説明

レーザー感応性平版印刷版原版

【課題】レーザー感応性を損うことなく、効率良くインキを反撥する平版印刷版を得る。
【解決手段】基板上にレーザー感応性の親水性膨潤層を備え、親水性膨潤層が黒色顔料または黒色染料を含有するレーザー感応性平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は平版印刷版原版に関するものであり、特にデジタル処理された画像情報をレーザーを用いて描画することが可能な新規なレーザー感応性平版印刷版原版に関するものである。
【0002】
【従来の技術】平版印刷とは、画線部と非画線部とを基本的にほぼ同一平面に存在させ、画線部をインキ受容性、非画線部をインキ反撥性として、インキの付着性の差異を利用して、画線部のみにインキを着肉させた後、紙等の被印刷体にインキを転写して印刷する方式を意味する。またこのような平版印刷には通常、PS版が用いられる。
【0003】ここで言うPS版とは、下記のものを意味する。 すなわち、米澤輝彦著「PS版概論」(株)印刷学会出版部(1993)p18〜p81に記載されているように、親水化処理されたアルミニウム基板上に親油性の感光性樹脂層を塗布し、フォトリソグラフィの技術により画線部は感光層が残存し、一方非画線部は上記したアルミ基板表面が露出し、該表面に湿し水層を形成してインキ反撥し、画像形成する水ありPS版と、湿し水層の代わりにシリコーンゴム層をインキ反撥層として用いる水なしPS版、いわゆる水なし平版である。
【0004】ここで言う水なし平版とは、非画線部がシリコ−ンゴム、含フッ素化合物などの通常平版印刷で用いられる油性インキに対してインキ反撥性を有する物質からなり、湿し水を用いずにインキ着肉性の画線部との間で画像形成し、印刷可能な印刷版を意味する。
【0005】これらのPS版は、原画フィルムを通して露光、現像と言ったフォトリソグラフィ技術による製版工程を経て刷版となるが、近年これらに代替する技術として原画フィルムを用いずに、レーザーを用いてデジタル処理された画像情報を直接版面に描画し、レーザー感応性平版印刷版に関する提案されている。
【0006】湿し水を必要とする水ありPS版をレーザー感応型にする方法としては、He−NeやArレーザーに感応する高感度フォトポリマを用いて直接描画するタイプのものが多く提案されているが、高感度であるが故に版材の取扱性が悪く、大規模かつ高額な自動露光現像製版装置が必要であった。
【0007】一方、水なし平版印刷版をレーザー感応型にする方法としては、例えば、DE−A2512038には、親油性面を担持するかまたは、有する支持体上にニトロセルロースおよびカーボンブラックを含有する層および非硬化シリコーン層が積層されたヒートモード記録材料を用い、レーザーを用いて画像形成を行なったのち、露光部分のシリコーン層をナフサなどの溶剤を用いて溶解し、他の部分のシリコーン層を硬化する方法が提案されてる。しかしながら、この方法は、製版中の版材の取扱が困難でありかつ、シリコーン層の硬化工程が現像工程に含まれ複雑であり、また有機溶剤を使用することから環境問題の点から不都合なものであった。
【0008】またFR−A1473751においては、親油性表面を有する基体上に、ニトロセルロース、カーボンブラック、およびシリコーンを有する層を用いたヒートモード記録材料が提案されており、レーザーを用いて画像形成を行なったのち、像形成部分は親油性に変換される。しかしながら、この方法はインキ着肉部分のシリコーンが版面から除去されないため、インキ着肉性が悪いものであった。
【0009】またUSP−5353705においては、ニトロセルロースおよびカーボンブラックからなるレーザー感応層上にポリビニルアルコールをインキ反撥性層として積層したヒートモード記録材料が提案されている。しかしながら、そのインキ反撥性は湿し水供給下でも極めて不十分なものであった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来技術の欠点に鑑み創案されたもので、その目的とするところは、従来のレーザー感応性平版印刷版原版の製版作業性を改善し、PS平版と同等以上のインキ反撥性を有し、また、レーザーを用いてデジタル処理された画像情報を直接版面に描画しうる新規なレーザー感応性平版印刷版原版を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、本発明は下記の構成からなる。
【0012】(1)基板上に少なくともレーザー感応性の親水性膨潤層を備えた平版印刷版原版であって、親水性膨潤層がレーザー照射による活性光線に感応して破壊的吸収を生ずることを特徴とするレーザー感応性平版印刷版原版。
