説明

レーザー照射装置および微小粒子測定装置

【課題】光学経路上に配された傾斜プリズムによって生じる光学収差を効果的に補償可能なレーザー照射装置の提供。
【解決手段】光学経路上に、傾斜プリズム3と、傾斜プリズム3を透過する光に生じる非点収差および/または色収差を補償する集光レンズ22と、を備えるレーザー照射装置などを提供する。集光レンズ22は、前記光学経路の光軸に対して所定角度θ傾斜されて配設され、この傾きによる逆極性の非点収差によって傾斜プリズム3で生じた非点収差を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、レーザー照射装置および微小粒子測定装置に関する。より詳しくは、光学経路上に配された傾斜プリズムによって生じる光学収差を補償する機能を備えるレーザー照射装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流する微小粒子に光(レーザー)を照射し、微小粒子からの散乱光や、微小粒子そのものあるいは微小粒子に標識された蛍光物質から発生する蛍光を検出して、微小粒子の光学特性を測定する微小粒子測定装置が用いられている。この微小粒子測定装置では、光学特性の測定の結果、所定の条件を満たすと判定されたポピュレーション(群)を、微小粒子中から分別回収することも行われている。このうち、特に微小粒子として細胞の光学特性を測定したり、所定の条件を満たす細胞群を分別回収したりする装置は、フローサイトメータあるいはセルソータ等と呼ばれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「互いに異なる波長を有する複数の励起光を、所定の周期および互いに異なる位相で照射する複数の光源と、複数の励起光を同一の入射光路上に導光し、染色された粒子に集光する導光部材とを備えたフローサイトメータ」が開示されている。このフローサイトメータは、互いに異なる波長を有する複数の励起光を照射する複数の光源と、前記複数の励起光を同一の入射光路上に導光し、染色された粒子に集光する導光部材と、前記複数の励起光のそれぞれが前記粒子を励起して生じた蛍光を検出し、蛍光信号を出力する複数の蛍光検出器と、を備えるものである(当該文献請求項1・3、図1・3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−46947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フローサイトメータの光学系路上に傾斜プリズムが配されている場合、傾斜プリズムによって生じる光学収差がレーザーの利用効率の低下をもたらす要因となる。傾斜プリズムによって非点収差が生じると、照射面におけるビームスポットがぼけるため、微小粒子に照射される光の密度が小さくなってレーザーの利用効率が低下する。また、傾斜プリズムによって色収差が生じると、各波長域の光の照射位置がずれるため、全ての波長域あるいは必要な波長域の光によって照射される領域の面積が小さくなってレーザーの利用効率が低下する。
【0006】
そこで、本技術は、光学経路上に配された傾斜プリズムによって生じる光学収差を効果的に補償可能なレーザー照射装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本技術は、光学経路上に、傾斜プリズムと、該傾斜プリズムを透過する光に生じる非点収差および/または色収差を補償する部材と、を備えるレーザー照射装置を提供する。
このレーザー照射装置において、前記部材は以下のいずれか一以上とできる。
前記光学経路の光軸に対して所定角度傾斜された集光レンズ。
前記部材は、発散光あるいは収束光の経路上に配され、前記光学経路の光軸に対して所定角度傾斜された平行平板。
前記傾斜プリズムに対して逆作用を及ぼす方向に配された第二の傾斜プリズム。
また、本技術は、上記のレーザー照射装置が連設され、前記傾斜プリズムを透過した光を微小粒子に対する照射光とする微小粒子測定装置を提供する。
【0008】
本技術において、「傾斜プリズム」とは、空気と硝材との境界面において、硝材の法線が光軸と平行でない面を有するプリズムを意味する。
【0009】
また、本技術において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)及び植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0010】
本技術により、光学経路上に配された傾斜プリズムによって生じる光学収差を効果的に補償可能なレーザー照射装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本技術の第一実施形態に係るレーザー照射装置の構成を説明する模式図である。
【図2】本技術の第二実施形態に係るレーザー照射装置の構成を説明する模式図である。
【図3】本技術の第三実施形態に係るレーザー照射装置の構成を説明する模式図である。
【図4】本技術に係る微小粒子測定装置のフローセルの構成例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.第一実施形態に係るレーザー照射装置
