説明

レセプターの脱感作の予防

【課題】Gタンパク質レセプターキナーゼ活性と関係した疾患または病理状態を患う患者を処置するための方法を提供すること。
【解決手段】疾患を制御するレセプターの脱感作は、Gタンパク質レセプターキナーゼを阻害することによって、予防される。このことは、例えば、心不全を患う患者、または外科手術後に左心室心臓デバイスもしくは心臓ポンプを装着した患者、または外科手術を受ける直前の患者、および心臓の事象に対して高度な危険性にある患者、またはオピエートを服用するかもしくはオピエート中毒である患者、または嚢胞性線維症もしくは慢性関節リウマチを患う患者に対して、用途を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2001年11月13日に出願された、米国出願第09/986,807号の一部継続出願であり、その全体が、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本明細書中の発明は、アゴニストによる活性化に対する、レセプターの脱感作の防止に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
病理状態を制御することに関与される多くのレセプターは、Gタンパク質と共役している(Pierce,K.L.ら,Nature Review(Molecular Cell Biology)3,639−650(2002))。これらは、Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)と呼ばれる。GPCRとしては、α−アドレナリン作用性レセプター、β−アドレナリン作用性レセプター、オピオイドレセプターおよびプロスタグランジンレセプターが挙げられる。アゴニストがこれらレセプターを活性化するために投与される場合、時間がたつと、レセプターは脱感作されるようになる。すなわち、アゴニストの投与は、もはやレセプターの治療的活性化を生じず、そしてアゴニストの投与に関係しないレセプターは、病理状態を制御することができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
アゴニストがGPCRを活性化するためにこれに結合する場合、事象の順序は以下であることが公知である:このレセプターがリン酸化され、リン酸化されたレセプターが、会合する細胞の内部へと移動、すなわち内在化され(この内在化はしばしば、β−アレスチンの補充(recruitment)を含む)、そして次いでこのレセプターが再利用されそしてこれを収容する細胞の表面へと移動し、この表面において、疾患事象を制御するため、そして疾患事象の制御のための活性化のためにアゴニストに結合するため、このレセプターは利用可能になること。GPCRは、Gタンパク質レセプターキナーゼ(GRK)と会合している。GRKは、アゴニストに占められたレセプターをリン酸化し、これによってこれらレセプターとGタンパク質との間の相互作用を阻害するβ−アレスチン分子の結合を促進し、一方、これらレセプターの内在化もまた促進する。従って、GRKは、GPCRによるシグナル伝達を鈍らせる。代表的な応答は、GPCRのレベルの低下およびこのGPCRの脱感作である(すなわち、アゴニストがレセプターを活性化できないことおよびGPCRが疾患事象を制御できないこと)。本明細書中で、一酸化窒素または関連する酸化還元種を提供し(donate)、そして一酸化窒素について同定された生物活性を提供する一酸化窒素ドナー(NOドナー)(好ましくは、S−ニトロソグルタチオン(GSNO))は、GRKを劇的に阻害し、これによってGPCRがシグナル伝達され、細胞表面へと再利用されることを可能にする、すなわち、このようにしてGPCRの脱感作を予防し、そしてGPCRが疾患事象を制御するのに十分な量で利用可能となるのを可能にすることが、見出された。また、本明細書中で、GSNOの投与は、(レセプターの発現に依存性および非依存性の両方であり得る)インビボで心筋の増殖(肥大)を生じ、そしてβ−アドレナリン作用性アゴニストの慢性的な投与後の、心臓のβ−アドレナリン作用性レセプターの下方制御を予防することが、見出された。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
Gタンパク質レセプターキナーゼ活性に関係する疾患または病理状態を患う患者を処置する方法であって、ここで、該Gタンパク質レセプターキナーゼ活性が処置しなければ別の状況では該疾患または状態を制御するレセプターの脱感作を引き起こし、該方法は、一酸化窒素ドナーを投与する工程を包含し、該一酸化窒素ドナーは、一酸化窒素または関連する酸化還元種を提供しそして一酸化窒素について同定される生物活性を提供して、該Gタンパク質レセプターキナーゼ活性を阻害し、これによって該レセプターを感作するかまたは該レセプターの脱感作を予防する、方法。
