説明

ロジウムの回収方法

【課題】錯体形成反応が遅いため、抽出や吸着が困難であるロジウムを、自動車排ガス触媒、化学反応触媒などの浸出液から、迅速に吸着して濃縮回収する方法を提供する。
【解決手段】ロジウム含有溶液からのロジウム回収方法において、
(A)金属イオン選択的吸着剤をロジウム含有溶液に加える工程、および、(B)金属イオン選択的吸着剤を含むロジウム含有溶液にマイクロ波を照射する工程、を有することを特徴とするロジウム回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウム含有溶液からのロジウムの回収方法に関し、詳しくは、迅速および高効率でロジウムを回収する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ロジウムは、融点が高く耐熱性や耐蝕性に優れるほか、特異な触媒機能を有するため、自動車触媒、化学工業触媒あるいは電子部品や光学機器などに利用されている。ロジウムはまた、高品位ガラス製造のプラチナ−ロジウム分散強化型溶解炉材や過酷な状況で使用されるコンピュータのリードスイッチにも使用されている。用途が拡大する一方、ロジウムの産出地域はごく限られ、しかも生産量は非常に少ない。例えば、ロジウムの95%の産出を南アフリカとロシアに依存している。ロジウムを安定に供給するためには、使用済みの触媒や廃棄電子部品などからのリサイクルによる再利用がきわめて重要となる。
【0003】
ロジウムの回収には、使用済み製品に含まれるロジウムを鉱酸や化学試薬により浸出し、その浸出液から選択回収する湿式法がしばしば用いられる。ロジウムは、浸出液などの水溶液中ではRh(III)の形態をとるが、湿式法においては他の成分との分離等を目的として浸出液が塩酸で処理される場合が多く、高濃度の塩酸(>2M)の存在下で[RhCl(HO)]2−,また更に高濃度の塩酸(>5M)の存在下で[RhCl3−のクロロ錯体陰イオンを形成する。ロジウムの濃度が比較的高い溶液からの回収には、このようなロジウムのクロロ錯体を利用した沈殿法や溶媒抽出法が適用される。例えば[(NH[RhCl](ヘキサクロロロジウム酸アンモニウム)の水溶液をギ酸で還元後、沈殿を焼成してロジウムスポンジとして回収する方法が提案されている(特許文献1)。また、塩酸でロジウムをクロロ錯体として溶解させ、他の沈殿物と分離した後に、溶媒抽出により精製して回収する方法が開示されている(特許文献2)。尚、クロロ錯体陰イオンを形成する他の金属の場合、アンモニウム型抽出剤でイオン対として抽出し回収することもできるが、ロジウムのクロロ錯体陰イオンを抽出する場合、マイナスイオンを持つ3つの抽出剤が必要で、その立体障害のため抽出効率がきわめて悪いことがわかっている。
【0004】
希薄な金属溶液から金属を回収する場合は、濃縮効率の高いイオン交換樹脂や選択吸着樹脂を用いた吸着法が適用される。使用済み触媒などの浸出液に含まれるロジウムも、一般に低濃度の場合が多いため、濃縮効率の高い吸着法による回収方法が求められている。しかし、ロジウムのクロロ錯体陰イオンをイオン交換樹脂により吸着する方法では、アンモニウム型抽出剤でのイオン対抽出が困難であることと同様にイオン交換吸着率は著しく低いという問題がある。選択吸着樹脂を用いた吸着法として、樹脂基材に固定された金属捕捉基との錯体形成により金属イオンを選択捕捉するキレート樹脂が、微量の金属イオンの濃縮に応用されている。最近、環状のアザクラウンエーテルを金属捕捉基としたキレート樹脂が、白金族金属の選択吸着分離プロセスに用いられている(特許文献3)。
【0005】
一方、マイクロ波を照射することで、白金族金属の錯体の迅速な合成が可能になることが報告されている(非特許文献1、2、特許文献4,5)。
【0006】
また、不要となった発光素子の有機金属化合物からイリジウムなどの金属を回収するために、マイクロ波を照射し、溶媒抽出して回収する方法が提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−270228号公報
【特許文献2】特開2007−9306号公報
【特許文献3】特開平9−164301号公報
【特許文献4】特開2001−270893号公報
【特許文献5】特開2004−337802号公報
