説明

レール破断検知方法及びレール破断検知装置

【課題】軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断の発生を確実に検知して、列車運行の安全性を確保する。
【解決手段】インピーダンスボンドPB1の2次巻線C12及び3次巻線C13のうち、送信器2が接続されていない他方巻線に生じる電圧を監視対象として、所定の低電圧条件を満たすか否かを判定する。所定の定電圧条件を満たし、且つ、受信器3により在線が検知されていない場合にレール破断が発生していると判定する。レール破断の発生が検知された場合、閉塞信号機Sが停止現示とされ、軌道回路への列車の進入が抑止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール破断検知方法及びレール破断検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道回路は、当該軌道回路内に列車が進入した際に、車両の車輪及び車軸でなる輪軸によって左右のレール間が短絡されることにより、当該軌道回路の送端側から送出された信号の軌道回路の受信側での受電レベルが低下することを利用して、当該軌道回路内に列車が在線していることを検知する装置である。受電レベルの低下の検出には、軌道リレーを用いるものが知られている。
【0003】
また、軌道回路は、原則的に、送電機器の故障や停電、電線の断線、レール破断等の事象が発生した場合であってもフェールセーフ性が確保されるように設計されている。すなわち、上述した事象が発生した場合は、信号の伝送路が開放状態となるため、軌道回路の受信側で検出される受電レベルが低下し、在線ありと判断される。そして、この場合は、信号機に停止信号を現示させる制御がなされるため、当該軌道回路内への列車の進入が抑止され、安全側の制御が実現される。
【0004】
列車運行の保安に関連する技術として、例えば特許文献1には、三線式軌道回路においてレール破断を検知するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−53134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、レール破断等の事象が発生すると、前述したように信号の伝送路が開放状態となり、軌道回路の受信側で検出される受電レベルが低下する。しかしながら、1つの軌道回路内で形成される送信側と受信側間の電気経路以外の他の電気経路(以下「迂回路」という。)が存在すると、迂回路を介して軌道回路信号が軌道回路内を流れてしまい、受信側で検出される受電レベルが十分に低下しない場合がある。すなわち、レール破断が発生した部分以外の電気的な導通部分が存在する場合は、当該導通部分を迂回して信号が流れてしまい、受電レベルが下がりきらない場合がある。
【0007】
例えば、2箇所のクロスボンドと、併設する2組の線路とによって形成される環状の電気経路(以下「環流電気経路」という。)が迂回路の一例である。複軌条軌道回路では、軌道回路の境界箇所に、レール絶縁をはさんで2組設けることにより、軌道回路の境界を電気的に保ちながら帰線電流だけを隣接する軌道回路に流すインピーダンスボンドが設置されている。そして、一部のインピーダンスボンドには、電車電流の帰線回路抵抗を少なくし、併設する線路の電位差をなくすことを目的として、併設する線路間を、インピーダンスボンドを介して接続するクロスボンドが構成されている。
【0008】
このクロスボンド2箇所と、併設する2組の線路とによって、環流電気経路が形成される。環流電気経路を構成する各軌道回路では、受電側での受電レベルが十分に低下しないおそれがある。このため、クロスボンドを設ける場合には、一般に、少なくとも2軌道回路以上は離す方が良いとされている。しかしながら、環流電気経路での信号の減衰が少ない場合などは、単純にクロスボンドを2軌道回路以上離して設けさえすれば軌道リレーの安全・確実な動作を保証できるとは言えない。例えば、同じ2軌道回路でも迂回経路となる軌道回路が短い場合や、車両の軽量化等による短絡不良防止のために共振コンデンサを設置して、レール間電圧向上対策を施した箇所がそれである。受電レベルが下がりきらない事態が生ずれば、在線なしと判断されるため、当該区間への列車進入が許可される。この場合、当該区間に列車が進入すると脱線事故等が発生するおそれがあり、極めて危険である。
【0009】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断の発生を確実に検知して、列車運行の安全性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するための第1の形態は、
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するためのレール破断検知方法であって、
軌道回路の送信器が2次巻線(例えば、図3(1)の2次巻線C12)及び3次巻線(例えば、図3(1)の3次巻線C13)のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンド(例えば、図3(1)のインピーダンスボンドPB1)の他方の巻線に生じる電圧(他方巻線電圧)を検出する電圧検出ステップと(例えば、図3(2)の電圧センサ15)、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出ステップで検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定ステップと(例えば、図3(2)の判定部16)、
