説明

ロータリーエバポレータ

【課題】水や油等を使用するウォータバスを用いずに正確な加温管理が行なえると共に、しかも、清潔に使用できるロータリーエバポレータを提供する。
【解決手段】駆動部3により回転自在に支持された試料容器17と回転する試料容器17を誘導加熱する誘導加熱手段を備えるようにする。
前記誘導加熱手段は、前記加温器23に設けられた交流電流が流れる上向きに形成された断面U字状の誘導電極25と、
前記誘導電極25内に配置セットされる前記試料容器17の周壁面に沿って設けられた電磁誘導体21とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研究室や実験室で使用されるロータリーエバポレータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に研究室や実験室等で使用されるロータリーエバポレータの概要は、例えば、図8に示す如くモータ等の駆動部101によって回転自在に支持されたロータリージョイント103の一端に試料を蒸留する試料容器105が接続され、ロータリージョイント103と一緒に回転する。他端は凝縮器107内に臨んでいる。
【0003】
試料容器105は加熱手段となるウォータバス109によって加温されながら回転することで、蒸気となった試料蒸気は前記ロータリージョイント103を介して冷却水が流れる凝縮器107内へ送り込まれた後、凝縮器107内において凝縮され、受けフラスコ111によって回収される構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−098246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータリーエバポレータの試料容器105は、ウォータバス109によって加温されながら回転することで試料蒸気として取り出す手段となっているが、試料容器105を加温するウォータバス109は一般に一定の液面まで入れられた水あるいは油が用いられ、一定の温度まで加熱して使用される。
【0006】
このために、ウォータバス109を用いる手段にあっては、液面が下がった時に補充作業が必要となるため液面を一定に保つ維持管理作業が求められる。特に、補充時は一時的に温度が下がるため安定した温度管理の面での問題を残す。
【0007】
また、水や油がウォータバス109から外へこぼれ出る恐れがある等取り扱いも面倒となる問題をかかえる。
【0008】
そこで、本発明にあっては水や油を使用するウォータバスを用いなくても試料容器の安定した加温の管理が行なえるロータリーエバポレータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明にあっては、駆動部により回転自在に支持された試料容器と回転時の試料容器を誘導加熱する誘導加熱手段を備えた加温器とを有し、
前記誘導加熱手段は、前記加温器に設けられ交流電流が流れる上向きに形成された断面U字状の誘導電極と、
前記誘導電極内に配置セットされる前記試料容器の周壁面に沿って設けられた電磁誘導体とで構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明を実施するにあたって、第1に前記試料容器の容器本体を、円筒体に形成することで、効率のよい誘導加熱が行なえるようにU字状の誘導電極に対して広い対向面積を備えた回転が得られるようにすることが望ましい。
【0011】
第2に前記電磁誘導体を、試料容器周壁面の外周または内部に埋設する形状とすることで、広い面積を備えた電磁誘導体が得られるようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、U字状の誘導電極によって試料容器の配置セットが容易に行えると共に一部周壁領域をU字状に取り囲むことが可能になるため、大きな誘導加熱面の確保につながり、効率のよい試料容器の加熱状態を得ることができる。
【0013】
また、試料容器の加熱手段となる水や油を使用しないために、面倒な水又は油の維持,管理作業が不用になると共に周囲を汚すことなく清潔に実験を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかるロータリーエバポレータ全体の概要説明図。
【図2】凝縮器,ロータリージョイント,駆動部の関係を示した概要説明図。
【図3】図1のA−A線概要説明断面図。
【図4】試料容器の概要説明図。
【図5】U字状の誘導電極の概要説明図。
【図6】U字状の誘導電極にヒンジを支点として回動する保温カバーを設けるようにした説明図。
【図7】加温器の概要説明図。
【図8】従来例を示したロータリーエバポレータの概要説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1乃至図7の図面を参照しながら本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0016】
図1はロータリーエバポレータの全体の概要説明図を示している。ロータリーエバポレータ1の駆動部3は、モータ等により構成されベース台5に立設された昇降装置7の可動部材(図示していない)に上下動自在に支持されている。昇降装置7の可動部材は操作スイッチ9のスイッチ操作により上下動し、駆動部3は上下に長いガイド孔11の範囲内において昇降可能となっている。
【0017】
駆動部3には、図2に示す如く内部が連通路13となるパイプ状のロータリジョイント15が傾斜上昇した状態で回転自在に支持されている。ロータリージョイント15の下降端側となる一方のジョイント開口端15aには、試料容器17がクリップ等の接続手段18を介して着脱自在に接続連通し、ロータリージョイント15を介して試料容器17の回転が可能となっている。
【0018】
ロータリージョイント15の上昇端側となる他方は凝縮器19内に臨んでいる。試料容器17はガラス製で図3、図4に示す如く断面円形の円筒体に作られている。円筒体に作られた周壁面には金属でできた帯板状の電磁誘導体21がリング状に設けられている。
【0019】
電磁誘導体21は、電気抵抗の大きい鉄又はステンレス等の材質で作られ、加温器23の誘導電極25とにより誘導加熱手段26を構成している。
【0020】
この場合、電磁誘導体21は試料容器17の周壁内に埋設された一体形状のものであってもよい。
