説明

ローダミンと金属含有染料のブレンドに基づく退色安定性インク調合物

【課題】高い彩度と耐光特性を有するインクジェットインク組成物、並びにその調製及び使用方法の提供。
【解決手段】本発明の一つの側面によれば、インク組成物はインクビヒクル中に、有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料の混合物を含有しうる。本発明の別の側面によれば、本発明のインク組成物を用いて生成された画像は、少なくとも約57の彩度と、少なくとも約5.7年の耐光性を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、インクジェットインク組成物、及びその組成物を製造するための方法に関する。より詳細には、本発明は、高い耐光性と高い彩度の双方を示す、退色安定性マゼンタインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット画像は、「プリントヘッド」として知られる液滴発生装置からインクドットの精密なパターンが印刷媒体上に吐出される時に生成される。典型的なインクジェットプリントヘッドは、精密に形成されたノズルのアレイを有し、これらはノズルプレート上に配置され、インクジェットプリントヘッド基板に取り付けられている。基板には、1つ又はより多くのインク溜めとの流体連通を介して液体インク(溶媒に溶解又は分散された着色剤)を受け取る噴射チャンバのアレイが組み込まれている。各チャンバは、ノズルに対向して配置された「発射抵抗」として知られる薄膜抵抗を有し、インクを噴射抵抗とノズルの間に収容することができる。具体的には、典型的には抵抗材料のパッドからなる各抵抗素子は、約35μm×35μmの大きさである。プリントヘッドは、プリントカートリッジと呼ばれる外側パッケージによって保持され保護されて、インクジェットペンを構成する。
【0003】
特定の抵抗素子が付勢されると、インク滴が、ノズルを介して印刷媒体に向けて排出される。インク滴の発射は典型的には、マイクロプロセッサの制御下に行われ、マイクロプロセッサは電気的なトレースを介して信号を抵抗素子に伝える。かくして、印刷媒体上への英数字その他の文字の形成が可能になる。
【0004】
所与の印刷媒体又は基体に適用されたときに、インク組成物によって生成される画像の初期の品質及びその永続性は、両方とも重要である。種々の画像特性が、画像品質及び永続性を全体的に決定するが、これらはまた特定の用途に適した所望の結果を達成するように調節することができる。しかして画像品質の属性には、色の鮮明さ及び彩度、粒状性、ハーフトーン品質、及び色の正確な再現性といった特性が含まれる。色の鮮明さは、CIELAB表色系のクロマ(C*)数によって特徴付けることができ、分光光度計によって容易に測定することができる。色の鮮明さは実質的に、画像が印刷される紙によって左右される。通常、特殊なインクジェット写真用紙がインクジェットインクの色の鮮明さを高める。他方、オフィス用紙の場合には、必要な色の鮮明さを実現することは難問である。従って、所与のインクセットの色の鮮明さは、例えばHP(ヒューレット・パッカード社)製Printing Paper(商標)用紙などの、オフィス普通紙上の彩度によって記述することが非常に一般的になっている。
【0005】
他方、画像の永続性の属性には、光に対する画像の安定性(耐光性)、湿気に対する安定性(耐湿性)、及び大気中のガス及び汚染物質に対する安定性(耐候性)が含まれる。これら3つの属性のうち、耐光性は近時、最も注目を集めている。耐光性は、カラー写真については十分に議論が尽くされた現象となっている。例えば非特許文献1を参照のこと。写真の耐光性は、それが喪失されるまでの年数で測定するのがごく普通である。非特許文献1によれば、その喪失は、光学濃度の特定の割合が失われた後に起こる。例えばマゼンタに関しては、グリーンフィルタの光学濃度における25%の損失が、かかる喪失を表す。非特許文献1においては、屋内での写真の平均的な曝露を、一日12時間として時間当たり450ルクスとすることが示唆されており、これは一年では1971キロルクス時と等価である。この数値を考慮して、サンプルが耐光性喪失の終点に達するのに要する合計の曝露量(ルクス単位)に基づき、耐光性の喪失までの概略時間を見積もることができる。
【0006】
インクジェットインクの調合技術においては、より明るい色を生ずる染料は不十分な耐光性を示す傾向があり、またその逆もあること、即ちより十分な耐光性を有する染料は鈍い色になりがちであるということが、十分に立証されている。従って、アシッドレッド52(マゼンタ)、アシッドブルー9(シアン)、及びアシッドイエロー23(イエロー)のような、一般的なインクジェット染料は、優れた彩度をもたらすが、耐光性は非常に劣る。他方、リアクティブレッド23又はダイレクトブルー199のような、構造中に金属を含んでいる染料(以下、金属含有染料と呼ぶ)は、彩度は低いか又は中程度であるが、極めて高い耐光性を併せ持っている。他に、中程度の耐光性と彩度を併せ持つ一群の染料があるが、これらの染料の中では例えば、リアクティブレッド180のようなアゾ染料を挙げることができる。
【0007】
インクジェットインクの調合における既知の手法は、幾つかの染料を一緒にブレンドし、そのブレンド中の1つの染料が彩度をもたらし、他のものが耐光性を改善するようにするステップを包含する。この手法は、例えば特許文献1及び2に記述されている。ブレンド中の染料の相互作用に関しては、個々の染料の耐光性と比較してのブレンドの耐光性という点について知られていることは殆どない。例えば幾つかの染料は、他の染料の存在下で自己触媒退色を示すことが知られている。例えばスイスのイルフォード社製のM377染料は、同社によって報告されているように、銅フタロシアニンの存在下で比較的早く退色する。他の多くの場合には、安定性に関する適度な効果が観察される。HP(ヒューレット・パッカード社)製Premium Plus写真用紙上において、一次色としてのHP製970Cマゼンタにおける染料の退色は、二次色中や複合ブラック中における退色より速い。こうした効果は小さいと考えられおり、まず働く推定は、混合物の耐光性は累積的なものだということである。従って、ブレンド用としてより安定な染料が選択された場合、そのブレンドの耐光性は増大することが期待される。
