説明

ロータリコンプレツサの製造方法

【目的】 本発明は、「ロータリコンプレッサの製造方法」、特にロータ本体をシャフトに簡単に取付ける方法を提供することを目的とする。
【構成】 シャフトに形成したグルーブに、ロータ本体に形成した特定形状の環状凸部の肉を塑性流動させ、シャフトとロータ本体とを締結するもの。
【効果】 ロータ本体とシャフトの締結時にロータ本体に加わる軸方向の押圧力を最小限にでき、ロータ本体の嵌合孔部の変形を防止し、確実な締結力を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロータリコンプレッサの製造方法、特にロータ本体をシャフトに簡単に取付ける方法に関する。
【0002】
【従来の技術】図5,6に示すように、自動車用空気調和装置等に用いられるロータリコンプレッサ10は、フロントケース11a及びリヤーケース11bからなるケーシング11内で、フロントサイドブロック13及びリヤーサイドブロック14間に挟持されたカムリングあるいはシリンダ(以下単にシリンダと称す)12と、このシリンダ12のボア15内に収納されたロータ本体16a及び両ブロック13、14を貫通して設けられたシャフト16bとを有するロータ16を備えている。このロータ本体16aは、シャフト16bと一体成形され、該シャフト16bは、図示しない駆動源により電磁クラッチ(図示せず)等を介して回転駆動されるように構成されている。
【0003】なお、ロータ本体16aは、図6に示すように、放射状に形成された5本のベーン溝18内にスライドベーン19が摺動自在に設けられ、惰円形に形成されたボア15の内周面15aとコンタクトポイント17で接触した状態で回転自在に設けられている。このスライドベーン19とコンタクトポイント17あるいはスライドベーン19相互間とボア15の内周面15aとにより区画形成される室が冷媒を圧縮する圧縮室20である。この圧縮室20は、ロータ16の回転に伴ないベーン溝18からスライドベーン19が突出し、ボア15の内周面15aと摺接しつつ回転し、これに伴って容積が変化するので、内部の冷媒が圧縮される。圧縮室20には、リヤーケース11bの流入口22から流入した冷媒が、リヤーサイドブロック14に開設された吸入口23を通って流入される。そして、圧縮室20内で圧縮された後に、シリンダ12に開設された吐出口24から連通路25を経て流出口26より外部に吐出されるようになっている。吐出口24には吐出バルブ27が設けられている(例えば、特開昭63−173,892号公報等参照)。
【0004】なお、図中の符号「30」は軸受部、「31」は帯状のばね材である。帯状のばね材31は、図6に示すように板状に形成され、吐出バルブ27を構成している。また、「32」は前記ばね材31の移動量を規制するストッパ、「33」はケース11a,11b、シリンダ12及びサイドブロック13,14を締付ける締付けボルトである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来のロータリコンプレッサ10におけるロータ16は、ロータ本体16aとシャフト16bとを鋳造により一体成形した鉄製のものが一般的であるが、最近では軽量化および振動の防止等を図るために、高強度のアルミニウム合金が用いられるようになってきた。また、鋳造品の形状簡略化、材料費の低減等を目的として、ロータ16のシャフト16bとロータ本体16aとを別体に製造し、シャフト16bを鋳鉄製とし、ロータ本体16aをアルミニウム合金製としたロータリコンプレッサも提案されている。しかし、このロータ16では、ロータ本体16aとシャフト16bとの線膨脹係数の違いにより温度上昇に伴い締結力が低下するため、ロータ16回転時にがたつき等が発生する恐れがある。
【0006】そこで、特開昭59−68586号に開示されるロータリコンプレッサでは、図7に示すように、シャフト16bのロータ固定部分Fの両端にグルーブM,Mを設け、この固定部分Fにロータ本体16aが位置した状態で、ロータ本体16aの外端面を角が略直角の加圧部材124,124等で軸方向に押圧することにより、ロータ本体16aを構成している材料を塑性流動させ、前記グルーブM、M内に押し込んで、ロータ本体16aがシャフト16bから抜けないようにしている。
