説明

ロータリ圧縮機

【課題】ベーンスプリングの形状が簡素で、信頼性が高いロータリ圧縮機及びベーンスプリング挿入治具を得ること。
【解決手段】環状のシリンダと、回転軸の偏芯部に嵌合され前記シリンダ内を公転する環状ピストンと、前記シリンダに設けられたベーン溝内から突出して前記環状ピストンに当接するベーンと、前記シリンダの外周部から前記ベーン溝に連通するように形成されたスプリング穴に挿入され前記ベーンを押圧するスプリングと、を備えるロータリ圧縮機において、前記スプリング穴は、前記外周部に面取り部を有し、前記スプリングは、外径が前記スプリング穴の内径より小さく形成され前記ベーンの背面を押圧する有効ばね部と、外径が前記スプリング穴の外径より大きく形成され、後端面が前記スプリング穴と垂直となるように前記スプリング穴の入口に圧入される大径部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機の冷凍サイクルに使用されるロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉容器の一端側に電動機部、他端側に圧縮機部を配置し、かつこれら電動機部と圧縮機部とをクランク軸で回転可能に直結すると共に、前記クランク軸の偏心部に挿嵌され前記圧縮機部のシリンダ内で偏心回転する回転ピストンの外周面に、取付孔に装着したコイル状ベーンスプリングに付勢されたベーンを摺接するように設けてなるロータリコンプレッサにおいて、前記ベーンスプリングは、前記ベーン側に有効ばね部を有し、かつ他側に前記有効ばね部より大径に形成された大径部を有すると共に、前記大径部が前記有効ばね部側に形成された可動テーパ部と他側に形成された密着巻テーパ部を設けてなり、前記大径部の最大径部分と前記有効ばね部の直径差が、1.5mm以上であり、前記大径部を前記取付孔に圧入するようにして装着され、前記大径部が前記取付孔の孔端面に対し傾いた状態で装着されても、大径部以外の部位が取付孔の内壁面に接触せず、長期の運転を行っても前記ベーンスプリングが磨耗、疲労して折損することのないロータリコンプレッサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3927331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、ベーンスプリングの大径部と有効ばね部の直径差を1.5mm以上とし、かつ、大径部に可動テーパ部を設けなければならない。そのため、ベーンスプリングの形状設計の自由度が低く、信頼性の高い形状に設計することが難しくなり、高価な材料を使用してコストアップを招く、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ベーンスプリングの形状が簡素で、信頼性が高く、低コストなロータリ圧縮機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、吸入孔及びベーン溝が設けられた環状のシリンダと、前記シリンダの端部を閉塞する閉塞板と、モータにより回転駆動される回転軸の偏芯部に嵌合され前記シリンダのシリンダ内壁に沿って該シリンダ内を公転し前記シリンダ内壁との間に作動室を形成する環状ピストンと、前記シリンダに設けられたベーン溝内から前記作動室内に突出して前記環状ピストンに当接し該作動室を吸入室と圧縮室とに区画するベーンと、前記シリンダの外周部から前記ベーン溝に連通するように形成されたスプリング穴に挿入され前記ベーンの背面を押圧するベーンスプリングと、を備えて成る圧縮部を有するロータリ圧縮機において、前記スプリング穴は、前記外周部に面取り部を有し、前記ベーンスプリングは、外径が前記スプリング穴の内径より小さく形成され前記ベーンの背面を押圧する有効ばね部と、外径が前記スプリング穴の内径より大きく形成され、後端面が前記スプリング穴と垂直となるように前記スプリング穴の入口に圧入される大径部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかるロータリ圧縮機は、ベーンスプリングの大径部がスプリング穴の入口(穴端面)に対して傾いた状態で装着されることを防止できるので、ベーンスプリングが圧縮されても、有効ばね部が屈曲することはなく、スプリング穴の内壁面に接触せず、長期の運転を行ってもベーンスプリングが磨耗、疲労して折損することはない、という効果を奏する。また、ベーンスプリング挿入治具による挿入作業を手作業で行うことができ、ベーンスプリング挿入治具の位置決め装置等の設備を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明にかかるロータリ圧縮機の実施例1を示す縦断面図である。