(項目2)
前記NOドナーがS−ニトロソグルタチオンである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記レセプターがβ−アドレナリン作用性レセプターである、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記疾患または状態が心不全である、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記NOドナーがS−ニトロソグルタチオンであり、そして該S−ニトロソグルタチオンの投与が心臓ポンプの増大を引き起こし、そしてまた心筋の増殖を刺激する、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記S−ニトロソグルタチオンが治療有効量のイソプロテレノールの投与と併用して投与される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記疾患または状態は、前記患者が心臓補助デバイスに接続されて心臓移植を待っている状態にある、項目3に記載の方法。
(項目8)
前記NOドナーがS−ニトロソグルタチオンである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記疾患または状態は、前記患者が心臓手術を受けたことがありそしてそれ以外に心機能の喪失なく、心臓ポンプから外されることができない状態にある、項目3に記載の方法。
(項目10)
前記NOドナーがS−ニトロソグルタチオンである、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記患者が外科手術を受ける直前であり、そして心臓の事象について高度な危険性にある、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記NOドナーがS−ニトロソグルタチオンである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記レセプターがμ−オピオイドレセプターであり、そして前記患者がオピエートで処置されているかまたはオピエート中毒である、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記疾患または状態が、喘息でない炎症状態であり、そして該炎症状態が嚢胞性線維症であって、そして前記NOドナーがFEV1を12%より多く迅速に低下させ得るものである場合に、該NOドナーがFEV1を12%より多く迅速に低下させるには不十分である治療有効量で投与される、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記疾患または状態が嚢胞性線維症である、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記疾患または状態が慢性関節リウマチである、項目14に記載の方法。
【0005】
上記の知見は、本明細書中の本発明を支持する。本発明は、Gタンパク質レセプターキナーゼ活性と関係した疾患または病理状態を患う患者を処置するための方法に関し、ここで、Gタンパク質レセプターキナーゼ活性は、処置されなければ、その疾患または状態を制御するレセプターの脱感作を引き起こし、この方法は、NOドナーを投与する工程を包含し、このNOドナーは一酸化窒素または関連する酸化還元種を提供し、そして一酸化窒素について同定された生物活性を提供する、Gタンパク質レセプターキナーゼ活性を阻害し、これによってこのレセプターを感作するかまたはこのレセプターの脱感作を予防する工程を、包含する。
【0006】
用語「Gタンパク質レセプターキナーゼ活性と関係する疾患または状態」は、本明細書中で、GPCRの刺激不足、または関連する、GPCRの不十分な活性化から生じる、疾患または状態を意味するために、使用される。
【0007】
Gタンパク質レセプターキナーゼ活性は、上記に記載したPierceらに記述される。
【0008】
用語「疾患または状態を制御すること」は、本明細書中で、その疾患または状態の生化学的相関または臨床学的相関に影響することを意味するために、使用される。
【0009】
用語「レセプターの脱感作」は、本明細書中で、低下した活性または発現レベルの低下または低下した応答を意味するために、使用される。
用語「Gタンパク質レセプターキナーゼ活性を阻害すること」は、本明細書中で、その活性を低下させることを意味するために、使用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、体重で除算した心臓重量 対 導入されたコントロールまたは薬剤、のグラフであり、そして予備的実施例2の結果を示す。
