説明

レーザ発振装置

【課題】複数の波長でレーザ発振して、励起エネルギーの利用効率を高めることができるようにする。
【解決手段】レーザ発振装置置は、利得特性を有すると共に、光の波長に関する異なる吸収特性を有し、かつ、異なる波長でレーザ発振する第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14と、内部に複数の利得ファイバを配置した集光光学系16であって、太陽光が励起光として利得ファイバの側面から入射されるように、広帯域光が内部に入射される集光光学系16と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、集光系とレーザ共振器とで構成された太陽光励起レーザが知られている(例えば、非特許文献1)。集光系として、フレネルレンズか反射鏡が用いられ、必要に応じてCPCと呼ばれる複合放物面集光装置が併用されている。また、レーザ共振器は、全反射鏡と、主にロッドかディスク形状のレーザ媒質と、出力鏡とで構成されている。
【0003】
1つの太陽光励起レーザでは、集光系で得られた太陽光を、一つのレーザ媒質の端面あるいは側面に照射して、レーザを発振させるため、レーザ発振波長は1つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Richard L.Fork,“High−energy lasers may put power in space”,Laser Focus world,September,2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の波長のレーザを発振させようとする場合、従来の技術では、レーザ媒質の形状がロッド状であったり、共振器を構成するための形状に制約があったりするため、一つのレーザ発振装置で、複数の波長のレ−ザ発振を実現することが困難である、という問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、複数の波長でレーザ発振して、励起エネルギーの利用効率を高めることができるレーザ発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係るレーザ発振装置は、利得特性を有すると共に、光の波長に関する異なる吸収特性を有し、かつ、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバと、内部に前記複数の利得ファイバを配置した集光光学系であって、前記複数の利得ファイバの各々の吸収特性の波長帯を含む広帯域光が励起光として前記利得ファイバの側面から入射されるように、前記広帯域光が内部に入射される集光光学系と、を含んで構成されている。
【0008】
第1の発明に係るレーザ発振装置によれば、広帯域光が励起光として集光光学系の内部に入射され、複数の利得ファイバの各々の側面から広帯域光が入射される。複数の利得ファイバは、異なる吸収特性を有しており、複数の利得ファイバによって、異なる波長でレーザ発振する。
【0009】
このように、異なる吸収特性を有し、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバを、集光光学系の内部に配置することにより、複数の波長でレーザ発振して、広帯域光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0010】
第2の発明に係るレーザ発振装置は、利得特性を有すると共に、光の波長に関する異なる吸収特性を有し、かつ、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバと、内部に前記複数の利得ファイバを配置した導光光学系であって、前記複数の利得ファイバの各々の吸収特性の波長帯を含む広帯域光が励起光として前記利得ファイバの側面から入射されるように、前記広帯域光が内部に入射される導光光学系と、を含んで構成されている。
【0011】
第2の発明に係るレーザ発振装置によれば、広帯域光が励起光として導光光学系の内部に入射され、複数の利得ファイバの各々の側面から広帯域光が入射される。複数の利得ファイバは、異なる吸収特性を有しており、複数の利得ファイバによって、異なる波長でレーザ発振する。
【0012】
このように、異なる吸収特性を有し、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバを、導光光学系の内部に配置することにより、複数の波長でレーザ発振して、広帯域光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0013】
