説明

レーザー駆動粒子線照射装置およびレーザー駆動粒子線照射方法

【課題】レーザー駆動粒子線を用いた治療照射を可能にすると共に、レーザー駆動粒子線を患者の患部まで輸送する過程でレーザー駆動粒子線の強度低下を抑えつつ集束性を高めることができるレーザー駆動粒子線照射技術を提供すること。
【解決手段】ターゲット101にレーザーパルス光102を照射してレーザー駆動粒子線103を射出する粒子線発生装置1と、この射出されたレーザー駆動粒子線103を患者の患部9へと導く輸送路を形成し、レーザー駆動粒子線103を空間的に集束させるビーム集束装置2と、このレーザー駆動粒子線103のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択装置3と、レーザー駆動粒子線103を走査して患部9の照射位置を調節する照射ポート4と、各装置1〜4の動作制御を行う照射制御装置6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動粒子線を取り出し、このレーザー駆動粒子線を分析その他の目的に用いられる照射用粒子線とするレーザー駆動粒子線照射技術に係り、特に、レーザー駆動粒子線の空間分布やエネルギー分布を調節しながら被照射体まで輸送するレーザー駆動粒子線照射装置およびレーザー駆動粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シンクロトロンなどの加速器を用いて陽子や炭素などの荷電粒子を加速し、得られる加速器粒子ビームを患者の体内で停止させて癌細胞を死滅させる粒子線照射技術が提案されている(特許文献1参照)。かかる加速器駆動型の粒子線照射技術にあっては、大掛かりな加速器施設を必要とすることから、設置スペースやコストの点で普及が困難となっており、その運用は一部の施設に留まっているという実情がある。
【0003】
このような実情に鑑み、近年、レーザー駆動陽子線照射技術が構想されている(特許文献2および特許文献3参照)。このレーザー駆動陽子線照射技術は、金属や高分子などの薄膜に高強度且つ極短パルスのレーザー光を照射して取り出される陽子線(以下、レーザー駆動陽子線)を用い、このレーザー駆動陽子線を例えば患者の癌患部に照射する、という考え方である。レーザー駆動陽子線を用いることで、加速器施設が不要となり装置のコンパクト化および低コスト化が図られ、陽子線を用いた治療その他の陽子線照射技術の普及が期待される。
【特許文献1】特開2006−341069号公報
【特許文献2】特表2007−531556号公報
【特許文献3】特開2008−022994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザー駆動陽子線は、ターゲットから発散角を持って射出され空間的に広がっていくという特徴を有している。そのため、レーザー駆動陽子線を治療照射に用いる場合は、患部以外の正常組織の被ばく線量を抑えること、つまり、レーザー駆動陽子線を患部へ輸送する過程において集束させる操作が要求される。
【0005】
また、レーザー駆動陽子線がターゲットから発散角を持って射出されることから、患者の患部に輸送される過程で強度が低下しやすい。このレーザー駆動陽子線の強度の低下は、レーザー駆動陽子線を治療照射に用いることができなくなるとか、照射時間の増大を招いて一定姿勢で位置決め固定される患者の負担を大きくすることにつながる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、レーザー駆動粒子線を用いた治療照射を可能にすると共に、レーザー駆動粒子線を患者の患部まで輸送する過程でレーザー駆動粒子線の強度低下を抑えつつ集束性を高めることができるレーザー駆動粒子線照射装置およびレーザー駆動粒子線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明に係るレーザー駆動粒子線照射装置では、ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動粒子線を射出する粒子線発生装置と、この射出されたレーザー駆動粒子線を被照射体へと導く輸送路を形成し、レーザー駆動粒子線を空間的に集束させるビーム集束装置と、このレーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択装置と、レーザー駆動粒子線を走査して被照射体の照射位置を調節する照射ポートと、各装置の動作制御を行う照射制御装置とを備え、前記ビーム集束装置は、レーザー駆動粒子線の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線を集束させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るレーザー駆動粒子線照射方法では、ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動粒子線を取り出す粒子線生成工程と、レーザー駆動粒子線を空間的に集束させせるビーム集束工程と、被照射体に設定された照射位置の深度に応じてレーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択工程と、被照射体におけるレーザー駆動粒子線の照射位置を調節する照射工程とを備え、前記ビーム集束工程では、レーザー駆動粒子線の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線を集束させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザー駆動粒子線を用いた治療照射が可能になると共に、レーザー駆動粒子線を患者の患部まで輸送する過程でレーザー駆動粒子線の強度低下を抑えつつ集束性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るレーザー駆動粒子線照射装置およびレーザー駆動粒子線照射方法の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明に係るレーザー駆動粒子線照射装置の第1実施形態を示す図である。本実施形態のレーザー駆動粒子線照射装置は、レーザー駆動陽子線を治療照射用の粒子線源とするレーザー駆動陽子線照射装置Uである。
【0012】
レーザー駆動陽子線照射装置Uは、図1に示すように、陽子線発生装置1、ビーム集束装置2、エネルギー選択装置3、照射ポート4および照射制御装置6を備える。図1の符号9は患者の患部である。
【0013】
[陽子線発生装置]
陽子線発生装置1は、金属或いは高分子等を材料とする薄膜状のターゲット101に高強度且つ極短波長のレーザーパルス光102を照射してレーザー駆動陽子線103を射出生成する。なお、この陽子線発生装置1は、レーザーパルス光102の照射軌道上に新たなターゲット101を常時供給可能に構成される。
【0014】
[ビーム集束装置]
ビーム集束装置2は、レーザー駆動粒子線103を患者の患部9へと導く輸送路を形成し、陽子線発生装置1から発散角θを有して射出されたレーザー駆動陽子線103を集束させる。このビーム集束装置2は、四重極磁石201、QMアクチュエータ202および角度コリメータ203を有する。
【0015】
四重極磁石201は、レーザー駆動粒子線103の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線103の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線103を集束させる。
【0016】
この四重極磁石201は、3台の永久磁石から成る四重極磁石201a〜201cを有する。四重極磁石201a〜201cは、レーザー駆動陽子線103に対してこれを集束させる磁場が多重に作用するように、レーザー駆動陽子線103の輸送路に沿って配置される。なお、四重極磁石の数は、レーザー駆動粒子線103の集束制御性等を考慮して適宜設定できる。以下、四重極磁石201により集束されたレーザー駆動陽子線を「陽子ビーム」と称す。
【0017】
QMアクチュエータ202は、照射制御装置6による駆動制御を受け、四重極磁石201a〜201cのうち少なくとも1つをレーザー駆動粒子線103の輸送路に沿って移動させる。
【0018】
角度コリメータ203は、陽子線発生装置1で生成したレーザー駆動陽子線103のうち四重極磁石201に入射する広角成分を遮蔽する。この角度コリメータ203は、陽子線発生装置1のターゲット101とこのターゲット101に最も近い四重極磁石201aとの間に設けられ、四重極磁石201aに形成されるレーザー駆動陽子線103の入射口の口径よりも小さい口径を有する。また、この角度コリメータ203は、アルミニウムなどの低放射化材料により構成される。
【0019】
[エネルギー選択装置]
エネルギー選択装置3は、ビーム集束装置2の陽子ビーム出口側に設けられ、ビーム集束装置2で集束された連続エネルギー分布を持つ陽子ビーム104aの中から特定エネルギー且つ特定エネルギー幅の陽子ビームを選択する。このエネルギー選択装置3は、エネルギー分離磁石301、エネルギー分離磁石電源302、エネルギーコリメータ303、ECアクチュエータ304、エネルギー結合磁石305およびエネルギー結合磁石電源306を有する。
【0020】
エネルギー分離磁石301は、励磁電流の印加を受けて方向および大きさが可変な磁場を形成し、この可変磁場により、ビーム集束装置2で集束された陽子ビーム104aの軌道をその運動量に応じて偏向させると共にその陽子ビーム104aの偏向量を調節する。このエネルギー分離磁石301は、2台のエネルギー分離磁石301a;301bにより構成される。
【0021】
エネルギー分離磁石電源302は、照射制御装置6による出力制御を受け、所要の励磁電流をエネルギー分離磁石301に印加し、エネルギー分離磁石301により形成される磁場を変更する。このエネルギー分離磁石電源302は、エネルギー分離磁石301aおよびエネルギー分離磁石301bのそれぞれに独立して接続されるエネルギー分離磁石電源302a;302bにより構成される。
【0022】
