説明

レンズバレルのフォーカス調整装置およびフォーカス調整方法

【課題】フォーカス調整を簡易に行うことができるレンズバレルのフォーカス調整装置を提供する。
【解決手段】撮像装置などの被検体が備えるレンズバレル1のフォーカス調整を行うフォーカス調整装置8に、レンズバレル1を回動させるために当該レンズバレル1に設けられた凹部10に挿入可能なガイドピン9と、レンズバレル1を介して入射するチャート2の画像を投影する投影板4とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置などの被検体が備えるレンズバレルのフォーカスを調整するフォーカス調整装置およびフォーカス調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、CCD(charge-coupled device:電荷結合素子)やCMOS(complementary metal-oxide-semiconductor transistor:相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーなどの撮像素子を有する撮像装置(被検体)が備える、鏡筒にレンズが組み込まれた製品(以下、「レンズバレル」と称する)に対して、フォーカス調整(ピント合わせ)が行われている。
【0003】
このようなフォーカス調整は、基本的に、レンズバレルを介して形成されるチャートなどの被写体の画像が明確になるように、レンズバレルの一端に位置するレンズを移動調整させることにより行われる。
【0004】
図6は、従来のフォーカス調整装置の一例を示す概略の正面図である。
【0005】
図6に示すように、撮像装置などの被検体38は、フォーカス調整の対象となるレンズバレル37、および該レンズバレル37を介して形成される画像を撮像する撮像素子35を備えている。
【0006】
また、被検体38には、撮像素子35により撮像される画像の信号をデータに変換する信号変換装置39、および信号変換された画像データを表示する受像機34がこの順に取り付けられている。
【0007】
フォーカス調整装置32は、筒状の形状を有し、その一端面に、上記レンズバレル37を回動させるために、当該レンズバレル37に設けられた凹部33に挿入可能なガイドピン36が複数(図6では3個)、凹部33の配置に対応するようにして互いに等間隔に、円周状に配置されている。
【0008】
該フォーカス調整装置32を用いたフォーカス調整は、以下のとおりに行われる。
【0009】
まず、フォーカス調整装置32を、ガイドピン36側がレンズバレル37に向かうように移動させて、ガイドピン36をレンズバレル37の表面に当接させる。
【0010】
次に、フォーカス調整装置32を回動して、複数のガイドピン36を対応する凹部33にそれぞれ挿入させる。これにより、フォーカス調整装置32は、レンズバレル37と結合(連結)した状態になる。
【0011】
続いて、フォーカス調整装置32のレンズバレル37側の反対側であって、レンズバレル37の表面から規定の距離(例えば、焦点までの距離)だけ離れた位置にチャート(被写体)31を載置し、当該チャート31の裏面に光源(図示しない)から光を照射して、チャート31の画像をレンズバレル37に投影する。
【0012】
投影されたチャート31の画像は、フォーカス調整装置32およびレンズバレル37を介して、撮像素子35により撮像され、信号が信号変換装置39で表示可能な画像データに変換されて受像機34に表示される。
【0013】
この場合、受像機34に表示されている画像を見ながら、該画像が最も明確になるまで(例えば、コントラスト比が最も大きくなるまで)、フォーカス調整装置32を回動することによってレンズバレル37を連動し回動させることにより、レンズバレル37のフォーカス調整を行うことになる。
【0014】
このような従来技術として、例えば以下の特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−65898号公報(2003年3月5日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述のような従来技術には、以下の問題点がある。
【0017】
