説明

レーザ電源装置

【課題】レーザ電源装置において、負荷の変動や交流電源電圧の変動に対して充電電流の異常増大(突入電流の発生)を未然に防止して安全性および信頼性を向上させる。
【解決手段】監視回路70は、充電回路14内のコイル26および抵抗28の電圧降下VLRまたはコイル26および第2開閉器30の電圧降下VLSを測定するための電圧センス線72およびアイソレーション・アンプ74と、異常時停止用と充電完了用の2種類の監視値MVM1,MVM2を発生する監視値発生回路76と、監視値MVM1,MVM2のいずれか一方を選択するためのスイッチ78と、アイソレーション・アンプ74からのコイル電圧降下測定値MVLR(MVLS)と監視値MVM1(MVM2)とを比較するコンパレータ80とを有する。制御部20は、コンパレータ80の出力信号(比較結果信号)COに基づいて第1および第2開閉器24,30のオン・オフを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振用の励起ランプに電力を供給するレーザ電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工に用いられているYAGレーザ等の固体レーザ装置は、励起ランプを点灯させて、その光エネルギーによりYAGロッド等の固体レーザ媒体を励起してレーザ発振を起こすようにしている。
【0003】
このようなレーザ装置で用いられる電源装置は、一般に、商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、この整流回路からの直流電力を蓄えるコンデンサと、このコンデンサに蓄えられた電気エネルギーを放電させて励起ランプにランプ電流つまり駆動電流を供給するランプ駆動回路とを備えている。
【0004】
図10に、固体レーザ装置に用いられている従来の簡易型レーザ電源装置の回路構成を示す。このレーザ電源装置において、出力端子[OUTa,OUTb]はレーザ発振部の励起ランプ(図示せず)の両電極端子にそれぞれ接続されている。
【0005】
入力側の三相整流回路100は、三相交流電源端子[S,T,U]からの商用周波数の三相交流を整流して直流に変換する。この三相整流回路100とコンデンサ102との間には、コイル104、抵抗106および第1開閉器108が直列に接続されるとともに、抵抗106および第1開閉器108と並列に第2開閉器110が接続されている。
【0006】
コンデンサ102と出力端子[OUTa,OUTb]との間には、ランプ駆動用のスイッチング素子112およびチョークコイル114が直列に接続されるとともに、チョークコイル114および励起ランプと並列にフライホイール・ダイオード116が接続されている。スイッチング素子112がオンすると、コンデンサ102が放電し、その放電電流がランプ電流idとしてコンデンサ102、スイッチング素子112、チョークコイル114および励起ランプの閉回路を流れる。スイッチング素子112がオフすると、コンデンサ102の放電は中断するが、チョークコイル114、励起ランプおよびフライホイール・ダイオード116の閉回路で還流電流がランプ電流idとして流れる。これにより、ランプ電流idを途切れることなく持続的に流し、励起ランプを連続点灯させ、レーザ発振部より連続発振のレーザ光を得ることができる。スイッチング素子112は、スイッチング制御回路118のスイッチング制御により一定の高周波数たとえば20kHzでオン・オフする。
【0007】
制御部120は、充電電圧測定回路122を通じてコンデンサ102の充電電圧Vcを監視しつつ、装置内の各部、特に開閉器108,110のオン・オフおよびスイッチング制御部(112,118)のスイッチング動作を制御する。
【0008】
このレーザ電源装置において、コンデンサ102を無充電状態から設定電圧まで充電するときは、スイッチング素子112のスイッチング動作を止めたまま、第2開閉器110をオフ状態に保ち、第1開閉器108をオンにする。すると、三相整流回路100の出力端子からコイル104、抵抗106および第1開閉器108を介して直流の充電電流icがコンデンサ102に流れ込み、コンデンサ102の端子間電圧つまり充電電圧Vcが上昇する。この際、抵抗106は、コイル104からコンデンサ102に突入電流が流れるのを防止する電流制限抵抗として機能する。制御部120は、充電電圧測定回路122を通じてコンデンサ102の充電電圧Vcを監視し、充電電圧Vcが設定値VSに近い値に達した時点で第2開閉器110をオンにする。これによって、コイル104とコンデンサ102とが第2開閉器110を介して短絡される。以後、三相整流回路100ないしコイル104からの充電電流idは第2開閉器110を通ってコンデンサ102に供給される。第1開閉器108は、この時点でオフ状態に切り換えられてもよいが、そのままオン状態に保持されていてもよい。
【0009】
制御部120は、コンデンサ102の充電電圧Vcが設定値VSに達した後に、たとえば手動式の起動スイッチまたはワーク搬送装置等の外部装置から起動信号STを受け取ると、それに応答してスイッチング制御回路118を作動させる。スイッチング制御回路118は、励起ランプにランプ電流idを所定の電流値で流すようにスイッチング素子112をスイッチング制御する。こうして、コンデンサ102が励起ランプ側にランプ電流idを供給する一方で、ランプ電流idの供給によってコンデンサ102から放出される電気エネルギーを補填するように三相整流回路100側からコイル104および第2開閉器110を介してコンデンサ102に充電電流icが供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−26844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の簡易型レーザ電源装置は、必要最小限の回路構成からなり、電力損失が少ないため、安価で効率が高いという利点がある。一方で、負荷の変動には弱く、特にランプ電流idが急激に増大すると、コンデンサ102の充電電圧VCが急激に低下し、コイル104からコンデンサ102に流れる充電電流icが急激に増大して突入電流に変わる。そのような突入電流によってコイル104、開閉器110、コンデンサ102が破損しやすいことや、交流電路上のヒューズ124が頻繁に溶断することが問題となっている。
【0012】
この問題に対して、コイル104のインダクタンスやコンデンサ102の静電容量を大きくすることも行われている。しかし、交流電源電圧の変動によっても、レーザ発振中にコンデンサ102の充電電圧VCが大きく変動して、コイル104からコンデンサ102に突入電流が流れることがあり、コイル104やコンデンサ102を大型化しても根本的な解決にならないばかりか、むしろ部品破損の損失度が大きくなる。このため、この種の簡易型レーザ電源装置は、レーザ出力のダイミックレンジを低目に設定し、低出力型レーザ用に特化しているのが現状である。
