説明

レチノイン酸効果増強剤およびこれを用いたリンパ腫治療剤キット、並びに、活性酸素産生促進剤およびこれを用いた免疫賦活剤

【課題】安全性が高い新規な癌治療手段および免疫賦活手段を提供する。
【解決手段】クルクミンやクルクミンを含むウコン属植物の抽出物を、レチノイン酸のリンパ腫治療効果を増強するレチノイン酸効果増強剤の有効成分として用いる。また、当該増強剤を、レチノイン酸を有効成分とするリンパ腫治療剤と併用してリンパ腫治療剤キットとする。さらに、クルクミンやクルクミンを含むウコン属植物の抽出物を、活性酸素産生促進剤の有効成分として用いる。また、当該促進剤を免疫賦活剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なレチノイン酸効果増強剤およびこれを用いたリンパ腫治療剤キット、並びに、活性酸素産生促進剤およびこれを用いた免疫賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レチノイン酸(RA)は、ビタミンAの誘導体であり、このRAには、鎖部の二重結合がすべてtransの全trans−レチノイン酸(ATRA;All Trans Retinoic Acid)と、9位がcis構造をとる9−cis−レチノイン酸がある。これらのうちATRAは分化誘導能を有することから、急性前骨髄球性白血病の治療薬として用いられている。しかしながら、その治療効果は限定的であるため、抗癌剤との併用による治療が主流となっている。抗癌剤はそれ自体が毒性を有することから、抗癌剤に起因する毒性が患者の健康やQOLを損なうという問題がある。したがって、ATRAの抗癌効果を増強させることができれば、併用される抗癌剤の投与量を減らすことができ、副作用の低減とこれによるQOLの大幅な向上が図られるため、患者にとっては大きな福音となる。
【0003】
ところで、クルクミンは、カレーのスパイスの1種であるウコン(Curcuma)属植物に含まれる黄色色素であり、天然の食用色素として用いられている。そして、クルクミンについては近年、その抗腫瘍作用や抗酸化作用、抗炎症作用などが注目を集めている。クルクミンの抗腫瘍作用や抗酸化作用を利用して、クルクミンを癌細胞の増殖抑制や白血病の治療といった用途に用いる提案が従来なされている(例えば、特許文献1〜3を参照)。また、クルクミンがATRAによる白血球の分化誘導能を増強することも報告されている(例えば、非特許文献1および2を参照)。ここで、非特許文献1および2におけるクルクミンの作用は、ヒト前骨髄球性白血病細胞であるHL−60細胞を用いた実験により実証されたものである。しかしながら、ATRAによるリンパ腫治療効果にクルクミンが及ぼす影響については、いまだ知見は存在しない。
【0004】
ここで、クルクミンの抗酸化作用は、生体内に既に生成している活性酸素を消去するスカベンジャーとしてクルクミンが機能することにより発揮されることが知られている。生体内で生成する活性酸素はDNA損傷や生体膜の酸化といった作用を及ぼす有害物質としての側面も有しており、ときには生命維持に支障を来す可能性もあるが、クルクミンはこの活性酸素を消去することで、抗酸化作用を発揮すると考えられているのである。また、活性酸素は、その毒性を逆手に取って、他の生物の侵略から生体を防御する目的にも用いられている。例えば、白血球は細菌等の侵入時に感染局所に移動して細菌を捕食するが、この際に白血球は、活性酸素の1種であるスーパーオキシドを産生することで、より高い殺菌効果を実現している。
【0005】
なお、患者自身の免疫能力を高める薬剤は「免疫賦活剤」と総称され、特に癌の免疫細胞療法における用途が注目されている。例えば、上述した生体防御系としての活性酸素(スーパーオキシドなど)の産生を増強できる薬剤が開発されれば、癌の免疫細胞療法などに利用可能な免疫賦活剤の選択肢が1つ加わることになる。また、食細胞(マクロファージなど)の活性酸素の産生を増強できる薬剤が提供されれば、白血病により併発される感染症を軽減できる可能性もある。ちなみに、クルクミンがかような免疫賦活作用を有することについては、いまだ知見は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−529123号公報
【特許文献2】特表2005−535626号公報
【特許文献3】特表2008−516954号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Liu Y et al.,Oncology Research 9(1),19−29(1997)
