説明

ロータディスク溝加工方法、ダンパの仕様決定システム、制御方法及びプログラム

【課題】切削加工をして溝を形成する際のディスクの振動を簡易な構成でもって効果的に抑制する。
【解決手段】ディスク3を有するロータ2におけるディスク3の外周部3aに切削加工を施して、動翼を嵌め込むための溝を形成するロータディスク溝加工方法であって、
ディスク3に対して、切削加工時におけるディスク3の振動を吸収するダンパ20を着脱可能に取り付けてから上記切削加工を行う。また、当該ダンパ20は、ダンパ仕様決定システムによって仕様(ダンパ質量、ダンパバネ定数、個数及び配置箇所)を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流機械のロータディスクの振動を抑制しながら動翼を嵌め込むための溝をディスク外周部に形成するロータディスク溝加工方法、並びに、当該ロータディスク溝加工方法に使用されるダンパの仕様決定システム、当該ダンパの仕様決定システムの制御方法、ダンパの仕様決定システム用のプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン等の軸流機械においては、ロータに一体型のディスクが設けられ、該ディスクの外周部に形成された複数の溝に動翼の根部が嵌め込まれて固定されている。
上記ディスク外周部の溝の形成加工は、静置されたロータに対して、NC工作機の回転工具を近接させて行なわれる。即ち、この回転工具は、自己回転しながらロータの軸方向に送られて、該回転工具がディスク外周面に対して切削加工を施すことにより、該ディスク外周面に動翼を固定するための溝が形成される。
【0003】
ここで、ロータディスクの溝加工時においては、回転工具の切削加工によってディスクに振動が発生する。従来、この振動によって、溝の加工面の精度が低下して動翼の保持に支障を来たす他、回転工具に作用する切削抵抗が過大となってディスク自体に破損が生じてしまうおそれがあった。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1には、ディスク間にこれらディスクを押圧する油圧シリンダを有する突っ張り装置を設け、ディスクの振動の計測結果を油圧シリンダにフィードバックすることで該油圧シリンダを制御して振動を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−100037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載された技術には以下の問題があった。
即ち、ディスクの振動を計測して当該計測結果を油圧シリンダの制御にフィードバックさせるといったアクティブな制御を必要とするため、装置自体が大掛かりかつ複雑なものとなってしまってしまい、製造コスト及びメンテナンスコストの上昇を招いてしまっていた。
また、ディスクの振動周波数は数百Hzに達するため、油圧シリンダでは応答性が遅く、ディスクの振動に対して適切に対応することができないという欠点があった。
【0007】
さらに、ディスク外周面の溝は、ディスクの周方向に間隔をあけて数十箇所に形成する必要があるため、一の溝を加工した後にはディスクを一溝分だけ回転させる作業を行う必要がある。この回転作用の度に、ディスク間に設けられた突っ張り装置の取り外し及び取り付け作業を行う必要があるため、作業に時間と労力がかかってしまっていた。また、ディスクから突っ張り装置を取り外した際における当該突っ張り装置の落下を回避するための支持機構を別途設ける必要があるため装置自体を複雑なものとなり、この点からコストの上昇を招いてしまうという問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、切削加工をして溝を形成する際のディスクの振動を簡易な構成でもって効果的に抑制することが可能なロータディスク溝加工方法、並びに当該当該ロータディスク溝加工方法に使用されるダンパの仕様決定システム、制御方法、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係るロータディスク溝加工方法は、ディスクを有するロータにおける前記ディスクの外周部に切削加工を施して、動翼を嵌め込むための溝を形成するロータディスク溝加工方法であって、前記ディスクに対して、前記切削加工時における前記ディスクの振動を吸収するダンパを着脱可能に取り付けるステップと、前記ディスクに前記切削加工を施すステップとを備えることを特徴とする。
これにより、切削加工時のディスクの振動をダンパが吸収し、該ディスク全体として振動を抑制することができる。また、ダンパは着脱可能にディスクの端面に取り付けられるため、作業者自身により取付作業及び取り外し作業を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係るロータディスク溝加工方法において、前記ダンパを、前記ディスクの端面に複数取り付けることが好ましい。
これによって、より効果的にディスクの振動を抑制することができる。
【0011】
さらに、前記ダンパを、前記ディスクの端面における同一の径方向位置に、周方向に等間隔をあけて少なくとも6つ取り付けることが好ましい。
これにより、ディスクの外周面におけるいかなる周方向位置に切削加工を施す場合であっても、周方向に均等に配置された6つ以上のダンパにより、ディスクの振動を効果的に抑制することができる。また、加工箇所に応じてダンパの配置箇所の変更をする必要がないため、切削加工を円滑に行うことができる。
【0012】
本発明に係るダンパの仕様設計システムは、複数のディスクを有するロータにおける前記ディスクの端面に該ディスクの振動を吸収するダンパを取り付けて、該ディスクの外周部に動翼を嵌め込むための溝を切削加工するロータディスク溝加工方法で用いられる前記ダンパの仕様決定システムであって、モード解析に基づいて、特定の振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を取得するモード解析部と、前記等価質量、前記等価剛性及び予め定めた前記ダンパの質量から、前記ディスクと前記ダンパとの最適固有角振動数比の算出式に基づき、前記ダンパのバネ定数を算出するバネ定数算出部とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るダンパの仕様設計システムにおいて、前記モード解析部は、モード解析に基づいて、前記ディスクの複数の振動モードそれぞれにおける固有振動数を取得する固有振動数解析部と、前記複数の振動モードのうち、予め前記ディスクへの切削加工時に実測して取得した最も励起し易い振動モードを選択する振動モード選択部と、モード解析に基づいて、前記振動モード選択部により選択された前記振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を算出する等価質量・剛性解析部とから構成されていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係るダンパの仕様設計システムにおいては、前記固有振動数解析部は、前記ディスクの設計図データを使用したモード解析に基づいて、前記固有振動数を取得することを特徴とすることが好ましい。