【図2】図2は、第1、第2の圧縮部の横断面図である。
【図3】図3は、第1、第2の張出し部に形成された実施例1のスプリング穴、ベーンスプリング及びベーンスプリング挿入治具を示す部分断面図である。
【図4】図4は、実施例1のベーンスプリング挿入治具がスプリング穴に対して傾いてベーンスプリングを挿入する状態を示す部分断面図である。
【図5】図5は、実施例2のスプリング穴の面取り部を示す部分断面図である。
【図6】図6は、実施例3のスプリング穴の面取り部及びベーンスプリング挿入治具を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかるロータリ圧縮機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明にかかるロータリ圧縮機の実施例1を示す縦断面図であり、図2は、第1、第2の圧縮部の横断面図であり、図3は、第1、第2の張出し部に形成された実施例1のスプリング穴、ベーンスプリング及びベーンスプリング挿入治具を示す部分断面図であり、図4は、実施例1のベーンスプリング挿入治具がスプリング穴に対して傾いてベーンスプリングを挿入する状態を示す部分断面図である。
【0011】
図1に示すように、実施例1のロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10の下部に設置された圧縮部12と、圧縮機筐体10の上部に設置され、回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、を備えている。
【0012】
モータ11のステータ111は、圧縮機筐体10の内周面に焼きばめされて固定されている。モータ11のロータ112は、ステータ111の中央部に配置され、モータ11と圧縮部12とを機械的に接続する回転軸15に焼きばめされて固定されている。
【0013】
圧縮部12は、第1の圧縮部12Sと、第1の圧縮部12Sと並列に設置され第1の圧縮部12Sの上側に積層された第2の圧縮部12Tと、を備えている。第1、第2の圧縮部12S、12Tは、第1、第2吸入孔135S、135T、第1、第2ベーン溝128S、128T及び第1、第2背圧室129S、129Tを設けるための第1、第2張出し部122S、122Tを有する環状の第1、第2シリンダ121S、121Tを備えている。
【0014】
図1及び図2に示すように、第1、第2シリンダ121S、121Tには、モータ11と同心に、円形の第1、第2シリンダ内壁123S、123Tが形成されている。第1、第2シリンダ内壁123S、123T内には、シリンダ内径よりも小さい外径の環状の第1、第2環状ピストン125S、125Tが夫々配置され、第1、第2シリンダ内壁123S、123Tと、第1、第2環状ピストン125S、125Tとの間に、冷媒ガスを吸入し圧縮して吐出する第1、第2作動室130S、130T(圧縮空間)が形成される。
【0015】
第1、第2シリンダ121S、121Tには、第1、第2シリンダ内壁123S、123Tから径方向に、シリンダ高さ全域に亘る第1、第2ベーン溝128S、128Tが形成され、第1、第2ベーン溝128S、128T内に、夫々平板状の第1、第2ベーン127S、127Tが、気密且つ摺動自在に嵌合されている。
【0016】
図2及び図3に示すように、第1、第2ベーン溝128S、128Tの奥部には、第1、第2張出し部122S、122Tの外周部から第1、第2ベーン溝128S、128Tに連通するように第1、第2のスプリング穴124S、124Tが形成されている。図3に示すように、第1、第2のスプリング穴124S、124Tには、第1、第2ベーン127S、127Tの背面を押圧するベーンスプリング126が挿入されている。常時は、このベーンスプリング126の反発力により、第1、第2ベーン127S、127Tが、第1、第2ベーン溝128S、128T内から第1、第2作動室130S、130T内に突出し、その先端が、第1、第2環状ピストン125S、125Tの外周面に当接し、第1、第2ベーン127S、127Tにより、第1、第2作動室130S、130T(圧縮空間)が、第1、第2吸入室131S、131Tと、第1、第2圧縮室133S、133Tとに区画される。なお、ベーンスプリング126とその組込方法については後述する。