エネルギーコリメータ303は、エネルギー分離磁石301により運動量の違いに応じて偏向し拡散した陽子ビーム104bの輸送路を遮断するように設けられ且つ上下移動可能に構成される2つのブロック303aおよびブロック303bと、各ブロック303a;303bとにより形成され、特定軌道を持つ陽子ビーム104bの選択的通過を許容するスリットS1とを有する。
【0023】
ECアクチュエータ304は、照射制御装置6による駆動制御を受け、エネルギーコリメータ303を構成するブロック303a;303bを上下移動させる。例えば、ECアクチュエータ304は、ブロック303a;303bにより形成されるスリットSのスリット中心C1を保持したままスリットSのサイズを拡大縮小させたり、或いは、このスリットSのサイズを保持したままスリット中心C1を変位させるように、各ブロック303a;303bを上下移動させる。
【0024】
エネルギー結合磁石305は、励磁電流の印加を受けて方向および大きさが可変な磁場を形成し、この可変磁場により、エネルギー分離磁石301を通過して運動量に応じて偏向し拡散した陽子ビーム104bの軌道を再び集束させる。このエネルギー結合磁石305は、2台のエネルギー結合磁石305a;305bにより構成される。
【0025】
エネルギー結合磁石電源306は、照射制御装置6による出力制御を受け、所要の励磁電流をエネルギー結合磁石305に印加し、エネルギー分離磁石301により形成される磁場を変更する。このエネルギー結合磁石電源306は、エネルギー結合磁石305aおよびエネルギー結合磁石305bのそれぞれに独立して接続されるエネルギー結合磁石電源306a;306bにより構成される。
【0026】
なお、エネルギー分離磁石、エネルギー分離磁石電源、エネルギー結合磁石、エネルギー結合磁石電源の数は、陽子ビームの偏向および結合の制御性を考慮して適宜設定できる。
【0027】
[照射ポート]
照射ポート4は、エネルギー選択装置3の陽子ビーム出口側に設けられ、エネルギー選択装置3を通過した特定エネルギーの陽子ビーム104cが患者の患部9に設定された照射点902に正しく入射するよう、陽子ビーム104cの軌道を調節する。また、患部9における陽子ビーム104cの照射位置および照射線量を監視する。この照射ポート4は、走査電磁石401、走査電磁石電源402、位置モニタ403、線量計404および線量計回路405を有する。
【0028】
走査電磁石401は、励磁電流の制御を受け、陽子ビーム104cの水平方向の軌道調節を行う水平走査電磁石401aと、陽子ビーム104cの垂直方向の軌道調節を行う垂直走査電磁石401bとを有する。走査電磁石電源402(402a、402b)は、走査電磁石401(401a、401b)に対して陽子線ビーム104cの走査に必要な電流を供給する。
【0029】
位置モニタ403は、これを通過した陽子ビーム104cの位置すなわち患者の患部9における陽子ビームの入射位置の指標となる信号を出力し、照射制御装置6に送信する。なお、位置モニタ403としては、電離箱式などを用いることができる。
【0030】
線量計404は、これを通過した陽子ビーム104cの強度或いは線量すなわち患者の患部9に照射された陽子ビームの強度ないし線量に応じた電気信号を出力する。なお、線量計404としては、電離箱式などを用いることができる。
【0031】
線量計回路405は、線量計404から出力される電気信号を受信し、受け取った電気信号が予め設定された積算出力値に到達したとき、患者の患部9に設定された照射点902の線量満了を示す線量満了信号を照射制御装置6に送信する。
【0032】
[照射制御装置]
照射制御装置6は、患者の治療照射をどのように行うかを示す照射パターンデータを記録可能に構成され、この照射パターンデータを参照してレーザー駆動陽子線照射装置Uの全体制御を行う。なお、照射パターンデータは、治療照射の事前に行われる治療計画にて作成される最適照射情報を元にして作成される。
【0033】
図2はレーザー駆動陽子線照射装置Uが参照する照射パターンデータの内容例を示す図である。この照射パターンデータには、患者の患部9を仮想的に切り分けた照射スライス901ごとに設定された照射点902の位置指標となる基準位置からみた水平方向の相対位置001および垂直方向の相対位置002、照射スライス901の位置指標すなわち体内深度の指標となる体内飛程003、体内におけるビーム停止幅の指標となるビーム停止幅004、各照射点902に照射すべきビーム強度005および設定線量006から構成されるもので、陽子線発生装置1、ビーム集束装置2、エネルギー選択装置3および照射ポート4の動作制御に必要な情報が収められる。なお、ビーム停止幅は、陽子ビームのエネルギー幅に基づく体内飛程の差により生ずるものである。また、照射パターンデータの内容は適宜変更できる。
【0034】
照射制御装置6は、ビーム集束制御部601、エネルギー選択制御部602および走査制御部603を有する。
【0035】
ビーム集束制御部601は、ビーム集束装置2の四重極磁石201に入射し集束されるレーザー駆動粒子線103の焦点位置を調節すべく、四重極磁石201の位置を調節する。例えば、レーザー駆動粒子線103の焦点が患者の患部9に形成されるよう、四重極磁石201a〜201cの相対位置を調節する。この四重極磁石201a〜201cの位置調節は、エネルギー選択装置3にて選択される陽子ビームのエネルギーごとに定められた四重極磁石201a〜201cの位置情報に基づき、QMアクチュエータ202を駆動させることにより行う。
【0036】
エネルギー選択制御部602は、エネルギー選択装置3に入射した陽子ビームのうち照射パターンデータ(図2参照)に示されるエネルギーを持つ陽子ビームを選別すべく、エネルギー分離磁石電源302の出力制御を行ってエネルギー分離磁石301に印加する励磁電流を調節し、もって陽子ビーム104bの偏向量を調節する。また、必要に応じて同装置3のエネルギーコリメータ303のスリット中心C1を位置調節してスリットS1を通過する陽子ビーム104cの軌道を選別する。そして、エネルギー分離磁石301により偏向し拡散した陽子ビームを集束させるため、同装置3のエネルギー結合磁石電源306の出力制御を行いってエネルギー結合磁石305に印加する励磁電流を調節する。
【0037】
また、このエネルギー選択制御部602は、患者の患部9における陽子ビームのビーム停止幅を調節するため、ECアクチュエータ304を操作してエネルギーコリメータ303のスリットS1のサイズを調節する。すなわち、患者の患部9において所要のビーム停止幅を形成可能なエネルギー幅に存在する陽子ビームが選択的にエネルギーコリメータ303のスリットS1を通過するよう、ブロック303aおよびブロック303bを互いに反対方向に上下変位させる。なお、このブロック303a;303bの変位量は、照射パターンデータ(図2参照)に収められるビーム停止幅004に基づき設定される。
【0038】
走査制御部603は、所定の照射点902に対し陽子ビーム104cが入射するよう、走査電磁石電源402の出力を制御し、走査電磁石401に印加する励磁電流を調節する。
【0039】
次に、レーザー駆動陽子線照射装置Uの動作を説明する。
【0040】
以下の動作用説明は、いわゆるスポットスキャニング照射法を用いて治療照射を行う例に基づくものである。スポットスキャニング照射法は、すでに加速器駆動型の粒子線照射技術にあっては確立されており、治療効果が高いことが確認されている照射方法である。
【0041】
このスポットスキャニング照射法は、患者の患部を仮想的に3次元格子点、すなわち、照射スライスおよびその照射スライスに設定される照射点に切り分け、患部の深さ方向(陽子ビーム軸D2の方向)、患部の断面方向(陽子ビーム軸D2と交わる方向)の各方向に陽子ビームを走査する方法である。1つの照射点に照射された線量がその照射点に対する設定線量に到達したことを示す線量満了信号が生成されたタイミングで陽子ビームの照射を一旦停止させる。その後、陽子ビームを次の照射点ないし照射スライスへと走査して照射を再開する。この操作を繰り返すことにより患部全域の照射が行われる。
【0042】
例えば、治療計画において、治療照射の開始点が最深の照射スライス901aにおける照射点902aであり、この照射スライス901aが体内深度156mm、照射スライス901aの位置で停止する陽子ビームのエネルギーが150MeV、照射スライス901aにおける陽子ビームのビーム停止幅が5mm、と策定されたと仮定する。この場合、治療計画(照射パターンデータ)に基づき、レーザー駆動陽子線照射装置Uでは、照射制御装置6により各構成装置が次のように調節される。
【0043】
エネルギー選択装置3について、エネルギー分離磁石301の励磁電流が調節されると共に必要に応じてエネルギーコリメータ303のスリット中心C1の位置が調節され、陽子ビームのエネルギーとして150MeVが選択される。
【0044】
それと共に、同装置3におけるエネルギーコリメータ303のスリットS1がサイズ調節され、ビーム停止幅5mmを得るのに必要なエネルギー幅として、例えば陽子ビームのエネルギー幅1.8%が選択される。なお、エネルギー幅1.8%(運動量幅にして1%)は、エネルギーコリメータ303のスリットS1のサイズを陽子ビーム104bの偏向距離D1(偏向を受けない状態の陽子ビーム軸D2から見た垂直方向の距離)の1%に調節することにより選択できる。そして、エネルギーコリメータ303のスリットS1を通過して偏向し拡散している陽子ビームが集束するよう、エネルギー結合磁石305の励磁電流が調節される。
【0045】
図3はレーザー駆動陽子線照射装置Uにて行われる陽子ビームのエネルギーおよびエネルギー幅の選択例を示したものであり、符号007は選択した陽子線エネルギー(150MeV)、符号008はエネルギー幅(1.8%)である。また、図4はレーザー駆動陽子線照射装置Uにおいて陽子ビームのエネルギー(150MeV)およびビーム停止幅(5mm)を選択したときのエネルギーコリメータ303の状態を模式的に示した図であり、符号009は陽子ビームの強度、符号010は陽子ビーム軸D2(図1参照)を基準(0cm)としたときのエネルギーコリメータ303のスリット中心C1の位置(11cm)、符号011はエネルギーコリメータ303のスリットS1のサイズ(1.1mm)である。
【0046】
このとき、エネルギー選択装置3による陽子ビームのエネルギー選択に応じて、ビーム集束装置2における四重極磁石201a〜201cの位置が調節される。これにより、患者の患部9に到達するエネルギー150MeV(エネルギー幅1.8%)の陽子ビームの必要な強度が確保される。
