説明

レドックスフロー電池

【課題】低抵抗で電流効率が高いレドックスフロー電池(RF電池)を提供する。
【解決手段】正極電極104と、負極電極105と、これら両電極104,105間に介在されるイオン交換膜10とを具える電池要素に、電解液を供給して充放電を行うRF電池であり、イオン交換膜10において電極104,105との対向面に、電極104,105の構成材料よりも柔らかい材質から構成された多孔質シート材11A,11Bを具える。多孔質シート材11A,11Bによって、イオン交換膜10が電極104,105に接触することによる損傷を防止でき、多孔質シート材11A,11B自体も柔らかいことでイオン交換膜10を損傷することが無い。多孔質シート材11A,11Bはイオン伝導性及び電解液の透過性を阻害し難い。従って、本発明RF電池は、イオン交換膜10の損傷による短絡を防止でき、電流効率が高く、低抵抗である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池に関するものである。特に、低抵抗で電流効率が高いレドックスフロー電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、再生可能エネルギーを利用した発電の大量導入は、電力系統の周波数や電圧の維持を困難にさせるという問題を招く。この問題の対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを図ることが期待される。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池(以下、RF電池と呼ぶ)がある。RF電池100は、図3に示す形態のものが知られている。RF電池100は、正極電極104を内蔵する正極セル102と負極電極105を内蔵する負極セル103との間にイオン交換膜101を介在させた電池要素100cと、電池要素100cに電解液を供給する循環機構とを具え、循環機構により、正極電解液及び負極電解液を電池要素100cに循環供給して充放電を行う。循環機構は、正極電解液を貯留する正極タンク106と、正極タンク106と電池要素100cとの間で正極電解液を流通する正極配管108,110と、負極電解液を貯留する負極タンク107と、負極タンク107と電池要素100cとの間で負極電解液を流通する負極配管109,111と、上流側の配管108,109に配置されるポンプ112,113とを具える。電解液には、代表的には、酸化還元により価数が変化するバナジウムイオンといった金属イオンを含有する水溶液が利用される。図3においてタンク106,107内のイオンは例示である。また、図3において実線矢印は、充電、破線矢印は放電を意味する。
【0004】
イオン交換膜101は、塩化ビニルやポリエチレンといった樹脂からなる基材に、イオン交換樹脂が付着されたものが汎用されている(特許文献1)。正極電極104,負極電極105は、代表的には、炭素繊維からなる不織布が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-172600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低抵抗としつつ、RF電池の電池効率(例えば、電流効率)を向上することが望まれる。
【0007】
本発明者らが調べたところ、電流効率が低いRF電池では、電極を構成する繊維がイオン交換膜に突き刺さっていることがある、との知見を得た。このことから、イオン交換膜において繊維が突き刺さった箇所に生じた孔や当該孔から進展した亀裂を介して正極電解液と負極電解液とが混ざって短絡することで、電流効率の低下を招いた、と考えられる。また、上記繊維が突き刺さった箇所が破壊の起点となり、イオン交換樹脂が脱落するなどのイオン交換膜の破壊によって、RF電池の寿命を短くする可能性がある。
【0008】
上記孔や亀裂といった損傷を防止するために、例えば、イオン交換膜の厚さ(特にイオン交換樹脂の厚さ)を厚くすることが考えられる。しかし、この場合、樹脂が厚くなることで、イオン伝導性や電解液の透過性の低下を招き、結果として、電気抵抗が増大し、低抵抗化が難しくなる。
【0009】
製造段階において、電極を構成する繊維が突き刺さらないように、イオン交換膜と電極とを積層できたとしても、充放電を行うごとに電池要素の構成部材が伸縮するなどして、イオン交換膜と電極との接点が変化する。そのため、上述のように電極との接触によりイオン交換膜が損傷し得る。
【0010】
