説明

レーザマーキング可能な組成物

レーザマーキング可能な組成物は、マーキング剤と有機化合物とを含有する。この有機化合物は、780nm〜2000nmの波長を有するレーザ放射を吸収することでマーキング剤を変色させる。また、この有機化合物は、少なくとも1.25の吸光度比Arを示す。吸光度比Arは、Ar=Ap780-2000nm/Aave400-700nmの式で定義される。ここで、Ap780-2000nmは、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度のピーク値である。また、Aave400-700nmは、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキング剤と、レーザ光を吸収して当該マーキング剤を変色させる有機化合物とを含有するレーザマーキング可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼き付け機構すなわち「焦がし(charring)」機構により、レーザ光を吸収する有機染料を用いて基材上にマーキングすることがよく知られている。有機染料がレーザ光を吸収することで、基材が過熱されて局所的な「焦がし」が生じる。これにより、濃淡のある像が基材上に形成される。しかし、このような焦がし機構は、基材を大きく傷める場合があるため、あらゆる用途に適しているわけではない。
【0003】
特許文献1(米国特許第6911262号)には、近赤外線吸収有機染料を用いてレーザ溶着を行う応用技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(米国特許第5627014号)には、従来技術として、近赤外線吸収有機染料を用いて有機ロイコ染料を着色化合物へ加工する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3(国際公開第05/012442号パンフレット)には、有機導電性ポリマーをNIR(近赤外線)吸収剤として用いてレーザマーキングを行う応用技術が開示されている。しかし、一般的な導電性ポリマーの溶液は、重量パーセントで2%未満の極めて低濃度の溶液であるため、配合に用いるためには不便である。一方、導電性ポリマー溶液の濃度を上げると、ゲル化及び凝集により不安定になる場合がある。また、導電性ポリマーは、高pH又は低pHの下で用いられる必要があり、そのために配合の自由度が下がってしまう。結果的に、これらの全ての要因により、導電性ポリマーを含有する最終的なインク配合物の品質保持期限を一定に保つことが困難になる。そして、固体の導電性ポリマーは、液体中に溶解及び分散させることが非常に難しい。そのため、固体の導電性ポリマーをインク配合物に用いるためには、多大な労力を要する。また、一般的に、導電性ポリマーは、可視光線の波長領域において高い吸光率を示す。そのため、導電性ポリマーは、人間の目に対しては黒っぽい色合いとして映ってしまうという問題点がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の基礎となる科学的発見について説明すると、電磁スペクトルの近赤外線(NIR)領域である780nm〜2000nmの波長を有する放射を吸収する有機化合物は、AOM(オクタモリブデン酸アンモニウム)ベースのインク配合物に含有されてNIR領域のレーザ放射を受けたときに、濃淡のある像を生じさせる。
【0007】
本発明の一の形態であるレーザマーキング可能な組成物は、マーキング剤と有機化合物とを含有する。この有機化合物は、780nm〜2000nmの波長を有するレーザ放射を吸収することで、マーキング剤を変色させる。また、この有機化合物は、780nm〜2000nmの波長領域において一の吸収ピークを示す。この吸収ピークは、少なくとも1.25の吸光度比Arを有する。なお、吸光度比Arは次式で定義される。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、Ap780-2000nmは、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度のピーク値である。また、Aave400-700nmは、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値である。
【0010】
本発明の他の形態は、本発明に係るレーザマーキング可能な組成物でコーティングされた基材、本発明に係るレーザマーキング可能な組成物を含有するインク配合物及び本発明に係るレーザマーキング可能な組成物を基材に塗布してレーザを放射することで像を当該基材上に形成する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
有機化合物とは、少なくとも1つの水素原子と共有結合している炭素原子を少なくとも1つ含む化合物である。一般的に、本発明における有機化合物は、2500未満の分子量を有している。ポリマーは、本発明に係る有機化合物に該当しない。ポリマーとは、構造単位と、共有化学結合によって接続された多数の繰り返し下位単位とから構成される鎖型分子である。