【0047】
そして、照射ポート4における走査電磁石401の励磁電流が調節され、エネルギー150MeV(エネルギー幅1.8%)の陽子ビームが照射点902aに正しく入射するよう、陽子ビームの軌道調節が行われる。
【0048】
以上のようにして、各構成装置が調節された後、照射制御装置6の制御を受けて、陽子線発生装置1から高強度且つ極短波長のレーザーパルス光102がターゲット101に向かって射出され、このターゲット101から発散角θを持つ連続エネルギーのレーザー駆動陽子線103が射出される。
【0049】
陽子線発生装置1から射出されたレーザー駆動陽子線103は、先ず、ビーム集束装置2に案内される。このビーム集束装置2では、角度コリメータ203により陽子ビーム104の広角成分が四重極磁石201の構造体に入射しないよう遮蔽される。他方、四重極磁石201が形成する磁場に入射したレーザー駆動陽子線103は、その磁場を通過しながら次第に集束して陽子ビーム104aとなる。
【0050】
陽子ビーム104aは、ビーム集束装置2による集束操作を受けた後、エネルギー選択装置3に案内される。このエネルギー選択装置3では、陽子ビーム104aがエネルギー分離磁石301により形成される磁場に入射して運動量に応じて軌道が偏向される。偏向した陽子ビーム104bは、エネルギーコリメータ303のスリットS1に向かって進み、このスリットS1を通過してエネルギー150MeV(エネルギー幅1.8%)を持つ陽子ビーム104cとなる。そして、運動量の違いにより偏向し拡散していた陽子ビーム104cは、エネルギー結合磁石305により形成される磁場を通過しながら集束していく。
【0051】
エネルギー選択装置3にてエネルギー選択を受けた陽子ビーム104cは、照射ポート4に案内される。照射ポート4では、陽子ビーム104cが走査電磁石401により形成される磁場に入射して水平方向および垂直方向の軌道が調節され、照射スライス901aに設定された照射点902aに向かって進み、照射点902aの治療照射が行われる。
【0052】
このとき、照射制御装置6により、位置モニタ403の出力信号に基づいて軌道調節された陽子ビーム104cが照射点902aに正しく入射しているか否かが監視される。入射位置が正しくないと判定されたとき、照射制御装置6は、異常を報知すると共にレーザー駆動陽子線照射装置Uの作動をインターロックにて停止する。
【0053】
この照射点902aに対する陽子ビームの照射は、線量計回路405から線量満了信号が出力されるまで継続して行われる。線量満了信号が出力され照射制御装置6に入力されたときは、次の照射点902bの照射に移行する。すなわち、照射制御装置6により照射パターンデータが参照され、次の照射点902bに陽子ビームが入射するように走査電磁石401の励磁電流が調節され、再び照射制御装置6に線量満了信号が入力されるまで、照射点902bに対し陽子ビームの照射が継続して行われる。このような操作が順次繰り返されることで、照射スライス901aに設定された全ての照射点902に対する照射が行われる。
【0054】
照射スライス901aの照射が完了したときは、次の照射スライス901bの照射に移行する。すなわち、照射制御装置6により照射パターンデータが参照され、照射スライス901bの位置で陽子ビームが停止するようにエネルギー選択装置3の調節が行われ、この照射スライス901bの各照射点(図示省略)に陽子ビームが入射するように照射ポート4の調節が行われる。このような操作が順次繰り返されていき、最浅の照射スライス901cの照射へと移行する。
【0055】
ここで、治療計画において最浅の照射スライス901cが体内深度80mm、照射スライス901cの位置で停止する陽子ビームのエネルギーが100MeV、と策定されたと仮定する。このとき、患者の患部9においてビーム停止幅5mmを得るのに必要な陽子ビームのエネルギー幅は、エネルギー150MeVを選択した場合とは異なる。これは、陽子ビームの体内飛程すなわち陽子ビームの停止位置が、エネルギーと比例関係にないことによる。
【0056】
そのため、陽子ビームのエネルギー150MeVを選択したときと同様のビーム停止幅約5mmが得られるよう、エネルギーコリメータ303のスリットS1は、陽子ビームのエネルギー150MeVを選択した場合と異なるサイズに調節される。なお、図5はレーザー駆動陽子線照射装置Uにおいて陽子ビームのエネルギー(100MeV)およびビーム停止幅(5mm)を選択したときのエネルギーコリメータの状態を示した図であり、符号013は陽子ビーム軸D2(図1参照)を基準(0cm)としたときのスリット中心C1の位置(11cm)、符号014はスリットS1のサイズ(2.6mm)である。
【0057】
ところで、図5は専らエネルギー分離磁石301の励磁電流制御を通じた陽子ビーム104bの偏向量調節により、陽子ビームのエネルギーを選択したときのエネルギーコリメータの状態を示したものである。したがって、エネルギーコリメータ303のスリット中心C1の位置(11cm)は、陽子ビームのエネルギーとして150MeVを選択したときと同一である。
【0058】
しかしながら、陽子ビームのエネルギーは、陽子ビーム104bの偏向量調節を伴うことなく或いはこの偏向量調節と共に、エネルギーコリメータ303のスリット中心C1の位置を調節することによっても選択できる。図6は陽子ビームのエネルギー選択方法の変更例を示す図であり、符号013´および014´の内容は符号013および014と同様である。図6に示すように、この方法により陽子ビームのエネルギー100MeVを選択した場合は、エネルギー150MeVを選択した場合と比べ、スリット中心C1が上方に移動し且つビーム停止幅(5mm)が得られるようにスリットSのサイズが拡大される。
【0059】
次に、本発明に至った経緯ならびにレーザー駆動陽子線照射装置Uの作用を説明する。
【0060】
レーザー駆動陽子線は、ターゲットから発散角を持って射出され空間的に広がっていくという特徴を有する。そのため、レーザー駆動陽子線を治療照射に用いる場合は、患部以外の正常組織の被ばく線量を抑えること、つまり、レーザー駆動陽子線を患部へ輸送する過程において集束させる操作が要求される。しかしながら、レーザー駆動陽子線を用いる場合、下記の理由により、従来から運用されている加速器駆動型の陽子線照射装置の主要構成は採用することはできない。
【0061】
加速器駆動型の陽子線照射装置にあっては、加速器陽子ビームの体内飛程を調節するため、レンジシフタと呼ばれる装置が用いられる。このレンジシフタは、厚みの異なるアクリル板などを有して構成され、所要のエネルギーを持つ陽子ビームのみ通過させることで加速器陽子ビームの体内飛程を調節する。しかしながら、レーザー駆動陽子線は、発散角を持ってターゲットから射出されるため、正常部位の被ばく線量が増大するとともに照射点まで輸送される間に強度が著しく低下する。レンジシフタによる散乱が作用すれば、陽子線ビームが空間的にさらに広がることになり正常部位の被ばく線量が増大する。
【0062】
また、加速器駆動型の陽子線照射装置にあっては、リッジフィルタと呼ばれる装置が用いられる。このリッジフィルタは、非常に小さいエネルギー幅(以下、単一エネルギー)を持つ加速器陽子ビームが体内にてブラッグピークと呼ばれる急峻な線量分布をスライス間隔に合致するようビーム停止幅を広げる働きをする。しかしながら、レーザー駆動陽子線は連続エネルギーである。このため、リッジフィルタによってビーム停止幅を広げることは全く無意味であり、反って、リッジフィルタによる散乱により陽子線ビームが空間的にさらに広がることになり正常患部の被爆が増大するという不利益の方が大きくなる。
【0063】
陽子線照射による治療において、陽子線のエネルギーやエネルギー幅の選択はいずれも必要な操作である。レーザー駆動陽子線を用いる場合にあっては、この操作を陽子線の強度低下を抑えながら行なわなければならないのであるが、加速器駆動型の陽子線照射装置はそのような構成を備えていない。
【0064】
そこで、本発明者は、レーザー駆動陽子線の空間的な広がりおよび強度低下を抑えつつそのエネルギーやエネルギー幅の調節が可能なレーザー駆動陽子線照射装置を構成し、レーザー駆動粒子線を用いた治療照射を現実的なものにした。
【0065】
図7は本発明に係るレーザー駆動陽子線照射装置の他の形態を示す図であり、第1実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uの比較例である。なお、第1実施形態と同様の構成は、同一符号を付して説明を省略する。
【0066】
他の形態のレーザー駆動陽子線照射装置U´は、図7に示すように、エネルギー選択装置3´を備える。このエネルギー選択装置3´は、集束用コリメータ307´およびエネルギーコリメータ303´を有する。
【0067】
エネルギー選択装置3´の集束用コリメータ307´は、陽子線発生装置1で生成したレーザー駆動陽子線103の進路を遮断するように配置され、レーザー駆動陽子線103の一部を通過させる開口G1´を有する。なお、この集束用コリメータ307´は、アルミニウムなどの低放射化材料により構成される。
【0068】
エネルギー選択装置3´のエネルギーコリメータ303´は、エネルギー分離磁石301により運動量の違いに応じて偏向された陽子ビーム104bの進路を遮断するように設けられる2つのブロック303a´およびブロック303b´と、このブロック303a´とブロック303b´とで形成されるスリットS1´とを有する。
【0069】
レーザー駆動陽子線照射装置U´にあっては、エネルギー分離磁石301の手前に集束用コリメータ307が設けられるため、レーザー駆動陽子線103はエネルギー選択装置3´に入射する前にその広角成分がビーム進路から取り除かれる。これにより、治療計画で定められた照射点902に限定した精度の高い照射が可能となり、正常組織における被ばく線量の低減が図られる。
【0070】
また、レーザー駆動陽子線照射装置U´のエネルギー選択装置3´では、陽子ビーム104aがエネルギー分離磁石301により形成される磁場に入射して運動量に応じて軌道が偏向され、偏向した陽子ビーム104bがスリットS1´を通過し、特定のエネルギーを持つようになる。そして、陽子ビーム104cは、エネルギー結合磁石305により形成される磁場に入射し、運動量の違いによって偏向され拡散していた陽子ビーム104bが再び集束される。