【特許文献1】米国特許第5,536,306号明細書(Johnson等)
【特許文献2】米国特許第5,772,742号明細書(Wang)
【非特許文献1】Wilhelm, H.G., The permanence and care of color photographs: traditional and digital color prints, color negatives, slides, and motion pictures, Grinnell, Iowa, U.S.A.: Preservation Pub. Co., 1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクジェットインクの耐光性及び色の鮮明さに関する特性を最適化するために相当の努力が払われてきたが、色の鮮明さと耐光性の双方をさらに向上させる必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかして本発明は、インクビヒクル中に有効量のローダミンマゼンタ染料と有効量の金属含有マゼンタ染料との混合物を含んでいるマゼンタインクジェットインク調合物を提供する。こうしたインクジェットインク調合物は、相乗的な(即ちかかる組み合わせについて期待される性能を越える)、優れた彩度及び耐光性をもたらすことが見出されている。一つの側面によれば、この調合物はHP製Printing Paper上で少なくとも約57の彩度と、HP製Premium Plus写真用紙上で少なくとも約5年の耐光性を達成する。より詳細な側面によれば、この調合物はHP製Printing Paper上で少なくとも約60の彩度と、HP製Premium Plus写真用紙上で少なくとも約10年の耐光性を達成する。
【0010】
様々なローダミン染料を本発明に用いることができる。しかし一つの側面によれば、ローダミン染料は、アシッドレッド52、アシッドレッド289、アシッドレッド388、及びこれらの混合物から本質的に成る群から選択されてよい。別の側面によれば、ローダミン染料は、アシッドレッド289である。さらに別の側面によれば、ローダミン染料は、アシッドレッド52であってよい。さらに別の側面によれば、ローダミン染料混合物は、アシッドレッド52とアシッドレッド289の混合物であってよい。
【0011】
多くの金属含有マゼンタ染料を、本発明のインクジェットインク調合物に用いることができる。しかし一つの側面によれば、金属含有マゼンタ染料は銅含有染料であってよい。別の側面によれば、金属含有マゼンタ染料はニッケル含有染料であってよい。さらに別の側面によれば、銅含有染料は、リアクティブレッド23、パシファイドリアクティブレッド23、及びこれらの混合物から本質的に成る群から選択されてよい。さらに別の側面によれば、銅含有染料はパシファイドリアクティブレッド23であってよい。
【0012】
本発明に使用されるローダミン及び金属含有染料の量は、本発明によって達成される高い彩度及び耐光特性を示すインクを得るのに十分な、任意の量であってよい。しかし本発明の一つの側面によれば、ローダミン染料、又はローダミン染料混合物の量は、500から600nmの間に位置する最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に0.03から0.20の吸光度を達成するのに十分なものである。別の側面によれば、金属含有マゼンタ染料の量は、500から600nmの間に位置する最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に0.03から0.20の吸光度を得るのに十分なものである。
【0013】
本発明はさらに、優れた彩度と耐光特性を達成するインクジェットインク調合物を製造する方法も包含する。一つの側面によれば、この方法は、有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料をインクビヒクルに混合するステップを含む。本明細書に記載したような特定の種類の各成分を様々な組み合わせで用いて、こうしたインクジェットインクを形成することができる。
【0014】
本発明はまた、高い耐光性と彩度特性を有するインクジェット画像の形成方法をも包含する。一つの側面によれば、この画像はHP製Printing Paper上で少なくとも約57の彩度と、HP製Premium Plus写真用紙上で少なくとも約5年の耐光性を達成する。より詳細な側面によれば、この画像HP製Printing Paper上で少なくとも約60の彩度と、HP製Premium Plus写真用紙上で少なくとも約10年の耐光性を達成する。
【0015】
以上においては、これから述べる本発明の詳細な説明が十分に理解され、また当技術に対する本発明の寄与がより良好に認識されうるように、本発明のより重要な特徴を幾らか広範に概説した。本発明のその他の特徴は、特許請求の範囲と併せて考慮すれば、本発明の以下の詳細な説明からさらに明らかになるであろうし、或いは本発明の実施によっても理解されうるものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、インク組成物がインクビヒクル中に、有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料の混合物を含有することによって、彩度の実質的な低減なしに、大きく向上された耐光性を有するインクジェット画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
定義
