ロックボルト施工方法及びロックボルト
【課題】 削孔内を地盤に対して確実に遮水して、定着材の流出を防止することが可能なロックボルト施工方法及びロックボルトを提供すること。
【解決手段】 透水係数が10-3cm/sec以下の筒状織布で構成された袋体2に、その端部に形成された挿入口から棒鋼3を挿入した後、棒鋼3及び袋体2を、地盤に形成された削孔20内に設置してから、袋体2内に定着材4を注入して袋体2を削孔20の内面に密着させ、袋体2により削孔20内を地盤に対して遮水した状態で定着材4を定着させる。
【解決手段】 透水係数が10-3cm/sec以下の筒状織布で構成された袋体2に、その端部に形成された挿入口から棒鋼3を挿入した後、棒鋼3及び袋体2を、地盤に形成された削孔20内に設置してから、袋体2内に定着材4を注入して袋体2を削孔20の内面に密着させ、袋体2により削孔20内を地盤に対して遮水した状態で定着材4を定着させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の安定化を目的として地盤内に設置されるロックボルト施工方法及びロックボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟弱な地盤を安定化する工法として、地盤に形成された削孔にロックボルトを挿入して地盤を強化する工法が知られている。このようなロックボルト施工方法としては、削孔に棒鋼を挿入してから棒鋼と削孔の内面との間の空間に定着材を注入充填する方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、棒鋼の先端部に細かい孔を有する袋体を被せてから、棒鋼及び袋体を削孔内に挿入し、袋体内にモルタル等の定着材を注入充填しつつ袋体の孔から定着材を削孔の内面側へ流出させる方法もある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−233199号公報
【特許文献2】特開平6−185051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、湧水が生じる地盤にロックボルトを施工することも多々あるが、特許文献1に記載されているような、削孔内に直接定着材を注入する方法では、ロックボルトの施工中に削孔内に水が浸入して、削孔内の定着材が削孔から流出してしまう虞がある。
【0005】
一方、特許文献2に記載されているような、棒鋼に袋体を被せてから袋体内に定着材を注入する方法では袋体によりある程度は水を遮断できる。しかし、袋体は、削孔の内面側へ定着材を流出させるための細かい孔を有することから、地盤からこれらの孔を通して袋体内に水が浸入して袋体内の定着材が流出してしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、削孔内を地盤に対して確実に遮水して、定着材の流出を防止することが可能なロックボルト施工方法及びロックボルトを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
第1の発明のロックボルト施工方法は、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、且つ、その膨張後の径が地盤に形成された削孔の径に略等しくなるように設定された筒状の袋体に、その端部に形成された挿入口から棒鋼を挿入する第1工程と、前記棒鋼及び前記袋体を、前記削孔内に設置する第2工程と、前記袋体内に定着材を注入手段により注入して袋体を前記削孔の内面に密着させ、前記袋体により削孔内を地盤に対して遮水した状態で前記定着材を定着させる第3工程とを有することを特徴とするものである。
【0008】
従って、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成された透水性の低い筒状の袋体により、削孔内を地盤に対して確実に遮水することができ、削孔内に注入された定着材が流出してしまうのを抑制して、定着材を削孔内に確実に充填することができる。また、袋体で遮水しつつ定着材の注入を行うことができるため、効率的に施工を行うことができ、施工期間を短縮できる。さらに、定着材を注入した後には、袋体は速やかに削孔の径まで膨張し、削孔の内面に密着するため、地盤中の圧力湧水が削孔を介して定着材と共に流出して地盤が緩んでしまうのを確実に防止できる。
【0009】
第2の発明のロックボルト施工方法は、前記第1の発明において、前記第3工程において、前記定着材の注入圧力を圧力管理手段により管理しながら、所定の圧力値となるまで定着材を加圧注入することを特徴とするものである。このように、圧力管理手段で注入圧力を管理しながら定着材を注入することで、袋体内の定着材の充填状況を把握できる。また、定着材を、袋体が破断しない範囲内で高い圧力で注入することで、定着材を脱水させて速やかに固化させることができ、緻密な定着材を形成することができる。また、高い注入圧力により袋体を削孔内面の細かな凹凸に食い込ませることができ、ロックボルトの引き抜き耐力が高くなる。
【0010】
第3の発明のロックボルト施工方法は、前記第1又は第2の発明において、前記第3工程において、前記定着材の注入量を管理しながら、所定の注入量となるまで定着材を加圧注入することを特徴とするものである。このように、注入量を管理しながら定着材を注入することで、袋体内の定着材の充填状況を把握できる。
【0011】
第4の発明のロックボルト施工方法は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記袋体又は前記棒鋼には、袋体の内部と前記削孔の外部とを連通させる第1連通手段及び第2連通手段が設けられており、前記第3工程において、前記第1連通手段から袋体内のエアーを排出させながら、前記第2連通手段を介して定着材が流出するまで袋体内に定着材を注入することを特徴とするものである。
【0012】
定着材の注入時に袋体内にエアーが残留していると、定着材の注入に従って、圧縮されたエアーの圧力により、削孔内に未充填箇所を残した状態で袋体が破断し、注入された定着材が外へ飛び出すことがある。しかし、この第3の発明においては、第1連通手段により袋体内のエアーが排出されるため、定着材が外へ飛び出すことがない。また、第1連通手段を介してエアーを確実に排出することにより、定着材を袋体内に確実に充填することができる。さらに、第2連通手段から定着材が流出するまで定着材を注入することにより、袋体内の隅々まで定着材が充填された状態を容易に確認することができ、定着材が高い密度で充填された高品質のロックボルトが得られる。
【0013】
第5の発明のロックボルト施工方法は、前記第4の発明において、前記注入手段が前記袋体内に挿入されたチューブであり、前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記第1連通手段及び前記第2連通手段が、管状の棒鋼の内部通路からなることを特徴とするものである。このように、棒鋼がその両端において開口した管状である場合には、エアーを排出するための第1連通手段と定着材充填確認用の第2連通手段は別々に設ける必要はなく、棒鋼の内部通路を第1連通手段及び第2連通手段として利用することができる。従って、施工時には、定着材注入用のチューブだけを袋体内に挿入すればよく、チューブの本数を減らすことができ、施工が容易になる。また、袋体の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体の径を小さくまとめやすくなり、袋体を削孔内に挿入しやすくなるので、挿入時に袋体が削孔の壁面に接触しにくく、袋体の表面が傷つきにくくなる。
【0014】
第6の発明のロックボルト施工方法は、前記第4の発明において、前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記注入手段が、管状の棒鋼の内部通路からなり、前記第1連通手段及び前記第2連通手段が前記袋体内に挿入されたチューブであることを特徴とするものである。この場合、棒鋼の内部通路を注入手段として利用することができ、注入用のチューブ等を別に設ける必要がない。また、エアーを排出するための第1連通手段と定着材充填確認用の第2連通手段は別々に設ける必要はなく、同じチューブを兼用することによりチューブの本数を減らすことができ、施工が容易になる。また、袋体の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体の径を小さくまとめやすくなり、袋体を削孔内に挿入しやすくなるので、挿入時に袋体が削孔の壁面に接触しにくくなり、袋体の表面が傷つきにくい。
【0015】
第7の発明のロックボルト施工方法は、前記第5又は第6の発明において、前記袋体内に前記定着材を注入する前、あるいは、注入した後に、挿通穴を有するプレートに前記棒鋼を挿通し、前記袋体の挿入口を覆うように前記プレートを取り付けることを特徴とするものである。このように、棒鋼が挿通されたプレートにより袋体の挿入口を覆うことができるため、定着材注入用、または、エアー排出及び定着材充填確認用のチューブの端部を、地盤から少し突出した状態で切断しても邪魔にならず、端部の処理が容易になる。
