説明

ルーフモールの排水構造

【課題】ドアを開けているときに、ルーフパネルを車幅方向に伝わってきた水が車室内に入ることを防止できる見栄えの良いルーフモールの排水構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるルーフモール100の排水構造は、車両のルーフパネル101とサイドボディ102との結合部103に沿って形成される溝104に配置され、結合部103を被覆するルーフモール100の排水構造において、車両前後方向に延在し、ルーフパネル101に対向する側の前端部分111が切り欠かれた切欠き部112を有するモール110と、モール110の前端に接続され、モール110の切欠き部112に嵌る延長部122を有し、モール110を溝104に固定する固定部材120と、を備え、固定部材120の延長部122は、ルーフパネル101との間に空隙130を形成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフパネルとサイドボディとの結合部を被覆するルーフモールの排水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ルーフモールは、ルーフパネルとサイドボディとの結合部に沿って形成される溝に配置されていて、モールと、モールを溝に固定する固定部材とを備えている。モールは、車両前後方向に延在していて、ルーフパネルとサイドボディとの結合部の溶接跡を被覆する装飾の役割を果たしている。
【0003】
さらに近年では、モールを単なる装飾としてではなく、ドアを開けているときに、ルーフパネルを車幅方向に伝わってきた雨等の水が車室内に入ることを防止する構成としたルーフモールが知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、車幅方向に沿ったモールの断面を、ルーフパネル側の溝の壁面より上方となるように突出した突出部を有する形状としたルーフモールが開示されている。このルーフモールでは、ルーフパネル上に溜まった水がサイドボディ側に流れると、モールの突出部で受け止められ、車両前後方向に流れるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、車幅方向に沿ったモールの断面を、ルーフパネル側の溝の壁面の上縁との間で空隙を形成する形状としたルーフモールが開示されている。このルーフモールでは、ルーフパネル上に溜まった水がサイドボディ側に流れると、空隙に水が導入されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−109600号公報
【特許文献2】特開2003−127797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載のルーフモールでは、モールのルーフパネルに対向する側が、車両前後方向に全体に亘って浮き上がっていて、見栄えが悪くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、ドアを開けているときに、ルーフパネルを車幅方向に伝わってきた水が車室内に入ることを防止できる見栄えの良いルーフモールの排水構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるルーフモールの排水構造の代表的な構成は、車両のルーフパネルとサイドボディとの結合部に沿って形成される溝に配置され、結合部を被覆するルーフモールの排水構造において、車両前後方向に延在し、ルーフパネルに対向する側の前端部分が切り欠かれた切欠き部を有するモールと、モールの前端に接続され、モールの切欠き部に嵌る延長部を有し、モールを溝に固定する固定部材と、を備え、固定部材の延長部は、ルーフパネルとの間に空隙を形成していることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、モールの前端に接続された固定部材の延長部が、モールの前端部分の切欠き部に嵌っているので、延長部とルーフパネルとの間に形成される空隙は、車両前後方向に沿った切欠き部の長さ分だけ形成される。このため、切欠き部を除く、モールのルーフパネルに対向する側は、車両前後方向に全体に亘って浮き上がっていず、必要最小限の部分のみが浮き上がっている。したがって、見栄えが大幅に改善されている。また、ルーフパネルを車幅方向に伝わってきた水は、空隙からモール内部に導入され、さらに車両前方に案内されるので、ドアを開けているときに、水が車室内に入ることを防止できる。
【0011】
