説明

レンズ装置

【課題】 絞り込み撮影時のオートフォーカス制御を切換え可能とし、撮影者の意図に応じた撮影が可能な小型軽量なレンズ装置を得る。
【解決手段】 物体側から順に、フォーカス移動レンズ群1、可動絞り3、分岐光学系4を有し、分岐後の光束を用いて合焦検出手段7により合焦検出し、オートフォーカス制御を行う。閾値F1を越えて可動絞り3を絞る場合は、オートフォーカス制御を停止し、マニュアルフォーカス制御に切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路中に分岐光学系を有し、この分岐光学系による分岐光束を用いてオートフォーカス制御を行うレンズ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチルカメラやビデオカメラ等の撮影装置におけるオートフォーカス技術は、従来から種々提案されている。例えば特許文献1には、特に光路中に分岐光学系を設け、分岐光路中に位相差による合焦状態検出手段を設けたレンズ・撮像装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−274130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スチルカメラでは、絞りを開放した状態でオートフォーカス制御を実施した後に、絞りを絞り込むことにより光量を調節し撮影することが可能である。しかし、放送用・ビデオ用・シネ用等の動画撮影は常に撮影状態にあるため、任意の絞り状態でオートフォーカス制御をする必要がある。
【0005】
動画撮影で絞りの像側に分岐光学系を配置し、分岐後の光束を用いて位相差検出を行う場合に、被写体が明るい等により絞りが閾値よりも絞られると、二次結像レンズの瞳がけられてしまうことになる。その結果、位相差が正確に検出できず、オートフォーカス精度が低下し誤動作する問題がある。
【0006】
また、更に絞りが大きく絞られると、二次結像レンズの瞳が完全にけられてしまい、位相差が検出できず、オートフォーカス制御ができない場合もある。
【0007】
特許文献1の第1実施形態のように、絞りの物体側に分岐光学系を設けると、上述の問題は発生しないが、光学系全体が大型化する問題点がある。
【0008】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、絞り込み撮影時のオートフォーカス制御を切換え可能とし、撮影者の意図に応じた撮影が可能な小型軽量なレンズ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係るレンズ装置の技術的特徴は、物体側から順に、フォーカシング時に移動するフォーカスレンズ群、可動絞り、分岐光学系を備えた結像光学系を有し、前記分岐光学系による分岐光束を用いて合焦検出手段による位相差検出によって合焦検出を行うオートフォーカス制御とマニュアルフォーカス制御とを備えたレンズ装置において、前記フォーカスレンズ群から撮像手段に至る結像光学系のFナンバを閾値を越えて前記可動絞りにより絞る場合は、前記オートフォーカス制御を停止して前記マニュアルフォーカス制御に切換える切換手段を備えたことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るレンズ装置によれば、撮影者の意図に応じた絞り込み撮影時のオートフォーカス制御が可能となると共に、小型軽量化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の構成図である。
【図2】合焦検出手段の光学的構成図である。
【図3】絞りがフォーカス移動レンズ群のFナンバの閾値を越えて絞られた状態の光路図である。
【図4】絞りがフォーカス移動レンズ群のFナンバの閾値を越えて更に絞られた状態の光路図である。
【図5】動作フローチャート図である。
【図6】実施例2の構成図である。
【図7】動作フローチャート図である。
【図8】実施例3の構成図である。
【図9】動作フローチャート図である。
【図10】実施例4の構成図である。
【図11】実施例5の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【0013】
本発明での位相差検出方式とは、分岐光束を結像させるための一次結像レンズと、一次結像レンズの予定結像面近傍に配置されるフィールドレンズと、このフィールドレンズの後方に配置される2次結像光学系とを有する。これにより、結像光学系の瞳の異なった部分を通過する光束に基づいた対の物体像に形成すると共に、物体像のそれぞれを上記2次結像光学系の後方に配置された光電変換素子列で検出する。そして、物体像の相対的なずれ量から結像光学系の焦点状態を判別するようにした焦点検出装置により位相差を検出する方式である。
