説明

ルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解方法

【課題】物理的、または化学的な方式といった前処理を一切することなく、直接電気化学溶解を行うことができるルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解方法を提供する。
【解決手段】ルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解方法であって、まず、硫酸を50〜70wt%含む電解質水溶液を準備し、前記電解質水溶液中にルテニウム−コバルト系合金を電気溶解させることで、前記電解質水溶液ならびに溶解後のルテニウムおよびコバルトを含む製品液体を作製することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学溶解方法に関し、特にルテニウム−コバルト系合金を電気化学で溶解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、貴金属は工業及び科学技術分野において広く応用されており、そのうち白金族金属は酸に溶けず、ルテニウム(ruthenium)、ロジウム(rhodium)およびイリジウム(iridium)は王水にも溶けにくい(非特許文献1)性質を持っている。
【0003】
各種溶質または塩類を含む電解質で陽極溶解(Anodic dissolution)、つまり電気化学溶解を行うのは、ルテニウム(ruthenium)、銀(silver)、金(gold)、イリジウム(iridium)などの貴金属の溶解に最も多用される。しかしながら、貴金属の安定性により、酸性溶液処理を組み合わせても電気化学溶解は依然としてかなり困難である。ただし電気化学溶解の効率は高くないとしても、その他の化学方法と比べて、やはり効果に優れている。
【0004】
現在、ルテニウム−コバルト系合金は、垂直型磁気記録媒体の中間層の重要な薄膜材料として用いられるとともに、水素エネルギー産業中における水性ガスシフト反応にて水素を生成する過程における重要な触媒材料とすることもできる。ルテニウム−コバルト系合金は特殊な用途があり、しかも重要な貴金属であるルテニウムとリチウム電池中における重要なルテニウムを含むため、その回収方法は現在発展が望まれる技術となっている。
【0005】
酸性、アルカリ性溶解処理は、廃棄金属から貴金属を抽出する電気化学溶解方法と組み合わせて多用される方法であり、そして一般的には貴金属の溶解効率を向上させる方法として、最も多用されるのは廃棄金属材料を小さくすることで反応面積を増やして溶解を促進するというものである。例えば、特許文献1には、Kenworthyらが、合金破片S816(コバルト系合金であり、コバルトの含有量は40%以上)に、7×10-5Hz下(交流電流電圧)で硫酸を腐食性電解液として電気化学分解を行うものを開示している。
【0006】
また、特許文献2には、例えばニッケル(Ni)、コバルト(Co)および/またはクロム(Cr)を主な合金成分とした超耐熱性合金粉末を分解すべき材料とするもの開示しており、このうち例えばHf、Ta、Nb、Mo、W、Reおよび/または白金族金属といった貴金属成分を含んでおり、水を含有する無機酸、特に塩酸を電解質として使用するのが好ましい。
【0007】
Mahmoundらが、濃硫酸溶液が沸点温度以上で塩化ナトリウム(NaCl)電解質が存在する中で、自動車のナノ触媒材料中における白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属を浸出させるものを開示している(非特許文献2)。
【0008】
特許文献3にも、硫酸とハロゲン塩類(halogen salt)を高温焼焙(roasting)方式で自動車のナノ触媒材料を抽出するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】台湾特許公開TW200303374号明細書
【特許文献2】米国特許公告US7144493号明細書
【特許文献3】米国特許公告US7067090号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】金属資源再利用技術の発展概況の分析、金工産業透析p36-37
【非特許文献2】M.H.H. Mahmound, “Leaching Platinum-Group Metals in a Sulfuric Acid/Chloride Solution” Journal of the Minerals, Metals and Materials Society 2003, April, 37-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ルテニウム−コバルト金属を主な成分とする合金地金は通常硬度が極めて高いため、一般的な工業界においてこのような大型の超硬度合金バルク材を回収する場合、バルク材をまず粉砕またはグラインド処理して体積の小さなブロック材または粉末にする形式が必要となるが、このような前処理工程では回収過程が煩雑でコストが嵩んでしまう。
【0012】
また、硬度が極めて高いルテニウム−コバルト系金属については、サイズが小さくなると、回収設備のコストおよび複雑度が大幅に増大してしまう。しかもルテニウム−コバルト系合金を小さなブロック材として処理することになると、切削する機械設備の耐用性が落ちてしまうので、相対的に頻繁に保守が必要となる。
