説明

レベルワウンドコイルとその製造方法、およびレベルワウンドコイルの包装体

【課題】ETTS方式において、レベルワウンドコイル(LWC)から銅管を引き出す際の引っ掛かり等のトラブルを解消することのできるLWCとその製造方法、およびLWCの包装体を提供する。
【解決手段】管が整列巻き、かつトラバース巻きされた複数のコイル層から構成され、m層目(mは自然数である)のコイルの外側にm+1層目のコイルをその2巻目が前記m層目のコイルの最終巻およびその直前巻の管間の外側凹部に嵌め込まれるように配置され、奇数層目及び偶数層目のコイルの巻き数がいずれもn(nは自然数)であるレベルワウンドコイルの製造に際し、所定の式を満たすように式中のいずれか1以上の制御因子の制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レベルワウンドコイル(LWC:Level Wound Coil、以下「LWC」と言うことがある。)とその製造方法、およびレベルワウンドコイルの包装体に関し、特に、エアコン等の空調用熱交換器の伝熱管、及び建築用の給水配管等に使用される銅又は銅合金管等のレベルワウンドコイルとその製造方法、およびレベルワウンドコイルの包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
空調装置等の熱交換器及び建築用の給水配管等には、内面溝付管や平滑管等の伝熱管が使用されている。この伝熱管には、一般に、銅又は銅合金による金属管(以下、単に「銅管」という)が用いられ、その製造工程において、コイル状に巻き取られてから焼鈍が行われて所定の調質材とされ、レベルワウンドコイルの状態で保管され、或いは搬送される。そして、使用時に巻戻しされ、所要の長さで切断して使用される。
【0003】
上記レベルワウンドコイルの使用時には、銅管引き出し装置(巻き戻し機、アンコイラー)を用いて銅管の引き出しが行われる。例えば、特許文献1の図5,6に示される銅管引き出し装置があり、この銅管引き出し装置について以下に図を示して説明する。
【0004】
図1は、従来の銅管引き出し装置を示す図である。(a)は縦型アンコイラー、(b)は横型アンコイラーを使用したものである。図1(a)の銅管引き出し装置(縦型アンコイラー)10Aでは、LWC20が巻回されたボビン21が縦に取り付けられた後、ボビン21から銅管22を引き出し、ガイド11により引き出し方向へガイドし、図示しない切断機によって所定の長さに切断して使用される。
【0005】
一方、図1(b)の銅管引き出し装置(横型アンコイラー)10Bでは、LWC20が巻回されたボビン21がターンテーブル12上に横に設置された後、ボビン21から銅管22を引き出し、ガイド13により引き出し方向へガイドし、図示しない切断機によって所定の長さに切断して使用される。
【0006】
図2は、図1に示したボビンに巻き付けられたLWCの詳細構成を示す図である。銅管22により構成されているLWC20は、ボビン21に巻き付けられた状態となっている。ボビン21は、銅管22が複数の層に巻回された円筒状の内胴23と、内胴23の両側に取り付けられた一対の円板状の側板24とにより構成されている。
【0007】
図1に示した銅管引き出し装置10A,10Bは、構造上の複雑さ等から装置コストが高いという問題がある。そこで、上記問題を解決する方法として、Eye to the sky(以下、「ETTS」という。)と称される銅管の引き出し方法が知られている(例えば、特許文献1の図8参照)。なお、「Eye to the sky」は「Inner end payoff (ID payoff)」と称される場合もある。
【0008】
図3は、ETTSによる銅管の引き出し方法を示す説明図である。複数のLWC32を積載したLWC集合体30は、パレット31上に、複数のLWC32がそのコイル中心軸方向がパレット31上面に対して垂直方向となるように緩衝材33を介して積載されて構成されている。パレット31は、例えば、複数本の木製等による角材31aと、この角材31a上に取り付けられた1枚または複数枚の木製板材31bにより四角形に作られている。パレット31は、木製の他にプラスチック製や金属製の場合もある。また、緩衝材33は、例えば、木材、紙材、樹脂等により、LWC32の直径より大きな円板状に作られている。なお、緩衝材33は、パレット31とLWC32の間にもしばしば挿入される。
【0009】
1つのLWC32は、例えば、直径が約1000mmで、内径が500〜600mmであり、パレット31を含めたLWC集合体30の全体の高さはおよそ1〜2mである。
【0010】
