、効果的に細胞を溶解するためにより高い濃度が必要であった。残りの界面活性剤は全て非イオン界面活性剤であり、これらはよく機能し、NP40及びトリトンX100で最も高いシグナル強度が得られた。
【0165】
陽イオン界面活性剤CTABを用いた実験(不掲載)から、陰イオン界面活性剤同様、シグナル強度に対して陽イオン界面活性剤が強力な阻害効果を有することが示された。
【実施例16】
【0166】
分泌型ガウシアルシフェラーゼ又は分泌型メトリディアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を、96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。培地をとり、図15A及び15Bに示されている種類及び濃度の界面活性剤を含む新鮮な培地に1:10で希釈した。30分後に、80μlをとり、48μMのCzを含む培地20μlを加え、ルシフェラーゼについて試料をアッセイした(図15A及び15B参照)。結果は、界面活性剤非存在下で得られた発光強度の%で表した。
【0167】
両実験の結果は、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼと同様、これらのルシフェラーゼの分泌型に由来するシグナル強度に対して、これらの界面活性剤が濃度依存的な阻害効果を有することを示している。
【実施例17】
【0168】
不安定化・非分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。2つの実験を別々のグラフで示す(図16A及び16B参照)。それぞれの実験内で、全ての試料について同じアッセイバッファを使用し、溶解バッファはNP40の濃度のみが異なっていた。0.1%で最も強いシグナルが見られ、界面活性剤の量が増えるとシグナル強度は低下した。界面活性剤がルシフェラーゼ活性を濃度依存的に阻害することが分かる。
【実施例18】
【0169】
分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現する細胞でも実験を行ったこと以外は実施例17に記載したようにして非分泌型ガウシアルシフェラーゼの活性に対する界面活性剤濃度の影響を決定した。そのような細胞について、記載されている濃度の界面活性剤を添加した馴化培地を分泌型ガウシアルタンパク質の供給源として用いた。その結果は、界面活性剤によるルシフェラーゼ活性の阻害は分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型ガウシアルシフェラーゼの両方で起こることを示している(図17参照)。
【0170】
パートV:pH:
【実施例19】
【0171】
記載されているpHの溶解バッファを使用したこと以外は実施例9に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。EDTAは、記載のない場合、1mMであった。4つの実験を別々のグラフに示す(図18A、18B、18C、及び18D参照)。溶解時間は、A及びBでは40分、Cでは30分であり、Dは、溶解バッファを添加した30分後及び120分後のガウシアルシフェラーゼ活性について複製試料をアッセイした。これらのデータは、溶解バッファ中でのシグナル強度及びルシフェラーゼシグナルの経時的安定性の両方の観点から、より高いpHが有益であることを示している。高pHと高濃度EDTAの組合せが特に効果的であった。
【実施例20】
【0172】
不安定化された非分泌型ガウシアルシフェラーゼ又は非分泌型メトリディアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、溶解バッファ20μlで細胞を溶解した。溶解バッファは、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、5%のグリセロール、150mMのNaBr、及び記載されているpHの25mMのトリスを含むものであった。30分後、25mMのトリス(pH7.75)、2mMのアスコルビン酸塩;24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入することでルシフェラーゼアッセイを行った。その結果を、pH8.5で得られた発光強度の%で表した(図19参照)。
【0173】
このデータは、シグナル強度及びルシフェラーゼシグナルの経時的安定性の両方の観点から、非分泌型のガウシアルシフェラーゼ及びメトリディアルシフェラーゼの両方で、より高いpHの溶解バッファが有益であることを示している。対照的に、ホタルルシフェラーゼ及びレニラルシフェラーゼを用いて行った同様の実験は、これらの天然細胞内型ルシフェラーゼに対して、細胞溶解中の高pHによる有益な効果はないことを示唆していた(データ不掲載)。
【0174】
パートVl:酸化剤:
【実施例21】
【0175】
5mMのEDTAを用い、pH8.5で、実施例18に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。溶解バッファは更に記載されている濃度の還元型(red)及び酸化型(ox)のグルタチオンを含むものであった。複製試料を、溶解バッファを添加した20分後及び135分後のガウシアルシフェラーゼ活性についてアッセイした。これらのデータは、溶解バッファ中に酸化型グルタチオン、より好ましくは還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンとの混合物が存在すると、細胞溶解ステップ中にルシフェラーゼが最大の活性に到達する速さが速くなることを示している(図20参照)。