本発明の原理の理解を促進する目的で、これより本発明の1つ又はより多くの実施態様について説明するが、その記述には特定の用語を用いる。しかし、それは本発明の範囲を制限しようとするものでないことが理解されよう。関連技術の当業者であって本明細書の開示を把握する者に想起される、本明細書に例示した本発明の特徴の全ての変更及び修正、並びに本明細書で説明される本発明の原理の任意の追加的応用は、本発明の範囲内にあると考えられるべきである。
【0018】
本発明を記述し特許請求するに当たっては、以下の用語を用いる。
【0019】
単数形は、文脈によって別途明確に示唆されない限り、複数の対象物を包含する。従って例えば、「染料」という参照は1つ又はより多くの染料を包含し、「画像」という参照は1つ又はより多くの別個の画像を包含し、「基板」という参照は1つ又はより多くの印刷基板を包含する。
【0020】
「調合物」及び「組成物」という用語は、本明細書では互換的に用いることができる。
【0021】
本明細書において、「有効量」とは、所望の効果を達成するのに十分な、物質又は剤の最小量を指す。例えば「インクビヒクル」の有効量とは、特定の性能と特性基準を満足するインクを調製するのに要する最小量である。また「染料」又は「顔料」の有効量とは、特定の性能と特性基準を達成し得る最小量となるであろう。
【0022】
本明細書において、「インクビヒクル」とは、顔料又は染料のような着色剤を添加してインクを形成するためのビヒクルを指す。インクビヒクルは当分野でよく知られており、広範囲のインクビヒクルを本発明のインク組成物と共に使用することができる。かかるインクビヒクルは、限定するものではないが、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、粘度調節剤、表面活性剤(即ち界面活性剤)、塩類、及び水などの種々の異なった剤の混合物を含んでいてよい。
【0023】
本明細書において、「彩度」とは、所与の色の相対的な鮮やかさを指す。彩度は、当分野においては、同じ照明の下で見た白色領域の明るさと比較して判断される、ある領域の色の鮮やかさを示すものとして知られている。彩度のレベルを測定し判定するための装置及び計算方法は、例えば、R.W.G.Hunt著“The Reproduction of Colour”第5版、第8章に記述されているように、当業者には十分知られている。
【0024】
本明細書において、「耐光性」とは、その彩度及び/又は光学濃度並びにその他の色相の諸性質を、可視光に対する長期の曝露時間にわたって保持することのできる、インクジェットインクの能力である。
【0025】
本明細書において、「光学濃度」(OD)とは、印刷媒体に適用した後の、インクジェットインクの十全さ及び強度特性を指す。光学濃度は、印刷媒体からの反射光を印刷媒体への入射光の量で割った比の、負の対数として計算することができる。異なる色の光学濃度を測定するためには、異なる光フィルタが用いられる。従って、シアン、マゼンタ及びイエローの各色は、それぞれ赤、緑及び青色のフィルタを通して測定される。
【0026】
本明細書において、「ローダミン」とは、次の一般式を有する染料を指す。
【0027】
【化1】

【0028】
式中、R1、R2、R3、及びR4は、水素、或いは、スルホネート基のようなイオン性基を1つ又はより多く含み又は含まない炭化水素基の何れかであり、Xは四級化された窒素に合う適当な対イオンであり、Yは水素、又はスルホネート基若しくはカルボキシル基のようなイオン性基の何れかであり、Zは水素、又はスルホネート若しくはカルボキシル基のようなイオン性基の何れかである。ローダミン染料は、R1−R4、Y及びZとして結合される官能基の特定の組み合わせに応じて、陰イオン性、陽イオン性、又は両性であってよい。多くのローダミン染料が、インクジェットインク分野の当業者に周知である。ローダミン染料に関するさらなる記述と例示は、O. Valcl, I. Nemcova及びV. Sukによって、Handbook of Triarylmethane and Xanthene Dyes, CRC Press, Boca Raton, F1, 1985に開示されている。
【0029】
本明細書において、「アシッドレッド52」とは、R1−R4がそれぞれCHCHであり、Y及びZがSO(Mは、Na、K、Li又はNHのような対イオン)であるローダミン染料を指す。この染料は、スルホローダミンBとしても知られており、その構造は、大河原信/北尾梯次郎/平嶋恒亮/松岡賢「色素ハンドブック」(Organic Colorants: A Handbook of Data for Electro-Optical Applications, Elsevier, Amsterdam-Oxford-New York-Tokyo(1988)に示されている。
【0030】
本明細書において、「アシッドレッド289」とは、R1及びR3が水素であり、R2がジメチルフェニルスルホン基であり、R4がジメチルフェニル基であり、YがSOであり(Mは、Na、K、Li又はNHのような対イオン)、Zが水素であるローダミン染料を指す。この染料は例えば、米国ニュージャージー州エルムウッド・パーク所在のセンシエント・テクノロジーズ社(Sensient)によって製造されている。
【0031】
本明細書において、「アシッドレッド388」とは、R1−R4がそれぞれCHCHであり、Y及びZがCOO(Mは、Na、K、Li又はNHのような対イオン)であるローダミン染料を指す。この染料は例えば、商品名Rhodamine WTの名前で米国ペンシルバニア州リーディング所在のクロンプトン・ノールス・カラーズ社(Crompton)によって製造されている。Rhodamine WTの構造は例えば、”Tracer Test Design Factors”,US Environmental Protection Agency, National Center for Environmental Assessment, October 25, 2000に見出すことができる。