【0016】
第8の発明のロックボルトは、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、地盤に形成された削孔内に挿入されてこの削孔の内面に密着するように配置された筒状の袋体と、この袋体の一端部に形成された挿入口から袋体内に挿入された棒鋼と、前記袋体内に注入充填された定着材とを有することを特徴とするものである。従って、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成された透水性の低い筒状の袋体により、削孔内を地盤に対して確実に遮水することができ、袋体内に注入された定着材が削孔内に定着する前に流出してしまうのを抑制して、定着材を削孔内に確実に充填することができる。
【0017】
ここで、袋体の厚さが薄い場合には、袋体の削孔の内面に対する食い込みが大きく、引き抜き耐力が大きくなる。しかし、袋体があまりにも薄すぎると袋体の強度及び耐摩耗性が低くなり、簡単に袋体に穴が開いたり、あるいは、破断したりする虞がある。そこで、袋体の厚さは0.1〜0.5mmであることが好ましい(第9の発明)。
【0018】
第10の発明のロックボルトは、前記第8又は第9の発明において、前記袋体の内面に、非透水性膜が形成されており、この非透水性膜を含む前記袋体の厚さが0.5mm以下であることを特徴とするものである。このように、袋体の内面に非透水性膜が形成されている場合には、袋体の遮水性がさらに向上する。また、非透水性膜を含む袋体の厚さが0.5mm以下であるため、袋体の削孔の内面に対する食い込みが大きくなり、引き抜き耐力が大きくなる。また、定着材の注入圧力が削孔に作用しやすく、定着材が漏れにくくなる。
【0019】
第11の発明のロックボルトは、前記第8〜第10の何れかの発明において、前記袋体の前記一端部近傍に、前記定着材を袋体内に注入するための注入口が、前記挿入口とは別に形成されていることを特徴とするものである。棒鋼が挿入される挿入口と、定着材が注入される注入口とが別々に形成されているため、挿入口と注入口の径を極力小さくして袋体の耐圧力を高めることができる。従って、定着材の注入圧力を高くしても袋体が破断しにくくなる。
【0020】
第12の発明のロックボルトは、前記第8〜第11の何れかの発明において、前記袋体とこの袋体内に挿入された棒鋼とが、前記挿入口近傍において、巾着状に緊縛されていることを特徴とするものである。この場合には、挿入口からの棒鋼の挿入、及び、挿入口における棒鋼と袋体との締結を容易に行うことができる。また、袋体と棒鋼とを巾着状に緊縛することにより、施工後に、袋体及び棒鋼の端部の、地盤表面から突出する部分の長さを極力短くして、邪魔にならないようにすることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のロックボルト1は、袋体2と、この袋体2に挿入された棒鋼3と、袋体2内に注入充填されたモルタル等の定着材4(図5、図6参照)とを有し、湧水が生じる地盤内に設置されるものである。
【0022】
図1〜図3に示すように、袋体2は、例えば、ナイロン繊維等の合成繊維の糸で織成された薄い基布(厚さ0.2〜0.5mm程度)を筒状に縫製することにより形成した筒状織布で構成されている。この筒状織布の透水係数は10-3cm/sec以下であり、袋体2は極めて水を通しにくくなっている。さらに、袋体2の内面に、合成樹脂等からなる非透水性膜が形成されてコーティングされていてもよい。この場合には、袋体の透水性がさらに低くなり、袋体2はさらに水を通しにくくなる。このようにコーティングが施された袋体2を構成する基布としては、例えば、特開2001−329468号公報に記載のものがある。尚、このような基布を用いる場合には、コーティングが施される前の織物の透水係数は10-3cm/secより大きくてもよい。また、袋体2の径は、その内部に定着材4が充填されて膨張したときに、地盤に形成された削孔20(図5〜図7参照)の内面に確実に密着するように、削孔20の径と略等しくなるように設定されている。尚、膨張後の袋体2の径は削孔20よりも多少は大きくてもよいが、あまりにも大きいと袋体2にしわ等が生じて削孔20に対する密着性が低下するため、削孔20の径に近いことが好ましい。
【0023】
この袋体2の一端部(図2の右端部)は閉塞されているが、他端部(図2の左端部)には棒鋼3が挿入される挿入口2aが形成されており、外部に開口している。この挿入口2aには袋体2よりも長い棒鋼3が挿入される。尚、本実施形態の棒鋼3は、その両端において開口した管状のものである。
【0024】
図2、図3に示すように、挿入口2aが形成された袋体2の端部は外側に折り返された状態で袋体2の外面に縫製され、環状の折り返し部の内部にはバンド10が挿通されている。そして、このバンド10を締め付けることにより、袋体2と、この袋体2から突出した棒鋼3の部分とを、挿入口2a近傍において巾着状に緊縛して挿入口2aを閉止することができるように構成されている。尚、バンド10の代わりに紐や針金状のもので袋体2と棒鋼3を巾着状に括って挿入口2aを閉止するようになっていてもよい。
【0025】
図2に示すように、挿入口2aが形成された袋体2の端部近傍の、袋体2の側部には、棒鋼3が挿入される挿入口2aとは別に、注入口2bが形成されており、この注入口2bから定着材4を注入するチューブ5が袋体2内に挿入される。また、この注入口2bを囲うように、筒状織布12が袋体2に縫製により取り付けられており、その内部にもバンド11が挿通されている。そして、このバンド11を締め付けることにより、袋体2とチューブ5とを注入口2b近傍において巾着状に緊縛して、注入口2bを閉止することができるように構成されている。
【0026】
次に、ロックボルト1の施工方法について説明する。ここでは、特に、図4〜図6に示すように、ロックボルト1を斜め上向きに設置する場合について説明する。
【0027】
まず、掘削機等を用いて斜め上方へ延びる削孔20を掘削形成する。地盤にもよるが、この削孔20の長さは、例えば、数m程度の長さである。一方、袋体2に挿入口2aから棒鋼3を挿入するとともに、注入口2bからチューブ5(注入手段)を挿入し、図1のように組み立てる(第1工程)。ここで、棒鋼3を袋体2の奥まで完全に挿入せずに、棒鋼3の開口した先端が袋体2の内面により塞がれてしまわないようにしておく。そして、バンド10,11により、袋体2と棒鋼3、及び、袋体2とチューブ5とを夫々巾着状に緊縛し、挿入口2a及び注入口2bを閉止する。尚、より確実に挿入口2a及び注入口2bを閉止するために、袋体2と棒鋼3及びチューブ5との間に、スポンジ等の間詰め材を夫々介在させた状態でバンド10,11を締め付けてもよい。
【0028】
また、袋体2及び棒鋼3を削孔20内に挿入する際に、袋体2が削孔20の内面に接触してしまうのを極力防止するために、図4に示すように、袋体2の外面にテープ25等を巻き付けて袋体2が広がらないようにしておく。さらに、複数のずり防止金具21を適当な間隔を空けて袋体2の外側に取り付けておく。これら複数の金具21は、斜め上方へ延びる削孔20内で袋体2がずり落ちるのを防止するとともに、削孔20内で袋体2を位置決め(センタリング)するためのものである。
【0029】
次に、図5に示すように、袋体2及び棒鋼3を削孔20内に挿入する(第2工程)。そして、図6に示すように、チューブ5をポンプ22に接続し、チューブ5から袋体2内にモルタル等の定着材4を注入し、袋体2を削孔20の内面に密着させる(第3工程)。ここで、袋体2は、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成されており、水をほとんど通さない。そのため、袋体2により削孔20内を地盤に対して遮水した状態で定着材4を注入することができる。従って、図6の矢印で示すように、地盤内に湧水が生じた場合でも、削孔20内に水が浸入するのを抑制して、定着材4が削孔20から流出してしまうのを防止でき、定着材4を削孔20内に確実に充填することができる。また、袋体2で遮水しつつ定着材4の注入を行うことができるため、効率的に施工を行うことができ、施工期間を短縮できる。さらに、削孔20を介して地盤の水が湧出するのを確実に防止できるため、地盤が緩まない。
【0030】
また、袋体2は、薄い基布で構成されているため、削孔20の内面に多少の凹凸(1〜5mm程度)がある場合でも、定着材4が注入された袋体2は注入圧力により削孔20の内面に確実に食い込む。そのため、ロックボルト1に引き抜き方向の力が作用したときに、袋体2と削孔20の内面との間の摩擦力が大きくなって滑りにくくなるため、引き抜き耐力が大きくなる。また、袋体2の内面が非透水性膜によりコーティングされている場合には、定着材4の注入圧力が削孔20にさらに作用しやすく、定着材4が漏れにくくなるので、袋体2は削孔20の内面によく食い込み、引き抜き耐力がさらに大きくなる。
【0031】
