説明

ローパスフィルタのカットオフ周波数決定方法、決定プログラム、および決定装置

【課題】
バターワースフィルターを初めとするローパスフィルタの推奨カットオフ周波数を自動で決定するためのより簡便な方法、当該方法を実施するためのコンピュータプログラム、当該方法を実施するための画像処理装置を提供する。
【解決手段】
核医学画像データを取得する画像データ取得部と、取得した前記画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出部と、予め作成された推奨カットオフ周波数算出式を格納した推奨カットオフ周波数算出式データベースと、抽出された前記画像収集パラメータを推奨カットオフ周波数算出式データベースから選択された推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出部と、を備える画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数の決定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出型断層撮像(以下、PETと称す)画像及び単光子放出型断層撮像(以下、SPECTと称す)画像の画像処理に用いるフィルタの条件設定方法、当該方法を実施するためのプログラム、並びに装置に関する。より詳しくは、PET画像及びSPECT画像の画像処理に用いるバターワースフィルタ等のローパスフィルタにおけるカットオフ周波数の決定方法、及び、当該各方法を実施するためのプログラム、並びに当該方法を実行するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PET画像及びSPECT画像に代表される核医学画像は、心臓疾患や癌をはじめとする種々の疾患の診断に有効である。これらの画像は、特定の放射性同位元素でラベルされた薬剤(以下、「放射性医薬品」と称す)を投与し、該薬剤から直接的または間接的に放出されたγ線を専用のカメラ(以下SPECT装置或いはPET装置)によって検出し、画像再構成処理を施すことによって得られる。このとき、収集した画像データは統計的変動に由来するノイズを含んでいるため、γ線の収集データをそのまま用いて再構成画像を作成しても、診断に耐え得る画像を得ることは、一般的にはできない。従って、診断に耐え得る良好な画像を得るためには、当該画像データに含まれるノイズを除去する必要がある。
【0003】
収集された画像データにおけるノイズ除去方法としては、バターワースフィルタやガウシアンフィルタ等を適用することによるフィルタ処理等が知られている。これらの方法のうち、最も信頼され、臨床において広く用いられている方法は、画像データにバターワースフィルタ等のローパスフィルタを適用する方法である。この方法は、カットオフ周波数(バターワースフィルタの場合にはカットオフ周波数とオーダー)によって決まるフィルタ関数を、画像データに掛け合わせることによって行う方法である。従って、バターワースフィルタ等のローパスフィルタを用いてノイズ除去を行う際には、フィルタ条件として、カットオフ周波数を設定する必要がある。
米国特許出願公開第2008/091102号明細書には、核医学画像データの収集カウント数とバターワースフィルタの最適カットオフ周波数との関係を表すシミュレーションデータに、核医学画像データの収集カウント数を適用することにより、バターワースフィルタにおける推奨カットオフ周波数を決定する技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/091102号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、バターワースフィルタ等のローパスフィルタを適用してノイズ除去を行う際には、オーダーとカットオフ周波数を設定する必要がある。これらのパラメータのうち、カットオフ周波数は、再構成された画像の画質に大きく影響することが知られている。そのため、適切なカットオフ周波数を用いずにバターワースフィルタ処理を行うと、誤った診断結果を導く危険がある。
【0006】
このカットオフ周波数の決定には、術者の経験上設定された値を用いるか、カットオフ周波数を変えながら複数回画像処理を繰り返し、最適値を求めるといった方法が一般的に用いられてきた。しかし、この方法は、術者の経験により得られる核医学画像の画質が大きく左右され得るといった問題がある。このような観点から、ローパスフィルタを用いた画像処理に際しては、一義的にカットオフ周波数を設定し得る方法を用いることが望ましい。
米国特許出願公開第2008/091102号明細書記載の方法によれば、収集カウント数から一義的にカットオフ周波数を求めることが可能である。しかしこの方法では、ノイズの影響の極めて少ない画像(理想画像)との比較に基づいて求めたシミュレーションデータを求めておく必要があり、操作が煩雑となりやすい。また、各施設において好まれる再構成画像は、必ずしも理想画像であるとは限らない。
【0007】