【0013】(2)基板上に少なくともレーザー感応性の親水性膨潤層を備えた平版印刷版原版であって、親水性膨潤層が黒色顔料または黒色染料を含有することを特徴とするレーザー感応性平版印刷版原版。
【0014】(3)親水性膨潤層が親水性ポリマを主成分とする相および疎水性ポリマを主成分とする相の少なくとも2相から構成された相分離構造を有することを特徴とする(2)記載のレーザー感応性平版印刷版原版。
【0015】(4)基板と親水性膨潤層の間にプライマー層を備えることを特徴とする(2)記載のレーザー感応性平版印刷版原版。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明のレーザー感応性平版印刷版原版は、親水性膨潤層がレーザー照射による活性光線に感応して破壊的吸収を生じる、レーザー感応性の親水性膨潤層を備えた平版印刷版原版である。本印刷版原版は、レーザー照射時には親水性膨潤層が未膨潤状態であり活性光線によるエネルギー吸収を行いやすく、印刷時には湿し水により膨潤して、優れたインキ反発性を発現する。
【0017】エネルギーの破壊的吸収、親水性膨潤層への導入のしやすさ、の観点から、親水性膨潤層が黒色顔料、または黒色染料を含有することが好ましい。
【0018】本発明のレーザー感応性平版印刷版原版は、親水性膨潤層が黒色顔料または黒色染料を含有する、レーザー感応性の親水性膨潤層を備えた平版印刷版原版である。
【0019】本発明の黒色顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、鉄黒、チタンブラックの他、顔料と樹脂を混合分散させたピグメントレジンカラー(顔料樹脂捺染剤)などが挙げられる。カーボンブラックとしては、その原料によりガスブラック、アセチレンブラック、オイルブラックに大別され、その製造法によりチャネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどに大別されるがそのいずれも使用できる。ピグメントレジンカラーとしては、油中水滴型(W/O型)と水中油滴型(O/W型)に大別される。W/O型は、顔料を樹脂の溶剤溶液中に分散させた油中分散ペーストと希釈剤としてのW/O型エマルション(エクステンダー)からなる。一方、O/W型は、顔料を界面活性剤(分散剤)と安定剤で水中に分散させたカラーベースとこの顔料を非着色物に固着させるO/W樹脂エマルション(バインダー)と以上2者を希釈し捺染適性を付与するためのO/Wエマルションの3成分からなる。いずれのピグメントレジンカラーであっても特に限定されない。
【0020】本発明の黒色染料としては、その染着様式から酸性染料、塩基性染料、直接染料、分散染料、反応性染料、油溶性染料などに大別されるが、そのいずれであってもよい。
【0021】好ましい黒色染料としては、酸性染料および塩基性染料が挙げられる。酸性染料としてはクロム、銅、コバルトなどの金属錯塩系アゾ染料が、また塩基性染料としてはアミノ基または第四級アンモニウム塩などの置換アミノ基を有するポリメチン染料、アゾ染料、アゾメチン染料、アントラキノン系染料、トリフェニルメタン染料などが特に好ましい。
【0022】金属錯塩系アゾ染料の具体例としてはアイゼンスピロンブラックBNH、MH、RLH、BHを、また塩基性染料の具体例としてはアイゼンカチロンブラックSBH、BXH、SH、NH、MH、AWH、KBH(以上すべて保土ヶ谷化学工業(株))などが挙げられる。
【0023】本発明における黒色顔料または黒色染料の親水性膨潤層全体に対する割合は、固形分ベースで、3〜70重量%、好ましくは5〜50重量%である。黒色物質の割合が70重量%を越えると親水性膨潤層のインキ反発性が著しく低下するのに対して、黒色物質の割合が3重量%未満では、レーザー感応性が不十分となり不適である。
【0024】本発明のレーザー感応性親水性膨潤層の膜厚は、0.1〜20g/m2 が好ましく、より好ましくは0.2〜10g/m2 である。膜厚が0.1g/m2 よりも薄い場合はレーザー感応層の感度が低下し、20g/m2 よりも厚い場合には過大なレーザーパワーが必要となるため現実的でない。
【0025】本発明のレーザー感応性の親水性膨潤層には、上記の黒色顔料または黒色染料が含有される。また、親水性膨潤層を構成する他の成分との相溶性、分散性の観点から公知の界面活性剤や分散安定剤を添加してもよい。さらに、可塑剤、湿潤剤、艶消し剤、酸化防止剤、難燃剤などを添加してもよい。