【図2】図2は、気道の抵抗 対 記載された濃度でのアレルゲンのチャレンジ、のグラフであり、そして予備的実施例3の結果を示す。
【図3】図3は、合成ペプチドのGRKリン酸化に対するGSNOの影響を示すグラフであり、そして予備的実施例4の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(詳細な説明)
ここで本発明者らは、本明細書中の発明の方法に目を向け、これは、Gタンパク質レセプターキナーゼ活性と関係した疾患または病理状態を患う患者を処置するための方法に関し、ここで、Gタンパク質レセプターキナーゼ活性は、処置しなければ、その疾患または状態を制御するレセプターの脱感作を引き起こし、この方法は、NOドナーを投与する工程を包含し、このNOドナーは、一酸化窒素または関連する酸化還元種を提供し、そして一酸化窒素について同定された生物活性を提供して、Gタンパク質レセプターキナーゼ活性を阻害し、これによってこのレセプターを感作するかまたはこのレセプターの脱感作を予防する工程を、包含する。
【0012】
これら疾患または状態を制御するレセプターは、チオール含有レセプターであり、そして、例えば、β−アドレナリン作用性レセプター、α−アドレナリン作用性レセプター、μ−オピオイドレセプターおよびプロスタグランジンレセプターであり得る。
【0013】
疾患または状態を制御するレセプターがβ−アドレナリン作用性レセプターである疾患または状態としては、例えば、右心不全または左心不全、左心室心臓補助デバイスを装着して心臓移植を待つ患者、および心臓外科手術を受けたことがありそしてそれ以外に心機能の喪失なく、心臓ポンプから外されることができない患者、または心臓の事象について危険性がある、外科手術を受ける患者が、挙げられる。肺高血圧症の処置および全身性高血圧の処置は、本明細書中の発明から除外され、これらの処置は、本願に関する親出願において含められる。
【0014】
疾患または状態を制御するレセプターがα−アドレナリン作用性レセプターである疾患または状態としては、良性前立腺肥大症および尿失禁が挙げられる。
【0015】
疾患または状態を制御するレセプターがμ−オピオイドレセプターである疾患または状態を患う患者としては、疼痛に起因してオピエートで処置されている患者、またはオピエート中毒である患者が挙げられる。オピエートで処置されている患者としては、外科手術、癌または不慮の創傷に起因した激しい疼痛を患う患者が挙げられる。オピエートとしては、例えば、モルヒネ、オキシコドン、コデインおよびメペリジンが挙げられる。
【0016】
疾患または状態を制御するレセプターがプロスタグランジンレセプターである疾患または状態としては、慢性関節リウマチを含め、炎症性状態が挙げられる。嚢胞性線維症は、NOドナーがFEV1の12%より多くの迅速な低下を可能にするドナーであり、そしてNOドナーが12%より多くFEV1を迅速に低下させるのに十分である治療有効量(すなわち、気管支拡張を引き起こさない用量の使用)で投与される場合において、含められる;投与量を制限することに関係しないニトロ化(nitrolylation)薬剤を用いた、嚢胞性線維症を患う患者の処置は、WO 02/32418に教示される。
【0017】
上記に示されるように、GRKを能動的に阻害するために、本明細書中で投与される薬剤は、NOドナーである。NOドナーは、一酸化窒素または関連する酸化還元種を提供し、そしてより一般的には、一酸化窒素について同定される活性である一酸化窒素のNOの生物活性(例えば、血管弛緩またはレセプタータンパク質(例えば、rasタンパク質、アドレナリン作用性レセプター、NFκB)の刺激もしくは阻害)を提供する。NOドナーは、本明細書中で有用である、S−ニトロソ化合物、O−ニトロソ化合物、C−ニトロソ化合物およびN−ニトロソ化合物、ならびにこれらのニトロ誘導体、ならびにNO金属錯体が挙げられるが、他のNO生物活性生成化合物は除外されず、これのNOドナーは以下に記載される:Freelisch,M.およびStamler,J.S.によって編集された「Methods in Nitric Oxide Research」,John Wiley&Sons,New York,1996,71−115頁(これは、本明細書中で参考として援用される)。本明細書中で有用である、第三級炭素にニトロソが結合される、C−ニトロソ化合物であるNOドナーとしては、米国特許第6,359,182号およびWO 02/34705に記載されるものが、挙げられる。本明細書中で有用であるS−ニトロソチオールを含むS−ニトロソ化合物の例としては、例えば、以下が挙げられる:S−ニトロソグルタチオン(GSNO)、S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソ−システインおよびそのエチルエステル、S−ニトロソシステイニルグリシン、S−ニトロソ−γ−メチル−L−ホモシステイン、S−ニトロソ−L−ホモシステイン、S−ニトロソ−γ−チオ−L−ロイシン、S−ニトロソ−δ−チオ−L−ロイシン、ならびにS−ニトロソアルブミン。