説明

ロイシンリッチリピート(LRR)配列等反復配列を利用した新規タンパク質の作製方法、並びにそれにより得られる新規タンパク質及び新規タンパク質をコードする遺伝子

【課題】自然界に数多く存在しているLRR配列を有効に利用して多様なタンパク質を効率的かつ実用的に作製することが可能である新規タンパク質の作製方法、並びに自然界における多様な病原菌に対応する能力を有する新規タンパク質及び該新規タンパク質をコードする遺伝子を提供すること。
【解決手段】 本発明は、LRR配列を有する遺伝子のLRR領域を、遺伝子のアミノ酸配列及び/又は塩基配列情報に基づいて、共通の部位にロイシンを含むように複数の反復配列ユニットを作製する作製ステップと、反復配列ユニットそれぞれにプライマーを設計して、PCR増幅により反復配列ユニット遺伝子とする増幅ステップと、反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとする重合ステップと、重合ユニット、所定のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットをベクターに組み込んでライブラリーを作製する組み込みステップと、を備える新規タンパク質の作製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物種に広く存在している多様なロイシンリッチリピート配列を利用した新規タンパク質の作製方法、並びにそれにより得られる新規タンパク質及び該新規タンパク質をコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
植物と植物病原菌との間には親和性と非親和性という二つの異なる関係が存在する。植物と植物病原菌とが親和性関係にある場合、植物が病原菌を認識できずに侵入を許し病徴発現に至ることになり、一方、植物と植物病原菌とが非親和性関係にある場合、植物が病原菌の何らかの信号を認識することで病原菌を拒絶することになる。
この病原菌認識に関わる遺伝子は、一般に植物の抵抗性遺伝子(耐病性抵抗遺伝子)と呼ばれる。かかる植物の抵抗性遺伝子は、これまでに数多く報告されており、その大半はロイシン残基に富んだリピート構造であるロイシンリッチリピート配列を有するタンパク質をコードすること知られている。
【0003】
ロイシンリッチリピート配列はある一定の間隔に配置されたロイシン残基を骨格として、α−へリックス、βシート構造からなるくさび形の反復ユニットが多数繰り返されることにより、全体として窪みを持ったタンパク質領域が形成され、その内側の表面上のアミノ酸配列の多様性によりそれぞれ特定のタンパク質ないしは分子と特異的な相互作用をしていることが予測されており、一部ではその様子が実証されている。
【0004】
例えば、RNaseインヒビターやポリガラクチュロナーゼインヒビターのロイシンリッチリピート配列はX線回折分析によりLRRとそのリガンドのタンパク質の構造が明らかにされている。すなわち、上記ロイシンリッチリピート配列の馬蹄型又は捩れたループ状構造に、ターゲットとなるRNase又はポリガラクチュロナーゼが結合している様相が明らかとなっている(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照)。
【0005】
一方で、動物においても免疫機構とは別に、生来的にウイルス・バクテリアの認識に関わる遺伝子が解明されつつある。かかる遺伝子は先天性免疫(innate immunity)と呼ばれる。
このウイルス・バクテリアの認識に関わる遺伝子には、植物抵抗性遺伝子と類似したロイシンリッチリピート配列を含んだ構造もある。このため、病原菌認識は、このロイシンリッチリピート配列を含む遺伝子がウイルス由来二本鎖RNA又はバクテリア由来核酸(メチル化の違いを認識している)を直接ロイシンリッチリピート配列に結合させることにより行われると考えられている。
【0006】
ところで、イネいもち病菌の非病原力遺伝子avrPitaの認識に関わるイネ抵抗性遺伝子Pitaが酵母Two−Hybrid法により直接結合することが明らかとされ、また、バクテリアのフラジェリンタンパク質の認識に関わるシロイヌナズナの抵抗性遺伝子FLS2は同位体ラベルしたフラジェリンタンパク質を用いて直接結合することが示されている(例えば、非特許文献3又は非特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、植物抵抗性遺伝子と病原体由来エリシターとの間で直接相互作用を示した例はごくわずかに過ぎず、近年、新たな防御応答メカニズムとして、植物抵抗性遺伝子が宿主因子と結合した複合体を形成しており、病原菌侵入によりその複合体バランスが崩れることによる刺激が防御反応を導くというGuard仮説が提唱されつつある(例えば、非特許文献5参照)。
この仮説によれば、植物抵抗性遺伝子は、認識を司るロイシンリッチリピート配列の進化速度が病原体の進化に間に合わず、その他宿主因子の多様性をも巻き込んだ「複合体」として認識を担っている。
【0008】
また、ロイシンリッチリピート配列の進化はそれぞれの抵抗性遺伝子ホモログとの比較によって評価されている。この解析より明らかとなった点は、タンパク質相互作用に関わると思われる領域(solvent−exposed residue)に非同義的置換が蓄積していたことである。
このことは、多様なタンパク質を認識するために選択圧が働いていることを示している。
【0009】
この多様性を生み出すメカニズムとして、点変異による塩基置換、あるいはオルソログやパラログ遺伝子を介した遺伝子変換等の多様性作製機構が存在することを進化系統的に推察している(例えば、非特許文献6参照)。
【0010】
しかしながら、植物は動物のような体液循環機構を持たず、従って動物の免疫グロブリンに見られるような巧妙な個体発生の間に病原体認識分子を多様化させることは不可能で、遺伝子の構造にも特にシャフリングを起こすシステムなどは見られず、しかもゲノム内に収容できるLRR遺伝子の数にもせいぜい1000個前後限りがあるために、LRRタンパク質の持つ無限の分子認識の可能性のごく一部を実現しているに過ぎない状況にあるものと考えられる。
【0011】
一方、遺伝子の多様性作製方法としては、近年分子進化工学分野が発達し、in vitroで多様な遺伝子配列の作製に成功している(例えば、非特許文献7参照)。
植物抵抗性遺伝子もオルソログ・パラログ遺伝子の相同領域を介したファミリー間シャッフリングが行われており、病原菌認識に関わる遺伝子領域の特定などに威力を発揮している(例えば、非特許文献8参照)。
【0012】
また、スタンプらは反復モジュールを含んだ反復タンパク質の作成方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。
かかる発明は、典型的なロイシンリッチリピート配列基本骨格を固定位置と設定し、それ以外の無作為化位置において人工的に変異を加え、多様性を導くものである。
【特許文献1】特公表2004−508033
【非特許文献1】Kobe B, Diesenhofer J (1995) Nature 374, 183-186.