【0026】本発明に用いられる親水性膨潤層は、親水性ポリマを主成分とする相および疎水性ポリマを主成分とする相の少なくとも2相から構成された相分離構造を有することが好ましい。
【0027】本発明に言う親水性とは、水に対して実質的に不溶でかつ水膨潤性を示す性質を意味し、公知の親水性ポリマを基板上に塗布または転写などにより積層し、公知の方法を用いて架橋または疑似架橋し、水に不溶化せしめて水膨潤性とした親水性膨潤層が用いられる。
【0028】ここで言う親水性ポリマとは、公知の水溶性ポリマ(水に完全に溶解するものを意味する)、疑似水溶性ポリマ(両親媒性を意味し、マクロには水に溶解するがミクロには非溶解部分を含むものを意味する)、水膨潤性ポリマ(水に膨潤するが溶解しないものを意味する)を指す。すなわち、通常の使用条件下で水を吸着または吸収するポリマを意味し、水に溶けるか或いは水に膨潤するポリマを意味する。
【0029】本発明において親水性ポリマとしては公知のものを使用することができ、動物系ポリマ、植物系ポリマ、合成系ポリマがある。例えば、「Functional Monomers」(Y.Nyquist著、Dekker)、「水溶性高分子」(中村著、化学工業社)、「水溶性高分子 水分散型樹脂の最新加工・改質技術と用途開発 総合技術資料集」(経営開発センター出版部)、「新・水溶性ポリマの応用と市場」(シーエムシー)などに記載の水溶性ポリマが挙げられる。具体例を以下に示す。
【0030】(A)天然高分子類。
【0031】デンプン−アクリロニトリル系グラフト重合体加水分解物、デンプン−アクリル酸系グラフト重合体、デンプン−スチレンスルフォン酸系グラフト重合体、デンプン−ビニルスルフォン酸系グラフト重合体、デンプン−アクリルアミド系グラフト重合体、カルボキシル化メチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、セルロース−アクリロニトリル系グラフト重合体、セルロース−スチレンスルフォン酸系グラフト重合体、カルボキシメチルセルロース系架橋体、ヒアルロン酸、アガロース、コラーゲン、ミルクカゼイン、酸カゼイン、レンネットカゼイン、アンモニアカゼイン、カリ化カゼイン、ホウ砂カゼイン、グルー、ゼラチン、グルテン、大豆蛋白、アルギン酸塩、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウムアラビヤガム、トラガカントガム、カラヤガム、グアールガム、ロカストビーンガム、アイリッシュモス、大豆レシチン、ペクチン酸、澱粉、カルボキシル化澱粉、寒天、デキストリン、マンナンなど。
【0032】(B)合成高分子類。
【0033】ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリ(エチレンオキサイド-co-プロピレンオキサイド)、水性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート系ポリマ、ポリ(ビニルメチルエーテル-co-無水マレイン酸)、無水マレイン酸系共重合体、ビニルピロリドン系共重合体、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート系架橋重合体、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート系架橋重合体、ポリ(N−ビニルカルボン酸アミド)、N−ビニルカルボン酸アミド共重合体、など。
【0034】なお、上記の親水性ポリマは発明の効果を損わない範囲で、柔軟性を付与したり、親水性を制御する目的から置換基が異なるモノマや共重合成分を、1種または2種以上を適宜混合して用いることが可能である。
【0035】本発明に好ましく用いられる親水性ポリマの具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0036】(1)マレイン酸または無水マレイン酸、マレイン酸アミドもしくはマレイン酸イミドなどのマレイン酸誘導体とエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンまたはジイソブチレンなどの炭素数が2〜12好ましくは炭素数2〜8の直鎖または分岐状のα−オレフィンとの共重合体と、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニア、アミンとの反応物の架橋体。