本明細書中で有用な他のNOドナーの例は、ナトリウムニトロプルシド(ニプリド(nipride))、エチルニトライト、ニトログリセリン、SIN1(これは、モルシドミン(molsidomine)である)、フロキサミン(furoxamine)、N−ヒドロキシ(N−ニロトサミン)、およびNOまたは疎水性NOドナーで飽和されているパーフルオロカーボンである。本明細書中での使用のための好ましいNOドナーは、GSNOである。疾患または病理状態を制御するレセプターがβ−アドレナリン作用性レセプターである疾患または病理状態の処置においてGSNOが投与される場合、このGSNOは、レセプターを感作するかまたはレセプターの脱感作を予防するため、ならびに心臓のポンプ機能を増大させるため、ならびに血圧を維持するかまたは増大するというα−アドレナリン作用性アゴニストの効果を提供するため、そしてまたリアノジンレセプターを活性化させこのようにしてこれがカルシウムを放出して向上した収縮性を生じるために、機能する。
【0018】
投与されるNOドナーの量は、レセプターによって制御される疾患または病理状態をそのレセプターに制御させ、そしてこのレセプターを感作するかまたはこのレセプターの脱感作を予防する、量である。レセプターを感作するかまたはレセプターの脱感作を予防する量は、薬理学的応答もしくは臨床学的応答によるか、またはレセプター結合研究によって、決定され得る。心不全を患う患者、または左心室心臓補助デバイスに接続されて心臓移植を待つ患者もしくは心臓外科手術を受けたことがありそしてこれ以外に心機能の喪失なく、心臓ポンプから外されることができない患者の場合において、投与されるNOドナーの投与量は、心臓のポンプ機能を増大させる投与量であり、そしてGSNOの場合においては、心筋の増殖もまた刺激する投与量である。手術手順のためのNOドナーの投与量は、心臓の事象から保護する投与量である。オピエートで処置されている患者またはオピエート中毒である患者のためのNOドナーの投与量は、オピエートの投与量を安定化させるかまたは軽減させて、特定のレベルの効果を得る投与量である。炎症状態のためのNOドナーの投薬量は、炎症緩和効果、例えば、気管支狭窄および低酸素症を緩和する効果であり、そして肺機能の長期低下、呼吸困難、咳、慢性的な気道感染、気管支拡張症、無気肺および嚢胞性線維症を患う患者における肺胸郭を予防する効果であり、そして慢性関節リウマチの場合においては、関節の炎症および圧痛(tenderness)および滑膜の肥厚(thickening)および関節のこわばり(stiffness)を軽減する効果である。
【0019】
一般的に、NOドナーの有効量を投与することは、血中で100ピコモル濃度〜100マイクロモル濃度でのNOドナーの量を達成するための投与を含み、投与される薬剤および処置される疾患または状態に依存する。
【0020】
好ましくは、NOドナーは、平均の動脈血圧または肺動脈圧を10%より多く低下させるには十分ではない治療有効量で、投与される。
【0021】
GSNOが処置薬剤である場合、好ましくは、1分当たり0.01nmol/kg〜1分当たり1000nmol/kg、非常に好ましくは1分当たり0.1〜10nmol/kgにわたる投薬量で投与される。疾患または状態を制御するレセプターがβ−アドレナリンレセプターである疾患または状態のためには、GSNOまたはNOドナーは、好ましくは、心臓のポンプ機能を増大させること、および心筋の増殖を引き起こすことの両方を行う量で投与され、そして非常に好ましくは、β−アドレナリン作用性レセプターのアゴニスト(例えば、イソプロテレノール、ドブタミンまたはドーパミン)と併用される。β−アドレナリン作用性レセプターのアゴニストは、好ましくは、心臓のポンプ機能を増大させる量で投与される。イソプロテレノールについては、この投薬量は、1分当たり0.5〜50μgにわたる。
【0022】
NOドナー処置薬剤の投与は、β−アドレナリン作用性アゴニストが投与されたかまたは投与されているかどうかに関わらず、慢性心不全を患う患者の場合において、利益を有する。慢性心不全において、カテコールアミンが高度に上昇し、これによってこのレセプターが下方制御され得、そして/またはこの系が脱感作されること、そしてβ−アドレナリン作用性アゴニストおよび他の強心剤が、慢性的に使用される場合、更なる下方制御および脱感作に起因して患者を殺害し得ることが、公知である。従って、GRKインヒビターとして機能するNOドナーは、β−アドレナリン作用性アゴニストの投与なしに使用され、独特の治療的な利益をもたらす。さらに、上記に示されるように、NOドナー処置薬剤は、β−アドレナリン作用性アゴニストと併用して投与される場合、慢性的な心疾患を患う患者の場合において利益を有する。