【0012】
一般的に、本発明における有機化合物は、少なくとも1.25、好ましくは2、より好ましくは3、さらにより好ましくは5の吸光度比Arを有する。吸光度比Arは次式で定義される。
【0013】
【数2】

【0014】
ここで、Ap780-2000nmは、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度のピーク値である。また、Aave400-700nmは、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値である。
【0015】
好ましくは、780nm〜2000nmの波長領域における吸収ピークは、この波長領域における最大吸収ピーク、すなわち、この波長領域において吸光度の大きさが最大となるピークである。理想的には、780nm〜2000nmの波長領域における吸収ピークは、全波長領域における最大吸収ピークである。
【0016】
ある特定の有機化合物の吸光度比Arを算出するためには、この有機化合物を適切な溶媒に溶かして、適切な分光光度計を用いて400nm〜2000nmの波長領域における吸光度を1nm間隔で測定する。また、ある特定の有機化合物の吸光度比Arを算出するためには、この有機化合物を含有するインクから得られる展色(drawdown)の吸光度特性を用いる。780nm〜2000nmの波長領域における吸光度ピークが、この波長領域又は全波長領域における最大吸光度ピークである場合、当該吸光度ピークを特に容易に特定することができる。そして、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の(算術)平均値Aave400-700nmは、次式により容易に決定することができる。
【0017】
【数3】

【0018】
ここで、Abs400-700nmは、400nm〜700nmの波長領域において、1nm間隔で算出した吸光度の総和である。また、nは、1nm間隔で吸光度を算出した回数である。この場合、nの値は300である。
【0019】
本発明における有機化合物は、一般的には、近赤外線染料あるいは近赤外線顔料として当業者に知られている非ポリマーの物質であるが、必ずしも非ポリマーには限定されない。理論による限定を考慮に入れない場合、本発明における有機化合物は、振動励起機構ではなくπ―π*遷移などの電子励起機構によって、NIR放射を吸収すると考えられる。
【0020】
有機化合物は、次に挙げる有機化合物群から選択されるが、必ずしもこれらに限定されない。当該有機化合物群は、メタロ・ポルフィリン(metallo−porphyrins)、メタロ・チオールエン(metallo−thiolenes)、メタロ・ポリチオールエン(metallo−polythiolenes)、メタロ・フタロシアニン(metallo−phthalocyanines)、これらのアゾ変異体(aza−variants)又は環化変異体(annellated variants)、ピリリウム塩(pyrylium salts)、スクアリリウム(squaryliums)、クロコニウム(croconiums)、アンミニウム(amminiums)、ジイモニウム(diimoniums)、シアニン(cyanines)及びインドレニン・シアニン(indolenine cyanines)から成る。
【0021】
本発明において使用できる有機化合物の例は、特許文献1(米国特許6911262号)に開示されており、また、Developments in the Chemistry and Technology of Organic dyes(J.Griffiths(編)、Blackwell Scientific(刊)、Oxford、1984年)及びInfrared Absorbing Dyes(M.Matsuoka(編)、Plenum Press(刊)、New York、1990年)に記載されている。また、本発明における近赤外線染料あるいは近赤外線顔料の追加例として、次に挙げる製品がある。当該製品とは、Epolight(登録商標)シリーズ(Epolin社、米国・ニュージャージー州・Newark)、ADSシリーズ(American Dye Source Inc.社、カナダ・ケベック州)、SDAシリーズ及びSDBシリーズ(HW Sands社、米国・フロリダ州・Jupiter)、Lumogen(登録商標)シリーズ(BASF社、ドイツ)の特にLumogen(登録商標)IR765、IR788及びIR1055、Pro−Jet(登録商標)シリーズの染料(FujiFilm Imaging Colorants社、英国・マンチェスター・Blackley)の特にPro−Jet(登録商標)830NP,900NP,825LDI及び830LDI、Filtron(登録商標)シリーズ(Gentex Corporation社、米国・ペンシルベニア州・Simpson)及びOrganica Feinchemie GmbH社(ドイツ・Wolfen)の製品である。
