説明

ループアンテナ

【課題】 本発明は、従来の小形ループアンテナが入力VSWR特性の狭帯域性能に起因して、所定の周波数帯域において複数の周波数チャネルを用いるシステムの携帯無線機に使用できない問題を解決するためになされたもので、インピーダンス整合特性(入力VSWRの帯域特性)などの性能を劣化させることなく小形化して携帯無線機に使用可能なループアンテナを提供することを目的とする。
【解決手段】 長さが約N波長(ここでNは整数)の導体をループ状に形成すると共に所要部に給電手段を備えたループアンテナであって、前記ループ状導体の所定部をコイル状に構成することにより、前記ループ状導体により囲まれる面積が小さくなるように小形化したことを特徴とするループアンテナである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はループアンテナに関し、特に性能を劣化させることなくアンテナを小形化する手段に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、携帯無線機用アンテナとしては、安価で、且つ、構造簡単などの理由によりλ/4モノポールアンテナが用いられてきたが、近年、後述する理由により筐体の影響を受けにくい特徴を有する小形ループアンテナも良く用いられる。
【0003】小形ループアンテナの説明に先立ち、まず、通常の大きさのループアンテナについて説明する。ループアンテナは、線状導体をループ状に形成すると共に所要部に給電手段を設けて構成されたものであり、ループ形状も円形、矩形(正方形)、或いは三角形など種々のものが提案されているが、ここでは一例として円形ループアンテナについて説明する。
【0004】図5は、円周が1波長の円形ループアンテナの構成例とアンテナ上に励振される電流分布を示す図である。この図に示す円形ループアンテナは、円形ループ状に形成された導体51と、この導体51の所要部に配置された給電点52とから構成される。
【0005】ループアンテナの動作については、例えば、文献電子通信学会編、アンテナ工学ハンドブック、pp.59-72、オーム社、1989年に詳細に記述されているので、ここでは簡単に説明する。円形ループ導体に励振される電流分布は、円周がほぼN波長(ここでNは整数)のときは、ループ上の電流最大値をImaxとすると、I=Imaxcos(Nφ) (1)と表されることが知られている。従って、円周長が1波長(N=1)の場合は、励振電流は(1)式より図5に示されるようにφ=±90゜(給電点からの導体長がλ/4、λは波長)を基準にして方向を反転し、給電点52(φ=0)で最大値Imax、給電点52の対向点(φ=180゜)で負の最大値-Imaxをとる。以上、円形ループアンテナに励振される電流分布について説明したが、このような電流分布はループ形状が正方形のような円形に比較的類似する形状のときにも成り立つことが知られている。
【0006】次に、このようなループアンテナの性能例として、正方形ループアンテナの入力VSWR(Voltage Standing Wave Ratio、電圧定在波比、インピーダンス整合状態を表すパラメータ)特性について説明する。図6は、200MHz帯で動作する全長1波長の正方形ループアンテナにおける入力VSWR特性の実測例を示す図である。同図から明らかなように、全長が1波長の線状導体にて構成した正方形ループアンテナは、無線機とのインピーダンス整合が可能なVSWR≦2という条件を満足する帯域が約3%であり、λ/4モノポールアンテナとほぼ同等の性能を有する。
【0007】一方、小形ループアンテナは、全長が約0.6波長以下の線状導体などをループ状に形成すると共に所要部に給電手段を設けて構成されたものであり、上述した全長1波長のループアンテナに比べて小形のため携帯無線機に使用可能である。また、上記λ/4モノポールアンテナが無線機筐体をアンテナの構成要素の一部とするのに対し、小形ループアンテナは筐体とは独立して単独にて動作するので、筐体の影響を受けにくい特徴を有し、従って、筐体を手でどのように所持してもアンテナ特性の変化が少なく比較的安定に通信ができるなどの長所を有する。
【0008】図7は、小形ループアンテナの構成例を示す図である。この図に示す小形ループアンテナは、矩形ループ状に形成した線状導体71の所要部に配置した同調容量72と給電手段としてのタップ73とから構成される。この小形ループアンテナの動作については、文献伊藤、春木、藤本、"小形携帯無線機用ループアンテナ"、National technical report,vol.19,No.2,pp.145-154,April 1973.に記述されているので詳細な説明は省略するが、要するに径の小さいループアンテナのインピーダンス特性は放射抵抗が極めて小さく、リアクタンス成分は誘導性を示すので、同調容量72により誘導性リアクタンスを打ち消して同調(リアクタンス成分を零とする)をとると共に、タップ73により入力インピーダンス(抵抗成分)を高くして図示しない送受信機とインピーダンス整合をとるようにしている。