次に、図3を参照してETTS方式による銅管引き出し方法を説明する。銅管35は、LWC集合体30の最上段のLWC32の内側から上方に向かって引き出された後、通常、床から1メートルほどのパスライン上で水平な状態で切断されるために、上方に設置されたガイド34によって引き出し方向が変更されて、切断機へと挿入され所望の長さに切断される。ガイド34は、金属管や樹脂管を円形に加工して作られており、その内径は銅管35の外径より大きくされている。パレット31の設置面からガイド34までの高さは、およそ2.5〜3.5mである。切断機は、通常、床から1メートル程度の高さのパスライン上で、水平な状態で銅管の切断を行う。ETTS方式とは、このように、コイル中心軸が載置面に対して垂直となるように載置したLWCの内側から上方に向かって管を引き出していく方式をいう。
【0011】
このETTS方式は、図2に示したボビン21を使わずに済むため、ボビン購入費を削減することができる。また、図3に示したようにLWCを回転させる必要がないため、図1に示したアンコイラー、ターンテーブル等が不要になり、設備導入費も大幅に削減できるという特徴を有する。
【0012】
次に、LWC32を巻く方法について説明する。例えば、図2に示すように、ボビン21の内胴23に、巻き始め箇所を銅管22aとして図の右方向に整列巻きを行う方法がある。この整列巻きとは、銅管22を内胴23に沿って一周するように巻いた後、銅管22が相互に接触するように、即ち、隙間が生じないように密に銅管22を巻いていく方法である。
【0013】
図2において、銅管を右端まで円筒状に一層目を巻いた後、二層目として一層目の外側に銅管22を整列巻きしながら円筒軸方向の右端から左端(一層目の反対方向)へ巻回する。このとき、二層目の銅管は、一層目のコイルにおける隣接する銅管部分の間に形成される凹部に、はめ込むようにして巻回されていく。更に、この二層目のコイルの外側に上記と同様にして三層目以降のコイルを積層する。このような円筒状のコイルを形成する巻き方をトラバース巻きという。また、このように銅管22を巻回することにより、体積が小さいLWCを製作することができ、保管及び輸送に必要なスペースの低減が可能となる。
【0014】
図4は、LWCの巻き解き方法の一例を示す断面概略図である。図2に示したLWCの巻き方法を用いてボビン21に巻回した後、ボビン21を外し、図3に示した緩衝材33上に載置し、ETTS方式により引き出しを行う様子を示したものであり、まず、始端の銅管22aが、内層側から上方に引き出される。銅管22は、一層目の引き出しが終了すると、二層目が下の段(下端の銅管22b)から引き出され、最外層の銅管まで順次引き出しが行われる。
【特許文献1】特開2004−2012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、図4のLWC20の巻き形状では、このLWC20を図3のようにLWC32としてセットしたとき、例えば2層目の下端の銅管22bは、その下部に緩衝材33(或いはパレット31)が存在し、その上部には銅管22が存在するため、緩衝材33(或いはパレット31)と上部の銅管22に挟まれて、摩擦抵抗によって引き出されにくくなる場合がある。引き出し時の摩擦抵抗が大きくなると、銅管22が折れ曲がり(キンク、塑性屈服が発生し)、製品不良となる。更に、下端の銅管22bから引き出された後、二層目、四層目、・・・の偶数層の最下端でも同様の問題が生じる。
【0016】
これに対し、上記特許文献1では、奇数層目及び偶数層目のコイルの巻き数がいずれもn(nは自然数)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆であり、巻層の数をm(mは2以上の自然数)、m/2の小数点以下を切り捨てて整数とした値をm′、コイルの質量をWとするとき、W/m′を18.0kg以下とすることにより、銅管引き出し時にキンクが発生しないレベルワウンドコイルが提供できると提案されている。しかし、これによっても銅管引き出し時にキンクが発生する場合があり、課題を十分に解決したとは言えない。
【0017】
従って、本発明の目的は、ETTS方式において、LWCから銅管を引き出す際の引っ掛かり等のトラブルを解消することのできるレベルワウンドコイルとその製造方法、およびレベルワウンドコイルの包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するため、管が整列巻き、かつトラバース巻きされた複数のコイル層から構成され、m層目(mは自然数である)のコイルの外側にm+1層目のコイルをその2巻目が前記m層目のコイルの最終巻およびその直前巻の管間の外側凹部に嵌め込まれるように配置され、奇数層目及び偶数層目のコイルの巻き数がいずれもn(nは自然数)であるレベルワウンドコイルの製造方法であって、所定の式(後述する式(15))の関係を満たすように式中のいずれか1以上の制御因子を制御する工程(以下、制御工程という)を含むことを特徴とするレベルワウンドコイルの製造方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記本発明の製造方法により製造されたことを特徴とするレベルワウンドコイルを提供する。