【0021】
加温器23は所定の場所に設置して使用できるよう支脚部を備えたユニット構造となっていて、上部には前記試料容器17を誘導加熱する誘導電極25が設けられている。
【0022】
誘導電極25は、図5に示す如く断面上向きU字状に形成され渦巻状の導線を断面U字状に屈曲成形することで形成されている。外周はガラス等の絶縁材27によって全周が取り囲まれ、絶縁材27及び誘導電極25とにより上向きU字状の加温部29を構成している。絶縁材27は、誘導電極25との金属の直接接触をなくし短絡事故の阻止を図っている。
【0023】
U字状の誘導電極25は図7に示す如く加温器23の正面に設けられた制御パネル31の各操作スイッチ33を操作することで加温器内部に設けられた制御部35を介して設定された所定の交流電流が流れるよう制御される。
【0024】
誘導電極25のU字形状は、図3に示す如く円筒体に形成された試料容器17の周壁の一部領域、この実施形態では設定された所定の隙間を有して下半分を覆う深さに作られている。U字状の深さは配置セットされる試料容器17の電磁誘導体21を取り囲む対向面積と誘導加熱面積の拡大を図る手段となっている。
【0025】
また、上向きU字状の加温部29は、上方から試料容器17を無理なく回転自在に配置セットする機能の外に、下降傾斜した試料容器17の底部側を回転自在に支持する支持手段36を有している。支持手段36としては加温部29に設けられた磁石36aと試料容器17の底部外周に沿って設けられた磁石36bの反発力を利用する無接点支持タイプとなっている。
【0026】
なお、上向きU字状の加温部29には図6に示す如く回転時の試料容器17の上半分を覆うヒンジ37を支点として回動する保温カバー39を設けるようにすることが望ましい。この場合、誘導電極25を保温カバーを含めた筒状に形成する手段としてもよい。
【0027】
一方、前記したロータリージョイント15の他端が臨む前記凝縮器19は、ガラス製の円筒状につくられ、駆動部3と一緒に上下動可能となっている。凝縮器19の内部には、冷却水が流れる凝縮用の螺旋41が設けられている。
【0028】
その外にコック接続部43、フラスコ接続部45、ジョイント接続部47がそれぞれ一体形状に作られた一部品となっている。これにより、一部品となることで接続領域がなくなる分、内部の高い気密保持の確保が可能となっている。
【0029】
凝縮用の螺旋41は外側の一端が、例えば、水道等に接続される入口41a、内側の一端が排水用となる出口41bとなっていて、内部を冷却水が流れることで、試料容器17から送り込まれる試料蒸気を凝縮する。この場合、凝縮作用があれば必ずしも螺旋タイプでなくてもよく、内部に冷却剤を備えた内槽とその外側の外槽とからなる二重槽構造タイプのものであってもよい。
【0030】
一方、フラスコ接続部45は、受けフラスコ51がクリップ等の接続手段53を介して着脱自在に装着されている。
【0031】
コック接続部43とジョイント接続部47は、所定の角度傾斜した傾斜軸線Xに沿って配置され、ジョイント接続部47には前記したロータリージョイント15がシール部材(図示していない)を介して回転自在に挿入支持されている。
【0032】
コック接続部43には、図1に示すように手動コック55が密着し合う状態で回転自在に装着されている。手動コック55には、試料チューブ57が接続され試料チューブ59は、前記ロータリージョイント15の内部空間となる連通路13を通過し試料容器17内まで延長された形状となっている。
【0033】
手動コック55のコックポート55aとコック接続部43のコックポート43aは、前記手動コック55を回転し各ボード55a,43aを対向させた時、コックポート43aと試料容器17とが試料チューブ59を介して連通し合い、例えば、試料等の補充が可能となっている。
【0034】
この場合、試料チューブ59は、前記した通り試料補充用となっているもので、実験によっては取り外す場合がある。
【0035】
なお、図1において61は図外の真空ポンプと接続する接続口で、凝縮器19の内部を所定の真空度に保つことが可能となっている。
【0036】
このように構成されたロータリーエバポレータ1によればU字状の誘導電極25内に配置セットされた試料容器17を回転させることで、蒸気となった試料蒸気は前記ロータリージョイント15を介して凝縮器19内へ送り込まれた後、凝縮器19内において凝縮され、受けフラスコ51によって回収される。
【0037】
この時、試料容器17の配置セット作業が支障なく行えると共に誘導電極25は試料容器17の下半分をU字状に取り囲む状態となるため大きな誘導加熱面の確保につながり効率のよい正確な誘導加熱が得られる。
【0038】
また、水や油等を使用することがないため周囲を汚すことなく清潔に実験を行なえるようになる。
【符号の説明】
【0039】
1 ロータリーエバポレータ
3 駆動部
17 試料容器
21 電磁誘導体
23 加温器
25 誘導電極
27 絶縁材
29 加温部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部により回転自在に支持された試料容器と回転時の試料容器を誘導加熱する誘導加熱手段を備えた加温器とを有し、
前記誘導加熱手段は、前記加温器に設けられ交流電流が流れる上向きに形成された断面U字状の誘導電極と、
前記誘導電極内に配置セットされる前記試料容器の周壁面に沿って設けられた電磁誘導体とで構成されていることを特徴とするロータリーエバポレータ。
【請求項2】
前記試料容器の容器本体は、円筒体に形成されていることを特徴とする請求項1記載のロータリーエバポレータ。
【請求項3】
前記電磁誘導体は、試料容器周壁面の外周または内部に埋設された形状となっていることを特徴とする請求項1又は2記載のロータリーエバポレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−221116(P2010−221116A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70512(P2009−70512)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000114891)ヤマト科学株式会社 (17)
【Fターム(参考)】