上記の第1の発明及び第2の発明に係る複数の利得ファイバは、第1の吸収特性を有し、かつ、第1の波長でレーザ発振する第1の利得ファイバと、前記第1の吸収特性とは異なる第2の吸収特性を有し、かつ、前記第1の波長より長い第2の波長でレーザ発振する第2の利得ファイバとを含み、前記第1の吸収特性の波長帯を、前記第1の波長より短くし、前記第2の吸収特性の波長帯を、前記第1の波長より長く、かつ、前記第2の波長より短くするようにすることができる。これによって、広帯域光の励起エネルギーの利用効率をより高めることができる。
【0014】
上記のレーザ発振装置は、前記第1の利得ファイバと前記第2の利得ファイバとの間に設けられ、かつ、所定の波長の範囲の光を反射し、前記所定の波長の範囲以外の波長の範囲の光を透過する波長分離手段を更に含むようにすることができる。これによって、広帯域光の励起エネルギーの利用効率をより高めることができる。
【0015】
また、上記の第1の波長は、前記第2の波長より短く、所定の波長の範囲は、前記第1の波長より長い波長の範囲を含み、前記広帯域光が、前記波長分離手段に対して前記第2の利得ファイバ側から入射されるようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るレーザ発振装置によれば、異なる吸収特性を有し、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバを、集光光学系又は導光光学系の内部に配置することにより、複数の波長でレーザ発振して、広帯域光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ発振装置の構成を示す断面図である。
【図2】1波長のレーザ光に変換される場合の変換後の波長と効率の関係を示すグラフである。
【図3】2波長のレーザ光に変換される場合の変換後の波長と効率の関係を示すグラフである。
【図4】(A)2つの利得ファイバの各々の吸収特性とレーザ光の波長を示す図、及び(B)3つの利得ファイバの各々の吸収特性とレーザ光の波長を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るレーザ発振装置の構成を示す図である。
【図6】図5におけるa−a’間の断面を示す図である。
【図7】(A)本発明の第2の実施の形態に係るレーザ発振装置の他の例を示す図、及び(B)本発明の第2の実施の形態に係るレーザ発振装置の他の例を示す図である。
【図8】2つの利得ファイバの各々の吸収特性とレーザ光の波長を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るレーザ発振装置の導光光学系の断面を示す図である。
【図10】利得ファイバの他の例の断面を示す図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態に係る太陽光エネルギー利用システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るレーザ発振装置の構成を示す断面図である。
【0020】
レーザ発振装置10は、太陽光を励起光として光増幅する利得特性を有する第1の利得ファイバ12と、太陽光を励起光として光増幅する利得特性を有する第2の利得ファイバ14と、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14が内部に配置された集光光学系16とを備えている。
【0021】
集光光学系16は、積分球の様に内壁を高反射率の反射面16Aとした構造を有し、入射された光を複数回内部反射させる。また、集光光学系16は、太陽光が内部に入射するように配置される。
【0022】
第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14は、側面から励起光としての太陽光が入射され、両端からレーザ光を出射する。
【0023】
なお、ファイバ端に高反射率のミラー素子を付加することにより、発振波長を制御したり、一方の端から集中してレーザ光を出射させるようにしてもよい。
【0024】
次に、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14から出射されるレーザ光の波長について説明する。
【0025】
まず、太陽光を励起光として1波長のレーザ光に変換される場合の変換後の波長と効率の関係を図2に示す。上記図2では、参考値として太陽光スペクトルを図示している。
【0026】
1波長のレーザ光に変換する場合、波長が1100〜1300nmであるレーザ光に変換するときに最も効率(47%程度)が良くなるという結果が示されている。
【0027】
また、一波長のレーザ光に変換する場合であって、太陽光の励起エネルギーの利用効率を最大にする場合には、下記の(1)式で表されるηが、太陽光スペクトルに対して最大化される。
【0028】
【数1】

【0029】
但し、λ1は、変換後の波長、Isolar(λ)は、太陽光が有するλsからλeまでのスペクトルであり、励起に使われる太陽光は、発振波長λ1より短い波長である。