【0013】
また、別の解決法として、充電電圧測定回路122を通じてコンデンサ102の充電電圧Vcを監視する機能を利用し、レーザ発振中に充電電圧Vcが所定の監視値以下に低下した時に開閉器108,110をオフにすることも考えられる。しかし、負荷の変動や交流電源電圧の変動が比較的緩やかなときは、コンデンサ102の充電電圧Vcが監視値以下になっても突入電流には至らないので、むやみに装置を停止するのはよくない。他方で、交流電源電圧の変動においては、コンデンサ102の充電電圧Vcが監視値に達しないレベルまでいったん低下してから電圧の急激な回復によってコンデンサ102に突入電流が流れることがある。このように、コンデンサ充電電圧を監視する方式は、不必要な装置の停止を招くことや、突入電流を確実に防止できないなどの難点がある。
【0014】
さらに、別の解決法として、充電電流icの電流値を監視し、その電流値が所定の監視値を超えた時に開閉器108,110をオフにすることも考えられる。しかし、この方式は、コイル104に大きな充電電流icが流れている時に開閉器108,110をオフにするので、コイル104に溜まっている電磁エネルギーが行き場を失ってオフ状態の第2開閉器110内でスパーク(アーク放電)を発生し、開閉器110を破損させるおそれがある。
【0015】
また、交流電源電圧の変動を直接監視して開閉器108,110のオン・オフを制御する方法は、負荷の変動には対応できないことや、突入電流には発展しない交流電源電圧の変動にも過剰に応答してしまうおそれがあり、制御の適確性および信頼性に乏しい。
【0016】
なお、従来より、充電回路にPFC(力率改善)回路を設けることによって、負荷変動や交流電源電圧変動の影響を緩和することも行われている。しかしながら、PFC回路を備える装置構成は、PFC回路のスイッチング損失によって効率が低下することや、ハードウェアおよびスイッチング制御の煩雑性ひいては装置コストが増大するという不利点がある。
【0017】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するものであり、負荷の変動や交流電源電圧の変動に対して充電電流の異常増大(突入電流の発生)を未然に防止して安全性および信頼性を向上させるレーザ電源装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の観点におけるレーザ電源装置は、固体レーザ媒体にレーザ発振用の励起光を照射する励起ランプに電力を供給するためのレーザ電源装置であって、商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、前記整流回路より出力される直流電力を蓄えるコンデンサと、前記整流回路と前記コンデンサとの間で直列に接続されるコイルおよび抵抗と、前記交流の電路に設けられ、または前記整流回路と前記コンデンサとの間で前記抵抗と直列に接続される第1の開閉器と、前記抵抗と並列に接続される第2の開閉器と、前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーを前記励起ランプ側に放電させて前記励起ランプにランプ電流を流すランプ駆動回路と、前記コイルおよび前記抵抗で生じる電圧降下または前記コイルおよび前記第2の開閉器で生じる電圧降下を監視する監視部と、前記監視部より出力される監視結果に基づいて前記第1および第2の開閉器のオン・オフを制御する制御部とを有する。
【0019】
上記第1の観点の装置構成において、コンデンサを実質的な無充電状態から設定電圧まで充電する際には、コンデンサの充電電圧が設定電圧に近づくと、コイルおよび抵抗の電圧降下が零に近づくので、監視部はこの状況を容易かつ正確に検出することができる。また、励起ランプの点灯中にランプ電流が急激に増大すると、あるいは交流電圧が急激に増大すると、それによって整流回路からコンデンサに流れる充電電流が急激に増大し始める。こうして充電電流が急激に増大し始めると、コイルおよび第2開閉器の電圧降下がそれまでの低い値から充電電流の増大変化率に対応した値まで一気に上昇するので、監視部はこの状況を容易かつ正確に検出することができる。また、制御部は、監視部からの適確で精度の高い監視結果に基づいて第1および第2の開閉器のオン・オフを制御するので、充電電流の異常増大つまり突入電流の発生を未然に防ぐことができるとともに、現時の交流電源電圧の電圧レベルに影響されずにコンデンサ充電動作を首尾よく完了させることもできる。
【0020】
本発明の好適な一態様において、制御部は、コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電する際に、コイルおよび抵抗の電圧降下が第2の基準値を割ったとの監視結果が監視部より出力された時は第2の開閉器をオンにする。
【0021】
別の好適な一態様において、制御部は、コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電した後に、コイルおよび第2開閉器の電圧降下が第1の基準値より小さいとの監視結果が監視部より出力されている間は第1および第2の開閉器をオンに保ち、コイルおよび第2の開閉器の電圧降下が第1の基準値を超えたとの監視結果が監視部より出力された時は第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする。この場合、制御部は、好ましくは、コイルおよび第2開閉器の電圧降下が第1の基準値を超えているとの監視結果が監視部より所定時間持続して出力された時に、第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする。
【0022】
本発明の第2の観点におけるレーザ電源装置は、固体レーザ媒体にレーザ発振用の励起光を照射する励起ランプに電力を供給するためのレーザ電源装置であって、商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、前記整流回路より出力される直流電力を蓄えるコンデンサと、前記整流回路と前記コンデンサとの間で直列に接続されるコイルおよび抵抗と、前記交流の電路に設けられ、または前記整流回路と前記コンデンサとの間で前記抵抗と直列に接続される第1の開閉器と、前記抵抗と並列に接続される第2の開閉器と、前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーを前記励起ランプ側に放電させて前記励起ランプにランプ電流を流すランプ駆動回路と、前記コイルで生じる電圧降下を監視する監視部と、前記監視部より出力される監視結果に基づいて前記第1および第2の開閉器のオン・オフを制御する制御部とを有する。
【0023】