上記従来技術の方法によると、フォーカス調整を、フォーカス調整用のチャート(被写体)31を被検体38の撮像素子35で撮像し、被検体38から出力される映像信号(画像データ)を受像機34で受像しながら行う必要がある。すなわち、従来技術によるフォーカス調整は、レンズバレル37が被検体38に組み込まれている状態(製品の出荷形態)でなければ行うことができない。したがって、上記の方法では、撮像素子35および被検体38を動作させるための装置を用いる必要があるほか、撮像した画像を映し出すための受像機34が別途必要となり、当該フォーカス調整が複雑になるという問題点がある。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その主たる目的は、撮像素子、撮像素子を動作させるための装置、および撮像した画像を映し出すための受像機を必要とせず、レンズバレルのみでのフォーカス調整を可能にして、フォーカス調整を簡易化したフォーカス調整装置およびレンズバレルのフォーカス調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するために、被検体が備えるレンズバレルのフォーカス調整を行うフォーカス調整装置であって、レンズバレルを回動させるために当該レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な凸部と、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板とが設けられていることを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、フォーカス調整装置が、被写体の画像を形成するための投影板を備えているため、被写体をレンズバレルの反対側(フォーカス調整装置の側とは逆側)に載置して、逆投影法により該被写体からの画像を、レンズバレルを介して上記投影板に形成し、目視で確認することができる。これにより、レンズバレルのフォーカス調整に、被写体の画像を形成するための撮像素子、撮像素子を動作させるための装置、および撮像素子により形成された画像を確認するための受像機などの電気的な機材を必要とせず、フォーカス調整を簡易に実現することができる。
【0021】
また、従来の技術によれば、被写体とレンズバレルとの間にフォーカス調整装置が設置されるため、焦点距離が短いレンズバレルのフォーカス調整は困難であるという問題点があった。例えば、通常のデジタルカメラや携帯電話に内蔵されているカメラなどの場合、焦点距離が長いので、チャートと撮像装置(被検体)との間にフォーカス調整装置を入れることができ、撮像装置でチャートを撮像しながらフォーカス調整を行うことは特に難しい方法ではないものの、スキャナーやデジタルレントゲンのように焦点距離が極端に短いカメラを必要とする装置の場合、チャートと撮像装置との間にフォーカス調整器具を入れる隙間を取ることができなかった。この場合、従来では、被写体を設置した状態で撮像し、チャートを外して任意の角度にレンズを回動させ、その後チャートを再度設置し、撮像して画像を確認する、という一連の作業をフォーカスが合うまで繰り返し続けることにより焦点を合わせなければならなかった。
【0022】
これに対し、本発明の上記構成によると、被写体とレンズバレルとの間にフォーカス調整装置を設置する必要がないため、焦点距離が極端に短い場合でも、被写体をレンズバレルにゼロに近い距離まで接近させて、上記一連の作業を繰り返すことなく、直接かつ簡易にフォーカス調整を行うことができる。
【0023】
また、撮像素子を使用しないため、撮像の際、撮像素子の感度差や光源の安定性のバラツキを無くすために、光源の照度や色温度等の調整および管理が必要になることもなくなる。
【0024】
以上のように、本発明によると、レンズバレルのフォーカス調整作業における効率の大幅な向上、およびレンズバレルの不良率とコストとの大幅な低減が可能になる。
【0025】
また、本発明のフォーカス調整装置においては、外筒と、外筒に螺合する内筒とを有し、上記外筒の一端面に上記凸部が配置されており、上記内筒に上記投影板が備えられていることが好ましい。
【0026】
これにより、投影板は、外筒に対して内筒を回動させることで上下に移動自在であり、不同な焦点距離のレンズバレル(焦点距離が互いに異なる種々のレンズバレル)にリアルタイムで対応することができる。したがって、不同な焦点距離のレンズバレルに対して短時間でフォーカス調整を行うことができる。
【0027】
また、本発明のフォーカス調整装置においては、上記外筒および内筒が、遮光部材からなることが好ましい。
【0028】
従来の技術では、撮像の際、調整に必要な光源以外の外光の影響を撮像素子やチャートが受けて、正確な調整ができなくなる恐れがあったため、撮像素子が外光の影響を受けなくするように、暗室で調整を実施したり、装置全体を暗幕で覆ったりするなどの大掛かりな遮光措置を取る必要があり、その分コストもかかっていた。
【0029】
しかし、本発明の上記構成によると、被写体から投影板までの光の経路には、外光が直接当たる領域がなくなり、かつ、外筒および内筒が遮光部材からなっているため、上記の遮光措置が必要でなく、容易かつ安価に遮光を可能にすることができる。