前記判定ステップで肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断が発生していることを検知する検知ステップと(例えば、図3(2)のAND回路17)、
を含むレール破断検知方法である。
【0011】
また、第4の形態として、
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するレール破断検知装置であって、
軌道回路の送信器(例えば、図3(1)の送信器2)が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(他方巻線電圧)を検出する電圧検出手段(例えば、図3(2)の電圧センサ15)と、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出手段により検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定手段(例えば、図3(2)の判定部16)と、
を備え、前記判定手段により肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断の発生を検知する(例えば、図3(2)のAND回路17)レール破断検知装置(例えば、図3(1)のレール破断検知装置1A)を構成してもよい。
【0012】
この第1又は第4の形態によれば、軌道回路の送信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方巻線電圧が検出される。そして、検出された他方巻線電圧が、軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を満たすと判定され、且つ、軌道回路が在線を検知していない場合に、レール破断が発生したと判定される。
【0013】
レール破断が生じたとしても、軌道回路信号の迂回路が存在する場合にはその迂回路を介して軌道回路信号は環流する。このとき、帰線電流が流れていなければ、左右のレール間が電気的に不平衡であっても、環流する軌道回路信号には影響が生じない。しかし、帰線電流が流れた場合には、不平衡電流によってインピーダンスボンドの励磁インピーダンスが低下する。このため、送信器が印加する信号に対して、インピーダンスボンドが十分なトランス作用を発揮できず、環流する軌道回路信号の電圧が低下する。この電圧低下を判定することで、レール破断を検知するのである。但し、軌道回路に列車が進入した場合には左右レール間の短絡による一層の電圧低下が生じ、在線が検知されるため、レール破断自体を検知するためには、この場合を除外する。
【0014】
本発明は、第1又は第4の形態以外にも別の形態として実現可能である。
例えば、第2の形態として、
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するためのレール破断検知方法であって、
軌道回路の受信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(他方巻線電圧)を検出する電圧検出ステップと、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出ステップで検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断が発生していることを検知する検知ステップと、
を含むレール破断検知方法を構成してもよい。
【0015】
また、第5の形態として、
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するレール破断検知装置であって、
軌道回路の受信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(他方巻線電圧)を検出する電圧検出手段と、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出手段により検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定手段と、
を備え、前記判定手段により肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断の発生を検知するレール破断検知装置を構成してもよい。
【0016】
また、第3の形態として、
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するためのレール破断検知方法であって、
軌道回路の受信器が接続されたインピーダンスボンドの前記受信器の受信端に生じる電圧(受信端電圧)を検出する電圧検出ステップと、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記受信端電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出ステップで検出された受信端電圧が満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断が発生していることを検知する検知ステップと、
