説明

レチノイド受容体によって仲介される過程の修飾方法およびそれに有用な化合物

【課題】本発明は,レチノイド受容体によって仲介される過程を,このような受容体に対する高親和性,高特異性リガンドを用いて修飾する方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様においては,レチノイン酸よりも,レチノイドX受容体に対して高い選択性を有するリガンド(すなわち,レキソイド)を提供する。本発明の他の態様においては,レチノイン酸受容体仲介過程を誘導できる別の(レチノイン酸以外の)リガンドが発見された。さらに他の態様においては,容易に入手できる化合物から,このようなレチノイド受容体リガンドを製造する方法が開発された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞内受容体およびそのリガンドに関する。特定の態様においては,本発明はレチノイド受容体によって仲介される過程を修飾する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真核生物の分子生物学における中心的な課題は,依然として,ホルモンまたは成長因子のような外因性インデュ−サ−に応答して特異的遺伝子調節を仲介する分子および機構の解明である。この問題に対する科学的探究の一部として,多くの研究により,特異的な遺伝子調節を仲介できる外因性インデュ−サ−を同定するための努力が払われてきた。
遺伝子調節の詳細についてはなお解明すべき多くの問題が残されてはいるものの,外因性のインデュ−サ−が,細胞内受容体ならびにホルモンレスポンスエレメント(HRE)として知られる部分DNA配列を包含する細胞内成分とともに働くことにより,遺伝子転写を修飾することが明らかにされている。
ステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のさらに他のメンバ−が同定されるとともに,このような新たに発見された受容体の外因性インデュ−サ−[すなわち,天然に存在する(または合成の)インデュ−サ−]の探索が,遺伝子調節の詳細についての解明への努力の重要な部分となってきたのである。
ステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のレチノイドメンバ−は,たとえば,レチノイン酸,レチノ−ル(ビタミンA),および広範囲の系において発生および分化に強力な作用を発揮することが見出されている一連の天然および合成の誘導体を包含するレチノイドと呼ばれる化合物に応答する。
レチノイド受容体と相互作用し,それによってレチノイン酸(またはビタミンAの他の代謝物)に応答する遺伝子の転写に影響を与える化合物の同定は,たとえば治療的応用に重要な価値をもつものと思われる。
【0003】
最近,RAR−α(レチノイン酸受容体- α)と呼ばれるレチノイン酸依存性転写因子が同定された。続いて,さらに2種類のRAR- 関連遺伝子が単離され,したがって現在,少なくとも3種の異なるRARサブタイプ(α,βおよびγ)のマウスおよびヒトにおける存在が知られている。これらのレチノイン酸受容体(RAR)はステロイドホルモンおよび甲状腺ホルモン受容体のス−パ−ファミリ−とホモロジ−を有し,類似のリガンド依存性機構によって特定の遺伝子発現を調節することが明らかにされた[非特許文献1参照]。これらのRARサブタイプは,発生の過程を通じまた成熟生物において独特なパタ−ンで発現される。
【0004】
さらに最近,ステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のさらに新規なメンバ−,たとえばレチノイドX受容体- α[RXR−α;非特許文献2参照],レチノイドX受容体−β[RXR−β;非特許文献3参照],およびレチノイドX受容体−γ[RXR−γ;非特許文献4参照]が同定された。これらの新規な受容体はレチノイン酸に応答するが,これらの受容体に対する一次的な外因性インデュ−サ−は同定されていない。
【0005】
RARおよびRXRはいずれもインビボでレチノイン酸に応答するが,これらの受容体はいくつかの重要な点で異なっている。第一に,RARとRXRは一次構造が有意に異なる(たとえば,RARαとRXRαのリガンド結合ドメインはわずか27%のアミノ酸が一致するのみである)。これらの構造的な差は,様々なビタミンA代謝物および合成レチノイドに対するRARおよびRXRの相対的な応答程度の差に反映している。さらにRARおよびRXRの組織分布には明らかに異なるパタ−ンが認められる。内臓組織では高レベルの発現をみないRARとは異なり,RXRαのmRNAは肝臓,腎臓,肺臓,筋肉および腸に最も豊富であることが明らかにされている。結局,RXRに対する応答性は付与するが,RARに対しては応答性を付与しないレスポンスエレメントが,最近,細胞性レチノ−ル結合蛋白質II型(CRBPII)およびアポリポ蛋白AI遺伝子中に同定された。実際,RARはまた,CRBPII−RXRレスポンスエレメントによるRXR仲介アクチベ−ションを抑制することが,最近明らかにされている。これらのデ−タは,RARおよびRXRの両者がRARβプロモ−タ−のRARレスポンスエレメントを介してアクチベ−トできることの観察とともに,この2つのレチノイン酸応答経路は単に重複しているのではなく,複雑な相互作用を提供するものであることを示している。
【0006】
これらの受容体の類似の,しかしながら明らかに異なる性質から,レチノイドX受容体に対してレチノイン酸より高い選択性を示すリガンドの同定が,これらの受容体種の一方または両者によって仲介される過程の選択的な制御に大きな価値があるものと思われる。
【0007】
本発明の理解および実施に役立つ他の情報は,ともに譲渡された係属中の米国特許出願連続番号第108,471号,1987年10月20日出願(現時点では特許文献1として発行);第276,536号,1988年11月30日出願(現時点では特許文献2として発行);第325,240号,1989年3月17日出願;第370,407号,1989年6月22日出願;および438,757号,1989年11月16日出願に見出すことができる。これらはすべてその全体を参考として本明細書に導入する。
【特許文献1】米国特許第5,071,773号
【特許文献2】米国特許第4,981,784号
【非特許文献1】Umesono ら,Nature336 : 262 (1988 )
【非特許文献2】Mangelsdorfら,Nature345 :224-229(1990)
【非特許文献3】Hamadaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 86:8289-8293(1989)
【非特許文献4】Mangelsdorf ら,Genes & Development 6 :329-344(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明によれば,レチノイド受容体仲介過程を,このような受容体に対する高親和性,高特異性リガンドを用いて修飾する方法が開発された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの特定の態様においては,レチノイド受容体に対する高親和性,高特異性リガンドであるリガンドが提供される。すなわち,本発明の一態様においては,レチノイドX受容体に対して全-trans−レチノイン酸よりもさらに選択性の高いリガンドが提供される。本発明の他の態様においては,本発明者らは,レチノイン酸受容体仲介過程を誘導できる他の(全-trans−レチノイン酸以外の)リガンドを発見した。
本発明のさらに他の態様においては,容易に入手できるレチノイド化合物からこのようなレチノイド受容体リガンドを製造する方法が開発された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によれば,レチノイド受容体によって仲介される過程を修飾する方法に
おいて,上記過程を構造
【化1】