尚、袋体2内(削孔20内)にエアーが残留していると、このエアーが定着材4により圧縮され、さらに、圧縮されたエアーにより、注入された定着材4が削孔20内に完全に充填される前に袋体2の挿入口2aや注入口2bの近傍部が破断してしまい、定着材4が外へ飛び出してしまうことがある。しかし、本実施形態では、袋体2内に定着材4を注入していくと、図6の点線の矢印で示すように、袋体2の内部と削孔20の外部とを連通させている管状の棒鋼3の内部通路を通して、削孔20内のエアーが外部へ排出されていく。そのため、削孔20内のエアーを確実に排出することができ、定着材4が削孔20内に完全に充填されることから、充填中に袋体2が破断して定着材4が外へ飛び出すことがない。
【0032】
また、袋体2への定着材4の注入は、チューブ5の途中に設けられた圧力センサ23(圧力管理手段)により注入圧力を管理しながら所定の圧力値(例えば、0.5MPa)となるまで行う。このように、注入圧力を管理しながら定着材4を注入することにより、袋体2内の定着材4の充填状況を容易に把握できる。また、袋体2が破断しない範囲内で高い圧力で定着材4を注入して、定着材4を脱水させて速やかに固化させることができ、緻密な定着材4を形成することができる。さらに、定着材4の圧力により袋体2を削孔20の内面に食い込ませることができ、ロックボルト1の引き抜き耐力が高くなる。尚、袋体2の耐圧力は、注入圧力よりも大きい圧力値であることが必要であり、例えば、注入圧力が0.5MPaである場合には、袋体2の耐圧力は1MPa以上であることが好ましい。
【0033】
あるいは、チューブ5の途中に設けられた積算流量計等により注入量を管理しながら、所定の注入量となるまで定着材4を加圧注入してもよい。あるいは、バルブ等により定着材4の注入速度を所定値に維持しながら注入し、注入時間を管理することにより所定量の定着材4を注入するようにしてもよい。このように、注入量を管理しながら定着材5を注入することで、袋体2内の定着材5の充填状況を把握できる。また、注入圧力と注入量の両方を同時に管理しながら定着材5を袋体2内に注入するようにしてもよい。
【0034】
そして、図7に示すように、袋体2内の先端まで定着材4が注入されると、棒鋼3の開口した先端からその内部通路を通って定着材4が外へ流出してくる。そのため、袋体2の内部に隅々まで定着材4が充填されたことが容易に確認できる。その後、定着材4の注入を停止して、ロックボルト1の施工を完了する。
【0035】
以上説明したロックボルト1施工方法及びそのロックボルト1によれば、透水係数が10-3cm/sec以下の透水性の低い基布で構成された筒状の袋体2により削孔20内を地盤に対して遮水した状態で、定着材4を袋体2内に注入することができる。従って、地盤内に湧水が生じた場合でも、削孔20内に水が浸入するのを抑制して、定着材4が削孔20から流出してしまうのを防止でき、定着材4を削孔20内に確実に充填することができる。また、袋体2で遮水しつつ定着材4の注入を行うことができるため、効率的に施工を行うことができ、施工期間を短縮できる。さらに、地盤中の圧力湧水が削孔20を介して定着材4とともに流出して地盤が緩んでしまうのを確実に防止できる。
【0036】
また、袋体2は、薄い基布で構成されているため、削孔20の内面に多少の凹凸がある場合でも、定着材4が注入された袋体2は注入圧力により削孔20の内面に確実に食い込むことから、引き抜き耐力が大きくなる。さらに、袋体2の内面が非透水性膜によりコーティングされている場合には、定着材4の注入圧力が削孔20により作用しやすく、定着材4が漏れにくくなるため、袋体2は削孔20の内面によく食い込み、引き抜き耐力がさらに大きくなる。
【0037】
チューブ5から袋体2内に定着材4を注入するとともに、棒鋼3内の内部通路を介して袋体2内のエアーを排出することができるため、削孔20内のエアーを確実に排出することができ、定着材4を完全に充填する前に、圧縮されたエアーの圧力により袋体2が破断して定着材4が外へ飛び出すことがない。また、袋体2内に定着材4が注入されると、棒鋼3内の内部通路を通って定着材4が外へ流出してくるため、袋体2の内部に隅々まで定着材4が充填されたことを容易に確認できる。さらに、管状の棒鋼3内の通路を、エアー排出用の連通路及び定着材4の充填確認用の連通路として利用することにより、エアー排出用や充填確認用のチューブを棒鋼3とは別に袋体2内に挿入する必要がなく、施工を簡素化することができる。また、袋体2の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体2を小さくまとめやすくなり、袋体2を削孔20内に挿入しやすくなるし、削孔20への挿入時に袋体2が削孔20の内面に接触しにくくなり、袋体2の表面が傷つきにくくなる。また、ロックボルト1に対する削孔20の径を小さくすることができ、削孔作業及び定着材4の注入作業の効率を向上させることができる。
【0038】
袋体2の端部には、棒鋼3が挿入される挿入口2aと、チューブ5が挿入される注入口2bとが別々に形成されている(図2参照)。そのため、挿入口2a(注入口2b)の径を小さくすることにより、袋体2の耐圧力を大きくすることができ、定着材4の注入圧力を大きくしても袋体2が破断しにくくなる。また、挿入口2a及び注入口2bを、バンド10,11を締め付けることにより巾着状に閉じるため、挿入口2a及び注入口2bからの棒鋼3及びチューブ5の挿入、及び、挿入口2a及び注入口2bにおける袋体2と棒鋼3及びチューブ5との締結作業を容易に行うことができる。また、施工後に、袋体2や棒鋼3、あるいは、チューブ5の、地盤表面から突出した部分の長さを極力短くして、邪魔にならないようにすることも可能になる。
【0039】
次に、以上説明した本実施形態のロックボルトについて、いくつかの検証を行った。
この検証において使用した袋体及び棒鋼の仕様を表1に示す。ここで、定着長Lとは、削孔内に挿入される部分の長さを示している。また、2つの袋体(No.1及びNo.2)は共に、ナイロン繊維製の薄い高密度基布で構成されている。また、No.1の袋体の内面は何らコーティングされていないのに対して、No.2の袋体の内面は合成樹脂材料からなる非透水性膜でコーティングされている。
【0040】
【表1】
【0041】
まず、袋体(No.1及びNo.2)の透水係数を、図8に示すような試験装置30により測定された透水量に基づいて求めた。この試験装置30においては、水槽31内の台座32に載置された基布33(袋体)に対して、基布33の上方に位置する水槽34内の水により垂直方向に所定の水頭差を与えた状態で、基布33を浸透する水の量(透水量)を測定する。そして、この透水量をQ(cm3/s)、水頭差をΔh(cm)、基布33の断面積をA(cm2)、基布33の厚さをHg(cm)としたときに、その垂直方向の透水係数kv(cm/sec)は、kv=(Q・Hg)/(A・Δh)の式で表される。また、基布33に対して負荷を与えない無負荷状態、基布33を一方向に外力を加えて10%伸長させた状態、あるいは、所定の水圧を作用させた状態の、何れかの状態で、透水量Qを測定し、透水係数を求めた。以上により求めた透水係数を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2からわかるように、非透水性膜のコーティングが内面に施されていないNo.1の袋体では、コーティングが施されているNo.2の袋体と比べると、透水係数が大きく、水を通しやすい。しかし、施工時には、袋体内に加圧された定着材が注入されることから袋体は中空状態ではなく、袋体のみで受け持つ水圧はほとんどないと考えられるため、内面がコーティングされていないNo.1の袋体でも十分な遮水性能を有すると考えられる。また、外力あるいは水圧等が作用した条件下では、無負荷条件と比較して、透水係数がそれほど大きくなっておらず、外力あるいは水圧等が作用した条件下でも袋体は十分な遮水性能を備えていることがわかる。
【0044】
次に、2種類の袋体(No.1及びNo.2)内に表1の仕様の棒鋼を夫々挿入してから、袋体と棒鋼を削孔(φ=46mm〜48mm、深さ800mm)内に挿入し、さらに、定着材として、水セメント比(W/C)が60%のモルタルを注入して得られた、2種類のロックボルトと、削孔内にモルタルのみを注入して得られたロックボルトの、計3種類のロックボルトの夫々について3体の試験体を作製した。そして、これら試験体に対して引き抜き力(最大180kN)を作用させたときの、荷重−変位曲線を図9に示す。
【0045】
一般的には、モルタルが削孔の内面に直接食い込んでいる場合(モルタルのみからなるロックボルト)よりも、モルタルと削孔の内面との間に袋体が介在する場合(袋体を有するロックボルト)のほうが、ロックボルトと削孔との間の摩擦力が小さくなり、引き抜き耐力が小さくなってしまうようにも思われるが、図9に示すように、2種類の袋体(No.1及びNo.2)を用いたロックボルトは180kNの最大荷重を作用させたときでも抜けることがなく、これらの引き抜き耐力は、モルタルのみからなるロックボルトと同等以上であることがわかった。これについては、袋体の厚さが大きく関係している。即ち、袋体の厚さが薄いほど、袋体が削孔の内面に食い込みやすくなり、袋体と削孔との間に作用する摩擦力が大きくなるため、ロックボルトの引き抜き耐力は大きくなる。
【0046】
