説明

レンジアップ容器

【課題】冷凍時及び加熱時における取り扱いが容易なレンジアップ容器を提供することを課題としている。
【解決手段】食品を冷凍保存するための保存容器として用いられるとともに前記冷凍保存された食品を電子レンジで加熱するための容器としても用いられるレンジアップ容器であって、容器本体が積層構造を有し、該容器本体の内表面を構成する最内層と外表面を構成する最外層との間に発泡層を有しており、前記最外層は、高密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成されていることを特徴とするレンジアップ容器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を電子レンジで加熱すべく用いられるレンジアップ容器に関し、特には、食品を電子レンジで加熱するための容器としても用いられるだけではなく食品を冷凍保存するための保存容器としても用いられるレンジアップ容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性に優れた容器に食品を収容して店頭で販売し、消費者がこれを持ち帰って容器ごと電子レンジの庫内に入れて前記食品を加熱調理することが行われており、このような用途に供される容器はレンジアップ容器などと呼ばれ、近年、その需要を拡大させている。
このようなレンジアップ容器には、多くの場合、電子レンジによる加熱に耐える耐熱性を有する樹脂シートによって形成された安価な使い捨て容器が利用されている。
【0003】
ところで、近年、調理された惣菜等を冷凍した冷凍食品が従来市場に提供されている。
この種の冷凍食品は、加熱するだけで料理が完成するため調理に要する時間を節約することができ、利便性の高い食品であるといえる。
そして、このような冷凍食品についてもレンジアップ容器に収容させた状態で販売されたりしている。
例えば、トレーや皿といった容器本体に冷凍食品を盛り付けて、透明な蓋体を被せた状態で冷凍食品を冷凍ショーケースに並べて展示し、消費者がこれを容器ごと電子レンジに入れて加熱調理することが行われている。
【0004】
しかし、冷凍食品は、通常、氷点下(例えば、−20℃以下)で保存されるため、レンジアップ容器として低温脆化が著しい一般的な樹脂製の容器を利用すると、例えば、不意な落下等によって容器を破損してしまうおそれを有する。
その結果、従来のレンジアップ容器は、低温状態において慎重な取り扱いを必要としており、食品工場から販売店までの搬送や当該販売店における陳列といった作業においてその効率を低下させてしまっている。
【0005】
このことに対して、下記特許文献1には、耐熱性と耐寒性とに優れた樹脂シートに関する記載がなされており、冷凍時における割れの抑制されたレンジアップ容器を作製すべくこの樹脂シートをシート成形することが記載されている。
例えば、下記特許文献1には、0.4mmの厚みに作製されたシートを加熱成形して作製した容器を低温で評価した結果が実施例として記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−239458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1に示されているような容器では、電子レンジによって食品が加熱された際に、その熱が容器を通して外側にまで伝わりやすく、火傷等を防止するために注意して取り扱うことが必要になる。
【0008】
すなわち、食品を冷凍保存するための保存容器として用いられるとともに前記冷凍保存された食品を電子レンジで加熱するための容器としても用いられる従来のレンジアップ容器においては、冷凍時や加熱時において慎重な取り扱いが必要になるという問題を有している。
本発明は、上記のような問題の解決を図ることを課題としており、冷凍時及び加熱時における取り扱いが容易なレンジアップ容器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本発明者等が鋭意検討したところ、レンジアップ容器の容器本体を積層構造とし、仮に、容器本体に断熱性を発揮させるための層を、冷凍食品を保存する際の温度条件において耐寒性が十分ではない材料で形成させる場合でも容器本体の外表面を構成する最外層を、高密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成させることによってレンジアップ容器に落下時の割れなどが生じ難くなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、食品を冷凍保存するための保存容器として用いられるとともに前記冷凍保存された食品を電子レンジで加熱するための容器としても用いられるレンジアップ容器であって、容器本体が積層構造を有し、該容器本体の内表面を構成する最内層と外表面を構成する最外層との間に発泡層を有しており、前記最外層は、高密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成されていることを特徴とするレンジアップ容器を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレンジアップ容器は、上記のような最外層を有することから冷凍時における耐衝撃性に優れ、冷凍状態での搬送、陳列等の作業時において容易に取り扱い得る。