構造A
の少なくとも1種の化合物の存在下に行わせることからなる方法を提供する。
構造A中,
炭素原子CとC10の間の不飽和はシス立体配置を有し,炭素原子C11〜C14の間の不飽和の一方の部位または両部位はシス立体配置を有してもよく,
「Ring 」は1個または2個以上の置換基をもっていてもよい環状残基であり,
Zは,カルボキシル(−COOH),カルボキシアルデヒド(−COH),ヒドロキシアルキル[−(CR'−OH,式中,R' はそれぞれ独立に水素または低級アルキルから選択され,nは1から約4までの範囲の数である],チオアルキル[−(CR'−SH,式中,R' およびnは上に定義した通りである],ヒドロキシアルキルホスフェ−ト[−(CR'−OP(OM),式中,R' およびnは上に定義した通りであって,Mは水素,低級アルキル,またはNa ,Li ,K等のような陽イオン種である],ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル[−(CR'−OR' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],チオアルキル基のアルキルチオエ−テル[−(CR'−SR' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],ヒドロキシアルキル基のエステル[−(CR'−O−CO−R' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],ヒドロキシアルキル基のチオエステル[−(CR'−O−CS−R' ,式中R' およびnは上に定義した通りである],チオアルキル基のエステル[−(CR'−S−CO−R' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],チオアルキル基のチオエステル[−(CR'−S−CS−R' ,式中R' およびnは上に定義した通りである],アミノアルキル[−(CR'−NR',式中R' およびnは上に定義した通りである],N−アシルアミノアルキル[−(CR'−NR'-CO- R”,式中R' およびnは上に定義した通りであり,R''は低級アルキルまたはベンジルである],カルバメ−ト[−(CR'−NR'-CO−OR' もしくは−(CR'−O−CO−NR',式中,R' およびnは上に定義した通りである]等から選ばれ,
Rは,それぞれ独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基等から選ばれ,あるいは,
R基の任意の2個またはそれ以上が互いに連結して1個または2個以上の環構造を形成することができる。
【0011】
最後に挙げた場合のR基の例は,アルキレン,オキシアルキレン,チオアルキレン等から選択される。
本明細書で用いられる「修飾する」の語は,ステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のメンバ−に対するリガンドが,ホルモン発現制御下に維持された遺伝子の発現を誘導するまたはこのような制御下に維持された遺伝子の発現を抑制する能力を意味する。
【0012】
本明細書で用いられる「レチノイド受容体によって仲介される過程」の句は,天然のもしくは合成のレチノイド,または本明細書で定義される天然のもしくは合成の化合物(本明細書に記載される多くの化合物のレチノイドX受容体を選択的にアクチベ−トする能力により,本明細書においては「レキソイド」と呼ぶ)に応答する受容体または複合受容体によって仲介される生物学的,生理学的,内分泌学的または他の生体過程を意味する。このような過程の修飾は,インビトロまたはインビボにおいて達成できる。インビボ修飾は,広範囲の対象,たとえばヒト,齧歯類動物,ヒツジ,ブタ,ウシ等で実施できる。
【0013】
レチノイド,および本明細書において定義された天然または合成化合物(すなわち,「レキソイド」)に応答する受容体の例には,レチノイン酸受容体−α,レチノイン酸受容体β−,レチノイン酸受容体−γ,およびこのような受容体の遺伝子によってコ−ドされるスプライシング変異体;レチノイドX受容体−α,レチノイドX受容体−β,レチノイドX受容体−γ,およびこのような受容体の遺伝子によってコ−ドされるスプライシング変異体;ならびにそれらの様々な複合体(すなわち,ホモダイマ−,ホモトリマ−,ヘテロダイマ−,ヘテロトリマ−等)および,このような受容体と,レチノイド受容体がヘテロダイマ−,ヘテロトリマ−およびより高度なヘテロマルチマ−を形成して相互作用できる他のステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のメンバ−との複合体が包含される。たとえばレチノイン酸受容体−αはレチノイドX受容体−αとヘテロダイマ−を形成し,レチノイン酸受容体−βはレチノイドX受容体−αとヘテロダイマ−を形成し,レチノイン酸受容体−γはレチノイドX受容体−αとヘテロダイマ−を形成し,レチノイドX受容体−αは甲状腺ホルモン受容体とヘテロダイマ−を形成し,レチノイドX受容体−βはビタミンD受容体とヘテロダイマ−を形成し,レチノイドX受容体−γはレチノイン酸受容体−αとヘテロダイマ−を形成する等である。
【0014】
本明細書において使用される「ステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のメンバ−」(「核受容体」または「細胞内受容体」としても知られる)の句は,リガンド依存性転写因子として作動するホルモン結合蛋白質を意味し,特異的リガンドがまだ確認されていないステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−の同定されたメンバ−(以下,「オ−ファン受容体」という)も包含する。これらのホルモン結合蛋白質は特異的DNA配列に結合する固有の能力を有する。結合に続いて,標的遺伝子(すなわち,特異的DNA配列を伴う遺伝子)の転写活性が,受容体に結合するリガンドの機能として修飾される。
【0015】
これらの核受容体すべてのDNA結合ドメインは類似し,66〜68アミノ酸残基からなり,9個のシステインを含む約20個の不変アミノ酸を有する。
ス−パ−ファミリ−のメンバ−は上述の不変アミノ酸残基を含有する蛋白質として同定され,これらは,ヒトのグルココルチコイド受容体(アミノ酸421〜486),エストロゲン受容体(アミノ酸185〜250),鉱質コルチコイド受容体(アミノ酸603〜668),ヒトのレチノイン酸受容体(アミノ酸88〜153)のような既知のステロイド受容体のDNA−結合ドメインの部分である。ス−パ−ファミリ−のメンバ−のDNA- 結合ドメインの高度に保存されたアミノ酸は次の通りである。
【0016】
Cys−X−X−Cys−X−X−Asp−X−Ala−X−Gly−X−
Tyr*−X−X−X−X−Cys−X−X−Cys−Lys*−X−Phe−Phe−
X−Arg−X−X−X−X−X−X−X−X−X−(X−X−)Cys−X
−X−X−X−X−(X−X−X−)Cys−X−X−X−Lys−X−X−
Arg−X−X−Cys−X−X−Cys−Arg−X−X−Lys−Cys−X−
X−X−Gly−Met(配列番号1)
【0017】
式中,XはDNA−結合ドメイン内の非保存アミノ酸を意味し,星印を付した残基はほぼ普遍的に保存されているが同定されたホルモン受容体の一部で変異が見出されている残基,括弧内の残基は任意の残基である(したがって,DNA−結合ドメインは最低66アミノ酸長であるが,さらに数個のアミノ酸を含有することもある)。
【0018】
ステロイド/甲状腺ホルモン受容体ス−パ−ファミリ−のメンバ−の例には,ステロイド受容体たとえばグルココルチコイド受容体,鉱質コルチコイド受容体,プロゲステロン受容体,アンドロゲン受容体,ビタミンD受容体等;さらにはレチノイド受容体,たとえばRARα,RARβ,RARγ等,およびRXRα,RXRβ,RXRγ等;甲状腺ホルモン受容体たとえばTRα,TRβ等;ならびにそれらの構造および性質により上に定義したス−パ−ファミリ−のメンバ−と考えられる他の遺伝子産物が包含される。オ−ファン受容体の例にはHNF4[たとえばSladekら,Genes & Development4:2353-2365(1990) 参照],COUPファミリ−受容体[たとえばMiyajimaら,Nucl.Acids Res.16:11057-11074(1988),Wangら,Nature 340 :163-166(1989)参照],COUP様受容体およびCOUP類縁体[たとえばMlodzik ら,Cell 60:211-224(1990)およびLadiasら,Science251 :561-565(1991)に記載されている],ウルトラスピラクル受容体[たとえばOroら,Nature 347 :298-301(1990)参照]等が包含される。
【0019】
本発明において,レチノイド受容体によって修飾されることが可能な過程には,インビトロ細胞分化および増殖,メラノ−マ細胞系のインビトロ増殖,マウス奇形癌細胞(F9細胞)のインビトロ分化,ヒト表皮角化細胞のインビトロ分化,四肢形態形成,細胞性レチノ−ル結合蛋白質(CRBP)の調節等が包含される。本技術分野の熟練者には容易に認識されるように,レチノイドX受容体のリガンドを利用できることは,上記受容体に対するアゴニストの同定のためのアッセイを初めて可能にするものである。
【0020】
本発明において,レチノイド受容体によって修飾されることが可能な過程にはまた,脂質代謝のインビボ修飾,皮膚関連過程(たとえば,座瘡,加齢,皺,皮膚癌等)のインビボ修飾,たとえば急性前骨髄球性白血病,睾丸腫瘍,肺癌等で起こる悪性細胞発生のインビボ修飾等が包含される。本発明の化合物のこのような過程を修飾する能力は多くの方法によって立証されている。たとえば,図6には,RXR−αがそれに対するリガンド(たとえば9-cis- レチノイン酸)の存在下に,アポリポ蛋白AIの調節エレメントの制御下にある遺伝子の発現に強力な影響を発揮する能力をもつことが示されている。同様に,実施例に示したような様々な疾患状態に対するモデル系(たとえば,急性前骨髄球性白血病のモデルとしてのHL60細胞の分化,皮膚癌のモデルとしてのメラノ−マ細胞系の増殖,非悪性皮膚疾患のモデルとしての角化細胞の分化等)での研究により,レチノイド受容体の,それに対するリガンドたとえば9-cis- レチノイン酸の存在下においてこのような疾患状態に強力な影響を発揮する能力が証明されている。本発明のこのようなインビボ適用は,望ましくない副作用の発生を抑えて様々な生物学的過程等の修飾を可能にするものである。
【0021】
本発明の方法(および組成物)のインビボ適用は広範囲の対象,たとえばヒト,齧歯類動物,ヒツジ,ブタ,ウシ等に使用できる。
本明細書において用いられる「アルキル」の語は,「低級アルキル」,すなわち1から約4個までの炭素原子を有するアルキル残基を意味し,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert−ブチル基等である。
【0022】
本発明の実施に際して使用される化合物の一部として意図される環状残基には,5−,6−,および7−員の炭素環,ヘテロ環,芳香環またはヘテロ芳香環が包含される。この定義に包含される環状残基には,たとえば,任意に置換された飽和,モノ不飽和またはポリ不飽和炭素環種,たとえばシクロペンタン,シクロペンテン,シクロヘキサン,シクロヘキサ−2−エン,シクロヘキサ−3−エン,シクロヘキサ−4−エン,およびシクロヘキサ−5−エン異性体,ならびにその2,4−,2,5−,および3, 5−シクロヘキサジエン変異体が包含される。本発明の実施に際して使用される化合物の一部として意図されるヘテロ環種の例には,ジヒドロフラン,テトラヒドロフラン,ジヒドロチオフェン,テトラヒドロチオフェン,ジヒドロピラン,テトラヒドロピラン,ジヒドロチオピラン,テトラヒドロチオピラン,ピペリジン,ピロリジン等,ならびにそれらの誘導体が包含される。本発明の実施に際して使用される化合物の一部として意図される芳香環またはヘテロ芳香環種の例には,フェニル,トリル,キシリル,メシチル,ベンジル,ピリジル,チオフェニル,フラニル等,ならびにそれらの誘導体が包含される。
【0023】
好ましい環状残基は通常,ジェミナルにジ置換されたモノ不飽和種である。現時点で好ましいジェミナルにジ置換されたモノ不飽和環状残基は,天然に存在するレチノイン酸の1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造(すなわち,β−イオノンの環状構造,環上の置換基の位置はβ−イオノンの環状構造に対する旧来のレチノイン酸慣用命名法を用いて指定する),ならびに旧来のβ−イオノン構造のヒドロキシ−またはケト−置換誘導体によって与えられる1,1,4,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造である。
【0024】
本発明の実施における使用が意図される化合物には以下の構造
【化2】


構造A
を有する化合物が包含される。
【0025】
構造A中,炭素原子CとC10の間の不飽和はシス立体配置を有し,炭素原子C11〜C14の間の不飽和の一方または両部位はシス立体配置を有してもよく,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキル,カルバメ−ト等から選ばれ,
,C,C,C10,C11,C12,C13,またはC14それぞれの上のRは,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,あるいは,R基の任意の2個またはそれ以上が互いに連結して1個または2個以上の環構造を形成することができる。
【0026】
上記一般構造によって表される現時点で好ましい化合物には,9-cis−レチノイン酸,ならびにその新規な誘導体たとえば9−フェニル−9-cis−レチノイン酸,4−ヒドロキシ−9-cis−レチノイン酸,4−ケト−9-cis−レチノイン酸等が包含される。
本発明の他の好ましい実施態様においては,CおよびC13上の置換基はメチルであり,さらに他の好ましい態様においては,側鎖炭素(すなわちC,C,C,C10,C11,C12,C13,またはC14)の2個またはそれ以上の上の置換基は互いに連結して環構造を形成することができる。たとえば次の構造のように,
【化3】


構造I
およびC11上の置換基が互いに連結して拘束された9-cis二重結合を有する構造(すなわち9-cisが固定されたレキソイド誘導体)を形成することができる。
【0027】
上記構造I中,
Xは,−[(CR)W'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,
−S(O)−,チオカルボニル(>CS),−NR”-,または−CR−であり,
R,Ring およびZは先に定義した通りであり,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ルまたはアルコキシアシル(−CO−O−アルキル)であり,
xは0,1または2であり,
yは0,1または2であり,
x+yは2または2より小さい。
このような化合物にはシクロペンテン誘導体,シクロヘキセン誘導体,シクロペプテン誘導体,ジヒドロフラン誘導体,ジヒドロピロ−ル誘導体等が包含され,
この場合,CおよびC11を連結した環状構造はCとC10の間のcis 二重結合の異性化を防止するのに有効である。
【0028】
構造Iにおいてとくに好ましい誘導体は,Zがカルボキシル基であり,Ringは次の構造
【化4】


β−イオノン環構造
を有するβ−イオノン様種の誘導体である。
【0029】
上記構造中,
Rはそれぞれ独立に上に定義した通りであり,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-(R”は上に定義した通りである)で置換されることが可能で,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,それらの2, 4−,2, 5−,もしくは3, 5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する。
【0030】
本発明の実施に際して使用するのにとくに好ましい種は,構造IにおいてZがカルボキシル基であり,Ring が1, 1, 5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の誘導体である。
【0031】
同様に,C10およびC13上の置換基は互いに結合して拘束された9,11-ジ−cis 立体配置を有する構造(すなわち9-cisが固定されたレキソイド誘導体),以下の構造のように形成することができる。
【化5】