但し、袋体が薄すぎると、袋体の引張強度や耐摩耗性が低くなり、穴が開いたり、あるいは、破断しやすくなる。特に、実際の施工においては、棒鋼が数m程度と比較的長い場合が多いが、前述のように、袋体と棒鋼とを削孔内に挿入する前に袋体にテープ等を巻く(図4参照)などの対策をしていても、挿入の際に棒鋼が撓んで袋体が削孔の内面に接触することは十分に考えられ、袋体が傷ついたり破れたりする虞がある。そこで、袋体2の厚さは、本検証で使用されたNo.1及びNo.2の袋体の厚さである0.3mmに近い値で、且つ、ある程度の強度(例えば、1500〜2000N/5cm程度の強度)を有する値であることが好ましく、例えば、0.1〜0.5mmの範囲内で決定することが好ましい。また、内面が非透水性膜によりコーティングされた袋体でも、非透水性膜を含んだ袋体の厚さは0.5mm以下に抑えられていることが好ましい。
【0047】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]前記実施形態の袋体2では、棒鋼3が挿入される挿入口2aは袋体2の径と同じになっているが、挿入口2aの径が袋体2の主要部の径よりも小さくなっていてもよい。例えば、図10に示すように、袋体42が、小径部40とこの小径部40に連なる大径部41とを有する異径筒状織布で構成されており、小径部40の端部に挿入口42aが形成されていてもよい。このように、挿入口42aが袋体42の主要部(大径部41)の径よりも小さくなっていると、この挿入口42a付近の耐圧力が大きくなり、定着材をより高い圧力で袋体42内に注入することが可能になる。
【0048】
2]前記実施形態とは棒鋼3とチューブ5の作用を逆にして、棒鋼3から定着材4の注入を行う一方で、チューブ5からエアーを排出させるとともに、充填完了後に定着材4を流出させるようにしてもよい。この方法は、削孔20が下向きに延びている場合に特に有効である。この場合でも、前記実施形態と略同様の効果が得られ、定着材注入用のチューブ5を棒鋼3とは別に袋体2内に挿入する必要がなく、施工を簡素化することができる。また、袋体2の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体2を小さくまとめやすくなり、袋体2を削孔20内に挿入しやすくなるし、削孔20への挿入時に袋体2が削孔20の壁面に接触しにくくなる。さらには、削孔20の径を1ランク小さくすることも可能になる。
【0049】
3]図11、図12に示すように、袋体2の挿入口2aを覆うように、削孔20の開口部付近にプレート50を取り付けてもよい。このプレート50は、地盤に当接する基板51と、この基板51から外方(図11の上方)に突出し、且つ、基板51に一体的に設けられた略半球状のカバー部52とを有する。平面視で、カバー部52の中央部には、挿通穴52aが形成されている。そして、この挿通穴52aに棒鋼3を挿通した状態でナット53を締め込むことにより、プレート50が取り付けられる。また、カバー部52の、挿通穴52aから外側にずれた位置には、穴径の小さい別の挿通穴52bが形成されている。そして、この挿通穴52bに、定着材注入用、あるいは、エアー排出及び定着材充填確認用のチューブ5が挿通されて袋体2内に定着材4が注入される。このように、棒鋼3が挿通されたプレート50により袋体2の挿入口2aを覆うことができるため、定着材注入用、または、エアー排出及び定着材充填確認用のチューブ5の端部を、地盤から少し突出した状態で切断しても邪魔にならず、チューブ5の端部処理が容易になる。また、袋体2が削孔20から飛び出すように膨張したとしても、ロックボルト1のネジ部にナット53を嵌めた時に、プレート50の基板51により地盤を確実に支圧することができる。さらに、このように、プレート50を取り付けてから袋体2内に定着材4を注入する場合には、袋体2の挿入口2aをバンド10等により閉じずに、このプレート50により挿入口2aを直接塞ぐことも可能になり、袋体2の端部処理がさらに容易になる。
【0050】
一方、先に袋体2内に定着材4を注入してから、プレートを取り付けることも可能である。この場合には、図13に示すように、チューブ5の端部を短く切断してから外側からプレート50Aを被せて取り付けることになるため、図12におけるカバー部51の挿通穴51bは不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態に係る袋体の正面図である。
【図2】袋体の縦断面図である。
【図3】図1の袋体を左方から見た図である。
【図4】削孔に挿入する前に袋体と棒鋼とを組み立てた状態を示す図である。
【図5】袋体及び棒鋼を削孔に挿入した状態を示す図である。
【図6】袋体内に定着材を注入している状態を示す図である。
【図7】定着材の注入が完了した状態の図である。
【図8】透水量を測定する試験装置の概略構成図である。
【図9】ロックボルトの荷重−変位曲線である。
【図10】変更形態の袋体の正面図である。
【図11】削孔付近にプレートを取り付けてから定着材を注入している状態を示す図である。
【図12】図10のプレートの平面図である。
【図13】定着材を注入後にプレートが取り付けられた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ロックボルト
2 袋体
2a 挿入口
2b 注入口
3 棒鋼
4 定着材
5 チューブ
20 削孔
23 圧力センサ
42 袋体
42a 挿入口
50,50A プレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の安定化を目的として地盤内に設置されるロックボルト施工方法及びロックボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟弱な地盤を安定化する工法として、地盤に形成された削孔にロックボルトを挿入して地盤を強化する工法が知られている。このようなロックボルト施工方法としては、削孔に棒鋼を挿入してから棒鋼と削孔の内面との間の空間に定着材を注入充填する方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、棒鋼の先端部に細かい孔を有する袋体を被せてから、棒鋼及び袋体を削孔内に挿入し、袋体内にモルタル等の定着材を注入充填しつつ袋体の孔から定着材を削孔の内面側へ流出させる方法もある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−233199号公報
【特許文献2】特開平6−185051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、湧水が生じる地盤にロックボルトを施工することも多々あるが、特許文献1に記載されているような、削孔内に直接定着材を注入する方法では、ロックボルトの施工中に削孔内に水が浸入して、削孔内の定着材が削孔から流出してしまう虞がある。
【0005】
一方、特許文献2に記載されているような、棒鋼に袋体を被せてから袋体内に定着材を注入する方法では袋体によりある程度は水を遮断できる。しかし、袋体は、削孔の内面側へ定着材を流出させるための細かい孔を有することから、地盤からこれらの孔を通して袋体内に水が浸入して袋体内の定着材が流出してしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、削孔内を地盤に対して確実に遮水して、定着材の流出を防止することが可能なロックボルト施工方法及びロックボルトを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
第1の発明のロックボルト施工方法は、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、且つ、その膨張後の径が地盤に形成された削孔の径に略等しくなるように設定された筒状の袋体に、その端部に形成された挿入口から棒鋼を挿入する第1工程と、前記棒鋼及び前記袋体を、前記削孔内に設置する第2工程と、前記袋体内に定着材を注入手段により注入して袋体を前記削孔の内面に密着させ、前記袋体により削孔内を地盤に対して遮水した状態で前記定着材を定着させる第3工程とを有することを特徴とするものである。
【0008】
従って、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成された透水性の低い筒状の袋体により、削孔内を地盤に対して確実に遮水することができ、削孔内に注入された定着材が流出してしまうのを抑制して、定着材を削孔内に確実に充填することができる。また、袋体で遮水しつつ定着材の注入を行うことができるため、効率的に施工を行うことができ、施工期間を短縮できる。さらに、定着材を注入した後には、袋体は速やかに削孔の径まで膨張し、削孔の内面に密着するため、地盤中の圧力湧水が削孔を介して定着材と共に流出して地盤が緩んでしまうのを確実に防止できる。
【0009】