【0014】
(実施例1)
図1はレンズ装置である実施例1のオートフォーカスズームレンズの構成図を示している。光軸に沿って、フォーカス移動レンズ群1、変倍移動レンズ群2、可動絞り3、分岐光学系4、リレーレンズ群5、撮像手段6が配列されている。変倍移動レンズ群2は変倍用のバリエータ2aと変倍に伴う像面変動を補正用のコンペンセータ2bにより構成されている。分岐光学系4の分岐方向には合焦検出手段7が配置され、合焦検出手段7の出力は演算手段8に接続され、演算手段8には更に変倍移動レンズ群2のズーム検出手段9の出力が接続されている。また、演算手段8からフォーカス駆動手段11、絞り制御手段12にそれぞれ出力が接続され、フォーカス移動レンズ群1、可動絞り3を駆動するようになっている。
【0015】
そして、分岐光学系4により分岐された光束により、合焦検出手段7は合焦検出値を求め、演算手段8により演算を行い、フォーカス駆動手段11を介してフォーカス移動レンズ群1を駆動制御してオートフォーカス制御を行っている。
【0016】
また、光量調節は撮像手段6の輝度信号を基に、演算手段8により絞り制動手段12を介して可動絞り3を駆動することにより行われる。
【0017】
図2は合焦検出手段7の光学的構成図を示し、可動絞り3を介した分岐光学系4の分岐方向の光軸上には、一次結像レンズ7a、視野絞り7b、フィールドレンズ7c、2つの開口部を有する絞り7dが配列されている。絞り7dの2つの開口部のそれぞれの出射方向に、一対の二次結像レンズ7e、7e’を介して、一対の受光素子列7f、7f’が配置されている。視野絞り7b、フィールドレンズ7cは、一次結合レンズ7aの予定結像面の近傍に配置されている。
【0018】
なお、フィールドレンズ7cは絞り7d、2次結像レンズ7e、7e’を介した一次結像レンズ7aの光軸を中心とし対称に配置された2つの領域に結像する作用を有している。そして、各領域を透過した光束が受光素子列7f、7f’上にそれぞれ光量分布を形成し、受光素子列7f、7f’の出力は演算手段8に送られる。
【0019】
図2に示す合焦検出手段7では、一次結像レンズ7aによる結像点が予定結像面の前側にある場合は、2つの受光素子列7f、7f’上にそれぞれ形成される物体像に関する光量分布が互いに近付いた状態となる。また、一次結像レンズ7aの結像点が予定結像面の後側にある場合は、2つの受光素子列7f、7f’上にそれぞれ形成される光量分布が互いに離れた状態となる。
【0020】
2つの受光素子列7f、7f’上にそれぞれ形成された光量分布のずれ量は、一次結像レンズ7aの焦点外れ量と或る関数関係にある。このずれ量を演算手段8により算出すると、一次結像レンズ7aの焦点外れ、即ち結像光学系の焦点外れの方向と量とを検出することができる。
【0021】
なお、可動絞り3上の2つの領域を包含する最小の絞り径に対応するフォーカス移動レンズ群1から撮像手段6に至る光学系のFナンバを閾値F1とする。なお、Fナンバはこの光学系の焦点距離をf、入射瞳直径をDとしたとき、f/Dで表される。また、2対以上の二次結像レンズを有する合焦検出手段7の場合に、閾値F1は最も基線長の短い二次結像レンズ7e、7e’に対応する可動絞り3上の2つの領域に基づいて算出される。
【0022】
図3に示すように、可動絞り3がFナンバの閾値F1を越えて絞られると、絞り7dを通る光束にけられが生ずる。そのため、2つの受光素子列7f、7f’上にそれぞれ形成される光量分布の重心がずれてしまい、光量分布のずれ量が正確に測定できない。また、光量が低下して蓄積時間が増大したり、S/Nが低下することにより、正確な合焦状態の検出ができなくなる。
【0023】
更に、可動絞り3が図4に示すように絞られると、2つの受光素子列7f、7f’上に光束が到達しなくなり、合焦検出が不可能となる。
【0024】
そこで本実施例では、図5に示すフローチャート図に基づいて、可動絞り3の調整及びオートフォーカス制御を行う。可動絞り3によるFナンバが閾値であるF1=(F/8)を越えて絞られ、Fナンバの数値が大きくなった場合はオートフォーカス制御を停止し、マニュアルフォーカスに切換えて、マニュアルフォーカスに移行した警告を表示する。また、Fナンバが閾値F1よりも小さければ、オートフォーカス制御を継続又はオートフォーカス制御に復帰する。
【0025】
映像の解像力を低下させないためには、エアリーディスク径が撮像手段6の画素ピッチを越えない範囲で、Fナンバの閾値F1を制御することが好ましく、その範囲でのオートフォーカス制御を保証することが望ましい。従って、閾値F1は撮像手段6が感度を有する波長域の中心波長をλ、撮像手段6の画素ピッチをPとしたとき、次式を満たすことが望ましい。