また、当該最外層と、容器内表面を構成する最内層との間に発泡層を設けることで断熱性が付与されることから加熱時における取り扱いが容易なものとなる。
すなわち、本発明によれば冷凍時及び加熱時における取り扱いが容易なレンジアップ容器が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係るレンジアップ容器の容器本体を示す斜視図。
【図2】図1におけるA−A’線矢視部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のレンジアップ容器は、食品を冷凍保存するための保存容器として用いられるとともに前記冷凍保存された食品を電子レンジで加熱するための容器としても用いられるものであり、図に示すような構造を有するものである。
【0014】
本発明においては、レンジアップ容器を図1に示す容器本体のみで構成させても良く、この容器本体と図示していない蓋体とを組み合わせて蓋付容器とすることもできる。
なお、図1には、食品を載置するための底面部11が上面視略長方形に形成されており、該底面部11の外縁部からやや外方に傾斜して立ち上がる周側壁12と、該周側壁12の上縁部から外方に延びる鍔部13とを有する容器本体10を示しているが、本発明における容器本体は、このような形状に限定されるものではなく、上面視における形状が、正方形、3角形、5角形以上の多角形、円形、楕円形、不定形等種々の形状であってもよい。
すなわち、図1には、食品を収容するための空間部10a(以下「収容凹部10a」ともいう)が前記底面部11と前記周側壁12とによって画定された略直方体となるように形成されたトレー形状の容器本体1を示しているが、例えば、容器本体を皿状とすることも可能である。
【0015】
ただし、本発明においては、図2にも示されているように当該容器本体1が積層構造とされていることが重要であり、外表面を構成する最外層1aが高密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成されていることが冷凍保存時における容器本体の破損を防止する意味で重要である。
また、本発明においては、食品に接する側となる最内層1bと前記最外層1aとの間に、断熱層として機能させるための発泡層を有することが加熱状態における当該容器本体1の取り扱いを容易にさせ得る点において重要である。
【0016】
なお、この図2においては、ポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなる2層の発泡層1c,1dを有する場合を示しているが、ポリスチレン系樹脂発泡層は1層であっても、3層以上であってもよい。
また、発泡層の形成に用いる樹脂はポリスチレン系樹脂に限らず、例えば、ポリプロピレン系樹脂組成物を発泡させてなる発泡層を最内層1bと前記最外層1aとの間に設けることもできる。
また、例えば、前記最内層1bと前記ポリスチレン系樹脂発泡層1c,1dとの間に他の樹脂層を設けたり、前記ポリスチレン系樹脂発泡層1c,1dと前記最外層1aとの間に他の樹脂層を設けたりすることもできる。
【0017】
本実施形態に係る容器本体10は、上記のような最外層1a、最内層1b、ポリスチレン系樹脂発泡層1c,1dを備えた積層シートに対してシート成形法による外形加工を施して作製することができる。
より具体的には、共押出しによって2層の積層構造を形成させた帯状のポリスチレン系樹脂発泡シートの両面に最内層1b、最外層1aを成す帯状の樹脂フィルムを接着剤で接着して積層シートを作製し、これを真空成形機、圧空成型機、プレス成形機などに供給することで前記容器本体10を得ることができる。
【0018】
前記最外層1aの形成には、上記のような高密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂組成物からなるフィルムを用いることができ、通常、その厚みは、5μm〜70μmとされる。
また、高密度ポリエチレン樹脂は、安価で耐寒性にも優れる点においても好ましい。
ただし、一般に高密度ポリエチレン樹脂フィルムを直接ポリスチレン系樹脂発泡層に接着させることは難しいため、ポリスチレン系樹脂発泡シートに対して高密度ポリエチレン樹脂フィルムを接着する場合には、先に述べたように接着剤を利用することが好ましい。
特に、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとが共重合されてなるアクリルエステル系樹脂接着剤で高密度ポリエチレン樹脂フィルムをポリスチレン系樹脂発泡シートに接着させる場合には強固な接着がされ得る点において好適である。
【0019】
なお、高密度ポリエチレン樹脂とは、炭素数1000個に対して短鎖分岐が数個しかないポリエチレン樹脂のことであり、通常、高密度ポリエチレン樹脂であるかどうかは密度が0.942g/cm3以上であるかどうかで判別することができる。
本実施形態においては、フィルムや成形品の形成材料として広く市販されている高密度ポリエチレン樹脂を、この積層シート(容器本体)の形成材料として用いることができる。
【0020】
なお、高密度ポリエチレン樹脂は、それぞれ単独で最外層1aの形成に用いられる必要はなく、2種以上の高密度ポリエチレン樹脂を混合して用いても良い。
さらに、本発明においては、最外層1aの形成に用いられる樹脂組成物には、上記のような樹脂単体や、これらの混合樹脂が主成分として含有されていればよく、例えば、少量であればこれら以外の樹脂を含有させることも可能である。
