説明

レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法

【課題】ラジカル重合性化合物と光熱変換剤としてカーボンブラックとを併用した際に、十分な塗布液安定性と、塗布後のラジカル重合性組成物の反応性を損なうことなく、十分な力学強度を有するレリーフ印刷版を製造可能なレーザー彫刻用樹脂組成物を提供すること。更に、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供すること。
【解決手段】(成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック、及び、(成分B)ラジカル重合性化合物を含有することを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体表面積に積層された感光性樹脂層に凹凸を形成して印刷版を形成する方法としては、感光性組成物を用いて形成したレリーフ形成層に、原画フィルムを介して紫外光により露光し、画像部分を選択的に硬化させて、未硬化部を現像液により除去する方法、いわゆる「アナログ製版」がよく知られている。
レリーフ印刷版は、凹凸を有するレリーフ層を有する凸版印刷版であり、このような凹凸を有するレリーフ層は、主成分として、例えば、合成ゴムのようなエラストマー性ポリマー、熱可塑性樹脂などの樹脂、或いは、樹脂と可塑剤との混合物を含有する感光性組成物を含有するレリーフ形成層をパターニングし、凹凸を形成することにより得られる。このようなレリーフ印刷版のうち、軟質なレリーフ層を有するものをフレキソ版と称することがある。
【0003】
レリーフ印刷版をアナログ製版により作製する場合、一般に銀塩材料を用いた原画フィルムを必要とするため、原画フィルムの製造時間及びコストを要する。更に、原画フィルムの現像に化学的な処理が必要で、かつ現像廃液の処理をも必要とすることから、更に簡易な版の作製方法、例えば、原画フィルムを用いない方法、現像処理を必要としない方法などが検討されている。
【0004】
近年は、原画フィルムを必要とせず、走査露光によりレリーフ形成層の製版を行う方法が検討されている。
原画フィルムを必要としない手法として、レリーフ形成層上に画像マスクを形成可能なレーザー感応式のマスク層要素を設けたレリーフ印刷版原版が提案されている。この原版の製版方法によれば、画像データに基づいたレーザー照射によりマスク層要素から原画フィルムと同様の機能を有する画像マスクが形成されるため、「マスクCTP方式」と称されており、原画フィルムは必要ではないが、その後の製版処理は、画像マスクを介して紫外光で露光し、未硬化部を現像除去する工程であり、現像処理を必要とする点でなお改良の余地がある。
【0005】
現像工程を必要としない製版方法として、レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。直彫りCTP方式は、文字通りレーザーで彫刻することにより、レリーフとなる凹凸を形成する方法で、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができるという利点がある。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、或いは、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をする、なども可能である。
しかしながら、所定の厚みを有するレリーフ形成層に印圧に耐える凹凸を有するレリーフを形成するには高エネルギーを要し、レーザー彫刻の速度が遅いため、マスクを介して画像形成するタイプに比較し、生産性が低いという問題がある。一方、レジストとして使用する感光性樹脂組成物としては、特許文献1及び特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−26950号公報
【特許文献2】特開2008−81732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
彫刻型樹脂組成物を形成する際に、樹脂組成物の十分な力学強度を確保する為、ラジカル重合性組成物硬化系を用いる方式が知られている。また、フレキソ版のレーザー彫刻適性を確保する為に、光熱変換剤であるカーボンブラックを用いる系が知られている。
本発明者は、鋭意検討の結果、ラジカル重合性組成物の反応性は、用いるカーボンブラックによって変化し、カーボンブラックの表面状態によっては塗布液として保存した際、暗重合を引き起こしてしまう為、十分な液安定性を保つことができないこと、更に、逆に塗布を行った後、熱などによりラジカル重合性組成物を反応する際に、反応を阻害し、十分な硬化物を得られないことがあることを見出した。
【0008】
本発明の目的は、ラジカル重合性化合物と光熱変換剤としてカーボンブラックとを併用した際に、十分な塗布液安定性と、塗布後のラジカル重合性組成物の反応性を損なうことなく、十分な力学強度を有するレリーフ印刷版を製造可能なレーザー彫刻用樹脂組成物を提供することである。更に、本発明の他の目的は、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は以下の<1>、<9>〜<12>及び<15>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<8>、<13>及び<14>と共に以下に記載する。
<1> (成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック、及び、(成分B)ラジカル重合性化合物を含有することを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物、
<2> 成分Bがエチレン性不飽和化合物である、<1>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<3> 成分Bが(メタ)アクリロイル基を有する化合物である、<1>又は<2>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
<4> (成分C)重合開始剤を更に含有する、<1>〜<3>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<5> 成分Cが、熱重合開始剤である、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<6> 成分Aが、ヒドロキシ基反応性化合物により表面修飾することにより得られる、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<7> 成分Aが、80℃以上の加熱条件で30分以上加熱処理することにより得られる、<1>〜<6>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<8> (成分D)バインダーポリマーを更に含有する、<1>〜<7>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<9> <1>〜<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<10> <1>〜<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を熱架橋した架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<11> <1>〜<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<12> <1>〜<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含むレリーフ印刷版の製版方法、
<13> 前記レーザー彫刻を700〜1,300nmのレーザーにより行う、<12>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<14> 彫刻後のレリーフ層表面を水又は水溶液により洗浄する洗浄工程を更に含む、<12>又は<13>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<15> <12>〜<14>のいずれか1つに記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラジカル重合性化合物と光熱変換剤としてカーボンブラックを併用した際に、十分な塗布液安定性と、塗布後のラジカル重合性組成物の反応性を損なうことなく、十分な力学強度を有するレリーフ印刷版を製造可能なレーザー彫刻用樹脂組成物を提供することができた。更に、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、数値範囲を表す「下限〜上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。また、「((成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック」等を単に「成分A」等ともいう。
