説明

レーザ照射装置

【課題】照射対象物の表面を加工可能とするために、作業性、操作性を向上させたレーザ照射装置を提供する。
【解決手段】制御部、操作部、冷却ユニットおよびレーザ発振器のうち少なくとも一つを備える装置本体と、把持部材100と、装置本体と把持部材100を連結するケーブル(連結部材)90とを有し、把持部材100を介したレーザ照射により照射対象物の表面を加工可能なレーザ照射装置の把持部材100のレーザ照射側に、照射対象物に対するレーザの照射条件を調整する調整部材120を設ける。これにより、様々な物体を照射対象物として、その表面を簡単な操作で作業効率良く清掃および加工することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射により照射対象物の表面を加工可能なレーザ照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ照射により照射対象物に処理を行う装置として、金属を溶接したり切断する装置が知られている。
【0003】
また、特許文献1および2に記載されるように、樹脂成型用の金型にレーザを照射して、金型面に付着した汚れや異物を除去する装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−145548号公報
【特許文献2】特開2008−149705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、照射対象物表面の汚れや異物を除去する清掃や、表面塗装を部分的に剥いだり表面を部分的に削る加工をしようとした場合、レーザ照射により金属を溶接や切断する装置では、レーザのパルス幅が1ms以上と長すぎるので発熱を伴い、照射対象物を損傷してしまって、清掃や加工を行うことはできない。
【0006】
また、特許文献1および2に記載されるような装置は、清掃対象が金型面に特定されるため、形状が不規則な照射対象物に広く応用しようとした場合、照射するレーザの向き、波長といった照射条件を適切に調整することが困難であり、操作が複雑となり作業効率が悪く、実用に供しなかった。
【0007】
本発明の目的は、照射対象物の表面を加工可能とするために、作業性、操作性を向上させたレーザ照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 制御部、操作部、冷却ユニットおよびレーザ発振器のうち少なくとも一つを備える装置本体と、把持部材と、前記装置本体と前記把持部材を連結する連結部材とを有し、前記把持部材を介したレーザ照射により照射対象物の表面を加工可能なレーザ照射装置であって、前記把持部材のレーザ照射側に、前記照射対象物に対するレーザの照射条件を調整する調整部材を設けたことを特徴とするレーザ照射装置である。
【0009】
<2> 前記調整部材は、前記把持部材のレーザ照射側から直進する方向に伸びる第1の棒状部と、この第1の棒状部の先端側に配置されて前記第1の棒状部とは異なる方向に伸び得る第2の棒状部と、が形成される<1>に記載のレーザ照射装置である。
【0010】
<3> 前記調整部材は、レーザの波長を変換する波長変換素子を備える<1>または<2>に記載のレーザ照射装置である。
【0011】
<4> 前記調整部材は、前記照射対象物表面への照射面積を増減させる照射面積調整素子を備える<1>〜<3>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0012】
<5> 前記把持部材は、前記レーザ発振器を備える<1>〜<4>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0013】
<6> 前記把持部材は、この把持部材用の冷却手段を備える<1>〜<5>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0014】
<7> 前記把持部材は、レーザ照射方向に沿って伸びる棒状部と、この棒状部と実質的に直交する方向に伸びる握り部と、が形成され、レーザ照射のオン/オフ切替手段を備える<1>〜<6>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0015】
<8> 前記把持部材は、レーザ照射方向に沿って伸びる棒状に形成され、オン/オフ切替手段を備える<1>〜<6>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0016】
<9> 前記オン/オフ切替手段を複数配置する<7>または<8>記載のレーザ照射装置である。
【0017】