この他の樹脂については、高密度ポリエチレン樹脂との親和性にもよるが、通常、高密度ポリエチレン樹脂との相溶性を示す樹脂の場合、5質量%以内であれば、容器本体1の耐寒性に対して大きな影響を与えるおそれは低い。
【0021】
また、このような樹脂以外に最外層1aの形成に用いられる樹脂組成物を構成する成分としては、耐候剤、老化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、防カビ剤、といった各種機能性薬剤や、滑剤、安定剤といった加工助剤などの他に無機充填剤、顔料などが挙げられる。
さらに、このような樹脂組成物によって形成されたフィルムは、印刷を施すなどして前記積層シートの形成に用いることができる。
【0022】
この最外層1aを構成させるためのフィルムに積層される前記ポリスチレン系樹脂発泡シートとしては、前記最外層1aの側の層1dがJIS K7206に規定されたビカット軟化点が105℃以下のポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成され、前記最内層1bの側の層1cがJIS K7206に規定されたビカット軟化点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成された2層の発泡シートが好ましい。
【0023】
すなわち、容器本体10の内側となるポリスチレン系樹脂発泡層1c(以下「第一のポリスチレン系樹脂発泡層1c」ともいう)を熱変形し難い層とし、その外側のポリスチレン系樹脂発泡層1d(以下「第二のポリスチレン系樹脂発泡層1d」ともいう)を前記第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cよりも熱変形し易い層とすることが好ましい。
このように熱変形を生じ難い前記第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cを設けることで、食品を電子レンジで加熱調理した際に発生する熱によって、容器本体10に加わる食品の重量を支える力が低下して容器本体10を保持し難くなったり、厚み方向への変形を生じて断熱性が損なわれたりすることを抑制させることができる。
【0024】
この加熱時における容器本体10の取り扱い性だけを考慮すれば、耐熱性ポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成されたポリスチレン系樹脂発泡層のみを設けるだけでも優れた効果を得ることができるものではあるが、このような耐熱性の高いポリスチレン系樹脂発泡層1cの外側にさらに熱変形を生じやすい層(第二のポリスチレン系樹脂発泡層1d)を形成させることで成型加工が容易になるという効果を得ることができる。
【0025】
すなわち、例えば、最外層1aを高密度ポリエチレン樹脂フィルムで構成させ、該高密度ポリエチレン樹脂フィルムが耐熱性ポリスチレン系樹脂組成物からなるポリスチレン系樹脂発泡シートに直接積層されている積層シートをシート成形する場合には、熱による軟化特性が両者で大きく異なるため精度の高い条件下で加工を行わなければならず、最外層1aが過度に軟化される条件で加工を行うと容器本体10の周側壁12が底面部10から立ち上がっている角部において最外層1aの厚みが薄くなってしまうおそれを有し、この角部における耐寒性が不十分になるおそれを有する。
【0026】
したがって、前記第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dを設けることで特別な制御を行うことなく容器形状の付与を行っても、角部における最外層1aの減肉を防止することができ、冷凍時における破損防止がより確実になされることになる。
また、耐熱性の高いポリスチレン系樹脂は、通常、一般的なポリスチレン系樹脂に比べて脆性を示す傾向にあるため、外側に第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dを設けることで脆性が緩和され成形性がより向上されるとともに冷凍時に衝撃が加えられた際にこの第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dがクッションとなって容器本体10に割れを発生させることが防止されることになる。
さらには、耐熱性の高いポリスチレン系樹脂は、通常、一般的なポリスチレン系樹脂に比べて高価であるため、第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cだけで容器本体10に十分な強度と断熱性を付与する厚みを確保させようとすると容器本体10の製造コストが高くなってしまうおそれを有する。
すなわち、第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dを設けることでコストメリットの点においても有利な効果を期待することができる。
【0027】
前記第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cは、JIS K7206に規定されたビカット軟化点(B法、50℃/h)が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂、例えば、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、ポリパラメチルスチレン樹脂などベースポリマーとして採用することで形成させ得る。