【0012】
(レーザー彫刻用樹脂組成物)
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック、及び、(成分B)ラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻が施されるレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層用途以外にも、特に限定なく、他の用途にも広範囲に適用することができる。例えば、以下に詳述する凸状のレリーフ形成をレーザー彫刻により行う印刷版原版のレリーフ形成層のみならず、表面に凹凸や開口部を形成する他の製造物、例えば、凹版、孔版、スタンプ等、レーザー彫刻により画像形成される各種印刷版や各種成形体の形成に適用することができる。
中でも、適切な支持体上に設けられるレリーフ形成層の形成に適用することが好ましい態様である。
【0013】
なお、本明細書では、レリーフ印刷版原版の説明に関し、レーザー彫刻に供する画像形成層としての、表面が平坦な層であり、かつ未架橋の架橋性層をレリーフ形成層と称し、前記レリーフ形成層を架橋した層を架橋レリーフ形成層と称し、これをレーザー彫刻して表面に凹凸を形成した層をレリーフ層と称する。
以下、レーザー彫刻用樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0014】
<(成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック(以下、特定カーボンブラックともいう。)を含有する。
【0015】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、光熱変換剤として、(成分A)特定カーボンブラックを含有する。光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。カーボンブラック上の水酸基等の存在により、樹脂組成物中のラジカル発生化合物、ラジカル重合性基などと反応、及び/又は相互作用することにより、ラジカル重合性樹脂組成物の反応性を阻害したり、重合禁止剤などと反応、及び/又は相互作用することにより、効果的な重合抑制を行うことができなくなってしまう。
【0016】
成分AのBoehm滴定により測定した水酸基価は、0〜0.030meq/gである。水酸基価が0.030meq/gを超えると、保存安定性が低下すると共に、得られるレリーフ形成層及びレリーフ層の膜強度が低下する。
成分Aの水酸基価は、0〜0.028meq/gであることがより好ましく、0〜0.025meq/gであることが更に好ましい。
なお、一般に上市されているカーボンブラックの水酸基価は、窒素吸着比表面積にもよるが、窒素吸着比表面積が70m2/g以上の粒子であれば、0.030meq/gを超えるものであり、通常0.04〜0.06meq/g程度である。
【0017】
水酸基価の測定方法としては、Angew.Chem.,76(1964),742〜に記載の方法に従い、測定を行うことができる。
より詳細には、酸性を示す表面官能基を各種アルカリで中和することにより、その量を定量するものである。アルカリとしてNaHCO3を用いると最も酸性の強いカルボキシル基が、Na2CO3を用いるとカルボキシル基と弱酸のラクトン型カルボキシル基が、NaOHを用いるとカルボキシル基とラクトン型カルボキシル基とフェノール性水酸基が、それぞれ定量できる。これらより、カルボキシル基、ラクトン型カルボキシル基、フェノール性水酸基の量を個別に算出することができる。本発明において、水酸基とは、上記の滴定により定量されるフェノール性水酸基を意味する。
【0018】
加熱処理や、水酸基と反応性を有する化合物による表面修飾などにより、カーボンブラック上の水酸基数を低減することができる。
より具体的には、熱処理、及び、水酸基と反応性を有する化合物による表面処理が挙げられる。これらの処理により、カーボンブラック粒子の表面の水酸基は除去、又は、他の官能基に変換される。
【0019】
水酸基低減の為の加熱処理としては、特に限定されないが、80℃〜300℃の加熱処理が好適に用いられる。加熱温度は100℃〜250℃がより好ましく、150℃〜200℃が更に好ましい。
また、加熱時間は特に限定されないが、30分以上であることが好ましく、1〜72時間が好ましく、6〜72時間がより好ましく、24〜72時間が更に好ましい。
加熱雰囲気は特に限定されないが、非酸化性雰囲気下で加熱することにより、水酸基価を効果的に低減させることができる。減圧下での加熱又は不活性ガス雰囲気下での加熱が好ましく、不活性ガスとしては、例えば、ArやN2、Heなどのガスを好適に使用できる。また、減圧下で加熱する場合には、3mmHg以下とすることが好ましく、1〜0.001mmHgとすることがより好ましく、0.05〜0.001mmHgとすることが更に好ましい。
【0020】
水酸基低減の為の表面修飾としては、特に限定されず、水酸基と反応性を有する化合物であればよい。好適には、アルコールによるアルコキシ化処理、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等の還元試薬による処理、シランカップリング剤による処理、フッ素ガスによる処理、酸塩化物、酸無水物、ハロゲン化アルカンなどによる表面処理が用いられる。特に好ましくは酸塩化物を用いた表面処理である。
表面修飾に使用される酸塩化物としては、カルボン酸塩化物、例えばアセチルクロリド、ブチリルクロリド、3,3−ジメチルブチリルクロリド、クロログリオキシル酸エチル、クロログリオキシル酸メチル、シクロヘキサンカルボニルクロリド、シクロペンタンカルボニルクロリド、1−アダマンタンカルボニルクロリド、2−アセトキシイソブチリルクロリド、2−アセトキシプロピオニルクロリド、2−アセトキシアセチルクロリド、3−(アセチルチオ)イソ酪酸クロリド、アセトキシプロピオニルクロリド);スルホン酸塩化物、例えば1−ブタンスルホニルクロリド、ベンジルスルホニルクロリド、イソプロピルスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、1−プロパンスルホニルクロリド、1−オクタンスルホニルクロリド;酸無水物、例えば、無水酢酸、酪酸無水物、アラキジン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボンサン無水物、デシル琥珀酸無水物、(+)−が例示される。
より具体的には、酸無水物や酸塩化物を用いる場合はトリエチルアミンなど塩基存在下、カーボンブラック粉末とカルボン酸塩化物、スルホン酸塩化物、酸無水物、などとを撹拌することで表面修飾を行うことができる。シランカップリング剤を用いる場合は、トリエチルアミンや水酸化ナトリウム水溶液などの塩基化合物や、酢酸などの酸化合物存在下、カーボンブラック粉末とシランカップリング剤を撹拌することで表面処理を行うことができる。
表面処理剤としては、特に限定されるものではないが、反応性の観点から1−ブタンスルホニルクロリド、ベンジルスルホニルクロリド、イソプロピルスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、1−プロパンスルホニルクロリド、1−オクタンスルホニルクロリドが好ましく、1−ブタンスルホニルクロリド、イソプロピルスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、1−プロパンスルホニルクロリド、1−オクタンスルホニルクロリドがより好ましく、1−ブタンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、1−プロパンスルホニルクロリドが更に好ましい。
【0021】
本発明において、成分Aの窒素吸着比表面積(N2SA)は70m2/g以上である。N2SAが70m2/g未満であると、フィラー効果が低減されてしまい、膜強度は低下する。また、彫刻用レーザー光源を照射し、彫刻する際に十分な光熱変換効率が得られず、感度が低下してしまう。