【0023】
本発明は、以下の予備的実施例によって支持され、そして以下の実施例によって例示される。
【実施例】
【0024】
(予備的実施例1)
皮下に配置されたazletのミニオスモティックポンプを介して1週間継続して注入された、1日当たり10ng/kgのGSNOまたはPBSで、マウスを処置した。別の組のマウスを、7日間イソプロテレノール(1日当たり30mg/kg)で処置し、そして第4グループおよび最後のグループは、7日間イソプロテレノール(1日当たり30mg/kg)およびGSNO(1日当たり10ng/kg)を受けた。これらのマウスを屠殺し、そして心臓組織を取り出した。Iaccarinoら、Circulation 98,17A3−17A9(1998)の手順に従って、精製した心膜において放射標識したI125−シアノピンドロールとの飽和結合を実施した。GSNOでもイソプロテレノールでも処置されないマウスについて、β−アドレナリン作用性レセプターの量を、タンパク質1mg当たり40〜50fmolであると決定した。GSNOで処置されていないがイソプロテレノール(1日当たり30mg/kg)で処置されたマウスについて、β−アドレナリン作用性レセプターの量を、タンパク質1ミリグラム当たり20fmolであると決定し、レセプターの下方制御を実証した。GSNOで処置されたがイソプロテレノールでは処置されないマウスについて、β−アドレナリン作用性レセプターの量を、タンパク質1mg当たり40fmolであるか、または正常なマウス(GSNOもイソプロテレノールもなし)についてと同等であることを、決定した。GSNOおよびイソプロテレノール(1日当たり30mg/kg)で処置されたマウスについて、β−アドレナリン作用性レセプターの量を、タンパク質1mg当たり90fmolであると決定した。この実験は、GSNOがイソプロテレノールによって引き起こされるβ−アドレナリン作用性レセプターの脱感作および下方制御を予防し、そしてβ−アドレナリン作用性レセプターの発現を刺激することを、示す。
【0025】
(予備的実施例2)
1週間継続して注入された、1日当たり10mg/kgのGSNOでか、またはPBS(コントロール)でか、もしくはイソプロテレノール(1日当たり30mg/kgの投薬量で)でか、もしくは1日当たり10mg/kgのGSNOおよび1日当たり30mg/kgのイソプロテレノールで、マウスを処置した。これらの動物を屠殺し、そして心臓を秤量し、そして心臓重量対体重の比を、各々の場合について決定した。これらの結果は図1に記載され、ここで、hw:bwすなわち垂直軸の記号は心臓重量対総体重の比であり、そして「ISO」はイソプロテレノールを意味する。図1に示されるように、GSNO処置は、β−アドレナリン作用性レセプターの脱感作を予防することと一致して、心筋のサイズを増大させる。イソプロテレノールでの処置もまた、心筋のサイズを増大させた。イソプロテレノールおよびGSNOの併用は、さらに一層の、心筋のサイズの増大における効果を有する。心臓サイズの増大(肥大)は、特に、左心室心臓補助デバイスを装着して心臓移植を待つ患者の場合において、そして心臓外科手術を受けたことがありそして心機能の喪失なく、心臓ポンプから外されることができない患者の場合において、有利である。図1におけるアスタリスクは、コントロールと比較してp>0.05を意味する。
【0026】
(予備的実施例3)
正常なGSNOレダクターゼを有するマウス(野生型またはWT)およびGSNOレダクターゼのノックアウトマウス(KO)(これは、GSNOレダクターゼのノックアウトを有し、これによってGSNOのレベルの増大を有する)を、気道刺激に対する応答性について、試験した。これらのマウスを、Drazen,J.ら,Annual Rev.Physiology 61,593−625(1999)に記載される手順に従って、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を用いてか、またはオボアルブミン(OVA)を用いて、チャレンジした。気道チャレンジの2週間前に、腹腔内注射によってオボアルブミン(OVA)に対してマウスを感作した。マウスに対して、メタコリンのチャレンジ(MCh)、その24時間後のエアロゾル化したPBSまたはOVAの気道チャレンジの後、基底の気道抵抗性測定(PenH)を実施した。エアロゾル化した生理食塩水(PBS)を用いてチャレンジしたマウスを、コントロールのグループとして用いた。これらの結果を、図2に示す。ここで、PenHは、気道抵抗性であり、そしてMChは、メタコリンのチャレンジである。図2に示されるように、野生型マウスは、メタコリン濃度12mg/mlおよび25mg/mlでOVAチャレンジした後、気道抵抗性において有意な増大を示したが、一方でKOマウスは全く変化を有さなかった。これらの結果は、GSNOの投与が、アレルゲンのチャレンジに対してより低い応答を引き起こすことを示唆し、さらにGSNOが、適切なGPCR(例えば、プロスタグランジンレセプター)の感作を引き起こすかまたはその脱感作を予防することを、示唆する。