実際、各施設において作成される再構成画像の画質は、読影医の好みに合致した画質となっていることが少なくない。このような場合には、それぞれの施設での診断に適したカットオフ周波数を選択する必要があるが、各施設において推奨されるカットオフ周波数を適切に決定する方法は、これまでに開示されていなかった。また、いわゆる指導的な立場にある施設と同等の画質の再構成画像を得たいといったニーズも少なからず存在していたものの、そのような画質を得るためのカットオフ周波数の決定方法も、これまでに開示されていなかった。
【0008】
本発明は、推奨されるカットオフ周波数を自動で決定するためのより簡便な方法、当該方法を実施するためのコンピュータプログラム、当該方法を実施するための画像処理装置を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は検討を重ねた結果、投影データの総カウント数を初めとする画像収集パラメータと実際の臨床画像における推奨カットオフ周波数との間には、実空間上においても実質的な直線関係が成立することを見出した。この直線の傾きは、PET装置及びSPECT装置の種類(装置メーカ型式)と装着するコリメータ及び、用いた放射性医薬品の機能が同じであれば、放射性医薬品の種類によらずに実質的に一定である。従って、前記画像収集パラメータと推奨カットオフ周波数との関係をPET装置及びSPECT装置の種類(装置メーカ型式)と装着するコリメータ並びに、放射性医薬品の機能ごとに調べ、その近似直線を求めておけば、その直線に前記画像収集パラメータを当てはめることにより、推奨カットオフ周波数を一義的に求めることが可能となる。
【0010】
なお上述したとおり、PET装置やSPECT装置の種類(装置メーカ型式)と装着するコリメータが異なる場合、上記の近似直線は、装置ごと又は装着するコリメータごとに異なる。従って、上述したとおり,それぞれのPET装置、SPECT装置又は装着するコリメータごとに、上記の近似直線を求める必要がある。我々の得た上記知見によれば、前記画像収集パラメータと前記推奨カットオフ周波数との間に実質的な直線関係が成立するので、それぞれのPET装置、SPECT装置又は装着するコリメータごとに、異なる画像収集パラメータを用いて得られた2つの画像に基づいて求めた直線を、上記の近似直線として用いることもできる。具体的には、前記画像収集パラメータと推奨カットオフ周波数との関係を表すグラフ上で、異なる画像収集パラメータを用いて得られた2つの画像データに対応した2点を結び、得られた直線を、上記の近似直線として用いれば良い。
【0011】
一方、このカットオフ周波数は、フィルタ処理後の画質を大きく左右するので、カットオフ周波数の選択の仕方により、種々の画質の再構成画像を得ることができる。このような性質を利用すると、カットオフ周波数を適宜選択することにより、各施設又は読影医にて通常用いられているものと同等の画質の画像を得ることができる。そこで、複数の画質に対応した複数の近似直線を求めておき、それをデータベース化しておけば、目的とする画質に対応した近似直線を選択することにより、目的とする画質を得るための前記カットオフ周波数を一義的に決定することが可能となる。
また、いわゆる指導的立場にある施設において作成される再構成画像と同質のモデル画像を作成し、これと関連付けて複数の近似直線を求めておけば、指導的立場にある施設と同等の画質の画像を、その他の施設において得ることも可能となる。
【0012】
すなわち、本発明に係るコンピュータを用いた画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数の決定方法は、核医学画像データを取得する画像データ取得ステップと、画像データ取得ステップにて取得した画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出ステップと、画像収集パラメータ抽出ステップにて抽出された画像収集パラメータを予め作成した推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出ステップと、を含む。
【0013】
本発明の別の一側面に係る画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数の決定プログラムは、コンピュータに、核医学画像データを取得する画像データ取得ステップと、画像データ取得ステップにて取得した前記画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出ステップと、画像収集パラメータ抽出ステップにて抽出された前記画像収集パラメータを予め作成した推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出ステップと、を実行させる。
【0014】