【0032】
市販の染料は多くの場合、異性体の混合物であり、幾つかの基、例えばスルホネート基及びカルボキシル基の位置が、上の化学構造に示したものと幾らか異なりうることが認識されねばならない。
【0033】
本明細書において、「金属含有マゼンタ染料」とは、金属イオン錯体を含んでいるレッド、マゼンタ、又はバイオレット染料を指す。金属イオンを有機官能基に錯化させるための種々の方法が当業者に周知である。これは例えばキレートである。さらに、銅、ニッケル、コバルト、及び鉄のような、様々な金属イオンを用いて金属イオン錯体を形成することができる。
【0034】
本明細書において、「リアクティブレッド23」とは、次の一般式を有する染料を指す。
【0035】
【化2】

【0036】
式中、Mは、Na、K、Li又はNHのような、正の電荷を有する一価の対イオンを表す。
【0037】
本明細書において、「パシファイドリアクティブレッド23」とは、上に述べたリアクティブレッド23の平定(パシファイド)形を指し、これは次のように末端スルホネート基を除去することによって平定(パシファイ)されている。
【0038】
【化3】

【0039】
式中、Mは、Na、K、Li又はNHのような、正の電荷を有する一価の対イオンを表す。
【0040】
本明細書において、「印刷媒体」、「印刷表面」、及び「基体」は互換的に用いてよく、画像を形成するためにインクが付着される表面を指す。
【0041】
本明細書では、濃度、量、及びその他の数値データは、値の範囲という形式で表現され、又は提示される。そのような値の範囲という形式は、単に便宜及び簡単のために使用されるものであって、その範囲を画するものとして明瞭に記述された数値のみならず、その範囲内に含まれる個々の数値又は部分範囲の全てを、あたかもそれらの数値や部分範囲が明瞭に記述された場合と同様に含むものとして、柔軟に解釈されるべきであることが理解されねばならない。一例として、「約0.1重量%から約5重量%」という濃度範囲は、約0.1重量%及び約5重量%という明瞭に記述された濃度だけでなく、ここに示された範囲内の個々の濃度と部分範囲をも含むものと解釈されねばならない。従って、この濃度の数値範囲には、2重量%、3重量%、及び4重量%のような個別の濃度値と、1重量%から3重量%、2重量%から4重量%、3重量%から5重量%といった部分範囲が含まれる。同じ原則は、1つの数値だけで表された範囲にも適用される。またこうした解釈は、記述されている範囲又は特性の幅とは無関係に適用されるべきである。
【0042】
本明細書における全ての濃度は、染料の濃度を除いて重量パーセントで表される。染料の濃度は場合によっては、一万倍(1:10000)のw/w希釈時のピークマゼンタ波長での吸光度(A)として表される。ピークマゼンタ波長は、一万倍のw/w希釈時に染料溶液の吸光度が最大値に到達する、500から600nmの間にある波長として定義される。染料の重量濃度Cとその吸光度Aは、次式
C,wt% = 10(A/ε)
(式中、εは最大吸光波長における、リットル/(g・cm)で表した染料の吸光係数)によって関連付けられる。染料の吸光係数の幾つかを下記に示す。
【0043】
【化4】

【0044】
本発明
本発明は、有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料の混合物をインクビヒクル中に含むインクジェットインク調合物を包含する。驚くべきことに、ローダミンと金属含有マゼンタ染料の組み合わせは相乗効果をもたらし、インクに対して予期せぬ高レベルの彩度と耐光性を付与する。結果として、そのようなインクで形成された画像は、これらの視覚性能に関して高品質であり、多種多様な印刷用途にわたって利用することができる。この相乗作用的な耐光性効果は、金属含有染料と非ローダミンマゼンタ染料との組み合わせの場合には、それが比較的耐光性のある非ローダミン染料であるとしても見られない。さらに、金属含有染料と非ローダミン染料の組み合わせは、ローダミン染料混合物の高い彩度と耐光性をもたらすものでもない。種々多様なローダミン染料が、多様な印刷用途に関して当業者に知られており、本発明に用いることができる。
【0045】
こうした染料の多くのものが、前述の大河原信/北尾梯次郎/平嶋恒亮/松岡賢「色素ハンドブック」(Organic Colorants: A Handbook of Data for Electro-Optical Applications, Elsevier, Amsterdam-Oxford-New York-Tokyo(1988)に目録分類されている。適当なローダミン染料の例には、限定するものではないが、次のものがある。ローダミン110(染料目録#54001)、ローダミン123(染料目録#54002)、ローダミン6G(染料目録#54003、C.I.ベーシックレッド1)、ローダミン6Gエキストラ(染料目録#54004)、ローダミン116(染料目録#54005)、ローダミンB(染料目録#54006、C.I.45170ベーシックバイオレット10)、テトラメチルローダミン過塩素酸塩(染料目録#54007)、ローダミン3B(染料目録#54008)、ローダミン19(染料目録#54009)、スルホローダミン(染料目録#54012)。その他の幾つかのローダミン染料が参考文献1に挙げられており、例えば次のものがある。アクリジンレッド(C.I.45000)、アシッドレッド52、ピロニンG(C.I.45005)、ローダミンS(C.I.45050,ベーシックレッド11)、ローダミンG(C.I.45150、ベーシックレッド8)、エチルローダミンB(C.I.45175、ベーシックバイオレット11)、ローダミン4G(C.I.45166)、C.I.アシッドレッド289、ローダミン3GO(C.I.45215、ベーシックレッド4)、C.I.アシッドレッド388、スルホローダミンG、及びこれらの混合物。
【0046】