【0030】
従って、一波長のレーザ光に変換する場合、レーザ媒質を限定しない、物理モデルでは、変換後のレーザ光を、λ1=(1100nm帯の波長)で実現することにより最大効率となる。
【0031】
具体的な添加元素については、一波長のレーザ光に変換する場合、例えば、レーザ媒質としてNd添加材料が想定される。この場合、1060nm(概ね1100nmである)のレーザ発振となる。
【0032】
次に、太陽光を励起光として2波長λ1、λ2のレーザ光に変換される場合の変換後の波長と効率の関係を図3に示す。上記図3では、縦軸がλ1で、横軸がλ2を示しており、右欄に示した色分けにより、効率を表わしている。最大効率(66%)は、上記図3中に示したとおりでλ1=864nm、λ2=1775nmである。
【0033】
また、二波長のレーザ光に変換する場合であって、太陽光の励起エネルギーの利用効率を最大にする場合には、下記の(2)式で表されるηが、太陽光スペクトルに対して最大化される。
【0034】
【数2】

【0035】
ただし、λ1、λ2は、変換後のレーザ光の波長であり、λ1<λ2である。
【0036】
従って、太陽光スペクトル(直達光成分と散乱光成分を含む)AM1.5による励起で発振する太陽光励起レーザにおいて、レーザ媒質を限定しない、物理モデルでは、変換後のレーザ光を、λ1=(800nm帯の波長)、λ2=(1700nm帯の波長)で実現すると、最大効率(66%)となる。
【0037】
ここで、二波長のレーザ光に変換するために、元素Aの利得ファイバと元素Bの利得ファイバとを組み合わせた場合について考える。図4(A)は、利得ファイバの各々の吸収スペクトル(台形状の吸収スペクトル)と↑(矢印)に対応する発光スペクトルを示している。
【0038】
従来技術では、帯域状の吸収特性を一つのロッド状レーザ媒質に持たせるために、レーザ媒質に二つの元素を共添加していた。この場合、二つの元素間でエネルギーの移動が発生し、最終的に1060nm辺りで強く発光する状況を作り出すことが一般的なアプローチである。
【0039】
例えば、NdCr共添加YAGセラミックスが非特許文献において知られており、元素AがCr、元素BがNdに対応している(T.Saiki et.al.,“Nd/Cr:YAG Ceramic Rod Laser Pumped Using Arc−Metal−Halide−Lamp”,Japanese Journal of Applied Physics Vol. 46, No.1,2007,pp.156−160)。上記の非特許文献では、CrからNdのエネルギー移動がうまくいって1064nmでレーザ発振しているとの報告がある。
【0040】
しかし、うまくエネルギー移動が生じないときは、発光エネルギーを再吸収するのみで、エネルギーの損失となることもあり得る。
【0041】
これに対して、本実施の形態では、第1の利得ファイバ12としての、コアに元素Aを添加したファイバレーザAと、第2の利得ファイバ14としての、コアに元素Bを添加したファイバレーザBとを独立に作製し、集光光学系16の内部において、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14を、独立に動作させる。これによって、吸収スペクトルの重なりにより発光エネルギーの再吸収による損失の心配もない。
【0042】
また、励起光波長及び波長変換後の波長に対するエネルギー変換効率については、励起波長と変換波長との波長差が小さいほど、エネルギー変換効率は高い(実際は、発振波長と励起波長の比が変換効率に比例する)。変換前波長と変換後波長のエネルギーの差は、発熱に消費されると考えられる。
【0043】
このとき、二波長のレーザ光の波長λ1<λ2において、λ1のための励起波長帯λex,1が、(λex,1の最長波長)<λ1であり、かつ、λ2のための励起波長帯λex,2が、λ1<(λex,2の最短波長)、(λex,2の最長波長)<λ2を満たしている時が、最もエネルギー損失が少ない組み合わせである。
【0044】
なお、状況に応じて、λ2の励起に、波長が短い波長帯を吸収しても良い。(λex,2の最短波長<λ1)。この場合には、この吸収波長が発生するに従いエネルギー変換効率が低下する。
【0045】
以上より、本実施の形態では、第1の利得ファイバ12を、励起波長帯λex,1(λex,1の最長波長<λ1)を吸収する吸収特性を有し、かつ、変換するレーザ光の波長λ1が800nm帯の波長(例えば、850nm)となるように形成し、第2の利得ファイバ14を、励起波長帯λex,2(λ1<λex,2の最短波長、λex,2の最長波長<λ2)を吸収する吸収特性を有し、かつ、変換するレーザ光の波長λ2が1700nm帯の波長(例えば、1750nm)となるように形成する。
【0046】
