説明

レンズ鏡筒及びそれを有する光学機器

【課題】 構成部品点数が少なく、少ない消費電力で振れ補正装置の重力に対する影響を軽減することができるレンズ鏡筒を得ること。
【解決手段】 固定部に対して光軸直交方向に移動して像の振れを補正する振れ補正手段と、固定部に対して光軸と直交する第1の方向に移動可能に支持され、かつ、振れ補正手段を第2の方向に移動可能に支持する案内手段と、固定部に回動可能に支持され、振れ補正手段のロック状態とアンロック状態、そして振れ補正手段の移動範囲を規制するロックリングと、ロックリングを駆動するためのマグネットとコイルと、を有し、案内手段は、マグネットとの間に磁気吸引力を発生させる部材を含みその一部がマグネットと対向し、光学機器が正位置の状態において磁気吸引力によって重力方向に対して逆方向に付勢されることで、振れ補正手段を重力方向に対して逆方向に付勢すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手振れなどの振動により発生する像振れを補正する像振れ補正装置を有するレンズ鏡筒に関する。特に光学系の一部を光軸方向に対して垂直方向に駆動して像振れを補正するビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、TVカメラ、望遠鏡、双眼鏡等の光学機器に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
カメラが振動したときの振れを振れ検知手段で検出し、その結果に応じて像振れ補正レンズ(補正光学系)を光軸と垂直する方向に移動させて像振れを補正する像振れ補正装置をレンズ鏡筒内に有したカメラが知られている。像振れ補正装置においては、振れ検知手段からの信号がない基準状態のときには補正光学系を空間的に基準位置に支持しなければならない。このとき補正光学系を重力に打ち勝って空間的に保持するには例えば補正光学系の駆動手段であるコイルに駆動電流を流し続けなければならない。この方法は消費電力が増加する傾向があった。これに対して基準状態における消費電力を軽減するようにした防振装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1の防振装置では、カメラの振れを検出する位置検出手段からの出力を調整する調整手段および像ぶれ補正レンズを保持した補正光学手段を重力に抗して支持する弾性部材を設けている。そして補正光学手段に加わる重力の影響を軽減し、駆動電力を不要とする構成の防振装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−281990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された防振装置では、振れ補正装置に加えて調整手段や弾性部材等を新たに設けていた。このため消費電力を軽減することができるが、部品点数が増加し、装置が複雑化する傾向があった。
【0006】
本発明は、構成部品点数が少なく、少ない消費電力で振れ補正装置の重力に対する影響を軽減することができるレンズ鏡筒及びそれを有する光学機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレンズ鏡筒は、光学機器に用いられるレンズ鏡筒であって、固定部と、前記固定部に対して光軸直交方向に移動して像の振れを補正する振れ補正手段と、前記固定部に対して光軸と直交する第1の方向に移動可能に支持され、かつ、前記振れ補正手段を光軸と直交し前記第1の方向とは異なる第2の方向に移動可能に支持する案内手段と、前記固定部に回動可能に支持され、前記振れ補正手段のロック状態とアンロック状態を規制するとともに前記振れ補正手段の移動範囲を規制する機能を有するロックリングと、前記ロックリングを駆動するためのマグネットとコイルと、を有し、前記案内手段は、前記マグネットとの間に磁気吸引力を発生させる部材を含み光軸方向において少なくともその一部が前記マグネットと対向し、前記光学機器が正位置の状態において前記磁気吸引力によって重力方向に対して逆方向に付勢されることで、前記振れ補正手段を前記重力方向に対して逆方向に付勢することを特徴としている。
【0008】
この他、本発明のレンズ鏡筒は、光学機器に用いられるレンズ鏡筒であって、固定部と、前記固定部に対して光軸直交方向に移動して像の振れを補正する振れ補正手段と、前記固定部に対して光軸と直交する第1の方向に移動可能に支持され、かつ、前記振れ補正手段を光軸と直交し前記第1の方向とは異なる第2の方向に移動可能に支持する案内手段と、前記振れ補正手段を駆動するためのマグネットとコイルと、を有し、前記案内手段は、前記マグネットとの間に磁気吸引力を発生させる部材を含み光軸方向において少なくともその一部が前記マグネットと対向し、前記光学機器が正位置の状態において前記磁気吸引力によって重力方向に対して逆方向に付勢されることで、前記振れ補正手段を前記重力方向に対して逆方向に付勢することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構成部品点数が少なく、少ない消費電力で振れ補正装置の重力に対する影響を軽減することができるレンズ鏡筒が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】光学機器(撮像装置)10の斜視図
【図2】振れ補正装置100の分解斜視図(正面側)
【図3】振れ補正装置100の分解斜視図(背面側)
【図4】振れ補正装置100の正面図および断面図
【図5】振れ補正装置100の側面図および断面図
【図6】振れ補正装置100の背面図
【図7】振れ補正装置100の正面図および断面図
【図8】実施例1のシフト時の付勢力を示す説明図
【図9】可動部(地板)にはたらく力を示す説明図
【図10】撮像装置10の姿勢を示す説明図
【図11】正位置姿勢におけるコイル電流と消費電力を示す説明図
【図12】グリップ下姿勢におけるコイル電流と消費電力を示す説明図
【図13】グリップ上姿勢におけるコイル電流と消費電力を示す説明図
【図14】実施例2に係る付勢力を示す説明図るための形態
【図15】実施例3に係る付勢力を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。本発明のレンズ鏡筒30は光学機器に用いられるレンズ鏡筒である。光学機器はレンズ鏡筒30内の撮影光学系によって形成された像を受光する撮像素子を有する。レンズ鏡筒30に固定される固定部(地板)101と、固定部101に対して光軸直交方向に移動して像の振れを補正する振れ補正手段を有する。振れ補正手段は像振れ補正用の補正レンズ(補正光学系)33と光軸に対し直交方向に移動する補正レンズ33を保持するシフト鏡筒102を有する。
【0012】
固定部101に対して光軸と直交する第1の方向(Y方向)に移動可能に支持され、かつ、振れ補正手段を光軸と直交し第1の方向とは異なる第2の方向(X方向)に移動可能に支持する案内手段(第1の板金)を有する。案内手段は、マグネットとの間に磁気吸引力を発生させる部材を含み光軸方向において少なくともその一部がマグネットと対向し、光学機器が正位置の状態において磁気吸引力によって重力方向に対して逆方向に付勢される。これにより、振れ補正手段を前記重力方向に対して逆方向に付勢する。
