説明

レーダ装置

【課題】一つの送信器で、捜索用と妨害用との両方で利用することができるレーダ装置を提供すること。
【解決手段】対象物に対する捜索及び妨害のために、前記対象物に対して電磁波を送信するレーダ装置であって、前記電磁波を送信する送信部3と、前記送信部3に、それぞれ異なる大きさの送信用電源を供給する複数の電源部10,11と、前記送信部3に、それぞれ異なるパルス幅のパルス変調信号を供給する複数のパルス変調信号供給部7,8と、前記送信部3と前記複数の電源部10,11との間に設けられ、前記送信部3に送信用電源を供給する電源部10,11を選択的に切り替える電源切替部9と、前記送信部3と前記複数のパルス変調信号供給部7,8との間に設けられ、前記送信部3にパルス変調信号を供給するパルス変調信号供給部7,8を選択的に切り替えるパルス切替部6とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に対する捜索及び妨害のために、前記対象物に対して電磁波を送信するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物に対する捜索や妨害を行うために、種々のレーダ装置が利用されている(例えば、特許文献1参照。)。これらレーダ装置の中には、所要の探知能力を実現するために必要な送信出力と送信パルス幅が設定され、送信器によって、その送信出力と送信パルス幅のマイクロ波を送信するものがある。
このようなレーダ装置では、他の装置への干渉防止や相手からの非探知性の観点から低出力が望まれるため、所要の探知能力を得るために長パルスで送信するのが一般的である。
【0003】
その一方で、相手の電子機器にマイクロ波を照射することにより妨害を与えて、その電子機器を無力化するための電子妨害装置では、安全な距離から確実に打撃を与えるようにするため、より高出力が望まれ、パルス幅は所要電力低減の観点から短パルスが用いられるのが一般的である。
すなわち、レーダ装置及び電子妨害装置は、ともにマイクロ波を出力する点で共通するものの、送信器に要求される出力電力が1桁以上違うことが多い。
したがって、レーダ装置と電子妨害装置の送信器は全く別物として利用されていた。
【0004】
図3に従来のレーダ装置の一例のブロック図を示す。
送信時においては、送受切替器104によって送信器103と空中線105とが接続され、タイミング制御器100が出力したトリガ信号を時間基準にして、励振器102が送信種信号を送信器103に出力する。送信器103は、高圧電源107及びパルス変調器106から、それぞれ電源及びパルス変調信号が供給されることにより、送信種信号を増幅して、送受切替器104及び空中線105を介して送信する。
一方、受信時には、送受切替器104によって受信器108と空中線105とが接続され、受信器108は、空中線105及び送受切替器104を介して、信号を受信する。そして、受信された信号は、信号処理器109、データ処理器110及び表示制御器111によって処理される。
【0005】
このように、従来のレーダ装置は、捜索用と妨害用とで、要求される出力電力が1桁以上も違うため、送信器103に接続される高圧電源107及びパルス変調器106はそれぞれ一つずつ設けられており、一つのレーダ装置においては一定の出力及び一定のパルス幅で送信されていた。
【特許文献1】特開2005−277572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような構成では、捜索用と妨害用とで、別個のレーダ装置が必要となり、操作や管理などが困難になってしまうという問題がある。また、送信器を複数設けて、必要に応じて送信器を制御することも考えられるが、送信器を複数設けると、構成が複雑になり、コストも大幅に増大してしまう。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、一つの送信器で、捜索用と妨害用との両方で利用することができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、対象物に対する捜索及び妨害のために、前記対象物に対して電磁波を送信するレーダ装置であって、前記電磁波を送信する送信部と、前記送信部に、それぞれ異なる大きさの送信用電源を供給する複数の電源部と、前記送信部に、それぞれ異なるパルス幅のパルス変調信号を供給する複数のパルス変調信号供給部と、前記送信部と前記複数の電源部との間に設けられ、前記送信部に送信用電源を供給する電源部を選択的に切り替える電源切替部と、前記送信部と前記複数のパルス変調信号供給部との間に設けられ、前記送信部にパルス変調信号を供給するパルス変調信号供給部を選択的に切り替えるパルス切替部とを備えることを特徴とする。