【0020】
また、本発明は、上記目的を達成するため、パレットと、当該パレット上にコイル中心軸が載置面に対して垂直となるように1段又は緩衝材を介して多段に積載された上記本発明のレベルワウンドコイルと、当該レベルワウンドコイルの全体を包む袋と、当該袋の側部に緊張巻きされた帯状の樹脂フィルムとを含んで構成されることを特徴とするレベルワウンドコイルの包装体を提供する。
【0021】
ここで、LWCにおける用語を定義する。LWCのコイル中心軸方向から見て、同心円状の銅管の並びを「層」とし、中心(コイル中心軸)から遠心方向へ1層目、2層目…と数えるものとする。LWCのコイル中心軸方向1層における銅管の周回数を「巻数」とするが、コイル中心軸が鉛直方向に設置された場合(例えば、銅管引き出し時)には、「巻数」を「段」と称することもある。コイル中心軸が鉛直方向に設置された場合(例えば、銅管引き出し時)に、コイルスペーサまたはパレット等と接する当該コイルの鉛直下方の面を「コイル下面(下端)」または「コイル底面」、当該コイルの鉛直上方の面を「コイル上面(上端)」と定義する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ETTS方式で管供給する場合におけるコイル最下段から引き出されるときの銅管の引っかかり等のトラブルを解消することができるレベルワウンドコイル及びレベルワウンドコイルの包装体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔本発明の実施の形態〕
(LWCの構成)
本実施の形態に係るLWCは、特許文献1記載のLWCと同様の構成、すなわち、銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の管間の凹部に嵌め込んで整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、3層目コイルの上に4層目コイルを整列巻きした複数層のコイルからなるレベルワウンドコイルにおいて、奇数層目及び偶数層目のコイルの巻き数がいずれもn(nは自然数)であり、奇数層目のコイルの巻き方向と偶数層目のコイルの巻き方向とが相互に逆である構成、より正確には、管が整列巻き、かつトラバース巻きされた複数のコイル層から構成され、m層目(mは自然数である)のコイルの外側にm+1層目のコイルをその2巻目が前記m層目のコイルの最終巻およびその直前巻の管間の外側凹部に嵌め込まれるように配置され、奇数層目及び偶数層目のコイルの巻き数がいずれもn(nは自然数)である構成を有するが、後述する所定の式(15)を満たすようにいずれか1以上の制御因子が制御されている点において相違している。
【0024】
なお、巻き始め部位が上側である場合は、全体として奇数層(最外層が奇数層目)であり、最外層の下端まで巻いてあることが望ましい。また、巻き始め部位が上側で全体として偶数層(最外層が偶数層目)であり、最外層の巻数が5以下であることがより望ましい。一方、巻き始め部位が下側である場合は、全体として偶数層(最外層が偶数層目)であり、最外層の下端まで巻いてあることが望ましい。また、巻き始め部位が下側で全体として奇数層(最外層が奇数層目)であり、最外層の巻数が5以下であることがより望ましい。
【0025】
(LWCの製造方法)
本発明の実施の形態に係るLWCは、常法により製造でき、例えば、上記特許文献1(例えば、段落[0046]〜[0049])記載の方法により製造できるが、所定の制御因子について制御する工程が必要である点において異なる。
【0026】
以下、制御工程をより詳細に説明する。
Eye to the sky方式のLWCにおいて、銅管を引き出すのに要する力は、銅管と銅管、及び銅管とパレット(または緩衝材)との間に作用する摩擦力に比例する。
【0027】
一方、銅管を引き出すと、引き出し部には曲げモーメントが生じるので、銅管が曲がる。銅管を引き出すのに要する力が大きいほど、引き出し部の曲げモーメントが大きくなり、銅管の曲率半径は小さくなる。この曲率半径が小さくなり過ぎると(限界曲率半径より小さくなると)、塑性屈服を生じて銅管が折れる(キンク、塑性屈服が発生する)。言い換えると、「管を引き出す時の抵抗力(管を引き出すのに要する力)≦ 銅管が折れない(塑性屈服しない)最大力」とすることが、銅管引き出し時にキンクを生じさせない必要条件と考えられる。
【0028】
LWCにおいては、銅管間の凹部に嵌め込むように整列巻きしていることから、次層(外側の1層)の質量の半分も分担すると考える(図4参照、この場合、3層目のコイル質量は2層目と4層目で折半すると考える)。すなわち、m層目のコイルの巻数がnであり、m+1層目のコイルの巻数もnの場合、銅管引き出し時において、下端の銅管に掛かる最大荷重部分では、パレットまたは緩衝材に対して次式(1)分の銅管が積み上がっていると見なせる。
【0029】
【数1】