【0013】
しかしながら、上記した従来技術には、そのような電解液組成物、濃度比率および電流密度の範囲を用いることで、ルテニウム−コバルト系合金材料を直に電気化学溶解する方法は教示も、提案も一切なされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明で開示する方法は、ルテニウム−コバルト系合金を電気化学溶解する方法を提供することができる。
【0015】
一実施例において、本発明は、まず、硫酸を50〜70wt%含む電解質水溶液を準備し、前記電解質水溶液中にルテニウム−コバルト系合金を電気溶解させることで、前記電解質水溶液ならびに溶解後のルテニウムおよびコバルトを含む製品液体(product liquor)を作製する、ことを含む。
【0016】
本発明の実施例によれば、前記電解質水溶液がアルカリ金属塩類またはハロゲン塩類をまた含む。
【0017】
本発明の他の実施例によれば、前記アルカリ金属塩類が塩化ナトリウムまたは塩化カリウムである。
【0018】
本発明のさらに他の実施例によれば、前記電解質水溶液が塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを2.5〜5wt%含む。
【0019】
本発明のよりさらに他の実施例によれば、前記ルテニウム−コバルト系合金のコバルト含有量が20at%〜70at%(atom concentration)である。
【0020】
本発明のよりまたさらに他の実施例によれば、前記ルテニウム−コバルト系合金のコバルト含有量が30at%〜60at%(atom concentration)である。
【発明の効果】
【0021】
従来の貴金属の電気化学回収方法に比べて、本発明に開示している実施例はルテニウム−コバルト系合金を溶解するにおいてかなり優れている。これら長所にはバルク材(bulk)を直接、例えば使用済みターゲット(spent target)で電気化学溶解することで、予め物理的(例えば粉砕、グラインドまたは切削)または化学的処理をしておく必要がなくなるというものが含まれる。当然のこと、本発明の実施例に開示する方法は小型の砕片、ミリレベルおよびナノレベル粉末状のルテニウム−コバルト系合金材料にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明はルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解方法を開示するものであって、しかもルテニウム−コバルト系合金は例えば物理的、または化学的な方式といった前処理を一切することなく、直接電気化学溶解の方法を行うことができる。
【0023】
一実施例において、ルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解を開示している。まず、硫酸を50〜70wt%含む電解質水溶液を準備し、前記電解質水溶液中にルテニウム−コバルト系合金を電気溶解させることで、前記電解質水溶液ならびに溶解後のルテニウムおよびコバルトを含む製品液体(product liquor)を作製する。
【0024】
本発明に開示する実施例にて使用される電解質水溶液がもし硫酸を75wt%以上含む場合、例えばアルカリ金属塩類またはハロゲン塩類といった電解質添加物は電解質水溶液中に溶けない。電解質水溶液に含まれる硫酸が50wt%以下の時、陰極に金属が堆積してしまい、電解効率に影響し後続の回収において困難が生じてしまう。
【0025】
本発明で採用する電解質水溶液の電解質添加物は、アルカリ金属塩類またはハロゲン塩類であって、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを採用することができるが、これに限定されない。このうち、電解質水溶液は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを1wt%〜10wt%含んでいる。一実施例において、電解質水溶液は塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを2.5〜5wt%を含んでいる。
【0026】
本発明の実施例では、ルテニウム−コバルト系合金を電気化学溶解するとき、バルク材(bulk)を直接、例えば使用済みターゲット(spent target)で電気化学溶解することで、予め物理的(例えば粉砕、グラインドまたは切削)または化学的処理などの前処理を行う必要が一切なくなる。当然のこと、本発明の実施例に開示する方法は小型の砕片、ミリレベルおよびナノレベル粉末状のルテニウム−コバルト系合金材料にも適用できる。
【0027】
ここで、特に、前記ルテニウム−コバルト系合金のコバルト含有量が20at%〜70at%である。しかし他の実施例において、前記ルテニウム−コバルト系合金のコバルト含有量は30at%〜60at%である。
【0028】
他の実施例において、前記ルテニウム−コバルト系合金は、例えば白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、クロム(Cr)といった複数の元素または貴金属をさらに含む。
【0029】