本発明のさらに別の一側面に係る画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数の決定装置は、核医学画像データを取得する画像データ取得部と、取得した前記画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出部と、予め作成された推奨カットオフ周波数算出式を格納した推奨カットオフ周波数算出式データベースと、抽出された前記画像収集パラメータを推奨カットオフ周波数算出式データベースから選択された推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出部と、を備える。
【0015】
本発明において、画像収集パラメータとは、放射性医薬品の投与量、収集時間、コリメータの種類等の画像収集条件によって決まるパラメータの一つであり、具体的には投影データの総カウント数、投影データのカウント数の平均値、投影データのカウント数の最大値、又は、変動係数である。
【0016】
また本発明において、前記推奨カットオフ周波数算出式は、複数の画像収集パラメータにて得られた核医学画像データを用い、画像収集パラメータに対してカットオフ周波数をプロットしたグラフを作成し、これを直線近似することによって得られた近似直線を表す式である。この際におけるカットオフ周波数は、公知の方法にて求めたもの、典型的には、視覚的に最も良い画像を得ることができるカットオフ周波数として得られたものを用いる。
【0017】
本発明において、カットオフ周波数算出ステップにて用いる前記推奨カットオフ周波数算出式は、データベースに格納された複数の推奨カットオフ周波数算出式から選択されたものとすることができる。この構成をとることにより、オペレーターの好みの画質に対応した任意の推奨カットオフ周波数算出式を選択することが可能となる。すなわち、複数の条件に対応した複数の推奨カットオフ周波数算出式を求めてデータベース化しておけば、オペレーターが好みの画質に対応した推奨カットオフ周波数算出式を選択することができ、当該算出式を用いて決定されたカットオフ周波数を用いて画像再構成処理を行うことにより、目的とする画質の画像を得ることが可能となる。
【0018】
このとき、前記推奨カットオフ周波数算出式は、複数のモデル再構成画像から選択された一つのモデル再構成画像に対応した式として選択されたものであっても良い。このような構成とすることにより、オペレーターがモデル再構成画像を選択することにより、目的とする画質を作成するのに適した推奨カットオフ周波数算出式を選択することが可能となる。言い換えると、複数のカットオフ周波数を用いて複数のモデル再構成画像を作成し、対応した推奨カットオフ周波数算出式と関連させてデータベースに格納しておけば、オペレーターが好みの画像を選択することにより、一義的に推奨カットオフ周波数を決定することができ、結果として、目的とする画質の画像を得ることが可能となる。
【0019】
上記構成を本発明に係るカットオフ周波数の決定プログラムに適用した場合、前記カットオフ周波数算出ステップの実行前に、複数の推奨カットオフ周波数算出式を格納した推奨カットオフ周波数算出式データベースから一つの推奨カットオフ周波数算出式を選択する算出式選択ステップをさらに実行させ、前記カットオフ周波数算出ステップは、前記算出式選択ステップにて選択された、推奨カットオフ周波数算出式を用いる構成とすればよい。
そして、モデル再構成画像の選択によってカットオフ周波数を決定する構成とする場合には、前記カットオフ周波数算出式データベースに、別々のカットオフ周波数を用いて作成された複数のモデル再構成画像を、カットオフ周波数算出式と関連付けて格納する。その上で、前記算出式選択ステップを、前記モデル再構成画像から選択された一つのモデル再構成画像に基づいて、推奨カットオフ周波数算出式を選択する構成とすれば良い。
【0020】
また、上記構成を本発明に係るカットオフ周波数の決定装置に適用した場合、前記推奨カットオフ周波数算出式データベースに複数の推奨カットオフ周波数算出式を格納し、オペレーターによって入力された目的とする再構成画像の画質に関する情報を受け付ける画質情報入力部と、前記情報を元に、前記推奨カットオフ周波数算出式データベースから推奨カットオフ周波数算出式を選択する算出式選択部と、をさらに含み、前記カットオフ周波数算出部は、前記算出式選択部にて選択された、推奨カットオフ周波数算出式を用いる構成とすれば良い。
そして、モデル再構成画像の選択によってカットオフ周波数算出式を決定する構成とする場合には、前記推奨カットオフ周波数算出式データベースに、別々のカットオフ周波数を用いて作成された複数のモデル再構成画像を、推奨カットオフ周波数算出式と対応付けて格納する。前記画質情報入力部は、前記推奨カットオフ周波数データベースに格納されたモデル再構成画像をオペレーターが選択することにより、目的とする再構成画像の画質に関する情報を受け付けるといった構成とすれば良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、ローパスフィルタに用いる推奨カットオフ周波数を、より簡便に決定することが可能となった。これにより、必ずしも熟練した技能を有していないオペレーターであっても、読影医の診断や好みに耐え得る画質の再構成画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態につき、図面を参照して説明する。なお、下記の説明は、あくまでも最良の形態についての説明であり、特許請求の範囲に記載された発明を限定する意図ではない。
