説明

レジンコーテッドサンド

【課題】カーボンニュートラルに寄与しつつ、環境に負荷を与えず、また、石油資源依存を少なくしたレジンコーテッドサンドを提供する。
【解決手段】リグノセルロース及び/又は青酸成分を含んでいるキャッサバいも由来のでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたフェノール樹脂と、耐火性骨材と、を含んでいるレジンコーテッドサンドであり、耐火性骨材100質量部に対し、該フェノール樹脂が0.1質量部以上10質量部以下の割合で含んでいることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジンコーテッドサンドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のために、特に二酸化炭素削減の理由から、植物由来の材料が注目されている。植物由来の材料は、廃棄、焼却等により通常二酸化炭素を発生させるが、植物はその生育過程で二酸化炭素を吸収し固定化するため、植物由来材料を廃棄、焼却等しても地球全体の二酸化炭素の総量は増加しないとみなすことができる。(この現象を「カーボンニュートラル」と言う。)そのため、例えば家電、自動車、包装材料等の各分野で植物由来材料の商品開発が盛んに試みられている。
【0003】
金属等の鋳造の際、砂粒子を有機粘結剤で結合した砂型、中子等が多く使用されている。中でも、エンジンのシリンダヘッド用中子に代表される自動車用部品の鋳造には、生産性及び製造コストの観点からフェノール樹脂を粘結剤とするシェルモールド法が広く用いられている。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1には、鋳物砂、熱硬化性フェノール樹脂、アルカリ金属酸素酸塩及び金属元素の酸化物を含有してなるシェルモールド用レジンコーテッドサンドが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱硬化性樹脂と、3環式炭化水素骨格を有するエステルを含有する香料系消臭剤とを必須成分とするシェルモールド用熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、シェルモールド用フェノール樹脂粘結剤及びそれを用いてなるレジンコーテッドサンドが開示されている。
【0007】
そして、特許文献4には、反応終了後のフェノール樹脂に澱粉類を添加することにより、スラリー分散性が良好なフェノール樹脂を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−35888号公報
【特許文献2】特開2004−50182号公報
【特許文献3】特開昭58−55146号公報
【特許文献4】特開昭61−174250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、レジンコーテッドサンドを用いた鋳型の造形時における煙の発生を抑制するため、金属酸化物の還元反応により有機バインダーの分解ガスの酸化を促進させているが、この技術においては、煙の発生は抑制されるものの、有機バインダーの分解ガスの酸化により発生する二酸化炭素の量が増加するという課題を有している。
【0010】
また、特許文献2に記載の技術においては、レジンコーテッドサンドの製造時、使用時等に発生する例えばアミン、ホルムアルデヒド等による刺激臭対策として、シェルモールド用熱硬化性樹脂組成物に香料系消臭剤を使用しているが、発生する臭気をごまかしているだけであって、環境に対する負荷は軽減できていないという課題を有している。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の技術においては、レジンコーテッドサンドの原料としてホルムアルデヒドを使用しており、やはり環境に対する負荷を軽減できていない課題を有している。
【0012】
また、特許文献2〜4に記載の技術においては、上記のようにいずれもホルムアルデヒドを使用している。ホルムアルデヒドは通常石油由来の材料であり、ホルムアルデヒドを使用したフェノール樹脂の製造において、将来起こりうる石油資源の枯渇に対応できないという課題もある。また、石油由来材料を用いているため、これらの文献に記載の材料からなる鋳型を用いた鋳造時、並びに例えば砂等の耐火性骨材の再利用時に大量の二酸化炭素を発生させるという課題もある。
【0013】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、カーボンニュートラルに寄与しつつ、環境に対する負荷を軽減し、さらに石油資源依存を少なくしたレジンコーテッドサンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたフェノール樹脂を用いることにより、カーボンニュートラルに寄与しつつ、環境に対する負荷を軽減し、さらに石油資源依存を少なくしたレジンコーテッドサンドを提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたフェノール樹脂と、耐火性骨材と、を含んでいることを特徴とする、レジンコーテッドサンドに存する(請求項1)。