また、本発明に開示している実施例では、直流電流で電気化学溶解を行うことでルテニウム−コバルト系合金を回収する。交流電流で電気化学溶解を行うものと比べて、直流電流で電気化学溶解を行うのに必要な設備は交流電流にて必要とする設備よりも簡素化できる。しかしながら、その他実施例では、交流電流で電気化学溶解を行ってもよく、別に設備が必要となるものの、交流電流で電気化学溶解を行うことで、ルテニウム−コバルト系合金の表面に生じうる鈍化層を除去するのに一助となる。
【0030】
(基本的な手順)
下記する実施例において、電解槽と、ルテニウム−コバルト系合金と、電解質水溶液とが含まれる。このうち、ルテニウム−コバルト系合金はコバルト系合金のバルク材(bulk)またはルテニウム−コバルト系合金の屑材を用いている。電解槽は酸性・アルカリ性の耐腐食性であるのが好ましい。電解質水溶液では、電解質が異なれば電解効率にも影響するものであり、アルカリ金属塩類またはハロゲン塩類を添加することで電解効率を効果的に向上することができ、例えば、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを使用すれば、電気化学溶解の処理量を向上することができる。
【0031】
以下の実施例では、陽極には、例えばチタンバスケット、チタンメッシュ、チタンクリップといったチタン製器材を使用し、チタンプレートを陰極とし、そしてルテニウム−コバルト系合金はスパッタリング後のルテニウム−コバルト系合金ターゲット(spent target)またはルテニウム−コバルト系合金ターゲットの屑材を選択し、ターゲットは陽極に配置されて、電気化学溶解反応が行われる。
【0032】
以下の実施例では、硫酸水溶液中の硫酸濃度の差異に応じて、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの重量百分率を10以下に調整している。従来技術では、飽和した次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)および塩化ナトリウム(NaCl)溶液は純ルテニウム金属に対して中程度の腐食効果(moderate attack)を持っているが、もし塩素酸ナトリウム (NaClO)または過塩素酸ナトリウム(NaClO)を硫酸溶液に加えると、プロセス反応が激しくなり、温度が急上昇しやすくなることが言及されている。
【0033】
以下の実施例において、指定する場合を除き、直流電流で電気化学溶解を行い、約6Vの電圧を使用するものとする。
【0034】
以下の実施例においては、異なる電解液組成および濃度、異なる電解質およびルテニウム−コバルト含有量で試験を行い、本発明に開示する電気化学溶解方法を検証した。
【0035】
実施例1
電解質水溶液:硫酸を75wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0036】
実施例2
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0037】
本実施例2の実験作業は実施例1と同じであるが、その相違点は電解質水溶液中における硫酸の含有量が75wt%ではなく、50wt%であるというところのみである。
【0038】
実施例3
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を2.5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0039】
本実施例3の実験作業は実施例2と同じであるが、その相違点は電解質水溶液中における塩化ナトリウムの含有量が5wt%ではなく、2.5wt%であるというところのみである。
【0040】
実施例4
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化カリウム(KCl)を2.5wt%含む。
前記硫酸および塩化カリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0041】
本実施例4の実験作業は実施例3と同じであるが、その相違点は電解質水溶液には塩化ナトリウムは含まれておらず、塩化カリウムが含まれているというところのみである。
【0042】
実施例5
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約30gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が25at%、コバルトの含有量が60at%、そして二酸化チタンの全容量が15at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0043】
本実施例5の実験作業は実施例3と同じであるが、その相違点は電解質水溶液中における塩化ナトリウムの含有量が5wt%であり、合金ターゲットが30gであり、しかも合金ターゲット中におけるルテニウムの含有量が25at%、コバルトの含有量が60at%、そして二酸化チタンの全容量が15at%であるというところのみである。
【0044】
比較実施例1
電解質水溶液:硫酸を40wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0045】
本比較実施例1の実験作業は実施例1と同じであるが、その相違点は電解質水溶液中における硫酸の含有量が75wt%ではなく、40wt%であるというところのみである。
【0046】
比較実施例2
電解質水溶液:硫酸を30wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0047】
