説明

ロジン系エマルジョン型サイズ剤および紙

【課題】乳化安定性、貯蔵安定性に優れるスチレン類−(メタ)アクリル酸を主基材とする共重合体の特長を維持しながら、カルシウム等のカチオン性物質との相互作用によるエマルジョンの破壊や凝集物の生成が少なくできるサイズ剤、およびこれを用いて得られる紙を提供すること。
【解決手段】部分中和または全中和した際の中和物を、硬度0〜300°dHである中和物の1重量%水溶液とした際の表面張力値の最大値と最小値の差が0〜3.0×10−5N/cmの範囲を示し、水酸基価が40〜90mgKOH/g、酸価が200〜300mgKOH/gであるアニオン性官能基を有する共重合体(A)の部分中和物または全中和物(A´)およびロジン系樹脂(B)を含有するロジン系エマルジョン型サイズ剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジン系エマルジョン型サイズ剤および当該ロジン系エマルジョン型サイズ剤を用いて得られる紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙の製造工程においては(1)安価填料である炭酸カルシウム利用による抄紙pHの上昇、(2)古紙使用比率のアップ、更には(3)抄紙排水低減のための抄紙系クローズド化により製紙薬品の効果が発現し難い状況に変化してきている。サイズ剤についても同様で、特に溶存カルシウムイオンの増加による抄紙用水硬度の上昇はエマルジョンサイズ剤粒子の凝集や破壊を引き起こし、パルプ繊維へのサイズ剤の分散定着を著しく阻害しサイズ効果を低下させる。これまでロジン系エマルジョン型サイズ剤は良好なサイズ効果や取り扱いの容易さから紙、板紙用のサイズ剤として広く使用されてきたが、抄紙環境の変化をうけて抄紙用水硬度が多様に変化しても安定したサイズ効果が得られるロジン系エマルジョンサイズ剤が求められている。
【0003】
ロジン系エマルジョンサイズ剤は、ロジン系樹脂を、乳化分散剤等を用いて乳化させることにより得られる。通常、乳化分散剤はロジン系樹脂を微小な粒子として分散安定化させるために使用される。ここで乳化分散剤のイオン性により粒子電位の正負が決定されることが知られているが、製紙工程で一般的に使用される安価なカチオン性薬品である硫酸アルミニウム、カチオン化澱粉などがパルプ繊維へのサイズ剤の定着剤として機能するためロジンエマルジョンサイズ剤としてはマイナスの粒子電荷を有したアニオン性エマルジョンサイズ剤が一般的である。
【0004】
これまで、粒子電位をマイナス側とするためにカルボキシル基等のアニオン性官能基を含有させた高分子乳化剤が種々提案されている。具体的には、例えば、スチレン類−(メタ)アクリル酸を主基材としたアニオン性共重合体をロジン類の乳化分散剤として使用することにより乳化安定性、貯蔵安定性、もしくは凍結解凍安定性が向上するとの提案がなされている。(特許文献1〜3参照)これらはスチレン類−(メタ)アクリル酸を主基材とする共重合体の特性により乳化性や安定性が向上しているものの、抄紙用水硬度の多様な変化に対応するものではない。
【0005】
硬水中でのロジン系エマルジョン型サイズ剤の希釈安定性を向上させる手段として(メタ)アクリルアミドを主基材とした共重合体が提案されており(特許文献4参照)、また、広い抄紙pH域に対応できる(メタ)アクリルアミド系共重合体が提案されている(特許文献5参照)が、何れも乳化性と貯蔵安定性では、スチレン類−(メタ)アクリル酸を主基材としたアニオン性共重合体に劣るものであった。
【0006】
スチレン類−(メタ)アクリル酸系を主基材とする共重合体と硬水希釈安定性の向上に寄与する(メタ)アクリルアミドを組み合わせて機能向上を図ったものとして、スチレン類−(メタ)アクリル酸系共重合体に(メタ)アクリルアミドをグラフトした共重合体(特許文献6参照)、スチレン類−(メタ)アクリル酸系共重合体に(メタ)アクリルアミド系モノマーを5〜30wt%併用した共重合体が乳化分散剤として提案されている(特許文献7参照)が、重合反応が煩雑であったり、基本的に重合性が悪いスチレン類と(メタ)アクリルアミドを重合させるため特定のモノマーの併用が不可欠であり何れも十分とはいえない。
【0007】
【特許文献1】特許第2135746号公報
【特許文献2】特許第2934803号公報
【特許文献3】特開2001−327848号公報
【特許文献4】特開平11−286889号公報
【特許文献5】特許第3277841号公報
【特許文献6】特許第3382006号公報
【特許文献7】特許第3928416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように紙の製造環境は多様に変化しており、抄紙用水硬度も20〜200°dHの幅で、抄紙マシンにより異なり、また抄紙pHも異なるため、この様な抄造条件下でも抄紙系内で希釈分散安定性に優れ、サイズ効果が安定で且つ凝集物等が発生しないロジン系エマルジョン型サイズ剤が求められている。本発明は、乳化安定性、貯蔵安定性に優れるスチレン類−(メタ)アクリル酸を主基材とする共重合体の特長を維持しながら、カルシウム等のカチオン性物質との相互作用によるエマルジョンの破壊や凝集物の生成が少なくできるサイズ剤、およびこれを用いて得られる紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定の高分子およびロジン系樹脂を含有するロジン系エマルジョン型サイズ剤を用いることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記共重合体(A)の部分中和物または全中和物(A´)ならびにロジン系樹脂(B)を含有するロジン系エマルジョン型サイズ剤に関する。