また、前記第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dは、JIS K7206に規定されたビカット軟化点が105℃以下のポリスチレン系樹脂、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレンなどのスチレン系単量体の単独重合体、または前記スチレン系単量体と他の単量体、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、ブタジエン等のビニル単量体との共重合体等を用いることができる。
なかでも、この第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dの形成には、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)等を単独であるいは混合して用いることが好ましい。
【0028】
なお、スチレン−メタクリル酸共重合体などの耐熱性ポリスチレン系樹脂を用いるのに代えて、例えば、所謂汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などのスチレン単独重合体(スチレンホモポリマー)といった軟化点の低いポリスチレン系樹脂にポリフェニレンエーテル系樹脂を混合して軟化点の向上を図ったポリスチレン系樹脂組成物で第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cを形成させることもできる。
【0029】
その場合には、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で前記ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることが好ましい。
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、通常、次の一般式で表される。
【化1】

【0030】
ここでR1及びR2は、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、nは重合度を表す正の整数である。
例示すれば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等が本実施形態において用いられ得る。
また、重合度nは、通常10〜5000の範囲内である。
【0031】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性の向上に有効なものではあるが、ポリフェニレンエーテル系樹脂を、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で含有させることが好ましいのは、上記範囲未満では、ポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が十分に発揮されないおそれを有し、逆に上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させても、それ以上にポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が発揮されないおそれを有するためである。
また、一般的にはスチレン系樹脂に比べて高価であるために上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させると材料コストの観点においても問題を生じさせるおそれを有する。
上記のようなポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることにより、JIS K7206(B法、50℃/h)に基づいて測定されるビカット軟化温度を110〜155℃の範囲に向上させることができる。
【0032】
また、上記のようにポリフェニレンエーテル系樹脂をブレンドすることで発泡シートに靱性を付与することができ、スチレン−メタクリル酸共重合体で第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cを形成させる場合に比べて割れ難いレンジアップ容器を形成させ得る。
【0033】
ただし、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、特有の臭いを有していることから、消臭のための成分を含有させることが好ましい。
この消臭成分としては、ゼオライト系やリン酸ジルコニウム系の無機物粒子が挙げられる。
なかでも、消臭効果の点においては、リン酸ジルコニウム系の成分を採用することが好まし。
【0034】
これらの樹脂でポリスチレン系樹脂発泡シートを作製するには、それぞれのポリスチレン系樹脂発泡層1c,1dを形成するための樹脂組成物に発泡剤や気泡核剤等を含有させて、これらの樹脂組成物を共押出しして作製することができる。
【0035】
この第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cと第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dとは、その厚みや、密度が限定されるものではないが、通常、厚みは、それぞれ250μm〜2750μmとされ、密度は、それぞれ0.05g/cm3〜0.5g/cm3とされる。