【0030】
また、下端の銅管に対しては、次式(2)分の銅管が積み上がっていると見なせる。
【0031】
【数2】

【0032】
ここで、管を引き出すのに要する力は、管と管、及び管とコイルスペーサの間の摩擦力の和であり、同時に、管の長手方向に関してLWCの1/4周にのみ引き出し力が関わる(LWCのコイル軸方向(円の中心方向)への曲げモーメントの分力は1/4周で一旦ゼロになる)と考えると、次式のように表される。
【0033】
【数3】

【0034】
ここで、
F:管を引き出すのに要する力[単位:N]
:LWC中のm層目の銅管の曲率半径 [単位:m]
ρ:単位長さあたりの管の質量 [単位:kg/m]
g:重力加速度 [単位:m/s]
μ*ts:管とコイルスペーサ(緩衝材)間の実効的な摩擦係数
μtt:管同士間の摩擦係数
:LWCの1層の巻数(層により巻数がnと異なる場合は最も大きい数とする。例えば、最外層以外の層の巻数が30で、最外層の巻数が5の場合は30をnとする。)
である。
【0035】
なお、μ*tsにおける実効的な摩擦係数とは、管とコイルスペーサ(緩衝材)の間に介在物等を挿入した場合を含むものとする。言い換えると、介在物等を挿入したことによる摩擦抵抗力への影響・効果をμ*ts(実効的な摩擦係数)として捉えることを意味する。
【0036】
引き出し部分においては、(コイル中心軸方向から見て)当初円弧状である銅管が、楕円弧状に引き伸ばされながら引き出される。この過程において、楕円の長径と短径がともに小さくなるように長径方向の楕円弧が小さくなる(曲率半径が小さくなる、管が曲がる)と考えると、引き出し部の曲げモーメントは次式(4)で表されると考えられる。
【0037】
【数4】

【0038】
ここで、
M:曲げモーメント [単位:N・m]
R:引き出し部分の銅管曲げの曲率半径 [単位:m]
である。
【0039】
真直な円管(円形断面の直管)の場合、引曲げにおける曲げモーメントは次式(5)〜(7)で表される。
【0040】
【数5】

【0041】
【数6】

【0042】
【数7】

【0043】
ここで
Z:管の断面係数 [単位:m]
σ:管の素材の引張強さ [単位:Pa]
d:管の外径 [単位:m]
t:管の平均肉厚 [単位:m]
である。
【0044】
式(6)の条件において、望ましくは0.015d≦t≦0.057dであり、更に望ましくは0.02d≦t≦0.055dである。また、式(7)の条件において、望ましくは0.062d≦t≦0.3dであり、更に望ましくは0.063d≦t≦0.2dである。
【0045】
LWCのように曲がった(巻いた)円管の場合は、式(5)における曲率を、曲率の差に置き換えて考えると次式(8)が得られる。
【0046】
【数8】

【0047】
式(4)と式(8)から(式(4)=式(8)から)、管を引き出すのに要する力と管の曲率半径には次式(9)のような関係が成立する。
【0048】
【数9】

【0049】
一方、真直な円管(円形断面の直管)において、塑性屈服しない最小曲率半径(限界曲率半径)は次式(10)で表されることが知られている。
【0050】
【数10】

【0051】
ここで
min:円管が塑性屈服しない最小曲率半径 [単位:m]
:加工硬化指数
である。
【0052】
LWCのように曲がった(巻いた)円管で、かつ焼鈍されている(加工硬化がリセットされている)状態の場合は、式(10)における曲率を曲率の差に置き換えて考えると、LWC中のm層目引き出し時の曲率差ΔCが式(10)から導かれる最大曲率差ΔCmax以下であれば、塑性屈服しない(キンクが発生しない)と考えられる。
【0053】
また、LWCにおいては、外層ほどRが大きくなることから、外層側ほど引き出し時の曲率差が大きくなりやすく、キンクが発生しやすいと考えられる。言い換えると、最外層での曲率差を最大曲率差ΔCmax以下となるように制御することにより、少なくとも内層側での許容度は確保されると考えられる(なお、厳密には、最外層の1層内側での曲率差を最大曲率差ΔCmax以下となるように制御すれば良い)。すなわち、次式(11)の関係が成立する。
【0054】
【数11】