【0015】
一方、本発明に係るダンパの仕様設計システムにおいて、前記固有振動数解析部は、前記ディスクに配置した複数の加速度計による振動実測値からモード解析に基づいて、前記固有振動数を取得してもよい。
【0016】
さらに、本発明に係るダンパの仕様設計システムは、予め定めた前記ダンパの質量及び前記バネ定数算出部により算出された前記バネ定数を有する前記ダンパを、前記ディスクに対して予め定めた個数及び配置箇所で取りつけた際の振動シミュレーションを実行し、前記ディスクの振動の減衰特性を取得する振動シミュレーション実行部と、前記減衰特性が予め定めた基準減衰特性以上か否かを判定する減衰特性判定部と、前記減衰特性が前記基準減衰特性を下回ると前記減衰特性判定部が判定した場合に、前記ダンパの個数、配置箇所、質量及びバネ定数の少なくとも一つを変更して、これら個数、配置箇所、質量、バネ定数を前記振動シミュレーション実行部に出力する設計変更部とをさらに備え、前記シミュレーション実行部は、前記設計変更部の出力である個数、配置箇所、質量及びバネ定数の前記ダンパを前記ディスクに取りつけた際の振動シミュレーションを実行し、前記ディスクの振動の減衰率を取得することを特徴とすることが好ましい。
【0017】
本発明に係る制御方法は、複数のディスクを有するロータにおける前記ディスクの端面に該ディスクの振動を吸収するダンパを取り付けて、該ディスクの外周部に動翼を嵌め込むための溝を切削加工するロータディスク溝加工方法で用いられる前記ダンパの仕様決定システムを制御する制御方法であって、モード解析に基づいて、特定の振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を取得するモード解析段階と、前記等価質量、前記等価剛性及び予め定めた前記ダンパの質量から、最適固有角振動数比の算出式に基づき、前記ダンパのバネ定数を算出するバネ定数算出段階とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るプログラムは、複数のディスクを有するロータにおける前記ディスクの端面に該ディスクの振動を吸収するダンパを取り付けて、該ディスクの外周部に動翼を嵌め込むための溝を切削加工するロータディスク溝加工方法で用いられる前記ダンパの仕様決定システム用のプログラムであって、前記ダンパの仕様決定システムをモード解析に基づいて、特定の振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を取得するモード解析部と、前記等価質量、前記等価剛性及び予め定めた前記ダンパの質量から、最適固有角振動数比の算出式に基づき、前記ダンパのバネ定数を算出するバネ定数算出部として、機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のロータディスク溝加工方法によれば、取り付け及び取り外し可能なダンパをディスク端面に配置することにより、溝を切削加工する際に発生する振動を簡易な構成でもって効果的に抑制することが可能となる。
また、当該ロータディスク溝加工方法に使用される本発明のダンパの仕様決定システム、制御方法、プログラムによれば、切削加工時におけるディスクの振動を効果的に抑制することができるダンパを設計することが可能となる。したがって、このダンパをディスク端面に取り付けて切削加工を行うことにより、該切削加工時のディスクの振動を一層効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るロータディスク溝加工方法が実行されるロータディスクを軸線方向から見た図ある。
【図2】ロータディスクを径方向外側から見た側面図である。
【図3】ディスク端面に取り付けられるダンパをディスクの周方向から見た図である。
【図4】ディスク端面に取り付けられるダンパをディスクの軸線方向から見た図である。
【図5】ディスク端面に取り付けられるダンパをディスクの径方向から見た図である。
【図6】実施形態に係るダンパの仕様決定システムの利用環境の一例を示す図である。
【図7】ダンパの仕様決定システムのブロック構成の一例を示す図である。
【図8】ディスクにおける最も励起され易い振動モードの振動分布図である。
【図9】(a)はディスクを一次のバネ−マス振動系とみなした際の模式図、(b)は、ディスクにダンパを取り付けた状態を一次のバネ−マス振動系とみなした際の模式図である。
【図10】振動特性として採用する振動比を説明するための周波数応答のグラフである。
【図11】ダンパ仕様決定システムがダンパの仕様を提示するまでの動作フローの一例、即ち、ダンパ仕様決定システムの制御方法の一例である。
【図12】ダンパの仕様決定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【図13】ディスクに配置した複数の加速度計によって振動を実測する一例を説明
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ロータディスク溝加工方法)
以下、本発明の実施形態に係るロータディスク溝加工方法について図1〜図4を参照して詳細に説明する。
図1及び図2に示されるように、本実施形態のロータディスク溝加工方法が実行されるロータディスク1は、軸線Oが水平方向に沿うようにして図示しないVブロック台等の支持器具に両端部が載置された円柱状をなすロータ2と、該ロータ2に対して外嵌されるようにして一体に固定された円盤状をなすディスク3とから構成されている。当該ディスク3は、例えばロータ2の軸線O方向に互いに離間するようにして複数が設けられている。
【0022】
また、上記ロータディスク1における軸線Oに直交する水平方向両側には、該ロータディスク1を挟んで互いに対向するようにしてNC工作機10が配置されている。このNC工作機10は、ロータディスク1におけるディスク3の外周部3aに切削加工を施すための回転工具11をそれぞれ備えており、これら回転工具11は互いに軸線O方向位置及び高さ位置が同一に配置されている。このような構成により、回転工具11は、ディスク3の外周部3aにおける軸線Oを対称中心とした対称位置に同時に切削加工が施されるようになっている。これら回転工具11による切削加工によって、ディスク3の外周部3aに動翼の根部を嵌め込むための溝4が形成される。
【0023】