【0022】
本発明における有機化合物は、非イオン、陽イオン、陰イオン、又は双性イオンの特性を有してもよい。また、本発明における有機化合物は、水溶性、水分散性、溶媒可溶性あるいは溶媒分散性の特性を有してもよい。
【0023】
有機化合物の特に好ましい例は、可視光線の吸光率が極めて小さいため、インク配合物に混合されて基材上に展色された場合に、人間の目には無色又はほとんど無色に見える化合物である。しかし、当該有機化合物を染料として用いる場合は有色であってもよく、この場合、染料と同じ色合いを有する基材上に用いることに適している。例えば、茶色又はベージュの染料及び顔料は、段ボールに用いることに適している。
【0024】
有機化合物の特に好ましい他の例は、使用するレーザビームの動作波長あるいはその近傍の動作波長、好ましくは当該動作波長から±50nmの範囲内にある動作波長において、吸光度ピーク、特に最大吸光度ピーク(範囲780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値、あるいは全波長領域における吸光度の最大値)を示す化合物である。
【0025】
本発明における有機化合物は、ヒドロキシリン酸銅(II)(CHP、copper (II) hydroxide phosphate)など、AOMと作用することが知られている他のNIR吸収剤にはない大きな利点がある。本発明における有機化合物は、比較的低濃度、一般的には配合物における重量パーセントが5%未満であっても、顕著な効果を有する。一方、CHPは、一般的には20%を超える濃度が必要とされる。
【0026】
本発明においては、有用なIR(赤外線)吸収剤あるいはIR顕色材として有機化合物が用いられる。レーザ光源からの放射を吸収した当該有機化合物は、レーザ光源より長い波長の放射を受けることで所望の反応を示す他の成分と組み合わされた場合に、直ちに発色反応を生じさせる。例えば、この有機化合物を、基材に塗布されるコーティング材の成分であるオキシ金属陰イオン(oxymetal anion)と組み合わせて用いることで、明瞭な色付き像を形成することができる。あるいは、この有機化合物を、発色成分と組み合わせて用いることで、明瞭な色付き像を形成することができる。
【0027】
本発明によって、ファイバレーザ、ダイオードレーザ、ダイオードアレイレーザ及びCO2レーザ等を用いて包装等に像を形成する応用技術が実現する可能性がある。今までの実験で分かったことは、本発明に係るレーザマーキング可能な組成物を含有する液状の塗膜形成インクを種種の基材上に塗布すると、明瞭な色変化を示すことができるコーティングが形成され、当該基材は近赤外線光源からの放射に対しても良好な結果を示すということである。
【0028】
本発明における有機化合物は、好ましくは変色化学反応に使用可能であり、好ましくは吸収スペクトルの可視領域における吸光度がゼロあるいは極めて小さく、好ましくは780nm〜2000nmの波長領域における放射を効率的に吸収する。特に好ましくは、本発明における有機化合物は、使用するレーザビームの動作波長あるいはその近傍の動作波長において、吸光度ピーク、特に最大吸光度ピーク(範囲780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値、あるいは全波長領域における吸光度の最大値)を示す。また、本発明における有機化合物は、好ましくは200℃を超える温度における熱的安定性を有すると共に、光安定性及び耐候性が良好である。また、好ましくは、本発明における有機化合物を含有する最終的なコーティング配合物は、無色あるいはほとんど無色である。さらに好ましくは、本発明における有機化合物を含有する近赤外線染料あるいは近赤外線顔料は、水に対して安定であり、水に対する溶解度が極めて小さく、水性バインダ(water−based binders)又は一般的な有機溶媒と混合可能であって、環境にやさしく、入手が容易であり、無毒である特徴を持つ。
【0029】
本発明に係る組成物には、上述した有機化合物の他に、上述した刊行物に記載される物質が含まれてもよい。本発明における一の実施形態において、ポリ金属塩(poly−metal salt)と付加的なマーキング剤とを組み合わせて用いることで、合成色を実現することができる。このマーキング剤には様々な物質が使用でき、例として、染料前駆体(dye precursor)、顕色体(colour developer)と染料前駆体との混合物、オキシ金属塩(oxy metal salt)、オキシ金属塩と染料前駆体との混合物、オキシ金属錯体(oxy metal complex)及びオキシ金属錯体と染料前駆体との混合物などが挙げられる。その他の適切なマーキング剤には、顔料前駆体(pigment precursors)がある。以上の全てのマーキング剤は、ポリマー化あるいはハロゲン化することができる。また、セルロース系の物質あるいは砂糖もマーキング剤として用いることができる。「焦がし」可能なポリマー及び砂糖の例として、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、ヒドロキシルプロピルセルロース(hydroxypropylcellulose)、フルクトース、グルコース、スクロース及びデンプンなどが挙げられる。