【0027】
(予備的実施例4)
媒体、GRK、標準的な合成ペプチド基質およびリン酸供給源として放射標識した32P−アデノシン三リン酸(すなわち、32P−ATP)からなる単離された系を、提供した。この系上で、添加物なしの実行、および500μM グルタチオン(GSH)が存在する実行、およびGSNO(500μM)が存在する実行またはGSNO(50μM)が存在する実行またはGSNO(5μM)が存在する実行を、実施した。結合した32Pの量を1分当たりの計数(CPM)で測定した。これらの結果を、図3に示す。ここで、GSNOが存在する場合、32Pの取り込みにおいて濃度依存性の低減が示される。これらの結果は、GSNOがGRKを阻害して基質(取り込まれた32P)のリン酸化を阻害することを、示唆する。GRK阻害および基質のリン酸化妨害の同様の結果は、S−ニトロソ−システイン(L−SNC)がGSNOに置き換えられた場合に、見出された。
【0028】
(実施例I)
第4級のうっ血性心不全を患う65歳の老人が、息切れおよび徐脈発作(bradyacardia)で入院する。彼は、1分当たり10μgの静脈内のイソプロテレノールを受けて、症状が解消した。この患者は、引き続いて、心臓拍出量に対して滴定された、1分当たり1kg当たり10μgでIVのドブタミンに、切り替えられた。続く3日間にわたって、薬物を1分当たりkg当たり30μgまで増大させ、心臓拍出量を維持した。次いで、この患者に1分当たり1kg当たり2nmolでのIVのGSNOを開始し、そして続く24時間にわたって心臓拍出量を向上させた。次いで、ドブタミンの用量を徐々に低下させ、次いで停止した。この患者は、バイパス手術を受け、そして高度な危険性に直面していたにもかかわらず、良好に過ごしている。
【0029】
(実施例II)
心臓移植を待つ49歳の白人男性が、左心室心臓補助デバイスに据えられるが、重篤な息切れに苦しめられ続ける。彼は、1分当たり1kg当たり4nmolでのIVのGSNOを開始し、息切れを低下させ、そして心臓拍出量を増大させる。
【0030】
(実施例III)
駆出率17%を患う68歳の白人女性が、冠動脈バイパス移植を受ける。外科医は、患者からバイパスを取り外すことができない。静脈内GSNOを、1分当たり1kg当たり2nmolで開始し、そして2時間後、この患者はパイパスから首尾よく取り外される。
【0031】
(実施例IV)
転移性前立腺癌を患う75歳の白人男性は、オピエートに無反応である、重篤な骨の疼痛に苦しんでいる。彼は、モルヒネと併用して、1分当たり1kg当たり10nmolでの静脈内GSNOを開始し、このことは、現在、彼の苦痛を緩和させる。
【0032】
(実施例V)
29歳のヘロイン(heroine)常用者が入院し、ここで彼の用量は、徐々に低下された。禁断症状を避けるために、静脈中にエチルニトライトを1分当たり1kg当たり2nmolで開始し、そして禁断症状(発汗および身震いが挙げられる)は、緩和される。
【0033】
(実施例VI)
嚢胞性線維症を患う17歳の白人女性が、息切れを訴えて入院する。彼女は、吸入されるβアゴニストを開始したが、その後6日間にわたってほとんど改善を示さない。彼女は、吸引されるGSNO(10mM溶液3cc、pH7、1日当たり4回)を開始する。彼女のFEV1は速やかには変化せず彼女の血圧安定のままであるが、息切れの症状はその後48時間にわたって解消する(FEV1の向上に対応する)。
【0034】
(実施例VII)
慢性関節リウマチおよび肺の浸潤を患う66歳の白人女性が、息切れおよび膝の疼痛を訴える。彼女は、1分当たり1kg当たり2nmolでの静脈内のエチルニトライトを開始し、呼吸状態が改善し、そして膝の疼痛が低下する。
【0035】
(バリエーション)
上記のバリエーションは、当業者に明らかである。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって決定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−159307(P2010−159307A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101547(P2010−101547)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願2004−548325(P2004−548325)の分割
【原出願日】平成15年10月20日(2003.10.20)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【Fターム(参考)】