【0037】(2)マレイン酸またはその誘導体とスチレン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルまたはアクリロニトリルなどのビニルまたはビニリデン化合物との共重合体と、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニア、アミンとの反応物の架橋体。
【0038】(3)アクリル酸またはメタクリル酸と前記(2)のビニルまたはビニリデン化合物との共重合体と、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニア、アミンとの反応物の架橋体。
【0039】特公昭58−37027号公報などに開示されているポリオキシアルキレン系の親水性ポリマ、特開昭60−104106号公報などに開示されているポリビニルピロリドン、スルフォン酸基を親水性基とするポリスチレンスルフォン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルフォン酸共重合体などの架橋体、特開昭60−42416号公報などに開示されている水酸基、アミノ基を有する親水性ポリマにポリイソシアネートを架橋させて得られるポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0040】次に、親水性ポリマの架橋方法について説明する。
【0041】親水性膨潤層は、既述の親水性ポリマの少なくとも1種以上を必要に応じて架橋または疑似架橋し、水に不溶化せしめることによって基板上に積層形成される。架橋には、親水性ポリマの有する反応性官能基を用いて架橋反応することにより行われる。
【0042】架橋反応は、共有結合性の架橋であっても、イオン結合性の架橋であってもよい。
【0043】架橋反応に用いられる化合物としては、架橋性を有する公知の多官能性化合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物、ポリ(メタ)アクリル化合物、ポリメルカプト化合物、ポリアルコキシシリル化合物、多価金属塩化合物、ポリアミン化合物、ポリアルデヒド化合物、ポリビニル化合物などが挙げられ、該架橋反応は公知の触媒を添加し、反応を促進することが行われる。
【0044】これら親水性ポリマは、該親水性膨潤層の形態保持や水膨潤性の調整などの目的から単体または2種以上の混合物として用いることが可能であり、非親水性ポリマをブレンドすることも可能である。
【0045】また、下層との接着性向上などの目的から、公知のシランカップリング剤やイソシアネート化合物、触媒などを添加したり中間層として設けることも可能である。
【0046】本発明に用いられる親水性膨潤層は以下の方法にしたがって算出される吸水量が特定の範囲であることが好ましい。
【0047】吸水量(g/m2 )=WWET −WDRYDRY :乾燥状態における重量(g/m2
WET :水中に25℃×10分間浸漬した後の重量(g/m2
[吸水量の測定方法]測定しようとする平版印刷版の非画線部を所定面積に裁断し、25℃の精製水中に浸漬する。10分間浸漬した後、該印刷版の親水性膨潤層表面および裏面に付着した余分の液体を「ハイゼガーゼ」(コットン布:旭化成工業(株)製)にて素速く拭き取り、該印刷版の膨潤重量WWET を秤量する。その後、該印刷版を60℃のオーブンにて約30分間乾燥し、乾燥重量WDRY を秤量する。
【0048】本発明の親水性膨潤層からなる非画線部の吸水量は、インキ反発性および形態保持性の観点から1〜50g/m2 であることが好ましく、1〜10g/m2 、さらに2〜7g/m2 であることがさらに好ましい。
【0049】本発明の親水性膨潤層はゴム弾性を有することが好ましい。すなわち、以下の方法により算出した親水性膨潤層の初期弾性率が特定の範囲内にあることが好ましい。
【0050】[初期弾性率の測定方法]平版印刷版の非画線部に対応した部分と同一組成の溶液をテフロンシャーレ上に展開し、60℃×24時間乾燥させる。得られた乾燥硬化膜は、剃刀刃などを用いて、長さ40mm、幅1.95mm、厚み約0.2mmの短冊状のテストピースに裁断する。
【0051】得られたテストピースは、測定前に25℃×50%RHの環境下にて24時間以上放置し、調湿した後、厚みをマイクロゲージにて測定し、下記の引張条件で初期弾性率を測定した。データ処理は、JIS K6301に準じて行った。
【0052】
引張速度 200mm/分チャック間距離 20mm繰返し回数 4回測定機 「RTM−100」((株)オリエンテック製)