上記第2の観点の装置構成において、コンデンサを実質的な無充電状態から設定電圧まで充電する際には、コンデンサの充電電圧が設定電圧に近づくと、充電電流の電流値が緩やかに零に近づき、コイルの電圧降下が負極性の方向で零に近づくので、監視部はこの状況を容易かつ正確に検出することができる。また、励起ランプの点灯中にランプ電流が急激に増大すると、あるいは交流電圧が急激に増大すると、それによって整流回路からコンデンサに流れる充電電流が急激に増大し始める。こうして充電電流が急激に増大し始めると、コイルの電圧降下がそれまでの低い値から充電電流の増大変化率に対応した値まで一気に上昇するので、監視部はこの状況を容易かつ正確に検出することができる。制御部は、監視部からの適確で精度の高い監視結果に基づいて第1および第2の開閉器のオン・オフを制御するので、充電電流の異常増大つまり突入電流の発生を未然に防ぐことができるとともに、現時の交流電源電圧の電圧レベルに影響されずにコンデンサ充電動作を首尾よく完了させることもできる。
【0024】
本発明の好適な一態様において、制御部は、コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電する際に、コイルの電圧降下が正極性であるとの監視結果またはコイルの電圧降下が正極性から負極性に転じた後も負極性の第2の基準値を正方向に超えてはいないとの監視結果が監視部より出力されている間は第1の開閉器をオンに保つとともに第2の開閉器をオフに保ち、コイルの電圧降下が第2の基準値を正方向に超えたとの監視結果が監視部より出力された時は第2の開閉器をオンにする。
【0025】
別の好適な一態様において、制御部は、コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電した後に、コイルの電圧降下が第1の基準値より小さいとの監視結果が監視部より出力されている間は第1および第2の開閉器をオンに保ち、コイルの電圧降下が第1の基準値を超えたとの監視結果が監視部より出力された時は第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする。この場合、制御部は、好ましくは、コイルの電圧降下が第1の基準値を超えているとの監視結果が監視部より所定時間持続して出力された時に、第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする。
【0026】
本発明の第3の観点におけるレーザ電源装置は、固体レーザ媒体にレーザ発振用の励起光を照射する励起ランプに電力を供給するためのレーザ電源装置であって、商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、前記整流回路より出力される直流電力を蓄えるコンデンサと、前記整流回路と前記コンデンサとの間で直列に接続されるコイルおよび抵抗と、前記交流の電路に設けられ、または前記整流回路と前記コンデンサとの間で前記抵抗と直列に接続される第1の開閉器と、前記抵抗と並列に接続される第2の開閉器と、前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーを前記励起ランプ側に放電させて前記励起ランプにランプ電流を流すランプ駆動回路と、前記コイルを流れる電流の時間的な変化率を監視する監視部と、前記監視部より出力される監視結果に応じて前記第1および第2の開閉器のオン・オフを制御する制御部とを有する。
【0027】
上記第3の観点の装置構成において、コンデンサを実質的な無充電状態から設定電圧まで充電する際には、コンデンサの充電電圧が設定電圧に近づくと、充電電流の電流値が緩やかに零に近づき、コイルを流れる電流の時間的な変化率が負極性の方向で零に近づくので、監視部はこの状況を容易かつ正確に検出することができる。また、励起ランプの点灯中にランプ電流が急激に増大すると、あるいは交流電圧が急激に増大すると、それによって整流回路からコンデンサに流れる充電電流が急激に増大し始める。こうして充電電流が急激に増大し始めると、コイルを流れる電流(充電電流)の時間的な変化率がそれまでの低い値から充電電流の増大変化率に対応した値まで一気に上昇するので、監視部はこの状況を容易かつ正確に検出することができる。制御部は、監視部からの適確で精度の高い監視結果に基づいて第1および第2の開閉器のオン・オフを制御するので、充電電流の異常増大つまり突入電流の発生を未然に防ぐことができるとともに、現時の交流電源電圧の電圧レベルに影響されずにコンデンサ充電動作を首尾よく完了させることもできる。
【0028】
本発明の好適な一態様において、制御部は、コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電する際に、コイルを流れる電流の変化率が正極性であるとの監視結果またはコイルを流れる電流の変化率が正極性から負極性に転じた後も負極性の第2の基準値を正方向に超えてはいないとの監視結果が監視部より出力されている間は第1の開閉器をオンに保つとともに第2の開閉器をオフに保ち、コイルを流れる電流の変化率が第2の基準値を正方向に超えたとの監視結果が監視部より出力された時は第2の開閉器をオンにする。
【0029】
別の好適な一態様において、制御部は、コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電した後に、コイルを流れる電流の変化率が第1の基準値より小さいとの監視結果が監視部より出力されている間は第1および第2の開閉器をオンに保ち、コイルを流れる電流の変化率が第1の基準値を超えたとの監視結果が監視部より出力された時は第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする。この場合、制御部は、コイルを流れる電流の変化率が第1の基準値を超えているとの監視結果が監視部より所定時間持続して出力された時に、第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする。
【発明の効果】
【0030】
本発明のレーザ電源装置によれば、上記のような構成および作用により、負荷の変動や交流電源電圧の変動に対して充電電流の異常増大(突入電流の発生)を未然に防止して安全性および信頼性を向上させることができる。また、現時の交流電源電圧の電圧レベルに影響されずに、コンデンサ充電動作を首尾よく完了させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態におけるレーザ電源装置の構成を示す回路図である。
【図2】図1のレーザ電源装置において、コンデンサを実質的な無充電状態から設定電圧まで充電するときの作用を説明するための各部の波形図である。
【図3】図1のレーザ電源装置において、レーザ加工中に負荷の変動によってコンデンサの充電電圧が急激に低下しようとする場合の作用を説明するための各部の波形図である。