【0013】
また固定部101に回動可能に支持され、振れ補正手段のロック状態とアンロック状態を規制するとともに移動範囲を規制する機能を有するロックリング(係止手段)129を有する。固定部101に固定したロックマグネット(付勢手段)(マグネット)131と、ロックマグネット131の磁気力を利用してロックリング129を駆動するロックリング129に固着したロックコイル(係止駆動手段)130とを有する。光学機器が正位置においてロックマグネット131は案内手段110との間に生ずる磁気力によって案内手段を重力を打ち消す方向(逆方向側)に付勢する。即ち案内手段110を持ち上げるようにしている。
【0014】
この他、案内手段110を重力を打ち消す方向に付勢する付勢手段としてロックリング129を駆動するロックマグネット131の代わりにシフト鏡筒102を駆動させる駆動マグネット(マグネット)105、106を用いても良い。
【0015】
即ち本発明のレンズ鏡筒では、振れ補正手段(33、102)を磁気力で駆動するための固定部(地板)101に設けた第1のマグネット群(駆動マグネット)105を有する。更に固定部(地板)101に固定した第2のヨーク108に設けた第2のマグネット群(駆動マグネット)106を有する。更にシフト鏡筒102に固着したコイル(駆動手段)103、104を含む駆動装置を有する。光学機器が正位置において駆動マグネット105、106は案内手段110との間に生ずる磁気力によって案内手段110を動力を打ち消す方向に付勢する。
【0016】
また本発明のレンズ鏡筒によって形成された像を受光する撮像素子を有する光学機器においてレンズ鏡筒(撮像光学系)の光軸が水平方向であって撮像手段の姿勢を正位置とする。ここで正位置とは、例えば撮像手段の撮像面の長辺が水平方向と一致する姿勢のときや、光学機器を保持するグリップが撮像素子の水平方向に位置する姿勢等とする。このとき、案内手段は少なくとも重力方向に移動可能であって、マグネットによる案内手段への付勢方向が重力を打ち消す方向(逆方向側)である。
【0017】
[実施例1]
本発明の実施例1の振れ補正装置を有するレンズ鏡筒30を用いた撮像装置(光学機器)10について説明する。
【0018】
図1は撮像装置10の要部斜視図である。図1において、20はカメラ(カメラ本体)である。30はカメラ20に対して着脱が可能なレンズ鏡筒である。レンズ鏡筒30の一部は説明のため断面としてある。これらカメラ20とレンズ鏡筒30とによって撮像装置10が構成される。21は撮像素子であり、被写体からの光束は、レンズ鏡筒30内の撮像光学系によってカメラ20内の撮像素子21に結像される。撮像素子21の撮像面は長辺と短辺を有する長方形からなる。22はグリップであり、撮像装置10を安定して固定するために使用者が保持しやすい形状に形成されている。
【0019】
23はファインダーであり、使用者が撮影する被写体の構図を決定するために被写体を表示することが可能である。24は三脚穴であり、撮像装置10を安定して固定するために三脚に固定することが可能である。25は像反転用のペンタ部であり、ペンタプリズムまたはペンタミラーおよびフラッシュが納められている。31,32は振れ検出センサであり、撮像装置10に与えられた振れを検出する。
【0020】
振れ検出センサ31は縦振れ(ピッチ振れ)を検出し、振れ検出センサ32は横振れ(ヨー振れ)を検出する。33は振れ補正手段の一部を構成する補正レンズ(像振れ補正レンズ)であり、撮像光学系の光軸Zに垂直な方向に変位して光軸を偏心させることが可能である。100は振れ補正装置(像振れ補正装置)であり、光軸Zに垂直なX方向およびY方向に補正レンズ33を保持したシフト鏡筒を変位させることが可能である。34,35は位置センサであり、補正レンズ33の光軸Zに垂直方向の変位を検出する。位置センサ34はX方向に対応する変位を検出し、位置センサ35はY方向に対応する変位を検出する。
【0021】
不図示の振れ補正回路によって、振れ検出センサ31,32の出力と位置センサ34,35の出力をもとに補正レンズ33の光軸と垂直な方向の位置を閉ループ制御している。位置センサ34,35の出力が基準となる値に近づく方向に制御すると、補正レンズ33はほぼ光軸Z中心の位置で安定する。この状態で、例えば振れ検出センサ31,32の出力に対し所定のゲインを与えた値を目標値として入力値に加算することで、撮像装置10の振れに応じて補正レンズ33が光軸と垂直な方向に変位し、振れ補正制御が可能となる。
【0022】
以下、図2〜図6を用いて振れ補正装置100について説明する。以下の説明では、特に断りが無い限り、撮像装置10の姿勢を正位置にした場合について述べる。ここでいう正位置とは、レンズ鏡筒30内の撮像光学系の光軸Zが水平であって、以下のいずれかを満たす姿勢を指している。
【0023】
・撮像素子21の撮像面の長辺が水平方向と一致する姿勢
・グリップ22が撮像素子21の水平方向に位置する姿勢
・ファインダー23が撮像素子21の上側に位置する姿勢
・三脚穴24が撮像素子21の下側に位置する姿勢
・ペンタ部25が撮像素子21の上側に位置する姿勢
図中のX方向とY方向は、いずれも光軸Zに直交する方向であり、互いに直交している。また、X方向は振れ検出センサ32が検出する横振れ(ヨー振れ)の方向と対応しており、Y方向は振れ検出センサ31が検出する縦振れ(ピッチ振れ)の方向と対応している。また、位置センサ34は後述するPSD125と、位置センサ35は後述するPSD124と対応している。特に記載がない場合は、補正レンズ33(不図示)およびシフト鏡筒102が基準位置に位置しているとする。
【0024】
101はポリカーボネート樹脂などにより形成される地板(固定部)であり、不図示のコロ37a,37b,37cを介してレンズ鏡筒30に対して固定されている。地板101は、開口部101a,ロックヨーク固定部101b,壁部101c,ゴム固定部101dを有している。壁部101cは光軸方向に延出した円筒形状より成り、ボール111cの光軸直交面内の移動を規制し、ボール111cが脱落するのを防いでいる。
【0025】
不図示のコロ37a,37b,37cは、中心軸方向を光軸と直交させて、光軸を中心とした周方向に等分に120°間隔で配置されている。また、3つのコロ37a,37b,37cのうち2つあるいは3つは、レンズ鏡筒30側の嵌合中心と振れ補正装置100側の嵌合中心を偏心させて構成しているので、回転させることで振れ補正装置100の光軸に対する傾きを調整することが可能である。
【0026】
102はポリカーボネート樹脂などにより形成されるシフト鏡筒であり、外周部102a,開口部102b,サブプレート固定部102c,ピッチスリット102d、ヨースリット102e、ロック突起102f、シート貼付部102g(図4(b))を有している。補正レンズ33(図1)は開口部102bに挿入され、シフト鏡筒102と一体に固定され振れ補正手段を構成している。サブプレート固定部102cは光軸方向に延出した円筒形状より成り、ボール116cの光軸直交面内の移動を規制し、ボール116cが脱落するのを防いでいる。