そして、本実施形態においては、ディスク3の端面3b、即ち、ディスク3における軸線O方向を向く面には、複数のダンパ20が、ディスク3の周方向に等間隔をあけて、かつ、同一の径方向位置に複数設けられている。このダンパ20の構成について図3〜図5を参照して説明する。
【0024】
ダンパ20は、ディスク3の端面3b上において該ディスク3の半径方向(図3及び図4における左右方向)に間隔をあけて配置される一対のマグネットベース21,21を備えている。このマグネットベース21,21はそれぞれ永久磁石からなる略直方体形状をなしており、ディスク3の端面3b側を向く面が端面3bに対して磁気的に吸着固定されている。なお、当該マグネットベース21,21の磁力は、ディスク3の端面3bに固定した際に不動とされる一方、作業者が手作業にて取り外し可能な程度の大きさに設定されていることが好ましい。
【0025】
これらマグネットベース21,21におけるディスク3の端面3bの反対側を向く面には、これら一対のマグネットベース21,21にわたるようにしてディスク3の半径方向に延在する板バネ22が設けられている。これら板バネ22は、シム23,23を介してマグネットベース21,21上に配置されており、これらマグネットベース21,21及びシム23,23を貫通するとともに一端がマグネットベース21,21に固定されるボルト24,24を介して、マグネットベース21,21と一体に固定されている。これにより、板バネ22は、図3〜図5の上下方向、即ち、軸線O方向に所定のバネ定数にて弾性変形可能とされている。
【0026】
また、一対のマグネットベース21,21の間には、ウェイト25が設けられている。このウェイト25は、一対のマグネットベース21,21の間において、板バネ22におけるディスク3の端面3b側(図3における下側)にワッシャ26を介して配置された第一ウェイト25aと、板バネ22におけるディスク3の端面3bとは反対側(図3における上側)にワッシャ27を介して配置された第二ウェイト25bとを備えている。
【0027】
これら第一ウェイト25a及び第二ウェイト25bは、第二ウェイト25bにおけるディスク3の端面3bの反対側を向く面から該第二ウェイト25b、ワッシャ27、板バネ22、ワッシャ26を貫通して第一ウェイト25aに至るように捩じ込まれた一対のボルト28,28を介して、板バネ22に一体に固定されている。
さらに、第一ウェイト25aの下面には、ディスク3の端面3bに当接するゴム等の弾性部材からなる防振材29が設けられている。即ち、当該防振材29は、第一ウェイト25aとディスク3の端面3bとに圧縮状態で挟み込まれるようにして第一ウェイト25aに一体に固定されている。
【0028】
次に、このようなダンパ20を用いたロータディスク溝加工方法について説明する。
まず、図1に示すように、複数(本実施形態では6つ)のダンパ20をディスク3の端面3bに対して、同一の径方向位置かつ周方向に等間隔をあけた位置に配置する。各ダンパ20は、一対のマグネットベース21,21の離間方向がディスク3の径方向に沿った状態で配置させる。このダンパ20の配置作業は、作業員の手作業により行われ、マグネットベース21,21の磁気的な吸着力によってダンパ20がディスク3の端面3bに不動に固定される。
【0029】
そして、このようにダンパ20をディスク3の端面3bに配置した後、一対のNC工作機10を制御することにより、ディスク3の外周部3aに回転工具11による切削加工を施して溝4を形成する。この際、一対のNC工作機10は、それぞれ軸線Oを対称中心として互いに対称に制御される。これにより、ディスク3に対して対称の位置にて回転工具11による切削加工が施されるため、各回転工具11による切削力及び切削抵抗が互いに相殺され、ディスク3に発生する振動を低く抑えることができる。
そして、一の溝4を加工形成した後に、ロータ2を軸線O回りに回転させて再度溝4を加工形成するといった作業を繰り返すことにより、ディスク3の外周部3aに周方向に間隔をあけた複数の溝4が形成される。
【0030】
ここで、本実施形態におけるダンパ20は、上記構成をなしていることにより、ディスク3が特に軸線O方向に振動した場合には、板バネ22に一体に固定されたウェイト25が該板バネ22の軸線O方向の振動に伴って該板バネ22と同様軸線O方向に振動する。即ち、ダンパ20が、板バネ22のバネ定数をダンパバネ定数kとするとともにウェイト25の質量をダンパ質量mとして近似した一次の振動系の動吸振器として作用することで、ディスク3の振動を吸収する。そして、ウェイト25の振動は、該ウェイト25一体に固定された防振材29の作用によって減衰させられる。
【0031】
このように、本実施形態のロータディスク溝加工方法によれば、切削加工時のディスク3の振動をダンパが吸収するため、該ディスク3全体として振動をより一層抑制することができる。また、ダンパは着脱可能にディスクの端面に取り付けられるため、作業者自身により取付作業及び取り外し作業を行うことができる。即ち、取り付け及び取り外し可能なダンパ20をディスク3の端面3bに配置することにより、溝4を切削加工する際に発生する振動を簡易な構成でもって効果的に抑制することが可能となるのである。
【0032】
また、本実施形態においては、複数のダンパ20をディスク3の端面3bに取り付けたので、より効果的にディスク3の振動を抑制することができる。なお、一のダンパ20のみをディスク3に取り付けた場合であっても振動の抑制効果を得ることができる。
【0033】
さらに、ダンパ20が、ディスク3の同一の径方向位置に周方向間隔をあけて複数(本実施形態においては6つ)配置されているため、ディスク3の外周部3aの全域に溝4を加工形成すべく、ロータ2を順次回転させて切削加工を施す場合であっても効果的に振動を吸収することができる。即ち、ディスク3の外周部3aにおけるいかなる周方向位置に切削加工を施す場合であっても、周方向に均等に配置された複数のダンパ20により、ディスク3の振動を効果的に抑制することができる。さらに、加工箇所に応じてダンパ20の配置箇所の変更をする必要がないため、切削加工を円滑に行うことができる。
【0034】
なお、ダンパ20の個数は少なくとも6つが配置されていることが好ましく、例えば7つ以上が配置されていてもよい。また、対称に配置される一対のNC工作機10により切削加工を施す観点から、当該ダンパ20の個数は奇数よりも偶数とされていることが好ましい。これによって、一対のNC工作機10それぞれの切削加工により発生する振動を均等に吸収することができ、ディスク3全体としての振動をより効果的に抑制することができる。
【0035】