本比較実施例2の実験作業は実施例1と同じであるが、その相違点は電解質水溶液中における硫酸の含有量が75wt%ではなく、30wt%であるというところのみである。
【0048】
比較実施例3
電解質水溶液:硫酸を20wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0049】
本比較実施例2の実験作業は実施例1と同じであるが、その相違点は電解質水溶液中における硫酸の含有量が75wt%ではなく、20wt%であるというところのみである。
【0050】
上記実施例1ないし5および比較実施例1ないし3の電解効率および電解溶解処理量の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

硫酸および塩類濃度のルテニウム−コバルト系合金ターゲットの電解効率および処理量への影響
【0052】
表1の結果によれば、実施例1および実施例2の電解効率および処理量は概ね同じであるので、同じ条件において、硫酸含有量が50wt%〜75wt%のとき、ルテニウム−コバルト系合金に対する電解効率および処理量には大きな差はないはずであると推測できる。そして実施例2および実施例3に関しては、その相違点は塩化ナトリウムの濃度が異なるところであるが、実施例3の電解効率および処理量は明らかに増加しており、同様な条件では、2.5wt%の塩化ナトリウムを用いたときの電解効率および処理量は5wt%の塩化ナトリウムを用いたときよりも優れていることが示されている。実施例3と実施例4との相違点は添加されるアルカリ金属塩類が異なるところのみであり、塩化ナトリウムを添加したときの電解効率および処理量は、塩化カリウムを添加した実施例よりも高いのが顕著となり、同様な条件では、ルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解においては、塩化ナトリウムがより好ましい電解質であることが示されている。同時に実施例1および比較実施例1ないし3を参照すると、比較実施例1ないし3と実施例1との相違点は硫酸の重量百分率濃度が異なっているところのみであって、比較実施例1ないし3の硫酸の重量百分率濃度はいずれも50wt%未満であるが、電解効率および処理量は実施例1よりも遥かに低い。これは硫酸含有量が50wt%未満のとき、陰極に金属が堆積する現象が生じて、電解効率に影響を及ぼし、後続の回収にて困難をもたらすからである。硫酸含有量が50wt%よりも高いとき、電解効率はいずれも60%以上に達する。
【0053】
特筆すべきは、硫酸含有量が75wt%よりも高い電解質水溶液を使用するときには、例えば塩化ナトリウムまたは塩化カリウムといったアルカリ金属塩類またはハロゲン塩類は電解質水溶液に溶けずに電解効率への影響をもたらすということである。
【0054】
実施例6
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を2.5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約1203gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が35at%、コバルトの含有量が65at%)(φ:160mm、t:5mm/枚)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を33時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0055】
本実施例6の実験作業は実施例2と同じであるが、その相違点は使用する合金ターゲットが20gではなく1203gであり、合金ターゲットのコバルト含有量が50at%ではなく65at%であり、電解工程の時間が4時間ではなく33時間であるというところのみである。
【0056】
実施例7
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を2.5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、二枚の総重量が約3213gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が65at%、コバルトの含有量が35at%)(φ:160mm、t:5mm/枚)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を65時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0057】
本実施例7の実験作業は実施例2と同じであるが、その相違点は使用する合金ターゲットが20gではなく3213gであり、合金ターゲットのコバルト含有量が50at%ではなく35at%であり、電解工程の時間が4時間ではなく20時間であるというところのみである。
【0058】
実施例8
電解質水溶液:硫酸を50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)を2.5wt%含む。