【0027】
図5(b)の断面図を用いてシフト鏡筒102の光軸Zと垂直方向の駆動範囲について説明する。シフト鏡筒102の外周部102aと地板101の開口部101aは、光軸直交方向に所定の距離D1を持つように構成されている。すなわち、シフト鏡筒102の外周部102aの円状の部分A1〜A6は、それぞれ地板101の開口部101aの円状の部分B1〜B6と距離D1を持って対向している。シフト鏡筒102の外周部102aのストレート部A11、A12は、それぞれ地板101の開口部101aのストレート部B11、B12と距離D1を持って対向している。
【0028】
さらに、シフト鏡筒102の4ヶ所のロック突起102fの外周A7〜A10は、それぞれ地板101の開口部101aの内周B7〜B10と距離D1より大きい距離D1’を持って対向している。即ち、
D1<D1’
である。
【0029】
したがって、シフト鏡筒102が光軸直交面内を基準位置からD1だけ移動したときに、シフト鏡筒102の外周部102aの外周(A1〜A6)と地板101の開口部101aの内周(B1〜B6)が当接する。その結果、シフト鏡筒102の光軸直交面内の移動可能範囲は基準位置から距離D1に規制される。
【0030】
本実施例では、シフト鏡筒102の基準位置を補正レンズ33の光軸中心と一致する位置としているが、シフト鏡筒102の基準位置において補正レンズ33の光軸中心に対して偏心するように構成しても構わない。
【0031】
本実施例ではシフト鏡筒102の移動範囲をシフト鏡筒102の外周部102aの外周(A1〜A6)と開口部101aの内周(B1〜B6)が当接することで制限しているが、例えば制御上の移動可能範囲を設定するなど、他の方法で制限しても構わない。
【0032】
図2、図3に戻り103,104はコイル(駆動手段)であり、シフト鏡筒102に対してUV接着剤などで固着されている。103はヨー方向のコイル、104はピッチ方向のコイルである。105a〜105d,106a〜106dはネオジウムマグネットなどからなるマグネット(駆動マグネット)である。マグネット105a〜105dを第1のマグネット群105、マグネット106a〜106dを第2のマグネット群106とする。それぞれ図の通りに光軸方向にN極とS極が向くように配置されている。第1のマグネット群105は地板101に設けられている。第2のマグネット群106は第2のヨーク108に設けられている。
【0033】
107は磁性体からなる第1のヨークであり、位置決めピンとビスによって地板101に対する相対的な位置決めがなされた状態で、地板101に固定されている。また、第1のマグネット群(駆動マグネット)105(105a〜105d)が磁気的に吸着され固定されている。また、図中Y方向に延びた溝部107a,107b、光軸方向に直交した平面からなるボール転動部107cを有している。
【0034】
108は磁性体からなる第2のヨークであり、シフト基板126とともに、位置決めピンとビスによって地板101に対する相対的な位置決めがなされた状態で、地板101に固定されている。また、第2のヨーク108に第2のマグネット群(駆動マグネット)106が磁気的に吸着され固定されている。
【0035】
図4(b)の断面図を用いてシフト鏡筒102の駆動原理について説明する。マグネット(駆動マグネット)105a〜105d,106a〜106dは光軸方向にN極とS極に着磁されている。マグネット105c,105d、マグネット106c,106d、第1のヨーク107、第2のヨーク108によって図中の点線矢印で示した磁路が形成されている。ピッチコイル(駆動手段)104の一方の面は、光軸方向に所定の間隔を有してマグネット105c,105dに対向するように配置されている。また、ピッチコイル104の他方の面は、光軸方向に所定の間隔を有してマグネット106c,106dに対向するように配置されている。
【0036】
ピッチコイル104へ通電すると、マグネット105c,105d,106c,106dとの間にはたらく電磁力によりピッチコイル104にY方向の力が発生し、シフト鏡筒102がY方向に駆動される。ピッチコイル104への通電方向によってシフト鏡筒102の駆動方向は逆転する。振れ補正回路は、ピッチコイル104に流す電流を制御することにより、シフト鏡筒102と一体に固定された補正レンズ33をY方向に自在に駆動させ、振れ補正制御を行っている。ヨーコイル103への通電によるX方向の駆動についてもピッチコイル104と同様である。
【0037】
このようにシフト鏡筒102は第1の板金110に対してシフト駆動手段(コイル103、104、マグネット105、106、第1、第2のヨーク107、108)により駆動される。
【0038】
図2、図3に戻り、109a、109bは、遮光性を有するとともに、可撓性あるいは弾性を有するゴムシートなどからなる遮光シートであり、片面に接着剤が塗布されている。遮光シート109は、一端をコイル103,104の外周部に当接させた状態で、シフト鏡筒102のシート貼付部102gに貼り付けられている。また、遮光シート109の光軸方向の長さはコイル103,104の光軸方向の厚さをはみ出ない範囲で固定されている。110は第1の板金(案内手段)であり、図中Y方向に延びた溝部110a,110b、光軸方向に垂直な平面部110c、図中X方向に延びた溝部110d,110e、図中Y方向に延びた長穴110f,110gを有している。
【0039】
111a〜111cは非磁性材料からなるボールである。ボール111a〜cをまとめて第1のボール群111とする。ボール111aは第1のヨーク107の溝部107aと第1の板金110の溝部110aに挟まれており、ボール111bは第1のヨーク107の溝部107bと第1の板金110の溝部110bに挟まれている。また、ボール111cは第1のロックヨーク132の平面部132aと第1の板金110の平面部110cに挟まれている。
【0040】
第1の板金110は、後述するスラストばね117a〜117cによって光軸方向に地板101に向かって付勢される。第1の板金110は、第1のボール群111a〜111cの3箇所で、第1のヨーク107と第1のロックヨーク132を介して、地板101に対して光軸方向に支持される。さらに、第1の板金110は、ボール111aは第1のヨーク107の溝部107aと第1の板金110の溝部110aに沿って図中Y方向にのみ転動可能である。
【0041】
また、ボール111bは第1のヨーク107の溝部107bと第1の板金110の溝部110bに沿って図中Y方向にのみ転動可能である。したがって、第1の板金110は、ボール111aと溝部107aと溝部110a、および、ボール111bと溝部107bと溝部110bにガイドされ、光軸直交面内で地板101に対してY方向(第1の方向)にのみ移動可能に地板101に支持されることになる。第1の板金110は地板101に対し、駆動手段(第1のマグネット105とシフト鏡筒102に設けたコイル103)によってY方向に駆動制御される。
【0042】