【0055】
ここで
ΔC:LWC中のm層目引き出し時の曲率差 [単位:m−1]
ΔC:LWC最外層引き出し時の曲率差 [単位:m−1]
ΔCmax:円管が塑性屈服しない最大曲率差 [単位:m−1]
out:LWC最外層の管の曲率半径 [単位:m]
である。
【0056】
上述したように、管の曲げ部の曲率半径が限界曲率半径より小さくなると塑性屈服が起きて管が折れる(キンクが発生する)。よって、式(9)と式(11)から、管が折れない(キンクが発生しない)ように管を引出せる最大力は次式(12)で表される。
【0057】
【数12】

【0058】
【数13】

【0059】
ここで
max:円管を塑性屈服させないように引き出せる最大力 [単位:N]
である。
【0060】
ETTS方式でキンクを生じさせずに銅管を引き出すためには、少なくとも必要条件として、銅管2を引き出すのに要する力F[単位:N]が「F≦Fmax」を満たさなくてはならない。よって、次式(式(14)、(15))の関係が導かれる。
【0061】
【数14】

【0062】
【数15】

【0063】
ここで、
max: 円管が塑性屈服しないように引出せる許容挟まれ長さ [単位:m]
【0064】
【数16】

【0065】
【数17】

【0066】
【数18】

【0067】
【数19】

【0068】
以上の考察から、ETTS方式において銅管引き出し時にLWC下面でキンクを生じさせないためには、式(15)の関係を満足させれば良いことが判る。
【0069】
よって、本発明における制御因子は「管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*ts」、「管と管の間の摩擦係数μtt」、「LWCの1層の巻数(層により巻数がnと異なる場合は最も大きい数とする)n」、「銅管の仕様(管の外径d、単位長さあたりの管の質量ρまたは管の平均肉厚t)」、「LWCの質量を制御することによるLWC最外層の管の曲率半径Rout」、または「管の素材の引張強さσ」となる。
【0070】
ただし、銅管の仕様(管の外径d、単位長さあたりの管の質量ρまたは管の平均肉厚t)とLWCの内径Dinは、顧客から指定されることが多いため、制御の自由度が小さいことが通常である。
【0071】
管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*tsを制御する方法としては、例えば、テフロン(登録商標)製のコイルスペーサを用いる、コイルスペーサ表面にテフロン(登録商標)コーティングを施す、コイルスペーサ表面に滑り材(例えば、タルク粉末、窒化ホウ素粉末、LWCから管を引き出した後の工程で利用される潤滑油など)を塗布する(介在させる)、または管とコイルスペーサの間に滑り層を挿入する(介在させる)などが挙げられる。
【0072】
管と管の間の摩擦係数μttを制御する方法としては、例えば、LWCの焼鈍工程の直前に、乗り移り部分にケロシン等の油分を塗布または散布してから焼鈍工程を行う方法や、焼鈍条件(例えば、温度や時間)を調整する方法などが挙げられる。
【0073】
また、銅管の引張強さσを制御する場合、具体的には、銅合金管(例えば、ASTM B111 C23000(Red brass, 丹銅)、ASTM B111 C44300(Admiralty brass, アドミラルティ黄銅)、ASTM B111 C60800(Aluminum bronze, アルミニウム青銅)、ASTM B111 C68700(Arsenical aluminum brass, アルミニウム黄銅)、ASTM B111 C70600, C71000, C71500(Copper nickel, 白銅)など)および調質した銅管(例えば、ASTM B111 C10200(Oxygen-free copper, 無酸素銅)やASTM B111 C12200(Phosphorus deoxidized copper, リン脱酸銅)において、1/2H材(半軟化材、半焼鈍材)、1/4H材(半々軟化材、1/4硬化材: 焼鈍材(O材)と半軟化材の中間程度の調質))を用いることにより、整列巻きされたLWCからETTS方式による引き出しが可能となる。
【0074】
〔本発明のその他の実施の形態〕
図5は、比較対象および本発明の実施の形態に係るLWCの一部断面図である。図5(a)は、最内層の銅管がコイル端面まで巻いてある状態で複数のLWCを積み上げて梱包したときに、コイル端面からはみ出した最内層の銅管2の末端が他の層を潰した状況を示している(比較対象)。図5(b)は、この不具合を改善すべく、銅管を巻き付ける時(LWCの製造時)に、ボビン5の片側端部に段差部5aを設けることで、最内層をn−i巻き(iは自然数)とし、ボビン5を外した後でもコイル端面から最内層の末端が飛び出さない構造とした。ここで、最内層のn−i巻きは、銅管のスプリングバック現象(銅管端部がコイル端面から突出しようとする現象)の程度に応じて適宜選択できる。すなわち、LWCにおいて、最内層を1層目として、2層目のコイルの巻数をnとすると、1層目のコイルの巻数はn未満、特にn−1,n−2であることが望ましい。
【0075】
(包装体の構成)
本発明の実施の形態に係る包装体は、例えば、特許文献1記載の梱包体(包装体)と同様の構成を有するが、積載されるLWCのその下面に存在する乗り移り部分の配置において相違している。これにより、乗り移り部分における引っ掛かり等のトラブルを著しく低減できる。