なお、共重合体(A)は、部分中和または全中和した際の中和物を、硬度0〜300°dHである中和物の1重量%水溶液とした際の表面張力値の最大値と最小値の差が0〜3.0×10−5N/cmの範囲を示し、水酸基価が40〜90mgKOH/g、酸価が200〜300mgKOH/gであるアニオン性官能基を有する共重合体である。また、本発明は、当該ロジン系エマルジョンサイズ剤を用いて得られた紙に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬水への希釈安定性に優れ、かつ乳化安定性にも優れていることから貯蔵安定性にも優れている。さらに幅広い抄紙pH範囲(特に中性域(pH6〜8))で成紙に優れたサイズ効果を付与することができるロジン系エマルジョン型サイズ剤を提供することができる。また、本発明のロジン系エマルジョン型サイズ剤は、パルプに対する定着性に優れているため硫酸アルミニウム等の使用量を低減することができる。さらに、本発明のロジン系エマルジョン型サイズ剤は、高温抄紙の場合、用水の硬度が高い場合、古紙増配の場合、抄紙系のクローズド化で夾雑物質が増加するような場合であってもサイズ効果を高く維持することができる。また、静置安定性、保存安定性に優れ、皮張りの生成量が少なく、皮張りの水に対する分散性も良好である。さらに機械安定性、低発泡性にも優れることから、抄紙系での発泡や汚れが少なく弱酸性から中性抄紙系でのサイズ効果が従来のサイズ剤と同等以上の効果を示すサイズ剤、これを用いたサイジング紙及びサイジング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のロジン系エマルジョン型サイズ剤は、部分中和または全中和した際の中和物を、硬度0〜300°dHである中和物の1重量%水溶液とした際の表面張力値の最大値と最小値の差が0〜3.0×10−5N/cmの範囲を示し、水酸基価が40〜90mgKOH/g、酸価が200〜300mgKOH/gであるアニオン性官能基を有する共重合体(A)(以下、(A)成分という)の部分中和物または全中和物(A´)(以下、(A´)成分)およびロジン系樹脂(B)(以下、(B)成分という)を含有することを特徴とする。
【0013】
(A)成分としては、部分中和または全中和した際の中和物を、硬度0〜300°dHである中和物の1重量%水溶液とした際の表面張力値の最大値と最小値の差が0〜3.0×10−5N/cmの範囲を示し、水酸基価が40〜90mgKOH/g、酸価が200〜300mgKOH/gであるアニオン性官能基を有する共重合体であれば特に限定されず公知のものを使用することができる。なお、硬度は、水100g中に含まれるカルシウムおよび/またはマグネシウムの量(ミリグラム)を、酸化カルシウム(CaO) の量に換算したものであり、10mg/Lを1°dHとした値である。また、表面張力は、1重量%水溶液を適量シャーレに取り、協和CBVP式表面張力計A−3型(協和科学(株)製)を使用し測定した値である。
【0014】
水酸基価は、[1/((A)成分を構成するモノマーの平均分子量)×(水酸基含有モノマーのモル%×水酸基含有モノマー中の水酸基数)×(KOHの式量)/100]×1000により計算した値であり、酸価は、[1/((A)成分を構成するモノマーの平均分子量)×(カルボン酸基含有モノマーのモル%×カルボン酸基含有モノマー中のカルボン酸基数)×(KOHの式量)/100]×1000により計算した値である。なお、(A)成分を構成するモノマーの平均分子量は、(A)成分を構成するそれぞれのモノマーの分子量に構成するモノマーのモル分率を乗じたものを合計した値である。例えば、(A)成分が(A1)、(A2)、(A3)の3成分を共重合させて得られる場合には、(A)成分を構成するモノマーの平均分子量は、(MA1A1)+(MA2A2)+(MA3A3)で表される。(MA1は、(A1)モノマーの分子量、xA1は、(A1)モノマーのモル分率を表す。なお、MA2、MA3はそれぞれ(A2)モノマーの分子量、(A3)モノマーの分子量を表す。)当該(A)成分の水酸基価が40mgKOH/g未満の場合には、硬水への希釈安定性の点で好ましくなく、水酸基価が90mgKOH/gを超える場合には、乳化性、サイズ効果の点で好ましくない。また、当該(A)成分の酸価が200mgKOH/g未満の場合には、乳化性、サイズ効果の点で好ましくなく、酸価が300mgKOH/gを超える場合には、硬水への希釈安定性の点で好ましくない。
【0015】
具体的には、(A)成分は、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレート類(a1)(以下、(a1)成分という)およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)(以下、(a2)成分という)を必須成分として含有する重合成分を共重合させることにより得られる。
【0016】