【0030】
また、本発明のフォーカス調整装置においては、上記凸部は、上記外筒の一端面に複数、円周状に配置されるとともに、レンズバレルに設けられた凹部に挿入されないでレンズバレルに当接したときに外筒方向に移動可能となっていることが好ましい。
【0031】
従来の技術では、レンズバレルに形成されている凹部と同数の凸部がフォーカス調整装置に設けられているため、当該凸部をレンズバレルに当接させ、凸部が凹部に挿入されるまで、外筒を回動する必要がある。したがって、凸部がレンズバレルの表面(外周部分)を滑ることによって、レンズバレルの天面部分にキズをつけることがある。
【0032】
しかし、本発明の上記構成によると、例えば上記凸部の個数を凹部の個数よりも多く形成することにより、複数の凸部をレンズバレルに当接させたとき、外筒を回動させなくとも、凹部に凸部が挿入され、凹部に挿入されない凸部は外筒方向に移動する。これにより、フォーカス調整装置とレンズバレルとを連結させるときに、外筒を回動させる必要がないので、凸部がレンズバレルの表面(外周部分)を滑ることがなく、レンズバレルの天面部分にキズをつけることを防止することができる。
【0033】
また、本発明のフォーカス調整装置においては、予め設定した角度だけ上記外筒を回動させる回動装置をさらに備えていることが好ましい。
【0034】
これにより、フォーカス調整装置とレンズバレルとを連結させた後、フォーカス調整を行うときに、回動装置で、例えば記憶装置に予め記憶されているデータベースに基づいて設定した角度だけ上記外筒を回動させて、該レンズバレルの焦点距離に合う位置まで外筒を正確に回動させることができる。つまり、回動装置によって外筒を回動させる前に、回動させる角度が予め設定されていることになり、回動させる途中で角度を調整する必要がない。したがって、フォーカス調整を目視で確認する必要がなく、自動で行うことができる。
【0035】
また、本発明のフォーカス調整装置においては、被写体とレンズバレルとの間に挿入され、被写体に対するレンズバレルの位置合わせを行う位置調節部材をさらに備えることが好ましい。
【0036】
従来の技術によると、フォーカス調整は、レンズの焦点距離に合わせた位置に被写体を配置する必要があるが、被写体の中心とレンズバレルの中心とが合わないと正確な調整ができなくなってしまうため、フォーカス調整にずれが生じる恐れがあった。
【0037】
しかし、本発明の上記構成によると、被写体とレンズバレルとの位置合わせが位置調節部材でより正確に行われるので、被写体とレンズバレルとの位置がずれてフォーカス調整に誤差が生じるという不具合を防止することができる。
【0038】
また、本発明は、上記の課題を解決するために、被検体が備えるレンズバレルのフォーカス調整を行うフォーカス調整方法であって、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板に投影された画像を目視しながら、レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な挿入部材を用いてレンズバレルを回動させることを特徴としている。
【0039】
上記構成によると、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板に投影された画像を目視しながら、レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な挿入部材を用いてレンズバレルを、投影された画像が明確になるまで回動させて調整することができる。これにより、レンズバレルのフォーカス調整に、被写体の画像を形成するための撮像素子、撮像素子を動作させるための装置、および撮像素子により形成された画像を確認するための受像機などの電気的な機材を必要とせず、フォーカス調整を簡易に実現することができる。
【0040】
また、従来の技術によると、被写体とレンズバレルとの間にフォーカス調整装置が設置されるため、焦点距離(レンズバレルの表面から被写体までの距離)が短いレンズバレルのフォーカス調整が困難であるという問題点があった。
【0041】
これに対し、本発明の上記構成によると、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板に投影された画像を目視しながらフォーカス調整を行うので、被写体とレンズバレルとの間にフォーカス調整装置を設置する必要がない。それゆえ、焦点距離が極端に短い場合でも、被写体をレンズバレルにゼロに近い距離まで接近させて、直接かつ簡易にフォーカス調整を行うことができる。
【0042】
また、撮像素子を使用しないため、撮像の際、撮像素子の感度差や光源の安定性のバラツキを無くすために、光源の照度や色温度等の調整および管理が必要になることもなくなる。