【非特許文献2】Sokoloski JA et al.,Leukemia Research 22(2),153−61(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高い新規な癌治療手段および免疫賦活手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行なった。その結果、RAをヒト組織球性リンパ腫細胞(U937)に作用させる際にクルクミンを併存させると、RAにより誘導されるU937細胞のスーパーオキシド産生能が強力に促進されることを見出した。また、クルクミンによるかようなスーパーオキシド産生促進作用は、ある種のスーパーオキシド産生系構成細胞質因子(タンパク質)の細胞質における存在量が顕著に増加することによるものであることも判明した。これらの知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態によれば、レチノイン酸のリンパ腫治療効果を増強するレチノイン酸効果増強剤が提供される。そして、当該増強剤は、クルクミンを有効成分として含有する。
【0011】
上述した本発明の一形態によるレチノイン酸効果増強剤においては、リンパ腫が組織球性リンパ腫であることが好ましい。また、レチノイン酸は全trans−レチノイン酸であることが好ましい。そして、上述した本発明のレチノイン酸効果増強剤を、レチノイン酸を有効成分とするリンパ腫治療剤と組み合わせることで、リンパ腫治療剤キットが提供される。
【0012】
また、本発明の他の形態によれば、クルクミンを有効成分として含有する活性酸素産生促進剤が提供される。
【0013】
上述した本発明の他の形態による活性酸素産生促進剤において、活性酸素はスーパーオキシドであることが好ましい。そして、上述した活性酸素産生促進剤は、免疫賦活剤として用いられうる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性が高い新規な癌治療手段および免疫賦活手段が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の(2)において、化学発光法に基づき、クルクミン添加がRAで誘導されるU937細胞のスーパーオキシド産生能に与える影響を調べた結果を示すグラフである。
【図2】実施例の(3)において、抗ヒトCD11b抗体を用いたFACS解析により、細胞表面マーカーCD11bの発現を指標として、クルクミン添加がU937細胞のマクロファージへの分化誘導に及ぼす影響を調べた結果を示すグラフである。
【図3】実施例の(4)において、半定量性RT−PCRを用いたmRNA発現量の測定により、白血球のスーパーオキシド産生系を構成する因子の遺伝子発現にクルクミン添加が及ぼす影響を解析した結果を示すグラフである。
【図4】実施例の(5)において、ウェスタンブロット解析を用いたタンパク質発現量の測定により、白血球のスーパーオキシド産生系を構成する因子のタンパク質発現にクルクミン添加が及ぼす影響を解析した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されることはない。
【0017】
[レチノイン酸効果増強剤]
本発明の一形態は、レチノイン酸のリンパ腫治療効果を増強するレチノイン酸効果増強剤であって、クルクミンを有効成分として含有する、レチノイン酸効果増強剤である。
【0018】
本形態のレチノイン酸効果増強剤の有効成分であるクルクミン(curcumin)は、ウコン(ターメリック、学名Curcuma longa)の黄色色素であり、ポリフェノールの1種であるクルクミノイドに分類される。本発明において、クルクミンは純品として増強剤に含まれていてもよいし、ショウガ科ウコン属(Curcuma属)植物の根茎からの抽出物として増強剤に含まれていてもよい。ここで、ウコン属植物の根茎はカレー粉の原料として世界的に広く食用とされ、さらに中国や我が国では薬用植物として古くから利用されてきたことから、その安全性は極めて高い。以下、ウコン属植物の根茎からの抽出物としてのクルクミンをレチノイン酸増強剤の有効成分として用いる場合の抽出物の入手方法について簡単に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が下記の具体的な手段によって限定されるわけではない。
【0019】
