説明

ロックアップクラッチ機構及びその製造方法

【課題】簡単な構成で、ロックアップクラッチのピストン押圧力の変化にかかわらず、より摩擦面の円周方向の面圧を均一にすることができ、それによりジャダーを防止するロックアップクラッチ機構を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構(30)であって、ロックアップクラッチ機構は、ロックアップピストン(1)と、ロックアップピストンと係合可能な係合面を有するフロントカバー(2)とからなり、ロックアップピストンとフロントカバーの何れか一方に摩擦材(12)を接着する摩擦材接着面(15,16,17)が設けられ、摩擦材接着面は軸方向に隆起した隆起形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機のトルクコンバータに使用されるロックアップクラッチ機構に関し、より詳細には、ロックアップクラッチ機構の摩擦摺動面の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に使用されているトルクコンバータは、スムースな発進、加速、減速ができる反面、流体を介して動力を伝達するので、伝達効率が悪いという側面がある。そのため、車両が所定速度以上になると、エネルギーロスを減少させ、燃費を向上させるため、ロックアップクラッチを備えたロックアップクラッチ機構を作動させることによりエンジンと駆動輪とを直結した状態とすることが行われている。
【0003】
また最近ではより一層の燃費向上のため、低速時においてもロックアップクラッチ機構を作動している。この場合、低速時のエンジン振動及び、変速ショックを低減するために、所定回転数でのスリップ量を維持させて、ロックアップ制御を行う、いわゆるスリップロックアップ制御を行っている。
【0004】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2004−011710号(第1図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ロックアップクラッチには、ジャダーといわれる自励振動が生じることがあり、車の乗り心地がはなはだ悪くなる。ジャダーは、特に摩擦面でのスリップ時における円周方向の面圧分布の不均衡の影響が大きい。面圧分布の不均衡は、摩擦面の精度に大きく影響され、ロックアップクラッチのピストンの僅かなうねりやフロントカバーに設けられているドライブプレートの取付ボルトなどの歪により、摩擦面の円周方向のバラツキが生じる。
【0006】
このようなジャダーの発生を抑えるため、例えば、特許文献1では、摩擦材の圧縮により、ロックアップピストンに固定する摩擦材の半径方向内径側と外径側で密度を異なるようにする、また摩擦材にテーパー形状を設けるなどの対策により、摩擦面のμ−V特性の低下を抑えることを提案している。
【0007】
しかしながら、前述のようにジャダーの発生は、摩擦面でのスリップ時における円周方向の面圧分布の不均衡に起因するところが大きく、特許文献1の対策では、必ずしも満足のいくジャダー対策とはならなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、簡単な構成で、ロックアップクラッチのピストン押圧力の変化にかかわらず、より摩擦面の円周方向の面圧を均一にすることができ、それによりジャダーを防止するロックアップクラッチ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のロックアップクラッチ機構は、
トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、前記ロックアップクラッチ機構は、ロックアップピストンと、前記ロックアップピストンと係合可能な係合面を有するフロントカバーとからなり、前記ロックアップピストンと前記フロントカバーの何れか一方に摩擦材を接着する摩擦材接着面が設けられ、前記摩擦材接着面は軸方向に隆起した隆起形状を有することを特徴としている。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のロックアップクラッチ機構の製造方法は、
摩擦材接着面を切削加工することで、隆起形状を形成することを特徴としている。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のロックアップクラッチ機構の製造方法は更に、
摩擦材の接着は、摩擦材接着面の隆起形状とほぼ同じ形状の凹状の押圧面により押圧して行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
摩擦材接着面を軸方向に隆起した隆起形状としたことで、ロックアップスリップ時のロックアップクラッチのピストンが比較的低い押圧力で押圧している場合でも、最も隆起した部分での接触面圧は高く摩擦材の可撓性により円周方向でほぼ均一に接触可能となるための円周方向の摩擦面圧力が均一性が改善される。
【0013】
また、ピストンの押圧力の変化に対しても、円周方向の摩擦面圧の均一性がより安定的に保たれることによりジャダーを低減できる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の各実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。図面中、同一部分は同一符号にて示してある。また、以下説明する実施例は本発明を例示として示すものであり、いかなる意味でも限定するものでないことは言うまでもない。