なかでも、第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cと第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dとの合計質量(Mtotal)に対する第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cの質量(Mc)の質量比(Mc/Mtotal)が、0.3以上0.7以下となるように第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cと第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dとが形成されていることが好ましい。
第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cと第二のポリスチレン系樹脂発泡層1dとの関係が上記質量比となるように構成されていることが好ましいのは、第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cを前記耐熱性ポリスチレン系樹脂で構成させた際に、第一のポリスチレン系樹脂発泡層1cの占める割合を増大させると耐熱性が高くなる一方で脆性を悪化させる傾向が見られるためである。
すなわち、下限値未満では容器本体の耐熱性が十分なものとならないおそれがあり、上限値を超える場合は、脆性において問題を生じるおそれを有するためである。
また、これらの合計厚みは、容器本体の強度の観点から0.5mm以上とされることが好ましく、クラックの発生など容器本体の成形性の観点から3.0mm以下とすることが好ましい。
【0036】
また、前記に示したように、容器本体を構成する発泡層を、前記ポリスチレン系樹脂発泡層に代えてポリプロピレン系樹脂発泡層とすること可能である。
この場合、発泡層の形成に用いるベースポリマーとしては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体などが挙げられる。
中でも、自由末端となる長鎖分岐を分子内に形成させることによって高溶融張力を付与された高溶融張力ポリプロピレン(HMS−PP)樹脂は、微細な気泡を形成させ得る点において有効な成分として例示することができる。
なお、プロピレンとともに共重合体を構成する他のオレフィンとしては、例えば、エチレンの他に、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどの炭素数が4〜10のα−オレフィンが挙げられる。
【0037】
なお、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂で発泡層を形成させることも可能ではある。
ただし、ポリスチレン系樹脂発泡シートやポリプロピレン系樹脂発泡シートは、一般に流通している樹脂発泡シートの中でも比較的安価に入手が可能でバリュエーションも豊富に取り揃えられていることから容器本体の設計変更を容易にさせうる点において発泡層の形成材料として好適である。
すなわち、発泡層は、ポリスチレン系樹脂組成物又はポリプロピレン系樹脂組成物で構成されることが好ましく、耐熱性の観点からは、上記例示のごとくポリスチレン系樹脂組成物で形成されることが好ましい。
【0038】
前記最内層1bを構成させるための樹脂フィルムとしては、従来のレンジアップ容器の容器本体の内面を構成しているものと同じものを本実施形態の容器本体にも採用することができる。
すなわち、所定の耐熱性を有し、食品との接触において特段の問題を生じないものであれば、特にその素材が限定されるものではない。
このような樹脂フィルムの具体例を挙げると、延伸による配向の加えられていないポリプロピレン樹脂(CPP)フィルムなどが挙げられる。
このCPPフィルムとしては、通常、5μm〜70μm程度のものを採用することができ、容器本体10の内面における審美性を向上させるべく背面側に印刷が施されたものであっても良い。
【0039】
このような構成を有する積層シートは、前記のように真空成形機、圧空成型機、プレス成形機などに供給して、これらの成形機で収容凹部10a等を形成させて前記容器本体10とすることができる。
【0040】
このようにして得られた容器本体10は、最外層1aを有することから冷凍時において落下衝撃などによって割れが生じるおそれが従来のものに比べて低減されており、その取り扱いに慎重さを伴う必要性を低減させ得る。
また、当該最外層1aと、容器内表面を構成する最内層1bとの間にポリスチレン系樹脂発泡層を設けることで断熱性が付与されることから加熱時における取り扱いが、特開2000−239458に具体的に示されている容器などに比べて容易なものとなる。
【0041】
例えば、本実施形態に係る容器本体10(レンジアップ容器)は、−5℃〜−60℃の冷凍環境下での保存容器として用いられ得るとともに収容した食品を90℃〜140℃の温度に加熱するような用途において好適に用いられ得る。
【0042】
なお、本実施形態においてはレンジアップ容器の容器本体に関して上記のような例示を行っているが、本発明においては、上記例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