【0076】
(包装体の製造方法)
本発明の実施の形態に係る包装体は、常法により製造でき、例えば、上記特許文献1記載の方法にしたがって製造できる。但し、上記特許文献1記載のLWCに換えて、本発明のLWCを使用する点において相違する。
【実施例1】
【0077】
(摩擦係数μ*ts・μttを制御したLWC)
「銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*ts」および「銅管と銅管の間の摩擦係数μtt」を制御因子とし、その他は顧客から指定される仕様により定まる定数と考えた実施例を以下に示す。
【0078】
異なる寸法仕様(管外径、平均肉厚)の銅管を用いて、LWCの内径Din、高さ、質量Wを略一定とし、銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*tsおよび/または銅管と銅管の間の摩擦係数μttを制御したLWCを作製し、コイルスペーサ上に設置してETTS引き出し実験を行った。銅管素材は無酸素銅(Oxygen-free copper: JIS H3300 C1020, ASTM B111 C10200)およびリン脱酸銅(Phosphorus deoxidized copper: JIS H3300 C1220, ASTM B111 C12200)を用いた。なお、焼鈍調質したLWCを用いたことから、加工硬化指数は焼鈍材(O材)の「N=0.4」とした。共通条件を表1に示す。各試料の条件および結果を表2に示す。
【0079】
なお、「銅管と銅管の間の摩擦係数μtt」の制御方法は、LWCの焼鈍工程の直前に、コイル下面全体にケロシンを散布してから、焼鈍材(O材)となる条件で焼鈍工程を行う方法(μtt制御1)、および前記焼鈍方法に加えて、焼鈍工程後(コイルスペーサ上に設置する前)にLWCの利用工程で使用される潤滑油をコイル下面全体に散布する方法(μtt制御2)により行った。
【0080】
ベースとなるコイルスペーサには、(素材として約3mm厚みのBフルート両面段ボール(表(クラフトライナ):K180、中芯(セミクラフトパルプ):SCP120、裏(クラフトライナ):K180)を用い、3枚を積層して(貼り合わせて)作製したものを使用した。
【0081】
「銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*ts」の制御方法は、上記コイルスペーサ表面にテフロン(登録商標)コーティングを施す方法(μ*ts制御1、市販のコーティングスプレーを十分に噴霧した)、コイルスペーサ表面に滑り材としてタルク粉末を塗布する方法(μ*ts制御2、市販のベビーパウダーを一様に塗布した)、および管とコイルスペーサの間に滑り層を挿入する方法(μ*ts制御3、市販のティッシュペーパを一面に挿入した)により行った。
【0082】
また、「銅管と銅管の間の摩擦係数μtt」および「銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*ts」は、用意したLWCから一部を切り出した試料を用い、摩擦係数試験機(株式会社オリエンテック製、型式:EFM−4)を用いて評価した。
【0083】
摩擦係数試験機による評価の結果、「銅管と銅管の間の摩擦係数μtt」において、特段の制御を行わない場合はμtt≒0.3、μtt制御1の場合はμtt≒0.2、μtt制御2の場合はμtt≒0.1と見積もられた。
【0084】
摩擦係数試験機による評価の結果、「銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*ts」において、特段の制御を行わない場合はμ*ts≒0.3、μ*ts制御1の場合はμ*ts≒0.1、μ*ts制御2とμ*ts制御3の場合はμtt≒0.2と見積もられた。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
ETTS方式による銅管の引き出し実験において、1回もキンク(塑性屈服)が発生しなかった試料No. 1-1〜1-3、1-5〜1-7、1-9〜1-11、1-13〜1-15、1-17〜1-19、1-21〜1-23、1-25〜1-27は、何れも式(15)を満たしており、銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*tsおよび/または銅管と銅管の間の摩擦係数μttを制御することが有効であることが判る。また、銅管の耐圧性能(断面係数と引張強さに依存)が表2の試料と同程度ならば、μ*tsとμttの和が0.4程度以下となるように制御することが好ましい。
【0088】
一方、式(15)の関係を満たさない試料No. 1-4, 1-8, 1-12, 1-16, 1-20, 1-24, 1-28においては、引き出し中にそれぞれ複数回のキンク(塑性屈服)が発生し、ETTS方式による銅管の供給に適さないことが確認された。
【実施例2】
【0089】
(n*・d・ρ・t・Routを制御したLWC)
「LWCの1層の巻数(層により巻数がnと異なる場合は最も大きい数とする)n*」、および「ETTS方式に対する銅管仕様(管の外径dと、単位長さあたりの管の質量ρまたは管の平均肉厚t)の選定」を制御因子とし、その他を定数と考えた場合の実施例を以下に示す。
【0090】