第1の利得ファイバ12のコアに添加される具体的な元素は、例えば、Pr3+、Cr3+、Ho3+、Tm3+、Er3+、又はNd3+である。
【0047】
第2の利得ファイバ14のコアに添加される具体的な元素は、例えば、Er3+、Tm3+、Pr3+、Co2+、Nd3+である。
【0048】
より具体的には、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14のコアに添加される元素として、CrとNdとの組み合わせ、または、NdとErとの組み合わせが考えられる。なお、λ2をもう少し長い波長にするために、他の元素を添加することも有効である。
【0049】
更に、効率が良くなる波長帯から離れた波長でも、エネルギー利用効率は低下するが、太陽光励起レーザ、もしくは、広帯域光による励起レーザの原理を利用する上では、他の添加イオンの可能性を制限するものではない。
【0050】
次に、第1の実施の形態に係るレーザ発振装置10の作用について説明する。太陽光が励起光として集光光学系16の内部に入射されると、太陽光が、集光光学系16の内部の反射面で繰り返し反射されて、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14の各々の側面から、太陽光が入射される。
【0051】
このとき、第1の利得ファイバ12では、励起波長帯λex,1を吸収し、第1の利得ファイバ12の両端から、波長λ1のレーザ光を出射する。また、第2の利得ファイバ14では、励起波長帯λex,2を吸収し、第2の利得ファイバ14の両端から、波長λ2のレーザ光を出射する。
【0052】
以上説明したように、第1の実施形態に係るレーザ発振装置によれば、異なる吸収特性を有し、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバを、集光光学系の内部に配置し、太陽光を集光光学系の内部に入射することにより、複数の波長でレーザ発振して、太陽光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0053】
また、複数の利得ファイバにおいて、吸収特性の波長帯とレーザ光の波長の差を小さくすることにより、太陽光の励起エネルギーの利用効率をより高めることができる。
【0054】
また、複数の利得ファイバを独立に動作させることにより、吸収スペクトルの重なりにより発光エネルギーの再吸収による損失の心配もなく、また、量子欠損の小さなレーザシステムを実現することが出来る。
【0055】
次に、第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
第2の実施の形態では、リング状の導光光学系の内部に、利得ファイバを配置している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0057】
図5に示すように、レーザ発振装置210は、第1の利得ファイバ12と、第2の利得ファイバ14と、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14が内部に配置された導光光学系216とを備えている。
【0058】
導光光学系216は、高屈折率のリング状構造体で形成され、図6の断面図が示すように、リング状に巻きつけられた第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14を内部に包含している。なお、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14を、なるべく隙間なく高密度で巻きつけたような形状にするのが、励起光の吸収効率を高めるために有効である。
【0059】
また、導光光学系216は、外周面側から内部に太陽光が入射されるように配置される。導光光学系216に太陽光が入射されると、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14の各々は、側面から太陽光が入射され、両端からレーザ光を出射する。
【0060】
次に、第2の実施の形態に係るレーザ発振装置210の作用について説明する。太陽光が励起光として導光光学系216の内部に入射されると、太陽光が導光光学系216の内部を伝搬し、第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14の各々の側面から、太陽光が入射する。
【0061】
第1の利得ファイバ12では、励起波長帯λex,1を吸収し、第1の利得ファイバ12の両端から、波長λ1のレーザ光を出射する。また、第2の利得ファイバ14では、励起波長帯λex,2を吸収し、第2の利得ファイバ14の両端から、波長λ2のレーザ光を出射する。
【0062】