抽出物の原料となるウコン属植物の根茎としては、秋ウコンと称される狭義のウコン(Curcuma longa)のほか、春ウコン(キョウオウ、Curcuma aromatica)、紫ウコン(ガジュツ、Curcuma zedoaria)等の根茎が用いられる。これらは亜熱帯地域や沖縄県などで商品作物として栽培されているが、本発明に用いる場合、産地はとくに限定されない。
【0020】
また、これらの根茎の収穫時期は食用、薬用等の目的で従来収穫されてきた時期とする。収穫された新鮮根茎はそのままでもエタノール等で当該活性成分を抽出することができるが、薄切り後、陰干し等で乾燥させたものや、それをさらに細断・粉砕したものが抽出効率の点からは好適である。また、ウコン粉末等から水蒸気蒸留等で精油を採取した残渣も原料に用いることができる。抽出に用いる溶媒としてはエタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル等が挙げられ、これらを乾燥ウコン根茎スライス・粉末の1グラムあたり3mLから30mL程度添加し、攪拌または密栓静置して抽出する。パーコレーター等の公知の抽出器具を用いてもよい。抽出時間は溶媒の種類、原料の形態、原料/溶媒の量比、攪拌の有無、温度等により異なり、場合に応じて適当な条件を選択する。例えば乾燥スライスを5倍量のエタノールに沈積して静置しておく場合、2週間程度で目的とする画分は十分に抽出される。また、乾燥粉末を10倍量のエタノールとともに室温で攪拌すれば、一昼夜で抽出することも可能である。
【0021】
このようにして得られた抽出物をロータリーエバポレーター等で濃縮し、溶媒を減圧下で除去する。この残液はそのままでもレチノイン酸効果増強剤として用いられるが、より好ましくは活性炭処理やシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の公知の手段で不要成分や活性阻害成分を除いてから用いるのがよい。例えば、粗抽出物の濃縮エキスを酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒で再抽出し、活性炭に吸着させる。非吸着成分をヘキサンで洗い去り、吸着成分を5%から50%のアセトンを含むヘキサンで溶離回収してもよい。また、乾燥根茎粉末を予めヘキサンで抽出後、5%から100%のアセトンやエタノールを含むヘキサンで抽出してもよい。さらに、粗抽出物をシリカゲルに吸着させ、ヘキサンまたは数%のアセトンを含むヘキサンで洗浄後、吸着成分を5%から70%のアセトンを含むヘキサンで溶出させてもよい。ただし、上述の精製法は例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
これらの抽出物、溶出物は溶媒を減圧下で除去した後、レチノイン酸効果増強剤の有効成分として用いられるが、その方法として、エタノールに溶解し飲用水に添加する方法、適当なリン脂質等の界面活性剤を含む水に懸濁し飲用水や食物に添加する等のほか、適当な補助剤と混合し錠剤の形で利用する方法等が挙げられる。なお、これらのウコン抽出物に代えて、その活性成分の1つであるクルクミンを用いる場合、クルクミンはウコン抽出物からクロマトグラフィー等公知の方法で製取することもできるし、公知の方法で化学合成することも容易である。
【0023】
本形態のレチノイン酸効果増強剤は、レチノイン酸のリンパ腫治療効果を増強するものである。上述したように、レチノイン酸(RA)はビタミンAの誘導体であり、鎖部の二重結合がすべてtransの全trans−レチノイン酸(ATRA;All Trans Retinoic Acid)と、9位がcis構造をとる9−cis−レチノイン酸がある。本形態のレチノイン酸効果増強剤は、ATRAまたは9−cis−レチノイン酸のいずれのリンパ腫治療効果を増強するものであってもよいが、好ましくはATRAのリンパ腫治療効果を増強するものである。本形態において「リンパ腫」とは、リンパ・網内系組織の悪性新生物を全て包含する概念であり、その発生部位は特に制限されず、リンパ節、脾臓、その他リンパ・網内系細胞の存在する任意の部位でありうる。リンパ腫は、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫とに大別される。そして、非ホジキンリンパ腫としては、例えば、組織球性リンパ腫、小細胞型リンパ腫、免疫芽球性リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、結節型リンパ腫、未分化型リンパ性リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、Tリンパ球豊富B細胞リンパ腫、分化型リンパ性リンパ腫などが挙げられる。なかでも、本形態のレチノイン酸効果増強剤の対象としては、非ホジキンリンパ腫が好ましく、組織球性リンパ腫が特に好ましい。なお、「レチノイン酸効果増強剤」とは、レチノイン酸がリンパ腫に対して示す治療効果を増強する薬剤を意味し、その具体的な態様について特に制限はない。また、レチノイン酸の効果を増強するメカニズムについても特に制限はない。なお、後述する実施例の結果から明らかなように、クルクミンやウコン属植物の抽出物を有効成分として含有する本形態のレチノイン酸効果増強剤は、スーパーオキシド産生系を構成する細胞質因子(特に、p47−phoxおよびp67−phox)のタンパク質量を増加させることで細胞におけるスーパーオキシド産生を促進させ、これによりレチノイン酸の効果の増強作用を示すものと考えられる。ただし、本形態の増強剤の技術的範囲が当該メカニズムによって制限されるわけではない。
【0024】
[リンパ腫治療剤キット]
以上のレチノイン酸効果増強剤は、レチノイン酸の投与が必要と診断されたリンパ腫患者に対してレチノイン酸と併用投与することによって、レチノイン酸によるリンパ腫治療効果を大幅に増強することができる。つまり、本発明の他の形態によれば、上述したレチノイン酸効果増強剤と、レチノイン酸を有効成分とするリンパ腫治療剤とを含む、リンパ腫治療剤キットが提供される。
【0025】
なお、本形態のリンパ腫治療剤キットの使用時において、レチノイン酸およびレチノイン酸効果増強剤は、(1)双方を含む単一の医薬組成物、(2)これらの一方のみをそれぞれ含む別個の医薬組成物、のいずれの組成物として投与してもよい。また、(2)の投与例の場合、これら別個の医薬組成物を同時に投与してもよいし、逐次的に別々に投与してもよい。レチノイン酸およびレチノイン酸効果増強剤逐次的に別々に投与する場合とは、レチノイン酸またはレチノイン酸効果増強剤を最初に投与し、次に他方を投与する投与例である。両薬剤の有効血中濃度が比較的長時間維持されるため、そのような逐次投与は、時間間隔を空けずに行ってもよいし、時間間隔を空けて行ってもよい。本形態におけるレチノイン酸およびレチノイン酸効果増強剤は、あらゆる適切な経路で投与されうる。好適な経路としては、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、および非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、髄腔内および硬膜外を含む)が挙げられる。好ましい経路は、例えばこの組合せ薬剤のレシピエントの症状に応じて様々に変わり得ることが理解されよう。また、投与される薬剤は同じ経路で投与されてもよいし異なる経路で投与されてもよい。
【0026】
レチノイン酸およびレチノイン酸効果増強剤のそれぞれの投与量についても特に制限はなく、疾患の状態や患者のサイズ、年齢などの因子に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0027】
[活性酸素産生促進剤]
後述する実施例の結果に示されるように、クルクミンやウコン属植物の抽出物は、スーパーオキシド産生系を構成する細胞質因子(特に、p47−phoxおよびp67−phox)のタンパク質量を増加させることで細胞におけるスーパーオキシド産生を促進させる。したがって、本発明のさらに他の形態によれば、上述したレチノイン酸効果増強剤と同様の有効成分(クルクミンやウコン属植物の抽出物)を有効成分として含有する活性酸素産生促進剤が提供される。当該活性酸素産生促進剤は、好ましくは白血球の活性酸素産生促進剤であり、より好ましくは単球の活性酸素産生促進剤である。また、当該促進剤によって産生が促進される活性酸素の種類について特に制限はなく、例えば、スーパーオキシド(O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシルラジカル(HO・)などが挙げられるが、好ましくはスーパーオキシドである。
【0028】