2SAは、70〜400m2/gであることが好ましく、75〜400m2/gであることがより好ましく、80〜400m2/gであることが更に好ましい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積はJIS K 6217−2(2002年版)の方法に従い測定される。
【0022】
本発明におけるカーボンブラックとしては、用いる彫刻用レーザー光源の波長に対応していればよい。波長700nm〜1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合には、本発明におけるレリーフ形成層は、700nm〜1,300nmの波長の光を吸収可能なカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0023】
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。
【0024】
本発明においては、上記のように、N2ASが70m2/g以上のカーボンブラックを所望の水酸基量となるように処理して使用することが好ましい。好適なカーボンブラックとしては、特に限定されず、例えばCARBON BLACK年鑑(No.53、2003)に記載のカーボンブラックを使用することができる。
また、具体的には、Printex(登録商標)U、Printex(登録商標)A、Printex(登録商標)300、HIBLACK(登録商標)20L又はSpezialschwarz(登録商標)4(Degussaより)、三菱カーボンブラック#32(三菱化学(株))を含む。
【0025】
本発明において、(成分A)特定カーボンブラックのDBP吸油量は、50〜140ml/100gであることが好ましく、55〜140ml/100gであることがより好ましく、55〜130ml/100gであることが更に好ましい。
なお、DBP吸油量(DBP吸収量)の測定は、JIS K6217−4(2002年版)に従って行われる。
【0026】
また、成分Aは、球状であることが好ましく、平均一次粒径としては、10nmより大きく80nm未満であることが好ましく、12nmより大きく40nm未満であることがより好ましい。上記範囲であると、凝集を抑制でき、分散性に優れ、かつ感度を確保することができる。
【0027】
レーザー彫刻用樹脂組成物中おけるカーボンブラックの含有量は、その固有の吸光係数の大きさにより大きく異なるが、該樹脂組成物の固形分全重量の0.01〜20重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜10重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。
【0028】
<(成分B)ラジカル重合性化合物>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分B)ラジカル重合性化合物を含有する。
本発明においては、架橋されたレリーフ形成層を有することが好ましいため、樹脂組成物が架橋構造を形成可能とする為に、ラジカル重合性化合物(以下、単に「重合性化合物」と称する場合がある。)を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる(成分B)ラジカル重合性化合物は、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物(「エチレン性不飽和化合物」ともいう。)であることが好ましく、エチレン性不飽和基を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個有する化合物の中から任意に選択することができる。
また、本発明に用いることができる成分Bは、2以上の(メタ)アクリル基を有する化合物であることが好ましく、2以上の(メタ)アクリロキシ基を有する化合物であることがより好ましい。
【0029】
以下、重合性化合物として用いられる、エチレン性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単官能重合性化合物、及び、同結合を分子内に2個以上有する多官能重合性化合物について説明する。
【0030】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等の重合性化合物が挙げられる。
なお、前記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタアクリルアミドを表す。
【0031】
単官能重合性化合物としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート等のメタクリル誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル化合物類、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられる。
【0032】
多官能重合性化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラマレート、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド等の多価アルコール化合物又は多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物又はアミド化合物や、特開昭51−37193号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号の各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。更に、日本接着協会誌Vol.20、No.7、300〜308頁(1984年);山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年、大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー社);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性又は架橋性のモノマー、オリゴマーを用いることができる。
【0033】
本発明に係るレリーフ形成層は、膜中に架橋構造を有することが好ましい態様であることから、多官能重合性化合物が好ましく使用される。これらの多官能重合性化合物の分子量は、200〜2,000であることが好ましい。
【0034】
本発明においては、重合性化合物として、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する化合物を用いることが好ましい。
このように分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」と称する。)を用いることが好ましい。
【0035】
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又はチオ尿素を含む官能基が挙げられる。
【0036】
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1個〜10個が好ましく、1個〜5個がより好ましく、1個〜2個が更に好ましい。
一方、分子内に含まれるエチレン性不飽和部位の数は2つ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、架橋膜の柔軟性の観点で、2個〜10個が好ましく、2個〜6個がより好ましく、2個〜4個が更に好ましい。
以下に好ましく用いられる含硫黄多官能モノマーの具体例を示す(Rは水素原子又はメチル基を表す。)。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
本発明における含硫黄多官能モノマーは、硫黄原子含有ジカルボン酸とエポキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応、硫黄原子含有ジオールとイソシアネート含有(メタ)アクリレートとの反応、ジチオールとイソシアネート含有(メタ)アクリレートとの反応、ジイソチオシアネートとヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応、公知のエステル化反応などを用いて合成することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0042】
本発明における含硫黄多官能モノマーの分子量としては、形成される膜の柔軟性の観点から、好ましくは120〜3,000であり、より好ましくは120〜1,500である。
【0043】
また、本発明における含硫黄多官能モノマーは単独で用いてもよいが、分子内に硫黄原子を持たない多官能重合性化合物や単官能重合性化合物との混合物として用いてもよい。
