説明

レンズ間混濁耐性を有する眼内レンズ

本発明は、眼内レンズ、眼内レンズシステム(10)および上記レンズまたはシステムを作製および/または眼内に移植する方法に関し、少なくとも一つの眼内レンズ(12,14)が、レンズ間混濁を阻止するのを助けるコーティング(24)を含む。コーティングの材料は、親水性または超疎水性であるのが好ましい。一実施形態では、本発明は、一組のデュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの一部としての使用のための眼内レンズを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年9月4日に出願された米国仮特許出願第61/239,974号に対して米国特許法§119の下、優先権を主張する。この出願の全内容は本明細書において参照として援用される。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、眼内レンズ、眼内レンズシステム、および当該レンズまたはシステムを作製および/または眼内移植する方法に関し、少なくとも一つの眼内レンズが、レンズ間混濁(ILO;Interlenticular opacification)を阻止する(resist)のを助けるコーティングを含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒトの眼は、角膜と呼ばれる透明な外側部分を通して光を透過および屈折させ、さらに水晶体により眼球後部の網膜上に結像させることにより、視覚を提供するように機能する。結ばれた像の質は、目の大きさ、形および長さ、ならびに角膜および水晶体の形および透明度を含む多くの要因に依存する。
【0004】
外傷、年齢、疾患または他の弊害により個体の生来の水晶体の透明度が低下すると、網膜に透過されうる光が減少するために視力が悪化する。この眼の水晶体の不全は、白内障と呼ばれることが多い。この状態の治療は、生来の水晶体の外科的除去および眼内レンズ(IOL)の移植である。
【0005】
初期のIOLはポリメチルメタクリレート(PMMA)等の硬質プラスチックから作られていたが、アクリレートベースの材料から作られた軟質の折り畳み可能IOLは、ソフトレンズを折り畳みまたは丸めて小切開部から挿入できるため人気が高くなっている。このようなアクリレートベースのレンズは、眼内移植の間および移植時に優れた折り畳みおよび非折り畳み特性をもつため、特に望ましい。このようなアクリレートレンズは、望ましい生体適合性の特性ももつ。
【0006】
典型的手技ではレンズが一枚だけ眼内移植されるが、第二レンズまたは二枚のレンズが移植されるのが望ましい複数の場合がある。一例として、IOLの焦点範囲を改善するためにデュアルオプティック調節性レンズが開発されている。別の例としては、第一IOLの挿入後に、視機能を改善するためにピギーバックレンズと呼ばれる第二IOLを挿入することが所望されうる。
【0007】
このような二つのレンズシステムは視機能を改善しうる一方で、最近の論文には、様々なタイプのこれらのレンズシステムではレンズ間混濁(ILO)が生じやすくなりうると示唆されている。このような論文には、非特許文献1;非特許文献2;および非特許文献3が含まれる。これらの論文の少なくとも一つが、アクリレートベースの二つのレンズシステムにILO形成が生じやすいことを示唆している。
【0008】
以上に鑑み、他の場合に生じうるILO形成を阻害する眼内レンズ、特に二つのレンズシステムを提供することが非常に望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Gayton JL,Apple DJ,Peng Q等、Interlenticular Opacification:A Clinicopathological Correction of a New Complication of Piggyback Posterior Chamber Intraocular Lenses,J.Cataract Refract.Surg.,2000年
【非特許文献2】Eleftheriadis H,Marcantonio J等、Interlenticular Opacification in Piggyback AcrySof Intraocular Lenses:Explantation Technique and Laboratory Investigations,Br.J.Ophthalmol.2001年7月 85(7):830−836