【0030】
上述した全ての活性物質は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリンあるいは雲母などの不活性物質の上で支持される。
【0031】
本発明に用いられる好ましいマーキング剤は、オキシ金属陰イオンを含む化合物である。一般的に、オキシ金属陰イオンは塩と結合することで、ファイバレーザ、ダイオードレーザ、ダイオードアレイレーザあるいはCO2レーザによるマーキングが可能となる。適切なオキシ金属陰イオン成分の例として、オクタモリブデン酸アンモニウム(AOM、ammonium octamolybdate)、ビス[2−(エチルヘキシルアミン)]モリブデン酸塩(bis[2−(ethylhexylamine)]molybdate)又はジ(シクロヘキシルアミン)モリブデン酸塩(di(cyclohexylamine)molybdate)などの様様な物質が挙げられる。適切なインク配合物は、これらのマーキング剤を重量パーセントで10%〜50%含有する。
【0032】
本発明に係るレーザマーキング可能な組成物は、発色成分を含有してもよい。発色成分として用いられるいくつかの物質は、当業者によく知られている。適切な発色成分の例として、フタリド(phthalides)等の電子供与物質、フルオラン(fluorans)及びクリスタルバイオレットラクトン(crystal violet lactone)等のロイコ染料などの様様な既知の物質が挙げられる。また、発色成分としてルイス酸(Lewis acids)を用いてもよい。この場合、ルイス酸は、電子受容型(electron−accepting)又は酸発生型(acid−generating)のいずれでもよい。ルイス酸の例として、ヒドロキシベンゾアート(hydroxybenzoate)、ビスフェノールA(bisphenol A)及びステアリン酸亜鉛(zinc stearate)等が挙げられる。
【0033】
本発明に係る組成物を、溶媒、非溶媒及びソルベントレスバインダシステム(solvent−less binder systems)中において生成することができる。ソルベントレスバインダシステムとは、タンポ印刷インク及びUV(紫外線)硬化インク等である。バインダは、水溶、アルカリ可溶あるいはエマルションポリマーであってもよい。バインダの例として、ポリビニルアルコール(例えば、Gohsenol GH−17が利用可能である)、アクリルエマルション(例えば、Scott Bader社のTexicryl 13−011が利用可能である)、Ineos社のElvacite 2013、2028、2043あるいは30、ポリビニルブチラール(例えば、Pioloformが利用可能である)及びニトロセルロース等が挙げられる。これらのバインダの含有量は、重量パーセントで10%〜50%である。
【0034】
また、ヒュームドシリカ(fumed silica)あるいはステアリン酸亜鉛などの顔料を、重量パーセントで10%〜50%の含有量で使用してもよい。その他の物質としては、酸化防止剤、還元剤、潤滑剤、界面活性剤、顔料、増感剤及び消泡剤のいずれか1つ以上を使用してもよい。
【0035】
本発明を用いたインク(例えば、溶液、分散液あるいは懸濁液など)を配合する際に、保持液体(carrier liquid)あるいは溶媒は、水性あるいは有機性であってもよい。このとき、他の成分は適宜に選択される。保持液体は、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、エタノールあるいは酢酸エチルなどの有機溶媒もしくは水であってもよく、これらを含有する液体であってもよい。また、保持液体は、アミン及び/又は界面活性剤を、好ましくは重量パーセントで20%〜80%程度含有してもよい。組成物を調製するためには、ポリビニルアルコールなどの水性ポリマーバインダ溶液、及びアクリル樹脂などの塗膜形成エマルションに含まれる成分を分散させる。これらの組成物は、以下のいずれかの方法で生成することができる。
【0036】
(a) 機械的混合、例えば先尖後翼器具による撹拌(leading edge−trailing blade stirring)。
【0037】
(b) セラミックボールによる破砕及び粉砕。
【0038】
(c) Silverson社製のミキサーによる混合。
【0039】
(d) ガラスビーズによる機械的粉砕、例えばEiger Torrance社製の電動ミル(motormill)による粉砕。
【0040】
(e) Ultra Turraxホモジナイザーの使用。
【0041】
(f) 乳鉢及び乳棒による破砕。
【0042】