従って、低抵抗で、かつ電流効率を向上することができるRF電池の開発が望まれる。また、長期に亘り、低抵抗でありながら、高い電流効率を維持することができるRF電池の開発が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、低抵抗で電流効率が高いレドックスフロー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、イオン交換膜と電極との間に特定の材質からなるカバーを配置することで上記目的を達成する。
【0013】
本発明のレドックスフロー電池:RF電池は、正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在されるイオン交換膜とを具える電池要素に、電解液を供給して充放電を行う二次電池である。上記イオン交換膜において上記正極電極及び上記負極電極のそれぞれとの対向面に、上記正極電極及び上記負極電極の構成材料よりも柔らかい材質から構成された多孔質シート材を具える。
【0014】
イオン交換膜と正極電極との間、及びイオン交換膜と負極電極との間のそれぞれに上記多孔質シート材が介在されることで、本発明RF電池では、イオン交換膜と正極電極、イオン交換膜と負極電極とのいずれもが直接接触することを低減できる、好ましくは実質的に接触しない。従って、本発明RF電池は、電極との接触によってイオン交換膜に亀裂や孔が生じることを効果的に低減できる、好ましくは防止できる。かつ、上記多孔質シート材は、電極よりも柔らかい材質から構成されているため、当該多孔質シート材との接触によってイオン交換膜に亀裂や孔が実質的に生じない。つまり、上記多孔質シート材は、イオン交換膜が正極電極及び負極電極に接触することによる損傷を防止するカバーとして機能し、上記亀裂や孔の発生による局所的な短絡を効果的に低減、或いは防止することができる。また、上記多孔質シート材は、多孔質体であることから、イオンの伝導や電解液の流通を阻害し難い。このように特定の材質からなる多孔質シート材を具える本発明RF電池は、低抵抗であり、電流効率を向上することができる。また、本発明RF電池は、製造段階だけでなく、充放電の繰り返し運転を行った場合にも、多孔質シート材によってイオン交換膜を保護できるため、長期に亘り、低抵抗で、高い電流効率を維持することができる。
【0015】
本発明の一形態として、上記正極電極及び上記負極電極が炭素繊維の不織布から構成され、上記多孔質シート材は、フッ素樹脂、フェノール樹脂、及びエンジニアリングプラスチックから選択される1種の有機材料から構成された形態が挙げられる。特に、フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン:PTFEが挙げられる。
【0016】
炭素繊維の不織布からなる電極を用いた場合、充放電の副反応として酸素ガスの発生を抑制し易く、当該酸素ガスに基づく電池部材の酸化などを抑制できる。上記列挙した有機材料はいずれも、上記不織布を構成する炭素よりも柔らかく、RF電池に利用される電解液に対する耐性も高い。従って、上記形態は、低抵抗で高効率なRF電池を構築することができる。特に、多孔質シート材がPTFEから構成される場合、(1)電解液に対する耐性に非常に高く、長期に亘って、イオン交換膜を保護することができる、(2)気孔率が高いシート材を製造可能であり、気孔率が高いシート材を具えることで、抵抗の増加がほとんどなく、低抵抗なRF電池が得られる、といった効果を奏する。
【0017】
本発明の一形態として、上記多孔質シート材は、気孔率が60%以上90%以下、厚さが50μm以上150μm以下である形態が挙げられる。
【0018】
上記形態は、イオン交換膜と電極との接触を十分に防止しつつ、イオン伝導性や電解液の透過性の低下を抑制することができるため、低抵抗で高効率なRF電池を構築することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明レドックスフロー電池は、低抵抗で、電流効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明RF電池に具える電池要素の概略を示す断面図である。
【図2】RF電池に具えるセルスッタックの概略構成図である。
【図3】RF電池の基本構成及び動作原理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。図1では、分かり易いように各構成部材の大きさを異ならせて示す。
【0022】
本発明レドックスフロー電池:RF電池の基本的な構成は、上述した図3に示す従来のRF電池と同様であり、電池要素(特に、電極間に介在される部材)に特徴を有する。以下、RF電池の基本的な構成について概要を説明し、特徴点を詳細に説明する。
【0023】
[全体構造]