【図4】図1のレーザ電源装置において、レーザ加工中に負荷の変動によってコンデンサの充電電圧が一時的に緩やかに低下した場合の作用を説明するための各部の波形図である。
【図5】第2の実施形態におけるレーザ電源装置の構成を示す回路図である。
【図6】図5のレーザ電源装置において、コンデンサを実質的な無充電状態から設定電圧まで充電するときの作用を説明するための各部の波形図である。
【図7】第3の実施形態におけるレーザ電源装置の構成を示す回路図である。
【図8】一変形例におけるレーザ電源装置の構成を示す回路図である。
【図9】図8のレーザ電源装置に含まれるスイッチングトランス回路の構成を示す回路図である。
【図10】従来の簡易型レーザ電源装置の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図1〜図9を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[実施形態1]
【0033】
図1に、本発明の第1の実施形態におけるレーザ電源装置の構成を示す。このレーザ電源装置は、固体レーザ装置たとえばYAGレーザ加工装置に好適に適用可能であり、高出力のレーザ加工にも対応できるようになっている。
【0034】
このレーザ電源装置は、基本構成として、商用周波数の三相交流を整流して直流に変換する三相整流回路10と、この整流回路10からの電力または電気エネルギーを蓄えるコンデンサ12と、整流回路10からコンデンサ12に充電電流Icを送る充電回路14と、コンデンサ12に蓄えられた電気エネルギーを放電させて励起ランプ16にランプ電流つまり駆動電流Idを供給するランプ駆動回路18と、装置内の各部の動作を制御する制御部20とを備えている。
【0035】
三相整流回路10は、たとえばダイオードの三相ブリッジ回路からなり、三相交流電源端子[S,T,U]からの商用周波数の三相交流を整流して直流に変換する。三相交流電源端子[S,T,U]と三相整流回路10との間には、ヒューズ22および電磁式の第1開閉器24が直列に挿入(接続)されている。
【0036】
三相整流回路10とコンデンサ12との間には、充電回路14として、コイル26および電流制限用抵抗28が直列に接続されるとともに、抵抗28と並列に電磁式の第2開閉器30が接続されている。
【0037】
出力端子[OUTA,OUTB]は励起ランプ16の両端子に接続される。コンデンサ12と出力端子[OUTA,OUTB]との間には、ランプ駆動用のスイッチング素子32およびチョークコイル34が直列に接続されるとともに、チョークコイル34および励起ランプ16と並列にフライホイール・ダイオード36が接続されている。スイッチング素子32がオンすると、コンデンサ12が放電し、その放電電流がランプ電流Idとしてコンデンサ12、スイッチング素子32、チョークコイル34および励起ランプ16の閉回路を流れる。スイッチング素子32がオフすると、コンデンサ12の放電は中断するが、チョークコイル34、励起ランプ16およびフライホイール・ダイオード36の閉回路で還流電流がランプ電流Idとして流れる。これにより、ランプ電流Idを途切れることなく持続的に流し、励起ランプ16を連続点灯させ、レーザ発振部38より連続発振のレーザ光LBを得ることができる。
【0038】
スイッチング素子32は、たとえばIGBTまたはFETからなり、スイッチング制御回路40のスイッチング制御により一定の高周波数たとえば20kHzでオン・オフする。この実施形態では、たとえばホール素子からなる電流センサ42および電流測定回路44によりランプ駆動電流Idの電流値を測定して、その電流測定値MIdをスイッチング制御回路40にフィードバックし、スイッチング制御回路40がPWM(パルス幅変調)方式のスイッチング制御を行うようになっている。
【0039】
レーザ発振部38は、チャンバ46内に配置された励起ランプ16およびYAGロッド48と、チャンバ46の外でYAGロッド48の光軸上に配置された一対の光共振器ミラー50,52とを有している。チャンバ46内で励起ランプ16およびYAGロッド48は、チャンバ外の冷却部(図示せず)より循環供給される冷却媒体たとえば冷却水によって温調される。
【0040】
励起ランプ16が点灯して励起光を発すると、その励起光のエネルギーによってYAGロッド48が励起され、YAGロッド48の両端面より光軸上に出た光が光共振器ミラー50,52の間で反射を繰り返して増幅されたのちレーザ光LBとして出力ミラー52を抜け出る。出力ミラー52より抜け出たレーザ光LBは、レーザ光学系54の入射ユニット56に送られる。
【0041】
レーザ光学系54は、レーザ発振部38より入射ユニット56に受け取ったレーザ光LBを光ファイバ58を介して出射ユニット60に伝送し、出射ユニット60より加工テーブル62上の被加工材Wに集光照射する。
【0042】
コンデンサ12と並列に電磁式の第3開閉器64および電流制限用抵抗66が接続されている。このレーザ電源装置を停止させた時は、保安上の理由から制御部20が第3開閉器64をオンにしてコンデンサ12から電気エネルギーをいったん放出させるようにしている。
【0043】
制御部20は、マイクロコンピュータおよび所要のインタフェース回路を有しており、操作パネル上のキーボードやディスプレイ等の周辺装置(図示せず)およびワーク搬送装置等の外部装置(図示せず)とも接続されており、後述する監視回路70を通じて充電回路14のコイル26および抵抗28に生じる電圧降下VLRまたはコイル26および第2開閉器30に生じる電圧降下VLSを監視しつつ、装置内の各部、特に第1および第2開閉器24,30のオン・オフおよびスイッチング制御部(32,40)のスイッチング動作を制御する。
【0044】
この実施形態における監視回路70は、コイル26および抵抗28の電圧降下VLRまたはコイル26および第2開閉器30の電圧降下VLSを検出するためのアイソレーション・アンプ74と、異常時停止用と充電完了用の2種類の監視値MVM1,MVM2を発生する監視値発生回路76と、監視値MVM1,MVM2のいずれか一方を選択するためのスイッチ78と、アイソレーション・アンプ74の出力つまり(コイル+抵抗)電圧降下測定値MVLRまたは(コイル+第2開閉器)電圧降下測定値MVLSとスイッチ78により選択された監視値MVM1(MVM2)とを比較するコンパレータ80とを有する。ここで、アイソレーション・アンプ74の一方(正極性)の入力端子は三相整流回路10の出力端子とコイル26との間のノード点NAに電圧センス線72Aを介して接続され、他方(負極性)の入力端子は抵抗28および第2開閉器30とコンデンサ12との間のノードNCに電圧センス線72Cを介して接続される。コンパレータ80の出力は、制御部20に与えられる。
【0045】