親水性膨潤層の初期弾性率は、0.01〜10kgf/mm2 の範囲内にあることがインキ反発性および形態保持性の観点から重要であり、0.01〜5kgf/mm2 の範囲が好ましく、0.01〜2kgf/mm2 の範囲がさらに好ましい。初期弾性率が0.01kgf/mm2 未満の場合は、親水性膨潤層の形態保持性が低下し、印刷の耐久性が劣り、初期弾性率が10kgf/mm2 よりも大きくなるとインキ反発性が極端に低下する。
【0053】本発明に用いられる親水性膨潤層は以下の方法にしたがって算出される水膨潤率が特定の範囲であることが好ましい。
【0054】
水膨潤率(%)=(ΘWET −ΘDRY )/ΘDRY ×100ΘDRY :乾燥状態における非画線部からなる親水性膨潤層の厚み(μm)
ΘWET :膨潤状態における非画線部からなる親水性膨潤層の厚み(μm)
[水膨潤率の測定方法(A)]測定しようとする平版印刷版の非画線部を含む部位が断面となるように切削して切片を作製する。この切片を常温にて1昼夜真空乾燥した後、光学顕微鏡にて当該部位の親水性膨潤層厚さを観察し、これをΘDRY (μm)とする。なお、光学顕微鏡観察は23℃、20%RHの環境下において手早く行った。
【0055】さらに、この平版印刷版切片に過剰の水滴を載せ、親水性膨潤層が十分に水膨潤した状態で断面を光学顕微鏡観察し、当該部位の親水性膨潤層厚さを読みとり、これをΘWET (μm)とする。
【0056】[水膨潤率の測定方法(B)]測定しようとする平版印刷版の非画線部をOsO4 水溶液の雰囲気下に1昼夜さらしてOsO4 により親水性膨潤層を固定した後、所定の部位が断面となるようにミクロトームで切削して超薄切片を作製する。この切片を透過型電子顕微鏡(TEM)にて1〜5万倍程度の倍率で当該部位の親水性膨潤層厚さを観察し、これをΘDRY (μm)とする。
【0057】一方、測定しようとする平版印刷版をOsO4 水溶液に2〜3日浸漬し親水性膨潤層を水膨潤状態で固化/固定する。所定の部位が断面となるようにミクロトームで切削して超薄切片を作製し、この切片を透過型電子顕微鏡(TEM)にて1〜5万倍程度の倍率で当該部位の親水性膨潤層厚さを読みとり、これをΘWET(μm)とする。
【0058】本発明の親水性膨潤層からなる非画線部(インキ反発部分)の水膨潤率は、インキ反発性および形態保持性の観点から10〜2000%であることが好ましく、50〜1700%、さらに50〜700%の範囲であることがより好ましい。水膨潤率が10%未満になると非画線部のインキ反発性が低下し、一方非画線部の水膨潤率が2000%を越える場合には該非画線部の形態保持性が低いため印刷時に該非画線部が損傷を受け易くなる。
【0059】本発明の親水性膨潤層に用いられる疎水性ポリマは、水性エマルジョンから主として構成されたものが好ましく用いられる。
【0060】本発明にいう水性エマルジョンとは、微細なポリマ粒子と必要に応じて該粒子を包囲する保護層からなる粒子を水中に分散させた疎水性ポリマ懸濁水溶液を意味する。
【0061】すなわち、基本的に分散質としてのポリマ粒子と必要に応じて形成される保護層からなるエマルジョン粒子と分散媒としての希釈水溶液から構成される自己乳化または強制乳化水溶液を意味する。本発明に用いられる水性エマルジョンの具体例としては、ビニルポリマ系ラテックス、共役ジエンポリマ系ラテックスおよび水性または水分散ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0062】これらの水性エマルジョンの中でも本発明に特に好ましく用いられる疎水性ポリマとしてはスチレン/ブタジエン系、アクリロニトリル/ブタジエン系、メタクリル酸メチル/ブタジエン系、クロロプレン系などの共役ジエン系化合物を含有するラテックスが挙げられる。
【0063】本発明の親水性膨潤層は上記の親水性ポリマと疎水性ポリマを混合し、必要に応じて架橋または擬似架橋し、水に不溶化せしめることによって基板上に積層形成される。
【0064】架橋には親水性ポリマおよび疎水性ポリマが有する反応性官能基を用いて架橋反応することが好ましい。
【0065】架橋反応は、共有結合性の架橋であっても、イオン結合性の架橋であってもよい。
【0066】本発明の親水性膨潤層の親水性ポリマと疎水性ポリマを混合する方法としては、3本ロールなどのロールミキサ、ニーダーなど混合機を用いて混練りする方法、ホモジナイザー、ボールミルなどのディスパーサーを用いて湿式混合分散する方法など、塗料やパテを製造する際に用いられる公知の方法で好ましく混合される。