【0017】
また、第1、第2シリンダ121S、121Tには、第1、第2ベーン溝128S、128Tの奥部と圧縮機筐体10内とを、図1の開口部Rで連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒ガスを導入し、第1、第2ベーン127S、127Tに、冷媒ガスの圧力により背圧をかける第1、第2背圧室129S、129Tが形成されている。
【0018】
第1、第2シリンダ121S、121Tの第1、第2張出し部122S、122Tには、第1、第2吸入室131S、131Tに外部から冷媒を吸入するために、第1、第2吸入室131S、131Tと外部とを連通させる第1、第2吸入孔135S、135Tが設けられている。
【0019】
また、図1に示すように、第1シリンダ121Sと第2シリンダ121Tの間には、中間仕切板(閉塞板)140が設置され、第1シリンダ121Sの第1作動室130Sと第2シリンダ121Tの第2作動室130Tとを区画している。第1シリンダ121Sの下端部には、下端板(閉塞板)160Sが設置され、第1シリンダ121Sの第1作動室130Sを閉塞している。また、第2シリンダ121Tの上端部には、上端板(閉塞板)160Tが設置され、第2シリンダ121Tの第2作動室130Tを閉塞している。
【0020】
下端板160Sには、下軸受部161Sが形成され、下軸受部161Sに、回転軸15の下軸受支持部151が回転自在に支持されている。上端板160Tには、上軸受部161Tが形成され、上軸受部161Tに、回転軸15の上軸受支持部153が回転自在に支持されている。
【0021】
回転軸15は、互いに180°位相をずらして偏心させた第1偏芯部152Sと第2偏芯部152Tとを備え、第1偏芯部152Sは、第1の圧縮部12Sの第1環状ピストン125Sに回転自在に嵌合し、第2偏芯部152Tは、第2の圧縮部12Tの第2環状ピストン125Tに回転自在に嵌合している。
【0022】
回転軸15が回転すると、第1、第2環状ピストン125S、125Tが、第1、第2シリンダ内壁123S、123Tに沿って第1、第2シリンダ121S、121T内を図2の反時計回りに公転し、これに追随して第1、第2ベーン127S、127Tが往復運動する。この第1、第2環状ピストン125S、125T及び第1、第2ベーン127S、127Tの運動により、第1、第2吸入室131S、131T及び第1、第2圧縮室133S、133Tの容積が連続的に変化し、圧縮部12は、連続的に冷媒ガスを吸入し圧縮して吐出する。
【0023】
図1に示すように、下端板160Sの下側には、下マフラーカバー170Sが配置され、下端板160Sとの間に下マフラー室180Sを形成している。そして、第1の圧縮部12Sは、下マフラー室180Sに開口している。すなわち、下端板160Sの第1ベーン127S近傍には、第1シリンダ121Sの第1圧縮室133Sと下マフラー室180Sとを連通する第1吐出孔190S(図2参照)が設けられ、第1吐出孔190Sには、圧縮された冷媒ガスの逆流を防止する第1吐出弁200Sが配置されている。
【0024】
下マフラー室180Sは、環状に形成された1つの室であり、第1の圧縮部12Sの吐出側を、下端板160S、第1シリンダ121S、中間仕切板140、第2シリンダ121T及び上端板160Tを貫通する冷媒通路136(図2参照)を通して上マフラー室180T内に連通させる連通路の一部である。下マフラー室180Sは、吐出冷媒ガスの圧力脈動を低減させる。また、第1吐出弁200Sに重ねて、第1吐出弁200Sの撓み開弁量を制限するための第1吐出弁押さえ201Sが、第1吐出弁200Sとともにリベットにより固定されている。
【0025】
図1に示すように、上端板160Tの上側には、上マフラーカバー170Tが設置され、上端板160Tとの間に上マフラー室180Tを形成している。上端板160Tの第2ベーン127T近傍には、第2シリンダ121Tの第2圧縮室133Tと上マフラー室180Tとを連通する第2吐出孔190T(図2参照)が設けられ、第2吐出孔190Tには、圧縮された冷媒ガスの逆流を防止する第2吐出弁200Tが設置されている。
【0026】
また、第2吐出弁200Tに重ねて、第2吐出弁200Tの撓み開弁量を制限するための第2吐出弁押さえ201Tが、第2吐出弁200Tとともにリベットにより固定されている。上マフラー室180Tは、吐出冷媒の圧力脈動を低減させる。
【0027】