以上説明したように、第2の実施形態に係るレーザ発振装置によれば、異なる吸収特性を有し、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバを、リング状の導光光学系の内部に配置し、太陽光を導光光学系の内部に入射することにより、複数の波長でレーザ発振して、太陽光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0063】
なお、上記の実施の形態では、太陽光を導光光学系に照射する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、図7(A)に示すように、リング状の導光光学系に対して、外周にわたって外周側から太陽光を照射するようにしてもよい。この場合には、マルチモードファイバや、導波路、導光板などを用いて、太陽光を、外周にわたって照射するように導けばよい。
【0064】
また、図7(B)に示すように、リング状の導光光学系に対して、内周側から太陽光を照射するようにしてもよい。この場合にも、マルチモードファイバや、導波路、導光板などを用いて、太陽光を、内周側から照射するように導けばよい。
【0065】
次に、第3の実施の形態について説明する。第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0066】
第3の実施の形態では、導光光学系の内部において、第1の利得ファイバと第2の利得ファイバとを、波長分離部で分離している点が、第2の実施の形態と異なっている。
【0067】
上述した第1の実施の形態のように、吸収特性の波長帯域と発振波長が完全に分離している場合は少なく、次に示すように、吸収特性の波長の帯域に重複する領域が発生することがある。
【0068】
例えば、λ1でレーザ発振する媒質は、図8に示すように、400〜800nm帯を吸収して850nmでレーザ発振をする。また、900〜1200nm帯にかけても吸収特性を有する。λ2でレーザ発振する媒質は、900〜1700nm帯を吸収して1750nmでレーザ発振をする。
【0069】
この場合、900〜1200nm帯の光を、上記図8の第1の利得ファイバ12側の領域で吸収しては損失になる。第2の利得ファイバ14側の領域で吸収してこそ、波長λj(又はλ2)のレーザを有効に励起する。そこで、高効率のレーザ発振特性を実現するためには、励起波長帯λex,1と励起波長帯λex,2を分離するような波長分離部を設けることが重要である(λex,1<λex,2)。
【0070】
そこで、第3の実施の形態では、図9の断面図に示すように、導光光学系216の内部に、励起波長帯λex,1(400〜800nm帯)の光を含む所定波長帯(例えば、800nm帯以下)を透過し、所定波長帯より長い波長を反射する波長分離部318を設ける。また、波長分離部318は、導光光学系216に沿ってリング状に形成され、第1の利得ファイバ12と第2の利得ファイバ14とを物理的に分離する。また、第2の利得ファイバ14より吸収特性の波長帯が短い第1の利得ファイバ12を、導光光学系216の内側(太陽光の入射側と反対側)の領域に配置し、第2の利得ファイバ14を、導光光学系216の外側(太陽光の入射側)の領域に配置する。波長分離部318は、例えば、波長フィルタによって形成されている。
【0071】
励起波長帯λex,1(400〜800nm帯)でない800nm帯より長い波長の光が波長分離部318で反射されるため、励起波長帯λex,1でない900〜1200nm帯の光が図9の左側の領域(第1の利得ファイバ12側の領域)に侵入しない。励起波長帯λex,2(900〜1700nm帯)の光は図9の右側の領域(第2の利得ファイバ14の領域)のみで反射を繰り返すうちに、第2の利得ファイバ14に吸収される。励起波長帯λex,1(400〜800nm帯)は波長分離部318には影響を受けず、左右を含む全領域を伝搬する。ただし、励起波長帯λex,1の光は、図9の左側の領域のみで、第1の利得ファイバ12に吸収される。
【0072】
言い換えると、図9の左側(太陽光の入射側と反対側)の領域が、短い波長帯の吸収領域に対応しており、波長分離部318は、800nmより長い帯域を反射するため、900〜1200nm帯の波長は、図9の右側に閉じ込められる。800nm以下の波長は右側の領域を通過しつつ、図9の左側(太陽光の入射側と反対側)の領域で効率よくレーザ光に変換されるように、λ1で発振する第1の利得ファイバ12に吸収される。
【0073】
次に、第3の実施の形態に係るレーザ発振装置の作用について説明する。太陽光が励起光として導光光学系216の内部に入射されると、励起波長帯λex,2の光は、波長分離部318で反射され、導光光学系216の内部の第2の利得ファイバ14側の領域を伝搬し、第2の利得ファイバ14の側面から、太陽光が入射する。また、励起波長帯λex,1の光は、波長分離部318を透過し、導光光学系216の内部を伝搬し、第1の利得ファイバ12の側面から、太陽光が入射する。
【0074】