【0067】また本発明の親水性膨潤層を形成する方法としては、疎水性ポリマとして水性のエマルジョンを好ましく用いることから、水溶液系で各成分(親水性ポリマ、疎水性ポリマなど)を混合し、必要に応じて架橋剤が添加される方法が、均質な相分離構造を実現しインキ反発性を向上させる点から好ましい。
【0068】従って、用いられる架橋剤としては、水溶性の多官能性化合物を用いることが特に好ましい。すなわち、水溶性のポリエポキシ化合物、ポリアミン化合物、メラミン化合物などを用いることが好ましい。
【0069】次に本発明の親水性膨潤層における相分離構造について説明する。
【0070】親水性ポリマを主成分とする相と疎水性ポリマを主成分とする相から構成された相分離構造とすることにより、インキ反発性と印刷耐久性の両者を広い組成範囲において実現することが可能となる。
【0071】該相分離構造を構成する親水性ポリマ相と疎水性ポリマ相の組成比は自由であり、(1)いずれか一方が連続相で、他方が分散相である形態、(2)親水性および疎水性ポリマ相がそれぞれ連続相および分散相を有する形態(3)親水性および疎水性ポリマ相がいずれも連続相となる形態の中から自由に選択することができる。
【0072】上記(1)〜(3)の相分離構造の一例をそれぞれ図1〜3に示す。
【0073】本発明に用いられる親水性膨潤層には上記した親水性ポリマ、疎水性ポリマおよび必要に応じて加えられる架橋剤の他にも、ゴム組成物において通常添加される公知の老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、可塑剤などを添加することが可能である。
【0074】また下層との接着性向上などの目的から、公知のシランカップリング剤やイソシアネート化合物、触媒などを添加したり基板との間に中間層として設けることも可能である。
【0075】また本発明に用いられる親水性膨潤層には、染料や顔料、pH指示薬、ロイコ染料、界面活性剤、有機酸などの各種添加剤を微量添加することも可能である。本発明に用いられる平版印刷版の基板としては、通常の平版印刷機に取り付けられるたわみ性と印刷時に加わる荷重に耐えうるものである必要がある以外には一切制限を受けない。
【0076】代表的なものとしては、アルミ、銅、鉄、などの金属板、ポリエステルフィルムやポリプロピレンフィルムなどのプラスチックフィルムあるいはコート紙、ゴムシートなどが挙げられる。また、該基板は上記の素材が複合されたものであってもよい。
【0077】また、該基板表面は検版性向上や接着性向上の目的から、電気化学的処理や酸塩基処理、コロナ放電処理など各種に表面処理を施すことも可能である。
【0078】本発明のレーザー感応性平版印刷版原版の製版方法について説明する。
【0079】本発明においてレーザー感応性とは、ヒートモードで行なわれる画像形成が可能なことを意味する。すなわち、レーザー照射に対応した部分のレーザー感応層および/またはインキ反撥性層が瞬間的に燃焼および/または蒸発などの破壊的吸収を生じ、インキ着肉性の凹部が形成される。
【0080】インキ着肉性の凹部としては、基板をそのまま露出させて用いることもできるが、基板とレーザー感応層の接着を強固にし、またインキ着肉性を向上させ、ハレーションを防止する目的から、プライマー層を設けてもよい。本発明で用いられるプライマー層として、例えば、特公昭61−54219号公報に示されるようなエポキシ樹脂を含むものの他、ポリウレタン樹脂、フェノ−ル樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ミルクカゼイン、ゼラチン等が挙げられる。これらの樹脂は単独であるいは二種以上混合して用いることができる。
【0081】これらの中では、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂等を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0082】また、上記プライマー層を構成するアンカー剤としては、例えばシランカップリング剤等の、公知の接着剤を用いることができ、また有機チタネート等も有効である。
【0083】さらに塗工性を改良する目的で、界面活性剤を添加することも任意である。
【0084】また、インキ着肉性の凹部として、該プライマー層が露出してこれが画線部となる場合、このプライマー層中に染料、顔料等の添加剤を含有させて検版性を向上させることが好ましい。この場合の染料、顔料は感光層と異なる色相であれば、どのようなものでも使用できるが、緑色、青色、紫色系の染料及び顔料、または白色顔料が好ましい。