彫刻感度の観点からは、含硫黄多官能モノマー単独で用いる、若しくは、含硫黄多官能モノマーと単官能エチレン性モノマーとの混合物として用いる態様が好ましく、より好ましくは、含硫黄多官能モノマーと単官能エチレン性モノマーとの混合物として用いる態様である。
【0044】
レリーフ形成層中の含硫黄多官能モノマーをはじめとする重合性化合物の総含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、不揮発性成分(溶剤を除いた固形分総量)に対して、10〜60重量%が好ましく、15〜45重量%の範囲がより好ましい。
なお、含硫黄多官能モノマーと他の重合性化合物とを併用する場合、全重合性化合物中の含硫黄多官能モノマーの量は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。
【0045】
<(成分C)重合開始剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分C)重合開始剤を併用することが好ましい。
(成分C)重合開始剤は当業者間で公知のものを制限なく使用することができる。(成分C)重合開始剤は、(成分B)ラジカル重合性化合物を重合させる観点から、ラジカル重合性化合物であることが好ましく、特に、熱重合開始剤(熱ラジカル重合開始剤)であることがより好ましい。
以下、好ましい重合開始剤であるラジカル重合開始剤について詳述するが、本発明はこれらの記述により制限を受けるものではない。
【0046】
本発明において、好ましいラジカル重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(l)アゾ系化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(l)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
本発明においては、彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物がより好ましく、(c)有機過酸化物が特に好ましい。
【0048】
前記(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、及び(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、特開2008−63554号公報の段落〔0074〕〜〔0118〕に挙げられている化合物を好ましく用いることができる。
また、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物としては、以下に示す化合物が好ましい。
【0049】
(c)有機過酸化物
本発明に用いうるラジカル重合開始剤として好ましい(c)有機過酸化物としては、3,3’4,4’−テトラ−(ターシャリーブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(ターシャリーアミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(ターシャリーヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(ターシャリーオクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−ターシャリーブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0050】
(l)アゾ系化合物
本発明に用いうるラジカル重合開始剤として好ましい(l)アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0051】
本発明における重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
重合開始剤は、レーザー彫刻用樹脂組成物の全固形分に対し、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜3重量%の割合で添加することができる。
【0052】
<(成分D)バインダーポリマー>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分D)バインダーポリマーを含有することが好ましい。
バインダーポリマーは、レーザー彫刻用樹脂組成物に含有される高分子成分であり、一般的な高分子化合物を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して用いることができる。特に、レーザー彫刻用樹脂組成物を印刷版原版に用いる際は、レーザー彫刻性、インキ受与性、彫刻カス分散性などの種々の性能を考慮して選択することが必要である。
バインダーポリマーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレアポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
【0053】
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光又は加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーとしては、特開2008−163081号公報の[0038]に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択され、例えば、特開2008−163081号公報の[0039]〜[0040]に詳述されている。更に、レーザー彫刻用樹脂組成物を、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層に適用する場合であれば、レリーフ形成層用組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報の[0041]に詳述されているものを使用することができる。
【0054】
また、ポリ乳酸などのヒドロキシルカルボン酸ユニットからなるポリエステルを好ましく用いることができる。このようなポリエステルとしては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物から成る群から選択されるものが好ましい。
【0055】
更に、ヒドロキシエチレン単位を含むポリマーを好ましく用いることもできる。ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体が好ましく用いられる。
PVA誘導体の例として、ヒドロキシエチレン単位の水酸基の少なくとも一部をカルボキシル基等の酸基に変性した酸変性PVA、当該水酸基の一部を(メタ)アクリロイル基に変性した変性PVA、当該水酸基の少なくとも一部をアミノ基に変性した変性PVA、当該水酸基の少なくとも一部にエチレングリコールやプロピレングリコール及びこれらの複量体を導入した変性PVA、ポリビニルアルコールをアルデヒド類で処理することによって得られるポリビニルアセタール等が挙げられる。これらの中でも、特にポリビニルアセタールが好ましく用いられる。アセタール処理に用いるアルデヒド類としては、アセトアルデヒド 、ブチルアルデヒドは、取り扱いが容易であるため好ましく用いられる。特に、ポリビニルブチラールは好ましく用いられるPVA誘導体である。
【0056】
加えて、加熱や露光により硬化させ、強度を向上させる目的に使用する場合には、分子内に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーが好ましく用いられる。
このようなポリマーとして、主鎖に炭素−炭素不飽和結合を含むポリマーとしては、例えば、SB(ポリスチレン−ポリブタジエン)、SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等が挙げられる。
側鎖に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーは、前記の本発明で適用可能なバインダーポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のような炭素−炭素不飽和結合を側鎖に導入することで得られる。バインダーポリマー側鎖に炭素−炭素不飽和結合を導入する方法は、(1)重合性基に保護基を結合させてなる重合性基前駆体を有する構造単位をポリマーに共重合させ、保護基を脱離させて重合性基とする方法、(2)水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基などの反応性基を複数有する高分子化合物を作製し、これらの反応性基と反応する基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を高分子反応させて導入する方法など、公知方法をとることができる。これらの方法によれば、高分子化合物中への不飽和結合、重合性基の導入量を制御することができる。