第2の発明のロックボルト施工方法は、前記第1の発明において、前記第3工程において、前記定着材の注入圧力を圧力管理手段により管理しながら、所定の圧力値となるまで定着材を加圧注入することを特徴とするものである。このように、圧力管理手段で注入圧力を管理しながら定着材を注入することで、袋体内の定着材の充填状況を把握できる。また、定着材を、袋体が破断しない範囲内で高い圧力で注入することで、定着材を脱水させて速やかに固化させることができ、緻密な定着材を形成することができる。また、高い注入圧力により袋体を削孔内面の細かな凹凸に食い込ませることができ、ロックボルトの引き抜き耐力が高くなる。
【0010】
第3の発明のロックボルト施工方法は、前記第1又は第2の発明において、前記第3工程において、前記定着材の注入量を管理しながら、所定の注入量となるまで定着材を加圧注入することを特徴とするものである。このように、注入量を管理しながら定着材を注入することで、袋体内の定着材の充填状況を把握できる。
【0011】
第4の発明のロックボルト施工方法は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記袋体又は前記棒鋼には、袋体の内部と前記削孔の外部とを連通させる第1連通手段及び第2連通手段が設けられており、前記第3工程において、前記第1連通手段から袋体内のエアーを排出させながら、前記第2連通手段を介して定着材が流出するまで袋体内に定着材を注入することを特徴とするものである。
【0012】
定着材の注入時に袋体内にエアーが残留していると、定着材の注入に従って、圧縮されたエアーの圧力により、削孔内に未充填箇所を残した状態で袋体が破断し、注入された定着材が外へ飛び出すことがある。しかし、この第3の発明においては、第1連通手段により袋体内のエアーが排出されるため、定着材が外へ飛び出すことがない。また、第1連通手段を介してエアーを確実に排出することにより、定着材を袋体内に確実に充填することができる。さらに、第2連通手段から定着材が流出するまで定着材を注入することにより、袋体内の隅々まで定着材が充填された状態を容易に確認することができ、定着材が高い密度で充填された高品質のロックボルトが得られる。
【0013】
第5の発明のロックボルト施工方法は、前記第4の発明において、前記注入手段が前記袋体内に挿入されたチューブであり、前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記第1連通手段及び前記第2連通手段が、管状の棒鋼の内部通路からなることを特徴とするものである。このように、棒鋼がその両端において開口した管状である場合には、エアーを排出するための第1連通手段と定着材充填確認用の第2連通手段は別々に設ける必要はなく、棒鋼の内部通路を第1連通手段及び第2連通手段として利用することができる。従って、施工時には、定着材注入用のチューブだけを袋体内に挿入すればよく、チューブの本数を減らすことができ、施工が容易になる。また、袋体の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体の径を小さくまとめやすくなり、袋体を削孔内に挿入しやすくなるので、挿入時に袋体が削孔の壁面に接触しにくく、袋体の表面が傷つきにくくなる。
【0014】
第6の発明のロックボルト施工方法は、前記第4の発明において、前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記注入手段が、管状の棒鋼の内部通路からなり、前記第1連通手段及び前記第2連通手段が前記袋体内に挿入されたチューブであることを特徴とするものである。この場合、棒鋼の内部通路を注入手段として利用することができ、注入用のチューブ等を別に設ける必要がない。また、エアーを排出するための第1連通手段と定着材充填確認用の第2連通手段は別々に設ける必要はなく、同じチューブを兼用することによりチューブの本数を減らすことができ、施工が容易になる。また、袋体の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体の径を小さくまとめやすくなり、袋体を削孔内に挿入しやすくなるので、挿入時に袋体が削孔の壁面に接触しにくくなり、袋体の表面が傷つきにくい。
【0015】
第7の発明のロックボルト施工方法は、前記第5又は第6の発明において、前記袋体内に前記定着材を注入する前、あるいは、注入した後に、挿通穴を有するプレートに前記棒鋼を挿通し、前記袋体の挿入口を覆うように前記プレートを取り付けることを特徴とするものである。このように、棒鋼が挿通されたプレートにより袋体の挿入口を覆うことができるため、定着材注入用、または、エアー排出及び定着材充填確認用のチューブの端部を、地盤から少し突出した状態で切断しても邪魔にならず、端部の処理が容易になる。
【0016】
第8の発明のロックボルトは、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、地盤に形成された削孔内に挿入されてこの削孔の内面に密着するように配置された筒状の袋体と、この袋体の一端部に形成された挿入口から袋体内に挿入された棒鋼と、前記袋体内に注入充填された定着材とを有することを特徴とするものである。従って、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成された透水性の低い筒状の袋体により、削孔内を地盤に対して確実に遮水することができ、袋体内に注入された定着材が削孔内に定着する前に流出してしまうのを抑制して、定着材を削孔内に確実に充填することができる。
【0017】
ここで、袋体の厚さが薄い場合には、袋体の削孔の内面に対する食い込みが大きく、引き抜き耐力が大きくなる。しかし、袋体があまりにも薄すぎると袋体の強度及び耐摩耗性が低くなり、簡単に袋体に穴が開いたり、あるいは、破断したりする虞がある。そこで、袋体の厚さは0.1〜0.5mmであることが好ましい(第9の発明)。
【0018】
第10の発明のロックボルトは、前記第8又は第9の発明において、前記袋体の内面に、非透水性膜が形成されており、この非透水性膜を含む前記袋体の厚さが0.5mm以下であることを特徴とするものである。このように、袋体の内面に非透水性膜が形成されている場合には、袋体の遮水性がさらに向上する。また、非透水性膜を含む袋体の厚さが0.5mm以下であるため、袋体の削孔の内面に対する食い込みが大きくなり、引き抜き耐力が大きくなる。また、定着材の注入圧力が削孔に作用しやすく、定着材が漏れにくくなる。
【0019】
第11の発明のロックボルトは、前記第8〜第10の何れかの発明において、前記袋体の前記一端部近傍に、前記定着材を袋体内に注入するための注入口が、前記挿入口とは別に形成されていることを特徴とするものである。棒鋼が挿入される挿入口と、定着材が注入される注入口とが別々に形成されているため、挿入口と注入口の径を極力小さくして袋体の耐圧力を高めることができる。従って、定着材の注入圧力を高くしても袋体が破断しにくくなる。
【0020】
第12の発明のロックボルトは、前記第8〜第11の何れかの発明において、前記袋体とこの袋体内に挿入された棒鋼とが、前記挿入口近傍において、巾着状に緊縛されていることを特徴とするものである。この場合には、挿入口からの棒鋼の挿入、及び、挿入口における棒鋼と袋体との締結を容易に行うことができる。また、袋体と棒鋼とを巾着状に緊縛することにより、施工後に、袋体及び棒鋼の端部の、地盤表面から突出する部分の長さを極力短くして、邪魔にならないようにすることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のロックボルト1は、袋体2と、この袋体2に挿入された棒鋼3と、袋体2内に注入充填されたモルタル等の定着材4(図5、図6参照)とを有し、湧水が生じる地盤内に設置されるものである。
【0022】
図1〜図3に示すように、袋体2は、例えば、ナイロン繊維等の合成繊維の糸で織成された薄い基布(厚さ0.2〜0.5mm程度)を筒状に縫製することにより形成した筒状織布で構成されている。この筒状織布の透水係数は10-3cm/sec以下であり、袋体2は極めて水を通しにくくなっている。さらに、袋体2の内面に、合成樹脂等からなる非透水性膜が形成されてコーティングされていてもよい。この場合には、袋体の透水性がさらに低くなり、袋体2はさらに水を通しにくくなる。このようにコーティングが施された袋体2を構成する基布としては、例えば、特開2001−329468号公報に記載のものがある。尚、このような基布を用いる場合には、コーティングが施される前の織物の透水係数は10-3cm/secより大きくてもよい。また、袋体2の径は、その内部に定着材4が充填されて膨張したときに、地盤に形成された削孔20(図5〜図7参照)の内面に確実に密着するように、削孔20の径と略等しくなるように設定されている。尚、膨張後の袋体2の径は削孔20よりも多少は大きくてもよいが、あまりにも大きいと袋体2にしわ等が生じて削孔20に対する密着性が低下するため、削孔20の径に近いことが好ましい。
【0023】
この袋体2の一端部(図2の右端部)は閉塞されているが、他端部(図2の左端部)には棒鋼3が挿入される挿入口2aが形成されており、外部に開口している。この挿入口2aには袋体2よりも長い棒鋼3が挿入される。尚、本実施形態の棒鋼3は、その両端において開口した管状のものである。