第1シリンダ121S、下端板160S、下マフラーカバー170S、第2シリンダ121T、上端板160T、上マフラーカバー170T及び中間仕切板140は、ボルト175により一体に締結されている。ボルト175により一体に締結された圧縮部12のうち、上端板160Tの外周部が、圧縮機筐体10にスポット溶接により固着され、圧縮部12を圧縮機筐体10に固定している。
【0028】
円筒状の圧縮機筐体10の外周壁には、軸方向に離間して下部から順に、第1、第2貫通孔101、102が、第1、第2吸入管104、105を通すために設けられている。また、圧縮機筐体10の外側部には、独立した円筒状の密閉容器からなるアキュムレータ25が、アキュムホルダー252及びアキュムバンド253により保持されている。
【0029】
アキュムレータ25の天部中心には、冷凍サイクルの低圧側と接続するシステム接続管255が接続され、アキュムレータ25の底部に設けられた底部貫通孔257には、一端がアキュムレータ25の内部上方まで延設され、他端が、第1、第2吸入管104、105の他端に接続される第1、第2低圧連絡管31S、31Tが接続されている。
【0030】
冷凍サイクルの低圧冷媒をアキュムレータ25を介して第1、第2の圧縮部12S、12Tに導く第1、第2低圧連絡管31S、31Tは、吸入部としての第1、第2吸入管を介して第1、第2シリンダ121S、121Tの第1、第2吸入孔135S、135T(図2参照)に接続されている。すなわち、第1、第2吸入孔135S、135Tは、冷凍サイクルの低圧側に並列に連通している。
【0031】
圧縮機筐体10の天部には、冷凍サイクルの高圧側と接続し高圧冷媒ガスを冷凍サイクルの高圧側に吐出する吐出部としての吐出管107が接続されている。すなわち、第1、第2吐出孔190S、190Tは、冷凍サイクルの高圧側に連通している。
【0032】
圧縮機筐体10内には、およそ第2シリンダ121Tの高さまで潤滑油が封入されている。また、潤滑油は、回転軸15の下部に挿入された羽根ポンプ(図示しない)によって圧縮部12を循環し、摺動部品の潤滑及び微小隙間によって圧縮冷媒の圧縮空間を区画している箇所のシールをしている。
【0033】
次に、図3及び図4を参照して、実施例1のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。図3に示すように、第1、第2シリンダ121S、121Tの第1、第2張出し部122S、122Tには、第1、第2張出し部122S、122Tの外周部から第1、第2ベーン溝128S、128Tに連通するように、第1、第2スプリング穴124S、124Tが形成されている。第1、第2スプリング穴124S、124Tは、外周部に第1、第2面取り部126S、126Tを有している。
【0034】
第1、第2スプリング穴124S、124T内に挿入され第1、第2ベーン127S、127Tの背面を押圧するベーンスプリング126は、外径が第1、第2スプリング穴124S、124Tの内径より小さく形成され第1、第2ベーン127S、127Tの背面を押圧する有効ばね部126aと、外径が第1、第2スプリング穴124S、124Tの外径より大きく形成され、第1、第2スプリング穴124S、124Tの入口に圧入されて係止される大径部126bと、を有している。
【0035】
次に、第1、第2スプリング穴124S、124Tへのベーンスプリング126の組込方法を説明する。圧縮機筐体10の外で、圧縮部12を組立てた後、ベーンスプリング126の有効ばね部126aを、第1、第2スプリング穴124S、124Tに挿入し、有効ばね部126aの先端を、第1、第2ベーン127S、127Tの背面に当接させ、大径部126bを、第1、第2面取り部126S、126Tの近くに位置させる。
【0036】
次に、ベーンスプリング挿入治具132の球状先端132aを大径部126bの後端面に当てて押圧し、大径部126bを、第1、第2面取り部126S、126Tを滑らせて、第1、第2スプリング穴124S、124Tの入口に圧入して係止する。
【0037】
ベーンスプリング挿入治具132の先端132aが、直径が第1、第2スプリング穴124S、124Tの内径より大きい球状となっているので、図4に示すように、ベーンスプリング挿入治具132が、第1、第2スプリング穴124S、124Tに対して傾いた状態で、大径部126bを押圧、圧入しても、大径部126bの後端面は、第1、第2スプリング穴124S、124Tに対して垂直となり、傾斜することはない。
【0038】