【非特許文献2】Di Matteo A, Federici L, Mattei B, Salvi G, Johnson KA, Savino C, De Lorenzo G, Tsernoglou D, Cervone F (2003) Proceedings of the National Academy of the Science of USA 100, 10124-10128.
【非特許文献3】Jia Y, McAdams S, Bryan GT, Hershey HP, Valent B (2000) EMBO J 19, 4004-4014.
【非特許文献4】Bauer Z, Gomez-Gomez L, Boller T, Felix G (2001) Journal of Biolgoical Chemistry 276, 45669-45676.
【非特許文献5】Dangl JL, Jones JDG (2001) Nature 411, 826-833.
【非特許文献6】Parniske M, Hammond-Kosack KE, Golstein C, Thomas CM, Jones DA, Harrison K, Wulff BBH, Jones JDG (1997) Cell 91, 821-832.
【非特許文献7】Directed enzyme evolution. Farinas ET, Bulter T, Arnold FH (2001) Current Opinion in Biotechnology 12: 545-551.
【非特許文献8】Wulff BBH, Thomas CM, Smoker M, Grant M, Jones JDG (2001) Plant Cell 13, 255-272.
【非特許文献9】Van der Hoorn RAL, Roth R, De Wit PJGM (2001) Plant Cell 13, 273-285.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記非特許文献6記載の多様性作製機構は、1アミノ酸レベルでの変化、あるいは相同性の認められた領域に限られた変化であり、自然界における多様でかつ絶え間なく変異を続ける病原菌に対応する能力を付与させるには限界があると考えられる。
【0014】
上記非特許文献8及び9に記載の遺伝子の多様性作製方法におけるファミリー間シャッフリングでは、それぞれが相同であるために、塩基置換レベルでの変異に等しい効果しか得られておらず、新たな抵抗性遺伝子を作製した例はない。
【0015】
上記特許文献1記載の反復タンパク質の作製方法では、多様性を作り出すために多種類の比較的長いオリゴDNAを合成する必要があり、塩基の欠失等による未熟アミノ酸が生成される可能性が非常に高い。
また、上記特許文献1においては、実施例では動物のRNase inhibitorを元にした新規毒素阻害タンパク質の作製方法を述べているが、LRR部分の作製方法は効率の悪いものである。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、自然界に数多く存在しているLRR配列を有効に利用して多様なタンパク質を効率的かつ実用的に作製することが可能である新規タンパク質の作製方法、並びに自然界における多様な病原菌に対応する能力を有する新規タンパク質及び該新規タンパク質をコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、植物抵抗性遺伝子のロイシンリッチリピート配列の基本骨格は厳密に保存されているわけではなく、さらに個々のリピート単位長にもかなりの多様性が認められることを見出した。このような自然界に存在するLRR配列からは、進化工学的な手法を駆使することにより、自然がなし得なかった遙かに多様なLRR配列を有するタンパク質の集合からの新規タンパク質の選抜が可能になり、結果として任意のターゲット分子に対する高い認識又は結合能を持った分子を実用的な短時間内に効率的に選抜することが可能ではないかと考えた。
そして、本発明者等は、以下の各ステップを施すことにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、(1)LRR配列を有する遺伝子のLRR領域を、遺伝子のアミノ酸配列及び/又は塩基配列情報に基づいて、共通の部位にロイシンを含むように複数の反復配列ユニットを作製する作製ステップと、反復配列ユニットそれぞれにプライマーを設計して、PCR増幅により反復配列ユニット遺伝子とする増幅ステップと、反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとする重合ステップと、重合ユニット、所定のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットをベクターに組み込んでライブラリーを作製する組み込みステップと、を備える新規タンパク質の作製方法に存する。
【0019】
本発明は、(2)重合ステップにおいて、反復配列ユニット遺伝子がライゲーションされたものである上記(1)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0020】
本発明は、(3)組み込みステップにおいて、N末側キャップユニット及びC末側キャップユニットが、それぞれにプライマーを設計して、PCR増幅させたものである上記(1)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0021】
本発明は、(4)遺伝子が、植物病原菌認識又は耐病抵抗性に関わる遺伝子である上記(1)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0022】
本発明は、(5)作製ステップにおいて、複数の反復配列ユニットが2箇所以上の共通の部位にロイシンを含むように作製される上記(1)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0023】
本発明は、(6)新規タンパク質の中から病原菌認識の対象となる分子又はタンパク質と相互作用する新規タンパク質を選抜する選抜ステップを更に備える上記(1)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0024】
本発明は、(7)選抜ステップ後、Error−prone PCRによる機能改良ステップを更に備える上記(1)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0025】
本発明は、(8)選抜ステップにおいて、bacteria twohybrid法、yeast twohybrid法、ファージディスプレイ法又はin vitroウイルス法を用いる上記(7)記載の新規タンパク質の作製方法に存する。
【0026】
本発明は、(9)上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の作製方法により得られる新規タンパク質に存する。
【0027】
本発明は、(10)N末端キャップユニットが配列表の配列番号1のアミノ酸配列であり、C末端キャップユニットが配列表の配列番号16のアミノ酸配列であり、複数の反復配列ユニットが配列表の配列番号2〜15のアミノ酸配列である上記(8)記載の新規タンパク質に存する。