【0023】
(推奨カットオフ周波数算出式の作成)
本発明の実施に当たっては、まず、推奨カットオフ周波数算出式を作成する必要がある。本発明において、推奨カットオフ周波数算出式は、画像収集パラメータに対して推奨カットオフ周波数をプロットしたグラフにおける近似直線である。従って、推奨カットオフ周波数算出式の作成に際しては、視覚的に最良と判断された再構成画像(典型的には、ある施設において臨床診断に用いられた再構成画像)を複数入手し、各画像における画像収集パラメータに対して、画像再構成に実際に用いたカットオフ周波数をプロットする。このグラフにつき近似直線を作成することにより、推奨カットオフ周波数算出式を得ることができる。なお、推奨カットオフ周波数算出式は、精度を向上させるためにはできるだけ多くの画像データを用いて求めることが好ましいが、異なる画像収集パラメータを用いて得られた2つの画像によって求めても良い。この場合、上記のグラフ上で、それぞれの画像データに対応した2点を結ぶことによって得た直線を、推奨カットオフ周波数算出式とする。
【0024】
画像収集パラメータとしては、対応する投影データにおける総カウント数、カウント数の平均値、カウント数の最大値、又はカウント数の変動係数を用いることができ、好ましくは投影データの総カウント数または投影データにおけるカウント数の平均値を用いることができる。投影データは、各ピクセルにつき放射能カウント数を割り当てたデータである。従って、この投影データから、総カウント数を初めとする画像収集パラメータを、容易に求めることが可能となる。なお、画像収集パラメータとして用いるカウントは、用いている放射性医薬品の診断対象領域(診断部位)のカウントを用いる必要がある。具体的には、脳血流診断剤等の頭部脳機能画像用の診断剤を用いた場合であれば、脳全体を関心領域としてカウントを求めれば良いが、心筋血流製剤を用いた胸部核医学画像のように診断対象領域が全視野の一部分である場合には、当該診断対象領域(心筋血流製剤の場合は心臓領域)に関心領域を設定してカウントを求める。関心領域内におけるカウントを用いて、総カウント数やカウント数の平均値等を算出し、画像収集パラメータとすれば良い。
【0025】
好ましい態様において、各施設や読影医ごとに推奨カットオフ周波数算出式を作成する。また、推奨カットオフ周波数は、画像収集に用いるPET装置やSPECT装置の種類及び、コリメータの種類により影響を受けるので、推奨カットオフ周波数算出式は、PET装置並びにSPECT装置の種類、及び、コリメータの種類ごとに作成する必要がある。
さらに、推奨カットオフ周波数算出式は、核医学画像の作成に用いた放射性医薬品の機能ごとに別々に作成することが好ましい。例えば、頭部機能画像の場合であれば、脳血流製剤を用いた場合と、レセプターマッピング剤を用いた画像とは、それぞれ頭部における分布の仕方が大きく異なるので、別々に推奨カットオフ周波数算出式の作成を行うことが好ましい。推奨カットオフ周波数算出式の作成例を、図1及び図2に示す。この図は、それぞれ、脳血流画像と心筋血流画像を対象として、上記の要領にて作成したものである。ここで、脳血流画像を対象とした例では、頭部全体に関心領域を設定し、心筋血流画像を対象とした例では、心臓領域に関心領域を設定した。この図から明らかなように、放射性医薬品の機能が同じであれば、製剤の種類が異なっていても、同一の直線上にデータが分布している。
なお、本事例では、画像収集パラメータとして投影データの総カウント数を用いているが、他のパラメータを用いる場合においても、同様の要領で推奨カットオフ周波数算出式を求めることができる。
【0026】
(推奨カットオフ周波数算出式データベースの構成)
好ましい態様において、本発明の実施に当たっては、複数の推奨カットオフ周波数算出式を格納した、推奨カットオフ周波数算出式データベース26を用いる。推奨カットオフ周波数算出式データベース26には、複数の施設、読影医、SPECT装置の種類、PET装置の種類、コリメータの種類、放射性医薬品の機能ごとに作成された、複数の推奨カットオフ周波数算出式が複数格納されている。このような構成とすることにより、オペレーターが、操作時において最も使用しやすい画像収集パラメータを使用することが可能となる。
【0027】
また、好ましい態様において、推奨カットオフ周波数算出式データベース26には、複数の施設、読影医、SPECT装置の種類、PET装置の種類、コリメータの種類、放射性医薬品の機能ごとに作成された代表的な再構成画像が、モデル画像として格納される。各モデル画像は、対応する推奨カットオフ周波数算出式と、それぞれ対応付けられている。この態様における推奨カットオフ周波数算出式データベースの一例を、図3に示す。このような構成とすることにより、オペレーターが好みの再構成画像をモデル画像から選択することにより、推奨カットオフ周波数算出式を選択することが可能となる。この操作は、オペレーターが画質情報入力部28から画質情報を入力することにより、実行することができる。この操作の詳細については後述する。