ここで、上記ウェイト25の質量をダンパ質量mと近似するとともに、板バネ22のバネ定数をダンパバネ定数kと近似し、これらダンパ質量m、ダンパバネ定数k、ダンパ20の個数及び配置箇所を最適化すれば、ディスク3に発生する振動をより効果的かつ迅速に吸収して、該ディスク3全体としての振動をより容易に抑制することができる。以下、この観点から、ロータディスク溝加工方法に使用されるダンパ20の各仕様(ダンパ質量m、ダンパバネ定数k、個数、配置箇所)を決定するための仕様決定システムについて説明する。
【0036】
(ダンパの仕様決定システム、制御方法)
図6に、実施形態に係るダンパ仕様決定システム100の利用環境の一例を示す。ダンパ仕様決定システム100は、ダンパ20の仕様、即ち、ダンパ質量m、ダンパバネ係数k2、個数、配置箇所を提示するコンピュータである。このダンパ仕様決定システム100は、ディスク3に対して溝4を切削加工する際に生じる振動を効果的に吸収することができるダンパ20の上記仕様を提示する。
なお、このダンパ仕様決定システム100においては、ダンパ質量mはウェイト25の質量と等価なものとして近似し、ダンパバネ定数kは板バネ22のバネ定数と等価なものとして近似する。
【0037】
ダンパ仕様決定システム100には、ディスプレイ200、キーボード300、及びマウス400が電気的に接続されている。
ディスプレイ200は、文字や図形等を表示する装置である。ディスプレイ200としては、陰極線管を利用したテレビと同じ原理のCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや、設置面積が小さく消費電力の少ない液晶ディスプレイや、ガス放電を利用したプラズマディスプレイ等が考えられる。
キーボード300は、タイプライターのように、指でキーを押すことによって、ダンパ仕様決定システム100に文字を示すデータを入力する装置である。
【0038】
マウス400は、表にボタンが、裏にボールが付いた小さい入力装置である。マウス400は、人間が机上で滑らせることにより、裏のボールが回転し、移動方向、移動速度等を示すデータがダンパ仕様決定システム100に送られる。ディスプレイ200の画面上には、ダンパ仕様決定システム100の動きに合わせて移動するマウスカーソルが表示され、これを操ることによってダンパ仕様決定システム100を操作する。マウス400としては、裏にボールではなく発光器と受光器を持ち、光学的に移動方向や移動速度を検出する光学式マウスや、コンピュータとの接続にケーブルではなく赤外線を使うワイヤレスマウス等が考えられる。
作業者は、ダンパ仕様決定システム100を利用するに当たり、上記キーボード300やマウス400を操作することによって、ダンパ20の最適な仕様を得ることができる。
【0039】
図7は、ダンパ仕様決定システム100のブロック構成の一例を示す。ダンパ仕様決定システム100は、データ入力受付部101、設計図データ格納部102、振動モードデータ格納部103、モード解析部104、ダンパ質量データ格納部108、バネ定数算出部109、初期個数・配置箇所データ格納部110、振動シミュレーション実行部111、減衰特性判定部112、設計変更データ格納部113、設計変更部114、仕様データ出力部115を有している。以下、各構成要素の機能及び動作を説明する。
【0040】
データ入力受付部101は、例えばディスク3の材料特性(ヤング率、ポアソン比、密度)やディスク3の外周部3aの加振条件、拘束条件、節点数等、後述するモード解析に必要な条件の入力を受け付ける。
【0041】
設計図データ格納部102は、ロータディスク1におけるディスク3の寸法等の設計図データを格納している。本実施形態においては、例えばCADやCAEにより作成されたディスク3の図面データが格納されている。
【0042】
振動モードデータ格納部103は、ディスク3を加振した場合における複数の該ディスク3の振動モードのうち、最も励起され易い振動モードがいずれの振動モードであるかのデータが格納されている。当該データは、ディスク3に対して加振を行った際の該ディスク3の振動を実際に測定することにより予め取得される。本実施形態においては、例えば図8に示すような、ロータ2の軸線Oを対称中心とした点対象の振動分布、即ち、ディスク3の外周部3aに周方向に等間隔をあけて4つの振動極大点が存在し、隣り合う振動極大点の振動方向が互いに反対の振動分布を有する振動モードを最も励起され易い振動モードとし、当該振動モードのデータが振動モードデータ格納部103に格納されている。
【0043】
モード解析部104は、モード解析に基づいて、特定の振動モードにおけるディスク3の等価質量m及び等価剛性kを取得する機能を有しており、固有振動数解析部105と、振動モード選択部106と、等価質量・剛性解析部107との3つの要素から構成されている。
【0044】
固有振動数解析部105は、上記データ入力受付部101に入力されたディスク3の材料特性、加振条件、拘束条件、節点数等のデータ、及び、設計図データ格納部102に格納されたディスク3の設計図データを用いて、モード解析を行なう。これにより、固有振動数解析部105は、ディスク3の複数の振動モード、及び、これら各振動モードにおける固有振動数fを取得する。
即ち、例えばモード解析を有限要素法に基づいて行った場合、この固有振動数解析部105は、ディスク3の設計図データを解析モデルと設定して、当該解析モデルを上記節点数を備えた有限個の要素に分割し、この結果得られる要素に通し番号を割り振る。そして、有限要素法の定式化により、剛性マトリックス及び質量マトリックスを生成し、これにより特定される固有値問題を数学的に解くことにより、複数の振動モード、及び、これら各振動モードの固有振動数fを取得する。
【0045】
振動モード選択部106は、上記振動モードデータ格納部103に格納されたデータに基づいて、固有振動数解析部105が解析した複数の振動モードの中から一の振動モード、即ち、ディスク3の複数の振動モードのうち最も励起し易い振動モードを選択する。上述したように、本実施形態においては、図8に示すようなロータ2の軸線Oを対称中心とした点対象の振動分布の振動モードが振動モード選択部106により選択される。
【0046】
等価質量・剛性解析部107は、固有振動数解析部105と同様にモード解析に基づいて、振動モード選択部106により選択された振動モードにおけるディスク3の等価質量(モード質量)m及び等価剛性(モード剛性)kを算出する。これら、等価質量m及び等価剛性kは、振動モード選択部106により選択された特定の振動モードを一次の振動系とみなした際の質量・剛性(バネ定数)と等価な値である。
【0047】
このようなモード解析部104における等価質量m及び等価剛性k1の取得は、一般的なモード解析ソフトを用いることで実行することができる。