異なる寸法仕様(管外径、平均肉厚)の銅管を用いて、LWCの内径Din、質量W、銅管とコイルスペーサの間の実効的な摩擦係数μ*tsおよび銅管と銅管の間の摩擦係数μttを略一定としたLWCを作製し、コイルスペーサ上に設置してETTS引き出し実験を行った。銅管素材は無酸素銅(JIS H3300 C1020, ASTM B111 C10200)およびリン脱酸銅(JIS H3300 C1220, ASTM B111 C12200)を用いた。なお、摩擦係数に関する特段の制御を行わなかったことから、「μ*ts≒0.3」、「μtt≒0.3」とした。また、焼鈍調質したLWCを用いたことから、加工硬化指数は焼鈍材(O材)の「N=0.4」とした。共通条件を表3に示す。各試料の条件および結果を表4に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
ETTS方式による銅管の引き出し実験において、1回もキンク(塑性屈服)が発生しなかった試料No. 2-1, 2-3, 2-5, 2-7, 2-9, 2-11, 2-13, 2-15〜2-19は、何れも式(15)を満たしており、LWCの1層の巻数n*を制御することが有効であることが判る。また、試料No. 2-15〜2-19のような銅管仕様(管の外径dと、単位長さあたりの管の質量ρLまたは管の平均肉厚t)を選定することにより、キンク(塑性屈服)を発生させないで引き出し可能なn(LWCの1層の巻数)の上限が飛躍的に増大し、今回作製したコイル質量(4.0×10kg以下)の範囲でキンクが発生することは無かった(キンクレスが可能であることが判った)。
【0094】
一方、式(15)の関係を満たさない試料No. 2-2, 2-4, 2-8, 2-10, 2-12, 2-14においては、引き出し中にそれぞれ複数回のキンク(塑性屈服)が発生し、ETTS方式による銅管の供給に適さないことが確認された。
【実施例3】
【0095】
(管の引張強さσを制御したLWC)
管の引張強さσを制御因子とし、その他を定数と考えた場合の実施例を以下に示す。
【0096】
異なる寸法仕様(管外径、平均肉厚)、異なる材質(組成、調質の程度)の銅管を用いて、LWCの内径Din、質量W、銅管とコイルスペーサの間の摩擦係数μtsおよび銅管と銅管の間の摩擦係数μttを略一定としたLWCを作製し、コイルスペーサ上に設置してETTS引き出し実験を行った。なお、摩擦係数に関する特段の制御を行わなかったことから、「μ*ts≒0.3」、「μtt≒0.3」とした。また、焼鈍材(O材)の加工硬化指数Nを「0.4」、半軟化(半硬質)材(1/2H材)の加工硬化指数Nを「0.1」、O材と1/2H材の中間程度の調質材(1/4H材)の加工硬化指数Nを「0.3」とした。共通条件を表5に示す。各試料の条件および結果を表6に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
ETTS方式による銅管の引き出し実験において、1回もキンク(塑性屈服)が発生しなかった試料No. 3-1〜3-9、3-11〜3-19、3-21〜3-29、3-31〜3-39、3-41〜3-49、3-51〜3-59、3-61〜3-69は、何れも式(15)を満たしており、銅合金管および調質した銅管を用いることによって管の引張強さσBを制御することが有効であることが判る。
【0100】
一方、式(15)の関係を満たさない試料No. 3-10, 3-20, 3-30, 3-40, 3-50, 3-60, 3-70においては、引き出し中にそれぞれ複数回のキンク(塑性屈服)が発生し、ETTS方式による銅管の供給に適さないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】従来の銅管引き出し装置を示し、(a)は縦型アンコイラー、(b)は横型アンコイラーの斜視図(模式図)である。
【図2】図1に示したボビンに巻き付けられたLWCの詳細構成を示す模式図である。
【図3】ETTS法による銅管の引き出し方法を示す説明図である。
【図4】LWCの巻き解き方法の一例を示す断面概略図である。
【図5】(a)は比較対象、(b)は本発明の実施の形態、に係るLWCの一部断面図(模式図)である。
【符号の説明】
【0102】
2 銅管
5 ボビン
5a 段差部
10A 銅管引き出し装置(縦型アンコイラー)
10B 銅管引き出し装置(横型アンコイラー)
11 ガイド
12 ターンテーブル
13 ガイド
20 LWC
21 ボビン
22 銅管
22a 始端の銅管
22b 下端の銅管
23 内胴
24 側板
30 LWC集合体
31 パレット
31a 角材
31b 木製板材
33 緩衝材
34 ガイド
35 銅管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管が整列巻き、かつトラバース巻きされた複数のコイル層から構成され、m層目(mは自然数である)のコイルの外側にm+1層目のコイルをその2巻目が前記m層目のコイルの最終巻およびその直前巻の管間の外側凹部に嵌め込まれるように配置され、奇数層目及び偶数層目のコイルの巻き数がいずれもn(nは自然数)であるレベルワウンドコイルの製造方法であって、
下記式(1)の関係を満たすように式中のいずれか1以上の制御因子を制御する工程(以下、制御工程という)を含むことを特徴とするレベルワウンドコイルの製造方法。
【数1】