JIS K7206に規定されたビカット軟化点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物と、JIS K7206に規定されたビカット軟化点が105℃以下のポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物とを共押出しして、第一のポリスチレン系樹脂発泡層(耐熱PSP層)が1000μm、第二のポリスチレン系樹脂発泡層(一般PSP層)が1000μmの厚みのポリスチレン系樹脂発泡シート(厚み2mm)を作製した。
なお、このポリスチレン系樹脂発泡シートの耐熱PSP層と一般PSP層との質量比は60/40であり、トータルの坪量は200g/m2であった。
また、耐熱PSP層はメタクリル酸成分を約8質量%含む共重合体で該共重合体のビカット軟化点は117℃である。
このポリスチレン系樹脂発泡シートの耐熱PSP層の側に、ポリスチレン系接着剤層(厚み20μm)を有するCPPフィルム(厚み30μm)をドライラミネートするとともに一般PSPの側にホットメルト接着シート(厚み30μm)を介して高密度ポリエチレン樹脂フィルム(厚み10μm)を貼り合わせ積層シートを形成させた。
この成形シートを高密度ポリエチレン樹脂フィルム側が外表面となるようにシート成形して縦約160mm、幅約100mm、深さ約35mmの収容凹部を有する角型トレー形状の容器本体を作製した。
この容器本体に水300gを入れたものを−20℃の冷凍庫内で24時間保存し前記水を凍らせ、落下試験用試料とした。
【0044】
この落下試験用試料を、鉄板上に落下させ、亀裂や割れが生じる高さを調査した。
なお、落下試験は、収容させた氷が衝撃で飛び出さないように、容器本体の開口をラップフィルムで覆い、輪ゴムを掛けてこのラップフィルムの周縁部を周側壁の外側に固定させて実施した。
結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2)
高密度ポリエチレンフィルムの厚みを10μmに代えて25μmとした以外は、実施例1と同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表1に併せて示す。
【0046】
(実施例3)
高密度ポリエチレンフィルムの厚みを10μmに代えて45μmとした以外は、実施例1と同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表1に併せて示す。
【0047】
(実施例4)
前記耐熱PSP層の厚みを2mmとし一般PSP層が形成されていない耐熱PSP層単層のポリスチレン系樹脂発泡シートを用いて発泡層を形成させたこと以外は、実施例2同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表1に併せて示す。
(比較例1)
高密度ポリエチレンフィルムをホットメルト接着シートで接着する方法に代えて、ポリスチレン系樹脂フィルム(25μm)を一般PSP層にヒートラミネートして作製した積層シートを用いたこと以外は、実施例1と同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表1に併せて示す。
【0048】
(比較例2)
特開2000−239458に記載された発明に該当する、0.45mm厚みのフィルムを積層シートに代えて用いたこと以外は、実施例1と同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表1に併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例5)
次に、発泡層をポリプロピレン系発泡シートで形成させた事例を示す。
表面にフィルム層(表面層)を有する厚み0.8mmのポリプロピレン系樹脂発泡シート(坪量330g/m2、坪量割合:発泡層/フィルム層=275/55)の背面側に、容器本体の最外層となる高密度ポリエチレン樹脂フィルム(厚み25μm)をホットメルト接着シート(厚み30μm)を介して貼り合わせ積層シートを形成させた。
この積層シートを用いて実施例1と同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0051】
(比較例3)
高密度ポリエチレン樹脂フィルム(厚み25μm)を貼り合わせなかったこと以外は、実施例5と同様に容器本体を作製し、落下試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
以上のようなことから、本発明によれば冷凍時及び加熱時における取り扱いが容易なレンジアップ容器が得られうることがわかる。
【0054】
(参考例)
以下に、樹脂成分がスチレン系樹脂単体のポリスチレン系樹脂組成物で作製したポリスチレン系樹脂発泡シートと、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させたポリスチレン系樹脂組成物で作製したポリスチレン系樹脂発泡シートとにおいて割れ難さを評価した事例を示す。
【0055】
(シート1)