【0016】
この時、該反応が、酸触媒存在下行われたことが好ましい(請求項2)。
【0017】
さらに、該フェノール樹脂が少なくともでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたものであると共に、該でんぷんが、青酸成分を含んでいるキャッサバいも由来であることが好ましい(請求項3)。
【0018】
また、該リグノセルロースに含まれるセルロース、並びに該でんぷんの合計量1質量部に対し、フェノール類が2質量部以上20質量部以下であることが好ましい(請求項4)。
【0019】
さらに、該耐火性骨材100質量部に対し、該フェノール樹脂が0.1質量部以上10質量部以下の割合で含まれていることが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、カーボンニュートラルに寄与しつつ、環境に対する負荷を軽減し、さらに石油資源依存を少なくしたレジンコーテッドサンドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0022】
本発明のレジンコーテッドサンドは、リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたフェノール樹脂(以下、「本発明のフェノール樹脂」と言う。)と、耐火性骨材(以下、「本発明の耐火性骨材」と言う。)と、を含んでいるものである。
【0023】
[1.フェノール樹脂]
本発明のフェノール樹脂は、リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させて得られるものである。
【0024】
[1−1.リグノセルロース及び/又はでんぷん]
本発明のフェノール樹脂を製造する際の原料としては、リグノセルロース及び/又はでんぷんを用いる。原料としてこれらを用いることにより、金属等の鋳造時、及び中子の焙焼再生時に二酸化炭素が発生しても、地球全体の二酸化炭素の総量は変化しないとみなすことができるという利点がある(カーボンニュートラル)。
【0025】
リグノセルロースは、例えば木材、竹、草木類等に由来するものが挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0026】
また、リグノセルロース及び/又はでんぷんを用いて得られた本発明のレジンコーテッドサンドは、従来のレジンコーテッドサンドと比べて、崩壊性に優れるため、本発明のレジンコーテッドサンドを鋳型として用いた後、耐火性骨材を再利用しやすいという利点も有する。
なお、崩壊性を表す際の指標としての崩壊率は、例えば以下の「残留強度測定法」によって測定することができる。
【0027】
・残留強度測定法
(1)250℃の金型にレジンコーテッドサンドを吹き込み、1分後に抜型し、60mm×10mm×10mmのテストピース20本を成形する。その後、テストピースが25℃になるまで冷却する。
(2)冷却したテストピース10本について曲げ強度を測定し、得られた測定値の平均値を冷間強度とする。なお、曲げ強度は、JIS K6910の方法に基づいて測定することができる。
(3)未測定のテストピース10本をアルミホイルで1本ずつ包み、電気炉に入れ、450℃で30分間加熱する。
(4)加熱後のテストピースを電気炉から取り出し、テストピースが25℃になるまで冷却する。
(5)アルミホイルを剥がし、それぞれのテストピースについて曲げ強度を測定し、得られた測定値の平均値を残留強度とする。
(6)以下の式(A)に基づいて、崩壊率を算出する。
【数1】

【0028】
でんぷんは、例えば穀物に由来するものが挙げられ、具体的には、米、とうもろこし、さつまいも、じゃがいも、キャッサバいも等に由来するものが挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。これらの中でも、キャッサバいも由来のでんぷんが好ましく、青酸成分を含んでいるキャッサバいも由来のでんぷんが特に好ましい。即ち、本発明のフェノール樹脂が少なくともでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたものであると共に、該でんぷんが、青酸成分を含んでいるキャッサバいも由来であることが好ましい。その理由は、キャッサバいもは、通常、例えば化学肥料、農耕機等を必要とせず、やせた土地でも生産可能であるため生産性が高く、さらに、青酸成分を含んでいるキャッサバいもは食用に適さず、例えば発展途上国の食料不足問題、二酸化炭素削減等に対して特に効果的であるからである。
【0029】
本発明のフェノール樹脂を製造する際の原料としては、中でもでんぷんを用いることが好ましい。でんぷんを用いることにより、リグノセルロースを用いる場合と比べて、得られるフェノール樹脂の構造、分子量等の物性をより所望のものにできたり、反応速度を制御したりすることができるという利点が得られる。また、でんぷんを用いることにより、本発明のフェノール樹脂の製造時に発生しうる残渣を減少させることができる。
【0030】