<10> 前記把持部材は、傾斜検知センサを備える<1>〜<9>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0018】
<11> 前記調整部材は、この調整部材を回動可能にするとともに所定位置で使用状態に保持可能な回動ガイド手段を備える<1>〜<10>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0019】
<12> 前記装置本体は、この装置本体の高さの1/2以下の位置に前記冷却ユニットの重心が位置するように配設されるとともに、前記重心より高い位置に運搬補助手段を備える<1>〜<11>のいずれかに記載のレーザ照射装置である。
【0020】
なお、本発明において、「照射対象物の表面を加工可能」とは、照射対象物表面の汚れや異物を除去する清掃、および表面塗装を部分的に剥いだり表面を部分的に削る加工の双方のみが可能である場合と、いずれか一方のみが可能である場合の両方の意味を含むものとする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレーザ照射装置によれば、把持部材のレーザ照射側に、照射対象物に対するレーザの照射条件を調整する調整部材を設けたので、照射対象物の表面を加工するために、作業性、操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明のレーザ照射装置の装置本体の側面図である。
【図2】図2は、本発明のレーザ照射装置の装置本体の平面図である。
【図3】図3は、操作部のモニタ画面を示す図である。
【図4】図4は、本発明のレーザ装置の把持部材および調整部材の側面図である。
【図5】図5(a)は図4の調整部材のA−A’間の拡大縦断面図であり、図5(b)はその拡大横断面図である。
【図6】図6は、本発明のレーザ装置の把持部材および調整部材の原理を説明する原理説明図である。
【図7】図7は、レーザ波長と反射率との関係を説明するグラフである。
【図8】図8(a)〜(d)は、照射面積調整素子の各例を示す図である。
【図9】図9は、図8(d)の例における、レーザ照射径と照射強度(エネルギー強度)との関係を説明するグラフである。
【図10】図10(a)および(b)は、本発明におけるレーザ照射の照射対象物に対する作用を説明する作用説明図である。
【図11】図11(a)および(b)は、本発明のレーザ装置の把持部材および調整部材の他の形態例の側面図である。
【図12】図12は、回動ガイド手段としてモータ装置を備えた場合の調整部材の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明のレーザ照射装置の装置本体の側面図、図2はその平面図、図3は操作部のモニタ画面を示す図である。なお、図1および図2は、実際には外部から見えない内部構造を、理解の便宜のため視認できる状態で示している。
【0024】
図1および図2に示すように、本発明のレーザ照射装置1の装置本体10は、内部が、底部から2/3程度の高さまでの矩形状に仕切られた下側収容部11aと、この下側収容部11aの上方に側面視で台形状に形成された上側収容部11bとから構成されている。
【0025】
下側収容部11aには冷却ユニット20が、上側収容部11bには、制御部30、操作部40、トランス50、電力供給部60およびコンデンサ70が配置されている。また、装置本体10の側面には、運搬補助手段80を備えている。なお、図1は、内部構造が視認できる状態で示しているため、外部に形成された運搬補助手段80は、仮想線で示している。
【0026】
冷却ユニット20は、作動中の装置が熱くなって不具合が生じないように、一定範囲内の温度に冷却して保つためのユニットである。この冷却ユニット20は、重心が装置本体10の高さの1/2以下の位置になるように配設されている。これにより、相対的に重くなる冷却ユニット20の重みによる負担を軽減できるので、持ち運びが容易になる。
【0027】
冷却ユニット20は、水タンク21と、この後方に設けられたラジエータ22と、下方に設けられたポンプ23と、前方に設けられたフィルタ24と、から主に構成されている。この構成により、水タンク21内の水を、ラジエータ22により冷却した後、ポンプ23により汲み取り、フィルタ24によりろ過するというサイクルで、制御部30による制御により循環させて、装置を冷却するようになっている。なお、冷却ユニット20が配置される下部収容部11aには、ブレーカ25と、電源ランプ26も、併せて設けられている。
【0028】