【実施例22】
【0176】
記載されている全グルタチオン量及び還元型:酸化型の比率で、実施例21に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。複製試料を、溶解バッファを添加した20分後又は60分後のガウシア活性についてアッセイした。これらのデータは、試験に用いた全ての濃度及び比率で、溶解バッファ中にグルタチオンが存在すると細胞溶解ステップにルシフェラーゼが最大の活性に到達する速さが速くなることを示している。より高濃度の還元型グルタチオンでは、60分後において幾分シグナルの低下が見られた(図21参照)。
【実施例23】
【0177】
非分泌型ガウシアルシフェラーゼ又は非分泌型メトリディアルシフェラーゼを一過性で発現するHeLa細胞を96穴プレートに蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、25mMのトリス(pH8.1)、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、0.1%のNP40、5%グリセロールを含み、グルタチオンを含まないか又は0.6mMの還元型グルタチオンと0.4mMの酸化型グルタチオンとの組合せを含む溶解バッファ(1ウェル当たり20μl)で細胞を溶解した。複製試料を、溶解バッファを添加した30分後のルシフェラーゼ活性について、25mMのトリス(pH7.75)、0.6mMの還元型グルタチオン、0.4mMの酸化型グルタチオン、1mMのEDTA、2mMのアスコルビン酸塩、24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入することでアッセイした。その結果をグルタチオン非存在下で同じルシフェラーゼについて得られた発光強度の%で表した(図22参照)。
【0178】
このデータは、試験した比率において、溶解バッファ及びアッセイバッファ中にグルタチオンが存在する場合も、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼ両方でシグナルが増大することを示している。
【実施例24】
【0179】
単一の濃度及び比率の添加剤(グルタチオン;1.2mM還元型、0.8mM酸化型)を溶解バッファ及び/又はアッセイバッファのいずれかに用いるか又はどちらにも用いないこと以外は実施例22に記載したようにルシフェラーゼアッセイを行った。2つの実験を別々のグラフに示す(図23A及び23B参照)。溶解バッファを添加した15分後又は60分後に複製試料のガウシアルシフェラーゼ活性をアッセイした。これらのデータは、アッセイバッファではなく溶解バッファ中にグルタチオンが存在すると、短い(15分)溶解期間の後に得られるシグナルが増大することを示している。
【実施例25】
【0180】
溶解バッファ及びアッセイバッファの両方でグルタチオンを用い、実施例23に記載したようにルシフェラーゼ活性をアッセイした。更に、溶解バッファは記載されている濃度の尿素を含んでいた。溶解バッファを添加した15分後又は60分後に複製試料のガウシアルシフェラーゼ活性をアッセイした。60分後のデータを15分後のシグナルに対する%で表した。全ての溶解バッファで、この時間の間にシグナルの増大が見られた。しかし、50乃至100mMの尿素を用いた場合にはこの増大はあまり顕著ではなく、このことから、これらの条件下ではより早く最大の活性が達成され得ることが示唆された(図24参照)。
【実施例26】
【0181】
不安定化・非分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。全ての試料で同じアッセイバッファを用いた。溶解バッファを添加した20分後又は120分後の複製試料のルシフェラーゼ活性をアッセイした。この溶解バッファは、5%のグリセロール、64μMのシュウ酸ナトリウム、0.1%のNP40、150mMのNaBrに加えて、25mMのトリス(pH8.1)、1mMのEDTAを含むか(v3)又は25mMのトリス(pH8.5)、5mMのEDTA、0.6mMの還元型グルタチオン、0.4mMの酸化型グルタチオン、75mMの尿素を含むもの(v6)であった。v3溶解バッファでは、溶解20分後に最大活性の約50%しか得られなかったのに対し、v6溶解バッファでは、20分以内に100%の活性が得られた(図25参照)。
【実施例27】
【0182】
不安定化・非分泌型メトリディアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、溶解バッファ20μlで細胞を溶解した。この溶解バッファは、5%グリセロール、63.4μMのシュウ酸ナトリウム、0.1%のNP40に加えて、記載されているpHの25mMのトリス、150mMの記載されている塩を含み、更に、記載のあるものについては1mMのEDTA又は0.6mMの還元型グルタチオン及び0.4mMの酸化型グルタチオン(GSH/GSSG)を含むものであった。溶解バッファを添加した30分後又は120分後の複製試料のルシフェラーゼ活性を、25mMのトリス(pH7.75)、2mMのアスコルビン酸塩、24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入することでアッセイした。その結果を、溶解30分後において得られた発光強度の%で表した(図26参照)。
【0183】