【0028】
本発明は、(11)N末端キャップユニットが配列表の配列番号17のアミノ酸配列であり、C末端キャップユニットが配列表の配列番号18のアミノ酸配列である上記(8)記載の新規タンパク質に存する。
【0029】
本発明は、(12)アミノ酸配列が配列表の配列番号19〜27のうちのいずれか一つである新規タンパク質に存する。
【0030】
本発明は、(13)上記(9)〜(12)のいずれか一つに記載の新規タンパク質をコードする遺伝子に存する。
【0031】
なお、本発明の目的に添ったものであれば、上記(1)〜(13)を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の新規タンパク質の作製方法は、LRR配列を有する遺伝子のLRR領域を、遺伝子のアミノ酸配列及び/又は塩基配列情報に基づいて、共通の部位にロイシンを含むように複数の反復配列ユニットを作製し、反復配列ユニットそれぞれにプライマーを設計して、PCR増幅により反復配列ユニット遺伝子とし、反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとし、該重合ユニット、所定のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットをベクターに組み込んでライブラリーを作製する組み込むことにより、自然界に数多く存在しているLRR配列のみならず、人工的に作製したLRRをも利用して、極めて多様なタンパク質を作製することが可能となる。
【0033】
また、上記新規タンパク質の作製方法によれば、複数種類の新規タンパク質をコードする遺伝子を多様に、迅速かつ的確に作製できる。例えば、様々な病原菌又は突然変異で進化した新たな病原菌に対して、十分に病原菌認識するタンパク質をコードする遺伝子を迅速かつ的確に作製することが可能となる。
【0034】
上記新規タンパク質の作製方法においては、重合ステップにおいて、反復配列ユニット遺伝子がライゲーションされたものであると、及び/又は、組み込みステップにおいて、N末側キャップユニット及びC末側キャップユニットが、それぞれにプライマーを設計して、PCR増幅させたものであると、複数のユニットを容易にクローニングできるようになるので、多様性のあるライブラリーの作製が容易となる。
【0035】
上記新規タンパク質の作製方法においては、遺伝子が、植物病原菌認識又は耐病抵抗性に関わる遺伝子であると、病原菌認識するタンパク質を確実に作製することができる。
【0036】
上記作製ステップにおいて、複数の反復配列ユニットが2箇所以上の共通の部位にロイシンを含むように作製されると、タンパク質間相互作用を司るドメインを含むので病原菌認識するタンパク質を作製しやすいという利点がある。
また、この場合、ロイシンが反復配列の共通部位に存在して疎水結合により反復単位の安定化に寄与し、かつこの疎水性部分が反復配列の相互スタッキングを促すので、分子認識部位となる窪みを持ったタンパク質を形成しやすい。
【0037】
上記新規タンパク質の作製方法においては、新規タンパク質の中から病原菌認識の対象となる分子又はタンパク質と相互作用する新規タンパク質を選抜する選抜ステップを更に備えると、病原菌認識に一層優れたタンパク質を選抜することができる。
【0038】
上記新規タンパク質の作製方法においては、選抜ステップ後、Error−prone PCRによる機能改良ステップを更に備えると、病原菌認識により一層優れたタンパク質への改良が容易に実現できる。
なお、上記選抜ステップにおいては、bacteria twohybrid法、yeast twohybrid法、ファージディスプレイ法又はin vitroウイルス法を用いることが好ましい。
【0039】
本発明の新規タンパク質は、上述した方法で得られるので、自然界における多様でかつ常に変異を続ける病原菌に対応する能力を十分に有する。
【0040】
上記新規タンパク質は、N末端キャップユニットが配列表の配列番号1のアミノ酸配列であり、C末端キャップユニットが配列表の配列番号16のアミノ酸配列であり、複数のユニットが配列表の配列番号2〜15のアミノ酸配列であるか、又は、N末端キャップユニットが配列表の配列番号17のアミノ酸配列であり、C末端キャップユニットが配列表の配列番号18のアミノ酸配列であると、より確実に進化した病原菌であっても病原菌認識に対応することが可能である。
【0041】
本発明の遺伝子は、上述したタンパク質をコードするものであるため、上述したのと同様な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る新規タンパク質の作製方法は、LRR配列を有する遺伝子のLRR領域を、遺伝子のアミノ酸配列及び/又は塩基配列情報に基づいて、共通の部位にロイシンを含むように複数の反復配列ユニットを作製する作製ステップと、反復配列ユニットそれぞれにプライマーを設計して、PCR増幅により反復配列ユニット遺伝子とする増幅ステップと、反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとする重合ステップと、重合ユニットを増幅する重合体増幅ステップと、所定のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットをベクターに組み込んでライブラリーを作製する組み込みステップと、新規タンパク質の中から任意の分子又はタンパク質と相互作用する新規タンパク質を選抜する選抜ステップと、Error−prone PCR等による機能改良ステップと、を備える。
【0043】
ここで、LRRとは、いわゆるロイシンリッチリピートを意味し、LRR配列とは、アミノ酸配列から推定されるアミノ酸配列がロイシンを多く含む単位(モチーフ)を有し、この単位が反復単位の中で共通した特定の位置で2回以上繰り返している配列をいう。
なお、反復配列の長さやロイシンの繰り返し位置は限定されない。
また、上記N末端キャップユニットとは、LRR配列のN末側に隣接した配列であり、必ずしも長さや配列の特徴など無いが、通常反復ユニットの2−3倍以内程度のそれより上流の機能ドメイン等に干渉しない部分をLRR配列のシャフリングの際の不変部分として用いるものを意味し、C末端キャップユニットとは、同様にLRRのC末側に隣接した適当な長さの配列を意味する。
さらに、本発明の新規タンパク質には、任意のターゲット分子ないしはタンパク質に強く相互作用をする新規ターゲット結合タンパク質、及び、任意のターゲット分子ないしはタンパク質を分子レベルで認識する機能を有する分子認識タンパク質が含まれる。
【0044】
本実施形態に係る新規タンパク質の作製方法によれば、自然界に数多く存在しているLRR配列を利用した多様なタンパク質を作製することが可能となる。
このことにより、上記新規タンパク質の作製方法によれば、様々な病原菌又は突然変異で進化した新たな病原菌に対して、十分に病原菌認識するタンパク質を作製することが可能となる。
【0045】
以下、本実施形態に係る新規タンパク質の作製方法における作製ステップ、増幅ステップ、重合ステップ、組み込みステップ、選抜ステップ及び機能改良ステップについて更に詳細に説明する。
【0046】
(作製ステップ)
作製ステップは、LRR配列を有する遺伝子のLRR領域を、前記遺伝子のアミノ酸配列及び/又は塩基配列情報に基づいて、共通の部位にロイシンを含むように複数の反復配列ユニットを作製するステップである。