第1の利得ファイバ12では、励起波長帯λex,1を吸収し、第1の利得ファイバ12の両端から、波長λ1のレーザ光を出射する。また、第2の利得ファイバ14では、励起波長帯λex,2を吸収し、第2の利得ファイバ14の両端から、波長λ2のレーザ光を出射する。
【0075】
以上説明したように、第3の実施の形態に係るレーザ発振装置によれば、励起ファイバ間に波長フィルタで形成された波長分離部を配置することで、励起ファイバの吸収特性を制御して、太陽光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0076】
また、複数の励起ファイバに対して、励起光の波長帯を分離することにより、分離された波長帯が、各励起ファイバで有効に吸収されるため、波長変換後のエネルギー変換効率を高めることができる。
【0077】
なお、上記の実施の形態では、導光光学系の外周側から太陽光を入射する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、導光光学系の内周側から太陽光を入射するようにしてもよい。この場合には、第1の利得ファイバを、波長分離部に対して導光光学系の外周側(太陽光の入射側と反対側)に配置し、第2の利得ファイバを、波長分離部に対して導光光学系の内周側に配置するようにすればよい。
【0078】
また、図10に示すように、第1の励起ファイバ又は第2の励起ファイバのクラッド外周に波長分離部を付加するようにしてもよい。この場合にも、吸収波長帯を制御することができる。
【0079】
次に、第4の実施の形態について説明する。第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0080】
第4の実施の形態では、集光光学系の内部に、3つの利得ファイバを配置している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0081】
第4の実施の形態では、集光光学系16の内部に、第1の利得ファイバ12、第2の利得ファイバ14、及び第3の利得ファイバが配置されている。
【0082】
第1の利得ファイバ12及び第2の利得ファイバ14と同様に、第3の利得ファイバは、側面から励起光が入射され、両端からレーザ光を出射する。
【0083】
また、太陽光スペクトル(直達光成分と散乱光成分を含む)AM1.5による励起で発振する太陽光励起レーザにおいて、レーザ媒質を限定しない、物理モデルでは、第1の利得ファイバ12、第2の利得ファイバ14、及び第3の利得ファイバで変換された後のレーザ光の波長λ1〜λ3を、λ1=(800nm帯の波長)、λ2=(1300nm帯の波長)、λ3=(2500nm帯の波長)で実現すると、最大効率(74%)となる。
【0084】
また、図4(B)は、第1の利得ファイバ12、第2の利得ファイバ14、及び第3の利得ファイバの各々の吸収スペクトル(台形状の吸収スペクトル)と↑(矢印)に対応する発光スペクトルを示している。
【0085】
本実施の形態では、第1の利得ファイバ12として、コアに元素Aを添加したファイバレーザAと、第2の利得ファイバ14として、コアに元素Bを添加したファイバレーザBと、第3の利得ファイバとして、コアに元素Cを添加したファイバレーザCと、を独立に作製し、集光光学系16の内部において、第1の利得ファイバ12、第2の利得ファイバ14、及び第3の利得ファイバを、独立に動作させる。
【0086】
また、3波長のレーザ光の波長λ1<λ2<λ3において、λ1のための励起波長帯λex,1が、(λex,1の最長波長)<λ1であり、かつ、λ2のための励起波長帯λex,2が、λ1<(λex,2の最短波長)、(λex,2の最長波長)<λ2であり、かつ、λ3のための励起波長帯λex,3が、λ2<(λex,3の最短波長)、(λex,3の最長波長)<λ3を満たしている時が、最もエネルギー損失が少ない組み合わせである。
【0087】
以上より、本実施の形態では、第1の利得ファイバ12を、励起波長帯λex,1(λex,1の最長波長<λ1)を吸収する吸収特性を有し、かつ、変換するレーザ光の波長λ1が800nm帯の波長(例えば、850nm)となるように形成し、第2の利得ファイバ14を、励起波長帯λex,2(λ1<λex,2の最短波長、λex,2の最長波長<λ2)を吸収する吸収特性を有し、かつ、変換するレーザ光の波長λ2が1300nm帯の波長(例えば、1300nm)となるように形成し、第3の利得ファイバを、励起波長帯λex,3(λ2<λex,3の最短波長、λex,3の最長波長<λ3)を吸収する吸収特性を有し、かつ、変換するレーザ光の波長λ3が2500nm帯の波長(例えば、2500nm)となるように形成する。
【0088】
第1の利得ファイバ12のコアに添加される具体的な元素は、例えば、Pr3+、Cr3+、Ho3+、Tm3+、Er3+、又はNd3+である。
【0089】