[1−2.フェノール類]
本発明のフェノール樹脂を製造する際に用いるフェノール類は、ベンゼン環に直接水酸基が結合した構造を有する限り任意であるが、フェノール類の具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール等が挙げられる。なお、これらの化合物は、例えばオルト、メタ、パラ、n−、2−、iso−、tert−等のいずれの異性体であってもよい。
【0031】
これらの中でも、フェノール類としては、フェノール及びクレゾールが好ましい。フェノール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0032】
[1−3.反応]
本発明のフェノール樹脂は、リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させて得られる。反応条件としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0033】
(反応量)
リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類との反応量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、リグノセルロースに含まれるセルロース、並びにでんぷんの合計量1質量部に対し、フェノール類が通常2質量部以上、好ましくは3質量部以上、また、その上限は、通常20質量部以下、好ましくは6質量部以下であることが望ましい。フェノール類の量が上記範囲内にある場合、反応率を高くすることができ、分子量を高くすることができる。さらに、得られるフェノール樹脂の植物由来度(後述する。)を十分なものにすることもできる。
【0034】
(反応温度)
リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させる際の温度としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、また、その上限は、通常220℃以下、好ましくは180℃以下であることが望ましい。温度が低すぎる場合、未反応残渣が発生する可能性があり、高すぎる場合、エネルギーのロスとなる可能性がある。
【0035】
(触媒)
反応時の触媒としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒の具体例としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、塩酸、蓚酸等が挙げられ、中でも硫酸、パラトルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸が好ましい。なお、酸触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0036】
(その他の条件)
本発明のフェノール樹脂は、例えば上記の触媒を用いて反応させることにより得ることができるが、本発明のフェノール樹脂を得るために、必要に応じて、種々の操作を行ってもよい。例えば、リグノセルロース及び/でんぷんとフェノール類とを反応させたあと、触媒を中和したり、除去したりしてもよい。
【0037】
[1−4.物性]
本発明のフェノール樹脂の物性は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、カーボンニュートラルに寄与しつつ、環境に対する負荷を軽減し、また、ホルムアルデヒドを用いないことに拠る石油資源依存を少なくしたレジンコーテッドサンドを提供するという観点から、本発明のフェノール樹脂における植物由来度は、通常10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上であることが望ましい。植物由来度が低すぎる場合、二酸化炭素削減効果が十分に発揮されない可能性がある。なお、植物由来度は、以下の式(B)に基づいて算出することが出来る。
【0038】
【数2】

【0039】
本発明のフェノール樹脂の数平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200以上、好ましくは250以上、また、その上限は、通常1000以下、好ましくは900以下である。数平均分子量が小さすぎる場合、硬化速度が極端に遅くなり抜型時に充分な鋳型強度が得られずハンドリングの際に変形してしまう可能性があり、大きすぎる場合、砂との混練性が悪くなり砂粒に均一にコートされず機械特性が十分に得られない可能性がある。なお、数平均分子量は、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用いて測定することが出来る。
【0040】