制御部30は、メイン基板からなり、装置全体の動作を制御するために必須の要素である。なお、制御部30の近傍の装置本体側端には、外部からの空気を送り込んで制御部30を冷却する冷却ファン35が、図2の例では2つ設けられている。
【0029】
操作部40は、タッチパネルからなり、装置の操作のために必須の要素である。この操作部40は、図1の例では、上側収容部11b前端の傾斜に沿って着脱可能に取り付けられている。
【0030】
図3に示すように、操作部のモニタ画面41には、下方側に装置を操作するための4つのキーからなる基本操作キー42が表示されており、これらのいずれかに触れることにより、制御部30が作動し、目的の操作が行えるようになっている。
【0031】
また、モニタ画面41には、装置やレーザの各種条件が表示されている。図3の例では、これらのうち、装置の電圧、照射するレーザのエネルギー、その周波数およびレーザのオン/オフ(モニタ画面41では「ガイド光」と表示)については、数値やオン/オフの表示部分が、条件設定用操作キー43となっている。つまり、これらを触れることにより、電圧、エネルギーおよび周波数については数値を、レーザのオン/オフについてはその切替えを、それぞれ行うことができる。さらに、電圧とエネルギーの数値は、制御部30により連動して数値が変わるようになっており、電圧の条件設定用キー43を操作すれば、エネルギーの値が対応する数値となるように変化し、エネルギーの条件設定用キー43を操作すれば、電圧の値が同様に変化する。なお、例えば、英語と日本語の表示切替などのように、言語の表示変更もできるようになっている。
【0032】
トランス50は、制御部30と操作部40との間に設けられており、昇圧を行うアップトランスになっている。電力供給部60は、変圧部50の隣、つまり図2では奥方に設けられており、電力を安定させて供給するパワーサプライ61と、リレー62と、サージを吸収するサージキラー63とから構成されている。コンデンサ70は、図2では制御部30の奥方に設けられている。制御部30が、これらの電気機器を制御することで、装置の電力の安定性を保つようになっている。
【0033】
運搬補助手段80は、図1の例では、側面に形成された指を掛けることが可能な凹部であり、冷却ユニット20の重心より高い位置に設けられている。これにより、冷却ユニット20の重みによる負担を軽減しつつ、装置本体10を持ち運ぶことができる。また、運搬補助手段80は、図1の例と同位置において、凸部を形成して、これに指を掛けて運んでもよいし、ベルトをつけて肩に掛けるようにしてもよい。その他、底部に2〜6個程度のキャリアを設けて、さらに移動を容易にしてもよい。
【0034】
装置本体10の重さは、持ち運びやすくする観点から、40kg未満であり、30kg以下が好ましく、20kg以下がより好ましい。
【0035】
なお、装置本体10は、図2の例では、下側収容部11aに冷却ユニット20を配置し、上側収容部11bに他の主要要素を配置しているが、下側収容部11aの空いた部分に、さらに他の要素を配置してもよい。
【0036】
以上説明した装置本体10の背面には、図1に示すように、把持部材(図3に示す)を連結する連結部材としてのケーブル90が取り付けられている。ケーブル90は、蛇腹状の可撓性部材から形成されており、自在に曲げ伸ばせるようになっている。このケーブル90により、装置本体10から把持部材に送電される。
【0037】
また、下方には、レーザ照射のオン/オフ切替手段としてのフットスイッチ95が、コード96を介して取り付けられている。これにより、レーザ照射のオン/オフ切替を迅速に行うことができる。
【0038】
つづいて、把持部材および調整部材について説明する。図4は本発明のレーザ装置の把持部材および調整部材の側面図、図5(a)は図4の調整部材のA−A’間の拡大縦断面図、図5(b)はその拡大横断面図、図6はその原理を説明する原理説明図、図7はレーザ波長と反射率との関係を説明するグラフである。図8(a)〜(d)は照射面積調整素子の各例を示す図、図9は図8(d)の例における、レーザ照射径と照射強度(エネルギー強度)との関係を説明するグラフ、図10(a)および(b)は本発明におけるレーザ照射の照射対象物に対する作用を説明する作用説明図である。なお、図8(a)〜(d)では、説明の便宜のため、照射面積調整部材に入射するレーザの径は各例で敢えて一致させていない。
【0039】
図4に示すように、把持部材100は、棒状部101と、握り部102とにより、略T字状に形成された部材である。具体的には、棒状部101は、レーザ照射方向、つまり図中の水平方向に沿って伸びている。握り部102は、この棒状部101の中間よりも僅かにレーザ照射側、つまり先端側の位置から、若干傾斜を有しつつも、ほぼ鉛直下方に伸びている。作業時には、握り部102で把持部材100を持ちつつ、棒状部101を通過するレーザを、照射対象物に照射するようになっている。