(a1)成分としては、分子中に水酸基を有する(メタ)アクリレートであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコールおよびヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテルなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。(a1)成分としては、共重合体(A)に適度な乳化性を付与するため水酸基以外に疎水性基を持つヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0017】
(a2)成分としては、分子中にカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。(a2)成分としては、(a1)成分との共重合性の点から(メタ)アクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0018】
なお、重合成分には、前記(a1)成分または(a2)成分と共重合することができる(a1)成分、(a2)成分以外のラジカル重合性化合物(a3)(以下、(a3)成分という)を用いても良い。(a3)成分としては、例えば、芳香族系モノマー、(a1)成分以外のアルキル(メタ)アクリレート類、カルボン酸ビニルエステル類、(メタ)アクリルスルホン酸類およびその塩、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、などが挙げられる。芳香族系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。(a1)成分以外のアルキル(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。カルボン酸ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等などが挙げられる。
【0019】
(A)成分を得るために用いられる各成分の使用量は、特に限定されないが、通常、(a1)成分を5〜20mol%程度(好ましくは、8〜17mol%)、(a2)成分を20〜50mol%程度(好ましくは、25〜45mol%)とすることが好ましい。なお、(a3)成分の使用量は、30〜75mol%程度(好ましくは、35〜50mol%)とすることが好ましい。
【0020】
(A)成分は、前記(a1)成分および(a2)成分、必要に応じてさらに(a3)成分を含有する重合成分をラジカル重合させることにより得られる。重合法は特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の各種公知の方法を採用できる。溶液重合による場合には、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルイソブチルケトン等の溶媒を使用できる。乳化重合方法で使用する乳化剤としては特に制限はされず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの各種の界面活性剤を使用できる。アニオン性界面活性剤としては、たとえばジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等を例示でき、ノニオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びこれら界面活性剤にビニル基またはアリル基、プロペニル基を導入した反応性界面活性剤等を例示できる。これら界面活性剤は1種または2種以上を適宜選択して使用することができ、その使用量は全仕込単量体の量に対して通常は0.1〜10重量%程度とされる。また、前記重合で使用する重合開始剤としては特に限定はされず、過硫酸塩類、過酸化物、アゾ化合物、レドックス系開始剤などの各種のものを使用でき、分子量を調節するために公知の連鎖移動剤であるイソプロピルアルコール、四塩化炭素、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クメン、チオグリコール酸エステル、アルキルメルカプタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等を適宜使用することもできる。
【0021】
重合により得られた(A)成分の分子量は、ロジン物質(反応生成物)の分散能と直接相関するため通常は重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるスチレン換算値)が1,000〜200,000、好ましくは1,000〜100,000である。1,000以上とすることによりエマルジョンの機械的安定性が向上するため好ましく、200,000以下とすることにより所望の粘度とすることができるため好ましい。なお、(A)成分は通常塩基性化合物を用いて、(A)成分が水溶液に溶解分散する程度の部分中和または全中和し、(A´)成分として用いられる。中和に用いられる塩基性化合物としては特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物の他、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン等のアミン化合物等を用いることができる。なお、中和は完全に行ってもよく、部分的に行っても良い。
