説明

レンズアンテナ

【課題】 水平または垂直方向にのみビーム幅が広いメインローブとし、かつアンテナ利得の低下を防止する。
【解決手段】 誘電体レンズ6は、誘電体レンズ本体部8の背部に平面である背部平面10を有し、背部平面10よりも後方の焦点Fに放射手段が設けられ、誘電体レンズ本体部8の中心軸を通る水平面内において、背部平面10に対する距離が中心軸から外側に向かうに従って増加する斜面14を有する傾斜部12が、背部平面10と一体に背部平面よりも後方に突出して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズアンテナに関し、特に、誘電体レンズを使用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズアンテナとしては、例えば特許文献1に開示されているようなものがある。特許文献1の技術では、誘電体レンズの後部に接してレンズ固定台を配置し、レンズ固定台の背部に接して金属円板を配置し、金属円板の背部に接してNRDガイドを設けてある。NRDガイドが有する誘電体ロッドが、金属円板に設けた孔を介してレンズ固定台に突き出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−166374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、ビーム幅を小さくすることができる。レンズアンテナは、例えばミリ波帯の電波の送受信のアンテナとして使用されることがある。この場合、ビーム幅が小さいと、良好にミリ波帯の電波を送受信するための送信用アンテナと受信用アンテナとの位置合わせが困難で非常に手間がかかる。また、受信用アンテナと送信用アンテナとを互いに対向させなければならないので、広範囲に複数個の受信用アンテナを配置する場合には、受信用アンテナと同数の送信用アンテナが必要となる。水平方向及び垂直方向の両方向にメインローブのビーム幅を広げるようにレンズアンテナを構成すると、位置合わせは容易となり、また1台の送信用アンテナで送信したミリ波帯の電波を複数個の受信用アンテナで受信することが可能になるが、水平及び垂直両方向にメインローブのビーム幅を広げたことにより、アンテナ利得が低下する。このアンテナ利得の低下を補おうとすると、送信アンテナの場合、放射手段に供給する送信電力を大きくする必要があるし、受信アンテナの場合、放射手段に接続される増幅手段を高利得のものとする必要がある。しかし、このようなレンズアンテナを使用したミリ波帯の送受信装置は汎用品として販売することが多いので、送信電力を増加させたり、高利得増幅器を使用したりすることは、送受信装置のコスト増を招き、望ましくない。
【0005】
本発明は、特定の方向、例えば水平または垂直方向にのみ広いメインローブのビーム幅とし、かつアンテナ利得の低下を防止したレンズアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のレンズアンテナは、誘電体レンズを有している。誘電体レンズは、誘電体レンズ本体部を有し、その本体部の背部に平面である背部平面を有している。誘電体レンズ本体部は、予め定めた曲線の回転体形状とすることができ、例えば半球状、半楕円球状、放物面形状とすることができる。誘電体レンズの背部平面よりも後方に送信又は受信用の放射手段が設けられている。この放射手段は、例えば誘電体レンズのほぼ焦点位置に設けることができる。放射手段としては、種々のものを使用することができ、パッチアンテナ素子や、プローブを使用することができる。レンズアンテナの背部平面を垂直に通る基準面内において、前記背部平面に対する距離が前記誘電体レンズの内側から外側に向かうに従って増加する斜面を有する傾斜部が、前記背部平面と一体に前記背部平面よりも後方に突出して設けられている。基準面としては、例えば水平面または鉛直面を使用することができる。前記傾斜部は、前記背部平面に対して鋭角をなす直線状の斜面を有するものとすることもできる。即ち、内側から外側に向かう距離に比例して、背部平面に対する距離が増加するものとすることもできる。
【0007】
このように構成したレンズアンテナを送信アンテナとして使用する場合、放射手段から放射された電波、例えばミリ波帯の電波が傾斜面に入射して、外方に屈折し、誘電体レンズの本体部の外表面に向かい、この外表面から空気中に出るときに更に外方に屈折する。このようにして基準面内において、メインローブのビーム幅を広げることができる。この基準面と異なる面、例えば基準面と垂直な面では、このようなメインローブのビーム幅を広げることが行われていない。上記の説明は送信アンテナの場合のものであるが、アンテナの可逆性により、受信アンテナの場合でも可能である。従って、この送信アンテナからの電波を受信する受信アンテナの送信アンテナに対する位置あわせは容易となり、また1台の送信アンテナからの電波を複数個の受信アンテナで受信することも可能となる。