第2の利得ファイバ14のコアに添加される具体的な元素は、例えば、Ho3+、Nd3+、Pr3+、Cr4+、Mn5+、Er3+、又はYb3+である。
【0090】
第3の利得ファイバのコアに添加される具体的な元素は、例えば、Ho3+、U3+、Tm3+、Er3+、又はDy3+である。
【0091】
より具体的には、第1の利得ファイバ12、第2の利得ファイバ14、及び第3の利得ファイバのコアに添加される元素として、ErとNd(1300nm帯の材料としても働く)とHoの組み合わせ、又はErとNdとTmの組み合わせが考えられる。
【0092】
次に、第4の実施の形態に係るレーザ発振装置の作用について説明する。太陽光が励起光として集光光学系16の内部に入射されると、太陽光が集光光学系16の内部を繰り返し反射されて、第1の利得ファイバ12、第2の利得ファイバ14、及び第3の利得ファイバの各々の側面から、太陽光が入射する。
【0093】
第1の利得ファイバ12では、励起波長帯λex,1を吸収し、第1の利得ファイバ12の両端から、波長λ1のレーザ光を出射する。また、第2の利得ファイバ14では、励起波長帯λex,2を吸収し、第2の利得ファイバ14の両端から、波長λ2のレーザ光を出射する。また、第3の利得ファイバでは、励起波長帯λex,3を吸収し、第3の利得ファイバの両端から、波長λ3のレーザ光を出射する。
【0094】
以上のように、第4の実施形態に係るレーザ発振装置によれば、異なる吸収特性を有し、異なる波長でレーザ発振する3本の利得ファイバを、リング状の集光光学系の内部に配置し、太陽光を集光光学系の内部に入射することにより、複数の波長でレーザ発振して、太陽光の励起エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0095】
なお、上記の実施の形態では、3本の利得ファイバを、集光光学系の内部に配置した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、4本以上の利得ファイバを、集光光学系の内部に配置してもよい。
【0096】
また、上述した第2の実施の形態の技術を適用して、導光光学系の内部に、3本以上の利得ファイバを配置してもよい。また、上述した第3の実施の形態の技術を適用して、3本以上の利得ファイバの間に、波長分離部をそれぞれ設けてもよい。例えば、太陽光の入射側から、励起光の波長が長い順に、第3、第2、第1の利得ファイバの領域を配置し、第3と第2の利得ファイバの領域の間に、第1波長分離部を設け、第2と第1の利得ファイバの領域の間に、第2波長分離部を設ける。第1波長分離部は、第2の利得ファイバから出射されるレーザ光の波長λ2より少し短い所定波長以下の光を透過し、所定波長より長い光を反射する。第2波長分離部は、第1の利得ファイバから出射されるレーザ光の波長λ1より少し短い所定波長以下の光を透過し、所定波長より長い光を反射する。
【0097】
次に、第5の実施の形態について説明する。第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0098】
第5の実施の形態では、太陽光エネルギー利用システムに、本発明を適用している点が第1の実施の形態と異なっている。
【0099】
図11に示すように、第5の実施の形態に係る太陽光エネルギー利用システム510は、レーザ発振装置10と、レーザ発振装置10から出射される波長λ1のレーザ光と光触媒とを組み合わせて化学反応を発生させる化学反応発生装置512と、レーザ発振装置10から出射される波長λ2のレーザ光と光電変換素子とを組み合わせて電気エネルギーを発生させる光電変換装置514とを備えている。
【0100】
化学反応発生装置512は、レーザ発振装置10の第1の励起ファイバ12から出射される波長λ1のレーザ光と光触媒とを組み合わせて化学反応を選択的に励起する人工光合成や植物工場等のアプリケーションである。
【0101】
光電変換装置514は、レーザ発振装置10の第2の励起ファイバ14から出射される波長λ2のレーザ光と光電変換素子とを組み合わせて電気エネルギーを発生させる。光電変換装置514は、例えば、太陽電池に適用され、光電変換装置514で発生させた電気エネルギーを用いて蓄電池を充電する。
【0102】
このように、レーザ発振装置から出射される複数波長のレーザ光を用いて、化学反応と太陽電池とを同時に実現することができる。
【0103】
また、太陽光は地球上に180PWのエネルギーを供給している。太陽光は無尽蔵に思われ、有望なエネルギー源であるが、エネルギー密度が低く、かつ、広い波長帯に及んでいる。そのままの状態では扱い難いが、コヒーレント光に変換(単色化、高密度化)することで、扱い易いエネルギー源になるため、本実施の形態のように、種々の方法で、太陽光エネルギーを利用することができる。
【0104】