前記硫酸および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約1687gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が80at%、コバルトの含有量が20at%)(φ:160mm、t:5mm/枚)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を24時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0059】
本実施例8の実験作業は実施例2と同じであるが、その相違点は使用する合金ターゲットが20gではなく1687gであり、合金ターゲットのコバルト含有量が50at%ではなく20at%であり、電解工程の時間が4時間ではなく24時間であるというところのみである。
【0060】
上記実施例6ないし8の電解効率および電解溶解処理量の結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

大型のルテニウム−コバルト系合金ターゲットの電解効率および処理量
【0062】
表2の結果によれば、実施例6ないし8の電解効率はいずれも60%以上に達しており、そして処理量も30g/h以上に達しており、ましてや実施例6および7に至っては処理量は50g/h近くにまでなっている。したがって、大型のルテニウム−コバルト系合金ターゲットであったとしても、本発明の電気化学溶解を使用することで、電解効率は少なくとも60%以上に達することが可能となる。
【0063】
比較実施例4
電解質水溶液:水、3Mの水酸化ナトリウムを(NaOH)を含む。
前記水および水酸化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0064】
本比較実施例4の実験作業は実施例2と同じであるが、その相違点は電解質水溶液は硫酸ではなく、水を含み、および電解質水溶液は塩化ナトリウムではなく水酸化ナトリウムを含むというところのみである。
【0065】
比較実施例5
電解質水溶液:水、3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)および無水硫酸ナトリウム(NaSO)を0.5〜1.5wt%含む。
前記水、水酸化ナトリウムおよび無水硫酸ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0066】
本比較実施例5の実験作業は比較実施例4と同じであるが、その相違点は3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を含む水溶液を使用するのではなく、3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)および無水硫酸ナトリウム(NaSO)を0.5〜1.5wt%含むというところのみである。
【0067】
比較実施例6
電解質水溶液:水、塩酸(HCl)を32wt%含む。
前記水、塩酸を含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0068】
本比較実施例6の実験作業は比較実施例4と同じであるが、その相違点は3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を含む水溶液を使用するのではなく、塩酸を32wt%含むというところのみである。
【0069】
比較実施例7
電解質水溶液:硫酸を98wt%含む。
前記硫酸を98wt%含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0070】
本比較実施例7の実験作業は比較実施例4と同じであるが、その相違点は3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を含む水溶液を使用するのではなく、硫酸を98wt%含むというところのみである。
【0071】
比較実施例8
電解質水溶液:水、塩化ナトリウムを(NaCl)5wt%を含む。
前記水および塩化ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0072】
本比較実施例8の実験作業は実施例4と同じであるが、その相違点は3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を含む水溶液を使用するのではなく、塩化ナトリウムを5wt%含むというところのみである。
【0073】
比較実施例9
電解質水溶液:硫酸を98wt%、過硫酸ナトリウム(Na)を1〜5wt%含む。
前記硫酸および過硫酸ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0074】
本比較実施例9の実験作業は実施例7と同じであるが、その相違点は過硫酸ナトリウム(Na)を1〜5wt%含むというところのみである。
【0075】
比較実施例10
電解質水溶液:硫酸を98wt%、過塩素酸ナトリウム(NaClO)を1〜3wt%含む。
前記硫酸および過塩素酸ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0076】
本比較実施例10の実験作業は実施例9と同じであるが、その相違点は過硫酸ナトリウム(Na)を1〜5wt%含むものを使用するのではなく、過塩素酸ナトリウム(NaClO)を1〜3wt%含むというところのみである。
【0077】
比較実施例11
電解質水溶液:硫酸を98wt%、塩素酸ナトリウム (NaClO)を1〜4wt%含む。