1.22・λ・F1/P>1 …(1)
【0026】
本実施例では、撮像手段6として例えば2/3型CCDを使用しており、画面寸法は水平9.6mm、垂直5.4mm、画素数は水平1920、垂直1080、画素ピッチPは0.005mmである。また、使用波長域は400〜700nmで、中心波長λは550nm(=5.5・10−4mm)である。従って、(1)式の左辺は次式の数値となり、(1)式の条件を満たしていることが分かる。
1.22・5.5・10−4・8/0.005=1.0736 …(2)
【0027】
(実施例2)
図6は実施例2のオートフォーカスズームレンズの構成図である。図1に示す実施例1に対して、NDフィルタを内蔵した第2の光量調節手段21が分岐光学系4とリレーレンズ群5との間の光軸上に挿入され、演算手段8の指令によりNDフィルタが駆動手段22を介して挿脱自在とされている。第2の光量調節手段21中のNDフィルタは撮像手段6に対する光量を1/4に減少させる効果を有し、絞り2段分に相当し、NDフィルタを挿入した状態のFナンバF2は、次式に設定されている。
F2=F1/2 …(3)
【0028】
本実施例2では、2つの光量調節モードを有している。第1の光量調節モードにおいては実施例1と同様に、図5に示す動作フローチャート図に基づいて、Fナンバに応じてオートフォーカスとマニュアルフォーカスを切換える。
【0029】
また、第2の光量調節モードでは、図7に示すフローチャート図に基づいて可動絞り3の制御を行い、Fナンバが閾値F1を越えないようにすると共に、第2の光量調節手段21を光路中に挿入し、オートフォーカス制御を継続する。また、FナンバがF2以下となった場合には、自動的に第2の光量調節手段21を光路から外すようにしている。
【0030】
(実施例3)
図8は実施例3のオートフォーカスズームレンズの構成図を示している。本実施例3では、図6の実施例2に対し、第2の光量調節手段23は駆動手段24により光量調節を無段階に可変可能としている。
【0031】
本実施例3においても、2つの光量調節モードを有しており、第1の光量調節モードでは実施例1と同様に、図5に示す動作フローチャート図に従って、Fナンバに応じてオートフォーカスとマニュアルフォーカスを切換える。
【0032】
第2の光量調節モードでは、図9に示すフローチャート図に基づいて可動絞り3の制御を行う。即ち、被写体の光量が増大してFナンバが閾値F1に達すると、可動絞り3を閾値F1に保持したまま、光量調節を第2の光量調節手段23により行うように切換えて、オートフォーカス制御を継続する。また、第2の光量調節手段23による光量調節量がゼロとなった場合に、可動絞り3による光量調節に復帰する。
【0033】
(実施例4)
図10は実施例4のオートフォーカスズームレンズを有する撮像装置の構成図を示し、図1の実施例1のオートフォーカスズームレンズ30に対し、カメラ装置である撮像部40が接続されている。
【0034】
なお、撮像手段6は撮像部40内に配置され、撮像手段6の前にNDフィルタを内蔵した第2の光量調節手段25が配置され、この第2の光量調節手段25は、駆動手段26により挿脱の制御を行うようにされている。また、撮像手段6の輝度信号は光量調整を行う第2の演算手段27を介して、演算手段8に接続されている。第2の光量調節手段25は光量を1/4に減少させる効果を有し、絞り2段分に相当し、FナンバはF2=F1/2に設定されている。
【0035】
本実施例4では2つの光量調節モードを有しており、第1の光量調節モードでは実施例1と同様に、図5に示す動作フローチャート図により、可動絞り3のFナンバに応じてオートフォーカスとマニュアルフォーカスを切換える。第2の光量調節モードでは、図7に示すフローチャート図により可動絞り3の制御を行い、Fナンバが閾値F1を越えないようにすると共に、光路に第2の光量調節手段25を挿入し、撮像手段6の出力を基に第2の演算手段27により光量調節を行う。また、FナンバがF2よりも小さくなると、自動的に第2の光量調節手段25を光路から外す。
【0036】
(実施例5)
図11は実施例5のオートフォーカスズームレンズを有する撮像装置の構成図である。本実施例5では、第2の光量調節手段28はシャッタ調整絞りを内蔵しており、駆動手段29により無段階に光量調節が可能とされている。
【0037】
本実施例5では、2つの光量調節モードを有しており、第1の光量調節モードでは実施例1と同様に、図5に示すフローチャート図に従って、可動絞り3のFナンバに応じてオートフォーカスとマニュアルフォーカスを切換える。
【0038】