【0028】
(本発明に係る推奨カットオフ周波数の決定装置の構成及び動作)
図4は、本発明に係るカットオフ周波数決定装置20の最も好ましい態様における構成を示す図、図5〜図7は、本発明に係るカットオフ周波数決定装置の最も好ましい態様における動作を示す図である。本実施の形態では、カットオフ周波数決定装置20は、画像処理装置40に組み込まれている。本発明に係るカットオフ周波数決定装置20は、後述するカットオフ周波数決定プログラム100を読み込んだコンピュータとして、構成することができる。図4に示すように、本発明に係るカットオフ周波数決定装置20は、機能的に、SPECT装置等の核医学画像撮像装置10から核医学画像データを取得する画像データ取得部22と、取得した核医学画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出部24と、画像収集パラメータ抽出部24にて抽出された画像収集パラメータを推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出部32と、結果を出力する出力部34を備えている。好ましい態様において、カットオフ周波数算出部32は、推奨カットオフ周波数算出式データベース26から推奨カットオフ周波数算出式を選択する算出式選択部28と結合されている。なお、画像処理装置40は、出力部34により出力された推奨カットオフ周波数を用いてフィルタ処理並びに画像再構成処理を行う画像再構成部42と、再構成画像を出力する画像出力部44とを有している。
【0029】
核医学画像撮像装置10としては、核医学画像データを取得し得る種々の装置を用いることができる。具体的には、SPECT装置またはPET装置が例示される。また、本発明において用いる核医学画像データは、核医学画像撮像装置10によって取得された、投影データである。SPECT装置の場合を例にとり説明すると、核医学画像撮像装置10は、99mTc HMPAO、99mTc ECD、123I IMP、99mTc Tetrofosmin、201TlClを初めとする放射性医薬品が投与された被験者から、投影データを取得する。この投影データが本発明における核医学画像データとなり、後述する画像データ取得部22を介して本発明に係るカットオフ周波数決定装置20に取り込まれる。なお、核医学画像撮像装置10による投影データの取得は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0030】
画像データ取得部22は、核医学画像撮像装置10によって得られた核医学画像データを、核医学画像撮像装置10から取得する(ステップS1)。核医学画像データは、例えば、DICOM形式のような、コンピュータで読み取り可能なデータ形式で保存される。核医学画像データは、ハードディスク、CD、あるいは半導体メモリ等といった、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納された状態で提供することができる。データを格納した記憶媒体をコンピュータに備え付けられたデータ読取装置に挿入することにより、当該データがコンピュータに読み込まれ、画像データ取得部22により取得される。なお、上記データは、搬送波に重畳されたコンピュータデータ信号としてネットワークを介して直接取得されるものであってもよい。
【0031】
画像収集パラメータ抽出部24は、画像データ取得部22によって取り込まれた核医学画像データから、画像収集パラメータを抽出する(ステップS2)。本発明において、画像収集パラメータは、核医学画像データにおける総カウント数、カウント数の平均値、カウント数の最大値、又は、カウント数の変動係数とすることができる。上述したとおり、本発明において画像データ取得部22により取り込まれる核医学画像データは、核医学画像撮像装置10によって得られた投影データである。投影データは、各ピクセルにつき放射能カウント数を割り当てたデータである。従って、この投影データから、公知の方法によって、上述した画像収集パラメータを、容易に求めることが可能となる。なお、画像収集パラメータとして用いるカウントは、用いている放射性医薬品の診断対象領域のカウントを用いる必要がある。具体的には、脳血流診断剤に代表されるような頭部脳機能画像用の診断剤を用いた場合であれば、脳全体を関心領域としてカウントを求めれば良いが、心筋血流製剤を用いた胸部核医学画像のように診断対象領域が全視野の一部分である場合には、当該診断対象領域(心筋血流製剤の場合は心臓領域)に関心領域を設定してカウントを求める。関心領域内におけるカウントを用いて、総カウント数やカウント数の平均値等を算出し、画像収集パラメータとすれば良い。