【0040】
棒状部101は、レーザ照射に必須の要素であるレーザ発振器を内部に備えている(図4では不図示)。このように、把持部材100にレーザ発振器を設けたことで、照射対象物までに存在する部材が調整部材のみとなるので、装置本体10に設けた場合よりもレーザの通過距離を短くでき、強制的な方向変化等によるロスやばらつきを抑えることが可能となる。
【0041】
棒状部101の基端側上方には、部材の傾斜を検知する傾斜検知センサ103が取り付けられている。傾斜検知センサ103は、略鉛直に設置されていないとレーザを照射しないようになっている。つまり、傾斜検知センサ103は取付位置を変更可能となっている。詳細には、図4の例では、棒状部101が水平方向を向いているので、棒状部101の基端側上方に取り付けているが、棒状部101を鉛直方向に向けた場合には、棒状部101の背面(この状態における最上部に相当)に取り付ける。これにより、誤ってレーザが人に照射されて、目などに損傷を与えることを事前に防ぐことが可能となる。なお、例えば、形状が不規則な照射対象物にレーザを照射する場合などは、棒状部101を斜め方向に傾けることがあるので、作業効率の観点より、傾斜検知センサ103をオフとし、作動させなくてもよい。
【0042】
棒状部101の底部の先端側から全長の6割程度の範囲は、厚めに形成されており、この部分が、内部に冷却水が貯えられた冷却手段104となっている。このように、把持部材100に冷却手段104を備えたので、作業中に手元が熱くなるのを防止でき、作業効率を高くすることができる。
【0043】
握り部102は、人が手に持って操作可能な大きさであれば特に制限はなく、例えば、直径1〜8cm、周囲長さ3〜25cmである。なお、把持部材100は、この握り部102を作業テーブルや装置に支持して作業に供してもよい。
【0044】
握り部102は、握った際に指が位置する側に、レーザ照射のオン/オフ切替手段としての押しボタンスイッチ105が設けられている。これにより、レーザ照射のオン/オフ切替を迅速に行うことができる。
【0045】
この押しボタンスイッチ105は、上述したフットスイッチ95(図1および図2参照)と連動するようになっており、フットスイッチ95および押しボタンスイッチ105の双方をオンにしない限り、レーザが照射されないオフの状態で維持される。これにより、誤って押しボタンスイッチ105に手が触れたり、把持部材100を落としたりぶつけたりして、レーザ照射をオンにしてしまい、レーザが人の目に当たって損傷させる事態を防ぐことができる。なお、レーザ照射のオン/オフ切替手段としては、フットスイッチを2つ設けて、押しボタンスイッチ105は設けないようにしてもよい。また、押しボタンスイッチ105を把持部材100とは別に単独で設けてもよく(把持部材100に押しボタンスイッチ105を設けておいてもよい)、この際には押しボタンスイッチのみを2つ設けても、フットスイッチと1つずつ設けてもよい。さらに、フットスイッチや単独で設ける押しボタンスイッチを、双方で計3つ以上設けてもよい。スイッチを多く設けた場合は、レーザ照射のオン/オフを切り替えられる場所が増えることになるので、さらに切替を迅速に行うことができる。
【0046】
ここまでの説明からわかるように、把持部材100は、本発明のレーザ照射装置1の必須要素である制御部30、操作部40、冷却ユニット20およびレーザ発振器のうち、装置本体が備えない要素、つまりレーザ発振器を備える。また、冷却手段104、操作スイッチ105のように、装置本体が備える冷却ユニット20や操作部40の一部となり得る要素も備えている。
【0047】
把持部材100の先端には、照射対象物に対するレーザの照射条件を調整する調整部材120が、図示の例では着脱自在に取り付けられている。なお、この調整部材120は、把持部材100に固定して一体的に設けるようにしてもよい。
【0048】
調整部材120は、相対的に長いパイプ状に形成された長パイプ部(第1の棒状部)121と、長パイプ部121より短いパイプ状に形成されて長パイプ部121の先端側に配置される短パイプ部(第2の棒状部)122と、両者間に介在する介在部123とから主に構成されている。
【0049】
長パイプ部121は、把持部材100の先端から、水平方向に直進して伸びており、その基端側から略半分が太く、先端側から略半分が細く形成されている。基端側の太く形成された部分の内部には、基端側から順に、レーザの波長を変換する波長変換素子、照射対象物表面への照射面積を増減させる照射面積調整素子が設けられている。
【0050】