本発明の一つの側面によれば、ローダミン染料は、アシッドレッド52、アシッドレッド289、アシッドレッド388、及びこれらの混合物から成る群から選択されうる。別の側面によれば、使用されるローダミン染料はアシッドレッド289であってよい。別の側面によれば、使用されるローダミン染料はアシッドレッド52であってよい。さらに別の側面によれば、使用されるローダミン染料はアシッドレッド52とアシッドレッド289のブレンド即ち混合物であってよい。
【0047】
金属含有マゼンタ染料は、多くのものが当業者に周知であり、本発明のインク調合物に用いることができる。一つの側面によればは、使用される金属含有マゼンタ染料は、銅、ニッケル、コバルト、鉄、及びこれらの混合物から成る群から選択された金属との、金属イオン錯体を含むマゼンタ染料であってよい。別の側面によれば、金属は銅であってよい。さらに別の側面によれば、金属はニッケルであってよい。具体的な金属含有マゼンタ染料の例には、限定するものではないが、リアクティブレッド23、パシファイドリアクティブレッド23、並びにこれらの混合物が含まれる。さらに別の側面によれば、使用される金属含有マゼンタ染料は、パシファイドリアクティブレッド23であってよい。
【0048】
本発明の調合物に使用される各染料成分の量は、所定の視覚特性といった、特に望ましい結果を得るために必要な、任意のレベル又は比率に調節することができる。多くの視覚特性を、当業者に周知の種々の光反射及び吸光技術を用いて測定し、判定することができる。一つの側面によれば、ローダミン染料の量は、通常は500から600nmの間に位置する、マゼンタ最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に0.03から0.20の吸光度を得るのに十分な量であってよい。別の側面によれば、インク調合物に含まれるローダミン染料の量は、インク調合物の約0.1重量%から約5重量%であってよい。別の側面によれば、ローダミン染料の量は、インク調合物の約0.3重量%から2重量%であってよい。さらに別の側面によれば、ローダミン染料の量は、インク調合物の約1.1重量%から1.7重量%であってよい。
【0049】
ローダミン染料の量に関して上述したのと同じ原則を、金属含有マゼンタ染料の量に等しく適用することができる。特定の結果を得るために、当業者は種々の量を利用でき、そして使用される特定の量は部分的には、使用される特定のローダミン染料又は金属含有マゼンタ染料に依存して定められてもよい。しかし一つの側面によれば、金属含有マゼンタ染料の量は、通常は500から600nmの間に位置する、マゼンタ最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に0.03から0.20の吸光度を得るのに十分な量であってよい。別の側面によれば、金属含有マゼンタ染料の量は、インク調合物の約0.2重量%から約5重量%であってよい。別の側面によれば、金属含有マゼンタ染料の量は、インク調合物の約1重量%から約5重量%であってよい。さらに別の側面によれば、ローダミン染料の量は、インク調合物の約1重量%から2重量%であってよい。上に挙げた量に加えて、本発明のインク調合物の染料の比率は、所望の結果を得るのに必要な任意の比であってよい。
【0050】
当業者は、染料の所望の組み合わせを決定することができるが、こうした決定の基礎は部分的に、インクを使用する特定の印刷用途、染料の特定の組み合わせといった因子に置くことができる。しかし一つの側面によれば、ローダミン染料と金属含有染料の比は、最大吸光波長における吸光度で、約1:10から約10:1であってよい。別の側面によれば、その比は、最大吸光波長での吸光度で、約1:5から約5:1であってよい。さらに別の側面によれば、その比は、最大吸光波長での吸光度で、約1.5:1から約1:1.5であってよい。本発明のさらなる側面によれば、その比は、最大吸光波長での吸光度で約1.1であってよい。
【0051】
本発明の具体的な実施に際しては、沈殿を避けるために染料は両方とも分子全体として同じ電荷を帯びるか、又は一方若しくは双方の染料が中性とされることが、一般に理解されている。従って、金属含有染料が陰イオン性の場合には、ローダミン染料は中性か又は陰イオン性の何れかでなければならない。そうでない場合には、ローダミン構造の標準的修飾、例えばスルホネート基やカルボキシル基の導入を実行することができる。
【0052】
上に挙げたローダミン染料と金属含有マゼンタ染料との混合物に加えて、本発明に使用されるインク調合物はインクビヒクルを含む。多くの周知のインクビヒクル成分を種々の量で使用することができる。こうしたインクビヒクルには、限定するものではないが、水、有機溶媒、表面活性剤(界面活性剤)、緩衝剤、粘度調節剤、殺生物剤、塩類、金属キレート剤等がある。
【0053】
水は、本発明のインクビヒクルの大きな部分を構成しうる。一つの側面によれば、水はインク組成物の約51重量%から約90重量%の量の脱イオン水であってよい。水に関する種々の脱イオン技術及び状態が周知である。一つの側面によれば、水は18Mオームまで脱イオン化されうる。
【0054】
有機溶媒又は共溶媒を、インクビヒクルの1成分として含有させることができる。これらは一般に水溶性の溶媒である。一つの側面によれば、有機溶媒成分の量は、インク調合物の約5重量%から約49重量%であってよい。上記の量を達成するために、1つ又はより多くの溶媒を用いることができる。また溶媒混合物を使用する時は、特定の結果を達成するのに必要であれば、その組み合わせを種々の比率で含有することができる。
【0055】