【0015】
図1は、本発明の各実施例が適用できるロックアップクラッチ機構付きトルクコンバータ30の軸方向部分断面図であり、ロックアップクラッチの解放状態で示している。トルクコンバータ30は、トルクコンバータ30のハウジングの一部を形成するフロントカバー2と、フロントカバー2に固定されたドーナッツ状の羽根車であるインペラ9と、インペラ9の羽根と互いに対向する羽根を有するドーナッツ状の羽根車であるタービン10と、インペラ9とタービン10との間に回転可能に設けられたステータ5とから成っている。インペラ9、タービン10、ステータ5とでトルクコンバータ本体を構成している。
【0016】
インペラ9は、図示しない車両エンジンのクランクシャフトに接続されており、フロントカバー2と共にエンジンの回転に伴って回転する。また、タービン10は、出力軸11に直結されており、不図示の変速機構を介して不図示の車輪に連結されている。ステータ5は、インペラ9とタービン10の内周中央に挟まれた形で、トルクコンバータ30内に充填されている流体の流れを変える機能を有している。
【0017】
フロントカバー2の内面とタービン10の外面との間には、フロントカバー2の内面に対向した面に摩擦材12を接着剤により貼着固定した、ロックアップクラッチ機構を構成し、ピストン動作をする円環状のプレートであるロックアップクラッチ、すなわちロックアップピストン1が設けられ、出力軸11と一体に回転する。摩擦材12の摩擦面13はフロントカバー2の内面に対向している。尚、説明の便宜上「ロックアップピストン」は以下単に「ピストン」と称する。
【0018】
タービン10の外面とピストン1との間には、ピストン1が締結した時の衝撃を緩和するため、コイルバネ6および7から成るダンパ機構が設けられている。また、トルクコンバータ30の中央には中央空間8が画成されている。
【0019】
次に、ピストン1の動作を説明する。車両の車速が所定速以上になると、不図示のコントロール機構によりフィードバック制御され、インペラ9とタービン10とで画成されるトルクコンバータ30内の流体の流れが自動的に変化する。その変化により、ピストン1はフロントカバー2の内面に押しつけられることになり、ピストン1の摩擦材12がフロントカバー2の内面と締結され、ピストン1は直結状態となり、エンジンの駆動力が直接、出力軸11に伝達される。従って、駆動側と出力側とが流体を介さずに機械的にロックアップ(直結)されるので、流体ロスを防ぎ燃費を向上することができる。
【0020】
尚、トルクコンバータ30は、不図示の油圧制御機構に連結されており、この油圧制御機構はロックアップピストン、すなわちピストン1のスリップ状態を維持するためピストン1を挟む2つのオイル経路、すなわち外周側と内周側との間の圧力差(ピストン1の前後の圧力差)をほぼ一定に保ちながら、オイルの流量を変更、すなわち増減している。
【0021】
(第1実施例)
図2は、本発明の第1実施例を示す、ピストン及び摩擦材の拡大部分断面図である。ピストン1は、フロントカバー2に対向する面に、摩擦材接着面15を備えている。摩擦材接着面15の外径側と内径側にはそれぞれ隣接して周方向の溝21及び22が設けられている。溝21及び22は、摩擦面を潤滑する潤滑油の通路として用いられる。
【0022】
摩擦材接着面15は、図2から分かるように、溝21及び22を基点として軸方向においてフロンカバー2に向かって中高の形状、すなわち隆起した形状を有している。この隆起形状は連続した曲面から形成されている。最も隆起した部分18は、第1実施例の場合、径方向において摩擦材接着面15のほぼ中央に位置している。
【0023】
摩擦材接着面15には、ほぼ均等な厚さを有する摩擦材12が接着剤などで接着される。接着された摩擦材12は、摩擦材接着面15の隆起形状と相補的な形状を備える。従って、摩擦材12の表面形状も径方向におけるほぼ中央がもっとも軸方向に突出している。
【0024】
(第2実施例)
図3は、本発明の第1実施例を示す、ピストン及び摩擦材の拡大部分断面図である。基本的な構成は第1実施例と同じである。
【0025】
摩擦材接着面16は、図3から分かるように、溝21及び22を基点として軸方向においてフロンカバー2に向かって中高の形状、すなわち隆起した形状を有している。この隆起形状は連続した曲面から形成されている。最も隆起した部分19は、第2実施例の場合、摩擦材接着面16の外径側に片寄っている、すなわち中央部より外径側に位置する。
【0026】
摩擦材接着面16には、ほぼ均等な厚さを有する摩擦材12が接着剤などで接着される。接着された摩擦材12は、摩擦材接着面16の隆起形状と相補的な形状を備える。従って、摩擦材12も中央部より外径側に偏移した部分19でもっとも軸方向に突出している。
【0027】
(第3実施例)
図4は、本発明の第1実施例を示す、ピストン及び摩擦材の拡大部分断面図である。基本的な構成は第1実施例と同じである。
【0028】
摩擦材接着面17は、図4から分かるように、溝21及び22を基点として軸方向においてフロンカバー2に向かって中高の形状、すなわち隆起した形状を有している。この隆起形状は連続した曲面から形成されている。最も隆起した部分20は、第3実施例の場合、摩擦材接着面17の内径側に片寄っている、すなわち中央部より内径側に位置する。
【0029】
摩擦材接着面17には、ほぼ均等な厚さを有する摩擦材12が接着剤などで接着される。接着された摩擦材12は、摩擦材接着面17の隆起形状と相補的な形状を備える。従って、摩擦材12も中央部より内径に偏移した部分20でもっとも軸方向に突出している。