【0043】
以上のように、本発明によると、レンズバレルのフォーカス調整作業における効率の大幅な向上、およびレンズバレルの不良率とコストとの大幅な低減が可能になる。
【発明の効果】
【0044】
上述したように、本発明に係るフォーカス調整装置は、レンズバレルを回動させるために当該レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な凸部と、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板とが設けられていることを特徴としている。
【0045】
また、本発明に係るフォーカス調整方法は、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板に投影された画像を目視しながら、レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な挿入部材を用いてレンズバレルを回動させることを特徴としている。
【0046】
上記フォーカス調整装置およびフォーカス調整方法によると、被写体の画像を投影するための投影板を用いるため、被写体をレンズバレルの反対側(フォーカス調整装置(投影板)の側とは逆側)に載置して、逆投影法により該被写体の画像を、レンズバレルを介して上記投影板に形成し、目視で確認することができる。これにより、レンズバレルのフォーカス調整に、被写体の画像を形成するための撮像素子、撮像素子を動作させるための装置、および撮像素子により形成された画像を確認するための受像機などの電気的な機材を必要とせず、フォーカス調整を簡易に実現することができる。
【0047】
また、被写体とレンズバレルとの間にフォーカス調整装置(投影板)を設置する必要がないので、焦点距離が極端に短い場合でも、被写体をレンズバレルにゼロに近い距離まで接近させて、直接かつ簡易にフォーカス調整を行うことができる。
【0048】
また、撮像素子を使用しないため、撮像の際、撮像素子の感度差や光源の安定性のバラツキを無くすために、光源の照度や色温度等の調整および管理が必要になることもなくなる。
【0049】
以上のように、本発明によると、レンズバレルのフォーカス調整作業における効率の大幅な向上、およびレンズバレルの不良率とコストとの大幅な低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1に係るフォーカス調整装置を示す概略の正面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るフォーカス調整方法で使用されるチャート(被写体)の一例を示す概略の平面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るフォーカス調整方法において、(a)は、フォーカスが合っていない状態を示す画像であり、(b)は、その画像をデータ化したグラフである。
【図4】本発明の実施の形態1に係るフォーカス調整方法において、(a)は、フォーカスが合っている状態を示す画像であり、(b)は、その画像をデータ化したグラフである。
【図5】本発明の実施の形態2に係るフォーカス調整装置の要部を示すブロック図である。
【図6】従来のフォーカス調整装置の一例を示す概略の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明について、図1〜5を参照して詳細に説明する。
〔実施の形態1〕
本実施の形態1に係るフォーカス調整装置は、基本的に、撮像装置などの被検体が備えるフォーカス調整対象であるレンズバレルのフォーカス調整を行うフォーカス調整装置であって、レンズバレルを回動させるために、当該レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能なガイドピン(凸部、挿入部材)と、レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板とが設けられている構成である。
【0052】
〔レンズバレル〕
図1に、本実施の形態1に係るフォーカス調整装置8およびフォーカス調整対象であるレンズバレル1を示す。
【0053】
図1に示すように、レンズバレル1は、鏡筒の内部に複数のレンズが取り付けられた構成になっている。鏡筒は、外鏡筒12と、外鏡筒12に螺合する内鏡筒14とを含んでおり、外鏡筒12と内鏡筒14とのそれぞれに、少なくとも一つのレンズが取り付けられている。
【0054】