【0022】
本発明に用いられる(B)成分としては、公知のロジン類、ロジンエステル類などが挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の原料ロジン、原料ロジンを水素化して得られる水素化ロジン、原料ロジンを不均化させて得られる不均化ロジン、原料ロジンを重合させて得られる重合ロジン、原料ロジンをフェノール類で変性させることにより得られるフェノール変性ロジン、原料ロジンをα,β−不飽和カルボン酸等で変性させることにより得られるα,β−不飽和カルボン酸変性ロジンなどが挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸変性に用いられるα,β−不飽和カルボン酸等としては、無水マレイン酸、マレイン酸、炭素数1〜4程度の低級アルコールと無水マレイン酸から得られるマレイン酸モノエステル類またはマレイン酸ジエステル類、フマル酸、N−アルキルマレイミド類、イタコン酸、イタコン酸無水物、アクリル酸等を例示できる。これらのなかでも無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル類、フマル酸、イタコン酸、イタコン酸無水物が好ましい。α,β−不飽和カルボン酸の使用量は、通常、ロジン類1モル部に対して1モル部以下、好ましくは0.05〜0.75モル部程度、特に好ましくは0.10〜0.70モル部程度である。変性反応は通常、温度150〜300℃程度で、0.5〜24時間程度行う。なお、水素化、不均化、変性等の各操作は、2種以上を組み合わせて行っても良い。2種以上の操作を組み合わせる場合には、所望とする樹脂の種類に応じて、適宜操作の順序を決定すれば良い。なお、後述するロジンエステル類に水素化、不均化、変性等の各種操作を行っても良い。
【0023】
ロジンエステル類は、アルコール類とロジン類をエステル化反応させることにより得られる。アルコール類としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコール類、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価のアルコール類、ジペンタエリスリトールなどの6価のアルコール等が挙げられる(以下、2価以上のアルコールを多価アルコールという場合がある)。これらアルコール類は1種を単独で用いてもよく2種以上を混合して用いても良い。なお、ロジン類と多価アルコールの使用量は、ロジン類のカルボキシル基に対する多価アルコールの水酸基の当量比[−OH(eq)/−COOH(eq)]が、通常0.1〜1.5、好ましくは0.1〜1.0になる範囲とされ、ロジンエステルとして完全エステル化物を製造できる他、未反応ロジン類を含むロジンエステルを製造することもできる。当量比が0.1未満の場合にはロジンエステルの割合が少なくなり、得られるサイズ剤の中性領域でのサイズ効果の向上が十分でなくなる場合がある。また、当量比が1.5を超える場合には、生成するロジンエステルに遊離の水酸基が多量に残存するため、サイズ剤として用いた場合に残存水酸基に起因して、サイズ効果が低下する場合がある。なお、ロジンエステル類としては、ロジングリセリンエステル、ロジンペンタエリスリトールエステルが、性能、コスト、安全性の点から好ましい。なお、ロジンエステル類は、通常、両者を仕込んだ後、多価アルコールの沸点に応じて常圧、減圧又は加圧下に、温度150〜300℃程度で、3〜40時間程度攪拌しながら脱水縮合を行う。また、反応に際して必要ならば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶剤を使用して、共沸下に脱水縮合させることもできる。
【0024】
ロジン類と、ロジンエステル類を混合して使用する場合には、ロジンエステル類の含有量は(B)成分中20〜90重量%とすることが好ましい。ロジンエステル類の含有量を20〜90重量%とすることで、中性領域でのサイズ効果を著しく向上させることができるため好ましい。
【0025】
本発明のロジン系エマルジョン型サイズ剤は、(A´)成分と(B)成分を用い、例えば、特公昭53−4866号公報(溶融高圧乳化法)、特公昭53−22090号公報(溶剤高圧乳化法)または特開昭52−77206号、特公昭58−4938号公報(反転乳化法)等の公知の方法により製造することができる。
【0026】
溶剤高圧乳化法による場合には、あらかじめ水に不溶な有機溶剤に溶解させた(B)成分に対して(A´)成分と水、必要に応じて水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、低級アミン等のアルカリ物質を加え、ホモジナイザー、ピストン型高圧乳化機、超音波乳化機等を使用して乳化し、次いで上記有機溶剤を留去する。なお、共重合体の添加時期は特に制限はされず、少量のアルカリもしくは界面活性剤を用いて乳化した場合には、乳化機を通した後でも、また溶剤留去後でも問題なく、いずれも良好な水性エマルジョンを収得しうる。
【0027】
また、反転法による場合には、(B)成分を通常90〜160℃程度に加熱攪拌して溶融し、(A´)の水溶液または該水性エマルジョンと所定量の熱水とを添加して相反転させ、ロジン物質が分散相であり水が連続相であるエマルジョンを形成させる。
【0028】