【0008】
前記傾斜部は、前記基準面に対して垂直な方向に連続的に形成することができる。このように構成すると、ビーム幅が広いメインローブを基準面に垂直な方向に連続的に広げることができ、送信用アンテナと受信用アンテナとの位置合わせが容易に行える。
【0009】
前記傾斜部は、前記基準面に対して垂直な面の両側にそれぞれ設けることができる。このように構成すると、ビーム幅が広いメインローブを垂直な面の両側にそれぞれ形成することができ、送信用アンテナと受信用アンテナとの位置合わせが更に容易に行える。
【0010】
傾斜部が両側に設けられる垂直な面は、前記誘電体レンズの中心を通るものとすることができる。この場合、前記放射手段が前記誘電体レンズのほぼ焦点位置に配置されている。このように構成すると、送信アンテナの場合、誘電体レンズの中心を通る電波は、広角指向に放射されることはない。従って、このレンズアンテナの基準面におけるメインローブのビーム幅の広さを利用して、受信アンテナにおいてこのレンズアンテナからの送信電波を受信できるようにした後、受信アンテナを、このレンズアンテナの中心軸上に位置合わせできた場合には、最も良好にこのレンズアンテナからの電波を受信することができる。このレンズアンテナを受信アンテナとして利用した場合も、同様である。
【0011】
前記誘電体レンズ本体部が、電波広角指向化放射手段を有するものとすることもできる。電波広角指向化放射手段は、例えば誘電体レンズ本体部の外表面側に設けることができる。このように構成すると、誘電体レンズ本体部においても、電波の広角指向化が行われるので、更にメインローブのビーム幅を広くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、特定の方向のみ広いメインローブのビーム幅とすることによって、位置合わせを容易とし、また1つの送信用アンテナで広範囲に配置した複数個の受信用アンテナへの送信を可能とし、かつアンテナ利得の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1実施形態のレンズアンテナを使用した無線伝送システムの概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のレンズアンテナの縦断平面図である。
【図3】図2のレンズアンテナの誘電体レンズの背面図である。
【図4】図2のレンズアンテナにおいてビーム幅が広いメインローブとなる説明図である。
【図5】図2のレンズアンテナにおいて背部平面に対する斜面の角度θを0度、30度、42度、50度とした場合の放射パターンを示す図である。
【図6】図2のレンズアンテナにおいて背部平面に対する斜面の角度θを35度とした場合における59GHz、60GHz及び61.49GHzにおける放射パターンを示す図である。
【図7】図2のレンズアンテナにおいて背部平面に対する斜面の角度θを35度とした場合における2つの傾斜部それぞれにおける最大利得の周波数特性を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態のレンズアンテナの誘電体レンズの平面図である。
【図9】図9の誘電体レンズの正面図である。
【図10】図9のA−A、B−B及びC−C線に沿う断面図である。
【図11】図9のレンズアンテナにおいて傾斜部を設けていない場合、傾斜部と広角指向化放射領域とを設けた場合、傾斜部のみを設けた場合の放射パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態のレンズアンテナ1は、図1に示すように、1台の送信機2からのミリ波帯信号を、水平面内で互いに離れて位置する複数個の受信機4で受信するような場合に、送信機2の送信アンテナとして使用されている。
【0015】
図2に示すように、レンズアンテナ1は、誘電体レンズ6を有している。誘電体レンズ6は、誘電体レンズ本体部8を備え、この誘電体レンズ本体部8は、例えば1つの曲線を回転させて形成した所定の曲面、例えば放物面、球面、楕円面、多項式で表される曲面によって構成されている。この誘電体レンズ本体部8の背面に円形の背部平面10を有している。この誘電体レンズ本体部8は、誘電体、例えばポリプロピレンのような合成樹脂によって構成されている。レンズ本体部8は、それの中心軸線上の背部平面10よりも後方位置に焦点Fを有している。この焦点Fに、放射手段、例えば送信機2が備えるパッチアンテナまたはプローブが配置されている。
【0016】