を含むレール破断検知方法を構成してもよい。
【0017】
また、第6の形態として、
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するレール破断検知装置であって、
軌道回路の受信器が接続されたインピーダンスボンドの前記受信器の受信端に生じる電圧(受信端電圧)を検出する電圧検出手段と、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記受信端電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出手段により検出された受信端電圧が満たすか否かを判定する判定手段と、
を備え、前記判定手段により肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断の発生を検知するレール破断検知装置を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(1)正常時における信号電流と帰線電流との関係を示す図。(2)レール破断時における信号電流と帰線電流との関係を示す図。
【図2】(1)正常時における信号電圧の時間変化の概念を示す図。(2)レール破断時における信号電圧の時間変化の概念を示す図。
【図3】(1)第1の軌道回路システムの構成の一例を示す図。(2)レール破断検知装置の構成の一例を示す図。
【図4】(1)第2の軌道回路システムの構成の一例を示す図。(2)レール破断検知装置の構成の一例を示す図。(3)受信器の構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面を参照して、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。本実施形態は、直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合にレール破断検知を行う実施形態であり、軌道回路は複軌条軌道回路である。
また、本実施形態では、軌道回路に流される信号のことを「軌道回路信号」と呼称し、その電流及び電圧のことを「信号電流」及び「信号電圧」と呼称して説明する。
【0020】
1.原理
最初に、本実施形態におけるレール破断検知方法の原理について説明する。
直流電化区間においては、レール電圧に対して架線電圧が高圧となっており、帰線電流は電気車が存在して初めて流れることとなる。より詳細には、架線とレール間に電気車の主回路が電気的に接続されて架線とレール間に電気が流れた状態で初めて帰線電流が流れることとなる。電気車が力行或いは回生ブレーキを行っている状態が代表例である。
また、レール破断が発生していない正常時には、左右2本のレールは電気的に平衡しており、左右のレールに流れる帰線電流は同じ大きさである。しかし、レール破断が発生すると不平衡となって、左右のレールに流れる帰線電流の大きさに差違が生じる。
【0021】
図1は、信号電流及び帰線電流を説明するため図である。図1(1)は正常時、図1(2)はレール破断時を示している。左右2本のレールのうち、図面向かって上側のレールを「Aレール」と呼称し、図面向かって下側のレールを「Bレール」と呼称する。また、Aレールを流れる帰線電流を“I”と表記し、Bレールを流れる帰線電流を“I”と表記する。
【0022】
図1において、軌道回路TC1はインピーダンスボンドPB1,PB2によって隣接する軌道回路と区切られているが、帰線電流I,IはインピーダンスボンドPB1,PB2によって隣接する軌道回路に通流可能に構成されている。また、軌道回路TC1の送信器2はインピーダンスボンドPB1の2次巻線C12に、受信器3はインピーダンスボンドPB2の2次巻線C22に接続されている。
【0023】
図1(1)の正常時においてはAレール及びBレールは電気的に平衡しているため、“I=I”の関係が成立する。平衡状態では、インピーダンスボンドPB1の1次巻線C11に流れる帰線電流I,Iは互いに逆方向で且つ同じ大きさであるため、帰線電流I,Iによって生じる磁束は互いに打ち消し合ってキャンセルされる。従ってこの状態で送信器2から2次巻線C12に信号が印加されると(送電)、インピーダンスボンドPB1は正常なトランスとして作用して、規定の信号電流及び信号電圧でなる軌道回路信号がレールA,Bに流れることとなる。インピーダンスボンドPB2においても同様であり、正常なトランスとして動作する結果、受信器3は規定の信号電流及び信号電圧でなる軌道回路信号が流れていることを着電・検知する。
【0024】
これに対し、レール破断が生ずると、Aレール及びBレールを流れる帰線電流に差が生ずる。具体的には、図1(2)において、Aレールにレール破断が発生しているため、帰線電流は“I<I”となり、不平衡となる。不平衡状態では、インピーダンスボンドPB1の1次巻線C11に流れる帰線電流I,Iは互いに逆方向であるものの大きさが異なる。そのため、帰線電流I,Iの差である不平衡電流の直流分によって1次巻線C11及びその鉄心に磁束が残存し、インピーダンスボンドPB1の励磁インピーダンスが低下してしまう。従ってこの状態ではインピーダンスボンドPB1は正常なトランスとして作用できず、2次巻線C12に信号が印加されたとしても、レールに流れる信号電流及び信号電圧は規定値より低下する。