構造II

上記構造II中,
X,X' ,R,R”,Z,Ring ,xおよびyは上に定義した通りである。
このような化合物にはシクロペンテン誘導体,シクロヘキセン誘導体,シクロペプテン誘導体,ジヒドロフラン誘導体,ジヒドロピロ−ル誘導体等が包含され,この場合,C10およびC13を連結した環状構造はCとC10の間のcis 二重結合の異性化を防止し,またC11およびC12の間のcis 二重結合の異性化を妨害するのに有効である。
【0032】
構造IIのとくに好ましい誘導体は,Zがカルボキシル基であり,Ring が1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1, 4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の誘導体である。
同様に,C,C11,および/またはC14上の少なくとも2つの置換基は互いに連結して拘束された9,13-ジ-cis立体配置を有する構造(すなわち9-cisが固定されたレキソイド誘導体)を,以下に構造IIIとして示すように形成することができる。
【化6】


構造III
上記構造III中,
一方のAはXであり,他方のAはX' であり,
X,X' ,R,R”,Z,Ring ,xおよびyは上に定義した通りである。
本技術分野の熟練者には明らかなように,2個の架橋基(A)の間の連結は,互いに融合環を連結するのに必要な結合を収容できるように,原子価3または4の原子(すなわち,炭素または窒素)を介してのみ存在できる。
【0033】
同様に,C,C11,および/またはC14上の少なくとも2つの置換基は互いに連結し,さらにCまたはC上の置換基に連結して,拘束された9,13-ジ-cis 立体配置を有する構造(すなわち9-cisが固定されたレキソイド誘導体)を,以下に構造IVとして示すように形成することができる。
【化7】


構造IV
上記構造IV中,
一方のAはX,他方のAはX' であり,
BはX' であり,
X,X' ,R,R”,Z,Ring ,xおよびyは上に定義した通りである。
本技術分野の熟練者には明らかなように,架橋基(A)および(B)の間の連結は,互いに融合環を連結するのに必要な結合を収容できるように,原子価3または4の原子(すなわち,炭素または窒素)を介してのみ存在できる。
このような化合物にはシクロペンテン誘導体,シクロヘキセン誘導体,シクロペプテン誘導体,ジヒドロフラン誘導体,ジヒドロピロ−ル誘導体等が包含され,この場合,C,C11,および/またはC13を連結する環状構造は炭素9および炭素13における二重結合の異性化を防止するのに有効である。
【0034】
構造IIIおよびIVのとくに好ましい誘導体は,Zがカルボキシル基で,Ring が1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の誘導体である。
同様に,C10およびC11上の置換基は互いに連結し,拘束された9-cis二重結合を有する構造(すなわち9-cisが固定されたレキソイド誘導体)を,以下に示すように形成することができる。
【化8】


構造V
上記構造V中,
X”は−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' ,R,R”,Z,Ring およびZは上に定義した通りであり,
aは0,1,2,3または4であり,
bは0,1,2,3,または4であり,
a+bは2以上であるが,4以下である。
このような化合物にはシクロペンテン誘導体,シクロヘキセン誘導体,シクロペプテン誘導体,ジヒドロフラン誘導体,ジヒドロピロ−ル誘導体等が包含され,この場合,C10およびC11を連結する環状構造はCとC10の間のcis 二重結合の異性化を防止するのに有効である。
【0035】
構造Vのとくに好ましい誘導体は,Zがカルボキシル基で,Ring が1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の誘導体である。
【0036】
同様に,CおよびC上の置換基は互いに連結し,またC10およびC12上の置換基は互いに連結して,拘束された9-cis二重結合を有する構造(すなわち,9-cisが固定されたレキソイド誘導体)を,以下に示すように,形成することができる。
【化9】


構造VI
上記構造VI中,
Yは−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' ,R,R”,Z,Ring およびZは上に定義した通りであり,
cは0,1,2または3であり,
dは0,1,2または3であり,
c+dは1以上であるが,3以下である。
【0037】
このような化合物にはシクロペンテン誘導体,シクロヘキセン誘導体,シクロペプテン誘導体,ジヒドロフラン誘導体,ジヒドロピロ−ル誘導体等が包含され,この場合,CおよびC,ならびにC10およびC12を連結する環状構造はCとC10の間のcis 二重結合の異性化を防止するのに有効である。
【0038】
構造VIのとくに好ましい誘導体は,Zがカルボキシル基で,Ring が1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の誘導体である。
同様に,CおよびC10上の置換基は互いに連結して,拘束されたC−9二重結合を有する構造(すなわち,9-cisが固定されたレキソイド誘導体)を,以下に示すように形成することができる。
【化10】


構造VII

上記構造VII中,
X”'は,X”であるかまたは構造
−[Q=CR−J]
(構造中,Qは−N=または−CR=であり,Jは−CR=CR−,−N=CR−,−CR=N−,−O−,−S−,または−NR”-である)であって,レキソイド化合物のCおよびC10を芳香性(または擬芳香性)環に導入する不飽和連結基であり,
X' ,X”,R,R”,Z,Ring ,Z,aおよびbは上に定義した通りである。
【0039】
このような化合物には,シクロヘキセン誘導体,シクロペプテン誘導体,ベンゼン誘導体,ピリジン誘導体,フラン誘導体,チオフェン誘導体,ピロ−ル誘導体,オキサゾ−ル誘導体,チアゾ−ル誘導体,イミダゾ−ル誘導体,ピラゾ−ル誘導体等が包含され,この場合CおよびC10を連結する環状構造はC−C10二重結合の異性化を防止するのに有効であるが,8−9および/または10−11単結合の周囲の回転は依然として起こりうる。
構造VIIのとくに好ましい誘導体は,Zがカルボキシル基で,Ring が1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の誘導体である。
上に掲げた構造に加えて,本技術分野の熟練者であれば,本発明の実施に際して使用される基本的なシス立体配置を含むレキソイド化合物を拘束する別の手段を容易に確認することが可能であろう。
【0040】
本発明の好ましい実施態様においては,環状残基は上述のβ−イオノン構造を有する。とくに好ましい構造は,1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造(β−イオノンの特徴)ならびにそれと極めて類似した1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造であって,これらから本発明の多くのレキソイド化合物を製造することができる。
本発明のとくに好ましい実施態様においては,本発明の方法に使用される化合物は,上掲の構造Aによって意図されるような9-cis−レチノイン酸およびその誘導体,ならびに上掲の構造I〜VIIで示されるようなレチノイン酸の9-cisが固定された誘導体から選択される。本発明の実施に際しての使用が意図される特定の化合物の例には,Zがカルボキシル基で,Ring がβ−イオノンに特徴的な1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造(またはそれと極めて類似した1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造)であって,構造I〜VIIについて上述したような側鎖構造を有する化合物がある。
【0041】
上述の「レキソイド」誘導体は,本技術分野の熟練者には容易に利用可能なよく知られた様々な合成法を用いて製造することができる。たとえば,Chemistry and Biology of Synthetic Retinoids, Dawson & Okamura編,CRS Press Inc.,(1990)に記載の方法が参考になる。とくに,Ito 著,第4章(78-97 頁)およびLeraら著,第9章(202-227 頁)は本明細書に記載の化合物の製造にそのまま適用できる。この刊行物の内容は参考として本明細書に導入する。また,Asatoら,J.Am.Chem.Soc.108 :5032 (1986),Shevesら,J.Am.Chem.Soc.108 :6440(1986),Akita ら,J.Am.Chem.Soc.102 :6370 (1980),Derguini & Nakanishi ,Photobio-chem. and Photobiophys.13:259(1986)が参考になる。
これらの全内容を参考として本明細書に導入する。
【0042】
本発明の他の実施態様においては,レチノイド受容体によって仲介される過程を修飾する方法において,その過程を,
(a)構造
【化11】


(上記構造中,炭素原子C〜C14からなる側鎖における不飽和の各部位はトランス立体配置を有し,「Ring 」,Z,およびRは上述の通りである)の化合物少なくとも1種,および
(b)少なくとも9−二重結合をトランス−立体配置からシス−立体配置に変換できるcis/trans イソメラ−ゼ
の存在下に実施することからなる方法を提供する。
【0043】
ここで使用した「cis/trans イソメラ−ゼ」の語は,二重結合における幾何的立体配置の変化を促進する酵素を意味する。このような酵素の例には,マレイン酸イソメラ−ゼ,マレイルアセト酢酸イソメラ−ゼ,レチナ−ルイソメラ−ゼ,マレイルピルビン酸イソメラ−ゼ,リノレン酸イソメラ−ゼ,フリルフラミドイソメラ−ゼ等が包含される。
【0044】
本発明のさらに他の実施態様においては,構造
【化12】