本形態の活性酸素産生促進剤は、上述した有効成分(クルクミンやウコン属植物の抽出物)が有する活性酸素産生促進作用を通じて、免疫機能を賦活させ、免疫機能の低下等に伴う各種疾病を予防、治療または改善する目的に用いることができる。つまり、当該活性酸素産生促進剤は、免疫賦活剤として用いられうる。かような免疫賦活剤は、患者自身の免疫機能を向上させることにより、癌の免疫細胞療法などに好適に用いられうる。ただし、本形態の活性酸素産生促進剤は、免疫賦活剤としての用途以外にも、活性酸素産生促進作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0029】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕
ヒトp22−phox遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:2〕
ヒトp22−phox遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:3〕
ヒトgp91−phox遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:4〕
ヒトgp91−phox遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。〔配列番号:5〕
ヒトp40−phox遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:6〕
ヒトp40−phox遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。〔配列番号:7〕
ヒトp47−phox遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:8〕
ヒトp47−phox遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。〔配列番号:9〕
ヒトp67−phox遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:10〕
ヒトp67−phox遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。〔配列番号:11〕
ヒトGAPDH遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:12〕
ヒトGAPDH遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および参考例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0031】
(1)細胞培養
ヒト組織球性リンパ腫由来のU937細胞株を、独立行政法人理化学研究所の細胞バンクより購入した(JCRB9021)。このU937細胞株(2×10個)を10mLのRPMI−1640培地(10%胎児ウシ血清を含む)に懸濁し、37℃にて培養した。培養開始時に添加なし(None)の系のほか、5μMクルクミン(Curc)(Alexis Biochemicals社)、1μMレチノイン酸(RA)(Sigma社)または5μMクルクミン+1μMレチノイン酸(RA+Curc)をそれぞれ添加した系を設定した。
【0032】
(2)クルクミン添加がRAで誘導されるU937細胞のスーパーオキシド産生能に与える影響
以下の手法による化学発光法に基づき、クルクミン添加がRAで誘導されるU937細胞のスーパーオキシド産生能に与える影響を調べた。
【0033】
上記(1)で樹立した4つの系からそれぞれ培養開始48時間後の細胞を回収し、そのうち2×10個の細胞を化学発光プローブDiogene(National Diagnostics社)−ルミノールを含む1mLのPBS(1mM MgCl、0.5mM CaCl、5mMグルコースおよび0.03%ウシ血清アルブミンを含有)に再懸濁した。最終濃度200ng/mLになるようにホルボールエステル(PMA)を添加し、37℃にてインキュベートした。10分毎にルミノメーターTD−20/20(Promega社)を用いて化学発光量を測定し、それぞれの系におけるスーパーオキシド産生能を比較した。結果を図1に示す。なお、図1(並びに、後述する図3および図4)に示す定量データは全て独立して行った3回の実験データの平均値である(mean±SD)。
【0034】