上記溶剤高圧乳化、反転乳化に際しては、分散剤たる共重合体(A´)成分は通常ロジン物質を含む分散相全体に対して固形分換算で1〜30重量%程度、下限としては好ましくは2重量%、上限としては好ましくは20重量%の範囲とする。1重量%以上とすることで分散が良好となる。また30重量%を超えて使用するのは経済的でない。なお、所望により、得られたこれらのエマルジョンは、水またはアルカリ水で希釈して、該エマルジョンのpHを調整することができる。
【0029】
また、上記溶剤高圧乳化、反転乳化に際しては、前記共重合体に加えて発泡性、サイズ効果に悪影響を与えない範囲で界面活性剤を添加することもできる。該界面活性剤としては、前述の共重合体の乳化重合時に使用した各種のものを使用できる。
【0030】
得られた本発明のロジン系エマルジョン型サイズ剤は通常10〜70重量%程度、下限として好ましくは30重量%、上限としては好ましくは55重量%の固形分を有する。また、レーザー回折・散乱法による平均粒子径は、0.2〜0.7μm程度で均一な水性エマルジョンである。該水性エマルジョンは乳白色の外観を呈し、通常2.0〜7.5のpHを有する。また、該水性エマルジョンは室温において少なくとも6ケ月間安定であり、沈殿を生ずることもない。また、硬水における希釈安定性が優れているので河川、水道、井戸等の水を用いても充分に希釈することができ、パルプの水分散液によく分散され、しかもその希釈液は長時間安定であり、極めて低発泡性でもある。さらに、機械的安定性が良好である。
【0031】
本発明により得られたロジン系エマルジョン型サイズ剤は、100〜300°dHの硬水を用いて希釈されたサイズ剤固形分0.164重量%の希釈液が、25℃にて一日静置保管後の上澄み部の濁度測定(McVan社製:ANALITE NEPHELOMETER
MODEL 152)において100〜5,000NTUの値を示すものである。
【0032】
本発明の紙は、前記製紙用エマルジョンサイズ剤を、例えばパルプの水分散液に硫酸アルミニウム等の定着剤とともに添加しpH4〜8でサイジングする方法またはパルプの水分散液にカチオン性の定着剤等とともに添加し、pH4〜8で抄造する方法により製造することができる。幅広い抄紙pH範囲で成紙に優れたサイズ効果を付与することができる。填料を用いる場合には、タルク、クレー、カオリン等の珪酸塩や二酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機填料、尿素−ホルマリン樹脂等の有機填料の一種を単独でまたは二種以上を併用して使用できる。この場合、製紙用エマルジョンサイズ剤はパルプに対して通常0.05〜3重量%程度(乾燥重量基準)で使用される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明方法を更に詳しく説明するが、本発明がこれらに限定されないことはもとよりである。なお、実施例中、表記の無い限り単位%は重量%を示す。
【0034】
製造例1
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに界面活性剤(ハイテノールLA−10、第一工業製薬(株)製)4.0g(対モノマー総量1.0重量%)、ヒドロキシブチルアクリレート43.7g(8.0モル%)、80%メタクリル酸158.5g(38.9モル%)、イタコン酸19.7g(4.0モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム31.7g(5.3モル%)、スチレン140.0g(35.5モル%)、α−メチルスチレン26.4g(5.9モル%)、ブチルアクリレート11.6g(2.4モル%)、イオン交換水1090.0g、連鎖移動剤として、α−メチルスチレンダイマー16.0g(対モノマー総量4.0重量%)を仕込み、この混合液を攪拌しながら窒素ガスバブリング下で60℃まで昇温した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)16.0g(対モノマー総量4.0重量%)を加え、90℃まで昇温し、100分間保持した後、後重合用の触媒として過硫酸アンモニウム(APS)4.0g(対モノマー総量1.0重量%)を更に加え、さらに60分間90℃で保持した。次いで48%水酸化ナトリウム水溶液146.5g(メタクリル酸、イタコン酸のカルボン酸基を99モル%中和)を加え、メタクリル酸、イタコン酸の中和を行い、イオン交換水を加えて固形分25.2%、粘度53mPa・s、pH9.4、水酸基価42.5mgKOH/g、酸価249.1mgKOH/gの共重合体溶液を製造した。なお、粘度の測定にはB型粘度計、pHの測定はpH METER F−14(HORIBA製)を用い、25℃で測定した(以下、粘度の測定条件は同じ)。また、水酸基価は[1/((A)成分を構成するモノマーの平均分子量)×(水酸基含有モノマーのモル%×水酸基含有モノマー中の水酸基数)×(KOHの式量)/100]×1000により計算した値であり、酸価は、[1/((A)成分を構成するモノマーの平均分子量)×(カルボン酸基含有モノマーのモル%×カルボン酸基含有モノマー中のカルボン酸基数)×(KOHの式量)/100]×1000により計算した値である。本共重合体溶液(製造例1)はそのまま乳化分散剤として使用した。
【0035】
製造例2〜7および10〜11