【0009】
この発明においては、電源切替部によって、複数の電源部から、送信部に送信用電源を供給する電源部が選択的に切り替えられる。また、パルス切替部によって、複数のパルス変調信号供給部から、送信部にパルス変調信号を供給するパルス変調信号供給部が選択的に切り替えられる。そして、切り替えられた電源部及びパルス変調信号供給部から、送信用電源及びパルス変調信号が送信部に供給され、この送信部によって、電磁波が送信される。
これにより、送信部から送信される電磁波の出力とパルス幅を切り替えることができ、一つの送信部で、捜索用と妨害用との両方で利用することができる
【0010】
また、本発明は、前記複数の電源部と前記複数のパルス変調信号供給部とが、それぞれ2つずつ設けられており、前記電源切替部が、高い方の送信用電源を供給する一方の電源部を選択するとともに、前記パルス切替部が、短い方のパルス幅のパルス変調信号を供給する一方のパルス変調信号供給部を選択する第一のモードと、前記電源切替部が、低い方の送信用電源を供給する他方の電源部を選択するとともに、前記パルス切替部が、長い方のパルス幅のパルス変調信号を供給する他方のパルス変調信号供給部を選択する第二のモードとを備えることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、第一のモードにおいては、電源切替部が、高い方の送信用電源を供給する一方の電源部を選択するとともに、パルス切替部が、短い方のパルス幅のパルス変調信号を供給する一方のパルス変調信号供給部を選択する。また、第二のモードにおいては、電源切替部が、低い方の送信用電源を供給する他方の電源部を選択するとともに、パルス切替部が、長い方のパルス幅のパルス変調信号を供給する他方のパルス変調信号供給部を選択する。
これにより、低出力・長パルス又は高出力・短パルスの電磁波を、容易かつ確実に送信することができる。
【0012】
また、本発明は、前記電源切替部と前記パルス切替部とを制御する切替制御部を備え、前記切替制御部は、操作部から出力される前記対象物に対する捜索の指示を読み出すと、前記電源切替部及び前記パルス切替部を前記第一のモードに設定し、操作部から出力される前記対象物に対する妨害の指示を読み出すと、前記電源切替部及び前記パルス切替部を前記第二のモードに設定することを特徴とする。
【0013】
この発明においては、切替制御部が、操作部から出力される捜索の指示を読み出すと、電源切替部及びパルス切替部を第一のモードに設定し、操作部から出力される妨害の指示を読み出すと、電源切替部及びパルス切替部を第二のモードに設定する。
これにより、低出力・長パルス又は高出力・短パルスの電磁波を、捜索用と妨害用とに合わせて、容易かつ確実に送信することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一つの送信器で、捜索用と妨害用との両方で利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態におけるレーダ装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態としてのレーダ装置を示したものである。
レーダ装置は、タイミング制御器(切替制御部)1と、励振器2と、送信器(送信部)3と、送受切替器4と、空中線5と、操作部16とを備えている。また、レーダ装置は、高圧切替器(電源切替部)9と、第一の高圧電源(電源部)10と、第二の高圧電源(電源部)11と、パルス切替器(パルス切替部)6と、第一のパルス変調器(パルス変調信号供給部)7と、第二のパルス変調器(パルス変調信号供給部)8とを備えている。さらに、レーダ装置は、表示制御器12と、データ処理器13と、信号処理器14と、受信器15とを備えている。
【0016】
タイミング制御器1は、レーダ装置の動作タイミングを決めるものであり、時間基準となるトリガ信号を出力する。また、タイミング制御器1は、捜索用に利用される捜索モードが操作部16を介して操作者により選択されると、操作部16から出力される捜索用信号を読み出して、高圧切替器9及びパルス切替器6に対して、後述する第一のモードになるように設定する。一方、タイミング制御器1は、妨害用に利用される妨害モードが操作部16を介して操作者により選択されると、操作部16から出力される妨害用信号を読み出して、高圧切替器9及びパルス切替器6に対して、後述する第二のモードになるように設定する。
励振器2は、送信の種信号を発生させ、それら送信種信号を送信器3に出力する。
送信器3は、送信種信号を増幅し、送受切替器4を介して空中線5に出力する。この送信器3は、異なる高圧電源が印加可能なマイクロ波管を備えている。