第2の光量調節モードでは、図9に示すフローチャート図により可動絞り3の制御を行い被写体の光量が増大してFナンバが閾値F1に達すると、可動絞り3によるFナンバを閾値F1に保持する。光量調節はシャッタ速度を調節することにより、光量を制御する第2の光量調節手段28のシャッタ速度を駆動手段29により制御することにより、第2の演算手段27を用いて光量調整を行う。また、第2の光量調節手段28による光量調節量がゼロとなると、可動絞り3による光量調節に復帰する。
【0039】
なお本実施例5では、第2の光量調節手段23にシャッタ調整絞りを用いているが、可変NDフィルタやカメラゲイン等を用いても同様の効果が得られる。
【0040】
以上の説明では、本発明の好ましい実施例について述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは云うまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 フォーカス移動レンズ群
2 変倍移動レンズ群
3 可動絞り
4 分岐光学系
5 リレーレンズ群
6 撮像手段
7 合焦検出手段
7a 一次結像レンズ
7b 視野絞り
7c フィールドレンズ
7d 絞り
7e、7e’ 二次結像レンズ
7f、7f’ 受光素子列
8 演算手段
9 ズーム検出手段
11 フォーカス駆動手段
12 絞り制御手段
21、23、25、28 第2の光量調節手段
27 第2の演算手段
30 オートフォーカスズームレンズ
40 撮像部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、フォーカシング時に移動するフォーカスレンズ群、可動絞り、分岐光学系を備えた結像光学系を有し、前記分岐光学系による分岐光束を用いて合焦検出手段による位相差検出によって合焦検出を行うオートフォーカス制御とマニュアルフォーカス制御とを備えたレンズ装置において、前記フォーカスレンズ群から撮像手段に至る結像光学系のFナンバを閾値を越えて前記可動絞りにより絞る場合は、前記オートフォーカス制御を停止して前記マニュアルフォーカス制御に切換える切換手段を備えたことを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記可動絞りの物体側に、変倍時に移動する変倍レンズ群を備えた変倍光学系を有することを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記変倍光学系は、物体側から順に変倍用のレンズ群と、変倍に伴う像点補正用のレンズ群とにより構成することを特徴とする請求項2に記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記オートフォーカス制御を停止する場合には警告表示を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載のレンズ装置。
【請求項5】
第1、第2の光量調節モードを有し、前記第1の光量調節モードは前記可動絞りによる調節のみで光量調節を行い、前記第2の光量調節モードは前記Fナンバの閾値よりも更に光量の抑制が必要な場合に、前記可動絞りによるFナンバを前記閾値以下に保持し、前記可動絞りとは別個の第2光量調節手段により光量調節を行い、前記オートフォーカス制御を継続することを特徴とする請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記第2の光量調節手段は光量調節量を連続的に可変とし、前記第2の光量調節手段による光量調節中は前記可動絞りによる前記Fナンバを前記閾値に保持することを特徴とする請求項5に記載のオレンズ装置。
【請求項7】
前記第2の光量調節手段は光量調節量を段階的に可変とした請求項5に記載のレンズ装置。
【請求項8】
前記第2の光量調節手段は前記結像光学系に内蔵したことを特徴とする請求項5〜7の何れか1つの請求項に記載のレンズ装置。
【請求項9】
請求項1〜8に記載のレンズ装置と、該レンズ装置に装着され、前記撮像手段を有するカメラ装置とを備えたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−191779(P2011−191779A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109764(P2011−109764)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【分割の表示】特願2006−94122(P2006−94122)の分割
【原出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】