説明

レピティションレバー

【課題】 レピティションレバーを等慣性に近づけることで、動作を敏感にすると共に、停止位置での安定性を高める。
【解決手段】 センターピン孔11からジャック挿通孔13に至るレバー右部分15及びセンターピン孔11からウィッペン当接ボタン用のネジ孔17に至るレバー左部分19を、それぞれ、上下の平板部15u,15d,19u,19dと、これら平板部間を連結する垂直部15v,19vとで構成し、垂直部15v,19vの断面積がセンターピン孔11から遠ざかるにつれて滑らかに減少するようにしてある。ここで、垂直部15v,19vは、直線的ではなく、肉厚中心に向かって凸の円弧面を描く様に肉厚が漸減している。これは、より等慣性に近づけるためである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、グランドピアノのレピティションレバーに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、図4に示す様に、レピティションレバー110としては木製のものが採用されており、センターピン孔111からジャック挿通孔113に至る部分115及びセンターピン孔111からウィッペン当接用のレギュレーティングボタン固定孔117に至る部分119は、それぞれ、断面四角形に削られていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、レピティションレバーは、グランドピアノ特有のものであり、このレピティションレバーを採用することで、アップライトピアノに比べて著しく連打性能を向上させている。即ち、鍵盤を約1/3程度戻せば、このレピティションレバーがシャンクローラを持ち上げるので、鍵盤を完全に戻さなくても次の打鍵が可能となり、トリルの様な演奏にも十分に追従していくことができるのである。
【0004】こうしたレピティションレバーの連打性能をさらに向上させることができれば、一層躍動感にあふれた曲の演奏が可能になることから、レピティションレバーの動作をより敏感とし、しかも、停止位置での安定性を高めることが望まれている。
【0005】そこで、本発明は、レピティションレバーの動作を敏感にすると共に、停止位置での安定性を高めることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段、発明の実施の形態及び発明の効果】かかる目的を達成するためになされた本発明のレピティションレバーは、センターピン孔からピアノの正面側及び奥側に伸びる部分を、それぞれ、上下の平板部と該平板部間を連結する垂直部とで構成し、該垂直部の断面積がセンターピン孔から遠ざかるにつれて減少するようにしたことを特徴とする。
【0007】このレピティションレバーによれば、レバー本体を平板部と垂直部で構成することにより、「H」を横にした様な断面構造とし、強度を保ちつつレバーの重量を軽量化している。そして、垂直部の断面積をセンターピン孔から遠ざかるにつれて減少させることで、レバーの微小部分を考えたとき、各微小部分に作用する慣性モーメントが従来品に比べて等慣性に近くなっている。従って、レピティションレバーの動作が敏速となり、かつ、コンパスの磁針と同じく定位置でピタリと止まり易く、打鍵に対して敏感でありながら、同時に停止位置での安定性を高めることができる。
【0008】なお、前記垂直部の断面積を段階的に減少させてもよいのであるが、前記垂直部の肉厚を滑らかに減少させるようにすると、成形が楽になるし、等慣性に一層近くなるからである。ここで、回動中心からxの距離にある微小部分をm(x)とすると、
【0009】
【数1】m(x)・x2 =C但し、Cは定数を満足するように垂直部の肉厚を調整すると、この垂直部を等慣性とすることができる。
【0010】この式から明かな様に、前記垂直部の肉厚は直線的に減少させるのではなく、前記垂直部表面が肉厚中心方向に凸となる様に減少させておく方が一層等慣性に近くなる。しかも、こうすることで、先端部分の強度が維持できる。この構成による利点は次の通りである。
【0011】例えば、後述実施例でも分かる通り、レピティションレバーを戻し方向に付勢するスプリングがジャック層通孔の近くを押し上げようとしており、また、反対側は当接用ボタンを介してウィッペンに衝突する。このことから、垂直部は先端側でもある程度強度を発揮する必要があるのである。これは、まさに、レピティションレバーの構造上特有の問題ということができる。こうした特有の問題に対し、上述の様に、垂直部表面を肉厚中心方向に凸となる様に減少させておくと、この垂直部の強度を維持する効果が得られると共に、最大限に重量を低下させることができ、レピティションレバー全体の慣性モーメントを小さくし、かつ、等慣性に近づけることができるのである。