このデータは、NaClを唯一の添加剤として用いた場合、溶解の最初の30分以内では最大活性のほんの一部しか達成されないことを示している。この処置群では、30分乃至120分の間に1200%を超える増大が起こった。酸化還元バッファ(GSH/GSSG)又はキレータ(EDTA)を含む処置群は、溶解30分を超えた後の活性増大が小さいことから示されるように、かなり成績がよかった。それぞれの場合において、NaBrはNaClよりも成績がよく、これは臭化物と酸化還元バッファ又はキレータとを組み合わせることによる相加的利益を示している。30分乃至120分の間の活性増大がより少なかったことから、臭化物、酸化還元バッファ、キレータ、及び高pHの組合せによる利益が明確に見られる。
【0184】
総合的に、これらのデータは、本発明の複数の異なる成分を組み合わせることの累積的利益を示している。更にこのデータは、臭化物を添加すると、シグナル強度が向上するだけではなく(実施例6並びに図5A及び5B参照)、溶解時間も向上することを示している。
【0185】
パートVII:先行技術との比較:
【実施例28】
【0186】
非分泌型のガウシアルシフェラーゼ又はレニラルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、1ウェル当たり、GeneStream社製のv6溶解バッファ(実施例26同様)又はPromega社製の受動的溶解バッファ(passive lysis buffer;PLB)20μlで細胞を溶解した。25mMのトリス(pH7.75)、0.6mMの還元型グルタチオン、0.4mMの酸化型グルタチオン、1mMのEDTA、2mMのアスコルビン酸塩、24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入することでルシフェラーゼ活性をアッセイした(図27A参照)。同実験中、一部のウェルのルシフェラーゼ活性を細胞溶解せずに測定し、この測定は、培地を取り除き、新鮮な培地(RPMI)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のいずれかを20μL添加し、RPMI又はPBS中に24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを生細胞上に注入することで行った(図27B参照)。結果は1秒当たりのカウント数(CPS)で表す。
【0187】
図27Aの結果は、GeneStream社製v6(GSv6)バッファが、レニラルシフェラーゼとの使用では少なくともPromega社製の受動的溶解バッファ(PLB)と同じ程度に効果的であるが、非分泌型ガウシアルシフェラーゼとの使用ではPLBよりも優れている(10倍高いシグナル)ことを示している。図27Bに示されているデータは、レニラルシフェラーゼが生細胞で最も強いシグナルを与えることを示している。これらのデータを組み合わせると、ガウシアルシフェラーゼは細胞内で発現された際により活性の低い形態をとることが示される。
【実施例29】
【0188】
不安定化・非分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした(図28参照)。PA1=Promega社製デュアルルシフェラーゼアッセイキットをメーカーの取扱説明書に従って用いて行ったルシフェラーゼアッセイ(すなわち、受動的溶解バッファで溶解した細胞、「Stop&Glo」(レニラ)アッセイバッファを添加した後に測定された光の放出);PA2=ガウシアアッセイキット(NEB社製)を用いて行ったルシフェラーゼアッセイであり、NEB社製のアッセイキットには溶解バッファが含まれないため、受動的溶解バッファ(Promega社製)で溶解した細胞;GeneStream=本発明に従って溶解及びアッセイを行った細胞(溶解バッファ=0.1%のNP40、150mMのNaBr、5%のグリセロール、1mMのEDTA、pH8.1;アッセイバッファ=26μMのセレンテラジン、1mMのEDTA、pH8.1)。本発明の組成物を用いて得られたシグナル強度は、PA1の252倍、PA2の345倍高かった(図28)。
【実施例30】
【0189】
実施例29の方法を行い、今度は光の放射の動態を測定した。データは、先行技術の「グロー」バッファに比べて、本発明の主題の組成物がより安定なグローシグナル及びより高い感度を提供することを示している(図29A及び29B参照)。
【実施例31】
【0190】
不安定化された非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートに等量ずつ蒔き、一晩インキュベートした。培地を取り除き、溶解バッファ20μlで細胞を溶解した。溶解バッファを添加した20、30、40、60、90、又は120分後に複製試料のルシフェラーゼ活性をアッセイした。使用した溶解バッファには、GeneStream社製のv3及びv6(実施例26同様)、Promega社製の受動的溶解バッファ(PLB);及び25mMのTis(pH7.7)、1%のトリトンX100、10%のグリセロールを含む一般的な標準溶解バッファ(STD−LB)である。複製試料のルシフェラーゼ活性を、25mMのトリス(pH7.75)、1mMのEDTA、2mMのアスコルビン酸塩、0.66mMの還元型グルタチオン、0.4mMの酸化型グルタチオン、24μMのCzを含むアッセイバッファ60μlを注入することでアッセイした。結果は、v6溶解バッファを用いて得られた発光強度の%(図30Aの溶解120分におけるデータ参照)及び同溶解バッファで20分の時点で得られた発光強度の%(図30Bの全ての溶解時間におけるデータ参照)で表した。