製造例1において、各モノマーの配合組成を表1に示す通りに変更した以外は同様の方法で行い、製造例2〜7、及び11は固形分25%、製造例10は固形分22%の共重合体溶液である乳化分散剤を得た。なお、製造例6、製造例10に関しては、メタクリル酸、イタコン酸のカルボン酸基の中和に48%水酸化カリウム水溶液を用いた。
【0036】
製造例8〜9
製造例1において、各モノマーの配合組成を表1に示す通り変更し、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン(対モノマー総量2.0重量%)、開始剤の過硫酸アンモニウム(APS)量を、対モノマー総量に対し、前重合時5.0重量%、後重合時2.0重量%とした以外は同様の方法で行い、製造例8は固形分25%、製造例9は固形分22%の共重合体溶液である乳化分散剤を得た。中和剤に関しても表1に示す通りである。
【0037】
製造例12
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにアクリルアミド205.0g(66.0モル%)、ブチルアクリレート44.8g(8.0モル%)、イタコン酸136.4g(24.0モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム13.8g(2.0モル%)、イオン交換水630.5g、イソプロピルアルコール548.1g、連鎖移動剤として、n−ドデシルメルカプタン2.4g(対モノマー総量0.6重量%)を仕込み、この混合液を攪拌しながら窒素ガスバブリング下で、50℃まで昇温した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)8.8g(対モノマー総量2.2重量%)を加え、80℃まで昇温し、3時間保持した。次いでイソプロピルアルコールの留去を行い、イオン交換水を加えて固形分25.3%、粘度1200mPa・s、pH4.3、水酸基価0mgKOH/g、酸価294.1mgKOH/gの共重合体溶液(製造例12)を製造した。
【0038】
製造例13
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに界面活性剤(ハイテノールLA−10、第一工業製薬(株)製)4.0g(対モノマー総量1.0重量%)、アクリルアミド52.0g(17.7モル%)、メタクリル酸159.8g(35.9モル%)、イタコン酸19.9g(3.7モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム32.1g(4.9モル%)、スチレン131.0g(30.4モル%)、α−メチルスチレン24.9g(5.1モル%)、ブチルアクリレート12.2g(2.3モル%)、イオン交換水1090.0g、連鎖移動剤として、α−メチルスチレンダイマー16.0g(対モノマー総量4.0重量%)を仕込み、この混合液を攪拌しながら窒素ガスバブリング下で60℃まで昇温した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)16.0g(対モノマー総量4.0重量%)を加え、90℃まで昇温し、100分間保持した後、後重合用の触媒として過硫酸アンモニウム(APS)4.0g(対モノマー総量1.0重量%)を更に加え、さらに90℃、60分間で保持した。次いで48%水酸化ナトリウム水溶液149.2g(メタクリル酸、イタコン酸のカルボン酸基の99モル%中和)を加え、メタクリル酸、イタコン酸の中和を行い、イオン交換水を加えて固形分25.0%、粘度110mPa・s、pH9.2、水酸基価0mgKOH/g、酸価251.2mgKOH/gの共重合体溶液を製造した。共重合体溶液(製造例13)をそのまま乳化分散剤として使用した。
【0039】
【表1】

表中、HPAは、ヒドロキシプロピルアクリレート、HBAは、ヒドロキシブチルアクリレート、GMAは、グリセリンモノアクリレート、MAAは、メタクリル酸、IAは、イタコン酸、Stは、スチレン、αMeStは、アルファメチルスチレン、MMAは、メタクリル酸メチル、BAは、アクリル酸ブチル、BMAは、メタクリル酸ブチル、SMASは、メタリルスルホン酸ナトリウム、AMは、アクリルアミドを表す。また、中和の欄の種は中和の際に用いたアルカリ化合物の種類を、率は、共重合体が有する酸性基のモルに対し、使用したアルカリ成分のモルの割合[{(使用したアルカリ成分のモル数)/(共重合体が有する酸性基のモル数)}×100で表される値]を表す。
【0040】
製造例1〜13で得られた共重合体(A)、その中和物(A´)の物性値等を表2に示す。なお、水酸基価、酸価は、中和前の共重合体(A)のモノマー構成成分から計算される値であり、固形分、粘度、pH、表面張力は、中和物(A´)として測定したものである。
【0041】
【表2】

表中、水酸基価の単位は(mgKOH/g)、酸価の単位は(mgKOH/g)、固形分の単位は(重量%)、表面張力の単位は(N/cm(×10−5))である。
【0042】
上記製造例で得られた共重合体(A´)について下記表面張力試験を行った。
(表面張力試験)
塩化カルシウム水溶液を使用し、0°dH、100°dH、200°dH、300°dHとなる上記製造例で得られた共重合体(A´)の1重量%水溶液を作製した。
各水溶液を適量シャーレに取り、協和CBVP式表面張力計A−3型(協和化学(株)製)を使用し表面張力値を測定した(単位:N/cm(×10−5))その結果を表2に示す。