液状の塗膜形成インクを種種の基材上へ塗布することで、明瞭な色変化を実現できるコーティングを形成することができる。コーティングされた基材が近赤外線光源からの放射を受けると、主にインク配合物に依存して、非常に様様な結果がもたらされる。ファイバレーザ、ダイオードレーザあるいはダイオードアレイレーザの放射を受けることで黒い像を効率的に形成することができるので、非化学量論(non−stoichiometric)化合物及びオキシ金属陰イオン等を含有する本発明に係る組成物を、活性化源(activating source)を区別するために利用することもできる。
【0043】
本発明に係る組成物を用いて、浸漬コーティング(flood−coating)及びフレキソ・グラビア印刷等の様様な方法に応用可能な近赤外線感光コーティングを形成することができる。紙、板紙、弾力性のあるプラスチック膜及び段ボール等の様様な基材に対して、当該コーティングを使用することができる。
【0044】
本発明において使用することができる他の溶剤として、紫外線硬化性フレキソインク、紫外線硬化性オフセットインク、従来のオフセットインク、溶融押し出し可能なポリマー(melt−extrudable polymer)及び粉体塗料が挙げられる。
【0045】
以下に、本発明の実施例を記載する。これらの実施例は、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0046】
MEK(メチルエチルケトン)ベースのインクを次の物質を配合して作成した。
【0047】
(1) 25gのElvacite 2028。この物質は、Lucite International社製の低分子量のメタクリル酸共重合体(methacrylate copolymer)である。
【0048】
(2) 1gのN,N,N′,N′−テトラキス(4−ジブチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノン・ビス(イミニウムヘキサフロロアンチモネート)(N,N,N′,N′−tetrakis(4−dibutylaminophenyl)−p−benzoquinone bis(iminium hexa−fluoroantimonate))。この物質は、ADS1065A(ADSdyes社、カナダ・ケベック州)等の近赤外線染料である。ADS1065Aの構造式を次に示す。
【0049】
【化1】

【0050】
(3) 25gのオクタモリブデン酸アンモニウム。例えば、Climax Molybdenum社の工業用製品が使用可能である。
【0051】
(4) 49gのメチルエチルケトン。例えば、Aldrich社製の99%ACS試薬が使用可能である。
【0052】
以上の物質の配合物を、Silverson社製ミキサーを用いて10分間混合した後に、HiFi社製等の50ミクロンPET(ポリエチレンテレフタレート)膜上に4.0gsm±1.0gsmのコーティングウェイト(coat weight)で展色した。
【0053】
次に、IBM互換PCに接続されたVarian Cary 5000 UV−VIS−NIR分光計を用いて、展色の吸光度スペクトルを200nm〜2500nmの波長領域で測定した。この測定データを用いて、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値及び780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値を算出した。その結果、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値は0.186であり、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値は1.035であった。従って、吸光度比Arは5.57と算出された。
【0054】
次に、出力3.8W、波長963nmのダイオードレーザ及び出力3.65W、波長1066nmのファイバレーザを用いてマーキングを行なった。ガルボ走査ヘッド(galvo scanning head)に両レーザを嵌合させ、既知の時間すなわち既知の流束量で、両レーザを用いて1cm2の像を形成することで光学濃度を測定した。光学濃度(OD)は、Gretag−MacBeth社のSpectroEyeを用いて、照明D65、視野10°及び黒濃度測定モードで測定した。
【0055】
光学濃度を0.5増加させるために必要な流束量を次に示す。
【0056】
【表1】

【実施例2】
【0057】
エタノールB/酢酸エチルインクを次の物質を配合して作成した。
【0058】
(1) 6.5gのPioloform BN−18。この物質は、Wacker Polymer Systems社製のポリビニルブチラール樹脂である。
【0059】
(2) 1.8gのニトロセルロース。この物質は、Noble Enterprises社製の品質レベル(grade)DCX 3−5の製品である。
【0060】
