説明

レーザ加工機

【課題】レーザビームが被加工物に照射されるときのタイムラグを短縮し、被加工物の加工品質や加工精度を向上できるレーザ加工機を提供すること。
【解決手段】集光部21におけるレーザビームの光路または保持装置30の移動距離ΔLが所定距離以上であるかを判断し、移動距離ΔLが所定距離以上であると判断される場合にレーザビームを照射する。この処理は、相対移動速度を検出しレーザビームBの出力を制御して被加工物Wに照射する処理に比べて簡易であり、処理時間を短縮できる。これにより、レーザビームBが被加工物Wに照射されるときのタイムラグを小さくでき、被加工物Wの加工品質や加工精度を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工機に関し、特に、レーザビームが被加工物に照射されるときのタイムラグを短縮し、被加工物の加工品質や加工精度を向上できるレーザ加工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルス出力されるレーザビームを金属板等の被加工物に照射すると共に、加工ヘッドの光軸と直交する方向に被加工物を移動できるように構成されたレーザ加工機が知られている。このレーザ加工機では、入力された加工データに基づいて、直線や曲線を組み合わせた任意の加工線(被加工物の加工される部位)を予め設定しておき、レーザビームを加工線上に照射させながら被加工物を移動させることで、加工線に沿って加工をすることができる。
【0003】
加工線に沿って被加工物を移動させる速度は、加工線の直線部や曲率の小さな曲線部に比べて、直線や曲線を折り曲げた折曲部や曲率が大きな曲線部では減速される。移動方向が大きく変化するからである。それら折曲部や曲線部で被加工物を移動させる速度が減速されると、発振周波数やパルス幅等のパルスレーザの出力が固定されている場合、折曲部や曲線部でレーザビームによる入熱が過多となり、熱飽和による溶損が生じると共に、熱影響部が大きくなって加工品質が低下することがあった。また、折曲部や曲線部の切断溝幅が広くなり、加工精度が低下することがあった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1に開示されるように、レーザビームに対する被加工物の相対移動速度を検出し、検出された相対移動速度に応じてレーザビームの出力を制御する技術がある。図6を参照して、特許文献1に開示される技術を説明する。図6は特許文献1に開示される従来のレーザ加工機の電気的構成を示すブロック図である。
【0005】
図6に示すように、レーザ加工機の制御装置100は、CPU101、ROM102及びRAM103を備え、それらがバスライン104を介して入出力ポート105に接続されている。その制御装置100により、入出力ポート105に接続される加工テーブル移動用モータ110が制御される。加工テーブル移動用モータ110は、被加工物が固定される加工テーブル(図示せず)を2次元的に移動させる装置であり、加工テーブルをX軸方向に移動させるX軸駆動モータ110aと、Y軸方向に移動させるY軸駆動モータ110bとを備えている。相対移動速度検出装置111は、X軸駆動モータ110a及びY軸駆動モータ110bにそれぞれ取り付けられており、加工テーブルのX軸方向およびY軸方向の移動速度、即ちレーザビームの被加工物に対するX軸方向およびY軸方向の相対移動速度を、X軸駆動モータ110a及びY軸駆動モータ110bから出力される信号を変換して検出する装置である。
【0006】
相対移動速度検出装置111の検出信号より、速度ベクトル演算回路106は速度ベクトル(相対移動速度)を演算し、その相対移動速度に対する最適レーザ出力および最適デューティファクタが最適値演算回路107により演算される。その最適値演算回路107からの出力信号に基づいて、レーザ出力制御回路108によりレーザ発振器112の出力が制御され、デューティファクタ制御回路109によりレーザ発振器112のデューティファクタが制御される。例えば、相対移動速度が遅くなるにつれ、レーザビームのデューティファクタを小さくすると共にピーク出力を高くし、相対移動速度が速くなるにつれ、レーザビームのデューティファクタを大きくすると共にピーク出力を低くするように制御される。
【0007】