レンズバレル1の最も外側(フォーカス調整を行うときにおいてフォーカス調整装置側)のレンズ11における表面周縁部には、n個(nは2以上の整数、図1では3個)の凹部10が互いに等間隔に、円周状に形成されている。該凹部10は、レンズ11の表面周縁部に直接的に形成されていてもよいし、凹部が形成されている他の部材をレンズ11の周縁部に固定することによって形成されていてもよい。該レンズ11は、内鏡筒14の内部に設けられている。
【0055】
したがって、後述するように、レンズ11における表面周縁部に形成された凹部10に、該凹部10の形成位置に対応することができるように配置されたガイドピン(凸部、挿入部材)9を挿入して、レンズ11を回動させることにより、レンズ11が設けられている内鏡筒14と外鏡筒12との相対位置が変化して、レンズバレル1全体のフォーカスを調整することができる。
【0056】
〔フォーカス調整装置〕
上記レンズバレル1のフォーカス調整を行うために用いる本発明に係るフォーカス調整装置8は、図1に示すように、筒体の内部に投影板4が設けられた構成になっている。筒体は、外筒7と、外筒7に螺合する内筒6とを含んでおり、上記投影板4は、内筒6の内部に備えられている。
【0057】
ここで、上記外筒7および内筒6は、遮光部材からなっている。また、投影板4は、内筒6の内周面に嵌合するように、円板状に形成されている。なお、上記外筒7、内筒6および投影板4の材質は、これらに限られるものではない。
【0058】
外筒7の一端面(フォーカス調整を行うときにおいてレンズバレル側の端面)には、レンズバレル1のレンズ11を回動させるために、当該レンズ11に設けられた上記凹部10に挿入可能なガイドピン(凸部、挿入部材)9が、凹部10の形成位置に対応することができるようにして互いに等間隔に、円周状に複数、配置されている。
【0059】
上記ガイドピン9の個数m(mは2以上の整数)は、凹部10の個数nに対して比較的多く形成されている。具体的には、mはnの2倍以上の整数倍であることがより好ましい(例えば図1では、nは3個、mはその8倍である24個形成されている)。
【0060】
そして、上記ガイドピン9は、レンズ11に設けられた凹部10に挿入されないでレンズ11に当接したときに、外筒7方向に移動可能なように、つまり、外筒7の内部に引っ込むことができるようにして、外筒7に取り付けられている。なお、ガイドピン9は、レンズ11に当接していない状態(使用されていない状態)では、外筒7の端面から突出するように、バネなどで付勢されていることがより好ましい。
【0061】
また、外筒7の外周面には、外筒7を回動させ易いように、リング状の回動用つまみ13が、外筒7と一体的に設けられている。
【0062】
さらに、図1に示すように、本発明に係るフォーカス調整装置は、フォーカス調整を行うときに、チャート(被写体)2とレンズバレル1との間に挿入され、チャート2に対するレンズバレル1の位置合わせを行うスペーサーソケット(位置調節部材)5をさらに備えている。スペーサーソケット5は、光線が透過する透明な材質で形成されている。スペーサーソケット5には、レンズバレル1における外鏡筒12の一端部(フォーカス調整を行うときにおいてフォーカス調整装置(投影板)の側とは逆側の端部)を収納してレンズバレル1を固定することができるように、収納部15が形成されている。これにより、スペーサーソケット5は、チャート2に対するレンズバレル1の位置合わせを行うようになっている。
【0063】
〔フォーカス調整方法〕
上記フォーカス調整装置8を用いてレンズバレル1のフォーカス調整を行うフォーカス調整方法について、以下、具体的に説明する。
【0064】
(1)レンズバレル設置工程
まず、図1に示すように、光源3の上にチャート(被写体)2を載置して、その上にスペーサーソケット5を設置する。チャート2には、図2に示すように、フォーカス調整を行う際に明暗を認識し易い例えば黒色の帯と白色の帯とが相互に形成されたチャート(被写体)原像41が記載されている。つぎに、スペーサーソケット5の収納部15にレンズバレル1における外鏡筒12の一端部を収納してレンズバレル1を固定するとともに、チャート2に対するレンズバレル1の位置合わせを行う。
【0065】
これにより、チャート2のスペーサーソケット5に対する位置と、レンズバレル1のスペーサーソケット5に対する位置とを、容易にかつ正確に位置合わせすることができるため、チャート2とレンズバレル1との相対位置を正確に固定することができる。
【0066】
(2)フォーカス調整装置とレンズバレルとの連結工程
まず、フォーカス調整装置8を、ガイドピン9が設けられている側をレンズバレル1に対向させて移動して、ガイドピン9をレンズバレル1のレンズ11の表面に当接させる。
【0067】
このとき、上記ガイドピン9の個数mが凹部10の個数nよりも多いため、複数のガイドピン9をレンズ11の表面に当接させると、凹部10のそれぞれに何れかのガイドピン9が挿入されるとともに、挿入されない残りのガイドピン9が外筒7方向に移動する(外筒7の内部に引っ込む)。