【0032】
カットオフ周波数算出部32は、画像収集パラメータ抽出部24によって抽出された画像収集パラメータを推奨カットオフ周波数算出式に代入して、推奨カットオフ周波数を決定する(ステップS4)。好ましい態様において、カットオフ周波数算出部32は、算出式選択部28と結合されており、算出式選択部28は、画質情報入力部30及び推奨カットオフ周波数算出式データベース26と結合されている。
【0033】
好ましい態様において、推奨カットオフ周波数算出式データベース26には、複数の施設、読影医、SPECT装置、PET装置、コリメータ、放射性医薬品の機能ごとに作成された、代表的な再構成画像が、モデル画像として格納されている。この場合、各モデル画像は、対応する推奨カットオフ周波数算出式と、それぞれ対応付けられている(図3参照)。図8に、モデル画像と推奨カットオフ周波数算出式との対応付けの例を、概念的に示す。図8中に示した画像1〜5は、例えば複数の指導的立場にある施設又は研修医により作成された画像であり、実質的に等しい画像収集パラメータで得られた核医学画像データにつきそれぞれ異なるカットオフ周波数を適用して得られた画像である。前述したように、各施設や読影医ごとに求める再構成画像の画質は異なっている。すなわち、同じ核医学画像データを用いる場合であっても、フィルタ処理に使用するカットオフ周波数は施設や読影医ごとに異なることとなる。この図に示すように、画像1〜5をそれぞれの推奨カットオフ周波数算出式に対応させておけば、目標とする画像から、推奨カットオフ周波数算出式を選択することが可能となる。
【0034】
この場合、画質情報入力部30は、例えばディスプレイ等のユーザインターフェースに表示されたモデル画像からオペレーターが選択したモデル画像に関する情報を、画質情報として入力する(ステップS31)。この画質情報に基づき、推奨カットオフ周波数データベースに格納されたモデル画像が選択され、対応する推奨カットオフ周波数算出式が選択される(ステップS32)。この一連の動作により、推奨カットオフ周波数算出式の選択が完了する(ステップS3)。
【0035】
カットオフ周波数算出部32は、選択された推奨カットオフ周波数算出式を読み出し(ステップS41)、この式に上記にて抽出された画像収集パラメータを代入して、推奨カットオフ周波数を算出する(ステップS42及びステップS4)。
出力部34は、カットオフ周波数算出部32にて決定された推奨カットオフ周波数を、外部に出力する(ステップS5)。具体的には、カットオフ周波数決定装置20を単独で機能させる場合は、算出した推奨カットオフ周波数をディスプレイ等のユーザインターフェースに出力し、図4の場合のように画像処理装置40に組み込まれた場合には、画像処理装置40内の画像再構成部42に出力する。
上記一連の動作により、本発明に係るカットオフ周波数決定装置による推奨カットオフ周波数の決定処理が完了する。
【0036】
なお、図5においては、推奨カットオフ周波数算出式選択ステップ(ステップS3)を、画像収集パラメータ抽出ステップ(ステップS2)の後に行う構成としているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。すなわち、カットオフ周波数算出ステップ(ステップS4)の実行時に推奨カットオフ周波数算出式が選択されていれば、どの段階で推奨カットオフ周波数算出式選択ステップ(ステップS3)を実行しても良く、カットオフ周波数決定装置20全体による処理の流れからは独立して、当該ステップ(ステップS3)を別途実行しても良い。
【0037】
(本発明に係る推奨カットオフ周波数の決定プログラム)
次に、本発明に係る脳神経疾患の検出プログラムについて説明する。図9は、本発明に係る推奨カットオフ周波数の決定プログラム100の最も好ましい態様における構成を、記憶媒体200と共に示す図である。
【0038】
好ましい態様において、本発明に係る推奨カットオフ周波数の決定プログラム100は、処理を統括するメインモジュール110と、画像データ取得モジュール120と、画像収集パラメータ抽出モジュール130と、画質情報入力モジュール140と、算出式選択モジュール150と、カットオフ周波数算出モジュール160と、出力モジュール170とにより構成される。
【0039】
好ましい実施態様において、推奨カットオフ周波数の決定プログラム100は、記憶媒体200に格納されて提供される。記憶媒体200としては、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、DVDあるいはその他のROM等の記憶媒体あるいは半導体メモリ等が例示される。推奨カットオフ周波数の決定プログラム100が格納された記録媒体200をコンピュータに備えられた読取装置に挿入することにより、コンピュータが推奨カットオフ周波数の決定プログラム100にアクセス可能になり、当該プログラム100によって、上述したカットオフ周波数決定装置20として動作することが可能となる。本発明に係る推奨カットオフ周波数の決定プログラム100は、搬送波に重畳されたコンピュータデータ信号として、ネットワークを介して提供されるものであっても良い。