【0009】図8は、250MHz帯で動作する全長0.15波長の小形ループアンテナにおける入力VSWR特性の実測例を示す図である。この小形ループアンテナは、ループ形状を矩形としたものであり設計周波数においてはVSWR=1.3が得られ、無線機との間のインピーダンス整合をとることができる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上述したような従来のループアンテナにおいては以下に示すような問題点があった。つまり、小形ループアンテナは、アンテナ自身のインピーダンス特性においてリアクタンス成分に比べて抵抗成分が極めて小さいのでQ値が大きくなり、その結果、入力VSWR特性の帯域が狭帯域特性となる。例えば、図8に示した250MHz帯で動作する小形ループアンテナでは、VSWR≦2を満足する帯域は0.2%と極めて狭帯域である。従って、小形ループアンテナはインピーダンス整合の取れる設計周波数以外では反射損失(インピーダンス不整合損失)が大きくなり、所定の周波数帯域において複数の周波数チャネル信号を用いる携帯無線機には使用できない問題があった。一方、上述したようにVSWR≦2を満足する帯域を広くするためには、例えば、全長1波長のループアンテナを用いればよいが、形状が大きくなるので携帯無線機に使用するには適していない。本発明は、上述した従来のループアンテナに関する問題を解決するためになされたもので、入力VSWRの帯域特性などの性能を劣化させることなく小形化して複数の周波数チャネル信号を用いる携帯無線機に使用可能なループアンテナを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係わるループアンテナの請求項1記載の発明は、長さが約N波長(ここでNは整数)の導体をループ状に形成すると共にその所要部に給電手段を備えたループアンテナであって、前記ループ状導体の所定部をコイル状に構成する。本発明に係わるループアンテナの請求項2記載の発明は、請求項1記載のループアンテナにおいて、前記ループ状導体の形状が矩形であって、その頂点部の一つに前記給電手段を設けると共に矩形導体の対向する2辺をコイル状に、他の2辺を直線状に構成する。本発明に係わるループアンテナの請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載のループアンテナにおいて、前記コイルの螺旋を巻く方向をコイル全長の中央点から反転するように構成することで、前記コイルが有するインダクタンス成分を除去する。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、図示した実施の形態例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は全長がほぼN波長(ここでNは整数)の導体を用いて構成するループアンテナに適用できるが、一例として全長が1波長(N=1)の導体を用いる場合について説明する。
【0013】図1は本発明に係わるループアンテナの実施の形態例を示す構成図である。この例に示すループアンテナは、それぞれ長さがλ/4の2つの直線導体部11、12と、誘電体柱13、14に巻かれたそれぞれ全長がλ/4のコイル導体部15、16と、給電手段として中心導体17aを前記一方の直線導体部11の一端に接続すると共にアース導体(外部導体)17bをアース線17cを介して前記一方のコイル導体部16の一端に接続した同軸ケーブル17とから構成される。
【0014】なお、前記2つのコイル導体部15、16は、導体を螺旋に巻く方向をコイル全長の中央点から反転してインダクタンス成分を発生させないように構成する。
【0015】この例に示すループアンテナは以下のように機能する。即ち、2つのコイル導体部15、16の導体全長はそれぞれλ/4を有しているので、本発明に係わるループアンテナに励振される電流の遅延特性(位相特性)は、一辺がλ/4波長からなる全長1波長の正方形ループアンテナの特性を保持する。
【0016】図2は、全長1波長の正方形ループアンテナに励振される電流分布を示す図である。この1波長正方形ループアンテナは、正方形ループに形成された導体21と、この導体21の頂点部の一つに配置された給電点22とから構成される。上述したように全長1波長の正方形ループアンテナに励振される電流は、円形ループアンテナと同じように給電点22からの導体長がλ/4を境にして方向を反転し、給電点で最大値、給電点の対向点で負の最大値をとる。図2に示した太い矢印は、電流の方向を模式的に示したものであり、給電点22からの導体長がλ/4を境にして電流方向が反転することを強調して示している。