ポリスチレン系樹脂(DIC社製GPPS(スチレンホモポリマー)、商品名「XC−515」)70質量%、及び、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン系樹脂(PS)との混合樹脂(サビック社製、商品名「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)30質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、消臭成分として東亜合成社製のリン酸ジルコニウム系消臭剤(商品名「ケスモンNS−10」)を0.5質量部含有する樹脂組成物を押出し発泡して、厚み2.0mm、目付け180g/m2のポリスチレン系樹脂発泡シート(シート1)を作製した。
【0056】
(シート2)
GPPS、PPE、及び、消臭成分を含む樹脂組成物に代えてアクリル系モノマーとスチレンモノマーとの共重合体(耐熱性ポリスチレン)を押出し発泡してシート1と同じ厚みで同じ目付けのポリスチレン系樹脂発泡シート(シート2)を作製した。
【0057】
(シート3)
GPPS、PPE、及び、消臭成分を含む樹脂組成物に代えてGPPSのみを押出し発泡してシート1と同じ厚みで同じ目付けのポリスチレン系樹脂発泡シート(シート3)を作製した。
【0058】
(耐熱性評価:示差走査熱量測定)
上記シートから6.5±0.5mgのサンプルを採取し、JIS K7121に基づいて示差走査熱量測定を実施した(使用装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、示差走査熱量計装置、型名「DSC6220」)。
その結果、シート1、シート2のサンプルにおいては、JIS K7121 9.3(1)に記載の「中間点ガラス転移温度(Tmg)」が120℃付近に観察され、シート3のサンプルでは、106℃に観察された。
【0059】
(靱性評価:ダイナタップ衝撃試験)
上記シート1〜3から、100×100mmのテストピースを採取して、該テストピースに対して、ASTM D3763に基づくダイナタップ衝撃試験を実施した(使用装置:General Research Corp.社製、ダイナタップ衝撃試験装置、型名「GRC8250」)。
その結果、シート2のテストピースについては、最大点変位3.2mm、最大荷重29Nという結果となり、シート3のテストピースについては、最大点変位4.0mm、最大荷重36Nという結果となった。
一方でシート1のテストピースについては、最大点変位4.4mm、最大荷重42Nという結果となった。
このことからもシート1は、PPE系樹脂が含有されることによって変位と荷重が大きな割れ難い状態となっていることがわかる。
【0060】
また、発泡層をPPE系樹脂を含有するポリスチレン系樹脂組成物で形成させることによって耐熱性に優れ、割れ難いレンジアップ容器を形成させ得ることが上記結果からもわかる。
【符号の説明】
【0061】
1a:最外層、1b:最内層、1c,1d:ポリスチレン系樹脂発泡層、10:容器本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を冷凍保存するための保存容器として用いられるとともに前記冷凍保存された食品を電子レンジで加熱するための容器としても用いられるレンジアップ容器であって、
容器本体が積層構造を有し、該容器本体の内表面を構成する最内層と外表面を構成する最外層との間に発泡層を有しており、前記最外層は、高密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成されていることを特徴とするレンジアップ容器。
【請求項2】
JIS K7206に規定されたビカット軟化点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物で前記発泡層が形成されている請求項1記載のレンジアップ容器。
【請求項3】
JIS K7206に規定されたビカット軟化点が105℃以下のポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有し、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で含有されている樹脂組成物で前記発泡層が形成されている請求項1記載のレンジアップ容器。
【請求項4】
前記発泡層に外側から接する第二の発泡層を有し、該第二の発泡層が、JIS K7206に規定されたビカット軟化点が105℃以下のポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物で形成されている請求項2又は3に記載のレンジアップ容器。
【請求項5】
メチルメタクリレートとブチルメタクリレートとが共重合されてなるアクリルエステル系樹脂接着剤で前記最外層と前記第二の発泡層とが接着されて積層されている請求項4記載のレンジアップ容器。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物で前記発泡層が形成されている請求項1記載のレンジアップ容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−173649(P2011−173649A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146726(P2010−146726)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】