(3) 2.3gのCasathane 920。この物質は、Thomas Swan & Co Ltd社製の可塑性を有するポリウレタン(plasticizing polyurethane)である。
【0061】
(4) 1gのセバシン酸ジブチル(dibutyl sebacate)。この物質は、Eastman社製の可塑剤である。
【0062】
(5) 1.1gのVilosyn 339。この物質は、VIL Resins社製のアルコール可溶な樹脂である。
【0063】
(6) 1.7gのCrayvallac WS−4700。この物質は、Cray Valley社製のイソプロピルアルコールベースのポリエチレンワックス分散液である。
【0064】
(7) エタノール及び酢酸エチルを3:1の比率で混合した54.6gの溶媒。この溶媒は、実験室での使用における標準的な品質を有する。
【0065】
(8) 30gのオクタモリブデン酸アンモニウム。
【0066】
(9) 1.0gのADS1065A。
【0067】
以上の物質の配合物を、Eiger−Torrance社製の容量50mlのビーズミル(bead mill)を用いて15分間粉砕した後に、HiFi社製等の50ミクロンPET膜上に4.0gsm±1.0gsmのコーティングウェイトで展色した。
【0068】
展色の吸光度スペクトルを測定した結果、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値は0.166であり、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値は1.02であった。従って、吸光度比Arは6.13と算出された。
【0069】
光学濃度を0.5増加させるために必要な流束量を次に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
次に、3.0gsm±0.5gsmのコーティングウェイトで、本実施例に係るインク配合物を「カード」型基材上に塗布した。カード型基材としては、ナチュラルトップライナー(natural top liner)及びSmurfit−Stone社製クラフトライナー(42ポンド)を使用した。
【0072】
そして、波長1066nmのファイバレーザを用いて、これらのコーティングされたカード型基材上に像を形成した。その結果、それぞれのカード型基材に、機械が読み取り可能なバーコード及び人間が読み取り可能な文字列を形成することができた。
【実施例3】
【0073】
水性インクを次の物質を配合して作成した。
【0074】
(1) 37gのUH−5000。この物質は、Scott−Bader社製のアクリルのPUバインダである。
【0075】
(2) 24gのGlascol LS−2。この物質は、CibaSC社製の改良アクリル水性エマルション(modified acrylic aqueous emulsion)である。
【0076】
(3) 1gのDispelair CF−49。この物質は、Blackburn Chemicals社製の消泡剤である。
【0077】
(4) 4gのGlaswax E1。この物質は、CibaSC社製のPE(ポリエチレン)ワックスのエマルションである。
【0078】
(5) 2.5gのTyzor LA。この物質は、DuPont社製の乳酸チタン酸接着促進剤(lactic acid titanate adhesion promoter)である。
【0079】
(6) 0.5gのAerosil 200。この物質は、Degussa社製のヒュームドシリカ抗硬化剤(fumed silica anti−setting agent)である。
【0080】
(7) 30gのオクタモリブデン酸アンモニウム。
【0081】
(8) 1.0gのEpolight(登録商標)2164。この物質は、Epolin社(米国・ニュージャージー州・Newark)製の1価トリスアンミニウム染料(monovalent tris−amminium dye)である。
【0082】
以上の物質の配合物を、Eiger−Torrance社製の容量50mlのビーズミル(bead mill)を用いて15分間粉砕した後に、HiFi社製等の50ミクロンPET膜上に10.0gsm±1.0gsmのコーティングウェイトで展色した。
【0083】
展色の吸光度スペクトルを測定した結果、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値は0.146であり、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値は0.391であった。従って、吸光度比Arは2.68と算出された。
【0084】
光学濃度を0.5増加させるために必要な流束量を次に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
次に、3.0gsm±0.5gsmのコーティングウェイトで、本実施例に係るインク配合物をカード型基材上に塗布した。カード型基材としては、ナチュラルトップライナー(natural top liner)及びSmurfit−Stone社製クラフトライナー(42ポンド)を使用した。