【非特許文献3】Werner L.,Mamalis N.等、Interlenticular Opacification:Dual−Optic Versus Piggyback Intraocular Lenses,J.Cataract Refract.Surg.2006年,32:655−661
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
一実施形態では、本発明は、一組のデュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの一部としての使用のための眼内レンズを目的とする。レンズは、疎水性材料で形成された本体を含み、この本体が外表面を画定する。本体の外表面の一領域上にコーティングが配置されている。コーティングは、親水性材料または超疎水性材料で形成されている。本体およびコーティングは第一眼内レンズを共に形成し、第一眼内レンズは、第一および第二眼内レンズの両方が眼内に移植されたときに、第二眼内レンズの外表面に向かい合い、および反対を向くように構成されている。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、デュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの眼内レンズシステムを目的とする。このシステムは、外表面を画定する本体と当該本体の外表面の一領域上に配置されたコーティングとを有する第一眼内レンズを含む。第一眼内レンズの本体は疎水性材料で形成され、そして第一眼内レンズのコーティングは親水性材料または超疎水性材料で形成される。このシステムは、外表面を画定する本体を有する第二眼内レンズも含む。第二眼内レンズは第一レンズに隣接して配置され、これにより第一レンズと第二レンズとの間にレンズ間スペースを形成する。第一眼内レンズのコーティングは、第二眼内レンズの外表面に向かい合い、および反対を向く。さらに、第一眼内レンズのコーティングは、レンズ間スペースに直接隣接して位置し、および少なくとも部分的にレンズ間スペースを画定する。
【0012】
さらに別の実施形態では、本発明は、デュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの眼内レンズシステムを作製および/または移植する方法を目的とする。本方法によれば、外表面を画定する本体とこの外表面の一領域上に配置されたコーティングとを有する第一眼内レンズが提供される。本体は疎水性材料で形成され、そしてコーティングは親水性材料または超疎水性材料で形成される。第一眼内レンズが眼内で第二眼内レンズに隣接して配置されるように、第一眼内レンズが眼内に移植される。第二レンズも、外表面を画定する本体を有する。第一および第二レンズは眼内レンズシステムを共に形成し、そして第一および第二レンズは、第一レンズと第二レンズとの間のレンズ内スペースを画定する。第一眼内レンズのコーティングは、第二眼内レンズの外表面に向かい合い、および反対を向く。さらに、第一眼内レンズのコーティングは、レンズ間スペースに直接隣接して位置し、および少なくとも部分的にレンズ間スペースを画定する。第二レンズも親水性または超疎水性材料で形成されたコーティングを有してよく、そして第二レンズのコーティングは典型的に第一レンズのコーティングに向かい合い、および反対を向く。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一態様による眼内レンズシステムを形成するように準備された例示的な眼内レンズ対の断面図である。
【図2】図2は、本発明の一態様による代替的な眼内レンズシステムを形成するように準備された例示的な眼内レンズ対の断面図である。
【図3】図3は、本発明の一態様による例示的な眼内レンズの正面図である。
【図4】図4は、本発明による例示的なピギーバックレンズシステムの断面図である。
【図5】図5は、本発明による例示的なデュアルオプティック調節性レンズシステムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、混濁、特にレンズ間レンズ混濁(ILO)の防止を助けるコーティングを有する、少なくとも一つの眼内レンズ(IOL)および好ましくは二つのIOLを提供することを基礎とする。IOL(単数または複数)は典型的に、デュアルオプティックまたはピギーバックレンズシステム等の眼内レンズシステムを形成する。コーティングは典型的に、ILOの阻止または防止を助けるために親水性または超疎水性材料で形成される。
【0015】
特に明記しない限り、本明細書で用いられるところの材料の比率は重量百分率(w/w)である。
【0016】