以下に、大径部126bの後端面が、第1、第2スプリング穴124S、124Tに対して垂直となる理由を説明する。ベーンスプリング126の大径部126bを、第1、第2スプリング穴124S、124Tに圧入することにより、ベーンスプリング126を第1、第2スプリング穴124S、124T内に保持する場合、第1、第2面取り部126S、126Tよりも奥まで大径部126bを挿入する必要がある。これは、大径部126bが第1、第2面取り部126S、126Tに掛かっていると、圧入しろを確保することができず、ベーンスプリング126を確実に保持することができなくなるためである。なお、第1、第2面取り部126S、126Tを無くしてしまうと、ベーンスプリング126の圧入作業が難しくなったり、ベーンスプリング126にキズが付き易いという問題がある。
【0039】
従来、ベーンスプリング126の大径部126bを、第1、第2スプリング穴124S、124T内に圧入するには、第1、第2スプリング穴124S、124T内に挿入することができる円柱状の挿入治具の平端面で大径部126bを押圧していた。このとき、挿入治具が第1、第2スプリング穴124S、124Tに対して傾いていると、挿入治具の平端面も傾くので、大径部126bもそれに倣って傾いた状態で保持されてしまうが、実施の形態のベーンスプリング挿入治具132は、球状先端132aを有しているので、ベーンスプリング挿入治具132が傾いても、球状先端132aは傾いていないときと同じ形状であり、大径部126bが傾いて保持されることはない。また、従来の挿入治具は、第1、第2スプリング穴124S、124Tに対して傾かないように、精密な位置決め機構が必要であったが、実施例のベーンスプリング挿入治具132は、手作業で、大径部126bが傾かないように挿入作業を行なうことができる。
【0040】
ベーンスプリング126の大径部126bの後端面が第1、第2スプリング穴124S、124Tに対して垂直となっているので、ベーンスプリング126の向きが、第1、第2スプリング穴124S、124Tの向きと一致し、ベーンスプリング126が圧縮されても、有効ばね部126aが屈曲することはなく、第1、第2スプリング穴124S、124Tの内壁面に接触せず、長期の運転を行ってもベーンスプリング126が磨耗、疲労して折損することはない。
【0041】
また、ベーンスプリング挿入治具132の球状先端132aの直径が、第1、第2スプリング穴124S、124Tの内径より大きいので、球状先端132aが、第1、第2スプリング穴124S、124T内に進入することはなく、大径部126bが、第1、第2スプリング穴124S、124Tの奥まで押込まれることもない。
【実施例2】
【0042】
図5は、実施例2のスプリング穴の面取り部を示す部分断面図である。図5に示すように、実施例2の第1、第2スプリング穴124S、124Tは、外周部に、第1、第2面取り部126Sa、126Taを有している。第1、第2面取り部126Sa、126Taは、ベーンスプリング挿入治具132の球状先端132aの半径と同一半径の球面状となっている。他の部分は、図3に示す実施例1と異なるところはない。
【0043】
実施例2の第1、第2面取り部126Sa、126Taは、ベーンスプリング挿入治具132の球状先端132aの半径と同一半径の球面状となっているので、球状先端132aと面接触し、球状先端132aの摩耗を低減してベーンスプリング挿入治具132の寿命を延ばすことができる。
【実施例3】
【0044】
図6は、実施例3のスプリング穴の面取り部及びベーンスプリング挿入治具を示す部分断面図である。図6に示すように、実施例3のベーンスプリング挿入治具132の球状先端132aが第1、第2スプリング穴124S、124Tの内壁端部と接触する点Pの、第1、第2スプリング穴124S、124Tの中心線からの開き角θが、45°以上となるようにする。
【0045】
すなわち、第1、第2スプリング穴124S、124Tの穴径をD、球状先端132aの半径をRとすると、D/2<R≦D/(2sin45°)となるように、穴径Dの値に基づいて球状先端132aの半径Rの値を設定する。これにより、図6に示すように、第1、第2スプリング穴124S、124Tの第1、第2面取り部126Sb、126Tbの面取り角度αを45°以下にすることができる。
【0046】
面取り角度αを45°以下にすると、ベーンスプリング126の大径部126bが、第1、第2面取り部126Sb、126Tb上を滑り易くなり、第1、第2スプリング穴124S、124Tの入口に圧入し易くなる。
【符号の説明】
【0047】
1 ロータリ圧縮機
10 圧縮機筐体
11 モータ