【0047】
具体的には、作製ステップは、LRR配列を有する遺伝子を、N末端側領域、C末端側領域、及び、N末端側領域とC末端側領域との間のLRR領域を共通の部位にロイシンを含むように複数の反復するユニット(反復配列ユニット)、に切り分けることに始まる。
ここで、上記N末端側領域とは、LRR領域よりN末側にあるタンパク質の領域を意味し、C末端側領域とは、LRR領域よりC末側にあるタンパク質の領域を意味する。
なお、この作製ステップにおいて、特に重要なのは、このLRRを構成する各反復配列ユニットのアミノ酸配列を、一定の位置にロイシンの繰り返し単位が認められるように切り分けることである。
なお、上記のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットは、N末端側領域、C末端側領域のうちLRR領域に隣接した小部分である。
【0048】
上記LRR配列を有する遺伝子としては、由来する生物やタンパク質等、特に限定されないが、遺伝子が植物病原菌認識やそれに対する耐病抵抗性に関わる遺伝子であることが好ましい。
この場合、病原菌認識するタンパク質を確実に作製することができる。
【0049】
上記植物病原菌に関わる遺伝子としては、特に限定されず、任意の植物種のゲノムに存在する多数のLRRを含む遺伝子であればよい。
具体的には、その機能と構造が確認されたものとしてアラビドプシス(RPS2, RPM1, RPP8, RRS1, FLS2, RPW8, CLAVATA1, BRI1, SEK1)、イネ(Pi-ta, Pib, Xa21)、トマト(Cf2, Cf4, Cf5, Cf9, Prf, Ve1)レタス(Dm3)、オオムギ(MLA6, MLA13, Rpg1)、メリステム形成に関わるCLAVATA1、ブラシノステロイド受容体のBRI1等が挙げられる。
【0050】
また、植物の病原菌としては、サビフクロカビ(Synchytrium、ジャガイモがんしゅ病)等のツボカビ門、コウガイケカビ(Choanephora、こうがい毛かび病)等の接合菌門、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea、イネいもち病)、タフリナ(Taphrina、桜のてんぐ巣病)、ウドンコカビ(Erysiphe、うどんこ病)又はハイイロカビ(Botrytis、各種植物の灰色かび病)等の子嚢菌門、サビキン(Puccinia、各種植物のさび病等)、クロボキン(Ustilago、コムギ・オオムギの裸黒穂病等) (Tilletia、小麦・大麦のなまぐさ黒穂病) 等の担子菌門、エキビョウキン(Phytophthora、ジャガイモ疫病菌)等の卵菌綱類、あるいはシュードモナス(Pseudomonas、インゲン傘枯れ病)等のバクテリアやウイルス(TMVタバコモザイクウイルス)等の構成タンパク質、細胞外の構造タンパク質、分泌酵素タンパク質等が挙げられる。
特に植物の細胞内に注入される細菌毒素やその他の分子であることが好ましい。
なお、植物以外の病原菌としては、ヒトや動物のガン細胞や病原菌の特異的構成分子、毒素等が挙げられる。
【0051】
ここで、N末端側領域及びC末端側領域と、LRR領域とを分ける部位は、任意に定めることができる。
例えば、LRR配列を有しない部位をN末端側領域及びC末端側領域とすればよい。
なお、遺伝子機能として重要な部位があるときは、かかる部位をN末端側領域又はC末端側領域に含めることが好ましい。
これにより、重要な遺伝子機能を保存したまま、多様なタンパク質を作製することができる。
【0052】
LRR領域を増幅する部位は、得られる複数の反復配列ユニットが共通の特定部位にロイシンを含むような部位であれば、特に限定されない。
こうして得られる複数の反復配列ユニットは、共通の部位にロイシンを含むものとなる。
【0053】
ここで、上記複数の反復配列ユニットは、少なくとも2箇所以上の共通の部位にロイシンを含むものであることが好ましい。
この場合、ロイシンが反復配列ユニットの共通部位に存在して疎水結合により反復単位の安定化に寄与し、かつこの疎水性部分が反復配列の相互スタッキングを促すので、分子認識部位となる窪みを持ったタンパク質を形成しやすくなる。
【0054】
また、複数の反復配列ユニットは、5'末端側に下記式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列を有することが好ましい。

XXLXXLXLX (1)
式(1)中、Lはロイシンを示し、L、L及びLの中の少なくとも1つはロイシンを示し、その他のL、L又はL、及びXはアミノ酸を示す。なお、C末端側のアミノ酸数は反復配列ユニット毎に異なっている。

XIPXXLXXLXXLXXLDLXXNXL10TG (2)
式(2)中、L〜L10のうちの少なくとも2つはロイシンを示し、I、P、L、D、N、T及びGの少なくとも3つ以上は、Iがイソロイシン、Pがプロリン、Lがロイシン、Dがアスパラギン酸、Nがアスパラギン、Tがスレオニン、Gがグリシンを示す。なお、上記以外のL〜L10、I、P、L、D、N、T、G、及びXはアミノ酸を示す。
この場合、病原菌認識する多様なタンパク質を確実に作製することが可能となる。
【0055】
また、上記遺伝子がイネいもち病菌抵抗性遺伝子Pibである場合、N末端キャップユニットが配列表の配列番号1のアミノ酸配列であり、C末端キャップユニットが配列表の配列番号16のアミノ酸配列であり、複数の反復配列ユニットが配列表の配列番号2〜15のアミノ酸配列であることが好ましい。
この場合、病原菌認識に対応することが可能である。
【0056】
また、上記遺伝子がバクテリアのフラジェリンを認識する抵抗性遺伝子である場合、N末端キャップユニットが配列表の配列番号17のアミノ酸配列であり、C末端キャップユニットが配列表の配列番号18のアミノ酸配列であることが好ましい。
この場合、病原菌認識に対応することが可能である。
【0057】
(増幅ステップ)
増幅ステップは、反復配列ユニットそれぞれにプライマーを設計して、PCR増幅により反復配列ユニット遺伝子とするステップである。
【0058】
この増幅ステップにおいては、それぞれの反復配列ユニットをPCR法により増幅する際にプライマー部分にII型制限酵素部位を追加する。
これにより、II型制限酵素処理によって共通した「のりしろ」が生じるので、後述する重合ステップが容易に行われる。
【0059】
増幅する方法は、PCR法(ポリメラーゼチェイン反応:Polymerase Chain Reaction)である。なお、PCR法に代わりにLAMP法(Loop-mediated Isothermal Amplification)を用いる増幅であってもよい。
【0060】
かかるPCR法は、まず、2本鎖のDNAを鋳型とし、特定領域を挟むように短いプライマーDNAを各相補鎖にハイブリッド結合させ、基質である4種類のデオキシヌクレオチド三リン酸の存在下、DNAポリメラーゼを作用させ、このプライマーの3'末端に、鋳型のDNA配列に従ってヌクレオチドを添加し鎖を伸長させる。そして、この反応でできた新たな2本鎖DNAを加熱して相補鎖に分離し、過剰に存在するプライマーを再び該当位置にハイブリッド結合させ、DNAポリメラーゼ反応で新たなDNA鎖を合成させる。この反応が繰り返されることで、目的領域を含むDNA断片を大量に増やす方法である。