【0024】
図2、図3に示すように、挿入口2aが形成された袋体2の端部は外側に折り返された状態で袋体2の外面に縫製され、環状の折り返し部の内部にはバンド10が挿通されている。そして、このバンド10を締め付けることにより、袋体2と、この袋体2から突出した棒鋼3の部分とを、挿入口2a近傍において巾着状に緊縛して挿入口2aを閉止することができるように構成されている。尚、バンド10の代わりに紐や針金状のもので袋体2と棒鋼3を巾着状に括って挿入口2aを閉止するようになっていてもよい。
【0025】
図2に示すように、挿入口2aが形成された袋体2の端部近傍の、袋体2の側部には、棒鋼3が挿入される挿入口2aとは別に、注入口2bが形成されており、この注入口2bから定着材4を注入するチューブ5が袋体2内に挿入される。また、この注入口2bを囲うように、筒状織布12が袋体2に縫製により取り付けられており、その内部にもバンド11が挿通されている。そして、このバンド11を締め付けることにより、袋体2とチューブ5とを注入口2b近傍において巾着状に緊縛して、注入口2bを閉止することができるように構成されている。
【0026】
次に、ロックボルト1の施工方法について説明する。ここでは、特に、図4〜図6に示すように、ロックボルト1を斜め上向きに設置する場合について説明する。
【0027】
まず、掘削機等を用いて斜め上方へ延びる削孔20を掘削形成する。地盤にもよるが、この削孔20の長さは、例えば、数m程度の長さである。一方、袋体2に挿入口2aから棒鋼3を挿入するとともに、注入口2bからチューブ5(注入手段)を挿入し、図1のように組み立てる(第1工程)。ここで、棒鋼3を袋体2の奥まで完全に挿入せずに、棒鋼3の開口した先端が袋体2の内面により塞がれてしまわないようにしておく。そして、バンド10,11により、袋体2と棒鋼3、及び、袋体2とチューブ5とを夫々巾着状に緊縛し、挿入口2a及び注入口2bを閉止する。尚、より確実に挿入口2a及び注入口2bを閉止するために、袋体2と棒鋼3及びチューブ5との間に、スポンジ等の間詰め材を夫々介在させた状態でバンド10,11を締め付けてもよい。
【0028】
また、袋体2及び棒鋼3を削孔20内に挿入する際に、袋体2が削孔20の内面に接触してしまうのを極力防止するために、図4に示すように、袋体2の外面にテープ25等を巻き付けて袋体2が広がらないようにしておく。さらに、複数のずり防止金具21を適当な間隔を空けて袋体2の外側に取り付けておく。これら複数の金具21は、斜め上方へ延びる削孔20内で袋体2がずり落ちるのを防止するとともに、削孔20内で袋体2を位置決め(センタリング)するためのものである。
【0029】
次に、図5に示すように、袋体2及び棒鋼3を削孔20内に挿入する(第2工程)。そして、図6に示すように、チューブ5をポンプ22に接続し、チューブ5から袋体2内にモルタル等の定着材4を注入し、袋体2を削孔20の内面に密着させる(第3工程)。ここで、袋体2は、透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成されており、水をほとんど通さない。そのため、袋体2により削孔20内を地盤に対して遮水した状態で定着材4を注入することができる。従って、図6の矢印で示すように、地盤内に湧水が生じた場合でも、削孔20内に水が浸入するのを抑制して、定着材4が削孔20から流出してしまうのを防止でき、定着材4を削孔20内に確実に充填することができる。また、袋体2で遮水しつつ定着材4の注入を行うことができるため、効率的に施工を行うことができ、施工期間を短縮できる。さらに、削孔20を介して地盤の水が湧出するのを確実に防止できるため、地盤が緩まない。
【0030】
また、袋体2は、薄い基布で構成されているため、削孔20の内面に多少の凹凸(1〜5mm程度)がある場合でも、定着材4が注入された袋体2は注入圧力により削孔20の内面に確実に食い込む。そのため、ロックボルト1に引き抜き方向の力が作用したときに、袋体2と削孔20の内面との間の摩擦力が大きくなって滑りにくくなるため、引き抜き耐力が大きくなる。また、袋体2の内面が非透水性膜によりコーティングされている場合には、定着材4の注入圧力が削孔20にさらに作用しやすく、定着材4が漏れにくくなるので、袋体2は削孔20の内面によく食い込み、引き抜き耐力がさらに大きくなる。
【0031】
尚、袋体2内(削孔20内)にエアーが残留していると、このエアーが定着材4により圧縮され、さらに、圧縮されたエアーにより、注入された定着材4が削孔20内に完全に充填される前に袋体2の挿入口2aや注入口2bの近傍部が破断してしまい、定着材4が外へ飛び出してしまうことがある。しかし、本実施形態では、袋体2内に定着材4を注入していくと、図6の点線の矢印で示すように、袋体2の内部と削孔20の外部とを連通させている管状の棒鋼3の内部通路を通して、削孔20内のエアーが外部へ排出されていく。そのため、削孔20内のエアーを確実に排出することができ、定着材4が削孔20内に完全に充填されることから、充填中に袋体2が破断して定着材4が外へ飛び出すことがない。
【0032】
また、袋体2への定着材4の注入は、チューブ5の途中に設けられた圧力センサ23(圧力管理手段)により注入圧力を管理しながら所定の圧力値(例えば、0.5MPa)となるまで行う。このように、注入圧力を管理しながら定着材4を注入することにより、袋体2内の定着材4の充填状況を容易に把握できる。また、袋体2が破断しない範囲内で高い圧力で定着材4を注入して、定着材4を脱水させて速やかに固化させることができ、緻密な定着材4を形成することができる。さらに、定着材4の圧力により袋体2を削孔20の内面に食い込ませることができ、ロックボルト1の引き抜き耐力が高くなる。尚、袋体2の耐圧力は、注入圧力よりも大きい圧力値であることが必要であり、例えば、注入圧力が0.5MPaである場合には、袋体2の耐圧力は1MPa以上であることが好ましい。
【0033】
あるいは、チューブ5の途中に設けられた積算流量計等により注入量を管理しながら、所定の注入量となるまで定着材4を加圧注入してもよい。あるいは、バルブ等により定着材4の注入速度を所定値に維持しながら注入し、注入時間を管理することにより所定量の定着材4を注入するようにしてもよい。このように、注入量を管理しながら定着材5を注入することで、袋体2内の定着材5の充填状況を把握できる。また、注入圧力と注入量の両方を同時に管理しながら定着材5を袋体2内に注入するようにしてもよい。
【0034】
そして、図7に示すように、袋体2内の先端まで定着材4が注入されると、棒鋼3の開口した先端からその内部通路を通って定着材4が外へ流出してくる。そのため、袋体2の内部に隅々まで定着材4が充填されたことが容易に確認できる。その後、定着材4の注入を停止して、ロックボルト1の施工を完了する。
【0035】
以上説明したロックボルト1施工方法及びそのロックボルト1によれば、透水係数が10-3cm/sec以下の透水性の低い基布で構成された筒状の袋体2により削孔20内を地盤に対して遮水した状態で、定着材4を袋体2内に注入することができる。従って、地盤内に湧水が生じた場合でも、削孔20内に水が浸入するのを抑制して、定着材4が削孔20から流出してしまうのを防止でき、定着材4を削孔20内に確実に充填することができる。また、袋体2で遮水しつつ定着材4の注入を行うことができるため、効率的に施工を行うことができ、施工期間を短縮できる。さらに、地盤中の圧力湧水が削孔20を介して定着材4とともに流出して地盤が緩んでしまうのを確実に防止できる。
【0036】
また、袋体2は、薄い基布で構成されているため、削孔20の内面に多少の凹凸がある場合でも、定着材4が注入された袋体2は注入圧力により削孔20の内面に確実に食い込むことから、引き抜き耐力が大きくなる。さらに、袋体2の内面が非透水性膜によりコーティングされている場合には、定着材4の注入圧力が削孔20により作用しやすく、定着材4が漏れにくくなるため、袋体2は削孔20の内面によく食い込み、引き抜き耐力がさらに大きくなる。
【0037】
チューブ5から袋体2内に定着材4を注入するとともに、棒鋼3内の内部通路を介して袋体2内のエアーを排出することができるため、削孔20内のエアーを確実に排出することができ、定着材4を完全に充填する前に、圧縮されたエアーの圧力により袋体2が破断して定着材4が外へ飛び出すことがない。また、袋体2内に定着材4が注入されると、棒鋼3内の内部通路を通って定着材4が外へ流出してくるため、袋体2の内部に隅々まで定着材4が充填されたことを容易に確認できる。さらに、管状の棒鋼3内の通路を、エアー排出用の連通路及び定着材4の充填確認用の連通路として利用することにより、エアー排出用や充填確認用のチューブを棒鋼3とは別に袋体2内に挿入する必要がなく、施工を簡素化することができる。また、袋体2の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体2を小さくまとめやすくなり、袋体2を削孔20内に挿入しやすくなるし、削孔20への挿入時に袋体2が削孔20の内面に接触しにくくなり、袋体2の表面が傷つきにくくなる。また、ロックボルト1に対する削孔20の径を小さくすることができ、削孔作業及び定着材4の注入作業の効率を向上させることができる。