また、本発明のフェノール樹脂の樹脂軟化点も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常70℃以上、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上、また、その上限は、通常120℃以下である。樹脂軟化点が低すぎる場合、フェノール樹脂及びレジンコーテッドサンドの保管時にブロッキングする(即ち、フェノール樹脂同士が、又はレジンコーテッドサンド同士が接着し、塊状になる)可能性があり、高すぎる場合、フェノール樹脂の耐火性骨材への被覆性が著しく低下し、強度が十分に発現しなくなる可能性がある。なお、樹脂軟化点の測定は、例えばJIS K 5902及びJIS K 2207に記載の方法に基づいて行うことが出来る。
【0041】
[2.耐火性骨材]
本発明の耐火性骨材は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、鋳造に耐えることのできる耐火性を有するものが好ましい。
【0042】
耐火性骨材の形状も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、球状、ポテト状、柱状等が挙げられる。中でも、耐火性骨材の形状としては、球状が好ましい。
【0043】
耐火性骨材の形状が球形である場合、耐火性骨材の平均粒径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50μm以上、好ましくは100μm以上、また、その上限は、通常2000μm以下、好ましくは1000μm以下である。平均粒径が小さすぎる場合、通気性が悪化しガス欠陥の原因となる可能性があり、大きすぎる場合、鋳物表面の平滑性が損なわれる可能性がある。
【0044】
耐火性骨材の具体例としては、珪砂、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂,セラビーズ、フェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系粒子,等が挙げられる。これらの中でも、珪砂、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂並びにセラビーズ、フェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系粒子が好ましく、低コストである観点から、珪砂がより好ましい。なお、耐火性骨材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0045】
[3.レジンコーテッドサンド]
本発明のレジンコーテッドサンドは、上記フェノール樹脂と耐火性骨材とを含んでいるものである。フェノール樹脂と耐火性骨材との含有量は、それぞれ本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、耐火性骨材100質量部に対し、フェノール樹脂が通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、また、その上限は、通常10質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下の割合で含まれていることが望ましい。フェノール樹脂の量が上記範囲にある場合、ガスの発生量が少なく鋳物品質が良好であると共に、低コストであるという利点が得られる。
【0046】
フェノール樹脂と耐火性骨材とを混合して本発明のレジンコーテッドサンドを得る際、その混合方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。例えば、スピードミキサーを用いた混合等の方法により混合すればよい。なお、混合は、1種の方法により単独で行ってもよく、2種以上の方法を任意に組み合わせて行ってもよい。
【0047】
また、フェノール樹脂及び耐火性骨材の混合時の温度も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、また、その上限は、通常200℃以下、好ましくは170℃以下である。混合時の温度が低すぎる場合、フェノール樹脂の耐火性骨材への被覆性が著しく低下する可能性があり、高すぎる場合、強度が低下する可能性がある。
【0048】
本発明のレジンコーテッドサンドは、上記フェノール樹脂と上記耐火性骨材の他に、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。含んでいてもよい添加剤の種類としては、例えばシランカップリング剤、崩壊剤、滑剤等のほか、ヘキサメチレンテトラミン等の公知の硬化剤が挙げられる。なお、添加剤は、1種を単独で含んでもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでもよい。
【0049】
シランカップリング剤の具体例としては、γ−アミノプロピルアルコシキシラン等のアミノシラン等が挙げられる。
【0050】
崩壊剤の具体例としては、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0051】
滑剤の具体例としては、硝酸カリウム、蓚酸カリウム、重炭酸ナトリウム、燐酸トリフェニル、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0052】