また、ルーフパネルを車幅方向に伝わり、モール前端部分以外の空隙が形成されていない部分に流れてきた雨水も、車室内に入ることはない。かかる雨水はモール内部には導入されないものの、モールに沿って流れ、前端部分の空隙まで案内されるか、あるいは車両後方に向かって流れるためである。
【0012】
固定部材は、ルーフパネルの前部に形成された段差部からウインドシールド近傍まで延在している。これにより、空隙から内部に導入された水が、ウインドシールドまで案内され易くなり、ドアを開けているときに、水が車室内に入ることを防止できる。
【0013】
モールの断面は、溝の両壁面の上縁間に差し渡される第1の脚部と、溝の両壁面にそれぞれ当接する第2の脚部と、第1および第2の脚部の中央同士を接続する接続部とを有する、略H形状である。これにより、第2の脚部が溝の両壁面にそれぞれ当接するので、モールを溝に安定して配置可能である。また、第1の脚部は、切欠き部を除いて、溝の両壁面の上縁間に差し渡されるので、モールが車両前後方向に亘って浮き上がらず、見栄えが良い。
【0014】
モールは、切欠き部を除き、押出成形可能な一定の断面形状を有し、固定部材は、射出成形可能な部品である。これにより、モールを押出成形した後に、ルーフパネルに対向する側の前端部分を切り欠いて切欠き部を形成すればよく、加工が容易である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドアを開けているときに、ルーフパネルを車幅方向に伝わってきた水が車室内に入ることを防止できる見栄えの良いルーフモールの排水構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態におけるルーフモールの排水構造を適用する車両の一部を示す図である。
【図2】図1および図4(b)のA−A断面図である。
【図3】図2のルーフモールの組立てを説明する模式図である。
【図4】図3のルーフモールの部品構造を説明する模式図である。
【図5】図4のルーフモールの排水構造の動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態におけるルーフモールの排水構造を適用する車両の一部を示す図である。図1に示す車両は、運転席側および助手席側のドアを取り除き、車室内が見える状態で示されている。以下では、運転席側に配置されたルーフモール100のみを説明するが、助手席側には、車両の中心線を基準にしてルーフモール100と左右対称な構造を有する他のルーフモールが配置されている。
【0019】
ルーフモール100は、車両前後方向に延在する部品であり、車幅方向の内方に位置するルーフパネル101と車幅方向の外方に位置するサイドボディ102との結合部103に沿って形成される溝104(図2参照)に配置される。溝104に配置されたルーフモール100は、結合部103の溶接跡を被覆することで、装飾としての役割も果たしている。
【0020】
ルーフパネル101は、車幅方向に沿って中央部よりも左右の端部が下がるような曲率を有する形状となっている。また、ルーフパネル101の車両前方の端部には、盛り上がった段差部105が形成されている。なお、段差部105は、サイドボディ102まで延在している。一般に、このような車両では、雨天時または雨上がり直後に以下に示す現象が生じる場合がある。
【0021】
すなわち、図1に示すようにルーフパネル101に多数の雨水の粒106が溜まった状態で、運転者がドアを開き、例えば車室内に乗り込む際に体重をかけると、ルーフパネル101に溜まった雨水の粒106が図中矢印で示すように車両前方に流れる。車両前方に流れた雨水の粒106は、段差部105にぶつかって成長し、さらに段差部105に沿って車幅方向に流れて、図中点線で囲んだ領域に集まる。そして、成長した水滴が、ルーフパネル101とサイドボディ102との段差を乗り越え、図中破線の矢印に示すようにフロントピラー107の途中から車室内に浸入する。このとき、車室内のイグニッションスイッチに滴下する事態も生じ得る。
【0022】
このような事態を回避するために、本実施形態にかかるルーフモール100では、雨水等の水を車両前方向に排水する排水構造を採用した。以下、図2〜図4を参照して、ルーフモール100の排水構造について説明する。
【0023】
図2は、図1および図4(b)のA−A断面図である。図3(a)は、図2のルーフモール100が組立てられる前の状態を模式的に示す分解図である。図3(b)および図3(c)は、組立てられたルーフモール100を模式的に示す正面図および側面図である。図3(a)〜(c)において左が車両前方、右が車両後方である。図4(a)は、図3のルーフモール100の一部品のみを示す斜視図である。図4(b)は、図3のルーフモール100が車両に取り付けられた状態を模式的に示す図である。
【0024】