【0087】
そして、波長1066nmのファイバレーザを用いて、これらのコーティングされたカード型基材上に像を形成した。その結果、それぞれのカード型基材に、機械が読み取り可能なバーコード及び人間が読み取り可能な文字列を形成することができた。
【実施例4】
【0088】
実施例2に記載のエタノールB/酢酸エチルインク配合物に含有されるADS1065Aを、1gのSDA 9158(HW Sands Corp社製)に置換したインクを配合した。
【0089】
得られたインクを、10gsm±1gsmのコーティングウェイトで、複数層から成るポリエチレンベースの膜に塗布した。
【0090】
展色の吸光度スペクトルを測定した結果、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値は0.101であり、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値は0.898であった。従って、吸光度比Arは8.9と算出された。
【0091】
次に、波長808nmで動作する個別アドレス指定されたダイオードアレイ・レーザシステムを用いてマーキングを行った。その結果、人間が読み取り可能な文字列を形成することができた。
【実施例5】
【0092】
実施例2に記載のエタノールB/酢酸エチルインク配合物に含有されるADS1065Aを、1gのSDA 9800(HW Sands Corp社製)に置換したインクを配合した。
【0093】
得られたインクを、10gsm±1gsmのコーティングウェイトで、複数層から成るポリエチレンベースの膜に塗布した。
【0094】
展色の吸光度スペクトルを測定した結果、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値は0.151であり、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度の最大値は0.912であった。従って、吸光度比Arは6.0と算出された。
【0095】
次に、波長98nmで動作する個別アドレス指定されたダイオードアレイ・レーザシステムを用いてマーキングを行った。その結果、人間が読み取り可能な文字列を形成することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0096】
【特許文献1】米国特許第6911262号
【特許文献2】米国特許第5627014号
【特許文献3】国際公開第05/012442号パンフレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーキング剤と有機化合物とを含有するレーザマーキング可能な組成物であって、前記有機化合物は780nm〜2000nmの波長を有するレーザ放射を吸収することで前記マーキング剤を変色させると共に、前記有機化合物は少なくとも1.25の吸光度比Arを有し、前期吸光度比Arは、
【数1】

(ここで、Ap780-2000nmは、780nm〜2000nmの波長領域における吸光度のピーク値であり、Aave400-700nmは、400nm〜700nmの波長領域における吸光度の平均値である。)の式で定義されるレーザマーキング可能な組成物。
【請求項2】
前記マーキング剤は、前記有機化合物が存在しない状態において、780nm〜2000nmではなく2000nmを超える波長を有するレーザ放射に反応して変色する請求項1に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項3】
前記有機化合物は、少なくとも2の前期吸光度比Arを有する請求項1又は2に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項4】
前期吸光度比Arは、少なくとも3である請求項3に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項5】
前期吸光度比Arは、少なくとも5である請求項3に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項6】
前記吸光度のピーク値は、全波長領域における最大の吸光度のピーク値である請求項1乃至5に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項7】
前記有機化合物は、2500未満の分子量を有する請求項1乃至6に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項8】
前記有機化合物は、近赤外線吸収染料又は近赤外線吸収顔料である請求項1乃至7に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項9】
前記有機化合物は、電子吸収機構によって近赤外線放射を吸収する請求項1乃至8に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項10】