なお、本実施形態においては、モード解析部104において固有振動数解析部105、振動モード選択部106及び等価質量・剛性解析部107の各処理による3ステップを踏まえて等価質量m及び等価剛性kを取得することとしたが、これに限定されることはなく、モード解析ソフトに従って等価質量(モード質量)m及び等価剛性kを取得することができれば、いかなるステップを踏まえた取得方法を採用してもよい。
【0048】
ダンパ質量データ格納部108は、設計されるダンパ20の予め定められた質量がデータとして格納されている。即ち、ダンパ質量mの値は予め定められており、例えば、作業者がダンパ20を容易に取り扱うことができるように2〜3kgに設定され、当該質量データがダンパ質量データ格納部108に格納されている。
【0049】
バネ定数算出部109は、モード解析部104にて取得したディスク3の等価質量m、等価剛性k及び予め定めたダンパ質量m(ウェイト25の質量)から、最適固有角振動数比の算出式に基づき、ダンパバネ定数k2を算出する。以下、当該ダンパバネ定数k2の算出手順について説明する。
【0050】
等価質量m及び等価剛性kのディスク3を一次の振動系とすると、該ディスク3の振動系は、図9(a)に示すように、固有振動数fで振動するバネ−マス振動系とみなすことができる。そして、このディスク3にダンパ20を取り付けた際の振動系を考えると、図9(b)に示すように、ディスク3からなる振動系(主系)に、ダンパ20を一次の振動系として取り付けたものとみなすことができる。この図9(b)に示す振動系では、ディスク3が加振された際に、ダンパ20が動吸振器として振動することにより、ディスク3自体を制振することができる。
【0051】
ここで、ディスク3の固有角振動数をω、ダンパ20の固有角振動数をωとすると、動吸振器として機能するダンパ20の制振作用が最大となるこれらディスク3とダンパ20との固有角振動数比、即ち、ディスク3とダンパ20との最適固有角振動数比は、一般に以下の(1)式で表すことができる。
【数1】

この(1)式においてμはディスク2とダンパ20との質量比であり、以下の(2)式で表すことができる。
【数2】

さらに、ディスク3の固有角振動数ω及びダンパ20の固有角振動数をωは、一般に以下の(3)及び(4)式で表すことができる。
【数3】

【数4】

【0052】
そして、上記(2)〜(4)式を(1)式に代入して整理すると、以下の(5)式を得ることができる。
【数5】

【0053】
ここで、ダンパ質量mの値は、ダンパ質量データ格納部108に予め設定されたデータが格納されている。したがって、バネ定数算出109は、ダンパ質量データ格納部108のダンパ質量mのデータに基づいて、(5)式により、ダンパバネ定数kを計算することができる。
このように、バネ定数算出部108は、予め設定されたダンパ質量m及び上記(5)式に基づいてダンパバネ定数kを算出する。これにより、ダンパ20の仕様であるダンパ質量m、ダンパバネ定数kの値が決定される。
【0054】
初期個数・配置箇所データ格納部110は、後述する振動シミュレーション実行部110にて初回の振動シミュレーションを行なう際におけるダンパ20の個数及び配置箇所がデータ(個数・配置箇所データ)として格納されている。本実施形態においては、例えばダンパ20の個数を6つとし、配置箇所を周方向に均等な位置としたデータが、個数・配置箇所データとして初期個数・配置箇所データ格納部110に格納されている。
【0055】
振動シミュレーション実行部111は、バネ定数算出部109により算出されたダンパバネ定数k及び予め定められたダンパ質量mのダンパ20を、初期個数・配置箇所データ格納部110の個数・配置箇所データあるいは後述する設計変更部114から出力されたデータに基づいてディスク3に取り付けた際の振動シミュレーションを実行する。具体的には、バネ定数算出部100の出力に基づく第一回目の振動シミュレーションは、初期個数・配置箇所データ格納部110のデータに基づき実行し、設計変更部114からの出力に基づく第2回目以降の振動シミュレーションは当該設計変更部114から出力されるデータに基づいて行なう。
【0056】
この振動シミュレーション実行部110による振動シミュレーションにおいては、ダンパ20の仕様に基づく振動の減衰特性を取得する。この減衰特性としては、減衰比、対数減衰率、損失係数等の種々の減衰を表すパラメータが該当する。例えば、本実施形態においては、減衰特性として減衰比ζが採用されている。
【0057】
ここで、減衰比ζについて説明する。上記振動シミュレーションを実行すると、図10に示すような、振幅応答のグラフを取得することができる。ここで当該振幅応答のグラフにおけるピーク点の周波数をfとし、ピーク点の周波数の約70%の大きさの周波数における周波数幅をΔfとすると、減衰比ζは以下の(6)式で表すことができる。このような減衰比の値が大きくなる程、振動系の減衰の度合いも大きくなる。
【数6】

【0058】
減衰特性判定部112は、振動シミュレーション実行部111により解析された減衰特性が予め定めた基準減衰特性以上となるか否かを判定する。基準減衰特性とは、ディスク3の振動を効果的に減衰することができる減衰特性として予め定められたものである。
本実施形態においては、振動シミュレーション実行部111が解析する減衰特性として減衰比ζを採用しているため、当該減衰特性判定部112における基準減衰特性として基準減衰比ζが採用されている。減衰比ζが基準減衰比ζ以上となる場合には、効果的な減衰効果を得られることを意味し、減衰比ζが基準減衰比ζを下回る場合には、減衰効果が低いことを意味している。
そして、減衰特性判定部112は、減衰特性(減衰比ζ)が基準減衰特性(基準減衰比ζ)を下回ると判断した場合には設計変更部114に出力し、減衰特性(減衰比ζ)が基準減衰特性(基準減衰比ζ)以上と判断した場合には仕様データ出力部115に出力する。
【0059】
設計変更データ格納部113は、ダンパ質量m、ダンパバネ係数k、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所のデータが格納されている。このダンパ質量m、ダンパバネ係数k、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所は予め定められたデータであって、後述する設計変更部114によるダンパ20の仕様の設計変更に使用される。
【0060】
設計変更部114は、減衰特性が基準減衰特性を下回ると減衰特性判定部112が判定した場合に、設計変更データ格納部113に格納されたダンパ質量m、ダンパバネ係数k、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所のデータに基づいて、振動シミュレーション部111で振動シミュレーションが実行されたダンパ20の仕様(ダンパ質量m、ダンパバネ係数k、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所)の少なくとも一つを変更する。即ち、ダンパ20の仕様の少なくとも一つを変更することでダンパ20の設計変更を行ない、新たなダンパ20の仕様を振動シミュレーション実行部1111に出力する。