【0057】
このように、レーザー彫刻用樹脂組成物の適用用途に応じた物性を考慮し、目的に応じたバインダーポリマーを選択し、当該バインダーポリマーの1種を、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
本発明における(成分D)バインダーポリマーの重量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算)は、0.5万〜50万が好ましい。重量平均分子量が0.5万以上であれば、単体樹脂としての形態保持性に優れ、50万以下であれば、水など溶剤に溶解しやすくレーザー彫刻用樹脂組成物を調製するのに好都合である。バインダーポリマーの重量平均分子量は、より好ましくは1万〜40万、特に好ましくは1.5万〜30万である。
【0059】
バインダーポリマーの総含有量は、レーザー彫刻用樹脂組成物の固形分全重量に対し、5〜80重量%が好ましく、15〜75重量%が好ましく、20〜65重量%がより好ましい。
例えば、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した場合、バインダーポリマーの含有量を15重量%以上とすることで、得られたレリーフ印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、75重量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる。
【0060】
<(成分E)溶剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製する際に、(成分E)溶剤を用いることが好ましい。
溶剤としては、有機溶剤を用いることが好ましい。
非プロトン性有機溶剤の好ましい具体例は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
プロトン性有機溶剤の好ましい具体例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールが挙げられる。
これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが特に好ましく例示できる。
溶剤の使用量は、特に制限はなく、必要に応じて使用量を調整すればよい。
【0061】
<その他添加剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は、レーザー彫刻用樹脂組成物により形成された膜を柔軟化する作用を有するものであり、バインダーポリマーに対して相溶性のよいものである必要がある。
可塑剤としては、例えばジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート等や、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)が好ましく用いられる。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、彫刻感度向上のための添加剤として、ニトロセルロースや高熱伝導性物質、を加えることがより好ましい。ニトロセルロースは自己反応性化合物であるため、レーザー彫刻時、自身が発熱し、共存する親水性ポリマー等のバインダーポリマーの熱分解をアシストする。その結果、彫刻感度が向上すると推定される。高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
また、共増感剤を用いることで、レーザー彫刻用樹脂組成物を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、組成物の製造中或いは保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。
レーザー彫刻用樹脂組成物の着色を目的として染料若しくは顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
更に、レーザー彫刻用樹脂組成物の硬化皮膜の物性を改良するために充填剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
【0062】
(画像形成材料)
本発明の画像形成材料は、支持体上に、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる画像形成層を有する。
このような、本発明の画像形成材料は、レーザー彫刻により画像形成層に画像形成しうるものであれば特に制限されず、後述するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版をはじめ、3次元造形物、印章、アブレーションマスク層、凹版印刷版等に適用することができる。
【0063】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第1の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第2の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有する。
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、並びに、光及び/若しくは熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、熱架橋した架橋レリーフ形成層を有するものであることが好ましい。
本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、すなわち、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記架橋は、光及び/又は熱により行われることが好ましい。また、前記架橋は樹脂組成物が硬化される反応であれば特に限定されず、(成分B)重合性化合物同士の反応による架橋構造を含む概念であるが、成分Bが他の成分(例えば、(成分D)バインダーポリマー)と反応して架橋構造を形成していてもよい。
架橋レリーフ形成層を有する印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
また、本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
【0064】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記のような成分を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。(架橋)レリーフ形成層は、支持体上に設けられることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
【0065】
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、光及び熱の少なくとも一方により硬化する層、即ち、架橋性を有する層であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、次いで架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成することでレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0066】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接形成したり、そこに配置して固定化したりすることもでき、必ずしも支持体を必要としない。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0067】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版に使用しうる支持体について説明する。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版に支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET、PBT、PAN)やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。また、架橋性のレーザー彫刻用樹脂組成物を塗布し、裏面(レーザー彫刻を行う面と反対面であり、円筒状のものも含む。)から光又は熱などで硬化させて作製されたレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版においては、硬化したレーザー彫刻用樹脂組成物の裏面側が支持体として機能する為、必ずしも支持体は必須ではない。