【特許文献6】特開2008−144269号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polyhedron,9巻、893−895頁、1990年
【非特許文献2】J.Chem.Soc.Dalton Trans.1341−1345頁、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸着法によるロジウムの回収方法として、上記のキレート樹脂による選択吸着分離プロセス吸着法では、Rh(III)と種々の金属捕捉基(配位子)との錯体形成反応が非常に遅いため、キレート樹脂の金属捕捉基がRh(III)を十分に捕捉するためには長時間を必要とする問題があった。
なお、特許文献4および5、非特許文献1および2には、ロジウムの迅速な吸着回収に応用することは開示されていない。また、特許文献6に記載されているマイクロ波の照射は、有機金属化合物を分解することを目的としたものであり、吸着回収に関するものではない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記従来問題を解決し、迅速で効率的な吸着法によるロジウムの回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、ロジウムを錯体形成により選択吸着する際に、吸着剤の存在下でロジウム含有溶液にマイクロ波を照射してロジウムの捕捉反応を促進することにより解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のロジウムの回収方法は、ロジウム含有溶液からのロジウムの回収において、
(A)金属イオン選択的吸着剤をロジウム含有溶液に加える工程、および、(B)金属イオン選択的吸着剤を含むロジウム含有溶液にマイクロ波を照射する工程、を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明のロジウムの回収方法は、前記ロジウム含有溶液中のロジウムがロジウムイオンであることが好ましい。
【0014】
また、本発明のロジウムの回収方法は、前記(B)工程の前に金属イオン選択吸着剤を含むロジウム含有溶液の攪拌混合を行うか、または、前記(B)工程を金属イオン選択吸着剤を含むロジウム含有溶液を攪拌混合しながら行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明のロジウムの回収方法は、前記マイクロ波の照射が連続照射であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のロジウムの回収方法は、前記金属イオン選択的吸着剤が、基材とキレート試薬が化学結合してなるものであることが好ましく、前記基材が、3次元架橋したポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、セルロースおよびキトサンからなる群から選ばれる1種以上の基材であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のロジウムの回収方法は、前記金属イオン選択的吸着剤が、多孔質材料にキレート試薬を含浸させてなるものであることが好ましく、前記多孔質材料が、3次元架橋したポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、セルロースおよびキトサンからなる群から選択される1種以上の多孔質材料であることが好ましく、また、前記キレート試薬が、キレート配位子を長鎖アルキル誘導体として疎水性化してなるものであることが好ましい。
【0018】
本発明のロジウムの回収方法は、前記金属イオン選択的吸着剤が、酸素配位子、窒素配位子および硫黄配位子からなる群から選ばれる1種以上の金属捕捉基を有するものであることが好ましい。
【0019】
また、本発明のロジウムの回収方法は、前記(B)工程におけるマイクロ波の出力が、ロジウム含有溶液100mlに対して10mW〜1.5kWであり、マイクロ波の周波数が300MHz〜3THzであることが好ましい。
【0020】
また、本発明のロジウムの回収方法においては、前記(B)工程を行う際のロジウム含有溶液のpHが1〜10であることが好ましい。
【0021】