2.第二実施形態に係るレーザー照射装置
3.第三実施形態に係るレーザー照射装置
4.微小粒子測定装置

【0013】
1.第一実施形態に係るレーザー照射装置
図1は、本技術の第一実施形態に係るレーザー照射装置の構成を説明する模式図である。
【0014】
出射部1から出射された光は、コリメータレンズ21によって平行光とされた後、集光レンズ22によって目的とする対象物に集光される。例えばレーザー照射装置を微小粒子測定装置に連設する場合には、対象物は、フローセルやマイクロチップ上に形成された流路を通流する微小粒子とされる。出射部1は、レーザー光源あるいはレーザーがカップルされたファイバーの出射端であってよい。
【0015】
集光レンズ22と対象物との間の光学経路上には、傾斜プリズム3が配されている。傾斜プリズム3の入射面は、その法線が光軸と平行でない傾斜面とされている。傾斜プリズム3を透過する光には非点収差が生じる。
【0016】
集光レンズ22は、この傾斜プリズム3によって生じる非点収差を補償するため、光軸に対して所定角度θ傾いて配されている。集光レンズ22は、この傾きによる逆極性の非点収差によって、傾斜プリズム3で生じた非点収差を補正する。集光レンズ22の傾き方向は、光軸に対する傾斜プリズム3の入射面の傾きと反対方向(図1(A)参照)あるいは同方向(図1(B)参照)であってよいが、反対方向が好ましい。図1(A)に示す傾斜方向とした場合には、傾斜プリズム3で生じた色収差を集光レンズ22の倍率色収差によって補償できるためである。一方、図1(B)に示す傾斜方向とした場合では、傾斜プリズム3で生じた色収差に集光レンズ22の倍率色収差が加算されることとなる。
【0017】
傾斜プリズム3で生じた色収差が、集光レンズ22の倍率色収差によって補償し切れずに残留する場合には、第三実施形態において後述する第二の傾斜プリズムを光学系路上に配し、色収差をさらに補正するようにしてもよい。なお、傾斜プリズム3によるコマ収差も、集光レンズ22に適量のコマ収差を残留させることにより補正できる。
【0018】
以上のように、本実施形態に係るレーザー照射装置は、光軸に対して所定角度傾斜して配された集光レンズによって傾斜プリズム3で生じた非点収差を効果的に補償できる。
【0019】
2.第二実施形態に係るレーザー照射装置
図2は、本技術の第二実施形態に係るレーザー照射装置の構成を説明する模式図である。
【0020】
出射部1から出射された光は、コリメータレンズ21によって平行光とされた後、集光レンズ22によって目的とする対象物に集光される。例えばレーザー照射装置を微小粒子測定装置に連設する場合には、対象物は、フローセルやマイクロチップ上に形成された流路を通流する微小粒子とされる。出射部1は、レーザー光源あるいはレーザーがカップルされたファイバーの出射端であってよい。
【0021】
集光レンズ22と対象物との間の光学経路上には、傾斜プリズム3が配されている。傾斜プリズム3の入射面は、その法線が光軸と平行でない傾斜面とされている。傾斜プリズム3を透過する光には非点収差が生じる。
【0022】
傾斜プリズム3によって生じる非点収差を補償するため、出射部1とコリメータレンズ21との間の光学経路上には、平行平板4が光軸に対して所定角度θ傾けて配されている。出射部1からの光の出射方向をZ軸方向とし、傾斜プリズム3の入射面の傾きをX軸周りの傾きとした場合(図2(A)参照)、平行平板4は光軸に対してY軸周りに角度θ傾いている(図2(B)参照)。平行平板4は、この傾きによる逆極性の非点収差によって、傾斜プリズム3で生じた非点収差を補正する。
【0023】
平行平板4は、図に示したように出射部1とコリメータレンズ21との間の発散光経路上に配される場合と、集光レンズ22と傾斜プリズム3との間の収束光経路上に配される場合(不図示)とがある。傾斜プリズム3および平行平板4で生じる色収差を補償するため、第三実施形態において後述する第二の傾斜プリズムを光学経路上に配してもよい。
【0024】
以上のように、本実施形態に係るレーザー照射装置は、光軸に対して所定角度傾斜して配された平行平板4によって傾斜プリズム3で生じた非点収差を効果的に補償できる。
【0025】
3.第三実施形態に係るレーザー照射装置
図3は、本技術の第三実施形態に係るレーザー照射装置の構成を説明する模式図である。
【0026】
出射部1から出射された光は、コリメータレンズ21によって平行光とされた後、集光レンズ22によって目的とする対象物に集光される。例えばレーザー照射装置を微小粒子測定装置に連設する場合には、対象物は、フローセルやマイクロチップ上に形成された流路を通流する微小粒子とされる。出射部1は、レーザー光源あるいはレーザーがカップルされたファイバーの出射端であってよい。
【0027】
集光レンズ22と対象物との間の光学経路上には、傾斜プリズム3が配されている。傾斜プリズム3の入射面は、その法線が光軸と平行でない傾斜面とされている。光の屈折角は波長毎に異なるため、傾斜プリズム3を透過する光には色収差が生じる。
【0028】