以上のように特許文献1に開示される技術では、レーザビームの被加工物に対する相対移動速度に基づいて、レーザ発振器112の出力とデューティファクタとが制御されるので、相対移動速度が減速されると、それに同期して被加工物の折曲部や曲線部へのレーザビームによる入熱が抑制され、加工品質や加工精度の低下が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−24886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、レーザビームの被加工物に対する相対移動速度の検出および相対移動速度に基づくレーザ発振器の制御が煩雑で時間を要するため、相対移動が開始されてから相対移動速度が検出されレーザビームが被加工物に照射されるまでのタイムラグが長くなるという問題点があった。その結果、レーザビームが実際に被加工物に照射される位置と予め設定された照射位置とのずれが大きくなることがあった。そのずれが大きくなると、相対移動速度が減速しているのに、ピーク出力やデューティファクタは減速前と変わらないままレーザビームが被加工物に照射されるため、被加工物への入熱が過多となることがあった。そのため、被加工物に熱飽和による溶損が生じるおそれや、溶損に至らなくても熱影響部が大きくなり、加工品質や加工精度が低下するという問題点があった。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、レーザビームが被加工物に照射されるときのタイムラグを短縮し、被加工物の加工品質や加工精度を向上できるレーザ加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0011】
この目的を達成するために、請求項1記載のレーザ加工機によれば、保持装置により被加工物が保持され、保持された被加工物に、集光部によりパルスレーザのレーザビームが照射される。集光部におけるレーザビームの光路または保持装置の少なくとも一方が移動装置により加工ヘッドの光軸と直交する平面内で移動され、移動装置により移動された集光部におけるレーザビームの光路または保持装置の少なくとも一方の移動距離が移動距離取得手段により取得される。取得された移動距離が移動距離判断手段により所定距離以上であるか判断され、判断の結果、取得された移動距離が所定距離以上である場合に、照射手段により被加工物の加工線上にレーザビームが照射される。
【0012】
集光部におけるレーザビームの光路または保持装置の移動距離を取得し、取得された移動距離が所定距離以上であるかを判断し、移動距離が所定距離以上であると判断される場合にレーザビームを照射する処理は、従来のようなレーザビームの被加工物に対する相対移動速度を検出しレーザビームの出力を制御して被加工物に照射する処理に比べて簡易であり、処理時間を短縮できる。これにより、レーザビームが被加工物に照射されるときのタイムラグを小さくできる。その結果、レーザビームが実際に被加工物に照射される位置と予め設定された照射位置との間のずれを小さくすることができ、被加工物への入熱が過多となることを防ぎ、被加工物の加工品質や加工精度を向上できる効果がある。
【0013】
請求項2記載のレーザ加工機によれば、移動距離判断手段により移動距離と比較される所定距離は、集光部により被加工物に集光されるレーザビームのスポット径(レーザビームが被加工物に照射されることによりつくられるスポットの直径)より小さな値に設定されている。これにより、移動装置によりレーザビームの光路または保持装置を移動させることで、被加工物に照射されるレーザビームを被加工物の加工線上で連ねることができる。その結果、請求項1の効果に加え、加工線に沿って連続してレーザによる切断溝を形成できると共に、パルスレーザによって入熱を抑えることにより熱影響部を小さくすることができ、加工品質を向上できる効果がある。
【0014】
請求項3記載のレーザ加工機によれば、移動装置は、加工ヘッドの光軸と直交するX軸方向およびY軸方向に集光部を移動可能に構成されるX軸ステージ及びY軸ステージを備えて構成され、レーザ加工機は、それらX軸ステージ及びY軸ステージにそれぞれ配設されX軸ステージ及びY軸ステージのX軸およびY軸における位置情報を直接検出する位置情報検出センサを備えている。位置情報検出センサにより、X軸ステージおよびY軸ステージの位置情報、即ち集光部の位置情報を直接検出できる。従って、例えばモータ等の駆動装置から出力される信号を変換して位置情報を間接的に検出するものと比較して、位置情報の検出速度を高速化できると共に誤差を小さくできる。
【0015】
さらに、移動距離判断手段により移動距離が所定距離以上であると判断される場合に、照射手段は、所定のピーク出力およびパルス幅に予め設定されたレーザビームをレーザ発生装置により照射するので、従来のように相対移動速度を検出し、検出された相対移動速度に応じてデューティファクタやピーク出力を変化させてレーザビームを照射する場合と比較して、演算時間を短縮できる。その結果、請求項1又は2の効果に加え、レーザビームが被加工物に照射されるときのタイムラグをさらに小さくすることができ、簡単な構成で微細加工精度を向上できる効果がある。