本発明RF電池は、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。本発明RF電池は、従来のRF電池100(図3)と同様に、電池要素100c(図3)を主要構成部材とし、タンク106,107(図3)、配管108〜111(図3)、ポンプ112,113(図3)といった電解液の循環機構を利用して、電池要素100cに正極電解液及び負極電解液を循環供給して充放電を行う。
【0024】
電池要素100cは、正極セル102(図3)とイオン交換膜101(図3)と負極セル103(図3)とを複数積層させたセルスタックと呼ばれる形態が利用される。セルスタック200には、図2に示す双極板211を具えるフレーム212が利用される。双極板211は、その表裏にそれぞれ正極電極104,負極電極105が配置され、フレーム212は、双極板211の外周に形成され、電極104,105に電解液を供給する給液孔213,214及び電極104,105からの電解液を排出する排液孔215,216を有する。セルスタック200は、双極板211を具えるフレーム210、正極電極104、イオン交換膜101、負極電極105、双極板211を有するフレーム212、…と順に繰り返し積層され、代表的には、この積層体の両側を一対のエンドプレート220で挟み、長ボルトなどの締付部材230によりエンドプレート220を締め付けることで組み立てられる。複数のフレーム212を積層することで、給液孔213(214)及び排液孔215(216)は正極極電解液(負極電解液)の流路を形成し、この流路は配管108〜111(図3)に適宜接続される。双極板211は、プラスチックカーボンからなるもの、フレーム212は、塩化ビニルなどの樹脂からなるものが挙げられる。
【0025】
[電解液]
本発明RF電池において、正負の各極の活物質に利用される金属イオンの対として、正極:鉄イオン、負極:クロムイオン、正極及び負極:バナジウムイオン、その他、正極:マンガンイオン、負極:チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンが挙げられる。正極活物質をマンガンイオンとする場合、負極活物質によっては全バナジウム系RF電池よりも起電力が高いRF電池を得ることができる。また、正極にマンガンイオンと共にチタンイオンを含有すると、Mn3+の不均化反応に伴うMnO2の析出を抑制することができる。正極及び負極の双方にマンガンイオン及びチタンイオンを含有する形態とすることもできる。
【0026】
正負の各極の電解液は、硫酸、リン酸、硝酸、硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩の少なくとも一種を含む水溶液が好ましい。特に、硫酸アニオン(SO42-)を含むものが利用し易い。
【0027】
[電極]
正極電極104,負極電極105には、炭素繊維からなる不織布:カーボンフェルトを利用することができる。より具体的には、非圧縮状態で、繊維径:5μm〜10μm程度、気孔率:90%〜95%程度、厚さ:3mm〜5mm程度のものが挙げられる。電極104,105は上述のように積層して締め付ける(圧縮する)場合、締付度合いによって厚さ及び気孔率が変化し、電解液の流通状態が変化する。所望の流通状態となるように、気孔率や厚さ、締付度合いを選択・調整するとよい。電極104,105には、公知のもの、市販のものが適宜利用できる。
【0028】
その他、正極電極104,負極電極105には、(1)Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材(例えば、Ti基体にIr酸化物やRu酸化物を塗布したもの)、(2)上記複合材を含むカーボン複合物、(3)上記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、(4)導電性ポリマー(例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェンなどの電気を通す高分子材料)、(5)グラファイト、(6)ガラス質カーボン、(7)導電性ダイヤモンド、(8)導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、(9)カーボンファイバからなる織布などが利用できる。
【0029】
上述のカーボンフェルトは、微視的にみれば、その表面において繊維が毛羽立っている。この毛羽立った繊維が後述するイオン交換膜に接触すると、イオン交換膜を突き刺したり、破ったりする可能性がある。このような毛羽立った電極を具えるRF電池に対して、後述する多孔質シート材を具えた構成とすることで、上述の突き刺しなどの低減・防止を図る。
【0030】
[イオン交換膜]