【0068】
これにより、フォーカス調整装置8とレンズバレル1とは、上記ガイドピン9が凹部10に嵌合することによって位置合わせされるとともに、一体的に連結される。したがって、本実施の形態1によると、従来の技術のように、フォーカス調整装置をレンズバレルに当接させた後にさらにフォーカス調整装置を回動させる必要がないため、ガイドピン9がレンズ11の表面(外周部分)を滑ることがなく、レンズ11の天面部分にキズをつけることを防止することができる。
【0069】
(3)フォーカス調整工程
上記のようにフォーカス調整装置8とレンズバレル1とを一体的に連結させた後、フォーカス調整装置8の内筒6を回動させて、該内筒6に設けられている投影板4を、フォーカス調整の対象となるレンズバレル1の焦点の位置まで移動させる。つまり、本実施の形態1によると、内筒6を回動させるだけで焦点距離を合わせることができるので、不同な焦点距離のレンズバレル(焦点距離が互いに異なる種々のレンズバレル)について、そのフォーカス調整を容易に行うことができる。
【0070】
続いて、光源3からチャート2の裏面に光を照射して、チャート2の画像(つまり、チャート原像41の画像)を、レンズバレル1を介して投影板4に投影する。そして、投影板4に投影されたチャート2の画像を、内筒6におけるレンズバレル1の反対側(レンズバレルの側とは逆側)から目視で確認する。なお、光源3の構成は、特に限定されるものではない。
【0071】
このときに確認されるチャート2の画像(つまり、チャート原像41の画像)は、フォーカスを調整する前の状態であるので、図3(a)に示すように明暗の境界が明確ではなく、それゆえ、画像の輝度も、図3(b)に示すように波線形状のグラフで表され、黒い部分(黒色の帯の画像)と白い部分(白色の帯の画像)との境界部分が明確ではない。つまり、図3(a)の画像は、レンズバレル1のフォーカスが合っていない状態を示し、図3(b)のグラフは、黒い部分と白い部分との境界部分のコントラスト比が小さいことを表している。
【0072】
その後、投影板4に投影されたチャート2の上記画像を目視で確認しながら、回動用つまみ13を用いて外筒7を回動させることによってレンズ11を回動させ、チャート2の画像における明暗の差(コントラスト比)が最も大きくなるまで、レンズバレル1のフォーカスを調整する。
【0073】
フォーカスを調整した後に確認されるチャート2の画像(つまり、チャート原像41の画像)は、図4(a)に示すように明暗の境界が明確であり、それゆえ、画像の輝度も、図4(b)に示すようにパルス形状のグラフで表され、黒い部分(黒色の帯の画像)と白い部分(白色の帯の画像)との境界部分が明確である。つまり、図4(a)の画像は、レンズバレル1のフォーカスが合っている状態を示し、図4(b)のグラフは、黒い部分と白い部分との境界部分のコントラスト比が最も大きいことを表している。
【0074】
〔効果〕
上述した実施の形態1の構成によると、フォーカス調整装置8の内部に、チャート2の画像を形成するための投影板4を備えているため、チャート2をレンズバレル1の反対側に載置して、逆投影法により該チャート2の画像を、レンズバレル1を介して上記投影板4に形成し、目視で確認することができる。これにより、レンズバレル1のフォーカス調整に、チャート2の画像を形成するための撮像素子、撮像素子を動作させるための装置、および撮像素子により形成された画像を確認するための受像機などの電気的な機材を必要とせず、フォーカス調整を簡易に実現することができる。
【0075】
また、チャート2とレンズバレル1との間にフォーカス調整装置8を設置する必要がないため、焦点距離が極端に短い場合でも、チャート2をレンズバレル1にゼロに近い距離まで接近させて、直接かつ簡易にフォーカス調整を行うことができる。
【0076】
また、撮像素子を使用しないため、撮像の際、撮像素子の感度差や光源の安定性のバラツキを無くすために、光源の照度や色温度等の調整および管理が必要になることもなくなる。
【0077】
以上のように、実施の形態1によると、レンズバレル1のフォーカス調整作業における効率の大幅な向上、およびレンズバレル1の不良率とコストとの大幅な低減を実現することができる。
【0078】
また、上記フォーカス調整装置8においては、外筒7と、外筒7に螺合する内筒6とを有し、上記外筒7の一端面に上記ガイドピン9が配置されており、上記内筒6に上記投影板4が備えられているため、投影板4は、外筒7に対して内筒6を回動させることで上下に移動自在であり、不同な焦点距離のレンズバレルにリアルタイムで対応することができる。したがって、不同な焦点距離のレンズバレルを短時間でフォーカス調整することができ、焦点距離が極端に短い場合でもリアルタイムで対応可能となる。