【0016】
請求項4記載のレーザ加工機によれば、移動装置が制御される状態にあるときに定期的に実行されるタイマ割込処理の実行中に、移動距離取得手段により移動距離が取得される。タイマ割込処理は優先的に処理されるので、高速の信号を扱うことができる。これにより、請求項1から3のいずれかに記載の効果に加え、移動距離の演算時間を短くでき、レーザビームを被加工物に照射するまでの時間を短縮できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態におけるレーザ加工機の模式図である。
【図2】(a)は移動距離ΔLを示す模式図であり、(b)は被加工物の加工線上の位置とレーザ出力との関係を示す模式図であり、(c)は被加工物の加工線とスポット径との関係を示す模式図である。
【図3】レーザ加工機の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】メイン処理を示すフローチャートである。
【図5】タイマ割込処理を示すフローチャートである。
【図6】従来のレーザ加工機の電気的構成を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態におけるレーザ加工機1について説明する。図1はレーザ加工機1の模式図である。図1に示すようにレーザ加工機1は、パルスレーザを発生するレーザ発生装置10と、そのレーザ発生装置10により発生されるパルスレーザを被加工物Wに照射する加工ヘッド20と、その加工ヘッド20から照射されるパルスレーザで加工される被加工物Wを保持する保持装置30とを主に備えて構成されている。レーザ加工が施される被加工物Wは、金属製や合成樹脂製等でシート状や板状等に形成されたものが用いられる。
【0019】
レーザ発生装置10は、レーザ光を発振するレーザ発振器11と、レーザ発振器11で発生したレーザ光を加工ヘッド20へ伝送する伝送部12とを主に備えて構成されている。本実施の形態においては、伝送部12が光ファイバにより構成されている。
【0020】
加工ヘッド20は、伝送部12により上方からレーザ光が導入され、導入されたレーザ光を集光して被加工物Wに照射することにより被加工物Wを切断する装置である。加工ヘッド20は、集光レンズや放物面鏡等(図示せず)が配設されレーザ光を集光する集光部21と、ガス発生装置(図示せず)から供給される酸素や窒素などからなるアシストガスを加工ヘッド20内へ導入するアシストガス導入孔(図示せず)と、集光部21と同軸に設けられ小径側を被加工物Wに向けて配設される円錐筒状のノズル(図示せず)とを主に備えている。集光部21により集光されたレーザビームBを被加工物Wに照射すると共に、レーザビームBが被加工物Wに照射されてつくられるスポットPにノズル(図示せず)からアシストガスの高速ガス流を噴出させることで、レーザビームBの入熱によって溶融した被加工物Wが高速ガス流によって吹き飛ばされる。これにより、レーザビームBのスポットPの直径(スポット径)とほぼ同じ微小な幅で被加工物Wを切断できる。
【0021】
集光部21は、加工ヘッド20の光軸と直交する面内に配設されたX軸ステージ22及びY軸ステージ23に固定されている。X軸ステージ22及びY軸ステージ23は、光路移動装置24(図3参照)によりそれぞれX軸方向およびY軸方向に移動可能に構成されている。本実施の形態では、光路移動装置24は、X軸ステージ22をX軸方向に移動させるX軸リニアモータ24aと、Y軸ステージ23をY軸方向に移動させるY軸リニアモータ24bとを備えている。光路移動装置24を駆動させることにより、加工ヘッド20の光軸と直交する平面内で集光部21を移動させることができ、それに伴い、集光部21におけるレーザビームBの光路が加工ヘッド20の光軸と直交する平面内で移動される。その結果、レーザビームBが集光されるスポットPを被加工物Wの面内で2次元的に移動させることができる。また、光路移動装置24がリニアモータにより構成されることで、高速で移動させることができると共に、高い位置精度を確保することが可能である。
【0022】
X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bは、X軸ステージ22及びY軸ステージ23の位置情報を検出する位置情報検出センサである。X軸エンコーダ25aはX軸ステージ22の位置を検出するセンサであり、Y軸エンコーダ25bはY軸ステージ23の位置を検出するセンサである。本実施の形態では、X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bは、X軸ステージ22及びY軸ステージ23に取り付けられて直線軸の位置を直接検出するリニアエンコーダで構成されている。これにより、例えばモータ等の駆動装置から出力される信号を変換して位置情報を間接的に検出するものと比較して、位置情報の検出速度を高速化できると共に、誤差要因を排除できるため誤差を小さくでき位置情報の検出精度を高めることができる。