本発明のロジウム回収方法は、錯体形成により金属を捕捉する金属イオン選択吸着剤をロジウム含有溶液に加え、該ロジウム含有溶液を攪拌混合しながら、または、攪拌混合した後、マイクロ波を連続照射することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、ロジウム含有溶液から迅速および高効率でロジウムを回収することが可能になる。本発明は、従来技術ではロジウムの回収が困難であった低濃度にロジウムを含有する溶液からも、迅速および高効率なロジウムの回収を可能にするものであり、使用済みの自動車排ガス触媒、化学反応触媒、電子材料等を酸あるいは化学試薬により浸出させたロジウムを含有する溶液からロジウムを迅速および効率よくリサイクルする方法として利用できるものであり、希少金属であるロジウムの確保とその安定な供給に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1におけるロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例2におけるロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3におけるロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例4におけるロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例5におけるロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例7におけるロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のロジウムの回収方法について、以下に詳述する。
本発明のロジウム回収方法は、(A)金属イオン選択的吸着剤をロジウム含有溶液に加える工程、および、(B)金属イオン選択的吸着剤を含むロジウム含有溶液にマイクロ波を照射する工程、をこの順番で有することを特徴とするものである。また、金属イオン選択的吸着剤をロジウム含有溶液に加えた後に、ロジウム含有溶液の攪拌混合を行うことが好ましい。該攪拌混合を行う場合、(A)工程と(B)工程の間に、ロジウム含有溶液の攪拌混合を行ってもよく、(B)工程をロジウム含有溶液を攪拌混合しながら行ってもよい。(B)工程の後に、ロジウム含有溶液から、金属イオン選択的吸着剤を回収することにより、ロジウムを回収する。
【0025】
[ロジウム含有溶液]
本発明に係るロジウム含有溶液とは、ロジウムが含有されている溶液であればよく、ロジウムの濃度および純度において特に制限されるものではないが、回収後の純度を上げるために、前処理として不純物をある程度除去しておくことが好ましい。ロジウム含有溶液中のロジウムはロジウムイオンであることが好ましい。使用済み触媒や電子部品などを酸溶液または試薬溶液で処理してロジウムを溶出した水溶液を、ロジウム含有溶液としてもよい。通常、使用済み触媒などロジウム含有廃棄物からは、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸によりロジウムを溶出する(特開平10−76166号公報)。このような酸浸出液は、水酸化ナトリウムなどのアルカリで所定のpHに調整してロジウムの吸着及び回収処理をすることが好ましい。
【0026】
[金属イオン選択的吸着剤]
本発明に係る金属イオン選択的吸着剤とは、錯体形成に基づいてロジウムを吸着できる物質であれば特に制限はないが、容易に回収できる物質や効率的に回収できる物質が好ましく、基材にキレート試薬を化学結合してなる吸着剤や、多孔質材料にキレート試薬を含浸して包含させてなる吸着剤が望ましい。錯体形成により吸着するこれらの吸着剤は、イオン交換樹脂と異なり、アルカリ金属イオンや軽金属イオンが共存していてもロジウムを選択性良く吸着することができる。
【0027】
前記基材にキレート試薬を化学結合してなる吸着剤において、基材はキレート試薬と化学結合できれば特に制限はなく、3次元架橋したポリスチレン、3次元架橋ポリアクリル酸エステルなどの高分子樹脂、シリカゲル、アルミナ、活性炭などの無機材料、または、セルロース、キチン、キトサン、絹などの天然有機素材が好ましく用いられる。吸着剤の形状は、ビーズ状、粉体状、繊維状の固体で20〜200メッシュサイズが好ましく、吸着剤と溶液との接触を促進するため、比表面積が5〜800m−1の多孔質体や微粉体、微細繊維が好ましく用いられる。