【0038】
袋体2の端部には、棒鋼3が挿入される挿入口2aと、チューブ5が挿入される注入口2bとが別々に形成されている(図2参照)。そのため、挿入口2a(注入口2b)の径を小さくすることにより、袋体2の耐圧力を大きくすることができ、定着材4の注入圧力を大きくしても袋体2が破断しにくくなる。また、挿入口2a及び注入口2bを、バンド10,11を締め付けることにより巾着状に閉じるため、挿入口2a及び注入口2bからの棒鋼3及びチューブ5の挿入、及び、挿入口2a及び注入口2bにおける袋体2と棒鋼3及びチューブ5との締結作業を容易に行うことができる。また、施工後に、袋体2や棒鋼3、あるいは、チューブ5の、地盤表面から突出した部分の長さを極力短くして、邪魔にならないようにすることも可能になる。
【0039】
次に、以上説明した本実施形態のロックボルトについて、いくつかの検証を行った。
この検証において使用した袋体及び棒鋼の仕様を表1に示す。ここで、定着長Lとは、削孔内に挿入される部分の長さを示している。また、2つの袋体(No.1及びNo.2)は共に、ナイロン繊維製の薄い高密度基布で構成されている。また、No.1の袋体の内面は何らコーティングされていないのに対して、No.2の袋体の内面は合成樹脂材料からなる非透水性膜でコーティングされている。
【0040】
【表1】
【0041】
まず、袋体(No.1及びNo.2)の透水係数を、図8に示すような試験装置30により測定された透水量に基づいて求めた。この試験装置30においては、水槽31内の台座32に載置された基布33(袋体)に対して、基布33の上方に位置する水槽34内の水により垂直方向に所定の水頭差を与えた状態で、基布33を浸透する水の量(透水量)を測定する。そして、この透水量をQ(cm3/s)、水頭差をΔh(cm)、基布33の断面積をA(cm2)、基布33の厚さをHg(cm)としたときに、その垂直方向の透水係数kv(cm/sec)は、kv=(Q・Hg)/(A・Δh)の式で表される。また、基布33に対して負荷を与えない無負荷状態、基布33を一方向に外力を加えて10%伸長させた状態、あるいは、所定の水圧を作用させた状態の、何れかの状態で、透水量Qを測定し、透水係数を求めた。以上により求めた透水係数を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2からわかるように、非透水性膜のコーティングが内面に施されていないNo.1の袋体では、コーティングが施されているNo.2の袋体と比べると、透水係数が大きく、水を通しやすい。しかし、施工時には、袋体内に加圧された定着材が注入されることから袋体は中空状態ではなく、袋体のみで受け持つ水圧はほとんどないと考えられるため、内面がコーティングされていないNo.1の袋体でも十分な遮水性能を有すると考えられる。また、外力あるいは水圧等が作用した条件下では、無負荷条件と比較して、透水係数がそれほど大きくなっておらず、外力あるいは水圧等が作用した条件下でも袋体は十分な遮水性能を備えていることがわかる。
【0044】
次に、2種類の袋体(No.1及びNo.2)内に表1の仕様の棒鋼を夫々挿入してから、袋体と棒鋼を削孔(φ=46mm〜48mm、深さ800mm)内に挿入し、さらに、定着材として、水セメント比(W/C)が60%のモルタルを注入して得られた、2種類のロックボルトと、削孔内にモルタルのみを注入して得られたロックボルトの、計3種類のロックボルトの夫々について3体の試験体を作製した。そして、これら試験体に対して引き抜き力(最大180kN)を作用させたときの、荷重−変位曲線を図9に示す。
【0045】
一般的には、モルタルが削孔の内面に直接食い込んでいる場合(モルタルのみからなるロックボルト)よりも、モルタルと削孔の内面との間に袋体が介在する場合(袋体を有するロックボルト)のほうが、ロックボルトと削孔との間の摩擦力が小さくなり、引き抜き耐力が小さくなってしまうようにも思われるが、図9に示すように、2種類の袋体(No.1及びNo.2)を用いたロックボルトは180kNの最大荷重を作用させたときでも抜けることがなく、これらの引き抜き耐力は、モルタルのみからなるロックボルトと同等以上であることがわかった。これについては、袋体の厚さが大きく関係している。即ち、袋体の厚さが薄いほど、袋体が削孔の内面に食い込みやすくなり、袋体と削孔との間に作用する摩擦力が大きくなるため、ロックボルトの引き抜き耐力は大きくなる。
【0046】
但し、袋体が薄すぎると、袋体の引張強度や耐摩耗性が低くなり、穴が開いたり、あるいは、破断しやすくなる。特に、実際の施工においては、棒鋼が数m程度と比較的長い場合が多いが、前述のように、袋体と棒鋼とを削孔内に挿入する前に袋体にテープ等を巻く(図4参照)などの対策をしていても、挿入の際に棒鋼が撓んで袋体が削孔の内面に接触することは十分に考えられ、袋体が傷ついたり破れたりする虞がある。そこで、袋体2の厚さは、本検証で使用されたNo.1及びNo.2の袋体の厚さである0.3mmに近い値で、且つ、ある程度の強度(例えば、1500〜2000N/5cm程度の強度)を有する値であることが好ましく、例えば、0.1〜0.5mmの範囲内で決定することが好ましい。また、内面が非透水性膜によりコーティングされた袋体でも、非透水性膜を含んだ袋体の厚さは0.5mm以下に抑えられていることが好ましい。
【0047】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]前記実施形態の袋体2では、棒鋼3が挿入される挿入口2aは袋体2の径と同じになっているが、挿入口2aの径が袋体2の主要部の径よりも小さくなっていてもよい。例えば、図10に示すように、袋体42が、小径部40とこの小径部40に連なる大径部41とを有する異径筒状織布で構成されており、小径部40の端部に挿入口42aが形成されていてもよい。このように、挿入口42aが袋体42の主要部(大径部41)の径よりも小さくなっていると、この挿入口42a付近の耐圧力が大きくなり、定着材をより高い圧力で袋体42内に注入することが可能になる。
【0048】
2]前記実施形態とは棒鋼3とチューブ5の作用を逆にして、棒鋼3から定着材4の注入を行う一方で、チューブ5からエアーを排出させるとともに、充填完了後に定着材4を流出させるようにしてもよい。この方法は、削孔20が下向きに延びている場合に特に有効である。この場合でも、前記実施形態と略同様の効果が得られ、定着材注入用のチューブ5を棒鋼3とは別に袋体2内に挿入する必要がなく、施工を簡素化することができる。また、袋体2の内部に挿入されるチューブの本数を減らすことにより、袋体2を小さくまとめやすくなり、袋体2を削孔20内に挿入しやすくなるし、削孔20への挿入時に袋体2が削孔20の壁面に接触しにくくなる。さらには、削孔20の径を1ランク小さくすることも可能になる。
【0049】
3]図11、図12に示すように、袋体2の挿入口2aを覆うように、削孔20の開口部付近にプレート50を取り付けてもよい。このプレート50は、地盤に当接する基板51と、この基板51から外方(図11の上方)に突出し、且つ、基板51に一体的に設けられた略半球状のカバー部52とを有する。平面視で、カバー部52の中央部には、挿通穴52aが形成されている。そして、この挿通穴52aに棒鋼3を挿通した状態でナット53を締め込むことにより、プレート50が取り付けられる。また、カバー部52の、挿通穴52aから外側にずれた位置には、穴径の小さい別の挿通穴52bが形成されている。そして、この挿通穴52bに、定着材注入用、あるいは、エアー排出及び定着材充填確認用のチューブ5が挿通されて袋体2内に定着材4が注入される。このように、棒鋼3が挿通されたプレート50により袋体2の挿入口2aを覆うことができるため、定着材注入用、または、エアー排出及び定着材充填確認用のチューブ5の端部を、地盤から少し突出した状態で切断しても邪魔にならず、チューブ5の端部処理が容易になる。また、袋体2が削孔20から飛び出すように膨張したとしても、ロックボルト1のネジ部にナット53を嵌めた時に、プレート50の基板51により地盤を確実に支圧することができる。さらに、このように、プレート50を取り付けてから袋体2内に定着材4を注入する場合には、袋体2の挿入口2aをバンド10等により閉じずに、このプレート50により挿入口2aを直接塞ぐことも可能になり、袋体2の端部処理がさらに容易になる。
【0050】
一方、先に袋体2内に定着材4を注入してから、プレートを取り付けることも可能である。この場合には、図13に示すように、チューブ5の端部を短く切断してから外側からプレート50Aを被せて取り付けることになるため、図12におけるカバー部51の挿通穴51bは不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態に係る袋体の正面図である。
【図2】袋体の縦断面図である。
【図3】図1の袋体を左方から見た図である。
【図4】削孔に挿入する前に袋体と棒鋼とを組み立てた状態を示す図である。
【図5】袋体及び棒鋼を削孔に挿入した状態を示す図である。