図1に示すように、RA単独処理によってスーパーオキシド産生能の亢進が認められたが、RA+Curcの系ではRA単独の場合を大幅に上回る(4倍超)スーパーオキシド産生能を示した。一方、クルクミン単独ではスーパーオキシド産生能亢進効果は全く認められなかった。この結果から、クルクミンには単独でスーパーオキシド産生を促進する能力はないものの、RAで誘導されるU937細胞のスーパーオキシド産生能を強力に促進する能力を有することが示された。
【0035】
(3)クルクミン添加がU937細胞のマクロファージへの分化誘導に及ぼす影響
以下の手法による抗ヒトCD11b抗体を用いたFACS解析により、細胞表面マーカーCD11bの発現を指標として、クルクミン添加がU937細胞のマクロファージへの分化誘導に及ぼす影響を調べた。なお、RA処理によってU937細胞はマクロファージ様細胞へと分化する。そしてこの際、マクロファージの細胞表面マーカーであるCD11bの発現が増加する。つまり、CD11bは未分化の細胞(U937)がマクロファージ様細胞に分化する際に細胞表面に発現されるマーカータンパク質である。
【0036】
1μMレチノイン酸(RA)または5μMクルクミン+1μMレチノイン酸(RA+Curc)を添加して48時間培養した細胞を用いて、その細胞表面のCD11b(マクロファージの細胞表面マーカーの1種)の発現量を調べた。最初に10μg/mL抗ヒトCD11b抗体(Ancell社)、続いて1/1000希釈FITC標識二次抗体(Molecular Probes社)で細胞を処理した後、FACSCaliburを用いて解析した。結果を図2に示す。
【0037】
図2に示すように、RA+クルクミンで処理した細胞はRA単独処理の細胞よりもCD11bの発現がわずかに増加していた。この結果から、RAによる分化誘導の際にクルクミンを添加するとU937細胞のマクロファージへの分化も促進されることが示された。しかしながら、その効果はさほど強くはなく、クルクミンは分化誘導よりもスーパーオキシド産生能をより強力に亢進させることが明らかとなった。
【0038】
(4)クルクミン添加がスーパーオキシド産生系構成因子の遺伝子発現に及ぼす影響
以下の手法による半定量性RT−PCRを用いたmRNA発現量の測定により、白血球のスーパーオキシド産生系を構成する因子の遺伝子発現にクルクミン添加が及ぼす影響を解析した。この際、mRNA発現量を測定する対象とした白血球のスーパーオキシド産生系を構成する特異的なタンパク質は、細胞膜に存在するp22−phoxおよびgp91−phox(この2つがチトクロームb558となる)、並びに、細胞質に存在するp40−phox、p47−phoxおよびp67−phoxの計5種類である。
【0039】
上記(1)で樹立した4つの系からそれぞれ培養開始48時間後の細胞を回収し、Trizol(Invitrogen社)を用いて全RNAを抽出・精製した。逆転写反応キット(Toyobo社)を用いて逆転写反応を行い、これらを鋳型として使用した。内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、p22−phox、gp91−phox、p40−phox、p47−phoxおよびp67−phoxのそれぞれのmRNA発現量を半定量性PCRにより解析した。なお、この半定量性PCRに用いたプライマーを下記の表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
次いで、PCRにより得られた増幅産物を1.5%アガロースゲル電気泳動法により分離し、イメージアナライザーLAS−1000plus(FUJIFILM社)を用いて定量した。定量結果を図3に示す。
【0042】
図3に示すように、白血球のスーパーオキシド産生系を構成する5つの特異的因子である(p22−phox、gp91−phox、p40−phox、p47−phoxおよびp67−phox)の遺伝子(mRNA)発現量はいずれもRA処理によって増加した。そして、gp91−phox以外の遺伝子(mRNA)の発現は、クルクミン添加によってさらに増強された。この結果から、クルクミンの添加によってスーパーオキシド産生系構成因子の遺伝子発現が亢進することが示された。ただし、クルクミンの添加は非添加(RA単独)と比べて1.3〜1.5倍程度の増強を示すのみであり、上記(2)で示されたようにクルクミンの添加がスーパーオキシド産生能を約4倍に増強する原因としては不十分であると考えられた。
【0043】
(5)クルクミン添加がスーパーオキシド産生系構成因子タンパク質発現量に及ぼす影響
以下の手法によるウェスタンブロット解析を用いたタンパク質発現量の測定により、白血球のスーパーオキシド産生系を構成する因子のタンパク質発現にクルクミン添加が及ぼす影響を解析した。この際、発現量の測定対象としては、上記(4)と同様の5種類のタンパク質を採用した。