【0017】図3は、本発明に係わるループアンテナの電流分布(電流方向)を説明するための図である。図2を参照しつつ図3に示した電流分布について説明すると、本発明に係わるループアンテナは、形状を小形化するために上記正方形ループアンテナの上辺と底辺の導体部をコイル状にして見かけの長さを短縮すると共に、左辺と右辺の導体部(直線導体部11、12)を接近させるように構成したものである。このとき、左辺と右辺の導体に励振される電流は、上述したように正方形ループアンテナの位相特性を保持しているので、図3の矢印で示すようにその方向は同一となり、従って、これらの電流によって発生する電磁界は相互に打ち消し合うことなく加算され、その結果、電磁界は効率よく空間に放射される。
【0018】更に、上述したように各コイル部15、16は螺旋を巻く方向を中間点から反転させてインダクタンス成分を発生しない(打ち消す)ようにしているので、このコイル部のインダクタンス発生による共振周波数(設計周波数)のずれ及びQ値上昇(入力VSWR特性の狭帯域化)を防止している。
【0019】本発明に係わるループアンテナの有効性を確認するために、290MHzで動作する小形ループアンテナを試作して測定を行った。このとき、各コイル部15、16は長さLcを約20mm、巻き数を約4ターンに設定した。図4は、このループアンテナの入力VSWR特性の測定値を示す図である。この図より明らかなように、本発明に係わるループアンテナはほぼ設計周波数において共振すると共に、VSWR≦2の帯域としてλ/4モノポールアンテナと同等以上の約5%の帯域を得ることができる。しかも、試作アンテナの形状は正方形ループアンテナに比べて上辺と底辺の長さをそれぞれ約8%に短縮し大幅な小形化を実現している。
【0020】以上説明したように本発明に係わるループアンテナは動作するので、従来の形状よりも大幅に小形化してもモノポールアンテナのVSWR特性と同等以上の帯域性能を有し、従って、所定の周波数帯域において複数の周波数チャネル信号を用いる携帯無線機に好適なアンテナを提供することができる。
【0021】なお、以上の説明においてはコイル導体部15、16を誘電体柱13、14に巻き付ける構成について説明したが、本発明に係わるループアンテナは誘電体柱13、14を必ずしも必要としない。また、例えば、直線導体部11、12とコイル導体部15、16とを別々に製作し、組み立ての最後にそれらを接続したものであってもよいことは言うまでもない。
【0022】
【発明の効果】本発明は以上説明したように直線導体部とインダクタンス成分を発生させないようにしたコイル導体部とから構成するので、従来のループアンテナを小形化してもモノポールアンテナのVSWR特性と同等以上の帯域性能を有し、従って、所定の周波数帯域において複数の周波数チャネル信号を用いる携帯無線機に好適なループアンテナを実現する上で著効を奏す。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるループアンテナの実施の形態例を示す構成図
【図2】全長1波長の正方形ループアンテナに励振する電流分布を示す図
【図3】本発明に係わるループアンテナの電流分布を説明する図
【図4】本発明に係わるループアンテナの入力VSWR特性を示す実験値
【図5】全長1波長の円形ループアンテナに励振する電流分布を示す図
【図6】従来の全長1波長の正方形ループアンテナの入力VSWR特性を示す実験値
【図7】従来の小形ループアンテナの構成例を示す図
【図8】従来の小形ループアンテナの入力VSWR特性を示す実験値
【符号の説明】
11、12・・直線導体部
13、14・・誘電体柱
15、16・・コイル導体部
17・・同軸線
17a・・同軸線の中心導体
17b・・同軸線のアース導体
17c・・アース線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 長さが約N波長(ここでNは整数)の導体をループ状に形成すると共にその所要部に給電手段を備えたループアンテナであって、前記ループ状導体の所定部をコイル状に構成したことを特徴とするループアンテナ。
【請求項2】 前記ループ状導体の形状が矩形であって、その頂点部の一つに前記給電手段を設けると共に矩形導体の対向する2辺をコイル状に、他の2辺を直線状に構成したことを特徴とする請求項1記載のループアンテナ。
【請求項3】 前記コイルの螺旋を巻く方向をコイル全長の中央点から反転するように構成することで、前記コイルが有するインダクタンス成分を除去したことを特徴とする請求項1または請求項2記載のループアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−114852(P2000−114852A)
【公開日】平成12年4月21日(2000.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−301612
【出願日】平成10年10月8日(1998.10.8)
【出願人】(391004012)東通電子株式会社 (3)
【Fターム(参考)】