この監視回路70において、異常時停止用の監視値MVM1は正極性の設定値である。コンパレータ80は、定常動作モードでは、MVLS<MVM1のときにLレベルの出力信号(比較結果信号)COを発生し、MVLS>MVM1のときにHレベルの出力信号COを発生するようになっている。一方、充電完了用の監視値MVM2も正極性の設定値である。コンパレータ80は、充電動作モードでは、MVLR<MVM2のときにLレベルの出力信号(比較結果信号)COを発生し、MVLR>MVM2のときにHレベルの出力信号COを発生するようになっている。
【0046】
このレーザ電源装置は、上記のような装置構成により、特に監視回路70の監視機能と制御部20の制御機能により、レーザ加工中に負荷(ランプ電流Id)の急激な変動あるいは交流電源電圧の急激な変動が起こっても、充電回路14で突入電流が流れず、コイル26、第2開閉器30およびコンデンサ12が突入電流から保護されるようになっている。このため、コイル26のインダクタンスおよびコンデンサ12の静電容量を存分に大きくして、大容量・高出力のレーザ加工に対応できるようにもなっている。なお、コンデンサ12は、好ましくは電解コンデンサからなり、複数個のコンデンサを直列、並列または直列かつ並列に接続したアレイ型のものを好適に用いる。
【0047】
次に、図2につき、このレーザ電源装置において、コンデンサ12を実質的な無充電状態から設定電圧まで充電するときの作用を説明する。
【0048】
制御部20は、コンデンサ12の充電を行うために、スイッチング素子32のスイッチング動作を止めたまま、第2開閉器30をオフ状態に保ち、時点t0で第1開閉器24をオンにする。そうすると、三相整流回路10の出力端子からコイル26および電流制限用抵抗28を介して直流の充電電流ICがコンデンサ12に流れ込み、コンデンサ12の端子間電圧つまり充電電圧VCが上昇する。この場合、充電電流ICが流れ始める時は、その時間的な変化率が最も大きいため、コイル26に三相整流回路10の出力電圧に相当する大きな値VLOの電圧降下VLが発生する。その後、充電電流ICの電流値が大きくなるにつれて、コンデンサ12の充電電圧VCおよび抵抗28の電圧降下R・IC(ただし、Rは抵抗28の抵抗値)が増大する一方で、充電電流ICの変化率が減少してコイル26の電圧降下VLが小さくなる。なお、コイル26のインダクタンスをLとすると、電圧降下VLはVL=L・dIC/dtである。
【0049】
そして、時点t1で充電電流ICが極大値ICPに達した後は、充電電流ICの減少に伴って、コンデンサ12の充電電圧VCの上昇速度が低下する一方で、コイル26の電圧降下VLが負極性に変わるとともに抵抗28の電圧降下R・ICも減少し始め、コイル26および抵抗28の電圧降下つまり(コイル+抵抗)電圧降下VLRはさらに低下する。
【0050】
制御部20は、コンデンサ充電動作の際には、スイッチ78を通じて監視値発生回路76から充電完了用の監視値MVM2を選択してコンパレータ80に与える。コンパレータ80は、アイソレーション・アンプ74からの(コイル+抵抗)電圧降下測定値MVLRを監視値MVM2と比較し、充電開始直後からHレベルの比較結果信号COを出力し続ける。
【0051】
そして、時点t2で(コイル+抵抗)電圧降下VLRが監視値VM2を割ると、コンパレータ80の出力信号(比較結果信号)COがそれまでのHレベルからLレベルに変わる。制御部20は、このタイミング(時点t2)で直ちに、あるいは(より好ましくは)一定のディレイ時間経過後の時点t3で、第2開閉器30をオンにする。
【0052】
第2開閉器30がオンすると、コイル26とコンデンサ12が第2開閉器30を介して短絡され、コイル26に残っていた電磁エネルギーがコンデンサ12に速やかに放出される。これにより、充電電流ICが一瞬増大してコンデンサ12の充電電圧VCが直ぐに設定電圧VSに達し、そこで充電動作が完了する(時点t4)。
【0053】
この実施形態における上記設定電圧VSは、予め固定された値ではなく、現時の商用交流電源電圧の下で可能な最大充電電圧であり、いわば目標値である。したがって、たとえば、現時の商用交流電源電圧が実効値で400ボルトであれば設定電圧VSは400√2ボルト付近になり、現時の商用交流電源電圧が380Vであれば設定電圧VSは380√2ボルト付近になる。いずれの場合でも、この実施形態においては、コイル26および抵抗28の電圧降下VLRが監視値MVM2を割ったタイミングで、つまりコンデンサ12の充電電圧VCが設定電圧VSに近づいたタイミングで確実に第2開閉器30をオフ状態からオン状態に切り換えることができる。
【0054】
その点、従来のレーザ電源装置(図10)は、コンデンサ12の充電電圧VCを監視する方式である。したがって、たとえば、設定電圧VSを400√2ボルト、監視値を390√2ボルトに設定した場合に、現時の商用交流電源電圧が実効値で380ボルトであるときは、いつまで経っても第2開閉器110をオフ状態からオン状態に切り換えることができない。その場合に、スイッチング制御回路118を作動させて(つまり励起ランプを発光させて)レーザ加工を実施すれば、充電電流が抵抗108を通って流れ続ける結果、多量の電力損失を生じることになる。
【0055】
次に、図3につき、このレーザ電源装置において、レーザ加工中に負荷の変動によってコンデンサ12の充電電圧VCが急激に低下しようとする場合の作用を説明する。
【0056】
レーザ加工中、アイソレーション・アンプ74は、電圧センス線72A,72Cを通じてコイル26および第2開閉器30の電圧降下つまり(コイル+第2開閉器)電圧降下VLSを検出(測定)する。制御部20は、スイッチ78を通じて監視値発生回路76から異常時停止用の監視値MVM1を選択してコンパレータ80に与える。コンパレータ80は、アイソレーション・アンプ74からの(コイル+第2開閉器)電圧降下測定値MVLSを監視値MVM1と比較し、正常時はMVLS<MVM1なのでLレベルの比較結果信号COを出力し続ける。制御部20は、コンパレータ80の出力信号COがLレベルになっている間は、開閉器24,30をオン状態に保つ。
【0057】
図3において、たとえば時点t10で、負荷(ランプ電流Id)の急激な増大が起きたとする。そうすると、この時点t10から、コンデンサ12の充電電圧VCがそれまでの安定な値VCOから急激に低下し始め、それによって充電電流ICがそれまでの略一定な値ICOから急激に増大し始める。
【0058】
こうして充電電流ICが急激に増大すると、(コイル+第2開閉器)電圧降下VLSがそれまでの零付近の値から急速に立ち上がる。そして、充電電流ICの増大変動率が相当大きい場合は、(コイル+第2開閉器)電圧降下VLSが異常時停止用の監視値VM1を超えるレベルまで上昇する。すると、コンパレータ80の出力(比較結果信号)COがそれまでのLレベルからHレベルに変わる。制御部20は、このタイミング(時点t10)で直ちに、あるいは(より好ましくは)コンパレータ80の出力COが所定時間TS持続したことを確認してから、時点t11で、開閉器24,30をオフにするとともに、スイッチング制御回路40を通じてスイッチング素子32のスイッチング動作を停止させる。