【0068】
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に用いることができる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0069】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。
【0070】
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0071】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用塗布液組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。或いは、レーザー彫刻用樹脂組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して樹脂組成物から溶剤を除去する方法でもよい。
中でも、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることが好ましく、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を熱架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることがより好ましい。
【0072】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶剤を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0073】
<層形成工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶剤を除去する方法が好ましく例示できる。
レーザー彫刻用樹脂組成物(レリーフ形成層用塗布液組成物)は、例えば、成分Dを適当な溶剤に溶解させ、次いで、成分A、成分B及び成分C等を溶解させることによって製造できる。溶剤成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去する必要があるので、溶剤としては揮発しやすい低分子アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコ−ルモノメチルエーテル)等を用い、かつ温度を調整するなどして溶剤の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
【0074】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における(架橋)レリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上7mm以下がより好ましく、0.05mm以上3mm以下が更に好ましい。
【0075】
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製造方法であることが好ましい。
レリーフ形成層が光重合開始剤を含有する場合には、光重合開始剤のトリガーとなる活性光線をレリーフ形成層に照射することで、レリーフ形成層を架橋することができる。
光は、レリーフ形成層全面に行うのが一般的である。光(「活性光線」ともいう。)としては可視光、紫外光、及び電子線が挙げられるが、紫外光が最も一般的である。レリーフ形成層の支持体等、レリーフ形成層を固定化するための基材側を裏面とすれば、表面に光を照射するだけでもよいが、支持体が活性光線を透過する透明なフィルムであれば、更に裏面からも光を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下では重合阻害が生じる恐れがあるので、レリーフ形成層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、活性光線の照射を行ってもよい。
【0076】
レリーフ形成層が熱重合開始剤を含有する場合には(上記の光重合開始剤が熱重合開始剤にもなり得る。)、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱により架橋する工程)。加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0077】
レリーフ形成層の架橋方法としは、レリーフ形成層を表面から内部まで均一に硬化(架橋)可能という観点で、熱による架橋の方が好ましい。
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。未架橋のレリーフ形成層をレーザー彫刻すると、レーザー照射部の周辺に伝播した余熱により、本来意図していない部分が溶融、変形しやすく、シャープなレリーフ層が得られない場合がある。また、素材の一般的な性質として、低分子なものほど固形ではなく液状になり、すなわち粘着性が強くなる傾向がある。レリーフ形成層を彫刻する際に発生する彫刻カスは、低分子の材料を多く用いるほど粘着性が強くなる傾向がある。低分子である重合性化合物は架橋することで高分子になるため、発生する彫刻カスは粘着性が少なくなる傾向がある。
【0078】
前記架橋工程が、光により架橋する工程である場合は、活性光線を照射する装置が比較的高価であるものの、印刷版原版が高温になることがないので、印刷版原版の原材料の制約がほとんどない。
前記架橋工程が、熱により架橋する工程である場合には、特別高価な装置を必要としない利点があるが、印刷版原版が高温になるので、高温で柔軟になる熱可塑性ポリマーは加熱中に変形する可能性がある等、使用する原材料は慎重に選択する必要がある。
熱架橋の際には、熱重合開始剤を加えることが好ましい。熱重合開始剤としては、遊離基重合(free radical polymerization)用の商業的な熱重合開始剤として使用され得る。このような熱重合開始剤としては、例えば、適当な過酸化物、ヒドロペルオキシド又はアゾ基を含む化合物が挙げられる。代表的な加硫剤も架橋用に使用できる。熱架橋性(heat−curable)の樹脂、例えばエポキシ樹脂、を架橋成分として層に加えることにより熱架橋も実施され得る。
【0079】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことが好ましく、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことがより好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層を架橋及びレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版であり、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、水性インキを印刷時に好適に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法における層形成工程及び架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法における層形成工程及び架橋工程と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0080】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0081】
彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率かつ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
【0082】
また、ファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に用いることができるファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0083】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0084】