【0079】
また、上記フォーカス調整装置8においては、上記外筒7および内筒6が遮光部材からなるため、チャート2から投影板4までの光の経路には、外光が直接当たる領域がない。それゆえ、遮光措置が必要でなく、容易かつ安価に遮光を可能にすることができる。
【0080】
また、上記フォーカス調整装置8においては、レンズ11に設けられた凹部10の個数よりも多い個数のガイドピン9が、上記外筒7の一端面に円周状に配置されるとともに、上記凹部10に挿入されないでレンズ11に当接したときに外筒7の方向に移動可能となっている。したがって、フォーカス調整装置8とレンズバレル1とを連結させるときに、外筒7を回動させる必要がないので、ガイドピン9がレンズ11の表面(外周部分)を滑ることがなく、レンズ11の天面部分にキズをつけることを防止することができる。
【0081】
また、上記フォーカス調整装置8においては、チャート2とレンズバレル1との間に挿入され、チャート2に対するレンズバレル1の位置合わせを行うスペーサーソケット5をさらに備えるため、チャート2とレンズバレル1との位置合わせがより正確に行われ、チャート2とレンズバレル1との相対位置がずれてフォーカス調整に誤差が生じる不都合を防止することもできる。
〔実施の形態2〕
本実施の形態2に係るフォーカス調整装置は、上記実施の形態1に係るフォーカス調整装置に、投影板4の画像を撮像する撮像部材、および、該撮像部材からの画像データと、外部から入力される、フォーカス調整対象であるレンズバレルの情報とに基づいて、予め設定した角度だけ外筒7および内筒6を回動させる回動装置をさらに備えている構成である。
【0082】
〔フォーカス調整装置〕
図5は、本実施の形態2に係るフォーカス調整装置の要部を示すブロック図である。
【0083】
図5に示すように、本実施の形態2に係るフォーカス調整装置には、上記実施の形態1に係るフォーカス調整装置8の構成に加えて、投影板4に投影されるチャート2の画像を撮像するための撮像部材21と、外筒7および内筒6を回動させるための回動装置22とがさらに設けられている。
【0084】
回動装置22は、上記撮像部材21と、フォーカス調整対象であるレンズバレル1の焦点距離に関する情報が記憶されている外部入力装置(記憶装置)23とに接続されている。そして、回動装置22は、内部に演算装置を含む制御部を備えており、外部入力装置23から焦点距離に関する情報(データ)を取得するとともに、撮像部材21からチャート2の画像データを取得し、これらデータに基づいて演算を行い、外筒7および内筒6を回動させる角度を算出して当該外筒7および内筒6を回動させるようになっている。つまり、回動装置22は、内筒6を回動させて投影板4をレンズバレル1の焦点の位置まで移動させるとともに、外筒7をどの程度回動させればチャート2の画像が最も明確になるかを上記データに基づいて演算し、角度を算出して、外筒7をその角度だけ回動させるようになっている。外部入力装置23には、レンズバレル1の焦点距離に関する情報などがデータベースとして予め記憶されている。
【0085】
ここで、「予め記憶されているデータベース」とは、焦点距離のほかに、チャートの画像における明暗の差(コントラスト比)、当該コントラスト比とフォーカスが合うまでの回動角度との関係を予め実験などで確認した結果などを含むデータベースを指す。
【0086】
〔フォーカス調整方法〕
本実施の形態2における(1)レンズバレル設置工程、および、(2)フォーカス調整装置とレンズバレルとの連結工程は、実施の形態1における同工程と同様であるので、その説明を省略する。本実施の形態2においては、(3)フォーカス調整工程が実施の形態1とは異なっている。
【0087】
(3)フォーカス調整工程
まず、外部入力装置23から回動装置22に、フォーカス調整対象であるレンズバレル1の焦点距離を入力する。次いで、回動装置22によって内筒6を回動させて、投影板4をレンズバレル1の焦点の位置まで移動させる。
【0088】
続いて、光源3からチャート2の裏面に光を照射し、チャート2の画像を、レンズバレル1を介して投影板4に投影する。そして、投影板4に投影されたチャート2の画像を、内筒6におけるレンズバレル1の反対側(レンズバレルの側とは逆側であり、実施の形態1におい目視で確認した側)から上記撮像部材21により撮像する。
【0089】
その後、回動装置22は、外部入力装置23から取得した焦点距離に関する情報(データ)と、撮像部材21から取得したチャート2の画像データとに基づいて、外筒7をどの程度回動させればチャート2の画像が最も明確になるかを演算し、角度を算出して、外筒7をその角度だけ回動させる。つまり、回動装置22によって外筒7を回動させる前に、回動させる角度が予め設定されていることになり、回動させる途中で角度を調整する必要がない。したがって、フォーカス調整を目視で確認する必要がなく、自動で行うことができる。