【0059】
開閉器24,30がオフすると、コイル26に溜まっていた電磁エネルギーが電流制限用抵抗28を通ってコンデンサ12に放出され、充電電流ICは速やかに減少して止まる。なお、開閉器24,30をオフにするタイミングおよびスイッチング素子32のスイッチング動作を停止させるタイミングは同時でもよいが、多少異なっていてもよい。
【0060】
このように、レーザ発振中またはレーザ加工中にコンデンサ12の充電電圧VCが急激に低下して充電電流ICが急激に増大しようとするときは、その矢先にコイル26および第2開閉器30の電圧降下VLSが異常時停止用の監視値VM1を超えるので、充電電流ICが異常に増大する前に、そしてコイル26に多量の電磁エネルギーが溜まる前に、制御部20は開閉器24,30をオフさせることができる。これによって、充電回路14内で突入電流の発生を未然に防ぐことができるとともに、開閉器30でスパークが発生するのを未然に防ぐこともできる。
【0061】
次に、図4につき、このレーザ電源装置において、レーザ加工中に負荷の変動によってコンデンサ12の充電電圧VCが一時的に緩やかに低下した場合の作用を説明する。
【0062】
図4において、たとえば時点t20で、負荷(ランプ電流Id)の比較的緩やかな増大が起きたとする。そうすると、この時点t20から、コンデンサ12の充電電圧VCがそれまでの安定な値VCOから同様の緩やかさで低下し始め、それによって充電電流ICがそれまでの略一定な値ICOから同様の緩やかさで増大し始める。この場合、充電電流ICの時間的な変化率がそれほど大きくはないので、コイル26および第2開閉器30の電圧降下VLSは異常時停止用の監視値VM1を超えるレベルまで上昇しない。したがって、コンパレータ80の出力(比較結果信号)COはLレベルのままであり、制御部20は開閉器24,30をオン状態に保つ。このように、負荷の変動(特に負荷の増大)が起こっても、充電回路14に突入電流が発生しないようなものであれば、むやみに装置を停止させずに済み、レーザ加工を安定に継続することができる。
【0063】
商用交流電源電圧が変動するときも、上記と同じである。この場合も、商用交流電源電圧の変動に応じて充電電流ICが時間的に変化する。特に、商用交流電源電圧が上昇する時に、充電電流ICが増大する方向に変化し、この電流変化速度および変化量が非常に大きいと充電電流ICが突入電流となる。しかし、この実施形態においては、監視部70および制御部20の働きにより、充電電流ICが異常増大する手前で確実に開閉器24,30をオフさせるので、突入電流の発生を未然に防ぐことができる。
【0064】
なお、商用交流電源電圧が低下する方向に変動して三相整流回路10の出力電圧がコンデンサ12の充電電圧VCより低くなっても、三相整流回路10が整流機能を有するので、コンデンサ12から第2開閉器30およびコイル26を介して三相整流回路10へ電流が流れることはない。つまり、充電電流ICが逆方向に流れることはない。

[実施形態2]
【0065】
図5に、本発明の第2の実施形態におけるレーザ電源装置の構成を示す。図中、第1の実施形態(図1)と同様の構成または機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0066】
この第2の実施形態における監視回路70は、コイル26の電圧降下VLを検出するためのアイソレーション・アンプ74と、異常時停止用と充電完了用の2種類の監視値MVM1,−MVM2を発生する監視値発生回路76と、監視値MVM1,−MVM2のいずれか一方を選択するためのスイッチ78と、アイソレーション・アンプ74の出力つまりコイル電圧降下測定値MVLとスイッチ78により選択された監視値MVM1(−MVM2)とを比較するコンパレータ80とを有する。ここで、アイソレーション・アンプ74の一方(正極性)の入力端子は三相整流回路10の出力端子とコイル26との間のノード点NAに電圧センス線72Aを介して接続され、他方(負極性)の入力端子は抵抗28および第2開閉器30とコイル26との間のノードNBに電圧センス線72Bを介して接続される。コンパレータ80の出力は制御部20に与えられる。
【0067】
ここで、異常時停止用の監視値MVM1は正極性の設定値である。コンパレータ80は、定常動作モードでは、MVL<MVM1のときにLレベルの出力信号(比較結果信号)COを発生し、MVL>MVM1のときにHレベルの出力信号COを発生するようになっている。一方、充電完了用の監視値−MVM2は負極性の設定値である。コンパレータ80は、充電動作モードでは、MVL<−MVM2のときにLレベルの出力信号(比較結果信号)COを発生し、MVL>−MVM2のときにHレベルの出力信号COを発生するようになっている。
【0068】
図6につき、この第2の実施形態のレーザ電源装置において、コンデンサ12を実質的な無充電状態から設定電圧まで充電するときの作用を説明する。
【0069】
制御部20は、コンデンサ12の充電を行うために、スイッチング素子32のスイッチング動作を止めたまま、第2開閉器30をオフ状態に保ち、時点t0で第1開閉器24をオンにする。そうすると、三相整流回路10の出力端子からコイル26および電流制限用抵抗28を介して直流の充電電流ICがコンデンサ12に流れ込み、コンデンサ12の端子間電圧つまり充電電圧VCが上昇する。上記と同様に、充電電流ICが流れ始める時は、その時間的な変化率が最も大きいため、コイル26に三相整流回路10の出力電圧に相当する大きな値VLOの電圧降下VLが発生する。その後、充電電流ICの電流値が大きくなるにつれて、コンデンサ12の充電電圧VCおよび抵抗28の電圧降下R・IC(ただし、Rは抵抗28の抵抗値)が増大する一方で、充電電流ICの変化率が減少してコイル26の電圧降下VLが小さくなる。
【0070】
そして、時点t1で充電電流ICが極大値ICPに達した後は、充電電流ICの減少に伴って、コンデンサ12の充電電圧VCの上昇速度が低下するとともに、抵抗28の電圧降下R・ICが減少し始め、コイル26の電圧降下VLが負極性に変わる。
【0071】
制御部20は、コンデンサ充電動作の際には、スイッチ78を通じて監視値発生回路76から充電完了用の監視値−MVM2を選択してコンパレータ80に与える。コンパレータ80は、アイソレーション・アンプ74からのコイル電圧降下測定値MVLを監視値−MVM2と比較し、充電開始直後からHレベルの比較結果信号COを出力し続ける。そして、コイル26の電圧降下VLが負極性に変わって監視値−VM2より低くなると、比較結果信号COがそれまでのHレベルからLレベルに変わる。制御部20は、コンパレータ80の出力信号COがHレベルにある期間中はもちろん、HレベルからLレベルに変わっても第2開閉器30およびスイッチング素子32のオフ状態を保持する。
【0072】