【0040】
画像データ取得モジュール120は、コンピュータを、画像データ取得部22として機能させる。画像収集パラメータ抽出モジュール130は、コンピュータを、画像収集パラメータ抽出部24として機能させる。画質情報入力モジュール140は、コンピュータを、画質情報入力部30として機能させる。算出式選択モジュール150は、コンピュータを、算出式選択部28として機能させる。カットオフ周波数算出モジュール160は、コンピュータを、カットオフ周波数算出部32として機能させる。出力モジュール170は、コンピュータを、出力部34として機能させる。
【0041】
(本発明に係る推奨カットオフ周波数の決定方法)
次に、本発明に係るカットオフ周波数の決定方法について説明する。図10〜図12は、本発明に係るカットオフ周波数の決定方法の、好ましい態様における処理の流れを示す図である。この図から理解されるように、本発明に係るカットオフ周波数の決定方法は、上述したカットオフ周波数の決定プログラムをコンピュータに実行させることによって、行うことができる。ただし、必ずしもプログラム化する必要は無く、各ステップに係る指令を直接コンピュータに与えることにより実施しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るカットオフ周波数の決定方法、決定プログラム、及び決定装置は、画像処理装置の分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】推奨カットオフ周波数算出式の作成例(脳血流画像における例。使用コリメータはSHRコリメータ。画像収集パラメータとして総カウント数を用いた。)
【図2】推奨カットオフ周波数算出式の作成例(心筋血流画像における例。使用コリメータはHRコリメータ及びGPコリメータ。関心領域を心臓領域とし、画像収集パラメータとして総カウント数を用いた。)
【図3】推奨カットオフ周波数算出式データベースの構成例。
【図4】本発明に係るカットオフ周波数決定装置の機能ブロック図。
【図5】本発明に係るカットオフ周波数決定装置の処理の流れの一例。
【図6】本発明に係るカットオフ周波数決定装置における推奨カットオフ周波数算出式選択処理の流れの一例。
【図7】本発明に係るカットオフ周波数決定装置における推奨カットオフ周波数算出処理の流れの一例。
【図8】モデル画像と推奨カットオフ周波数算出式との対応付けの例。
【図9】本発明に係るカットオフ周波数決定プログラムの構成の一例。
【図10】本発明に係るカットオフ周波数決定方法の処理の流れの一例。
【図11】本発明に係るカットオフ周波数決定方法における推奨カットオフ周波数算出式選択ステップの流れの一例。
【図12】本発明に係るカットオフ周波数決定方法における推奨カットオフ周波数算出ステップの流れの一例。
【符号の説明】
【0044】
10 … 核医学画像処理装置
20 … カットオフ周波数決定装置
22 … 画像データ取得部
24 … 画像収集パラメータ抽出部
26 … 推奨カットオフ周波数算出式データベース
28 … 算出式選択部
30 … 画質情報入力部
32 … カットオフ周波数算出部
34 … 出力部
40 … 画像処理装置
42 … 画像再構成部
44 … 画像出力部
100 … カットオフ周波数決定プログラム
110 … メインモジュール
120 … 画像データ取得モジュール
130 … 画像収集パラメータ抽出モジュール
140 … 画質情報入力モジュール
150 … 算出式選択モジュール
160 … カットオフ周波数算出モジュール
170 … 出力モジュール
200 … 記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核医学画像データを取得する画像データ取得工程と、
画像データ取得工程にて取得した画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出工程と、
画像収集パラメータ抽出工程にて抽出された画像収集パラメータを、予め作成した推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出ステップと、を含み、
前記推奨カットオフ周波数算出式は、複数の核医学画像データを用いて画像収集パラメータに対して推奨カットオフ周波数をプロットしたグラフを作成し、これを直線近似することによって得られた近似直線を表す式である、
コンピュータを用いた画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数の決定方法。
【請求項2】
画像収集パラメータが、投影データの総カウント数、又は、投影データのカウント数の平均値である、請求項1に記載のカットオフ周波数の決定方法。
【請求項3】
カットオフ周波数算出工程にて用いる前記推奨カットオフ周波数算出式が、複数の推奨カットオフ周波数算出式から選択されたものである、請求項1又は請求項2に記載の、カットオフ周波数の決定方法。