【0007】ところが、ロータ本体16aが比較的柔かなアルミニウム合金であっても、材料の塑性流動には大きな力を必要とするため、ロータ本体16aの通孔部分Oが図中破線で示すように太鼓状に変形し、ロータ本体16aとシャフト16bの圧力による締結力が低下し、シャフトが曲がる可能性があるという問題があった。また、ロータ本体16aとシャフト16bとの締結時に通孔部分Oの変形が発生しなくてもロータ本体16aに大きな残留応力が存するため、温度上昇に伴いロータ本体16aの通孔部分Oが変形を起し、締結力が低下するという欠点がある。
【0008】本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、ロータ本体とシャフトとを、ロータ本体の嵌合孔部が太鼓状に変形しないように確実に締結することができるロータリコンプレッサの製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明は、フロントサイドブロックとリヤーサイドブロックとの間に挟持されたシリンダのボア内に収納されるロータ本体と、前記両ブロックを貫通するシャフトとを有するロータを備えたロータリコンプレッサの製造方法において、前記ロータ本体が固定されるシャフトの固定部分の両端部位外周面にグルーブを形成し、前記シャフトが圧入されるロータ本体の嵌合孔部を囲むようにロータ外端面より環状凸部を突出し、この環状凸部を加圧部材により加圧し、環状凸部の肉を前記シャフトの両グルーブ内に塑性流動させロータ本体をシャフトに固着するようにしたことを特徴とするロータリコンプレッサの製造方法である。
【0010】前記環状凸部は、その外周面がロータ外端面より離間するに従って前記シャフト方向に漸近する所定角度の傾斜面とし、この環状凸部の外周面を、この傾斜面と略同じ角度の傾斜面を有する加圧部材により加圧することが好ましく、また、前記ロータは、塑性流動によりロータ本体をシャフトに固着した後に、前記環状凸部の余剰肉を削落し、所定のロータ外端面とシャフトの外周面とすることが好ましい。さらに、前記シャフトは鋼製で、前記ロータ本体はアルミニウム合金製とすることが好ましく、また、前記シャフトの固定部分とロータ本体とはセレーションによる凹凸嵌合により連結することが好ましい。
【0011】
【作用】本発明に係るロータリコンプレッサの製造方法にあっては、ロータ本体の嵌合孔部を囲むようにロータ外端面より環状凸部を突出し、この環状凸部を加圧部材により加圧し、環状凸部の肉を前記シャフトの両グルーブ内に塑性流動させロータ本体をシャフトに固着するようにしたため、環状凸部を加圧部材により加圧するのみで、ロータ本体とシャフトとを締結時でき、この締結時のロータ本体に加える軸方向の押圧力も最小限にできる。したがって、嵌合孔部の太鼓状の変形を防止でき、確実な締結力を確保できる。
【0012】また、環状凸部の形状を、ロータ外端面より離間するに従ってその外周面が前記シャフト方向に漸近する所定角度の傾斜面とし、この環状凸部の外周面を、この傾斜面と略同じ角度の傾斜面を有する加圧部材によって軸方向より加圧すれば、大きな分力が環状凸部に集中し、締結時のロータ本体に加える軸方向の押圧力が一層小さなものとなる。さらに、塑性流動によりロータ本体をシャフトに固着した後に、環状凸部の余剰肉を削落すれば、簡単に所望のロータを得ることができる。なお、ロータ本体とシャフトとをセレーションにより凹凸嵌合すれば、コンプレッサ使用時にロータ本体に加わる圧縮反力あるいは摺動部分の摩擦力に十分対抗するロータ本体とシャフトとの結合強度を得ることができる。
【0013】
【実施例】以下、本発明に係るロータリコンプレッサの製造方法の一実施例を図1乃至図4に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施例に係るロータの断面図、図2は、図1の2−2線に沿う断面の要部拡大図、図3および図4は、本発明に係る方法を説明するための要部拡大断面図である。なお、以下の説明に当り、図5,6も参照しつつ説明する。
【0014】本実施例のロータリコンプレッサ10は、図5及び図6に示すように、フロントケース11a及びリヤーケース11bからなるケーシング11を有し、このケーシング11内に設けられたフロントサイドブロック13及びリヤーサイドブロック14間にシリンダ12を挟持している。このシリンダ12内に回転可能に設けられたロータ16は、ロータ本体16aとシャフト16bとを有し、シャフト16bは両サイドブロック12、13を貫通している。また、ロータ本体16aは、シャフト16bに嵌合固定され、シリンダ12のボア15内に収納されている。