図1は、本発明の一態様による例示的な眼内レンズシステム10を示す。システム10は、第一眼内レンズ12および第二眼内レンズ14を含む。本明細書においてシステムのレンズを示す際に用いられるところの「第一」および「第二」という用語は、一方に対してもう一方を示すために使用されるにすぎない。これらの用語は、特に明記しない限り、移植の順序等いかなる順序を示唆することも意図しない。
【0017】
レンズ12、14の各々は、外表面20を画定する本体18と、その外表面20の領域28上に配置されたコーティング24とを含む。レンズ12、14のコーティング24が、後述のようにILOの防止を助けうる。レンズ12、14の各々は、レンズ12、14の本体18から外側へ伸びる支持部32も含む。
【0018】
レンズ12、14の各々の各コーティング24は、レンズ12、14のもう一方の外表面20に向かい合い、および反対を向く。これは特に両方のレンズが眼内に移植された後に言えることである。眼内レンズ12、14は、その間のレンズ間スペース36を画定し、レンズ12、14のコーティング24はいずれもレンズ間スペース36に直接隣接して位置し、および少なくとも部分的にこれを画定する。
【0019】
図1に示される実施形態では、レンズ12、14の各々が独自のコーティング24を有する。しかし、レンズの一方だけがコーティングを有しており、他方のレンズはコーティングされていなくてもよいことも企図される。この構成が図2に示されている。例えば、眼内システムが、コーティングされていない第一レンズが移植済みであり、第一レンズの調節のためにコーティングされた第二レンズを移植するための一組のピギーバックレンズを含む場合がこれにあたりうる。
【0020】
図1の実施形態では、各レンズ12、14のコーティング24が、本体18の領域28上に配置され、より具体的には本体18の2つの反対を向く面40、42の片側だけに配置されている。しかし、コーティングが本体の他の領域上またはレンズの本体全体に配置されてもよいことが企図される。本明細書で用いられる「領域」という用語は、本体の一部だけを意味することを意図するものである。しかし、コーティングが本体の外表面の一領域を覆いまたは一領域上に配置されるという示唆は、コーティングがその領域上のみに配置されると特に述べていない限り、コーティングが本体の他の部分上に位置するのを制限することを意図するものではない。
【0021】
コーティングがIOLの一領域上だけに選択的に配置される場合には、その領域はIOLの本体の外表面の実質部分であることが一般に好ましい。その実質部分は、本体の外表面の少なくとも20%であるのが好ましく、少なくとも40%であるのがより好ましく、少なくとも60%である場合もある。その実質部分は、本体の外表面の90%未満であるのが典型的であり、80%未満であるのがより典型的である。以上のパーセンテージは、本体の合計表面積のパーセンテージとしてとらえられる。本体の外表面は、支持部の一切の外表面領域を除いて考慮する。もちろん支持部もコーティングされてもよいが、本体の一部とはみなされない。
【0022】
好ましい一実施形態では、コーティングは、図3に示すようにIOL本体の周辺領域のみの周囲のリングとして形成される。このような実施形態では、周辺領域はIOLの片側面だけにあっても、または両側面にあってもよい。本発明によるシステムの第二IOLは、図3のリング形コーティングに対して反対を向き、および向かい合うように構成されたリング形コーティングを有してもよいし、またはかかる第二IOLが、その本体の片側面全体をカバーするコーティング等、別のコーティング形状を有してもよいことが企図される。
【0023】
本発明による眼内レンズのいずれかの本体、支持部または両方は、疎水性材料で形成されるのが好ましい。このような疎水性材料は接触角が90°以下であるのが典型的であり、85°以下であるのがより典型的であり、80°以下である場合もある。このような材料はまた、接触角が少なくとも50°であるのが典型的であり、少なくとも60°であるのがより典型的であり、少なくとも65°である場合もある。特に明記しない限り、本発明の材料の接触角は、Physical Chemistry of Surfaces(第六版),Adamson,Arthur W.等、第X章、352〜354頁に記載されるようにヤングの方程式に従って決定される。
【0024】
本体、支持部または両方の材料は、アクリレートベースの材料であるのが好ましい。アクリレートベースの材料は、好ましくは下式1の、アクリレートモノマーの実質部分を有するものとして定義される:
【0025】
【化1】

【0026】
式中、Xは、HまたはCHであり;
mは、0〜10であり;
Yは存在しない、O、S、またはNRであり、ここでRはH、CH、C2n+1(n=1〜10)、イソ−OC、C、またはCHであり;
Arは、非置換でありうるか、またはCH、C、n−C、イソ−C、OCH、C11、C、もしくはCHで置換されうる任意の芳香環である。