こうして、コンデンサ12の充電電圧VCが設定電圧VSに近づくにつれて充電電流ICの電流値が零に近づき、コイル26の電圧降下VLが負極性の方向で小さくなる。そして、時点t2で、コイル26の電圧降下VLが上昇してVL<−VM2からVL>−VM2に変わると(正方向に−VM2を超えると)、コンパレータ80の出力信号COがそれまでのLレベルからHレベルに変わる。制御部20は、このタイミング(時点t2)で直ちに、あるいは(より好ましくは)一定のディレイ時間経過後の時点t3で、第2開閉器30をオンにする。
【0073】
第2開閉器30がオンすると、コイル26とコンデンサ12が第2開閉器30を介して短絡され、コイル26に残っていた電磁エネルギーがコンデンサ12に速やかに放出される。これにより、充電電流ICが一瞬増大してコンデンサ12の充電電圧VCが直ぐに設定電圧VSに達し、そこで充電動作が完了する(時点t4)。
【0074】
この第2の実施形態において、レーザ加工中に負荷の変動によってコンデンサ12の充電電圧VCが急激に低下しようとする場合の作用およびコンデンサ12の充電電圧VCが一時的に緩やかに低下した場合の作用は、上記第1の実施形態と全く同じである。
【0075】
したがって、この第2の実施形態においても、充電回路14で突入電流が流れず、コイル26、第2開閉器30およびコンデンサ12が突入電流から保護されるようになっている。このため、コイル26のインダクタンスおよびコンデンサ12の静電容量を存分に大きくして、大容量・高出力のレーザ加工に対応することができる。

[他の実施形態または変形例]
【0076】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した第1および第2の実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに他の実施形態または種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0077】
たとえば、第3の実施形態として、図7に示すように、監視部70において、コイル26の電圧降下VLを監視する代わりに、コイル26を流れる電流つまり充電電流ICの時間的な変化率dIC/dt(以下∇ICと称する)を監視することも可能である。この実施形態において、充電回路14の電路に取り付けられる電流センサ82がたとえばホール素子のように充電電流ICの電流値(瞬時値)を検出する場合は、電流センサ82の出力信号を微分して電流変化率測定値M∇ICを発生する電流微分値測定回路84を設ける。電流センサ82がたとえばトロイダルコイルのように充電電流ICの微分値∇ICを出力する場合は、電流微分値測定回路84を増幅器に代えればよい。監視値発生回路76は、充電電流ICの微分値に対応する異常時停止用の監視値M∇VM1および充電完了用の監視値−M∇VM2を発生する。
【0078】
また、図7に示すように、レーザ駆動回路18において、パワーフィードバック制御により励起ランプ16を駆動することも可能である。図示の構成例では、ハーフミラー86、フォトセンサ88およびレーザ出力測定回路90によりレーザ光LBのパワー(レーザ出力)PLBを測定して、レーザ出力測定値MPLBをスイッチング制御回路40にフィードバックし、スイッチング制御回路40がPWM(パルス幅変調)方式のスイッチング制御を行うようになっている。
【0079】
また、一変形例として、図8および図9に示すように、ランプ励起用のレーザ電気エネルギーを蓄積するための第1のコンデンサ12と第2のコンデンサ15との間にスイッチングトランス回路92を備えるレーザ電源装置にも本発明を適用することができる。このスイッチングトランス回路92は、インバータ回路94、昇圧トランス95、整流回路96およびチョークコイル98をカスケード接続して構成されている。インバータ回路94を構成するスイッチング素子をスイッチング制御するための制御回路(図示せず)も設けられる。
【0080】
また、図示省略するが、第1開閉器24を充電回路14内の電路に設ける構成も可能である。たとえば、抵抗28と直列で第2開閉器30と並列に第1開閉器24を接続する構成、あるいは三相整流回路10の出力端子とノードNBとの間にコイル26と直列に第1開閉器24を接続する構成等も可能である。
【0081】
監視部70および制御部20の構成も種種の変形が可能である。たとえば、監視値発生回路76およびコンパレータ80の機能を制御部20が有する構成も可能である。
【0082】
また、上述した実施形態のレーザ電源装置は三相交流電源から三相交流を入力したが、本発明は単相交流電源から単相交流を入力するタイプのレーザ電源装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 三相整流回路
12 コンデンサ
14 充電回路
16 励起ランプ
18 ランプ駆動回路
20 制御部
24 第1開閉器
26 コイル
28 電流制限用抵抗
30 第2開閉器
32 スイッチング素子
38 レーザ発振部
40 スイッチング制御部
70 監視部
72A,72B,72C 電圧センス線
74 アイソレーション・アンプ
76 監視値発生回路
78 スイッチ
80 コンパレータ
82 電流センサ
84 電流微分値測定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体レーザ媒体にレーザ発振用の励起光を照射する励起ランプに電力を供給するためのレーザ電源装置であって、
商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、
前記整流回路より出力される直流電力を蓄えるコンデンサと、
前記整流回路と前記コンデンサとの間で直列に接続されるコイルおよび抵抗と、
前記交流の電路に設けられ、または前記整流回路と前記コンデンサとの間で前記抵抗と直列に接続される第1の開閉器と、
前記抵抗と並列に接続される第2の開閉器と、
前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーを前記励起ランプ側に放電させて前記励起ランプにランプ電流を流すランプ駆動回路と、
前記コイルおよび前記抵抗で生じる電圧降下または前記コイルおよび前記第2の開閉器で生じる電圧降下を監視する監視部と、
前記監視部より出力される監視結果に基づいて前記第1および第2の開閉器のオン・オフを制御する制御部と