:レベルワウンドコイル中のm層目の銅管の曲率半径[単位:m]
ρ:単位長さあたりの管の質量 [単位:kg/m]
g:重力加速度 [単位:m/s]
μ*ts:管とコイルスペーサ(緩衝材)間の実効的な摩擦係数
μtt:管同士間の摩擦係数
:レベルワウンドコイルの1層の巻数(層により巻数がnと異なる場合は最も大きい数とする)
out:レベルワウンドコイル最外層の管の曲率半径 [単位:m]
R:引き出し部分の銅管曲げの曲率半径 [単位:m]
Z:管の断面係数 [単位:m
σ:管の素材の引張強さ [単位:Pa]
ΔCmax:円管が塑性屈服しない最大曲率差 [単位:m−1
d:管の外径 [単位:m]
max: 円管が塑性屈服しないように引出せる許容挟まれ長さ [単位:m]
【請求項2】
前記制御工程は、前記摩擦係数μ*tsを制御することを特徴とする請求項1に記載のレベルワウンドコイルの製造方法。
【請求項3】
前記制御工程は、前記摩擦係数μttを制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレベルワウンドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記制御工程は、前記巻数nを制御することを特徴とする請求項1に記載のレベルワウンドコイルの製造方法。
【請求項5】
前記制御工程は、前記管の外径dを制御することを特徴とする請求項1に記載のレベルワウンドコイルの製造方法。
【請求項6】
前記制御工程は、前記管の素材の引張強さσを制御することを特徴とする請求項1に記載のレベルワウンドコイルの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とするレベルワウンドコイル。
【請求項8】
パレットと、当該パレット上にコイル中心軸が載置面に対して垂直となるように1段又は緩衝材を介して多段に積載された請求項7に記載のレベルワウンドコイルと、当該レベルワウンドコイルの全体を包む袋と、当該袋の側部に緊張巻きされた帯状の樹脂フィルムとを含んで構成されることを特徴とするレベルワウンドコイルの包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−87888(P2008−87888A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269190(P2006−269190)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】