【0071】
このように、レーザー駆動陽子線照射装置U´によると、加速器駆動型の粒子線装置で採用されるレンジシフタやリッジシフタを用いることなく、陽子ビームの体内飛程やビーム停止幅を定めることができる。したがって、レーザー駆動陽子線103に対してレンジシフタやリッジシフタによる散乱が作用せず、患部位置におけるビームの空間的広がりを抑制することが可能となって、正常患部の被爆を抑制することができる。
【0072】
しかしながら、レーザー駆動陽子線照射装置U´にあっては、陽子ビームの集束性を高めようとすればするほど、その集束用コリメータ307´の開口G1´を小さく設定する必要があり、この集束用コリメータ307´を通過して最終的に患者の患部9に到達する陽子ビームの強度が低下していく、という問題がある。
【0073】
例えば、レーザー駆動陽子線103の発散角θが5°であって、患部9におけるビームサイズおよびビーム停止幅の設定上、ターゲット101におけるレーザー駆動粒子線103の発生点から見たエネルギー選択装置3´のスリットS1通過領域の見込み角が0.5°と設定されていたと仮定する。この場合、エネルギー選択装置3´に案内される陽子ビーム104aの強度は、ターゲット101から射出された直後のレーザー駆動陽子線103の強度の1%程度以下となる。
【0074】
さらに、通常の治療照射では、陽子ビームのエネルギー幅は2〜5%程度のものが用いられるため、エネルギー選択装置3´を経過した後の陽子ビーム104cの強度は一段と低下する。なお、照射するレーザーパルス光102の強度その他の条件にもよるが、例えば、患部9のサイズを10ccとすると、レーザー駆動陽子線照射装置U´を用いて患部9に線量2Gyを照射するには、経験的に100分程度の時間を要する。この所要時間は、患者を位置決めした状態で保持する時間としては好ましいものではなく、集束性を高めることによる強度低下を抑えることが求められていた。これが、レーザー駆動陽子線照射装置U´に関わる第一の課題であった。
【0075】
加えて、レーザー駆動陽子線照射装置U´にあっては、患部9の体内深度に応じて陽子ビームのエネルギーを150MeVから100MeVまで変化させる場合、エネルギー150MeVに対してビーム停止幅5mmを設定すると、上述したようにエネルギー100MeVについてはビーム停止幅5mmが得られず、例えば2mm程度となってしまう。
【0076】
線量分布の平坦性を得る方法として、最も小さいビーム停止幅に併せて照射スライス間隔を設定することも考えられる。この方法によれば、線量分布の良好な平坦性を得ることができる。しかしながら、照射スライス間隔が小さくなると患部9の全域照射に必要となる照射スライスの数が増加し、照射時間(エネルギー選択装置3´の制御時間など)が増大して患者の身体的負担が大きくなる。
【0077】
そこで、照射時間の増大を招くことなく線量分布の平坦性を確保する方法として、選択する陽子ビームのエネルギーごとに変化するビーム停止幅を治療計画時に考慮しておき、線量分布が平坦になるような照射スライス間隔を設定することも考えられる。しかし、照射スライスや照射点などの照射パターンデータは、一般にCT(Computed Tomography)による撮影データ(通常、その位置は等間隔である。)に基づき設定できるところ、照射スライスを別途作成するとなれば、照射の最適化計算にかかる時間およびその最適化計算ないしレーザー駆動陽子線照射装置の開発コストの増大を招く。
【0078】
すなわち、レーザー駆動陽子線照射装置U´にあっては、照射スライス間隔を密にしたり照射の最適化計算を行ったりすることなく、線量分布の良好な平坦性を得ることが求められていた。これが、レーザー駆動陽子線照射装置U´に関わる第二の課題であった。
【0079】
そこで、本発明者は、レーザー駆動陽子線照射装置U´を改良し、第1実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uの構成を採用するに至ったものである。
【0080】
図8〜図10はレーザー駆動陽子線照射装置Uの作用説明図である。
【0081】
[陽子ビームの集束性と強度との両立]
本実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uでは、陽子線発生装置1で生成したレーザー駆動陽子線103はエネルギー集束装置3に設けられる四重極磁石201で形成される磁場を通過することで集束される。
【0082】
図8はレーザー駆動陽子線照射装置Uを対象とした陽子ビーム104aのビーム軌跡に関するシミュレーション結果を示す図である。横軸はビーム進行方向の距離であり、縦軸はビーム広がり方向の距離である。符号201a〜201cは、ビーム集束装置2における四重極磁石201a〜201cの位置である。符号015は陽子ビームの水平方向のビーム軌跡であり、符号015は陽子ビームの垂直方向のビーム軌跡である。
【0083】
図8に示すように、レーザー駆動陽子線照射装置Uでは、レーザー駆動陽子線照射装置U´に設けられる集束用コリメータ307´を用いることなく、すなわち、強度低下を抑えつつ、レーザー駆動陽子線103の集束性が良好に高められる。
【0084】
ちなみに、レーザー駆動陽子線103は、その発散角θを5°、ターゲット101におけるレーザー駆動陽子線103の発生点から見たエネルギー選択装置3´のスリットS1通過領域の見込み角を0.5°とした場合、強度にして約36%がエネルギー選択装置3に案内されることが確認された。これに対し、レーザー駆動陽子線照射装置U´にあっては、上述したように、エネルギー選択装置3´に案内されるレーザー駆動陽子線103は1%程度以下である。したがって、レーザー駆動陽子線103を集束させる手段として四重極磁石201を採用することにより、集束用コリメータ307´を採用した場合と比較し強度にして約40倍の陽子ビームを得ることができる。このように、レーザー駆動陽子線の集束性を高めるに際してその強度の低下を大きく抑えられる結果、例えば、レーザー駆動陽子線照射装置U´では100分を必要としていた治療照射が2、3分に短縮されるようになる。
【0085】
[陽子ビームのエネルギーおよびエネルギー幅の選択と強度との両立]
レーザー駆動陽子線照射装置Uのビーム集束装置2を経過して集束された陽子ビーム104aは、エネルギー選択装置3に案内される。エネルギー選択装置3では、陽子ビーム104aがエネルギー分離磁石301が形成する磁場に入射して運動量に応じて軌道が偏向され、偏向して陽子ビーム104bがスリットS1´を通過することにより特定エネルギーの陽子ビーム104cとなる。そして、陽子ビーム104cは、エネルギー結合磁石305により形成される磁場を通過し、運動量の違いによって偏向され拡散していた陽子ビーム104bが結合される。
【0086】
このように、レーザー駆動陽子線照射装置Uによると、レーザー駆動陽子線照射装置U´と同様に、加速器駆動型の粒子線装置で採用されるレンジシフタやリッジシフタを用いることなく、陽子ビームの体内飛程やビーム停止幅を定めることができる。
【0087】
[線量分布の均一性]
レーザー駆動陽子線照射装置Uにあっては、照射スライス901が変更されるごとに、ビーム停止幅が一定となるよう、エネルギーコリメータ303を通過する陽子ビームのエネルギー幅が調節される。
【0088】
すなわち、エネルギー選択装置3においてエネルギー分離磁石301の励磁電流が調節されて陽子ビームのエネルギーが選択されると、照射制御装置6により照射パターンデータが参照され、エネルギーコリメータ303のスリットS1のサイズが治療計画で定められたビーム停止幅が得られるように拡大或いは縮小される。
【0089】
そのため、CTによる撮影データを用いて設定されるような等間隔の照射スライスであっても線量分布の良好な平坦性を得ることができる。つまり、照射スライス間隔を密にしたり照射の最適化計算を行ったりすることなく、線量分布の良好な平坦性を得ることができる。なお、図9はレーザー駆動陽子線照射装置Uにより形成される照射スライス上の線量分布の重ね合わせを示す図(シミュレーション結果)であり、横軸は体内深度(mm)、縦軸は照射線量(Gy)である。レーザー駆動陽子線照射装置Uによると、図9に示すように、体内深度156mm〜80mmの間で線量分布の良好な平坦性が得られる。
【0090】
[安全性]
陽子線発生装置1から射出された発散角θを持つレーザー駆動陽子線103は、ビーム集束装置2に入射する前にその広角成分が遮蔽される。これにより、レーザー駆動陽子線103の発散軌道上に配置される四重極磁石201への陽子線入射が妨げられ、四重極磁石201の構成材料の放射化が防止される。また、最終的に患者の患部9まで到達する陽子ビーム104のうち、予め治療計画で定められた照射点902から逸脱する成分が除去され、正常組織の被ばく線量が低減される。
【0091】
次に、レーザー駆動陽子線照射装置Uの効果を説明する。
【0092】
レーザー駆動陽子線照射装置Uにあっては、
(1) ターゲット101にレーザーパルス光102を照射してレーザー駆動粒子線103を射出する粒子線発生装置1と、この射出されたレーザー駆動粒子線103を患者の患部9へと導く輸送路を形成し、レーザー駆動粒子線103を空間的に集束させるビーム集束装置2と、このレーザー駆動粒子線103のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択装置3と、レーザー駆動粒子線103を走査して患部9の照射位置を調節する照射ポート4と、各装置1〜4の動作制御を行う照射制御装置6とを備える。このため、レーザー駆動陽子線を用いた治療照射が可能となる。つまり、加速器を不要として装置のコンパクト化および省スペース化に有利な陽子線の治療照射を実現できる。
【0093】
また、ビーム集束装置2は、レーザー駆動粒子線103の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線103の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線103を集束させる。このため、レーザー駆動粒子線を患者の患部まで輸送する過程でレーザー駆動粒子線の強度低下を抑えつつ集束性を高めることができる。