適当な溶媒の例には、限定するものではないが、下記が含まれる。2−ピロリドン、N−メチル−ピロリド−2−オン(NMP)、1,3−ジメチルイミダゾリド−2−オン、及びオクチル−ピロリドンのようなラクタム、エタンジオール(例えば1,2−エタンジオール)、プロパンジオール(例えば1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシ−メチル−1,3−プロパンジオール、エチルヒドロキシプロパンジオール)、ブタンジオール(例えば1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール)、ペンタンジオール(例えば1,5−ペンタンジオール)、ヘキサンジオール(例えば1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール)、ヘプタンジオール(例えば1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール)、オクタンジオール(例えば1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール)のようなジオール、ポリエチレングリコール(例えばジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール)、ポリプロピレングリコール(例えばジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール)、高分子グリコール(例えばPEG200、PEG300、PEG400、PPG400)のようなポリアルキレングリコール、エトキシル化グリセリン、及びチオジグリコールのような、インクジェットインクに通常用いられるグリコール、グリコールエーテル及びチオグリコールエーテル。
【0056】
1つ又はより多くの界面活性剤成分を本発明のインク調合物に含有させてよい。一つの側面によれば、界面活性剤成分はインク組成物の約5重量%までの量で添加してよい。一つの側面によれば、界面活性剤は約0.01重量%から約4重量%の量で存在していてよい。別の側面によれば、界面活性剤はインク調合物の約1重量%の量で存在していてよい。前述の量は、単一の界面活性剤成分か、又は界面活性剤成分の混合物を用いて得ることができる。
【0057】
一般に界面活性剤は、印刷媒体中へのインクの浸透性を高めるために使用される。限定無しに、カチオン、アニオン、両性又は非イオン界面活性剤を含む、種々多様な類の界面活性剤を用いることができる。非イオン界面活性剤の例は、第二アルコールエトキシレートである。この化合物は、例えばTergitolシリーズ、Silwetシリーズ、Surfynolシリーズ、及びDowfaxシリーズなどとして市販されており、TERGITOL15−S−5、TERGITOL15−S−7(ダウ・ケミカル社)、SILWET L77(ウィトコ・ケミカル社)、SURFYNOL104E、SURFYNOL440(エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社)、及びDOWFAX8390(ダウ・ケミカル社)といった如くである。
【0058】
本発明のインク組成物のインクビヒクルは、任意選択的に、殺生物剤を約5重量%まで含むことができる。一つの側面によれば、殺生物剤は、インク組成物の約1重量%までの量で存在することができる。さらに別の側面によれば、殺生物剤は、インク組成物の0.2重量%までの量で存在することができる。こうした量は、単一の殺生物剤成分、又は2つ若しくはより多くの殺生物剤の混合によってもたらされうる。
【0059】
インクジェットインクに通常用いられており、当業者に周知の以下の殺生物剤は、どれも本発明の実施に際して用いることができる。例えば、ヒュルスアメリカ社(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)から入手可能なNUOSEPT95、アベシア社(米国デラウェア州ウィルミントン)から入手可能なPROXEL GXL、及び商標UCARCIDE250を付して、ユニオンカーバイド社(米国ニュージャージー州ボンドブルック)から市販されているグルタルアルデヒドなどである。一つの側面によれば、殺生物剤はPROXEL GXLである。
【0060】
上に挙げた成分に加えて、本発明のインクジェットインク組成物は緩衝剤を含むことができる。一つの側面によれば、緩衝剤はインク組成物の約5重量%までの量で存在してもよい。別の側面によれば、緩衝剤はインク組成物の1重量%までの量で存在してもよい。こうした量は、単一の緩衝剤、又は緩衝剤の組み合わせによってもたらされうる。
【0061】
インクビヒクル中の緩衝剤は、主としてpH調整のために用いられる。緩衝剤は、有機系の生物緩衝剤、又は無機緩衝剤であってよい。緩衝剤の特定の種類及び量は、特定の結果を達成すべく当業者が容易に選択することができる。使用しうる具体的な緩衝剤の例には、限定するものではないが、Trizma Base、4−モルホリンエタンスルホン酸(MES)、4−モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)等があり、これらは全て米国ウィスコンシン州ミルウォーキー所在のアルドリッチ・ケミカル社(Aldrich)から入手可能である。
【0062】
本発明のインク組成物のインクビヒクルには、金属キレート剤を含めることができる。一つの側面によれば、金属キレート剤は、インク組成物の約2重量%までの量で存在してもよい。別の側面によれば、金属キレート剤は、インク組成物の約1重量%までの量で存在することができる。さらに別の側面によれば、金属キレート剤は、インク組成物の約0.1重量%までの量で存在することができる。なおさらに別の側面によれば、金属キレート剤は、インク組成物の0.01重量%までの量で存在することができる。こうした量は、1つ又はより多くの金属キレート剤を用いて得ることができる。
【0063】
当業者が認識するように、本発明との関連では種々の金属キレート剤を用いることができる。適当な金属キレート剤の例には、限定するものではないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、(エチレンジオキシ)ジエチレンジニトリロ四酢酸(EGTA)、及び遷移金属の陽イオンと結合するその他のキレート剤が含まれる。一つの側面によれば、金属キレート剤はEDTAである。