【0025】
信号電圧の低下が大きければ受信器3は、受電レベルの低下でもって在線ありの場合と同様の検知動作を行い、信号機に停止信号を現示させる制御を行わせることができる。しかし、迂回路が存在するために、軌道回路信号の環流電気経路が形成され、信号電圧の低下は、在線ありとみなすレベルにまで低下しない。この状態でレール破断を如何にして検知するかが本実施形態の原理である。
【0026】
図2を参照してより詳細に説明する。
図2は、本実施形態のレール破断検知方法の原理を具体的に説明するための図である。図2(1)は、正常時における信号電圧の時間変化の概念を示す図であり、図2(2)は、レール破断が発生し、且つ迂回路が存在する場合の信号電圧の時間変化の概念を示す図である。
図2において、横軸は時間“t”を示し、縦軸は信号電圧“V”を示す。また、在線検知をするための信号電圧の閾値を在線検知閾値電圧“θ”とし、レール破断を検知するための信号電圧の閾値を破断検知閾値電圧“θ”として図示・説明する。
【0027】
正常時(図2(1))において、軌道回路に列車が在線していない場合は、軌道回路信号の信号電圧は規定電圧である“V”である。時刻“t”において列車が当該軌道回路に進入すると、信号電圧は“V”まで低下し、在線検知閾値電圧“θ”以下となる。その結果、在線が検知されて信号機は停止現示とされる。その後、時刻“t”において列車が軌道回路を進出したことで、信号電圧は“V”から“V”に回復する。これにより、在線なしとされて信号機は進行現示とされる。
【0028】
一方、レール破断が発生し、軌道回路信号の迂回路が存在する場合には、例えば図2(2)のようになる。図2(2)において時刻“t10”でレール破断が発生したために、信号電圧が規定電圧の“V”から低下する。ただし、信号電圧の低下は“V”程度で止まっている。これは、迂回路が存在することによる。迂回路が存在しない場合には、信号電圧は更に低下して、在線検知閾値電圧“θ”以下となる。
より詳細には、レール破断時は左右のレール間が不平衡ではあるが、帰線電流が流れていない場合、インピーダンスボンドの1次巻線に流れるはずの不平衡電流が流れない。このため、迂回路を介して環流する軌道回路信号の信号電圧は、一定の電圧(図2(2)の例では電圧“V”)を有することとなる。
【0029】
しかし、帰線電流が流れた場合には信号電圧の更なる低下が発生する。
インピーダンスボンドの1次巻線に不平衡電流が流れるため、インピーダンスボンドの励磁インピーダンスが低下し、2次巻線に印加される信号に対してインピーダンスボンドが十分なトランス作用を発揮できず、軌道回路信号の信号電圧が低下するのである。図2(2)における電圧“V”がこのときの電圧である。
但し、信号電圧の低下が“V”で止まるのは当該軌道回路内に列車が在線していない場合である。当該軌道回路内に列車が進入し、在線した場合は左右のレール間で短絡されるため、信号電圧は正常時と同様、電圧“V”まで低下する。
【0030】
帰線電流が流れるか否かは、上述した通り架線とレール間に電気が流れた状態にあるか否かで決まる。すなわち、直流電化区間においては、レール電圧に対して架線電圧が高圧となっているため、架線とレール間に電気車の主回路が電気的に接続された場合に帰線電流が流れることとなる。例えば、電気車が力行或いは回生ブレーキを行っている状態である。惰行状態では主回路が切り離されているため、帰線電流は流れない。
【0031】
図2(2)において帰線電流が流れた時間帯は、例えば時刻“t11”と“t12”の間、時刻“t13”と“t14”の間である。レール破断後から時刻“t11”まで、時刻“t12”と“t13”の間、時刻“t14”と“t15”の間は、帰線電流が流れていない。
そこで本実施形態では、レール破断検知用の閾値電圧として、在線検知閾値電圧“θ”よりも高い破断検知閾値電圧“θ”(定電圧条件)を定め、信号電圧がこの電圧以下であり、且つ、在線検知閾値電圧以下までには至っていない場合に、レール破断ありとして検知する。そして、軌道回路内に列車が進入する前に、信号機を停止現示として軌道回路に係る閉塞区間への列車の進入を抑止する。以下、破断検知閾値電圧以下であることを「低電圧条件」と呼称する。
【0032】
なお、長大な線路上には多数の列車が存在するため、帰線電流が流れない状態はあり得ないのではないか、とも考えられる。そのため、補足しておくと、本実施形態において帰線電流が流れるか否かの区間は、き電区間1つ1つに対応することとなる。すなわち、変電所によって架線に電力が供給されると、レール電圧と架線電圧間の電圧がいわばリセットされることとなる。このため、信号電圧が低下する事象を捉えてレール破断を検知する本実施形態は、1つのき電区間において帰線電流が流れたか否かを検知していることとなる。従って、1つのき電区間内に存在する列車が問題となる。また、当業者であれば自明と思われるが、本実施形態の意味する「帰線電流が流れる」とは、列車が力行又は回生ブレーキ時に大電流を消費することによって流れる帰線電流のことを指している。従って、1つのき電区間内にだ行走行の列車が存在し、その列車が補機(照明や空調)によって小電流を消費していたとしても、本実施形態の意味する「帰線電流が流れる」には当たらない。破断検知閾値電圧“θ”はこの点を考慮に入れて設定される。