【0030】
図5は、各実施例における摩擦材接着面の最も隆起した部分と基部との差を示す模式図である。図5は、一例として第1実施例の場合を示している。摩擦材接着面15の中央部、ずなわち、最も隆起した部分18と基部との差はhで表され、その大きさは0.03mmから0.25mmの範囲である。
【0031】
以上説明した本発明にかかるロックアップクラッチ機構を製造するには、先ず、ピストン1またはフロントカバー2の摩擦材接着面を切削加工することで隆起形状を形成する。また、摩擦材の接着は、摩擦材接着面の隆起形状とほぼ同じ形状の凹状の押圧面を有する部材により押圧して行う。
【0032】
摩擦材接着面の隆起形状は、曲線だけから構成してもよいし、直線の組み合わせにより構成してもよい。また、直線と曲線とを組み合わせて構成してもよい。その後、摩擦材を接着することにより、摩擦材の表面形状を半径方向に中高となるような形状とすることができる。特に、切削加工により摩擦材接着面に隆起形状を形成することで、摩擦材の中高な、すなわち隆起した正確な摩擦面を製造することができる。
【0033】
以上説明した各実施例において摩擦材はほぼ環状の形状を有するが、必ずしも環状ではなく、セグメント状の複数の摩擦材を環状に配置することもできる。また、また、摩擦材12は、半径方向の厚さが異なるものであってもよい。
【0034】
また、摩擦材接着面がロックアップピストンに形成されている実施例のみを説明したが、摩擦材接着面をフロントカバーに形成することももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の各実施例が適用できるロックアップクラッチ機構付きトルクコンバータの軸方向部分断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す、ピストン及び摩擦材の拡大部分断面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す、ピストン及び摩擦材の拡大部分断面図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す、ピストン及び摩擦材の拡大部分断面図である。
【図5】各実施例における摩擦材接着面の最も隆起した部分と基部との差を示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ロックアップピストン
2 フロントカバー
12 摩擦材
15、16、17 摩擦材接着面
18、19、20 最も隆起した部分
30 ロックアップクラッチ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、前記ロックアップクラッチ機構は、ロックアップピストンと、前記ロックアップピストンと係合可能な係合面を有するフロントカバーとからなり、前記ロックアップピストンと前記フロントカバーの何れか一方に摩擦材を接着する摩擦材接着面が設けられ、前記摩擦材接着面は軸方向に隆起した隆起形状を有することを特徴とするロックアップクラッチ機構。
【請求項2】
前記摩擦材接着面は、前記ロックアップピストンに設けられていることを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項3】
前記摩擦材接着面は、前記フロントカバーに設けられていることを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項4】
前記摩擦材接着面が軸方向にもっと隆起した部分は前記摩擦材の半径方向の中央部より外径側に位置することを特徴とする請求項2または3に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項5】
前記摩擦材接着面が軸方向に最も隆起した部分は前記摩擦材の半径方向の中央部より内径側に位置することを特徴とする請求項2または3に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項6】
前記摩擦材接着面の最も隆起した部分と基部との差は0.03mmから0.25mmの範囲であることを特徴とする請求項1から5までの何れか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項7】
前記摩擦材接着面に、ほぼ均一な厚さの摩擦材が貼り付けられていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項8】
前記摩擦材接着面を切削加工することで、前記隆起形状を形成することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のロックアップクラッチ機構の製造方法。
【請求項9】
前記摩擦材の接着は、前記摩擦材接着面の前記隆起形状とほぼ同じ形状の凹状の押圧面により押圧して行うことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載のロックアップクラッチ機構の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−2506(P2008−2506A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170345(P2006−170345)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)