イオン交換膜10(図1)は、塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン:PE、ポリプロピレン:PP)などの樹脂からなる基材に、イオン交換基を有するイオン交換樹脂、或いはイオン交換樹脂とマトリクス樹脂との複合樹脂が付着されたものが利用できる。イオン交換基は、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ピリジニウム塩基、第四級アンモニウム塩基、第三級アミン基、ホスホニウム基などが挙げられる。イオン交換膜10は、厚いほど、正極電極104,負極電極105との接触による損傷(孔など)を防止できるものの、電気抵抗の増加を招くことから、5μm〜100μm程度が好ましい。イオン交換膜10は、公知のもの、市販のものが適宜利用できる。
【0031】
[多孔質シート材]
そして、本発明RF電池では、イオン交換膜10において正極電極104との対向面、及び負極電極105との対向面のそれぞれに多孔質シート材11A,11B(図1)を具える点を最大の特徴とする。
【0032】
多孔質シート材11A,11Bは、主として、イオン交換膜10が正極電極104,負極電極105に接触して、上述の繊維が突き刺さったり、亀裂が生じたり、上述の基材に保持された樹脂が脱落するなどの損傷・破壊を防止するための保護層として機能する。また、多孔質シート材11A,11Bは、それ自体がイオン交換膜10に接触してもイオン交換膜10を損傷・破壊させないような柔軟性を有する。かつ、多孔質シート材11A,11Bは、イオンの伝導を阻害せず(イオン伝導度が高く)、電解液の流通抵抗を増大し難い(電解液の透過性に優れる)ことが望まれる。これらの点から、多孔質シート材11A,11Bは、多孔体とすると共に、電極104,105の構成材料よりも柔らかい材質から構成されたものとする。「電極の構成材料よりも柔らかい」とは、電極の構成材料そのものの硬度よりも、多孔質シート材の構成材料そのものの硬度が低いことをいう。多孔質シート材の硬度の測定は、例えば、デュロメータを利用できる。
【0033】
多孔質シート材11A,11Bの具体的な材質としては、有機材料、より具体的には、フッ素樹脂、フェノール樹脂、エンジニアリングプラスチックが挙げられる。上記有機材料は、電極の材料として列挙した炭素繊維、金属と金属酸化物とを含む複合材、カーボン複合材、グラファイト、ダイヤモンド、DLCなどに比較して、十分に柔らかい。フッ素樹脂は、例えば、PTFE、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体:ETFE、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体:PFA、ポリフッ化ビニリデン:PVDFなどが挙げられる。フッ素樹脂は、硫酸溶液といった電解液に対する耐性に非常に優れるため、長期に亘り、イオン交換膜10の保護を行える。エンジニアリングプラスチックは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン:PEEKなどが挙げられる。
【0034】
多孔質シート材11A,11Bは、上記有機材料の繊維を用いた織布や不織布、シート材を切り込んだ後、エキスパンド加工を施した網、その他、公知の延伸加工を用いて微細な気孔を形成した多孔シート(例えば、ポアフロン(住友電気工業株式会社の登録商標))など、シート材の表裏に直線的に連通する気孔(以下、この気孔を直線孔と呼ぶ)を有するもの、表裏に非直線的に連通する気孔(屈曲した経路をとる気孔(以下、屈曲孔と呼ぶ))を有するもののいずれもが利用できる。また、多孔質シート材11A,11Bは、正極電極104,負極電極105の構成材料よりも柔らかいことから、上述の織布や網のように表面に毛羽たちが無い形態、不織布といった繊維が毛羽立った形態のいずれの形態としても、イオン交換膜10を損傷し難い。
【0035】
多孔質シート材11A,11Bの気孔の孔径は、正極電極104,負極電極105の形態にもよるが、例えば、電極104,105が不織布で構成されている場合、当該不織布を構成する繊維がイオン交換膜10に突き刺さることを防止できるように、繊維径よりも小さいことが好ましい。但し、孔径が小さ過ぎると、気孔率やシート材の形態にもよるが電解液の透過性を低下して内部抵抗の増大を招くため、最小径が1nm以上であることが好ましい。平織りの織布やダイヤ状孔が設けられた網などのように直線孔を有する形態では、不織布などのように屈曲孔を有する形態よりも電解液が透過し易い傾向にあるため、気孔を小さくしても、透過性の低下を抑制できる傾向にある。一方、孔径が大き過ぎると、例えば、電極を構成する繊維が気孔を通過してイオン交換膜10に突き刺さるなど、イオン交換膜10を損傷する恐れがある。従って、最大径は、電極を構成する繊維の最小径未満であることが好ましい。上述のように気孔率やシート材の形態にもよるが、平均孔径は、0.01μm〜1μm程度が挙げられる。