【0033】
次に、図1に戻り、レール破断検知を行うための監視対象の電圧について説明する。監視対象の電圧は種々考えられる。例えば、送信器2及び受信器3の配置構成として、軌道回路TC1を分散形とするのであれば送信器2はインピーダンスボンドPB1の2次巻線C12に接続され、集中形とするのであれば3次巻線C13に接続されるのが通常である。すなわち、2次巻線C12と3次巻線C13の一方の巻線に送信器2が接続される。そこで、他方の巻線に生じる電圧(他方巻線電圧)を監視対象とするのが一案である。
例えば、図1においては、送信器2は2次巻線C12に接続されている。そこで、3次巻線C13の端子間電圧を監視対象とするとよい。
【0034】
また、監視対象の電圧を受信器3が接続されているインピーダンスボンドPB2側の電圧としてもよく、考え方は送信器2が接続されているインピーダンスボンドPB1側の電圧の場合と同様である。すなわち、2次巻線C22と3次巻線C23のうち、受信器3が接続されていない他方の巻線に生じる電圧(他方巻線電圧)を監視対象としてもよい。図1においては、受信器3が2次巻線C22に接続されている。そこで、3次巻線C23の端子間電圧を監視対象とするとよい。
【0035】
また、受信器3の側であれば、受信器3が接続されている巻線に生じる電圧、すなわち受信器3が接続されているインピーダンスボンドPB2の受信端(着電端)に生じる電圧(受信端電圧)を監視対象としてもよい。図1の例では、2次巻線C22の端子間電圧である。
【0036】
尚、上述の何れを監視対象の電圧とするかによって、レール破断検知用の閾値電圧は適宜調整・設定されるべきであることは言うまでもない。巻線比等の影響によって端子間電圧として表れる電圧が異なるためである。但し、電圧の変化傾向は図2を用いて説明した通りであり、何れを監視対象の電圧としても同様にレール破断を検知することが可能である。
【0037】
2.実施例
次に、上記の原理に従ってレール破断検知を行うレール破断検知装置の実施例について説明する。
【0038】
図3(1)は、本実施例における第1の軌道回路システム1000Aの構成の一例を示す図である。第1の軌道回路システム1000Aは、レール破断検知装置1Aと、送信器2と、受信器3と、信号制御器4Aと、インピーダンスボンドPB1,PB2とを備えて構成されている。
【0039】
送信器2及び受信器3は、従来の軌道回路で用いられる送信器及び受信器と同様である。送信器2がインピーダンスボンドPB1の2次巻線C12に、受信器3がインピーダンスボンドPB2の2次巻線C22に接続されている。
【0040】
受信器3は、図2を参照して説明した在線検知をするための装置であり、2次巻線の端子間電圧が在線検知閾値電圧以下か否かに応じて在線の有無を判定する。そして、在線検知閾値電圧以下の場合は在線あり、在線検知閾値電圧以下でない場合は在線なしと判定して在線結果をレール破断検知装置1A及び信号制御器4Aに出力する。
【0041】
レール破断検知装置1Aは、送信器2が接続されたインピーダンスボンドPB1の3次巻線C13に接続され、3次巻線C13の端子間電圧を監視対象の電圧として、図2を参照して説明した破断検知動作を行う。
レール破断検知装置1Aの構成の一例を図3(2)に示す。レール破断検知装置1Aは、例えば、電圧センサ15と、判定部16と、AND回路17とを有する。
【0042】
電圧センサ15は、3次巻線C13の端子間電圧を検出するセンサであり、検出した電圧を判定部16に出力する。
【0043】
判定部16は、電圧センサ15により検出された電圧が破断検知閾値電圧以下(低電圧条件を満たす)か否かを判定する。破断検知閾値電圧の値は、判定部16が設定記憶可能としてもよいし、別途設けた記憶部に記憶することとしてもよい。
【0044】
AND回路17は、判定部16の判定結果と受信器3による在線検知結果との論理積を演算する。具体的には、AND回路17は、判定部16により低電圧条件を満たすと判定され、且つ、受信器3により在線していないと判定された場合にレール破断ありと判定し、これ以外の場合はレール破断なしと判定する。判定結果は信号制御器4Aに出力する。
【0045】
信号制御器4Aは、当該軌道回路に係る閉塞区間入口に設置された閉塞信号機Sの現示を制御する装置である。特に、受信器3から在線ありの信号を受信した場合、或いは、レール判断検知装置1Aからレール破断ありの信号を受信した場合には、閉塞信号機Sを停止現示に制御する。
【0046】
3.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明するが、上記の実施例と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、上記の実施例とは異なる部分を中心に説明する。
【0047】
3−1.軌道回路システム
レール破断を検知するためのシステムとして説明した上述の第1の軌道回路システム1000Aは一例であり、別の構成であってもよい。
図4(1)に、別の構成例として、第2の軌道回路システム1000Bを示す。第2の軌道回路システム1000Bが第1の軌道回路システム1000Aと異なる点は、最終的なレール破断の判定を受信器3Bが行う点である。