本発明のレジンコーテッドサンドにおける曲げ強度は、3.8N/mm以上が好ましい。曲げ強度が小さすぎる場合、鋳物、鋳型が品質不良となる可能性がある。なお、曲げ強度は、例えばJIS K6910等の方法によって測定することができる。
【0053】
[4.本発明のレジンコーテッドサンドの用途]
本発明のレジンコーテッドサンドは任意の用途に用いることができ、中子、鋳型、等の用途に用いことができるが、中でも中子、鋳型として用いることが好ましい。中でも、でんぷんとフェノール類とを反応させて得られたフェノール樹脂を用いたレジンコーテッドサンドは、成形した際に上記のように崩壊性に優れるため、例えば中子、鋳型等として特に好適に用いることができる。
【0054】
また、中子、鋳型等として用いられた後の本発明のレジンコーテッドサンドは、例えば熱処理等により、レジンコーテッドサンドに含まれる本発明のフェノール樹脂が熱分解され、製品から耐火性骨材が排出される。このようにして排出された耐火性骨材は、例えば粉砕、焼成、混練等され、再利用することができる。
【0055】
熱処理の具体的な方法としては、例えば、通常495℃以上505℃以下の温度で通常6.5時間以上保持した後水冷し、その後、通常245℃以上255℃以下の温度で通常2時間以上5時間以下保持し、空冷することにより、行うことができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[粘結剤合成実施例1]
温度計、攪拌装置及び冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール1000g、キャッサバいも由来でんぷん220g及び硫酸13gを仕込み、昇温途中で生成する水を除去しながら150℃まで加熱した。150℃で1時間攪拌後、2gの水に溶解させた水酸化ナトリウム0.6gを混合し、三口フラスコ内の溶液を中和した。その後、200℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノールを除去し、バイオマス由来フェノール樹脂425gを得た。この樹脂について、上記式(B)に基づいて測定した植物由来度は40%であった。得られたバイオマス由来フェノール樹脂を、粘結剤Aとした。
【0058】
また、得られたバイオマス由来フェノール樹脂について、JIS K 5902及びJIS K 2207に記載の方法に基づいて測定した樹脂軟化点は98℃、JIS K 6910−1995の方法に基づいて測定したゲル化時間は181秒、JIS K 6910−1995の方法に基づいて測定したフローは70mmであった。このバイオマス由来フェノール樹脂は、耐火性骨材の粒間に樹脂が流れ込み易いため接着力が高く、また、耐火性骨材に対する被覆性が良好であった。
【0059】
[粘結剤合成実施例2]
温度計、攪拌装置及び冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール1000g、キャッサバいも由来でんぷん220g及びパラトルエンスルホン酸6gを仕込み、昇温途中で生成する水を除去しながら150℃まで加熱した。150℃で1時間攪拌後、3gの水に溶解させた水酸化ナトリウム1.3gを混合し、三口フラスコ内の溶液を中和した。その後、200℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノールを除去し、バイオマス由来フェノール樹脂430gを得た。この樹脂について、上記式(B)に基づいて測定した植物由来度は40%であった。得られたバイオマス由来フェノール樹脂100質量部に対し、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルメトキシシラン1質量部を混合し、粘結剤Bとした。
【0060】
[粘結剤合成比較例1]
温度計、攪拌装置及び冷却管を備えた内容量3Lの三口フラスコに、フェノール940g、ホルムアルデヒド600g及び蓚酸9.4gを仕込み、徐々に昇温した。還流で4時間反応させた後、脱水しながら180℃まで昇温し、11kPaの減圧下で未反応のフェノールを除去し、フェノール樹脂900gを得た。得られたフェノールノボラック100質量部に対し、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルメトキシシラン1質量部を混合し、粘結剤Cとした。
【0061】
[実施例1]
予め140℃〜150℃に加熱した珪砂(フラタリーサンド;耐火性骨材)8000質量部を遠州鉄工製スピードミキサーに仕込み、粘結剤A120質量部を添加し、60秒間混練した。さらに、ヘキサメチレンテトラミン18質量部を水120質量部に溶解したヘキサメチレンテトラミン水溶液を添加し、樹脂被覆砂が崩壊するまで混練した後、ステアリン酸カルシウム8質量部を添加し、10秒間混合し、レジンコーテッドサンドを得た。このレジンコーテッドサンドを、鋳型用材料Aとした。
【0062】
[実施例2]