【0090】
〔効果〕
本実施の形態2に係るフォーカス調整装置は、上記実施の形態1に係るフォーカス調整装置に、投影板4の画像を撮像する撮像部材、および、該撮像部材からの画像データと、外部から入力される、フォーカス調整対象であるレンズバレルの情報とに基づいて、予め設定した角度だけ外筒7および内筒6を回動させる回動装置をさらに備えている構成である。
【0091】
したがって、フォーカス調整装置8とレンズバレル1とを連結させた後、フォーカス調整を行うときに、回動装置22で、内筒6を該レンズバレル1の焦点距離に合う位置まで回動させるとともに、予め記憶されているデータベースに基づいて設定した角度だけ外筒7を回動させることができる。つまり、レンズバレル1のフォーカスが合う位置まで外筒7を正確に回動させることができる。それゆえ、フォーカス調整を目視で確認する必要がなく、自動で行うことができ、実施の形態1に比べより容易で正確にフォーカス調整を行うことができる。
【0092】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
撮像装置などの被検体が備えるレンズバレルのフォーカス調整に好適に利用することができる。特に被検体が、デジタルカメラや携帯電話に内蔵されているカメラ、またはスキャナーやデジタルレントゲンなどのカメラである場合に、当該カメラが備えるレンズバレルのフォーカス調整に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 レンズバレル
2 チャート(被写体)
3 光源
4 投影板
5 スペーサーソケット(位置調節部材)
6 内筒
7 外筒
8 フォーカス調整装置
9 ガイドピン(凸部、挿入部材)
10 凹部
11 レンズ
12 外鏡筒
13 回動用つまみ
14 内鏡筒
15 収納部
21 撮像部材
22 回動装置
23 外部入力装置
31 チャート(被写体)
32 フォーカス調整装置
33 凹部
34 受像機
35 撮像素子
36 ガイドピン
37 レンズバレル
38 被検体
39 信号変換装置
41 チャート(被写体)原像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が備えるレンズバレルのフォーカス調整を行うフォーカス調整装置であって、
レンズバレルを回動させるために当該レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な凸部と、
レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板とが設けられていることを特徴とするフォーカス調整装置。
【請求項2】
外筒と、外筒に螺合する内筒とを有し、
上記外筒の一端面に上記凸部が配置されており、
上記内筒に上記投影板が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のフォーカス調整装置。
【請求項3】
上記外筒および内筒が、遮光部材からなることを特徴とする請求項2に記載のフォーカス調整装置。
【請求項4】
上記凸部は、上記外筒の一端面に複数、円周状に配置されるとともに、レンズバレルに設けられた凹部に挿入されないでレンズバレルに当接したときに外筒方向に移動可能となっていることを特徴とする請求項2または3に記載のフォーカス調整装置。
【請求項5】
予め設定した角度だけ上記外筒を回動させる回動装置をさらに備えていることを特徴とする請求項4に記載のフォーカス調整装置。
【請求項6】
被写体とレンズバレルとの間に挿入され、被写体に対するレンズバレルの位置合わせを行う位置調節部材をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフォーカス調整装置。
【請求項7】
被検体が備えるレンズバレルのフォーカス調整を行うフォーカス調整方法であって、
レンズバレルを介して入射する被写体の画像を投影する投影板に投影された画像を目視しながら、レンズバレルに設けられた凹部に挿入可能な挿入部材を用いてレンズバレルを回動させることを特徴とするフォーカス調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−150203(P2011−150203A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12487(P2010−12487)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】