【図6】袋体内に定着材を注入している状態を示す図である。
【図7】定着材の注入が完了した状態の図である。
【図8】透水量を測定する試験装置の概略構成図である。
【図9】ロックボルトの荷重−変位曲線である。
【図10】変更形態の袋体の正面図である。
【図11】削孔付近にプレートを取り付けてから定着材を注入している状態を示す図である。
【図12】図10のプレートの平面図である。
【図13】定着材を注入後にプレートが取り付けられた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ロックボルト
2 袋体
2a 挿入口
2b 注入口
3 棒鋼
4 定着材
5 チューブ
20 削孔
23 圧力センサ
42 袋体
42a 挿入口
50,50A プレート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、且つ、その膨張後の径が地盤に形成された削孔の径に略等しくなるように設定された筒状の袋体に、その端部に形成された挿入口から棒鋼を挿入する第1工程と、
前記棒鋼及び前記袋体を、前記削孔内に設置する第2工程と、
前記袋体内に定着材を注入手段により注入して袋体を前記削孔の内面に密着させ、前記袋体により削孔内を地盤に対して遮水した状態で前記定着材を定着させる第3工程と、
を有することを特徴とするロックボルト施工方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記定着材の注入圧力を圧力管理手段により管理しながら、所定の圧力値となるまで定着材を加圧注入することを特徴とする請求項1に記載のロックボルト施工方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記定着材の注入量を管理しながら、所定の注入量となるまで定着材を加圧注入することを特徴とする請求項1又は2に記載のロックボルト施工方法。
【請求項4】
前記袋体又は前記棒鋼には、袋体の内部と前記削孔の外部とを連通させる第1連通手段及び第2連通手段が設けられており、
前記第3工程において、前記第1連通手段から袋体内のエアーを排出させながら、前記第2連通手段を介して定着材が流出するまで袋体内に定着材を注入することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のロックボルト施工方法。
【請求項5】
前記注入手段が前記袋体内に挿入されたチューブであり、
前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記第1連通手段及び前記第2連通手段が、管状の棒鋼の内部通路からなることを特徴とする請求項4に記載のロックボルト施工方法。
【請求項6】
前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記注入手段が、管状の棒鋼の内部通路からなり、
前記第1連通手段及び前記第2連通手段が前記袋体内に挿入されたチューブであることを特徴とする請求項4に記載のロックボルト施工方法。
【請求項7】
前記袋体内に前記定着材を注入する前、あるいは、注入した後に、挿通穴を有するプレートに前記棒鋼を挿通し、前記袋体の挿入口を覆うように前記プレートを取り付けることを特徴とする請求項5又は6に記載のロックボルト施工方法。
【請求項8】
透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、地盤に形成された削孔内に挿入されてこの削孔の内面に密着するように配置された筒状の袋体と、
この袋体の一端部に形成された挿入口から袋体内に挿入された棒鋼と、
前記袋体内に注入充填された定着材と、
を有することを特徴とするロックボルト。
【請求項9】
前記袋体の厚さが0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項7に記載のロックボルト。
【請求項10】
前記袋体の内面に、非透水性膜が形成されており、この非透水性膜を含む前記袋体の厚さが0.5mm以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載のロックボルト。
【請求項11】
前記袋体の前記一端部近傍に、前記定着材を袋体内に注入するための注入口が、前記挿入口とは別に形成されていることを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載のロックボルト。
【請求項12】
前記袋体とこの袋体内に挿入された棒鋼とが、前記挿入口近傍において、巾着状に緊縛されていることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のロックボルト。
【請求項1】
透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、且つ、その膨張後の径が地盤に形成された削孔の径に略等しくなるように設定された筒状の袋体に、その端部に形成された挿入口から棒鋼を挿入する第1工程と、
前記棒鋼及び前記袋体を、前記削孔内に設置する第2工程と、
前記袋体内に定着材を注入手段により注入して袋体を前記削孔の内面に密着させ、前記袋体により削孔内を地盤に対して遮水した状態で前記定着材を定着させる第3工程と、
を有することを特徴とするロックボルト施工方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記定着材の注入圧力を圧力管理手段により管理しながら、所定の圧力値となるまで定着材を加圧注入することを特徴とする請求項1に記載のロックボルト施工方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記定着材の注入量を管理しながら、所定の注入量となるまで定着材を加圧注入することを特徴とする請求項1又は2に記載のロックボルト施工方法。
【請求項4】
前記袋体又は前記棒鋼には、袋体の内部と前記削孔の外部とを連通させる第1連通手段及び第2連通手段が設けられており、
前記第3工程において、前記第1連通手段から袋体内のエアーを排出させながら、前記第2連通手段を介して定着材が流出するまで袋体内に定着材を注入することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のロックボルト施工方法。
【請求項5】
前記注入手段が前記袋体内に挿入されたチューブであり、
前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記第1連通手段及び前記第2連通手段が、管状の棒鋼の内部通路からなることを特徴とする請求項4に記載のロックボルト施工方法。
【請求項6】
前記棒鋼はその両端において開口した管状に形成されており、前記注入手段が、管状の棒鋼の内部通路からなり、
前記第1連通手段及び前記第2連通手段が前記袋体内に挿入されたチューブであることを特徴とする請求項4に記載のロックボルト施工方法。
【請求項7】
前記袋体内に前記定着材を注入する前、あるいは、注入した後に、挿通穴を有するプレートに前記棒鋼を挿通し、前記袋体の挿入口を覆うように前記プレートを取り付けることを特徴とする請求項5又は6に記載のロックボルト施工方法。
【請求項8】
透水係数が10-3cm/sec以下の基布で構成され、地盤に形成された削孔内に挿入されてこの削孔の内面に密着するように配置された筒状の袋体と、
この袋体の一端部に形成された挿入口から袋体内に挿入された棒鋼と、
前記袋体内に注入充填された定着材と、
を有することを特徴とするロックボルト。
【請求項9】
前記袋体の厚さが0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項7に記載のロックボルト。
【請求項10】
前記袋体の内面に、非透水性膜が形成されており、この非透水性膜を含む前記袋体の厚さが0.5mm以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載のロックボルト。
【請求項11】
前記袋体の前記一端部近傍に、前記定着材を袋体内に注入するための注入口が、前記挿入口とは別に形成されていることを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載のロックボルト。
【請求項12】
前記袋体とこの袋体内に挿入された棒鋼とが、前記挿入口近傍において、巾着状に緊縛されていることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のロックボルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−161457(P2006−161457A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356196(P2004−356196)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
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