【0085】上記のプライマー層を形成するための組成物は、DMF、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン等の適当な有機溶剤に溶解させることによって組成物溶液として調整される。かかる組成物溶液を基板上に均一に塗布し必要な温度で必要な時間加熱することにより、プライマー層が形成される。
【0086】プライマ−層の厚さは0.5〜50g/m2 が好ましく、より好ましくは1〜10g/m2 である。厚さが0.5g/m2 よりも薄いと基板表面の形態欠陥および化学的悪影響の遮断効果がおとり、50g/m2 よりも厚いと経済的見地から不利となるので上記の範囲が好ましい。
【0087】本発明に好ましく用いられるレーザーとしては、半導体レーザー、Nd−YAGレーザー、アルゴンレーザーなどが挙げられ、40〜7500mWのパワー出力のものが好ましく用いられる。中でも、ヒートモード記録を効率良く行なう点から、500〜3000mWの半導体レーザーが好ましく用いられる。
【0088】通常1回のレーザー照射によって形成されるインキ着肉性の凹部の直径は3〜100μm程度である。
【0089】次に本発明のレーザー感応性平版印刷版原版から得られた印刷版を用いた印刷方法について説明する。
【0090】本発明の平版印刷には公知の平版印刷機が用いられる。すなわち、オフセットおよび直刷り方式の枚葉および輪転印刷機などが用いられる。
【0091】本発明の平版印刷版上に静電転写により画像形成した後、これらを平版印刷機の版胴に装着し、該版面には接触するインキ着けローラーからインキが供給される。
【0092】該版面上の親水性膨潤層を有する非画線部は、湿し水供給装置から供給される湿し水によって膨潤し、インキを反発する。一方、静電転写により形成された画線部分はインキを受容し、オフセットブランケット胴表面または被印刷体表面にインキを供給して印刷画像を形成する。
【0093】本発明の画像形成方法により描画した、親水性膨潤層を備えた平版印刷版を印刷する際に使用される湿し水は、通常の平版印刷において使用されるエッチ液を用いることも可能であるが、添加物を一切添加しない純水を使用することができる。
【0094】以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0095】
【実施例】
実施例 1〜2厚さ0.2mmのアルミ板(住友軽金属(株)製)に、下記組成物を塗布したのち、200℃×5分間加熱硬化して2g/m2 の厚みを有するプライマー層を塗設した。
【0096】
<プライマー層組成(重量部)>(1)ポリエステル樹脂「バイロン−200:東洋紡績(株)製」20重量部(2)メラミン樹脂「スミマールM−40S:住友化学(株)製」10重量部(3)トルエン 40重量部(4)メチルエチルケトン 10重量部(5)酢酸ブチル 30重量部(6)シクロヘキサノン 50重量部次に、黒色顔料として、カーボンブラック(MA100:三菱化成工業(株)製)(実施例1)、ピグメントレジンカラー(ポルックスブラックPM−B:住化カラー(株)製)(実施例2)を用い、以下に示すレーザー感応性親水性膨潤層組成物を混合後、ホモジナイザーを用いて分散させ、塗布し、180℃×2分間熱処理して1.5g/m2 の厚みを有するレーザー感応性親水性膨潤層を塗設した。
【0097】[親水性ポリマの合成例]1リットルの4ッ口セパラブルフラスコに攪拌棒、温度計および窒素導入管を装着し、これにN−ビニルアセトアミド100gを280gの脱イオン交換水に溶解した水溶液を仕込んだ。窒素ガスを約10分間導入して、溶存酸素を追い出し、液温度を30℃に上昇させ、重合開始剤として2,2’−アゾビス−2−アミノプロパン二塩酸塩の5%水溶液を20g添加し、約10時間重合反応を行った。得られた各重合体の粘度はB型粘度計(0.2%水溶液、30℃、回転数20rpm)で測定した結果、235cpsであった。
【0098】
<レーザー感応性親水性膨潤層組成(重量部)>(1)親水性ポリマ 32重量部(2)テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル 7重量部(3)水性ラテックス「DN−703」 49重量部 [カルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合ラテックス:大日本インキ化学工業(株)製]
(4)黒色顔料 10重量部(5)分散剤 2重量部(6)精製水 900重量部得られたレーザー感応性平版印刷版原版の表面に半導体レーザーを下記条件で照射し、インキ着肉性の画素を形成した。
【0099】
レーザー出力:1W(800nm)