介在部123は、可撓性材料により折り曲げ可能に形成されており、この介在部123を折り曲げることにより、短パイプ部122の向きを自在に変えることができる。また、介在部123は、内部に反射鏡を備えており(図4では図示せず)、この反射鏡により、短パイプ部122を曲げた向きに沿ってレーザの照射方向(図4中に点線で示す)を変えることを可能にしている。なお、反射鏡はプリズムであってもよいし、光ファイバであってもよい。つまり、レーザの照射方向を、短パイプ部122の向きに沿って変えることができるものであれば特に制限はない。
【0051】
図5(a)および(b)に示すように、長パイプ部121と介在部123は、長パイプ部121の先端側に一対の凹部121aが、介在部123の長パイプ部121側に凸部123aが形成されており、両者が係合している。また、長パイプ部121の先端はカシメられており、これにより長パイプ部121が介在部123から抜けないようになっている。
【0052】
長パイプ部121の凹部121aと介在部123の凸部123aとの係合箇所においては、調整部材120を回動可能にするとともに、所定位置で使用状態に保持可能な、回動ガイド手段としての手動機構124が設けられている。
【0053】
この手動機構124は、長パイプ部121に形成された溝125および穴126と、介在部123側に形成されたバネ収容孔127と、両者間で作用するバネ128およびボール129とから構成されている。
【0054】
溝125は長パイプ部121の周方向に沿って形成されており、この溝125に穴126が所定間隔で形成されている。バネ収容孔127は介在部123を貫通して形成されており、これにバネ128が収容され、ボール129を長パイプ部121方向に付勢する。つまり、介在部123およびその先につながる短パイプ部(図5では示さず)を手動で回すと、ボール129がバネ128の付勢力に抗して溝125上を転動し、介在部123および短パイプ部の回動を許容する。そして、ボール129が穴126に達すると、ここに嵌り、介在部123および短パイプ部の回動を阻止し、その位置で保持する。これにより、手動機構124は、介在部123および短パイプ部を、長パイプ部121に対して左右方向に回動可能にするとともに、所定位置で使用状態に保持できるのである。なお、長パイプ部121の凹部121aと介在部123の凸部123aとを逆にし、長パイプ部121を介在部123および短パイプ部に対して左右方向に回動させるようにしてもよい。また、バネ128は、ゴム等の付勢部材として通常知られるもので代用してもよい。
【0055】
次に、把持部材100および調整部材120によるレーザ照射の原理について説明する。図6に示すように、把持部材100内のレーザ発振器106は、基端側から順に、全反射鏡107、Qスイッチ108、YAGロッド109、部分透過鏡110が配設され、YAGロッド109上にはランプ111が設けられている。つまり、発振されるレーザはYAGレーザで、10ns程度の極めて短いパルスである。このような極短パルスのレーザを照射対象物に連続的に照射することで、発熱が最小限に抑えられ、照射対象物に傷をつけずに、その表面の清掃等を行うことができる。なお、部分透過鏡110としては、照射面積調整素子によりレーザ強度の調整が容易な観点から、レーザ強度分布をガウス分布(正規分布)とすることができる、ガウシアンミラーが用いられている。ただし、部分透過が可能であれば特に制限はなく、他のミラーを用いてもよい。
【0056】
レーザ発振に際しては、Qスイッチ108により、部分透過鏡110を傾けた状態で、ランプ111によりYAGロッド109を励起すると、レーザは発振しないが、励起分子が貯まって大きな反転分布の状態になる。この状態で、Qスイッチ108により、部分透過鏡110を元の位置に戻すと、急激にレーザが発振し、蓄積された励起エネルギーが一気に放出される。したがって、Qスイッチ108を動かすタイミングを調整することで高いエネルギーの放出が可能となる。清掃には、10MW程度の高いピークが必要であり、10ns程度のパルス幅でこの高いピークを得るには、100mJ程度の高いエネルギーが必要となる。この高いエネルギーが、上述した原理によりレーザを発振させることで得られるのである。
【0057】
なお、図6の例ではYAGレーザを発振させているが、例えば、YVOレーザ、YLFレーザ等、極短パルスであり、YAGレーザの波長(1064nm)と同程度の波長を有するレーザを発振させるようにしてもよい。
【0058】
調整部材120の波長変換素子130は、把持部材100側から、1064nmレンズ131と、532nm変換素子132とにより構成されている。なお、532nm変換素子132は、レンズ等、波長変換素子として通常用いられる材料であれば特に制限はない。