12 圧縮部
15 回転軸
25 アキュムレータ
31S 第1低圧連絡管
31T 第2低圧連絡管
101 第1貫通孔
102 第2貫通孔
104 第1吸入管
105 第2吸入管
107 吐出管(吐出部)
111 ステータ
112 ロータ
12S 第1の圧縮部
12T 第2の圧縮部
121S 第1シリンダ
121T 第2シリンダ
122S 第1張出し部
122T 第2張出し部
123S 第1シリンダ内壁
123T 第2シリンダ内壁
124S 第1スプリング穴
124T 第2スプリング穴
125S 第1環状ピストン
125T 第2環状ピストン
126 ベーンスプリング
126a 有効ばね部
126b 大径部
126S、126Sa、126Sb 第1面取り部
126T、126Ta、126Tb 第2面取り部
127S 第1ベーン
127T 第2ベーン
128S 第1ベーン溝
128T 第2ベーン溝
129S 第1背圧室
129T 第2背圧室
130S 第1作動室
130T 第2作動室
131S 第1吸入室
131T 第2吸入室
132 ベーンスプリング挿入治具
132a 球状先端
133S 第1圧縮室
133T 第2圧縮室
135S 第1吸入孔
135T 第2吸入孔
136 冷媒通路
140 中間仕切板(閉塞板)
151 下軸受支持部
152S 第1偏芯部
152T 第2偏芯部
153 上軸受支持部
160S 下端板(閉塞板)
160T 上端板(閉塞板)
161S 下軸受部
161T 上軸受部
170S 下マフラーカバー
170T 上マフラーカバー
175 ボルト
180S 下マフラー室
180T 上マフラー室
190S 第1吐出孔
190T 第2吐出孔
200S 第1吐出弁
200T 第2吐出弁
201S 第1吐出弁押さえ
201T 第2吐出弁押さえ
252 アキュムホルダー
253 アキュムバンド
255 システム接続管
257 底部貫通孔
R 第1、第2背圧室の開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入孔及びベーン溝が設けられた環状のシリンダと、
前記シリンダの端部を閉塞する閉塞板と、
モータにより回転駆動される回転軸の偏芯部に嵌合され前記シリンダのシリンダ内壁に沿って該シリンダ内を公転し前記シリンダ内壁との間に作動室を形成する環状ピストンと、
前記シリンダに設けられたベーン溝内から前記作動室内に突出して前記環状ピストンに当接し該作動室を吸入室と圧縮室とに区画するベーンと、
前記シリンダの外周部から前記ベーン溝に連通するように形成されたスプリング穴に挿入され前記ベーンの背面を押圧するベーンスプリングと、
を備えて成る圧縮部を有するロータリ圧縮機において、
前記スプリング穴は、前記外周部に面取り部を有し、
前記ベーンスプリングは、外径が前記スプリング穴の内径より小さく形成され前記ベーンの背面を押圧する有効ばね部と、外径が前記スプリング穴の内径より大きく形成され、後端面が前記スプリング穴と垂直となるように前記スプリング穴の入口に圧入される大径部と、を有することを特徴とするロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記ベーンスプリングの大径部は、直径が前記スプリング穴の内径より大きい球状先端を有するベーンスプリング挿入治具により、前記スプリング穴の入口に圧入されることを特徴とする請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記スプリング穴の面取り部は、前記ベーンスプリング挿入治具の球状先端の半径と同一半径の球面状となっていることを特徴とする請求項2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記スプリング穴の穴径をD、前記スプリング挿入治具の球状先端の半径をRとするとき、D/2<R≦D/(2sin45°)となるように、穴径Dの値に基づいて前記球状先端の半径Rの値を設定し、かつ、前記スプリング穴の面取り部の面取り角度αを45°以下としたことを特徴とする請求項2に記載のロータリ圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−207585(P2012−207585A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73689(P2011−73689)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)