【0028】
前記基材にキレート試薬を化学結合してなる吸着剤において、キレート試薬とは、金属イオンをキレート形成により捕捉する試薬であり、キレート試薬の金属捕捉基としては、酸素配位子、窒素配位子、硫黄配位子の単独あるいは組み合わせより成るキレート配位子が好適に用いられる。より具体的には、アミノ基、アミド基、ピリジル基、カルボキシル基、リン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、チオアミド基の単独あるいは組み合わせより成るキレート配位子が好ましい。具体的なキレート試薬として、ジエチレントリアミンや2−アミノメチルピリジンなどの公知なキレート試薬を使用することができる。市販のキレート樹脂としては、イミノジカルボン酸を結合したchelex−100(Bio−Rad社製)、CR−10(三菱化学社製)、キレスト(キレスト社製)やジエチレントリアミンなどのポリアミンを結合したCR−20(三菱化学社製)などが挙げられる。
【0029】
前記基材にキレート試薬を化学結合してなる吸着剤において、化学結合としては、共有結合、イオン結合が挙げられ、好適な結合として共有結合が挙げられる。
【0030】
前記多孔質材料にキレート試薬を含浸して包含させてなる吸着剤において、多孔質材料はキレート試薬を含浸して包含できれば特に制限はなく、3次元架橋したポリスチレン、3次元架橋ポリアクリル酸エステルなどの高分子樹脂やシリカゲル、アルミナ、活性炭などの無機材料、または、セルロース、キチン、キトサン、絹などの天然有機素材を用いることができる。吸着剤の形状は、ビーズ状、粉体状、繊維状の固体で20〜200メッシュサイズが好ましく、吸着剤と溶液との接触を促進するため、比表面積が5〜800m−1の多孔質体や微粉体、微細繊維が好ましく用いられる。
【0031】
前記多孔質材料にキレート試薬を含浸して包含させてなる吸着剤において、キレート試薬は、長鎖アルキル誘導体として疎水性化したキレート抽出剤であることが好ましく、多孔質材料に含浸担持させて包含することが好ましい。キレート抽出剤は、酸素配位子、窒素配位子、硫黄配位子の単独あるいは組み合わせより成るキレート配位子を長鎖アルキル誘導体として疎水性化したものが用いられる。具体的には、ジアルキルフォスホン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、トリアルキルリン酸エステル、アルキルキノリノール、アルキルアセチルアセトン、アルキルケトオキシムなどの溶媒抽出剤が好ましく用いることができ、市販されているものの商品名として、D2EHPA(大八化学社製),PC−88A(大八化学社製),TOPO(同仁化学研究所社製),Lix84(ヘンケル社製)が挙げられる。
【0032】
このような溶媒抽出剤を多孔質材料に含浸担持するには、抽出剤をアセトンやヘキサンなどの低沸点の有機溶媒に溶解して低粘性の溶液を調製し、この溶液と多孔質材料とを混合した後、該溶媒を留去する方法を用いることができる。このようにして調製した試薬含浸型吸着剤は、その空孔内部に溶媒抽出剤を多量に含んでおり、ロジウムを吸着する能力を有する。また、多孔質材料に含浸された溶媒抽出剤は、化学的に結合されていないので、空孔内での自由度が大きい。また、生成した錯体は、有機溶媒に溶解するため、アセトン、ヘキサン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒によって容易に溶出することができる。
【0033】
[マイクロ波の照射]
(B)金属イオン選択的吸着剤を含むロジウム含有溶液にマイクロ波を照射する工程は、(A)金属イオン選択的吸着剤をロジウム含有溶液に加える工程を行った後に行う。前記マイクロ波の照射は、連続照射であることが好ましい。マイクロ波の出力は、回収処理する水容量100mLに対して、10mW〜1.5kW、吸着処理の温度は室温〜100℃の範囲で行われ、マイクロ波発生の出力は、検出温度に応じて制御される。吸着処理を行う容器は、マイクロ波を反射したり、吸収したりしないプラスチックやガラスなどの容器が望ましい。マイクロ波出力が10mWより少ない場合は、回収率の向上がみられず、1.5kWより大きい場合は、水溶液が沸騰するため温度制御が難しくなる。ただし、回収溶液を冷却しながら、より強力なマイクロ波を照射することで、回収率向上を計ることも可能である。この場合は、マイクロ波の上限は1.5kW以上でもよい。また、マイクロ波は一般に300MHzから3THzまでの電磁波を指す。ロジウム回収処理には、いずれの周波数のマイクロ波でもよいが、工業的に利用を許可されているISMバンドとよばれる40.66〜40.7MHz、902MHz〜928MHz、2.4〜2.5GHz、5.725GHz〜5.875GHz、24〜24.25GHzが望ましい。マイクロ波の照射時間は特に制限されず、回収処理する水用量、マイクロ波の出力、吸着処理温度、ロジウムの含有量に応じて、適宜設定すればよい。