なお、上記の実施の形態では、レーザ発振装置から出射される波長λ2を、光電変換装置に利用する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、レーザ発振装置から出射される波長λ2から、非線形光学結晶などにより第二高調波(波長1/2化)を発生させて、光化学反応装置に用いてもよい。
【0105】
また、レーザ光が、可干渉性を有し、高エネルギー密度であることを利用し、光ファイバを用いて、エネルギーを低損失で長距離伝送するようにしてもよい。例えば、宇宙で発電して地上へ伝送するようにしてもよい。光ファイバは伝送損失0.1dB/km以下を実現することが可能で、熱破壊限界(2GW/cm程度)から推定するとφ1mmコアで20MW伝送可能である。バンドル化したケーブルにより都市一つ分のエネルギーを長距離伝送するようにしてもよい。
【0106】
また、レーザ光の集光性を高め、高温の熱源として用いることで、MgOのレーザ還元を用いたマグネシウムサイクルに利用するようにしてもよい。
【0107】
また、上記の第1の実施の形態〜第5の実施の形態において、励起ファイバの端面積中でコアの比率が高まるように、但しコアからのしみ出し光が影響を受けない範囲で、クラッド部分の直径を小さくするようにしてもよい。これによって、励起光の吸収効率を高めることができる。
【0108】
また、励起光として太陽光を用いた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、複数の励起ファイバの吸収特性の帯域を含む広帯域光であれば、他の種類の光を、励起光として用いてもよい。
【0109】
また、励起ファイバの断面形状が円形となっている場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、光ファイバ型レーザとして効率よく光が伝搬すれば、励起ファイバが他の断面形状であってもよい。
【0110】
また、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で設計上の変更をされたものにも適用可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0111】
10、210 レーザ発振装置
12 第1の利得ファイバ
14 第2の利得ファイバ
16 集光光学系
216 導光光学系
318 波長分離部
510 太陽光エネルギー利用システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得特性を有すると共に、光の波長に関する異なる吸収特性を有し、かつ、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバと、
内部に前記複数の利得ファイバを配置した集光光学系であって、前記複数の利得ファイバの各々の吸収特性の波長帯を含む広帯域光が励起光として前記利得ファイバの側面から入射されるように、前記広帯域光が内部に入射される集光光学系と、
を含むレーザ発振装置。
【請求項2】
利得特性を有すると共に、光の波長に関する異なる吸収特性を有し、かつ、異なる波長でレーザ発振する複数の利得ファイバと、
内部に前記複数の利得ファイバを配置した導光光学系であって、前記複数の利得ファイバの各々の吸収特性の波長帯を含む広帯域光が励起光として前記利得ファイバの側面から入射されるように、前記広帯域光が内部に入射される導光光学系と、
を含むレーザ発振装置。
【請求項3】
前記複数の利得ファイバは、第1の吸収特性を有し、かつ、第1の波長でレーザ発振する第1の利得ファイバと、前記第1の吸収特性とは異なる第2の吸収特性を有し、かつ、前記第1の波長より長い第2の波長でレーザ発振する第2の利得ファイバとを含み、前記第1の吸収特性の波長帯を、前記第1の波長より短くし、前記第2の吸収特性の波長帯を、前記第1の波長より長く、かつ、前記第2の波長より短くした請求項1又は2記載のレーザ発振装置。
【請求項4】
前記第1の利得ファイバと前記第2の利得ファイバとの間に設けられ、かつ、所定の波長の範囲の光を反射し、前記所定の波長の範囲以外の波長の範囲の光を透過する波長分離手段を更に含む請求項3記載のレーザ発振装置。
【請求項5】
前記第1の波長は、前記第2の波長より短く、
前記所定の波長の範囲は、前記第1の波長より長い波長の範囲を含み、
前記広帯域光が、前記波長分離手段に対して前記第2の利得ファイバ側から入射される請求項4記載のレーザ発振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−119534(P2012−119534A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268732(P2010−268732)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】