(上記構造中,炭素原子CとC10の間の不飽和はシス立体配置を有し,C11〜C14上の間の不飽和の一方または両部位は任意にシス立体配置を有し,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキル,カルバメ−ト等から選ばれ,
Rは,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれる)の化合物を相当する全トランス立体配置の原料から製造するにあたり,その全トランス立体配置の原料をcis/trans イソメラ−ゼと異性化条件下に接触させることからなる方法を提供する。
【0045】
本発明のさらに他の実施態様においては構造Aの化合物(以前から同定されていた化合物たとえばレチノイン酸を除く)ならびに上掲の構造I〜VIIから選択される拘束された化合物からなる新規な組成物を提供する。このような化合物の例には,9−フェニル−9-cis−レチノイン酸,4−ヒドロキシ−9-cis−レチノイン酸,4−ケト−9-cis−レチノイン酸等が包含される。現時点で好ましい化合物は,Zがカルボキシル基で,Ring が1,1,5−トリ置換シクロヘキサ−5−エン構造または1,1,4,5−テトラ置換シクロヘキサ−5−エン構造の化合物である。
【0046】
本発明の化合物は,インビトロおよびインビボの両適用に使用することができる。インビボ適用のためには,本発明の化合物は,投与用に,医薬的に許容される処方中に導入することができる。本発明の化合物をそのように使用する場合の適当な投与量レベルは,本技術分野の熟練者であれば容易に決定することができる。
本明細書で用いられる「適当な投与量レベル」の句は,レチノイド受容体のアクチベ−ションを生じるのに十分高い循環濃度を提供する化合物のレベルを意味する。この濃度は通常約10nMから2μMまでの範囲であり,約100nMから200nMの範囲の濃度がとくに好ましい。
本発明の特定の実施態様においては,少なくとも1種の9-cis−レチノイン酸様化合物(上述のような)と医薬的に許容される担体からなる組成物が意図される。医薬的に許容される担体の例には,経口,静脈内,皮下,筋肉内,皮内等の投与に適当な担体が包含される。クリ−ム,ロ−ション,錠剤,分散性粉末,顆粒,シロップ,エリキシ−ル,滅菌水溶液もしくは非水溶液,懸濁液もしくは乳化液等の形態での投与が意図される。
【0047】
経口投与用液製剤の製造に適当な担体には,乳化液,溶液,懸濁液,シロップ等が包含され,これらには湿潤剤,乳化剤および懸濁剤,甘味剤,矯味剤および芳香剤等のような添加剤を任意に含有させることができる。
非経口投与用の液体の製造に適当な担体には,滅菌水溶液もしくは非水溶液,懸濁液,または乳化液が包含される。非水性溶媒またはビヒクルの例には,プロピレングリコ−ル,ポリエチレングリコ−ル,植物油たとえばオリ−ブ油およびト−モロコシ油,ゼラチン,ならびに注射可能な有機エステルたとえばオレイン酸エチルがある。このような剤形にはまた,防腐剤,湿潤剤,乳化剤および分散剤のような補助剤を添加することができる。これらは,たとえば,細菌除去濾過器を通す濾過,組成物中への殺菌剤の添加,組成物の放射線照射,または組成物の加熱によって滅菌することができる。これらはまた,使用の直前に,滅菌水またはある種の他の滅菌注射用メジウムの形態に調製することもできる。
本発明は,以下の非限定的実施例によってさらに詳細に説明する。
【0048】
実施例
例1
RXRを活性化する化合物の同定
レチノイン酸がRXRに直接結合する生成物に変換して転写を修飾できるか否かを確認するために,RXRの転写特性を修飾できるレチノイン酸代謝物を同定するための戦略を開発した。このような活性代謝物の同定が行われれば,この代謝物が受容体蛋白質に直接結合できるか否かをさらに決定することが可能になるものと思われる。
したがってDrosophila melanogaster シュナイダ−細胞系(S2)を全-trans - レチノイン酸(RA)とともにまたはその不存在下に,24時間インキュベ−トした。レチノイン酸の添加前に,Drosophila melanogaster シュナイダ−細胞系(S2)細胞をペニシリン,ストレプトマイシンおよび12%熱不活性化FCS(Irvine Scientific )を補充したシュナイダ−Drosophilaメジウム(GIBCO)中で増殖させた。100個の組織培養フラスコ(75cm)に10個の細胞と12ml/フラスコの培地を配置した。24時間後,各フラスコに全-trans−レチノイン酸(またはエタノ−ル溶媒対照)を最終濃度5×10−6Mになるように減光条件下に添加した。24時間後に,800gで5分間遠心分離して細胞を収穫した。細胞をPBSで2回洗浄し,得られたペレットを抽出するまで,−80℃で凍結した。
【0049】
平行して,64個の組織培養皿(150mm)にCV−1細胞2×10個と培地25ml/皿を配置した。CV−1細胞(付着性)はそれぞれの皿の中でPBSで洗浄し,遠心分離および凍結の前にゴムポリスマンで掻き落としたほかは,S2細胞の場合と同様にして,レチノイン酸で処理し収穫した。
インキュベ−ション後,細胞ペレットを集め,有機溶媒で抽出し,HPLCによってクロマトグラフ的に分画した。様々なHPLC分画について,RXRによって仲介される転写活性にリガンド依存性増大を引き起こす能力を検定した。この検定系には,RXR受容体とRXRレスポンスエレメント(RXRE)を含むプロモ−タ−の制御下にあるルシフェラ−ゼレポ−タ−分子とに対するcDNAによる,細胞のトランスフェクションを包含する[Mangelsdorf ら,Cell66:555(1991)]。RXRをアクチベ−トできるリガンドの添加によりルシフェラ−ゼ活性の増大を生じる。
【0050】
シュナイダ−細胞,CV−1細胞およびマウス組織は,C.Thaller & G.Eichele ,Nature Vol. 327 :625(1987)の記載に従って抽出した。マウスの組織は,生体内にRXRリガンドが存在するか否かを測定するために用いた。組織抽出物の場合には2・10dpm の内部標準[11,12-H]−全-trans−レチノイン酸(New England Nuclear )または9-cis−レチノイン酸(光による異性化で生成)をホモジネ−トに添加した。抽出物は,Waters Novapak300mmC18分析カラム上,1ml・ min−1の速度で分画した。移動相(G)は, A[CHCN/CHOH/2%CHCOOH水溶液(3:1:1)]および E[CHCN/CHOH/2%CHCOOH水溶液(11:3:10)]の1:1混合物である。
【0051】
使用した他の移動相は以下の組成を有する。
C:CHCN/CHOH/HO/CHCOOH(80:10:10:1),
H:CHOH/10mM酢酸アンモニウム(9:1)を,等容量のCHOH/10mM酢酸アンモニウム(3:1)と混合
HPLC分画に含有されるレチノイン酸異性体のメチルエステルおよび/または代謝物は,Weddenら[Meth.Enzymol. 190 :201(1990)]の記載によって生成させた。使用した対照標準は,Aldrich ,Sigma から入手したか,またはHoffmann-La Roche によって恵与された。標品の9-cis−レチノ−ル,9-cis−レチノイン酸および9-cis−レチノイン酸メチルエステルは,9-cis- レチナ−ルから合成するか[E.J.Corey ら,J.Am.Chem.Soc.90:5616(1968) ;C.D.B.Bridges & R.A.Alvares ,Meth.Enzymol. 81:463(1982)参照]または全-trans−異性体の光異性化ついで得られた異性体のHPLCによる分画化によって生成させた。
全-trans−異性体の光異性化は本技術分野の熟練者にはよく知られた標準的異性化技術によって実施される。たとえば,レチノイン酸は極性溶媒たとえばエタノ−ルに溶解し,水晶キュ−ベットに取り,各種波長の光(たとえば蛍光燈)によって照射することができる。照射を行う温度にはとくに制限はなく,したがって,照射は室温で実施できる。照射時間にもとくに制限はない。通常の照射時間は約0.5〜2時間の範囲である。
様々なHPLC分画を1:100に希釈し,それらがRXRの転写特性を修飾する能力について検定した。
【0052】
CV−1細胞におけるコトランスフェクションアッセイ
サル腎臓細胞系,CV−1をcis-trans 検定に使用した。細胞は2種のDNAトランスフェクションベクタ−でトランスフェクトした。trans-ベクタ−はこれらの細胞中でレチノイド受容体(たとえば,RARまたはRXR)の効率的な産生を可能にした。これらの細胞は正常時にはこれらの受容体を発現しない。cis-ベクタ−は,レチノイド応答性プロモ−タ−に連結した容易に検定できる遺伝子,この場合はホタルルシフェラ−ゼを含有する。レチノイン酸または適当な合成レチノイドの添加はルシフェラ−ゼ遺伝子をアクチベ−トするレチノイド−受容体複合体の形成を生じ,細胞抽出物から光の放射が起こる。ルシフェラ−ゼ活性のレベルは遺伝子発現をアクチベ−トするレチノイド- 受容体複合体の有効性に正比例する。この感度および再現性の高いコトランスフェクションアプロ−チによれば,様々な受容体アイソフォ−ムと相互作用するレチノイドの同定が可能になる。
【0053】
細胞は10%炭末樹脂- 処理ウシ胎児血清を補充したDMEM中で培養し,実験は96−ウエルプレ−ト中で行った。プラスミドはリン酸カルシウム法により[Umesono & Evans ,Cell57:1139-1146(1989);Bergerら,J.Steroid Biochem.Molec.Biol. 41:733-738(1992)]10ngのpRS(ラウス肉腫ウイルスプロモ−タ−)受容体- 発現プラスミドベクタ−,50ngのレポ−タ−ルシフェラ−ゼ(LUC)プラスミド,内部標準としての50ngのpRSβ−GAL(β−ガラクトシダ−ゼ),および90ngのキャリヤ−プラスミドpGEMを用いて一時的にトランスフェクトした。細胞は6時間トランスフェクトしたのち,洗浄して沈殿を除去した。細胞をついで36時間,レチノイドとともに,またはレチノイドを加えないでインキュベ−トした。トランスフェクション後のすべての工程はBeckman Biomek自動化ワ−クステ−ション上で実施した。細胞抽出物はBergerら
(前出)の記載に従って調製し,ついでルシフェラ−ゼおよびβ- ガラクトシダ−ゼ活性について検定した。すべての定量は2回の独立した実験の3重測定によって行い,内部対照としてβ−ガラクトシダ−ゼを用いてトランスフェクション効率について標準化した。レチノイド活性はレチノイン酸の活性に対して標準化し,最大観察応答の50%を産生するのに必要なレチノイド濃度である効力(EC50),ならびにレチノイン酸10−5Mの最大応答に対する観察された最大応答である効率(%)として表示する。
【0054】
コトランスフェクションアッセイに用いた受容体発現ベクタ−は以前に報告されている[pRShRAR−α:Giguere ら,Nature330 :624-629(1987);pRShRAR−βおよびpRShRAR−γ:Ishikawaら,Mol.Endocrinol. 4 :837-844(1990 ) ;レチノイドX受容体−α(RXR−α):Mangelsdorf ら,Nature345 : 224-229(1990) ;レチノイドX受容体−β(RXR- β)およびレチノイドX受容体−γ(RXR−γ):Mangelsdorf ら,Genes & Development 6 :329-344(1992)参照]。TRE−2回回転対称レスポンスエレメント5'-TCAGGTCATGACCTGA−3' [配列番号2;Umesono ら,Nature336 :262-265(1988)参照]の2つのコピ−を含む基本レポ−タ−プラスミドΔMTV−LUC[Hollenberg & Evans,Cell55:899-906(1988)]を,レチノイド受容体のすべてのトランスフェクションに使用した。
競合的結合アッセイに用いたPET−8c−RAR−αの細菌発現ベクタ−は以前に報告されている[Yangら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:3559-3563(1991)] 。PET−8cベクタ−系を用いた類似の発現ベクタ−[Studier ら,Methods inEnzymology185 :60-69(1990)]をRAR−βおよびRAR−γについて構築した。
【0055】
様々なレチノイン酸異性体および/または代謝物を含有する様々な分画についてのRXR−αのトランスアクティベ−ション像を図1に示す。これらのデ−タにより,2つの異なる領域の活性が明らかである。1つは比較的早い分画(分画7)で,他方は比較的遅く溶出する第2の広い活性領域(分画16〜21)である。全-trans−レチノイン酸は,分画20および21に共溶出し(図1),細胞抽出物中に存在する主要なU.V.吸収物質である。しかしながら,活性像は,全-trans−レチノイン酸に加えて,全-trans−レチノイン酸に由来するかまたはそれから誘導されると考えられる,RXRをアクチベ−トする活性成分の存在を示している。
【0056】
全-trans−レチノイン酸と同じまたはそれ以上の活性を有する可能性のある化合物を同定するためには,個々の分画の活性のみではなく,それらの濃度も考慮しなければならない。したがって,全活性分画は,個々の分画の相対濃度を考慮しながら,広い濃度範囲にわたって再検定した。分画の相対濃度を決定するためには,以下の初期仮定を設けた。すなわち,1)活性分画はレチノイン酸代謝物であり,2)各活性分画の分子吸光係数は比較的類似している(すなわち,ファクタ−2以内)とした。この仮定は多数のレチノイドについて文献に報告されている値によって支持される。RAR- αおよびRXR−αに対する全-trans−レチノイン酸(すなわち分画20)のトランスアクティベ−ション像の比較を図2aに示す。レチノイン酸によるRARおよびRXRの最大アクティベ−ション(すなわち効率)は類似し,RARの方が約10倍のファクタ−で感度が高い(すなわち10倍効力が大きい)。これに反し,上述のようにして生成させた様様な分画の分析により,分画18は,RARよりRXRに対してかなり活性が高いことが明らかである(図2b参照)。これらのデ−タは,レチノイン酸で前処置したS2細胞中に存在する代謝産物はRARサブファミリ−よりもRXRサブファミリ−に効力の高いアクチベ−タ−であることを示唆するものである。
【0057】
例2
RXRのトランスアクチベ−タ−としての9-cis- レチノイン酸の同定
2つの観察から,分画18(ピ−クX,図1参照)は全-trans−レチノイン酸の細胞性代謝物であることが示唆される。第一に,全-trans−レチノイン酸の不存在下に増殖させたシュナイダ−細胞の抽出物にはピ−クXは認められなかった。第二に,細胞を全-trans−レチノイン酸に暴露した場合には,Xが時間依存性様式で出現する。
したがって,Xを化学的に同定するため,分画18を化学的誘導体化,高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)および気相クロマトグラフィ−/マススペクトメトリ−(GC/MS)に付した。ジアゾメタンでメチル化すると,ピ−クXの保持時間は劇的にシフトした(すなわち,使用したHPLC条件下に10.2分から19.5分に)。これはピ−クXに相当する化合物が遊離のカルボキシル基をもつことを示している。メチル化されたXをGC/MSで分析すると,電子衝撃法で,Xはレチノイン酸メチルエステルの場合に相当する分子イオンをm/z314に生じることが明らかにされた。これは,Xがレチノイン酸の立体異性体であることを示唆する。Xがいずれの異性体であるかを決定するため,Xの保持時間を9-cis−,11-cis−および13-cis−レチノイン酸と比較した。Xは標品の9-cis- レチノイン酸と共溶出することが見出された。さらに,Xのメチルエステルは9-cis−レチノイン酸メチルエステルと共溶出し,Xのメチルエステルを水素化リチウムアルミニウムでアルコ−ルに還元した場合には,得られた生成物は標品の9-cis−レチノ−ルと共溶出する。
【0058】
GC/MS分析には,メチル化レチノイン酸異性体をヘキサンに溶解した。サンプルを投下針インジェクタ−を介して(280℃),電子衝撃様式(70eV)で操作されるVG−Trio-1000質量分析計のイオン化室に直接挿入した30m ×0.32mm熔融シリカDB5毛細管カラム(J+J scientific )中に注入した。サンプルは温度勾配(200〜300℃,10℃/min)で溶出した。
結局,標品9-cis−レチノイン酸メチルエステルのマススペクトルはメチル化されたピ−クXの場合と同一であることが明らかである。これらの分析結果を考え合せて,ピ−クXは9-cis−レチノイン酸と確認される。初期の研究では魚の肝臓に9-cis−レチノ−ルの存在が指示されているが,9-cis−レチノイン酸がインビボに存在するか否か(すなわち,9-cis−レチノイン酸が生理学的化合物であるか否か)は不明であった。9-cis−レチノイン酸がインビボに存在するか否かを明らかにするため,マウスの肝臓および腎臓組織を抽出した。これらの組織は,広スペクトルのレチノイド代謝物を含有し,またRXRを発現することから選択されたものである。抽出に先立って,腎臓ホモジネ−トに放射標識9-cis−レチノイン酸を加えて,内部標準として利用した。抽出物は最初,移動相Gを用いて,逆相カラム上で分画化した(Waters Novo pak 300mm C18分析用カラム,流速1ml/分)。
【0059】
放射性内部標準を含有する腎臓抽出物からの分画を,移動相Hを用いて,第二のC18カラム上再クロマトグラフィ−に付した。この操作では,標品9-cis−レチノイン酸と共移動する小さいが明瞭な吸収ピ−クを与えた。
同様に,肝臓抽出物を逆相カラム上で分画化し,移動相Gで溶出した。しかしながら,用いた条件下では,9-cis- レチノイン酸は全-trans- レチノ−ル(これは肝臓に豊富に存在する)とともに溶出した。これらの2種のレチノイドを分離するために,この分画をジアゾメタンでメチル化し,ついでHPLCにより,移動相Cを用いて再度分析した。このアプロ−チにより,標品の9-cis−レチノイン酸メチルエステルと共溶出する明瞭なピ−クを生じた。
9-cis−レチノイン酸が抽出操作時に全-trans−レチノイン酸から形成された可能性を除外するため,肝臓組織ホモジネ−トに,トリチウム化全-trans−レチノイン酸を加えた。以後のHPLC分画化により,放射能の94%は依然として全-trans−レチノイン酸中に残存し,約5%が13-cis−レチノイン酸中に,1%もしくはそれ未満が9-cis- レチノイン酸中に認められた。ピ−ク面積の積分に基づいて,9-cis−レチノイン酸の腎臓および肝臓内濃度はそれぞれ,湿重量1g あたり約4ngおよび約4ngと推定される。これは,内因性9-cis−レチノイン酸が抽出時に全-trans−レチノイン酸から形成されたものではないことを指示する。結論として,これらの実験は,9-cis- レチノイン酸が天然に存在するレチノイン酸異性体であることを確証するものである。
【0060】
例3
RXRおよびRARに対するレチノイド異性体の
トランスアクチベ−ション像
ピ−クXが全-trans−レチノイン酸の立体異性体であることの確立から,様々なレチノイド異性体が異なるレチノイド受容体アクチベ−ション像をもつ可能性が示唆された。レチノイン酸異性体がRXR−αおよびRAR−αの転写特性を修飾する能力をさらに分析するために,全-trans- レチノイン酸の4種の主要な光学異性体を同定し,RXRおよびRARをトランスアクチベ−トする能力を検定した。図3には,RAR−αおよびRXR−α両者に対する13-cis−,11-cis−,9-cis−および全-trans−レチノイン酸の用量反応曲線を示す。
レチノイン酸の4種の主要な異性体中,9-cis−レチノイン酸は,昆虫S2細胞(図3A参照)および哺乳類CV−1細胞(図3B参照)の両者で,効力および効率の最も高いRXR−αのアクチベ−タ−であることが明らかである。最大応答(EC50値)はそれぞれ10−8Mおよび5×10−8Mである。種々の異性体について観察された効力の順位は,両細胞系において同一である。9-cis−レチノイン酸は,11-cis−,13-cis−または全-trans−レチノイン酸よりも約40倍効力の強いRXRのアクチベ−タ−である。これらのトランスアクチベ−ションのデ−タは,9-cis−レチノイン酸が内因性のRXR- αアクチベ−タ−であることを強く示唆するものである。
【0061】
これに反して,9-cis−レチノイン酸は,RAR- αのアクチベ−タ−としては全-trans−レチノイン酸とほぼ等しい効力を示す(図3C参照)。9-cis−レチノイン酸のRAR−αに対するEC50値は2×10−7Mである。9-cis−レチノイン酸は,これまでに試験された最も効力の強いRXR−αリガンドである。
同様に,RXRの他のアイソフォ−ム(すなわち,RXR−β,RXR−γ)およびRARの他のアイソフォ−ム(すなわち,RAR- β,RAR−γ)の9-cis- レチノイン酸によるトランスアクチベ−ションについても調べた。表1に示すように,9-cis−レチノイン酸はまた同様に,これらのアイソフォ−ムの強力なアクチベ−タ−でもあることが明らかにされた。
【0062】
[表1]
表1
EC50(nM)
受容体 全-trans−レチノイン酸 9-cis- レチノイン酸
RAR−α 3861±13 327±30
RAR−β 152±12 95±13
RAR−γ 48±8 61±5
RXR−α 1174±26 255±17
RXR−β 1841±26 218±17
RXR−γ 1369±26 254±19
平均±SEM