【0061】
仕様データ出力部115は、ダンパ20の振動シミュレーションにより取得された衰特性が基準減衰特性以上であると減衰特性判定部112が判定した場合に、当該振動シミュレーションが実行されたダンパ20の仕様をディスプレイ200に出力する。これにより、ディスプレイ200にダンパ20の仕様データが提示される。
【0062】
図12に、ダンパ仕様決定システム100がダンパ20の仕様を提示するまでの動作フローの一例、即ち、ダンパ仕様決定システム100の制御方法の一例を示す。
作業者は、ダンパ仕様決定システム10を利用してダンパ20の仕様を取得しようとする場合、キーボード300やマウス400を操作することによって、ディスク3の材料特性(ヤング率、ポアソン比、密度)やディスク3の外周部3aの加振条件、拘束条件、節点数等、モード解析に必要な条件を入力する。この入力をデータ入力受付部101が受け付けると(S1)、モード解析部104によるモード解析が実行される。
【0063】
即ち、固有振動数解析部105により、作業者によって入力された条件及びディスク3の設計図データ(CADデータ、CEAデータ)に基づいたモード解析が実行され(S2)、これによりディスク3の複数の振動モード、及び、これら各振動モードの固有振動数が取得される(S3)。
【0064】
次いで、振動モード選択部106により、振動モードデータ格納部103に格納されたデータに基づいて、切削加工時に最も励起され易いディスク3の振動モードが選択され(S4)、等価質量・剛性解析部107が、振動モード選択部106により選択された振動モードにおけるディスク3の等価質量m、等価剛性kを算出する(S5)。
【0065】
その後、バネ定数算出部109により、等価質量・剛性解析部107にて取得したディスク3の等価質量m、等価剛性k、及び、ダンパ質量データ格納部108に格納されたダンパ質量m(ウェイト25の質量)から、上記(5)式に基づいてダンパバネ係数kを算出する(S6)。
次いで、シミュレーション実行部111が、上記ダンパ質量m及びダンパバネ係数kのダンパ20をディスク3に取り付けた際の振動シミュレーションを実行し、ディスク3の減衰特性(減衰比ζ)を取得する(S7)。
【0066】
そして、減衰特性判定部112が、上記振動シミュレーションの実行により取得した減衰特性(減衰比ζ)が予め定めた基準減衰特性(基準減衰比ζ)以上となるか否かを判断する(S8)。
減衰特性(減衰比ζ)が予め定めた基準減衰特性(基準減衰比ζ)を下回ると減衰特性判定部112が判断した場合(S8:No)、設計変更部114が、設計変更データ格納部113に格納されたデータに基づき、ダンパ20の仕様(ダンパ質量m、ダンパバネ係数k2、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所)の少なくとも一つを変更し(S9)、この変更された新たな仕様にて再度上記振動シミュレーションが繰り返し実行される(S7)。
【0067】
一方、減衰特性(減衰比ζ)が予め定めた基準減衰特性(基準減衰比ζ)以上となると減衰特性判定部112が判断した場合(S8:Yes)、仕様データ出力部115によってダンパ20の仕様(ダンパ質量m、ダンパバネ係数k、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所)がディスプレイ200に提示される。
作業者は、このようにディスプレイ200に提示されたダンパ20の仕様に基づいて、該ダンパ20におけるウェイト25の質量、板バネのバネ定数、ダンパ20の個数、配置箇所を設計することで、ディスク3の外周部3aを切削加工する際のディスク3の振動を効果的抑制することができる。
【0068】
以上のように、本実施形態のダンパ仕様決定システム100によれば、モード解析に基づいて特定の振動モードにおけるディスク3の等価質量m及び等価剛性kを取得するモード解析部104と、これら等価質量m、等価剛性k及び予め定めたダンパ質量mから、ディスク3とダンパ20との最適固有角振動数比の算出式((6)式)に基づき、ダンパバネ定数k2を算出するバネ定数算出部109を備えているため、動吸振器としての制振作用を最大限に発揮することが可能なダンパ20を設計することができる。
【0069】
また、モード解析部104は、モード解析に基づいて、ディスクの複数の振動モードそれぞれにおける固有振動数を取得する固有振動数解析部105と、複数の振動モードのうち、予めディスク3への切削加工時に実測して取得した最も励起し易い振動モードを選択する振動モード選択部106と、モード解析に基づいて、振動モード選択部106により選択された振動モードにおけるディスク3の等価質量m及び等価剛性kを算出する等価質量・剛性解析部107とから構成されているため、ディスク3の等価質量m及び等価剛性kを確実に取得することができ、バネ定数算出部109がこれら等価質量m及び等価剛性kに基づいて計算することで、より正確なダンパバネ定数kを算出することができる。
【0070】
さらに、固有振動数解析部105は、ディスク3の設計図データ(CADデータ、CEAデータ)及び作業者によって入力される諸条件に基づいてモード解析を行なうことにより固有振動数を取得する構成のため、容易かつ確実に固有振動数を取得することができる。
【0071】
また、予め設定したダンパ質量m及びバネ定数算出部109が算出したダンパバネ定数kに基づき振動シミュレーションを実行し、減衰特性が基準減衰特性を下回る場合にはダンパ20の仕様(ダンパ質量m、ダンパバネ係数k、ダンパ20の個数及びダンパ20の配置箇所)の少なくとも一つを変更するため、より振動抑制効果の高いダンパ20を設計することができる。
【0072】
このように、本実施形態のダンパ仕様決定システム100によれば、ダンパ20のパラメータを適切に見積もることで、切削加工時におけるディスク3の振動を効果的に抑制することができるダンパ20を設計することが可能となる。したがって、切削加工時のディスク3の振動を一層効果的に抑制することができる。
【0073】
(プログラム)
次に、本実施形態のプログラムについて説明する。
ここで、図12にダンパ仕様決定システム100をコンピュータ等の電子情報処理装置で構成した場合のハードウェア構成の一例を示す。
ダンパ仕様決定システム100、CPU(Central Processing Unit)周辺部と、入出力部と、レガシー入出力部とを備える。CPU周辺部は、ホスト・コントローラ901により相互に接続されるCPU902、RAM(Random Access Memory)903、グラフィック・コントローラ904、及び表示装置905を有する。入出力部は、入出力コントローラ906によりホスト・コントローラ901に接続される通信インターフェイス907、ハードディスクドライブ908、及びCD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)ドライブ909を有する。レガシー入出力部は、入出力コントローラ906に接続されるROM(Read Only Memory)910、フレキシブルディスク・ドライブ911、及び入出力チップ912を有する。
【0074】
ホスト・コントローラ901は、RAM903と、高い転送レートでRAM903をアクセスするCPU902、及びグラフィック・コントローラ904とを接続する。CPU902は、ROM910、及びRAM903に格納されたプログラムに基づいて動作して、各部の制御をする。グラフィック・コントローラ904は、CPU902等がRAM903内に設けたフレーム・バッファ上に生成する画像データを取得して、表示装置905上に表示させる。これに代えて、グラフィック・コントローラ904は、CPU902等が生成する画像データを格納するフレーム・バッファを、内部に含んでもよい。
【0075】
入出力コントローラ906は、ホスト・コントローラ901と、比較的高速な入出力装置であるハードディスクドライブ908、通信インターフェイス907、CD−ROMドライブ909を接続する。ハードディスクドライブ908は、CPU902が使用するプログラム、及びデータを格納する。通信インターフェイス907は、ネットワーク通信装置991に接続してプログラム又はデータを送受信する。CD−ROMドライブ909は、CD−ROM992からプログラム又はデータを読み取り、RAM903を介してハードディスクドライブ908、及び通信インターフェイス907に提供する。
【0076】
入出力コントローラ906には、ROM910と、フレキシブルディスク・ドライブ911、及び入出力チップ912の比較的低速な入出力装置とが接続される。ROM910は、輸送プラン提示装置100が起動時に実行するブート・プログラム、あるいは輸送プラン提示装置100のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。フレキシブルディスク・ドライブ911は、フレキシブルディスク993からプログラム又はデータを読み取り、RAM903を介してハードディスクドライブ908、及び通信インターフェイス907に提供する。入出力チップ912は、フレキシブルディスク・ドライブ911、あるいはパラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を接続する。
【0077】
CPU902が実行するプログラムは、フレキシブルディスク993、CD−ROM992、又はIC(Integrated Circuit)カード等の記録媒体に格納されて利用者によって提供される。記録媒体に格納されたプログラムは圧縮されていても非圧縮であってもよい。プログラムは、記録媒体からハードディスクドライブ908にインストールされ、RAM903に読み出されてCPU902により実行される。CPU902により実行されるプログラムは、輸送プラン提示装置100を、上述したデータ入力受付部101、設計図データ格納部102、振動モードデータ格納部103、モード解析部104、ダンパ質量データ格納部108、バネ定数算出部109、初期個数・配置箇所データ格納部110、振動シミュレーション実行部111、減衰特性判定部112、設計変更データ格納部113、設計変更部114、仕様データ出力部115として機能させる。
【0078】
以上に示したプログラムは、外部の記憶媒体に格納されてもよい。記憶媒体としては、フレキシブルディスク993、CD−ROM992の他に、DVD(Digital Versatile Disk)又はPD(Phase Disk)等の光学記録媒体、MD(MiniDisk)等の光磁気記録媒体、テープ媒体、ICカード等の半導体メモリ等を用いることができる。また、専用通信ネットワークあるいはインターネットに接続されたサーバシステムに設けたハードディスク又はRAM等の記憶媒体を記録媒体として使用して、ネットワークを介したプログラムとして提供してもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
【0080】
例えば、実施形態においては、モード解析部104が、データ入力受付部101に入力された条件、及び、設計図データ格納部102に格納された設計図データ(CADデータ、CEAデータ、CEAデータ)に基づいてモード解析を行なうものしたが、これに代えて、図13に示すディスク3に配置した複数の加速度計201による振動実測値に基づいて、固有振動数解析部105がモード解析を行なうものであってもよい。
【0081】
この場合、まず、図13に示すように、ディスク3の端面3bに対して周方向に等間隔をあけて複数(本例では8つ)の加速度計201を設ける。この加速度計201は、ディスク3におけるロータ4の軸線O方向の加速度、即ち、ディスク3の軸線O方向の振動を検出することができるように配置されている。
このような加速度計201によってディスク3の振動を検出する際には、ディスク3の端面3bにおける各加速度計201の径方向内側位置を加振箇所202として、ハンマー、加振器等の加振手段203によって当該加振箇所をそれぞれ加振する。これによって、各加振箇所202を加振した際におけるディスク3の振動が複数の加速度計201によって振動実測値として検出される。
【0082】
本例においてダンパ仕様決定システム100を利用する際には、作業者は、上述したモード解析に必要な条件に加えて、各加速度計201によって取得された振動実測値を入力する。そして、条件及び振動実測値がデータ入力受付部101によって受け付けられると、モード解析部104の固有振動数解析部105がこれら条件及び振動実測値を用いてモード解析を行なう。これによっても、実施形態と同様、ディスク3の複数の振動モード、及び、これら各振動モードにおける固有振動数fを取得することができる。そして、振動モード選択部106により最も励起し易い振動モードが選択された後、等価質量・剛性解析部107が、固有振動数解析部105と同様、モード解析を行なうことで、当該選択された振動モードにおける等価質量m、等価剛性kを取得することができる。
したがって、この場合であっても、実施形態と同様に、切削加工時におけるディスク3の振動を効果的に抑制することができるダンパ20を設計することが可能となる。したがって、切削加工時のディスク3の振動を一層効果的に抑制することができる。
【0083】