112,113は非磁性体からなるストッパーである。ストッパー112,113は、第1の板金110の長穴110f,110gに挿入され地板101に圧入または接着などにより固定されている。第1の板金110の光軸方向変位を規制し、第1のボール群111が脱落するのを防いでいる。114はサブプレートであり、シフト鏡筒102のサブプレート固定部102cに固着または圧入され、光軸方向に垂直な面に対して水平に固定されている。115は第2の板金であり、図中X方向に延びた溝部115a,115bを有している。第2の板金115は、ビスなどによってシフト鏡筒102に固定されている。
【0043】
116a〜116cは非磁性材料からなるボールである。ボール116a〜116cをまとめて第2のボール群116とする。ボール116aは第1の板金110の溝部110dと第2の板金115の溝部115aに挟まれており、ボール116bは第1の板金110の溝部110eと第2の板金115の溝部115bに挟まれている。また、ボール116cは第1のヨーク107の平面部107cとサブプレート114に挟まれている。
【0044】
シフト鏡筒102およびシフト鏡筒102に固定した第2の板金115は、後述するスラストばね117a〜117cによって光軸方向に地板101に向かって付勢される。このため第2のボール116a〜116cの3箇所で、地板101および第1の板金110に対して光軸方向に支持される。
【0045】
さらに、ボール116aは第1の板金110の溝部110dと第2の板金115の溝部115aに沿って図中X方向(第2の方向)にのみ転動可能である。また、ボール116bは第1の板金110の溝部110eと第2の板金115の溝部115bに沿って図中X方向にのみ転動可能である。したがって、シフト鏡筒102は、ボール116aと溝部110dと溝部115a、および、ボール116bと溝部110eと溝部115bにガイドされ、光軸直交面内で第1の板金(案内手段)110に対してX方向にのみ移動可能に支持されることになる。
【0046】
前述したように、第1の板金110は、光軸方向と直交する方向においては、地板101に対してY方向にのみ移動可能である。また、シフト鏡筒102は、第1の板金110に対してX方向にのみ移動可能である。そのため、シフト鏡筒102は、光軸方向と直交する方向においては、地板101に対してX方向およびY方向にのみ移動可能に支持され、回転方向の移動は規制される。
【0047】
117a〜117cは地板101とシフト鏡筒102との間にかけられたスラストばねである。スラストばね117a〜117cは周方向に均等に配置され、第1のボール群111と第2のボール群116とを介して、シフト鏡筒102,第2の板金115,第1の板金110を、光軸方向に地板101側に向かって付勢している。121a〜121dは第1のヨーク107と第2のヨーク108の間に挟まれて固定されている金属製の支柱である。第1のマグネット群105と第2のマグネット群106との間の吸着力を支えることにより、各部材が変形するのを防ぐことが可能である。
【0048】
122,123は赤外発光ダイオード(IRED)であり、シフト鏡筒102に固定されている。シフト鏡筒102に設けられたピッチスリット102d、ヨースリット102eを通してIRED122,123から赤外線が射出される。122がピッチIRED,123がヨーIREDである。
【0049】
124,125は半導体位置検出素子(PSD)であり、IRED122,123から放射される光を検知してシフト鏡筒102の位置検出を行う。124はピッチPSDであり、ピッチ用のIRED122からの光を検知してシフト鏡筒102のY方向の位置検出を行う。125はヨーPSDであり、ヨー用のIRED123からの光を検知してシフト鏡筒102のX方向の位置検出を行う。
【0050】
126はシフト基板であり、PSD124,125が実装されている。シフト基板126はビスによって地板101に固定されている。不図示のフレキシブル基板によって、シフト基板126からコイル103,104、IRED122,123、ロックコイル130等に電力を伝達するとともに、PSD124,125、フォトインタラプタ135からシフト基板126へ検知信号を伝達している。
【0051】
129はロックリング(係止手段)であり、地板101に対していわゆるバヨネット方式で組みつけられている。ロックリング129は地板101の内周に嵌合しており、地板101に対して光軸を中心に回転可能に支持されている。ロックリング129は図6に示すように遮光部129a、ロック部129b、アンロック部129c、ストッパー当接部129d,129e、スライダ当接部129fを有している。ロックリング129の回動により振れ補正装置100のロック状態とアンロック状態に切り換えている。
【0052】
130はロックコイル(係止駆動手段)であり、ロックリング129に対してUV接着剤などで固着されている。131は地板101に固定されたネオジウムマグネットなどからなるロックマグネット(係止マグネット)(付勢手段)であり、ロックマグネット131a〜131dからなる。それぞれ図の通りに光軸方向にN極とS極が向くように配置されている。132は磁性体からなる第1のロックヨークであり、ビスによって地板101に固定されている。また、ロックマグネット105a,105bが磁気的に吸着され固定されている。また、光軸方向に直交した平面部132aを有している。
【0053】
133は磁性体からなる第2のロックヨークであり、ビスによって地板101に固定されている。また、ロックマグネット105c,105dが磁気的に吸着され固定されている。134はゴムなどの弾性体からなるストッパーゴムであり、地板101のゴム固定部101dに挿入されるとともに、第1のヨーク107と第2のロックヨーク133に狭持されて固定されている。135はギャップ間の光の透過を検知するフォトインタラプタであり、ビスによって地板101に固定されている。フォトインタラプタ135のギャップをロックリング129の遮光部129aが通ることでロックリング129の回転を検知することが可能である。
【0054】
136(136a〜136c)はPOMなどの摺動性の高い樹脂材料からなるスライダであり、光軸に対して放射状で、かつ、周方向に均等になるように配置されている。スライダー136は地板101に対して光軸中心に向かう方向に移動可能に支持されているとともに、ロックリング129のスライダ当接部129fに当接するように保持されている。137はスライダばねであり、スライダ136を光軸中心方向に付勢している。
【0055】
図6を用いて振れ補正装置100のロック状態とアンロック状態について説明する。なお、図6では、説明のため、第2のロックヨーク、ロックマグネット105c,105dを不図示としている。図6(a)は振れ補正装置100のロック状態を示した背面図である。ロック状態では、ロックリング129のストッパー当接部129dが地板101のゴム固定部101dに挿入されたストッパーゴム134に当接している。このとき、シフト鏡筒102に設けた4ヶ所のロック突起102fとロックリング129に設けた4ヶ所のロック部129bとがそれぞれ対向し、所定の距離D2を保っている。
【0056】