【0027】
構造(I)の適切なモノマーには、2−エチルフェノキシメタクリレート;2−エチルフェノキシアクリレート;2−エチルチオフェニルメタクリレート;2−エチルチオフェニルアクリレート;2−エチルアミノフェニルメタクリレート;2−エチルアミノフェニルアクリレート;フェニルメタクリレート;フェニルアクリレート;ベンジルメタクリレート;ベンジルアクリレート;2−フェニルエチルメタクリレート;2−フェニルエチルアクリレート;3−フェニルプロピルメタクリレート;3−フェニルプロピルアクリレート;4−フェニルブチルメタクリレート;4−フェニルブチルアクリレート;4−メチルフェニルメタクリレート;4−メチルフェニルアクリレート;4−メチルベンジルメタクリレート;4−メチルベンジルアクリレート;2−2−メチルフェニルエチルメタクリレート;2−2−メチルフェニルエチルアクリレート;2−3−メチルフェニルエチルメタクリレート;2−3−メチルフェニルエチルアクリレート;2−4−メチルフェニルエチルメタクリレート;2−4−メチルフェニルエチルアクリレート;2−(4−プロピルフェニル)エチルメタクリレート;2−(4−プロピルフェニル)エチルアクリレート;2−(4−(1−メチルエチル)フェニル)エチルメタクリレート;2−(4−(1−メチルエチル)フェニル)エチルアクリレート;2−(4−メトキシフェニル)エチルメタクリレート;2−(4−メトキシフェニル)エチルアクリレート;2−(4−シクロヘキシルフェニル)エチルメタクリレート;2−(4−シクロヘキシルフェニル)エチルアクリレート;2−(2−クロロフェニル)エチルメタクリレート;2−(2−クロロフェニル)エチルアクリレート;2−(3−クロロフェニル)エチルメタクリレート;2−(3−クロロフェニル)エチルアクリレート;2−(4−クロロフェニル)エチルメタクリレート;2−(4−クロロフェニル)エチルアクリレート;2−(4−ブロモフェニル)エチルメタクリレート;2−(4−ブロモフェニル)エチルアクリレート;2−(3−フェニルフェニル)エチルメタクリレート;2−(3−フェニルフェニル)エチルアクリレート(acrlate);2−(4−フェニルフェニル)エチルメタクリレート;2−(4−フェニルフェニル)エチルアクリレート;2−(4−ベンジルフェニル)エチルメタクリレート;および2−(4−ベンジルフェニル)エチルアクリレートなどが含まれるがこれに限られない。
【0028】
システムの第一および第二IOLは実質的に同一の材料で形成されてもよいが、異なる材料で形成されてもよいことが企図される。システムの両方のIOLの材料がアクリレートベースであるのが好ましいが、一方がアクリレートベースであり、もう一方が異なる材料(例えばシリコーンベースの材料)で形成されることも可能である。そのような場合には、アクリレートベースのIOLは典型的に本発明によるコーティングを含み、他方の異なる材料のIOLはコーティングを含んでも含まなくてもよい。
【0029】
本体および/または支持部の材料は典型的には少なくとも30%、より典型的には少なくとも70%、場合によっては少なくとも95%のアクリレートモノマーから形成される。本体および/または支持部の材料が、約99.9%以下のアクリレートモノマーから形成されるのが典型的である。これらのアクリレートベースの材料は、材料が硬化されてIOLを形成しうるように、典型的に硬化剤および/または重合開始剤と混合される。このようにして、完成したIOLにおいてはこれらのモノマーが結合してポリマーを形成することが理解されよう。アクリレートベースのレンズの例は、米国特許第5,922,821号;6,313,187号;6,353,069号;および6,703,466号に記載されるがこれに限られず、以上は全て、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0030】
コーティングは、親水性材料または超疎水性材料で形成されるのが好ましい。適切な親水性材料の接触角は50°以下であるのが典型的であり、45°以下であるのがより典型的であり、35°以下である場合もある。このような材料の接触角は、少なくとも5°であるのが典型的である。
【0031】
親水性コーティングは、ヒドロゲル材料で形成することもできる。そのような実施形態では、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアセテート(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエーテルイミド(PEI)、その組み合わせなどのようなヒドロゲル材料の官能性ヒドロゲル前駆体が、IOL本体の外表面上にコーティングされうる。次いで紫外光および/または可視光、プラズマ、放射線、熱エネルギーなどにより前駆体が架橋されて、ヒドロゲル材料のコーティングが形成されうる。