【0034】
(B)工程において、マイクロ波を照射しながらロジウムを吸着させるときのロジウム含有溶液のpHは、1.0〜10の範囲であることが好ましく、pH3.0〜9.0であることがより好ましい。上記pH範囲では、ロジウム錯体の形成が効率良く起きるため、高効率のロジウムの吸着が期待できる。pHが1.0より低い場合、錯体形成反応が不利となり、pH10以上では生成する錯体の加水分解が起こることがあり、好ましくない。
【0035】
[金属イオン選択的吸着剤の回収]
金属イオン選択的吸着剤に吸着したロジウムを回収する方法は、用いる吸着剤によって異なるが、公知の方法が適用できる。キレート樹脂のように金属捕捉部分が化学結合により基材に固定されている場合には、塩酸、硝酸、硫酸などの単独、混合溶液、あるいはチオ尿素、チオシアナートの溶液と処理することにより溶出して濃縮回収される。
【0036】
溶媒抽出剤を多孔質樹脂に含浸した吸着剤では、溶媒抽出剤が化学結合されていないこと、また生成した錯体が有機溶媒に溶解するため、アセトン、ヘキサン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒によって樹脂から容易に溶出することができる。セルロース基材を用いた吸着剤は、そのまま灰化することで有機分を除去して回収される。また、上記の方法により濃縮・回収されたロジウム溶液に、公知の方法により還元剤を加えてロジウムブラックとして金属ロジウムを得ることができる(特許文献1)。
【実施例】
【0037】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
[製造例1]
ジエチレントリアミンを共有結合したキレート樹脂の製造:ジオキサン100mL中に、クロロメチル化したポリスチレン樹脂ビーズ(平均粒径=60−100メッシュ)5g、ジエチレントリアミンの一級アミンをサリチルアルデヒドで保護したもの15gを加え、80℃で24時間加熱、撹拌した。得られた樹脂ビーズより、塩酸溶液で保護基を除き、アセトンで洗浄し、50℃で乾燥した。キレート樹脂の構造を下記する。
【0039】
【化1】

【0040】
[製造例2]
2−アミノメチルピリジンを共有結合したキレート樹脂の製造:ジオキサン100mL中に、クロロメチル化したポリスチレン樹脂ビーズ(平均粒径=60−100メッシュ)5g、2−アミノメチルピリジン18mLを加え、80℃で24時間加熱、撹拌した。得られた樹脂ビーズをアセトンで洗浄し、50℃で乾燥した。キレート樹脂の構造を下記する。
【0041】
【化2】

【0042】
[製造例3]
ジ−(2−エチルヘキシル)リン酸を多孔質樹脂に含浸担持した吸着剤の製造:下記に示したキレート抽出剤ジ−(2−エチルヘキシル)リン酸(大八化学社製)10.5mLを50mLのアセトンに溶解し、この溶液に10gの多孔質ポリアクリルエステル樹脂ビーズ(平均粒径=25−45メッシュ)(Amberlite XAD7、(ロームアンドハース)社製)を加えた。20分間撹拌した後、アセトンを40℃でエバポレートして除き、乾燥したビーズ状のキレート抽出剤を含浸担持した吸着剤を得た。他のキレート抽出剤の含浸についても同様の方法で行うことができる。
【0043】
【化3】

【0044】
[製造例4]
キレート配位子を導入したポリマーを多孔質樹脂に含浸した吸着剤の製造:10gのポリ(オクタデシルビニル−マレイン酸無水物)を200mLのアセトンに溶解し、この中に18.6gの多孔質ポリアクリルエステル樹脂ビーズ(平均粒径=25−45メッシュ)(Amberlite XAD7(ロームアンドハース)社製)を加えた。1時間静置後にアセトンをエバポレートして除き、乾燥したビーズを得た。このポリ(オクタデシルビニル−マレイン酸無水物)を含浸した樹脂ビーズに、4gの2−アミノメチルピリジンと150mLの水を加え、撹拌しながら24時間60℃で加熱した。水で良く洗浄し、50℃で乾燥した。