【0023】
保持装置30は、被加工物Wの両側を挟持し、レーザビームBの光軸と直交させて被加工物Wを保持する装置である。本実施の形態では、保持装置30は、移動装置としてのXYステージ(図示せず)の上に設けられている。XYステージは、XYステージ移動装置31(図3参照)によりレーザビームBの光軸に直交するX軸方向およびY軸方向に移動可能に構成される。これにより、保持装置30に保持される被加工物Wは、レーザビームBの光軸に直交する面内で2次元的に移動可能にされる。また、XYステージのX軸およびY軸における位置情報は、リニアエンコーダ等を備える位置情報検出装置(図示せず)により検出される。
【0024】
次に図2を参照して、XYステージ移動装置31(図3参照)や光路移動装置24によるスポットPの移動距離ΔLの算出方法と、被加工物Wの加工線Sに照射されるスポットPとについて説明する。まず、図2(a)を参照して移動距離ΔLの算出方法について説明する。図2(a)は移動距離ΔLを示す模式図である。ここでは、光路移動装置24によるX軸ステージ24a及びY軸ステージ24bの移動距離ΔLの算出方法について説明する。説明を簡略化するため、XYステージ移動装置31による移動距離ΔLの算出方法の説明は省略するが、算出方法は同様である。
【0025】
集光部21(図1参照)で集光されたレーザビームBのスポットPが、被加工物Wの加工線S上の任意の位置a,a,aを移動するものとする。被加工物Wの平面内の位置は座標で表すことができ、スポットPが被加工物Wの位置a,a,aに照射されるときの集光部21の位置情報(座標)は、X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bにより検出される。X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bにより検出される位置aの位置情報(座標)を(x,y)、位置aの座標を(x,y),位置aの座標を(x,y)とする。この場合、スポットPが被加工物Wの位置aから位置aに移動したときの移動距離ΔL、スポットが被加工物の位置aから位置aに移動したときの移動距離ΔLは、以下の式(1)により算出される。
【0026】
【数1】

【0027】
次に、図2(b)を参照して被加工物Wの加工線S上の位置とレーザ出力との関係について説明する。図2(b)は被加工物Wの加工線S上の位置とレーザ出力との関係を示す模式図であり、横軸は被加工物Wの加工線S上の位置を示し、縦軸はレーザ強度(ピーク出力)を示す。図2(a)で説明したように、集光部21(図1参照)で集光されたレーザビームBのスポットPが、被加工物Wの加工線S上の任意の位置a,a,a,a,a,aを順に移動するものとする。従って、図2(b)の横軸(位置)は時間的要素を含んでいる。また、本実施の形態ではa(x,y)は加工線Sの始点である。
【0028】
ここで、スポットPが被加工物Wの位置aから位置aに移動したときの移動距離(aとaとの間隔)、位置aから位置aに移動したときの移動距離(aとaとの間隔)、位置aから位置aに移動したときの移動距離(aとaとの間隔)、位置aから位置aに移動したときの移動距離(aとaとの間隔)、位置aから位置aに移動したときの移動距離(aとaとの間隔)が、予め設定された所定距離(閾値)以上であると判断されるたびに、レーザ発振器11(図1参照)の励起源(図示せず)がパルス制御され、図2(b)に示すようにパルスレーザが1回出力される。
【0029】
位置a,a,a,a,a,aにおいてそれぞれパルス出力されるレーザビームB(図1参照)は、図2(b)に示すように、パルス幅およびレーザ強度(ピーク出力)が予め設定された一定値である。従って、従来のように相対移動速度を検出し、検出された相対移動速度に応じてデューティファクタやピーク出力を変化させてレーザビームを照射する場合と比較して、演算時間を短縮できる。その結果、レーザビームBのスポットPが被加工物Wに照射されるときのタイムラグを小さくすることができ、簡単な構成で微細加工精度を向上できる。
【0030】
次に、図2(c)を参照して、被加工物Wの加工線SとスポットPの直径(スポット径d)との関係を説明する。図2(c)は被加工物Wの加工線Sとスポット径dとの関係を示す模式図であり、加工線Sに沿って移動するスポットPが被加工物Wと共に平面視されている。
【0031】