【0048】
図4(2)に、第2の軌道回路システム1000Bが具備するレール破断検知装置1Bの構成例を示す。レール破断検知装置1Bは、図3(2)に示したレール破断装置1Aと同様、電圧センサ11及び判定部13を有しているが、AND回路17を有していない。すなわち、レール破断検知装置1Bは、監視対象の電圧が低電圧条件を満たしたか否かの結果を受信器3Bに出力するのであって、最終的なレール破断の判定を行わない。従って、レール破断検知装置1Bは、レール破断の可能性があるか否かを判定(仮判定)する装置であるとも言える。
【0049】
受信器3Bの構成例を図4(3)に示す。受信器3Bは、在線検知部31とAND回路37とを有して構成される。つまり、第1の軌道回路システム1000Aを構成する受信器3において、AND回路37を更に追加した構成となる。
【0050】
在線検知部31は、インピーダンスボンドPB2の2次巻線C22の端子間電圧と在線検知閾値電圧とを比較して在線検知を行う従来の受信器が有する基本機能を果たす。在線検知結果は、AND回路37及び信号制御器4Bに出力される。
AND回路37は、レール破断検知装置1Bの判定結果と在線検知部31の在線検知結果との論理積を演算する。具体的には、AND回路37は、レール破断検知装置1Bにより監視対象の電圧が低電圧条件を満たしたと判定(レール破断の仮判定)され、且つ、在線検知部31により在線していないと判定された場合にレール破断ありと判定し、これ以外の場合はレール破断なしと判定する。レール破断の判定結果は信号制御器4Bに出力される。
【0051】
信号制御器4Bは、受信器3Bから入力されるレール破断検知結果および在線検知結果の何れかが検知あり(破断あり、在線あり)の場合に、閉塞信号機Sを停止現示に制御する。
【0052】
この第2の軌道回路システム1000Bの構成によれば、第1の軌道回路システム1000Aに比べて通信ケーブルの敷設コストを抑えることが可能である。すなわち、第1の軌道回路システム1000Aでは、レール破断検知装置1Aと信号制御器4B間に通信ケーブルを敷設する必要があるが、第2の軌道回路システム1000Bにはその必要がない。
【0053】
また、第2の軌道回路システム1000Bにおいて、受信器3Bは、在線検知結果とレール破断検知結果とを別々(識別可能)に信号制御器4Bに出力することとしたが、同じ結果信号としてもよい。すなわち、レール破断ありと判定した場合と、在線ありと判定した場合とで、同じ信号としてもよい。何れの場合であっても信号制御器4Bは信号機Sを停止現示とするからである。
【0054】
3−2.レール破断検知装置の監視対象電圧
レール破断検知装置の監視対象の電圧は、インピーダンスボンドPB1の3次巻線の電圧に限らない。「1.原理」欄で説明したように、送信器2がインピーダンスボンドPB1の3次巻線に接続される場合には、インピーダンスボンドPB1の2次巻線の端子間電圧を監視対象としてもよい。また、受信器3側のインピーダンスボンドPB2の2次巻線或いは3次巻線の端子間電圧を監視対象としてもよい。
【0055】
3−3.機器構成
レール破断検知装置を独立した装置として説明したが、送信器或いは受信器と一体に構成してもよい。その場合、送信器或いは受信器がレール破断検知装置ともなる。また、機器配置を集中形とする場合、レール破断検知装置、送信器及び受信器を一体的に構成してもよい。
【0056】
3−4.レール破断検知結果の伝送
第1の軌道回路システム1000Aにおいて、レール破断検知装置1Aによるレール破断の検知結果を受信器3に伝送することとして説明したが、次のようにしてもよい。すなわち、レール破断検知装置1Aによるレール破断検知結果を送信器2に伝送する。そして、送信器2が、レール破断検知結果に基づいて軌道回路信号を変調する。そして受信器3側が信号を復号してレール破断検知結果を取得する。或いは、レール破断検知結果がレール破断ありの場合には、送信器2は、軌道回路信号の印加を停止する。この場合、受信器側が着電できなくなるため、在線検知と同様の回路動作となる。
また、第2の軌道回路システム1000Bの場合も同様に、レール破断検知装置1Bによる仮判定結果を送信器2に伝送し、送信器2が、仮判定結果に基づいて軌道回路信号を変調することで受信器3Bへ当該仮判定結果を送信することとしてもよい。
【0057】
3−5.低電圧条件
上記の実施形態では、監視対象の電圧が破断検知閾値電圧以下となったことをもって低電圧条件を満たしたと判定したが、破断検知閾値電圧以下となる状態が所定時間(例えば1秒)以上継続することを低電圧条件としてもよい。この場合、より確実に破断検知を行うことができるようになる。
【0058】
3−6.迂回路
迂回路の構成として2本の線路がクロスボンドで接続される場合を例に挙げて説明したが、迂回路が構成されるのはこの場合に限られない。
例えば、架線に直流電力が印加される直流変電所近傍の区間がその一例である。直流変電所は、電力会社から供給される交流特別高圧又は高圧を変圧器で降圧し、整流器で直流変換して架線に直流電力を供給する。この際、接地側の電圧としてインピーダンスボンドを介したレール電圧を基準として架線に直流電力を供給する。また、変電所近傍の併設線路それぞれに設けられた複数箇所のインピーダンスボンドが電気的に接続される。このため、環流電気経路、すなわち迂回路を構成する場合がある。このような区間についても本発明を適用することが可能である。また、迂回路として、大地を介した経路も考えられるが、この場合も同様である。