本発明に用いることができるリンス液のpHは、9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは14以下であることが好ましく、13.5以下であることがより好ましく、13.2以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。
また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
【0085】
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。
【0086】
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。更に、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は特に限定する必要はないが、リンス液の全重量に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましい。
【0087】
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0088】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、25℃において、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる。)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0089】
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機による水性インキでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、かつ、得られたレリーフ層が弾性に優れるため、水性インク転移性及び耐刷性に優れ、長期間にわたりレリーフ層の塑性変形や耐刷性低下の懸念がなく、印刷が実施できる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に断りのない限りにおいて、GPC法で測定した値を表示している。また、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0091】
[実施例1]
1.表面処理カーボンブラックの作製
Printex 300(デグサジャパン(株)製)を耐熱性ガラス容器に入れ、減圧ポンプを使用し、0.05mmHgに減圧したのち、電気炉を用いて250℃で72時間加熱を行った。
【0092】
表面処理したカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217−2(2002年版)の方法に従い測定を行った。
また、水酸基価は、以下の方法により測定した。
<Boehm滴定による水酸基価の測定>
本測定方法は、酸塩基滴定により求めるもので、試験管に試料(カーボンブラック粉末)1gを秤量したものを2つ作製し、これに50mlの0.5NのNa2CO3溶液、0.5NのNaOH 溶液をそれぞれ加え、室温で24時間攪拌した後、1時間静置した。こうして反応させた後、上澄み液をろ過し、蒸留水50mlで希釈を行った。このろ液をメチルオレンジを指示薬として0.05Nの塩酸で逆滴定し、NaOH溶液を用いて測定した値から、Na2CO3溶液を用いて測定した値を除算することでOH基の官能基量を求めた。
・装置:COM−2500型平沼自動滴定装置(平沼産業(株)製)
・電極:GR−501(平沼産業(株)製)
・滴定液:0.05N 塩酸水溶液
【0093】
2.カーボンブラックの分散
1.で作製したカーボンブラックを以下の方法で分散を行った。
下記処方を、モーターミルM−200(アイガー社製)により、直径1.0mmのジルコニアビーズを用いて周速9m/sで5時間分散し、カーボンブラック分散液を得た。
1.で作製した表面処理カーボンブラック 10部
ポリマーデンカブチラール#3000−2 15部
プロピレングリコールモノメチルアセテート 75部
【0094】
3.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、(成分D)バインダーポリマーとして「デンカブチラール#3000−2」(電気化学工業(株)製、ポリビニルブチラール誘導体、Mw=9万)50g、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート47gを入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱しポリマーを溶解させた。その後、溶液を40℃にし、更に(成分B)重合性化合物(多官能体)としてモノマー(M−1)(下記構造)を15g、(成分B)重合性化合物(単官能体)としてブレンマーLMA(日油(株)製)を8g、(成分C)重合開始剤としてパーブチルZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート、日油(株)製)を1.6g、(成分A)特定カーボンブラックとして、上記2で作製したカーボンブラック分散物30gを添加して30分間撹拌した。この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液1(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)を得た。
【0095】
【化5】

【0096】
4−1.塗布液安定性の評価(粘度変化率)
3.で得られた架橋性レリーフ形成層用塗布液1を、100℃加熱下、E型粘度計(東機産業製)を用いて、粘度変化を測定し、(1時間後の粘度)÷(5分後の粘度)×100により、変化率を評価した。15以下が、実用上問題ないレベルである。
【0097】
4−2.膜強度の測定方法
熱架橋した後、PETフィルムから剥がしたレリーフ形成層(厚さ0.9mm)をJIS K 6251(2002年版) 3号に規定されるダンベルを用いて打ち抜き、バネばかり(max1000g)に打ち抜いたレリーフ形成層の片側先端を引っ掛け、もう一方の片側先端を手で引っ張り、レリーフ層が破断した時のバネばかりの荷重の値を次式により求めた。膜強度は12N/cm以上であれば、実用上問題ないレベルである。
(膜強度[N/cm])
=(破断時の荷重[kg]×9.8[m/s2])/0.5[cm]
【0098】
5.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、上記より得られた架橋性レリーフ形成層用塗布液1をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、70℃のオーブン中で3時間乾燥させて、厚さが約1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1を作製した。
【0099】
6.レリーフ印刷版の作製
得られた原版のレリーフ形成層を80℃で3時間、更に100℃で3時間加熱してレリーフ形成層を熱架橋した。
架橋後のレリーフ形成層に対し、以下の2種のレーザーにより彫刻した。
炭酸ガスレーザー彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ(KEYENCE(株)製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版1から保護フィルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
【0100】
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは約1mmであった。
また、レリーフ層の25℃におけるショアA硬度を、前述の測定方法により測定したところ、75°であった。なお、ショア硬度Aの測定は、後述する各実施例及び比較例においても同様に行った。
【0101】
[実施例2]
1.表面処理カーボンブラックの作製
実施例1で用いたPrintex 300(デグサジャパン(株)製)をHIBLACK 20L(デグサジャパン(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)2を調製した。
【0102】
[実施例3]
1.表面処理カーボンブラックの作製
実施例1で用いたPrintex 300(デグサジャパン(株)製)を三菱カーボンブラック#32(三菱化学(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)3を調製した。