を有するレーザ電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電する際に、前記コイルおよび前記抵抗の電圧降下が第2の基準値を割ったとの監視結果が前記監視部より出力された時は前記第2の開閉器をオンにする、請求項1に記載のレーザ電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電した後に、前記コイルおよび前記第2の開閉器の電圧降下が第1の基準値より小さいとの監視結果が前記監視部より出力されている間は前記第1および第2の開閉器をオンに保ち、前記コイルおよび前記第2の開閉器の電圧降下が前記第1の基準値を超えたとの監視結果が前記監視部より出力された時は前記第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする、請求項1または請求項2に記載のレーザ電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記コイルおよび前記第2の開閉器の電圧降下が前記第1の基準値を超えているとの監視結果が前記監視部より所定時間持続して出力された時に、前記第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする、請求項3に記載のレーザ電源装置。
【請求項5】
固体レーザ媒体にレーザ発振用の励起光を照射する励起ランプに電力を供給するためのレーザ電源装置であって、
商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、
前記整流回路より出力される直流電力を蓄えるコンデンサと、
前記整流回路と前記コンデンサとの間で直列に接続されるコイルおよび抵抗と、
前記交流の電路に設けられ、または前記整流回路と前記コンデンサとの間で前記抵抗と直列に接続される第1の開閉器と、
前記抵抗と並列に接続される第2の開閉器と、
前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーを前記励起ランプ側に放電させて前記励起ランプにランプ電流を流すランプ駆動回路と、
前記コイルで生じる電圧降下を監視する監視部と、
前記監視部より出力される監視結果に基づいて前記第1および第2の開閉器のオン・オフを制御する制御部と
を有するレーザ電源装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電する際に、前記コイルの電圧降下が正極性であるとの監視結果または前記コイルの電圧降下が正極性から負極性に転じた後も負極性の第2の基準値を正方向に超えてはいないとの監視結果が前記監視部より出力されている間は前記第1の開閉器をオンに保つとともに前記第2の開閉器をオフに保ち、前記コイルの電圧降下が前記第2の基準値を正方向に超えたとの監視結果が前記監視部より出力された時は前記第2の開閉器をオンにする、請求項5に記載のレーザ電源装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電した後に、前記コイルの電圧降下が第1の基準値より小さいとの監視結果が前記監視部より出力されている間は前記第1および第2の開閉器をオンに保ち、前記コイルの電圧降下が前記第1の基準値を超えたとの監視結果が前記監視部より出力された時は前記第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする、請求項5または請求項6に記載のレーザ電源装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記コイルの電圧降下が前記第1の基準値を超えているとの監視結果が前記監視部より所定時間持続して出力された時に、前記第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする、請求項7に記載のレーザ電源装置。
【請求項9】
固体レーザ媒体にレーザ発振用の励起光を照射する励起ランプに電力を供給するためのレーザ電源装置であって、
商用周波数の交流を整流して直流に変換する整流回路と、
前記整流回路より出力される直流電力を蓄えるコンデンサと、
前記整流回路と前記コンデンサとの間で直列に接続されるコイルおよび抵抗と、
前記交流の電路に設けられ、または前記整流回路と前記コンデンサとの間で前記抵抗と直列に接続される第1の開閉器と、
前記抵抗と並列に接続される第2の開閉器と、
前記コンデンサに蓄えられた電気エネルギーを前記励起ランプ側に放電させて前記励起ランプにランプ電流を流すランプ駆動回路と、
前記コイルを流れる電流の時間的な変化率を監視する監視部と、
前記監視部より出力される監視結果に応じて前記第1および第2の開閉器のオン・オフを制御する制御部と
を有するレーザ電源装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電する際に、前記コイルを流れる電流の変化率が正極性であるとの監視結果または前記コイルを流れる電流の変化率が正極性から負極性に転じた後も負極性の第2の基準値を正方向に超えてはいないとの監視結果が前記監視部より出力されている間は前記第1の開閉器をオンに保つとともに前記第2の開閉器をオフに保ち、前記コイルを流れる電流の変化率が前記第2の基準値を正方向に超えたとの監視結果が前記監視部より出力された時は前記第2の開閉器をオンにする、請求項9に記載のレーザ電源装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記コンデンサを実質的な無充電状態から所定電圧まで充電した後に、前記コイルを流れる電流の変化率が第1の基準値より小さいとの監視結果が前記監視部より出力されている間は前記第1および第2の開閉器をオンに保ち、前記コイルを流れる電流の変化率が前記第1の基準値を超えたとの監視結果が前記監視部より出力された時は前記第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする、請求項9または請求項10に記載のレーザ電源装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記コイルを流れる電流の変化率が前記第1の基準値を超えているとの監視結果が前記監視部より所定時間持続して出力された時に、前記第1および第2の開閉器の少なくとも一方をオフにする、請求項11に記載のレーザ電源装置。
【請求項13】
前記ランプ駆動回路が、
前記コンデンサと前記励起ランプとの間に接続されるスイッチング素子と、
前記スイッチング素子を商用周波数よりも高い一定の周波数でスイッチング制御するスイッチング制御部と
を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のレーザ電源装置。
【請求項14】
前記ランプ駆動回路は、前記第1および第2の開閉器のいずれもオン状態の下で前記スイッチング素子のスイッチング動作を行い、前記第1および第2の開閉器のいずれかがオン状態からオフ状態に切り換わる時はそれと連動して前記スイッチング素子のスイッチング動作を停止する、請求項1〜13のいずれか一項に記載のレーザ電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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