【0063】
例4
9-cis−レチノイン酸はRXRに直接結合する
9-cis−レチノイン酸がRXR−αをトランスアクチベ−トする能力から9-cis-レチノイン酸がRXRに直接結合することも可能であったのか否かを調べるための試験が示唆された。RXR−αをバキュロウイルス中で発現させ,哺乳動物細胞で発現させた蛋白質と同一の生化学的性質をもつことを示した。バキュロウイルス発現蛋白質は,分子量51,000で,RXR−α抗体と特異的に反応し,特異的RXRレスポンスエレメントでることが以前に明らかにされているDNA配列[すなわちCRBPII,Mangelsdorf ら,Cell66:555(1991)参照;アポリポ蛋白質AI遺伝子,Rottman ら,Mol.Cell Biol.11:3814(1991) 参照]にインビトロで結合することが可能であった。
バキュロウイルス由来RXRへの9-cis- レチノイン酸のリガンド結合特性を特徴づけるため,飽和結合分析を実施した(図4参照)。放射標識9-cis- レチノイン酸は,飽和可能な様式でRXR−αに特異的に結合する。スキャッチャ−ド分析により,Kd 値11.7n Mの単一高親和性結合部位が示唆される(図4b参照)。同一の結合条件下に,[H]−全-trans−レチノイン酸はRXR−αに結合しなかった(図4a参照)。さらに,9-cis- レチノイン酸はまた,高親和性リガンドとしてRAR−αに特異的に結合することも可能であった。9-cis −レチノイン酸は偽バキュロウイルス抽出物(すなわち,RXRを発現しない細胞からの対照抽出物)には結合しなかった。
【0064】
同様に,RXRの他のアイソフォ−ム(すなわち,RXR−β,RXR−γ),RARの他のアイソフォ−ム(すなわち,RAR−β,RAR−γ),および細胞性レチノイン酸結合蛋白質(CRABP)について全-trans−レチノイン酸および9-cis−レチノイン酸との結合試験を実施した。全-trans−レチノイン酸がこれらの「受容体」のそれぞれと結合することは知られているが,9-cis−レチノイン酸も,表2に示すように,レチノイド受容体の他のアイソフォ−ムに結合することが見出された(ただし,細胞性レチノイン酸結合蛋白質,CRABPとは結合しなかった)。
【0065】
[表2]
表2
Kd(nM)
受容体 全-trans- レチノイン酸 9-cis- レチノイン酸
RAR−α 0.4 0.3
RAR−β 0.4 0.2
RAR−γ 0.2 0.8
RXR−α 結合せず 1.5
RXR−β 結合せず 2.1
RXR−γ 結合せず 1.9
CRABP 20 >100