送受切替器4は、送信と受信のタイミングごとに、空中線5との接続を送信器3又は受信器15に択一的に切り替える。
空中線5は、空間に電波を放射し、目標からの反射信号を受信する。
【0017】
受信器15は、空中線5及び送受切替器4を介して受信した信号を低雑音増幅し中間周波信号に変換する。
信号処理器14は、受信信号からドップラ情報を抽出し、不要信号の除去と目標信号の抽出を行う。
データ処理器13は、測位や航跡追尾などの演算を行う。
表示制御器12は、データ処理器13の演算結果や地図などの情報を表示する。
【0018】
第一及び第二の高圧電源10,11は、高圧切替器9に接続され、この高圧切替器9を介して、それぞれ送信器3に送信用電源を供給する。
第一の高圧電源10が供給する送信用電源は、第二の高圧電源11が供給する送信用電源よりも低く設定されている。
高圧切替器9は、タイミング制御器1から出力される捜索用信号又は妨害用信号に応じて、第一の高圧電源10又は第二の高圧電源11を択一的に切り替える。
第一及び第二のパルス変調器7,8は、パルス切替器6に接続され、このパルス切替器6を介して、それぞれ送信器3にパルス変調信号を供給する。
第一のパルス変調器7が供給するパルス変調信号のパルス幅は、第二のパルス変調器8が供給するパルス変調信号のパルス幅よりも長く設定されている。
パルス切替器6は、タイミング制御器1から出力される捜索用信号又は妨害用信号に応じて、第一のパルス変調器7又は第二のパルス変調器8を択一的に切り替える。
【0019】
なお、本レーダ装置は、切替可能な第一のモード及び第二のモードを有している。
第一のモードは、対象物を捜索する捜索モードであり、高圧切替器9及びパルス切替器6により、第一の高圧電源10と第一のパルス変調器7とがそれぞれ択一的に選択されるモードである。
第二のモードは、対象物を妨害する妨害モードであり、高圧切替器9及びパルス切替器6により、第二の高圧電源11と第二のパルス変調器8とがそれぞれ択一的に選択されるモードである。
【0020】
次に、このように構成された本実施形態におけるレーダ装置の動作について説明する。
送信時においては、送受切替器4によって送信器3と空中線5とが接続される。そして、タイミング制御器1によって出力されたトリガ信号を時間基準に、励振器2において生成された送信種信号が送信器3に入力される。送信器3は、後述するように第一又は第二の高圧電源10,11、及び、第一又は第二のパルス変調器7,8から、送信用電源とパルス変調信号を供給されて、あらかじめ設計したレベルまで送信種信号を増幅し、送受切替器4を介して空中線5から当該送信種信号を送信する。
【0021】
一方、受信時においては、送受切替器4によって受信器15と空中線5とが接続される。
空中線5を介して送信した送信信号は、空間を伝播し、対象物から反射して再び空中線5に受信信号として戻ってくる。空中線5及び送受切替器4を介して受信された受信信号は、受信器15で低雑音増幅され中間周波信号に変換されて、信号処理器14に入力される。信号処理器14は、受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換し、さらにクラッタや妨害などの不要信号の抑圧を行ったのち、目標信号の抽出を行い、当該目標信号をデータ処理器13に入力する。データ処理器13は、目標信号に基づいて、対象物との距離、方位、仰角の計測を行い、さらに追尾を行う。そして、表示制御器12は、ディスプレイに位置情報を地図などとともに表示する。
【0022】
ここで、送信器3への送信用電源及びパルス変調信号の供給は、以下のようにして行われる。
まず、操作者が操作部16を介して捜索用の設定を指示する。すると、操作部16は、捜索用信号をタイミング制御器1に出力する。タイミング制御器1は、その捜索用信号を高圧切替器9及びパルス切替器6に入力し、これら高圧切替器9及びパルス切替器6に対して第一のモードになるように設定する。そして、高圧切替器9は、送信器3と第一の高圧電源10とを択一的に接続する。また、パルス切替器6は、送信器3と第一のパルス変調器7とを択一的に接続する。これにより、送信器3には、低出力用の低い送信用電源と、パルス幅の長いパルス変調信号とが供給され、その結果、空中線5を介して、低出力・長パルスのマイクロ波が送信される。
【0023】