ロック突起102fの外接円の半径をR1、ロック部129bの半径をR2とすると、前記距離D2はR2−R1と等しく、シフト鏡筒102の光軸直交面内の移動可能範囲D1に対し、以下の式が成り立つ。即ち、
D2=R2−R1
D1>D2
前述したように、シフト鏡筒102の光軸直交方向の移動はX方向およびY方向にのみ移動可能であり、回転方向の移動は規制される。そのため、図6(a)のロック状態ではシフト鏡筒102の光軸直交方向の移動量は基準位置から距離D2の範囲に制限される。距離D2は、ロックリング129の回転を妨げない範囲で、できるだけゼロに近いことが望ましい。
【0057】
ロックリング129に固定したロックコイル130に所定の方向の電圧を印加する。そうすると、ロックコイル130に発生する磁界と地板101に固定されたロックマグネット131の磁界の相互作用により、ロックリング129に光軸を中心とした回転方向の力(図中A方向)が発生する。
【0058】
その結果、ロックリング129は図6(a)に示すようにA方向にストッパー当接部129eがストッパーゴム134に当接するまで回転し、図6(a)に示す振れ補正装置100がアンロック状態となる。回転途中でロックリング129の遮光部129aがフォトインタラプタ135のギャップを通過するため、ロックリング129の回転を検知することができる。
【0059】
なお、ロックリング129の外周部に設けられたスライダ当接部129fには半径方向に突出したなだらかな凸部が形成されている。このため、ロック状態とアンロック状態との途中で地板101に設けたスライダ136(136a〜136c)が凸部(129f)を乗り越えることになる。その際、ロックリング129はスライダばね137の光軸中心方向の付勢力による回転負荷に打ち勝って回転しなければならず、ロック状態とアンロック状態が例えば衝撃などで容易に切り換わることを防ぐことができる。
【0060】
図6(b)は振れ補正装置100のアンロック状態を示した背面図である。アンロック状態では、ロックリング129のストッパー当接部129eが地板101のゴム固定部101dに挿入されたストッパーゴム134に当接している。このとき、シフト鏡筒102の4ヶ所のロック突起102fとロックリング129の4ヶ所のアンロック部129cとがそれぞれ対向し、所定の距離D3を保っている。シフト鏡筒102の光軸直交面内の移動範囲D1に対し、以下の式が成り立つ。
【0061】
D3>D1>D2
したがって、アンロック状態では、シフト鏡筒102がロックリング129に干渉することは無く、光軸直交方向に基準位置から距離D1の範囲で移動可能である。
【0062】
振れ補正装置100はロックコイル130への電圧印加により、ロック状態とアンロック状態を自在に切換可能であり、例えば振れ補正制御を行う場合以外はロック状態として、シフト鏡筒102の不要な移動による光学性能の悪化を防ぐことができる。図7を用いて地板101に設けたロックマグネット(係止マグネット)131の磁界について説明する。図7(a)は一部の部品を不図示とした振れ補正装置100の正面図であり、図7(b)はその断面図である。
【0063】
ロックマグネット131a〜131dは光軸方向にN極とS極に着磁されており、ロックマグネット131、第1のロックヨーク132、第2のロックヨーク133によって図7(b)中の実線矢印Aで示した磁路が形成されている。ロックコイル130の一方の面は、光軸方向に所定の間隔を有してロックマグネット131a,131bに対向するように配置されている。また、ロックコイル130の他方の面は、光軸方向に所定の間隔を有してロックマグネット131c,131dに対向するように配置されている。前述のように、ロックコイル130に所定の方向の電圧を印加すると、ロックコイル130を流れる電流と上述した磁路との相互作用によりロックリング129に回転方向の力が発生する。
【0064】
ここで、ロックマグネット131が発生する磁界に対して第1のロックヨーク132を適した厚さに設定し、磁気飽和を発生させる場合を考える。この場合、第1のロックヨーク132を通る磁路の一部が漏れ、ロックマグネット131と対向する第1の板金110を通る磁路が形成される。すなわち、ロックマグネット131、第1のロックヨーク132、第2のロックヨーク133、第1の板金110を通る図7(b)中の点線矢印Bで示した磁路である。この磁路のはたらきによって、第1の板金110はロックマグネット131に吸着される。
【0065】
図8を用いて第1の板金110が地板101に対してY方向に移動した場合のロックマグネット131による吸着力について説明する。第1の板金110と地板101に設けたロックマグネット131a,131b以外の部品は不図示である。また、以下の説明では、ヨーコイル103およびピッチコイル104による駆動力、スラストばね117によるばね力については無視する。また、第1の板金110は光軸方向およびX方向への移動を規制されており、地板101に対しY方向にのみ移動可能であるため、Y方向の力のみを考える。
【0066】
図8(d)は第1の板金110が基準位置に対してY方向に例として+2×D1移動した場合を示している。前述のように、シフト鏡筒102の移動可能範囲は基準位置から距離D1に規制されるため、実際は図8(d)のような位置関係は起こりえないが、説明のため図示する。このとき、第1の板金110と地板101に設けたロックマグネット131a,131bとの対向面積がほぼ最大となり、吸着力のほぼ全てが光軸方向にはたらく。図8(d)の状態において、第1の板金110にはたらくY方向への力はほぼゼロであり、Y方向において磁気的なポテンシャルエネルギーが最小となる安定点にあるといえる。
【0067】
図8(b)は第1の板金110が基準位置に位置する場合を示している。このとき、第1の板金110は磁気的な安定点よりY方向の負側にシフトしているため、Y方向の正側への吸着力Fbがはたらく。振れ補正手段33、102が基準位置(図8(b))にある場合に、案内手段110は、マグネット131と案内手段110との光軸方向の対向面積が最大となる位置(図8(c))よりも重力方向に対して下側に位置する。
【0068】
図8(a)は第1の板金110が基準位置に対してY方向に距離−D1移動した場合を示している。このとき、第1の板金110は磁気的な安定点よりY方向の負側にシフトしているため、Y方向の正側への吸着力Faがはたらく。またそのシフト量は図8(b)に対して大きいため、Y方向への吸着力Faは吸着力Fbに対して大きくなる。図8(a)の状態において、Y方向へのシフト鏡筒102の駆動可能範囲内で、第1の板金110とロックマグネット131との対向面積(光軸方向の対向面積)が最小となる。
【0069】
図8(c)は第1の板金110が基準位置に対してY方向に+D1移動した場合を示している。このとき、第1の板金110は磁気的な安定点よりY方向の負側にシフトしているため、Y方向の正側への吸着力Fcがはたらく。またそのシフト量は図8(b)に対して小さいため、Y方向への吸着力Fcは吸着力Fbに対して小さくなる。図8(c)の状態において、Y方向へのシフト鏡筒102の駆動可能範囲内で、第1の板金110とロックマグネット131との対向面積が最大となる。このとき第1の板金110は重力方向下側に位置する。