【0066】
ステロイドホルモン受容体ス−パ−ファミリ−の多くのメンバ−の性質がこれまで,DNAセルロ−スクロマトグラフィ−を用いて特性づけられ,定義されている[たとえば,Pike & Haussler ,Proc.Natl.Acad.Sci.USA76:5485(1979) およびPikeら,J.Biol.Chem.258 :1289(1983) 参照]。VDRのような受容体は,それらの同族リガンドの存在下にDNA- セルロ−スと高い親和性をもって結合して[たとえば,Allegrettoら,J.Biol.Chem.258:1289(1983)参照],リガンド−受容体複合体は塩勾配で溶出することが明らかにされている。予め,[H]−9-cis−レチノイン酸で標識されたバキュロウイルス発現RXRのDNA−セルロ−スカラム像を図5に示す。2つの異なる像,すなわち,1)結合[H]−9-cis−レチノイン酸の総量,および2)200倍過剰のコ−ルド(すなわち非標識の9-cis−レチノイン酸)の存在下に残存する結合のレベル,を示す。
0.15M−KCl でDNA- セルロ−スカラムから溶出する放射能ピ−クが存在する(図中に矢印を付す)。この溶出像は[H]−全-trans−レチノイン酸の存在下にRARαで見られる像に類似する。200倍過剰のコ−ルドリガンド(すなわち非特異的な)が,結合総放射能の90%以上と競合できることは,ピ−ク分画中の放射能はRXRに特異的に結合した9-cis- レチノイン酸であることを示している。
【0067】
カラムから溶出した放射能を有機溶媒で抽出してHPLC分析に付した。
図5bを検討すると,RXRに結合した放射能は,クロマトグラフィ−において標品の9-cis−レチノイン酸と共移動することが明らかである。この観察は,[H]−9-cis−レチノイン酸がRXRに結合した種であることをさらに確証するものである。
ピ−ク分画中に含有される蛋白質が実際にRXRであることを証明するために,これらの分画(図5aにおける標識1〜15)を,RXRα特異的ポリクロ−ナル抗血清を用いてイムノブロッティングに付した(図5a,最上図)。放射能を含有するすべての分画がMr51,000に明瞭なRXRαのバンドを示している。バキュロウイルス偽抽出物で実施した同様の実験では,カラム上に特異的な放射能の残存は認められなかった。以上を合せて考えるとこれらのデ−タは,9-cis−レチノイン酸がRXRに特的に結合できることが強く示唆される。
【0068】
蛋白質サンプルを2×サンプル緩衝液[Laemelli,Nature Vol.227 :680(1970)]に再懸濁し,5分間煮沸したのち,9%SDSポリアクリルアミドゲル上に負荷した。電気泳動によって分離したのち,ゲルをHoeffer のエレクトロトランスファ−装置を用いて,30ボルトで8時間,ニトロセルロ−ス膜(Scheicher and Schuell )にイムノブロットした。ついで膜を,10%イソプロパノ−ル,10%酢酸中15分間インキュベ−トし,脱イオン水中で5分間およびT−TBS緩衝液(10mM−TrispH7.5,150mM−NaClおよび0.5%Triton X−100)中で5分間洗浄した。膜はT−TBS中5%脱脂ミルクで1時間ブロックした。以下のプロトコ−ルは,AmershamのECL(増強化学ルミネッセンス)ウエスタンブロッティング検出システムキットによった。一次抗体はhRXRαのアミノ酸214〜229に相当する合成ペプチドに対して産生させた,ウサギポリクロ−ナル血清とした[Kliewer ら,Proc. Natl.Acad.Sci.USA89:1448-1452(1992)]。一次抗血清はT−TBS中に1:5000に希釈した。二次抗体(西洋ワサビペルオキシダ−ゼに接合させたロバ抗ウサギIgG,Amersham)は1:2500に希釈して使用した。
【0069】
例5
ライノマウスにおけるケラチン充満毛嚢のサイズに対する
9-cis−レチノイン酸の局所適用の効果(全-trans−レチノイン酸との比較)
全-trans−レチノイン酸が細胞分化に影響し,ケラチン化疾患の処置に強力な治療効果を発揮することが知られている[Elias ら,Arch.Dermatol.Vol.117:160-180(1981) ]。Mezickら[J.Invest.Derm.Vol.83:110-113(1984)参照]によれば,全-trans−レチノイン酸によるライノマウス(hr/hr )の局所処置はケラチン化毛脂構造(ケラチン充満毛嚢)を軽減できることが明らかにされている。この動物試験モデルを,9-cis−レチノイン酸の「抗ケラチン化」作用の評価に使用した。結果は表3にまとめる。
【0070】
[表3]
表3
毛脂構造サイズ(減少%)
ビヒクル対照 178μm(−74%)
9-cis−レチノイン酸
0.1% 52μm(−74%)
0.01% 72μm(−64%)
全-trans−レチノイン酸
0.1% 44μm(−78%)
0.01% 50μm(−75%)

【0071】
9-cis−レチノイン酸は局所適用14日後に平均毛脂直径を低下させた。これらの結果は,14日間の期間の9-cis−レチノイン酸の局所適用がライノマウス皮膚におけるケラチン化毛脂構造(ケラチン充満毛嚢)を軽減できることを証明するものである。9-cis−レチノイン酸による平均毛脂直径の低下は全-trans−レチノイン酸で認められた効果に匹敵するものであった。
【0072】
例6
HL60細胞の分化に対する9-cis−レチノイン酸の作用
(全-trans−レチノイン酸との比較)
レチノイドは,ヒト前骨髄球性白血病細胞を分化させることが知られている。HL細胞(前骨髄球性白血病に対するモデル系)の分化はニトロブル−テトラゾリウム(NBT)染料の還元(ス−パ−オキシドアニオンの生成)および白血球付着受容体,CD18のβサブユニットをコ−ドする遺伝子の上方調節の測定によって評価できる(J.B.C.Vol.263,No.27,pp.13863-13867)。
処置6日後にNBTによって測定した9-cis- レチノイン酸誘導分化のEC-50 は0.2μMで,全-trans−レチノイン酸の場合の2μMに匹敵するものであった。最大効果(効率)はほぼ等しく,CD18は両リガンドによって上方調節された。α−インタ−フェロンは,NBTで測定した場合,全-trans−レチノイン酸および9-cis−レチノイン酸両者により誘導される分化を増強した。
【0073】
HL60R細胞は全-trans−レチノイン酸による分化に抵抗性を示し,これは多分,レチノイン酸受容体−α遺伝子の変異に関連するものと思われる。この細胞系は,全-trans−レチノイン酸および9-cis−レチノイン酸の両者による分化に,10μMまでの濃度で抵抗性を示すことが見出された。
9-cis−レチノイン酸は,NBTおよびCD18の上方調節で明らかなように,HL60細胞の分化に影響する。全-trans−レチノイン酸と比較すると,9-cis−レチノイン酸はより高い効力を示し,効率はほぼ等しい。
【0074】
例7
メラノ−マ細胞系の増殖に対する9-cis- レチノイン酸の作用
(全-trans- レチノイン酸との比較)
全-trans−レチノイン酸および数種の合成類縁体(レチノイド)は,インビボにおいて,良性および悪性の,化学的に誘発された上皮腫瘍の発症を防止することが知られている[Sporn ら,Fed.Proc.Vol.35:1332-1338(1976) ]。Lotan ら[J.Natl.Cancer,Vol.60:1035-1041(1978)]は,全-trans- レチノイン酸がインビトロにおいて数種の腫瘍細胞の増殖を阻止することを見出している。これらの以前の所見から,9-cis- レチノイン酸の増殖阻止活性を評価することに興味がもたれた。
9-cis- レチノイン酸は,以下のように,濃度依存性様式でマウスメラノ−マ細胞系クロ−ンM3の増殖を阻害した。
【0075】
[表4]
増殖阻害%(添加濃度)
1μM 0.01μM
9-cis- レチノイン酸の作用 −85% −49%
全-trans- レチノイン酸 −94% −48%

【0076】
同様に,9-cis- レチノイン酸はヒト一次転移メラノ−マ細胞系c81−46cの増殖を濃度依存性様式で阻害した。
【0077】
[表5]
増殖阻害%(添加濃度)
1μM 0.01μM
9-cis- レチノイン酸の作用 −45% −28%
全-trans- レチノイン酸 −44% −17%

【0078】
要約すると,9-cis- レチノイン酸は,インビトロにおいて,マウスメラノ−マ細胞系クロ−ンM3およびヒト転移メラノ−マ細胞系c81−46cの増殖を濃度依存性に阻害することが明らかにされた。9-cis- レチノイン酸は全-trans−レチノイン酸に比較して,これらの細胞に等しい阻害作用を有する。
【0079】
例8
F9細胞の分化に対する9-cis- レチノイン酸の作用
(全-trans- レチノイン酸との比較)
レチノイドはマウス奇形癌腫細胞(F9)を分化させることが知られている。F9細胞の分化は特異的に,形態の不可逆的変化,ならびに生化学的マ−カ−,アルカリホスファタ−ゼ(ALP)および組織プラスミノ−ゲンアクチベ−タ−(tPA)の誘導を伴う(Biochem.J.Vol.274:673-678 )。
全-trans−レチノイン酸および9-cis- レチノイン酸はいずれも,細胞形態学的な不可逆的変化によって指示されるように,F9細胞の部分内皮様細胞への分化を誘導した。全-trans−レチノイン酸はALPの誘導において,9-cis−レチノイン酸より40倍高い効力を有し,最大応答は類似していた。
組織プラスミノ−ゲンアクチベ−タ−因子の応答は,全-trans−レチノイン酸に対してよりも9-cis−レチノイン酸に対する方が低かった。9-cis−レチノイン酸(または全-trans−レチノイン酸)の1μM濃度では,tPAの細胞性活性にそれぞれ0.48±0.05および0.80±0.08の上昇が観察された。この作用は濃度依存性であった。
【0080】
要約すれば,9-cis−レチノイン酸は,形態学的変化およびマ−カ−酵素活性によって明らかなように,F9細胞の分化を促進した。全-trans- レチノイン酸に比較すると,9-cis- レチノイン酸の方が,両酵素マ−カ−に関して,効力が低かった。効率はALPでは匹敵するものであったが,tPAについては不明確であった。
【0081】
例9
角化細胞の分化に対する9-cis- レチノイン酸の作用
(全-trans- レチノイン酸との比較)
レチノイドは培養正常ヒト上皮角化細胞(NHEK534細胞系)の扁平細胞分化を,形態的変化ならびにトランスグルタミナ−ゼ(I型)の誘導阻害から判断して,阻害することが知られている(J.Biol.Chem.Vol.261:15097,1986;Lab.Invest.Vol.56:654,1987)。
全-trans- レチノイン酸および9-cis- レチノイン酸はいずれも,形態的変化およびトランスグルタミナ−ゼ活性から判断して,濃度依存性様式で,扁平細胞分化を阻害した。全-trans- レチノイン酸および9-cis- レチノイン酸による分化阻害のEC50は同一であった(20±2.8nM)。トランスグルタミナ−ゼ活性に対する作用については,9-cis- レチノイン酸と全-trans−レチノイン酸のEC50および効力はほぼ同一であった。
【0082】
例10
9−フェニル−9-cis−レチノイン酸
以下のホスフォネ−ト試薬
【化13】


44mg(0.10mmole )のTHF(0.5ml)中溶液に室温でNaH(油中60%,5mg;0.13ml)を加え,混合物をその温度で10分間撹拌した。これに,THF(0.5ml)中アルデヒド
【化14】