【0036】
多孔質シート材11A,11Bの気孔率は、小さ過ぎると、つまり、気孔が少なく緻密度が高いシート材であると、イオン伝導性及び電解液の透過性を低下させ、電気抵抗や内部抵抗の増大を招くことから、厚さにもよるが、50%以上、更に60%以上、特に70%以上が好ましい。気孔率が大き過ぎると、気孔が多いことで強度の低下を招くことから、90%以下が好ましい。不織布の気孔率は、例えば、水銀ポロシメーターやガス吸着比表面積測定装置などを利用して測定することができる。織布や上述の多孔シートの気孔率は、例えば、単位体積あたりの織布の質量:Dpを、当該織布を構成する繊維の密度:Dfで除した値を用いて、(1−Dp/Df)×100、といった演算により求めることができる。
【0037】
多孔質シート材11A,11Bの厚さは、気孔率が高い場合には、イオン伝導性及び電解液の透過性を十分に確保できるものの、通常、厚いほど、イオン伝導性及び電解液の透過性を低下させることから、150μm以下が好ましい。気孔率にもよるが、100μm以下がより好ましい。厚さが薄過ぎると、シート材自体の強度の低下により、例えば、電極を構成する繊維がシート材を突き破り、更にイオン交換膜10に突き刺さるなどして、イオン交換膜10を損傷する恐れがある。従って、多孔質シート材11A,11Bの厚さは、50μm以上、更に60μm以上が好ましい。
【0038】
多孔質シート材11A,11Bの少なくとも一方をイオン交換膜10と一体化してもよいし、単に積層させてもよい。多孔質シート材とイオン交換膜と一体化する場合には、例えば、イオン交換樹脂や複合樹脂と基材とを一体化するときに同時に多孔質シート材も一体化したり、別途、イオン交換樹脂や複合樹脂を溶融して多孔質シート材を接合したりすることが挙げられる。
【0039】
<試験例>
多孔質シート材の有無による電池特性の違いを調べた。
【0040】
この試験では、いずれの試料も同じ仕様のイオン交換膜、及び電極(カーボンフェルト(平均繊維径:5μm〜10μm))を用意し、電極の反応面積が9cm2である単セルのRF電池を作製した。単セル電池とは、正極セルと負極セルとを一つずつ具える電池要素からなるものであり、図1に示すように一つのイオン交換膜10の両側にそれぞれ正極電極104,負極電極105を配置し、電極104,105の両側を双極板211を具えるフレーム212で挟んで構成した。
【0041】
試料No.1〜3は、表1に示す材質の多孔質シート材をイオン交換膜10の両側に配置した。各試料の多孔質シート材の厚さ及び気孔率を表1に示す。試料No.1,2の多孔質シート材は、ポアフロン(住友電気工業株式会社の登録商標)を用いた。ポアフロン(登録商標)の気孔率は、以下のように測定した。ポアフロン(登録商標)の単位体積あたりの質量:Dpoを求める。また、ポアフロン(登録商標)と同じ材質の樹脂によって気孔の無いシートを作製し、この孔無しシートの単位体積あたりの質量:Dsを求める。そして、ポアフロン(登録商標)のDpoを孔無しシートのDsで除した値を用いて、(1−Dpo/Ds)×100を気孔率とする。なお、試料No.1,2のポアフロン(登録商標)の平均孔径は、1μm〜10μmであり、細孔径分布測定により求めた。試料No.3は、イオン交換膜の各面に異なる材質の多孔質シート材を配置した。具体的には、一面に試料No.1と同じポアフロン(登録商標)を配置し、他面に表1に示す織布を配置した。試料No.100は、イオン交換膜の片面にのみ、多孔質シート材を配置した試料であり、試料No.1と同じポアフロン(登録商標)を配置した。なお、気孔率、孔径、及び厚さは、多孔質シート材を圧縮していない状態で測定した値である。
【0042】
正極電解液及び負極電解液としてバナジウム溶液を用い、作製した各試料の単セル電池に電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を行った。この試験では、予め設定した所定の切替電圧に達したら、充電から放電に切り替え、複数サイクルの充放電を行った。充放電後、各試料について電流効率及び電気抵抗を求めた。電流効率は、(放電時間の合計/充電時間の合計)×100、電池抵抗(セル抵抗)は、複数サイクルのうち、任意の1サイクルにおける平均電圧及び平均電流を求め、平均電圧/平均電流とした。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、イオン交換膜において正極電極及び負極電極に対向する両面に、当該電極よりも柔らかい材質からなる多孔質シート材を具えることで、電気抵抗の上昇を抑えつつ、電流効率を向上することができることが分かる。