【0070】
結果として、Y方向へのシフト鏡筒102の駆動可能範囲(基準位置から±D1の範囲)の全域において、Y方向の正側への吸着力が発生することになる。ここで、シフト鏡筒102にはたらく力について説明する。なお、X方向への移動を考える時はY方向は基準位置に位置し、Y方向への移動を考える時はX方向は基準位置に位置するものとする。シフト鏡筒102がある位置で静止しているときの力の一般式は、ヨーコイル103およびピッチコイル104(駆動手段)による駆動力Fd、重力Fg、スラストばね117によるばね力Fs、ロックマグネット131による付勢力Fmとすると、次のように示せる。
【0071】
Fd+Fg+Fs+Fm=0
駆動力Fdについて説明する。X方向およびY方向の移動量x,y、ヨーコイル103およびピッチコイル104に流れる電流ix,iy、X方向およびY方向への移動時の単位電流あたりの駆動力Fi(x),Fi(y)とすると、X方向およびY方向の駆動力Fdx,Fdyは次のように示せる。
【0072】
Fdx=ix×Fi(x)
Fdy=iy×Fi(y)
図9(a)にX方向およびY方向の移動量x,yとFi(x),Fi(y)の関係の一例を示す。シフト鏡筒102が移動すると、ヨーコイル103およびピッチコイル104とマグネット105および106との対向面積が減少し、単位電流あたりの駆動力が低下する。また、ヨーコイル103およびピッチコイル104の抵抗をRとすると、振れ補正装置100の消費電力Pは次のように示せる。
【0073】
P=(ix^2+iy^2)×R
重力Fgについて説明する。第1の板金の重量m、第1の板金を除く可動部(シフト鏡筒102)の重量M、重力加速度g、姿勢角θ(グリップ下:0°、正位置:90°、グリップ上:180°、逆位置:270°)とする。すると、X方向およびY方向の重力Fgx,Fgyは次のように示せる。
【0074】
Fgx=−Mgcosθ
Fgy=−(M+m)gsinθ
図9(b)にX方向およびY方向の移動量x,yとFgx,Fgyの関係の一例を示す。Fgxは姿勢角θが0°の時の値、Fgyは姿勢角が90°の時の値を示している。Fgx,FgyはX方向およびY方向の移動量x,yによらず一定であり、絶対値はFgyの方が大きい。すなわち、Y方向の移動時の方が重力負荷が大きくなる。
【0075】
ばね力Fsについて説明する。3つのスラストばね117を合成した光軸直交面内におけるバネ定数Ksとすると、X方向およびY方向への移動時のばね力Fsx,Fsyは次のように示せる。
【0076】
Fsx=−Ks×x
Fsy=−Ks×y
図9(c)にX方向およびY方向の移動量x,yとFsx,Fsyの関係の一例を示す。X方向およびY方向の移動量x,yが正の値のときはFsx,Fsyが負の値であり、X方向およびY方向の移動量x,yが負の値のときはFsx,Fsyが正の値である。また、X方向およびY方向の移動量x,yの絶対値が大きいほどFsx,Fsyの絶対値が大きい。すなわち、シフト鏡筒102の移動を妨げる方向にばね力による負荷が発生する。
【0077】
付勢力Fmについて説明する。基準位置におけるX方向およびY方向付勢力Fmx0,Fmy0、X方向およびY方向への移動時の付勢力変化dFm(x),dFm(y)とすると、X方向およびY方向への移動時の付勢力Fmx,Fmyは次のように示せる。
【0078】
Fmx=Fmx0+dFm(x)=0,Fmy=Fmy0+dFm(y)
ここで、例えばFmyが比例定数Kmのもとyに比例すると近似すると、Fmyは次のように示せる。
【0079】
Fmy=Fmy0+Km×y
図9(b)にY方向のシフト量yとFmyの関係の一例を示す。前述したように、Y方向へのシフト鏡筒102の駆動可能範囲(基準位置からD1の範囲)の全域において、Yの正方向への吸着力が発生する。すなわち、yによらずFmyは常に正である。上述した各関係式から、電流および消費電力の式は次のようにまとめられる。
【0080】
ix=(Mgcosθ+Ks×x)/Fi(x)
iy=((M+m)gsinθ+Ks×y−(Fmy0+Km×y))/Fi(y)
P=(ix^2+iy^2)×R
ここで、撮影を行う際の振れ補正装置100の消費電力について述べる。撮影を行う際の姿勢としては、光軸Zを鉛直上向きに向ける姿勢(上向き姿勢とする)、光軸Zを鉛直下向きに向ける姿勢(下向き姿勢とする)、光軸Zを水平に向ける姿勢(水平姿勢とする)とがある。また、水平姿勢のなかには、Y方向を鉛直上向きに向ける姿勢(正位置姿勢とする)、Y方向を鉛直下向きに向ける姿勢(逆位置姿勢とする)がある。また、X方向を鉛直上向きに向ける姿勢(グリップ下姿勢とする)、X方向を鉛直下向きに向ける姿勢(グリップ上姿勢とする)がある。このうち、通常の撮影で使用頻度の高い姿勢は正位置姿勢、グリップ下姿勢、グリップ上姿勢の3つであり、特に正位置姿勢が一般的である。
【0081】
図10(a)は撮像装置10を正位置に構えた状態を示した図である。この姿勢において姿勢角θは90°であり、電流及び消費電流の式は次のように示せる。
【0082】
ix=Ks×x/Fi(x)
iy=((M+m)g+Ks×y)/Fi(y)
P=(ix^2+iy^2)×R
図11(a)〜(c)は正位置かつX方向駆動時のコイル電流と消費電力、図11(d)〜(f)は正位置かつY方向駆動時のコイル電流と消費電力を示している。また、図11(a),(d)はヨーコイル103に流れる電流ix、図11(b),(e)はピッチコイル104に流れる電流iy、図11(c),(f)は振れ補正装置100の消費電力Pを示している。図中の点線Aは仮にロックマグネット131による付勢力Fmがゼロだった場合のコイル電流と消費電力、実線Bは本実施例のコイル電流と消費電力を示している。なお、シフト鏡筒102の駆動可能範囲D1は2[mm]としている。
【0083】
図11(a),(b),(d),(e)で示すように、正位置では、ピッチコイル104によってシフト鏡筒102および補正レンズ33などからなる可動部の重力に抗する駆動力を発生する必要がある。このため、ヨーコイル103の電流値に対してピッチコイル104の電流値が大きくなる。
【0084】
本実施例では、図11(b),(e)で示すように、X方向駆動時およびY方向駆動時ともに、仮にロックマグネット131による付勢力Fmがゼロだった場合に比べてピッチコイル104の電流値が小さくなる。これは、正位置でYの負方向にはたらく重力Fgに対し、Yの正方向にはたらく付勢力Fmが重力を打ち消すことで、任意の位置にシフト鏡筒102を保持するのに必要な力が小さくてすむためである。したがって、図11(c),(f)で示すように、振れ補正装置100の消費電力を低減でき、振れ補正中の撮像装置10の省電力に寄与することが可能である。
【0085】
正位置では、重力Fgxがゼロとなる一方、重力Fgyが負の値となり、力の釣り合い位置がYの負方向にシフトするため、図11(f)で示すように、Yの正方向に最大駆動(y=2)する際に最大電力を必要とする。上記の最大電力を低減させることで、振れ補正装置100の最大消費電力を小さくすることができ、撮像装置10の省電力に寄与することができる。図10(b)は撮像装置10をグリップ下に構えた状態を示した図である。この姿勢において姿勢角θは0°であり、電流及び消費電流の式は次のように示せる。