【0094】
(2) ビーム集束装置2は、陽子線発生装置1とエネルギー選択装置3との間に設けられる。このため、発散角θを有してターゲット101から射出されるレーザー駆動粒子線103は、空間的に集束された後にエネルギーおよびエネルギー幅の選択操作を受ける。この結果、ビーム集束装置2がエネルギー選択装置3の後段に設けられる構成と比較してレーザー駆動粒子線103の強度が大きいものとなり、(1)の効果が高められる。
【0095】
(3) ビーム集束装置2は、永久磁石から成る四重極磁石201を有し、この四重極磁石201によりレーザー駆動粒子線103を集束させる磁場を形成する。このため、電磁石を用いて励磁電流調節を通じた磁場調節を行うことでレーザー駆動陽子線103の集束操作を行う構造を採用する場合と比較し、レーザー駆動陽子線照射装置Uのコンパクト化や低コスト化が図られる。
【0096】
(4) ビーム集束装置2の四重極磁石201は、レーザー駆動粒子線103の輸送路に沿って複数設けられ且つ少なくとも1つの四重極磁石103が移動可能に構成される。このため、レーザー駆動粒子線103の空間分布を調節することができる。その結果、患者の患部9に到達するレーザー駆動粒子線103の集束性および強度を高い状態で維持することができ、(1)の効果が高められる。
【0097】
(5) エネルギー集束装置2は、四重極磁石201と陽子線発生装置1のターゲット101との間に設けられて四重極磁石201に入射するレーザー駆動粒子線101の広角成分を遮蔽する角度コリメータ203を有する。このため、患部9から外れた正常組織の被ばく線量が低減され、治療照射の安全性が向上する。
【0098】
(6) エネルギー選択装置3は、レーザー駆動粒子線103の輸送路にレーザー駆動粒子線103が運動量に応じて偏向する磁場を形成し、特定の軌道を持つレーザー駆動粒子線103を選択して残りのレーザー駆動粒子線103をその輸送路から除去することにより、レーザー駆動粒子線103のエネルギーおよびエネルギー幅を選択する。このため、レーザー駆動粒子線103のエネルギーおよびエネルギー幅の選択操作に際してレーザー駆動粒子線103の分散が作用しない。その結果、レーザー駆動粒子線103の強度を高い状態で患部9まで輸送でき、(1)の効果が高められる。
【0099】
(7) エネルギー選択装置3は、励磁電流の制御を受けて可変磁場を形成する電磁石を有するエネルギー分離磁石301と、この可変磁場により偏向を受けたレーザー駆動粒子線103の輸送路を遮断するように設けられ、特定の軌道を持つレーザー駆動粒子線103の選択的通過を許容するスリットS1を形成するエネルギーコリメータ303とを有する。このため、(6)の効果が確実且つ容易に得られるようになる。
【0100】
(8) エネルギー選択装置3のエネルギーコリメータ303は、スリットS1のサイズが調節可能に構成される。このため、照射スライス間隔を密にしたり照射の最適化計算を行ったりすることなく、線量分布の良好な平坦性を得ることができ治療照射の精度が高められる。
【0101】
(第2実施形態)
図10はレーザー駆動陽子線照射装置の第2実施形態を示す図である。本実施形態は、第1実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uに陽子ビームのエネルギー選択機能ならびに同装置Uのインターロックに関わる構成を追加した例である。なお、第1実施形態と同様の構成は同一符号を付して説明を省略し、第1実施形態の構成を変更し或いは新たに追加した構成は、符号に「A」を付して説明する。
【0102】
本実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Aは、図10に示すように、エネルギー分布集束装置5Aおよびビーム強度監視装置7Aを備える。また、レーザー駆動陽子線照射装置Aの照射制御装置6Aは、エネルギー分布集束制御部604Aおよび高周波電源605Aを有する。
【0103】
[エネルギー分布集束装置]
エネルギー分布集束装置5Aは、図10に示すように、陽子線発生装置1とエネルギー選択装置3との間に設けられる。このエネルギー分布集束装置5Aは、レーザー駆動粒子線103の輸送路を形成し、この輸送路でレーザー駆動粒子線103のエネルギー分布を集束させて特定のエネルギーにピークを形成する。このエネルギー分布集束装置5Aは、外側空洞501Aと内側空洞502Aとを有する位相回転空洞500Aを用いて構成される。
【0104】
図11はレーザー駆動陽子線照射装置Aの位相回転空洞500Aの拡大図である。
位相回転空洞500Aの外側空洞501Aは、ビーム集束装置2を通過した陽子ビーム104dの輸送路外殻を成す。
【0105】
位相回転空洞500Aの内側空洞502Aは、外側空洞501Aの内部にて外側空洞501Aの長手方向に沿って間隔を置いて複数配置され、高周波電源605Aから高周波電圧が印加される。
【0106】
この内側空洞502Aは、内側空洞間のギャップG2を通過する陽子ビーム104dに対して高周波電場を作用させ、陽子バンチ(陽子の時間的な離散状態)を構成している陽子群のうち、各ギャップG2に突入するタイミングと内側空洞502Aに印加される高周波電圧の位相とが同期する陽子が持つエネルギーを中心として、陽子ビーム104dのエネルギー分布を集束させる。
【0107】
図12はレーザー駆動陽子線照射装置Aの位相回転空洞500Aを通過した陽子ビームのエネルギー分布を示した図(シミュレーション結果)であり、横軸は陽子のエネルギー、縦軸はレーザーパルス光102の1ショット当たりの陽子数である。図12において、符号017は位相回転空洞500Aに高周波電場が印加されない状態における陽子ビームのエネルギー分布であり、符号018は位相回転空洞500Aに高周波電場が印加された状態における陽子ビームのエネルギー分布である。
【0108】
エネルギー分布集束装置5Aは、ビーム集束装置2とエネルギー選択装置3との間に配置することが好ましい。その理由は、エネルギー分布集束装置5Aで陽子ビームのエネルギー分布を集束させた後にエネルギー選択装置3でその陽子ビームのエネルギーを選択する方が、その逆の場合に比べて、患者の患部9に到達する陽子ビームの強度を高い状態で維持できるからである。すなわち、装置の配置は、図10に示すように、陽子ビームの輸送路の上流側から順に、ビーム集束装置2→エネルギー分布集束装置5A→エネルギー選択装置3→照射ポート4であることが陽子ビームの強度維持の観点から好ましい。
【0109】
[照射制御装置]
照射制御装置6Aのエネルギー分布集束制御部604Aは、位相回転空洞500Aを通過する陽子ビーム104dの持つエネルギーピークの位置を調節する。このエネルギーピークの位置調節は、照射パターンデータに収められる照射スライス位置に応じて定められた体内飛程003(図2)に基づき、エネルギー分布集束装置5Aの内部空洞502Aに印加する高周波電圧の位相制御を通じて行う。
【0110】
この高周波電圧の位相制御は、次式(1)を満たす高周波電圧を高周波電源605Aに印加することにより行う。
【数1】

【0111】
図13はレーザー駆動陽子線照射装置Aにて行われる陽子ビームのエネルギーピークの変更例(シミュレーション結果)を示したものであり、横軸および縦軸は図12と同様である。図13において、符号019a〜019cは、位相回転制御を通じて位置調節された異なるエネルギーピークである。
【0112】
また、照射制御装置6Aは、ビーム強度監視装置7Aから異常信号を受信したときは、レーザー駆動陽子線照射装置Aの作動をインターロックにて停止させる。
【0113】
[ビーム強度監視装置]
ビーム強度監視装置7Aは、1ショットあたりの陽子ビーム104cの強度を常時監視する。
【0114】
図14はレーザー駆動陽子線照射装置Aのビーム強度監視に関わる機能ブロック図であり、矢印は信号の流れを示したものである。
第1実施形態と同様、照射ポート4の線量計404は、これを通過した陽子ビーム104cの線量すなわち患者の患部9に照射された陽子ビームの線量に応じた電気信号を出力する。また、照射ポート4の線量計回路405は、線量計404から出力される電気信号を受信し、受け取った電気信号が予め設定される積算出力値に到達したとき、患者の患部9に設定された照射点902の線量満了を示す線量満了信号を照射制御装置6に送信する。
【0115】
ビーム強度監視装置7Aは、線量計回路405から1ショットごとの陽子ビームの強度に応じた電気信号を受信し、受信した電気信号が示す陽子ビームの強度と照射パターンデータに示されるビーム強度005とのマッチングを常時行う。線量計回路405から受信した強度が照射パターンデータに示されるビーム強度と所定値以上のズレがあるときは、照射制御装置6Aに異常信号を送信する。
【0116】
ここで、照射パターンデータに収められるビーム強度005は、エネルギー分布集束装置5Aの高周波電場やエネルギー選択装置3のエネルギー分離磁石301などが全て正しく調節された状態でのビーム強度である。また、ビーム強度監視装置7Aは、このビーム強度を判定基準として、レーザー駆動粒子線103が持つエネルギー分布に形成されるエネルギーピーク(図16参照)を中心とした所定のエネルギー幅におけるビーム強度(ピーク強度)を正常/異常の判定対象とする。
【0117】
次に、レーザー駆動陽子線照射装置Aの動作を説明する。
【0118】
照射パターンデータにおいて、体内飛程003に対応するエネルギーが30MeV、ビーム停止幅004に得るのに必要なエネルギー幅が5%であったと仮定する。
【0119】
この場合、照射制御装置6Aのエネルギー分布集束制御部604Aにより、陽子ビーム104dのエネルギー分布に30MeVを中心としたエネルギーピークが形成されるよう、内側空洞502Aに印加する高周波電圧が調節され、陽子ビーム104dが受ける高周波電場が調節される。
【0120】
そして、照射制御装置6Aのエネルギー選択制御部602Aにより、陽子ビーム104dのエネルギー分布から30MeVを中心としたエネルギー幅5%が切り取られるよう、エネルギー分離磁石301やエネルギーコリメータ303のスリット中心C1の位置が調節される。
【0121】