【0043】
製造例14(ガムロジンのフマル酸強化物(1)の製造例)
160℃の溶融状態にある酸価170mgKOH/gのガムロジン675.0gにフマル酸47.0gを加えて、190〜220℃で2時間加熱加温し、ガムロジンのフマル酸強化物(1)を得た。この強化物のフマル酸の付加率は7%で、酸価は205mgKOH/gであった。
【0044】
製造例15(ロジンエステル化物(2)の製造例)
攪拌機、温度計、窒素導入管、分水器及び冷却器を備えたフラスコに、酸価170のガムロジン664.2gとグリセリン55.6g(仕込みモル比 OH/COOH=0.90)、また、酸化防止剤としてノクラック300(OUCHI SHINKO CHEMICAL INDUSTRIAL製)1.0g、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸0.1gを仕込み、窒素気流下270℃まで加熱し、攪拌下、同温度で15時間反応させ、酸価16mgKOH/gのロジンエステル化物(2)を得た。
【0045】
実施例1
上記製造例14で得られたガムロジンのフマル酸強化物(1)240gと上記製造例15で得られたロジンエステル化物(2)60gを約160℃に加熱溶融し、攪拌しながら製造例1で得られた共重合体水溶液を、共重合体水溶液中に含まれる総固形分が19.5gとなる量を滴下して混合し、W/O形態とし、これに熱水を添加して安定なO/Wエマルジョンとした後、室温まで冷却した。上記共重合体溶液(製造例1)を用いて得られたエマルジョンの固形分濃度は50.3%、エマルション粘度は30mPa・s、平均粒子径は0.49μmであった。各共重合体溶液を用いた時の各エマルジョンの物性を表3に示す。なお、粘度の測定にはB型粘度計を用い、25℃で測定した。(以下、粘度の測定条件は同様に行った)。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒子径測定装置LASER DIFFRACTION PARTICLE SIZE ANALYZER SALD−2000J(SHIMADZU製)で測定した(以下、粒子径の測定条件は同様に行った)。
【0046】
実施例2〜6、実施例8、比較例3、比較例6
実施例1において用いた製造例1で得られた共重合体水溶液を表3に示すように変更した以外は同様にしてロジンエマルジョン型サイズ剤を調製した。
【0047】
実施例7
約160℃に加熱溶融した製造例14で得られたガムロジンのフマル酸強化物(1)と製造例15で得られたロジンエステル化物(2)の混合物に、製造例6で得られた共重合体水溶液を、共重合体水溶液中に含まれる総固形分が18.0gとなるように滴下混合する他は実施例1と同様にして、固形分濃度50%のロジンエマルジョン型サイズ剤を得た。
【0048】
比較例1
約160℃に加熱溶融した製造例14で得られたガムロジンのフマル酸強化物(1)と製造例15で得られたロジンエステル化物(2)の混合物に、製造例8で得られた共重合体水溶液を、共重合体水溶液中に含まれる総固形分が21.0gとなるように滴下混合する以外は実施例1と同様にして、固形分濃度50%のロジンエマルジョン型サイズ剤を得た。
【0049】
比較例2および4
比較例1において用いた製造例8で得られた共重合体水溶液を表3に示すように変更した以外は同様にしてロジンエマルジョン型サイズ剤を調製した。
【0050】
比較例5
約160℃に加熱溶融した製造例14で得られたガムロジンのフマル酸強化物(1)と製造例15で得られたロジンエステル化物(2)の混合物に、製造例12で得られた共重合体水溶液を、共重合体水溶液中に含まれる総固形分が25.5gとなるように滴下混合する以外は同様の方法で行い固形分濃度50%のロジンエマルジョン型サイズ剤を得た。
【0051】
実施例、比較例で得られたロジンエマルジョン型サイズ剤の性状を表3に示した。
また、各ロジンエマルジョン型サイズ剤について以下の実験を行った。結果を表3および表4に示す。
【0052】
機械的安定性試験
実施例、比較例で得られたロジンエマルジョン型サイズ剤50gを試験用容器に入れ、温度25℃、荷重10kg、回転数800rpmにて5分間マーロン式安定性試験を行った。生成した凝集物を350メッシュ金網にて濾別して全固形分に対する析出量を測定し百分率で表した。その結果を表3に示した。使用機器はMARON(1000 rpm)(新星産業(株)製)。
【0053】
静置安定性試験
実施例、比較例で得られたロジンエマルジョン型サイズ剤100gをマヨネーズ瓶に入れ、室温で2ヶ月静置後、350メッシュ金網で全量濾過し、全固形分に対する濾過残渣量を測定した(ppm)。その結果を表3に示した。
【0054】
【表3】

表中、使用量の単位は(固形分重量%)、固形分の単位は(重量%)、粘度の単位は(mPa・s)、粒子径の単位は(μm)、機械安定性の単位は(%)、静置安定性の単位は(ppm)である。
【0055】
濁度測定試験
実施例、比較例で得られた各ロジンエマルジョン型サイズ剤溶液を、0°dH、100°dH、200°dH、300°dH各硬度の塩化カルシウム水溶液でロジンエマルジョンサイズ剤固形分が0.164重量%となるように希釈し、24時間室温で静置した後、希釈液の上澄み液の濁度(NTU)をMcVan社製:ANALITE NEPHELOMETER MODEL 152を用いて測定した。その結果を表4に示した。