【0191】
図30Aのデータは、先行技術と比べて、本発明の主題の組成物が、非分泌型ガウシアルシフェラーゼ及び非分泌型メトリディアルシフェラーゼの両方に対して、より高く、より安定なシグナル強度を提供することを示している。更に、図30Bのデータは、本発明の組成物を使用することで、先行技術の組成物と比べて溶解時間を短縮することができることを示している。
【0192】
パートVIII:本発明に基づく、ルシフェラーゼを用いた遺伝子レポータアッセイキット
【実施例32】
【0193】
ルシフェラーゼを用いた本発明に基づく遺伝子レポータアッセイキットは、96穴プレートの1ウェル当たり20μlの溶解バッファ及び60μlのアッセイバッファとなるように設計された2つのパーツで提供される。
【0194】
溶解バッファ:
0.1% NP40
150mM NaBr
5% グリセロール
5mM EDTA
25mM トリス pH8.5
63.4μM シュウ酸ナトリウム
0.6mM 還元型グルタチオン
0.4mM 酸化型グルタチオン
【0195】
アッセイバッファ:
23.6μM セレンテラジン
1mM EDTA
25mM トリス pH7.75
0.6mM 還元型グルタチオン
0.4mM 酸化型グルタチオン
2mM アスコルビン酸塩
75mM 尿素
【0196】
一般的方法:
改変された非分泌型ガウシアルシフェラーゼを発現するHeLa細胞を96穴プレートで培養し、培地を全て取り除いた後、溶解バッファ(20μl)で溶解し、Wallac Victor3ルミノメータ(Perkin Elmer社製)を用いて、アッセイバッファ(60μl)注入後のフラッシュ反応におけるルシフェラーゼ活性をアッセイする。
【0197】
当業者は、本明細書に記載した発明が、具体的に記載した以外の変更及び修正が可能であることを理解するであろう。本発明はそのような全ての変更及び修正を含むと理解されるべきである。本発明はまた、本明細書中で個々に又は集合的に言及又は記載した全てのステップ、構成、組成物、及び化合物、並びに任意の2つ以上の前記ステップ又は構成の組合せの全てを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のルシフェラーゼの量及び/又は活性の決定において使用するための試薬組成物であって、当該試薬組成物が、増強された発光シグナルの発生、ルシフェラーゼからの発光シグナルの減衰率の低下、及び/又は細胞溶解物中でのルシフェラーゼ活性の経時的安定性の向上を可能にすることを特徴とする試薬組成物。
【請求項2】
前記試薬組成物が、前記ルシフェラーゼ存在下で、活性コンホメーションへの前記ルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供することを特徴とする、請求項1に記載の試薬組成物。
【請求項3】
前記ルシフェラーゼが分泌型又は非分泌型であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ルシフェラーゼが天然の形態で分泌されるルシフェラーゼに由来することを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ルシフェラーゼが、天然の形態では分泌される、改変された形態のルシフェラーゼである非分泌型ルシフェラーゼであることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ルシフェラーゼが海洋起源であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ルシフェラーゼがセレンテラジンを基質として利用することを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記海洋起源のルシフェラーゼが、ガウシア属の一種、プレウロマンマ属の一種、メトリディア属の一種、シプリディナ属の一種、又はオプロフォラス属の一種に由来するものであるか、又はその変種若しくは誘導体であることを特徴とする請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
キレータ、臭化物アニオン、濃度が約1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せ、の1又はそれ以上を含み、及び/又は約8より高いpHを有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記キレータが2価金属のキレータであることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記2価金属のキレータが、EDTA、CDTA、及びEGTAから選択されることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記2価金属のキレータが、少なくとも約0.1mMの濃度で存在するEDTAであることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記EDTAが約4mM乃至約15mMの濃度で存在することを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記界面活性剤が非イオン界面活性剤であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