【0012】また、このようなレピティションレバーは、全体をガラス繊維強化プラスチックで構成することが望ましい。ピアノ用の部品のプラスチック化としては、従来より、ジャックをポリアセタールで形成したり、ウィッペンをABS樹脂で形成するなど種々なされている。しかし、レピティションレバーとしては、ABS樹脂などを単独で用いたのでは強度面で断面積をあまり小さくできないので、ガラス繊維強化プラスチックを用いるとよいのである。
【0013】この場合、レピティションレバーの動きを滑らかにする上で、前記プラスチックとしてポリブチレンテレフタレートを用いるとよい。しかしながら、ポリブチレンテレフタレートには、接着剤として適切なものがないため、この場合は、レバー本体に対してスキン及びフェルトを両面テープで固定するようにするとよい。
【0014】
【実施例】次に、本発明の実施の形態である一実施例を図面と共に説明する。実施例のレピティションレバー10は、図1に示す様に、センターピン孔11からジャック挿通孔13に至る部分(以下、「レバー右部分」という。)15及びセンターピン孔11からウィッペン当接用ボタン(以下、「レバーボタン」という。)の固定用ネジ孔17に至る部分(以下、「レバー左部分」という。)19を、それぞれ、上下の平板部15u,15d,19u,19dと、これら平板部間を連結する垂直部15v,19vとで構成し、垂直部15v,19vの断面積がセンターピン孔11から遠ざかるにつれて滑らかに減少するようにしてある。ここで、図2に拡大して示す様に、垂直部15v,19vは、一点鎖線で示した様な直線的にではなく、肉厚中心に向かって凸の円弧面を描く様に肉厚が漸減している。これは、垂直部15v,19vの各自由端側で肉厚を十分に残しておき、スプリングの押圧力やレギュレーティングボタンを介して受ける衝撃力を支えることができるようにしておくためである。これは、レピティションレバー特有の構造上の問題に対処するためである。そして、その上で、最大限にレピティションレバー10全体の慣性モーメントを低下させるためでもある。こうして、等慣性に近づけつつ、強度も十分に補償し、かつ、全体の慣性モーメントを低下するという3つの効果を同時に達成しているのである。
【0015】なお、レバー右部分15の底面にはスプリング摺動用の逆V字溝21が形成されている。そして、垂直部15vを、この逆V字溝21の部分で両側に広がった逆Y字状の断面とし、垂直部15が強度を十分に発揮できるようにしている。また、ジャック挿通孔13側の先端には、表裏両面からくぼみ23が設けられている。このくぼみ23はもっぱら重量を低減して慣性モーメントを低下させるためであり、均一深さとしてある。なお、図中符号25は、ジャックとの位置合わせ用の目印(スカッチ)である。
【0016】このレピティションレバー10は、全体を、30重量%のガラス繊維で強化したポリブチレンテレフタレートのペレットを射出成形して製造されている。そして、図3に示す様に、スキン27及びフェルト29が図示右端部分に両面テープで固定される。両面テープで固定するのは、ポリブチレンテレフタレートには有効な接着剤がないからである。
【0017】実施例のレピティションレバー10は、図3R>3に示す様に、従来品と同様に、ウィッペンフレンジ31に対してブッシングクロス33及びセンターピン35を介して固定され、ジャック挿通孔13内にジャック40を挿通され、スプリング37によって図示反時計周りに付勢された状態でウィッペン30に取り付けられる。
【0018】この例では、ウィッペン30、レバーボタン51及びジャックボタン53は、いずれもABS発泡樹脂を用いて、ジャック40は、ポリアセタール樹脂を用いて、それぞれ射出成形によって製造されている。また、ウィッペン30及びボタン51,53に対するフェルト55〜59の貼付けには、接着剤が用いられている。ABS樹脂には有効な接着剤が存在するからである。
【0019】なお、ウィッペン30には、軽量化用のくぼみ30aが表裏両面に設けられている。このくぼみ30aは均一深さであり、レピティションレバー10の断面の様な工夫はしていない。ジャック40の柱状部41及びテール部43にも軽量化用のくぼみ41a,43aが表裏両面に設けられている。柱状部41のくぼみ41aは、上部ほど深くなるようにしてある。このくぼみ41aの表面は、レピティションレバー10と同様に等慣性に近づけることを意識してくぼみの底に向かって凸の円弧面を描く様にしてある。