【0103】
[実施例4]
1.表面処理カーボンブラックの作製
Printex 300(デグサジャパン(株)製)100gに対し、メタンスルホニルクロリド(東京化成工業(株)製)10g、トリエチルアミン(東京化成工業(株)製)10gを添加し、80℃で3時間加熱後、ろ過を行った後、150℃で24時間乾燥を行った以外は実施例1と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)4を調製した。
【0104】
[実施例5]
1.表面処理カーボンブラックの作製
実施例4で用いたPrintex 300(デグサジャパン(株)製)をHIBLACK 20L(デグサジャパン(株)製)に代えた以外は、実施例4と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)5を調製した。
【0105】
[実施例6]
1.表面処理カーボンブラックの作製
実施例4で用いたPrintex 300(デグサジャパン(株)製)を三菱カーボンブラック#32(三菱化学(株)製)に代えた以外は、実施例4と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)6を調製した。
【0106】
[比較例1]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
実施例1で用いたPrintex 300(デグサジャパン(株)製)を加熱処理を行わず用いた以外は、実施例1と同様にして、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)C1を調製した。
【0107】
[比較例2]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
実施例2で用いたHIBLACK 20L(デグサジャパン(株)製)を加熱処理を行わず用いた以外は、実施例1と同様にして、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)C2を調製した。
【0108】
[比較例3]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
実施例3で用いた三菱カーボンブラック#32(三菱化学(株)製)を加熱処理を行わず用いた以外は、実施例1と同様にして、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)C3を調製した。
【0109】
[比較例4]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
実施例1で用いたPrintex 300(デグサジャパン(株)製)の替わりにHIBLACK 170(デグサジャパン(株)製)を加熱処理を行わず用いた以外は、実施例1と同様にして、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)C4を調製した。
【0110】
[比較例5]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
実施例1で用いた重合性化合物(多官能体)としてモノマー(M−1)、(成分B)重合性化合物(単官能体)としてブレンマーLMA(日油(株)製)、(成分C)重合開始剤としてパーブチルZ(日油(株)製)を用いず製膜した以外は実施例1と同様にして、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)C5を調製した。
【0111】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
実施例1における架橋性レリーフ形成層用塗布液1を、架橋性レリーフ形成層用塗布液2〜6、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液C1〜C5に各々変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版2〜6及び比較例のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版C1〜C5を得た。また、実施例1と同様に、粘度変化率及び膜強度を測定した。
【0112】
3.レリーフ印刷版の作製
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版2〜6、C1〜C5のレリーフ形成層を、実施例1と同様にして、熱架橋した後、彫刻してレリーフ層を形成することにより、実施例のレリーフ印刷版2〜6、比較例のレリーフ印刷版C1〜C5を得た。
これらのレリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは約1mmであった。
【0113】
【表1】

【0114】
表1に示されるように、表面処理を行った実施例1〜6のカーボンブラックでは、粘度変化率、膜強度共に実用上問題ないレベルであることがわかる。一方、表面処理を行っていない比較例1〜3のカーボンブラックでは、粘度変化率又は膜強度において、劣るものであった。
また、窒素吸着比表面積が70m2/g未満であるカーボンブラックを使用した比較例4では、膜強度に劣り、重合性化合物及び開始剤を使用しなかった比較例5では、明らかに膜強度に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)窒素吸着比表面積が70m2/g以上であり、かつ、Boehm滴定により測定した水酸基価が0〜0.03meq/gであるカーボンブラック、及び、
(成分B)ラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする
レーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項2】
成分Bがエチレン性不飽和化合物である、請求項1に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項3】
成分Bが(メタ)アクリロイル基を有する化合物である、請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項4】
(成分C)重合開始剤を更に含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項5】
成分Cが、熱重合開始剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項6】
成分Aが、ヒドロキシ基反応性化合物により表面修飾することにより得られる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項7】
成分Aが、80℃以上の加熱条件で30分以上加熱処理することにより得られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項8】
(成分D)バインダーポリマーを更に含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を熱架橋した架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、
前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、
前記レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、
前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含む
レリーフ印刷版の製版方法。
【請求項13】
前記レーザー彫刻を700〜1,300nmのレーザーにより行う、請求項12に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項14】
彫刻後のレリーフ層表面を水又は水溶液により洗浄する洗浄工程を更に含む、請求項12又は13に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1項に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2012−196900(P2012−196900A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62715(P2011−62715)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】