前記有機化合物は、メタロ・ポルフィリン(metallo−porphyrin)、メタロ・チオールエン(metallo−thiolene)、ポリチオールエン(polythiolene)、メタロ・フタロシアニン(metallo−phthalocyanine)、これらの任意のアゾ変異体(aza−variant)又は環化変異体(annellated variant)、ピリリウム(pyrylium)、スクアリリウム(squarylium)、クロコニウム(croconium)、アンミニウム(amminium)、ジイモニウム(diimonium)、シアニン(cyanine)及びインドレニン・シアニン(indolenine cyanine)から成る群から選択される請求項1乃至9に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項11】
前記有機化合物は、非イオン、陽イオン、陰イオン、又は双性イオンである請求項10に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項12】
前記有機化合物は、水溶性、水分散性、溶媒可溶性又は溶媒分散性である請求項10又は11に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項13】
前記マーキング剤は、オキシ金属陰イオンを含む化合物である請求項1乃至12に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項14】
前記マーキング剤は、モリブデン酸塩(molybdate)である請求項13に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項15】
前記マーキング剤は、オクタモリブデン酸塩(octamolybdate)である請求項14に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項16】
前記マーキング剤は、オクタモリブデン酸アンモニウム(ammonium octamolybdate)である請求項15に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項17】
前記レーザマーキング可能な組成物は、発色化合物をさらに含有する請求項1乃至16に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項18】
前記レーザマーキング可能な組成物は、バインダをさらに含有する請求項1乃至17に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項19】
前記レーザマーキング可能な組成物は、水性である請求項1乃至18に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項20】
前記レーザマーキング可能な組成物は、有機溶媒をさらに含有する請求項1乃至19に記載のレーザマーキング可能な組成物。
【請求項21】
請求項1乃至20に記載のレーザマーキング可能な組成物を含有するインク配合物。
【請求項22】
請求項1乃至21に記載のレーザマーキング可能な組成物又はインク配合物でコーティングされた基材。
【請求項23】
紙、段ボール、プラスチック、布地、木材、金属、ガラス、革、食材又は医薬組成物を含有する請求項22に記載の基材。
【請求項24】
請求項1乃至21に記載のレーザマーキング可能な組成物又はインク配合物を基材上に塗布する工程と、前記基材にレーザを放射する工程とから成る、前記基材上に像を形成する方法。
【請求項25】
前記レーザは、ファイバレーザ、ダイオードレーザ、ダイオードアレイレーザ又はCO2レーザから成る群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記レーザは、780nm〜2000nmの動作波長を有する請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記基材は、請求項22において定義された基材である請求項24乃至26に記載の方法。

【公表番号】特表2010−514587(P2010−514587A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533957(P2009−533957)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050647
【国際公開番号】WO2008/050153
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(507055925)データレース リミテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】DATALASE LTD.
【Fターム(参考)】