【0061】
(重合ステップ)
重合ステップは、反復配列ユニットを増幅して得られる反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとするステップである。
【0062】
このように、増幅ステップの後、反復配列ユニット遺伝子を重合し、重合ユニットとすることにより、後述するライブラリーの作製が容易となる。
したがって、これにより複数の重合ユニットをシャッフルすることが可能となる。
【0063】
このとき、N末端キャップユニット又はC末端キャップユニットと重合ユニット、或いは、重合ユニット同士を読み枠通りに繋げるため、重合ユニットに制限酵素と共にライゲースを加えることが好ましい。
かかるライゲースとしては、T4 DNA ligase等の公知のものが挙げられる。
【0064】
N末端キャップユニット又はC末端キャップユニットと重合ユニット、或いは、重合ユニット同士を繋げる方法は、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
具体的には、RACHITT法(Random Chimeragenesis on Transient Templates)、CLERY法(Combinatorial Libraries Enhanced by Recombination in Yeast)、SHIPREC法(Sequence Homology Independent Protein Recombination)等が挙げられる。
また、それら遺伝子の合成においてスプリット合成法、パラレル合成法、混合物合成法、LPCS、マルチピン法、チップ合成法等のリコンビナントケミストリー技術を組み合わせることで自動化技術に対応することができる。
【0065】
(組み込みステップ)
組み込みステップは、反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとする重合ステップと、重合ユニット、所定のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットをベクターに組み込んでライブラリーを作製するステップである。
【0066】
組み込みステップにおいては、まず、上記重合ステップで得られた複数の重合ユニットをクローニングして、ライブラリーを作製する。
そして、ライブラリーから任意に選択された重合ユニット、N末端キャップユニット、及び、C末端キャップユニットを、N末端キャップユニット及びC末端キャップユニットが両端に位置するようにベクターに組み込み新規タンパク質が得られる。
【0067】
ここで、上記N末端キャップユニットとしては、特に限定されず、例えば、Pibタンパク質ではLRRに隣接するGYFMELKNRSMILPFQQSGSSRKSIDSCKVHDLMRDIAISKSTEENLVFRVEEGCSARD
の配列等が挙げられ、上記C末端キャップユニットとしては、特に限定されず、例えば、Pibタンパク質ではLRRに隣接する
LEFLQNINEVQLSVWFPTDHDRIRAARAAGADYETAWEEEVQEARRKGGELKRKIREQLARNPNQPIIT
の配列等が挙げられる。
【0068】
(選抜ステップ)
選抜ステップは、新規タンパク質の中から病原菌認識の対象となる分子又はタンパク質と相互作用する新規タンパク質を選抜するステップである。
選抜ステップを行うことにより、病原菌認識に一層優れたタンパク質を選抜することができる。
【0069】
選抜する方法としては、mRNAディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、ファージディスプレイ法、酵母表面提示法、バクテリア表面提示法、酵母Two-Hybrid法、バクテリアTwo-Hybrid法、In Vitro Virus法、STABLE法(Streptavidin-biotin Linkage in Emulsions)、CISディスプレイ法等が挙げられる。
これらの中でも、酵母Two-Hybrid法、バクテリアTwo-Hybrid法、ファージディスプレイ法又はin vitroウイルス法を用いることが好ましい。
【0070】
(機能改良ステップ)
機能改良ステップは、Error−prone PCRを行うステップである。
ここで、Error−prone PCRとは、突然変異を導入する方法であり、Leung等により確立されている方法である(Leung, D.W., et al., (1989) J. Methods Cell Mol. Biol., 1, 11-15)。
【0071】
本実施形態において、Error−prone PCR法は、0.1〜0.4mMマンガンイオンを添加して行うことが好ましい。
この場合、約1%程度の塩基置換を加えることができる。なお、マンガンイオンの濃度が0.4mMを超えるとスメアになるおそれがある。
【0072】
機能改良ステップを行うことにより、上述した実施形態に係る新規タンパク質の作製方法で得られた新規タンパク質を、突然変異を導入しながら増幅させることにより、更に多様な新規タンパク質を作製することが可能となる。
よって、この場合、病原菌認識により一層優れたタンパク質に改良することができる。
また、上記病原菌が突然変異等で進化し新たな病原菌となった場合であっても、LRR配列を有する複数種類の新規タンパク質を選抜することにより、自然界において偶然生じた非病原力遺伝子産物と植物抵抗性遺伝子との組み合わせと比較して、進化した病原菌の病原菌認識により十分に優れるものとなる。
【0073】
こうして得られる新規タンパク質は、上述した方法で得られるので、自然界における多様な病原菌に対応する能力を十分に有する。
すなわち、上記新規タンパク質は、病原菌が突然変異等で進化し新たな病原菌となった場合であっても、自然界において偶然生じた非病原力遺伝子産物と植物抵抗性遺伝子との組み合わせと比較して、進化した病原菌の病原菌認識に十分に対応することが可能である。
【0074】
なお、新たに発見された病原菌であっても1−2ヶ月でそれらに対する新規タンパク質(新規ターゲット結合タンパク質又はその遺伝子)を作製することが可能である。
【0075】
また、上記新規タンパク質は、バイオセンサー等のレセプターとしてなど多方面における足場タンパク質としての利用が期待される。
さらに、上記新規タンパク質は、がん治療におけるピンポイントターゲット投薬等の多様な用途に用いることができる。
なお、かかるピンポイントターゲット投薬には従来、動物免疫を司るイムノグロブリンが主に用いられているが、システイン残基による立体構造を維持する必要があり、細胞内環境によっては十分な効果を発揮できない場合がある。
【0076】
これに対し、上記新規タンパク質は、システイン残基の影響が少ないので、イムノグロブリンの代替足場タンパク質としても用いることが可能である。
なお、本発明の遺伝子は、上述した新規タンパク質をコードするものであるため、上述したのと同様な効果が得られる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0078】
例えば、本実施形態に係る新規タンパク質の作製方法によれば、本発明において例示した配列番号1〜27のアミノ酸配列だけでなく、自然界に数多く存在しているLRR配列を利用した多様なタンパク質を作製することが可能である。
【0079】