【符号の説明】
【0059】
1A レール破断検知装置
2 送信器
3 受信器
4A 信号制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するためのレール破断検知方法であって、
軌道回路の送信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(以下本請求項において「他方巻線電圧」という。)を検出する電圧検出ステップと、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出ステップで検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断が発生していることを検知する検知ステップと、
を含むレール破断検知方法。
【請求項2】
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するためのレール破断検知方法であって、
軌道回路の受信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(以下本請求項において「他方巻線電圧」という。)を検出する電圧検出ステップと、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出ステップで検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断が発生していることを検知する検知ステップと、
を含むレール破断検知方法。
【請求項3】
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するためのレール破断検知方法であって、
軌道回路の受信器が接続されたインピーダンスボンドの前記受信器の受信端に生じる電圧(以下本請求項において「受信端電圧」という。)を検出する電圧検出ステップと、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記受信端電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出ステップで検出された受信端電圧が満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断が発生していることを検知する検知ステップと、
を含むレール破断検知方法。
【請求項4】
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するレール破断検知装置であって、
軌道回路の送信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(以下本請求項において「他方巻線電圧」という。)を検出する電圧検出手段と、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出手段により検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定手段と、
を備え、前記判定手段により肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断の発生を検知するレール破断検知装置。
【請求項5】
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するレール破断検知装置であって、
軌道回路の受信器が2次巻線及び3次巻線のうちの一方の巻線に接続されたインピーダンスボンドの他方の巻線に生じる電圧(以下本請求項において「他方巻線電圧」という。)を検出する電圧検出手段と、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記他方巻線電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出手段により検出された他方巻線電圧が満たすか否かを判定する判定手段と、
を備え、前記判定手段により肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断の発生を検知するレール破断検知装置。
【請求項6】
直流電化区間において軌道回路信号の迂回路が存在する場合のレール破断を検知するレール破断検知装置であって、
軌道回路の受信器が接続されたインピーダンスボンドの前記受信器の受信端に生じる電圧(以下本請求項において「受信端電圧」という。)を検出する電圧検出手段と、
前記軌道回路の在線検知対象区間でレール破断が発生した状態で帰線電流が流れた場合に生じる前記受信端電圧の電圧低下に基づいて定められた低電圧条件を、前記電圧検出手段により検出された受信端電圧が満たすか否かを判定する判定手段と、
を備え、前記判定手段により肯定判定され、且つ、前記軌道回路が在線を検知していない場合にレール破断の発生を検知するレール破断検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate