説明

ロドコッカスロドヒラス(RHODOCOCCUSRHODOCHROUS)NCIMB41164菌株、およびそのニトリルヒドラターゼ産生株としての使用

ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 である微生物、またはその突然変異体。微生物を尿素または尿素誘導体を含む培地中で培養する方法を請求項に記載する。微生物から得られるニトリルヒドラターゼを請求項に記載する。アミドを対応するニトリルから調製するプロセスであって、ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 である微生物、その突然変異体、およびロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164またはその突然変異体から得られるニトリルヒドラターゼから成る群より選ばれる生体触媒の存在下で、ニトリルを水性媒質中で水和反応に供するプロセスもまた請求項に記載する。ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を貯蔵する方法もまた請求項に記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、ならびに微生物を培養および貯蔵する方法に関する。本発明はまた、新規なニトリルヒドラターゼ酵素、およびさらにニトリルヒドラターゼ酵素を使用してニトリルをアミドに変換する方法に関する。
【0002】
酵素を含む微生物などの生体触媒を、化学反応を行なうために使用することは、周知である。ニトリルヒドラターゼ酵素は、ニトリルを直接対応するアミドとする水和反応を触媒することが知られている。典型的にはニトリルヒドラターゼ酵素を、様々な微生物、例えばバシウス(Bacillus)、バクテリジウム(Bacteridium)、ミクロコッカス(Micrococcus)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、シュードモナス(Pseudomonas)、アシネトバクター(Acinetobacter)、キサントバクター(Xanthobacter)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、リゾビウム(Rhizobium)、クレブシエラ(Klebsiella)、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、アエロモナス(Aeromonas)、シトロバクター(Citrobacter)、アヒロモバクター(Achromobacter)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)およびロドコッカス(Rhodococcus)属の微生物が産生することができる。
【0003】
多くの参考文献が、微生物内のニトリルヒドラターゼの合成について記述してきた。Arnaud et al., Agric. Biol. Chem. 41:(11) 2183-2191 (1977)が、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)sp R312の、彼らが「アセトニトリラーゼ」と呼ぶ、アセトニトリルをアミド中間体を介して酢酸塩へ分解する酵素の特性について記述している。Asano et al., Agric. Biol. Chem. 46:(5) 1183-1189 (1982)は、シュードモナス クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)B23 を単離したが、これはニトリルヒドラターゼを産生し、アクリロニトリルのアクリルアミドへの変換を触媒して、400 g/L のアクリルアミドを生成した。Yamada et al., Agric. Biol. Chem. 50: (11) 2859-2865 (1986)、題名「Optimum culture conditions for production by Pseudomonas chlororaphis B23 of nitrile hydratase」の論文は、ニトリルヒドラターゼ合成のために加える誘導物質を含めて、増殖培地の培地成分の最適化を考察した。メタクリルアミドが、この生物に対する最良の誘導物質であることが判明した。メタクリルアミドは、増殖の最初に培地に含められた。
【0004】
ロドコッカス ロドヒラス(Rhodococcus rhodochrous)種の様々な菌株が、非常に効率的にニトリルヒドラターゼ酵素を産生することが見出されている。
【0005】
EP−0 307 926は、ロドコッカス ロドヒラス、特に J1 菌株のコバルトイオンを含む培地中での培養について記述している。コバルトイオン存在下で培養されたロドコッカス ロドヒラス J1により産生されたニトリルヒドラターゼの作用により、ニトリルが水和されて生物学的にアミドが生成されるプロセスが記述されている。ニトリルヒドラターゼ合成のための様々な誘導物質(クロトンアミドを含む)の使用が記述されている。ある実施態様では、アミドが、基質のニトリルが存在する微生物の培地中で生産される。別の実施態様では、ニトリルヒドラターゼが蓄積された培地に基質のニトリルを加えて、水和反応を行なう。また、微生物細胞を分離し、そして、例えば固定化により適当な担体中にそれらを保持し、次にそれらを基質に接触させるという記述もある。ニトリルヒドラターゼを、ニトリルをアミドへ水和するために、特に、3-シアノピリジンのニコチンアミドへの変換に用いることができる。
【0006】
EP−0 362 829は、ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス ロドヒラスの細胞を調製するための、尿素およびコバルトイオンの少なくとも1つを含む、ロドコッカス ロドヒラス種の細菌を培養する方法について記述している。具体的に記述したのは、尿素または尿素誘導体を用いるロドコッカス ロドヒラス J1 中のニトリルヒドラターゼの誘導についてであり、これは著しくニトリルヒドラターゼ活性を増大させる。尿素またはその誘導体を一度に、または順次1つのバッチ中の培地に加え、培養は30時間以上の間、例えば120時間まで起こる。
【0007】
論文 Nagasawa et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 34: 783-788 (1991)、 題名 「Optimum culture conditions for the production of cobalt-containing nitrile hydratase byロドコッカス ロドヒラス J1」が、用いる培養条件に依存して2種の異なるニトリルヒドラターゼ、およびニトリラーゼを合成する、アセトニトリルを利用する菌株として J1 を単離することを記載している。1種のニトリルヒドラターゼは、尿素および尿素類似体により最もよく誘導される。尿素は、培養過程の開始時点で加えられ、基本培地が栄養豊富な場合にのみ、誘導物質として有効になるようだ。酵素の誘導は、徐々に始まり、増殖中に増加して5日間の培養の後に最大に達した。活性は、培養がより長くなると減少することが分かった。
【0008】
ロドコッカス ロドヒラス J1はまた、アクリロニトリルからアクリルアミドモノマーを製造するために商業的に用いられ、このプロセスはNagasawa and Yamada, Pure Appl. Chem. 67: 1241-1256 (1995) により記述されている。
【0009】
Leonova et al, Appl. Biochem. Biotechnol. 88: 231-241 (2000) 題名「Nitrile Hydratase of Rhodococcus」が、ロドコッカス ロドヒラス M8 における増殖およびニトリルヒドラターゼの合成について記述する。この菌株のニトリルヒドラターゼ合成を培地中の尿素が誘導し、また増殖のための窒素源としてこの生物に用いられる。コバルトも高いニトリルヒドラターゼ活性に必要である。この文献論文は、主に誘導および代謝効果に目を向けている。
【0010】
Leonova et al., Appl.Biochem.Biotechnol.88: 231-241 (2000) は、さらに、アクリルアミドがロシアでロドコッカス ロドヒラス M8 を用いて商業的に生産されていると述べている。Russian Patent 1731814が、ロドコッカス ロドヒラス菌株 M8 を記載している。
【0011】
尿素のような誘導物質を必要とせずにニトリルヒドラターゼを産生するロドコッカス ロドヒラス菌株 M33 についてUS−A−5827699に記述されている。微生物のこの菌株はロドコッカス ロドヒラス M8 の派生株である。
【0012】
アクリルアミドモノマーの生産は特に、生体触媒経路によることが望ましい。 Yamada and Kobayashi, Biosci. Biotech. Biochem. 60: (9) 1391-1400 (1996)による総説発表、題名「Nitrile Hydratase and its Application to Industrial Production of Acrylamide」 には、アクリルアミドへの生体触媒経路の開発の詳細な説明が記述されている。3つの順次良くなる触媒、およびアクリルアミド生産に対するそれらの特徴が、また特に第三世代触媒、ロドコッカス ロドヒラス J1 が、かなり詳細に記述されている。
【0013】
生体触媒の使用に伴う主な不利益は、貯蔵、輸送、および使用中に湿った微生物材料で見られる一般的な安定性の欠如である。ロドコッカス細胞中のニトリルヒドラターゼなどの比較的安定した酵素およびバクテリアでさえも、使用前に損傷される可能性があるために、例えば水性混合物を凍結または凍結乾燥すること、または何かのポリマー基質中に細胞を固定化するなどの何らかの方法で、生体触媒細胞懸濁液を処理する必要性を業界が受け入れている。生体触媒から最大の生産性を得るために、その使用に先立つ調製および貯蔵の間に最大の生体触媒活性を保持することが重要である。Chaplin and Bucke (1990) in: Enzyme Technology, published by Cambridge University Press, p 47 (Enzyme preparation and use) の中で、酵素の不活性化は、熱、タンパク質分解、至適でないpH、酸化変性剤および不可逆的阻害剤により引き起され得ることが認識されていた。多くの物質が、酵素の反応触媒能力の率の低下を引き起こす可能性がある。これには、尿素などの非特異的タンパク質変性剤である物質が含まれる。
【0014】
公開文書 Protein Stability, by Willem JH van Berkel, Wageningen University では、タンパク質の不活性化または変性を引き起こす可能性のある因子が検討され、これらにはプロテアーゼ、酸素または酸素ラジカルの存在による酸化および尿素などの可逆的な変性を引き起こす変性剤が含まれていた。
【0015】
Chaplin and Bucke (1990) In Enzyme Technology, published by Cambridge University Press, p73 (Enzyme preparation and use) は、酵素活性の保持に関する主要因子には、酵素の立体配座構造の維持が含まれることを明らかにした。したがって、変性、凝集および共有結合構造中の変化を防ぐことが相当重要であった。これを達成するために3つのアプローチ:(1)添加剤の使用;(2)共有結合修飾の制御された使用;および(3)酵素の固定化、が検討された。
【0016】
EP−B−0 243 967は、ニトリル、アミドおよび有機酸ならびにそれらの塩から選ばれる安定化化合物を、酵素の溶液または懸濁液、あるいは固定化型酵素へ加えることによる、ニトリラーゼのニトリル水和活性の保持について記述している。それは記述の中で、アクリロニトリルなどのニトリルを水和してアクリルアミドなどの対応するアミドを生産するニトリラーゼを産生することができる微生物の溶液または懸濁液は、保存期間が短い限り室温で保存してもよいが、低温での、特に0℃近くの温度での保存が好ましい、と明白に述べている。EP−A−0 707 061には、100mM〜飽和濃度の濃度の無機塩類を、微生物細胞の懸濁液または固定化微生物細胞のいずれかを含む水性媒質へ添加することにより、細胞および酵素活性が長期間保存されたことが記載された。ニトリルヒドラターゼまたはニトリラーゼ活性を有する微生物細胞を保存するために、この技術について記述する。重炭酸塩または炭酸塩の、ニトリラーゼ活性を有する固定された、または固定されていない微生物細胞の水溶液への添加について、US−B−6,368,804に記述されている。固定化には、基質中に酵素を固定する前に、しばしば細胞全体から酵素を取り出すことが含まれる。しかし、そのような固定化は酵素に非常によい保護をもたらすが、細胞全体からの酵素の抽出は、時間がかかり、高価で、また酵素が損失する結果となり得る、複雑な工程である。さらに、微生物細胞全体を固定することができる。US−A−5,567,608には、良好な保存安定性を有し、腐敗を防ぐ陽イオン性コポリマー中に全細胞生体触媒を固定する方法が与えられている。
【0017】
アクリルアミドモノマーを製造するために商業的に用いられるロドコッカス ロドヒラス J1 を、(a)輸送を可能にするため、および(b)使用中の生体触媒の寿命を増大させるために固定化する。US−A−5,567,608において発明者らは、生体触媒を工業的規模での使用においては通常固定化して、生体触媒から生産物の中へ不純物が溶出するのを防ぎつつ反応生産物から生体触媒を容易に分離することを促進し、また生体触媒の連続処理および再利用を促進すると述べている。しかし固定化は、追加の設備、ならびに、アルギン酸塩、カラギーナン、アクリルアミドおよび他のアクリラートモノマー、およびビニルアルコールなどの多数の他の原料の使用を必要とする可能性がある余分の処理工程である。したがって、これは高価な処理工程である。
【0018】
化学反応プロセスへの悪影響を減少させる試みの中で、酵素不活性化の有害な作用を最小限にするために、様々な他の方法が提案されてきた。
【0019】
また長期間に亘る貯蔵中に酵素活性を保持するために、生体触媒を凍結乾燥することも知られている。これもまた、小規模に調製される生体触媒ついて通常行なわれる、高価である可能性のある処理工程である。液体窒素中または液体窒素の気相中での低温保存もまた微生物細胞を長期間貯蔵することができるが、液体窒素の持続的な供給が必要である。回収されたバイオマスまたは半純粋または純粋な酵素を、<−18℃の温度で凍結すると、生体触媒活性がより長時間保持されることも公知である。
【0020】
更に、一旦細胞集団が反応槽に添加され、反応が開始されると、有効性の損失を最小化することが、操作効率およびプロセス経済に決定的に重要である。再び、なんらかのポリマー基質中へ微生物細胞を固定化することが、これらのプロセスパラメータを最適化する標準的手順である。
【0021】
したがって、これらの不利益を克服することができるプロセスおよび生体触媒を提供することが望ましいであろう。
【0022】
本発明により、本発明者らはロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 である微生物またはその突然変異体を提供する。
【0023】
この新しい微生物が容易にニトリルヒドラターゼを生成することが判明した。本発明者らは、この新しい微生物(およびそれが産生するニトリルヒドラターゼ)を、ニトリルをアミドに変換するプロセスで使用することができることを見出した。ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 は、(メタ)アクリロニトリルの(メタ)アクリルアミドへの変換に特に役立つ。微生物および酵素は、長い期間にわたり間活性を維持し、ある場合には活性がさらに増大さえすることが分かっており、そして更に、アクリルアミドを>50%w/wで調製した後に、活性の減少なく反応混合物から回収することができる。したがって、もし必要なら、それを直接または更なる期間貯蔵後に再使用できる。
【0024】
新しい菌株ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 の詳細を以下に示す:
【0025】
1.起源および寄託
ロドコッカス ロドヒラス菌株は、本発明者らが英国ブラッドフォードで土壌から分離して、2003年3月5日にNational Collection of Industrial and Marine Bacteria (NCIMB)に寄託し、ブダペスト条約の下に受託番号NCIMB41164を割当てられた。
【0026】
2.微生物の分類学的同定
16S rDNA解析の技術を用いて、土壌分離株の同定を行なった。土壌分離株から得られた16SrDNA遺伝子の配列を核酸配列データベースと比較した。得られた配列を私設データベース(Microseq(登録商標))で見出されたものと比較し、トップ20のヒットを決定した。配列をこのデータベースと比較することにより、ベストマッチはロドコッカス ロドヒラスであると、97.48%の類似性で同定された。これは属レベルのマッチであるが、ロドコッカス ロドヒラスの菌株である可能性が最も高い。公のEMBLデータベースに対するさらなる探索により、このデータベースについてのベストマッチを99.698%の類似性でロドコッカス ロドヒラスであると同定した。
【0027】
3.形態的および培養特性
(1) 多形性の増殖
(2) 運動性:運動不能
(3) 非胞子形成菌
(4) グラム陽性
(5) 好気性
(6) 栄養寒天培地上の増殖により、30℃48時間以内にサーモンピンクの円形コロニーを生ずる。
【0028】
4.培養およびニトリルヒドラターゼ合成
本発明のロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164は、例えば前述の先行技術に記述されているような公知の方法のいずれに従っても、目的にふさわしい任意の条件の下で培養することができる。好ましくは、微生物を、尿素または尿素誘導体を含む培地で培養する。本発明者らは、この微生物はニトリルヒドラターゼの誘導物質としてアセトニトリルまたはアクリロニトリルを含む培地中で増殖させることができることを見出した。誘導物質としての尿素または尿素誘導体、およびコバルトイオン源としての塩化コバルトの存在下で、非常に高いニトリルヒドラターゼ活性が達成される。例えば、尿素とコバルトを実験例に記述する培地に加える。
【0029】
望ましくは、ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164を培養して、例えば15℃で約250〜300,000μmol min-1/g乾燥バイオマスの高い酵素活性をもたらすことができる。尿素または尿素誘導体が培地中に存在する場合は、高いニトリルヒドラターゼ活性を達成することができる。それが培養の開始時に存在していても、または増殖中のある時点でそれを加えてもよいが、一般に増殖の定常期の開始前に加えるべきである。尿素または尿素誘導体が、微生物の増殖開始時の培地中に相当量は存在せず、後で加えられる場合には、高いニトリルヒドラターゼ活性を好適に達成することができる。これにより、本発明者らは、尿素または尿素誘導体が存在しないか、または0.2 g/L未満の、好ましくは0.1 g/L 未満の量で存在することを意味する。より好ましくは、培地に、少なくとも微生物増殖の最初の6時間は尿素または尿素誘導体が実質的に存在しない(即ち、0.2 g/L 未満)。微生物の成長速度は、尿素または尿素誘導体が存在しない状態より高いので、微生物の増殖培地に、尿素または尿素誘導体を加える前に少なくとも12時間、またある場合には少なくとも24時間、尿素または尿素誘導体が実質的に存在せず、しかし微生物を48時間培養する前にそれを加えるのが特に好ましい。本発明者らは、これにより、尿素または尿素誘導体を培養の開始時に加えた場合より短い期間に、より高いニトリルヒドラターゼ活性を生起させることができることを見出した。
【0030】
本発明はまた、ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 である微生物またはその突然変異体から得られるニトリルヒドラターゼに関する。
【0031】
本発明のさらなる局面は、アミドを対応するニトリルから調製するプロセスに関し、ここでニトリルは、ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164である微生物、その突然変異体およびロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164またはその突然変異体から得られるニトリルヒドラターゼから成る群より選ばれる生体触媒の存在下で、水性媒質中で水和反応に供される。これ以下では、用語「生体触媒」とは、ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 細胞内で合成されるニトリルヒドラターゼを指し、ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 細胞自身を含む場合もある。したがって、生体触媒を、発酵培地の中で全細胞標品として、水性懸濁液として、回収された細胞ペーストとして、固定化細胞標品として、または、本発明の必要条件を満たすニトリルのアミドへの変換に適したニトリルヒドラターゼの任意の他の形式として、使用することができる。
【0032】
このプロセスは、アミドを対応するニトリルから容易に調製することに特に適している。特にアミドの水溶液を高濃度に調製することができる。プロセスは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを調製するのに特に適している。
【0033】
生体触媒を全細胞触媒として、アミドのニトリルからの生成に用いてもよい。それを例えばゲル中にトラップして、固定してもよいし、または好ましくはそれを遊離細胞懸濁液として用いてもよい。あるいは、ニトリルヒドラターゼ酵素を抽出し、例えばアミドを調製するプロセスで直接用いてもよい。
【0034】
プロセスを実施する1つの好ましい方法では、微生物の培養を行なうために適切な水性媒質へ生体触媒を添加する。典型的には、例えば微生物の全細胞などの生体触媒の懸濁液を形成してもよい。ニトリル、例えばアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを、生体触媒を含む水性媒質に、水性媒質中の(メタ)アクリロニトリルの濃度が6重量%以内に維持されるように供給する。アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルなどのニトリルを、より好ましくは、反応媒質に供給して、例えばアクリルアミドまたはメタクリルアミドなどのアミドの濃度が所望のレベル、特に重量で30〜55%に達するまで反応を継続することを可能にする。最も好ましくは、その濃度は重量で約50%である。
【0035】
ロドコッカス ロドヒラスのこの新しい菌株(NCIMB 41164)は、高濃度(例えば50%のアクリルアミド)のアクリルアミド水溶液を生産することができる。望ましくは、反応を、生体触媒(ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164)を発酵培養液の形で、または収穫したバイオマスとして加える、流加培養型反応槽(fed-batch type reactor)を用いる遊離細胞プロセスとして行なう。
【0036】
生体触媒(ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164)およびそれから産生されたニトリルヒドラターゼの活性は、さらにニトリルを水和して対応するアミドにするために、それをリサイクルし再使用することができる。
【0037】
生体触媒のリサイクリングは、(メタ)アクリロニトリルを(メタ)アクリルアミドに変換するどのような場合にも、特に適している。したがって、アクリルアミドの製造では、反応プロセスが完了して適切な濃度でアクリルアミドが産生された時に、ニトリルヒドラターゼ活性の損失なしに、触媒を取り出して再利用しアクリルアミドの別のバッチを生成することができる。生体触媒を、再使用に先立って水中に数日間(例えば3日間)貯蔵した後でさえも、これを達成することができる。さらに貯蔵した後に、アクリルアミドの3度目のバッチを調製することさえも可能である。
【0038】
本発明の1つの局面において、本発明者らは微生物ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 またはその突然変異体である、あるいはそれらから得られる生体触媒を含む水性組成物を提供する。この場合、生体触媒は、活発には増殖していない遊離細胞微生物の形をしている。本発明者らはまた、活発には成長していない遊離細胞微生物の形をした生体触媒を貯蔵する方法を提供する。
【0039】
ニトリルのアミドへの変換を実施するために用いられる生体触媒の微生物細胞は、活発には増殖していない培養物であるとみなしてもよい。これにより本発明者らは、微生物を保持する媒質および貯蔵条件は増殖を促進することが期待されないことを意味する。貯蔵媒質は、例えば発酵培地から回収されるロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 細胞であってよい。あるいは、細胞を発酵培地中で直接用いてもよいし、またはそれらが、例えば:水;生理的食塩水;リン酸緩衝液または他の同様の緩衝液のような適当な緩衝液;または成長速度、またはバイオマス濃度、または酸素消費量、または栄養素消費の測定、あるいは一般に微生物増殖および代謝のモニターに用いられる他の形式の測定により決定される、微生物細胞内の代謝が実質的にゼロの増殖培地のような、適当な懸濁媒質中の水性懸濁液として存在してもよい。
【0040】
組成物または貯蔵媒質は、任意の残余の発酵培養液の成分を含んでよい。発酵培養液は、微生物を培養するために用いられる任意の典型的な成分を含んでいてよく、また微生物により産生された生産物および副産物をさらに含んでいてもよい。発酵培養液の典型的な成分には、砂糖、多糖、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、窒素源、無機塩類、ビタミン、生長調節物質および酵素誘導物質が含まれる。具体的には、これには、糖として単糖または二糖類;アンモニウム塩または他の窒素源;リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウム塩などの無機塩類、金属化合物;ビタミン;および例えばコーンスティープリカー(corn steep liquor)のような複雑な発酵培地成分;ペプトン;酵母エキス;特別の微生物生育の必要性のために用いられる有機または無機化合物;特異的な酵素誘導物質(ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164のニトリルヒドラターゼを誘導するために用いられる尿素など);およびクエン酸またはピルビン酸などの有機酸;およびロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164の良好な増殖を確実にするため必要な他の任意の有機または無機化合物が含まれるであろう。
【0041】
通常、ニトリルヒドラターゼを産生するような微生物を、ある期間たとえ数日でさえも、継続的な増殖なしに貯蔵する場合には、発酵培養液から微生物細胞を取り出すのが、触媒として必要なのが細胞であっても、あるいは細胞または発酵培地から酵素を回収するのであっても、通常である。これは、培養液の腐敗を引き起こす発酵培養液中の微生物増殖を阻止し、必要な酵素の破壊を引き起こす可能性があるプロテアーゼ活性を低下させるためである。したがって、発酵培養液それ自身を保存するか、細胞を取り除いて、微生物汚染などの外来の生物活性による生体触媒の分解を防ぐことが通常である。もしこれを実行しなければ、生体触媒活性は一日以内に、2日未満には確実に、など極めて短期間に低下すると予想することが通常できるであろう。
【0042】
生体触媒を貯蔵中に活性を保持しておく方法は、1週間までの期間のためでさえ、通常は生体触媒の発酵培養液からの分離、および/または生体触媒の適当な基質中への固定化、および/または安定化物質を用いた安定化を含んでいた。安定化物質はその後反応液中の混入物となり、またこれは、生体触媒として用いる前に微生物細胞懸濁液から安定化化合物または添加物を除くためのさらに下流のまたは追加の処理工程が必要となるという問題になる可能性がある。
【0043】
そのような保存処置がない状態では、生体触媒は、周囲温度で維持されたときには、もはや触媒反応に同程度に有効ではないか適しさえしない程度に活性を失う傾向がある。
【0044】
生体触媒として使用する微生物の増殖が数日間に亘って起る場合がある。この間は、微生物は積極的に増殖しており、即ちバイオマスが細胞の全化学的組成の増加および維持と共に増加している、バランスのとれた増殖である。
【0045】
通常は、微生物の増殖が栄養素の涸渇または有毒代謝産物の蓄積のいずれかによって制限され、増殖速度が低下する。適切な栄養源の供給ならびに増殖用の正確な温度およびpHの維持により、また必要な場合には酸素の供給により、増殖が維持される。
【0046】
本明細書で記載する貯蔵方法は、活性の著しい損失なしに容易に生体触媒を用いることができる有効な安定性を増進するべきである。貯蔵安定性は、例えば固定化、安定化化合物の添加または凍結乾燥などに頼る必要なしに達成される。尿素は公知のタンパク質不活性化剤であるが、尿素または尿素誘導体などの発酵培養液成分の何れかの除去に頼らずに、貯蔵安定性を達成することができる。
【0047】
貯蔵方法において用いられる組成物または環境は、酸素を含んでいてもよいし、または実質的に酸素フリーの環境であることもできる。酸素フリーという語句で、本発明者らは酸素の濃度が1%溶存酸素濃度未満であるべきことを意味する。発酵培養液からの酸素の除去を、酸素を除去するための任意の従来方法により達成することができる。これらには、不活性ガスによる一定期間の浄化、貯蔵容器のヘッドスペースの除去、減圧下での貯蔵またはアスコルビン酸またはヒドラジンおよびヒドラジドなどの公知の脱酸素剤の添加が含まれる。
【0048】
2日間、特に数日間の貯蔵後には、ある程度のニトリルヒドラターゼ活性の損失があると予想されていたであろう。酸素不在下でさえ、これが予想されていたであろう。特にそれは、尿素などの残余の発酵培養液成分の存在下で、そしてさらに0℃を越す温度では、予想されていたであろう。これは生体触媒中のプロテアーゼ酵素がニトリルヒドラターゼを含む細胞の他のタンパク質を分解すると予想されるからかもしれない。更に、尿素はタンパク質の不活性化剤であると知られているので、尿素または尿素誘導体の存在が有害であると予想することができるであろう。しかし、生体触媒は、予期された不利益をまったく蒙らず、したがってニトリルヒドラターゼ活性が著しい損失を蒙ることはない。
【0049】
反対に本発明者らは、貯蔵期間に、ニトリルヒドラターゼを含む生体触媒の活性が、ある場合においては実際に増大し得ることを見出している。したがって、本発明の別の局面では、本発明者らは、本発明の貯蔵方法に従って貯蔵媒質中に生体触媒を貯蔵することにより、ニトリルヒドラターゼを形成できる生体触媒のニトリルヒドラターゼ活性を増大させる方法を提供する。したがって、その方法は、その活性が増大する結果、新しい生体触媒組成物をもたらすことができる。したがって、生体触媒組成物の、また特に生体触媒の貯蔵中に形成されたニトリルヒドラターゼは新規である。さらに、生体触媒は、貯蔵期間中に腐敗に伴う悪臭を産生しない。
【0050】
好ましくは、貯蔵方法は、少なくとも2日、より好ましくは1週間以上生体触媒を貯蔵しておくことを可能にする。特に生体触媒を3日〜28日、例えば3〜14日、貯蔵してもよい。
【0051】
尿素などの発酵培養液成分の存在は、本発明のこの局面の組成物または貯蔵方法にとって必須ではない。発酵培養液成分が存在する場合には、これは尿素または尿素誘導体であってもよい。尿素誘導体は、例えば尿素のアルキル誘導体であってもよい。
【0052】
尿素または尿素誘導体が、発酵混合物に含まれることにより、生体触媒組成物の中に存在する可能性がある。本発明のある形式では、生体触媒を含む組成物または貯蔵媒質は、脱酸素されてもよく、また尿素のような発酵培養液成分を含んでもよい。
【0053】
本発明のこの局面の特に有利な特徴は、生体触媒を、それを培養した発酵混合物から分離することがもはや必要でないということである。それは、追加の処理工程を必要でなくするので重要な価値がある。したがって、組成物がさらに発酵混合物を含んでもよく、その後それを貯蔵する。生体触媒を貯蔵する方法では、発酵混合物が存在する状態でも酵素活性になんら有害な影響なくこれを達成できることを本発明者らは見出している。これがまた、生物変換工程を数日間にわたって実行しながら、その発酵培養液を反応を触媒するために直ちに用いることを可能にし、または損傷なく数日間または何週間も貯蔵することを可能にする。その結果、追加の処理工程を必要とせずに、容易に利用できる生体触媒の定常的な供給が保証され、したがって生物変換工程のコストを簡素化し低下させることになる。
【0054】
生体触媒は、その凍結点より上の温度で便利に貯蔵できる。通常、生体触媒を周囲温度で、例えば30℃または40℃までで貯蔵する。しかし、本発明の方法の利点は、周囲温度で、温度の監視と制御のための特別の注意なしに、生体触媒を貯蔵できることである。生体触媒を、好ましくは4〜30℃または40℃の温度で、より好ましくは5〜25℃、例えば10〜25℃、特に15〜25℃で貯蔵する。
【0055】
本発明のさらなる局面により、本発明者らはニトリルヒドラターゼを対応するニトリルと接触させることによりアミドを生産する方法を提供する。ここで、生体触媒は組成物の一部であるか、または貯蔵媒質中の活発に成長していない遊離細胞微生物の形で貯蔵されており、組成物または貯蔵媒質は発酵培養液を含み、また生体触媒は、微生物ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 またはその突然変異体である(または、それらから得られる)。
【0056】
したがって、本発明によれば、生体触媒は酸素を含む環境中に保持されていたのでもよく、または酸素フリーの環境に保持されていたのでもよい。ニトリルの変換を始める前に尿素などの残余の発酵培養液成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。これは本発明の貯蔵的局面に従った生体触媒貯蔵の結果であってもよく、または本発明に従った組成物として与えられてもよい。
【0057】
以前に示したように、生体触媒を調製した発酵混合物から生体触媒を取り出す必要はない。したがって、好ましい形態においては、生体触媒を保持する環境もまた発酵培養液の成分を含む。したがって、発酵培養液の成分を含む生体触媒組成物をニトリルと混合することができ、ニトリルはその後水和されて対応するアミドとなる。本発明者らは驚くべきことに、従来の;例えば US−A−5,567,608中で記述されている、生体触媒の固定化が生体触媒から反応生産物中への不純物の溶出を防ぐのに望ましいという知識とは対照的に、反応混合液中へ発酵培養液を含めることが、最終生産物の質に影響しないことを発見した。この局面については、本発明者らの同時出願に係る、事件番号BT/3−22349/P1により特定されるUK application 0327901.5に記述されている。
【0058】
発酵混合物は微生物を増殖させ保持することを可能にするために必須の成分を含むことになる。一般に、混合物は少なくとも炭素源、窒素源および様々な栄養源を含むであろう。これは、例えばグルコースまたは他の糖などの単糖、または二糖類または多糖類のような糖類、アンモニウム塩、酵母エキスおよびペプトンなどの複合培地成分、アミノ酸、ビタミン、リン酸塩、カリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウム塩、鉄、コバルト、マンガン、銅、亜鉛その他などの微量元素を含んでもよい。これらおよび他の成分を、特定の微生物に適切な濃度で発酵混合物中に含めることができる。発酵物は生体触媒の生産性の変化に依存する可能性があることが知られており、様々な生育段階で発酵培養液が用いられる可能性がある。したがって、そのような方法による生産の後に生体触媒を貯蔵できることが重要である。
【0059】
本発明者らは、生体触媒の活性が長期間の反応の間に著しく減少することはないことを見出している。従って、生体触媒をそれほど頻繁に交換しなくてもよい。生体触媒を少なくとも2日間用いて、その期間中活性を実質的に失わないのが好ましい。
【0060】
一般に、ニトリルヒドラターゼを用いる反応の触媒作用は、単一工程でニトリルを対応するアミドに変換することができる。このプロセスは、ニトリルがアクリロニトリルで、アミドがアクリルアミドである場合に、特に価値がある。この変換工程を、生体触媒の単一バッチを用いて数回行ない、そこから数日間に亘って一部分ずつを取り出して、ニトリルをアミドに変換するいくつかの反応を行なうことが望ましい。したがって、生物変換工程を同時に行なっている間に、触媒に対する損傷なしに、生体触媒をできるだけ低費用で貯蔵できることが重要である。そうすれば、実際上生体触媒の1つのバッチを、例えばアクリルアミドのいくつかのバッチを作るためにすぐに使用できるように貯蔵することができる。いくつかのバッチは、5〜10またはより多くのバッチであり、15〜20のバッチでさえも、あり得る。
【0061】
本発明のさらなる局面において、本発明者らは、微生物の生体触媒活性を改善する方法を見出した。微生物は、尿素または尿素の誘導体を含む培地で培養されることになる。しかし、尿素または尿素誘導体は、微生物の増殖開始より少なくとも6時間後に培地へ添加される。通常、培地には尿素または尿素誘導体が、微生物培養の少なくとも最初の6時間は実質的に存在せず、その後尿素または尿素誘導体が培地に加えられる。以前に示したように、本発明者らは実質的に存在しないという表現で、培地が0.2g/L 未満、通常は0.1g/L 未満の尿素または尿素誘導体を含むか、または全く含まないことを意味する。好ましくは培地には、少なくとも12時間、ある場合は少なくとも24時間、尿素または尿素誘導体が実質的に存在しない。しかし、生体触媒の活性を最大限にするために、尿素または尿素誘導体を培養48時間以内に添加することが好ましい。
【0062】
本明細書に記述する酵素活性により、生体触媒の活性を定めることができる。
【0063】
微生物はニトリルヒドラターゼを産生することができることが好ましい。適切に、そのような微生物を含む生体触媒を用いて、ニトリルヒドラターゼが反応を触媒する水和プロセスにより、アミドを対応するニトリルから調製することができる。尿素または尿素誘導体を遅れて加える微生物の培養によって、この反応に特に適する増強されたニトリルヒドラターゼ活性が得られる。そのプロセスが、(メタ)アクリロニトリルからの(メタ)アクリルアミドの調製に特に適している。そのようなプロセスを、本明細書に記述したように実施できる。さらに、生体触媒をリサイクルし再使用してもよい。
【0064】
特に、微生物がロドコッカス属、好ましくはロドコッカス ロドヒラス種、特にロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 であることが望ましい。
【0065】
次の実施例は、本発明を実施する方法の説明例を与える。
【実施例1】
【0066】
ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を土壌から、集積培養技術を用いて分離し、それを次の成分(g/L):KHPO、7.0;KHPO、3.0;ペプトン、5.0;酵母エキス、3.0;グルコース、5.0;MgSO、0.5;微量金属溶液、5 ml;アセトニトリル、20 ml、を含む培地で増殖させた。pHを7.2に調整した。ニトリルヒドラターゼ活性は、28℃で3日間増殖の後に、15℃で4,000μmol min-1/g 乾燥細胞であった。
【実施例2】
【0067】
(1)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、次の成分(g/L):リン酸水素二カリウム 0.7;リン酸水素カリウム 0.3;グルコース 10.0;ペプトン1.0;酵母エキス 3.0;硫酸マグネシウム七水和物 0.5;尿素 5.0;塩化コバルト六水和物 0.01;全体で1Lとなる水道水、を含む400 mlの培地を入れた2 L バッフル付エルレンマイヤーフラスコで増殖させた。培地のpHをpH 7.2に調整した。培養物を28℃で5日間増殖させ、その後ニトリルヒドラターゼ活性が15℃で47,900μmol min-1/g であった。
【0068】
(2)(a)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、ペプトンを除いたこと以外は(1)に記述したものと同じ培地で増殖させた。
(b)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、ペプトンを尿素と共に除いたこと以外は(2a)に記述したものと同じ培地で増殖させた。生物を24時間培養し、次に5 g/L の尿素を培養物に加え、さらに5日間増殖させた。
(c)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、尿素を培地に加えなかった以外は(2a)に記述したものと同じ培地で増殖させた。生物を48時間培養し、次に5 g/L の尿素を培養物に加え、さらに4日間増殖させた。
(d)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、尿素を培地に加えなかった以外は(2a)に記述したものと同じ培地で増殖させた。生物を6日間培養した。
【0069】
試料を、上に記述した4つの培養物から、増殖開始後1,2、3および6日目に取り出した。ニトリルヒドラターゼ活性を15℃で測定した。表1を参照のこと。
【0070】
【表1】

【実施例3】
【0071】
(1)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、次の成分(g/L): リン酸水素二カリウム 0.7;リン酸水素カリウム 0.3;グルコース 2.0;酵母エキス 3.0;硫酸マグネシウム七水和物 0.5;塩化コバルト六水和物 0.01、を含む180 L の培地を入れた280 L の発酵槽中で増殖させた。 培地のpHを pH 7.2に調整した。培養物を30℃で3日間増殖させた。尿素を培養液に17時間後に加えた。ニトリルヒドラターゼ活性を(30℃で)定期的に測定した。尿素を加えた22時間後、活性が30℃でおよそ176,000μmol min-1/g であり、さらに9時間後、活性が323,000μmol min-1/g に増大した。
【0072】
(2)625gの水を反応槽に満たし、それにロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を加えた。その混合物を25℃に熱した。アクリロニトリル375gを反応槽に、濃度を2%(w/w)に維持する速度で供給した。175分後、すべてのアクリロニトリルがおよそ50%(w/w)の最終濃度のアクリルアミドに変換されていた。
(3)細胞を(2)から遠心分離により回収し、625g の水に懸濁した。この懸濁液を、反応槽に再添加する前に3日間4℃で貯蔵した。(5)に記述した手順に従った。175分の後再び、アクリロニトリルがすべてアクリルアミドに変換された。
(4)(3)から得た細胞を、再利用に先立って2日間細胞を貯蔵した以外は上の(3)に記述した通りに処理した。再び、50%のアクリルアミドが合成された。実施例3 2−4)(5−7で生成された、アクリルアミドのバッチについて測定したアクリル酸濃度を表2に示す。
【表2】

【実施例4】
【0073】
(1)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、次の成分(g/L):リン酸水素二カリウム 0.7;リン酸水素カリウム 0.3;グルコース 1.0;酵母エキス 3.0;硫酸マグネシウム七水和物 0.5;塩化コバルト六水和物 0.01;尿素 5.0、を含む180 L の培地を入れた280 L の発酵槽中で増殖させた。培地のpHを pH 7.2に調整した。培養物を30℃で3日間増殖させた。
【0074】
25Lの発酵培養液を、周囲温度での貯蔵に先立って、20分間窒素で脱気した。貯蔵はおよそ5℃で3 1/2日間であった。ニトリルヒドラターゼ活性を収穫15時間後に測定し、それは25℃で242,000 U/g であると分かった。NH活性を3日後に再度測定したとき、それが293,000 U/g であると分かった。
【実施例5】
【0075】
(1)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、2 L のエルレンマイヤーフラスコ中で5日間28℃で180rpmで振盪しながら、次の成分(g/L):リン酸水素二カリウム 0.7;リン酸水素カリウム 0.3;グルコース 10.0;酵母エキス 3.0;尿素 5.0;硫酸マグネシウム七水和物 0.5;塩化コバルト六水和物 0.01、を含む培地中で増殖させた。培地のpHを pH 7.2に調整した。培養液を2つの部分に分割し、その半分から窒素を用いて酸素を除去した。酸素を除去した培養液および酸素を含む培養液の両部分を、4、15および25℃で1週間インキュベーションした。両部分のニトリルヒドラターゼ活性を定期的に測定した。
【0076】
ニトリルヒドラターゼ分析の結果を表3に示す。結果を、U/mg乾燥細胞で与える。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例5の結果から、生体触媒が周囲温度で有効に貯蔵できたことがわかる。さらに、ニトリルヒドラターゼ活性はゼロの日に比較して、この貯蔵の場合には増大した。
【実施例6】
【0079】
解凍したロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164の細胞を水に再懸濁した。ニトリルヒドラターゼ活性を1週間に亘って測定した。測定された相対的なニトリルヒドラターゼ活性を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4の結果は、貯蔵温度のいずれでも、1日〜7日のインキュベーション時間の間に活性が減少しなかったことを示す。
【実施例7】
【0082】
(1)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、次の成分(g/L): リン酸水素二カリウム 0.7;リン酸水素カリウム 0.3;グルコース 10.0;酵母エキス 3.0;硫酸マグネシウム七水和物 0.5;尿素 5.0;塩化コバルト六水和物 0.01;全体で1Lとする量の水道水、を含む100 mlの培地を入れた0.5 Lのバッフル付エルレンマイヤーフラスコ 中で増殖させた。培地のpHを pH 7.2に調整した。培養物を30℃で4日間増殖させた。ニトリルヒドラターゼ活性を2、3および4日の増殖の後に25℃で測定した。
(2)(a)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、尿素をジメチル尿素と置き換えた点を除いて、(1)に記述した培地で増殖させた。
(b)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、尿素をエチル尿素と置き換えた点を除いて、(1)に記述した培地で増殖させた。
(c)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、培地に5 g/Lの尿素の代わりに2.5 g/Lの尿素および2.5 g/Lのジメチル尿素を加えた点を除いて(1)に記述した培地において増殖させた。
(d)ロドコッカス ロドヒラス NCIMB 41164 を、培地に5 g/Lの尿素の代わりに、2.5 g/Lの尿素および2.5 g/Lのエチル尿素を加えた点を除いて(1)に記述した培地において増殖させた。
ニトリルヒドラターゼ活性を表5に示す。