各構成装置2;3;4;5Aの調節が行われた後、陽子線発生装置1からレーザー駆動陽子線103が生成され、第1実施形態と同様の手順に従い、患者の患部9に設定された全ての照射スライス901に対する治療照射が行われる。患部9に照射される陽子ビーム104cの強度が正しくない場合、照射制御装置6Aはビーム強度監視装置7Aから異常信号を受信したタイミングでレーザー駆動陽子線照射装置Aの作動停止を行う。なお、他の動作は第1実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uと同様である。
【0122】
次に、レーザー駆動陽子線照射装置Aの作用を説明する。
【0123】
図15および図16は、レーザー駆動陽子線照射装置Aの作用説明図である。
[陽子ビームのエネルギーおよびエネルギー幅の選択と強度との両立]
図15はレーザー駆動陽子線照射装置Aのエネルギー分布集束装置5Aおよびエネルギー選択装置3を通過した陽子ビームのエネルギー分布を示す図である。図15において、横軸は陽子のエネルギー、縦軸はレーザーパルス光102の1ショット当たりの陽子数である。また、符号020はエネルギー分布集束装置5Aを通過した陽子ビームのエネルギー分布であり、符号021はエネルギー選択装置3を通過した陽子ビームのエネルギー分布である。
【0124】
レーザー駆動陽子線照射装置Aにあっては、エネルギー分布集束装置5Aの位相回転空洞500Aを通過する陽子ビーム104dのエネルギーは、内側空洞502a−内側空洞502Aの空洞間ギャップG2およびその他のギャップを通過するタイミングと高周波電圧の位相とが同調するときのエネルギーを中心としてエネルギー的に集束された状態となる。例えば、図15に示すように、陽子ビームのエネルギーは、30MeVを中心として集束し、陽子ビーム104dに含まれる陽子のうち30MeVのエネルギーを持つ陽子の割合が増加する。
【0125】
このため、図15に示すように、30MeV(±5%)の陽子ビームがエネルギー選択装置3におけるエネルギーコリメータ303のスリットS1を通過するように調節されていた場合、第1実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uと比較すると、そのスリットS1を通過する陽子ビームの強度が大きくなる。
【0126】
[安全性]
図16はレーザー駆動陽子線照射装置Aにおいてエネルギーの選択ずれが生じた異常時に得られる陽子ビームのエネルギー分布を示す図である。図16において、縦軸および横軸ならびに符号の内容は、図15と同様である。なお、エネルギーの選択ずれは、エネルギー分布集束装置5Aの位相回転空洞500A或いはエネルギー選択装置3のエネルギーコリメータ303の構造不具合や、エネルギー分布集束制御部604Aやエネルギー選択制御部602の制御不具合などにより生じ得る。
【0127】
エネルギーの選択ずれが生じた異常時に得られる陽子ビームのエネルギー分布は、図16に示すように、エネルギーの選択が正常に行われたときに得られる陽子ビームのエネルギー分布と比較すると、大幅に低下する。これは、陽子ビームがエネルギー選択装置3におけるエネルギーコリメータ303のスリットS1を通過する前に、エネルギー分布集束装置5AによってそのスリットS1を通過可能なエネルギー成分を持つ陽子が多くなるよう、エネルギー分布の集束が行われていることによる。ビーム強度監視装置7Aは、このエネルギー分布集束装置5Aを経てエネルギー分布の集束が行われた陽子ビームの強度に応じた電気信号を指標として異常判定を行うこととなる。
【0128】
このため、線量計404から出力されるビーム強度の変化を利用して、エネルギーの選択ずれを高い信頼性で判定することができる。すなわち、エネルギー選択装置3におけるエネルギー分離磁石301の励磁電流を監視したり、エネルギーコリメータ303のスリット中心C1の位置やスリットS1のサイズを監視するなどしてエネルギーの選択ずれを判定する一般的な方法に加え、陽子ビームの強度を指標としてエネルギーの選択ずれを判定できるようになる。
【0129】
なお、第1実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Uにあっては、エネルギーの選択ずれが生じても、そのエネルギーのずれをビーム強度の変化に基づいて判定することは困難である。というのは、エネルギー分布集束装置5Aによるエネルギー集束を受けない陽子ビームのエネルギー分布は、図12(符号017)に示すように、平坦なエネルギー分布を持ち、多少エネルギーの選択ずれたとしても一定のエネルギー幅に入る陽子ビームの強度合算値は変化に乏しいためである。なお、陽子ビームの強度のわずかな変化を検出した場合でも異常信号を出力させることも考えられるが、その場合、エネルギー選択装置3により選択される陽子ビームのエネルギーは通常わずかに揺らいでいるため、インターロックが頻繁に作動するおそれがある。
【0130】
次に、レーザー駆動陽子線照射装置Aの効果を説明する。
【0131】
レーザー駆動陽子線照射装置Aにあっては、第1実施形態の(1)〜(8)の効果に加え、次の効果を得ることができる。
(9) 陽子ビームの輸送路を形成し、この輸送路で陽子ビームのエネルギー分布を集束させて特定のエネルギーにピークを形成するエネルギー分布集束装置5Aを備える。このため、照射点902の体内深度に基づき設定されるエネルギーを持つ陽子ビームの強度が高められ、第1実施形態における(1)の効果が高められる。
【0132】
(10) エネルギー分布集束装置5Aは、陽子ビームの輸送路を形成し、高周波電圧の印加を受けて、この輸送路において陽子バンチを構成する陽子群が加速を受ける状態と減速を受ける状態とが現れる高周波電場を形成することにより、陽子ビームのエネルギー分布を特定のエネルギーに向かって集束させる位相回転空洞500Aを有し、照射制御装置6Aは、位相回転空洞500Aに印加する高周波電圧の位相および振幅を調節することにより、陽子ビームのエネルギー分布が持つエネルギーピークの位置を調節する。このため、陽子ビームの持つ電荷および時間的な離散状態を利用して、陽子ビームのエネルギー分布に所望のエネルギーピークを形成できるようになる。
【0133】
(11) エネルギー分布集束装置5Aの位相回転空洞500Aは、陽子ビームの輸送路を形成する外側空洞501Aと、この外側空洞501Aの内部に間隔を置いて並置され且つ高周波電圧が印加される複数の内側空洞502Aとを有し、内側空洞間502Aのギャップに高周波電場を形成して、この外側空洞501A内において陽子バンチを構成する陽子群のうち、そのギャップに突入するタイミングと内側空洞502Aに印加される高周波電圧の位相とが同期する陽子が持つエネルギーを中心として、陽子ビームのエネルギー分布を集束させる。よって、(10)の効果を容易に且つ効果的に得ることができるようになる。
【0134】
(12) エネルギー分布集束装置5Aによりエネルギー分布が集束され且つエネルギー選択装置3により特定のエネルギー幅が選択された陽子ビームの強度について、正常または異常を判定するビーム強度監視装置7Aを備える。そして、照射制御装置6Aは、ビーム強度監視装置7Aにより異常が判定されたとき、患者の患部9に対する陽子ビームの照射を停止する。このため、照射される陽子ビームの強度を用いたインターロックが可能になり、治療照射に対する安全性がより高いものとなる。
【0135】
(13) ビーム強度監視装置7Aは、レーザーパルス光102の1ショット当たりの陽子ビームの強度についてその正常/異常の判定を行う。その際、陽子ビームが持つエネルギー分布のピーク強度をその判定の基準とする。このため、陽子ビームの強度が所要値からズレた場合は、1ショット当たりの強度であっても、線量計404による計測にかかる陽子ビームの強度は大きく低下し、高い精度で陽子ビームの正常または異常を判定できる。したがって、1つの照射点に対する照射中であっても、インターロックを高い信頼性で作動でき、(12)の効果が高められる。
【0136】
(第3実施形態)
本実施形態は、第2実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置Aにて実行される陽子ビームの高周波電場制御に関わる例である。
【0137】
レーザー駆動陽子線照射装置A(図10参照)の照射制御装置6Aは、高周波電源605Aの出力調節により、位相回転空洞500Aに対してパルス幅圧縮電圧を印加する。
【0138】
パルス幅圧縮電圧は、エネルギー分布集束装置5Aを通過する陽子ビーム104dに含まれる陽子線のパルス幅が圧縮されるように調節された電圧である。以下、このパルス幅圧縮電圧について説明する。
【0139】
[パルス幅圧縮電圧]
陽子ビーム104bに含まれる陽子線に対してある速度



を中心とした位相回転を行う場合、その陽子線が位相回転される速度範囲は式(2)で表される。
【数2】

【0140】
【数3】

【0141】
【数4】

【0142】
【数5】

【0143】
照射制御装置6Aは、位相回転空洞500Aに印加する電圧が所要のパルス幅圧縮電圧になるよう調節する際、高周波電源605Aの出力に関わるフィードバック制御ならびに電圧値が所要値からずれた場合におけるインターロック停止制御を行う。位相回転空洞500Aに印加された電圧は、放電などによって不安定になりやすいためである。
【0144】
次に、本実施形態の陽子ビームの高周波電場制御の作用を説明する。
【0145】
[陽子ビームのパルス幅圧縮]
図17は高周波電場制御の作用を示す図(シミュレーション結果)であり、(a)は位相回転空洞500Aに印加される電圧がパルス幅圧縮電圧(式(5)参照)を満たさない場合の陽子ビームのパルス幅を示す図、(b)は位相回転空洞500Aに印加する電圧がパルス幅圧縮電圧を満たす場合の陽子ビームのパルス幅を示す図である。図17(a)の符号022aはパルス幅圧縮を受けない状態の陽子ビームのパルス幅であり、図17(b)の符号022bはパルス幅圧縮を受けた状態の陽子ビームのパルス幅である。なお、縦軸および横軸ならびに他の符号の内容は、図8と同様である。
【0146】
レーザー駆動陽子線照射装置Aにあっては、陽子線発生装置1においてターゲット101から射出されるレーザー駆動陽子線103のパルス幅は一定のパルス幅を有している。このレーザー駆動陽子線103のパルス幅は、エネルギー選択装置3などを通過して患者の患部9に到達する際には広がってしまい、例えば、図17(a)に示すように、パルス幅1nsec以下であったものが数nsecまで広がってしまう。