ルーフモール100は、図3(a)に示すように、モール110と固定部材120とを備え、双方を接着等により嵌め合うことで組み立てられる(図3(b)および図3(c)参照)。モール110は、車両前後方向に延在していて、車両前方側の前端部分111のうち、ルーフパネル101(図2および図4(b)参照)に対向する側が切り欠かれた切欠き部112を有する。
【0025】
モール110は、例えば樹脂から成る押出成形品であり、切欠き部112を除き、押出成形可能な一定の断面形状を有する。すなわち、モール110の車幅方向に沿った断面形状は、図2に示すように略H形状であり、図2および図4(a)に示すように、切欠き部112を除き、一対の上脚部113a、113bと、一対の下脚部114a、114bと、接続部115とを有する。上脚部113a、113bは、溝104のルーフパネル101側およびサイドボディ102側の両壁面104a、104bの上縁104c、104d間に差し渡される。なお、図2では上脚部113aが仮想線で示され、図4(a)では実線で示されている。下脚部114a、114bは、両壁面104a、104bにそれぞれ当接する。接続部115は、上脚部113a、113bおよび下脚部114a、114bの中央同士を接続する部分であり、その内部には金属製の芯材116が埋設されている。
【0026】
上脚部113a、113bが上縁104c、104d間に差し渡されているので、モール110は、切欠き部112が形成される区間を除き、車両前後方向に全体に亘って浮き上がっていず、見栄えが損なわれない。また、切欠き部112が形成される区間も含めて、下脚部114a、114bが溝104の両壁面104a、104bに当接しているので、モール110は、溝104内に安定して配置可能である。このため、モール110が溝104から浮き上がることを防止するために両面テープ等を用いる必要がなく、コストを低減できる。さらに、モール110は、略H形状に押出成形した後で、前端部分111のルーフパネル101に対向する側を切り欠いて切欠き部112を形成すればよく、加工が容易である。
【0027】
固定部材120は、射出成形可能なインジェクション成形品であり、モール110に比べて硬質の樹脂から成る。固定部材120は、モール110を溝104に固定する部材であって、図3に示すように、本体部121と延長部122とを有する。固定部材120の本体部121は、モール110の前端に接続され、図4(b)に示すように、ルーフパネル101の段差部105からウインドシールド108近傍まで延在している。また、固定部材120の本体部121の前端部は、ウインドシールド108よりも上方に位置していて、さらに、ウインドシールド108との間で隙間123を形成している。
【0028】
固定部材120の延長部122は、モール110の切欠き部112に嵌る形状を有する。この延長部122は、図2に示すように、モール110のルーフパネル101側の仮想線で示した上脚部113aよりも車幅方向に沿った長さが短く、ルーフパネル101側の壁面104aの上縁104cに接していず、浮き上がっている。また、ルーフモール100の車両前後方向に沿った側面は、図3(c)に示すように、ルーフパネル101側から見て、切欠き部112が形成された区間で、固定部材120の延長部122が上方に位置している。すなわち、延長部122は、図2および図4(b)に示すように、ルーフパネル101との間に空隙130を形成している。さらに、図3(c)に示すようにルーフパネル101側から見た、固定部材120の本体部121の車両前後方向に沿った側面は、溝104に固定された状態で、溝104と共に水路を形成するように、内側が部分的に空洞になっている。
【0029】
このように、ルーフモール100では、A−A断面に代表される切欠き部112が形成される区間で、押出し成形品であるモール110と射出成形品である固定部材120とが嵌め合って面一となり、車幅方向に沿って並んで配置されている。また、ルーフモール100では、固定部材120の延長部122を浮かせて、ルーフパネル101との間に空隙130を形成している。
【0030】
次に、図5を参照して、ルーフモール100の排水構造の動作について説明する。図5は図4のルーフモールの排水構造の動作を説明する模式図である。例えば雨天時または雨上がり直後に、運転者がドアを開いて、車室内に乗り込む際に体重をかけると、矢印106aに示すように、ルーフパネル101上に溜まった雨水等の水が車両前方に流れ、さらにルーフパネル101の段差部105に沿って車幅方向に流れる。このルーフパネル101を車幅方向に伝わってきた水は、固定部材120の延長部122がルーフパネル101との間に形成した空隙130(図2参照)からモール110内部に導入される。
【0031】