【0059】
この波長変換素子130により、YAGロッド108から発振した波長1064nmのYAGレーザの一部を、波長532nmの緑色レーザ(SHG)に変換する。これにより、照射対象物に対して照射するレーザを、波長1064nmとその半分の波長532nmからなる混合ビームとすることができ、少ないエネルギーで照射対象物表面の汚れや異物を除去することが可能となる。これは、図7に示すように、照射対象物は、銀などの一部の金属を除いて、YAGレーザの波長1064nmよりも、緑色レーザの波長532nmの方が吸収しやすいことによる。また、YAGレーザは赤外線であるため、照射対象物表面が赤色の場合、汚れや異物を除去しにくいが、緑色レーザとの混合ビームとすることで、赤色表面上の汚れや異物を除去することが容易になる。なお、532nm変換素子132は、黄色レーザや黄緑色レーザの波長(545〜585nm)に変換する素子を用いて、これらの色のレーザを発振させるようにしてもよい。
【0060】
図8(a)〜(d)に示すように、照射面積調整素子は、光量を維持しつつレーザ径の大小を調整してもよいし、光量を減らすことでレーザ径を小さくしてもよい。
【0061】
具体的には、図8(a)に示す照射面積調整素子133aでは、基端側に凹レンズ134、先端側に凸レンズ135を配置しておき、凹レンズ134により把持部材から照射されたレーザ径を拡げ、凸レンズ135により照射方向を平行に揃えるようになっている。そして、凸レンズ135の位置をさらに先端側に移動させることで(図中下部矢印参照)、さらにレーザ径を拡げることができるようになっている。これにより、光量を維持しつつ、レーザ径を大きくできるので、照射対象物へのレーザ照射面積を大きく、かつ単位あたりの照射エネルギーを小さく調整することが可能となる。
【0062】
図8(b)に示す照射面積調整素子133bでは、基端側に凸レンズ135、先端側に凹レンズ134を配置しておき、凸レンズ135により把持部材から照射されたレーザの幅を縮めた上で、凹レンズ134により照射方向を平行に揃えるようになっている。そして、凹レンズ134の位置をさらに先端側に移動させることで(図中下部矢印参照)、さらにレーザ径を狭めることができるようになっている。これにより、光量を維持しつつ、レーザ径を小さくできるので、照射対象物へのレーザ照射面積を小さく、かつ単位あたりの照射エネルギーを大きく調整することが可能となる。
【0063】
図8(c)に示す照射面積調整素子133cでは、一対のアパーチャ136にて、把持部材100より照射されるレーザの光端をカットすることにより、一対のアパーチャ136間を通過したレーザのみが照射対象物に照射される。これにより、光量を減らしつつ、レーザ径を小さくできるので、照射対象物へのレーザ照射面積は小さくしつつも、単位あたりの照射エネルギーは維持することが可能となる。
【0064】
図8(d)に示す照射面積調整素子133dでは、基端側に凹レンズ134、先端側に一対のアパーチャ136を配置しておき、凹レンズ134で光端を広げた上で、アパーチャ136によりカットするようになっている。これにより、図9に示すように、レーザの強度分布を、仮想線で表したガウス分布から、実線で表したフラット分布にすることができ、ピークがフラットないわゆるフラットトップビーム(FTB)を照射対象物表面に照射することが可能となる。
【0065】
把持部材100から照射されるレーザは、スパイク状に高いピークが多数発生する。これをアライメントにより極力均一に調整することはできるが、スパイク状に発生するピークをフラットにすることは困難である。照射対象物が金型である場合に、その表面を清掃しようとしたとき、このスパイク状のピークによる強度分布のバラツキが原因で、表面にレーザ照射の跡が残ることがあった。しかし、フラットトップビームに調整することにより、金型表面に跡を残すことがなくなるのである。
【0066】
このように、本発明のレーザ照射装置1は、調整部材100に照射面積調整素子を設けたので、目的に応じてレーザの照射面積や照射強度を適宜変更することができ、幅広い照射対象物に適用可能となる。なお、照射面積調整素子における凹レンズ134や凸レンズ135は、例えば波長変換素子のように、レーザ径を変更できるものとして通常知られるもので代用してもよい。
【0067】