図2(c)に示すように、位置aから位置aの移動距離ΔL(aとaとの間隔)、位置aから位置aの移動距離ΔL(aとaとの間隔)、位置aから位置aの移動距離ΔL(aとaとの間隔)、位置aから位置aの移動距離ΔL(aとaとの間隔)、位置aから位置aの移動距離ΔL(aとaとの間隔)は、いずれもスポット径dより小さな値とされている。また、本実施の形態では、各移動距離ΔLはスポット径dの1/2より大きな値とされている。これは、レーザ発振器11(図1参照)の励起源(図示せず)が制御されレーザ光が発生される条件となる所定距離(閾値)が、スポット径dの1/2より大きく且つスポット径dより小さい値に設定されることによって実現される。
【0032】
これにより、被加工物Wに照射されるレーザビームBのスポットPを被加工物Wの加工線S上で連ねることができる。その結果、加工線Sに沿って連続してレーザによる切断溝を形成できると共に、パルスレーザによって被加工物Wへの入熱を抑えることにより熱影響部を小さくすることができ、加工品質を向上できる。また、加工線Sの始点aの近傍に、スポットPによる切断溝のエッジを位置させることができる。
【0033】
次に、図3を参照して、レーザ加工機1の電気的構成について説明する。図3はレーザ加工機1の電気的構成を示すブロック図である。レーザ加工機1は加工システム全体を制御する制御装置40を備えている。制御装置40は、図3に示すように、CPU41、ROM42及びRAM43を備え、それらがバスライン44を介して入出力ポート45に接続されている。また、入出力ポート45には光路移動装置24等の装置が接続されている。
【0034】
CPU41は、バスライン44により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM42はCPU41により実行される制御プログラム(例えば、図4及び図5に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM43は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、図3に示すように、加工データメモリ43aが設けられている。
【0035】
加工データメモリ43aは、入力された加工データが記憶されるメモリである。加工データは、加工開始座標、加工終了座標ならびにその間の加工曲線データ及び加工パターンデータ等の各種データである。CPU41は加工データメモリ43aに記憶される加工データを参照して、被加工物Wに加工線S(被加工物の加工される部位)を指定する。
【0036】
光路移動装置24は、上述したように、伝送部12(図1参照)から加工ヘッド20に導入されたレーザビームBの集光部21における光路を、加工ヘッド20の光軸と直交する平面内で2次元的に移動させる装置であり、集光部21が連結されたX軸ステージ22及びY軸ステージ23をX軸方向およびY軸方向に移動させるX軸リニアモータ24a及びY軸リニアモータ24bを備えている。
【0037】
XYステージ移動装置31は、被加工物Wを保持する保持装置30(図1参照)が載置されたXYステージ(図示せず)をX軸方向およびY軸方向に移動させる装置である。本実施の形態では、光路移動装置24及びXYステージ移動装置31により、集光部21から被加工物Wに照射されるレーザビームBのスポットPを、移動可能な範囲内で、保持装置30に保持される被加工物Wの任意の位置に移動させることができる。
【0038】
X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bは、X軸ステージ22(図1参照)及びY軸ステージ23の位置情報を検出する位置情報検出センサであり、本実施の形態では、X軸ステージ22及びY軸ステージ23に取り付けられて直線軸の位置を直接検出しパルスを出力するリニアエンコーダで構成されている。
【0039】
カウンタ26は、X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bの出力パルスを計数することでX軸ステージ22(図1参照)及びY軸ステージ23の位置を検出する検出回路(図示せず)と、その検出結果を処理してCPU41に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。カウンタ26の出力は集光部21(図1参照)の絶対位置を示す。換言すれば、集光部21から照射されるレーザビームBのスポットPの被加工物Wにおける絶対位置の座標x,yを示す。
【0040】
CPU41は、カウンタ26から入力される座標x,yと、加工データメモリ43aに記憶される加工データとを照合して、指定された加工線Sに沿ってレーザビームB(図1参照)のスポットPが移動するようにX軸リニアモータ24a、Y軸リニアモータ24b及びXYステージ移動装置31を駆動する。また、CPU41は、加工線Sの上にレーザビームB(図1参照)のスポットPが位置すると判断される場合には、パルス発生装置46(後述する)にレーザ出力要求を出力する。