また、上述した実施形態においては、作製ステップ、増幅ステップ、重合ステップ、組み込みステップ、選抜ステップ及び機能改良ステップを行っているが、選抜ステップ及び機能改良ステップは必ずしも必須のステップではない。
すなわち、本発明のタンパク質の作製方法は、少なくとも作製ステップ、増幅ステップ、重合ステップ及び組み込みステップを備えていればよい。
【0080】
また、上述した反復配列ユニットは、既存の遺伝子に由来するものに限らず、これらを参考にコンセンサス構造を適度に保ちつつ任意に設計したものであってもよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
(作製ステップ)
(1)LRR配列を有する遺伝子
植物病原菌認識に関わるLRR配列を有する遺伝子として、Wang等(1999 Plant Journal, 19, 55-64)らによって単離されたイネいもち病菌非病原力遺伝子avrPib保有菌株に対する抵抗性遺伝子Pib(イネ品種シモキタ由来)を用いた。
【0083】
(2)LRR領域の推測
Pibはロイシンに富んだ領域が認められるが、アミノ酸残基の基本骨格があまり保存されていない。そこで、LRR配列の基本骨格である上記式(1)に示すLXXLXXLXLXを参考にしてLRR配列の再構築を試みた。
そして、LRR領域の保存されたロイシン残基の境界を設定した。図1に植物抵抗性遺伝子Pibの遺伝子構造を切断して得られるN末端キャップユニット、C末端キャップユニット及び反復配列ユニットのアミノ酸配列を示す。
なお、反復配列ユニット6にシステインに富んだアイランド領域を設定することにより、基本骨格の保たれたLRR配列を設計することができた。
【0084】
(増幅ステップ)
(3)プライマー合成
次に、抵抗性遺伝子Pibを、図1に示すように、N末端キャップユニット(配列番号1)、C末端キャップユニット(配列番号16)、及び反復配列ユニット1〜14(配列番号2〜15)に、各反復配列ユニットが共通の部位にロイシンを含むようにして、プライマーを合成した。
すなわち、それぞれの反復配列ユニット1〜14を増幅できるように両端にプライマーを設計し、ロイシンをコードする塩基コドンがのりしろとなるようにした。
【0085】
のりしろ部分は5'末端側をBamHIにて、3'末端側をBglIIにて消化された突出末端となるようにした。
また、N末端キャップユニット及びC末端キャップユニットは、遺伝子機能として重要である可能性が考えられたため、固定した。
さらに、ライブラリーをベクターにクローニングしやすいように、N末端キャップユニットには5'末端側にBamHI部位ではなくEagI部位を、C末端キャップユニットには3'末端側にBglII部位ではなくXhoI部位をそれぞれ付加させた。
【0086】
(4)PCR増幅
Pibをクローニングしたプラスミドを鋳型とし、それぞれの反復配列ユニットを増幅するプライマーセットを用いて個々の反復配列ユニット1〜14をPCR増幅させた。
それぞれの反復配列ユニット1〜14はエタノール沈殿処理で精製し、制限酵素BamHI、BglII同時処理にてのりしろを作製した。
さらに、酵素処理したサンプルを電気泳動しゲル回収を行うことにより、両端から切り出された核酸小断片を除去した
【0087】
(重合ステップ及び組み込みステップ)
(5)新規タンパク質の作製
このようにして得られたそれぞれの反復配列ユニット1〜14をライブラリーの出発材料として用いた。
そして、個々の反復配列ユニット1〜14を混合し、T4 DNA Ligase、T4 DNA Ligase Buffer、制限酵素バッファー、BamHI、BglIIを添加して25℃にて6時間インキュベーションした。反応後、70℃10分間反応させ酵素活性を失活させ、電気泳動後にゲル回収を行い重合の進んだ遺伝子断片を選抜した。
【0088】
図2は、反復配列ユニットを重合させた遺伝子断片を示す図である。なお、図2中、Mはマーカーを意味し、1は未精製反応物を意味し、2はゲル回収を行い、選抜された重合の進んだ遺伝子断片を意味する。
図3は、図1に示す複数の重合ユニットをシャッフルし、両端にN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットを組み込むことにより新規タンパク質を作製する組み込みステップを示す図である。
なお、図3中、N末端キャップユニットは「5'U」と、C末端キャップユニットは「3'U」と、重合ユニット1〜14は単に「1」〜「14」と示す。
図3に示すように、目的とする複数個以上の重合ユニットが組み込まれた新規タンパク質A〜F(配列番号19〜24)を得た。
【0089】
(実施例2)
(作製ステップ)
(1)LRR配列を有する遺伝子
動物の病原菌認識に関わるLRR配列を有する遺伝子として、既報の原著論文Gomez-Gomez L. and Boller T. (2000) Molecular Cell, 5, 1003-1011を参照して、アラビドプシスのエコタイプWs3のゲノミックDNAからPCR法により単離したバクテリアのフラジェリンを認識する抵抗性遺伝子FLS2を用いた。
【0090】
(2)LRR領域の推測
FLS2はロイシン及びその他のアミノ酸残基の骨格がきれいに保存された24アミノ酸で構成された典型的なロイシンリッチリピート構造を取っている。
そして、LRR領域の保存されたロイシン残基の境界を設定した。
【0091】
(増幅ステップ)
(3)プライマー合成
次に、抵抗性遺伝子FLS2を、N末端キャップユニット(配列番号17)、C末端キャップユニット(配列番号18)、及び反復配列ユニットに、各反復配列ユニットが共通の部位にロイシンを含むようにして、プライマーを合成した。
すなわち、それぞれの反復配列ユニットを増幅できるように両端にプライマーを設計し、イソロイシンをコードする塩基コドンがのりしろとなるようにした。
【0092】
のりしろ部分は5'末端側をBamHIにて、3'末端側をBglIIにて消化された突出末端となるようにした。
また、N末端キャップユニット及びC末端キャップユニットは、遺伝子機能として重要である可能性が考えられたため、固定した。
さらに、ライブラリーをベクターにクローニングしやすいように、N末端キャップユニットにおいては5'末端側にはBamHI部位ではなくEagI部位を、C末端キャップユニットにおいては3'末端側にはBglII部位ではなくEcoRI部位をそれぞれ付加させた。
【0093】
(4)PCR増幅
FLS2をクローニングしたプラスミドを鋳型とし、それぞれの反復配列ユニットを増幅するプライマーセットを用いて個々の反復配列ユニットをPCR増幅させた。
それぞれの反復配列ユニットはエタノール沈殿処理で精製し、制限酵素BamHI、BglII同時処理にてのりしろを作製した。
さらに、酵素処理したサンプルを電気泳動しゲル回収を行うことにより、両端から切り出された核酸小断片を除去した。
【0094】
(重合ステップ及び組み込みステップ)
(5)新規タンパク質の作製
このようにして得られたそれぞれの反復配列ユニットをライブラリーの出発材料として用いた。
実施例1と同様にして、複数の重合ユニットとし、該重合ユニットをシャッフルし、両端にN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットを組み込むことにより新規タンパク質を作製した。
【0095】
(実施例3)
(選抜ステップ)