26mg(0.08mmole )を室温で加え,この混合物を30分間そのまま撹拌した。常法での水溶液後処理[NHCl水溶液,HO,食塩水,Mg SO]を行うと9−フェニル−9-cisエステルおよび9−フェニル−9,13-ジcis エステルの混合物(30mg,92%)が得られた(9-cis:9,13-ジcis の計算比=4:1)。
【0083】
9−フェニル−9-cis−レチノイン酸エチルエステル
【化15】

【0084】
9−フェニル−9,13-ジcis-レチノイン酸エチルエステル
【化16】


9-cisと9,13-ジcis エステル(20mg,0.05mmole )のメタノ−ル(0.7ml)およびHO(0.7ml)中混合物に25℃でKOH(14.3mg,0.25mmole )を加えた。ついで,混合物を70℃に2時間加熱した。反応混合物を0℃に冷却し,10mlのジエチルエ−テルで希釈し,HCl(012M−HCl,2.17ml)で酸性にした。常法での水溶液後処理[HO,食塩水,Mg SO]を行うと9-cisおよび9-13-ジcis 酸の混合物が得られた。フラッシュカラムクロマトグラフィ−(シリカ,ベンゼン中13%酢酸エチル)によって,純粋な9−フェニル−9-cis−レチノイン酸(14.5mg,100%)が得られた。
9−フェニル−9-cis−レチノイン酸のH−NMRスペクトルは次の通りである。
【0085】
H−NMR(400mHz ,CDCl):δ7.4−7.3(m,5H,芳香性),7.20(dd,J=16,12Hz,1H,オレフィン性),6.60(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.38(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.25(d,J=12Hz,1H,オレフィン性),6.15(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),5.80(s,1H,オレフィン性),2.48(s,3H,CH),2.05(t,J=5Hz,2H,CH),1.79(s,3H,CH),1.70−1.40(m,4H,CH−CH),1.00(s,6H,2×CH)。
9−フェニル−9-cis−RA:TLC−Rf=0.23(ベンゼン中13%酢酸エチル)
【0086】
例11
4−ヒドロキシ−9-cis−レチノイン酸
9-cis- レチノイン酸(51mg,0.17mmole )の1,4−ジオキサン(2ml)中溶液に,Se O(19mg,0.17mmole )を60℃で加えた。この溶液をその温度でそのまま3時間撹拌した。ついで反応混合物をシリカ床を通して濾過した。濾液を濃縮して,残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィ−(シリカ,石油エ−テル中75%エ−テル)に付すと,4−OH−9-cis−レチノイン酸(21mg,40%収率)が得られた。その特性は次の通りである。
油状,TLC−Rf=0.25(シリカ,石油エ−テル中75%エ−テル)
H−NMR(400mHz,CDCl):δ7.08(dd,J=16,12Hz,1H,オレフィン性),6.64(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.21(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.20(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.04(d,J=12Hz,オレフィン性),5.79(s,1H,オレフィン性),4.02(t,J=5Hz,1H,CH−O),2.18(s,3H,CH),2.02(s,3H,CH),1.82(s,3H,CH),2.0−1.6(m,4H,CH−CH),1.05,1.03(2×s,2×3H,2×CH)。
【0087】
例12
4−ケト−9-cis−レチノイン酸
4−ヒドロキシ−9-cis−レチノイン酸(16mg,0.05mmole )のCHCl(1.5ml)中溶液に,デス- マ−チン試薬[Dess & Martin,J.Org.Chem.48:4155(1983)参照](42mg,0.1mmole )を一度に25℃で加えた。5分間撹拌したのち,混合物を10mlのエ−テルで希釈し,これにNa SO(55mg)を含む飽和NaHCO水溶液(5ml)を加えた。エ−テル層をHO(2×5ml),食塩水(5ml)で洗浄し,乾燥した(MgSO)。溶媒を減圧下に回収し,残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィ−(シリカ,ヘキサン中60%エ−テル)に付すと,4−ケト−9-cis−レチノイン酸(14mg,90%)が得られ,その特性は次の通りであった。
TLC−rf=0.6(シリカ,ヘキサン中80%エ−テル);
H−NMR(400mHz,CDCl):δ7.05(dd,J=16,12Hz,1H,オレフィン性),6.82(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.32(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.30(d,J=16Hz,1H,オレフィン性),6.20(d,J=12Hz,1H,オレフィン性),5.80(s,1H,オレフィン性),2.5(t,J=7Hz,2H,CH−CO),2.31(s,3H,CH),2.01(s,3H,CH),1.9(s,3H,CH),1.89(m,2H,CH),1.20(s,6H,2×CH)。
【0088】
例13
9−フェニル−9-cis−レチノイン酸,4- ヒドロキシ- 9-cis- レチノイン酸および4- ケト- 9-cis- レチノイン酸のインビトロにおける評価
例10,11および12に記載の化合物の効力および効率を,例1に「CV−1細胞におけるコトランスフェクションアッセイ」の標題で記載したようにして測定した。結果は表4に示す。
【0089】
[表6]
表4
9-cis-レチノ 9-フェニル-9- 4-ヒドロキシ-9- 4-ケト-9-cis-
イン酸 cis-レチノイン酸 cis-レチノイン酸 レチノイン酸
受容体 効力 効率 効力 効率 効力 効率 効力 効率
(nM) % (nM) % (nM) % (nM) %
RXRα 88 170 210 76 1700 161 520 104
RXRβ 61 106 44 88 650 143 1300 105
RXRγ 360 137 290 77 1700 115 1100 133
RARα 99 94 >10,000 <2 380 65 200 50
RARβ 22 97 880 39 160 71 26 67
RARγ 43 108 250 59 180 81 55 107

【0090】
以上,本発明を,その一部の好ましい実施態様を参照しながら詳細に説明したが,その修飾および改変は,記載され請求された発明の精神および範囲内に包含されるものであることを理解すべきである。
【0091】
配列表
配列番号1:
Cys−X−X−Cys−X−X−Asp−X−Ala−X−Gly−X−Tyr−X−X−X−X−Cys−X−X−Cys−Lys−X−Phe−Phe−X−Arg−X−X−X−X−X−X−X−X−X−(X−X−)Cys−X−X−X−X−X−(X−X−X−)Cys−X−X−X−Lys−X−X−Arg−X−X−Cys−X−X−Cys−Arg−X−X−Lys−Cys−X−X−X−Gly−Met
配列番号:2
5'-TCAGGTCATGACCTGA−3'
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は,レチノイン酸(RA)−処置S2細胞から得られる様々なHPLC分画のトランスアクチベ−ション像である。
【図2a】図2aは,RAR−αおよびRXR−αに対する全-trans−レチノイン酸(RA)のトランスアクチベ−ション像の比較である。
【図2b】図2bは,HPLC分画18(RAに代えて)を用いた場合の,図2aに示したのと同様の比較である。
【図3】図3は,様々なレチノイン酸異性体によるRXR−αもしくはRAR−αアクチベ−ションの分析のためのいくつかのアクチベ−ション像を提示する。パネルaは昆虫S2細胞で行った実験を示し,一方,パネルbおよびcは哺乳動物CV−1細胞で実施した実験を示す。図中,黒丸は9-cis−レチノイン酸を表示するために使用し,白丸は全-trans−レチノイン酸を示すために,白三角は13-cis−レチノイン酸を示すために,白四角は11-cis−レチノイン酸を示すために使用した。
【図4】図4は,9-cis−レチノイン酸の飽和結合分析の結果を示す。細胞抽出物を,トリチウム化レチノイドの濃度を上昇させていって,非トリチウム化レチノイドの不存在下(総結合)または200倍過剰の存在下(非特異的結合)にインキュベ−トした。非特異的結合を総結合から差し引き特異的結合としてプロットした。図4aに示したデ−タは[H]−9-cis−レチノイン酸のRXRα(黒丸)もしくは偽(白丸)抽出物に対する特異的結合,またはRXRαに対する[H]−全-trans−レチノイン酸の特異的結合(白四角)を表示する。 図4bは,(a)におけるRXRαへの特異的9-cis−レチノイン酸結合をスキャッチャ−ド分析によって変換してプロットしたスキャチャ−ド分析を示す。線形回帰によりKd=11.7nM(r=0.86)が得られた。
【図5】図5は,バキュロウイルス発現RXRに結合した放射標識9-cis−レチノイン酸のDNA−セルロ−スカラム像を示す。図5aにおいては,RXRα蛋白質を含むサンプル細胞抽出物を,10nM[H]−9-cis−レチノイン酸により,非放射標識9-cis−レチノイン酸の不存在下(白四角)または200倍過剰の存在下(白丸)に標識し,ついでDNA−セルロ−スカラムに適用した。一定のベ−スラインが確立するまで,流出する放射能をモニタリングした。ついで,DNA結合成分を直線塩勾配で溶出した。次に,ピ−クの放射性分画(標識1〜15)を,hRXRα−特異的抗血清を用いてイムノブロット分析に付した。ピ−ク放射性分画(矢印で指示)はRXRα特異的蛋白質のピ−ク量と正確に共移動した。 図5bには,DNA−セルロ−スカラムのピ−ク放射性分画は9-cis−レチノイン酸を含むことが示されている。ピ−ク分画[(a)中の矢印]を抽出し,C18カラム上移動相Gによって展開して分析した。図に示すように,抽出された放射能の0.95%は標品の9-cis−レチノイン酸と共溶出した(吸収ピ−ク)。
【図6】図6は,9-cis−レチノイン酸の存在下,アポリポ蛋白A1遺伝子(APOA13)または細胞性レチノ−ル結合蛋白II型(CRBPII)のいずれかから誘導されたレチノイドレスポンスエレメントを含有するルシフェラ−ゼレポ−タ−を用いた場合の,RXR- αについてのトランスアクチベ−ション像の比較である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノイド受容体によって仲介される過程を修飾する方法において,その過程を,構造
【化1】


(構造中,
炭素原子CとC10の間の不飽和はシス立体配置を有し,炭素原子C11〜C14の間の不飽和の一方または両部位はシス立体配置を有してもよく,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれるか,または,
R基の任意の2個またはそれ以上は互いに連結して1個または2個以上の環構造を形成することができる)を有する化合物少なくとも1種の存在下に実施することからなる方法。
【請求項2】
上記レチノイド受容体はレチノイン酸受容体−α,レチノイン酸受容体-β,またはレチノイン酸受容体- γから選択される請求項1の方法。
【請求項3】
上記レチノイド受容体はレチノイドX受容体−α,レチノイドX受容体-β,またはレチノイドX受容体- γから選択される請求項1の方法。
【請求項4】
上記過程は,細胞のインビトロ分化,細胞のインビトロ増殖,メラノ−マ細胞系のインビトロ増殖,マウス奇形癌細胞(F9細胞)のインビトロ分化,ヒト上皮角化細胞のインビトロ分化,細胞性レチノ−ル結合蛋白質(CRBP)の調節,またはインビボ四肢形成から選択される請求項1の方法。
【請求項5】
上記過程は,脂質代謝のインビボ修飾,皮膚関連過程のインビボ修飾,または悪性細胞発生のインビボ修飾から選択される請求項1の方法。
【請求項6】
上記化合物は構造(I)
【化2】