【0086】
ix=(Mg+Ks×x)/Fi(x)
iy=(Ks×y−(Fmy0+Km×y))/Fi(y)
P=(ix^2+iy^2)×R
図12(a)〜(f)はグリップ下姿勢のコイル電流と消費電力を示している。各符号の対応は図11(a)〜(f)と同様である。図10(c)は撮像装置10をグリップ上に構えた状態を示した図である。この姿勢において姿勢角θは180°であり、電流及び消費電流の式は次のように示せる。
【0087】
ix=(−Mg+Ks×x)/Fi(x)
iy=(Ks×y−(Fmy0+Km×y))/Fi(y)
P=(ix^2+iy^2)×R
図13(a)〜(f)はグリップ上姿勢のコイル電流と消費電力を示している。各符号の対応は図11(a)〜(f)と同様である。上式ではixが負の値をとる場合があるが、便宜上、図ではixの絶対値を示している。
【0088】
図12(a)、(b),(d)、(e)、図13(a)、(b),(d)、(e)で示すように、グリップ下およびグリップ上姿勢では次のようになる。ヨーコイル103によってシフト鏡筒102および補正レンズ33などからなる可動部の重力に抗する駆動力を発生する必要があるため、ピッチコイル104の電流値に対してヨーコイル103の電流値が大きくなる。
【0089】
グリップ下およびグリップ上姿勢では、図12(b),(e)、図13(b),(e)で示すように、X方向およびY方向への駆動時に、仮に付勢力Fmがゼロだった場合に比べてピッチコイル104の電流値が大きくなる。これは、Y方向の基準位置でYの正方向にはたらく付勢力Fmy0によって、X方向への駆動時にY方向の基準位置にシフト鏡筒102を保持するのに必要な力が必要になるためである。また、付勢力Fmyによって力の釣り合い位置がY方向にシフトするためである。ただし、ピッチコイル104の電流値はヨーコイル103の電流値に比較して小さいため、仮に付勢力Fmがゼロだった場合に比べた消費電力の増加は軽微である。
【0090】
グリップ下姿勢(図10(b))では、重力Fgyがゼロとなる一方、重力Fgxが負の値となり、力の釣り合い位置がXの負方向にシフトするため、図12(c)で示すように、Xの正方向に最大駆動(x=2)する際に最大電力を必要とする。またグリップ上姿勢(図10(c))では、重力Fgyがゼロとなる一方、重力Fgxが正の値となり、力の釣り合い位置がXの正方向にシフトするため、図13(c)で示すように、Xの負方向に最大駆動(x=−2)する際に最大電力を必要とする。本実施例では、正位置における最大電力は付勢力Fmによって低減されており、グリップ下およびグリップ上姿勢の最大電力とほぼ同等の値に設定されている。したがって、振れ補正装置100の最大消費電力が各姿勢で平準化され、撮像装置10の省電力に寄与することができる。
【0091】
前述したように、Y方向に移動する際は第1の板金110はシフト鏡筒102とともに地板101に対して移動するため、可動部の重量はX方向に移動する際に比べて第1の板金110の重量mだけ大きく、重力Fgも大きい。逆に、X方向に移動する際は第1の板金110は地板101に支持されているため、可動部の重量はY方向に移動する際に比べて第1の板金110の重量mだけ小さく、重力Fgも小さい。結果として、重力FgとY方向の移動が一致する正位置においてY方向に駆動する際に、振れ補正装置100の消費電力が最も増大する。
【0092】
本実施例では、Yの正方向にはたらく付勢力Fmによって正位置の消費電力を低減するとともに、グリップ下およびグリップ上姿勢では消費電力の増加を抑えているため、各種の姿勢で撮影を行う際の撮像装置10の省電力化が可能である。特に実際の撮影で一般的な正位置において消費電力が低減可能であるため、撮像装置10の効果的な省電力化が可能である。
【0093】
本実施例では、振れ補正装置100のロック機構の構成部品であるロックマグネット(付勢手段)131を利用して重力を打ち消す方向にシフト鏡筒102を移動可能に保持する第1の板金110を付勢する付勢力を発生させている。このため、部品点数が少なく低コストで消費電力を低減可能な振れ補正装置を提供することが可能である。
【0094】
本実施例では、ロックマグネット131からの非接触の磁気力によって第1の板金110を付勢する付勢力を発生させている。このため、他の手段、例えばコイルばねなどによって付勢力を発生させた場合に比べて、シフト鏡筒102を移動させた際の摩擦を低減可能であり、高精度で省電力な振れ補正制御が可能である。
【0095】
本実施例では、非接触の磁気力によって付勢力を発生させているため、第1の板金110とロックマグネット131の間に他の部材を配置することも可能であり、小型の振れ補正装置を提供可能である。
【0096】
[実施例2]
本発明の第2の実施例による振れ補正装置200について、第1の実施例と異なる部分についてのみ説明する。図14は基準位置における振れ補正装置200の付勢力を示す説明図であり、実施例1における図8(b)と同等の図である。第1の板金210とロックマグネット231a,231b以外の部品は不図示である。また、以下の説明では駆動力およびばね力については無視する。
【0097】
第1の板金210の溝部210a,210bおよび長穴210f,210gは、Y方向に対して所定の角度αを有したY’方向に延出している。また、第1の板金210の各溝部に対向する第1のヨーク207(不図示)の溝部207a,207bも同様にY’方向に延出している。
【0098】
第1の板金210の溝部210d,210eは、X方向およびY方向に対して所定の角度βを有したX’方向に延出している。また、第1の板金210の各溝部に対向する第2の板金215(不図示)の溝部215a,215bも同様にX’方向に延出している。
したがって本実施例では、第1の板金210は光軸直交面内で地板201に対してY’方向にのみ移動可能に支持され、シフト鏡筒202は、光軸直交面内で第1の板金210に対してX’方向にのみ移動可能に支持されることになる。そのため、第1の実施例と同じく、シフト鏡筒202は光軸直交面内でシフト移動が可能であるとともに回転移動が規制される。
【0099】
第1の板金210には、ロックマグネット231によって、Y’の正方向への付勢力Fmがはたらく。基準位置におけるX方向およびY方向付勢力Fmx0,Fmy0、X方向およびY方向への移動時の付勢力変化dFm(x),dFm(y)とすると、X方向およびY方向への移動時の付勢力Fmx,Fmyは次のように示せる。
【0100】
Fmx=Fmx0+dFm(x)
Fmy=Fmy0+dFm(y)
ここで、Fmxが比例定数Kxのもとxに比例し、Fmyが比例定数Kyのもとyに比例すると近似すると、基準位置における付勢力Fm0と角度αとを用いて、Fmx,Fmyは次のように示せる。
【0101】
Fmx=Fm0×sinα+Kx×x
Fmy=Fm0×cosα+Ky×y