一方、操作者が操作部16を介して妨害への設定を指示すると、操作部16は、妨害用信号をタイミング制御器1に出力する。タイミング制御器1は、その妨害用信号を高圧切替器9及びパルス切替器6に入力し、これら高圧切替器9及びパルス切替器6に対して第二のモードになるように設定する。そして、高圧切替器9は、送信器3と第二の高圧電源11とを択一的に接続する。また、パルス切替器6は、送信器3と第二のパルス変調器8とを択一的に接続する。これにより、送信器3には、高出力用の高い送信用電源と、パルス幅の短いパルス変調信号とが供給され、その結果、空中線5を介して、高出力・短パルスのマイクロ波が送信される。
【0024】
なお、操作者が操作部16を介して運用モードへの設定を指示すると、タイミング制御器1は、高圧切替器9及びパルス切替器6に対して、捜索用信号と妨害用信号とを所定の時間間隔で交互に出力する。すなわち、図2に示すように、第一のモードと第二のモードとが交互に切り替えられる。そして、捜索用(図2に示す「レーダ」の)低出力・長パルスのマイクロ波と、妨害用の高出力・短パルスのマイクロ波が交互に送信される。
【0025】
以上より、本実施形態におけるレーダ装置によれば、レーダ運用時には低出力、長パルス幅で送信を行い、電子妨害運用時には高出力、短パルス幅で送信を行うことができる。そのため、一つの送信器で、捜索用と妨害用との両方でレーダ装置を利用することができる。
【0026】
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、例えば送信器をアレイ状に配置してフェーズド・アレイ・アンテナを構成した場合にも適用することができるものである。
また、平均電力(出力電力×パルス幅)を同一とすれば、一次電源も共通で使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るレーダ装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】運用モードが設定されたときの捜索用(レーダ)と妨害用との送信出力及び送信パルス幅の対応関係を示す説明図である。
【図3】従来のレーダ装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0028】
1 タイミング制御器(切替制御部)
3 送信器(送信部)
6 パルス切替器(パルス切替部)
7 第一のパルス変調器(パルス変調信号供給部)
8 第二のパルス変調器(パルス変調信号供給部)
9 高圧切替器(電源切替部)
10 第一の高圧電源(電源部)
11 第二の高圧電源(電源部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対する捜索及び妨害のために、前記対象物に対して電磁波を送信するレーダ装置であって、
前記電磁波を送信する送信部と、
前記送信部に、それぞれ異なる大きさの送信用電源を供給する複数の電源部と、
前記送信部に、それぞれ異なるパルス幅のパルス変調信号を供給する複数のパルス変調信号供給部と、
前記送信部と前記複数の電源部との間に設けられ、前記送信部に送信用電源を供給する電源部を選択的に切り替える電源切替部と、
前記送信部と前記複数のパルス変調信号供給部との間に設けられ、前記送信部にパルス変調信号を供給するパルス変調信号供給部を選択的に切り替えるパルス切替部とを備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記複数の電源部と前記複数のパルス変調信号供給部とが、それぞれ2つずつ設けられており、
前記電源切替部が、高い方の送信用電源を供給する一方の電源部を選択するとともに、前記パルス切替部が、短い方のパルス幅のパルス変調信号を供給する一方のパルス変調信号供給部を選択する第一のモードと、
前記電源切替部が、低い方の送信用電源を供給する他方の電源部を選択するとともに、前記パルス切替部が、長い方のパルス幅のパルス変調信号を供給する他方のパルス変調信号供給部を選択する第二のモードとを備えることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記電源切替部と前記パルス切替部とを制御する切替制御部を備え、
前記切替制御部は、
操作部から出力される前記対象物に対する捜索の指示を読み出すと、前記電源切替部及び前記パルス切替部を前記第一のモードに設定し、
操作部から出力される前記対象物に対する妨害の指示を読み出すと、前記電源切替部及び前記パルス切替部を前記第二のモードに設定することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−244028(P2009−244028A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89699(P2008−89699)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】