前記界面活性剤が、トリトンX100、NP101、又はNP40から選択されることを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記界面活性剤がNP40であることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せによってルシフェラーゼが酸化され、それによって前記ルシフェラーゼが活性コンホメーションをとることが促進されることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項18】
前記還元剤がチオール基を含むことを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンとの混合物を含むことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項20】
約8を超えるpHを有することを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項21】
前記pHが約8乃至約9であることを特徴とする請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記臭化物アニオンが、1又はそれ以上の臭化物塩の形態で提供されることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項23】
前記臭化物塩が、臭化ナトリウム、臭化カリウム、又は臭化ルビジウムから選択されることを特徴とする請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記臭化物アニオンが少なくとも約1mMの濃度で存在することを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記臭化物アニオンが約1mM乃至約500mMの濃度で存在することを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
試料中の組換えルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定するための試薬組成物であって、前記試薬組成物が1又はそれ以上のキレータを含み、前記組換えルシフェラーゼが、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種であることを特徴とする試薬組成物。
【請求項27】
前記キレータが2価金属のキレータであることを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記キレータが、EDTA、CDTA、及びEGTAから選択されることを特徴とする請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記2価金属のキレータが、少なくとも0.1mMの濃度で存在するEDTAであることを特徴とする請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記EDTAが、少なくとも約4mM乃至約15mMの濃度で存在することを特徴とする請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
臭化物アニオン、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを更に含み、及び/又は約8を超えるpHを有することを特徴とする請求項26乃至30のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項32】
前記ルシフェラーゼの基質を更に含むことを特徴とする請求項26乃至31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
試料中の組換えルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定するための試薬組成物であって、前記試薬組成物が臭化物アニオンを含み、前記組換えルシフェラーゼが、天然の形態では分泌されるルシフェラーゼであるか又はそれに由来するものであることを特徴とする試薬組成物。
【請求項34】
前記臭化物アニオンが、1又はそれ以上の臭化物塩の形態で提供されることを特徴とする請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記臭化物塩が、臭化ナトリウム、臭化カリウム、又は臭化ルビジウムから選択されることを特徴とする請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記臭化物アニオンが少なくとも約1mMの濃度で存在することを特徴とする請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記臭化物アニオンが約1mM乃至約500mMの濃度で存在することを特徴とする請求項35に記載の組成物。
【請求項38】
1又はそれ以上のキレータ、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを更に含み、及び/又は少なくとも約8のpHを有することを特徴とする請求項33乃至37のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項39】
前記ルシフェラーゼの基質を更に含むことを特徴とする請求項33乃至38のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項40】