さらに、モール110内部に導入された水は、固定部材120の本体部121内の水路に沿って、矢印106bに示すように車両前方、すなわちルーフパネル101の段差部105から、ウインドシールド108近傍となる固定部材120の本体部121の前端部まで案内される。続いて、ウインドシールド108近傍まで案内された水は、隙間123からウインドシールド108を乗り越えて、矢印106cに示すように、フロントガラス109に流れて排水される。
【0032】
したがって、ルーフモール100の排水構造では、ドアを開けているときに、水が車室内に入ることを防止できる。なお、ルーフパネル101を車幅方向に伝わり、モール110の前端部分111以外の空隙130が形成されていない部分に流れてきた水も、モール110に沿って空隙130に案内されるか、あるいは車両後方に向かって流れるので、車室内に入ることはない。
【0033】
また、ルーフモール100の排水構造では、空隙130が、車両前後方向に沿ったモール110の切欠き部112の長さ分程度だけ形成されている。なお、切欠き部112が形成される区間は、車両前後方向に100mm程度としてよい。このため、モール110のルーフパネル101に対向する側は、車両前後方向に全体に亘って浮き上がっていず、排水のために必要な最小限の部分である固定部材120の延長部122のみが浮き上がっている。したがって、見栄えが大幅に改善されている。
【0034】
ここで上記実施形態では、固定部材120の延長部122のみがルーフパネル101との間に空隙130を形成すると説明した。しかし、ルーフパネル101の段差部105からウインドシールド108近傍まで延在している固定部材120の本体部121が、ルーフパネル101との間に空隙を形成するように射出成形してもよい。このようにすれば、ルーフパネル101を車幅方向に伝わった水が、ウインドシールド108までより案内され易くなり、ドアを開けているときに、水が車室内に入ることを防止できる。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両のルーフパネルとサイドボディとの結合部を被覆するルーフモールの排水構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
100…ルーフモール、101…ルーフパネル、102…サイドボディ、103…結合部、104…溝、104a、104b…壁面、104c、104d…上縁、105…段差部、106…雨水の粒、107…フロントピラー、108…ウインドシールド、109…フロントガラス、110…モール、111…前端部分、112…切欠き部、113a、113b…上脚部、114a、114b…下脚部、115…接続部、116…芯材、120…固定部材、121…本体部、122…延長部、123…隙間、130…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のルーフパネルとサイドボディとの結合部に沿って形成される溝に配置され、該結合部を被覆するルーフモールの排水構造において、
車両前後方向に延在し、前記ルーフパネルに対向する側の前端部分が切り欠かれた切欠き部を有するモールと、
前記モールの前端に接続され、該モールの切欠き部に嵌る延長部を有し、該モールを前記溝に固定する固定部材と、を備え、
前記固定部材の延長部は、前記ルーフパネルとの間に空隙を形成していることを特徴とするルーフモールの排水構造。
【請求項2】
前記固定部材は、前記ルーフパネルの前部に形成された段差部からウインドシールド近傍まで延在していることを特徴とする請求項1に記載のルーフモールの排水構造。
【請求項3】
前記モールの断面は、前記溝の両壁面の上縁間に差し渡される第1の脚部と、該溝の両壁面にそれぞれ当接する第2の脚部と、第1および第2の脚部の中央同士を接続する接続部とを有する、略H形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のルーフモールの排水構造。
【請求項4】
前記モールは、前記切欠き部を除き、押出成形可能な一定の断面形状を有し、
前記固定部材は、射出成形可能な部品であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のルーフモールの排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116309(P2012−116309A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267146(P2010−267146)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】