【請求項4】
前記推奨カットオフ周波数算出式は、別々のカットオフ周波数を用いて作成された複数のモデル再構成画像からオペレーターによって選択された、一つのモデル再構成画像に基づいて選択されたものである、請求項3に記載の、カットオフ周波数の決定方法。
【請求項5】
コンピュータに、
核医学画像データを取得する画像データ取得ステップと、
画像データ取得ステップにて取得した前記画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出ステップと、
画像収集パラメータ抽出ステップにて抽出された前記画像収集パラメータを、予め作成した推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出ステップと、を実行させ、
前記推奨カットオフ周波数算出式は、複数の核医学画像データを用いて画像収集パラメータに対して推奨カットオフ周波数をプロットしたグラフを作成し、これを直線近似することによって得られた近似直線を表す式である、
画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数の決定プログラム。
【請求項6】
画像収集パラメータが、投影データの総カウント数、又は、投影データのカウント数の平均値である、請求項5に記載のカットオフ周波数の決定プログラム。
【請求項7】
前記カットオフ周波数算出ステップの実行前に、複数の推奨カットオフ周波数算出式を格納した推奨カットオフ周波数算出式データベースから一つの推奨カットオフ周波数算出式を選択する算出式選択ステップをさらに実行させ、
前記カットオフ周波数算出ステップは、前記算出式選択ステップにて選択された、推奨カットオフ周波数算出式を用いるものである、請求項5又は請求項6に記載の、カットオフ周波数の決定プログラム。
【請求項8】
前記算出式選択ステップは、別々のカットオフ周波数を用いて作成された複数のモデル再構成画像からオペレーターによって選択された一つのモデル再構成画像に基づいて、前記推奨カットオフ周波数算出式データベースから推奨カットオフ周波数算出式を選択するものである、請求項7に記載の、カットオフ周波数決定プログラム。
【請求項9】
核医学画像データを取得する画像データ取得部と、
取得した前記画像データから画像収集パラメータを抽出する画像収集パラメータ抽出部と、
予め作成された推奨カットオフ周波数算出式を格納した推奨カットオフ周波数算出式データベースと、
抽出された前記画像収集パラメータを、推奨カットオフ周波数算出式データベースから選択された推奨カットオフ周波数算出式に代入して推奨カットオフ周波数を算出するカットオフ周波数算出部と、を備え、
前記推奨カットオフ周波数算出式は、複数の核医学画像データを用いて画像収集パラメータに対して推奨カットオフ周波数をプロットしたグラフを作成し、これを直線近似することによって得られた近似直線を表す式である、
画像処理用ローパスフィルタのカットオフ周波数決定装置。
【請求項10】
前記画像収集パラメータ抽出部にて抽出される前記画像収集パラメータが、投影データの総カウント数、又は、投影データのカウント数の平均値である、請求項9に記載の、カットオフ周波数決定装置。
【請求項11】
前記推奨カットオフ周波数算出式データベースが複数の推奨カットオフ周波数算出式を格納したものであり、
オペレーターによって入力された目的とする再構成画像の画質に関する情報を受け付ける画質情報入力部と、
再構成画像の画質に関する前記情報を元に、前記推奨カットオフ周波数データベースから推奨カットオフ周波数算出式を選択する算出式選択部と、をさらに含み、
前記カットオフ周波数算出部は、前記算出式選択部にて選択された、推奨カットオフ周波数算出式を用いるものである、請求項9又は請求項10に記載の、カットオフ周波数決定装置。
【請求項12】
前記推奨カットオフ周波数算出式データベースには、別々のカットオフ周波数を用いて作成された複数のモデル再構成画像がさらに格納されており、各モデル再構成画像は、それぞれのモデル再構成画像におけるフィルタ条件と対応した推奨カットオフ周波数算出式と対応付けられており、
前記画質情報入力部は、前記推奨カットオフ周波数データベースに格納されたモデル再構成画像をオペレーターが選択することにより、目的とする再構成画像の画質に関する情報を受け付けるものである、請求項11に記載のカットオフ周波数決定装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−151574(P2010−151574A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329085(P2008−329085)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【出願人】(000125381)学校法人藤田学園 (19)
【Fターム(参考)】