この誘電体レンズ本体部8の背部平面10に傾斜部12が設けられている。傾斜部12は、背部平面10に垂直でかつ中心軸を通る1つの面、例えば垂直面の両側に、それぞれ設けられている。これら傾斜部12は、同一形状である。これら傾斜部12は、背部平面10と一体に、誘電体レンズ本体部8と同一材料によって形成されている。これら傾斜部12は、上記1つの面に垂直な面である基準面、例えば水平面内において、背部平面10に対して所定の鋭角θをなす斜面14をそれぞれ有している。即ち、水平面内において、誘電体レンズ本体部8の中心軸から背部平面10の周縁部に向かう距離が大きくなるに従って、この距離に比例して斜面14と背部平面10との距離が増加していく。これら斜面14は、図3に示すように、レンズ本体部8の垂直方向に連続的に形成されている。
【0017】
但し、斜面14の長さは、中心軸上において最も長く、中心軸から垂直方向の両端に向かうに従って徐々に短くなっている。これは背部平面10が円板状であるからである。これら斜面14の先端に連ねて、支持斜面16が背部平面10の周縁にまで形成されている。この支持斜面16が、図2に破線で示すホーン状の支持体に接触して、誘電体レンズ6を支持している。
【0018】
図4(a)に示すように、このレンズアンテナ1において、誘電体レンズ6に傾斜部12を設けずに、送信アンテナとして使用した場合、焦点Fの放射手段から放射されて、誘電体レンズ本体部8の周縁に向かったミリ波の電波は、誘電体レンズ本体部8に入射して、中心軸に平行とされて放射される。これは、水平面内においても垂直面内においても同様である。従って、メインローブのビーム幅が狭くなる。受信アンテナとして使用した場合でも、アンテナの可逆性によって同様にメインローブのビーム幅が狭くなる。
【0019】
これに対し、傾斜部12を設けたレンズアンテナ1を送信アンテナとして使用した場合、水平面内では、図4(b)に示すように、焦点Fの放射手段から放射されて、誘電体レンズ本体部8の周縁に向かったミリ波の電波は、斜面14に入射する際に入射角αで入射し、屈折角βで中心軸から離れる方向に屈折し、誘電体レンズ本体部8内を直進し、誘電体レンズ本体部8の表面から空気中へ入射する際に、入射角γで入射し、屈折角φで中心軸から離れる方向に屈折する。従って、水平面内では、メインローブのビーム幅が、傾斜部12を設けていない場合よりも広くなる。受信アンテナとして使用した場合でも、アンテナの可逆性によって同様にメインローブのビーム幅が広くなる。
【0020】
一方、垂直面内では、上述した傾斜部12を設けていない場合と同様に、メインローブのビーム幅は、水平面のメインローブのビーム幅よりも狭い。受信アンテナとして使用した場合でも、アンテナの可逆性によって同様である。
【0021】
図5(a)乃至(d)は、背部平面10に対する角度θを0度(傾斜部12なし)、30度、42度、50度とした場合の60GHzにおける放射パターンを示したもので、図5(a)に示すように、傾斜部12を設けていない場合にはメインローブのビーム幅は約±4度であるが、図5(b)、(c)に示すようにθが30度、42度の場合、メインローブのビーム幅は約±20度であり、θが50度の場合、同図(d)に示すようにメインローブのビーム幅は約±25度である。このように傾斜部12を設けることによって、メインローブのビーム幅を広くできる。但し、メインローブのビーム幅を狭くすることによって相対電力のピークは、傾斜部12を設けない場合よりも低下しており、θを大きくするほど、その低下が大きく、50度とした場合の低下が最も大きい。従って、必要とする相対電力のピーク値と、必要とするメインローブのビーム幅とを勘案して、θを鋭角の範囲内で決定すればよい。
【0022】
図6(a)乃至(c)は、θを35度とした場合における59GHz、60GHz及び61.49GHzにおける放射パターンを示したもので、周波数の変化における大きな放射パターンの変化はなく、傾斜部12は、特定の周波数においてのみメインローブのビーム幅を広げることができるものではなく、ミリ波帯、特に60GHz帯においてメインローブのビーム幅を広げることができる。
【0023】
図7は、θを35度とした場合における2つの傾斜部12それぞれにおける最大利得の周波数特性を示し、符号Rで示すのが、図2において下側に示された傾斜部12の周波数特性で、符号Lで示すのが図2において上側に示された傾斜部12の周波数特性である。図7から2つの傾斜部12のいずれにおいても、ほぼ同様な利得が得られることが分かる。
【0024】
従って、図1に示すように、このレンズアンテナ1を送信アンテナとして使用した送信機2から送信されたミリ波信号は、水平面内に間隔をおいて配置された複数台のミリ波の受信機4において受信することができる。また、1台の送信機からのミリ波信号を1台の受信機で受信する場合には、このレンズアンテナ1を送信機または受信機のいずれか一方に使用すると、送信機と受信機との位置合わせが容易となる。
【0025】