【0064】
本発明はさらに、本発明のインク調合物を製造する方法をも包含する。本発明のインク調合物を調製するためには、当業者に周知の各種の方法を用いることができる。しかし本発明の一つの側面によれば、こうした方法は、有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料をインクビヒクル中に混合するステップを包含する。
【0065】
さらに本発明は、HP製Printing Paper用紙上で少なくとも約57の彩度と、HP製Premium Plus写真用紙上で少なくとも約5年の耐光性を示す、インクジェット画像を生成する方法をも包含する。一つの側面によれば、この方法は、本明細書でこれまで記述したようなインクジェットインクを準備するステップと、そのインクジェットインクをインクジェットペンを用いて印刷媒体に付着させるステップを包含する。明らかなように、本明細書に記載したローダミン染料及び金属含有マゼンタ染料はどれも、この方法に用いることができる。さらに、染料の各々の量と種類、並びにインクビヒクルの個々の成分は、上に挙げた値を上回る値を達成するように彩度又は耐光性の量を変化させるべく、特定的に選択することができる。
【実施例】
【0066】
以下に示す実施例は、ここに開示した本発明によるインク組成物と方法についての種々の特定実施態様の単なる実例となるものであって、これによって限定することを意図したものではない。
【0067】
実施例1.アシッドレッド289とパシファイドリアクティブレッド23のブレンド
下記の組成を有する3種のインク調合物を調製する。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
明らかに、これらのインクは全て同一のインクビヒクルと、同じ種類及び量のローダミン染料を含有している。しかし、#1Bと#1Cのインク調合物は、銅含有染料であるパシファイドリアクティブレッド23を異なる量で含んでいるが、#1Aのインク調合物はこれを含んでいない。
【0072】
各インクをHP製C6578Dカラーペンに充填し、HP製970Cxiプリンタで印刷し、耐光性特性についてはHP製Colorfast用紙(部品番号C7013A)及びHP製Premium Plus用紙(部品番号C6944A)を使って評価した。各テストプリントのグリーンフィルタ光学濃度は0.5であり、先の非特許文献1で述べたWilhelmの規準に従って、光学濃度の25%の喪失をもって耐光性が損なわれたと判断した。印刷サンプルは冷白色裸電球の光源を使い、70キロルクスの光強度で退色させ、画像はガラスによって保護しなかった。一年当たりで1971キロルクス時と予測される曝露に基づいた、退色までの時間を年単位で、下の表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
この表から分かるように、ローダミン染料への金属含有マゼンタ染料の添加により、インク調合物の耐光性は約3倍ほども改善される。
【0075】
実施例2.アシッドレッド388とパシファイドリアクティブレッド23のブレンド
下記の組成を有する3種のインク調合物を調製する。
【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
インクは全て同一のインクビヒクルをもつ。しかし、#2Aのインクはローダミン染料だけを含み、#2Cはパシファイドリアクティブレッド23だけを含み、#2Bはこれら2つの混合物を含む。各インクをHP製C6578Dカラーペンに充填し、実施例1において記述したように試験した。耐光性性能の結果を下の表8に示す。
【0080】
【表8】

【0081】
この表から分かるように、ローダミン染料への金属含有マゼンタ染料の添加により、インク調合物の耐光性は10倍ほども改善され、金属含有染料だけのものに類似してくる。しかし、ブレンド染料による彩度は、金属含有染料だけのそれよりはるかに改善される。
【0082】
実施例3.アシッドレッド52とパシファイドリアクティブレッド23のブレンド
下記の組成を有する3種のインク調合物を調製する。
【0083】
【表9】

【0084】
【表10】

【0085】
【表11】

【0086】
インクは全て同一のインクビヒクルをもつ。しかし、#3Aのインクはローダミン染料だけを含み、#3Cはパシファイドリアクティブレッド23だけを含み、#3Bはこれら2つの混合物を含む。各インクをHP製C6578Dカラーペンに充填し、実施例1において記述したようにHP製970Cxiプリンタを用いて試験した。その耐光性性能を下の表12に示す。
【0087】
【表12】

【0088】
アシッドレッド52染料のみで得られる耐光性と比較して、染料をブレンドした場合には耐光性における相当の(30倍)改善を看取することができる。
【0089】
実施例4.各種印刷系での耐光性及び普通紙彩度の比較
アゾマゼンタ染料、即ちリアクティブレッド180(Sensient)をそれ自体で、またパシファイドリアクティブレッド23とのブレンドについて試験した。幾つかのローダミン染料についても同様に行った。インクは全て、実施例3に記載のビヒクルを有していた。インクビヒクル中の染料の濃度は表13及び14に、500から600nmの間の、マゼンタ領域における最大吸光波長での、一万倍希釈時における吸光度の値(Abs)として示す。
【0090】
【表13】

【0091】
【表14】

【0092】
表13から、アゾ染料と比較して、ローダミン染料はそれ自体では極めて不安定であることが看取される。しかし表14から看取しうるように、パシファイドリアクティブレッド23のローダミン染料とのブレンドは、光退色に関して、アゾ染料との類似のブレンドより安定である。これは全く予期せざる結果である。何故なら、安定性の高い染料は、ブレンド中でもより安定であることが予想されるからである。他方、ローダミン染料とのブレンドはまた、アゾ染料とのブレンドよりかなり明るく、より高い普通紙彩度をもたらす。このためローダミン染料とのブレンドは、より良好な耐光性及び普通紙彩度という双方の観点からして魅力的である。