【0056】
手抄き試験
段ボール古紙(灰分12%含有)をパルプ濃度2.0%になる量の水道水を加えビーターを用いて500mlカナディアン・スタンダード・フリーネスまで叩解した。
叩解したパルプスラリーを更に水道水で希釈しパルプ濃度1.0%に調整した。
このパルプスラリーに対パルプ1.0%(絶乾重量基準)の硫酸バンドを添加した後、サイズ剤固形分として対パルプ0.6%(絶乾重量基準)となるように実施例、比較例で調製したロジンエマルジョン型サイズ剤(100°dH、200°dH、300°dHの各硬度の塩化カルシウム水溶液にそれぞれ添加し一定の時間攪拌したもの)を添加した後、抄紙機(Tappi Standard Sheet Machine(丸型))で、坪量110g/mとなるように抄紙した。なお、この時の抄紙pHは6.2であった。手抄きした湿紙を線圧5.5kg/cm、送り速度2m/minの条件のロールプレス機で脱水した。湿紙の乾燥は、回転式ドライヤーを用いて80℃で150秒間の条件で行った。得られた試験紙を恒温恒湿(23℃、50%相対湿度)環境下で24時間調湿した後、Cobb吸水度を測定した。Cobb吸水度測定方法はJIS −P8140に準ずる。その結果を表4に示した。
【0057】
発泡性試験
上記実施例、比較例で調製した各ロジンエマルジョン型サイズ剤溶液を、100°dH、200°dH、300°dH各硬度の塩化カルシウム水溶液で25重量%に希釈し、マヨネーズ瓶に40gとり、液面高さを測定後、激しく振り混ぜた後、1分間静置した。静置後の液面の高さを測定し以下の式で発泡性(%)を算出した。その結果を表4に示した。(発泡性)=[(静置後の液面の高さ)/(攪拌前の液面高さ)]×100
【0058】
【表4】

【0059】
評価例はいずれも、固形分濃度50%においても静置安定性(皮張り量、エマルジョンの固形分粒子の沈降)に問題はなく、エマルジョン粘度も50mPa・s以下と実用上問題のないエマルジョンであった。しかし、比較評価例1〜6では静置安定性、サイズ性能に問題があり、特に、乳化分散力の足りない比較評価例5ではレーザー回折・散乱法による平均粒子径が2μmを超えており、静置安定性、サイズ性能は著しく劣っていた。一方、比較評価例6は、乳化分散力は十分であるが、エマルジョン粘度が170mPa・s(固形分濃度50%)と高く、皮張りが発生し易く静置安定性が劣るため実用上の取り扱いに問題が生じると考えられる。各硬度でのサイズ性能においては評価例の方が比較評価例より優れており、硬度が高くなるに連れてその差が大きいことは明らかである。また、エマルジョンの発泡性においても評価例は比較評価例に比べて低発泡性を示すことが明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記共重合体(A)の部分中和物または全中和物(A´)およびロジン系樹脂(B)を含有するロジン系エマルジョン型サイズ剤。
共重合体(A):部分中和または全中和した際の中和物を、硬度0〜300°dHである中和物の1重量%水溶液とした際の表面張力値の最大値と最小値の差が0〜3.0×10−5N/cmの範囲を示し、水酸基価が40〜90mgKOH/g、酸価が200〜300mgKOH/gであるアニオン性官能基を有する共重合体。
【請求項2】
共重合体(A)が、水酸基含有(メタ)アクリレート類(a1)およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)を必須成分とした重合成分の共重合体である請求項1に記載のロジン系エマルジョン型サイズ剤。
【請求項3】
水酸基含有(メタ)アクリレート類(a1)が、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコールおよびヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のロジン系エマルジョン型サイズ剤。
【請求項4】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)が、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸および無水シトラコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2または3に記載のロジン系エマルジョンサイズ剤。
【請求項5】
ロジン系エマルジョン型サイズ剤のレーザー回折・散乱法による平均粒子径が0.2〜0.7μmである請求項1〜4のいずれかに記載のロジン系エマルジョン型サイズ剤。
【請求項6】
硬度100〜300°dHの範囲の硬水で希釈された0.164重量%水溶液の一日静置後の上澄み部の濁度が、100〜5,000NTUの値を示す請求項1〜5のいずれかに記載のロジン系エマルジョン型サイズ剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のロジン系エマルジョン型サイズ剤を用いて得られた紙。


【公開番号】特開2009−174106(P2009−174106A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307431(P2008−307431)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】