スポット径:6μmパルス幅:10μsecレーザー照射に対応した部分のレーザー感応層および親水性膨潤層が燃焼破壊し、除去され、6.3μm(実施例1〜2ともに)のスポット径を有するインキ着肉性のピットが形成された。
【0100】このようなピットを有する平版印刷版を平版印刷機の版胴にPS版(FNS:富士写真フィルム(株)製)と共に装着し、版面に接触するインキ着けローラーからインキを供給し、また同時に湿し水供給装置から水を供給して印刷を行なった。その結果、ピットが形成された画線部はインキが受容し、オフセットブランケット胴を介して印刷物にピット径に対応した明瞭なインキ画素が形成された。
【0101】一方、親水性膨潤層は湿し水によって膨潤し、完全にインキを反撥したPS版と同等のコントラストを持つ印刷物が得られた。印刷を5000枚終了した後も親水性膨潤層はインキ反撥性を保持し、印刷物にインキ汚れは発生しなかった。
【0102】実施例 3〜5黒色染料として、スピロンブラックMH(保土ヶ谷化学工業(株)製)(実施例3)、カチロンブラックAWH(保土ヶ谷化学工業(株)製)(実施例4)、ニグロシンベースEX(オリエント化学工業(株)製)(実施例5)を用い、レーザー感応性親水性膨潤層の組成を以下のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、レーザー感応性平版印刷版原版を作製した。
【0103】
<レーザー感応性親水性膨潤層組成(重量部)>(1)実施例1の親水性ポリマ 26重量部(2)テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル 7重量部(3)水性ラテックス「SX1503」 55重量部 [カルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合ラテックス:日本ゼオン(株)製]
(4)黒色染料 15重量部(5)2−アミノプロピルトリメトキシシラン 2重量部(6)エタノール 200重量部(6)精製水 700重量部実施例1と同様の条件でレーザー照射した結果、レーザー照射に対応した部分のレーザー感応層および親水性膨潤層が燃焼破壊し、除去され、6.1μm(実施例3)、6.0μm(実施例4〜5)のスポット径を有するインキ着肉性のピットが形成された。また湿し水を供給して平版印刷を行なった結果、親水性膨潤層は実施例1と同様のインキ反撥性を示した。
【0104】比較例 1〜2実施例1および3において、黒色顔料または黒色染料を使用しなかったことを除いては全く同様の方法で印刷版原版を作製した。実施例1と同様の条件でレーザー照射を行ったが、いずれの場合も、親水性膨潤層上にはピットは形成されておらず、親水性膨潤層のレーザーによる燃焼破壊は見られなかった。
【0105】
【発明の効果】本発明のレーザー感応性平版印刷版は、レーザー感応性の親水性膨潤層からなるインキ反撥性層を有するため優れたレーザー感応性を有し、かつ従来のPS版と同等以上の高いインキ反撥性を発現する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるレーザー感応性平版印刷版原版の親水性膨潤層の相分離構造の一例を表す。
【図2】本発明にかかるレーザー感応性平版印刷版原版の親水性膨潤層の相分離構造の一例を表す。
【図3】本発明にかかるレーザー感応性平版印刷版原版の親水性膨潤層の相分離構造の一例を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上に少なくともレーザー感応性の親水性膨潤層を備えた平版印刷版原版であって、親水性膨潤層がレーザー照射による活性光線に感応して破壊的吸収を生ずることを特徴とするレーザー感応性平版印刷版原版。
【請求項2】基板上に少なくともレーザー感応性の親水性膨潤層を備えた平版印刷版原版であって、親水性膨潤層が黒色顔料または黒色染料を含有することを特徴とするレーザー感応性平版印刷版原版。
【請求項3】親水性膨潤層が親水性ポリマを主成分とする相および疎水性ポリマを主成分とする相の少なくとも2相から構成された相分離構造を有することを特徴とする請求項2記載のレーザー感応性平版印刷版原版。
【請求項4】基板と親水性膨潤層の間にプライマー層を備えることを特徴とする請求項2記載のレーザー感応性平版印刷版原版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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