【0045】
[製造例5]
ジエチレントリアミンを化学結合したキレート繊維の製造:非特許文献3(Journal of Hazardous Materials,170巻、2009年、798−808ページ)の方法により、セルロース繊維(ARBOCEL BE00,東亜化成製)にグリシジルメタクリレートをグラフト重合する。グリシジルメタクリレートを導入したセルロース繊維(5g)に、ジエチレントリアミン(10g)をDMF(100mL)に溶解して加える。混合物を撹拌しながら24時間80℃で加熱した。エタノールでよく洗浄し、50℃で乾燥した。
【0046】
[実施例1]
温度計測用の熱伝対、撹拌装置を備えたガラス製円筒容器(100mL)に、蒸留水に100mgL−1のロジウム標準溶液を5mL加えて調整した10mgL−1のロジウム含有水溶液(pH6.5)を50mL、ならびに製造例1で示したジエチレントリアミンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂0.5gを加え、混合液を撹拌しながら2.45GHzのマイクロ波を照射した。はじめに200Wでマイクロ波を照射し、マイクロ波の出力を溶液の温度が常に70℃に保持するように調整した。一定時間毎に少量の試料溶液をサンプリングし、含有するロジウムの濃度をICP−発光分光装置で測定した。比較のため、同様の実験をマイクロ波照射しないでウォーターバスを用いて70℃に加温して行った。図1に、ロジウムの吸着率(縦軸)と時間(横軸)の関係を示す。○はマイクロ波照射下、●はマイクロ波を照射せずに70℃に保った結果である。マイクロ波照射により、ロジウムの吸着率ならびに吸着速度が向上した。
【0047】
[実施例2]
製造例1で示したジエチレントリアミンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂に代えて、製造例2で示した2−アミノメチルピリジンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂を0.5g用いた以外は、実施例1と同様の条件で吸着実験を行った。結果を図2に示す。
○はマイクロ波照射下、●はマイクロ波を照射せずにウォーターバスを用いて70℃に保った結果である。マイクロ波照射により、ロジウムの吸着率ならびに吸着速度が向上した。
【0048】
[実施例3]
製造例1で示したジエチレントリアミンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂に代えて、製造例3で作製したキレート抽出剤ジ−(2−エチルヘキシル)リン酸を多孔質樹脂に含浸担持した吸着剤を0.5g用いた以外は、実施例1と同様の条件で吸着実験を行った。結果を図3に示す。
○はマイクロ波照射下、●はマイクロ波を照射せずにウォーターバスを用いて70℃に保った結果である。
キレート抽出剤を含浸担持した吸着剤においても、マイクロ波照射によりロジウムの吸着率が向上した。
【0049】
[実施例4]
製造例1で示したジエチレントリアミンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂に代えて、製造例4で作製した2−アミノメチルピリジンを導入したポリマーを多孔質樹脂に含浸した吸着剤を0.5g用いた以外は、実施例1と同様の条件で吸着実験を行った。結果を図4に示す。2−アミノメチルピリジンを導入したポリマーを多孔質樹脂に含浸した吸着剤においてもマイクロ波照射によりロジウムの吸着率が向上した。
○はマイクロ波照射下、●はマイクロ波を照射せずにウォーターバスを用いて70℃に保った結果である。
【0050】
[実施例5]
10mgL−1のロジウム含有水溶液のpHを5.5とした以外は、実施例4と同様に製造例4で作製した2−アミノメチルピリジンを導入したポリマーを多孔質樹脂に含浸した吸着剤を用いた試料溶液を調整した。試料溶液のpHを水酸化ナトリウムを用いて変えて、実施例4と同様のマイクロ波の照射条件で70℃に保持した結果を図5に示す。
図中で◇はpH2.0、△はpH4.0、○はpH6.5における結果を示す。
【0051】
[実施例6]