前記硫酸および塩素酸ナトリウムを含む電解質水溶液を電解槽中に準備し、単一の総重量が約20gの合金ターゲット(ルテニウムの含有量が50at%、コバルトの含有量が50at%)を電解槽の陽極端に配置して、電解工程を4時間行い、製品液体を収集して、その電解効率および電解溶解処理量を測定した。
【0078】
本比較実施例11の実験作業は実施例11と同じであるが、その相違点は過塩素酸ナトリウム(NaClO)を1〜3wt%含むものを使用するのではなく、塩素酸ナトリウム (NaClO)を1〜4wt%含むというところのみである。
【0079】
【表3】

電解質水溶液の組成成分のルテニウム−コバルト系合金の電解効率および処理量への影響
【0080】
表3の結果によれば、比較実施例4および5の結果から分かるように、水およびアルカリ性添加物を電解液としてルテニウム−コバルト系合金ターゲットの電気化学溶解を行うとき、その電解効率および処理量はいずれも0となる。これはアルカリ性の電解溶液を準備し、水酸化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムを電解質添加物とすると、その電解効率は極めて悪くなるためである。続いて表3を参照する。この比較実施例6の結果において、確かに酸性電解質水溶液を用いているものの、塩酸水溶液を選択しており、このときその電解効率はやはり0のままである。比較実施例7および8の結果については、個別に硫酸および塩化ナトリウムの電解質水溶液を使用すると、ルテニウム−コバルト系合金を電気化学溶解しても、電解効率は高くなく、わずかに27%および7%の電解効率に達するに過ぎないということが分かる。そして比較実施例9ないし11において、いずれもルテニウム−コバルト系合金を電気化学溶解することができるが、使用される電解質添加物である過塩素酸ナトリウムおよび過硫酸ナトリウムはいずれも爆発性を持っているので、安全設備を追加するコストが嵩み、周囲の人員への危険性が増してしまうのは必至である。
【0081】
本発明では実施例を上記のように開示したが、これは本発明の保護範囲を限定するためのものではなく、当該分野に習熟する当業者であれば、本発明の技術的思想および範囲を逸脱することなく、各種変更および付加を行うことができるので、本発明の保護範囲は特許請求の範囲により限定されるものを基準とすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム−コバルト系合金の電気化学溶解(dissolution)方法であって、
硫酸を50〜70wt%含む電解質水溶液(aqueous electrolyte solution)を準備する工程と、
前記電解質水溶液中に前記ルテニウム−コバルト系合金を電気溶解させることで、前記電解質水溶液ならびに溶解後のルテニウムおよびコバルトを含む製品液体(product liquor)を作製する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記電解質水溶液がアルカリ金属塩類またはハロゲン塩類(halide)を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩類が塩化ナトリウム(NaCl)または塩化カリウム(KCl)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電解質水溶液が塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを1wt%〜10wt%含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質水溶液が塩化ナトリウム(NaCl)または塩化カリウム(KCl)を2.5〜5wt%含む請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ルテニウム−コバルト系合金は電気溶解前に物理的または化学的方式の処理を行わない請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記物理的方式が粉砕、グラインドまたは切削である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ルテニウム−コバルト系合金のコバルト含有量が20at%〜70at%(atom concentration)である請求項1の方法。
【請求項9】
前記ルテニウム−コバルト系合金のコバルト含有量が30at%〜60at%である請求項1の方法。
【請求項10】
前記ルテニウム−コバルト系合金が、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、クロム(Cr)からなる群から選ばれた一種類以上の金属をさらに含む請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2011−225963(P2011−225963A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127791(P2010−127791)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(509176178)光洋応用材料科技股▲ふん▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】