【0093】
実施例5.反射スペクトル測定
本発明のインクにおけるローダミン染料と金属含有マゼンタ染料の混合物の相乗効果をさらに詳しく例示するために、実施例1で記述した3種類のインク調合物の反射スペクトルを評価する。テストサンプルは、300dpiのドット当たり15ピコリットルのインクフラックス(液滴)を用いて、白色のHP製Premium Plus用紙上に印刷する。サンプルインクで印刷されたパッチのグリーンフィルタを介しての初期光学濃度は約0.7である。反射率の解析結果を図1及び2に示す。
【0094】
図1から分かるように、3つのインク調合物は全て、540nmで最小の反射を示す。この最小反射点において、初期の固有反射値は3つとも非常に類似しており、#1A調合物では約0.19の反射率、#1B調合物では約0.15の反射率、及び#1C調合物では約0.16の反射率が得られる。しかし図2に示すように、5.7年の模擬退色期間後には、コントロールである#1A調合物は、0.46までの反射率の実質的上昇を示した(即ち画像は退色に起因してより明るくなり、反射率が上昇した)。しかし一方、染料ブレンドインクである#1Bと#1Cの両方は安定なままである。このように、本発明のインク中に含まれる染料ブレンドは相乗的に作用し、インク調合物の彩度を大きく低減させることなしに、目立って改善された耐光性をもたらす。
【0095】
上述した構成は、本発明の原理の応用の単なる例示に過ぎないことが理解されるべきである。当業者は、本発明の思想及び範囲から逸脱することなしに、多数の修正及び変更構成を案出することができ、特許請求の範囲はそうした修正及び変更を網羅することを意図している。かくして、以上においては本発明を、現在のところその最も実用的で好ましい実施態様と考えられているところに関連して具体的かつ詳細に記述した。しかし当業者には、限定するものではないが、寸法、材料、形状、形態、機能及び操作、組立及び使用方法を含む、多くの修正を、本明細書において説明した原理と概念から逸脱することなしに実施し得ることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】ローダミン染料のみを含有するインク調合物と比較しての、本発明によるローダミン染料と金属含有染料のブレンドに基づく2つのインク調合物によって達成される初期反射スペクトルのグラフである。
【図2】5.7年の模擬退色期間後における、ローダミン染料のみを含有するインク調合物と比較しての、本発明によるローダミン染料と金属含有染料のブレンドに基づく2つのインク調合物によって達成される最終反射スペクトルのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料との混合物をインクビヒクル中に含有してなるインクジェットインク調合物であって、
前記ローダミン染料がアシッドレッド52であり、
前記金属含有マゼンタ染料の量が、500から600nmの間に位置する最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に0.03から0.20の吸光度を得るのに十分なものである、インクジェットインク調合物。
【請求項2】
前記金属含有染料が銅含有染料である、請求項1に記載のインクジェットインク調合物。
【請求項3】
前記金属含有染料がニッケル含有染料である、請求項1に記載のインクジェットインク調合物。
【請求項4】
前記銅含有染料が、リアクティブレッド23、パシファイドリアクティブレッド23、及びこれらの混合物から本質的に成る群から選択される、請求項2に記載のインクジェットインク調合物。
【請求項5】
前記ローダミン染料の量が、500から600nmの間に位置する最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に約0.15の吸光度を得るのに十分なものである、請求項1に記載のインクジェットインク調合物。
【請求項6】
前記金属含有マゼンタ染料の量が、500から600nmの間に位置する最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に約0.04の吸光度を得るのに十分なものである、請求項1に記載のインクジェットインク調合物。
【請求項7】
有効量のローダミン染料と有効量の金属含有マゼンタ染料との混合物をインクビヒクル中に混合するステップからなる方法であって、
前記ローダミン染料がアシッドレッド52であり、
前記金属含有マゼンタ染料の量が、500から600nmの間に位置する最大吸光波長で測定して、一万倍希釈時に0.03から0.20の吸光度を得るのに十分なものである、請求項1から6の何れかに記載のインクジェットインク調合物の調製方法。
【請求項8】
a)請求項1から6の何れかに記載のインクジェットインク調合物を準備するステップと、
b)インクジェットペンを用いて前記インクジェットインク調合物を印刷媒体上に適用するステップとからなり、
普通紙上で少なくとも約57の彩度を有し、写真品質用紙上で少なくとも約5年の耐光性を有するインクジェット画像の生成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−138212(P2008−138212A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325626(P2007−325626)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【分割の表示】特願2003−22756(P2003−22756)の分割
【原出願日】平成15年1月30日(2003.1.30)
【出願人】(398038580)ヒューレット・パッカード・カンパニー (91)
【氏名又は名称原語表記】HEWLETT−PACKARD COMPANY
【Fターム(参考)】