【0015】このロータ16は、図1、図2および図4に示すように、ロータ本体16aとシャフト16bとを組み合わせることにより構成され、ロータ本体16aは高強度のアルミニウム合金製であり、シャフト16bは鋼製である。ロータ本体16aは、シャフト16bを嵌合するための嵌合孔部51が設けられ、この嵌合孔部51の内周面の一部にはセレーション53が設けられ、シャフト16bと凹凸嵌合するようになっている。一方、シャフト16bは、ロータ本体16aが固定される固定部分41の両端部位外周面に2条の環状のグルーブ52a、52bが設けられている。
【0016】特に、本実施例では、前記シャフト16bが圧入されるロータ本体16aの嵌合孔部51を囲むようにロータ外端面43より環状凸部45を突出している。この環状凸部45は、ポンチ等の加圧部材57(図3R>3,4参照)により加圧され、その肉をシャフト16bの両グルーブ52a、52b内に塑性流動させロータ本体16aをシャフト16bに固着するようになっている。
【0017】図3および図4を参照して説明すれば、まず、シャフト16bをロータ本体16aの嵌合孔部51に圧入し、図3に示すように、シャフト16bの固定部分41を嵌合孔部51に嵌合する。つぎに、加圧部材57によって、ロータ本体16aの環状凸部45の外周面45aに、軸方向に押圧力Wを加える。この場合、環状凸部45の外周面45aは、前記シャフト方向に漸近するように所定角度θ、例えば45度の傾斜面としてあり、この環状凸部45の外周面45aを加圧する加圧部材の、前記傾斜面と当接する端部の傾斜角は、前記外周面45aと略同じ角度とされているので、加圧部材57による加圧が環状凸部45の肉を塑性流動させる力は、Wcosθとなり、押圧力Wに近似する比較的大きな力を作用させることができる。このため、余剰肉は、図4に示すように、2条のグルーブ52a,52bの両者に入り込み、ロータ本体16aとシャフト16bとの連結がより強固なものとなる。なお、前記環状凸部45の外周面45aにおける傾斜角度θは、必ずしも45度である必要はなく、シャフト16bとロータ本体16aとの締結時において加圧部材57の押圧力Wがグルーブ52a、52b方向に有効な分力を作用させるように設定されるならば、どのような角度であってもよい。このようにしてロータ本体16aとシャフト16bとの連結がより強固に行なわれた後に、図中破線116aで示す最終形状となるように、環状凸部45の余剰肉等を旋盤等を使用し削落し、所定のロータ外端面とシャフトの外周面とするロータ16に仕上る。
【0018】このような方法により形成されたロータ16は、ロータ本体16aに加わる軸方向の押圧力を最小限にして、2条のグルーブ52a,52bに環状凸部45の肉を入り込ませてシャフト16bとロータ本体16aとを締結しているので、締結が強固であるにも拘らず、嵌合孔部51の太鼓状の変形を防止できる。また、セレーション53による凹凸嵌合により、コンプレッサ使用時にロータ本体16aに加わる圧縮反力あるいは摺動部分の摩擦力が作用しても、ロータ本体16aとシャフト16bと連結は、十分対抗することができる。したがって、従来のロータリーコンプレッサと比較して、高負荷高速度での運転における耐久性に優れたものとなる。
【0019】なお、本考案は、上記実施例に限定されるものではなく、例えば、ロータ本体16aの材料としては、高強度のアルミニウム合金以外に、セラミック、樹脂などを用いることもできる。また、前記グルーブ52a,52bと環状凸部45の肉との嵌合締結のみで、ロータ本体16aはシャフト16bに十分固着されているため、前記セレーション等の凹凸嵌合手段は必ずしも設ける必要はない。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、ロータ本体の嵌合孔部を囲むようにロータ外端面より環状凸部を突出し、この環状凸部を加圧部材により加圧し、環状凸部の肉を前記シャフトの両グルーブ内に塑性流動させロータ本体をシャフトに固着するようにしたため、環状凸部を加圧部材により加圧するのみで、ロータ本体とシャフトとを締結時でき、この締結時のロータ本体に加える軸方向の押圧力も最小限にでき、嵌合孔部の変形を防止でき、確実な締結力を確保できる。