【0041】
パルス発生装置46は、カウンタ26から入力される座標x,yを取得し、取得した座標x,yからスポットPの移動距離ΔLを算出すると共に、算出された移動距離ΔLが所定距離(閾値)以上であるかを判断する演算回路を備えている。移動距離ΔLは、式(2)に示す演算式で逐次算出される。但し、式(2)中のx,yは、直前にレーザパルスを出力した座標のx成分およびy成分である。
【0042】
【数2】

【0043】
また、パルス発生装置46は、算出された移動距離ΔLが所定距離(閾値)以上であって、CPU41からレーザ出力要求が入力された場合には、パルス信号を発生する演算回路を備えている。このパルス信号は、レーザ発振器11に励起電流パルスを出力するドライバ(図示せず)に出力され、レーザ発振器11は、印加される励起電流パルスに応じてパルスレーザを出力する。
【0044】
図3に示す他の入出力装置50としては、加工データメモリ43aに加工データを記憶させるために加工データを入力する入力装置、入力される加工データに基づいて作成される加工線SやスポットPの位置等を可視化(画像化)して出力するモニタ等などが例示される。
【0045】
次いで、図4を参照して、制御装置40におけるメイン処理について説明する。図4はメイン処理を示すフローチャートである。この処理は、レーザ加工機1の電源が投入されている間、CPU41によって実行される処理であり、加工線Sに沿ってレーザビームBのスポットPを移動させる処理である。
【0046】
CPU41はメイン処理に関し、まず、初期設定を行う(S1)。初期設定は、レーザ発振器11から出力されるレーザ光のレーザ強度、タイマ割込処理(後述する)が実行される周期(以下「タイマ割込周期」と称す)等を設定する処理である。なお、タイマ割込周期は、X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bの出力の最短周期よりも短い周期に設定される。X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25bの信号処理を円滑に行うためである。
【0047】
次にCPU41は、光路移動装置24又はXYステージ移動装置31の少なくとも一方を制御して、加工データメモリ43aに記憶された加工データに基づいて作成される加工線Sに沿ってレーザビームBのスポットPを移動させる(S2)。次いで、CPU41は、光路移動装置24及びXYステージ移動装置31を制御中か否かを判断する(S3)。その結果、光路移動装置24及びXYステージ移動装置31を制御中であると判断される場合には(S3:Yes)、S2の処理に戻り、光路移動装置24及びXYステージ移動装置31を制御中でないと判断される場合には(S3:No)、このメイン処理を終了する。
【0048】
次いで、図5を参照して、タイマ割込処理について説明する。図5はタイマ割込処理を示すフローチャートである。この処理は、メイン処理(図4参照)が実行されている間、所定の周期に設定されたタイマ割込によって起動され、CPU41によって繰り返し実行される処理であり、加工線Sに沿って被加工物Wにパルスレーザを照射し被加工物Wにレーザ加工を行う処理である。
【0049】
タイマ割込処理に関し、CPU41及びパルス発生装置46は、カウンタ26から入力される座標x,yを取得する(S11)。CPU41は、取得した座標x,yが加工線S上にあるか否かを判断し、座標x,yが加工線S上にある場合には、パルス発生装置46にレーザ出力要求を出力する。パルス発生装置46は、レーザ出力要求が開始されたか否かを判断し(S12)、レーザ出力要求が開始されたと判断される場合には(S12:Yes)、ドライバ(図示せず)にパルス信号を出力し、レーザ発振器11を励起させてパルスレーザを出力する(S13)。次いで、取得したx、yを、上述の式(2)のx,yにコピーして(S14)、このタイマ割込処理を終了する。
【0050】
一方、S12の処理において、レーザ出力要求が開始されていないと判断される場合には(S12:No)、次にレーザ出力要求が継続されているかを判断する(S15)。その結果、レーザ出力要求が継続されていると判断される場合には(S15:Yes)、パルス発生装置46は、上述の式(2)に従って移動距離ΔLを算出する(S16)。パルス発生装置46は、移動距離ΔLが、予め記憶された所定距離(閾値)以上であるか否かを判断し(S17)、移動距離ΔLが所定距離以上であると判断される場合には(S17:Yes)、ドライバ(図示せず)にパルス信号を出力し、レーザ発振器11を励起させてパルスレーザを出力する(S13)。次いで、取得したx、yを、上述の式(2)のx,yにコピーして(S14)、このタイマ割込処理を終了する。