図中符号5は、傾斜プリズム3によって生じる色収差を補償するため、光学経路上に配される第二の傾斜プリズムを示す。第二の傾斜プリズム5は、傾斜プリズム3とは逆の作用を及ぼす方向に配されることによって、傾斜プリズム3で生じた色収差を補正する。
【0029】
第二の傾斜プリズム5の配設箇所は、出射部1から対象物までの光学系路上のいずれかの箇所であればよく、図に示したコリメータレンズ21と集光レンズ22との間に限定されない。また、第二の傾斜プリズム5は、出射面が傾斜面とされていてもよく(図3(A)参照)、入射面が傾斜面されていてもよい(図3(B)参照)。第二の傾斜プリズム5の出射面を傾斜面とする場合には、該傾斜面の光軸に対する傾き方向は、傾斜プリズム3の傾斜面の傾き方向と同方向とされる。また、第二の傾斜プリズム5の入射面を傾斜面とする場合には、該傾斜面の光軸に対する傾き方向は、傾斜プリズム3の傾斜面の傾き方向と反対方向とされる。
【0030】
以上のように、本実施形態に係るレーザー照射装置は、傾斜プリズム3と逆の作用を及ぼす方向に配された第二の傾斜プリズム5によって傾斜プリズム3で生じた色収差を効果的に補償できる。
【0031】
4.微小粒子測定装置
本技術に係る微小粒子測定装置は、上述のレーザー照射装置と連設され、上記傾斜プリズム3を透過した光をフローセルやマイクロチップ上に形成された流路を通流する微小粒子に対する照射光とする装置である。
【0032】
微小粒子測定装置は、微小粒子をフローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内に一列に配列させて送流するフロー系と、フローセル内等を通流する微小粒子に照射光を照射する照射系と、照射光を照射された微小粒子あるいはこれに標識された物質から発生する散乱光や蛍光などの測定対象光を検出する検出系とを含んで構成される。微小粒子測定装置は、さらに、測定対象光の強度から微小粒子の光学特性を判定する解析系や、判定結果に基づき微小粒子をその光学特性に応じて分別する分取系を備えていてもよい。
【0033】
本技術に係る微小粒子測定装置は、照射系として上述のレーザー照射装置を含み、光学経路上に配された傾斜プリズムによって生じる光学収差を効果的に補償して照射光を微小粒子に照射することが可能とされている。従って、本技術に係る微小粒子測定装置では、レーザーを効率的に利用して微小粒子の散乱光や蛍光の検出強度を高めることができ、高い測定精度を得ることができる。
【0034】
本技術に係る微小粒子測定装置の好適な実施形態として、図4に示すフローセルを備えた微小粒子測定装置が挙げられる。図に示すフローセル6は、3枚のガラス板61,62,63により構成された空間7内に微小粒子を送流し、通流する微小粒子にガラス板61を透過させて光Lを照射する構成とされている。このフローセル6では、照射光を折り曲げるため、ガラス板61の入射面が光軸に対して傾いている。このため、ガラス板61が傾斜プリズムとして機能し、微小粒子に照射される光にガラス板61による光学収差が生じる。この光学収差は、本技術に係るレーザー照射装置を用いることによって効果的に補償することが可能である。なお、本技術に係る微小粒子測定装置のフロー系のその他の構成および検出系、解析系、分取系の構成は、従来公知の装置と同様とすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るレーザー照射装置は、光学経路上に配された傾斜プリズムによって生じる光学収差を効果的に補償する。本発明に係るレーザー照射装置は、種々の対象物に光照射を行うために用いることができ、特に光学経路上に傾斜プリズムが配された微小粒子測定装置のために好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0036】
1:出射部、21:コリメータレンズ、22:集光レンズ、3:傾斜プリズム、4:平行平板、5:第二の傾斜プリズム、6:フローセル、61,62,63:ガラス板、7:空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学経路上に、傾斜プリズムと、該傾斜プリズムを透過する光に生じる非点収差および/または色収差を補償する部材と、を備えるレーザー照射装置。
【請求項2】
前記部材は、前記光学経路の光軸に対して所定角度傾斜された集光レンズである請求項1記載のレーザー照射装置。
【請求項3】
前記部材は、発散光あるいは収束光の経路上に配され、前記光学経路の光軸に対して所定角度傾斜された平行平板である請求項1記載のレーザー照射装置。
【請求項4】
前記部材は、前記傾斜プリズムと逆の作用を及ぼす方向に配された第二の傾斜プリズムである請求項1記載のレーザー照射装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザー照射装置と連設され、前記傾斜プリズムを透過した光を微小粒子に対する照射光とする微小粒子測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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