【0021】また、環状凸部の形状をロータ外端面より離間するに従ってその外周面が前記シャフト方向に漸近する所定角度の傾斜面とし、この環状凸部の外周面を、この傾斜面と略同じ角度の傾斜面を有する加圧部材によって軸方向より加圧すれば、大きな分力が環状凸部に集中し、締結時のロータ本体に加える軸方向の押圧力が一層小さなものとなる。
【0022】さらに、塑性流動によりロータ本体をシャフトに固着した後に、環状凸部の余剰肉を削落すれば、簡単に所望のロータを得ることができる。なお、ロータ本体とシャフトとをセレーションによる凹凸嵌合すれば、コンプレッサ使用時にロータ本体に加わる圧縮反力あるいは摺動部分の摩擦力に十分対抗するロータ本体とシャフトとの結合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の一実施例を示す断面図である。
【図2】は、図1の2−2線に沿う断面の要部拡大図である。
【図3】は、本発明の方法を説明するための要部拡大断面図である。
【図4】は、本発明の方法を説明するための要部拡大断面図である。
【図5】は、ロータリコンプレッサを示す断面図である。
【図6】は、図5の6−6線に沿う断面図である。
【図7】は、従来のロータリコンプレッサのシャフトとロータとの結合状態を示す断面図である。
【符号の説明】
10…ロータリコンプレッサ 12…シリンダ、
13…フロントサイドブロック、 14…リヤーサイドブロック、
15…ボア 16…ロータ、
16a…ロータ本体、 19…スライドベーン、
21…シャフト、 41…固定部分、
43…ロータ外端面、 45…環状凸部、
45a…外周面、 51…嵌合孔部、
52a、52b…グルーブ 53…セレーション
θ…外周面の傾斜角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フロントサイドブロック(13)とリヤーサイドブロック(14)との間に挟持されたシリンダ(12)のボア(15)内に収納されるロータ本体(16a) と、前記両ブロック(13)、(14)を貫通するシャフト(16b) とを有するロータ(16)を備えたロータリコンプレッサの製造方法において、前記ロータ本体(16a) が固定されるシャフト(16b) の固定部分(41)の両端部位外周面にグルーブ(52a) 、(52b)を形成し、前記シャフト(16b) が圧入されるロータ本体(16a) の嵌合孔部(51)を囲むようにロータ外端面(43)より環状凸部(45)を突出し、この環状凸部(45)を加圧部材(57)により加圧し、環状凸部(45)の肉を前記シャフト(16b) の両グルーブ(52a) 、(52b) 内に塑性流動させロータ本体(16a) をシャフト(16b) に固着するようにしたことを特徴とするロータリコンプレッサの製造方法。
【請求項2】 前記環状凸部(45)は、外周面(45a) がロータ外端面(43)より離間するに従って前記シャフト方向に漸近する所定角度( θ) の傾斜面とし、この環状凸部(45)の外周面(45a) を、この傾斜面と略同じ角度の傾斜面を有する加圧部材(57)により加圧するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のロータリコンプレッサの製造方法。
【請求項3】 前記ロータ(16)は、塑性流動によりロータ本体(16a) をシャフト(16b) に固着した後に、前記環状凸部(45)の余剰肉を削落し、所定のロータ外端面(43)とシャフト(16b)の外周面とするようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のロータリコンプレッサの製造方法。
【請求項4】 前記シャフト(16b) は、鋳鉄製であり、前記ロータ本体(16a) は、アルミニウム合金製である請求項1乃至3に記載のロータリコンプレッサの製造方法。
【請求項5】 前記シャフト(16b) の固定部分(41)とロータ本体(16a) は、セレーション(53)による凹凸嵌合により連結してなる請求項1乃至4に記載のロータリコンプレッサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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