【0032】
コーティングに適切な超疎水性材料は接触角が少なくとも90°であるのが典型的であり、少なくとも100°であるのがより典型的であり、少なくとも130°である場合もある。このような材料は接触角が177°以下であるのが典型的である。
【0033】
コーティングが超疎水性材料で形成される場合には、典型的にはシリコーンベースの材料が非常に望ましい。シリコーンベースの材料は、ケイ素またはケイ素モノマーの実質部分を含む材料である(例えばシランまたはシロキサン)。シリコーンベースの場合、コーティング材料は典型的に少なくとも30%、より典型的には少なくとも60%、場合によっては少なくとも80%のシリコーンモノマーから形成される。このような実施形態では、コーティングの材料が約99.9%以下のシリコーンモノマーから形成されるのが典型的である。シリコーン材料の例は、米国特許第5,420,213号;5,494,946号;7,033,391号;および7,071,244号に記載されるがこれに限られず、以上は全て、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0034】
シリコーンベースのコーティングは、様々な技術を使用してIOLの本体上に形成されうる。一実施形態では、ケイ素モノマー(例えばシランまたはシロキサンモノマー)は、本体表面上へのプラズマ蒸着または重合により本体の外表面上にコーティングされうる。別の実施形態では、プラズマ処理(例えば酸素または水プラズマ処理)を用いてIOL本体の外表面上へ水酸基を導入した後、シラン処理が行われうる。さらに別の実施形態では、IOLの成型および硬化の前に、シリコーンブロックコポリマーを含む表面改質剤がアクリレート材料とブレンドされうる。
【0035】
シリコーンに代わるものとして、疎水性がさらに高い(例えば少なくとも130°の接触角)超疎水性材料が使用されうる。これらの超疎水性コーティングは、パーフルオロカーボンモノマーの連続またはより好ましくは変調プラズマ蒸着/重合処理を用いて形成でき、その後これが架橋されてポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroehtylene)(PTFE)コーティングが形成されうる。代替法として、ベンゼン部分がIOL本体外表面に直接フッ素化により結合されて、超疎水性コーティングが形成されうる。別の代替法として、プラズマ処理(例えば酸素または水プラズマ処理)を用いてIOL本体の外表面上へ水酸基が導入され、その後フッ化シラン処理が行われうる。
【0036】
親水性または超疎水性コーティングに代わりまたは加えて、コーティングが生物活性剤で形成されうることが企図される。一例として、タンパク質吸着および/または細胞接着を変調または阻害する天然または合成分子が本体の外表面に結合されて、改質表面コーティング(例えば血清アルブミンを優先的に吸着する改質表面)が形成されうる。別の例として、免疫抑制薬、mTOR阻害剤などの薬理学的剤がIOL本体の外表面上に結合されまたは他の方法でコーティングされて、水晶体上皮細胞(LEC)成長を妨げまたは阻害するコーティングが形成されうる。コーティングがレンズ本体の周辺領域(例えば周辺縁)だけを覆ってもよく、例えばレンズ本体の周りにリングを形成しうるおよび/または周辺領域から外側へ放射状に伸びうることも企図される。さらに、コーティングが、別個の中実フィルム(例えば環状ディスク形フィルム)として形成されてからレンズ本体表面上に配置され好ましくは取り付けられ(例えば接着され)うることも企図される。
【0037】
移植
本発明のレンズシステムは、様々なプロトコルにより眼内に移植されうる。典型的には第一レンズが移植された後に第二レンズが移植される。しかし、二つのレンズが少なくとも一部同時に移植されうることが企図される。両方のレンズが水晶体嚢内に移植され、または一方が水晶体嚢内に位置し、他方は水晶体嚢の外にありうる。
【0038】
好ましい一実施形態では、第一レンズが水晶体嚢内に移植され、その後、第一レンズが所望の視機能を提供していないと分かった場合には、第二レンズが眼の毛様溝(sulces)内に移植される。このようなレンズは、典型的にピギーバックレンズと称される。このようなレンズの例が図4に示される。図のように、第一レンズ50は水晶体嚢内に配置され、コーティングを伴わない。しかし、後で毛様溝内に移植されている第二レンズ52は、本発明のコーティング54を含んでいる。一般にピギーバックレンズシステムでは、水晶体嚢内のレンズは第二レンズの移植が必ずしも必要になるか分からずに移植されるため、毛様溝内に移植されるレンズまたは第二移植レンズだけがコーティングを含むレンズとなる。もちろん、特に第二ピギーバックレンズが後で移植される可能性がある場合には、第一移植レンズ50(すなわち水晶体嚢内のレンズ)もコーティングを含むことは可能である。図の実施形態では、コーティング54は、第一レンズ50の外側表面56と対向して向かい合う関係にあり、レンズの間のレンズ間スペース58に直接隣接する。