次に、実施例1で得られたそれぞれの新規タンパク質A〜Fとバクテリアとの相互作用をTwo-hybrid法にて評価した(図4参照)。
図4に示すTwo-hybrid法は、タンパク質間相互作用を調べる手法である。
本実施例においては、生物種として大腸菌を用い、ベイトとしてRice Dwarf Virusの第8分節、又はいもち病菌の感染時に発現が増強されることが確認されているハイドロフォービンMPG1(Magnaporthe oryzae)を用い、これらをターゲットタンパクとした。また、プレイとして新規タンパク質A〜Fなどに示したようなシャッフリングライブラリー遺伝子配列を用いた。
【0096】
イネいもち病菌のゲノミックDNAよりMPG1全長をPCR増幅させ、MPG1をベクターpBTのアンカータンパク質(cI)とインフレームになるようにクローニングした。得られたプラスミドを大腸菌レポーター系統へ導入してMPG1を発現する大腸菌系統を作製した。
そして、MPG1を発現する大腸菌系統を材料としてエレクトロポレーション用のコンピテントセルを作製した。Rice Dwarf Virusの第8分節においても同様な操作を行った。
次いで、pTRGへクローニングされたライブラリーをコンピテントセルへ導入し3-AT含有選択培地から生育する陽性クローンを観察した。
【0097】
図5はバクテリアにおけるTwo−hybrid法のコントロール実験の図であり、(a)は完全培地、(b)は3−AT試薬添加最小培地における生育状況の図である。
なお、図5の(a)及び(b)中、YTHはStratagene社酵母Two-hybridシステム添付のポジティブコントロールで用いられている遺伝子配列を導入したクローンを意味し、BTHは既知のタンパク質(Stratagene社バクテリアTwo-Hybridシステム添付のコントロール実験で用いられている遺伝子配列を導入したクローンを意味し、LBAは完全培地を意味し、M9 3−ATは3-AT試薬添加最小培地を意味し、Wtは野生型遺伝子(相互作用を示す)の組み合わせを意味し、Mutは変異型遺伝子(相互作用を示さない)の組み合わせを意味し、Posiは相互作用を示すGal4遺伝子の組み合わせを意味し、Negaはベクター単独処理を意味する。
図5に示すように、バクテリアにおけるTwo−hybrid法において、酵母Two−hybrid法で用いられているポジティブクローンも機能することがわかった。
また、図6は、図5において示した各クローンの生育速度を示した図である。
【0098】
図7は、選抜ステップにより選抜されたMPG1と相互作用するPibライブラリーより得られた陽性クローンの一つを示した図である。
この他にFLS2ライブラリーからも2クローンが好適に病原菌を認識した。
図7に示すように、選択培地上における陽性クローンの生育速度は既知のBTH用ポジティブコントロールにおける生育速度と比較すると遅いものであった。
選択培地における生育速度はTwo−hybridシステムの結合強度を反映していると考えられている。
このことにより、本発明の新規ターゲット結合タンパク質とターゲットタンパク質(MPG1)との相互作用力は弱いものと考えられる。
【0099】
また、図7の結果より、最も病原菌認識に優れた新規タンパク質は、新規タンパク質Fの一部が変換されたもの(配列番号25)であった。
図8に新規タンパク質Fの遺伝子断片を示す。
【0100】
(実施例4)
(機能改良ステップ)
次に、MPG1と相互作用した陽性クローンプラスミドを回収し、N末端キャップユニットのフォワードプライマーとC末端キャップユニットのリバースプライマーとを用いてError−prone PCR法によって塩基置換を加えた。
Error−prone PCR法は、Takara rTaq polymeraseを用い、0.25 mMマンガンイオンを添加することで、約1%程度の塩基置換を加えることができた(図9参照)。
【0101】
変異を加えたアミノ酸配列は、再びpTRGベクターへクローニングし、評価方法1と同様にして、選択培地からより生育の早いコロニーを観察した。
得られた結果を図10及び図11に示す。
図10及び図11中、P−6はPibライブラリー由来陽性クローンプラスミドを意味し、P−6−1はP−6プラスミドのError−prone派生遺伝子の一つを意味し、P−6−2はP−6プラスミドのError−prone派生遺伝子の一つを意味し、E1はP−6−1及びP−6−2プラスミドのError−prone派生遺伝子の一つを意味し、E2はP−6−1及びP−6−2プラスミドのError−prone派生遺伝子の一つを意味する。
【0102】
図10及び図11に示すように、より生育の早い、ポジティブコントロールに匹敵する生育速度を示すクローンが得られた。
このことはより結合力の高い新規タンパク質が選定されたことを示している。
【0103】
以上より、LRRの反復単位の両端には制限酵素処理により共通した付着末端を持たせ、各反復単位が重合しやすいように設計し、制限酵素存在下でのライゲーション反応とゲル分画を行うことにより、読み枠の方向性を保った任意長のリピートシャッフリングライブラリーが得られた。
【0104】
得られたライブラリーの中から、これまでに病原体エリシターとしては報告されていないがイネいもち病菌 (Magnaporthe oryzae)では病原力発揮に関わるとされる菌糸表層の疎水性タンパク質、ハイドロフォービン:MPG1をターゲットとする新規LRRの選抜を試み、タンパク質の相互作用はバクテリアTwo-Hybridシステムを用いMPG1をベイトとしてLRRライブラリーからターゲット選抜を行い、ポジティブクローンが上記2種ライブラリーのそれぞれから得られた。
【0105】
図12は、選抜された陽性クローンと、これまでに報告されている植物由来LRR配列を有するタンパク質と病原体由来タンパク質が相互作用を示した遺伝子を単離し、バクテリアTwo−hybrid法にて結合様式をバクテリアの増殖速度で評価した結果を示す図である。
図12中、Positiveはキットの陽性対照を、NegaはMPG1タンパク質をベイトにしてPibタンパク質LRR領域と相互作用を解析したもの、P−6は選抜ステップによって選抜された陽性クローン、FLS−LRRはFLS2タンパク質のLRR領域のみと、あるいはFLS−ALLはFLS2タンパク質の全長を含んだものとタバコ野火病菌(シュードモナス)のフラジェリンタンパク質flg22と相互作用を解析したもの、PGIP−AおよびPGIP−Bはウズラマメ由来ポリガラクツロナーゼインヒビタータンパク質とアスペルギルス菌由来ポリガラクツロナーゼタンパク質との相互作用を解析したもの、Pitaはイネいもち病抵抗性遺伝子Pitaタンパク質といもち病菌非病原力遺伝子avrPitaタンパク質との相互作用を解析したものである。3−AT(−)は選択試薬3−ATを含まない最小培地で培養した結果で、3−AT(+)は選択試薬3−ATを含む最小培地で培養した結果を示した。
図12に示すように、キットの陽性対照の組み合わせ(bait: Gal4-LGF2/target: Gal11P)よりも生育速度は遅かったが、これまでに抵抗性遺伝子LRRと直接結合するとされる病原体の非病原性遺伝子産物と対応するLRR、あるいはポリガラクツロナーゼインヒビターと直接結合するとされる病原体のポリガラクツロナーゼと対応するLRRとの組み合わせと比較するとほぼ同等かそれ以上の生育速度を示すことがわかった。