細胞又は細胞試料中のルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定する方法であって、当該方法が、
(a)ルシフェラーゼを発現する細胞を提供するステップであって、前記ルシフェラーゼが主に又は完全に不活性な状態又はコンホメーションで存在するステップと;
(b)不活性な状態又はコンホメーションから活性な状態又はコンホメーションへと前記ルシフェラーゼを変換することができる有効量の試薬組成物と一緒に前記細胞をインキュベートするステップと;
(c)前記ルシフェラーゼ酵素の基質及び必要に応じて前記ルシフェラーゼの生物発光活性に必要なCoA、ATP、マグネシウム等の補因子を添加するステップと;
(d)活性型ルシフェラーゼにより発生した生物発光シグナルを検出するステップと;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項41】
不活性な状態又はコンホメーションから活性な状態又はコンホメーションへと前記ルシフェラーゼを変換するための組成物が、キレータ及び/又は活性コンホメーションへの前記ルシフェラーゼの変換に適した酸化還元環境を提供することを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記酸化還元環境が、ルシフェラーゼの酸化に適しているか又はルシフェラーゼの酸化を可能にするものであることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記試薬組成物が、1又はそれ以上の臭化物アニオン、濃度が1%未満の非イオン界面活性剤又は両性イオン界面活性剤、少なくとも1つの酸化剤又は酸化剤と還元剤との組合せを含み、約8を超えるpHを有することを特徴とする請求項40又は41に記載の方法。
【請求項44】
前記試薬組成物が、請求項1乃至39のいずれか1項に記載の試薬組成物であることを特徴とする請求項40乃至43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記ルシフェラーゼが、天然の形態では分泌されるルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼであることを特徴とする請求項40乃至44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
細胞又は細胞試料中の組換えルシフェラーゼの量及び/又は活性を決定する方法であって、当該方法が、
(a)1又はそれ以上の細胞を溶解するステップと;
(b)前記細胞溶解物を、キレータを含む有効量の試薬組成物と接触させるステップと;
(c)ルシフェラーゼ酵素の基質及び必要に応じてルシフェラーゼの生物発光活性に必要なCoA、ATP、マグネシウム等の補因子を添加するステップと;
(d)前記試料中の生物発光を検出するステップと;
を含み、前記組換えルシフェラーゼが、天然の形態では分泌型のルシフェラーゼの非分泌型変種であることを特徴とする方法。
【請求項47】
ステップ(a)及び(b)が単一のステップに組み合わせられるように、前記試薬組成物が界面活性剤を含んでいることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
ステップ(b)及び(c)が単一のステップに組み合わせられるように、前記試薬組成物が前記ルシフェラーゼの基質を含んでいることを特徴とする請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
前記試薬組成物が、請求項1乃至39のいずれか1項に記載の試薬組成物であることを特徴とする請求項46乃至48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記方法がレポータ遺伝子アッセイの一部であることを特徴とする請求項40乃至49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルを増大させる方法であって、当該方法が、好適な酸化還元環境等の、活性な状態又はコンホメーションへのルシフェラーゼの変換を可能にするか又は促進する環境を提供する有効量の試薬組成物と前記ルシフェラーゼを接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項52】
ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルを増大させる方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを有効量の1又はそれ以上の2価金属のキレータと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項53】
ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルを増大させる方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを有効量の臭化物アニオンと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項54】
ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルの減衰率を低下させる方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを有効量の試薬組成物と接触させるステップを含み、前記試薬組成物が、好適な酸化還元環境等の、活性な状態又はコンホメーションへの前記ルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供することを特徴とする方法。
【請求項55】
ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルの減衰率を低下させる方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを1又はそれ以上の2価金属のキレータと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項56】
ルシフェラーゼ酵素により発生する生物発光シグナルの減衰率を低下させる方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを有効量の臭化物アニオンと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項57】
最適又は安定なルシフェラーゼ活性に達するまでに必要な時間を短縮する方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを有効量の試薬組成物と接触させるステップを含み、前記試薬組成物が、好適な酸化還元環境等の、活性な状態又はコンホメーションへの前記ルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供することを特徴とする方法。
【請求項58】
最適又は安定なルシフェラーゼ活性に達するまでに必要な時間を短縮する方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを1又はそれ以上の2価金属のキレータと接触させるステップを含む方法を含むことを特徴とする方法。
【請求項59】
最適又は安定なルシフェラーゼ活性に達するまでに必要な時間を短縮する方法であって、当該方法が前記ルシフェラーゼを有効量の臭化物アニオンと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項60】
最適又は安定なルシフェラーゼ活性に達までに必要な時間の短縮が、溶解時間及び/又はアッセイ時間の短縮、並びに酵素活性又は酵素ポテンシャルの経時的安定性の向上の結果であるか、あるいはそれに関係することを特徴とする請求項57乃至59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記ルシフェラーゼが、天然の形態では分泌であるルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼであることを特徴とする請求項51乃至60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
ルシフェラーゼの量及び/又は活性のアッセイに使用するためのキットであって、当該キットが少なくとも1つの試薬組成物を含み、活性コンホメーションへの前記ルシフェラーゼの変換を促進するのに適した環境を提供することを特徴とするキット。
【請求項63】
前記試薬組成物が、請求項1乃至39のいずれか1項に記載の組成物であることを特徴とする請求項62に記載のキット。
【請求項64】
臭化物イオン及びルシフェラーゼの基質を含むことを特徴とする、ルシフェラーゼの量及び/又は活性のアッセイに使用するためのキット。
【請求項65】
前記ルシフェラーゼが天然の形態では分泌型である、ルシフェラーゼの非分泌型変種である組換えルシフェラーゼであることを特徴とする請求項62乃至64のいずれか1項に記載のキット。
【請求項66】
前記組成物が、前記ルシフェラーゼを発現する細胞を溶解するためのバッファであることを特徴とする請求項1乃至39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項67】
前記溶解バッファが、グリセロール及び/又はプロテアーゼ阻害剤を更に含み、前記バッファ剤がトリス、ヘペス、及びリン酸バッファから選択されることを特徴とする請求項66に記載の組成物。
【請求項68】
前記試薬組成物が、前記ルシフェラーゼを発現する細胞を溶解するためのバッファであることを特徴とする請求項40乃至61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
前記組成物が、前記ルシフェラーゼの基質を含む細胞溶解/ルシフェラーゼアッセイ複合バッファであることを特徴とする請求項1乃至39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項70】
前記組成物が、前記ルシフェラーゼの基質を含む細胞溶解/ルシフェラーゼアッセイ複合バッファであることを特徴とする請求項40乃至61のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公表番号】特表2010−507372(P2010−507372A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533610(P2009−533610)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001615
【国際公開番号】WO2008/049160
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(509115306)ジーン ストリーム ピーティーワイ エルティーディ (2)
【Fターム(参考)】