【0051】
一方、S17の処理の結果、移動距離ΔLが所定距離未満であると判断される場合には(S17:No)、S13及びS14の処理をスキップして、このタイマ割込処理を終了する。また、S15の処理の結果、レーザ出力要求が継続されていないと判断される場合にも(S15:No)、S16及びS17の処理をスキップして、このタイマ割込処理を終了する。
【0052】
以上説明したように本発明の一実施の形態によれば、移動距離ΔLが所定距離以上であると判断されるたびにレーザビームBを1回照射する処理が行われる。この処理は、レーザビームBの被加工物Wに対する相対移動速度を検出しレーザビームBの出力を制御して被加工物Wに照射する処理に比べて簡易であるので、処理時間を短縮できる。これにより、レーザビームBのスポットPが被加工物Wに照射されるときのタイムラグを小さくできる。その結果、レーザビームBのスポットPが実際に被加工物Wに照射される位置と予め設定された照射位置との間のずれを小さくすることができ、被加工物Wへの入熱が過多となることを防ぎ、被加工物Wの加工品質や加工精度を向上できる。
【0053】
また、移動距離ΔLが所定距離以上であると判断されるたびに、図2(b)に示すように所定のピーク出力およびパルス幅に予め設定されたレーザビームBを1回照射するので、従来のように相対移動速度を検出し、検出された相対移動速度に応じてデューティファクタやピーク出力を変化させてレーザビームを照射する場合と比較して、演算時間を短縮できる。その結果、レーザビームBのスポットPが被加工物Wに照射されるときのタイムラグをさらに小さくすることができ、簡単な構成で微細加工精度を向上できる。
【0054】
また、メイン処理(図4参照)において、移動装置(光路移動装置24及びXYステージ移動装置31)が制御される状態にあるときにタイマ割込処理(図5参照)が定期的に実行され、そのタイマ割込処理の実行中に移動距離ΔLが取得される。タイマ割込処理は優先的に処理されるので、高速の信号を扱うことができる。これにより、移動距離ΔLの演算時間を短くでき、レーザビームBを被加工物Wに照射するまでの時間を短縮できる。
【0055】
さらに、タイマ割込処理(図5参照)において、レーザビームBのスポットPが被加工物Wの加工線S上に位置するときに(レーザ出力要求があるときに)、パルスレーザが出力され(S13)、座標x,yが座標x,yにコピーされる。即ち、直前にパルスレーザが出力された座標を基準に、移動距離ΔLが算出される。これにより、移動距離ΔLを被加工物Wの加工領域の全範囲で取得する場合と比較して、装置構成を簡素化できる。さらに、直前にパルスレーザが出力された座標を基準に移動距離ΔLを取得することで、移動距離ΔLの演算時間を短くできる。これにより、レーザビームBのスポットPが被加工物Wの加工線S上に位置すると判断されてからレーザビームBを被加工物Wに照射するまでの時間を短縮できる。
【0056】
なお、図5に示すフローチャート(タイマ割込処理)において、請求項1記載の移動距離取得手段としてはS11,S16の処理が、移動距離判断手段としてはS17の処理が、照射手段としてはS13の処理がそれぞれ該当する。
【0057】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0058】
上記実施の形態では、集光部21(図1参照)にレーザ光を導入する伝送部12が光ファイバで構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、レーザの種類等に応じて、伝送部12を反射ミラーで構成することも当然可能である。
【0059】
上記実施の形態では、レーザ加工機1が、集光部21を移動させる移動装置(光路移動装置24)と、保持装置30を移動させる移動装置(XYステージ移動装置31)とを両方とも備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、いずれか一方の移動装置を備えるレーザ加工機1とすることも当然可能である。
【0060】
上記実施の形態では、光路移動装置24がリニアモータで構成され集光部21を移動させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の装置により構成することは可能である。他の装置としては、例えば、ピエゾアクチュエータ(ピエゾスキャナ)を挙げることができる。また、集光部21を移動させることなく固定し、ガルバノミラー(ガルバノスキャナ)等の反射ミラーで光路を移動させてスポットPを移動させる方式とすることも当然可能である。また、モータで回転されるボールネジ及びナットにより集光部21を移動させる構成とすることも可能である。