製造例1で示したジエチレントリアミンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂に代えて、セルロース繊維の母剤に下記のイミノジ酢酸を化学結合したキレスト社製のキレート繊維(キレストIRY)0.1gを用いた以外は、実施例1と同様の条件で吸着実験を行った。イミノジ酢酸が化学結合したキレート繊維においても、マイクロ波照射によりロジウムの吸着率ならびに吸着速度が向上した。
【0052】
【化4】

【0053】
[実施例7]
製造例1で示したジエチレントリアミンをポリスチレン樹脂に結合したキレート樹脂に代えて、製造例5で作製したセルロース繊維の母剤にジエチレントリアミンを化学結合したキレート繊維0.1gを用いた以外は、実施例1と同様の条件で吸着実験を行った。図6に示すようにキレート試剤が化学結合したキレート繊維においても、マイクロ波照射によりロジウムの吸着率ならびに吸着速度が向上した。
○はマイクロ波照射下、●はマイクロ波を照射せずにウォーターバスを用いて70℃に保った結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム含有溶液からのロジウム回収方法において、
(A)金属イオン選択的吸着剤をロジウム含有溶液に加える工程、および、(B)金属イオン選択的吸着剤を含むロジウム含有溶液にマイクロ波を照射する工程、を有することを特徴とするロジウム回収方法。
【請求項2】
前記ロジウム含有溶液中のロジウムがロジウムイオンである請求項1記載のロジウム回収方法。
【請求項3】
前記(B)工程の前に金属イオン選択吸着剤を含むロジウム含有溶液の攪拌混合を行うか、または、前記(B)工程を金属イオン選択吸着剤を含むロジウム含有溶液を攪拌混合しながら行う請求項1または2記載のロジウム回収方法。
【請求項4】
前記(B)工程におけるマイクロ波の照射が、連続照射である請求項1〜3のいずれか一項記載のロジウム回収方法。
【請求項5】
前記金属イオン選択的吸着剤が、基材とキレート試薬が共有結合してなるものである請求項1〜4のいずれか一項記載のロジウム回収方法。
【請求項6】
前記基材が、3次元架橋したポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、セルロースおよびキトサンからなる群から選択される1種以上の基材である請求項5記載のロジウム回収方法。
【請求項7】
前記金属イオン選択的吸着剤が、多孔質材料にキレート試薬を含浸させてなるものである請求項1〜4のいずれか一項記載のロジウム回収方法。
【請求項8】
前記多孔質材料が、3次元架橋したポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、セルロースおよびキトサンからなる群から選択される1種以上の多孔質材料である請求項7記載のロジウム回収方法。
【請求項9】
前記キレート試薬が、キレート配位子を長鎖アルキル誘導体として疎水性化してなるものである請求項7または8記載のロジウム回収方法。
【請求項10】
前記金属イオン選択的吸着剤が、酸素配位子、窒素配位子および硫黄配位子からなる群から選ばれる1種以上の金属捕捉基を有するものである請求項1〜9のいずれか一項記載のロジウム回収方法。
【請求項11】
前記(B)工程におけるマイクロ波の出力が、ロジウム含有溶液100mlに対して10mW〜1.5kWであり、マイクロ波の周波数が300MHz〜3THzである請求項1〜10のいずれか一項記載のロジウム回収方法。
【請求項12】
前記(B)工程を行う際のロジウム含有溶液のpHが1〜10である請求項1〜11のいずれか一項記載のロジウム回収方法。
【請求項13】
錯体形成により金属を捕捉する金属イオン選択吸着剤をロジウム含有溶液に加え、該ロジウム含有溶液を攪拌混合しながら、または、攪拌混合した後、マイクロ波を連続照射することを特徴とするロジウムの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31449(P2012−31449A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170178(P2010−170178)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】