【0039】
別の好ましい実施形態では、第一レンズが水晶体嚢内に移植され、その後第二レンズが水晶体嚢内に移植され、第一レンズに接続されてデュアルオプティック眼内レンズシステム(例えば調節性システム)が形成される。図5に見られるように、正の倍率を有する第一レンズ60が移植され、負の倍率を有する第二レンズ62が移植される。その後これらが取り付け部材64(例えば連動する支持部または他の部材)により互いに取り付けられて、デュアルオプティック調節性眼内レンズシステムが形成される。同じく図から分かるように、レンズ60および62の片側だけにコーティング66、68を有するレンズ60、62の両方およびそのコーティング66、68は互いに対向して向かい合う関係にあり、レンズ内スペース70に隣接する。
【0040】
本開示中の全ての引用文献の内容の全体は、特に参照により本明細書に組み込まれる。さらに、量、濃度、または他の値またはパラメータが範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値のリストのいずれかとして与えられている場合には、範囲が別々に開示されるか否かに関わらず、任意の上限または好ましい値と任意の下限または好ましい値との任意の対から形成される全範囲を特に開示するものと理解されねばならない。本明細書において数値の範囲が列挙されている場合には、特に明記しない限り、当該範囲はその端点ならびにその範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図する。範囲を定義する際には、本発明の範囲を列挙された具体的な値に限定することは意図していない。
【0041】
本発明の他の実施形態は、本明細書および本明細書に開示の本発明の実施を考慮すれば当業者に明らかとなろう。本明細書および実施例は例示にすぎず、本発明の真の範囲および精神は添付の特許請求の範囲およびその均等物により示されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組のデュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの一部としての使用のための眼内レンズであって、前記眼内レンズが、
疎水性材料で形成された本体であって、前記本体が外表面を画定する、本体と;
前記本体の前記外表面の一領域上に配置されたコーティングであって、前記コーティングが、親水性材料または超疎水性材料で形成される、コーティングと
を含み、
i)前記本体およびコーティングが、第一眼内レンズを共に形成し;そして
ii)前記第一眼内レンズの前記コーティングが、前記第一および第二眼内レンズの両方が眼内に移植されたときに、前記第二眼内レンズの外表面に向かい合い、および反対を向くように構成される
眼内レンズ。
【請求項2】
前記第一眼内レンズおよび前記第二眼内レンズが、その間のレンズ間スペースを画定し、そして前記コーティングが、前記レンズ間スペースに直接隣接して位置し、および少なくとも部分的に前記レンズ間スペースを画定する、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記コーティングが、前記本体の前記領域上だけに配置されており、前記本体の実質部分が前記コーティングにより覆われていないままである、請求項1または2に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記実質部分が、前記本体の前記表面の少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%、場合によっては少なくとも60%である、請求項1、2または3に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
前記疎水性材料が、アクリレートベースの材料である、請求項1〜4のいずれかに記載の眼内レンズ。
【請求項6】
前記コーティングが、シリコーンベースの材料で形成される、請求項1〜5のいずれかに記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記疎水性材料の接触角が少なくとも40°であるが85°以下であり、前記超疎水性材料の接触角が少なくとも90°であり、前記親水性材料の接触角が50°以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の眼内レンズ。