なお、本実施形態において上記モード解析は、例えば有限要素法を用いることにより実行できる。なお、モード解析としては有限要素法を用いた場合に限定されることはなく、当該モード解析を実行可能ならば他の数値シミュレーション手法を採用してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ロータディスク
2 ロータ
3 ディスク
3a 外周部
3b 端面
4 溝
10 NC工作機
11 回転工具
20 ダンパ
21 マグネットベース
22 板バネ
23 シム
24 ボルト
25 ウェイト
25a 第一ウェイト
25b 第二ウェイト
26 ワッシャ
27 ワッシャ
28 ボルト
29 防振材
100 ダンパ仕様決定システム
101 データ入力受付部
102 設計図データ格納部
103 振動モードデータ格納部
104 モード解析部
105 固有振動数解析部
106 振動モード選択部
107 等価質量・剛性解析部
108 ダンパ質量データ格納部
109 バネ定数算出部
110 初期個数・配置箇所データ格納部
111 振動シミュレーション実行部
112 減衰特性判定部
113 設計変更データ格納部
114 設計変更部
115 仕様データ出力部
201 加速度計
202 加振箇所
203 加振手段
901 ホスト・コントローラ
902 CPU
903 RAM
904 グラフィック・コントローラ
905 表示装置
906 入出力コントローラ
907 通信インターフェイス
908 ハードディスクドライブ
909 CD−ROMドライブ
910 ROM
911 フレキシブルディスク・ドライブ
912 入出力チップ
992 CD−ROM
993 フレキシブルディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを有するロータにおける前記ディスクの外周部に切削加工を施して、動翼を嵌め込むための溝を形成するロータディスク溝加工方法であって、
前記ディスクに対して、前記切削加工時における前記ディスクの振動を吸収するダンパを着脱可能に取り付けるステップと、
前記ディスクに前記切削加工を施すステップとを備えることを特徴とするロータディスク溝加工方法。
【請求項2】
前記ダンパを、前記ディスクの端面に複数取り付けることを特徴とする請求項1に記載のロータディスク溝加工方法。
【請求項3】
前記ダンパを、前記ディスクの端面における同一の径方向位置に、周方向に等間隔をあけて少なくとも6つ取り付けることを特徴とする請求項1又は2に記載のロータディスク溝加工方法。
【請求項4】
複数のディスクを有するロータにおける前記ディスクの端面に該ディスクの振動を吸収するダンパを取り付けて、該ディスクの外周部に動翼を嵌め込むための溝を切削加工するロータディスク溝加工方法で用いられる前記ダンパの仕様決定システムであって、
モード解析に基づいて、特定の振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を取得するモード解析部と、
前記等価質量、前記等価剛性及び予め定めた前記ダンパの質量から、前記ディスクと前記ダンパとの最適固有角振動数比の算出式に基づき、前記ダンパのバネ定数を算出するバネ定数算出部とを備えることを特徴とするダンパの仕様決定システム。
【請求項5】
前記モード解析部は、
モード解析に基づいて、前記ディスクの複数の振動モードそれぞれにおける固有振動数を取得する固有振動数解析部と、
前記複数の振動モードのうち、予め前記ディスクへの切削加工時に実測して取得した最も励起し易い振動モードを選択する振動モード選択部と、
モード解析に基づいて、前記振動モード選択部により選択された前記振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を算出する等価質量・剛性解析部とから構成されていることを特徴とする請求項4に記載のダンパの仕様決定システム。
【請求項6】
前記固有振動数解析部は、前記ディスクの設計図データを使用したモード解析に基づいて、前記固有振動数を取得することを特徴とする請求項5に記載のダンパの仕様決定システム。
【請求項7】
前記固有振動数解析部は、前記ディスクに配置した複数の加速度計による振動実測値からモード解析に基づいて、前記固有振動数を取得することを特徴とする請求項5に記載のダンパの仕様決定システム。
【請求項8】
予め定めた前記ダンパの質量及び前記バネ定数算出部により算出された前記バネ定数を有する前記ダンパを、前記ディスクに対して予め定めた個数及び配置箇所で取りつけた際の振動シミュレーションを実行し、前記ディスクの振動の減衰特性を取得する振動シミュレーション実行部と、
前記減衰特性が予め定めた基準減衰特性以上か否かを判定する減衰特性判定部と、
前記減衰特性が前記基準減衰特性を下回ると前記減衰特性判定部が判定した場合に、前記ダンパの個数、配置箇所、質量及びバネ定数の少なくとも一つを変更して、これら個数、配置箇所、質量、バネ定数を前記振動シミュレーション実行部に出力する設計変更部とをさらに備え、
前記シミュレーション実行部は、前記設計変更部の出力である個数、配置箇所、質量及びバネ定数の前記ダンパを前記ディスクに取りつけた際の振動シミュレーションを実行し、前記ディスクの振動の減衰率を取得することを特徴とする請求項4から7のいずれか一項に記載のダンパの仕様決定システム。
【請求項9】
複数のディスクを有するロータにおける前記ディスクの端面に該ディスクの振動を吸収するダンパを取り付けて、該ディスクの外周部に動翼を嵌め込むための溝を切削加工するロータディスク溝加工方法で用いられる前記ダンパの仕様決定システムを制御する制御方法であって、
モード解析に基づいて、特定の振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を取得するモード解析段階と、
前記等価質量、前記等価剛性及び予め定めた前記ダンパの質量から、最適固有角振動数比の算出式に基づき、前記ダンパのバネ定数を算出するバネ定数算出段階とを備えることを特徴とする制御方法。
【請求項10】
複数のディスクを有するロータにおける前記ディスクの端面に該ディスクの振動を吸収するダンパを取り付けて、該ディスクの外周部に動翼を嵌め込むための溝を切削加工するロータディスク溝加工方法で用いられる前記ダンパの仕様決定システム用のプログラムであって、前記ダンパの仕様決定システムを、
モード解析に基づいて、特定の振動モードにおける前記ディスクの等価質量及び等価剛性を取得するモード解析部と、
前記等価質量、前記等価剛性及び予め定めた前記ダンパの質量から、最適固有角振動数比の算出式に基づき、前記ダンパのバネ定数を算出するバネ定数算出部として、機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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