【0083】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロドコッカス ロドヒラス(Rhodococcus rhodochrous)菌株 NCIMB 41164である微生物、またはその突然変異体。
【請求項2】
微生物ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164またはその突然変異体を、尿素または尿素誘導体を含む培地中で培養する方法。
【請求項3】
尿素または尿素誘導体を、微生物の増殖開始より少なくとも6時間後に培地へ添加する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
培地が、少なくとも微生物培養の最初の6時間の間、0.2 g/L未満の尿素または尿素誘導体を含み、かつその後尿素または尿素誘導体が培地に加えられる、請求項2または請求項3記載の方法。
【請求項5】
培地が、少なくとも微生物培養の最初の12時間の間、0.2 g/L未満の尿素または尿素誘導体を含み、かつその後尿素または尿素誘導体が培地に加えられる、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
尿素または尿素誘導体が培地に培養48時間以内に加えられる、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 である微生物またはその突然変異体から得られるニトリルヒドラターゼ。
【請求項8】
アミドを対応するニトリルから調製するプロセスであって、ロドコッカス ロドヒラス菌株NCIMB 41164である微生物、その突然変異体、およびロドコッカス ロドヒラス菌株NCIMB 41164またはその突然変異体から得られるニトリルヒドラターゼから成る群より選ばれる生体触媒の存在下で、ニトリルが水性媒質中で水和反応に供される、プロセス。
【請求項9】
アミドが(メタ)アクリルアミドである請求項8記載のプロセス。
【請求項10】
生体触媒が水性媒質に添加され、水性媒質中の(メタ)アクリロニトリルの濃度が6重量%以内に維持されるように、水性媒質に(メタ)アクリロニトリルが供給される、請求項9記載のプロセス。
【請求項11】
アクリルアミドの濃度が重量で30〜55%になるまで反応が継続する、請求項10記載のプロセス。
【請求項12】
生体触媒がリサイクルされ再使用される、請求項8〜11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
微生物が尿素または尿素誘導体を含む培地で培養される、微生物の生体触媒活性を向上させる方法であって、
尿素または尿素誘導体が、微生物の増殖開始より少なくとも6時間後に培地へ添加される、方法。
【請求項14】
培地が、微生物培養の少なくとも最初の6時間の間0.2 g/L 未満の尿素または尿素誘導体を含み、その後尿素または尿素誘導体が培地に加えられる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
培地が、微生物培養の少なくとも最初の12時間の間0.2 g/L 未満の尿素または尿素誘導体を含み、その後尿素または尿素誘導体が培地に加えられる、請求項13または請求項14記載の方法。
【請求項16】
培養48時間以内に培地に尿素または尿素誘導体が加えられる、請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
微生物がニトリルヒドラターゼを生産することができる、請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
微生物がロドコッカス属、好ましくはロドコッカス ロドヒラス種である、請求項13〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
アミドを対応するニトリルから調製するプロセスであって、ニトリルはニトリルヒドラターゼを生産することができる微生物からなる群より選ばれる生体触媒の存在下で水性媒質中の水和反応に供され、
微生物は請求項13〜18のいずれかに記載の方法により培養された、
プロセス。
【請求項20】
アミドが(メタ)アクリルアミドである、請求項19記載のプロセス。
【請求項21】
生体触媒が水性媒質に添加され、水性媒質中の(メタ)アクリロニトリルの濃度が6重量%以内に維持されるように、(メタ)アクリロニトリルが水性媒質へ供給される、請求項19記載のプロセス。
【請求項22】
アクリルアミドの濃度が重量で30〜55%になるまで反応が継続する、請求項21記載のプロセス。
【請求項23】
生体触媒がリサイクルされ再使用される、請求項19〜22のいずれかに記載のプロセス。
【請求項24】
微生物ロドコッカス ロドヒラス菌株 NCIMB 41164 またはその突然変異体である、あるいはそれらから得られる生体触媒を含み、生体触媒は活発には増殖していない遊離細胞微生物の形をしている、水性組成物。
【請求項25】
活発には増殖していない遊離細胞微生物の形の微生物ロドコッカス ロドヒラス菌株NCIMB 41164 またはその突然変異体である、あるいはそれらから得られる生体触媒を、水性の貯蔵媒質中に貯蔵する方法。
【請求項26】
生体触媒がその凍結点より上の温度で、好ましくは0℃より上の温度で、より好ましくは4〜30℃で貯蔵される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
少なくとも2日間、好ましくは3〜28日間、より好ましくは5〜14日間生体触媒が貯蔵される、請求項25または請求項26記載の方法。
【請求項28】
請求項25〜27のいずれかに記載の方法により得られる組成物。
【請求項29】
請求項24記載の組成物から得られるか、または請求項25〜27のいずれかに記載の方法により得られるニトリルヒドラターゼ。
【請求項30】
アミドを、対応するニトリルをニトリルヒドラターゼと接触させることにより生成する方法であって、
ニトリルヒドラターゼは、請求項24記載の組成物から得られるか、または請求項25〜27記載の方法により得られる、方法。
【請求項31】
アミドが(メタ)アクリルアミドである請求項30記載の方法。

【公表番号】特表2007−512820(P2007−512820A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541837(P2006−541837)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013252
【国際公開番号】WO2005/054456
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(592006855)チバ スペシャルティ ケミカルズ ウォーター トリートメント リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Water Treatments Limited
【Fターム(参考)】