【請求項8】
デュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの眼内レンズシステムであって、前記眼内レンズシステムが、
外表面を画定する本体と、前記本体の前記外表面の一領域上に配置されたコーティングとを含む第一眼内レンズであって、前記第一眼内レンズの前記本体が、疎水性材料で形成され、そして前記第一眼内レンズの前記コーティングが、親水性材料または超疎水性材料で形成される、第一眼内レンズと;
外表面を画定する本体を含む第二眼内レンズであって、前記第二眼内レンズが、前記第一レンズに隣接して配置され、これにより前記第一レンズと前記第二レンズとの間にレンズ間スペースを形成する、第二眼内レンズと
を含み、
i)前記第一眼内レンズの前記コーティングが、前記第二眼内レンズの前記外表面に向かい合い、および反対を向き;
ii)前記第一眼内レンズの前記コーティングが、前記レンズ間スペースに直接隣接して位置し、および少なくとも部分的に前記レンズ間スペースを画定する
眼内レンズシステム。
【請求項9】
前記第二眼内レンズが、親水性材料または超疎水性材料で形成されたコーティングを含む、請求項8に記載の眼内レンズシステム。
【請求項10】
前記第一眼内レンズおよび前記第二眼内レンズが、その間のレンズ間スペースを画定し、そして前記第一レンズの前記コーティング、前記第二レンズの前記コーティング、または両方が、前記レンズ間スペースに直接隣接して位置し、および少なくとも部分的に前記レンズ間スペースを画定する、請求項8または9に記載の眼内レンズシステム。
【請求項11】
前記第一レンズの前記コーティングが、前記本体の前記領域上だけに配置されており、前記本体の実質部分が前記コーティングにより覆われていないままである、請求項8、9または10に記載の眼内レンズシステム。
【請求項12】
前記実質部分が、前記本体の前記表面の少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%、場合によっては少なくとも60%である、請求項8〜11のいずれかに記載の眼内レンズシステム。
【請求項13】
前記疎水性材料が、アクリレートベースの材料である、請求項8〜12のいずれかに記載の眼内レンズシステム。
【請求項14】
前記コーティングが、シリコーンベースの材料で形成される、請求項8〜13のいずれかに記載の眼内レンズシステム。
【請求項15】
前記疎水性材料の接触角が少なくとも40°であるが85°以下であり、前記超疎水性材料の接触角が少なくとも90°であり、前記親水性材料の接触角が50°以下である、請求項8〜14のいずれかに記載の眼内レンズシステム。
【請求項16】
デュアルオプティック眼内レンズまたはピギーバック眼内レンズの眼内レンズシステムを作製および/または移植する方法であって、前記方法が、
外表面を画定する本体と、前記外表面の一領域上に配置されたコーティングとを有する第一眼内レンズを提供するステップであって、前記本体が疎水性材料で形成されており、そして前記コーティングが親水性材料または超疎水性材料で形成される、ステップと;
前記第一眼内レンズが眼内で第二眼内レンズに隣接して配置されるように、前記第一眼内レンズを前記眼内に移植するステップであって、前記第二レンズが、外表面を画定する本体を有し、前記第一および第二レンズが、前記眼内レンズシステムを共に形成し、そして前記第一および第二レンズが、前記第一および第二レンズの間のレンズ内スペースを画定する、ステップと
を含み、
i)前記第一眼内レンズの前記コーティングが、前記第二眼内レンズの前記外表面に向かい合い、および反対を向き;
ii)前記第一眼内レンズの前記コーティングが、前記レンズ間スペースに直接隣接して位置し、および少なくとも部分的に前記レンズ間スペースを画定する、
方法。
【請求項17】
前記眼内レンズシステムが、請求項9〜15のいずれかに記載されるように特徴づけられる、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−503710(P2013−503710A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528049(P2012−528049)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047697
【国際公開番号】WO2011/028917
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】