構造I
{構造I中,
Xは,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N−アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシまたはアミノから選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ルまたはアルコキシアシルであり,
xは0,1または2であり,
yは0,1または2であり,
x+yは2以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項7】
上記化合物は構造(II)
【化3】


構造II
{構造II中,
Xは,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ルまたはアルコキシアシルであり,
xは0,1または2であり,
yは0,1または2であり,
x+yは2以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項8】
上記化合物は構造III
【化4】


構造III
{構造III中,
一方のAはXであり,他方のAはX' であり,
Xは,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ルまたはアルコキシアシルであり,
xは0,1または2であり,
yは0,1または2であり,
x+yは2以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項9】
上記化合物は構造(IV)
【化5】


構造IV
{構造IV中,
一方のAはXであり,他方のAはX' であり,
BはX' であり,
Xは−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または- CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ルまたはアルコキシアシルであり,
xは0,1または2であり,
yは0,1または2であり,
x+yは2以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項10】
上記化合物は構造(V)
【化6】


構造V
{構造V中,
X”は,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,またはチオ−ルであり,
aは0,1,2,3または4であり,
bは0,1,2,3または4であり,
a+bは2以上,4以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項11】
上記化合物は構造(VI)
【化7】


構造VI
{構造VI中,
Yは−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
cは0,1,2または3であり,
dは0,1,2または3であり,
c+dは1以上,3以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項12】
上記化合物は構造(VII)
【化8】


構造VII
{構造VII中,
X”'は,X”であるかまたは構造
−[Q=CR−J]
(構造中,Qは- N=または−CR=であり,Jは−CR=CR−,−N=CR−,−CR=N−,−O−,−S−,または−NR”-である)を有し,レキソイド化合物のCおよびC10を芳香性(または擬芳香性)環に導入する不飽和連結基であり,
X”は,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキルまたはカルバメ−トから選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,またはチオ−ルであり,
aは0,1,2,3または4であり,
bは0,1,2,3または4であり,
a+bは2以上,4以下である}を有する請求項1の方法。
【請求項13】
Ring は以下の構造
【化9】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する「請求項1」の方法
【請求項14】
Ring は以下の構造
【化10】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する請求項6の方法。
【請求項15】
Ring は以下の構造
【化11】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する請求項7の方法。
【請求項16】
Ring は以下の構造
【化12】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する請求項8の方法。
【請求項17】
Ring は以下の構造
【化13】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する請求項9の方法。
【請求項18】
Ring は以下の構造
【化14】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する請求項10の方法。
【請求項19】
Ring は以下の構造
【化15】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する}を有する請求項11の方法。
【請求項20】
上記化合物は,9-cis−レチノイン酸,9−フェニル−9-cis−レチノイン酸,4−ヒドロキシ−9-cis−レチノイン酸,4−ケト−9-cis−レチノイン酸,9,11−ジcis-レチノイン酸,ならびに本明細書に掲げた構造I〜VIIから選ばれる9-cis−固定誘導体[この場合,Zはカルボキシル基で,Ring は構造
【化16】


(構造中,Aは>CH,>C=Oまたは>C−OHから選ばれる)を有するβ−イオノンまたはβ−イオノン様種である]から選択される請求項1の方法。
【請求項21】
Ring は4または5個の炭素原子を有し,シクロペンタン,シクロペンテン,ジヒドロピラン,テトラヒドロピラン,ピペリジン,ジヒドロチオピラン,テトラヒドロチオピラン,ジヒドロフラン,テトラヒドロフラン,テトラヒドロチオフェン,ピロリジン,またはそれらの誘導体から選択される請求項1の方法。
【請求項22】
レチノイド受容体によって仲介される過程を修飾する方法において,その過程を
(a)構造
【化17】


[構造中,
炭素原子C〜C14からなる側鎖における不飽和の各部位はトランス立体配置を有し,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N−アシルアミノアルキル,カルバメ−ト等から選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれる]の化合物少なくとも1種,および
(b)少なくとも9−,11−,または13−二重結合の一つをトランス- 立体配置からシス−立体配置に変換できるcis/trans イソメラ−ゼ,の存在下に実施することからなる方法。
【請求項23】
構造
【化18】


(上記構造中,炭素原子CとC10の間の不飽和はシス立体配置を有し,C11〜C14上の間の不飽和の一方または両部位は任意にシス立体配置を有し,
「Ring 」は環状残基であり,
Zは,カルボキシル,カルボキシアルデヒド,ヒドロキシアルキル,チオアルキル,ヒドロキシアルキルホスフェ−ト,ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル,チオアルキル基のアルキルチオエ−テル,ヒドロキシアルキル基のエステル,ヒドロキシアルキル基のチオエステル,チオアルキル基のエステル,チオアルキル基のチオエステル,アミノアルキル,N- アシルアミノアルキル,カルバメ−ト等から選ばれ,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれる)の化合物を,相当する全- トランス立体配置の原料から製造する方法において,その全−トランス立体配置の原料をcis/trans イソメラ−ゼと異性化条件下に接触させることからなる方法。
【請求項24】
Ring は以下の構造
【化19】


{構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5- エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体として存在する}を有する請求項23の方法。
【請求項25】
上記接触はインビボにおいて行われる請求項23の方法。
【請求項26】
上記接触はシュナイダ−細胞中において行われる請求項25の方法。
【請求項27】
上記接触はインビトロにおいて行われる請求項23の方法。
【請求項28】
構造
【化20】


構造A
{構造A中,
炭素原子CとC10の間の不飽和はシス立体配置を有し,炭素原子C11〜C14の間の不飽和の一方の部位または両部位はシス立体配置を有してもよく,
「Ring 」は1個または2個以上の置換基をもっていてもよい環状残基であり,
Zは,カルボキシル(−COOH),カルボキシアルデヒド(−COH),ヒドロキシアルキル[−(CR'−OH,式中,R' はそれぞれ独立に水素または低級アルキルから選択され,nは1から約4までの範囲の数である],チオアルキル[−(CR'−SH,式中,R' およびnは上に定義した通りである],ヒドロキシアルキルホスフェ−ト[−(CR'−OP(OM),式中,R' およびnは上に定義した通りであって,Mは水素,低級アルキル,またはNa ,Li ,K等のような陽イオン種である],ヒドロキシアルキル基のアルキルエ−テル[−(CR'−OR' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],チオアルキル基のアルキルチオエ−テル[−(CR'−SR' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],ヒドロキシアルキル基のエステル[−(CR'−O−CO−R' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],ヒドロキシアルキル基のチオエステル[−(CR'−O−CS−R' ,式中R' およびnは上に定義した通りである],チオアルキル基のエステル[−(CR'−S−CO−R' ,式中,R' およびnは上に定義した通りである],チオアルキル基のチオエステル[−(CR'−S−CS−R' ,式中R' およびnは上に定義した通りである],アミノアルキル
[−(CR'−NR',式中R' およびnは上に定義した通りである],N−アシルアミノアルキル[−(CR'−NR'-CO- R”,式中R' およびnは上に定義した通りであり,R”は低級アルキルまたはベンジルである],カルバメ−ト[−(CR'−NR'-CO−OR' もしくは−(CR'−O−CO−NR',式中,R' およびnは上に定義した通りである]等から選ばれ,
Rは,それぞれ独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基等から選ばれるか(ただし,構造Aは9-cis- レチノイン酸ではない),あるいは
R基の任意の2個またはそれ以上が互いに連結して1個または2個以上の環構造
【化21】


構造I
[構造I中,
「Ring 」,ZおよびRは上に定義した通りであり,
Xは,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' は,−O−,カルボニル,−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル,−NR”-,または−CR−から選択され,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ルまたはアルコキシアシルであり,
xは0,1または2であり,
yは0,1または2であり,
x+yは2以下である],
【化22】


構造II
(構造II中,
X,X' ,R,R”,Z,Ring ,xおよびyは上に定義した通りである),
【化23】


構造III
(構造III中,
一方のAはXであり,他方のAはX' であり,
X,X' ,R,R”,Z,Ring ,xおよびyは上に定義した通りである),
【化24】


構造IV
(構造IV中,
一方のAはXであり,他方のAはX' であり,
BはX' であり,
X,X' ,R,R”,Z,Ring ,xおよびyは上に定義した通りである),
【化25】


構造V
[構造V中,
X”は,−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' ,R,R”,Ring およびZは上に定義した通りであり,
aは0,1,2,3または4であり,
bは0,1,2,3または4であり,
a+bは2以上,4以下である],
【化26】


構造VI
[構造VI中,
Yは−[(CR)−X'-(CR)]−であり,
X' ,R,R”,Ring およびZは上に定義した通りであり,
cは0,1,2または3であり,
dは0,1,2または3であり,
c+dは1以上,3以下である],
【化27】


構造VII
[構造VII中,
X”'は,X”であるかまたは構造
−[Q=CR−J]
(構造中,Qは−N=または−CR=であり,Jは−CR=CR−,−N=CR−,−CR=N−,−O−,−S−,または−NR”-である)を有し,レキソイド化合物のCおよびC10を芳香性(または擬芳香性)環に導入する不飽和連結基であり,
X' ,X”,R,R”,Ring ,Z,aおよびbは上に定義した通りである]を形成してもよい}から選択される構造を有する化合物少なくとも1種からなる組成物。
【請求項29】
Ring は以下の構造
【化28】


[構造中,
Rはそれぞれ,独立に,H,ハロゲン,アルキル,アリ−ル,ヒドロキシ,チオ−ル,アルコキシ,チオアルコキシ,アミノ,または任意のZ置換基から選ばれ,
,C,またはCの任意の一つは,−O−,カルボニル(>CO),−S−,−S(O)−,−S(O)−,チオカルボニル(>CS),または−NR”-で置換されてもよく,
R”は水素,アルキル,ヒドロキシ,チオ−ル,またはアルコキシアシルであり,
上記環状残基は,飽和,2−エン,3−エン,4−エン,もしくは5−エンモノ不飽和異性体,またはそれらの2,4−,2,5−,もしくは3,5−ジエン誘導体,またはそれらの芳香環誘導体として存在する]を有するシクロヘキシル環である請求項28の組成物。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254481(P2007−254481A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122307(P2007−122307)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【分割の表示】特願平5−511221の分割
【原出願日】平成4年12月18日(1992.12.18)
【出願人】(596121725)ザ ソールク インスチチュート フォア バイオロジカル スタディズ (3)
【出願人】(591023860)ベイラー カレッジ オブ メディシン (3)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
【出願人】(504154263)リガンド ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】