【0106】
また、得られたLRRについては更にError−prone PCRの繰り返しによる機能改良を行い、最終的には陽性対照とほぼ同等の生育速度を示す遺伝子配列の選抜に成功した。配列表の配列番号26にPib由来ライブラリーより選抜された陽性クローンアミノ酸配列を、配列表の配列番号27にFLS2由来ライブラリーより選抜された陽性クローンのアミノ酸配列を示した。
LRR配列の特徴としては異なるLRR配列材料(ロイシン骨格の保存性の高いFLS2、ロイシン骨格の保存性の低いPib)から、ライブラリーを作製し、どちらのタイプのLRR配列からも新たなターゲットタンパク質と結合する新規タンパク質が取得できることがわかった。
【0107】
このことにより、イネのいもち病抵抗性遺伝子Pibとアラビドプシスのバクテリアフラジェリン認識遺伝子FLS2とに由来する二つの異なるLRRを出発材料として、これらのリピート遺伝子を反復単位に分解し、それらをランダムに再重合化させたリピートシャッフリングライブラリーから目的分子を認識するLRRを得る方法が確立された。
【0108】
よって、本発明の新規タンパク質の作製方法によれば、自然界に数多く存在しているロイシンリッチリピート配列を利用して多様なタンパク質を作製することが可能である新規タンパク質の作製方法、並びに自然界における多様な病原菌に対応する能力を有する新規タンパク質及び該新規タンパク質をコードする遺伝子を提供できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、植物抵抗性遺伝子Pibの遺伝子構造を切断して得られるN末端キャップユニット、C末端キャップユニット及び反復配列ユニットのアミノ酸配列を示す図である。
【図2】図2は、反復配列ユニットを重合させた遺伝子断片を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す複数の重合ユニットをシャッフルし、両端にN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットを組み込むことにより新規タンパク質を作製する組み込みステップを示す図である。
【図4】図4は、バクテリアTwo-hybridシステムを示す図である。
【図5】図5は、バクテリアにおけるTwo−hybrid法のコントロール実験の図であり、(a)は完全培地、(b)は3−AT試薬添加最小培地における生育状況の図である。
【図6】図6は、図5において示した各クローンの生育速度を示した図である。
【図7】図7は、選抜ステップにより選抜されたMPG1と相互作用するPibライブラリーより得られた陽性クローンの一つを示した図である。
【図8】図8は、新規タンパク質Fの遺伝子断片を示す図である。
【図9】図9は、Error−prone PCRにおいて、マンガンイオンの濃度設定をした結果を示す図である。
【図10】図10は、陽性クローンをError−prone PCRにより改良したクローンの生育を示す図である。
【図11】図11は、陽性クローンをError−prone PCRにより改良したクローンの生育速度を示す図である。
【図12】図12は、選抜された陽性クローンと、これまでに報告されている植物由来LRR配列を有するタンパク質と病原体由来タンパク質が相互作用を示した遺伝子を単離し、バクテリアTwo−hybrid法にて結合様式をバクテリアの増殖速度で評価した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LRR配列を有する遺伝子のLRR領域を、前記遺伝子のアミノ酸配列及び/又は塩基配列情報に基づいて、共通の部位にロイシンを含むように複数の反復配列ユニットを作製する作製ステップと、
前記反復配列ユニットそれぞれにプライマーを設計して、PCR増幅により反復配列ユニット遺伝子とする増幅ステップと、
前記反復配列ユニット遺伝子をランダムに重合させ重合ユニットとする重合ステップと、
前記重合ユニット、所定のN末端キャップユニット及びC末端キャップユニットをベクターに組み込んでライブラリーを作製する組み込みステップと、
を備えることを特徴とする新規タンパク質の作製方法。
【請求項2】
前記重合ステップにおいて、前記反復配列ユニット遺伝子がライゲーションされたものであることを特徴とする請求項1記載の新規タンパク質の作製方法。
【請求項3】
前記組み込みステップにおいて、前記N末側キャップユニット及びC末側キャップユニットが、それぞれにプライマーを設計して、PCR増幅させたものであることを特徴とする請求項1記載の新規タンパク質の作製方法。
【請求項4】
前記遺伝子が、植物病原菌認識又は耐病抵抗性に関わる遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の新規タンパク質の作製方法。
【請求項5】
前記作製ステップにおいて、前記複数の反復配列ユニットが2箇所以上の共通の部位にロイシンを含むように作製されることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の作製方法。
【請求項6】
前記新規タンパク質の中から病原菌認識の対象となる分子又はタンパク質と相互作用する新規タンパク質を選抜する選抜ステップを更に備えることを特徴とする請求項1記載の新規タンパク質の作製方法。
【請求項7】
前記選抜ステップ後、Error−prone PCRによる機能改良ステップを更に備えることを特徴とする請求項1記載の新規タンパク質の作製方法。
【請求項8】
前記選抜ステップにおいて、bacteria twohybrid法、yeast twohybrid法、ファージディスプレイ法又はin vitroウイルス法を用いることを特徴とする請求項6記載の新規タンパク質の作製方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の作製方法により得られる新規タンパク質。
【請求項10】
前記N末端キャップユニットが配列表の配列番号1のアミノ酸配列であり、前記C末端キャップユニットが配列表の配列番号16のアミノ酸配列であり、前記複数の反復配列ユニットが配列表の配列番号2〜15のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項8記載の新規タンパク質。
【請求項11】
前記N末端キャップユニットが配列表の配列番号17のアミノ酸配列であり、前記C末端キャップユニットが配列表の配列番号18のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項8記載の新規タンパク質。
【請求項12】
アミノ酸配列が配列表の配列番号19〜27のうちのいずれか一つであることを特徴とする新規タンパク質。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項に記載の新規タンパク質をコードする遺伝子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−125401(P2008−125401A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312292(P2006−312292)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】