予め140℃〜150℃に加熱した珪砂(フラタリーサンド;耐火性骨材)8000質量部を遠州鉄工製スピードミキサーに仕込み、粘結剤B120質量部を添加し、60秒間混練した。さらに、ヘキサメチレンテトラミン18質量部を水120質量部に溶解したヘキサメチレンテトラミン水溶液を添加し、樹脂被覆砂が崩壊するまで混練した後、ステアリン酸カルシウム8質量部を添加し、10秒間混合し、レジンコーテッドサンドを得た。このレジンコーテッドサンドを、鋳型用材料Bとした。
【0063】
[実施例3]
予め140℃〜150℃に加熱した伊藤忠セラミック製セラビーズ60#650(耐火性骨材)の8000質量部を遠州鉄工製スピードミキサーに仕込み、粘結剤B100質量部を添加し、60秒間混練した。さらに、ヘキサメチレンテトラミン15質量部を水120質量部に溶解したヘキサメチレンテトラミン水溶液を添加し、樹脂被覆砂が崩壊するまで混練した後、ステアリン酸カルシウム8質量部を添加し、10秒間混合し、レジンコーテッドサンドを得た。このレジンコーテッドサンドを、鋳型用材料Cとした。
【0064】
[比較例1]
予め140℃〜150℃に加熱した珪砂(フラタリーサンド;耐火性骨材)8000質量部を遠州鉄工製スピードミキサーに仕込み、粘結剤C120質量部を添加し、60秒間混練した。さらに、ヘキサメチレンテトラミン18質量部を水120質量部に溶解したヘキサメチレンテトラミン水溶液を添加し、樹脂被覆砂が崩壊するまで混練した後、ステアリン酸カルシウム8質量部を添加し、10秒間混合し、レジンコーテッドサンドを得た。このレジンコーテッドサンドを、鋳型用材料Dとした。
【0065】
[鋳型(中子)及び鋳物の製造方法]
上記の鋳造用材料A〜Dのそれぞれを用いて、以下の手順で鋳型を作製した。
【0066】
・ウォータジャケット中子
ウォータジャケット中子は、鋳造用材料A〜Dを加熱した金型に吹き込み、焼成温度:上型240℃〜280℃、下型230℃〜270℃で80秒〜120秒焼成し、硬化させて製造した。
【0067】
・オイルジャケット中子
オイルジャケット中子は、鋳造用材料A〜Dを加熱した金型に吹き込み、焼成温度:上型240℃〜280℃、下型230℃〜270℃で80秒〜120秒焼成し、硬化させて製造した。
【0068】
・吸排気ポート中子
吸排気ポート中子は、鋳造用材料A〜Dを加熱した金型に吹き込み、焼成温度:固定型220℃〜380℃で40秒〜80秒焼成し、硬化させて製造した。
【0069】
・シリンダヘッド
上記3種類の中子を金型にセットし、アルミニウム溶湯(溶湯温度660℃〜700℃)を金型内に注ぎ込み、凝固させることにより、シリンダヘッド(鋳物)を製造した。
【0070】
[各種評価]
上記の鋳造用材料A〜Dからなる鋳型について、上記「[1−1.リグノセルロース及び/又はでんぷん] ・残留強度測定法」に記載の方法に従って、冷間強度及び崩壊率を測定した。また、鋳造用材料A〜Dからなる鋳型の品質、及びこれらの鋳造用材料からなる鋳型を用いて得られた鋳物の品質を観察した。
【0071】
そして、上記の鋳造用材料A〜Dからなる鋳型を用いた鋳造の際の二酸化炭素の削減効果は、LCA(ライフサイクルアセスメント)手法に従って試算した。以上の結果について、下記表1にまとめた。
【0072】
【表1】

※ 鋳型品質が「良好」とは、砂づまり、欠け・割れ、バリ等がない状態を表し、鋳物品質が「良好」とは、中子折れ、砂ガミ、焼付き等がない状態を表す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のレジンコーテッドサンドは、中子、鋳型等の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース及び/又はでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたフェノール樹脂と、
耐火性骨材と、を含んでいる
ことを特徴とする、レジンコーテッドサンド。
【請求項2】
該反応が、酸触媒存在下行われた
ことを特徴とする、請求項1に記載のレジンコーテッドサンド。
【請求項3】
該フェノール樹脂が少なくともでんぷんとフェノール類とを反応させて得られたものであると共に、
該でんぷんが、青酸成分を含んでいるキャッサバいも由来である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレジンコーテッドサンド。
【請求項4】
該リグノセルロースに含まれるセルロース、並びに該でんぷんの合計量1質量部に対し、フェノール類が2質量部以上20質量部以下である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレジンコーテッドサンド。
【請求項5】
該耐火性骨材100質量部に対し、該フェノール樹脂が0.1質量部以上10質量部以下の割合で含まれている
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレジンコーテッドサンド。


【公開番号】特開2011−67867(P2011−67867A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175443(P2010−175443)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】