【0147】
ところが、エネルギー分布集束装置5Aの位相回転空洞500Aに印加する高周波電圧の振幅を上式(5)で表されるパルス幅圧縮電圧を満たすように調節すると、その位相回転空洞500Aを通過する陽子ビーム104dのパルス幅が圧縮され短くなる。例えば、陽子線発生装置1においてターゲット101から射出された1nsec以下のパルス幅を持つレーザー駆動陽子線103は、エネルギー選択装置3などを通過して一旦2.1nsecまで広がった後パルス幅圧縮を受けて、図17(b)に示すように、患者の患部9に到達する時点では1nsEC以下まで小さくなる。なお、この陽子ビーム104dのパルス幅圧縮作用を定性的に説明すると、陽子ビーム104dに含まれる遅い陽子線は加速され且つ速い陽子線は減速されたため、といえる。なお、この理は、第2実施形態のエネルギー分布集束作用についても言える。
【0148】
このようなパルス幅圧縮作用によれば、レーザー駆動陽子線103のパルス幅を射出当初の大きさで維持しつつ長距離輸送が可能となる。以下に、陽子線を用いた治療照射におけるパルス幅圧縮作用の実益を説明する。
【0149】
粒子線を患者の患部9に照射したときにがん細胞等が死滅する効果は、直接作用と間接作用という2つの粒子−細胞の相互作用に大別される。直接作用は、粒子線により直接的にDNAを損傷・破壊する相互作用である。一方、間接作用は、粒子線により体内で生成される電荷がOHラジカルに代表される活性粒子を生成し、この活性粒子との反応を通じてDNAを損傷・破壊する相互作用である。
【0150】
一般に、治療照射に用いる粒子線の線種として炭素線のような重粒子線を用いた場合、直接作用が支配的であるが、陽子線のようなLET(linear energy transfer;線エネルギー付与)が低い粒子線では間接作用が支配的である。直接作用の方が癌細胞の致死効果が高く、また、酸素が欠乏した細胞のようにOHラジカルの生成が小さい場合でも癌細胞を破壊できるという特徴がある。
【0151】
パルス幅圧縮電圧は、陽子ビームのパルス幅を圧縮して、陽子線の高密度状態を形成する。このため、パルス幅圧縮電圧の作用させた陽子ビームにあっては、陽子線−細胞の相互作用に占める直接作用の割合が増加し、重粒子線の照射効果と類似した照射効果が期待される。また、短時間に集中的なエネルギーを付与することができることから、加熱作用に基づいた癌細胞DNAの損傷・破壊の効果を高めることが期待される。
【0152】
本実施形態の陽子ビームの高周波電場制御によれば、第1実施形態の(1)〜(8)の効果ならびに第2実施形態の(9)〜(13)の効果に加え、次の効果を得ることができる。
【0153】
(14) エネルギー分布集束装置5Aの位相回転空洞500Aに印加する高周波電場として、式(5)を満たすパルス幅圧縮電圧が用いられる。このため、陽子ビームの密度を高めることができ重粒子線のような高LET化が可能となり、治療照射の効能が高められる。
【0154】
以上、本発明に係るレーザー駆動粒子線照射装置およびレーザー駆動粒子線照射方法を第1実施形態〜第3実施形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載の発明の要旨を逸脱しない限り設計の変更や追加等は許容される。
【0155】
例えば、各実施形態のレーザー駆動陽子線照射装置は、ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動陽子線を取り出す陽子線発生装置を備えて構成する例を示したが、取り出す粒子線は陽子線に限られず、α線や炭素線などの荷電粒子であればよい。ただし、第3実施形態にあっては、式(2)〜(5)にて現れる電荷q、速度vなどの粒子線依存のパラメータは、パルス幅圧縮の対象とされる荷電粒子線に関するものが用いられる。
【0156】
レーザー駆動陽子線照射装置のビーム集束装置は、永久磁石から成る四重極磁石を用いて構成する例を示したが、6重極磁石或いはそれ以上の多重極磁石を用いて構成することもできる。
【0157】
レーザー駆動陽子線照射装置のエネルギー選択装置が担う陽子ビームを偏向させる機能は、アクロマート型磁石(図18参照)の内部にエネルギーコリメータを設けた装置を用いて行うようにしてもよい。すなわち、(i)荷電粒子を磁場に案内し、(ii)その荷電粒子を運動量の違いにより軌道分散させ、(iii)磁場内で軌道分散した段階で所要の荷電粒子(軌道)を選別し、(iv)荷電粒子が磁場から出る際或いは出た後にその軌道を再び集束させる、という操作を行える構成であればよい。
【0158】
レーザー駆動陽子線照射装置の照射制御装置において、ビーム集束制御部やエネルギー選択制御部は、照射パターンデータを参照してビーム集束装置の四重極磁石位置やエネルギー選択装置の励磁電流およびエネルギーコリメータのスリット位置を調節する例を示したが、照射スライスごとに予め用意された調節量に基づきこれらの調節を行うようにしてもよい。
【0159】
レーザー駆動粒子線照射装置の照射制御装置などに位相回転空洞に印加する電圧(式(1)参照)などの各種制御量を表示できる装置を備えるようにして、照射制御装置による制御を手動にて行い或いは補正できるようにしてもよい。
【0160】
要するに、ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動粒子線を射出する粒子線発生装置と、この射出されたレーザー駆動粒子線を被照射体へと導く輸送路を形成し、レーザー駆動粒子線を空間的に集束させるビーム集束装置と、このレーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択装置と、レーザー駆動粒子線を走査して被照射体の照射位置を調節する照射ポートと、各装置の動作制御を行う照射制御装置とを備え、ビーム集束装置は、レーザー駆動粒子線の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線を集束させるものであれば、レーザー駆動粒子線を用いた治療照射を可能にすると共に、レーザー駆動粒子線を患者の患部まで輸送する過程でレーザー駆動粒子線の強度低下を抑えつつ集束性を高めることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明に係るレーザー駆動粒子線照射装置の第1実施形態を示す図。
【図2】図1のレーザー駆動粒子線照射装置が参照する照射パターンデータの内容例を示す図。
【図3】図1のレーザー駆動粒子線照射装置で行われる陽子ビームのエネルギーおよびエネルギー幅の選択例を示す図。
【図4】図1のレーザー駆動粒子線照射装置において陽子ビームのエネルギー(150MeV)およびビーム停止幅(5mm)を選択したときのエネルギーコリメータの状態を示す図。
【図5】図1のレーザー駆動粒子線照射装置において陽子ビームのエネルギー(100MeV)およびエネルギー幅(5mm)を選択したときのエネルギーコリメータの状態を示す図。
【図6】図5に示す陽子ビームのエネルギー選択方法の変更例を示す図。
【図7】本発明に係るレーザー駆動粒子線照射装置の他の形態を示す図。
【図8】図1のレーザー駆動陽子線照射装置を対象とした陽子ビーム軌跡に関するシミュレーション結果を示す図。
【図9】図1のレーザー駆動粒子線照射装置により形成される照射スライス上の線量分布の重ね合わせを示す図。
【図10】本発明に係るレーザー駆動陽子線照射装置の第2実施形態を示す図。
【図11】図2のレーザー駆動粒子線照射装置における位相回転空洞の拡大図。
【図12】図2の位相回転空洞を通過した陽子ビームのエネルギー分布を示す図(シミュレーション結果)。
【図13】図2のレーザー駆動粒子線照射装置で行われる陽子ビームのエネルギーピークの変更例を示す図(シミュレーション結果)。
【図14】図2のレーザー駆動粒子線照射装置のビーム強度監視に関わる機能ブロック図。
【図15】図2のレーザー駆動粒子線照射装置におけるエネルギー分布集束装置およびエネルギー選択装置を通過した陽子ビームのエネルギー分布を示す図。
【図16】図2のレーザー駆動粒子線照射装置において陽子ビームのエネルギー選択ずれが生じた異常時に得られる陽子ビームのエネルギー分布を示す図。
【図17】第3実施形態の高周波電場制御の作用を示す図(シミュレーション結果)であり、(a)は位相回転空洞に印加される電圧がパルス幅圧縮電圧を満たさない場合の陽子ビームのパルス幅を示す図、(b)は位相回転空洞に印加する電圧がパルス幅圧縮電圧を満たす場合の陽子ビームのパルス幅を示す図。
【図18】アクロマート型磁石を用いた荷電粒子のエネルギーおよびエネルギー幅の選択例を示す図。
【符号の説明】
【0162】
1……陽子線発生装置, 101……ターゲット, 102……レーザーパルス光, 103……レーザー駆動陽子線, 104(104a〜104c)……陽子ビーム, 2……ビーム集束装置, 201(201a〜201c)……四重極磁石, 202……QMアクチュエータ, 203……角度コリメータ, 3……エネルギー選択装置, 301(301a,301b)……エネルギー分離磁石, 302(302a,302b)……エネルギー分離磁石電源, 303……エネルギーコリメータ, 303a,303b……ブロック, 304……ECアクチュエータ, 305(305a,305b)……エネルギー結合磁石, 306(306a,306b)……エネルギー結合磁石電源, 307……集束用コリメータ, 4……照射ポート, 401……走査電磁石, 401a……水平走査電磁石, 401b……垂直走査電磁石, 402(402a,402b)……走査電磁石電源, 403……位置モニタ, 404……線量計, 405……線量計回路, 5……エネルギー分布集束装置, 500……位相回転空洞, 501……外側空洞, 502(502a〜502n)……内側空洞, 6……照射制御装置, 601……ビーム集束制御部, 602……エネルギー選択制御部, 603……走査制御部, 604……エネルギー分布集束制御部, 605……高周波電源, 7……ビーム強度監視装置, 9……患者の患部, 901(901a〜901c)……照射スライス, 902(902a〜902c)……照射点, 001……照射位置を示す水平方向の相対位置, 002……照射位置を示す垂直方向の相対位置, 003……体内飛程, 004……ビーム停止幅, 005……陽子ビームの強度, 006……陽子ビームの強度の設定値, 007……選択した陽子線エネルギー, 008……選択した陽子線エネルギーのエネルギー幅, 009……陽子ビームの強度, 010、010´……エネルギーコリメータのスリット中心の位置, 011、011´……エネルギーコリメータのスリットサイズ, 013……エネルギーコリメータのスリット中心の位置, 014……エネルギーコリメータのスリットサイズ, 015……陽子ビームの水平方向のビームサイズの軌跡, 016……陽子ビームの垂直方向のビームサイズの軌跡, 017……位相回転空洞に高周波電場が印加されない状態における陽子ビームのエネルギー分布, 018……位相回転空洞に高周波電場が印加された状態における陽子ビームのエネルギー分布, 019a〜019c……エネルギーピーク, 020……エネルギー分布集束装置を通過した陽子ビームのエネルギー分布, 021……エネルギー選択装置を通過した陽子ビームのエネルギー分布, 022a……パルス幅圧縮を受けない状態の陽子ビームのパルス幅, 022b……パルス幅圧縮を受けた状態の陽子ビームのパルス幅, A,U……レーザー駆動陽子線照射装置, C1……スリット中心, D1……偏向距離, D2……陽子ビーム軸, G1……集束用コリメータの開口, G2……空洞間ギャップ, S1……スリット, θ……発散角.