【0061】
上記実施の形態では、パルスレーザを得るためにレーザ発振器11の励起源(図示せず)をパルス制御する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手段によりパルスレーザを得ることも当然可能である。他の手段としては、例えば、レーザ発振器11のレーザ光の出力をメカニカルシャッタでオン/オフする手段、レーザ発振器11による連続出力をスイッチングしてパルス波形を得る手段等が挙げられる。
【0062】
上記実施の形態では、X軸ステージ22及びY軸ステージ23の位置情報を検出する位置情報検出センサ(X軸エンコーダ25a及びY軸エンコーダ25b)がリニアエンコーダで構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものでなはなく、ロータリエンコーダ等を用いることも当然可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 レーザ加工機
11 レーザ発振器(レーザ発生装置の一部)
12 伝送部(レーザ発生装置の一部)
20 加工ヘッド
21 集光部
22 X軸ステージ
23 Y軸ステージ
24 光路移動装置(移動装置)
25a X軸エンコーダ(位置情報検出センサ)
25b Y軸エンコーダ(位置情報検出センサ)
30 保持装置
31 XYステージ移動装置(移動装置)
B レーザビーム
d スポット径
P スポット
S 加工線
W 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザを発生するレーザ発生装置と、そのレーザ発生装置により発生されるパルスレーザが照射される被加工物を保持する保持装置と、その保持装置に保持される被加工物の加工線上にパルスレーザのレーザビームを集光する集光部を有する加工ヘッドと、を備えるレーザ加工機において、
前記集光部により被加工物に照射されるレーザビームのスポットを前記被加工物の加工線上に位置させつつ、前記集光部におけるレーザビームの光路または前記保持装置の少なくとも一方を前記加工ヘッドの光軸と直交する平面内で移動させる移動装置と、
その移動装置による前記集光部におけるレーザビームの光路または前記保持装置の少なくとも一方の移動距離を取得する移動距離取得手段と、
その移動距離取得手段により取得される移動距離が所定距離以上であるかを判断する移動距離判断手段と、
その移動距離判断手段により前記移動距離が所定距離以上であると判断される場合に、前記レーザ発生装置により前記被加工物の加工線上に前記レーザビームを照射する照射手段とを備えていることを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】
前記移動距離判断手段により移動距離と比較される所定距離は、前記集光部により被加工物に集光されるレーザビームのスポット径より小さな値に設定されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項3】
前記移動装置は、前記加工ヘッドの光軸と直交するX軸方向およびY軸方向に前記集光部を移動可能に構成されるX軸ステージ及びY軸ステージを備えて構成され、
それらX軸ステージ及びY軸ステージにそれぞれ配設され前記X軸ステージ及びY軸ステージのX軸およびY軸における位置情報を直接検出する位置情報検出センサを備え、
前記移動距離取得手段は、前記位置情報検出センサにより検出される位置情報に基づいて前記集光部の移動距離を取得し、
前記照射手段は、所定のピーク出力およびパルス幅に予め設定されたレーザビームを前記レーザ発生装置により照射することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
前記移動距離取得手段は、前記移動装置が制御される状態にあるときに定期的に実行されるタイマ割込処理の実行中に、前記移動距離を取得することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザ加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−130959(P2012−130959A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286787(P2010−286787)
【出願日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】