撮像装置10が、正位置姿勢、グリップ下姿勢、グリップ上姿勢の順で使われる頻度が高い場合は、角度αを以下の範囲で設定することが望ましい。
【0102】
0<α<45°
このとき、基準位置における付勢力は以下の関係となる。
【0103】
Fmy=Fm0×cosα>Fmx=Fm0×sinα>0
すなわち、正位置姿勢において重力に抗する方向に付勢力Fmyがはたらき、グリップ下姿勢において重力に抗する方向に付勢力Fmyより弱い付勢力Fmxがはたらく。したがって、最も頻度が高い正位置姿勢と、次に頻度が高いグリップ下姿勢において消費電力が低減可能であり、最も頻度が高い正位置姿勢において消費電力の低減効果が大きいので、全体として効果的に省電力化をはかることができる。
【0104】
仮に撮影姿勢の頻度が異なる順であった場合は、角度αを変えることでX方向の付勢力FmxとY方向の付勢力Fmyの割合を自在に変更可能である。さらに、振れ補正装置200を光軸方向に回転させて固定したり、X方向またはY方向に対して鏡像となるような構成にしたりするなどして、付勢力Fmの方向を自在に変更可能である。したがって、本実施例では、撮影姿勢の頻度の割合に合わせて振れ補正装置200の省電力化をはかることが可能である。
【0105】
[実施例3]
本発明の第3の実施例による振れ補正装置300について、第1の実施例と異なる部分についてのみ説明する。図15は基準位置における振れ補正装置300の付勢力を示す説明図であり、実施例1における図8(b)と同等の図である。第1の板金310とシフト鏡筒102を駆動するための第1のマグネット群305以外の部品は不図示である。また、以下の説明では駆動力およびばね力については無視する。
【0106】
第1の板金310は光軸と直交する平面からなる吸着部310hを有する。吸着部310hはマグネット305cと対向しており、その対向面積は第1の板金310がY方向に移動するほど大きくなるように構成され、付勢力FmはYの正方向にはたらく。
【0107】
本実施例では、実施例1と同様に、Y方向の正方向にはたらく付勢力Fmによって正位置の消費電力を低減するとともに、グリップ下およびグリップ上姿勢では消費電力の増加を抑えているため、各種の姿勢で撮影を行う際の撮像装置10の省電力化が可能である。特に実際の撮影で一般的な正位置において消費電力が低減可能であるため、撮像装置10の効果的な省電力化が可能である。
【0108】
本実施例では、シフト鏡筒302を移動させる駆動機構の構成部品である第1のマグネット305を利用して第1の板金(案内手段)310に付勢する付勢力を発生させている。このため、部品点数が少なく構成が簡単で消費電力を低減可能な振れ補正装置を提供することが可能である。
【0109】
本実施例では、第1のマグネット群305からの非接触の磁気力によって第1の板金310に付勢する付勢力を発生させている。このため、他の手段、例えばコイルばねなどによって付勢力を発生させた場合に比べて、シフト鏡筒102を移動させた際の摩擦を低減可能であり、高精度で省電力な振れ補正制御が可能である。
【0110】
本実施例では、非接触の磁気力によって付勢力を発生させているため、第1の板金310とマグネット305の間に他の部材を配置することも可能であり、小型の振れ補正装置を提供可能である。
【0111】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0112】
10 撮像装置 20 カメラ 21 撮像素子 30 レンズ鏡筒
33 補正レンズ 100 振れ補正装置 101 地板 102 シフト鏡筒
105 第1のマグネット群 106 第2のマグネット群
110 第1の板金 129 ロックリング 130 ロックコイル
131a〜131d ロックマグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学機器に用いられるレンズ鏡筒であって、
固定部と、
前記固定部に対して光軸直交方向に移動して像の振れを補正する振れ補正手段と、
前記固定部に対して光軸と直交する第1の方向に移動可能に支持され、かつ、前記振れ補正手段を光軸と直交し前記第1の方向とは異なる第2の方向に移動可能に支持する案内手段と、
前記固定部に回動可能に支持され、前記振れ補正手段のロック状態とアンロック状態を規制するとともに前記振れ補正手段の移動範囲を規制する機能を有するロックリングと、
前記ロックリングを駆動するためのマグネットとコイルと、を有し、
前記案内手段は、前記マグネットとの間に磁気吸引力を発生させる部材を含み光軸方向において少なくともその一部が前記マグネットと対向し、前記光学機器が正位置の状態において前記磁気吸引力によって重力方向に対して逆方向に付勢されることで、前記振れ補正手段を前記重力方向に対して逆方向に付勢することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
光学機器に用いられるレンズ鏡筒であって、
固定部と、
前記固定部に対して光軸直交方向に移動して像の振れを補正する振れ補正手段と、
前記固定部に対して光軸と直交する第1の方向に移動可能に支持され、かつ、前記振れ補正手段を光軸と直交し前記第1の方向とは異なる第2の方向に移動可能に支持する案内手段と、
前記振れ補正手段を駆動するためのマグネットとコイルと、を有し、
前記案内手段は、前記マグネットとの間に磁気吸引力を発生させる部材を含み光軸方向において少なくともその一部が前記マグネットと対向し、前記光学機器が正位置の状態において前記磁気吸引力によって重力方向に対して逆方向に付勢されることで、前記振れ補正手段を前記重力方向に対して逆方向に付勢することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記振れ補正手段が基準位置にある場合に、前記案内手段は、前記マグネットと前記案内手段との光軸方向の対向面積が最大となる位置よりも重力方向に対して逆方向側に位置することを特徴とする請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒と、前記レンズ鏡筒によって形成された像を受光する撮像素子とを有し、前記レンズ鏡筒の光軸が水平方向であって前記撮像手段の姿勢が正位置の状態である場合に、前記案内手段は少なくとも重力方向に移動可能であって、前記マグネットによる前記案内手段への付勢方向が重力方向に対して逆方向であることを特徴とする光学機器。
【請求項5】
前記撮像手段の撮像面の長辺が水平方向と一致する姿勢を前記正位置の状態とすることを特徴とする請求項4に記載の光学機器。
【請求項6】
前記光学装置を保持するグリップが前記撮像素子の水平方向に位置する姿勢を前記正位置の状態とすることを特徴とする請求項4に記載の光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−42793(P2012−42793A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184921(P2010−184921)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】