【0045】
充放電後、各試料を解体してイオン交換膜をSEM観察したところ、試料No.100では、電極を構成する炭素繊維がイオン交換膜に突き刺さっていることを確認した。試料No.1〜3では、上記炭素繊維がイオン交換膜に突き刺さっていることが確認できなかった。このことから、イオン交換膜の両側に配置した多孔質シート材が、イオン交換膜が電極に接触することによって損傷することを防止したことで、局所的な短絡を防止できた、と考えられる。また、このことから、電極との接触によってイオン交換樹脂の一部が脱落するなどの損傷も防止でき、イオン交換膜の長寿命化、ひいてはRF電池の長寿命化を図ることができる、と期待される。
【0046】
また、試料No.1,100のRF電池の不良率を調べた。具体的には、RF電池を作製した後、充放電運転を行わずに解体し、イオン交換膜に対して孔や亀裂といった損傷の有無を調べ、損傷が生じているものを不良と判定した。その結果、試料No.100では、作製した6個の電池のうち、3個について、イオン交換膜の損傷が見られたが、試料No.1では、作製した6個の電池の全てについて、損傷が見られなかった。このことから、多孔質シート材をイオン交換膜の両側に具えることで、RF電池の不良率も低減でき、生産性の向上を図ることができる、と期待される。
【0047】
その他、多孔質シート材をイオン交換膜の両側に具えることで、イオン交換膜が電極との接触により損傷・破壊されることを十分に防止できることから、例えば、電解液の流通圧力を更に高めることができる。流通圧力の増大により、電池要素内の圧力も高められるものの、イオン交換膜は、その両側を多孔質シート材によって保護されることで、当該圧力の増大による損傷の恐れが少なく、或いは全く無い。この流通圧力の増大によって、例えば、液移り(一方の極の電解液が他方の極に移動する現象)を抑制することができる、といった効果が期待できる。
【0048】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、多孔質シート材の材質、厚さ、気孔率、孔径、電極の材質などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明レドックスフロー電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした大容量の蓄電池に好適に利用することができる。その他、本発明レドックスフロー電池は、一般的な発電所や工場などに併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 イオン交換膜 11A,11B 多孔質シート材
100 レドックスフロー電池 100c 電池要素 101 イオン交換膜
102 正極セル 103 負極セル 104 正極電極 105 負極電極
106 正極タンク 107 負極タンク 108,110 正極配管 109,111 負極配管
112,113 ポンプ
200 セルスタック 211 双極板 212 フレーム 213,214 給液孔
215,216 排液孔 220 エンドプレート 230 締付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在されるイオン交換膜とを具える電池要素に、電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記イオン交換膜において前記正極電極及び前記負極電極のそれぞれとの対向面に、前記正極電極及び前記負極電極の構成材料よりも柔らかい材質から構成された多孔質シート材を具えることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項2】
前記正極電極及び前記負極電極は、炭素繊維の不織布から構成され、
前記多孔質シート材は、フッ素樹脂、フェノール樹脂、及びエンジニアリングプラスチックから選択される1種の有機材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記多孔質シート材は、気孔率が60%以上90%以下、厚さが50μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記正極電極及び前記負極電極は、炭素繊維の不織布から構成され、
前記多孔質シート材は、ポリテトラフルオロエチレンから構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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