本発明におけるレーザ照射による照射対象物表面の汚れ等への作用について説明すると、図10(a)に示すように、照射対象物Tの表面に付着した汚れDに、レーザLが照射されることにより、図10(b)に示すように、汚れDが爆発的に分子状に散らばり、照射対象物Tの表面から除去される。また、この作用に基づき、照射対象物表面に塗装を施しておき部分的に剥いだり、表面自体を部分的に削ったりするような、照射対象物の溶接や切断を伴わない加工を行うこともできる。具体的な用途としては、例えば、測定プローブ、テストピン、金型、文化財の金箔や木材等のクリーニング、金属の錆、汚れ、焼け取り、表面処理等、エポキシ系樹脂の剥離や除去、などが挙げられる。
【0068】
つまり、本発明のレーザ照射装置1は、照射対象物表面の清掃および加工の双方が可能となるようにしてもよいし、いずれか一方のみを可能としてもよい。
【0069】
以上説明したように、本発明のレーザ照射装置1は、レーザを照射対象物に照射する把持部材100に、照射方向を変えることができる調整部材120を設けたので、例えば、乗り物の内部、彫刻品などのように、不規則な形状をなすものや、人間や動物の歯のように、狭い空間内の照射対象物であっても、表面の清掃および加工を行うことができる。また、高温の照射対象物であっても、部材全体を高温域に向ける必要がなく、清掃および加工が可能となる。
【0070】
したがって、本発明のレーザ照射装置1は、様々な物体を照射対象物として、その表面を簡単な操作で作業効率良く清掃および加工することができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明したが、本発明のレーザ照射装置は、上記実施の形態に限定されない。例えば、上記実施の形態では、把持部材100にレーザ発振器106を設けているが、これに限らず、装置本体10にレーザ発振器106を設けてもよい。また、装置本体10と把持部材100との連結部材を光ファイバにより構成してもよい。
【0072】
さらに、上記実施の形態では、把持部材100は、側面視でT字状をなしているが、これに限らず、他の形態の把持部材であってもよい。図11(a)および(b)は、本発明のレーザ装置の把持部材および調整部材の他の形態例の側面図である。
【0073】
図11(a)に示すように、把持部材200は、レーザ照射方向に沿って伸びる棒状の部材である。この把持部材200を用いた場合、先端に取り付ける調整部材としては、台形キャップ状の調整部材220aと、図11(b)に示した矩形の一部を切り欠いて傾斜とした形状を有する調整部材220bとを、目的に応じて取り替えられるようになっている。つまり、調整部材220aを用いれば、レーザを直進させることができ、調整部材220bを用いれば、傾斜にレーザを反射させて略直角に照射方向を変更することができる。
【0074】
このような棒状の把持部材200としたことにより、図4に示したT字状の把持部材100の握り部102がない状態になるので、把持部材のコンパクト化を図ることができる。そして、把持部材をコンパクト化すれば、調整部材もコンパクト化することができる。これにより、特に、例えば指輪等の小さな照射対象物を清掃および加工する際に、操作を容易にすることが可能となる。
【0075】
なお、把持部材200は、図4に示した把持部材100と同様に、調整部材120を先端に取り付けるようにしてもよい。また、調整部材220a、220bは、波長変換素子および照射面積調整素子を備えており、調整部材120と同様の機能を有することは言うまでもない。さらに、押しボタンスイッチ105も、把持部材100の説明で述べた通り、フットスイッチ95と連動し、把持部材200とは別体として単独で設けたり等してもよい。
【0076】
さらに、上記実施の形態では、調整部材120の回動ガイド手段として手動機構124を設けているが、これに限らず、他の形態の回動ガイド手段を設けてもよい。図12は、回動ガイド手段としてモータ装置を備えた場合の調整部材の要部断面図である。
【0077】
図12に示すように、モータ装置224は、長パイプ部121の先端に設けられている。このモータ装置224では、モータ本体225から伸びる軸226の先端に取り付けられたギヤ227を、介在部123の長パイプ部121との係合箇所に置き、モータ本体225の駆動力をギヤ227に伝えて介在部123および短パイプ部(図12では示さず)を回動させる。また、モータ装置224の作動を止めることで、止めた位置で介在部123および短パイプ部を保持する。ここで、図12の例では、モータ装置224は、保護のためケース228内に収容されている。また、図12において、番号140は反射鏡である。
【0078】
なお、図12の例ではギヤ227により回動させるようになっているが、このギヤは、例えば摩擦ベルト等の通常知られる摩擦部材で代用してもよい。また、モータ装置224は、把持部材に設けてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 レーザ照射装置