本発明の第2の実施形態のレンズアンテナ1aを、図8乃至図11に示す。この実施形態のレンズアンテナ1aでは、誘電体レンズ本体部8aの形状が異なる以外、第1の実施形態のレンズアンテナ1と同様に構成されている。同一部分には、同一符号を付して、その説明を省略する。
【0026】
第1の実施形態の誘電体レンズ本体部8の曲面は、1つの関数によって表される曲線を回転させることによって形成されていたが、図8乃至図10(C)に示すように、誘電体レンズ本体部8aの曲面は、例えば複数の曲線によって表される曲線によって形成され、誘電体レンズ本体部8aが、ミリ波電波を広角指向化させる広角指向化放射手段、例えば広角指向化放射領域18を有するものとされている。この広角指向化放射領域18が形成されていることにより、ミリ波帯の信号が拡散され、メインローブのビーム幅を誘電体レンズ本体部8aにおいても広げられる。傾斜部12及び誘電体レンズ本体部8aの双方によって、第1の実施形態のレンズアンテナ1よりも、メインローブのビーム幅を広げることができる。
【0027】
図11(a)は、通常の誘電体レンズアンテナ、同図(b)は傾斜部12及び拡散領域18を設けたレンズアンテナ、同図(c)は傾斜部12のみを設けたレンズアンテナの放射パターンを示したものである。図11(a)と同図(c)との比較により傾斜部12を設けたことにより、メインローブのビーム幅が広がっていることが分かる。同図(b)と同図(c)との比較により、傾斜部12を設けた上に拡散領域18を設けたことにより、メインローブのビーム幅が更に広がっていることが分かる。
【0028】
上記の各実施形態では、傾斜部12、12の斜面14が水平面内において背部平面10に対して鋭角をなすようにして、水平面内でメインローブのビーム幅を広げたが、斜面14が垂直面内に背部平面10に対して鋭角をなすようにして、垂直面内においてメインローブのビーム幅を広げるようにしてもよい。上記の各実施形態では、傾斜部12は、誘電体レンズ本体部8、8aの中心軸線の両側に設けたがいずれか一方のみに設けることもできる。また、上記の各実施形態では、傾斜部12の斜面14が背部平面10と接している位置は、中心軸線上としたが、中心軸線から離れた位置で背部平面10と接するように構成することもできる。上記の各実施形態では、斜面14は、直線状としたが、これに限ったものではなく、例えば背部平面10に対して曲線状とすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 1a レンズアンテナ
6 6a 誘電体レンズ
8 8a 誘電体レンズ本体部
10 背部平面
12 傾斜部
14 斜面
18 広角指向化放射領域(広角指向化放射手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体レンズ本体部の背部に、背部平面を有する誘電体レンズと、
前記背部平面よりも後方に設けられた送信又は受信用の放射手段とを、
具備し、前記背部平面を垂直に通る基準面内において、前記背部平面に対する距離が前記誘電体レンズの内側から外側に向かうに従って増加する斜面を有する傾斜部が、前記背部平面と一体に前記背部平面よりも後方に突出して設けられているレンズアンテナ。
【請求項2】
請求項1記載のレンズアンテナにおいて、前記傾斜部は、前記背部平面に対して鋭角をなす直線状の斜面を有するレンズアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2記載のレンズアンテナにおいて、前記傾斜部は、前記基準面に対して垂直な方向に連続的に形成されているレンズアンテナ。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のレンズアンテナにおいて、前記傾斜部は、前記基準面に対して垂直な面の両側にそれぞれ設けられているレンズアンテナ。
【請求項5】
請求項4記載のレンズアンテナにおいて、前記垂直な面は、前記誘電体レンズの中心を通り、前記放射手段が前記誘電体レンズのほぼ焦点位置に配置されているレンズアンテナ。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか記載のレンズアンテナにおいて、前記誘電体レンズ本体部が、電波広角指向化放射手段を有しているレンズアンテナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−205104(P2012−205104A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68192(P2011−68192)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000109668)DXアンテナ株式会社 (394)
【Fターム(参考)】