【0020】実施例によれば、ガラス繊維強化プラスチックを使用しているので、断面積が従来品よりも小さくなっているものの、比重的には木より重く、従来の木製レピティションレバーと同様のアクション重量を達成することができる。また、ガラス繊維強化プラスチックを使用し、横向きのH字状断面で全体を構成しているので、曲げ剛性は十分に高く、強度面で従来の木製レピティションレバーに劣ることがない。しかも、垂直部15v,19vの断面積を、センターピン孔11から遠ざかるにつれて滑らかに漸減するようにしてあるので、長さ方向に見た微小断面の慣性モーメントが互いに近似し、全体の慣性が、コンパスの磁針における等慣性に近くなっている。
【0021】この結果、ハンマーシャンクが離れた後のスプリング37の力による戻り動作が素早く開始され、しかも、レバーボタン51とウィッペン30が当接する定位置へ復帰したときにピタリと止まる。よって、連打に対する反応が敏感でかつ安定している。
【0022】以上、本発明の一実施例を説明したが、本発明はこの実施例にのみ限られるものではなく、さらに種々なる態様にて実施し得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例のレピティションレバーを示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図、(d)は背面図、(e)は左側面図、(f)は右側面図、(g)はx−x断面図、(h)はy−y断面図、(i)はz−z断面図である。
【図2】 (a)は要部の拡大断面図、(b)はセンターピン孔部分の拡大断面図、(c)はスカッチの拡大図である。
【図3】 実施例のレピティションレバーをウィッペンに取り付けた状態の正面図である。
【図4】 従来のレピティションレバーを示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)はw−w断面図である。
【符号の説明】
10・・・レピティションレバー、11・・・センターピン孔、13・・・ジャック挿通孔、15・・・レバー右部分、15u,15d・・・平板部、15v・・・垂直部、17・・・レギュレーティングボタン固定用ネジ孔、19・・・レバー左部分、19u,19d・・・平板部、19v・・・垂直部、21・・・逆V字溝、23・・・くぼみ、25・・・スカッチ、27・・・スキン、29・・・フェルト、30・・・ウィッペン、30a・・・くぼみ、31・・・ウィッペンフレンジ、33・・・ブッシングクロス、35・・・センターピン、37・・・スプリング、40・・・ジャック、41・・・柱状部、43・・・テール部、41a・・・くぼみ、43a・・・くぼみ、51・・・レバーボタン、53・・・ジャックボタン、55〜59・・・フェルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 センターピン孔からピアノの正面側及び奥側に伸びる部分を、それぞれ、上下の平板部と該平板部間を連結する垂直部とで構成し、該垂直部の断面積がセンターピン孔から遠ざかるにつれて減少するようにしたことを特徴とするレピティションレバー。
【請求項2】 前記断面積の減少は、前記垂直部の肉厚を滑らかに減少させることによってなされていることを特徴とする請求項1記載のレピティションレバー。
【請求項3】 前記垂直部の肉厚は、前記垂直部表面が肉厚中心方向に凸となる様に減少されていることを特徴とする請求項2記載のレピティションレバー。
【請求項4】 全体をガラス繊維強化プラスチックで構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のレピティションレバー。
【請求項5】 前記プラスチックがポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項4記載のレピティションレバー。
【請求項6】 レバー本体に対してスキン及びフェルトを両面テープで固定することを特徴とする請求項5記載のレピティションレバー。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開平9−281959
【公開日】平成9年(1997)10月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−97060
【出願日】平成8年(1996)4月18日
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)