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動粒子線を射出する粒子線発生装置と、この射出されたレーザー駆動粒子線を被照射体へと導く輸送路を形成し、レーザー駆動粒子線を空間的に集束させるビーム集束装置と、このレーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択装置と、レーザー駆動粒子線を走査して被照射体の照射位置を調節する照射ポートと、各装置の動作制御を行う照射制御装置とを備え、
前記ビーム集束装置は、レーザー駆動粒子線の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線を集束させることを特徴とするレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項2】
前記ビーム集束装置は、粒子線発生装置とエネルギー選択装置との間に設けられることを特徴とする請求項1に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項3】
前記ビーム集束装置は、永久磁石から成る多重極磁石を有し、この多重極磁石により前記磁場を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項4】
前記ビーム集束装置の多重極磁石は、レーザー駆動粒子線の輸送路に沿って複数設けられ且つ少なくとも1つの多重極磁石が移動可能に構成されることを特徴とする請求項3に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項5】
前記エネルギー集束装置は、多重極磁石と粒子線発生装置のターゲットとの間に設けられて多重極磁石に入射するレーザー駆動粒子線の広角成分を遮蔽する角度コリメータを有することを特徴とする請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項6】
前記エネルギー選択装置は、レーザー駆動粒子線の輸送路にレーザー駆動粒子線が運動量に応じて偏向する磁場を形成し、特定の軌道を持つレーザー駆動粒子線を選択して残りのレーザー駆動粒子線をその輸送路から除去することにより、レーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項7】
前記エネルギー選択装置は、励磁電流の制御を受けて可変磁場を形成する電磁石と、この可変磁場により偏向を受けたレーザー駆動粒子線の輸送路を遮断するように設けられ、特定の軌道を持つレーザー駆動粒子線の選択的通過を許容するスリットを形成するエネルギーコリメータとを有することを特徴とする請求項6に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項8】
前記エネルギー選択装置のエネルギーコリメータは、スリットのサイズが調節可能に構成されることを特徴とする請求項7に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項9】
前記レーザー駆動粒子線の輸送路を形成し、この輸送路でレーザー駆動粒子線のエネルギー分布を集束させて特定のエネルギーにピークを形成するエネルギー分布集束装置を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項10】
前記エネルギー分布集束装置は、レーザー駆動粒子線の輸送路を形成し、高周波電圧の印加を受けて、この輸送路で陽子バンチを構成する陽子群が加速を受ける状態と減速を受ける状態とが現れる高周波電場を形成することにより、レーザー駆動粒子線のエネルギー分布を特定のエネルギーに向かって集束させる位相回転空洞を有し、
前記照射制御装置は、位相回転空洞に印加する高周波電圧の位相を調節することにより、レーザー駆動粒子線のエネルギー分布が持つエネルギーピークの位置を調節することを特徴とする請求項9に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項11】
前記エネルギー分布集束装置の位相回転空洞は、
レーザー駆動粒子線の輸送路を形成する外側空洞と、この外側空洞の内部に間隔を置いて並置され且つ高周波電圧が印加される複数の内側空洞とを有し、
内側空洞間のギャップに高周波電場を形成して、外側空洞内で陽子バンチを構成する陽子群のうち、そのギャップに突入するタイミングと内側空洞に印加される高周波電圧の位相とが同期する陽子が持つエネルギーを中心として、陽子ビームのエネルギー分布を集束させることを特徴とする請求項10に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項12】

【請求項13】
前記エネルギー分布集束装置は、ビーム集束装置とエネルギー選択装置との間に設けられることを特徴とする請求項9ないし請求項12の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項14】
前記エネルギー分布集束装置によりエネルギー分布が集束され且つエネルギー選択装置により特定のエネルギー幅が選択されたレーザー駆動粒子線の強度について、正常または異常を判定するビーム強度監視装置を備え、
前記照射制御装置は、ビーム強度監視装置によりレーザー駆動粒子線の強度について異常が判定されたときは、被照射体に対するレーザー駆動粒子線の照射を停止することを特徴とする請求項9ないし請求項13の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項15】
前記ビーム強度監視装置は、レーザー駆動粒子線が持つエネルギー分布のピーク強度を前記判定の対象とし、レーザーパルス光の1ショット当たりのレーザー駆動粒子線の強度についてその判定を行うことを特徴とする請求項14に記載のレーザー駆動粒子線照射装置。
【請求項16】
ターゲットにレーザーパルス光を照射してレーザー駆動粒子線を取り出す粒子線生成工程と、レーザー駆動粒子線を空間的に集束させせるビーム集束工程と、被照射体に設定された照射位置の深度に応じてレーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択するエネルギー選択工程と、被照射体におけるレーザー駆動粒子線の照射位置を調節する照射工程とを備え、
前記ビーム集束工程では、レーザー駆動粒子線の軌道上に、軌道中心から遠ざかるレーザー駆動粒子線の発散成分を軌道中心へと戻す磁場を形成し、この磁場によりレーザー駆動粒子線を集束させることを特徴とするレーザー駆動粒子線照射方法。
【請求項17】
前記ビーム集束工程では、前記磁場の調節を通じて、各工程において用いられるレーザー駆動粒子線の集束度合いを調節することを特徴とする請求項16に記載のレーザー駆動粒子線照射方法。
【請求項18】
前記エネルギー選択工程では、レーザー駆動粒子線の軌道上にレーザー駆動粒子線が運動量に応じて偏向する磁場を形成し、偏向したレーザー駆動粒子線をその軌道の違いにより弁別することでレーザー駆動粒子線のエネルギーおよびエネルギー幅を選択することを特徴とする請求項16または請求項17に記載のレーザー駆動粒子線照射方法。
【請求項19】
前記レーザー駆動粒子線のエネルギー分布を集束させて特定のエネルギーにピークを形成するエネルギー分布集束工程を備えることを特徴とする請求項16ないし請求項18の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射方法。
【請求項20】
前記レーザー駆動粒子線のパルス幅を縮小させるパルス幅圧縮工程を備えることを特徴とする請求項16ないし請求項19の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射方法。
【請求項21】

【請求項22】
前記エネルギー分布集束工程でエネルギー分布を集束させ且つエネルギー選択工程で特定のエネルギーおよびエネルギー幅を選択した後に、レーザー駆動粒子線の強度について正常または異常を判定し、異常を判定したときは、被照射体に対するレーザー駆動粒子線の照射を中止することを特徴とする請求項19ないし請求項21の何れか1項に記載のレーザー駆動粒子線照射方法。
【請求項23】
前記レーザー駆動粒子線が持つエネルギー分布のピーク強度を前記判定の対象とし、レーザーパルス光の1ショット当たりのレーザー駆動粒子線の強度についてその判定を行うことを特徴とする請求項22に記載のレーザー駆動粒子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−125012(P2010−125012A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301695(P2008−301695)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】