10 装置本体
11a 下側収容部
11b 上側収容部
20 冷却ユニット
21 水タンク
22 ラジエータ
23 ポンプ
24 フィルタ
25 ブレーカ
26 電源ランプ
30 制御部
35 冷却ファン
40 操作部
41 モニタ画面
42 基本操作キー
43 条件設定用操作キー
50 トランス
60 電力供給部
61 パワーサプライ
62 リレー
63 サージキラー
70 コンデンサ
80 運搬補助手段
90 ケーブル
95 フットスイッチ
96 コード
100 把持部材
101 棒状部
102 握り部
103 傾斜検知センサ
104 冷却手段
105 押しボタンスイッチ
106 レーザ発振器
107 全反射鏡
108 Qスイッチ
109 YAGロッド
110 部分透過鏡
111 ランプ
120 調整部材
121 長パイプ部(第1の棒状部)
121a 凹部
122 短パイプ部(第2の棒状部)
123 介在部
123a 凸部
124 手動機構
125 溝
126 穴
127 バネ収容孔
128 バネ
129 ボール
130 波長変換素子
131 1064nmレンズ
132 532nm変換素子
133a〜d 照射面積調整素子
134 凹レンズ
135 凸レンズ
136 アパーチャ
140 反射鏡
200 把持部材
220a,b 調整部材
224 モータ装置
225 モータ本体
226 軸
227 ギヤ
228 ケース
D 汚れ
L レーザ
T 照射対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部、操作部、冷却ユニットおよびレーザ発振器のうち少なくとも一つを備える装置本体と、把持部材と、前記装置本体と前記把持部材を連結する連結部材とを有し、前記把持部材を介したレーザ照射により照射対象物の表面を加工可能なレーザ照射装置であって、
前記把持部材のレーザ照射側に、前記照射対象物に対するレーザの照射条件を調整する調整部材を設けたことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
前記調整部材は、前記把持部材のレーザ照射側から直進する方向に伸びる第1の棒状部と、この第1の棒状部の先端側に配置されて前記第1の棒状部とは異なる方向に伸び得る第2の棒状部と、が形成される請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記調整部材は、レーザの波長を変換する波長変換素子を備える請求項1または2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記調整部材は、前記照射対象物表面への照射面積を増減させる照射面積調整素子を備える請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記把持部材は、前記レーザ発振器を備える請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記把持部材は、この把持部材用の冷却手段を備える請求項1〜5のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記把持部材は、レーザ照射方向に沿って伸びる棒状部と、この棒状部と実質的に直交する方向に伸びる握り部と、が形成され、レーザ照射のオン/オフ切替手段を備える請求項1〜6のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記把持部材は、レーザ照射方向に沿って伸びる棒状に形成され、レーザ照射のオン/オフ切替手段を備える請求項1〜6のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項9】
前記オン/オフ切替手段を複数配置する請求項7または8記載のレーザ照射装置。
【請求項10】
前記把持部材は、傾斜検知センサを備える請求項1〜9のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
前記調整部材は、この調整部材を回動可能にするとともに所定位置で使用状態に保持可能な回動ガイド手段を備える請求項1〜10のいずれかに記載のレーザ照射装置。
【請求項12】
前記装置本体は、この装置本体の高さの1/2以下の位置に前記冷却ユニットの重心が位置するように配設されるとともに、前記重心より高い位置に運搬補助手段を備える請求項1〜11のいずれかに記載のレーザ照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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