【0044】
上記(1)で樹立した4つの系からそれぞれ培養開始48時間後の細胞を回収して超音波処理により破砕し、遠心分離法により細胞質画分(p40−phox、p47−phoxおよびp67−phox用)と膜画分(p22−phoxおよびgp91−phox用)とに分離した。これらの画分をそれぞれSDS処理した後、SDS−PAGE法によりタンパク質を分離し、続くウェスタンブロット法によりPVDF膜にタンパク質を転写した。次いで、タンパク質を転写したPVDF膜を一次抗体(抗ヒトp40−phox抗体はSanta Cruz社、抗ヒトp47−phox抗体、抗ヒトp67−phox抗体および抗ヒトgp91−phox抗体はBD Transduction Laboratories社からそれぞれ購入、抗ヒトp22−phox抗体は川崎医科大学生化学教室の栗林太教授より供与された)とインキュベートし、続いてHRP標識二次抗体(Dako社)で処理した後、HRP基質を添加し、生じた化学発光をイメージアナライザーLAS−1000plus(FUJIFILM社)を用いて定量分析した。なお、コントロール抗体として抗ヒトβ−アクチン抗体(abcam社)を使用した。定量結果を図4に示す。なお、図4における「RA+Curc+/RA+Curc−」という表記は、RA+CurcのデータをRA+(RA単独)のデータで除した比の値を表す。
【0045】
図4に示す結果から、RAで分化誘導したU937細胞におけるp22−phox、gp91−phoxおよびp40−phoxのタンパク質量は、未分化U937細胞における発現量と比較すると増加してはいるものの、クルクミン添加による影響を殆ど受けなかった。一方、非常に興味深いことに、RA分化誘導時におけるクルクミンの添加によって、p47−phoxおよびp67−phoxのタンパク質量は劇的に増加した(それぞれ約7倍および約4倍)。このことから、クルクミン存在下でRAを用いてU937細胞を分化誘導する際に、細胞質因子であるp47−phoxおよびp67−phoxのタンパク質量がクルクミンの作用で劇的に増加することで、スーパーオキシド産生能が強力に亢進されることが示唆された。
【0046】
以上の結果をまとめると、クルクミンはRAによって誘導されるU937細胞のスーパーオキシド産生能を劇的に増強する(4倍超)が、その効果は主として、クルクミン添加によって2つのスーパーオキシド産生系構成細胞質因子p47−phox(約7倍)およびp67−phox(約4倍)のタンパク質量が顕著に増加することによりもたらされるものと考えられた。クルクミンはこれらのタンパク質を翻訳レベルで増強しているか、もしくは当該タンパク質の分解を抑制している可能性が高いと考えられる。クルクミンのかような作用に基づき、本願では、クルクミンやウコン抽出物の、レチノイン酸効果増強剤としての用途や、活性酸素産生促進剤およびこれを用いた免疫賦活剤としての用途を提案するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノイン酸のリンパ腫治療効果を増強するレチノイン酸効果増強剤であって、
クルクミンを有効成分として含有する、レチノイン酸効果増強剤。
【請求項2】
前記リンパ腫が組織球性リンパ腫である、請求項1に記載のレチノイン酸効果増強剤。
【請求項3】
前記レチノイン酸が全trans−レチノイン酸である、請求項1または2に記載のレチノイン酸効果増強剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のレチノイン酸効果増強剤と、レチノイン酸を有効成分とするリンパ腫治療剤とを含む、リンパ腫治療剤キット。
【請求項5】
クルクミンを有効成分として含有する、活性酸素産生促進剤。
【請求項6】
前記活性酸素がスーパーオキシドである、請求項5に記載の活性酸素産生促進剤。
【請求項7】
請求項5または6に記載の活性酸素産生促進剤を含む、免疫賦活剤。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190228(P2011−190228A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59734(P2010−59734)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】